(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166089
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】震度推定システム
(51)【国際特許分類】
G01V 1/01 20240101AFI20241121BHJP
G01H 1/00 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
G01V1/01 100
G01H1/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024068131
(22)【出願日】2024-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2023080556
(32)【優先日】2023-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】青木 雅嗣
(72)【発明者】
【氏名】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】内山 泰生
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 さやか
(72)【発明者】
【氏名】西本 昌
(72)【発明者】
【氏名】連 惇
【テーマコード(参考)】
2G064
2G105
【Fターム(参考)】
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB19
2G064BA02
2G064BD02
2G064DD02
2G105AA03
2G105BB01
2G105EE01
2G105MM02
2G105NN02
(57)【要約】
【課題】任意の地点における震度を、精度よく推定する。
【解決手段】震度推定システム1は、加速度センサ11及び磁気センサ12が内蔵されたスマートデバイス10を用いた震度推定システム1であって、磁気センサ12による計測結果を基に、スマートデバイス10が地震により静止した状態から移動したか否かを判定し、移動したと判定した場合には、移動した時間区間である移動区間を特定する、移動判定部24と、スマートデバイス10が移動したと判定された場合に、加速度センサ11で観測された加速度波形の、移動区間における部分を補正し、補正加速度波形を生成する、加速度波形補正部25と、補正加速度波形を基に震度階級を推定する、震度階級推定部26と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速度センサ及び磁気センサが内蔵されたスマートデバイスを用いた震度推定システムであって、
前記磁気センサによる計測結果を基に、前記スマートデバイスが地震により静止した状態から移動したか否かを判定し、移動したと判定した場合には、移動した時間区間である移動区間を特定する、移動判定部と、
前記スマートデバイスが移動したと判定された場合に、前記加速度センサで観測された加速度波形の、前記移動区間における部分を補正し、補正加速度波形を生成する、加速度波形補正部と、
前記補正加速度波形を基に震度階級を推定する、震度階級推定部と、
を備えることを特徴とする震度推定システム。
【請求項2】
前記移動判定部は、
前記磁気センサによる前記計測結果である磁束密度の時刻歴波形において、前記磁束密度の平均値の地震の前後における変化量が移動判定閾値以上である場合に、前記スマートデバイスが移動したと判定し、
前記スマートデバイスが移動したと判定した場合には、前記磁束密度の前記時刻歴波形において、時刻を進めつつ当該時刻を基点として所定の時間間隔内における標準偏差を計算し、前記標準偏差が移動区間判定閾値以上となった場合に、当該時刻を基点とした前記時間間隔の終了時刻を、前記移動区間の開始時刻として設定し、前記標準偏差が前記移動区間判定閾値より小さくなった場合に、当該時刻を基点とした前記時間間隔の開始時刻を、前記移動区間の終了時刻として設定することを特徴とする、請求項1に記載の震度推定システム。
【請求項3】
前記移動判定部は、
前記磁気センサによる、前記スマートデバイスの画面と平行な面内で互いに直交する第1方向及び第2方向の各々における成分の前記計測結果を基に、前記スマートデバイスが水平方向に移動したか否かを判定し、水平方向に移動したと判定した場合には、水平方向における前記移動区間である水平移動区間を特定し、
前記磁気センサによる、前記画面に直交する直交方向における成分の前記計測結果を基に、前記スマートデバイスが上下方向に移動したか否かを判定し、上下方向に移動したと判定した場合には、上下方向における前記移動区間である上下移動区間を特定することを特徴とする、請求項1または2に記載の震度推定システム。
【請求項4】
前記加速度波形補正部は、前記スマートデバイスが水平方向に移動したと判定された場合に、前記水平移動区間において、前記加速度波形の、前記第1方向及び前記第2方向の各々における成分の、振幅が一定となる部分を、正弦波による曲線あてはめ処理によって補完して、前記第1方向及び前記第2方向における前記補正加速度波形を生成し、
前記加速度波形補正部は、前記補正加速度波形を基にした波形の、各時刻において、
前記第1方向、前記第2方向、及び前記直交方向の各々における成分を合成して成分合成加速度を計算し、
当該時刻が前記上下移動区間内であり、前記成分合成加速度が落下判定閾値以上であれば、当該時刻においては前記スマートデバイスが落下状態にあると見做して、前記補正加速度波形を基にした波形の、前記第1方向、前記第2方向、及び前記直交方向の各々における成分を0として、前記成分合成加速度を再度計算し、
当該時刻が前記上下移動区間内であり、前記成分合成加速度が落下判定閾値より小さければ、当該時刻においては前記スマートデバイスが上下に細かく弾んでいる状態にあると見做して、前記補正加速度波形を基にした波形の前記直交方向における成分を0として、前記成分合成加速度を再計算し、
前記震度階級推定部は、前記成分合成加速度を基に、前記震度階級を推定する
ことを特徴とする、請求項3に記載の震度推定システム。
【請求項5】
前記加速度センサで観測された前記加速度波形を基に、
地震時に前記スマートデバイスが水平に載置されているほど良好な結果となる、載置状況評価指標と、
地震時に前記スマートデバイスが落下していなければ良好な結果となる、落下有無評価指標と、
地震時における前記スマートデバイスの変位量が小さいほど良好な結果となる、変位量評価指標と、
の各々を評価し、前記載置状況評価指標、前記落下有無評価指標、及び前記変位量評価指標の各々の評価結果を基に、前記震度階級推定部により推定された前記震度階級の信頼性を評価する、震度階級信頼性評価部を更に備えている
ことを特徴とする、請求項1に記載の震度推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速度センサ及び磁気センサが内蔵されたスマートデバイスを用いた震度推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地震が生じた際に、広い範囲内に位置する複数の地点の各々における、震度を推定することが行われている。
例えば、特許文献1には、複数のタイル画像ファイルを記憶する記憶部と、地震ID種別符号と地震基本データとタイル画像ファイルの記憶位置とを格納する地震情報テーブルと、地震ID種別符号と計測震度と当該計測震度が推計される区画を表すデータとを格納する推計震度分布テーブルと、地震ID種別符号と計測震度と当該計測震度の観測点を表すデータとを格納する観測点震度テーブルとを含むデータベースと、推計震度分布テーブルまたは観測点震度テーブルが更新された場合に、タイル画像ファイルを複数生成して記憶部に展開するタイル画像ファイル生成部と、地震ID種別符号と記憶位置を表すデータを出力する地震検索部と、地震ID種別符号と計測震度とを表すデータを出力する震度検索部とを備える、震度情報提供装置が開示されている。
特許文献1において、タイル画像は、各タイル画像の範囲に対して推定された震度の値を表す色で色づけされている。タイル画像には、当該タイル画像の範囲に震度を観測した観測点が含まれている場合に、当該観測点に対応する位置に、震度の値を表す数字を含んだ図形が描かれている。震度を表すタイル画像は、ユーザ端末に、地図画像と重ねて表示される。
【0003】
地震が生じた際に、例えば建物の被害状況を推定しようとする場合には、当該建物が設けられた地点の震度が、より正確に、取得されるのが望ましい。これに関し、特許文献1の構成においては、建物が設けられた地点を入力したとしても、当該地点ではなく、当該地点を含む大きなメッシュ全体の震度が取得される。このため、特許文献1の構成においては、建物の被害状況の推定のために使用する震度として、精度が十分に高い値は得られない。
これに対し、任意の地点における震度を精度よく推定するためには、多くの地震計を高密度に設置することが考えられる。しかし、地震計を多く設置するにはコストが嵩む。そこで、多くの人間が所有する、スマートフォンやタブレット端末等のスマートデバイスに備えられる加速度センサを地震計の代替とし、スマートデバイスを用いて地震を検知する構成とすることで、地震の観測密度を高めることが検討されている。
【0004】
例えば、特許文献2には、評価対象における地震の揺れに関する評価を行う評価システムが開示されている。当該評価システムは、評価対象に設けられている端末装置で特定した、評価対象における地震の揺れを示す第1情報と、評価対象の周囲に設けられている端末装置で特定した評価対象の周囲における地震の揺れを示す第2情報とを取得する取得手段と、取得手段が取得した第1情報及び第2情報に基づいて、評価対象における前記地震の揺れに関する評価を行う評価手段と、を備えている。端末装置は、例えばスマートフォンやタブレット端末である。
【0005】
また、特許文献3には、階層を有する構造物内の高さ方向に配置され近隣の携帯端末機に向けて各々の高さ位置を報知する多数の高度報知器と、自機の振動を検出するセンサを備えるとともに自機の現在地及び高度を取得する位置情報取得部を備えた複数のスマートフォンと、スマートフォンの姿勢を検出しその姿勢の継続時間に基づいてセンサによる振動の検出を開始させる観測制御部と、振動の検出を開始したスマートフォンの数、及びそれぞれの現在位置を取得するとともに、各携帯端末のセンサによる検出結果を収集する情報収集部と、情報収集部が収集した検出結果に基づいて、振動を検出したスマートフォン本体の数が所定数を超えたときに地震による振動であると判定する判定部とを備える構成が開示されている。
【0006】
しかし、地震が生じた際に、スマートデバイスが、精度よく、地震動を観測できるとは限らない。例えばスマートデバイスが机上に置かれている状況において地震が生じた場合に、地震が小さければ、スマートデバイスと机の間の摩擦力によりスマートデバイスは机に追従して動き、机に対して相対移動しないため、地震動を精度よく観測することができる。しかし、スマートデバイスと机の間の摩擦力を越える力がスマートデバイスに作用する程度に、地震が大きければ、スマートデバイスは机に対して相対移動して滑動し、あるいは机から落下することがある。このような場合には、スマートデバイスは、地震動を精度よく観測することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-133996号公報
【特許文献2】特開2020-193935号公報
【特許文献3】国際公開第2018/174296号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、任意の地点における震度を、精度よく推定することができる、震度推定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明は、加速度センサ及び磁気センサが内蔵されたスマートデバイスを用いた震度推定システムであって、前記磁気センサによる計測結果を基に、前記スマートデバイスが地震により静止した状態から移動したか否かを判定し、移動したと判定した場合には、移動した時間区間である移動区間を特定する、移動判定部と、前記スマートデバイスが移動したと判定された場合に、前記加速度センサで観測された加速度波形の、前記移動区間における部分を補正し、補正加速度波形を生成する、加速度波形補正部と、前記補正加速度波形を基に震度階級を推定する、震度階級推定部と、を備えることを特徴とする震度推定システムを提供する。
机上等に載置されて静止していたスマートデバイスは、地震時において、スマートデバイスと、スマートデバイスが設置された設置表面との間の静止摩擦力を越える力がスマートデバイスに作用する程度に地震が大きければ、設置表面に対して滑動することがある。あるいは、スマートデバイスは、設置表面に対して上下に細かく弾むようにバウンドしたり、設置表面上を滑動した後に、設置表面から下方に落下したりすることがある。このように、スマートデバイスが地震により静止した状態から移動する際には、少なからず、スマートデバイスが置かれた方向すなわち姿勢の変化を伴う。
このような挙動をスマートデバイスが示す際には、スマートデバイスの挙動は設置表面の挙動に追従したものとはなっていないため、スマートデバイスに設けられた加速度センサによって観測された加速度波形は、地震を正常に観測したものとはなっていない。
ここで、上記のような構成においては、スマートデバイスに設けられた磁気センサによる計測結果を使用する。スマートデバイスが地震により静止した状態から移動して姿勢が変化すれば、その挙動は、磁気センサによる計測結果に反映される。このため、スマートデバイスに設けられた磁気センサによる計測結果を用いて、スマートデバイスが移動したか否かを判定し、スマートデバイスが移動した時間区間である移動区間を特定することができる。
このようにして特定された移動区間は、スマートデバイスの挙動が設置表面の挙動に追従していない区間であり、換言すれば、加速度センサによって、地震が正常に観測されなかった時間区間である。上記のような構成においては、加速度波形の、移動区間における部分を補正して、補正加速度波形を生成し、これを基に震度階級を推定する。このように、地震が正常に観測されなかった時間区間の加速度波形が適切に補正されるため、スマートデバイスが設けられた位置における震度階級を、より正確に、推定することができる。
スマートデバイスは、多くの人間に所有されている。このため、震度の推定が求められる地点もしくはその近傍に、スマートデバイスを所有している人間が位置している可能性は極めて高い。したがって、何らかの地点が指定されたときに、当該地点に位置するスマートデバイスによる計測結果を使用することで、任意の地点における震度を、精度よく推定することができる、震度推定システムを提供することが可能となる。
【0010】
本発明の一態様においては、前記移動判定部は、前記磁気センサによる前記計測結果である磁束密度の時刻歴波形において、前記磁束密度の平均値の地震の前後における変化量が移動判定閾値以上である場合に、前記スマートデバイスが移動したと判定し、前記スマートデバイスが移動したと判定した場合には、前記磁束密度の前記時刻歴波形において、時刻を進めつつ当該時刻を基点として所定の時間間隔内における標準偏差を計算し、前記標準偏差が移動区間判定閾値以上となった場合に、当該時刻を基点とした前記時間間隔の終了時刻を、前記移動区間の開始時刻として設定し、前記標準偏差が前記移動区間判定閾値より小さくなった場合に、当該時刻を基点とした前記時間間隔の開始時刻を、前記移動区間の終了時刻として設定する。
上記のような構成によれば、磁気センサによる計測結果である磁束密度の時刻歴波形において、磁束密度の平均値の地震の前後における変化量を計算する。この変化量が大きければ、地震の前後でスマートデバイスの姿勢が大きく変わったことを意味する。したがって、磁束密度の平均値の地震の前後における変化量を移動判定閾値と比較し、変化量が移動判定閾値以上の場合にスマートデバイスが移動したと判定することで、スマートデバイスが移動したか否かを適切に判定することができる。
スマートデバイスが移動したと判定された場合には、移動区間を更に特定する。スマートデバイスが移動している間においては、磁束密度の値が大きくばらつくため、磁束密度の時刻歴波形において、所定の時間間隔内における標準偏差を計算し、これを閾値と比較することで、移動区間を正確に特定することができる。
より詳細には、磁束密度の時刻歴波形において、時刻を進めつつ当該時刻を基点として所定の時間間隔内における標準偏差を計算する。標準偏差が移動区間判定閾値より小さい状態が続いた後に、ある時刻において標準偏差が移動区間判定閾値以上となった場合は、これまで所定の時間間隔の全域が、時刻歴波形の、磁束密度のばらつきが小さい領域にあった状態から、時刻が進み、当該時刻を基点とした所定の時間間隔のなかでも、当該時間間隔の終了時刻に近い、最も時刻が進んでいる部分が、時刻歴波形の、磁束密度のばらつきが大きくなり始めた領域にさしかかったことで、標準偏差が大きくなり始めた場合であると考えられる。このため、当該時刻を基点とした時間間隔の終了時刻を特定することで、移動区間の開始時刻を正確に特定することができる。
また、標準偏差が、いったん移動区間判定閾値以上となった後に、ある時刻において移動区間判定閾値以下となった場合は、これまで所定の時間間隔の全域が、時刻歴波形の、磁束密度のばらつきが大きい領域にあった状態から、時刻が進み、当該時刻を基点とした所定の時間間隔のなかでも、当該時間間隔の開始時刻に近い、最も時刻が遅れている部分を含む、時間間隔の全体が、時刻歴波形の、磁束密度のばらつきが小さくなった領域へと到達したことで、標準偏差が小さくなった場合であると考えられる。このため、当該時刻を基点とした時間間隔の開始時刻を特定することで、移動区間の終了時刻を正確に特定することができる。
このようにして、スマートデバイスが移動したか否かの判定と、加速度センサで観測された加速度波形の補正対象となる移動区間の計算を、適切に行うことができるため、加速度波形が適切に補正され、結果として、震度の計算精度を高めることができる。
【0011】
本発明の別の態様においては、前記移動判定部は、前記磁気センサによる、前記スマートデバイスの画面と平行な面内で互いに直交する第1方向及び第2方向の各々における成分の前記計測結果を基に、前記スマートデバイスが水平方向に移動したか否かを判定し、水平方向に移動したと判定した場合には、水平方向における前記移動区間である水平移動区間を特定し、前記磁気センサによる、前記画面に直交する直交方向における成分の前記計測結果を基に、前記スマートデバイスが上下方向に移動したか否かを判定し、上下方向に移動したと判定した場合には、上下方向における前記移動区間である上下移動区間を特定する。
地震が生じて、設置表面上に載置されたスマートデバイスが、設置表面上を滑動した場合には、スマートデバイスの姿勢が、多少なりとも変化する。このため、磁気センサによる、スマートデバイスの画面と平行な面内で互いに直交する第1方向及び第2方向の各々における成分の計測結果に、変化が現れる。上記のような構成においては、磁気センサによる第1方向及び第2方向の各々における成分の計測結果を基に、スマートデバイスが水平方向に移動したか否かを判定するため、判定を適切に行うことができる。
また、地震が生じて、設置表面上に載置されたスマートデバイスが、表面上で上下に細かく弾んだり、表面から落下したりした場合には、磁気センサによる、画面に直交する直交方向における成分の計測結果に、変化が現れる。上記のような構成においては、磁気センサによる直交方向における成分の計測結果を基に、スマートデバイスが上下方向に移動したか否かを判定するため、判定を適切に行うことができる。
【0012】
本発明の別の態様においては、前記加速度波形補正部は、前記スマートデバイスが水平方向に移動したと判定された場合に、前記水平移動区間において、前記加速度波形の、前記第1方向及び前記第2方向の各々における成分の、振幅が一定となる部分を、正弦波による曲線あてはめ処理によって補完して、前記第1方向及び前記第2方向における前記補正加速度波形を生成し、前記加速度波形補正部は、前記補正加速度波形を基にした波形の、各時刻において、前記第1方向、前記第2方向、及び前記直交方向の各々における成分を合成して成分合成加速度を計算し、当該時刻が前記上下移動区間内であり、前記成分合成加速度が落下判定閾値以上であれば、当該時刻においては前記スマートデバイスが落下状態にあると見做して、前記補正加速度波形を基にした波形の、前記第1方向、前記第2方向、及び前記直交方向の各々における成分を0として、前記成分合成加速度を再度計算し、当該時刻が前記上下移動区間内であり、前記成分合成加速度が落下判定閾値より小さければ、当該時刻においては前記スマートデバイスが上下に細かく弾んでいる状態にあると見做して、前記補正加速度波形を基にした波形の前記直交方向における成分を0として、前記成分合成加速度を再計算し、前記震度階級推定部は、前記成分合成加速度を基に、前記震度階級を推定する。
スマートデバイスが設置表面上に載置された状態で地震が生じた際に、地震力がスマートデバイスと設置表面との間の最大静止摩擦力を越えて、スマートデバイスが設置表面上で滑動したり、上下方向に細かく弾みつつ表面上を水平方向に移動したりする場合においては、加速度波形は、第1方向及び第2方向の各々における成分に、振幅が一定となるような部分を有する傾向を示すことが多い。このような場合に、上記のような構成においては、加速度波形の第1方向及び第2方向の各々における成分の、水平移動区間内で振幅が一定となる部分を、正弦波による曲線あてはめ処理によって補完して、第1方向及び第2方向における補正加速度波形を生成する。したがって、第1方向及び第2方向における補正加速度波形を、適切に、生成することができる。
また、上下移動区間においては、スマートデバイスは、設置表面上で上下に細かく弾んでいるバウンド状態か、設置表面から落下している落下状態の、いずれかの状態にある。ここで、バウンド状態と落下状態では、スマートデバイスに作用する加速度の大きさが異なる。そこで、上記のような構成においては、補正加速度波形を基にした波形に対し、各時刻において、第1方向、第2方向、及び直交方向の各々における成分を合成して成分合成加速度を計算し、成分合成加速度を落下判定閾値と比較することで、上下移動区間の各時刻において、スマートデバイスがバウンド状態にあるのか落下状態にあるのかを、判定する。
スマートデバイスがバウンド状態にある場合には、スマートデバイスは、空中に浮いた後に落下し、表面に対して軽く衝突している。このため、加速度波形は、直交方向においては、固定された地震計では観測されないような、過大な加速度が観測されている。このような加速度波形を基に震度階級を推定すると、実際よりも大きな震度階級が推定される可能性がある。そこで、上記のような構成においては、バウンド状態であると判定された時刻では、第1方向及び第2方向においては上記のように正弦波による曲線あてはめ処理によって補正した状態としたうえで、直交方向においては成分を0とするように調整して成分合成加速度を再計算し、この成分合成加速度を基に震度階級を推定する。これにより、バウンド状態における、直交方向で観測された過大な加速度の、震度階級の推定への影響が低減される。
更に、スマートデバイスが落下状態にある場合には、スマートデバイスは、バウンド状態と同様に大きな加速度が観測される可能性がある。更には、スマートデバイスは完全に宙に浮いている状態であるため、地震による外力が、スマートデバイスに作用せず、地震に起因した波形が全く得られていない状態となっている。このため、落下状態においては、第1方向、第2方向、及び直交方向の全ての方向において、震度階級の推定に使用できるような、信頼できる加速度波形が得られているとは考えにくく、このような加速度波形を基に震度階級を推定すると、震度階級の推定精度が低減する。そこで、上記のような構成においては、落下状態では、第1方向、第2方向、及び直交方向の全ての方向において、成分を0とするように調整して成分合成加速度を再計算し、この成分合成加速度を基に震度階級を推定する(すなわち、当該時刻において、成分合成加速度は0となる)。これにより、落下状態における、信頼できるとは考えられない加速度波形の、震度階級の推定への影響が低減される。
【0013】
本発明の別の態様においては、震度推定システムは、前記加速度センサで観測された前記加速度波形を基に、地震時に前記スマートデバイスが水平に載置されているほど良好な結果となる、載置状況評価指標と、地震時に前記スマートデバイスが落下していなければ良好な結果となる、落下有無評価指標と、地震時における前記スマートデバイスの変位量が小さいほど良好な結果となる、変位量評価指標と、の各々を評価し、前記載置状況評価指標、前記落下有無評価指標、及び前記変位量評価指標の各々の評価結果を基に、前記震度階級推定部により推定された前記震度階級の信頼性を評価する、震度階級信頼性評価部を更に備えている。
上記のようにしてスマートデバイスから加速度波形を取得し、これを補正して震度階級を推定したとしても、加速度波形を取得した際に、スマートデバイスが、例えば机上等に水平に載置されていない場合、落下した場合、大きく移動した場合には、推定された震度階級は、十分な信頼性を有していない可能性がある。
これに対し、上記のような構成によれば、震度階級信頼性評価部は、地震時にスマートデバイスが水平に載置されているほど良好な結果となる、載置状況評価指標と、地震時にスマートデバイスが落下していなければ良好な結果となる、落下有無評価指標と、地震時におけるスマートデバイスの変位量が小さいほど良好な結果となる、変位量評価指標と、の各々を評価する。そして、震度階級信頼性評価部は、これら載置状況評価指標、落下有無評価指標、及び変位量評価指標の各々の評価結果を基に、震度階級推定部により推定された震度階級の信頼性を評価する。したがって、この評価結果を基に、推定された震度階級が十分な信頼性を有しているか否かを、判断することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、任意の地点における震度を、精度よく推定することができる、震度推定システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態における震度推定システムのブロック図である。
【
図3】地震が生じた際に、スマートデバイスの磁気センサによって計測された磁束密度の、時間の経過に伴う変化の例を示す説明図である。
【
図4】地震が生じた際に、スマートデバイスの磁気センサによって計測された磁束密度の標準偏差の、時間の経過に伴う変化の例を示す説明図である。
【
図5】地震が生じ、スマートデバイスが滑動状態またはバウンド状態にある場合の、加速度波形と、これに対して補正を行った補正波形の例を示す説明図である。
【
図6】成分合成加速度を基にしたバウンド区間と落下区間の判別を示す説明図である。
【
図7】設置表面上に固定して設けられた地震計により観測された加速度波形を基にした成分合成加速度と、スマートデバイスの加速度センサにより観測された加速度波形を基にした成分合成加速度を比較した図である。
【
図8】バウンド区間における波形の調整を示す説明図である。
【
図9】落下区間における波形の調整を示す説明図である。
【
図10】本発明の実施形態における震度推定方法のフローチャートである。
【
図11】上記実施形態に関する実験結果を示す図である。
【
図12】上記実施形態の変形例に係る震度推定システムのブロック図である。
【
図13】地震時における、震度と、固定された地震計と固定されていないスマートデバイスの各々の最大変位量と、の関係を示すグラフである。
【
図14】上記変形例に関する検証結果を示すグラフである。
【
図15】上記変形例に係る震度推定方法において、推定された震度階級の信頼性を評価する部分の、フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、加速度センサ及び磁気センサが内蔵されたスマートデバイスを用いた震度推定システムである。震度推定システムでは、加速度センサによる計測結果を基に、スマートデバイスが水平方向に滑動した場合、または上下方向にバウンドした場合、或いは落下した場合には、加速度センサで観測された加速度波形を補正し、補正後の加速度波形を用いて震度階級を推定する。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態における震度推定システムの説明図である。
本実施形態の震度推定システム1は、空間的な密度を高めるために、スマートデバイス10を用いて、スマートデバイス10が位置した地点における震度階級を推定する。スマートデバイス10は多くの量が流通し、多くの人間が所有しており、通常、広い範囲にわたって、高い密度で分布している。したがって、その各々において十分に精度が高い地震動が観測されれば、任意の場所の地震動を精度よく観測することが可能となる。
【0017】
図2は、スマートデバイスの説明図である。
スマートデバイス10は、例えばスマートフォンやタブレット端末等である。スマートデバイス10は、平板状に形成されて、その一方の表面に、画面10aを備えている。
図1に示されるように、スマートデバイス10は、加速度センサ11、磁気センサ12、記憶部13、及び送信部14を、内蔵して、備えている。
加速度センサ11は、例えば、スマートデバイス10の画面10aと平行な面内で互いに直交する第1方向及び第2方向と、画面10aに直交する直交方向の、各々における加速度を取得する。本実施形態においては、
図2に示されるように、スマートデバイス10の幅方向が第1方向Xであり、長さ方向が第2方向Yであり、厚さ方向が直交方向Zである。スマートデバイス10が、机の表面等の水平面を設置表面として、設置表面上に載置される際には、スマートデバイス10の画面10aを形成する表面か、その反対側すなわち背面側に位置する表面が、設置表面に対向して設けられる場合が多い。この場合には、スマートデバイス10の画面10aは、水平に設けられることになる。したがって、設置表面上に載置されたスマートデバイス10に対して、地震力が作用した際には、加速度センサ11は、スマートデバイス10に作用する加速度の、水平面内に沿った第1方向Xにおける成分と、水平面内において第1方向Xに直交する第2方向Yにおける成分と、直交方向Zすなわち鉛直方向における成分の、各々を観測して取得する。
観測された加速度波形は、記憶部13に記憶される。
【0018】
磁気センサ12は、加速度センサ11と同様に、第1方向X、第2方向Y、及び直交方向Zの各々における、磁束密度を取得する。磁束密度は、スマートデバイス10がどの方向を向いているか、その姿勢を表現する指標である。
設置表面上に載置されたスマートデバイス10に対して、地震力が作用した際には、磁気センサ12は、磁束密度の、水平面内に沿った第1方向Xにおける成分と、水平面内において第1方向Xに直交する第2方向Yにおける成分と、直交方向Zすなわち鉛直方向における成分の、各々を観測して取得する。
観測された磁束密度は、記憶部13に記憶する。
【0019】
加速度センサ11と磁気センサ12によって取得された加速度と磁束密度は、微小な所定の時間間隔ごとに、あるいは連続的に、記憶部13に記憶される。スマートデバイス10が、所定の時間間隔ごとに、あるいは連続的に、加速度と磁束密度を記憶部13に格納する機能を有していなければ、当該機能を実現するアプリケーションを作成し、これをスマートデバイス10に追加するようにしてもよい。
このようにして、スマートデバイス10は、地震が生じた際には、加速度センサ11による観測結果として、加速度波形すなわち加速度の時刻歴波形の、第1方向X、第2方向Y、及び直交方向Zの各々の成分を取得する。
また、スマートデバイス10は、地震が生じた際には、磁気センサ12による計測結果として、磁束密度の時刻歴波形の、第1方向X、第2方向Y、及び直交方向Zの各々の成分を取得する。
【0020】
記憶部13は、上記のように、加速度センサ11と磁気センサ12によって観測、計測された結果を記憶する。
送信部14は、記憶部13に時刻歴波形として記憶された、加速度波形と磁束密度の波形を、ネットワーク100を介して、次に説明する震度推定装置20に送信する。ネットワーク100は、例えば、スマートデバイス10と震度推定装置20の通信部23との間で、無線や有線による通信を行うことのできる公衆通信網等である。
【0021】
震度推定装置20は、地点入力部21、スマートデバイス検索部22、通信部23、移動判定部24、加速度波形補正部25、震度階級推定部26、及び記憶部27を備えている。
地点入力部21は、震度推定システム1によって震度階級を推定する地点の入力を受け付ける。より具体的には、例えばユーザが、図示されない入力装置を用いて、震度階級を推定する地点を入力する。ユーザは、例えばキーボードを用いて緯度と経度を入力することで、震度階級を推定する地点を指定してもよい。あるいは、ユーザは、タッチパネルやマウス等を用いて、ディスプレイ等の図示されない出力装置中に表示された地図上の、所望の地点を選択することで、震度階級を推定する地点を指定してもよい。
【0022】
記憶部27には、震度推定装置20と通信可能な設定とされている全てのスマートデバイス10に関する情報が記憶されている。
スマートデバイス検索部22は、記憶部27に記憶された情報から、地震発生時に、地点入力部21によって入力された地点に、最も近く位置していたスマートデバイス10を検索する。
通信部23は、スマートデバイス検索部22によって検索されたスマートデバイス10の送信部14と通信して、スマートデバイス10の記憶部13に記憶された、地震が発生した際の、加速度波形と磁束密度の波形を取得し、記憶部27に記憶する。
【0023】
ここで、地震が生じた際に、スマートデバイス10は、利用者によって運搬されている場合もあり得るし、設置表面上に載置されて、静止した状態となっている場合もあり得る。スマートデバイス10が利用者によって運搬されている場合においては、取得された加速度波形には、地震動以外の運搬によって生じる加速度が混入しているため、震度階級の推定を目的として使用するには適さない。他方、スマートデバイス10が設置表面上に載置されて静止している場合には、基本的に地震動のみが加速度波形に反映されていると考えられる。
このため、移動判定部24は、スマートデバイス10が、設置表面上に載置されているか否かを判定する。具体的には、移動判定部24は、スマートデバイス10の直交方向Zの加速度が、重力加速度と一致しているか否かを判定する。直交方向Zの加速度が重力加速度と一致している場合には、スマートデバイス10が水平面上に載置されており、加速度波形には地震動のみが反映されていると判断する。
【0024】
直交方向Zの加速度が重力加速度と一致していない場合には、スマートデバイス10が水平面上に載置されていないため、加速度波形には地震動以外の何らかの加速度が反映されている可能性があると、移動判定部24は判断する。この場合においては、スマートデバイス検索部22は、地震発生時に、地点入力部21によって入力された地点に、次に近く位置していたスマートデバイス10を検索する。通信部23は、この、次に近く位置していたスマートデバイス10と通信して、スマートデバイス10の記憶部13に記憶された、地震が発生した際の、加速度波形と磁束密度の波形を取得し、記憶部27に記憶する。そして、移動判定部24は、この加速度波形に対して、直交方向Zの加速度が重力加速度と一致しているか否かの判定を行う。直交方向Zの加速度が重力加速度と一致していない場合には、スマートデバイス検索部22は、地震発生時に、地点入力部21によって入力された地点に、更に次に近く位置していたスマートデバイス10を検索する。
このようにして、震度推定装置20は、地震が発生した時刻において、水平面上に載置され、静止した状態となっていたスマートデバイス10の、加速度波形と磁束密度の波形を取得する。
【0025】
例えばスマートデバイス10が設置表面上に置かれている状況において地震が生じた場合に、地震が小さければ、スマートデバイス10と設置表面の間の摩擦力によりスマートデバイス10は設置表面に追従して動き、設置表面に対して相対移動しない。この場合においては、加速度センサ11によって観測された加速度波形は、地震を正しく観測したものとなっていると考えられる。
しかし、スマートデバイス10と設置表面の間の摩擦力を越える力がスマートデバイス10に作用する程度に、地震が大きければ、スマートデバイス10は設置表面の上で滑動したり、設置表面の上で上下に細かく弾んだり、あるいは設置表面から落下したりと、設置表面に対して相対移動することがある。この場合においては、後に説明するように、加速度センサ11によって観測された加速度波形は、地震を正しく観測したものとはなっていない可能性がある。
これに対し、本実施形態の震度推定システム1は、スマートデバイス10が、設置表面上から相対移動したか否かを判定し、移動したと判定した場合には、その間の加速度波形を調整、補正して、その結果を基に、震度階級を推定する。このような処理を行うため、震度推定システム1においては、スマートデバイス10が、設置表面上で、設置表面に対して相対移動したか否かを、正確に判定する必要がある。
【0026】
ここで、スマートデバイス10には、基本的には、地震が生じている間においてはずっと、地震力をはじめとした、何らかの力が作用している。このため、加速度センサ11によって観測された加速度データは、仮にスマートデバイス10が設置表面上に載置されていたとしても、加速度が複雑に変化するような時刻歴波形となっている。このような、時間に伴って値が複雑に変化するデータを基に、例えばスマートデバイス10がどの時刻において設置表面に対して相対移動を始めたのかを正確に判定するのは、容易ではない。
このように、地震力が作用した状態においては、加速度は複雑に変化する。他方、スマートデバイス10の姿勢は、スマートデバイス10が設置表面に対して相対移動していない状態においては、基本的には変化せず、設置表面に対して相対移動を始めた時刻において初めて、大きく変化する。そこで、本実施形態の震度推定システム1においては、スマートデバイス10の姿勢の変化を観測して、スマートデバイス10が設置表面上で、設置表面等に対して相対移動しているか否かを判定する。
本実施形態においては、スマートデバイス10の姿勢を、磁気センサ12によって計測される磁束密度によって判断する。
【0027】
図3は、地震が生じた際に、スマートデバイスの磁気センサによって計測された磁束密度の、時間の経過に伴う変化の例を示す説明図である。
例えば、磁気センサ12によって、磁束密度の時刻歴波形の、第1方向Xの成分として、
図3に示されるような波形が得られた場合を想定する。
図3において、時刻T1は地震が生じた時刻、時刻T2は地震が終了した時刻である。このような場合において、磁束密度は、時刻T1まではほぼ一定の値となっており、時刻T1を過ぎたあたりから大きく変化をはじめ、時刻T2よりも少し前においてこの大きな変化が終わり、以降はまた、ほぼ一定の値をとるような態様を示している。この場合においては、時刻T1から時刻T2まで、磁束密度が大きく変化し続けているから、この間において、スマートデバイス10の姿勢が変化し続けており、したがって、スマートデバイス10は、設置表面に対して、相対移動している状態であると考えられる。
このように、スマートデバイス10の姿勢が変われば、これに伴って磁束密度の値も変化するため、磁束密度の時刻歴波形を基に、スマートデバイス10が、地震により、設置表面上に静止した状態から、設置表面に対して相対的に移動したか否かを判定し、移動したと判定した場合には、移動した時間区間である移動区間を特定することが可能である。
【0028】
ここで、
図3の時刻T1より前の時間、及び時刻T2より後の時間に示されるように、地震が生じていない状態においても、磁気センサ12により計測される磁束密度の値は、僅かに変化している。このため、地震の前後で、磁束密度の値を単純に比較することで、スマートデバイス10が移動したか否かを判定するのは好ましくない。本実施形態においては、地震が生じる前と、地震が生じた後において、磁束密度の平均値を計算し、この平均値の変化を比較する。
具体的には、磁束密度の時刻歴波形の、第1方向Xの成分に対し、地震が生じる前の磁束密度の平均値をB
norm、地震が生じた後の磁束密度の平均値をB
endとしたときに、移動判定部24は、磁束密度の平均値の地震の前後における変化量ΔBを、次式(1)により計算する。
【数1】
【0029】
移動判定部24は、磁束密度の時刻歴波形の、第2方向Yに対しても、上式(1)により、磁束密度の平均値の地震の前後における変化量ΔBを計算する。
そして、移動判定部24は、第1方向Xと第2方向Yの変化量ΔBを、それぞれ、移動判定閾値と比較する。移動判定部24は、第1方向Xと第2方向Yの少なくともいずれか一方において、変化量ΔBが移動判定閾値以上である場合に、スマートデバイス10が水平方向に移動したと判定する。
また、移動判定部24は、磁束密度の時刻歴波形の、直交方向Zに対しても、上式(1)により、磁束密度の平均値の地震の前後における変化量ΔBを計算する。
そして、移動判定部24は、直交方向Zの変化量ΔBを、移動判定閾値と比較する。移動判定部24は、直交方向Zの変化量ΔBが移動判定閾値以上である場合に、スマートデバイス10が上下方向に移動したと判定する。
【0030】
このようにして、移動判定部24は、磁気センサ12による計測結果を基に、より詳細には磁気センサ12による計測結果である磁束密度の時刻歴波形において、磁束密度の平均値の地震の前後における変化量が移動判定閾値以上である場合に、スマートデバイスが移動したと判定する。
移動判定部24は、磁気センサ12による、第1方向X及び第2方向Yの各々における成分の計測結果を基に、スマートデバイス10が水平方向に移動したか否かを判定する。
移動判定部24は、磁気センサ12による、直交方向Zにおける成分の計測結果を基に、スマートデバイス10が上下方向に移動したか否かを判定する。
【0031】
次に、移動判定部24は、スマートデバイス10が移動したか否かを判定した結果、移動したと判定した場合には、移動した時間区間である移動区間を特定する。
図3に示したように、スマートデバイス10が移動している間においては、磁束密度の値は大きく変化し、ばらついている。このため、本実施形態においては、この、磁束密度の値のばらつき具合を、標準偏差を計算することで観測し、標準偏差を基に、移動区間を特定する。
図4は、地震が生じた際に、スマートデバイスの磁気センサによって計測された磁束密度の標準偏差の、時間の経過に伴う変化の例を示す説明図である。
図4においては、
図3に示した磁束密度の時刻歴波形の下に、磁束密度の標準偏差をグラフとして描いたものとなっている。
【0032】
移動判定部24は、スマートデバイス10が水平方向に移動したと判定した場合には、磁束密度の時刻歴波形において、時刻を進めつつ当該時刻を基点として所定の時間間隔内における標準偏差を計算する。
本実施形態においては、移動判定部24は、磁束密度の時刻歴波形の、第1方向Xの成分に対し、各時刻において、当該時刻tを基点として当該時刻tから所定の時間間隔W
Bだけ前の間の、より厳密には、当該時刻tより所定の時間間隔W
Bだけ前の時刻t-W
Bから、当該時刻tまでの、所定の時間間隔W
B内における磁束密度のデータに対して、次式(2)により、標準偏差σB
tを計算する。
【数2】
上式(2)において、NWは所定の時間間隔W
B内に含まれる磁束密度のデータ数、B
iは時刻iにおける磁束密度の値を示す。B
tは、時刻tより所定の時間間隔W
Bだけ前の時刻t-W
Bから当該時刻tまでの、所定の時間間隔W
B内における磁束密度のデータにおける、磁束密度の平均値であり、次式(3)で表される。
【数3】
【0033】
移動判定部24は、磁束密度の時刻歴波形の、第1方向Xの成分に対し、各時刻において、上式(2)により磁束密度の標準偏差σBtを計算し、これを移動区間判定閾値τσBと比較する。移動判定部24は、標準偏差σBtが移動区間判定閾値τσB以上となった時刻を第1時刻Tσs
n、標準偏差σBtが移動区間判定閾値より小さくなった時刻を第2時刻Tσe
nとして、それぞれ設定する。一度の地震により、スマートデバイス10は移動と停止を繰り返すことがある。この場合においては、上記のように標準偏差σBtを移動区間判定閾値τσBと比較した結果、複数の区間が抽出されることがある。第1時刻Tσs
n、第2時刻Tσe
nにおいて、添え字nは、この複数の区間に設けられる通し番号である。例えば、地震が生じた際に、スマートデバイス10が初めて移動した移動区間に関しては、これらの時刻は第1時刻Tσs
1、第2時刻Tσe
1として表される。また、スマートデバイス10が2回目に移動した移動区間に関しては、これらの時刻は第1時刻Tσs
2、第2時刻Tσe
2として表される。
【0034】
磁束密度の時刻歴波形において、時刻を進めつつ当該時刻を基点として所定の時間間隔内における標準偏差を計算するに際し、標準偏差が移動区間判定閾値τ
σBより小さい状態が続いた後に、ある時刻において標準偏差が移動区間判定閾値τ
σB以上となった場合は、これまで所定の時間間隔W
Bの全域が、時刻歴波形の、磁束密度のばらつきが小さい領域にあった状態から、時刻が進み、当該時刻を基点とした所定の時間間隔W
Bのなかでも、当該時間間隔W
Bの終了時刻に近い、最も時刻が進んでいる部分が、時刻歴波形の、磁束密度のばらつきが大きくなり始めた領域にさしかかったことで、標準偏差が大きくなり始めた場合であると考えられる。このため、当該時刻を基点とした時間間隔W
Bの終了時刻を特定することで、移動区間の開始時刻を正確に特定することができる。
本実施形態においては、時間間隔W
Bは、時刻tを基点として当該時刻tから前の間として設定されているため、時間間隔W
Bの終了時刻は、基点となる時刻tに一致している。ここで、標準偏差σB
tが移動区間判定閾値τ
σB以上となった時刻は第1時刻T
σs
nであるから、この場合においては、移動区間の開始時刻となる時間間隔W
Bの終了時刻は、第1時刻T
σs
nに一致する。したがって、移動判定部24は、上記のように計算された第1時刻T
σs
nを、第1方向Xにおける移動区間の開始時刻T
Bs
nとして、次式(4)のように設定する。
【数4】
【0035】
また、標準偏差が、いったん移動区間判定閾値τ
σB以上となった後に、ある時刻において移動区間判定閾値τ
σB以下となった場合は、これまで所定の時間間隔W
Bの全域が、時刻歴波形の、磁束密度のばらつきが大きい領域にあった状態から、時刻が進み、当該時刻を基点とした所定の時間間隔W
Bのなかでも、当該時間間隔W
Bの開始時刻に近い、最も時刻が遅れている部分を含む、時間間隔W
Bの全体が、時刻歴波形の、磁束密度のばらつきが小さくなった領域へと到達したことで、標準偏差が小さくなった場合であると考えられる。このため、当該時刻を基点とした時間間隔W
Bの開始時刻を特定することで、移動区間の終了時刻を正確に特定することができる。
本実施形態においては、時間間隔W
Bは、時刻tを基点として当該時刻tから前の間として設定されているため、時間間隔W
Bの開始時刻は、基点となる時刻tから、所定の時間間隔W
Bだけ前の時刻となる。ここで、標準偏差σB
tが移動区間判定閾値τ
σBより小さくなった時刻は第2時刻T
σe
nであるから、この場合においては、移動区間の終了時刻となる時間間隔W
Bの開始時刻は、第2時刻T
σe
nから、所定の時間間隔W
Bだけ前の時刻となる。したがって、移動判定部24は、第2時刻T
σe
1より所定の時間間隔W
Bだけ前の時刻T
σe
n-W
Bを、第1方向Xにおける移動区間の終了時刻T
Be
nとして、次式(5)のように設定する。
【数5】
【0036】
上記においては、ある時刻に対して、当該時刻を基点とした所定の時間間隔を、当該時刻tから所定の時間間隔WBだけ前の(過去の)間の時間間隔として設定したが、当該時刻tから所定の時間間隔WBだけ後の(将来の)間の時間間隔として設定してもよい。
この場合においては、第1方向Xにおける移動区間の開始時刻TBs
nは、第1時刻Tσs
nに対して所定の時間間隔WBを加算した時刻となる。
また、この場合においては、第1方向Xにおける移動区間の終了時刻TBe
nは、第2時刻Tσe
1に一致する時刻となる。
【0037】
スマートデバイス10が水平方向に移動したと判定した場合には、移動判定部24は、磁束密度の時刻歴波形の、第2方向Yに対しても、上記のようにして、第2方向Yの開始時刻と終了時刻を計算する。
そして、移動判定部24は、第1方向Xと第2方向Yの各々の、開始時刻と終了時刻の間の時間区間で重複する区間を、水平方向における移動区間である水平移動区間として特定する。
また、スマートデバイス10が上下方向に移動したと判定した場合には、移動判定部24は、磁束密度の時刻歴波形の、直交方向Zに対しても、上記のようにして、直交方向Zの開始時刻と終了時刻を計算する。
そして、移動判定部24は、直交方向Zの、開始時刻と終了時刻の間の時間区間を、上下方向における移動区間である上下移動区間として特定する。
【0038】
このようにして、移動判定部24は、スマートデバイス10が移動したと判定した場合には、磁束密度の時刻歴波形において、時刻を進めつつ当該時刻を基点として所定の時間間隔WB内における標準偏差σBtを計算し、標準偏差σBtが移動区間判定閾値τσB以上となった場合に、当該時刻を基点とした時間間隔WBの終了時刻Tσs
nを、移動区間の開始時刻TBs
nとして設定し、標準偏差σBtが移動区間判定閾値τσBより小さくなった場合に、当該時刻を基点とした時間間隔WBの開始時刻Tσe
n-WBを、移動区間の終了時刻TBe
nとして設定する。
また、移動判定部24は、スマートデバイス10が水平方向に移動したと判定した場合には、水平方向における移動区間である水平移動区間を特定する。
更に、移動判定部24は、スマートデバイス10が上下方向に移動したと判定した場合には、上下方向における移動区間である上下移動区間を特定する。
【0039】
加速度波形補正部25は、移動判定部24によってスマートデバイス10が移動したと判定された場合に、スマートデバイス10がどのような態様で移動したのかを判定する。
地震が生じた際の、設置表面上に載置されたスマートデバイス10の挙動としては、静止状態、滑動状態、バウンド状態、及び落下状態の、概ね4種類の状態となることが考えられる。
静止状態は、地震により作用する力よりもスマートデバイス10と設置表面の間の摩擦力が勝り、スマートデバイス10が設置表面に対して静止して設置表面に追従して振動し、設置表面に対して相対移動していない状態である。
滑動状態は、地震により水平方向に、スマートデバイス10と設置表面との間の静止摩擦力よりも大きい力がスマートデバイス10に作用して、スマートデバイス10が設置表面に対して滑動することで、設置表面に対して相対移動している状態である。
バウンド状態は、設置表面から上下方向に重力加速度以上の力が作用することで生じる、スマートデバイス10が上下に細かく弾んでいる状態である。この場合には、スマートデバイス10は、水平方向にも移動することが多い。
落下状態は、設置表面から下方へと落下し、落下後に下方の床面上等で大きく転がっている状態である。
【0040】
上記のような状態のうち、静止状態においてはスマートデバイス10の姿勢は変化せず、滑動状態、バウンド状態、及び落下状態においてはスマートデバイス10の姿勢が変化するため、移動判定部24におけるスマートデバイス10の移動判定により、スマートデバイス10が静止状態にあるのか、滑動状態、バウンド状態、及び落下状態にあるのかが、判定される。
加速度波形補正部25は、スマートデバイス10が、滑動状態、バウンド状態、及び落下状態のいずれにあるのかに応じて、加速度センサ11によって観測された加速度波形を補正、調整する。
【0041】
加速度波形補正部25はまず、移動判定部24によって、スマートデバイス10が水平方向に移動したと判定され、水平移動区間が特定された場合に、水平移動区間において、加速度センサ11で観測された加速度波形の、第1方向Xと第2方向Yの各々における成分を補正する。
図5は、地震が生じ、スマートデバイスが滑動状態またはバウンド状態にある場合の、加速度波形と、これに対して補正を行った補正波形の例を示す説明図である。
移動判定部24によってスマートデバイス10が水平方向に移動したと判定され、水平移動区間が特定された場合においては、水平移動区間では、スマートデバイス10が特に、滑動状態か、バウンド状態にある可能性が高いと考えられる。
滑動状態においては、スマートデバイス10には、水平方向には、静止摩擦力以上の力が作用することはない。このため、
図5に示されるように、加速度波形の、第1方向Xと第2方向Yの各々における成分W1においては、実際の加速度波形WRは観測されず、振幅が一定となって、頭打ちする部分WPが生じ、この部分において、加速度データが欠損する。
バウンド状態においても同様に、加速度波形の、第1方向Xと第2方向Yの各々における成分W1においては、頭打ちする部分WPが生じることがある。
【0042】
そこで、加速度波形補正部25は、このような場合に、加速度波形の、第1方向Xと第2方向Yの各々における成分W1の、振幅が一定となる部分WPを、正弦波による曲線あてはめ処理によって補完して、第1方向X及び第2方向Yの各々における補正加速度波形WCを生成する。
まず、加速度波形補正部25は、頭打ちの目安となる加速度A
satを計算する。加速度波形補正部25は、頭打ちの目安となる加速度A
satを、例えば静止摩擦係数と重力加速度を乗算することで計算する。
スマートデバイス10が滑動状態にあるときは、振幅が一定となり頭打ちする場合の振幅は、上記のように計算された加速度A
satに近い値となる。これに対し、スマートデバイス10がバウンド状態にあるときは、スマートデバイス10が上下に弾む挙動をして設置表面と衝突する際の衝撃が、加速度波形の直交方向Zの成分のみならず、第1方向Xと第2方向Yの成分にも現れ得る。このため、加速度波形に表れる頭打ち加速度A
satが不明りょうな状態となり、なおかつ頭打ち加速度A
sat以上の値が加速度波形に多く記録される状態となる。したがって、加速度波形の第1方向Xと第2方向Yの成分に、頭打ち加速度A
sat以上の値が観測された場合には、本実施形態においては、これはバウンド状態において記録された可能性があるから信頼できないものであるとして、頭打ち加速度A
sat以上の値を、一定の加速度A
satで頭打ちしていると見做したうえで、波形を補正する。
加速度波形補正部25は、
図5に点Pとして示されるように、加速度が頭打ちしている部分の前後2ずつの加速度データを用いて、正弦波による曲線あてはめ処理(カーブフィッティング)によって補完して、補正加速度波形WCを生成する。カーブフィッティングには、例えば、非線形最小二乗法を用いることができる。
【0043】
このようにして、加速度波形補正部25は、加速度センサ11で観測された加速度波形の、第1方向Xと第2方向Yの各々における成分W1の各々に対し、移動判定部24によって特定された水平移動区間における部分を補正し、第1方向Xと第2方向Yの各々における成分W1の補正された波形と、加速度センサ11で観測された加速度波形の直交方向Zの成分をあわせて、補正加速度波形とする。
加速度センサ11で観測された加速度波形の、第1方向Xと第2方向Yの各々における成分W1の各々が補正されなかった場合においては、本実施形態においては、以降の説明を簡単にするために、加速度センサ11で観測された加速度波形の、第1方向X、第2方向Y、及び直交方向Zの成分をあわせて、補正加速度波形と記載する。
なお、スマートデバイス10がバウンド状態と落下状態にある場合には、加速度センサ11で観測された加速度波形の直交方向Zの成分としては、何らかの加速度が観測された状態となっている。この場合において、この加速度の値は、後に震度階級推定部26において震度階級を推定する際に、推定精度を低減させ得る要因となる。このような、バウンド状態と落下状態における、直交方向Zの成分の調整については、後に説明する。
【0044】
次に、加速度波形補正部25は、震度を計算するための前準備として、補正加速度波形の、第1方向X、第2方向Y、及び直交方向Zの各成分を、フーリエ変換する。
加速度波形補正部25は、地震波の周期による影響を補正するための、フィルターを適用する。フィルターとしては、例えばローカットフィルター、ハイカットフィルター、周期の効果を表すフィルターの、3種類が適用され得る。
ローカットフィルターは、例えば次式(6)で表される。
【数6】
ハイカットフィルターは、例えば次式(7)で表される。
【数7】
上式において、yは、周期fに1/10を乗じた値である。
周期の効果を表すフィルターは、例えば次式(8)で表される。
【数8】
加速度波形補正部25は、上記のフィルターを適用した結果に対して、逆フーリエ変換を適用し、時刻歴の波形を生成する。
【0045】
次に、加速度波形補正部25は、移動判定部24によってスマートデバイス10が上下方向に移動したと判定されて、上下移動区間が特定された場合に、上下移動区間内の、スマートデバイス10がバウンド状態にあった区間と、落下状態にあった区間とを、それぞれ特定する。
既に説明したように、バウンド状態においては、スマートデバイス10は上下に細かく弾むことで、空中に浮き、自由落下により設置表面に衝突するような挙動を示している。空中においては、重力加速度以外には、スマートデバイス10には下方向への力が作用しない。このため、直交方向Zにおける加速度波形においては、下方向は1G程度で頭打ちし、上方向は頭打ちしない傾向がある。
また、落下状態においては、スマートデバイス10は設置表面から下方へと落下し、落下後に下方の床面上等で大きく転がるため、加速度波形の、第1方向X、第2方向Y、及び直交方向Zのどの成分においても、大きな加速度が記録される傾向がある。
【0046】
このため、本実施形態においては、上記のようにして補正加速度波形に対してフーリエ変換、フィルター、逆フーリエ変換を適用した、補正加速度波形を基にした波形の、各時刻において、第1方向、第2方向、及び直交方向の各々における成分を、ベクトル的に合成して成分合成加速度を計算し、これを基に、上下移動区間の各時刻が、バウンド状態に相当するか、落下状態に相当するかを判定する。
図6は、成分合成加速度を基にしたバウンド区間と落下区間の判別を示す説明図である。
図6においては、上記のようにして計算された成分合成加速度が、時刻歴のグラフとして示されている。この波形のなかで、移動判定部24によって上下移動区間として特定された区間が、区間UDAと記載されている。成分合成加速度が0ではない値となっているにもかかわらず、上下移動区間UDAとされていない区間SAにおいては、スマートデバイス10は、上下方向には移動しておらず、滑動状態にある。
加速度波形補正部25は、このように、移動判定部24によってスマートデバイス10が移動した移動区間として特定された区間のなかで、上下移動区間UDAには含まれない区間においては、スマートデバイス10は滑動状態にあると判断する。このような区間SAにおいては、後に説明する震度階級推定部26は、補正加速度波形を基にした波形に対して既に計算された成分合成加速度を基に、震度階級を推定する。
【0047】
本実施形態においては、加速度波形補正部25は、成分合成加速度の大きさを基に、上下移動区間UDAの各時刻が、バウンド状態であるか、落下状態であるかを判断する。上記のように、落下状態においては、大きな加速度が記録される傾向がある。このため、加速度波形補正部25は、上下移動区間UDA内の各時刻に対し、当該時刻の成分合成加速度が落下判定閾値より小さければ、当該時刻においてはスマートデバイス10がバウンド状態にあると見做す。また、加速度波形補正部25は、上下移動区間UDA内の各時刻に対し、当該時刻の成分合成加速度が落下判定閾値以上であれば、当該時刻においてはスマートデバイス10が落下状態にあると見做す。
図6においては、スマートデバイス10がバウンド状態であると判断される区間は、区間BAとして記載されており、落下状態であると判断される区間は、区間FAとして記載されている。
【0048】
図7は、設置表面上に固定して設けられた地震計により観測された加速度波形を基にした成分合成加速度と、スマートデバイスの加速度センサにより観測された加速度波形を基にした成分合成加速度を比較した図である。
図7は、振動台実験の結果として取得されたものである。
図7においては、成分合成加速度が2Gより小さい場合において、スマートデバイス10の加速度センサ11により観測された加速度波形の成分合成加速度は、設置表面上に固定して設けられた地震計により観測された加速度波形の成分合成加速度と、近い値を示している。他方、成分合成加速度が2Gより大きい場合において、スマートデバイス10の加速度センサ11により観測された加速度波形の成分合成加速度は、設置表面上に固定して設けられた地震計により観測された加速度波形の成分合成加速度の値から、大きく乖離している。ここで、スマートデバイス10がバウンド状態にある場合には、落下状態にある場合よりも、設置表面上に固定して設けられた地震計と同じような、スマートデバイス10が設置表面上に載置されている状態に近い挙動を示すと考えられる。このため、スマートデバイス10が設置表面上に載置されている状態に近い挙動を示している、成分合成加速度が2G以下の場合が、バウンド状態に相当すると考えられる。
このような理由により、本実施形態においては、落下判定閾値としては、2Gの値を用いている。
【0049】
上記のように、加速度波形補正部25は、上下移動区間内の時刻で、成分合成加速度が落下判定閾値より小さければ、当該時刻においてはスマートデバイス10がバウンド状態にあると見做す。この場合においては、加速度波形の第1方向Xと第2方向Yの成分に対し、既に説明したように正弦波による曲線あてはめ処理が適用されて、適切に補正加速度波形が生成されている。しかし、バウンド状態においては、スマートデバイス10が上下に弾む挙動をして設置表面と衝突しているため、加速度波形の直交方向Zの成分には、この衝撃が、滑動状態には見られない程度の大きな加速度として反映され、結果として、補正加速度波形の直交方向Zの成分にも、大きな加速度が観測された状態となっている。このような、地震とは異なる要因が反映された加速度データは、後に震度階級推定部26において震度階級を推定する際に、推定精度を低減させ得る要因となる。
このため、本実施形態においては、
図8に示されるように、加速度波形補正部25は、スマートデバイス10がバウンド状態にあると見做した場合、当該時刻においては、補正加速度波形を基にした波形の、直交方向Zの成分における加速度の値を0として、当該時刻における成分合成加速度を再計算する。すなわち、バウンド状態における直交方向Zの加速度の成分値は無視して、スマートデバイス10がバウンド状態ではなく滑動状態にあるものと見做して、成分合成加速度を計算する。
【0050】
また、加速度波形補正部25は、上下移動区間内の時刻で、成分合成加速度が落下判定閾値以上であれば、当該時刻においてはスマートデバイス10が落下状態にあると見做す。落下状態のような、スマートデバイス10が長時間宙に浮いている状況では、地震による外力がスマートデバイス10に作用しない状態となっている。また、スマートデバイス10が落下後に、下方の床面上等で大きく転がるため、加速度波形の、第1方向X、第2方向Y、及び直交方向Zのどの成分においても、大きな加速度が記録される傾向があるが、このような加速度も、地震による外力が適切に観測されたものとは考えにくい。このような、地震とは異なる要因が反映された加速度データは、後に震度階級推定部26において震度階級を推定する際に、推定精度を低減させ得る要因となる。
このため、本実施形態においては、
図9に示されるように、加速度波形補正部25は、スマートデバイス10が落下状態にあると見做した場合、当該時刻においては、補正加速度波形を基にした波形の、第1方向X、第2方向Y、及び直交方向Zの各々の成分における加速度の値を0として、当該時刻における成分合成加速度を再計算する。落下状態においてはいずれの成分の加速度も参考にならないという考えのもと、成分合成加速度は0であるとして、震度階級を推定する際には、落下状態の加速度データは考慮の対象とならないようにする。
【0051】
震度階級推定部26は、補正加速度波形を基に、より正確には、補正加速度波形に対してフーリエ変換、フィルター、逆フーリエ変換を適用した、補正加速度波形を基にした波形を基に、震度階級を推定する。本実施形態においては、震度階級推定部26は、補正加速度波形を基にして上記のようにして計算された、各時刻における成分合成加速度を基に、震度階級を推定する。
具体的には、震度階級推定部26は、上記のように計算された成分合成加速度に対し、成分合成加速度の絶対値がある値a以上となるような時間の合計を計算したとき、これがちょうど0.3秒となるような、値aを計算する。
そして、震度階級推定部26は、上記のようにして計算した値aを、次式(9)に代入して、得られた値の小数第3位を四捨五入し、小数第2位を切り捨てて、計測震度Iを計算する。
I=2log(a)+0.94 …(9)
【0052】
震度階級推定部26は、更に、計測震度を基に、震度階級を計算する。震度階級推定部26は、計測震度が0.5未満の場合に震度階級を0とし、計測震度が0.5以上1.5未満の場合に震度階級を1とし、計測震度が1.5以上2.5未満の場合に震度階級を2とし、計測震度が2.5以上3.5未満の場合に震度階級を3とし、計測震度が3.5以上4.5未満の場合に震度階級を4とし、計測震度が4.5以上5.5未満の場合に震度階級を5とし、計測震度が5.5以上6.5未満の場合に震度階級を6とし、計測震度が6.5以上の場合に震度階級を7とする。
震度階級推定部26は、図示されない、ディスプレイ等の出力部に、推定した震度階級を表示する。
【0053】
次に、
図1~
図9、及び
図10を用いて、上記の震度推定システム1を用いた震度推定方法を説明する。
図10は、震度推定方法のフローチャートである。
例えば地震が生じた際に、ユーザが、図示されない入力装置を用いて、震度階級を推定する地点を入力する(ステップS1)。
スマートデバイス検索部22は、記憶部27に記憶された情報から、地震発生時に、地点入力部21によって入力された地点に、最も近く位置していたスマートデバイス10を検索する(ステップS2)。
通信部23は、スマートデバイス検索部22によって検索されたスマートデバイス10の送信部14と通信して、スマートデバイス10の記憶部13に記憶された、地震が発生した際の、加速度波形と磁束密度の波形を取得し、記憶部27に記憶する(ステップS3)。
【0054】
移動判定部24は、磁気センサ12による計測結果を基に、より詳細には磁気センサ12による計測結果である磁束密度の時刻歴波形において、磁束密度の平均値の地震の前後における変化量が移動判定閾値以上である場合に、スマートデバイスが移動したと判定する(ステップS4)。
移動判定部24は、スマートデバイス10が水平方向に移動したと判定した場合には、水平方向における移動区間である水平移動区間を特定する。
移動判定部24は、スマートデバイス10が上下方向に移動したと判定した場合には、上下方向における移動区間である上下移動区間を特定する。
【0055】
加速度波形補正部25は、移動判定部24によって、スマートデバイス10が水平方向に移動したと判定されたか否かを判断する(ステップS5)。
加速度波形補正部25は、水平方向に移動したと判定されたと判断され、水平移動区間が特定された場合に(ステップS5のYes)、水平移動区間において、加速度センサ11で観測された加速度波形の、第1方向Xと第2方向Yの各々における成分を補正する(ステップS6)。処理は、その後、ステップS7に遷移する。
加速度波形補正部25は、水平方向に移動したと判定されない場合には(ステップS5のNo)、ステップS7に遷移する。
【0056】
加速度波形補正部25は、補正加速度波形の、第1方向X、第2方向Y、及び直交方向Zの各成分を、フーリエ変換する。加速度波形補正部25は、地震波の周期による影響を補正するための、フィルターを適用する。加速度波形補正部25は、上記のフィルターを適用した結果に対して、逆フーリエ変換を適用し、補正加速度波形を基にした波形を生成する(ステップS7)。
そして、加速度波形補正部25は、移動判定部24によって、スマートデバイス10が上下方向に移動したと判定されたか否かを判断する(ステップS8)。
加速度波形補正部25は、上下方向に移動したと判定されたと判断され、上下移動区間が特定された場合に(ステップS8のYes)、各時刻に対し、成分合成加速度が落下判定閾値以上か否かを判定する(ステップS9)。
成分合成加速度が落下判定閾値以上であれば(ステップS9のYes)、当該時刻においてはスマートデバイス10が落下状態にあると見做し、加速度波形補正部25は、補正加速度波形を基にした波形の、第1方向X、第2方向Y、及び直交方向Zの各々の成分における加速度の値を0として、当該時刻における成分合成加速度を再計算する(ステップS10)。処理は、その後、ステップS12に遷移する。
成分合成加速度が落下判定閾値より小さければ(ステップS9のNo)、当該時刻においてはスマートデバイス10がバウンド状態にあると見做し、加速度波形補正部25は、補正加速度波形を基にした波形の、直交方向Zの成分における加速度の値を0として、当該時刻における成分合成加速度を再計算する(ステップS11)。処理は、その後、ステップS12に遷移する。
加速度波形補正部25は、上下方向に移動したと判定されていないと判断された場合には(ステップS8のNo)、ステップS12に遷移する。
【0057】
震度階級推定部26は、上記のように計算された成分合成加速度に対し、値aを計算して、計測震度を計算する(ステップS12)。
震度階級推定部26は、計測震度を基に、震度階級を計算する(ステップS13)。
震度階級推定部26は、図示されない、ディスプレイ等の出力部に、推定した震度階級を表示する。
【0058】
次に、上記の震度推定システム1の効果について説明する。
上記のような震度推定システム1は、加速度センサ11及び磁気センサ12が内蔵されたスマートデバイス10を用いた震度推定システム1であって、磁気センサ12による計測結果を基に、スマートデバイス10が地震により静止した状態から移動したか否かを判定し、移動したと判定した場合には、移動した時間区間である移動区間を特定する、移動判定部24と、スマートデバイス10が移動したと判定された場合に、加速度センサ11で観測された加速度波形の、移動区間における部分を補正し、補正加速度波形を生成する、加速度波形補正部25と、補正加速度波形を基に震度階級を推定する、震度階級推定部26と、を備える。
机上等に載置されて静止していたスマートデバイス10は、地震時において、スマートデバイス10と、スマートデバイス10が設置された設置表面との間の静止摩擦力を越える力がスマートデバイス10に作用する程度に地震が大きければ、設置表面に対して滑動することがある。あるいは、スマートデバイス10は、設置表面に対して上下に細かく弾むようにバウンドしたり、設置表面上を滑動した後に、設置表面から下方に落下したりすることがある。このように、スマートデバイス10が地震により静止した状態から移動する際には、少なからず、スマートデバイス10が置かれた方向すなわち姿勢の変化を伴う。
このような挙動をスマートデバイス10が示す際には、スマートデバイス10の挙動は設置表面の挙動に追従したものとはなっていないため、スマートデバイス10に設けられた加速度センサによって観測された加速度波形は、地震を正常に観測したものとはなっていない。
ここで、上記のような構成においては、スマートデバイス10に設けられた磁気センサ12による計測結果を使用する。スマートデバイス10が地震により静止した状態から移動して姿勢が変化すれば、その挙動は、磁気センサ12による計測結果に反映される。このため、スマートデバイス10に設けられた磁気センサ12による計測結果を用いて、スマートデバイス10が移動したか否かを判定し、スマートデバイス10が移動した時間区間である移動区間を特定することができる。
このようにして特定された移動区間は、スマートデバイス10の挙動が設置表面の挙動に追従していない区間であり、換言すれば、加速度センサ11によって、地震が正常に観測されなかった時間区間である。上記のような構成においては、加速度の、移動区間における部分を補正して、補正加速度波形を生成し、これを基に震度階級を推定する。このように、地震が正常に観測されなかった時間区間の加速度波形が適切に補正されるため、スマートデバイス10が設けられた位置における震度階級を、より正確に、推定することができる。
スマートデバイス10は、多くの人間に所有されている。このため、震度の推定が求められる地点もしくはその近傍に、スマートデバイス10を所有している人間が位置している可能性は極めて高い。したがって、何らかの地点が指定されたときに、当該地点に位置するスマートデバイス10による計測結果を使用することで、任意の地点における震度を、精度よく推定することができる、震度推定システム1を提供することが可能となる。
【0059】
特に、上記のような震度推定システム1においては、スマートデバイス10により観測された加速度波形を補正するに際し、固定地震計等の、他の地震計による観測結果を必要としない。したがって、震度推定システム1を実現するに際し、構成が簡潔なものとなるため、コストを低減することが可能である。
【0060】
また、移動判定部24は、磁気センサ12による計測結果である磁束密度の時刻歴波形において、磁束密度の平均値の地震の前後における変化量が移動判定閾値以上である場合に、スマートデバイス10が移動したと判定し、スマートデバイス10が移動したと判定した場合には、磁束密度の時刻歴波形において、時刻を進めつつ当該時刻を基点として所定の時間間隔内における標準偏差を計算し、標準偏差が移動区間判定閾値以上となった場合に、当該時刻を基点とした時間間隔の終了時刻を、移動区間の開始時刻として設定し、標準偏差が移動区間判定閾値より小さくなった場合に、当該時刻を基点とした時間間隔の開始時刻を、移動区間の終了時刻として設定する。
上記のような構成によれば、磁気センサ12による計測結果である磁束密度の時刻歴波形において、磁束密度の平均値の地震の前後における変化量を計算する。この変化量が大きければ、地震の前後でスマートデバイス10の姿勢が大きく変わったことを意味する。したがって、磁束密度の平均値の地震の前後における変化量を移動判定閾値と比較し、変化量が移動判定閾値以上の場合にスマートデバイス10が移動したと判定することで、スマートデバイス10が移動したか否かを適切に判定することができる。
スマートデバイス10が移動したと判定された場合には、移動区間を更に特定する。スマートデバイス10が移動している間においては、磁束密度の値が大きくばらつくため、磁束密度の時刻歴波形において、所定の時間間隔内における標準偏差を計算し、これを閾値と比較することで、移動区間を正確に特定することができる。
より詳細には、磁束密度の時刻歴波形において、時刻を進めつつ当該時刻を基点として所定の時間間隔内における標準偏差を計算する。標準偏差が移動区間判定閾値より小さい状態が続いた後に、ある時刻において標準偏差が移動区間判定閾値以上となった場合は、これまで所定の時間間隔の全域が、時刻歴波形の、磁束密度のばらつきが小さい領域にあった状態から、時刻が進み、当該時刻を基点とした所定の時間間隔のなかでも、当該時間間隔の終了時刻に近い、最も時刻が進んでいる部分が、時刻歴波形の、磁束密度のばらつきが大きくなり始めた領域にさしかかったことで、標準偏差が大きくなり始めた場合であると考えられる。このため、当該時刻を基点とした時間間隔の終了時刻を特定することで、移動区間の開始時刻を正確に特定することができる。
また、標準偏差が、いったん移動区間判定閾値以上となった後に、ある時刻において移動区間判定閾値以下となった場合は、これまで所定の時間間隔の全域が、時刻歴波形の、磁束密度のばらつきが大きい領域にあった状態から、時刻が進み、当該時刻を基点とした所定の時間間隔のなかでも、当該時間間隔の開始時刻に近い、最も時刻が遅れている部分を含む、時間間隔の全体が、時刻歴波形の、磁束密度のばらつきが小さくなった領域へと到達したことで、標準偏差が小さくなった場合であると考えられる。このため、当該時刻を基点とした時間間隔の開始時刻を特定することで、移動区間の終了時刻を正確に特定することができる。
このようにして、スマートデバイス10が移動したか否かの判定と、加速度センサ11で観測された加速度波形の補正対象となる移動区間の計算を、適切に行うことができるため、加速度波形が適切に補正され、結果として、震度の計算精度を高めることができる。
【0061】
また、移動判定部24は、磁気センサ12による、スマートデバイス10の画面10aと平行な面内で互いに直交する第1方向X及び第2方向Yの各々における成分の計測結果を基に、スマートデバイス10が水平方向に移動したか否かを判定し、水平方向に移動したと判定した場合には、水平方向における移動区間である水平移動区間を特定し、磁気センサ12による、画面10aに直交する直交方向Zにおける成分の計測結果を基に、スマートデバイス10が上下方向に移動したか否かを判定し、上下方向に移動したと判定した場合には、上下方向における移動区間である上下移動区間を特定する。
地震が生じて、設置表面上に載置されたスマートデバイス10が、設置表面上を滑動した場合には、スマートデバイス10の姿勢が、多少なりとも変化する。このため、磁気センサ12による、スマートデバイス10の画面10aと平行な面内で互いに直交する第1方向X及び第2方向Yの各々における成分の計測結果に、変化が現れる。上記のような構成においては、磁気センサ12による第1方向X及び第2方向Yの各々における成分の計測結果を基に、スマートデバイス10が水平方向に移動したか否かを判定するため、判定を適切に行うことができる。
また、地震が生じて、設置表面上に載置されたスマートデバイス10が、表面上で上下に細かく弾んだり、表面から落下したりした場合には、磁気センサ12による、画面10aに直交する直交方向Zにおける成分の計測結果に、変化が現れる。上記のような構成においては、磁気センサ12による直交方向Zにおける成分の計測結果を基に、スマートデバイス10が上下方向に移動したか否かを判定するため、判定を適切に行うことができる。
【0062】
また、加速度波形補正部25は、スマートデバイス10が水平方向に移動したと判定された場合に、水平移動区間において、加速度波形の、第1方向X及び第2方向Yの各々における成分の、振幅が一定となる部分を、正弦波による曲線あてはめ処理によって補完して、第1方向X及び第2方向Yにおける補正加速度波形を生成し、加速度波形補正部25は、補正加速度波形を基にした波形の、各時刻において、第1方向X、第2方向Y、及び直交方向Zの各々における成分を合成して成分合成加速度を計算し、当該時刻が上下移動区間内であり、成分合成加速度が落下判定閾値以上であれば、当該時刻においてはスマートデバイス10が落下状態にあると見做して、補正加速度波形を基にした波形の、第1方向X、第2方向Y、及び直交方向Zの各々における成分を0として、成分合成加速度を再度計算し、当該時刻が上下移動区間内であり、成分合成加速度が落下判定閾値より小さければ、当該時刻においてはスマートデバイス10が上下に細かく弾んでいる状態にあると見做して、補正加速度波形を基にした波形の直交方向Zにおける成分を0として、成分合成加速度を再計算し、震度階級推定部26は、成分合成加速度を基に、震度階級を推定する。
スマートデバイス10が設置表面上に載置された状態で地震が生じた際に、地震力がスマートデバイス10と設置表面との間の最大静止摩擦力を越えて、スマートデバイス10が設置表面上で滑動したり、上下方向に細かく弾みつつ表面上を水平方向に移動したりする場合においては、加速度波形は、第1方向X及び第2方向Yの各々における成分に、振幅が一定となるような部分を有する傾向を示すことが多い。このような場合に、上記のような構成においては、加速度波形の第1方向X及び第2方向Yの各々における成分の、水平移動区間内で振幅が一定となる部分を、正弦波による曲線あてはめ処理によって補完して、第1方向X及び第2方向Yにおける補正加速度波形を生成する。したがって、第1方向X及び第2方向Yにおける補正加速度波形を、適切に、生成することができる。
また、上下移動区間においては、スマートデバイス10は、設置表面上で上下に細かく弾んでいるバウンド状態か、設置表面から落下している落下状態の、いずれかの状態にある。ここで、バウンド状態と落下状態では、スマートデバイス10に作用する加速度の大きさが異なる。そこで、上記のような構成においては、補正加速度波形を基にした波形に対し、各時刻において、第1方向X、第2方向Y、及び直交方向Zの各々における成分を合成して成分合成加速度を計算し、成分合成加速度を落下判定閾値と比較することで、上下移動区間の各時刻において、スマートデバイス10がバウンド状態にあるのか落下状態にあるのかを、判定する。
スマートデバイス10がバウンド状態にある場合には、スマートデバイス10は、空中に浮いた後に落下し、表面に対して軽く衝突している。このため、加速度波形は、直交方向Zにおいては、固定された地震計では観測されないような、過大な加速度が観測されている。このような加速度波形を基に震度階級を推定すると、実際よりも大きな震度階級が推定される可能性がある。そこで、上記のような構成においては、バウンド状態であると判定された時刻では、第1方向X及び第2方向Yにおいては上記のように正弦波による曲線あてはめ処理によって補正した状態としたうえで、直交方向Zにおいては成分を0とするように調整して成分合成加速度を再計算し、この成分合成加速度を基に震度階級を推定する。これにより、バウンド状態における、直交方向Zで観測された過大な加速度の、震度階級の推定への影響が低減される。
更に、スマートデバイス10が落下状態にある場合には、スマートデバイス10は、バウンド状態と同様に大きな加速度が観測される可能性がある。更には、スマートデバイス10は完全に宙に浮いている状態であるため、地震による外力が、スマートデバイス10に作用せず、地震に起因した波形が全く得られていしない状態となっている。このため、落下状態においては、第1方向X、第2方向Y、及び直交方向Zの全ての方向において、震度階級の推定に使用できるような、信頼できる加速度波形が得られているとは考えにくく、このような加速度波形を基に震度階級を推定すると、震度階級の推定精度が低減する。そこで、上記のような構成においては、落下状態では、第1方向X、第2方向Y、及び直交方向Zの全ての方向において、成分を0とするように調整して成分合成加速度を再計算し、この成分合成加速度を基に震度階級を推定する(すなわち、当該時刻において、成分合成加速度は0となる)。これにより、落下状態における、信頼できるとは考えられない加速度波形の、震度階級の推定への影響が低減される。
【0063】
また、震度階級を推定する対象となる地点の入力を受け付ける地点入力部と、地震発生時に地点入力部21により入力された地点に位置していたスマートデバイス10を検索する、スマートデバイス検索部22と、を更に備え、移動判定部24は、スマートデバイス検索部22により検索されたスマートデバイス10の磁気センサ12による計測結果を基に、スマートデバイス10が移動したか否かを判定し、加速度波形補正部25は、スマートデバイス検索部22により検索されたスマートデバイス10の加速度センサ11で観測された加速度波形の、移動区間における部分を補正する。
上記のような構成によれば、地震発生時に、地点入力部21により入力された地点に位置していたスマートデバイス10を検索し、このスマートデバイス10の磁気センサ12による計測結果と、加速度センサ11で観測された加速度波形を基に、処理が行われる。このため、任意の地点の震度階級を推定することができる。
【0064】
(実験例)
次に、上記のような震度推定システム1に対して実施した実験について説明する。机上にスマートフォンを載置した状態で3軸振動台実験を実施した。
机上には、机に対して地震計を固定し、この地震計によって得られる震度を真値とした。
実施例として、スマートフォンの加速度センサにより観測された記録を上記実施形態で説明したように補正して、震度を推定した。
観測された記録を補正する際には、各種の設定値を次のように設定した。
移動判定閾値:5μT
時間間隔WB:1s
移動区間判定閾値τσB:0.5
頭打ちの目安となる加速度Asat:100cm/s
また、比較例として、スマートフォンの加速度センサにより観測された記録をそのまま用いて、震度を推定した。
【0065】
図11に、実験結果を示す。
図11においては、同一の実験における、震度の真値と比較例の結果を比較した結果が、×印でプロットされており、同一の実験における、震度の真値と実施例の結果を比較した結果が、●印でプロットされている。実施例の方が、比較例に比べて、図中左下から右上へと延びる対角線Lの近くにプロットされている。これにより、補正を行うことで、震度がより精度よく推定できることが確認された。
【0066】
(実施形態の変形例)
上記の実施形態においては、震度推定システム1は、地震が生じた際にスマートデバイス10が設置表面上に載置されているか否かを判定し、設置表面上に載置されていると判定されると更に、スマートデバイス10が設置表面上から相対移動したか否かを判定して、移動したと判定した場合には、スマートデバイス10から取得した加速度波形を補正して、震度階級を推定した。しかし、加速度波形をどれだけ精度よく補正して補正加速度波形を生成したとしても、スマートデバイス10が当該地震時に設置表面上から相対移動しない場合に得られるはずの正しい加速度波形と完全に一致するような精度で、補正加速度波形を生成することは難しい。したがって、スマートデバイス10によって本来得られるはずの加速度波形と、補正加速度波形の間には、差異が生じざるを得ない。このため、スマートデバイス10が設けられた位置における震度階級の正しい値と、震度階級推定部26によって推定される震度階級と、の間に、誤差が生じる可能性がある。
図12は、本変形例に係る震度推定システムのブロック図である。
本変形例の震度推定システム1Aにおいては、震度推定装置20Aが震度階級信頼性評価部30を備えており、震度階級信頼性評価部30が、震度階級推定部26により推定された震度階級がどの程度信頼に値するものであるか、その信頼性を評価する。
【0067】
上記の評価を行うために、震度階級信頼性評価部30はまず、加速度センサ11で観測された加速度波形を基に、地震時にスマートデバイス10が水平に載置されているほど良好な結果となる、載置状況評価指標を評価する。
上記の実施形態の加速度波形補正部25は、スマートデバイス10が水平方向に移動したと判定された場合に、水平移動区間において、加速度波形の、第1方向X及び第2方向Yの各々における成分の、振幅が一定となる部分を、正弦波による曲線あてはめ処理によって補完して、第1方向X及び第2方向Yにおける補正加速度波形を生成している。換言すれば、加速度波形補正部25による加速度波形の補正処理は、スマートデバイス10が、例えば机の表面等の水平面を設置表面として、水平に載置されていることが前提となっている。このため、震度階級信頼性評価部30は、加速度センサ11で観測された加速度波形を基に、地震時にスマートデバイス10が水平に近い姿勢で載置されているほど良好な結果となり、水平から角度が付けられて姿勢づけられているほど悪い結果となるように、載置状況評価指標を評価する。
【0068】
具体的には、震度階級信頼性評価部30は、加速度センサ11で観測された加速度波形における、重力加速度(9.80665m/s
2)の各成分の寄与度を計算することで、スマートデバイス10がどの程度、水平に近い姿勢で載置されていたかを評価する。
このために、まず、震度階級信頼性評価部30は、観測された加速度波形の、地震波が到達する直前の一定の時間、例えば5秒間における、第1方向Xの平均加速度Gx、第2方向Yの平均加速度Gy、及び直交方向Zの平均加速度Gzを、それぞれ計算する。
次に、震度階級信頼性評価部30は、第1方向X、第2方向Y、及び直交方向Zの合成加速度における、直交方向Zの割合PZを、次式(10)により計算する。
【数9】
【0069】
スマートデバイス10が完全に水平な姿勢で載置されている場合には、計算上は、重力加速度の直交方向Zにおける寄与度は1(100%)となる。これに対し、姿勢が例えば水平から10度傾いた場合においては、重力加速度の直交方向Zにおける寄与度は、cos10°=0.9848(98.48%)となる。したがって、例えば閾値を0.985(98.5%)とし、計算された割合PZが閾値以上の場合に、スマートデバイス10が水平に載置されているものと評価する。
本変形例においては、載置状況評価指標GSは、値が小さいほど、評価結果が良好であることを示すように、設定されている。
本変形例においては、震度階級信頼性評価部30は、割合PZが閾値以上の場合に、スマートデバイス10が水平に載置されているものと評価し、載置状況評価指標GSを、例えば1の値とする。
また、本変形例においては、震度階級信頼性評価部30は、割合PZが閾値より小さい場合に、スマートデバイス10が水平に載置されていないものと評価し、載置状況評価指標GSを、水平に載置されていると評価した場合の値である1よりも大きな値である、例えば5の値とする。
【0070】
次に、震度階級信頼性評価部30は、加速度センサ11で観測された加速度波形を基に、地震時にスマートデバイス10が落下していなければ良好な結果となる、落下有無評価指標を評価する。
上記の実施形態においては、加速度波形補正部25は、スマートデバイス10の加速度センサ11により観測された加速度波形の成分合成加速度が落下判定閾値である2Gより以上の場合に、スマートデバイス10が落下状態にあると見做し、落下状態においてはいずれの成分の加速度も参考にならないという考えのもと、震度階級を推定する際には、落下状態の加速度波形は考慮の対象とならないようにしていた。
ここで、スマートデバイス10が落下して床等に衝突すると、その衝撃によりスマートデバイス10が変形し、その後、この変形に起因して、スマートデバイス10に自由振動が生じることがある。すると、落下状態が解除された以降の(すなわち震度階級を推定する際に考慮の対象となる)加速度波形においては、地震に起因する波形の中にこの自由振動に起因する波形が混入し、これが、推定される震度階級の精度を低減させる要因となり得る。このため、震度階級信頼性評価部30は、地震時にスマートデバイス10が落下していれば、落下後の波形に自由振動等の、推定される震度階級の精度を低減させる要因となり得る波形が混在している可能性があるという考えのもと、落下有無評価指標が悪い値を有するように評価する。このように、震度階級信頼性評価部30は、加速度センサ11で観測された加速度波形を基に、地震時にスマートデバイス10が落下していなければ良好な結果となり、地震時にスマートデバイス10が落下していれば悪い結果となるように、落下有無評価指標を評価する。
【0071】
具体的には、震度階級信頼性評価部30は、加速度波形補正部25による、スマートデバイス10の加速度センサ11により観測された加速度波形の成分合成加速度が落下判定閾値である2Gより以上か否かの判定結果を基に、落下有無評価指標GFを評価する。
本変形例においては、落下有無評価指標GFは、値が小さいほど、評価結果が良好であることを示すように、設定されている。
本変形例においては、震度階級信頼性評価部30は、加速度波形補正部25によって、スマートデバイス10が落下状態であると一度も判定されなかった場合に、スマートデバイス10が落下していないものと評価し、落下有無評価指標GFを、例えば1の値とする。
また、本変形例においては、震度階級信頼性評価部30は、加速度波形補正部25によって、スマートデバイス10が落下状態であると一度でも判定された場合に、スマートデバイス10が落下したものと評価し、落下有無評価指標GFを、落下しなかったと評価した場合の値である1よりも大きな値である、例えば3の値とする。
【0072】
更に、上記の評価を行うために、震度階級信頼性評価部30は、加速度センサ11で観測された加速度波形を基に、地震時におけるスマートデバイス10の変位量が小さいほど良好な結果となる、変位量評価指標を評価する。
上記実施形態において説明したように、地震が生じた際にスマートデバイス10が移動し、原位置から変位すると、例えば
図5に頭打ちする部分WPとして示したように、正確な加速度波形が得られない。したがって、スマートデバイス10が変位した量が大きければ大きいほど、得られた加速度波形は、スマートデバイス10が変位しない場合に本来得られるはずの加速度波形から、乖離したものとなっている可能性が高い。このため、震度階級信頼性評価部30は、加速度センサ11で観測された加速度波形を基に、地震時におけるスマートデバイス10の変位量が小さいほど良好な結果となり、変位量が大きいほど悪い結果となるように、落下有無評価指標を評価する。
【0073】
上記のような判定を行うためには、加速度波形を2階積分することで、変位波形を得る必要がある。変位波形の計算は、加速度波形が固定された地震計によって得られたものであったとしても、人手により基軸補正を経る必要があるため、これを自動的に、高い精度で行うのは難しい。ましてや、地震時に固定されておらず変位する可能性があるスマートデバイス10により観測された加速度波形を基に、変位波形を計算するのは、基軸が断続的に変化するため、より難しく、これを自動的に、高い精度で行うのは、更に難しい。
ここで、基軸変化が大きい場合に、基軸補正を行わずに変位波形を計算すると、最大変位量は大きな値となる。また、震度が大きいとスマートデバイス10の最大変位量も大きくなるように、震度と最大変位量の間には正の相関がある。したがって、本変形例においては、スマートデバイス10の加速度波形から、基軸補正を行わずに、最大変位量を計算するとともに、固定された地震計から得られる震度を基にスマートデバイス10の変位量を想定し、計算された最大変位量が、想定された変位量から、どれだけ離れた値となるかを計算することによって、変位量評価指標を評価する。
【0074】
図13は、地震時における、震度と、固定された地震計と固定されていないスマートデバイス10の各々の最大変位量と、の関係を示すグラフである。
図13に示されるように、固定されたスマートデバイス10と、固定されていないスマートデバイス10と、の双方に対し、3軸振動台実験によって振動を与えたときに、上記実施形態の震度推定システム1によって計測された震度と、各スマートデバイス10の最大変位量と、の関係を、実験により求めてプロットした。その結果、次の回帰式(11)が得られた。
【数10】
式(11)において、D
Rは、地震計によって得られた加速度波形に2階のフーリエ積分と、0.1~20Hzのバンドパスフィルターを適用して得られた最大変位量(cm)を示す。また、I
JMAは、上記実施形態の震度推定システム1によって推定された震度、具体的には式(9)により計算された計測震度である。このときに得られた回帰式の残差の標準偏差σ
Rは、0.2831となった。
図13において、各地震計の最大変位量は、概ね、2σ
Rの範囲に収まっている。
【0075】
震度階級信頼性評価部30は、スマートデバイス10から得られた加速度波形を基にして最大変位量D
Oを計算する。そして、震度階級信頼性評価部30は、この最大変位量D
Oに常用対数を適用した値log
10(D
O)が、上記実施形態の震度推定システム1によって推定された震度、具体的には式(9)により計算された計測震度Iを、上式(11)のI
JMAに入力した際に得られる値log
10(D
R)から、標準偏差σ
Rの何倍離れているかを計算することで、変位量評価指標G
Dを計算する。具体的には、震度階級信頼性評価部30は、次式(12)により変位量評価指標G
Dを計算する。
【数11】
上式において、ROUND()は、引数となる整数に四捨五入を行って、ゼロからより遠い整数に丸める関数を示す。すなわち、当該関数の引数が正の値で、小数第1位が5以上である場合には、より大きな整数に切り上げられ、負の値で、小数第1位が5以上である場合には、より小さな整数に切り上げられる(整数部分を1増やす)。また、本変形例において、変位量評価指標G
Dの最大値は、5とする。すなわち、上式(12)による計算結果が5より大きい場合においては、変位量評価指標G
Dの値を5とする。
【0076】
震度階級信頼性評価部30は、上記のようにして載置状況評価指標GS、落下有無評価指標GF、及び変位量評価指標GDの各々を評価し、これらの評価結果を基に、震度階級推定部26により推定された震度階級の信頼性を評価する。
具体的には、震度階級信頼性評価部30は、載置状況評価指標GS、落下有無評価指標GF、及び変位量評価指標GDの各々の最大値を、総合評価指標GCとして計算する。載置状況評価指標GS、落下有無評価指標GF、及び変位量評価指標GDの各々は、1以上5以下(落下有無評価指標GFは3以下)の整数となるため、総合評価指標GCも、1以上5以下の整数となる。この総合評価指標GCは、値が小さいほど、震度階級推定部26により推定された震度階級の信頼性が高いことを示し、値が大きいほど、震度階級推定部26により推定された震度階級の信頼性が低いことを示す。
例えば、震度階級信頼性評価部30は、総合評価指標GCの値が1、2、3、4、5の場合の各々に対し、推定グレードとしてそれぞれA、B、C、D、Eと対応付け、計算された推定グレードを表示するようにしてもよい。
【0077】
図14は、本変形例に関する検証結果を示すグラフである。
図14においては、固定された地震計と、固定されていない地震計すなわちスマートデバイス10と、の双方に対して振動を与えたときに、各々によって計測された震度をプロットしたものである。プロットされた点が45度の線に近づくほど、スマートデバイス10によって計算された震度の精度が高いものとなる。
図14においては、推定グレードがAと高くなるほど、45度の線に近い位置にプロットされており、推定グレードが高くなるほど、震度の精度が高い状態を示していることがわかる。
【0078】
次に、
図10、
図12~
図14、及び
図15を用いて、上記の震度推定システム1を用いた、推定された震度階級の信頼性を評価する方法を説明する。
図15は、本変形例に係る震度推定方法において、推定された震度階級の信頼性を評価する部分の、フローチャートである。
図10にステップS13として示される、震度階級推定部26による、計測震度を基にした震度階級の計算が終了すると、震度階級信頼性評価部30が、加速度センサ11で観測された加速度波形を基に、地震時にスマートデバイス10が水平に載置されているほど良好な結果となる、載置状況評価指標G
Sを評価する(ステップS21)。
次に、震度階級信頼性評価部30は、加速度センサ11で観測された加速度波形を基に、地震時にスマートデバイス10が落下していなければ良好な結果となる、落下有無評価指標G
Fを評価する(ステップS22)。
そして、震度階級信頼性評価部30は、加速度センサ11で観測された加速度波形を基に、地震時におけるスマートデバイス10の変位量と式(11)との差が小さいほど良好な結果となる、変位量評価指標G
Dを評価する(ステップS23)。
最後に、震度階級信頼性評価部30は、載置状況評価指標G
S、落下有無評価指標G
F、及び変位量評価指標G
Dの評価結果を基に、震度階級推定部26により推定された震度階級の信頼性を評価する(ステップS24)。
【0079】
上記のような構成においては、震度推定システム1Aは、加速度センサ11で観測された加速度波形を基に、地震時にスマートデバイス10が水平に載置されているほど良好な結果となる、載置状況評価指標GSと、地震時にスマートデバイス10が落下していなければ良好な結果となる、落下有無評価指標GFと、地震時におけるスマートデバイス10の変位量が小さいほど良好な結果となる、変位量評価指標GDと、の各々を評価し、載置状況評価指標GS、落下有無評価指標GF、及び変位量評価指標GDの各々の評価結果を基に、震度階級推定部26により推定された震度階級の信頼性を評価する、震度階級信頼性評価部30を更に備えている。
上記実施形態のようにしてスマートデバイス10から加速度波形を取得し、これを補正して震度階級を推定したとしても、加速度波形を取得した際に、スマートデバイス10が、例えば机上等に水平に載置されていない場合、落下した場合、大きく移動した場合には、推定された震度階級は、十分な信頼性を有していない可能性がある。
これに対し、上記のような構成によれば、震度階級信頼性評価部30は、地震時にスマートデバイス10が水平に載置されているほど良好な結果となる、載置状況評価指標GSと、地震時にスマートデバイス10が落下していなければ良好な結果となる、落下有無評価指標GFと、地震時におけるスマートデバイス10の変位量が小さいほど良好な結果となる、変位量評価指標GDと、の各々を評価する。そして、震度階級信頼性評価部30は、これら載置状況評価指標GS、落下有無評価指標GF、及び変位量評価指標GDの各々の評価結果を基に、震度階級推定部26により推定された震度階級の信頼性を評価する。したがって、この評価結果を基に、推定された震度階級が十分な信頼性を有しているか否かを、判断することができる。
【0080】
地震時においては、多くのスマートデバイス10から、大量の加速度波形を得ることができる可能性がある。このような場合において、各スマートデバイス10から得られた加速度波形の各々に対し、上記のような処理を実行して信頼性の評価を行うことにより、例えば多少の誤差があっても多くの震度データが欲しい場合には、推定グレードがD以上と評価されたスマートデバイス10から得られたデータを使用する、あるいは非常に信頼できる震度データのみが欲しい場合には、推定グレードがA以上と評価されたスマートデバイス10から得られたデータのみを使用する、といったような、データのスクリーニングを行うことができる。
【0081】
なお、本発明の震度推定システム1は、図面を参照して説明した上述の実施形態及び変形例に限定されるものではなく、その技術的範囲において他の様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態においては、地点入力部21は、震度推定システム1によって震度階級を推定する地点の入力を受け付けたが、これに限られない。地点入力部は、東西及び南北に一定の範囲を有する地域の入力を受け付けて、この地域全体の震度階級を推定するようにしてもよい。
この場合においては、スマートデバイス検索部は、例えば、入力された地域の内部に位置する複数の、例えば全てのスマートデバイス10を検索し、移動判定部24と加速度波形補正部25は、これらのスマートデバイス10の移動判定を行い、加速度波形を補正するようにしてもよい。また、震度階級推定部26は、これら複数のスマートデバイス10の各々に対応して震度を推定し、これを、対応するスマートデバイス10の位置情報と結び付けて、地震時にスマートデバイス10が位置していた地点に、当該スマートデバイス10に対応する震度を表示するように、指定された地域全体を表す震度のマップを作成するようにしてもよい。
【0082】
これ以外にも、上記各実施形態及び各変形例で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0083】
1、1A 震度推定システム 24 移動判定部
10 スマートデバイス 25 加速度波形補正部
10a 画面 26 震度階級推定部
11 加速度センサ 30 震度階級信頼性評価部
12 磁気センサ X 第1方向
20、20A 震度推定装置 Y 第2方向
21 地点入力部 Z 直交方向
22 スマートデバイス検索部