(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166119
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ポリエチレン微多孔膜、その製造方法、および前記微多孔膜を含むセパレータ
(51)【国際特許分類】
H01M 50/489 20210101AFI20241121BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20241121BHJP
H01M 50/494 20210101ALI20241121BHJP
H01M 50/491 20210101ALI20241121BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20241121BHJP
【FI】
H01M50/489
H01M50/417
H01M50/494
H01M50/491
H01M50/403 B
H01M50/403 A
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024078102
(22)【出願日】2024-05-13
(31)【優先権主張番号】10-2023-0063525
(32)【優先日】2023-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】519214271
【氏名又は名称】エスケー アイイー テクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK IE TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 03188 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ジュン イン ファ
(72)【発明者】
【氏名】クォン ジェ イン
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021BB01
5H021BB05
5H021BB13
5H021EE04
5H021HH00
5H021HH02
5H021HH03
5H021HH06
5H021HH07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】機械的強度と透過度に優れるとともに、高温での耐熱性が著しく向上したポリエチレン微多孔膜、その製造方法、および前記微多孔膜を含むセパレータを提供する。
【解決手段】一態様によると、重量平均分子量が1×105g/mol~10×105g/molであるポリエチレンを含み、微多孔膜の厚さが3μm~20μm、穿孔強度が0.25N/μm以上、気体透過度が1.5×10-5Darcy以上、131℃で1時間放置した後に測定した横方向収縮率が10%以下、縦方向の引張強度が1500kg/cm2以上、横方向の引張強度が2000kg/cm2以上、縦方向の引張強度と横方向の引張強度の比が0.5~0.7である、ポリエチレン微多孔膜とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が1×105g/mol~10×105g/molであるポリエチレンを含み、
微多孔膜の厚さが3μm~20μmであり、穿孔強度が0.25N/μm以上であり、気体透過度が1.5×10-5Darcy以上であり、131℃で1時間放置した後に測定した横方向収縮率が10%以下であり、縦方向の引張強度(TSMD)が1500kg/cm2以上であり、横方向の引張強度(TSTD)が2000kg/cm2以上であり、縦方向の引張強度と横方向の引張強度の比(TSMD/TSTD)が0.5~0.7である、ポリエチレン微多孔膜。
【請求項2】
縦方向の引張強度が2000kg/cm2以上であり、横方向の引張強度が2800kg/cm2以上である、請求項1に記載のポリエチレン微多孔膜。
【請求項3】
縦方向の引張強度と横方向の引張強度の平均値が2500kg/cm2以上である、請求項1に記載のポリエチレン微多孔膜。
【請求項4】
穿孔強度が0.50N/μm以上である、請求項1に記載のポリエチレン微多孔膜。
【請求項5】
空隙率が30%~70%である、請求項1に記載のポリエチレン微多孔膜。
【請求項6】
逐次二軸延伸工程を含む湿式法により製造される、請求項1に記載のポリエチレン微多孔膜。
【請求項7】
(a)重量平均分子量が1×105g/mol~10×105g/molであるポリエチレン樹脂とディルエントを含有する混合物を押出機により溶融混練して溶融物を製造するステップと、
(b)前記溶融物を押出してシート状に成形するステップと、
(c)前記シートを縦方向と横方向に逐次二軸延伸してフィルムに成形するステップと、
(d)延伸されたフィルムからディルエントを抽出し、乾燥させるステップと、
(e)乾燥されたフィルムを、前記乾燥されたフィルムの結晶が20%~50%溶ける温度で熱処理するステップと、を含み、
前記(c)ステップの縦方向の延伸比(SRMD)が4.0倍以上であり、横方向の延伸比(SRTD)が5.3倍以上であり、縦方向の延伸比と横方向の延伸比の比(SRMD/SRTD)が0.5~0.75である、ポリエチレン微多孔膜の製造方法。
【請求項8】
前記(e)ステップで、乾燥されたフィルムの結晶が20%~50%溶ける温度は133℃~145℃である、請求項7に記載のポリエチレン微多孔膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1から6の何れか一項に記載のポリエチレン微多孔膜を含むセパレータ。
【請求項10】
請求項9に記載のセパレータを含む電気化学素子。
【請求項11】
正極と負極との間に前記セパレータを含む二次電池である、請求項10に記載の電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリエチレン微多孔膜、その製造方法、および前記微多孔膜を含むセパレータに関する。一態様によると、耐熱性が向上したポリエチレン微多孔膜、その製造方法、および前記微多孔膜を含むセパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン微多孔膜は、分離用フィルター、二次電池用セパレータ、燃料電池用セパレータ、スーパーキャパシタ用セパレータなどの多様な分野に利用されている。中でも、優れた電気絶縁性、イオン透過性などを有することから、二次電池用セパレータとして広く用いられている。
【0003】
近年、二次電池は、電気自動車、ESS(Energy storage system)などに適用するために高容量化および大型化しており、電池の安全性の確保がさらに重要な要素となっている。例えば、高温の環境に電池が曝されたり作動されたりする際にセパレータが収縮して内部短絡を引き起こすことがあり、前記内部短絡により、火事が発生する恐れがある。したがって、電池の温度上昇に対備できる、耐熱性に優れたポリエチレン微多孔膜の開発が必要とされている。耐熱性とともに、電池の製造過程と使用中における安全性の向上のために高い機械的強度が求められており、容量および出力の向上のために、高い透過度が求められている。
【0004】
このような安全性を高めるための手法として、韓国特許公開第10-2016-0106177号公報には、16μm換算の透気抵抗度が100~220sec/100cc、16μm換算の突刺強度(puncture strength)が550gf以上であり、117℃等温結晶化時の半結晶化時間t1/2が10~35分である、ポリオレフィン微多孔膜が開示されている。しかし、かかる微多孔膜は、105℃での横方向の収縮率が6%程度に過ぎず、ホットボックス(hot-box)評価のような高温環境で電池の安全性に劣ることから、高容量および大型化の電池に適用するには適しない欠点がある。
【0005】
したがって、機械的強度と透過度が高く、且つより高い温度下での耐熱性が著しく向上するだけでなく、特に、高温安全性の評価指標である130℃のホットボックス評価でも優れた電池の安全性を達成することができるポリエチレン微多孔膜の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の問題を解決するために、本開示は、機械的強度と透過度に優れるとともに、高温での耐熱性が著しく向上したポリエチレン微多孔膜、その製造方法、および前記微多孔膜を含むセパレータを提供することを課題とする。
【0007】
特に、電池を組み立てた後、130℃のホットボックス評価でも優れた電池の安全性を達成することができるポリエチレン微多孔膜を提供することを課題とする。
【0008】
本開示の微多孔膜は、電気自動車、電池充電スタンド、その他に電池を用いる太陽光発電、風力発電などのグリーンテクノロジー分野に広く適用可能である。また、本開示の微多孔膜は、大気汚染および温室効果ガスの放出を抑え、気候変動を防止するための環境にやさしい(eco-friendly)電気自動車(Electric Vehicle)、ハイブリッド自動車(hybrid vehicle)などに用いられることができる。前記微多孔膜は、二次電池のセパレータに用いられることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を達成するための一手段として、本開示は、重量平均分子量が1×105g/mol~10×105g/molであるポリエチレンを含み、微多孔膜の厚さが3μm~20μmであり、穿孔強度が0.25N/μm以上であり、気体透過度が1.5×10-5Darcy以上であり、131℃で1時間放置した後に測定した横方向収縮率が10%以下であり、縦方向の引張強度(TSMD)が1500kg/cm2以上であり、横方向の引張強度(TSTD)が2000kg/cm2以上であり、縦方向の引張強度と横方向の引張強度の比(TSMD/TSTD)が0.5~0.7である、ポリエチレン微多孔膜を提供する。
【0010】
一態様において、前記ポリエチレン微多孔膜は、縦方向の引張強度が2000kg/cm2以上であり、横方向の引張強度が2800kg/cm2以上であってよい。
【0011】
一態様において、縦方向の引張強度と横方向の引張強度の平均値が2500kg/cm2以上であってよい。前記平均値は(TSMD+TSTD)/2により計算される。
【0012】
一態様において、前記ポリエチレン微多孔膜は、穿孔強度が0.50N/μm以上であってよい。
【0013】
一態様において、前記ポリエチレン微多孔膜は、空隙率が30%~70%であってよい。
【0014】
一態様において、前記ポリエチレン微多孔膜は、逐次二軸延伸工程を含む湿式法により製造されてよい。
【0015】
また、上述の課題を達成するための他の一手段として、本開示は、(a)重量平均分子量が1×105g/mol~10×105g/molであるポリエチレン樹脂とディルエントを含有する混合物を押出機により溶融混練して溶融物を製造するステップと、(b)前記溶融物を押出してシート状に成形するステップと、(c)前記シートを縦方向と横方向に逐次二軸延伸してフィルムに成形するステップと、(d)延伸されたフィルムからディルエントを抽出し、乾燥させるステップと、(e)乾燥されたフィルムを、前記乾燥されたフィルムの結晶が20%~50%溶ける温度で熱処理するステップと、を含み、前記(c)ステップの縦方向の延伸比(SRMD)が4.0倍以上であり、横方向の延伸比(SRTD)が5.3倍以上であり、縦方向の延伸比と横方向の延伸比の比(SRMD/SRTD)が0.5~0.75である、ポリエチレン微多孔膜の製造方法を提供する。
【0016】
一態様において、前記(e)ステップで乾燥されたフィルムの結晶が20%~50%溶ける温度は、133℃~145℃であってよい。
【0017】
本開示の他の態様において、前記ポリエチレン微多孔膜を含むセパレータを提供する。前記微多孔膜からセパレータを作製することは、用途に応じて微多孔膜を所望のサイズに切断することを含んでよい。また、微多孔膜の多孔性および厚さは、特定の用途に応じて、前記多孔性および厚さの範囲内で調整されてよい。
【0018】
一態様において、前記セパレータを含む電気化学素子を提供する。
【0019】
一態様において、前記電気化学素子は、正極と負極との間に前記セパレータを含む二次電池であってよい。
【0020】
また、上述の課題を達成するための他の一手段として、本開示は、上述のポリエチレン微多孔膜を含むセパレータを提供する。
【発明の効果】
【0021】
本開示に係るポリエチレン微多孔膜は、優れた機械的強度と透過度を有するとともに、著しく向上した高温での耐熱性を確保することができる。
【0022】
また、本開示に係るポリエチレン微多孔膜は、穿孔強度が0.25N/μm以上であり、縦方向(machine direction、MD)の引張強度が1500kg/cm2以上、横方向(transverse direction、TD)の引張強度が2000kg/cm2以上であり、気体透過度が1.5×10-5Darcy以上であってよい。
【0023】
また、本開示に係るポリエチレン微多孔膜は、131℃で1時間放置した後に測定した横方向収縮率が10%以下であってよい。
【0024】
また、本開示は、一態様に係るポリエチレン微多孔膜を含むことで、高温の環境で発煙または発火が発生しない、優れた高温熱安全性を有する電池を提供することができる。詳細に、本開示は、130℃の高温のホットボックス評価で電池の発煙または発火が発生しない、優れた高温熱安全性を有する電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書に記載の実施形態は、様々な他の形態に変形可能であり、一態様に係る技術が、以下で説明する実施形態に限定されるものではない。また、一態様の実施形態は、当該技術分野において平均的な知識を有する者に本開示をより完全に説明するために提供されるものである。
【0026】
また、明細書および添付の特許請求の範囲で用いられる単数の形態は、文脈で別に指示しない限り、複数の形態も含むことを意図する。
【0027】
また、本明細書で用いられる数値範囲は、下限値と上限値、およびその範囲内での全ての値、定義される範囲の形態と幅で論理的に誘導される増分、二重限定された全ての値、並びに、互いに異なる形態で限定された数値範囲の上限および下限の全ての可能な組み合わせを含む。本明細書で別に定義しない限り、実験誤差または値の切り上げにより発生する可能性のある数値範囲外の値も、定義された数値範囲に含まれる。
【0028】
さらに、明細書の全体において、ある構成要素を「含む」とは、別に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含みえることを意味する。
【0029】
本開示は、縦方向の引張強度(TSMD)と横方向の引張強度(TSTD)の比(TSMD/TSTD)を特定の範囲に制御する場合、非常に薄い厚さでも優れた機械的強度と透過度を有するとともに、著しく向上した高温での耐熱性を確保することができることに着目して考案されたものである。
【0030】
一態様によると、重量平均分子量が1×105g/mol~10×105g/molであるポリエチレンを含み、特定値以上の縦方向の引張強度(TSMD)と横方向の引張強度(TSTD)を満たし、縦方向の引張強度と横方向の引張強度の比(TSMD/TSTD)を特定の範囲に制御する場合、3μm~20μmの範囲の薄い厚さを有しても、穿孔強度が0.25N/μm以上、気体透過度が1.5×10-5Darcy以上、131℃で1時間放置した後に測定した横方向収縮率が10%以下である、ポリエチレン微多孔膜を提供することができる。
【0031】
一態様に係る二次電池は、上述の物性をともに満たすポリエチレン微多孔膜を含むことで、優れた電池性能と安全性を両方とも確保することができる。特に、本開示は、130℃の高温のホットボックス評価で電池の発煙や発火が発生しない、優れた高温熱安全性を有する電池を提供することができる。すなわち、本開示のポリエチレン微多孔膜は、上述の物性をともに満たすことで、高出力/高容量の電池に好適に適用可能である。
【0032】
一態様として、上述の物性をともに満たすポリエチレン微多孔膜は、特定の条件の延伸工程により、縦方向の引張強度と横方向の引張強度の比が特定の範囲で実現されることで製造されることができる。
【0033】
一態様として、前記ポリエチレン微多孔膜は、特定の条件の延伸工程とともに、特定の条件の熱固定工程により、縦方向の引張強度と横方向の引張強度の比が特定の範囲で実現されることで製造されることができる。
【0034】
一態様において、前記ポリエチレン微多孔膜は、特定の延伸比以上の逐次二軸延伸工程を含む湿式法により製造されたものであってよく、これにより、上述の物性をともに満たすポリエチレン微多孔膜を提供することができる。
【0035】
具体的に、前記ポリエチレン微多孔膜は、ポリエチレン樹脂にディルエントを溶解した混合物を押出、および特定の延伸比を満たす逐次二軸延伸してフィルム状に製造し、前記フィルムからディルエントを抽出して製造されるものであり、当業者に公知の通常の逐次二軸延伸工程を含む湿式法により製造されることができ、上述の物性を有する微多孔膜を製造できれば制限されない。
【0036】
一態様として、縦方向の延伸比(SRMD)が4.0倍以上であり、横方向の延伸比(SRTD)が5.3倍以上であり、縦方向の延伸比と横方向の延伸比の比(SRMD/SRTD)が0.5~0.75であってよい。これにより、前記ポリエチレン微多孔膜は、薄い厚さでも優れた機械的強度と透過度を有するとともに、著しく向上した高温での耐熱性を有することができる。
【0037】
以下、前記ポリエチレン微多孔膜についてより詳細に説明する。
【0038】
一態様において、縦方向の引張強度と横方向の引張強度の比(TSMD/TSTD)は、0.5以上、0.65以下、0.7以下であってよく、例えば、0.5~0.7または0.5~0.65であってよい。
【0039】
一態様において、前記ポリエチレン微多孔膜は、縦方向の引張強度(TSMD)が1500kg/cm2以上、1800kg/cm2以上、または2000kg/cm2以上であってよく、TSMD値の上限は特に制限されないが、例えば、3500kg/cm2以下、3000kg/cm2以下であってよい。具体的な一態様において、前記TSMDの値は、1500kg/cm2~3500kg/cm2、1800kg/cm2~3500kg/cm2、または2000kg/cm2~3000kg/cm2であってよいが、これに限定するものではない。
【0040】
一態様において、前記一開示の微多孔膜は、横方向の引張強度(TSTD)が2000kg/cm2以上、2500kg/cm2以上、2800kg/cm2以上、または3000kg/cm2以上であってよく、TSTD値の上限は特に制限されないが、例えば、5000kg/cm2以下、4500kg/cm2以下であってよい。具体的な一態様において、前記TSTDの値は、2000kg/cm2~5000kg/cm2、2500kg/cm2~5000kg/cm2、2800kg/cm2~4500kg/cm2、または3000kg/cm2~4500kg/cm2であってよいが、これに限定するものではない。
【0041】
一態様において、縦方向の引張強度と横方向の引張強度の平均値は、2500kg/cm2以上、2600kg/cm2以上、または2700kg/cm2以上であってよく、平均値の上限は特に制限されないが、例えば、4250kg/cm2以下、4000kg/cm2以下、または3750kg/cm2以下であってよい。具体的な一態様において、前記平均値は、2500kg/cm2~4250kg/cm2、2600kg/cm2~4000kg/cm2、または2700kg/cm2~3750kg/cm2であってよいが、これに限定するものではない。
【0042】
上述の範囲のTSMD値、TSTD値、これらの平均値は、ポリエチレン微多孔膜の製造において、延伸工程での縦方向の延伸比と横方向の延伸比を特定の割合に制御するか、熱固定工程での温度を特定の範囲に制御することで実現されることができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0043】
一態様に係る微多孔膜は、薄い厚さを有するにもかかわらず、上述の範囲のTSMD/TSTD値を有するとともに、著しく向上した引張強度を有することで、熱収縮が少なく、耐熱性が著しく上昇する。すなわち、一態様に係る微多孔膜をセパレータとして製造された電池に対して下記の高温のホットボックス評価を行った結果、前記電池は、高温の環境で発煙または発火が発生しないため、優れた電池安全性を有することができる。前記評価のための電池の製造および評価方法は次のとおりである。NCM622(Ni:Co:Mn=6:2:2)を活物質として用いた正極と、黒鉛炭素(Graphite carbon)を活物質として用いた負極とを、本開示の微多孔膜とともに巻き取り、アルミニウムパウチに投入して電池を製造する。次いで、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、およびジエチルカーボネートが3:5:2の体積比で含まれている溶液に、1Mのリチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF6)が溶解された電解液を前記電池の内部に注入して密封し、2Ah容量の電池を作製する。次いで、前記電池に対してエージング(Aging)と脱気(Degassing)作業を行った後、4.2Vまで満充電し、オーブンに入れて5℃/minに昇温し、130℃に達した後に30分間放置し、電池で発煙または発火が発生したか否かを確認する。
【0044】
一態様において、前記ポリエチレン微多孔膜の厚さは3μm~20μmであり、具体的には3μm~15μm、より具体的には3μm~10μm、さらに具体的には3μm~7μmであってよい。本開示の微多孔膜は、上述の範囲の厚さの非常に薄い薄膜状態でも、優れた穿孔強度、気体透過度、熱収縮率、および引張強度をともに実現することができ、特に、下記実施例の評価方法によるホットボックス評価で、優れた熱安全性を有し得ることが明らかになった。また、電池の製造時に発生する外部応力と、電池の充放電時に発生する温度上昇とデンドライト(dendrite)などに対する抵抗力に優れ、電池の内部抵抗が低いため、電池の充放電性能が向上することができる。
【0045】
一態様において、前記ポリエチレン微多孔膜は、上述の範囲の厚さを有しても、0.25N/μm以上の穿孔強度を有することができ、具体的に、前記穿孔強度は0.40N/μm以上または0.50N/μm以上であってよく、その上限は特に制限されないが、例えば、1.0N/μm以下であってよい。具体的な一態様において、前記穿孔強度は、0.25N/μm~1.0N/μm、0.40N/μm~1.0N/μm、または0.50N/μm~1.0N/μmであってよいが、これに限定するものではない。上述の範囲の穿孔強度を満たすことで、電池の製造時に発生する外部応力と、電池の充放電時に発生するデンドライトなどに対する抵抗力に優れ、電池安全性を確保することができる。また、二次電池用セパレータの薄膜化が可能であって、高容量/高出力の電池に好適に適用可能である。
【0046】
一態様において、前記ポリエチレン微多孔膜は、1.5×10-5Darcy以上の気体透過度を有することができ、具体的に、前記気体透過度は、1.6×10-5Darcy以上、3.0×10-5Darcy以下、または5.0×10-5Darcy以下であってよい。具体的な一態様において、前記気体透過度は、1.5×10-5Darcy~5.0×10-5Darcyまたは1.6×10-5Darcy~3.0×10-5Darcyであってよいが、これに限定するものではない。上述の範囲の気体透過度を満たすことで、優れたイオン伝導度を有することができ、低い電池の内部抵抗によって電池の充放電特性が向上することができる。
【0047】
一態様において、前記ポリエチレン微多孔膜は、131℃で1時間放置した後に測定した横方向収縮率が10%以下、8%以下、または6%以下であってよく、その下限は特に制限されないが、例えば、0.1%、0.5%、または1%であってよい。具体的な一態様において、前記収縮率は、0.1%~10%、0.5%~8%、または1%~6%であってよいが、これに限定するものではない。
【0048】
一態様において、前記ポリエチレン微多孔膜は、機械的強度とイオン伝導度の点から、空隙率が30%~70%であってよく、40%~70%または50~70%であってよいが、これに限定するものではない。前記空隙率は、下記数学式により計算して算出する。具体的に、横Acm、縦Bcm、厚さTcmのサンプルを準備し、質量を測定して、同一の体積の樹脂質量と微多孔膜の質量の割合から空隙率を算出する。
【0049】
空隙率(%)=100×{1-M/(A×B×T×ρ)}
前記数学式中、Mは微多孔膜の質量(g)であり、ρは微多孔膜を成すポリエチレン樹脂の密度(g/cm3)である。
【0050】
一態様において、前記ポリエチレン微多孔膜は、逐次二軸延伸工程を含む湿式法により製造されてよく、これにより、上述の物性をともに満たすポリエチレン微多孔膜を提供することができる。
【0051】
具体的に、前記ポリエチレン微多孔膜は、ポリエチレン樹脂にディルエントを溶解した混合物を押出および逐次二軸延伸してフィルム状に製造し、前記フィルムからディルエントを抽出して製造されるものであり、当業者に公知の通常の逐次二軸延伸工程を含む湿式法により製造されることができ、上述の物性を有する微多孔膜を製造できれば制限されない。
【0052】
一態様として、縦方向の延伸比(SRMD)が4.0倍以上であり、横方向の延伸比(SRTD)が5.3倍以上であり、縦方向の延伸比と横方向の延伸比の比(SRMD/SRTD)が0.5~0.75であってよい。これにより、前記ポリエチレン微多孔膜は、薄い厚さでも優れた機械的強度と透過度を有するとともに、著しく向上した高温での耐熱性を有することができる。
【0053】
以下、本開示のポリエチレン微多孔膜の製造方法について説明する。
【0054】
一態様に係るポリエチレン微多孔膜の製造方法は、(a)重量平均分子量が1×105g/mol~10×105g/molであるポリエチレン樹脂とディルエントを含有する混合物を押出機により溶融混練して溶融物を製造するステップと、(b)前記溶融物を押出してシート状に成形するステップと、(c)前記シートを縦方向と横方向に逐次二軸延伸してフィルムに成形するステップと、(d)延伸されたフィルムからディルエントを抽出し、乾燥させるステップと、(e)乾燥されたフィルムを、前記乾燥されたフィルムの結晶が20%~50%溶ける温度で熱処理するステップと、を含み、前記(c)ステップの縦方向の延伸比(SRMD)が4.0倍以上であり、横方向の延伸比(SRTD)が5.3倍以上であり、縦方向の延伸比と横方向の延伸比の比(SRMD/SRTD)が0.5~0.75であってよい。
【0055】
以下、各製造ステップについて説明する。
【0056】
先ず、(a)ステップは、ポリエチレン樹脂とディルエントを含有する混合物を押出機により溶融混練して溶融物を製造するステップであり、前記混合物は、気孔の形成のために、ポリエチレン樹脂とディルエントを10~60:90~40の重量比で含有し、具体的には、20~40:80~60の重量比で含有してよいが、本開示の目的を達成する限り、特に制限されない。上述の範囲の重量比を満たす場合、前記溶融物が十分な流動性を有し、後続のステップで均一なシートを容易に成形でき、また、延伸過程で十分な配向がなされ、機械的強度が容易に確保されるため、延伸過程で破断などの問題が生じないようにすることができる。
【0057】
前記ポリエチレン樹脂は、強度、押出混練性、延伸性、最終微多孔膜の耐熱性などの観点から、高密度ポリエチレンであるか、高密度ポリエチレンを含むものであってよい。
【0058】
一態様において、前記ポリエチレン樹脂は、重量平均分子量が1×105g/mol~10×105g/molであってよく、具体的には3×105g/mol~8×105g/molであってよいが、必ずしもこれに制限されるものではない。
【0059】
一態様において、前記ポリエチレン樹脂は、溶融温度が130℃以上であってよく、具体的には130℃~140℃であってよいが、必ずしもこれに制限されるものではない。ポリエチレン樹脂の溶融温度は、DSCにより決定されることができる。
【0060】
一態様において、前記ディルエントは、押出温度で前記ポリエチレン樹脂と単相を成す有機化合物であれば、何れも制限されずに使用できる。例えば、前記ディルエントは、ノナン(nonane)、デカン(decane)、デカリン(decalin)、パラフィンオイル(paraffin oil)、パラフィンワックス(paraffin wax)などの脂肪族(aliphatic)または環状炭化水素(cyclic hydrocarbon)、ジブチルフタレート(dibutyl phthalate)、ジオクチルフタレート(dioctyl phthalate)などのフタル酸エステル(phthalic acid ester)、パルミチン酸(palmitic acid)、ステアリン酸(stearic acid)、オレイン酸(oleic acid)、リノール酸(linoleic acid)、リノレン酸(linolenic acid)などのC10-C20脂肪酸、およびセチルアルコール(cetyl alcohol)、ステアリルアルコール(stearyl alcohol)、オレイルアルコール(oleyl alcohol)などのC10-C20脂肪アルコールからなる群から選択される1つまたは2つ以上の組み合わせであってよい。前記ディルエントの一具体例としては、40℃での動粘度(kinetic viscosity)が20cSt~200cStであるパラフィンオイルが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0061】
また、前記混合物は、微多孔膜の特性が著しく低下しない範囲で、酸化安定剤、UV安定剤、帯電防止剤などの、特定機能を向上させるための通常の添加剤の何れか1つ以上をさらに含んでよい。
【0062】
(b)ステップは、前記溶融物を押出してシート状に成形するステップであり、当業者に公知の方式により制限されずに行われてよく、一例として、前記溶融物をT-dieにより押出し、10℃~80℃の温度に冷却しながら、キャスティング(casting)もしくはカレンダリング(calendaring)方法によりシート状に成形することであってよい。
【0063】
(c)ステップで、縦方向の延伸比(SRMD)が4.0倍以上であり、横方向の延伸比(SRTD)が5.3倍以上であり、縦方向の延伸比と横方向の延伸比の比(SRMD/SRTD)が0.5~0.75であってよい。これにより、縦方向の引張強度(TSMD)と横方向の引張強度(TSTD)の比(TSMD/TSTD)を特定の範囲に制御することができて、薄い厚さでも優れた機械的強度と透過度を有するとともに、著しく向上した高温での耐熱性を有するポリエチレン微多孔膜を製造することができる。
【0064】
前記縦方向の延伸比は、具体的に4倍~10倍、より具体的に5倍~8倍であってよく、前記横方向の延伸比は、5.3倍~15倍、より具体的に6倍~10倍であってよい。各方向の延伸比が上述の範囲を満たすことで、本開示で目的とする物性を有するポリエチレン微多孔膜を製造することができる。
【0065】
前記SRMD/SRTDの値が0.5~0.75の範囲を満たすことで、本開示が実現しようとする縦方向と横方向の引張強度の比とともに、1500kg/cm2以上の縦方向の引張強度および2000kg/cm2以上の横方向の引張強度を確保することができる。
【0066】
(c)ステップでの延伸は、ロール方式またはテンタ(tenter)方式の逐次延伸方法により行われ、ポリエチレンの溶融温度より60℃低い温度~ポリエチレンの溶融温度の範囲の温度で行われてよい。上述の範囲の温度で延伸が行われる場合、効果的な延伸がなされるためのポリエチレン樹脂の流動性を確保することができる。詳細に、シートの全体にわたって均一に延伸がなされ、延伸による破断が起こらないため、安定に延伸がなされることができる。これにより、膜全体にわたって均一な気体透過度、穿孔強度、引張強度などの物性が実現された高品質の微多孔膜を製造することができる。一例として、前記延伸は、80℃~140℃または90℃~120℃で行われてよいが、これに限定されるものではない。
【0067】
(d)ステップは、延伸されたフィルムからディルエントを抽出し、乾燥させるステップであり、有機溶媒を用いてフィルム中のディルエントを抽出し、ディルエントが有機溶媒で置換されたフィルムで有機溶媒を乾燥することで行われる。前記有機溶媒は、ディルエントを抽出できれば特に限定されずに使用可能である。具体的に、前記有機溶媒として、抽出効率が高く、乾燥が速い点から、メチルエチルケトン、メチレンクロリド、ヘキサンなどが用いられてよい。
【0068】
(d)ステップは、ディルエントと有機溶媒の溶解度の増加のために、温度が高いことが好ましいが、有機溶媒の沸騰による安全性の観点から、40℃以下の温度で行われてよい。
【0069】
(e)ステップは、乾燥されたフィルムを、前記乾燥されたフィルムの結晶が20%~50%溶ける温度で熱処理するステップであり、ロール方式またはテンタ方式の装置を用いて、縦方向と横方向に寸法変化が生じないように強制的につかんだ状態で熱を加え、フィルム内の残留応力を除去して、最終的に製造されるポリエチレン微多孔膜の熱収縮率を減少させることができる。
【0070】
上述の範囲の縦方向の延伸比と横方向の延伸比の比(SRMD/SRTD)で延伸されたフィルムを上述の条件の温度下で熱処理する場合、従来の方法により製造される微多孔膜では実現できない物性を確保可能なポリエチレン微多孔膜を製造することができる。このような物性を有する微多孔膜は、高出力/高容量の電池に好適に適用可能である。高出力/高容量の電池は、放電の時に相当な量の電力を伝達でき、電気自動車、電動工具、エネルギー貯蔵システム、および携帯用電子機器といった、高出力が求められるアプリケーションに使用可能な二次電池を指す。
【0071】
一態様において、前記乾燥されたフィルムの結晶が20%~50%溶ける温度は、用いるポリエチレンの分子量およびフィルムの延伸率によって変わるものであって、本開示でポリエチレン微多孔膜を製造するためのポリエチレン樹脂として、分子量の高いポリエチレンを用いることで、フィルム結晶の20%~50%が溶ける温度は、133℃~145℃であり、具体的には135℃~140℃であってよい。従来は、熱処理を133℃未満の温度で行っていたが、この温度で熱処理されて製造される微多孔膜は、十分な物性を満たさない欠点がある。これに対し、本開示では、高い融点の高結晶性のポリエチレンを用いることで、上記の物性を得ることができる。例えば、従来の微多孔膜は、十分なレベルの気体透過度および穿孔強度を満たさないか、気体透過度および穿孔強度には優れるとしても、熱収縮率が良くないため、二次電池用セパレータに用いられるには適しない欠点がある。
【0072】
一態様において、前記(e)ステップの熱処理は、133℃~145℃の範囲の温度で行われてよく、具体的には、135℃~140℃の範囲の温度で行われてよい。上述の範囲の温度で熱処理が行われることで、本開示が目的とする物性を何れも満たすポリエチレン微多孔膜が製造されることができる。
【0073】
一態様において、(e)ステップは、熱延伸および熱緩和して熱固定することであってよい。すなわち、熱処理時にテンション(tension)を調節し、多様な方法により熱処理することができる。熱処理は、1~3回繰り返して行われてよいが、必ずしもこれに制限されるものではない。
【0074】
前記(e)ステップは、例えば、縦方向または横方向に延伸する熱延伸工程、縦方向と横方向の長さ/幅を固定して熱を加える熱固定工程、および縦方向または横方向に緩和(収縮)する熱緩和工程を含んでよい。一例として、前記熱緩和工程は、熱緩和工程前の横方向の幅の80%~99%または90%~99%に緩和することであってよく、前記熱延伸工程は、熱延伸工程前の横方向の幅の120%~160%または140%~160%に延伸することであってよい。
【0075】
本開示は、上述のようなポリエチレン微多孔膜を含むセパレータを提供し、前記セパレータは、公知の全てのエネルギー貯蔵装置に用いられるセパレータであってよく、特に制限されないが、非限定的な一例として、リチウム二次電池に用いられるセパレータが挙げられる。
【0076】
以下、実施例および実験例を下記に具体的に例示して説明する。但し、後述の実施例および実験例は一部を例示するものにすぎず、本明細書に記載の技術がこれに限定されるものではない。
【0077】
[物性測定方法]
1.重量平均分子量(g/mol)
重量平均分子量(Mw)は、Agilent Technologies社の高温GPC(Gel Permeation Chromatography)を用いて測定した。GPCカラムとしてPLgel GuardおよびPLgel Olexisを使用し、溶媒として1,2,4-trichlorobenzene(TCB)を使用し、標準試料としてポリスチレンを使用して、140℃で分析した。
【0078】
2.微多孔膜の厚さ(μm)
微多孔膜の厚さは、厚さに対する精密度が0.1μmである接触方式の厚さ測定機を用いて測定した。TESA社のTESA Mu-Hite Electronic Height Gaugeを用いて、測定圧力を0.63Nとして測定した。
【0079】
3.穿孔強度(N/μm)
穿孔強度は、INSTRON社のUTM(Universal Test Machine)3345に、直径1.0mm、曲率半径0.5mmのピンチップ(pin tip)を取り付け、120mm/minの速度で微多孔膜を押して測定した。この際、微多孔膜が破断される時の荷重(N)を微多孔膜の厚さ(μm)で除して穿孔強度を計算した。
【0080】
4.気体透過度(Darcy)
気体透過度は、空隙測定機(Porometer;PMI社のCFP-1500-AEL)を用いて測定した。一般に、気体透過度はガーレー数(Gurley number)で表されるが、ガーレー数は、厚さの影響が補正されないため、空隙構造による相対的透過度が分かりにくい。これを解決するために、本開示の気体透過度は、下記数学式1により計算されるDarcy透過定数を用いて測定する。気体として窒素を用い、100~200psi領域で測定されたDarcy透過定数の平均値を計算した。
【0081】
[数学式1]
Darcy透過定数(C)=(8F・T・V)/(πD2(P2-1))
F=流速(cc/min)
T=サンプルの厚さ(mm)
V=気体の粘度(0.185 cp for N2)
D=サンプルの直径(mm)
P=圧力(psi)
【0082】
5.引張強度(kg/cm2)
引張強度は、ASTM D882に準じて、INSTRON社のUTM(Universal Test Machine)3345を用い、100mm/minの速度で微多孔膜を横方向と機械方向にそれぞれ引っ張って微多孔膜が破断される時の強度を測定した。
【0083】
6.横方向収縮率(%)
10cmの長さで縦方向と横方向がそれぞれ表示された15cm×15cmの微多孔膜を、131℃で温度安定化がなされたオーブン(ヤマト科学社のDKN612)にて1時間放置した後、長さの変化を測定し、下記数学式2の方法により横方向収縮率を計算した。
【0084】
[数学式2]
横方向収縮率(%)={(加熱前の横方向長さ-加熱後の横方向長さ)/加熱前の横方向長さ}×100
【0085】
7.ホットボックス評価
ホットボックス評価は、ポリエチレン微多孔膜をセパレータに適用して組み立てられた電池を用いて行った。具体的に、NCM622(Ni:Co:Mn=6:2:2)を活物質として用いた正極と、黒鉛炭素(Graphite carbon)を活物質として用いた負極とを、製造された微多孔膜とともに巻き取り、アルミニウムパウチに投入した後、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、およびジエチルカーボネートが3:5:2の体積比で含まれている溶液に、1Mのリチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF6)が溶解された電解液を注入して密封し、2Ah容量の電池を組み立てた。組み立てられた電池に対してエージング(Aging)と脱気(Degassing)作業を行った後、4.2Vまで満充電し、オーブンに入れて5℃/minに昇温し、130℃に達した後、30分間放置して電池の変化を測定した。
【0086】
130℃、30分放置の後に電池で発煙または発火が発生するとFail、電池の電圧/電流の変化がなく、発煙と発火が生じないとPassと判定した。
【0087】
8.フィルムの熱的特性分析
温度によって熱固定装置に導入されるフィルムの結晶が溶ける現象は、TA instrument社の示差走査熱量計(DSC)であるDiscovery DSC250を用いて分析し、試料重量5mgおよびスキャン速度10℃/minの条件で行った。
【0088】
詳細に、熱固定装置に導入されるフィルムの結晶が20%溶ける温度(Tm1)と50%溶ける温度(Tm2)はそれぞれ、熱固定装置に導入されるフィルムの全熱容量(Heat of fusion)に対する、20%の熱容量を示す地点の温度(Tm1)と50%の熱容量を示す地点の温度(Tm2)を算出する方式により測定した。
【0089】
9.空隙率(%)
空隙率は、下記数学式により計算して算出した。具体的に、横Acm、縦Bcm、厚さTcmのサンプルを準備し、質量を測定して、同一の体積の樹脂質量と微多孔膜の質量の割合から空隙率を算出した。
【0090】
空隙率(%)=100×{1-M/(A×B×T×ρ)}
前記数学式中、Mは微多孔膜の質量(g)であり、ρは微多孔膜を成すポリエチレン樹脂の密度(g/cm3)である。
【0091】
<実施例1>
重量平均分子量が5.0×105g/molで、溶融温度が135℃である高密度ポリエチレン樹脂(0.95g/cm3)と、40℃での動粘度が80cStであるパラフィンオイルを30:70の重量比で含有する混合物を二軸押出機を用いて溶融混練し、溶融物を製造した。
【0092】
前記溶融物をT-dieにより連続的に押出し、30℃に設定されたキャスティングロールを用いて、幅が300mm、平均厚さが700μmであるシートを製造した。前記シートを、延伸温度100℃で6倍となるように、ロール方式により縦方向延伸を行い、引き続きテンタに誘導し、延伸温度118℃で8倍に横方向延伸を行った。
【0093】
メチレンクロリドを用いて、25℃で、縦方向と横方向への延伸が完了されたフィルムからパラフィンオイルを抽出し、パラフィンオイルが抽出されたフィルムを50℃で乾燥した。乾燥が完了されたフィルムを、テンタタイプの熱固定装置を用いて、前記乾燥が完了されたフィルムの結晶の38%が溶ける温度である136℃で横方向に150%まで熱延伸した後、10秒間熱固定させ、熱緩和工程前の幅の93%に熱緩和(収縮)することで、厚さ5μmの微多孔膜を製造した。溶融温度は、TA Instrumentsから提供される示差走査熱量計(DSC)のDiscovery DSC250を用いて測定し、試料重量5mgおよびスキャン速度10℃/minの条件で測定を行った。
【0094】
最終的に製造された微多孔膜の物性、およびそれを適用した電池の性能を下記表2に記録した。
【0095】
<実施例2~実施例4および比較例1~比較例5>
縦/横方向の延伸比と熱固定温度を表1に記載の条件に変更した点を除き、実施例1と同様に行ってポリエチレン微多孔膜を製造し、最終的に製造された微多孔膜の物性、およびそれを適用した電池の性能を下記表2に記録した。
【0096】
【0097】
【0098】
前記表1および表2を参照すると、実施例の微多孔膜は、本開示が目的とする物性を何れも満たすことで、それを適用した電池は、ホットボックス評価を通過して優れた熱安全性が達成された。
【0099】
比較例1および比較例2の微多孔膜は、0.75を超える縦方向の延伸比と横方向の延伸比の比(SRMD/SRTD)で延伸ステップを行った結果、縦方向の引張強度と横方向の引張強度の比(TSMD/TSTD)が0.7を超え、131℃横方向収縮率が10%を超えたため、それを適用した電池の熱安全性が著しく低下する欠点がある。
【0100】
比較例3の微多孔膜は、0.75の縦方向の延伸比と横方向の延伸比の比(SRMD/SRTD)で延伸ステップを行ったが、熱固定温度を実施例より低温で行った結果、縦方向の引張強度と横方向の引張強度の比(TSMD/TSTD)が0.7を超え、131℃横方向収縮率が10%を超えたため、それを適用した電池の熱安全性が著しく低下する欠点がある。
【0101】
比較例4の微多孔膜は、縦方向の延伸比が4.0倍未満であり、0.5未満の縦方向の延伸比と横方向の延伸比の比(SRMD/SRTD)で延伸ステップを行った結果、縦方向の引張強度が低くて工程でフィルムの破断が発生したため、フィルムの製造が不可能であった。
【0102】
比較例5の微多孔膜は、横方向の延伸比が5.3倍未満であり、0.75を超える縦方向の延伸比と横方向の延伸比の比(SRMD/SRTD)で延伸ステップを行った結果、本開示が目的とする気体透過度を実現できず、それを適用した電池は、電池としての性能が実現不可能であり、熱安全性が著しく低下する欠点がある。
【0103】
以上のように、本明細書では特定の事項と限定された実施形態により本開示が説明されたが、これは、本開示のより全般的な理解のために提供されたものにすぎず、本開示は上記の実施形態に限定されない。本開示が属する分野において通常の知識を有する者であれば、このような記載から多様な修正および変形が可能である。