(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166081
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】圧延機の板厚制御方法および圧延機の板厚制御装置ならびに圧延機の板厚制御方法を用いる鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 37/20 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
B21B37/20 110Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024039561
(22)【出願日】2024-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2023080609
(32)【優先日】2023-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】山脇 誠
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124AA07
4E124CC09
4E124EE01
4E124EE17
4E124FF01
(57)【要約】
【課題】圧延機の加減速時における板厚の変動を従来になく抑制することのできる圧延機の板厚制御方法および圧延機の板厚制御装置ならびに圧延機の板厚制御方法を用いる鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】被圧延材2の搬送方向に沿って配置された複数の圧延スタンド3、4、5、6、7と、複数の圧延スタンド3、4、5、6、7の圧延ロール8を駆動するモータ10とを備えた圧延機1の板厚制御方法であって、被圧延材2を圧延しているときにおける、搬送方向で互いに隣接する圧延スタンド3、4、5、6、7のうち、搬送方向で上流側の圧延スタンド3、4、5、6のモータ10の垂下率によって搬送方向で下流側の圧延スタンド4、5、6、7のモータ10の垂下率を除算して求めた垂下率の比率Rが3/5~5/3に設定されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被圧延材の搬送方向に沿って配置された複数の圧延スタンドと、複数の前記圧延スタンドの圧延ロールを駆動する前記圧延スタンドごとに設けられたモータとを備える圧延機の板厚制御方法であって、
前記被圧延材を圧延しているときにおける、前記搬送方向で互いに隣接する圧延スタンドのうち、前記搬送方向で上流側の圧延スタンドのモータの垂下率によって前記搬送方向で下流側の圧延スタンドのモータの垂下率を除算して求める垂下率の比率が3/5~5/3に設定されている
圧延機の板厚制御方法。
【請求項2】
前記モータの垂下率がいずれも0.1%以上に設定されている請求項1に記載の圧延機の板厚制御方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の圧延機の板厚制御方法を用いる鋼板の製造方法。
【請求項4】
被圧延材の搬送方向に沿って配置された複数の圧延スタンドと、複数の前記圧延スタンドの圧延ロールを駆動する前記圧延スタンドごとに設けられたモータとを備える圧延機の板厚制御装置であって、
前記モータの垂下率を調整する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記被圧延材を圧延しているときにおける、前記搬送方向で互いに隣接する圧延スタンドのうち、前記搬送方向で上流側の圧延スタンドのモータの垂下率によって前記搬送方向で下流側の圧延スタンドのモータの垂下率を除算して求める垂下率の比率を3/5~5/3に設定する
圧延機の板厚制御装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記モータの垂下率を0.1%以上に設定する請求項4に記載の圧延機の板厚制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の圧延スタンドを用いて鋼板を圧延する圧延機の板厚制御方法および圧延機の板厚制御装置ならびに圧延機の板厚制御方法を用いる鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、板厚を制御する装置の一例としてAGC(Automatic Gage Control)を用いて圧延機における各圧延スタンドのロールギャップや速度を制御して板厚を制御する技術が知られている。この種のAGCを用いた板厚制御方法の一例が特許文献1に記載されている。特許文献1に記載の方法では、タンデム圧延装置で被圧延材を圧延するときに、最終圧延スタンドの出側の板厚偏差に基づいてPI制御に用いられる積分成分のゲイン値を変化させる。こうすることにより、上流側の圧延スタンドの圧延速度を制御している。また、特許文献2には、垂下率の設定により板厚変動を抑制するタンデム圧延機の速度制御方法の一例が記載されている。特許文献2に記載の方法では、タンデム圧延機の前段スタンドの速度垂下率を0(ゼロ)に設定し、後段スタンドの速度垂下率をほぼ0(ゼロ)に設定して圧延を行う。これにより、タンデム圧延機の速度変化に伴う板厚変動を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-254322号公報
【特許文献2】特開昭49-101254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたAGCを使用する方法では、圧延機による被圧延材の加減速時に発生する板厚変動に十分に対応できないという問題点があった。また、特許文献2に記載の方法は、上述したように、前段スタンドの速度垂下率を0(ゼロ)に設定し、後段スタンドの速度垂下率をほぼ0(ゼロ)に設定する。そのため、特許文献2に記載の方法を適用することのできる圧延機は2つの圧延スタンドによって構成されるタンデム圧延機に限られる可能性がある。したがって、2つ以上の圧延スタンドを備えるタンデム圧延機の場合には、特許文献2に記載の方法では、板厚変動を抑制することができない可能性がある。なお、特許文献2に記載された方法では、加減速時に板破断のリスクを伴うという問題点があった。圧延機の速度垂下率は加減速など条件変化生じた際の急峻な速度変化を緩和するために設定しているものであり、これをほぼ0(ゼロ)にするということはその機能が発揮されないためである。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、圧延機の加減速時における板厚の変動を従来よりも抑制することのできる圧延機の板厚制御方法および圧延機の板厚制御装置ならびに圧延機の板厚制御方法を用いる鋼板の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
(1)被圧延材の搬送方向に沿って配置された複数の圧延スタンドと、複数の前記圧延スタンドの圧延ロールを駆動する前記圧延スタンドごとに設けられたモータとを備える圧延機の板厚制御方法であって、前記被圧延材を圧延しているときにおける、前記搬送方向で互いに隣接する圧延スタンドのうち、前記搬送方向で上流側の圧延スタンドのモータの垂下率によって前記搬送方向で下流側の圧延スタンドのモータの垂下率を除算して求める垂下率の比率が3/5~5/3に設定されている圧延機の板厚制御方法。
(2)前記モータの垂下率が0.1%以上に設定されている(1)に記載の圧延機の板厚制御方法。
(3)(1)または(2)に記載の圧延機の板厚制御方法を用いる鋼板の製造方法。
(4)被圧延材の搬送方向に沿って配置された複数の圧延スタンドと、複数の前記圧延スタンドの圧延ロールを駆動する前記圧延スタンドごとに設けられたモータとを備える圧延機の板厚制御装置であって、前記モータの垂下率を調整する制御装置を備え、前記制御装置は、前記被圧延材を圧延しているときにおける、前記搬送方向で互いに隣接する圧延スタンドのうち、前記搬送方向で上流側の圧延スタンドのモータの垂下率によって前記搬送方向で下流側の圧延スタンドのモータの垂下率を除算して求める垂下率の比率を3/5~5/3に設定する圧延機の板厚制御装置。
(5)前記制御装置は、前記モータの垂下率を0.1%以上に設定する(4)に記載の圧延機の板厚制御装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、被圧延材を圧延しているときに被圧延材の搬送速度が変化した場合であっても、被圧延材の大きな板厚変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る圧延機の板厚制御方法および圧延機の板厚制御装置ならびに圧延機の板厚制御方法を用いる鋼板の製造方法を適用することのできる圧延機の一例を示す図である。
【
図3】
図1に示す圧延機の挙動を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を本発明の実施形態(以下、本実施形態と記す。)を通じて具体的に説明する。以下に説明する本実施形態は、本発明の好適な一例を示すものであり、この例によって何ら限定されるものではない。
【0010】
図1は本実施形態に係る圧延機の板厚制御方法および圧延機の板厚制御装置ならびに圧延機の板厚制御方法を用いる鋼板の製造方法を適用することのできる圧延機の一例を示す図である。
図1に示す圧延機1は、本実施形態における被圧延材に相当する金属帯である鋼帯2を冷間圧延するものであり、5機の圧延スタンド3、4、5、6、7を備えている。各圧延スタンド3、4、5、6、7は鋼帯2の搬送方向(圧延方向と称されることがある。)に沿って設計上、定めた間隔で配置されている。以下の説明では、鋼帯2の搬送方向で上流側から第1圧延スタンド3、第2圧延スタンド4、第3圧延スタンド5、第4圧延スタンド6、第5圧延スタンド7と称する。
【0011】
第1圧延スタンド3は、
図1に示す例では、鋼帯2を挟み付けて圧延する一対のワークロール8と、各ワークロール8を支持する一対のバックアップロール9と、各ワークロール8を駆動するモータ10とを備えている。バックアップロール9はワークロール8を挟んで鋼帯2とは反対側に配置されている。モータ10は圧延スタンド3、4、5、6、7ごとに1つずつ設置されており、各圧延スタンド3、4、5、6、7のワークロール8のそれぞれにトルク伝達可能に連結されている。そのため、各ワークロール8はモータ10で生じたトルクを受けて回転し、第1圧延スタンド3から第5圧延スタンド7に向けて鋼帯2を搬送させながら、鋼帯2を連続的に冷間圧延する。
【0012】
なお、トルクの伝達方向でモータ10と各ワークロール8との間に、モータ10で発生させたトルクを増大させる図示しない減速機が設けられていてもよい。上述したワークロール8が本実施形態に係る圧延ロールに相当している。第2圧延スタンド4、第3圧延スタンド5、第4圧延スタンド6、および、第5圧延スタンド7は第1圧延スタンド3と同様に構成されている。そのため、各圧延スタンド4、5、6、7において、第1圧延スタンド3と同様の構成については、第1圧延スタンド3の構成と同様の符号を付してその説明を省略する。
【0013】
鋼帯2の搬送方向で第1圧延スタンド3と第2圧延スタンド4との間、第2圧延スタンド4と第3圧延スタンド5との間、および、第5圧延スタンド7の出側に鋼帯2の板厚を検出する板厚計11がそれぞれ設けられている。板厚計11は従来知られたものであってよい。また、各圧延スタンド3、4、5、6、7のうち、鋼帯2の搬送方向で互いに隣接する圧延スタンド同士の間に、鋼帯2の張力を調整する図示しないテンションロールや、鋼帯2の張力を検出する図示しない張力計が設置されていてよい。また、上述した搬送方向で互いに隣接する圧延スタンドとは、第1圧延スタンド3および第2圧延スタンド4を意味している。また、搬送方向で互いに隣接する圧延スタンドとは、第2圧延スタンド4および第3圧延スタンド5を意味している。さらに、搬送方向で互いに隣接する圧延スタンドとは、第3圧延スタンド5および第4圧延スタンド6を意味している。また、搬送方向で互いに隣接する圧延スタンドとは、第4圧延スタンド6および第5圧延スタンド7を意味している。
【0014】
鋼帯2の搬送方向で第5圧延スタンド7の下流側に設置された板厚計11よりも下流側に、圧延機1による圧延が終了した鋼帯2を巻き取るテンションリール12が設けられている。
【0015】
圧延機1の高さ方向で各圧延スタンド3、4、5、6、7における上側のバックアップロール9の上側に圧下装置13が設けられている。圧下装置13は一対のワークロール8のうち、高さ方向で上側のワークロール8の圧下位置を調整するものである。すなわち、圧下装置13によって圧延機1の高さ方向で上側のワークロール8を下側のワークロール8側に押圧するようになっている。圧下装置13の近傍に、上述した上側のワークロール8の圧下位置つまり上側のワークロール8の高さ方向での位置、すなわち、一対のワークロール8のロールギャップを検出する圧下位置検出器14が設けられている。ロールギャップとは、高さ方向で一対のワークロール8同士の間隔を意味している。圧延機1の高さ方向で各圧延スタンド3、4、5、6、7における下側のバックアップロール9の下側に、鋼帯2に作用する圧延荷重を検出する圧延荷重検出器15が設けられている。それらの圧下装置13、圧下位置検出器14、および、圧延荷重検出器15は従来知られたものであってよい。
【0016】
圧延機1は鋼帯2の圧延を制御する制御装置16を備えている。制御装置16はマイクロコンピュータを主体として構成されており、入力されるデータ、予め記憶されているデータや演算式などに基づいて演算を行い、その結果を出力するように構成されている。入力データは例えば板厚計11によって検出した鋼帯2の板厚、張力計によって検出した鋼帯2の張力、圧下位置検出器14によって検出したロールギャップを挙げることができる。出力データはモータ10を動作させる指令信号や垂下率、および、圧下装置13を動作させる指令信号を挙げることができる。垂下率については後述する。
【0017】
また、本実施形態では、制御装置16によって鋼帯2の搬送方向で互いに隣接する圧延スタンドのモータ10の垂下率の比率Rを予め設定した範囲内に設定するようになっている。これは、圧延機1の各圧延スタンド3、4、5、6、7でのマスフローが変化した場合に、マスフローの変化に伴う鋼帯2の板厚変動を抑制するためである。マスフローとは、各圧延スタンド3、4、5、6、7の出側における鋼帯2の板厚と、鋼帯2の搬送速度(送り速度と称されることがある。)と、を乗算した値である。当該マスフローは圧延機1の定常運転時、つまり、ほぼ一定の速度で圧延を行う場合には、各圧延スタンド3、4、5、6、7のマスフローはほぼ一定になっている。
【0018】
マスフローが変化する場合とは、例えば、複数の鋼帯を連続して圧延するために、現時点で圧延を行っている鋼帯2の尾端部に対して、これから圧延を行う鋼帯の先端部を接続する場合を挙げることができる。2つの鋼帯2同士の接続は例えば溶接によって行う。そのため、2つの鋼帯2同士の溶接を行っている間においては、鋼帯2の尾端側の搬送速度を、溶接を行う前の時点での鋼帯2の尾端側の搬送速度よりも低下させる。また、上述した溶接の終了後においては、鋼帯2の尾端側の搬送速度を元の搬送速度にまで上昇させる。このように現時点で圧延を行っている鋼帯2の尾端部に対して、これから圧延を行う鋼帯の先端部を接続する場合には、マスフローが変化し、鋼帯2の尾端側の搬送速度が減速され、また、加速される。
【0019】
垂下率はモータ10を安定的に制御するために用いられる複数の制御パラメータのうちの一つであり、モータ10の回転速度(以下、単に速度と記す場合がある。)を低下するように機能する。したがって、本実施形態では、各圧延スタンド3、4、5、6、7のモータ10の垂下率を変化させると、垂下率に応じて各圧延スタンド3、4、5、6、7の出側の鋼帯2の搬送速度の低下量が変化する。すなわち、垂下率は速度変化を引き起こす。垂下率による各圧延スタンド3、4、5、6、7の出側の鋼帯2の搬送速度の低下量は下記式で表すことができる。
Δv=(I/Imax)×D×V
Δvは垂下率による各圧延スタンド3、4、5、6、7の出側の鋼帯2の搬送速度の低下量である。Dは垂下率(%)である。Iは現時点でのモータ10の負荷電流(A)である。Imaxはモータ10の定格電流の最大値(A)である。Vは各圧延スタンド3、4、5、6、7の出側の鋼帯2の設定速度(mpm)である。垂下率は上記の式で示すように、モータ10に定格電流を流した時の速度に対する速度低下の比率を意味している。つまり、垂下率は、モータ10に定格電流を流した時のモータ10の速度に対して、モータ10に定格電流を流した時のモータ10の速度と現時点での負荷電流をモータ10に流した時の速度との差が占める割合を意味している。この値(垂下率)が大きいほど、モータ10の速度をより低下させるような指令信号をモータ10に対して制御装置16が出力する。通常、垂下率は制御盤の定数を変更することでオペレーターが任意に変更できるようになっている。
【0020】
また、鋼帯2の搬送方向で互いに隣接する圧延スタンドのモータ10の垂下率の比率R(以下、単に比率Rと記す場合がある。)は、鋼帯2の搬送方向で互いに隣接する圧延スタンドのうち、上流側の圧延スタンドの垂下率によって下流側の圧延スタンドの垂下率を除算して求めた値であり、下記式のように表すことができる。
比率R=下流側の圧延スタンドでの垂下率/上流側の圧延スタンドでの垂下率
【0021】
本実施形態では、垂下率の比率Rを3/5~5/3(0.6~1.7)の範囲内に設定するようになっている。これは上述したように、圧延機1の各圧延スタンド3、4、5、6、7でのマスフローの変化に伴う鋼帯2の板厚変動を抑制するためである。なお、垂下率の比率Rが5/3を超える場合には、後述するように、マスフローの変化に伴う鋼帯2の搬送方向で互いに隣接する圧延スタンド同士の間で鋼帯2の張力が当該張力の設定値あるいは目標値よりも低下する。そのため、張力を増大させて元の値にまで戻すために、下流側の圧延スタンドのロールギャップを拡大する指令が上述した制御装置16から圧下装置13に出力される。これによりロールギャップが拡大することになり、オーバー側への板厚変動のリスクが高まる。なお、オーバー側への板厚変動とは、鋼帯2の板厚が当該鋼帯2の板厚の設定値あるいは目標値を超えることを意味している。
【0022】
一方、上述した比率が3/5未満の場合には、垂下率の比率が5/3を超える場合とは反対に、マスフローの変化に伴って上述した張力が当該張力の設定値あるいは目標値よりも増大する。そのため、張力を低下させて元の値に戻すために下流側の圧延スタンドのロールギャップを狭める指令が上述した制御装置16から圧下装置13に出力される。これにより鋼帯2の板厚がアンダー側への板厚変動のリスクが高まることになる。なお、アンダー側への板厚変動とは、鋼帯2の板厚が当該鋼帯2の板厚の設定値あるいは目標値未満となることを意味している。
【0023】
また、垂下率は0.1%以上であることが好ましく、0.2%以上であることがより好ましい。こうすることにより、圧延機1によって鋼帯2を圧延するときにおける鋼帯2の搬送速度の変化に起因する板破断のリスクをより確実に低減することができる。すなわち、垂下率が0.1%以上であれば、各圧延スタンド3、4、5、6、7でのマスフローに余裕を持たせることができる。そのため、鋼帯2の搬送速度の変化に起因する急峻な張力変動を緩和しやすくなり、板破断のリスクをより低くできる。さらに垂下率は高くとも10.0%以下に設定することが好ましい。垂下率が10.0%以下であれば、搬送方向で互いに隣接する上流側の圧延スタンドの垂下率と下流側の圧延スタンドの垂下率との比率Rを本実施形態の範囲である3/5~5/3に維持することで、垂下率により付与される速度低下量をより効果的に抑えることができる。そして、装置全体としてマスフローのバランスが崩れることで生じる大きな板厚変動を防ぎ、オフゲージ長さが長くなることが避けられる。そのため、垂下率は10.0以下であることが好ましく、1.4%以下であることがより好ましい。
【0024】
(作用・効果)
本実施形態の作用・効果について、比較例と対比して説明する。表1に、
図1に示す圧延機1の各圧延スタンド3、4、5、6、7の各モータ10の垂下率を示してある。これと合わせて、比較例として、本実施形態に係る圧延機の板厚制御方法および圧延機の板厚制御装置ならびに圧延機の板厚制御方法を用いる鋼板の製造方法を適用する前の圧延機の各圧延スタンドの各モータの垂下率を表1に示してある。比較例の圧延機は、本実施形態のように垂下率を調整しないこと以外は、本実施形態の圧延機1とほぼ同様に構成されている。また、
図2は比較例の圧延機の挙動を説明する図である。
図3は
図1に示す圧延機1の挙動を説明する図である。
【0025】
【0026】
先ず、比較例の圧延機の挙動について説明する。複数の鋼帯を連続して圧延する場合には、現時点で圧延を行っている鋼帯の尾端部に対して、これから圧延を行う鋼帯の先端部を溶接する。その溶接を行うために、現時点で圧延を行っている鋼帯の尾端部側の搬送速度が次第に低下される。
図2(a)はその状態を示している。このように、尾端部側の搬送速度を次第に低下している状態を以下の説明では、減速中、あるいは、減速時と記す。
【0027】
減速時における各圧延スタンドの挙動を比較例の圧延機の第4圧延スタンドと第5圧延スタンドとを例として説明する。元来、第5圧延スタンドでの鋼帯の搬送速度は第4圧延スタンドでの鋼帯の搬送速度よりも高いため、減速時における第5圧延スタンドでの鋼帯の搬送速度の変化量は第4圧延スタンドでの鋼帯の搬送速度の変化量よりも大きくなる。また、第5圧延スタンドでの鋼帯とワークロールとの間の摩擦係数の増加量は第4圧延スタンドでの鋼帯とワークロールとの間の摩擦係数の増加量よりも大きくなる。これは、第5圧延スタンドでは、鋼帯の搬送速度が第4圧延スタンドでの鋼帯の搬送速度よりも高い。そのため、鋼帯とワークロールとの間に噛み込まれる潤滑用のオイルの量が第4圧延スタンドと比較して多く、減速時に引き込まれるオイルの減少量も多くなるためである。
【0028】
そのため、減速時における第5圧延スタンドでの鋼帯の先進率の低下量は第4圧延スタンドでの鋼帯の先進率の低下量よりも増大する。また、鋼帯の尾端部側の搬送速度を減速する前の定常時と比較して、減速時においては、第4圧延スタンドでのマスフローが第5圧延スタンドでのマスフローよりも低減する。それらの結果、第4圧延スタンドと第5圧延スタンドとの間での鋼帯が余った状態となり、第4圧延スタンドと第5圧延スタンドとの間での鋼帯の張力が低下する。
図2(b)はその状態を示している。また、
図2(c)に示すように、第5圧延スタンド7のワークロール8のロールギャップを増大する指令信号が出力される。なお、上述した先進率とは、各圧延スタンドの出側での鋼板の搬送速度(板送りと称する場合がある。)からワークロールの回転速度を減算した値がワークロールの回転速度に占める割合である。
【0029】
その結果、比較例では、
図2(d)に示すように圧延機の出側の板厚はオーバー側に上昇してしまい、大きな板厚変動が生じる。これは、第5圧延スタンドでの垂下率が第4圧延スタンドでの垂下率よりも過大であるためである。すなわち、垂下率による第5圧延スタンドでの減速が第4圧延スタンドでの減速よりも過大になるためである。そのために、それらの圧延スタンド同士の間の張力が低下する方向に、両者のマスフローのバランスが崩れる。
【0030】
これに対して、本実施形態では、表1に示すように、第4圧延スタンドでの垂下率と第5圧延スタンドでの垂下率とが共に0.4%である。また、垂下率の比率Rは1/1(1.0)であり、上述した範囲内に収まっている。そのため、
図3(a)に示すように、鋼帯2の尾端部側の減速を開始した場合に、それらの圧延スタンド6、7のマスフローのバランスが維持される。そのため、垂下率による第4圧延スタンド6での減速と、垂下率による第5圧延スタンド7での減速とはほぼ同程度となる。また、鋼帯2の尾端部側の減速とほぼ同時に張力が低下し始めるとしても、張力の低下量は
図3(b)および
図2(b)に示すように、比較例と比較して小さくなる。また、鋼帯2の尾端部側の減速とほぼ同時に、第5圧延スタンド7のワークロール8のロールギャップを増大する指令信号が出力されるが、その指令信号によるロールギャップの増大幅も
図3(c)および
図2(c)に示すように、比較例と比較して小さくなる。それらの結果、本実施形態では、
図3(d)および
図2(d)に示すように、比較例と比較して板厚変動を抑制することができる。
【0031】
また、本実施形態では、各圧延スタンド3、4、5、6、7の垂下率は0.1%以上であるため、圧延機1によって鋼帯2を圧延するときにおける鋼帯2の速度変化に起因する板破断のリスクを低減することができる。
【0032】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されない。上述した本実施形態では、
図1に示す圧延機1において、鋼帯2の圧延を行う場合は常に、鋼帯2の搬送方向で互いに隣接する圧延スタンドの垂下率の比率Rが上述した3/5~5/3の範囲内に設定されている。しかしながら、これに代えて、現時点で圧延を行っている鋼帯2の尾端部側の減速を開始した時点で、垂下率の比率Rを3/5~5/3の範囲内に設定してもよい。すなわち、鋼帯2の搬送速度で互いに隣接する圧延スタンドのマスフローのバランスが変化する場合に、垂下率の比率Rを上述した範囲内に設定する。具体的には、鋼帯2の尾端部側の減速は、例えば、モータ10やワークロール8の回転速度、あるいは、モータ10に対して印加する電流値などに基づいて判断することができる。そして、上述した減速が開始されたことの判断が成立した場合に、鋼帯2の搬送方向で互いに隣接する圧延スタンドの垂下率の比率Rを3/5~5/3の範囲内に設定すればよい。このような構成であっても、上述した本実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。なお、上述した鋼帯2の尾端部側の減速が開始されたことの判断、垂下率の比率Rの変更や設定は制御装置16によって行ってもよく、オペレーターによって行ってもよい。
【実施例0033】
本発明の実施形態に係る圧延機の板厚制御方法および圧延機の板厚制御装置の効果を確認するために行った実施例について説明する。
図1に示す圧延機と同様に構成した圧延機を用意し、当該圧延機を使用して鋼帯の圧延を行った。その結果、上述した実施形態と同様に、減速時の張力の低下を抑制することができた。また、第5圧延スタンドでのロールギャップの変動を抑制することができた。つまり、第5圧延スタンドの出側での鋼帯の板厚変動を従来になく抑制することができた。そして、本実施例の圧延機でのオフゲージの長さは、表2に示すように、本実施形態に係る圧延機の板厚制御方法および圧延機の板厚制御装置を適用する前の圧延機のオフゲージの長さの約2分の1にすることができた。なお、オフゲージとは、鋼帯の全長のうち、製品板厚を外れた長さを意味している。
【0034】