(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166146
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】植物性ミルク発酵物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 9/127 20060101AFI20241121BHJP
A23C 11/10 20210101ALI20241121BHJP
A23L 11/65 20210101ALI20241121BHJP
A23C 9/13 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
A23C9/127 ZNA
A23C11/10
A23L11/65
A23C9/13
A23C9/127
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024079126
(22)【出願日】2024-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2023080745
(32)【優先日】2023-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】303036670
【氏名又は名称】合同酒精株式会社
(72)【発明者】
【氏名】飯坂(森江) 恭子
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 準季
(72)【発明者】
【氏名】篠田 美咲
(72)【発明者】
【氏名】堀口 博文
(72)【発明者】
【氏名】守谷 崇
【テーマコード(参考)】
4B020
【Fターム(参考)】
4B020LB18
4B020LB27
4B020LC05
4B020LC07
4B020LG05
4B020LK18
4B020LK19
4B020LP15
4B020LP18
4B020LQ06
(57)【要約】
【課題】豆乳等の植物性ミルク発酵物において、冷蔵保存日数が経過しても、植物性ミルク発酵物中の乳酸菌生菌数の低下が生じにくい、豆乳等の植物性ミルク発酵物、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】植物性ミルクと、乳酸菌と、プロテインホスファターゼと、リン酸と、を含有する植物性ミルク発酵物。前記リン酸含量が、植物固形分を基準として10~40μmol/gであることが好ましい。前記リン酸が、植物性ミルクに含まれるリン酸と、植物性ミルクを構成するリン酸化タンパク質から遊離したリン酸と、フィチン酸から遊離したリン酸であることが好ましい。
【選択図】
図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性ミルクと、乳酸菌及び/又はビフィズス菌と、プロテインホスファターゼと、リン酸と、を含有する植物性ミルク発酵物。
【請求項2】
前記リン酸含量が、植物固形分を基準として10~40μmol/gである請求項1に記載の植物性ミルク発酵物。
【請求項3】
前記リン酸が、植物性ミルクに含まれるリン酸と、植物性ミルクを構成するリン酸化タンパク質から遊離したリン酸と、フィチン酸から遊離したリン酸である請求項1又は2記載の植物性ミルク発酵物。
【請求項4】
前記プロテインホスファターゼが失活した状態で存在する請求項1~3いずれか1項に記載の植物性ミルク発酵物。
【請求項5】
請求項1~4いずれか1項に記載の植物性ミルクが、豆乳である豆乳発酵物。
【請求項6】
前記植物性ミルク発酵物を冷蔵保存31日後の前記乳酸菌生存率が、冷蔵保存0日後の乳酸菌生存数を基準として30%以上である請求項1~4いずれか1項に記載の植物性ミルク発酵物または請求項5に記載の豆乳発酵物。
【請求項7】
前記植物性ミルク発酵物の破断荷重が2.0N以下である請求項1~4いずれか1項に記載の植物性ミルク発酵物または請求項5に記載の豆乳発酵物。
【請求項8】
植物性ミルクを調製する第1工程と
植物性ミルクと、乳酸菌及び/又はビフィズス菌と、を混合し、混合液を得る第2工程と、
上記混合液を発酵させる第3工程と、
を順次行う植物性ミルク発酵物の製造方法であって、
第3工程が終了する前に、プロテインホスファターゼを添加する工程を行うことを特徴とする植物性ミルク発酵物の製造方法。
【請求項9】
前記プロテインホスファターゼ添加工程を前記第2工程と略同時に行うことを特徴とする請求項8記載の植物性ミルク発酵物の製造方法。
【請求項10】
前記プロテインホスファターゼの添加量が、前記植物性ミルクの全質量を基準として、0.01~50U/gである、請求項8又は9記載の植物性ミルク発酵物の製造方法。
【請求項11】
請求項8~10いずれか1項に記載の植物性ミルクが、豆乳である豆乳発酵物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性ミルク発酵物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品ロス削減のため、食品業界において賞味期限延長の技術が求められている。生菌タイプの発酵乳、乳酸菌飲料等の発酵乳製品では、未開封にて10度以下で保存した場合、賞味期限内は、菌数、栄養価、風味など品質に変わりはないとされており、乳酸菌の生菌数は賞味期限に関わる要素の一つである。発酵乳製品における乳酸菌の生菌数は、製造後から賞味期限までの間、一定レベル以上を保つことが要求される。しかし、乳酸菌生菌数は、発酵乳製品の保存日数の経過と共に減少する傾向にある。
【0003】
これまで、発酵乳製品中の乳酸菌の生菌数維持を目的に、特許文献1にはプロピオン酸菌の発酵物を乳酸菌スターターと同時に添加する方法が開示されている。特許文献2には原料乳に乳酸菌スターターを摂取して発酵させた後、乳酸菌をさらに添加する方法が開示されている。
【0004】
最近では、健康志向の高まり、嗜好性の多様化などを背景に、発酵乳の原料乳として豆乳等の植物性ミルクを利用した植物性ミルク発酵物の開発が進んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-097081号公報
【特許文献2】特開2019-118311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
豆乳等の植物性ミルクを利用した植物性ミルク発酵物は、原料乳が牛乳である発酵乳製品に比べ、製造後の冷蔵保存中における乳酸菌生菌数が特に減少しやすい課題があった。本発明は、豆乳等の植物性ミルク発酵物中の乳酸菌の生菌数を長期間維持する新規の技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、植物性ミルク発酵物において、豆乳等の植物性ミルクに添加したプロテインホスファターゼの作用により脱リン酸化したタンパク質が、上記発酵物中のタンパク構造に変化をもたらすことにより乳酸菌の保護に関わり、冷蔵保存中の乳酸菌数の低下を長期間抑制することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(10)を提供するものである。
(1)植物性ミルクと、乳酸菌及び/又はビフィズス菌と、プロテインホスファターゼと、リン酸と、を含有する植物性ミルク発酵物。
(2)前記リン酸含量が、植物固形分を基準として10~40μmol/gである(1)に記載の植物性ミルク発酵物。
(3)前記リン酸が、植物性ミルクに含まれるリン酸と、植物性ミルクを構成するリン酸化タンパク質から遊離したリン酸と、フィチン酸から遊離したリン酸である(1)又は(2)記載の植物性ミルク発酵物。
(4)前記プロテインホスファターゼが失活した状態で存在する(1)~(3)いずれか1項に記載の植物性ミルク発酵物。
(5)(1)~(4)いずれか1項に記載の植物性ミルクが、豆乳である豆乳発酵物。
(6)前記植物性ミルク発酵物を冷蔵保存31日後の前記乳酸菌生存率が、冷蔵保存0日後の乳酸菌生存数を基準として30%以上である(1)~(4)いずれか1項に記載の植物性ミルク発酵物または(5)に記載の豆乳発酵物。
(7)前記植物性ミルク発酵物の破断荷重が2.0N以下である(1)~(4)いずれか1項に記載の植物性ミルク発酵物または(5)に記載の豆乳発酵物。
(8)植物性ミルクを調製する第1工程と
植物性ミルクと、乳酸菌及び/又はビフィズス菌と、を混合し、混合液を得る第2工程と、
上記混合液を発酵させる第3工程と、
を順次行う植物性ミルク発酵物の製造方法であって、
第3工程が終了する前に、プロテインホスファターゼを添加する工程を行うことを特徴とする植物性ミルク発酵物の製造方法。
(9)前記プロテインホスファターゼ添加工程を前記第2工程と略同時に行うことを特徴とする(8)記載の植物性ミルク発酵物の製造方法。
(10)前記プロテインホスファターゼの添加量が、前記植物性ミルクの全質量を基準として、0.01~50U/gである、(8)又は(9)記載の植物性ミルク発酵物の製造方法。
(11)(8)~(10)いずれか1項に記載の植物性ミルクが、豆乳である豆乳発酵物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、豆乳等の植物性ミルク発酵物の冷蔵保存日数が経過しても、植物性ミルク発酵物中の乳酸菌生菌数の低下が生じにくい、豆乳等の植物性ミルク発酵物、及びその製造方法を提供することができる。また、植物性ミルク発酵物の離水を抑制することができ、さらに、豆乳等の植物性ミルク発酵物中のビフィズス菌数が増加した豆乳等の植物性ミルク発酵物、及びその製造方法を提供することができる。
当該発酵物は、通常の豆乳等の植物性ミルク発酵物よりも、長期間(発酵終了時点より約30日間)、乳酸菌の生菌数を維持し、更に離水を抑制することで、植物性ミルク発酵物の賞味期限延長に寄与し、食品ロスの削減につながる。さらに植物性ミルク発酵物中のビフィズス菌が増加することで、腸内環境の改善に繋がり人々の健康へ寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】大豆固形分8%の豆乳発酵物保存時におけるpHの変化を示す図である。
【
図2】大豆固形分9%の豆乳発酵物保存時におけるpHの変化を示す図である。
【
図3】大豆固形分10%の豆乳発酵物保存時におけるpHの変化を示す図である。
【
図4】大豆固形分8%の豆乳発酵物保存時における乳酸菌生菌数の変化を示した図である。
【
図5】大豆固形分8%の豆乳発酵物保存時における乳酸菌の生存率を示した図である。
【
図6】大豆固形分9%の豆乳発酵物保存時における乳酸菌生菌数の変化を示した図である。
【
図7】大豆固形分9%の豆乳発酵物保存時における乳酸菌の生存率を示した図である。
【
図8】大豆固形分10%の豆乳発酵物保存時における乳酸菌生菌数の変化を示した図である。
【
図9】大豆固形分10%の豆乳発酵物保存時における乳酸菌の生存率を示した図である。
【
図10】大豆固形分8%の豆乳発酵物保存時における遊離リン酸濃度の変化をグラフで示した図である。
【
図11】大豆固形分8%の豆乳発酵物保存時における遊離リン酸濃度の変化を数値で示した図である。
【
図12】大豆固形分9%の豆乳発酵物保存時における遊離リン酸濃度の変化をグラフで示した図である。
【
図13】大豆固形分9%の豆乳発酵物保存時における遊離リン酸濃度の変化を数値で示した図である。
【
図14】大豆固形分10%の豆乳発酵物保存時における遊離リン酸濃度の変化をグラフで示した図である。
【
図15】大豆固形分10%の豆乳発酵物保存時における遊離リン酸濃度の変化を数値で示した図である。
【
図16】発酵終了時のpHを揃えた場合の豆乳発酵物保存時におけるpHの変化を示した図である。
【
図17】発酵終了時のpHを揃えた場合の豆乳発酵物保存時における乳酸菌生菌数の変化を示した図である。
【
図18】発酵終了時のpHを揃えた場合の豆乳発酵物保存時における乳酸菌の生存率を示した図である。
【
図19】豆乳発酵物の離水率を棒グラフで示した図である。
【
図20】大豆固形分8%の豆乳発酵物の破断強度解析結果である。
【
図21】大豆固形分10%の豆乳発酵物の破断強度解析結果である。
【
図22】豆乳発酵物発酵中におけるビフィズス菌生菌数の変化を示した図である。
【
図23】豆乳発酵物保存時におけるビフィズス菌生菌数の変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中、上限値と下限値とが別々に記載されている場合、任意の上限値と任意の下限値とを組み合わせた数値範囲が実質的に開示されているものとする。
【0012】
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下であることを表す。
【0013】
(植物性ミルク)
植物性ミルクとは、豆、ナッツ、穀物等の植物性材料から作られるミルクを意味する。植物性材料は、例えば、大豆、ひよこ豆、エンドウ豆、そら豆、オーツ、アーモンド、ココナッツ等が挙げられる。植物性ミルクは、市販品である植物性ミルク、植物性ミルク粉末、植物材料の粉砕物を水等に溶解したもの、植物性材料からの抽出物(固体でも液体であっても良い)を水等に溶解したもの、植物性タンパク(固体でも液体であっても良い)を水等に溶解したものならびに必要に応じて添加物を加えたものを使用しても良い。植物性ミルクの中でも豆乳が好ましい。
本明細書においては、植物性ミルクに含まれる植物性材料の固形分を植物固形分という。例えば、豆乳においては、植物性材料が大豆であるため、植物固形分は大豆固形分と同義である。
【0014】
(豆乳)
豆乳は、日本農林規格(JAS規格)における無調整豆乳、調製豆乳、豆乳飲料が含まれる。すなわち本発明における豆乳は、大豆から熱水等によりタンパク質その他の成分を溶出させ、繊維質を除去して得られた乳状の飲料(「大豆豆乳液」と言う)であるものをいい、大豆固形分が8%以上である無調整豆乳、大豆固形分が6%以上である調製豆乳、大豆固形分が2%以上である豆乳飲料(果汁系)および大豆固形分が4%以上である豆乳飲料(その他)を含む。これらを組み合わせて使用しても良い。豆乳の中でも、大豆固形分2%~15%の範囲が好ましく、大豆固形分5~12%の範囲がより好ましく、大豆固形分8~10%の範囲が更に好ましい。下限値未満では、プロテインホスファターゼの基質となるタンパク量が少ないため、乳酸菌の生菌状態を維持するための保護効果が得られにくく、上限値越えでは、プロテインホスファターゼの基質となるタンパク量が多いため、プロテインホスファターゼの反応が進むとともに植物性ミルク発酵物中のリン酸量が増加し呈味が生じやすくなり、好ましくない場合がある。
【0015】
(乳酸菌)
乳酸菌としては、Lactococcus属、Lactobacillus属、Streptococcus属に属する微生物を例示できる。Lactobacillus属については、ゲノム解析に基づく分類学的な検証がなされた結果、2020年に23の新しい属が提案されて再分類がなされている。本明細書においては再分類後の新たな属名で記載し、()に旧属名を記載した。
乳酸菌は例えば、Lactococcuslactis、Lactococcus lactis subsp. cremoris、Lacticaseibacillus casei(Lactobacillus casei)、Lactobacillus gasseri、Lacticaseibacillus rhamnosus(Lactobacillus rhamnosus)、Lactobacillus acidophilus、Lactiplantibacillus plantarum(Lactobacillus plantarum)、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus、Streptococcus thermophilusが挙げられる。より好ましくは、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus、Streptococcus thermophilusである。これら乳酸菌の入手方法としては、一般に流通している市販品を購入することができるし、独自に分離した菌株を使用することもできる。尚、同一種の乳酸菌を複数組み合わせて使用しても、或いは、異なる種の乳酸菌を複数組み合わせて使用してもよい。また、乳酸菌と同時にビフィズス菌などのプロバイオティクス菌を使用してもよい。
【0016】
(ビフィズス菌)
ビフィズス菌としては、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する微生物を例示できる。例えば、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・ビフィドゥム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム・エスエスピー・インファンティス(Bifidobacterium longum ssp. infantis)、ビフィドバクテリウム・ブレベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・アニマリス・エスエスピー・ラクティス(Bifidobacterium animalis ssp. lactis)である。これらのビフィズス菌は単独で使用しても良いし、2以上を組み合わせて使用しても良い。このうち、ビフィドバクテリウム・アニマリス・エスエスピー・ラクティス((Bifidobacterium animalis ssp. lactis)のBB-12株(クリスチャンハンセン社製) は耐酸性を有することから好ましい。また、当該BB-12株は酸素耐性もある程度有することから、発酵乳製品の製造において使用しやすい。
【0017】
(プロテインホスファターゼ)
プロテインホスファターゼは、リン酸化タンパク質を脱リン酸化する酵素であり、本発明においては豆乳等の植物性ミルク中のリン酸化タンパク質に作用することで、リン酸を脱離できるものであればよい。リン酸化タンパク質のセリンリン酸、スレオニンリン酸、チロシンリン酸を脱離できるものであればよい。リン酸化タンパク質からリン酸が脱離し、タンパク質の構造に変化が生じ、タンパク質の疎水度も変化する。これにより、タンパク質間およびタンパク質と乳酸菌間での相互作用に変化が生じ、乳酸菌が保護され、生菌状態を長期間維持することができる。プロテインホスファターゼは、フィチン酸を脱リン酸化する作用を有するものであってもよいが、フィチン酸の脱リン酸化率(フィチン酸からの遊離リン酸濃度(mM)/フィチン酸の全リン量(mM)×100)は、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下が更に好ましく、2.5%以下が特に好ましい。フィチン酸の脱リン酸化率が上限値超えであると、植物性ミルク発酵物にリン酸の呈味が生じやすくなり、好ましくない場合がある。
【0018】
プロテインホスファターゼの最適(至適)pHは4.0~7.5の範囲にあることが好ましく、4.5~7.0がより好ましく、5.0~6.0がさらに好ましい。
【0019】
プロテインホスファターゼの最適温度は1℃~60℃の範囲にあることが好ましく、4~40℃の範囲にあることがより好ましい。
【0020】
本発明で使用するプロテインホスファターゼは、上記の最適pH及び最適温度を有することが好ましい。プロテインホスファターゼの種類及び起源は問わないが、好ましくはトリコデルマ属(Trichoderma)、アスペルギルス属(Aspergillus)、サッカロマイセス属(Sccharomyces)、バチルス属(Bacillus)、ストレプトマイセス属(Streptomyces)に属する微生物由来のプロテインホスファターゼであり、より好ましくはトリコデルマ・ビレンス(Trichoderma virens)由来のプロテインホスファターゼであり、さらに好ましくはトリコデルマ・ビレンス Gv29-8由来の仮想タンパク質(XP_013951069.1 hypothetical protein TRIVIDRAFT_87714)である。当該仮想タンパク質(XP_013951069.1 hypothetical protein TRIVIDRAFT_87714)は、下記の性質を有する。
(a)最適温度:50℃
(b)温度安定性:43℃、2時間で80%以上の残存活性
(c)最適pH:pH5.42
(d)pH安定性:pH4.7~6.8、6時間で80%以上の残存活性
(e)金属イオン要求性:2.5~5.0mMのCa2+、Mg2+、Mn2+、Co2+等の2価金属陽イオンで活性化する
(f)フィチン酸の脱リン酸化率(フィチン酸からの遊離リン酸濃度(mM)/フィチン酸の全リン量(mM)×100):約2.5%
トリコデルマ・ビレンス Gv29-8由来のプロテインホスファターゼ(XP_013951069.1 hypothetical protein TRIVIDRAFT_87714)をコードするDNAの塩基配列は配列表の配列番号1に示され、アミノ酸配列は配列表の配列番号2に示される。
プロテインホスファターゼは、野生型の他、これをコードする遺伝子を大腸菌等の宿主で発現させたものや当該遺伝子を各種遺伝子操作によって改変、発現させたものであってプロテインホスファターゼ活性を有するものであってもよい。
【0021】
プロテインホスファターゼは、好ましくは下記(i)~(iii)のいずれかのタンパク質である。
(i)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(ii)配列番号2で示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、プロテインホスファターゼ活性を有するタンパク質
(iii)配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、プロテインホスファターゼ活性を有するタンパク質
【0022】
配列番号2で示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列における、アミノ酸の欠失、置換又は付加の数は、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるプロテインホスファターゼと同等の酵素活性を示すものであれば限定されないが、1~20個が好ましく、1~10個がさらに好ましく、1~8個がさらに好ましい。
また、配列番号2で示されるアミノ酸配列との配列同一性は、80%以上であり、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましく、99%以上がよりさらに好ましい。100%であってもよい。このような配列の同一性パーセンテージは、基準配列を照会配列として比較するアルゴリズムをもった公開されているソフトウエアであるBLASTを用いて計算することができる。
【0023】
(プロテインホスファターゼの製法)
本発明におけるプロテインホスファターゼの製法は、特に限定されないが、例えば下記の通りである。トリコデルマ・ビレンス(Trichoderma virens)NBRC6355株をポテトデキストロース寒天培地(栄研)に接種し、25℃で3日間好気性培養した。菌株は、トリコデルマ・ビレンス(Trichoderma virens)Gv29-8を使用しても良い。ポテトデキストロース寒天培地上に生育した生産菌のコロニーを、約5mm角に寒天培地ごと切出し、5.0%スクロース、2.0%TUBERMINE FV(ロケット・ジャパン)、0.3%塩化カルシウム、0.1%硫酸マグネシウム、0.001%リン酸水素二カリウムから成る生産培地(pH4.0)へ植菌し、27℃、220r/minの条件で4日間旋回振とう培養する。
約700mLの培養液をアドバンテックNo.2ろ紙(アドバンテック)及び3.0%KC-フロック(日本製紙)を用いた吸引ろ過によって固液分離し、得られたろ液をUF(AHP、旭化成)によって約1/10量まで濃縮する。次いでPEG4000(ナカライテクス)を終濃度15%となるように濃縮液へ添加し、溶解したのち、4℃にて一晩静置する。その後、8000r/min、4℃の条件で20分間遠心分離(HIMAC CENTRIFUGECR20B2、HITACHI)し、上清を廃棄する。得られた沈殿を、約10mLの20mM 酢酸‐酢酸カリウム緩衝液(pH4.8)にて溶解し、その液を50℃にて1時間保温したのち、14800r/min、4℃の条件で10分間遠心分離(LEGEND MICRO 21R、サーモフィッシャーサイエンス)し、その上清を酵素液とする。得られた酵素液の形状は液状の他、スプレードライや凍結乾燥により粉末状にしても良い。その際には日常的に用いられる安定剤や賦形剤を添加しても良い。
【0024】
(発酵物中におけるプロテインホスファターゼの確認)
プロテインホスファターゼが失活した場合においても、そのタンパク質構造は維持されている。したがって、発酵物自体又は発酵物を濃縮したものについて電気泳動を行うことで、発酵物中にプロテインホスファターゼが存在するか確認することができる。電気泳動を行った後、得られた特定のバンドからアミノ酸配列を推定することも可能である。本発明におけるプロテインホスファターゼの場合、配列は配列番号2に示しており、電気泳動結果及びそのアミノ酸配列から、プロテインホスファターゼの存在を確認することが可能である。発酵物中に含まれるプロテインホスファターゼが失活していることは、後述したプロテインホスファターゼの活性測定方法を行うことで確認することができる。
【0025】
(遊離リン酸)
植物性ミルクには遊離リン酸が含まれる。豆乳には大豆固形分当たり10~20μmol/gの範囲で遊離リン酸が含まれる。本明細書においては、プロテインホスファターゼを作用させた豆乳発酵物中の遊離リン酸含量が、大豆固形分当たり12~40μmol/gが好ましく、15~30μmol/gがより好ましく、17.5~30μmol/gがさらに好ましく、20~30μmol/gが特に好ましい。豆乳以外の植物性ミルクの場合、植物固形分は原則タンパク質基準とする。大豆固形分やタンパク質の含量は発酵乳製品のパッケージに表示されている場合があり、その値を用いて算出してもよい。
植物性ミルク中に含まれるリン酸化タンパク質は、プロテインホスファターゼの作用によって脱リン酸化し、遊離リン酸が生じる。この状態が植物性ミルク発酵物においても維持される。よって、植物性ミルク発酵物中の遊離リン酸濃度を測定することにより、当該発酵物中のリン酸化タンパク質の脱リン酸化状態を推定することができる。遊離リン酸含量は、実施例記載の方法で測定することができる。脱リン酸化したタンパク質が、乳酸菌の生菌状態を維持するための保護に関与する。
豆乳発酵物中の遊離リン酸含量が下限値未満であると、脱リン酸化タンパク質量が少ないと推定され、乳酸菌の生菌状態を維持するための保護効果が得られにくく、豆乳発酵物中の遊離リン酸含量が上限値超であると、豆乳発酵物にリン酸の呈味が生じやすくなり、好ましくない場合がある。
【0026】
(任意成分)
本発明の植物性ミルク発酵物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲において、発酵前に配合し得る成分や、発酵の後に配合し得る成分を含有してもよい。当該他の任意成分としては、例えば、植物性ミルク発酵物の安定化に寄与する金属塩類、各種糖類、アスコルビン酸、グリセリン等、使い勝手をよくするための賦形剤である澱粉、デキストリン、緩衝作用を有する無機塩類、乳由来成分である乳糖、乳清、乳タンパク類、ゲル化剤である寒天、ゼラチン、ペクチン等、豆乳の濃度調整に使用する水、植物からの抽出物(液状、固体、粉末)、大豆油その他の植物油脂、粉末大豆たん白(大豆豆乳液、 調製豆乳液若しくは調製脱脂大豆豆乳液を乾燥して粉末状にしたもの、又は大豆を原料とした粉末状植物性たん白のうち繊維質を除去して得られたものをいう)、果肉、香料等が挙げられる。
【0027】
(植物性ミルク発酵物の保存条件)
生菌タイプの発酵乳製品(牛乳を使用したヨーグルト等)は通常10℃以下の冷蔵保存が推奨されている。本発明における植物性ミルク発酵物の保存は、冷蔵保存であり発酵終了後より開始される。冷蔵保存の温度は、0~20℃がより好ましく、0~10℃が更に好ましく、0~5℃が特に好ましい。冷蔵保存の下限温度は、1℃以上、2℃以上、3℃以上であってもよく、上記冷蔵保存の温度の上限値と適宜組み合わせることができる。
【0028】
(植物性ミルク発酵物保存時の乳酸菌生存率)
本発明によれば、植物性ミルク発酵物の保存期間中における乳酸菌の生存性を向上させることができる。例えば、発酵終了時点を冷蔵保存0日目とし、発酵終了時の乳酸菌の生菌数を100%とした場合、冷蔵保存10日目における乳酸菌の生存率は30%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、90%以上が特に好ましい。また、同条件下における冷蔵保存18日目における乳酸菌の生存率は、30%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、90%以上が特に好ましい。同条件下における冷蔵保存31日目における乳酸菌の生存率は、30%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましく、70%以上が特に好ましい。
【0029】
(植物性ミルク発酵物保存時の乳酸菌生菌数)
本発明によれば、植物性ミルク発酵物の保存期間中における乳酸菌の生菌数を向上させることができる。例えば、植物性ミルク発酵物の体積を基準として、発酵終了時点を冷蔵保存0日目とし、冷蔵保存10日目における乳酸菌の生菌数は1×10の4乗個/mL以上、1×10の5乗個/mL以上、1×10の6乗個/mL以上、1×10の7乗個/mL以上、1×10の8乗個/mL以上等が好ましく、1×10の9乗個/mL以下、1×10の10乗個/mL以下、1×10の11乗個/mL以下、1×10の12乗個/mL以下等が好ましい。冷蔵保存18日目における乳酸菌の生菌数は1×10の4乗個/mL以上、1×10の5乗個/mL以上、1×10の6乗個/mL以上、1×10の7乗個/mL以上、1×10の8乗個以/mL上等が好ましく、1×10の9乗個/mL以下、1×10の10乗個/mL以下、1×10の11乗個/mL以下、1×10の12乗個/mL以下等が好ましい。冷蔵保存31日目における乳酸菌の生菌数は1×10の4乗個/mL以上、1×10の5乗個/mL以上、1×10の6乗個/mL以上、1×10の7乗個/mL以上、1×10の8乗個/mL以上等が好ましく、1×10の9乗個/mL以下、1×10の10乗個/mL以下、1×10の11乗個/mL以下、1×10の12乗個/mL以下等が好ましい。
【0030】
(乳酸菌生菌数の測定方法)
乳酸菌生菌数の測定は、植物性ミルク発酵物を滅菌生理食塩水で適宜希釈したサンプルを寒天培地に混釈して培養し、培養後のコロニー数をカウントすることで生菌数を測定することができ、1コロニー=1cfuで表す。後述の実施例記載の方法で測定することができる。
【0031】
(植物性ミルク発酵物中のビフィズス菌生菌数)
本発明によれば、植物性ミルク発酵物のビフィズス菌の生菌数を向上させることができる。例えば、発酵終了時点におけるビフィズス菌の生菌数は、植物性ミルク発酵物の体積を基準として、1×10の4乗個/mL以上、1×10の5乗個/mL以上、1×10の6乗個/mL以上、1×10の7乗個/mL以上、1×10の8乗個/mL以上等が好ましく、1×10の9乗個/mL以下、1×10の10乗個/mL以下、1×10の11乗個/mL以下、1×10の12乗個以下等が好ましい。
【0032】
(植物性ミルク発酵物保存時のビフィズス菌生菌数)
本発明によれば、植物性ミルク発酵物の保存期間中におけるビフィズス菌の生菌数を向上させることができる。例えば、植物性ミルク発酵物の体積を基準として、発酵終了時点を冷蔵保存0日目とし、冷蔵保存10日目におけるビフィズス菌の生菌数は1×10の4乗個/mL以上、1×10の5乗個/mL以上、1×10の6乗個/mL以上、1×10の7乗個/mL以上、1×10の8乗個/mL以上等が好ましく、1×10の9乗個/mL以下、1×10の10乗個/mL以下、1×10の11乗個/mL以下、1×10の12乗個/mL以下等が好ましい。冷蔵保存18日目におけるビフィズス菌の生菌数は1×10の4乗個/mL以上、1×10の5乗個/mL以上、1×10の6乗個/mL以上、1×10の7乗個/mL以上、1×10の8乗個/mL以上等が好ましく、1×10の9乗個/mL以下、1×10の10乗個/mL以下、1×10の11乗個/mL以下、1×10の12乗個/mL以下等が好ましい。冷蔵保存31日目におけるビフィズス菌の生菌数は1×10の4乗個/mL以上、1×10の5乗個/mL以上、1×10の6乗個/mL以上、1×10の7乗個/mL以上、1×10の8乗個/mL以上等が好ましく、1×10の9乗個/mL以下、1×10の10乗個/mL以下、1×10の11乗個/mL以下、1×10の12乗個/mL以下等が好ましい。
【0033】
(ビフィズス菌の測定方法)
ビフィズス菌生菌数の測定は、植物性ミルク発酵物を滅菌生理食塩水で適宜希釈したサンプルを寒天培地に混釈して嫌気培養し、培養後のコロニー数をカウントすることで生菌数を測定することができ、1コロニー=1cfuで表す。後述の実施例記載の方法で測定することができる。
【0034】
(離水率)
本発明の植物性ミルク発酵物の離水率の上限値は、後述の実施例記載の離水率測定の値として、50%以下、40%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下等が好ましい。離水率が上限値以下であれば、植物性ミルク発酵物中に水を保持でき柔らかさを付与することができる。
【0035】
(硬度)
本発明の植物性ミルク発酵物の硬度は、後述する実施例記載の破断強度解析により評価することができる。具体的な物性値として、カードを崩さずクリープメータによりプランジャーを押し下げた場合に、カードが崩れる時点を破断点とし、破断点における荷重(N)を「破断荷重」(クリープメータにより自動計算される値)として、その硬度を評価することが可能である。植物性ミルク発酵物の破断荷重(N)の上限値は、2.0N以下、1.5N以下、1.2N以下、1.0N以下、0.95N以下、0.9N以下、0.8N以下、0.7N以下、0.6N以下、0.5N以下等が好ましい。破断荷重が上限値以下であれば、植物性ミルク発酵物の表面及び全体が柔らかい。
【0036】
(植物性ミルク発酵物の製造方法)
本発明は、植物性ミルクを調整する第1工程と
植物性ミルクと、乳酸菌及び/又はビフィズス菌と、を混合し、混合液を得る第2工程と、
上記混合液を発酵させる第3工程と、
を順次行う植物性ミルク発酵物の製造方法であって、
上記第3工程が終了する前に、プロテインホスファターゼを添加する工程(プロテインホスファターゼ添加工程)を行うことを特徴とする植物性ミルク発酵物の製造方法である。
第3工程が終了する前に、植物性ミルクにプロテインホスファターゼ添加工程を行うことで、植物性ミルクに含まれるリン酸化タンパク質のリン酸基を酵素反応によって切断し、リン酸基を遊離させることが可能になる。
植物性ミルクにプロテインホスファターゼを作用させた後、当該酵素を失活させる工程を設けなくてもよい。プロテインホスファターゼは中性域で作用しやすく、酸性で失活する性質がある。乳酸菌による植物性ミルクの発酵が進むにつれpHが低下することに伴い、プロテインホスファターゼ活性も低下し、失活する場合または機能しない状態で存在する場合もある。プロテインホスファターゼを失活させる工程を設けなくてもクリーンラベルの植物性ミルク発酵物を製造することができる場合もある。
【0037】
(プロテインホスファターゼ添加のタイミング)
プロテインホスファターゼ添加工程は、第2工程の前または第2工程と略同時から選択される1つ以上のタイミングで行うことが好ましい。2つ以上のタイミングで行うことも可能である。プロテインホスファターゼ添加後に、植物性たんぱく質のリン酸基が切断される。
本発明においては、第2工程と略同時にプロテインホスファターゼ添加工程を行うことが好ましい。略同時とは、使用する乳酸菌の生育速度によって変化する相対的なものであって、使用する乳酸菌が誘導期に該当することを意味する。使用する乳酸菌が複数存在する場合、その少なくとも一つが誘導期に該当すればよい。使用する乳酸菌が誘導期に該当する時期に各酵素添加工程を行うことで、乳酸菌による植物性ミルクの発酵速度が向上する。各酵素添加工程を第2工程と略同時に行うことで、既存の発酵乳製品の製造工程を変更せずに製造できるため、より簡便な植物性ミルク発酵物製造工程を提供することができる。
【0038】
(プロテインホスファターゼの添加量)
プロテインホスファターゼの添加量は、豆乳等の植物性ミルクの全質量を基準として、0.01~50U/gの範囲で添加することが好ましく、0.05~10U/gの範囲で添加することがより好ましく、0.08~5U/gの範囲で添加することが更に好ましく、0.1~1U/gの範囲で添加することが特に好ましい。
プロテインホスファターゼの添加量が下限値未満であると、リン酸化タンパク質の脱リン酸化が生じにくく、タンパク質構造変化があまり起きずに乳酸菌が保護を受けにくい状態となり、冷蔵保存時の乳酸菌生菌数が保存日数と共に低下する傾向にある。
プロテインホスファターゼの添加量が上限値超であると、製造コストの増加、また植物性ミルク発酵物にリン酸の呈味が生じやすくなり、好ましくない場合がある。
【0039】
(プロテインホスファターゼの活性測定方法と算出方法)
本明細書において、プロテインホスファターゼの含有量(酵素量)は、下記にて算出される酵素溶液体積当たりの酵素活性値より決定される。
0.2gのウシミルクカゼイン(CALBIOCHEM製、Casein,Bovine Milk, Carbohydrate and Fatty Acid Free)を20mL容ビーカーに量り取り、2.0mLの0.1M Tris-HCl緩衝液(pH9.0)と少量の蒸留水を添加し、マグネチックスターラーを用いて溶解する。続いて、2.0mLの0.2M MES-NaOH緩衝液(pH6.0)と約10mLの蒸留水を添加し、1.0規定の塩酸を用いてpH6.0に調整したのち、20mLに定容する。これを基質液とする。1.5mL容エッペンドルフチューブに、基質液を450μL分注し、酵素サンプルを50μL加え、正確に20分間反応する。反応後、1Lあたり18.0gトリクロロ酢酸、18.0g無水酢酸ナトリウム、19.8g酢酸からなる反応停止液を500μL添加し、激しく撹拌し、15000r/min、4℃の条件で5分間遠心分離する。その上清の適宜希釈液200μLを、800μLの蒸留水へ添加し、次いで2M硫酸及び40g/Lモリブデン酸アンモニウム水溶液を30μL添加し、よく撹拌する。そこへ、0.1Mアスコルビン酸ナトリウム水溶液を50μL添加し、再度撹拌したのち、40℃で20分間保温する。その後、分光光度計(UV-1240、島津製作所製)を用いて880nmにおける吸光度を測定し、リン酸二水素カリウムを用いてあらかじめ作成した検量線によってリン酸濃度(μM)を算出する。活性値は、下記の式で算出することができる。
活性値(U/mL)=リン酸濃度(μM)×反応液量(L)/反応時間(分)/酵素量(mL)×希釈率
【0040】
(プロテインホスファターゼ活性の定義)
本明細書において、1Uとは、10mMのTris-HClを含むpH6.0の20mM MES-NaOH緩衝液1mLあたり、20mgのウシミルクカゼインを溶解した基質液に対し、1/10量の酵素液を添加し、37℃で反応させ、等量の反応停止液を添加する条件において、1分間あたり1μmolのリン酸を遊離する酵素量をいう。
【0041】
(発酵物中の乳酸菌添加量)
植物性ミルクへの乳酸菌の添加量は、植物性ミルクの体積を基準として、1×10の4乗~1×10の12乗個/mLであることが好ましく、1×10の5乗~1×10の9乗個/mLであることがより好ましく、1×10の6乗~1×10の8乗個/mLが更に好ましい。
下限値未満であると菌数不足の問題がある。上限値超であると製造コスト増加や、発酵が早く進み急なpH低下による風味の低下の問題がある。
【0042】
(発酵物中のビフィズス菌添加量)
植物性ミルクへのビフィズス菌の添加量は、植物性ミルクの体積を基準として、1×10の4乗~1×10の12乗個/mLであることが好ましく、1×10の5乗~1×10の9乗個/mLであることがより好ましく、1×10の6乗~1×10の8乗個/mLが更に好ましい。
下限値未満であると発酵後のビフィズス菌数が増えにくくなる恐れがある。上限値超であると発酵後のビフィズス菌数は増えるものの、製造コストが増大する傾向にあり、好ましくない。
【0043】
(発酵終了時のpH)
発酵終了時のpHは3.8~5.2が好ましく、4.0~5.0がより好ましく、4.3~4.9が更に好ましい。下限値未満であると酸味が強く風味低下の問題がある。上限値超であると腐敗菌の増殖やカードが形成されづらい等の問題がある。また、発酵終了時のpHは、植物性ミルク発酵物保存中における生菌数生存率に影響を及ぼす。特にpH4.7を下回ると乳酸菌生菌数が減少しやすい傾向にある。そのような場合にも、プロテインホスファターゼを添加することによって長期間生菌数を維持することができる。
【実施例0044】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0045】
≪トリコデルマ・ビレンスプロテイン由来ホスファターゼの精製≫
<製造例1>
トリコデルマ・ビレンス(Trichoderma virens)NBRC6355株をポテトデキストロース寒天培地(栄研)に接種し、25℃で3日間好気性培養した。ポテトデキストロース寒天培地上に生育した生産菌のコロニーを、約5mm角に寒天培地ごと切出し、5.0%スクロース、2.0%TUBERMINE FV(ロケット・ジャパン)、0.3%塩化カルシウム、0.1%硫酸マグネシウム、0.001%リン酸水素二カリウムから成る生産培地(pH4.0)へ植菌し、27℃、220r/minの条件で4日間旋回振とう培養した。約700mLの培養液をアドバンテックNo.2ろ紙(アドバンテック)及び3.0%KC-フロック(日本製紙)を用いた吸引ろ過によって固液分離し、得られたろ液をUF(AHP、旭化成)によって約1/10量まで濃縮した。次いでPEG4000(ナカライテスク)を終濃度15%となるように濃縮液へ添加し、溶解したのち、4℃にて一晩静置した。その後、8000r/min、4℃の条件で20分間遠心分離(HIMAC CENTRIFUGECR20B2、HITACHI)し、上清を廃棄した。得られた沈殿を、約10mLの20mM 酢酸‐酢酸カリウム緩衝液(pH4.8)にて溶解し、その液を50℃にて1時間保温したのち、14800r/min、4℃の条件で10分間遠心分離(LEGEND MICRO 21R、サーモフィッシャーサイエンス)し、その上清を精製タンパク質として回収した。
【0046】
≪豆乳発酵物の製造≫
<製造例2>
(材料)
豆乳:おいしい無調整豆乳(キッコーマン、大豆固形分8%以上、タンパク量4.1 g/100 mL)
プロテインホスファターゼ(以下、「PPase」という):製造例1での調製物を使用
乳酸菌スターター:乳酸菌粉末FD-DVS YF-L812 Yo-Flex(クリスチャン・ハンセン社製:Lactobacillus.delbrueckii subsp.およびStreptococcus.thermophilusの混合物である。以下、「L812」という)
(製造方法)
豆乳をメジューム瓶に450 g秤取し、43℃湯浴中でプレインキュベートした。L812スターターを終濃度10 mg/100gとなるよう添加し、十分に攪拌した。メジューム瓶に150 gずつ分注し、フィルター滅菌したPPaseを、豆乳等の植物性ミルクの全質量を基準として、0.1 U/g、1.0 U/gとなるよう添加した。サンプルを15 mL容遠沈管に13mLずつ分注し、pH4.8を発酵終点目安として43℃で5時間発酵させ豆乳発酵物を得た。
【0047】
<製造例3>
おいしい無調整豆乳(キッコーマン、大豆固形分8%以上、タンパク量4.1 g/100 mL)の代わりに、無調整豆乳(ふくれん、大豆固形分9%、タンパク量4.3 g/100 mL)を使用した以外は、製造例2と同様にして、製造例3の豆乳発酵物を得た。
【0048】
<製造例4>
おいしい無調整豆乳(キッコーマン、大豆固形分8%以上、タンパク量4.1 g/100 mL)の代わりに、有機豆乳(スジャータ、大豆固形分10%、タンパク量5.0 g/100 mL)を使用した以外は、製造例2と同様にして、製造例4の豆乳発酵物を得た。
【0049】
<製造例5>
発酵終点をpH4.7に揃えて発酵を終了させた以外は、製造例2と同様にして、製造例5の豆乳発酵物を得た。
【0050】
<製造例6>
材料は、製造例2記載の材料を使用した。豆乳を滅菌済みのメジューム瓶に400g秤取し、43℃湯浴中でプレインキュベートした。L812スターターを終濃度10 mg/100gとなるよう添加し、十分に攪拌した。滅菌済みのメジューム瓶に200gずつ分注し、フィルター滅菌したPPaseを、豆乳等の植物性ミルクの全質量を基準として、1.0 U/gとなるよう添加した。pH4.8を発酵終点目安として43℃で5時間発酵させ豆乳発酵物を得た。
【0051】
<製造例7>
おいしい無調整豆乳(キッコーマン、大豆固形分8%以上、タンパク量4.1 g/100 mL)の代わりに、無調整豆乳(ふくれん、大豆固形分9%、タンパク量4.3 g/100 mL)を使用した以外は、製造例6と同様にして、製造例7の豆乳発酵物を得た。
【0052】
<製造例8>
おいしい無調整豆乳(キッコーマン、大豆固形分8%以上、タンパク量4.1 g/100 mL)の代わりに、有機豆乳(スジャータ、大豆固形分10%、タンパク量5.0 g/100 mL)を使用した以外は、製造例6と同様にして、製造例8の豆乳発酵物を得た。
【0053】
<製造例9>
材料は、製造例2記載の材料を使用した。豆乳を滅菌済みのメジューム瓶に400 g秤取し、43℃湯浴中でプレインキュベートした。L812スターターを終濃度10 mg/100gとなるよう添加し、さらにビフィズス菌 BB12TM(クリスチャン・ハンセン社製,Bifidobacterium animalis subsp. Lactis)を終濃度5 mg/ 100 gになるよう添加し、十分に攪拌した。メジューム瓶に200 gずつ分注し、フィルター滅菌したPPaseを、豆乳等の植物性ミルクの全質量を基準として、1.0 U/gとなるよう添加した。サンプルを15 mL容遠沈管に13mLずつ分注し、pH4.6を発酵終点目安として43℃で発酵させ豆乳発酵物を得た。
【0054】
<比較例1~3>
PPaseを添加せず、代わりにフィルター滅菌した20mM 酢酸‐酢酸カリウム緩衝液(pH4.8)を同体積分添加した以外は、製造例2~4と同様にして、比較例1~3の豆乳発酵物を得た。
【0055】
<比較例4>
PPaseを添加せずに、熱失活したPPase(1.0 U/g)を添加した以外は、製造例5と同様にして、比較例4の豆乳発酵物を得た。
【0056】
<比較例5~7>
PPaseを添加せず、代わりにフィルター滅菌した20mM 酢酸‐酢酸カリウム緩衝液(pH4.8)を同体積分添加した以外は、製造例6~8と同様にして、比較例5~7の豆乳発酵物を得た。
【0057】
<比較例8>
PPaseを添加せずに、沸騰湯浴中で10分間保持して熱失活したPPase(1.0 U/g)を添加した以外は、製造例9と同様にして、比較例8の豆乳発酵物を得た。
【0058】
≪評価≫
<試験例1〔豆乳発酵物におけるPPaseの効果(発酵時間を揃えた場合の乳酸菌生存率)〕>
製造例2~4および比較例1~3の豆乳発酵物の発酵終了時点を0日目とし、冷蔵保存0~31日目までの間、数日おきに豆乳発酵物中のpH、乳酸菌生菌数、遊離リン酸濃度を測定した。乳酸菌生菌数は、豆乳発酵物0.1mLを0.85%滅菌生理食塩水で10の4乗~10の6乗倍希釈し、希釈サンプル0.1mLを栄研化学社製BCP加プレートカウント寒天培地に混釈して、37℃で2日間培養した後コロニー数をカウントし生菌数(cfu)とした。豆乳発酵物体積あたりの生菌数(cfu/mL)を算出した。遊離リン酸濃度は下記手順で測定した。豆乳発酵物を蒸留水で20倍希釈し、1mLとした。希釈液に100%TCA溶液を0.1mL添加し、15,000rpm×5 min、4℃で遠心した。上清0.8mLにリン酸定量試薬(1 M硫酸 20 mL、4%モリブデン酸アンモニウム 6mL、蒸留水74 mL)を0.8mL加え、0.1Mアスコルビン酸溶液(用事調製)を80μL添加して混合した。サンプルを40℃で20 min反応させた後、室温で10 min冷却し、880nmにおける吸光度を測定した。あらかじめ作成した検量線を基に,リン酸濃度を算出した。
豆乳発酵物保存中のpH推移を
図1~3に示した。全てのサンプルにおいて、保存から5日目までにpHが0.2程度下がり、その後は約30日目まで一定のpHで維持した。酵素添加と無添加においてpHの変化値に大きな差は見られなかったことより、酵素添加による保存中の極端な味の変化は生じないと推測された。
豆乳発酵物保存中における乳酸菌数推移と生存率の結果を
図4~9に示した。大豆固形分8%の場合、乳酸菌生存率は、保存18日後の比較例1が51%に対し、PPaseを添加した製造例2の0.1 U/gが68%、1.0 U/gが71%であり、保存31日後の比較例1が10%に対し、PPaseを添加した製造例2の0.1 U/gが35%、1.0 U/gが68%であった。大豆固形分9%の場合、乳酸菌生存率は、保存18日後の比較例2が37%に対し、PPaseを添加した製造例3の0.1 U/gが57%、1.0 U/gが98%であり、保存31日後の比較例2が9%に対し、PPaseを添加した製造例3の0.1 U/gが40%、1.0 U/gが79%であった。大豆固形分10%の場合、乳酸菌生存率は、保存31日後の比較例3が40%に対し、PPaseを添加した製造例4の0.1 U/gが64%、1.0 U/gが73%であった。大豆固形分8、9%のヨーグルトにおいては保存2週目辺りから顕著な菌数ドロップが見られた。一方で、PPaseを添加したサンプルは濃度依存的にこの菌数ドロップを抑制し、1.0 U/g添加区では31日目まで約70%以上の生存率を維持した。大豆固形分10%のヨーグルトは保存後20日目ごろから僅かに生菌数の低下が見られたが、PPase添加区においては濃度によらず生菌数の低下を抑制する効果が見られた。大豆固形分の多いヨーグルトでは、タンパクやその他の成分によって乳酸菌が保護されることでより長く乳酸菌が生存できた。PPaseを1.0 U/g添加することで,保存約30日目まで生菌数を維持することができ、またpHも安定していることから、賞味期限の延長効果が期待できる。
豆乳発酵物保存中における遊離リン酸濃度推移を
図10~15に示した。上述で算出したリン酸濃度より、大豆固形分を基準としたリン酸濃度(μmol/g)を算出した。PPase無添加区(比較例1~3)の値より、大豆固形分あたりのリン酸濃度は、12~17.5μmol/gであった。PPase添加区(製造例2~4)は、17.5~最大30μmol/gへ増加した。脱リン酸化したタンパク質の増加によって、乳酸菌の保護効果が向上した。保存期間中における遊離リン酸濃度は、PPase添加無添加共に多少増減が見られたがバラつきの範囲内であり、保存中のリン酸遊離はほとんどなく、酵素は失活していると考えられる。
【0059】
<試験例2〔豆乳発酵物におけるPPaseの効果(発酵終了pHを揃えた場合の乳酸菌生存率)〕>
試験例1にて、豆乳発酵物におけるPPaseの効果として、乳酸菌の生存率上昇効果を示したが、発酵終了時のpHが異なる条件であったことから、試験例2ではpHを約4.7に揃えて発酵を終了させた。評価は、豆乳発酵物保存中における乳酸菌生菌数とpHについて試験例1と同様に行った。豆乳発酵物保存中におけるpH推移を
図16に、乳酸菌数推移を
図17に、乳酸菌生存率を
図18に示した。約30日目まで一定のpHで維持した。酵素添加と無添加においてpHの変化値に大きな差は見られなかったことより、酵素添加による保存中の極端な味の変化は生じないと推測された。乳酸菌生存率は、保存10日後のPPase無添加区の比較例4が25%に対し、PPase添加区の製造例5の0.1 U/gが37%、1.0 U/gが73%であり、保存20日後の比較例4が13%に対し、PPase添加区の製造例5の0.1 U/gが47%、1.0 U/gが78%であり、保存30日後の比較例4が1%未満であったのに対し、PPase添加区の製造例5の0.1 U/gが31%、1.0 U/gが67%であった。試験例1の結果と比較して、PPase無添加区(比較例4)の乳酸菌の生存率が著しく低下し、1%未満であった。一方でPPase添加区(製造例5)では、PPase濃度依存的に乳酸菌生菌数を維持した。豆乳発酵物においては発酵終了時のpHの差が生菌数維持に強く影響するが、PPaseはこの生菌数低下を抑制する効果があった。
【0060】
<試験例3〔豆乳発酵物におけるPPaseの効果(離水抑制)〕>
製造例6~8および比較例5~7の豆乳発酵物を15mL容遠沈管に5g秤取し、3,600rpmで10分間遠心分離(コクサン社製、卓上遠心機H-19FMR)した。遠心分離後の上清重量(g)を測定し離水率を下記式で算出した。
遠心分離後の上清重量(g)/ 発酵物重量(5g)×100 = 離水率(重量%)
得られた結果を、
図19に示した。
PPase添加によって離水は顕著に低下した。
【0061】
<試験例4〔豆乳発酵物におけるPPaseの効果(硬度)〕>
製造例6,8および比較例5,7の豆乳発酵物の硬度について、破断強度解析にて評価した。製造例6および比較例5の破断強度解析は、山電社製のクリープメータ(RE2-33005C)を使用して行った。破断強度解析は、カードを崩さずに行った。プランジャーの圧入速度を1mm/s、サンプル厚さを30mm、プランジャー形状を径16mmの円柱(治具 No.3)、測定歪率を50%、ロードセルの規格を2Nに設定した。製造例8および比較例7の破断強度解析は、測定歪率を60%にした以外は、製造例6および比較性5と同様にして評価した。得られた結果を
図20、
図21、表1に示した。最大荷重および破断荷重は、PPase添加区(製造例6,8)において、PPase無添加区(比較例5,7)に比べ低く、豆乳発酵物の表面及び全体が柔らかくなった。
【0062】
【0063】
<試験例5〔豆乳発酵物におけるPPaseの効果(ビフィズス菌の増殖率と生存率)〕>
製造例9および比較例8の発酵開始時点を0時間目とし発酵0~5時間までの間数時間おきと、発酵終了時点を0日目とし冷蔵保存0~31日目までの間数日おきに、豆乳発酵物中のビフィズス菌生菌数を測定した。ビフィズス菌生菌数は、豆乳発酵物0.1mLを0.85%滅菌生理食塩水で10の4乗~10の6乗倍希釈し、希釈サンプル0.1mLを栄研化学社製TOSプロピオン酸寒天培地に混釈して、37℃で2日間培養した。TOSプロピオン酸寒天培地は嫌気ジャーにアネロパックを入れ培養した。培養後コロニー数をカウントし生菌数(cfu)とした。
豆乳発酵物中の発酵中におけるビフィズス菌数の推移を
図22に、発酵物保存中におけるビフィズス菌数の推移を
図23に示した。PPase添加区(製造例9)においてPPase無添加区(比較例8)に比べ、ビフィズス菌の増殖が促進した。PPase無添加区に対しPPase添加区では、発酵終了時点では約1.7倍のビフィズス菌生菌数であり、保存26日目では、約2倍のビフィズス菌生菌数であった。
【0064】
<試験例6(PPaseの基質特異性評価)>
0.1%フィチン酸溶液に含まれるリン酸濃度を測定した。0.1%フィチン酸溶液2 mLと、40 g/Lのペルオキソニ硫酸カリウムを0.4mLとを混合し、オートクレーブで120℃、30 min加熱し反応させた。加熱後のサンプルを蒸留水で10、50倍希釈しリン酸濃度を測定した。リン酸濃度の測定は試験例1と同様の方法で実施した。0.1%フィチン酸溶液中の全リン酸濃度は、約5.5mMであった。
フィチン酸に対するPPaseによるリン酸遊離試験は下記手順で実施した。0.1%フィチン酸溶液にPPaseを1.0 U/g添加し、40℃で4時間反応させた。反応液中のリン酸濃度は試験例1と同様の方法で測定した。その結果、遊離リン酸濃度は0.14mMであり、僅か2.5%とフィチン酸に対する反応性は非常に低かった。