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特開2024-166083合金鋼、電食防止部品およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166083
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】合金鋼、電食防止部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241121BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20241121BHJP
   C21D 1/70 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/00 302Z
C22C38/38
C21D1/70 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024043113
(22)【出願日】2024-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2023082088
(32)【優先日】2023-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】中元 宏
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 直生
(72)【発明者】
【氏名】小澤 茂太
(57)【要約】
【課題】本発明においては、隣接する金属製品との耐電食機能を有しながら、本来備えている硬度を保持できる合金鋼、それを用いた電食防止部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】重量%で、C:0.01~1.0%、Si:0.2~4.0%、Mn:0.2~2.0%、Cr:1.0~9.0%、Mo:1.5~6.0%、Al:0.01~5.0%、V:0.01~1.2%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる合金鋼において、当該合金鋼の表面の凹部に樹脂が充填されている酸化皮膜を形成する。これにより、隣接する金属製品との耐電食機能を有しながら、本来備えている硬度を保持できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.01~1.0%、Si:0.2~4.0%、Mn:0.2~2.0%、Cr:1.0~9.0%、Mo:1.5~6.0%、Al:0.01~5.0%、V:0.01~1.2%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなることを特徴とする合金鋼。
【請求項2】
さらに、重量%で、W:0.01~2.0%を含有することを特徴とする請求項1に記載の合金鋼。
【請求項3】
さらに、重量%で、Co:0.1~4.0%を含有することを特徴とする請求項2に記載の合金鋼。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の合金鋼を用いた電食防止部品であって、前記合金鋼の表面には酸化皮膜が被覆されており、前記酸化皮膜の表面に形成された凹部には樹脂が充填されていることを特徴とする電食防止部品。
【請求項5】
前記合金鋼の表面硬さは、ロックウエルCスケールで58HRC以上であることを特徴とする請求項4に記載の電食防止部品。
【請求項6】
請求項4に記載の電食防止部品の製造方法であって、500℃以上600℃以下の温度範囲で前記合金鋼に前記酸化皮膜を形成した後、前記酸化皮膜の表面に形成された凹部に樹脂を充填することを特徴とする電食防止部品の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の電食防止部品の製造方法であって、500℃以上600℃以下の温度範囲で前記合金鋼に前記酸化皮膜を形成した後、前記酸化皮膜の表面に形成された凹部に樹脂を充填することを特徴とする電食防止部品の製造方法。
【請求項8】
少なくとも、酸素または水蒸気のいずれかを含む雰囲気下で前記合金鋼の表面に前記酸化皮膜を形成することを特徴とする請求項6に記載の電食防止部品の製造方法。
【請求項9】
少なくとも、酸素または水蒸気のいずれかを含む雰囲気下で前記合金鋼の表面に前記酸化皮膜を形成することを特徴とする請求項7に記載の電食防止部品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロムやモリブデンなど含有する合金鋼およびそれを用いた電食防止部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼材を用いて絶縁性を必要とされる部品を製造するには、絶縁性を有するアルミナなどのセラミックスで部品の一部を置き換えたり、あるいは部品の表面をPPSなどの樹脂で覆ったりすることにより、絶縁性を付与する対策が取られている(特許文献1参照)。
【0003】
または、所定の成分で製造された鋼材の中には、高温加熱により部品の表面に絶縁性を有する酸化層を形成することで、その部品に絶縁性を持たせる場合がある(特許文献2および3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-236259号公報
【特許文献2】特開2013-199674号公報
【特許文献3】特開2004-84767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された部品の一部を樹脂で置き換えて追加した場合は、鋼材と比べて、耐摩耗性や強度が不足するという問題があった。また、セラミックスの場合は、鋼材と比べ靭性が不足し、被加工性にも問題があった。加えて、これらの材料はいずれも鋼材より材料のコストが高く、部品全体のコストが高くなってしまう。
【0006】
一方で、特許文献2に開示されているように、鋼材の表面を酸化させて部品に絶縁性を付与する場合、コスト面では有利なものの、従来からある合金鋼の硬さは50HRC(HRC:ロックウエル硬さCスケール)を下回るものであり、耐摩耗性や耐疲労強度などを必要とする高負荷の環境下では、部品として長期間に渡って使用することが難しかった。
【0007】
これは、合金鋼の硬さに大きく寄与する炭素の含有量が極めて少ないことが原因であり、加えて、酸化層を形成する際に必要な温度が980~1220℃程度と高温域であるため、処理前に高硬度であったとしても軟化してしまう恐れがあった。
【0008】
仮に、焼入れと酸化処理を兼ねて1200℃程度の加熱を行うことにより、高硬度が得られたとしても、処理前後で寸法が大きく変動する。そのため、高精度の部品を製造するには、酸化処理後に研削加工等が必要となり、せっかく形成された酸化層が研削除去されてしまうことになる。
【0009】
さらに、特許文献3に開示された材料においても、鋼材の表面を酸化させて部品に絶縁性を持たせる手段が説明されているが、材料の硬さや強度に関する情報は開示されておらず、格段に配慮されている記述も無い。また、酸化層の形成方法は酸液への浸漬であり、水素脆化による材料強度の低下や自然環境への負荷が問題になっている。
【0010】
そこで、本発明は隣接する金属製品との間に電気的絶縁性を有しながら、高い強度(または硬度)を保持できる合金鋼、それを用いた電食防止部品および電食防止部品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した課題を解決するために、合金鋼の発明については、重量%で、C:0.01~1.0%、Si:0.2~4.0%、Mn:0.2~2.0%、Cr:1.0~9.0%、Mo:1.5~6.0%、Al:0.01~5.0%、V:0.01~1.2%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる合金鋼とする。または、重量%でW:0.01~2.0%をさらに含有する合金鋼や重量%でCo:0.1~4.0%をさらに含有する合金鋼としても構わない。
【0012】
次に、電食防止部品の発明については、前述の合金鋼の発明を用いて当該合金鋼の表面の凹部に樹脂が充填されている酸化皮膜を被覆した電食防止部品とする。この合金鋼の表面硬さは、ロックウエルCスケールで58HRC以上とすることもできる。
【0013】
電食防止部品の製造方法については、500℃以上600℃以下の温度範囲で前述の合金鋼の表面に酸化皮膜を形成した後、酸化皮膜の表面に形成された凹部に樹脂を充填する。その際に、少なくとも酸素または水蒸気のいずれかを含む雰囲気下で合金鋼の表面に酸化皮膜を形成しても構わない。
【発明の効果】
【0014】
本発明の合金鋼は、所定の成分を有することで58HRC(ロックウエル硬さCスケール)を超える硬さを保ちつつ、鋼材の表面に絶縁性を有する酸化層(酸化皮膜)を形成できる。また、本発明の電食防止部品は、当該合金鋼を焼入焼戻しの熱処理によって58HRCを超える硬さを可能とし、かつその後に部品の寸法精度を確保するための仕上げ加工を行った後に酸化熱処理を実施することで絶縁性を有する酸化皮膜が形成されても当該部品の寸法変化は当該酸化処理による比較的小さな変化にとどめることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態である合金鋼について、合金鋼に含有される各元素の含有量について説明する。本発明の合金鋼の化学成分については、(1)表面に絶縁性を有する酸化層が形成され得る成分範囲であること、(2)酸化層を貫通するようなサイズの導電性を有する析出粒子(炭化物など)が形成されない成分範囲であること、(3)焼入焼戻し後に酸化処理を行っても軟化しにくく、58HRCを超える硬さが得られる成分範囲であることの各条件を満たすこととした。
【0016】
《C(炭素)》
Cの含有量(C量)は、重量%で0.01~1.0%の範囲とした。C量がこの範囲を超えると、合金鋼の靭性が低下する恐れがあり、基地組織中の炭化物が粗大化する場合もある。また、合金鋼の熱間加工性が悪化する恐れもある。一方、この範囲よりも少ない場合には、合金鋼の表面硬さが58HRC未満になる。
【0017】
《Si(シリコン)》
Siの含有量(Si量)は、重量%で0.2~4.0%の範囲とする。Si量がこの範囲を超えると合金鋼の靭性が低下する、または熱間加工性が悪化する恐れがある。一方、この範囲を下回ると表面に形成される酸化層の絶縁性が低下する、または被切削性が悪化する。
【0018】
《Mn(マンガン)》
Mnの含有量(Mn量)については、重量%で0.2~2.0%の範囲とする。この範囲を超えると被加工性が悪化する恐れがある。一方、この範囲を下回ると、原料を厳選する必要があり、却って材料コストが高くなる。
【0019】
《Cr(クロム)》
Crの含有量(Cr量)は、重量%で1.0~9.0%の範囲とする。この範囲を超えると合金鋼の酸化層が薄くなり、酸化層の絶縁性が低下する。この範囲を下回ると、合金鋼の酸化層の絶縁性が低下する
【0020】
《Mo(モリブデン)》
Moの含有量(Mo量)は、重量%で1.5~6.0%の範囲とする。この範囲を超えると、炭化物が粗大化する、または合金鋼の靭性が低下する恐れがある。一方、この範囲を下回ると酸化処理後に、合金鋼の表面硬さが58HRC未満になる恐れがある。
【0021】
《Al(アルミニウム)》
Alの含有量(Al量)は、重量%で0.01~5.0%の範囲とする。この範囲を超えると酸化処理後に合金鋼の表面硬さが58HRC未満になる恐れがある、または非金属介在物が多くなり疲労強度が低下する恐れがある。一方、この範囲を下回ると、酸化層の絶縁性が低下する。
【0022】
《V(バナジウム)》
Vの含有量(V量)は、重量%で0.01~1.2%の範囲で含有することもできる。この範囲を超えると炭化物が粗大化する、または合金鋼の靭性が低下する恐れがある。
【0023】
なお、W(タングステン)の含有量を重量%で0.01~2.0%の範囲でさらに含有しても構わない。また、Co(コバルト)の含有量を重量%で0.1~4.0%をさらに含有することもできる。
【0024】
次に、本発明の一実施形態である合金鋼を用いた電食防止部品およびその製造方法について説明する。本発明の合金鋼を用いた電食防止部品の発明については、母材である合金鋼の表面に形成された酸化皮膜の凹部に樹脂を充填する。このとき、母材である合金鋼の表面硬さは、ロックウエルCスケールで58HRC以上であることが好ましい。
【0025】
なお、事前に行われる焼入焼戻し処理された当該合金鋼を500℃以上600℃以下の温度範囲で再度熱処理をしても、当該合金鋼には十分な焼戻し軟化抵抗特性を有しており、58HRCを超える硬さ(合金鋼の硬さ)が十分に確保できる。
【0026】
また、前述の酸化熱処理工程では、当該合金鋼を酸素もしくは水蒸気のいずれかを含む雰囲気下、または酸素および水蒸気の両方を含む雰囲気下で熱処理を行うことによって合金鋼の表面に酸化皮膜を形成する。当該酸化皮膜を形成した後、酸化皮膜の表面に形成された凹部に樹脂を充填する。
【0027】
この場合、電食防止部品の成型加工や切削加工などの最終加工後に実施することが望ましい。最終加工後に酸素雰囲気下で熱処理を行っても加熱温度が500~600℃と比較的に低く、電食防止部品の寸法変化が非常に小さいためである。