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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166135
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】化粧品原料及び化粧品
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20241121BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241121BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
A61Q19/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024078862
(22)【出願日】2024-05-14
(31)【優先権主張番号】P 2023081053
(32)【優先日】2023-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100209347
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】礒野 康幸
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC02
4C083EE12
4C083EE16
(57)【要約】
【課題】これまで廃棄されていたコーヒーノキ果実の果肉及び果皮のいずれか一方又は両方を使用した化粧品原料及び前記化粧品原料を含む化粧品の提供。
【解決手段】コーヒーノキ(Coffea arabica)果実の果肉及び果皮のいずれか一方、若しくは両方の乾燥体、又は抽出物である化粧品原料であり、抗酸化、美白、シミ防止、抗アレルギー、抗炎症、抗老化、肌荒れ防止、及び抗糖化からなる群より選ばれる少なくとも1種の効果を有する、化粧品原料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒーノキ(Coffea arabica)果実の果肉及び果皮のいずれか一方、若しくは両方の乾燥体、又は抽出物である化粧品原料。
【請求項2】
前記抽出物の抽出溶媒は、水、低級飽和アルコール、芳香族アルコール、又はそれらの混合物であり、前記低級飽和アルコール及び前記芳香族アルコールは多価アルコールでもよい、請求項1に記載の化粧品原料。
【請求項3】
前記乾燥体の粒径は、1mm以下である、請求項1に記載の化粧品原料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の化粧品原料を含む、化粧品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品原料及び化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒーノキは、アカネ科コーヒーノキ属に属する植物で、栽培種としてはアラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種などが知られており、主にコーヒーベルトと呼ばれる、北緯25度から南緯25度の間で栽培されている。
【0003】
コーヒーノキから収穫された果実(コーヒーチェリー)の中には種子が2粒入っており、この種子を取り出したものがコーヒー豆である。コーヒー豆は、乾燥、焙煎、粉砕され、コーヒー飲料の原料として用いられる。
【0004】
果実からコーヒー豆を取り出す精製過程では、多くの果肉及び果皮が発生するが、果肉には可食部がほとんどないため食用には供されず、その他の利用方法がほとんどないため廃棄されているのが現状である。廃棄されている果肉及び果皮を有効利用することが出来れば、環境問題に貢献することができるため、種々の検討が行われている。
【0005】
例えば特許文献1では、果肉及び果皮を乾燥粉砕し、焙煎したコーヒー豆に配合する利用方法を開示している。また特許文献2では、果肉及び果皮を加熱水蒸気により乾燥し、燃料等に用いる方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007-519415号公報
【特許文献2】特開2013-227418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の利用方法は限定的であり、さらに幅広い用途開発が望まれている。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、これまで廃棄されていたコーヒーノキ果実の果肉及び果皮のいずれか一方又は両方を使用した化粧品原料及び前記化粧品原料を含む化粧品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を有する。
[1] コーヒーノキ(Coffea arabica)果実の果肉及び果皮のいずれか一方、若しくは両方の乾燥体、又は抽出物である化粧品原料。
[2] 前記抽出物の抽出溶媒は、水、低級飽和アルコール、芳香族アルコール、又はそれらの混合物であり、前記低級飽和アルコール及び前記芳香族アルコールは多価アルコールでもよい、[1]に記載の化粧品原料。
[3] 前記乾燥体の粒径は、1mm以下である、[1]に記載の化粧品原料。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の化粧品原料を含む、化粧品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、これまで廃棄されていたコーヒーノキ果実の果肉及び果皮のいずれか一方又は両方を使用した化粧品原料及び前記化粧品原料を含む化粧品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0011】
≪化粧品原料≫
本実施形態の化粧品原料は、コーヒーノキ(Coffea arabica)果実の果肉及び果皮のいずれか一方、若しくは両方の乾燥体、又は抽出物である。前記化粧品原料は、抗酸化、美白、シミ防止、抗アレルギー、抗炎症、抗老化、肌荒れ防止、及び肌引締めからなる群より選ばれる少なくとも1種の効果を有する。
【0012】
コーヒーノキは、アカネ科コーヒーノキ属に属する植物の総称である。コーヒーノキは、大別してアラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種の3種類である。本実施形態においては、前記3種及び前記3種以外の派生種を含めたいずれの品種のコーヒーノキも使用できる。
【0013】
コーヒーノキ果実は、外側から核果、2個の種子(コーヒー豆)という構造になっている。また、核果は、外側から、外皮、果肉、内果皮(パーチメント)という構造になっている。また、種子は、外側から種皮(銀皮、シルバースキンともいう。)、生豆という構造になっている。
本明細書において「果肉」とは、前記果肉を意味する。
本明細書において「果皮」とは、前記外皮、及び前記内果皮を意味する。
すなわち、本明細書において、「果肉」、「果皮」に、前記銀皮、前記生豆は含まれない。
【0014】
<乾燥体>
本実施形態の化粧品原料は、コーヒーノキ(Coffea arabica)果実の果肉及び果皮のいずれか一方、若しくは両方の乾燥体である。すなわち、本実施形態の化粧品原料は、コーヒーノキ果実の果肉、外皮、及び内果皮のいずれか一種以上の乾燥体であり、果肉、外皮、及び内果皮の乾燥体であることが好ましい。生豆を取り出す精製過程で発生する果肉、果皮を使用することが好ましい。乾燥体は、種子(銀皮、生豆)を実質的に含まない。乾燥体が種子(銀皮、生豆)を実質的に含まないとは、乾燥体の総質量に対する種子の含有量が5質量%以下であることを意味し、1質量%以下であることが好ましく、0質量%であることがより好ましい。すなわち、乾燥体の総質量に対する果肉及び果皮の合計含有量は、95質量%以上であり、99質量%以上であることが好ましく、100質量%であることがより好ましい。
【0015】
乾燥体は、果肉、果皮を必要に応じて乾燥処理及び粉砕処理することにより得ることができる。乾燥処理と粉砕処理の順番は限定されず、乾燥処理を行った後に粉砕処理を行ってもよいし、粉砕処理を行った後に乾燥処理を行ってもよいし、乾燥処理と粉砕処理を同時に行ってもよい。
【0016】
乾燥処理は、本分野で公知の乾燥処理を採用することができ、例えば、天日乾燥、送風乾燥、熱風乾燥、赤外線乾燥などが挙げられる。
粉砕処理は、本分野で公知の粉砕処理を採用することができ、例えば、乾式粉砕、湿式粉砕、低温粉砕などが挙げられる。
【0017】
乾燥体の総質量に対する水分量は、加熱乾燥法で得られる数値として20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましく、3質量%以下であることが最も好ましい。
【0018】
乾燥体の粒径は用途に応じて調整されるため特に限定されないが、乾燥体をクレンジング剤として化粧品に配合する場合、1mm以下であることが好ましく、200μm超500μm以下であることがより好ましい。乾燥体の粒径が前記下限値超であると、毛穴に入り込んだ乾燥体を洗い流しやすくなる。乾燥体の粒径が前記上限値以下であると、化粧品の使用時に肌を傷つけにくい。
【0019】
乾燥体の粒径の測定及び制御は、篩分けにより行うことができる。例えば、粒径が1mm以下の乾燥体は、目開き1mmのメッシュを通過した乾燥体として得ることができる。粒径が200μm超500μm以下の乾燥体は、目開き500μmのメッシュを通過し、かつ、目開き200μmのメッシュを通過しない乾燥体として得ることができる。
【0020】
<抽出物>
本実施形態の化粧品原料は、コーヒーノキ(Coffea arabica)果実の果肉及び果皮のいずれか一方、若しくは両方の抽出物である。すなわち、本実施形態の化粧品原料は、コーヒーノキ果実の果肉、外皮、及び内果皮のいずれか一種以上の抽出物であり、果肉、外皮、及び内果皮の抽出物であることが好ましい。生豆を取り出す精製過程で発生する果肉、果皮を使用することが好ましい。抽出原料は実質的にコーヒーノキ(Coffea arabica)果実の果肉及び果皮のいずれか一方、若しくは両方のみからなり、種子(銀皮、生豆)を実質的に含まない。抽出原料が種子(銀皮、生豆)を実質的に含まないとは、抽出原料の総質量に対する種子の含有量が5質量%以下であることを意味し、1質量%以下であることが好ましく、0質量%であることがより好ましい。すなわち、抽出原料の総質量に対する果肉及び果皮の合計含有量は、95質量%以上であり、99質量%以上であることが好ましく、100質量%であることがより好ましい。
【0021】
抽出物の抽出溶媒は、水、低級飽和アルコール、芳香族アルコール、又はそれらの混合物であることが好ましい。また、前記低級飽和アルコール及び前記芳香族アルコールは1価のアルコールでも多価アルコールでもよい。なお、本実施形態の抽出においては、抽出溶媒のみを使用すればよく、酵素などを添加する必要はない。
本明細書において「低級飽和アルコール」とは、炭素原子数が5個以下の飽和脂肪族アルコールを意味する。本明細書において「芳香族アルコール」とは芳香環を有するアルコールを意味する。
【0022】
1価の低級飽和アルコールとしては、炭素原子数が2~5個の直鎖又は分岐のアルカン中の1個の水素原子が水酸基で置換された低級飽和アルコールが例として挙げられ、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノールが好ましい。
【0023】
多価の低級飽和アルコールとしては、炭素原子数が3~5個の直鎖又は分岐のアルカン中の2~3個の水素原子が水酸基で置換された低級飽和アルコールが例として挙げられ、グリセリン、ブチレングリコール、ペンチレングリコールが好ましい。
【0024】
1価の芳香族アルコールとしては、芳香環を有する炭素原子数が7~10個の有機化合物中の1個の水素原子が水酸基で置換された芳香族アルコールが例として挙げられ、ベンジルアルコール、フェノキシエタノールが好ましい。
【0025】
抽出原料の100質量部に対する溶媒の使用量は、例えば、100~5000質量部であることが好ましく、300~3000質量部であることがより好ましく、200~2000質量部であることがさらに好ましい。溶媒の使用量が前記範囲の下限値以上であると、均一な抽出および固液分離が容易となる。溶媒の使用量が前記範囲の上限値以下であると、溶媒および溶媒留去または濃縮のコストが小さくなる。
【0026】
抽出方法は特に限定されず、果肉、果皮等に溶媒を加えて静置する静置抽出、果肉、果皮等に溶媒を加えて撹拌する撹拌抽出、果肉、果皮等に溶媒を加えて超音波処理する超音波抽出等の公知の方法で実施することができる。
抽出温度は、常圧下では常温でもよく、常温よりも高い温度でもよい。抽出温度としては、目的物質が変性しない温度範囲で行えばよい。また、溶媒の沸点を超える温度で抽出を行う場合は、還流等により蒸発した溶媒を回収して戻すことができるような設備を用いればよい。抽出温度は、20~200℃であることが好ましく、50~150℃であることがより好ましく、70~90℃であることがさらに好ましい。抽出温度が前記範囲の下限値以上であると、有効な成分を効果的に抽出しやすくなる。抽出温度が前記範囲の上限値以下であると、投入エネルギーの増大、有効な成分の分解などを抑制できる。
抽出圧力は常圧でもよく、加圧でもよい。例えば、温度及び圧力を超臨界条件とした超臨界抽出を採用してもよい。
【0027】
抽出を行った後、抽出液をろ過、遠心分離等により上清と残渣に分離し、得られた上清が本発明の抽出物である。得られた上清には、固形分も含まれている。抽出物中の固形分の含有量は、赤外線式水分計により測定することができる。
遠心分離における遠心力は、10~5000Nであることが好ましく、100~3000Nであることがより好ましく、500~1000Nであることがさらに好ましい。
本実施形態の抽出物を化粧品原料として使用する場合、固形分濃度を0.01~50質量%に調整することが好ましく、0.1~10質量%に調整することがより好ましい。
【0028】
本実施形態の化粧品原料は、天然物由来の高い安全性を有する。また、これまで廃棄されていたコーヒーノキ果実の果肉及び果皮のいずれか一方又は両方を有効利用する。
また、本実施形態の乾燥体としての化粧品原料は、天然物由来であるため、生分解性を有しており、非分解性のマイクロプラスチックの代替品として使用することができる。
すなわち、本実施形態の化粧品原料は、環境問題にも貢献することができる。
【0029】
本実施形態の化粧品原料は、化粧品原料としての効果を有する。具体的には、本発明者は、これまで廃棄されていたコーヒーノキ果実の果肉及び果皮のいずれか一方又は両方を利用する本実施形態の化粧品原料が、抗酸化、美白、シミ防止、抗アレルギー、抗炎症、抗老化、肌荒れ防止、及び肌引締めからなる群より選ばれる少なくとも1種の効果を有することを見出した。
【0030】
(抗酸化)
本明細書において、「抗酸化」は、1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl(以下、「DPPH」ともいう)ラジカル消去能、Super Oxide Dismutase(以下、「SOD」ともいう)様活性、又はポリフェノール含有量により評価することができる。
【0031】
DPPHラジカル消去能は、後述の実施例に記載のDPPHラジカル消去能測定試験により測定することができる。フリーラジカルが酸素と反応して発生する活性酸素種には、スーパーオキサイドアニオンラジカル、ヒドロキシルラジカル、ヒドロペルヒドロキシルラジカルなどがあり、生体内で様々な物質を酸化させ、様々な疾病や老化の原因となると考えられている。DPPHラジカル消去能測定試験では、安定な有機ラジカルであるDPPHラジカルを用い、DPPHラジカルの除去量を定量し、DPPHラジカル消去能として評価する。なお、DPPHラジカルは有色であるが、還元されると無色となるため、この色の変化によりDPPHラジカルの除去量を定量することが可能である。
【0032】
DPPHラジカル消去能が高いということは抗酸化の効果が高いことを意味する。DPPHラジカル消去能が高い物質は、活性酸素が関与する皮膚の光老化(シワ発生、肌のハリ、弾力低下、色素沈着、シミやくすみの定着)の抑制効果が期待できる。
【0033】
SOD様活性は、後述の実施例に記載のSOD様活性測定試験により測定することができる。SODは、スーパーオキサイドアニオンラジカル(・O )を、酸素と過酸化水素に変換する反応(2・O +2H→H+O)を触媒する酵素である。スーパーオキサイドアニオンラジカルは、活性酸素の一種で、細胞のエネルギーを作り出す過程で日常的に発生している物質である。スーパーオキサイドアニオンラジカルは、生体内では殺菌物質として体を守る役割を果たしている一方で、様々な疾患や老化などに関与しているともいわれている。このように、スーパーオキサイドアニオンラジカルには有効性だけでなく危険性もあるため、生体内には、余剰に発生したスーパーオキサイドアニオンラジカルをSODによって分解する仕組みが存在している。一般に細胞内のSOD活性は、年齢とともに低下していき、若い細胞であっても、スーパーオキサイドアニオンラジカルによるダメージは少なからず受けている。
【0034】
SOD様活性が高いということは抗酸化の効果が高いことを意味する。SOD様活性が高い物質は、余剰スーパーオキサイドアニオンラジカルを分解に寄与し、細胞の老化スピードを抑えることができ、若々しい肌を保つ効果が期待される。
【0035】
ポリフェノール含有量は、後述の実施例に記載のポリフェノール含有量測定により測定することができる。
ポリフェノールは、複数のフェノール性ヒドロキシル基(ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香環に結合したヒドロキシル基)を分子内に有する化合物の総称である。ポリフェノールは、天然の抗酸化剤、抗ラジカル物質であることが知られている。また、ポリフェノールは分子内に多数のヒドロキシル基を有することから、皮膚の水分を保持することが可能であり、保湿剤としての効果も期待される。
【0036】
(美白、シミ防止)
本明細書において、「美白」、「シミ防止」は、チロシナーゼ活性阻害率により評価することができる。
【0037】
チロシナーゼ活性阻害率は、後述の実施例に記載のチロシナーゼ活性阻害試験により測定することができる。チロシナーゼとは、メラニン色素を作り出す色素細胞(メラノサイト)が有している酵素である。一般に、シミ、ソバカスは、メラニン色素が過剰に生成、蓄積することによって引き起こされることが知られている。太陽光の紫外線、ストレス、大気汚染などに皮膚が曝されると、皮膚の表面で活性酸素が発生し、その刺激によってメラノサイトが活性化され、チロシナーゼが生成される。生成されたチロシナーゼはアミノ酸の一種であるチロシンと反応し、さらにいくつかの過程を経てメラニンが生成される。
【0038】
チロシナーゼ活性阻害率が高い物質は、メラニンの生成を抑制可能であり、美白、シミ防止の効果が期待される。
【0039】
(抗アレルギー、抗炎症)
本明細書において、「抗アレルギー」、「抗炎症」は、ヒアルロニダーゼ活性阻害率により評価することができる。
【0040】
ヒアルロニダーゼ活性阻害率は、後述の実施例に記載のヒアルロニダーゼ活性阻害試験により測定することができる。ヒアルロン酸は、関節および真皮表層などに多く存在し、関節の潤滑、皮膚の柔軟化などの役割を持つ。ヒアルロニダーゼはヒアルロン酸を分解する酵素である。ヒアルロニダーゼがヒアルロン酸を分解することにより、結合組織の循環再構築などの役割を担っていると考えられている。一方、ヒアルロニダーゼは炎症時に活性化され、組織の構造を破壊し、炎症系細胞の透過性を亢進させる面も持つ。また、花粉症、アレルギー性鼻炎などのI型アレルギーは、花粉などの抗原に対する抗体が、マスト細胞の表面に結合し、ヒスタミンなどの化学伝達物質がマスト細胞から放出されることにより発症する。ヒアルロニダーゼはこのヒスタミンの放出に関与しており、アレルギーの発生にも関与していると考えられている。
【0041】
ヒアルロニダーゼ活性阻害率が高い物質は、抗アレルギー、抗炎症の効果が期待される。
【0042】
(抗老化)
本明細書において、「抗老化」は、エラスターゼ活性阻害率又はコラゲナーゼ活性阻害率、抗糖化活性により評価することができる。
【0043】
エラスターゼ活性阻害率は、エラスターゼ活性阻害試験により測定することができる。エラスチンは、網目状に構成されるコラーゲンを結びつけ、コラーゲンとともに肌のハリを維持している。エラスターゼは、エラスチンを分解する酵素である。弾力性を有する繊維であるエラスチンが、加齢や紫外線、活性酸素などの外的ストレスやエラスターゼによる分解によって減少すると、シワやたるみなど老化の原因となる。
【0044】
エラスターゼ活性阻害率が高い物質は、肌のハリを回復又は維持させ、肌を若々しく保つ効果が期待される。
【0045】
コラゲナーゼ活性阻害率は、後述の実施例に記載のコラゲナーゼ活性阻害試験により測定することができる。コラーゲンは皮膚や骨などに多く含まれ、その構造維持に大きく関与している。コラゲナーゼは、コラーゲンを分解する酵素である。コラゲナーゼが加齢や紫外線などの要因によって活性化されると、皮膚のコラーゲンが分解され、皮膚の構造に緩みが生じ、シワやたるみの発生などのいわゆる老化現象が起こる。
【0046】
コラゲナーゼ活性阻害率が高い物質は、シワやたるみなどの老化現象を抑制する効果が期待される。
【0047】
抗糖化活性は、後述の実施例に記載の抗糖化活性測定試験により測定することができる。糖化反応は、糖がタンパク質や脂質などに酵素の触媒作用を必要とせずに結合する反応を意味する。糖化反応としては、食品のこげや、醤油等の着色が例示される。糖化反応が体内で発生すると、体内のタンパク質が変性し、正常に機能しなくなることで糖尿病や動脈硬化、アルツハイマーなどの原因になると考えられている。また、皮膚における糖化反応では、表皮内に存在するケラチンなどのタンパク質が糖分と結合することにより、肌の透明感が損なわれ、くすみが生じる。一方、真皮では、コラーゲンやエラスチンなどの繊維が糖化反応により弾力性を失い、シワやたるみ、肌の弾力低下など、いわゆる皮膚老化が発生する。頭皮では、真皮層の弾力が失われることで血行不良や新陳代謝の低下を招き、血行不良によって頭皮に栄養が行き届かず、髪を作る毛母細胞の働きが弱まり、抜け毛や薄毛を招く結果となる。
【0048】
抗糖化活性が高い物質は、抜け毛防止効果などの抗老化効果が期待できる。
【0049】
(肌荒れ防止)
本明細書において、「肌荒れ防止」は、リパーゼ活性阻害率により評価することができる。
【0050】
リパーゼ活性阻害率は、後述の実施例に記載のリパーゼ活性阻害試験により測定することができる。脂性肌が原因で生じる皮膚病や炎症の多くはアクネ菌が関与していることが知られている。アクネ菌は、リパーゼという脂肪分解酵素を分泌するため、皮脂のトリグリセライドが加水分解され、刺激性を有する遊離脂肪酸が生じる。これら脂肪酸が好中球を活性化し、活性化好中球が活性酸素を放出することでアクネ炎症因子や毛嚢が刺激されニキビ、フケが発生する原因となる。
【0051】
リパーゼ活性阻害率が高い物質は、ニキビやフケなどの肌荒れ防止の効果が期待される。
【0052】
(肌引締め)
本明細書において、「肌引締め」は、アルブミン凝集性試験により評価することができる。
【0053】
アルブミン凝集性試験は、タンパク質の一種であるアルブミンに対する収縮効果を測定する試験であり、収斂作用を評価することができる。透明なタンパク質溶液に収斂物質を加えるとタンパク質が収縮し、溶液が濁る。この時の濁度を測定することで、収斂物質の効果を評価することができる。収斂作用がない場合、溶液は透明なままとなる。
収斂作用とは、タンパク質を変性させることにより組織や血管を縮める作用のことを指す。収斂作用によって肌を引き締めると、毛穴は目立たなくなる。また、収斂作用を持つ物質には止血、鎮痛、防腐などの効果がある。
【0054】
このようなことから、アルブミン凝集性を有する成分を化粧品に添加することにより、収斂(肌の引き締め)毛穴対策などの効果が期待できる。
【0055】
≪化粧品≫
本実施形態の化粧品は、上述の化粧品原料を含む。
本明細書において「化粧品」とは、体を清潔にしたり、外見を際立たせる目的で、皮膚等に塗布等するもので、作用が緩和なものを意味する。より具体的には、医薬品医療機器等法第2条第3項に定義されている化粧品及び医薬部外品を含む。
このような化粧品としては、化粧水、乳液、洗顔料、クレンジング、美容液、クリーム等の基礎化粧品(スキンケア)、ファンデーション、眉墨、マスカラ、アイシャドー、アイライン、口紅、グロス、頬紅、白粉、マニュキアなどの仕上げ化粧品(メイクアップ)が例として挙げられる。また、上記化粧品以外にも、体の顔以外部分を洗浄するためのシャンプー、リンス、コンディショナー、固形石鹸、液体石鹸なども例として挙げられる。
【0056】
本実施形態の化粧品原料はそのまま化粧品に配合することができる。また、化粧品原料に必要な添加剤を添加して化粧品材料とし、得られた化粧品材料を化粧品に配合することができる。
化粧品原料が抽出物の場合、添加剤としては、防腐剤、pH調整剤、乳化剤、乳化安定剤、増粘剤、香料、油脂類、界面活性剤などが例として挙げられる。
化粧品原料が乾燥体の場合、添加剤としては、増量剤、抗ケーキング剤、帯電防止剤などが例として挙げられる。
【0057】
防腐剤としては、本分野で公知の防腐剤を使用することができ、フェノキシエタノール、エタノール、デヒドロ酢酸、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチルなどが例として挙げられる。
【0058】
pH調整剤としては、本分野で公知のpH調整剤を使用することができ、クエン酸、乳酸、サリチル酸、酒石酸、りんご酸、安息香酸、クエン酸ナトリウム、フマル酸、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素カリウムなどの有機酸、無機酸及びそれらの塩などが例として挙げられる。
【0059】
増粘剤としては、本分野で公知の増粘剤を使用することができ、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム、ベントナイトなどが例として挙げられる。
【0060】
油脂類としては、本分野で公知の油脂類を使用することができ、大豆油、アーモンド油、セタノール、アボガド油、オリーブ油、ホホバ油、ヤシ油、パーム油、ヌカ油、ホホバ油、卵黄油、ひまし油、スクワラン、アボガド油、ラノリンなどの植物性油脂、牛脂、豚脂、馬脂、ミンク油、パーセリン油、スクワランなどの動物性油脂、メチルポリシロキサン、ベヘニルアルコール、トリカプリン酸グリセリル、トリオクタン酸グリセリル、流動パラフィンなどの合成油脂などが例として挙げられる。
【0061】
界面活性剤としては、本分野で公知の界面活性剤を使用することができ、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリン酸ジエタノールアミドなどの陰イオン性界面活性剤、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウムなどの陽イオン性界面活性剤、グリセリルモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ショ糖エステル、脂肪酸アミドなどの非イオン性界面活性剤などが例として挙げられる。
【0062】
化粧品原料が抽出物の場合、化粧品の総質量に対する抽出物の配合量は、化粧品基準(厚生省告示第331号)に最大配合量(配合上限)の記載がある成分(配合制限成分)以外は特に上限はない。費用対効果を考慮し、使用者が適宜配合量を決定すればよい。すなわち、抽出物の配合量は、その用途によって適宜調整できるため、特に制限はないが、例えば、乾燥固形分に換算して、0.0001~5質量%であることが好ましく、0.001~3質量%であることがより好ましく、0.01~1質量%であることがさらに好ましい。
【0063】
化粧品原料が乾燥体の場合、化粧品の総質量に対する乾燥体の配合量は、化粧品基準(厚生省告示第331号)に最大配合量(配合上限)の記載がある成分(配合制限成分)以外は特に上限はない。費用対効果を考慮し、使用者が適宜配合量を決定すればよい。すなわち、乾燥体の配合量は、その用途によって適宜調整できるため、特に制限はないが、例えば、乾燥固形分に換算して、0.01~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましく、1~3質量%であることがさらに好ましい。
【実施例0064】
以下、実施例によって本発明を詳細に示す。但し、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0065】
<評価方法>
(DPPHラジカル消去能測定試験)
DPPH(富士フィルム和光純薬社製)の0.2mmol/L溶液1(溶媒:無水エタノール、富士フィルム和光純薬製))、及び後述の実施例2の抽出液2の200mg/mL溶液2を調製した。
溶液1の2mLと、溶液2の2mLを試験管中で均一に混合し、試験反応溶液1とした。
溶液2の2mLと、メタノール(富士フィルム和光純薬社製)の2mLを試験管中で均一に混合し、対照ブランク溶液1とした。
溶液1の2mLと、メタノール(富士フィルム和光純薬社製)の2mLを試験管中で均一に混合し、対照試験反応溶液1とした。
各溶液を遮光条件で30分間反応させ、517nmの吸光度を測定した。得られた吸光度から下式1によりDPPHラジカル消去能を算出した。
DPPHラジカル消去能(%)=(Cb-S)/(Cb-C)}×100 式1
前記式1中、Sは試験反応溶液1の517nmの吸光度、Cは対照試験反応溶液1の517nmの吸光度、Cbは対照ブランク溶液1の517nmの吸光度を示す。
【0066】
6-hydroxy-2,5,7,8-tetramethylchroman-2-carboxylic acid(富士フィルム和光純薬製、以下「Trolox」ともいう)を標準物質として用いて予め作成した検量線(横軸:DPPHラジカル消去能、縦軸:Traloxの濃度)を用いて、上記試験にて得られた試験反応溶液1のDPPHラジカル消去能からTralox当量を求めた(mM)を求めた。
【0067】
(SOD様活性測定試験)
SOD様活性測定試験は、SOD Assay Kit-WST(同仁化学社製)を用いて行った。SOD Assay Kit-WSTは、キサンチンとキサンチンオキシダーゼとの反応によってスーパーオキサイドラジカルを発生させ、さらに、スーパーオキサイドラジカルとキット付属の発色試薬との反応によって黄色のテトラゾリウム塩WST-1が生成することを利用するものである。例えば、試料がスーパーオキサイドラジカル分解活性を有する場合、発生したスーパーオキサイドラジカルが分解されるため、WST-1の生成量が減少し、反応溶液の黄色の発色が抑制される。したがって、この黄色の発色に相当する波長の吸光度を測定することにより、SOD様活性を測定することができる。
【0068】
後述の実施例2の抽出液2の120μg/mL溶液3(溶媒:50体積%エタノール、50体積%蒸留水の混合溶液、純正化学社製)を調製した。96ウェルマイクロプレート(コーニング社製)のウェルに溶液3を20μL添加し、次いでWST溶液を200μL加え、プレートミキサーで撹拌した。その後、ウェルに酵素溶液を20μL加え、試験反応溶液2を調製した。
酵素溶液に代えてウェルに希釈緩衝液を20μL加えた以外は、前記試験反応溶液2の調製と同様の操作を行い、試験ブランク溶液2を調製した。
溶液3に代えて、ウェルに50体積%エタノール、50体積%蒸留水の混合溶液(純正化学社製)を20μL加えた以外は、前記試験反応溶液2の調製と同様の操作を行い、対照反応溶液2を調製した。
酵素溶液に代えてウェルに希釈緩衝液を20μL加えた以外は、前記対照反応溶液2の調製と同様の操作を行い、対照ブランク溶液2を調製した。
プレートを37℃で20分間インキュベートした。
インキュベート後、マイクロプレートリーダー(モデル680:バイオラッド社製)を用いて、プレート中の試験反応溶液2、試験ブランク溶液2、対照反応溶液2、対照ブランク溶液2の450nmの吸光度を測定した。得られた吸光度から下式2によりSOD様活性を算出した。
SOD様活性(%)={1-(S-Sb)/(C-Cb)}×100 式2
前記式2中、Sは試験反応溶液2の450nmの吸光度、Sbは試験ブランク溶液2の450nmの吸光度、Cは対照反応溶液2の450nmの吸光度、Cbは対照ブランク溶液2の450nmの吸光度を示す。
【0069】
なお、表1中のSOD様活性の単位は、units/mLであるが、前記%からunits/mLへの変換は以下のように行うことができる。本測定キットにおいて、「50%阻害を示すサンプル溶液20μLに含まれるSOD量(SOD様活性)が1単位(unit)」と定義されているため、被験物質の阻害曲線より阻害率50%(IC50)の時の希釈率を求める。阻害率50%(IC50)を示す点が1ユニット(unit) であるため、ここに希釈倍率を掛けることで元のサンプルのSOD量(SOD様活性)が算出できる。
【0070】
(ポリフェノール含有量測定)
後述の実施例2の抽出液2の10mg/mL溶液4(溶媒:80体積%エタノール水溶液)を調製し、さらに溶液4を蒸留水で10倍希釈して、後述の実施例2の抽出液2の1.0mg/mLの溶液5を調製した。溶液5の2mLに5倍希釈フェノール試薬(フェノール(フォーリン-チオカルト)試薬、富士フィルム和光純薬製)の2mL、10質量%炭酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬社製)水溶液の2mLを加え、撹拌して1時間反応させた。反応溶液を濾過し、得られた上清の760nmの吸光度を測定した。
没食子酸を標準物質として用いて予め作成した検量線(横軸:760nmの吸光度、縦軸:没食子酸の濃度)を用いて、前記上清の760nmの吸光度から後述の実施例2の抽出液2の1mL中のポリフェノール含有量(μg/mL)を求めた。
【0071】
(コラゲナーゼ活性阻害試験)
コラゲナーゼType IV(Clostridium histolyticum由来、Sigma―Aldrich社製)を0.1mg/mLとなるように20mM CaCl(富士フィルム和光純薬社製)を含む0.1M Tris-HCl緩衝液(pH=7.1、富士フィルム和光純薬社製)を加え、酵素溶液を調製した。
Pz-Pro-Leu-Gly-Pro-D-Arg-OH(コスモバイオ社製)を0.39mg/mLとなるように20mM CaCl(富士フィルム和光純薬社製)を含む0.1M Tris-HCl緩衝液(pH=7.1、富士フィルム和光純薬社製)を加え、基質溶液を調製した。
蓋付き試験管に後述の実施例2の抽出液2の12.5μL、酵素溶液の12.5μL、基質溶液の100μLを加え、試験反応溶液4を調製した。
酵素溶液に代えて、20mM CaCl(富士フィルム和光純薬社製)を含む0.1M Tris-HCl緩衝液(pH=7.1、富士フィルム和光純薬社製)を12.5μL加えた以外は、前記試験反応溶液4の調製と同様の操作を行い、試験ブランク溶液4を調製した。
後述の実施例2の抽出液2に代えて、20mM CaCl(富士フィルム和光純薬社製)を含む0.1M Tris-HCl緩衝液(pH=7.1、富士フィルム和光純薬社製)を12.5μL加えた以外は、前記試験反応溶液4の調製と同様の操作を行い、対照反応溶液4を調製した。
酵素溶液に代えて、20mM CaCl(富士フィルム和光純薬社製)を含む0.1M Tris-HCl緩衝液(pH=7.1、富士フィルム和光純薬社製)を12.5μL加えた以外は、前記対照反応溶液4の調製と同様の操作を行い、対照ブランク溶液4を調製した。
各溶液を37℃で30分間反応させ、25mM クエン酸(富士フィルム和光純薬社製)溶液の250μLを加えて反応を停止させた。次に、酢酸エチル(純正化学製)の1.25mLを加えて激しく振とうし、5℃で、4000G、10分間の遠心分離を行った。得られた試験反応溶液4、試験ブランク溶液4、対照反応溶液4、対照ブランク溶液4の酢酸エチル層の320nmにおける吸光度を測定した。得られた吸光度から下式4によりコラゲナーゼ活性阻害率を算出した。
コラゲナーゼ活性阻害率(%)={1-(S-Sb)/(C-Cb)}×100 式4
前記式4中、Sは試験反応溶液4の320nmの吸光度、Sbは試験ブランク溶液4の320nmの吸光度、Cは対照反応溶液4の320nmの吸光度、Cbは対照ブランク溶液4の320nmの吸光度を示す。
【0072】
(エラスターゼ活性阻害試験)
96ウェルマイクロプレート(コーニング社製)のウェルに後述の実施例2の抽出液2を50μL、エラスターゼ酵素(Sigma―Aldrich社製)の1.25μg/mL溶液を50μL、N―Succinyl-Ala-Ala-Ala-p―Nitroanilide(Sigma―Aldrich社製)溶液を100μL加え、試験反応溶液3を調製した。
エラスターゼ酵素溶液に代えてウェルに希釈緩衝液(0.05M Tris-HCl緩衝液)を50μL加えた以外は、前記試験反応溶液3の調製と同様の操作を行い、試験ブランク溶液3を調製した。
後述の実施例2の抽出液2に代えて、ウェルに蒸留水を20μL加えた以外は、前記試験反応溶液3の調製と同様の操作を行い、対照反応溶液3を調製した。
エラスターゼ酵素溶液に代えてウェルに希釈緩衝液(0.05M Tris-HCl緩衝液)を50μL加えた以外は、前記対照反応溶液3の調製と同様の操作を行い、対照ブランク溶液3を調製した。
プレートを270rpmで30秒間振とうした後、37℃で15分間インキュベートした。その後、プレートを270rmpで10秒間振とうした後、マイクロプレートリーダー(モデル680:バイオラッド社製)を用いて、プレート中の試験反応溶液3、試験ブランク溶液3、対照反応溶液3、対照ブランク溶液3の415nmの吸光度を測定した。得られた吸光度から下式3によりエラスターゼ活性阻害率を算出した。
エラスターゼ活性阻害率(%)={(C-Cb)-(S-Sb)}/(C-Cb)×100 式3
前記式3中、Sは試験反応溶液3の415nmの吸光度、Sbは試験ブランク溶液3の415nmの吸光度、Cは対照反応溶液3の415nmの吸光度、Cbは対照ブランク溶液3の415nmの吸光度を示す。
なお、試験反応溶液3、試験ブランク溶液3、対照反応溶液3、対照ブランク溶液3はそれぞれ3つ用意し、S、Sb、C、Cbとしてはそれらの平均値を用いた。
【0073】
(ヒアルロニダーゼ活性阻害試験)
ヒアルロニダーゼType IV-S(牛睾丸由来、Sigma―Aldrich社製)を400units/mLとなるように0.1M 酢酸緩衝液(pH=4)を加え、酵素溶液を調製した。
96ウェルマイクロプレート(コーニング社製)のウェルに後述の実施例2の抽出液2を20μL、酵素溶液を100μL加え、37℃で15分間プレインキュベートした。次にウェルにCompound 48/80の0.5mg/mL溶液(Sigma-Aldrich社製)の反応活性剤を20μL加え、37℃で20分間インキュベートした。さらにウェルにヒアルロン酸の400μg/mL溶液(キッコーマンバイオケミファ社製)を50μL加え、37℃で40分間インキュベートした。その後、0.4N NaOH溶液(純正化学社製)を20μL加え、速やかにプレート氷上に移し、反応を停止した。次に、水酸化カリウム(純正化学社製)の2.24gを0.8M ホウ酸水溶液(富士フィルム和光純薬社製)の100mLに溶解させて調製したホウ酸緩衝液(pH=9.1)を20μL加え、プレートを3分間、90℃で煮沸した。煮沸後、プレートを氷上に移し、試験用溶液を調製した。96ウェルマイクロプレート(コーニング社製)のウェルに得られた試験用溶液を50μL加え、さらに4-Dimethyl aminobenzaldehydeの1.0gを酢酸8mL及び塩酸2.0mLに溶解させたP-DMBA試薬を200μL加え、37℃で20分間発光反応させ、試験反応溶液5として調製した。
酵素溶液に代えて、0.1M 酢酸緩衝液(pH=4)を100μL加えた以外は、前記試験反応溶液5の調製と同様の操作を行い、試験ブランク溶液5を調製した。
抽出液2に代えて、蒸留水を20μL加えた以外は、前記試験反応溶液5の調製と同様の操作を行い、対照反応溶液5を調製した。
抽出液2に代えて、蒸留水を20μL加えた以外は、前記試験ブランク溶液5の調製と同様の操作を行い、対照ブランク溶液5を調製した。
マイクロプレートリーダー(モデル680:バイオラッド社製)を用いて、プレート中の試験反応溶液5、試験ブランク溶液5、対照反応溶液5、対照ブランク溶液5の585nmの吸光度を測定した。得られた吸光度から式5によりヒアルロニダーゼ活性阻害率を算出した。
ヒアルロニダーゼ活性阻害率(%)={(S-Sb)/(C-Cb)}×100 式5
前記式5中、Sは試験反応溶液5の585nmの吸光度、Sbは試験ブランク溶液5の585nmの吸光度、Cは対照反応溶液5の585nmの吸光度、Cbは対照ブランク溶液5の585nmの吸光度を示す。
【0074】
(チロシナーゼ活性阻害試験)
チロシナーゼ(マッシュルーム由来、Sigma―Aldrich社製)が100units/mLとなるように純水を加え、酵素溶液を調製した。DOPA(3,4-Dihydroxy-L-phenylalaninem、Sigma―Aldrich社製)が300μg/mLとなるように純水を加え、基質溶液を調製した。
96ウェルマイクロプレート(コーニング社製)のウェルに後述の実施例2の抽出液2を100μL、酵素溶液を100μL加え、撹拌し、37℃で10分間プレインキュベートした。さらにウェルに基質溶液を100μL加え、試験反応用溶液を調製した。続いて、37℃で10分間酵素反応を行い、10分後の溶液を試験反応溶液6として調製した。
酵素溶液に代えて、1/15mol/Lのリン酸緩衝液(pH6.8)を100μL加えた以外は、試験反応溶液6の調製と同様の操作を行い、試験ブランク溶液6を調製した。
抽出液2に代えて、50体積%エタノール水溶液を100μL加えた以外は、試験反応溶液6の調製と同様の操作を行い、対照反応溶液6を調製した。
抽出液2に代えて、50体積%エタノール水溶液を100μL加えた以外は、試験ブランク溶液6の調製と同様の操作を行い、対照ブランク溶液6を調製した。
マイクロプレートリーダー(モデル680:バイオラッド社製)を用いて、プレート中の試験反応溶液6、試験ブランク溶液6、対照反応溶液6、対照プランク溶液6の475nmの吸光度を測定した。得られた吸光度から下式6によりチロシナーゼ活性阻害率を算出した。
チロシナーゼ活性阻害率(%)=[{(C-Cb)/(S-Sb)}/(C-Cb)]×100 式6
前記式6中、Sは試験反応溶液6の475nmの吸光度、Sbは試験ブランク溶液6の475nmの吸光度、Cは対照反応溶液6の475nmの吸光度、Cbは対照ブランク溶液6の475nmの吸光度を示す。
【0075】
(抗糖化活性測定試験)
抗糖化活性測定試験は、コラーゲンAGEs抗糖化アッセイキット(コスモバイオ社製)を用いて行った。本キットはプレート上に固相化されたコラーゲンをグリオキサールで糖化をさせたときに生成されるCMA(カルボキシメチルアルギニン)又はCML(カルボキシメチルリジン)を迅速にELISA法によって検出するキットである。
【0076】
(アルブミン凝集性試験)
牛血清アルブミン(Sigma―Aldrich社製)が0.3質量%、クエン酸(純正化学社製)が1.5質量%となるように蒸留水を加え、アルブミン水溶液を調製した。後述の実施例2の抽出液2とアルブミン水溶液を、体積比1:2で混合し、37℃で30分間インキュベートした。そして、インキュベート後の混合液1について650nmにおける濁度を、分光光度計 U-2900(日立ハイテクサイエンス製)で測定した。抽出液2に代えて精製水を使用した以外は上記と同様の操作を行い、得られた混合液2について650nmにおける濁度を、分光光度計 U-2900(日立ハイテクサイエンス製)で測定した。得られた濁度から下式7により収斂作用の増強率を算出した。
収斂作用の増強率(%)={(Sd-Cd)/Cd}×100 式7
前記式7中、Sdは混合液1の濁度。Cdは混合液2の濁度を示す。
なお、表1中、収斂作用の増強率が1000%以上であったものを「有」と表示している。
【0077】
(リパーゼ活性阻害試験)
後述の実施例2の抽出液2を50μL、リパーゼ(Candida cylindracea起源、Sigma―Aldrich社製)の20units/mLを50μL、5,5’-dithiobis(2-nitro-benzoic acid)(DTNB、富士フィルム和光純薬社製)の0.1mg/mL溶液(溶媒:0.1M Tris-HCl緩衝液、pH=8.5)を340μL、及びphenylmethylsulfonyl fluoride(PMSF、Sigma―Aldrich社製)の3.5mg/mL溶液(溶媒:エタノール)を混合し、30℃で5分間静置して試験反応前溶液8を調製した。試験反応前溶液8に、2,3-dimercapto-1-propanol tributylate(BALB、Sigma―Aldrich社製)の0.3mg/mL溶液(溶媒:エタノール)を25μL、及びsodium dodecylsulfate(SDS、東京化成社製)の0.26mg/mL溶液(溶媒:エタノール)を25μL加えた後、遮光下で30℃、30分間反応させた。次にアセトン(純正化学社製)を500μL加えて酵素反応を停止させて試験反応後溶液8を調製した。
抽出液2に代えて、50体積%のエタノールを使用した以外は上記と同様の操作を行い、対照試験反応前溶液8、対照試験反応後溶液8をそれぞれ調製した。試験反応前溶液8、試験反応後溶液8、対照試験反応前溶液8、対照試験反応後溶液8の414nmの吸光度を測定した。得られた吸光度から下式8によりリパーゼ活性阻害率を算出した。
リパーゼ活性阻害率(%)=1-{(Sa-Sb)/(Ca-Cb)}×100 式8
前記式8中、Saは試験反応後溶液8の414nmの吸光度、Sbは試験反応前溶液8の414nmの吸光度、Caは対照試験反応後溶液8の414nmの吸光度、Cbは対照試験反応前溶液8の414nmの吸光度を示す。
【0078】
[実施例1]
ラオス産コーヒーノキ果実の果肉及び果皮(外皮、及び内果皮)を、コーヒーミルを用いて粉砕し、1mmメッシュの篩を通過したものを乾燥体として得た。
表1中、「-」は評価を行わなかったことを意味する。
【0079】
[実施例1-1]
石鹸素地に実施例1で得られた乾燥体を5質量%となるように加え、乾燥体を含む石鹸を得た。
【0080】
[実施例2]
実施例1で得られた乾燥体1gに蒸留水9gを加え、70℃で1時間静置した。その後、3000rpmで5分間遠心分離し、上清を抽出物1として得た。抽出物1を赤外線式水分計で測定した所、固形分濃度は4.2質量%であった。抽出物1に蒸留水を加え、固形分濃度1.0質量%に調整した抽出物2を化粧品原料として得た。得られた抽出物2を用いて上述の評価方法により、化粧品原料としての評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
[実施例2-1]
実施例2で得られた抽出物2に防腐剤としてフェノキシエタノール(製品名:ハイソルブEPH、東邦化学工業社製)を0.8質量%となるように加え、化粧品材料1とした。化粧品材料1は化粧水に配合することが可能であった。
【0082】
[実施例2-2]
実施例2で得られた抽出物2に防腐剤としてパラオキシ安息香酸(Sharon Laboratories Ltd.製)を0.8質量%となるように加え、化粧品材料2とした。化粧品材料2は化粧水に配合することが可能であった。
【0083】
[実施例2-3]
石鹸素地に実施例2で得られた抽出物1を1質量%となるように加え、抽出物1を含む石鹸を得た。
【0084】
[比較例1]
ブラジル産コーヒーノキ果実より得られた種子を常法で焙煎し、種皮を除いた。得られた焙煎後の生豆を、コーヒーミルを用いて粉砕し、常法によりコーヒー飲料を抽出した。抽出後の残渣を熱風式乾燥機中、105℃で乾燥したのち、1mmメッシュの篩を通過したものを乾燥体として得た。
得られた乾燥体1gに蒸留水9gを加え、70℃で1時間静置した。その後、3000rpmで5分間遠心分離し、上清を抽出物3として得た。抽出物3を赤外線式水分計で測定した所、固形分濃度は1.2質量%であった。抽出物3に蒸留水を加え、固形分濃度1.0質量%に調整した抽出物4を化粧品原料として得た。抽出物2に代えて得られた抽出物4を用いて上述の評価方法により、化粧品原料としての評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
[比較例2]
ブラジル産コーヒーノキ果実より得られた種子を常法で焙煎し、焙煎する工程で発生した種皮を、コーヒーミルを用いて粉砕し、1mmメッシュの篩を通過したものを乾燥体として得た。
得られた乾燥体1gに蒸留水9gを加え、70℃で1時間静置した。その後、3000rpmで5分間遠心分離し、上清を抽出物5として得た。抽出物5を赤外線式水分計で測定した所、固形分濃度は1.4質量%であった。抽出物5に蒸留水を加え、固形分濃度1.0質量%に調整した抽出物6を化粧品原料として得た。抽出物2に代えて得られた抽出物6を用いて上述の評価方法により、化粧品原料としての評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
[比較例3]
インドネシア産カカオから得られた莢を、コーヒーミルを用いて粉砕し、1mmメッシュの篩を通過したものを乾燥体として得た。
得られた乾燥体1gに蒸留水9gを加え、70℃で1時間静置した。その後、3000rpmで5分間遠心分離し、上清を抽出物7として得た。抽出物7を赤外線式水分計で測定した所、固形分濃度は6.3質量%であった。抽出物7に蒸留水を加え、固形分濃度1.0質量%に調整した抽出物8を化粧品原料として得た。抽出物2に代えて得られた抽出物8を用いて上述の評価方法により、化粧品原料としての評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
[比較例4]
インドネシア産カカオから得られた種皮を、コーヒーミルを用いて粉砕し、1mmメッシュの篩を通過したものを乾燥体として得た。
得られた乾燥体1gに蒸留水9gを加え、70℃で1時間静置した。その後、3000rpmで5分間遠心分離し、上清を抽出物9として得た。抽出物9を赤外線式水分計で測定した所、固形分濃度は1.9質量%であった。抽出物9に蒸留水を加え、固形分濃度1.0質量%に調整した抽出物10を化粧品原料として得た。抽出物2に代えて得られた抽出物10を用いて上述の評価方法により、化粧品原料としての評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
表1に示されている通り、実施例1の化粧品原料は、抗酸化、美白、シミ防止、抗アレルギー、抗炎症、抗老化、肌荒れ防止、及び肌引締め効果を有することがわかった。比較例1~4で使用した原料も通常、廃棄されている原料である。実施例1の化粧品原料は、DPPHラジカル消去能、ポリフェノール含有量、コラゲナーゼ阻害活性、エラスターゼ阻害活性、チロシナーゼ活性阻害、リパーゼ阻害活性、抗糖化活性が高いことが分かった。