(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166136
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】構造物用シート
(51)【国際特許分類】
B32B 7/022 20190101AFI20241121BHJP
E04D 3/00 20060101ALI20241121BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B32B7/022
E04D3/00 M
E04G23/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024078997
(22)【出願日】2024-05-14
(31)【優先権主張番号】P 2023080665
(32)【優先日】2023-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000165088
【氏名又は名称】恵和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 紀昭
(72)【発明者】
【氏名】松野 有希
【テーマコード(参考)】
2E108
2E176
4F100
【Fターム(参考)】
2E108AZ01
2E108CC02
2E108CC04
2E108CC11
2E108CC15
2E108DD09
2E108GG05
2E108GG20
2E176AA23
2E176BB04
4F100AB05B
4F100AE01C
4F100AK01C
4F100AK07A
4F100AK12D
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4F100AT00A
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4F100DG00D
4F100GB07
4F100JK04
4F100JK05
4F100JL14E
(57)【要約】
【課題】追従性及び取り扱い性に優れた構造物用シート40の提供。
【解決手段】構造物用シート40は、機能層42、中間層44、粘着層46及び補強体48を有している。機能層42は、耐候性に優れる。中間層44は、シートの剛性等に寄与する。粘着層46は、下地と当接する。このシート40の試験片が有する、長さが50mmであり周長が70mmである湾曲部34の、60℃における20mmの圧縮変形のエネルギーは、2.0mJ以上であり、湾曲部34の、-10℃における20mmの圧縮変形のエネルギーは、60.0mJ以下である。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能層と粘着層とを備える構造物用シートであって、
短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状の前記構造物用シートを、同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、前記一対の短辺の縁端から前記長辺に沿って15mm離れた位置までの前記構造用シートの一対の領域を試験装置の固定具で把持して固定することにより、前記構造物用シートの前記一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部を形成した状態において、
60℃における前記湾曲部の20mmの圧縮変形のエネルギーが、2.0mJ以上であり、
前記湾曲部の、-10℃における前記湾曲部の20mmの圧縮変形のエネルギーが、60.0mJ以下である、構造物用シート。
【請求項2】
前記機能層と前記粘着層との間に位置する中間層を更に備える、請求項1に記載の構造物用シート。
【請求項3】
前記中間層の材質が、ポリマーとフィラーとの複合材料である、請求項2に記載の構造物用シート。
【請求項4】
前記複合材料におけるポリマーとフィラーとの固形分の質量比が、5/95以上70/30以下である、請求項3に記載の構造物用シート。
【請求項5】
前記フィラーがセメント成分を含有する、請求項3に記載の構造物用シート。
【請求項6】
前記フィラーが、モルタルを組成する砂、及び、骨材の少なくともいずれかを含有する、請求項5に記載の構造物用シート。
【請求項7】
前記中間層の厚さが100μm以上1500μm以下である、請求項2に記載の構造物用シート。
【請求項8】
前記中間層の厚さの、前記構造物用シートの総厚さに対する比率が、30%以上85%以下である、請求項2に記載の構造物用シート。
【請求項9】
補強体を更に備える、請求項2に記載の構造物用シート。
【請求項10】
前記補強体がファブリックである、請求項9に記載の構造物用シート。
【請求項11】
前記ファブリックの材質が合成樹脂組成物であり、この合成樹脂組成物の基材樹脂がポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アラミド、ビニロン、ポリプロピレン、ポリスチレン又はポリフッ化ビニリデンである、請求項10に記載の構造物用シート。
【請求項12】
短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状且つシート状の前記補強体を、同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、前記一対の短辺の縁端から前記長辺に沿って15mm離れた位置までの前記補強体の一対の領域を試験装置の固定具で把持して固定することにより、前記補強体の前記一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部を形成した状態において、
23℃における前記補強体の前記湾曲部の20mmの圧縮変形のエネルギーが、1.5mJ以上である、請求項9に記載の構造物用シート。
【請求項13】
前記機能層及び前記粘着層の少なくともいずれかは、フィラーを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の構造物用シート。
【請求項14】
前記粘着層の前記機能層側とは反対側の面に配置された離型フィルムを備える、請求項1~12のいずれか1項に記載の構造物用シート。
【請求項15】
シートによる構造物の補修又は補強の方法であって、
(1)短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状の前記シートを、同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、前記一対の短辺の縁端から前記長辺に沿って15mm離れた位置までの前記シートの一対の領域を試験装置の固定具で把持して固定することにより、前記シートの前記一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部を形成した状態において、
60℃における前記湾曲部の20mmの圧縮変形のエネルギーが、2.0mJ以上であり、
-10℃における前記湾曲部の20mmの圧縮変形のエネルギーが、60.0mJ以下であり、
且つ機能層及び粘着層を有するシートを、準備する工程、
並びに
(2)前記粘着層の粘着力により、前記構造物の表面に前記シートを貼り付ける工程
を備えた、構造物の補修又は補強の方法。
【請求項16】
第1シートによって補修又は補強された構造物の、第2シートによる再補修又は再補強の方法であって、
(1)短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状の前記第1シートを、同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、前記一対の短辺の縁端から前記長辺に沿って15mm離れた位置までの前記第1シートの一対の領域を試験装置の固定具で把持して固定することにより、前記第1シートの前記一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部を形成した状態において、
前記第1シートの前記湾曲部の60℃における20mmの圧縮変形のエネルギーが、2.0mJ以上であり、
前記第1シートの前記湾曲部の-10℃における20mmの圧縮変形のエネルギーが、60.0mJ以下であり、
且つ機能層及び粘着層を有する第1シートを、準備する工程、
(2)前記第1シートの粘着層の粘着力により、前記構造物の表面に前記第1シートを貼り付ける工程、
(3)短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状の前記第2シートを、同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、前記一対の短辺の縁端から前記長辺に沿って15mm離れた位置までの前記第2シートの一対の領域を試験装置の固定具で把持して固定することにより、前記第2シートの前記一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部を形成した状態において、
前記第2シートの前記湾曲部の60℃における20mmの圧縮変形のエネルギーが、2.0mJ以上であり、
前記第2シートの前記湾曲部の-10℃における20mmの圧縮変形のエネルギーが、60.0mJ以下であり、
且つ機能層及び粘着層を有する第2シートを、準備する工程、
並びに
(4)前記第2シートの粘着層の粘着力により、破損又は劣化した前記第1シートの表面に前記第2シートを貼り付ける工程
を備えた、構造物の再補修又は再補強の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、構造物に貼り付けられて使用されるシートを開示する。
【背景技術】
【0002】
住宅のスレート屋根が長期間風雨に曝されると、劣化が生じる。劣化したスレート屋根からの雨漏りが、懸念される。雨漏りの防止の目的で、スレート屋根に塗料が塗布されている。しかし、劣化が激しいスレート屋根の場合、塗料の塗布によっても雨漏りが防止されないことがある。
【0003】
ここで特許文献1には、ポリマーセメント層と樹脂層とを有するシートによる屋根の補修方法が、開示されている。このシートが屋根に貼り付けられることで、屋根の雨漏りが抑制されうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
段差がある屋根にシートが貼られるとき、シートがこの段差に沿うことが好ましい。シートには、段差に沿って変形しうる追従性が必要である。柔軟なシートは、作業者が把持したときに自重で大幅に変形する。この変形は、作業者によるシートの取り扱いを困難とする。シートには、適度な剛性も必要である。
【0006】
スレート屋根以外の屋根の補修においても、シートに対する追従性及び取り扱い性の要請がある。屋根以外の構造物の補修又は補強においても、シートに対する追従性及び取り扱い性の要請がある。
【0007】
本出願人の意図するところは、追従性及び取り扱い性に優れた構造物用シートの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書が開示する構造物用シートは、機能層と粘着層とを備える構造物用シートであって、短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状の前記構造物用シートを、同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、前記一対の短辺の縁端から前記長辺に沿って15mm離れた位置までの前記構造用シートの一対の領域を試験装置の固定具で把持して固定することにより、前記構造物用シートの前記一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部を形成した状態において、60℃における前記湾曲部の20mmの圧縮変形のエネルギーが、2.0mJ以上であり、前記湾曲部の、-10℃における前記湾曲部の20mmの圧縮変形のエネルギーが、60.0mJ以下である。
【発明の効果】
【0009】
この構造物用シートは、夏の施工においても、取り扱い性に優れる。この構造物用シートは、冬の施工においても、追従性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る構造物用シートの一部が示された斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2において符号IIIが付された部分が示された拡大図である。
【
図4】
図4は、
図1の構造物用シートが屋根と共に示された正面図である。
【
図5】
図5は、
図4において符号Vが付された部分が示された拡大図である。
【
図6】
図6は、
図4において符号VIが付された部分が示された拡大図である。
【
図7】
図7は、
図1の構造物用シートの、圧縮変形のエネルギーの測定のための試験片が示された斜視図である。
【
図8】
図8は、
図7の試験片がつかみ具と共に示された、断面斜視図である。
【
図9】
図9は、
図8の試験片及びつかみ具が圧子と共に示された正面図である。
【
図11】
図11は、
図9及び10の試験器による測定で得られた結果が示されたグラフである。
【
図12】
図12は、他の実施形態に係る構造物用シートの一部が示された断面図である。
【
図13】
図13は、
図12の構造物用シートに含まれる補強体の一部が示された拡大平面図である。
【
図14】
図14は、第4実施形態に係る構造物用シートを模式的に示す断面構成図である。
【
図15】
図15は、第5実施形態に係る構造物用シートを模式的に示す断面構成図である。
【
図16】
図16は、第6実施形態に係る構造物用シートを模式的に示す断面構成図である。
【
図17】
図17は、本開示の構造物用シートを収容した供給物品の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態が詳細に説明される。
<第1実施形態>
[層構造]
図1-3に、構造物用シート2(以下、「シート2」とも称する。)が示されている。このシート2の平面形状は、概して矩形である。
図3から明らかなように、このシート2は、それぞれ少なくとも1つの層を含む、機能層4、中間層6及び粘着層8を備える。
図3から明らかなように、シート2は、例えば、それぞれ単一の機能層4、中間層6、及び、粘着層8を備える。各層の材質等は、後に詳説される。このシート2は、構造物に貼り付けられる。シート2が、離型紙又は離型フィルム(
図14の離型フィルム9を参照)を有してもよい。離型紙及び離型フィルムは、粘着層8と積層される。離型紙又は離型フィルムは、例えば、シート2の使用時等の所定のタイミングまで残存していてもよい。また後述するように、粘着層8及び機能層4の少なくともいずれかは、フィラーを含んでいてもよい。
【0012】
[屋根の補修]
この構造物用シート2の典型的な用途は、構造物の屋根の補修である。
図4-6に、補修された屋根10が示されている。これらの図には、屋根10と共に、2つのシート2(第1シート2a及び第2シート2b)が示されている。第2シート2bの仕様は、第1シート2aの仕様と同じである。屋根10として、スレート屋根、瓦屋根、鋼板屋根(折板屋根を含む)、銅板屋根、トタン板屋根、コンクリート屋根等が挙げられる。
【0013】
図4では、第1シート2aの下縁12aの位置は、屋根10の下端14の位置と概ね一致している。第1シート2aは、全体として、屋根10に貼られている。
図5に示されるように、この屋根10は、段差16を有している。第1シート2aは、この段差16の近傍において、湾曲している。この湾曲によって第1シート2aは、段差16に追従している。
【0014】
図6に示されるように、第2シート2bは、その下縁12bの近傍において、第1シート2aの上縁18aの近傍と重なっている。この重なりにより、継ぎ目20が形成されている。第2シート2bのうち、継ぎ目20以外の部分は、屋根10に貼られている。第1シート2aの上縁18aは、この第1シート2aと屋根10との間に段差22を形成している。第2シート2bは、この段差22の近傍において、湾曲している。この湾曲によって第2シート2bは、段差22に追従している。
【0015】
構造物用シート2は通常、プライマー層を介して屋根10に貼り付けられる。本明細書では、プライマー層等を介してシート2が屋根10に貼り付けられる場合も含め、「シートが屋根に貼り付けられる」と称される。
図5及び6では、プライマー層の図示が省略されている。
【0016】
[圧縮変形エネルギー]
この構造物用シート2の、60℃における20mmの圧縮変形のエネルギーE1は、2.0mJ以上が好ましい。屋根10の補修作業のとき、作業者は手でシート2を持ち上げる。このとき、シート2には重力が掛かる。シート2は、自重によって変形する。この変形により、シート2は作業者の手から垂れ下がる。エネルギーE1が2.0mJ以上であるシート2では、重力が掛かったときの変形の程度が、小さい。このシート2は、作業者にとって扱いやすい。このシート2では、夏のような高温環境下においても、変形が抑制されうる。変形の抑制の観点から、エネルギーE1は、3.0mJ以上がより好ましく、6.0mJ以上が一層好ましく、9.5mJ以上が特に好ましい。
【0017】
この構造物用シート2の、-10℃における20mmの圧縮変形のエネルギーE2は、60.0mJ以下が好ましい。前述の通りシート2は、段差16(22)の近傍において湾曲する。エネルギーE2が60.0mJ以下であるシート2は、段差16(22)によく追従しうる。このシート2による屋根10の補修では、シート2と屋根10との間に、スペースが生じにくい。このシート2は、冬のような低温環境下においても、優れた追従性を発揮する。追従性の観点から、エネルギーE2は57.1mJ以下がより好ましく、44.7mJ以下が特に好ましい。
【0018】
[エネルギーの測定]
図7-10に、圧縮変形のエネルギーE1及びE2の測定方法が示されている。この測定方法では、構造物用シート2から、
図7に示された試験片24が切り出される。この試験片24の平面形状は、矩形である。この矩形の、短辺26の長さは50mmであり、長辺28の長さは100mmである。この試験片24の層構造は、シート2の層構造と同じである。
【0019】
この試験片24が、
図7において矢印A1で示されるように、湾曲させられる。この湾曲により、一方の短辺26が他方の短辺26と当接する。この試験片24が、
図8及び9に示されるように、つかみ具(固定具)30で把持される。この把持により、試験片24に重なり部32が形成される。重なり部32の長さは、15mmである。試験片24の、重なり部32以外の部分は、シート2の湾曲した湾曲部34である。この湾曲部34の周長は、70mm{(100-15×2)mm}である。
【0020】
この試験片24が、圧縮試験に供される。この試験のための装置である押圧治具が、
図9及び10に示されている。この押圧治具は、圧子36及びシャフト38を有している。この圧子36は、円盤形状を有している。この圧子36では、直径は100mmであり、厚さは10mmである。この圧子36は、
図9において矢印A2で示されるように下降する。下降の速度は、30mm/minである。この圧子36が湾曲部34に当たった時点と、この時点から圧子36が更に20mm下がった時点との間にて、力が、測定される。
【0021】
エネルギーは、下記数式(1)によって算出される。
【0022】
【0023】
この数式(1)において、Eはエネルギー(mJ)を表し、Fは力(N)を表し、sは圧子36の変異(mm)を表す。
【0024】
図11に、測定結果のグラフが示されている。このグラフでは、横軸は圧子36の変位(ストローク)であり、縦軸は力である。このグラフにおいてハッチングが施されたゾーンの面積が、エネルギーE(E1、E2又はE3)である。換言すれば、エネルギーは、変位がゼロから20mmまでの、力Fの積分である。
【0025】
エネルギーE1は、温度が60℃の環境下で測定される。エネルギーE2は、温度が-10℃の環境下で測定される。エネルギーE3の測定条件は、後に詳説される。
【0026】
この試験に適したつかみ具30として、(株)島津製作所の商品名「PFG-1kNA」が挙げられる。この試験に適した試験器として、(株)島津製作所の商品名「オートグラフ AGX-V 10kN」が挙げられる。
【0027】
以上の試験方法、及び、エネルギーE1、E2については、以下のようにも言い換えられる。
即ち、エネルギーE1は、下記項目(1)、(2)、(3)、及び(4)記載の操作を順次行う変形試験を実施した場合、下記(4)の計算で算出される、60℃環境下における湾曲部34の圧縮変形のエネルギーであって、2.0mJ以上の値である。エネルギーE2は、下記項目(1)、(2)、(3)、及び(4)記載の操作を順次行う変形試験を実施した場合、下記(4)の計算で算出される、-10℃環境下における湾曲部34の圧縮変形のエネルギーであって、60.0mJ以下の値である。
(1) 短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状の構造物用シート2を試験片24として準備する(
図7参照)。
(2) 試験片24を同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、前記一対の短辺の縁端から前記長辺に沿って15mm離れた位置までの試験片24の一対の領域を固定具で把持して固定することにより、試験片24の前記一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部34を形成する(
図8参照)。
(3) 試験片24の前記一対の領域の表面を鉛直方向と平行に配置し且つ湾曲部34を上方に向けた状態で、押付面が直径100mmで厚み10mmの円盤形状の圧子36を有する押付治具を用い、湿度50±10%RHの環境下で、湾曲部34に押付治具の圧子36を上方から接触させ、圧子36を試験速度30mm/minで20mm下方に移動させる(
図9参照)。
(4) 圧子36を前記移動させる際に必要なエネルギーを計算する。
【0028】
[機能層]
図3から明らかなように、本実施形態の機能層4は、一例として、最表面側上に位置している。換言すれば、シート2が構造物に貼られたとき、機能層4は、この構造物から最も離れて位置する。本実施形態の機能層4は、粘着層8の上方に配置されている。機能層4は、シート2に望まれる機能に、寄与する。この機能として、耐光性、耐候性、耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性、非透水性、非透湿性及び透湿性が例示される。機能層4は、1又は2以上の機能に寄与しうる。
【0029】
機能層4の材質は、ポリマー組成物である。この機能層4は、概して柔軟である。この機能層4を有するシート2は、下地の凹凸に追従しうる。ポリマー組成物は、基材ポリマーを含む。合成樹脂、合成ゴム及び天然ゴムが、基材ポリマーとして、組成物に含有されうる。
【0030】
機能層4に耐候性が望まれる場合、機能層4の耐候性は、例えば、機能層4の材料や機能層4中の前記材料の選択及び含有量を調整することで制御できる。機能層4に耐候性が望まれる場合の機能層4の材料としては、例えば、紫外線で劣化しにくい基材ポリマーが好ましい。具体的には、紫外線(410KJ/mol)よりも強い結合エネルギーを有する結合構造を機能層4中に多く形成できる材料(ポリマー等)を配置したり、機能層4中の当該材料の含有量を増大させたりする方法を例示できる。機能層4の耐候性及びシート2の柔軟性に寄与しうるポリマーとして、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、柔軟エポキシ樹脂及びポリブタジエンが例示される。
【0031】
また、機能層4中の反応点を少なくして機能層4を化学的に安定にする観点から、機能層4は、二重結合が少ない構造を有する材料を含んでいてもよい。当該材料が機能層4に多く存在すると、機能層4の化学的安定性が増大する。このような材料として、非ジエン系のゴムを例示できる。具体的に当該非ジエン系のゴムとしては、CIIR(塩素化ブチルゴム)、BIIR(臭素化ブチルゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)の少なくともいずれかを例示できる。機能層4中に前記結合構造を多く形成する方法として、例えば、紫外線(UV)等のエネルギー線の照射により生じたラジカルをトラップするラジカルトラップ材、HALS等UVを吸収してラジカルの発生を抑制する添加材、フェノール系、チオエーテル系等の酸化防止剤の少なくともいずれかを偏在させる方法も例示できる。
【0032】
耐候性の観点から、本実施形態の機能層4の基材ポリマーに特に適した樹脂は、一例として、アクリルシリコーン樹脂である。アクリルシリコーン樹脂は、シロキサン結合を含む。アクリルシリコーン樹脂は、耐熱性及び耐寒性にも優れる。アクリルシリコーン樹脂を含む組成物の具体例として、大日精化工業(株)製の商品名「クールライフSPブラック(CB1)P5-0」、藤倉化成(株)製の商品名「ベルアース弾性黒」、東亞合成(株)製の商品名「アロンブルコートT-1000」、並びに(株)日本触媒製の商品名「アクリセットEMN325E」及び「ユーダブルEF008」が挙げられる。
【0033】
機能層4のポリマー組成物は、必要に応じ、顔料、充填剤、補強材、防汚剤等の添加剤を含みうる。顔料を含む機能層4は、化粧性に優れる。有機顔料及び無機顔料を、ポリマー組成物は含みうる。充填剤として、シリカ、アルミナ、チタニア等の金属酸化物粒子が例示される。補強材として、セルロールナノファイバーが例示される。それぞれの添加剤の含有率は、機能に応じ調整される。
【0034】
図3において矢印T1は、機能層4の厚さを表す。機能の観点から、厚さT1は10μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、40μm以上が特に好ましい。シート2の追従性、生産性及び軽量の観点から、厚さT1は500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、200μm以下が特に好ましい。構造物用シート2が、2以上の機能層4を有してもよい。また機能層4がフィラーを含む場合、後述する中間層6が含むフィラーと同様のフィラーを含んでいてもよい。
【0035】
[中間層]
中間層6は、シート2の剛性等に寄与する。中間層6は、例えば、シート2の形状を規定する層である。中間層6は、例えば、シート2の全体形状を保持する機能を有する。中間層6の好ましい材質は、ポリマーとフィラーとの、複合材料である。これにより、構造物用シート2に所定の剛性を付与し易くできる。ポリマーとして、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体及びスチレン-ブタジエン共重合体が例示される。フィラーとして、セメント、シリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム及びカーボンブラックが例示される。好ましい複合材料は、例えば、ポリマーセメントである。このポリマーセメントは、ポリマーとセメントとを含む。セメントとして、ポルトランドセメント及びアルミナセメント並びにこれらの混合物が例示される。一例として、ポルトランドセメントが、好ましい。このように、中間層6の材料であるフィラーは、セメントを含有していてもよい。また当該フィラーは、モルタルを組成する砂、及び、骨材の少なくともいずれかを含有していてもよい。前記例示した材料は、単体又は混合して用いられてもよい。
【0036】
中間層6の材料である樹脂成分とフィラー成分の比率を制御することで、構造物用シート2の剛性を容易に制御できると共に、材料設計の自由度を向上できる。また、取り扱い易い程度の中間層6の厚みが得られる。また例えば、フィラーの粒子形状を調整することで、構造物用シート2の剛性を制御できる。具体的にフィラーの粒子形状としては、球状、針状、不定形、テトラポット形状等を例示できる。更に、中間層6の厚みを調節することで、構造物用シート2の剛性を制御できる。
【0037】
中間層6に適したポリマーを含む組成物の具体例として、菊水化学工業(株)製の商品名「スプリングコートハケ混和液」及び東亞合成(株)製の商品名「アロンブルコートA450ベース」が挙げられる。中間層6に適したフィラーであるセメント組成物の具体例として、菊水化学工業(株)製の商品名「スプリングコートハケ粉体」及び東亞合成(株)製の商品名「アロンブルコートA450セッター」が挙げられる。
【0038】
中間層6がポリマーとフィラーとを含む場合、ポリマーとフィラーとの固形分の質量比は、例えば、5/95以上70/30以下が好ましい。この比が5/95以上である中間層6は、他の層(機能層4)との密着性に優れる。更に、この比が5/95以上である中間層6を有するシート2では、エネルギーE2が小さい。従ってこのシート2は、追従性に優れる。これらの観点から、この比は12/88以上がより好ましく、27/73以上が特に好ましい。この比率が70/30以下である中間層6を有するシート2では、エネルギーE1が大きい。従ってこのシート2は、取り扱い性に優れる。この観点から、この比は60/40以下がより好ましく、45/55以下が特に好ましい。
【0039】
図3において矢印T2は、中間層6の厚さを表す。シート2の取り扱い性の観点から、厚さT2は100μm以上が好ましく、200μm以上がより好ましく、300μm以上が特に好ましい。シート2の追従性、生産性及び軽量の観点から、厚さT2は1500μm以下が好ましく、1200μm以下がより好ましく、700μm以下が特に好ましい。構造物用シート2が、2以上の中間層6を有してもよい。構造物用シート2が、中間層6を含まない層構造を有してもよい。
【0040】
図3において矢印Ttは、シート2の総厚さを表す。シート2の取り扱い性の観点から、中間層6の厚さT2の、総厚さTtに対する比率は、30%以上が好ましく、45%以上がより好ましく、55%以上が特に好ましい。シート2の追従性、生産性及び軽量の観点から、この比率は85%以下が好ましく、75%以下がより好ましく、70%以下が特に好ましい。
【0041】
構造物用シート2は、1又は複数の中間層6を備えていてもよい。構造物用シート2が備える中間層6の数は、例えば、構造物用シート2の全体厚み、中間層6に付与される機能、工場の製造ラインの長さ、或いは、構造物用シート2の生産コスト等を考慮して設定される。例えば、工場の製造ラインが短いために所定の厚みを有する単一の中間層6が得られない場合、中間層6の材料を重ね塗りすることで、所定の全体厚みを有する複数の中間層6の積層構造を形成すればよい。
【0042】
[粘着層]
粘着層8は、下地と当接する。粘着層8の粘着力により、シート2が構造物に貼り付けられうる。粘着層8の粘着性は、例えば、粘着層8の厚みや表面特性、及び、粘着層8の材料を調整することで制御できる。粘着層8の表面特性を制御する場合、例えば、後述する微細構造を採用できる。更に、粘着層8の厚みを厚過ぎず且つ薄過ぎない適度な値に設定することも、粘着層8の粘着性の制御には有効である。また、粘着層8の粘着力を所定範囲に制御し易いという観点から、粘着剤の材料及び粘着層8の厚みを組み合わせて調整することも好ましい。
【0043】
より具体的に、粘着層8の材料としては、アクリル、シロキサン結合を有するシリコーン、ゴム、ウレタン系等の、ガラス転移温度(Tg)が低く且つファンデルワールス力や静電気力を利用できる粘着剤を例示できる。また、粘着層8の厚みや、粘着層8の架橋度を調整することで、粘着層8の粘着力を制御できる。また、粘着層8の貼付面をヤモリの手足のような微細構造(大表面積且つ分子間力を利用できる構造)に構成してもよい。更に、前記粘着剤と前記微細構造を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
本実施形態の粘着層8の材質は、一例として、ポリマーを基材とする粘着剤組成物である。この粘着剤組成物に適したポリマーとして、アクリル樹脂、シリコーン、ポリウレタン、ポリエステル、天然ゴム及び合成ゴムが、例示される。基材として特に好ましいポリマーは、アクリル樹脂である。粘着剤組成物の具体例として、トーヨーケム(株)製の商品名「オリバインBPS6574」、「オリバインBPS6554」及び「オリバインBPS5565K」が挙げられる。
【0045】
粘着剤組成物は、硬化剤を含んでいてもよい。基材がアクリル樹脂である場合の好ましい硬化剤は、イソシアネート硬化剤である。アクリル樹脂100質量部に対するイソシアネート硬化剤の比率は1.0質量部以上が好ましく、2.0質量部以上がより好ましく、2.5質量部以上が特に好ましい。この比率は10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましく、7質量部以下が特に好ましい。
【0046】
粘着剤組成物は、粘着付与剤を含みうる。粘着付与剤として、ロジン系粘着付与剤、テルペン系粘着付与剤、石油樹脂系粘着付与剤及びフェノール樹脂系粘着付与剤が例示される。基材ポリマー100質量部に対する粘着付与剤の比率は、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上が特に好ましい。この比率は15質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、7質量部以下が特に好ましい。粘着付与剤の具体例として、荒川化学工業(株)の商品名「エステルガム H」、「エステルガム AA-V」及び「エステルガム 105」が例示される。
【0047】
図3において矢印T3は、粘着層8の厚さを表す。粘着性の観点から、厚さT3は20μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましく、50μm以上が特に好ましい。シート2の生産性、軽量及び取り扱い性の観点から、厚さT3は300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、150μm以下が特に好ましい。構造物用シート2が、2以上の粘着層8を有してもよい。
[離型フィルム]
離型フィルム9は、粘着層8の中間層6側とは反対側の面に配置(貼付)されている。構造物用シート2では、使用前においては粘着層8を表面保護する目的で、離型フィルム9が貼付されていることが好ましい。離型フィルム9は、構造物用シート2の貼付に際して剥離される。離型フィルム9が剥離されることで粘着層8が露出した構造物用シート2は、粘着層8を構造物の表面に接触させて、構造物に貼付される。
【0048】
離型フィルム9の構造は特に限定されず、例えば、支持層と剥離層とを有するシートを例示できる。支持層を構成する材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ナイロン6等のポリアミド、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、セルロースアセテート等のセルロース樹脂、ポリカーボネート等の合成樹脂を例示できる。また前記支持層は、紙を主成分として形成されていてもよい。更に支持層は、2層以上の構成層を備える積層体であってもよい。
【0049】
剥離層を構成する材料としては、例えば、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、フッ素化重合体等を例示できる。剥離層は、例えば、剥離層を構成する材料、及び、有機溶剤を含む塗工液を、支持層上に、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、リップコート法等の公知の塗布方法によって塗布し、前記塗布より形成された塗膜を乾燥及び硬化させることで形成できる。また、剥離層の形成に当たっては、予め、支持層の剥離層が形成される面に、コロナ処理や易接着処理を施していてもよい。
【0050】
[他の層]
構造物用シート2は、機能層4の上に位置する他の層を有してもよい。典型的な他の層は、例えば、クリアーペイント層である。他の層が、意匠性、遮熱性等の機能を補強又は付加する層であってもよい。構造物用シート2が、機能層4と中間層6との間に位置する層を有してもよい。構造物用シート2が、中間層6と粘着層8との間に位置する層を有してもよい。
【0051】
[総厚さ]
構造物用シート2の総厚さTtは、200μm以上が好ましく、300μm以上がより好ましく、400μm以上が特に好ましい。この総厚さTtは、5.0mm以下が好ましく、3.0mm以下がより好ましく、1.0mm以下が特に好ましい。
【0052】
[構造物用シートの柔軟性]
構造物用シート2は、前記した剛性を有しつつ、適度な柔軟性も有する。例えば構造物用シート2は、ロール状に巻き取りが可能な程度の柔軟性を有する。ここで言うロール状の巻き取りとは、例えば数cm以上数十cm以下の値の直径(具体的には、例えば、10mm以上300mm以下の値の直径)を有するロール芯材への構造物用シート2の巻き取りを指す。これより細いロール芯材でも、手巻き等により、構造物用シート2を数m程度巻き取ることは可能である。従って、例えば、構造物用シート2をロール状で管理できる。更に、ロール状に巻回された構造物用シート2を施工現場で展開し、所定のサイズに切り出した構造物用シート2を迅速に準備して施工することも可能である。よって、比較的大面積を有する施工対象に対しても、構造物用シート2を容易且つ簡便に適用できる。
【0053】
[製造方法]
以下、この構造物用シート2の製造方法の一例が、説明される。この製造方法では、機能層4のポリマー組成物が溶媒と混合され、第1塗料が得られる。この第1塗料がベースフィルムの上に塗工され、第1塗膜が得られる。この第1塗膜が加熱され、第1塗料から溶媒が揮発する。この加熱によって第1塗膜中の基材ポリマーが硬化し、機能層4が得られる。ベースフィルムは、第1塗膜に形状を付与する形状付与フィルム(シート)である。
【0054】
次に、中間層6の複合材料が溶媒と混合され、第2塗料が得られる。この第2塗料が機能層4の上に塗工され、第2塗膜が得られる。この第2塗膜が加熱され、第2塗料から溶媒が揮発する。この加熱よってポリマーが硬化し、中間層6が得られる。
【0055】
次に、粘着層8の粘着剤組成物が溶媒と混合され、第3塗料が得られる。この第3塗料が、離型紙又は離型フィルムの上に塗工され、第3塗膜が得られる。この第3塗膜が加熱され、第3塗料から溶媒が揮発して、粘着層8が得られる。
【0056】
この粘着層8が、中間層6と重ねられる。更に、機能層4からベースフィルムが剥離され、粘着層8から離型フィルムが剥離されて、構造物用シート2が得られる。尚、離型紙又は離型フィルム、及び、ベースフィルムの少なくともいずれかは、使用の際までに剥離除去されてもよい。
【0057】
ここでベースフィルムの具体例について述べる。ベースフィルムは、構造物用シート2の製造の際の基材として用いられる。ベースフィルムは、構造物用シート2の製造工程で用いられる工程紙である樹脂ラミネート紙や、樹脂フィルムを含んでいてもよい。ここで言う樹脂ラミネート紙は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン樹脂層を有していてもよい。具体的にベースフィルムとしては、例えば、PPラミネートシート(例えばリンテック(株)製)を利用できる。このPPラミネートシートの厚みは、一例として50μm以上200μm以下の値である。
【0058】
[効果]
この構造物用シート2は追従性に優れるので、前述の通り、段差が存在する屋根10にも適用されうる。複数のシート2が継ぎ貼りされることで、広い面積にて、屋根10の表面がシート2で覆われうる。粘着層8は粘着性に優れるので、屋根10の表面の材質が複合的である場合でも、広い面積にて、屋根10の表面がシート2で覆われうる。例えば、表面が金属及びスレートの両方を含む屋根10であっても、広い面積にて、屋根10の表面がシート2で覆われうる。
【0059】
屋根10の表面の全体が、シート2で覆われてもよい。本明細書において屋根10の表面とは、鉛直方向の上から屋根10が見られたとき、視認されうる面を意味する。屋根10の表面の全体が単一種類のシート2で覆われる補修方法は、従来の工法には見られない。
【0060】
このシート2は、鋼板、銅板、トタン板等に比べ、軽量である。従って、広い面積にて屋根10の表面がシート2で覆われても、建築物の耐震性への悪影響は、小さい。シート2に経年劣化が生じたとき、このシート2に他のシート2が積層されてもよい。この場合でも、建築物の耐震性への悪影響は、小さい。耐震性の観点から、シート2の密度は4.0g/cm3以下が好ましく、3.0g/cm3以下がより好ましく、2.5g/cm3以下が特に好ましい。この密度は、屋根10の補修に賞用されているアルミニウム-亜鉛合金メッキ鋼板(商品名「ガルバリウム鋼板」(登録商標))の密度に比べ、はるかに小さい。
【0061】
[他の用途]
このシート2は、屋根10以外の構造物の補修又は補強に寄与しうる。屋根10以外の構造物として、住宅の壁、柱、軒、塀、門、扉、パラペット、笠木等が挙げられる。このシート2が、商用ビルディング、工場、倉庫、橋梁、下水施設、鉄道施設、トンネル等に用いられてもよい。
【0062】
[再補修及び再補強]
このシート2により構造物(屋根等)が補修又は補強された後、経年変化により、シート2や構造物が破損又は劣化することがある。この破損箇所又は劣化箇所のシート2に、新たに用意された構造物用シート2が貼られることで、再補修又は再補強がなされうる。シート2が重ね貼りされることで、極めて長い期間にわたり、構造物の価値が保全され、且つ維持されうる。このシート2による再補修及び大補強により、廃棄物の発生が抑制されうる。このシート2は、サーキュラーエコノミーの実現の一助となり得る。
【0063】
このように、本開示のシート2による構造物の補修又は補強の方法は、以下の第1の方法と言うことができる。当該第1の方法は、構造物用シート2による構造物の補修又は補強の方法であって、以下の工程(1a)、(2a)を備える。即ち当該方法は、(1a)短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状のシート2(試験片24相当のシート2)を、同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、一対の短辺の縁端から長辺に沿って15mm離れた位置までのシート2の一対の領域を試験装置の固定具30で把持して固定することにより、シート2の一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部34を形成した状態において、60℃における湾曲部34の20mmの圧縮変形のエネルギーが、2.0mJ以上であり、-10℃における湾曲部34の20mmの圧縮変形のエネルギーが、60.0mJ以下であり、且つ機能層4及び粘着層8を有するシート2を準備する工程、並びに(2a)粘着層8の粘着力により、構造物の表面にシート2を貼り付ける工程を備える。
【0064】
また一例として、本開示の構造物の再補修又は再補強の方法は、以下の第2の方法と言うこともできる。即ち当該第2の方法は、2枚の構造物用シート2(以下、「第1シート2a」、「第2シート2b」とも称する。)を用いて、再補修又は再補強を行う方法とすることもできる。当該方法は、第1シート2aによって補修又は補強された構造物の、第2シート2bによる再補修又は再補強の方法であり、以下の工程(1b)~(4b)を備える。
【0065】
具体的に当該第2の方法は、(1b)短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状の第1シート2aを、同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、一対の短辺の縁端から長辺に沿って15mm離れた位置までの第1シート2aの一対の領域を試験装置の固定具30で把持して固定することにより、第1シート2aの一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部34を形成した状態において、第1シート2aの湾曲部34の60℃における20mmの圧縮変形のエネルギーが、2.0mJ以上であり、第1シート2aの湾曲部34の-10℃における20mmの圧縮変形のエネルギーが、60.0mJ以下であり、且つ機能層4及び粘着層8を有する第1シート2aを、準備する工程を備える。
【0066】
更に当該第2の方法は、(2b)前記第1シート2aの粘着層8の粘着力により、前記構造物の表面に前記第1シート2aを貼り付ける工程を備える。更に当該方法は、(3b)短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状の第2シート2bを、同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、一対の短辺の縁端から長辺に沿って15mm離れた位置までの第2シート2bの一対の領域を試験装置の固定具30で把持して固定することにより、第2シート2bの一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部34を形成した状態において、第2シート2bの湾曲部34の60℃における20mmの圧縮変形のエネルギーが、2.0mJ以上であり、第2シート2bの湾曲部34の-10℃における20mmの圧縮変形のエネルギーが、60.0mJ以下であり、且つ機能層4及び粘着層8を有する第2シート2bを、準備する工程、並びに(4b)前記第2シート2bの粘着層8の粘着力により、破損又は劣化した前記第1シート2aの表面に前記第2シート2bを貼り付ける工程を備える。
【0067】
[第2実施形態]
[層構造]
図12に、第2実施形態に係る構造物用シート40が示されている。このシート40は、機能層42、中間層44、粘着層46及び補強体48を有している。補強体48は、中間層44に埋設されている。機能層42の材質、厚さ等の構成は、
図3に示された機能層4のそれらと同じである。粘着層46の材質、厚さ等の構成は、
図3に示された粘着層8のそれらと同じである。このシート40は、構造物に貼り付けられる。シート40が、離型紙又は離型フィルムを有してもよい。離型紙及び離型フィルムは、粘着層46と積層される。
【0068】
[圧縮変形エネルギー]
このシート40の、60℃における20mmの圧縮変形のエネルギーE1は、2.0mJ以上が好ましい。屋根の補修作業のとき、作業者は手でシート40を持ち上げる。このとき、シート40には重力が掛かる。シート40は、自重によって変形する。この変形により、シート40は作業者の手から垂れ下がる。エネルギーE1が2.0mJ以上であるシート40では、重力が掛かったときの変形が、抑制されうる。このシート40は、作業者にとって扱いやすい。このシート40では、夏のような高温環境下においても、変形が抑制されうる。変形の抑制の観点から、エネルギーE1は、3.0mJ以上がより好ましく、6.0mJ以上が一層好ましく、9.5mJ以上が特に好ましい。
【0069】
このシート40の、-10℃における20mmの圧縮変形のエネルギーE2は、60.0mJ以下が好ましい。前述の通りシート40は、段差の近傍において湾曲する。エネルギーE2が60.0mJ以下であるシート40は、段差によく追従しうる。このシート40による屋根の補修では、シート40の屋根との間にスペースが生じにくい。このシート40は、冬のような低温環境下においても、優れた追従性を発揮する。追従性の観点から、エネルギーE2は57.1mJ以下がより好ましく、44.7mJ以下が特に好ましい。エネルギーE1及びE2は、第1実施形態に関して前述された方法と同じ方法で、測定される。
【0070】
[中間層]
中間層44は、機能層42と粘着層46との間に配置されている。中間層44は、補強体48を含んでいる。中間層44の材質(補強体48を除く部分の材質)は、
図3に示された中間層6の材質と同じである。
図12において矢印T2は、中間層44の厚さを表す。本実施形態では、補強体48を含め、厚さT2が測定される。シート40の取り扱い性の観点から、厚さT2は100μm以上が好ましく、200μm以上がより好ましく、300μm以上が特に好ましい。シート40の追従性、生産性及び軽量の観点から、厚さT2は1500μm以下が好ましく、1200μm以下がより好ましく、700μm以下が特に好ましい。
【0071】
シート40の取り扱い性の観点から、中間層44の厚さT2の、シート40の総厚さTtに対する比率は、30%以上が好ましく、45%以上がより好ましく、55%以上が特に好ましい。シート40の追従性、生産性及び軽量の観点から、この比率は85%以下が好ましく、75%以下がより好ましく、70%以下が特に好ましい。
【0072】
[補強体]
補強体48は、シート40の剛性に寄与しうる。補強体48を含むシート40は、取り扱い性に優れる。前述の通り補強体48は、中間層44に埋設されている。補強体48が、機能層42に埋設されてもよい。補強体48が、粘着層46に埋設されてもよい。補強体48が、機能層42と中間層44との間に位置してもよい。補強体48が、中間層44と粘着層46との間に位置してもよい。
【0073】
本実施形態の補強体48は、一例としてメッシュである。
図13に、メッシュである補強体48が示されている。この補強体48では、複数の経糸50aと複数の緯糸50bとが、織られている。換言すれば、補強体48は、ファブリック(織物)であり、経糸50aと緯糸50bとの各繊維が格子状に配置された二軸組布構造を有する。本実施形態では、このファブリックは、平織り組織を有する。ファブリックである補強体48には、中間層44の組成物が含浸しうる。この含浸は、補強体48と中間層44との剥離を抑制する。
【0074】
補強体48は、メッシュに代えて、長繊維、短繊維、不織布、樹脂フィルム、又は金属箔を含んでいてもよい。このうち樹脂フィルムは、例えば2軸延伸フィルムでもよい。中間層44の製造時には、中間層44の組成物の塗膜が乾燥する前に、塗膜に補強体48が押し当てられることで、補強体48を含む中間層44が得られる。
【0075】
補強体48の形状は、特に限定されない。補強体48がメッシュである場合の形状としては、二軸組布構造の他、例えば、三軸組布構造等の任意の形状を例示できる。補強体48の材質として、例えば、合成樹脂組成物及び金属が例示される。
【0076】
合成樹脂組成物の好ましい基材樹脂として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アラミド、ビニロン、ポリプロピレン、ポリスチレン及びポリフッ化ビニリデンが例示される。好ましい金属として、アルミニウム合金、炭素鋼及び合金鋼が例示される。引張強さが大きい経糸50a及び緯糸50bが採用されることにより、十分に大きいエネルギーE3(後に詳説)が達成されうる。或いは補強体48としては、例えば、高強度ビニロンメッシュ(例えば土木用途)や、ビニロン(例えば農業用途)、ポリエステル、ポリビニルアルコール等で形成された寒冷紗等の網材が好ましい。これらの補強体48によれば、構造物用シート40の弾性域を広げ易くできる。また、構造物用シート40に適度な剛性を付与し易くできる。更に、構造物用シート40の取扱性を改善できる。
【0077】
例えば、補強体48の線ピッチは、50mm以上1.2mm以下の値が好ましい。言い換えると、例えば、補強体48の線密度は、0.2本/cm以上8.0本/cm以下の値が好ましい。このような補強体48によれば、構造物用シート40の引張強度を確保しつつ、構造物用シート40に剛性を付与し易くできる。
【0078】
補強体48は、例えば、中間層44を平面視したとき、中間層44の全面をカバーする大きさを有していてもよいし、中間層44よりも小さい大きさを有していてもよい。すなわち、平面視したときの補強体48の面積は、平面視したときの中間層44の面積と同等、又は、中間層44の前記面積より小さくてもよい。
【0079】
平面視したときの補強体48の面積(平面視面積)は、例えば、中間層44の平面視面積に対し60%以上95%以下の値であることが好ましい。補強体48の平面視面積が60%以上の値であれば、例えば、構造物用シート40の剛性を確保し易くなり、構造物用シート40の伸び率も制御し易くできる。また、構造物用シート40の異なる領域での剛性のバラツキも抑制し易くできる。また、補強体48の平面視面積が95%以下の値であれば、例えば、構造物用シート40の厚み方向で補強体48を挟むように中間層44が形成された場合、中間層44の全体において、中間層44に対する補強体48の接着強度を確保し易くできる。尚、補強体48の平面視面積は、公知の方法で測定できる。
【0080】
補強体48の厚みは、例えば、中間層44の厚みに対して10%以上の値である。補強体48の厚みは、中間層44の厚みに対して、例えば、20%以上の値が好ましく、30%以上の値がより好ましく、40%以上の値が特に好ましく、50%以上の値が最も好ましい。一方、補強体48の厚みは、例えば、中間層44の厚みに対して80%以下の値である。補強体48の厚みは、中間層44の厚みに対して、例えば、70%以下の値が好ましく、60%以下の値がより好ましく、55%以下の値が特に好ましい。このような中間層44の厚みの設定により、構造物用シート40に適度な剛性を付与し易くできる。
【0081】
更に、補強体48の厚みと中間層44の厚みとを前記関係を有するように設定することで、本開示の構造物用シート40は、粘着層46と中間層44との密着性に優れ、適切な剛性を有するように構成できる。よって、構造物の屋根等に構造物用シート40を貼り合せる際に優れた取扱性が得られ、シワや、構造物の屋根等との隙間を生じることなく、構造物を長期にわたって構造物用シート40により保護できる。例えば、中間層44の厚みに対する補強体48の厚みの下限は、45%が好ましく、当該厚みの上限は、55%が好ましい。
【0082】
尚、補強体48は、ファブリックと共に、ファブリック以外の構造物を含んでいてもよい。この場合の構造物として、長繊維、短繊維、樹脂フィルム、金属箔及び不織布が例示される。
【0083】
[圧縮変形エネルギーE3]
ここで、補強体48がシート状である場合、短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状且つシート状の補強体48を、同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、前記一対の短辺の縁端から前記長辺に沿って15mm離れた位置までの補強体48の一対の領域を試験装置の固定具で把持して固定することにより、補強体48の前記一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部を形成した状態において、補強体48の湾曲部の、23℃における20mmの圧縮変形のエネルギーE3は、1.5mJ以上が好ましい。エネルギーE3が1.5mJ以上である補強体48を含むシート40では、大きいエネルギーE1が達成されうる。このシート40は、取り扱い性に優れる。この観点から、エネルギーE3は2.0mJ以上がより好ましく、2.0mJ以上が特に好ましい。
【0084】
このエネルギーE3は、10mJ以下が好ましい。エネルギーE3が10mJ以下である補強体48を含むシート40では、小さいエネルギーE2が達成されうる。このシート40は、追従性に優れる。この観点から、エネルギーE3は8mJ以下がより好ましく、6mJ以下が特に好ましい。
【0085】
このエネルギーE3は、圧縮変形のエネルギーE1及びE2に関して前述された方法と同じ方法で、測定される。
図7に示された短辺26及び長辺28と同じ長さの辺を有する試験片が、補強体48から切り出され、測定に供される。測定には、
図8-10に示された装置が使用される。エネルギーE3は、前記数式(1)によって算出される。エネルギーE3は、23℃の環境下において測定される。
【0086】
[ファブリック]
図13において矢印D1は、糸50の太さである。太さD1が大きい糸50により、大きいエネルギーE1が達成されうる。太さD1が小さい糸50により、小さいエネルギーE2が達成されうる。
図13において矢印P1は、糸50のピッチである。ピッチP1が小さい補強体48により、大きいエネルギーE1が達成されうる。ピッチP1が大きい補強体48により、小さいエネルギーE2が達成されうる。
【0087】
[製造方法]
中間層44のための塗膜が乾燥する前に、この塗膜に補強体48が押し当てられることで、中間層44に埋設された補強体48を含むシート40が、得られうる。
【0088】
[用途]
このシート40は、
図1-3に示されたシート2と同様、屋根の補修に適している。このシート40は、更に、
図1-3に示されたシート2と同様、住宅の壁、柱、軒、塀、門、扉、パラペット、笠木等に用いられうる。このシート40が、商用ビルディング、工場、倉庫、橋梁、下水施設、鉄道施設、トンネル等に用いられてもよい。
【0089】
[密度]
シート40の密度は4.0g/cm3以下が好ましく、3.0g/cm3以下がより好ましく、2.5g/cm3以下が特に好ましい。
【0090】
<その他の補足事項>
以下、その他の補足事項について説明する。以下では構造物用シート2について例示するが、以下の補足事項は、その他の本開示の構造物シートにも適用可能である。
[構造物用シートの剛性について]
構造物用シート2は、例えば、構造物への貼付の際の取扱い性を確保するとの観点から、折曲げに耐えうる剛性を有することが好ましい。このため例えば、構造物用シート2は、貼付面側に配置された第1層、及び、貼付面とは反対側に配置された第2層の少なくともいずれかを所定の剛性を有するように構成されていてもよい。或いは構造物用シート2は、貼付面側に配置された第1層と、貼付面とは反対側に配置された第2層と、第1層と第2層との間に配置された第3層とを備え、第3層が所定の剛性を有するように構成されていてもよい。以下、具体的に説明する。
【0091】
構造物用シート2の貼付面側に配置された第1層としては、粘着層8を例示できる。粘着層8に剛性を付与する方法としては、粘着層8を、粘着剤とフィラーとを含むように構成する方法を例示できる。この場合、粘着層8は、例えば、アクリル、シロキサン結合を有するシリコーン、ゴム、ウレタン系等のガラス転移温度(Tg)が比較的低く且つファンデルワールス力や静電気力を利用できる粘着剤と、シリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カーボンブラック等のフィラーを含む。例えば、粘着層8のフィラーの添加量及びフィラーの粒子形状の少なくともいずれかを調整することで、粘着層8の剛性を制御できる。具体的にフィラーの粒子形状としては、球状、針状、不定形、テトラポット形状等を例示できる。また、機能層4の厚みを調整することで、構造物用シート2の剛性を制御できる。また、機能層4中の粘着剤のTgを調整することで、構造物用シート2の剛性を制御できる。
【0092】
構造物用シート2の表面側に配置された層、即ち、構造物用シート2の貼付面とは反対側に配置された第2層としては、機能層4を例示できる。機能層4に剛性を付与する方法として、機能層4を、主材と、フィラーとを含むように構成する方法を例示できる。この場合、機能層4は、例えば、アクリルシリコーン、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、非ジエン系ゴム等の主材と、シリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カーボンブラック等のフィラーとを含む。例えば、機能層4のフィラーの添加量及びフィラーの粒子形状の少なくともいずれかを調整することで、機能層4の剛性を制御できる。具体的にフィラーの粒子形状としては、球状、針状、不定形、テトラポット形状等を例示できる。また、機能層4の厚み、及び、機能層4の主材のTgの少なくともいずれかを調整することで、構造物用シート2の剛性を制御できる。このように構造物用シート2では、粘着層8及び機能層4の少なくともいずれかは、フィラーを含んでいてもよい。
【0093】
貼付面側に配置された第1層(例えば粘着層8)と、貼付面とは反対側に配置された第2層(例えば機能層4)と、第1層と第2層との間に配置された第3層とを備え、第3層が所定の剛性を有するように構成された構造物用シート2において、第3層に剛性を付与する方法としては、例えば、第3層を後述する中間層6として構成し、中間層6に剛性を付与する方法がある。
【0094】
更に、中間層6が含有する樹脂成分のTgを調整することでも構造物用シート2の剛性を制御できる。また、中間層6中の空隙の量や空隙の径を調整することでも構造物用シート2の剛性を制御できる。また、構造物用シート2が複数の中間層6を備える場合、例えば、Tgが所定の値である樹脂成分を含む第1の中間層6と、第1の中間層6に含まれる樹脂成分よりも低いTgを有する樹脂成分を含む第2の中間層6とを備えていてもよい。
【0095】
構造物用シート2の剛性を確保する観点から、中間層6の厚みは、例えば100μm以上の値である。中間層6の厚みは、例えば、200μm以上の値が好ましく、300μm以上の値がより好ましく、350μm以上の値が最も好ましい。一方、生産性等も考慮すると、中間層6の厚みは、例えば1500μm以下の値である。中間層6の厚みは、1200μm以下の値が好ましく、1000μm以下の値がより好ましく、750μm以下の値が最も好ましい。このように、中間層6の厚みを適宜調整することで、構造物用シート2の適切な剛性が得られる。
【0096】
中間層6の材料として、樹脂成分、モルタル成分、及び補強体48を使用する場合、具体例として、樹脂成分としては、菊水化学工業(株)製スプリングコート(ハケ)混和液を利用できる。またモルタル成分としては、菊水化学工業(株)製スプリングコート(ハケ)粉体を利用できる。また、補強体48(メッシュ成分)としては、ユニチカ(株)製のビニロン系網材(寒冷紗(BINEO(登録商標)「V520」))を利用できる。
【0097】
[補強材料の詳細]
構造物用シート2の内部構造を制御するため、前述したように、中間層6の内部に補強体48を配置することが好ましい。この場合、中間層6の補強体48の含有量を変化させることで、構造物用シート2の内部構造を制御できる。また、構造物用シート2が複数の層を備える場合、構造物用シート2は、内部に配置された層構造の補強体48を備えていてもよい。この場合、層構造の補強体48により、構造物用シート2に所定の剛性が付与されることで、構造物用シート2の内部構造を制御できる。
【0098】
構造物用シート2が強度調整用のフィラーを含む場合、構造物用シート2に剛性を付与する具体的方法として、例えばフィラーの材質、構造物用シート2中のフィラーの添加量、フィラー粒子のサイズや形状の少なくともいずれかを制御する方法を例示できる。この場合、フィラーの材料は、無機材料又は有機材料のいずれでもよく、無機材料及び有機材料を混合してもよい。
【0099】
補強体48が不織布を含む場合、当該不織布としては、繊維を織らずにシート状に形成した不織布であれば、特に限定されない。また、不織布を構成する繊維としては、天然繊維及び化学繊維の少なくともいずれかを例示できる。化学繊維としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂からなる繊維、及び、これら樹脂の共重合物、変性物、及び、これらの組合せからなる合成繊維を例示できる。これらの中でも、耐水性、耐熱性、寸法安定性、耐候性等に優れる繊維として、例えばポリエステル繊維が好ましい。
【0100】
また構造物用シート2に剛性を付与する具体的方法として、構造物用シート2の厚みを制御してもよい。また、中間層6を備える構造物用シート2の場合、中間層6の粘弾性を調節することでも構造物用シート2の剛性を制御できる。この場合、中間層6が含む樹脂のガラス転移点温度(Tg、以下単にTgとも称する。)を調節したり、当該樹脂の架橋度を変化したりすることで、中間層6の粘弾性を調節してもよい。このように、構造物用シート2の剛性を制御する方法として様々な方法を利用できる。
【0101】
<その他の実施形態>
以下、本開示の構造物用シートの更なる構成を例示する。
図14は、第4実施形態に係る構造物用シート61を模式的に示す断面構成図である。本実施形態の構造物用シート61は、前述した離型フィルム9を第1離型フィルム9とするとき、機能層54の粘着層58側とは反対側に配置された第2離型フィルム17を備える。一例として、構造物用シート61は、厚み方向において、第1離型フィルム9、粘着層58、中間層56、機能層54、及び第2離型フィルム17が、この順に配置されている。
【0102】
第2離型フィルム17は、外部に露出する表面17aが、第1離型フィルム9の外部に露出する表面9aと接触した際、表面17a、9a同士が固着しにくいように構成されている。このため、後述するシート61を巻回したロール体71(
図17参照)から構造物用シート61を繰り出す際、第1離型フィルム9を第2離型フィルム17から容易に離して、構造物用シート61を簡単に繰り出すことができる。
【0103】
また第2離型フィルム17は、所定の剛性を有する。このため、第1離型フィルム9が剥離除去された残余の構造物用シート61の剛性を向上できる。従って、第1離型フィルム9及び第2離型フィルム17が剥離除去された残余の構造物用シート61の剛性が低い場合でも、構造物用シート61を貼り付ける際の取扱性を向上できると共に、構造物の表面に構造物用シート61を容易に貼付できる。また、第1離型フィルム9及び第2離型フィルム17が剥離除去された残余の構造物用シート61を、剛性を比較的小さい構成に設計できる。このため例えば、構造物用シート61が貼付される構造物の表面の形状が、凹凸や欠陥による高低差により平坦でない場合でも、構造物用シート61を当該表面に良好に追従させて貼付できる。また例えば、当該表面に対するアンカー効果を向上できるため、許容される範囲内で構造物用シート61の粘着力を十分に向上できる。
【0104】
第2離型フィルム17の構造は、適宜設定できる。例えば
図14に示すように、第2離型フィルム17は、構造物用シート61がロール状に巻回された際に第1離型フィルム9と接触する接触層11と、構造物用シート61が平坦に配置された状態において、接触層11の第1離型フィルム9側に配置された微粘着層13とを有する。
【0105】
接触層11は、単一層により構成されていてもよいし、複数層により構成されていてもよい。また接触層11は、樹脂を含有していてもよい。言い換えると接触層11は、樹脂層でもよい。接触層11が含有する樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ナイロン6、アラミド等のポリアミド、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、セルロースアセテート等のセルロース樹脂、ポリカーボネート等の合成樹脂、ウレタン等を例示できる。
【0106】
或いは接触層11は、繊維成分と、繊維成分を結合するバインダ成分を含む繊維層でもよい。或いは接触層11は、紙を含有していてもよい。この場合、接触層11は、紙を主成分として含有していてもよいし、所定の主成分と共に紙を含有していてもよい。接触層11が紙を含有する場合、接触層11は、例えば、構造物用シート61を施工対象に貼付する際に接触層11が不用意に破れない程度の強度を有する紙を含有することが好ましい。また接触層11が紙を含有する場合、接触層11は、例えば、紙と共に、シロキサン結合を有するシリコーンを含有することが好ましい。接触層11は、例えば、離型フィルム9と第2離型フィルム17とが省略され且つ接触層11と微粘着層13が省略された残余の構造物用シート61の部分に比べて、高い剛性を有する。
【0107】
接触層11の厚みは、適宜設定可能であるが、例えば20μm以上500μm以下の値である。接触層11がポリエチレンテレフタレート(PET)を含む場合、接触層11の厚みは、例えば20μm以上50μm以下の値が好ましい。
【0108】
微粘着層13は、比較的低い粘着力を有する。例えば、微粘着層13の機能層54に対する粘着力は、粘着層58の中間層56に対する粘着力よりも低い。また例えば、微粘着層13の接触層11に対する粘着力は、微粘着層13の機能層54に対する粘着力よりも高い。微粘着層13は、例えば静電気により、機能層54に被着されていてもよい。微粘着層13は、Tgが実質的に0である主成分を含有していてもよい。微粘着層13は、例えば、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ウレタン、シロキサン結合を有するシリコーン、アクリル等を含有していてもよい。尚、第2離型フィルム17は、前記した構成に限定されず、例えば、後述するベースフィルム39であってもよい。
【0109】
図15は、第5実施形態に係る構造物用シート62を模式的に示す断面構成図である。本実施形態の構造物用シート62は、機能層54の粘着層58側とは反対側に配置された離型シート29を備える。一例として、構造物用シート62は、厚み方向において、粘着層58、中間層56、機能層54、及び離型シート29が、この順に配置されている。本実施形態の構造物用シート62では、離型フィルム9は省略されている。
【0110】
離型シート29は、外部に露出する表面29a及びその近傍に配置された離型剤を含有する。離型剤としては、例えば、シロキサン結合を有するシリコーンを例示できる。これにより、ロール体71において、離型シート29の外部に露出する表面29aが、粘着層58の貼付面58aと接触した際、表面29a及び貼付面58aが互いに固着しにくいように構成されている。このため、ロール体71から構造物用シート62を繰り出す際、粘着層58を離型シート29から容易に剥離して、構造物用シート62を簡単に繰り出すことができる。
【0111】
このように本開示では、ロール体71から構造物用シート62を繰り出す際、例えば、構造物用シート62の粘着成分が設けられた部分が構造物用シート62の他の部分に付着して取り出しにくくならないように、予め構造物用シート62がロール体71から繰り出し易くされていてもよい。また離型シート29は、所定の剛性を有する。このため本実施形態では、離型フィルム9が省略されていても、構造物用シート2の剛性を向上できる。従って、構造物用シート62の取扱性を向上させ、構造物の貼付対象に構造物用シート62を容易に貼付できる。この場合、離型シート29は、離型シート29が剥離除去された残余の構造物用シート62に比べて、高い剛性を有する。
【0112】
離型シート29の構造は、適宜設定できる。例えば
図15に示すように、離型シート29は、構造物用シート62がロール状に巻回された際に粘着層58の貼付面58aと接触する表面29aを有する離型中間層15と、構造物用シート62が平坦に配置された状態において、離型中間層15の粘着層58側に配置された微粘着層13とを有する。離型中間層15は、例えば離型剤を含有する点以外は、接触層11と同様の構成を有していてもよい。また離型シート29は、表面29aに重ねて配置された離型剤層を有していてもよい。
【0113】
図16は、第6実施形態に係る構造物用シート63を模式的に示す断面構成図である。本実施形態の構造物用シート63は、平坦に配置された状態において、機能層54の粘着層58側とは反対側に配置されたベースフィルム39を備える。ベースフィルム39は、前述した機能層4の形成時に使用されるベースフィルムである。本実施形態の構造物用シート63は、機能層54の形成後も剥離されることなくベースフィルム39を備えている。
【0114】
一例として、構造物用シート63は、厚み方向において、離型フィルム9、粘着層58、中間層56、機能層54、及びベースフィルム39が、この順に配置されている。ベースフィルム39の外部に露出する表面39aと、離型フィルム9の外部に露出する表面9aとは、互いに接触した際、固着しにくいように構成されている。このため、ロール体71から構造物用シート63を繰り出す際、構造物用シート2を簡単に繰り出すことができる。またベースフィルム39は、所定の剛性を有する。この場合、ベースフィルム39は、離型フィルム9及びベースフィルム39が剥離除去された残余の構造物用シート63に比べて、高い剛性を有する。このため、離型フィルム9が剥離除去された残余の構造物用シート63において、ベースフィルム39により構造物用シート63の剛性を向上できる。従って、第1離型フィルム9及びベースフィルム39が剥離除去された残余の構造物用シート63の剛性が低い場合でも、構造物用シート63の取扱性を向上できると共に、構造物の貼付対象に構造物用シート63を容易に貼付できる。
【0115】
ベースフィルム39は、互いに貼付された2部材を剥がすと二度と接着できない性質である疑似接着性を有する樹脂ラミネート紙を含有していてもよい。この場合、例えば、ベースフィルム39が、樹脂層と紙とを積層した樹脂ラミネート紙を含有し、樹脂ラミネート紙中で、樹脂層と紙とが疑似接着により接着されていてもよい。この構成によれば、樹脂層が機能層54に被着した状態で、樹脂ラミネート紙中の紙を樹脂層から剥離すると、紙のみが剥離除去され、樹脂層が構造物用シート63の機能層54に被着した状態で残留する。
【0116】
次に、第4~第6実施形態において、構造物用シート61~63を構造物に貼付することにより構造物の補強又は修復を行う施工方法について例示する。本施工方法において、作業者は、必要な長さの構造物用シート61~63をロール体71から繰り出す。次に作業者は、第4及び第6実施形態の場合、構造物用シート2の離型フィルム9を剥離しつつ、露出した粘着層58の貼付面58aを構造物の貼付対象の表面に貼付する。このとき作業者は、構造物用シート2から離型フィルム9を少しずつ剥離させながら、露出した粘着層58の貼付面58aを貼付対象の表面に貼付してもよい。他方で作業者は、第5実施形態の場合、構造物用シート2の粘着層58の貼付面58aを構造物の貼付対象の表面に貼付する。
【0117】
その後、作業者は、第4~第6実施形態の場合、構造物用シート2を貼付対象に貼付した後、構造物用シート2から、対応する第2離型フィルム17、離型シート29、及び、ベースフィルム39のいずれかを剥離除去する。
【0118】
即ち第4~第6実施形態に係る本施工方法は、構造物用シート2がロール状に巻回されたロール体71を準備する準備工程と、ロール体71から構造物用シート2を繰り出す繰出工程と、繰り出された構造物用シート2から第1離型フィルム9を剥離すると共に、外部に露出した貼付面を構造物の表面に貼付する貼付工程とを有する。ここで第4及び第6実施形態の準備工程では、第1離型フィルム9により貼付面58aが覆われた構造物用シート2を用いてロール体71を準備する。
【0119】
また本施工方法では、準備工程で準備されるロール体71の構造物用シート2が、機能層54と粘着層58とを含む積層構造を有し、機能層54の粘着層58側とは反対側には、被覆シートが配置され、ロール体71では、この被覆シートを含む構造物用シート2がロール状に巻回されており、貼付工程中又は貼付工程後に、被覆シートが剥離除去されてもよい。この被覆シートは、第2離型フィルム17、離型シート29、及び、ベースフィルム39のいずれかであってもよい。
【0120】
また第4実施形態の施工方法では、準備工程で準備されるロール体71の構造物用シート2が、機能層54と粘着層58とを含む積層構造を有すると共に、機能層54の粘着層58側とは反対側に配置され且つ離型フィルム9とは別の離型シート29を有し、準備工程では、離型シート29が粘着層58と接触するように構造物用シート2がロール状に巻回されたロール体71を準備してもよい。
【0121】
本開示の構造物用シート2を使用する際、例えば、以下に示す供給物品65を利用できる。
図17は、本開示の構造物用シート2を収容した供給物品65の構造を示す模式図である。
図17では、一例として、離型フィルム9を備える構造物用シート2を示している。
図17に示される供給物品65は、帯状の構造物用シート2が巻回されたロール体71と、ロール体71を収容する収容空間70aを有する容器70とを備える。容器70は、収容空間70aに収容されたロール体71から外部に構造物用シート2を繰り出して供給可能な供給口70bを有する。供給口70bは、ロール体71の軸方向における構造物用シート2の幅寸法と同等以上の幅寸法を有する。
【0122】
作業者は、例えば供給物品65を施工現場に搬入し、供給物品65から必要な長さの構造物用シート2を繰り出して、構造物用シート2を施工に用いることができる。従って供給物品65によれば、構造物用シート2を保管に適したロール体71の形態で保存できる。更に、構造物用シート2の使用時には必要な分だけ供給物品65から繰り出して使用できる。よって、作業効率の向上を図れる。
【0123】
また作業者は、供給口70bから構造物用シート2を繰り出す際、例えば、構造物用シート2の幅方向の全体領域を供給口70bの開口周縁に押し付けながら構造物用シート2を繰り出すことにより、構造物用シート2の幅方向の全体領域に均一な張力を付与しながら構造物用シート2を繰り出すことができる。これにより、構造物の表面に対して構造物用シート2を均一な張力で貼付できる。従って、貼付後の構造物用シート2に不均一な張力が作用することで、貼付後の構造物用シート2の予期せぬ収縮や膨張が発生するのを防止できる。尚、構造物用シート2の幅方向の全体領域に均一に張力を付与するために、例えば供給口70bの開口周縁に、構造物用シート2の幅方向に延びて構造物用シート2と接触する長尺部材等の別部材を配置してもよい。
【0124】
また、供給物品65が備える構造物用シートは、本開示の構造物用シートであればよく、例えば、第4~第6実施形態のいずれかの構造物用シート2、或いはその他の実施形態の構造物用シート2であってもよい。
【0125】
<実施例>
【0126】
以下、実施例に係る構造物用シートの効果が明らかにされる。この実施例の記載に基づいて本明細書で開示された範囲が限定的に解釈されるべきではない。
【0127】
[実施例1]
リンテック(株)製PPラミネートシートである厚み130μmのベースフィルムを準備した。このベースフィルム上に、アクリル系樹脂を含む耐侯層形成用組成物(大日精化工業(株)製クールライフSPブラック(CB1)P5-0と、藤倉化成(株)製エフシーコート弾性黒を質量比50:50で混ぜたもの)を塗工した。形成した塗膜を乾燥することにより、単一層により構成される厚み110μmの機能層を形成した。
【0128】
次いで、中間層を構成するポリマー形成用組成物(菊水化学工業(株)製、スプリングコートハケ混和液)及びセメントを含有する組成物(菊水化学工業(株)製(スプリングコートハケ粉体)を22:78で混ぜた混合物を調整した。この混合物を、機能層上に塗工した。この混合物の塗膜の表面に、補強体(ユニチカ(株)製寒冷紗(BINEO「V520」)を押し付けるように配置した。これにより、塗膜を硬化させて、硬化後の厚みが450μmであり、ポリマーとフィラー(セメント含有物)の固形分の質量比が12:88である中間層を機能層の上に形成した。
【0129】
一方、トーヨーケム(株)製アクリル系粘着剤(オリバインBPS6574)100質量部に対して、トーヨーケム(株)製イソシアネート系硬化剤(BHS8515)6質量部を混合し、粘着剤用混合液を調整した。この粘着剤用混合液を剥離シート表面に塗布、乾燥させて厚み100μmの粘着層を形成した。その後、粘着層を中間層に重ねて密着させて、総厚みが660μmである実施例1に係る構造物用シートを作製した。
【0130】
[実施例2]
補強体を設けなかった他は実施例1と同様にして、総厚みが660μmである実施例2の構造物用シートを得た。
【0131】
[実施例3及び4]
中間層におけるポリマーとフィラー(セメント含有物)との固形分の質量比を、下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、各総厚みが660μmである実施例3及び4の構造物用シートを得た。
【0132】
[実施例5]
補強体を設けず、且つ中間層におけるポリマーとフィラー(セメント含有物)との固形分の質量比を、下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、総厚みが660μmである実施例5の構造物用シートを得た。
【0133】
[実施例6]
中間層の厚みを300μmとした以外は実施例3と同様にして、総厚みが510μmである実施例6の構造物用シートを得た。
【0134】
[実施例7]
中間層の厚みを1200μmとした以外は実施例3と同様にして、総厚みが1410μmである実施例7の構造物用シートを得た。
【0135】
[実施例8及び9]
中間層におけるポリマーとフィラー(セメント含有物)との固形分の質量比を、下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、各総厚みが660μmである実施例8及び9の構造物用シートを得た。
【0136】
[比較例1]
エネルギーE3が12.4mJである補強体(ユニチカ(株)製寒冷紗(BINEO「V510」)を設けた他は実施例1と同様にして、総厚みが660μmである比較例1の構造物用シートを得た。
【0137】
[比較例2]
中間層におけるポリマーとフィラー(セメント含有物)との固形分の質量比を、表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、総厚みが660μmである比較例2の構造物用シートを得た。
【0138】
実施例1~9及び比較例1、2について、短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状の各構造物用シートを、同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、当該一対の短辺の縁端から当該長辺に沿って15mm離れた位置までの各構造用シートの一対の領域を試験装置の固定具で把持して固定することにより、各構造物用シートの当該一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部を形成した状態において、60℃における当該湾曲部の20mmの圧縮変形のエネルギーE1と、当該湾曲部の、-10℃における当該湾曲部の20mmの圧縮変形のエネルギーE2を測定した。
【0139】
また実施例1~9及び比較例1、2について、短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状の各補強体を、同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、当該一対の短辺の縁端から当該長辺に沿って15mm離れた位置までの各補強体の一対の領域を試験装置の固定具で把持して固定することにより、各補強体の当該一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部を形成した状態において、23℃における当該湾曲部の20mmの圧縮変形のエネルギーE3を測定した。この圧縮変形のエネルギーE1~E3が、下記の表1及び表2に示されている。
【0140】
[取り扱い性]
実施例1~9及び比較例1、2の構造物用シートを屋根に貼る作業を、高温環境下において、作業者に行わせた。この作業者に、取り扱い性について聞き取った。下記の基準に従って、実施例1~9及び比較例1、2の格付け評価を行った。なお、構造物用シートを比較的長く一度に貼付できることは良好と評価されるが、本試験では、構造物用シートを簡便に比較的短い長さを複数に分けて貼付できる場合も良好と評価した。
A:極めて良好
作業者が構造物用シートを貼付する際の位置合わせにおいて、当該シートを幅方向の両端を持続的に引張ながら把持せずに貼付できると評価される。
B:良好
比較的長く一度に貼付する場合には、自重により意図しない位置に貼付されるおそれが若干あるものの、作業者が構造物用シートを貼付する際の位置合わせにおいて、当該シートを幅方向の両端を持続的に引張ながら把持せずに貼付できると評価される。
C:不良
作業者が構造物用シートを貼付する際の位置合わせにおいて、当該シートを幅方向の両端を持続的に引張ながら把持しなければ、自重により意図しない位置に貼付されてしまうと評価される。
この結果が、下記の表1及び表2に示されている。
【0141】
[追従性]
実施例1~9及び比較例1、2の構造物用シートを段差に貼る作業を、低温環境下において、作業者に行わせた。この作業者に、追従性について聞き取った。下記の基準に従って、実施例1~9及び比較例1、2の格付け評価を行った。
A:極めて良好
作業者が構造物用シートを段差がある箇所に貼付する際において、簡便な作業にて、段差に追従して隙間を生じさせずに当該シートを貼付できると評価される。
B:良好
作業者が構造物用シートを段差がある箇所に貼付する際において、段差に追従して隙間を生じさせずに当該シートを貼付できると評価される。
C:不良
作業者が構造物用シートを段差がある箇所に貼付する際において、当該シートが段差に追従せずに隙間が生じてしまうと評価される。
この結果が、下記の表1及び表2に示されている。
【0142】
【0143】
【0144】
表1及び表2から明らかな通り、実施例1~9は、比較例1、2に比べて、取り扱い性及び追従性に優れている。この評価結果から、実施例1~9に係る構造物用シートの優位性は明らかである。
【0145】
[開示項目]
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態を開示する。
【0146】
[項目1]
機能層と粘着層とを備える構造物用シートであって、
短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状の前記構造物用シートを、同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、前記一対の短辺の縁端から前記長辺に沿って15mm離れた位置までの前記構造用シートの一対の領域を試験装置の固定具で把持して固定することにより、前記構造物用シートの前記一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部を形成した状態において、
60℃における前記湾曲部の20mmの圧縮変形のエネルギーが、2.0mJ以上であり、
前記湾曲部の、-10℃における前記湾曲部の20mmの圧縮変形のエネルギーが、60.0mJ以下である、構造物用シート。
[項目2]
前記機能層と前記粘着層との間に位置する中間層を更に備える、項目1に記載の構造物用シート。
【0147】
[項目3]
前記中間層の材質が、ポリマーとフィラーとの複合材料である、項目2に記載の構造物用シート。
【0148】
[項目4]
前記複合材料におけるポリマーとフィラーとの固形分の質量比が、5/95以上70/30以下である、項目3に記載の構造物用シート。
【0149】
[項目5]
前記フィラーがセメント成分を含有する、項目3又は4に記載の構造物用シート。
【0150】
[項目6]
前記フィラーが、モルタルを組成する砂、及び、骨材の少なくともいずれかを含有する、項目3~5のいずれか1項に記載の構造物用シート。
【0151】
[項目7]
前記中間層の厚さが100μm以上1500μm以下である、項目2~6のいずれか1項に記載の構造物用シート。
【0152】
[項目8]
前記中間層の厚さの、前記構造物用シートの総厚さに対する比率が、30%以上85%以下である、項目2~7のいずれか1項に記載の構造物用シート。
【0153】
[項目9]
補強体を更に備える、項目2~8のいずれか1項に記載の構造物シート。
【0154】
[項目10]
前記補強体がファブリックである、項目9に記載の構造物用シート。
【0155】
[項目11]
前記ファブリックの材質が合成樹脂組成物であり、この合成樹脂組成物の基材樹脂がポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アラミド、ビニロン、ポリプロピレン、ポリスチレン又はポリフッ化ビニリデンである、項目10に記載の構造物用シート。
[項目12]
短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状且つシート状の前記補強体を、同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、前記一対の短辺の縁端から前記長辺に沿って15mm離れた位置までの前記補強体の一対の領域を試験装置の固定具で把持して固定することにより、前記補強体の前記一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部を形成した状態において、
23℃における前記補強体の前記湾曲部の20mmの圧縮変形のエネルギーが、1.5mJ以上である、項目9~11のいずれか1項に記載の構造物用シート。
【0156】
[項目13]
前記機能層及び前記粘着層の少なくともいずれかは、フィラーを含む、項目1~12のいずれか1項に記載の構造物用シート。
【0157】
[項目14]
【0158】
前記粘着層の前記機能層側とは反対側の面に配置された離型フィルムを備える、項目1~13のいずれか1項に記載の構造物用シート。
【0159】
[項目15]
シートによる構造物の補修又は補強の方法であって、
(1)短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状の前記シートを、同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、前記一対の短辺の縁端から前記長辺に沿って15mm離れた位置までの前記シートの一対の領域を試験装置の固定具で把持して固定することにより、前記シートの前記一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部を形成した状態において、
60℃における前記湾曲部の20mmの圧縮変形のエネルギーが、2.0mJ以上であり、
-10℃における前記湾曲部の20mmの圧縮変形のエネルギーが、60.0mJ以下であり、
且つ機能層及び粘着層を有するシートを、準備する工程、
並びに
(2)前記粘着層の粘着力により、前記構造物の表面に前記シートを貼り付ける工程
を備えた、構造物の補修又は補強の方法。
【0160】
[項目16]
第1シートによって補修又は補強された構造物の、第2シートによる再補修又は再補強の方法であって、
(1)短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状の前記第1シートを、同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、前記一対の短辺の縁端から前記長辺に沿って15mm離れた位置までの前記第1シートの一対の領域を試験装置の固定具で把持して固定することにより、前記第1シートの前記一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部を形成した状態において、
前記第1シートの前記湾曲部の60℃における20mmの圧縮変形のエネルギーが、2.0mJ以上であり、
前記第1シートの前記湾曲部の-10℃における20mmの圧縮変形のエネルギーが、60.0mJ以下であり、
且つ機能層及び粘着層を有する第1シートを、準備する工程、
(2)前記第1シートの粘着層の粘着力により、前記構造物の表面に前記第1シートを貼り付ける工程、
(3)短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状の前記第2シートを、同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、前記一対の短辺の縁端から前記長辺に沿って15mm離れた位置までの前記第2シートの一対の領域を試験装置の固定具で把持して固定することにより、前記第2シートの前記一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部を形成した状態において、
前記第2シートの前記湾曲部の60℃における20mmの圧縮変形のエネルギーが、2.0mJ以上であり、
前記第2シートの前記湾曲部の-10℃における20mmの圧縮変形のエネルギーが、60.0mJ以下であり、
且つ機能層及び粘着層を有する第2シートを、準備する工程、
並びに
(4)前記第2シートの粘着層の粘着力により、破損又は劣化した前記第1シートの表面に前記第2シートを貼り付ける工程
を備えた、構造物の再補修又は再補強の方法。
【0161】
本開示の構成は、前記実施形態及び前記実施例のものに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、その構成及び方法を変更、追加、又は削除できる。本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。例えば、1つの実施形態又は実施例に記載の構成の一部を、他のいずれかの実施形態又は実施例に記載の構成に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0162】
以上説明された構造物用シートは、種々の物体に貼り付けられて使用されうる。
【符号の説明】
【0163】
2、40、61、62、63 構造物用シート
2a 第1シート
2b 第2シート
4、42、54 機能層
6、44、56 中間層
8、46、58 粘着層
10 屋根
16 段差
20 継ぎ目
22 段差
24 試験片
30 つかみ具(固定具)
34 湾曲部
36 圧子
48 補強体
50a 経糸
50b 緯糸