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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001662
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】給電装置、及び、給電方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/90 20160101AFI20231227BHJP
   H01Q 3/34 20060101ALI20231227BHJP
   H02J 50/23 20160101ALI20231227BHJP
【FI】
H02J50/90
H01Q3/34
H02J50/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100466
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 正明
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021AA05
5J021DB03
5J021EA03
5J021HA03
(57)【要約】
【課題】安定的に送電可能なアンテナ装置を提供する。
【解決手段】アンテナ装置は、複数のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を第1軸方向において調節する調節部と、画像を取得する画像取得部と、画像に含まれるマーカの画像取得部に対する第1位置を第1軸と第2軸を含む第1平面上の極座標での第2位置に変換する導出部と、第2位置に基づいて第1位置を第1軸と第3軸を含む第2平面に投影した位置の第2平面内での第3軸に対する仰角を取得する取得部と、複数のアンテナ素子から受電する位相が揃うように調節された位相データを複数の仰角に応じた複数セット分格納する格納部と、取得される仰角に応じて読み出した位相データに基づいてビームの方向が第2平面内で仰角になるように調節部を制御する制御部とを含み、包絡線信号のパワーランピングを行うタイミングに応じて、位相調節部に送電信号の位相を調整させる。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸及び第2軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナと、
前記複数のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を前記第1軸方向において調節する位相調節部と、
魚眼レンズを通じて画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部によって取得される画像に含まれるマーカの前記画像取得部に対する第1位置を、前記第1軸及び前記第2軸を含む第1平面上の極座標における第2位置に変換する位置導出部と、
前記第2位置に基づいて、前記第1位置を前記第1軸と第3軸とを含む第2平面に投影した投影位置の前記第2平面内での前記第3軸に対する仰角を取得する仰角取得部と、
前記アレイアンテナが放射するビームの方向が、前記第2平面内で前記仰角になるように前記位相調節部を制御する制御部と、
搬送波を出力する搬送波出力部と、
前記送電信号の振幅を表す包絡線信号を出力するとともに、前記包絡線信号のパワーランピングを行うパワーランピング部と、
前記搬送波と前記包絡線信号を乗算して前記送電信号を出力する変調器と
を含み、
前記パワーランピング部は、前記包絡線信号のパワーランピングを行うタイミングに応じて、前記位相調節部に前記送電信号の位相を調整させる、給電装置。
【請求項2】
前記パワーランピング部は、前記画像取得部の制御タイミングに応じて前記包絡線信号のパワーランピングを行う、請求項1に記載の給電装置。
【請求項3】
前記パワーランピング部は、
前記包絡線信号のパワーランピングを行うタイミングと、前記包絡線信号のパワーランピングの実行又は不実行とを表すパワーランピングタイミング信号を生成する第1タイミング信号生成部と、
前記第1タイミング信号生成部によって生成される前記パワーランピングタイミング信号に基づいて、前記位相調節部に前記送電信号の位相を調整させる位相調整タイミング信号を生成する第2タイミング信号生成部と
を有し、
前記位相調節部は、前記位相調整タイミング信号に応じて前記送電信号の位相を調整する、請求項1に記載の給電装置。
【請求項4】
前記パワーランピング部は、前記画像取得部の制御タイミングを表す制御タイミング信号を生成する第3タイミング信号生成部をさらに有し、
前記第1タイミング信号生成部は、前記第3タイミング信号生成部によって生成される前記制御タイミング信号に応じて前記パワーランピングタイミング信号を生成する、請求項3に記載の給電装置。
【請求項5】
前記パワーランピング部は、
パワーランピング係数を表す係数データを格納する格納部と、
前記格納部に格納されている前記係数データを前記パワーランピングタイミング信号に応じて出力する出力部と
を有する、請求項3又は4に記載の給電装置。
【請求項6】
前記出力部は、セレクタであり、
前記係数データは、前記パワーランピング係数が1未満の値を表すデータであり、
前記セレクタは、前記パワーランピング係数が1である固定データ、又は、前記係数データを前記パワーランピングタイミング信号に応じて出力する、請求項5に記載の給電装置。
【請求項7】
前記係数データは、前記パワーランピングで送電電力が調節される前記送電信号の送電電力を時系列的に表すパワーランピングデータである、請求項6に記載の給電装置。
【請求項8】
前記パワーランピングデータは、レイズドコサイン時間応答である、請求項7に記載の給電装置。
【請求項9】
前記パワーランピング部は、前記送電信号の送電電力が連続的に変化するように、前記パワーランピングを行う、請求項1に記載の給電装置。
【請求項10】
前記仰角取得部は、前記第2位置を前記第1軸に写像した写像位置の座標を前記魚眼レンズの焦点距離で除算した値を、前記仰角として求める、請求項1に記載の給電装置。
【請求項11】
前記写像位置の座標は、前記極座標における動径に偏角の余弦を乗算した値で表される、請求項10に記載の給電装置。
【請求項12】
前記複数のアンテナ素子は、前記第2軸方向に沿って伸びる複数のサブアレイにグループ分けされており、
前記位相調節部は、前記複数のサブアレイにそれぞれ接続され、前記送電信号の位相をサブアレイ毎に調節する複数の位相シフタである、請求項1に記載の給電装置。
【請求項13】
第1軸及び第2軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナと、
前記複数のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を前記第1軸方向において調節する位相調節部と、
搬送波を出力する搬送波出力部と、
前記送電信号の振幅を表す包絡線信号を出力するとともに、前記包絡線信号のパワーランピングを行うパワーランピング部と、
前記搬送波と前記包絡線信号を乗算して前記送電信号を出力する変調器と
を含み、
前記パワーランピング部は、前記包絡線信号のパワーランピングを行うタイミングに応じて、前記位相調節部に前記送電信号の位相を調整させる、給電装置。
【請求項14】
第1軸及び第2軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナと、
前記複数のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を前記第1軸方向において調節する位相調節部と、
魚眼レンズを通じて画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部によって取得される画像に含まれるマーカの前記画像取得部に対する第1位置を、前記第1軸及び前記第2軸を含む第1平面上の極座標における第2位置に変換する位置導出部と、
前記第2位置に基づいて、前記第1位置を前記第1軸と第3軸とを含む第2平面に投影した投影位置の前記第2平面内での前記第3軸に対する仰角を取得する仰角取得部と、
搬送波を出力する搬送波出力部と、
前記送電信号の振幅を表す包絡線信号を出力するとともに、前記包絡線信号のパワーランピングを行うパワーランピング部と、
前記搬送波と前記包絡線信号を乗算して前記送電信号を出力する変調器と
を含む、給電装置において、
前記アレイアンテナが放射するビームの方向が、前記第2平面内で前記仰角になるように前記位相調節部を制御し、
前記包絡線信号のパワーランピングを行うタイミングに応じて、前記位相調節部に前記送電信号の位相を調整させる、給電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給電装置、及び、給電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、無線送電装置であって、飛行体に搭載された無線受電装置に給電用のエネルギビームを送出するビーム送出部と、前記無線受電装置の受電効率を高めるための制御情報を取得する情報取得部と、前記制御情報に基づいて、前記無線受電装置の受電効率が高まるように前記エネルギビームの制御を行う制御部とを有することを特徴とする無線送電装置がある。送電アンテナとしてアレイアンテナを用いてもよいことが記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-135900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、受電位相を揃えるために、複数のアンテナ素子から送電する送電信号の位相を調節する場合に、送電電力を維持したまま位相を変化させると、位相の変化に不連続点が生じると、高周波成分等の好ましくない信号が生じ、安定的な送電が困難になる。
【0005】
そこで、受電位相を揃えるために複数のアンテナ素子から送電する送電信号の位相を調節する場合に、安定的に送電可能な給電装置、及び、給電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態のアンテナ装置は、第1軸及び第2軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナと、前記複数のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を前記第1軸方向において調節する位相調節部と、魚眼レンズを通じて画像を取得する画像取得部と、前記画像取得部によって取得される画像に含まれるマーカの前記画像取得部に対する第1位置を、前記第1軸及び前記第2軸を含む第1平面上の極座標における第2位置に変換する位置導出部と、前記第2位置に基づいて、前記第1位置を前記第1軸と第3軸とを含む第2平面に投影した投影位置の前記第2平面内での前記第3軸に対する仰角を取得する仰角取得部と、前記アレイアンテナが放射するビームの方向が、前記第2平面内で前記仰角になるように前記位相調節部を制御する制御部と、搬送波を出力する搬送波出力部と、前記送電信号の振幅を表す包絡線信号を出力するとともに、前記包絡線信号のパワーランピングを行うパワーランピング部と、前記搬送波と前記包絡線信号を乗算して前記送電信号を出力する変調器とを含み、前記パワーランピング部は、前記包絡線信号のパワーランピングを行うタイミングに応じて、前記位相調節部に前記送電信号の位相を調整させる。
【発明の効果】
【0007】
受電位相を揃えるために複数のアンテナ素子から送電する送電信号の位相を調節する場合に、安定的に送電可能な給電装置、及び、給電方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の給電装置100を示す図である。
図2】実施形態の給電装置100を示す図である。
図3】アレイアンテナ110の極座標系を示す図である。
図4】位相データの求め方を説明する図である。
図5】給電装置100のアンテナ利得を説明する図である。
図6】アンテナ素子111の位置による位相データの調節量の違いを説明する図である。
図7】アンテナ素子111の位置による位相データの調節量の違いを説明する図である。
図8】位相の不連続点を説明する図である。
図9】給電装置100のパワーランピングに関する部分を示す図である。
図10】パワーランピング部130Aの構成の一例を示す図である。
図11】制御タイミング信号、パワーランピングタイミング信号、及び、位相調整タイミング信号の波形の一例を示す図である。
図12】係数データが表すパワーランピング係数を時系列的に配列して示す図である。
図13】給電装置100の動作の一例を説明する図である。
図14】実施形態の変形例の給電装置100Mのパワーランピングに関する部分を示す図である。
図15】実施形態の変形例の給電装置100Mのパワーランピング部130Aの構成の一例を示す図である。
図16】パワーランピングタイミング信号、及び、位相調整タイミング信号の波形の一例を示す図である。
図17】給電装置100Mの動作の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の給電装置、及び、給電方法を適用した実施形態について説明する。
【0010】
<実施形態>
図1は、実施形態の給電装置100を示す図である。給電装置100は、アレイアンテナ110、フェーズシフタ120、送電信号生成部130、カメラ140、及び制御装置150を含む。なお、図1ではフェーズシフタ120の周辺の構成を簡略化して示す。フェーズシフタ120の周辺の構成の詳細については、図9を用いて後述する。
【0011】
以下では、XYZ座標系を用いて説明する。平面視とはXY平面視のことである。また、X軸は第1軸の一例であり、Y軸は第2軸の一例であり、Z軸は第3軸の一例である。また、XY平面は第1平面の一例であり、XZ平面は第2平面の一例である。
【0012】
アレイアンテナ110は、一例としてN個のサブアレイ110Aにグループ分けされている。N個のサブアレイ110Aの1番目(#1)からN番目(#N)を示す。#1から#Nは、N個のサブアレイ110AのX軸方向における座標を表す。ここで、Nは2以上の整数であるが、図1には一例としてNが4以上の偶数である形態を示す。N個のサブアレイ110Aは、X軸方向(第1軸方向)に配列されており、各サブアレイ110Aは、一例として4つのアンテナ素子111を含む。このため、アレイアンテナ110は、一例として4N個のアンテナ素子111を含む。各アレイアンテナ110は、Y軸方向(第2軸方向)に伸びている。アンテナ素子111は、平面視で矩形状のパッチアンテナである。アレイアンテナ110は、アンテナ素子111の-Z軸方向側にグランド電位に保持されるグランド板を有していてもよい。なお、一例として、4N個のアンテナ素子111の位置の中心は、XYZ座標系の原点と一致している。また、各サブアレイ110Aが含むアンテナ素子111の数は、2個以上であればよく、二次元的に配置されていればよい。
【0013】
以下では、図1に加えて図2を用いて説明する。図2は、実施形態の給電装置100を示す図である。図2では、図1と同様にフェーズシフタ120の周辺の構成を簡略化して示す。図2では、図面を見やすくするためにXYZ座標系の原点をずらして示すが、以下では図1に示すようにXYZ座標系の原点が4N個のアンテナ素子111の位置の中心と一致しているものとして説明する。また、図2には、各サブアレイ110Aについて、X軸の-Y軸方向側に隣接する1つのアンテナ素子111を示す。また、図2には、制御装置150に含まれる構成要素と、マーカ50A及び受電装置50Bを示す。マーカ50A及び受電装置50Bは、一例としてトンネルの内壁51に固定されている。トンネルの内壁51は壁部の一例であり、トンネルの内部は内壁51に沿って配置されるマーカ50Aが存在する空間の一例である。給電装置100は、一例として、作業車両に搭載してトンネル内を走行しながら、トンネルの内壁51に取り付けられたマーカ50Aを検出して、受電装置50Bに向けて送電を行う。
【0014】
また、図2では、マーカ50Aは、XZ平面視においてZ軸から角度θbの方向に存在する。図2では説明の便宜上、XYZ座標系をずらして示すが、XYZ座標系の原点が4N個のアンテナ素子111の位置の中心と一致しているため、角度θbは、XZ平面内でXYZ座標系の原点とマーカ50Aとを結ぶ直線がZ軸となす角度である。角度θbは、XZ平面を+Y軸方向側から見て、+X軸方向側に振れているときを正の値で示し、-X軸方向側に振れているときの値を負の値で示す。
【0015】
フェーズシフタ120は、N個のサブアレイ110Aに対応してN個設けられており、N個のフェーズシフタ120は、それぞれN個のサブアレイ110Aのアンテナ素子111に接続されている。フェーズシフタ120は、位相を調節する位相調節部の一例であり、位相シフタの一例である。各サブアレイ110Aの中では、4つのアンテナ素子111は、1つのフェーズシフタ120に並列に接続されている。
【0016】
各サブアレイ110Aの中では、4つのアンテナ素子111には同一の位相の送電信号が供給される。また、N個のフェーズシフタ120がN個のサブアレイ110Aにそれぞれ出力する送電信号の位相は互いに異なる。このため、4N個のアンテナ素子111から放射される電波が形成するビームの角度(仰角)をXZ平面内で制御することができる。
【0017】
4N個のアンテナ素子111から放射される電波が形成するビームは、アレイアンテナ110が出力するビームと同義である。また、アレイアンテナ110が出力するビームは、給電装置100が出力するビームと同義である。
【0018】
送電信号生成部130は、N個のフェーズシフタ120に接続されており、送電信号を生成して出力する。送電信号は、所定の電力のマイクロ波である。マイクロ波の周波数は、一例として920MHz帯の周波数である。なお、送電信号は、マイクロ波に限られるものではなく、所定の周波数の電波であればよい。送電信号生成部130の詳細については、図9及び図10を用いて後述する。
【0019】
カメラ140は、X軸方向においてはN/2番目のサブアレイ110Aと、N/2+1番目のサブアレイ110Aとの間に配置され、Y軸方向においては、各サブアレイに含まれる4つのアンテナ素子111のうちの+Y軸方向側から2番目のアンテナ素子111と3番目のアンテナ素子111との間に配置される。カメラ140は、魚眼レンズ141及びカメラ本体142を有する。カメラ140は、画像取得部の一例である。図2では、カメラ本体142を撮像部142Aと画像処理部142Bとに分けて示す。
【0020】
魚眼レンズ141は、等距離射影方式を採用したレンズである。魚眼レンズ141の中心の位置は、一例として、4N個のアンテナ素子111の中心及びXYZ座標系の原点と一致している。カメラ本体142は、カメラ140のうち魚眼レンズ141以外の部分であり、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサを含むカメラ、又は、赤外線カメラであってもよい。
【0021】
カメラ140は、魚眼レンズ141を通じてマーカ50Aを含む画像を取得し、画像データを制御装置150に出力する。マーカ50Aは、給電装置100が出力するビームを照射したいターゲットである受電用のアンテナを有する受電装置50Bに取り付けられている。給電装置100は、カメラ140で取得した画像に含まれるマーカ50Aの位置を求め、受電装置50Bに向けてビームを照射する。
【0022】
カメラ本体142は、撮像部142Aと画像処理部142Bを有する。撮像部142Aは、撮像素子を含み、魚眼レンズ141を通じて撮像を行うことによって、画像データを取得する部分である。画像処理部142Bは、撮像部142Aによって取得された画像データに対して2値化処理等の画像処理を行い、ピクセルインデックスを制御装置150に出力する。ピクセルインデックスは、マーカ50Aの撮像画面上の位置を示すXY座標値(アドレス)である。
【0023】
制御装置150は、位置導出部151、仰角取得部152、位置ずれ検出部153、距離推定部154、制御部155、及びメモリ156を有する。制御装置150は、CPU(Central Processing Unit)及びメモリを含むコンピュータによって実現される。位置導出部151、仰角取得部152、位置ずれ検出部153、距離推定部154、制御部155は、制御装置150が実行するプログラムの機能(ファンクション)を機能ブロックとして示したものである。また、メモリ156は、制御装置150のメモリを機能的に表したものである。
【0024】
ここで、位置導出部151、仰角取得部152、位置ずれ検出部153、距離推定部154、制御部155、メモリ156については、図1及び図2に加えて図3を用いて説明する。図3は、アレイアンテナ110の極座標系を示す図である。図3には、給電装置100のうちのアレイアンテナ110のサブアレイ110Aと、各サブアレイ110Aに含まれるアンテナ素子111と、アレイアンテナ110から出力されるビーム115とを示し、これら以外の構成要素を省略する。また、図3には、XY平面に平行な平面1上における極座標系を示す。
【0025】
また、XYZ座標系におけるマーカ50Aの位置をP1とし、原点Oと位置P1を結ぶ線分の仰角をθ、方位角をφとする。仰角は+Z軸方向に対する角度であり、方位角は+X軸方向に対する角度であり、+Z軸方向側から見た平面視で時計回りを正の値とする。また、位置P1をXZ平面に投影した位置P1aと原点Oとを結ぶ線分の仰角をθaとする。仰角θaは、マーカ50Aの位置がXZ平面に近い場合に仰角θをXZ平面に投影して近似的に得られる角度である。仰角θaは、角度θbと同様に、XZ平面を+Y軸方向側から見て、+X軸方向側に振れているときを正の値で示し、-X軸方向側に振れているときの値を負の値で示す。
【0026】
位置P1は、第1位置の一例であり、位置P1aは、投影位置の一例である。また、原点OはXYZ座標系の基準点の一例である。
【0027】
給電装置100は、アレイアンテナ110が出力するビーム115の仰角をXZ平面内でのみ制御する。これは、アレイアンテナ110がY軸方向に同相給電を行っているためY軸方向では固定のビームとなっておりZ軸を0度とする仰角方向にビームを振ることができることと、受電装置50Bの位置がXZ平面からあまりずれていない(例えば、YZ平面内でのZ軸に対する仰角で±30度以内程度)ことを想定している。このような位置にある受電装置50Bであれば、ビーム115の仰角をXZ平面内で制御するだけで、アレイアンテナ110の制御部の規模を抑えつつ、受電装置50Bにビーム115を効率的に照射できるからである。
【0028】
位置導出部151は、画像処理部142Bから出力されるピクセルインデックスに基づいてマーカの画像の重心を計算する。画像処理部142Bから出力されるピクセルインデックスは、魚眼レンズ141を通じて得た等距離射影の画像を表す。この画像処理により、カメラ140によって取得される画像に含まれるマーカのアレイアンテナ110に対する位置P1は、XY平面上の極座標における位置P2に変換される。このようにして位置導出部151は、位置P2を導出する。位置P1は、位置導出部151によって計算される重心の位置である。位置P2は、第2位置の一例である。
【0029】
位置P2は、原点Oからの動径rと偏角φによって表される。動径rは、魚眼レンズ141の焦点距離をfとすると、r=fθで表される。偏角φは方位角φと同一である。位置導出部151は、上述の画像処理によって、動径rをX軸に写像したr・cosφを求める。位置導出部151は、位置P2を表すデータを仰角取得部152に出力する。
【0030】
仰角取得部152は、位置P2をX軸に写像した写像位置P2aのX座標(r・cosφ)を魚眼レンズ141の焦点距離fで除算した値(r・cosφ/f)を、仰角θaとして取得(計算)する。このようにして仰角θaを取得できる理由については後述する。仰角取得部152は、仰角θaを距離推定部154と制御部155に出力する。
【0031】
位置ずれ検出部153は、画像処理部142Bから出力されるピクセルインデックスに基づいてマーカ50Aの形状及び重心を求め、マーカ50Aが存在する範囲内における重心の位置に基づいて、Y軸方向におけるカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれを検出する。魚眼レンズ141の中心の位置は、一例として、4N個のアンテナ素子111の中心及びXYZ座標系の原点と一致しているため、一例として、カメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じていない場合の重心のY軸方向の位置をY=0とすればよい。位置ずれ検出部153は、求めたマーカ50Aの存在範囲内における重心のY軸方向の位置がY=0であればカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれは生じていないと判定する。また、位置ずれ検出部153は、求めたマーカ50Aの存在範囲内における重心のY軸方向の位置がY=0でなければカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じていると判定し、位置ずれを検出する。位置ずれ検出部153は、検出結果を距離推定部154に出力する。なお、重心の位置は、位置導出部151から取得してもよい。
【0032】
距離推定部154は、仰角取得部152によって計算される仰角θaがゼロ度(0度)のときに、カメラ140の画像処理部142Bから出力されるピクセルインデックスの数に基づいて、魚眼レンズ141の中心からマーカ50Aまでの距離を推定する。仰角θaが0度であることは、Z軸方向においてマーカ50Aが魚眼レンズ141の正面に存在する(マーカ50Aの重心がZ軸上に存在する)ことを意味する。
【0033】
距離推定部154は、仰角θaが0度であるときの魚眼レンズ141の中心からマーカ50Aまでの対向距離rFDを推定する。対向距離rFDは、カメラ140に対してマーカ50AがZ軸上で対向したときの距離である。
【0034】
例えば、Z軸上においてカメラ140とマーカ50Aとを複数種類の距離で隔てた場合に画像処理部142Bが取得した複数の2値化されたピクセルインデックスの数を予めメモリ156に格納しておく。そして、距離推定部154は、仰角θaがゼロ度(0度)のときに、カメラ140の画像処理部142Bから出力されるピクセルインデックスの数をカウントし、メモリ156に格納された複数の対向距離rFDに対応する複数のリファレンスデータと比較することで、仰角θaが0度のときにおける魚眼レンズ141の中心からマーカ50Aまでの対向距離rFDを推定する。対向距離rFDによってピクセルインデックスの数が異なるため、ピクセルインデックスの数に基づいて、対向距離rFDを推定することができる。
【0035】
なお、仰角θaがゼロ度(0度)のときにカメラ140の画像処理部142Bから複数回にわたってピクセルインデックスが出力される場合は、複数のピクセルインデックスの数の平均に基づいて対向距離rFDを推定すればよい。
【0036】
また魚眼レンズ141を用いているため、カメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じている場合には、カメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じていない場合と比べると、同じ対向距離rFDであってもピクセルインデックス数が小さくなる。このため、位置ずれ検出部153がY軸方向におけるカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じていると判定した場合には、距離推定部154は、Y軸方向における位置ずれに対してピクセルインデックス数が変化する度合を表すデータを予めメモリ156に格納しておき、Y軸方向の位置ずれの度合に応じて補正したピクセルインデックス数を用いて、対向距離rFDを推定すればよい。
【0037】
制御部155は、アレイアンテナ110が放射するビーム115の方向がXZ平面内で仰角θaになるようにフェーズシフタ120における位相のシフト量(調節量)を制御する。仰角θaは、仰角取得部152によって取得される。また、制御部155は、送電信号生成部130の出力制御、及び、カメラ140の撮影制御等を行う。
【0038】
制御部155は、フェーズシフタ120における位相のシフト量の制御については具体的に次のように行う。制御部155は、距離推定部154によって推定される対向距離rFDと、仰角取得部152によって取得される仰角θaとに応じた位相データをメモリ156から読み出し、読み出した位相データに基づいてN個のフェーズシフタ120における位相のシフト量を制御する。
【0039】
ここで、受電装置50Bのアンテナが効率的に受電するには、N個のサブアレイ110Aから受電装置50Bのアンテナが受電する際の送電信号の位相が等しいことが理想的である。ところで、給電装置100は、アレイアンテナ110から例えば3mから7m程度の近距離に位置する受電装置50Bに送電信号を送電する。トンネルの内壁51に取り付けられた受電装置50Bに送電する場合には、角度θbが0度の状態においてアレイアンテナ110から受電装置50Bまでの距離は、約3m~約5m程度である。
【0040】
このような近距離での送電を想定しているため、N個のサブアレイ110Aの各々から受電装置50Bのアンテナまでの距離の相対的な差は比較的大きく、N個のサブアレイ110Aが同一のターゲットに送電すると、受電装置50BのアンテナがN個のサブアレイ110Aから受電する送電信号の位相は揃わず、受電装置50Bは効率的に受電できなくなる。N個のサブアレイ110Aの各々から受電装置50Bのアンテナまでの距離の差は、角度θbと、N個のサブアレイ110Aから受電装置50BのアンテナまでのZ軸方向の距離とによって異なる。
【0041】
そこで、給電装置100は、受電装置50BのアンテナがN個のサブアレイ110Aから受電する送電信号の位相が揃うように、N個のサブアレイ110Aの各々が送電する際の位相を調節するための位相データを用いる。位相データは位相のシフト量(調節量)を表す。ここでは、一例として、給電装置100が移動するにつれて仰角θaが+70度から-70度に変化する際に送電を行うことを想定して、1度刻みでN個のサブアレイ110Aの位相のシフト量を調節可能な複数セット分の位相データを用意する。各位相データは、ある1つの仰角θaに対応してN個のサブアレイ110Aにそれぞれ接続されるN個のフェーズシフタ120に設定するN個の位相のシフト量を含む。このような位相データを仰角θaの+70度から-70度までの範囲について1度刻みで141セット用意したのが、ある対向距離rFDについての複数セット分の位相データである。また、複数の対向距離rFDの各々に応じてN個のサブアレイ110Aの位相のシフト量を調節可能にするために、複数セット分の位相データを複数の対向距離rFDの分だけ用意する。なお、位相データは、角度θbに基づいて作成されるデータであるため、図2には複数セット分の位相データψ(θb)~ψ(θb)をθbを用いて示す。制御部155は、仰角θaと等しい角度θbについての複数セット分の位相データを用いればよい。また、位相データψ(θb)~ψ(θb)の各々は、N個のサブアレイ110Aの座標(#1~#N)に応じたシフト量θs#1~θs#Nを有する。例えば、位相データψ(θb)に含まれるシフト量θs#1~θs#Nのうちのシフト量θs#1は、座標#1のサブアレイ110Aのアンテナ素子111に用いられ、シフト量θs#Nは、座標#Nのサブアレイ110Aのアンテナ素子111に用いられる。なお、以下では、シフト量θs#1~θs#Nを区別しない場合には、シフト量θsと称す。
【0042】
制御部155は、距離推定部154によって推定される対向距離rFDに応じた複数セット分の位相データを用いて、複数セット分の位相データの中から仰角取得部152によって取得される仰角θaに等しい角度θb用の位相データを用いて、N個のフェーズシフタ120における位相のシフト量を制御する。
【0043】
メモリ156は、位置導出部151、仰角取得部152、制御部155が処理を行う際に実行するプログラム、プログラムの実行に伴い利用するデータ、プログラムの実行によって生じるデータ、及び、カメラ140が取得する画像データ等を格納する。また、メモリ156は、複数の対向距離rFDの各々について複数セット分の位相データを格納する。一例として、3m、4m、・・・、7mの5種類の対向距離rFDについて、仰角θaが+70度から-70度までの範囲について1度刻みで141セットの位相データを格納する。
【0044】
次に、仰角θaを求める方法について説明する。
【0045】
仰角θaは、方位角φと仰角θを用いると、位置P1と位置P1aの幾何学的関係から次式(1)で求めることができる。
【0046】
【数1】
式(1)を展開すると、式(2)が得られる。
【0047】
【数2】
ここで、仰角θが十分に小さい場合にはtanθ≒θであり、方位角φが十分に小さい場合にはcosφ≒1であり、方位角φが90度に近い場合にはcosφ≒0であるので、式(2)は次式(3)に変形できる。
【0048】
【数3】
すなわち、受電装置50Bの位置がXZ平面からあまりずれていない場合には、仰角θaは式(3)のように近似することができる。
【0049】
また、上述したように、魚眼レンズ141の焦点距離をfとすると、動径rは次式(4)で表される。
【0050】
【数4】
式(3)、(4)より、仰角θaは次式(5)で表すことができる。
【0051】
【数5】
このように、式(5)を用いて、仰角θaを近似的に求めることができる。
【0052】
次に、位相データの求め方について説明する。図4は、位相データの求め方を説明する図である。図4には、カメラ140の魚眼レンズ141、マーカ50A、受電装置50B、及びN個のアンテナ素子111を示す。各アンテナ素子111は、N個のサブアレイ110Aに含まれる4個のアンテナ素子111のうちの1個である。マーカ50Aの位置は、受電装置50Bの位置と等しい。
【0053】
図4に示すように、N個のサブアレイ110Aからマーカ50Aまでの距離をr1~rNとする。ここでは、説明を簡易化するためにY軸方向におけるカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれは無いものとする。4N個のアンテナ素子111の中心は、XYZ座標系の原点と一致しているため、4N個のアンテナ素子111の中心の座標は(X,Y,Z)=(0,0,0)である。また、Y軸方向におけるカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれは無く、対向距離はrFDであり、魚眼レンズ141から見た受電装置50Bの角度はθbであるため、受電装置50Bの位置は、(X,Y,Z)=(rFD・tanθb,0,rFD)と表すことができる。ここで、魚眼レンズ141から受電装置50Bまでの距離をrrefとすると、距離rrefは次式(6)で表すことができる。
【0054】
【数6】
【0055】
N個のアンテナ素子111のうちのi番目のアンテナ素子111の位置を(X,Y,Z)=(d,0,0)とすると、i番目のアンテナ素子111から受電装置50Bまでの距離rは次式(7)で表すことができる。
【0056】
【数7】
【0057】
このため、魚眼レンズ141から受電装置50Bまでの距離rrefと、i番目のアンテナ素子111から受電装置50Bまでの距離riとの経路差τは、次式(8)で表すことができる。
【0058】
【数8】
【0059】
経路差τiはメートル単位であるため、使用するマイクロ波の波長λに換算して位相差ψi を計算すると次式(9)で表すことができる。
【0060】
【数9】
【0061】
式(9)で表される位相差の符号を反転させた-ψrFDi(θb)をi番目のアンテナ素子111が送電する際にフェーズシフタ120に設定する位相とし、N個のサブアレイ110Aについて複数の仰角θaに対応した複数セット分の位相データを準備して、メモリ156に格納すればよい。また、複数の対向距離rFDについての複数セット分の位相データを準備して、メモリ156に格納すればよい。このような複数セット分の位相データを用いることにより、N個のサブアレイ110Aから送電する送電信号を同一位相で受電装置50Bに到達させることができる。複数の角度θbに対応した複数セット分の位相データは、次式(10)で表される。
【0062】
【数10】
【0063】
制御部155は、仰角θaに対応する角度θbの位相データを用いて、N個のサブアレイ110Aにそれぞれ接続されるN個のフェーズシフタ120におけるシフト量を設定すればよい。
【0064】
図5は、給電装置100の効果を説明する図である。図5には対向距離rFDが4m、給電装置100を搭載した車両の速度が80km/hの場合に受電装置50Bのアンテナが受電したアンテナ利得を示す図である。横軸は時間を表し、0秒は仰角θaが0度になる時刻を表し、-300ミリ秒は仰角θaが+60度になる時刻を表し、+300ミリ秒は仰角θaが-60度になる時刻を表す。すなわち、横軸の時間は仰角θaに相当する。
【0065】
また、図5には、給電装置100で対向距離と仰角に基づく位相データを用いてフェーズシフタ120におけるシフト量を調節した場合のアンテナ利得を実線で示し、比較用に仰角のみに基づく位相データを用いた場合のアンテナ利得を破線で示す。仰角のみに基づく位相データを用いた場合のアンテナ利得は、N個のサブアレイ110Aに接続されるN個のフェーズシフタ120におけるシフト量を仰角θaに応じた値に設定した場合に受電装置50Bで得られるアンテナ利得である。
【0066】
図5に示すように、対向距離と仰角に基づく位相データを用いた場合のアンテナ利得は、仰角のみに基づく位相データを用いた場合のアンテナ利得よりも大きいか又は同等であり、0秒に近い時間帯ほど(仰角θaの絶対値が小さいほど)対向距離と仰角に基づく位相データを用いた場合のアンテナ利得と、仰角のみに基づく位相データを用いた場合のアンテナ利得との差が大きくなった。仰角θaが0度に近いほど、N個のサブアレイ110Aと受電装置50Bとの距離が短くなり、対向距離と仰角に基づく位相データによるN個のサブアレイ110Aの個別の位相制御の効果が顕著になったものと考えられる。
【0067】
<アンテナ素子111の位置による位相データの調節量の違い>
図6及び図7は、アンテナ素子111の位置による位相データの調節量の違いを説明する図である。ここでは、一例として、サブアレイ110Aの数Nは12であり、図6及び図7には、マーカ50A、受電装置50B、及び12個のアンテナ素子111を示す。各アンテナ素子111は、12個のサブアレイ110Aに含まれる4個のアンテナ素子111のうちの1個である。マーカ50Aの位置は、受電装置50Bの位置と等しい。
【0068】
12個のサブアレイ110Aに含まれるアンテナ素子111をサブアレイ110Aの座標#1~#12を用いて#1~#12のアンテナ素子111と称すが、#3~#5、#8~#10のアンテナ素子111の図示を省略する。また、図6及び図7では、12個のアンテナ素子111のうちのX方向における中央に位置する#6のアンテナ素子111と、X方向における端に位置する#1のアンテナ素子111とから受電装置50Bまでの距離の違いを示す。ここでは、#1と#6のアンテナ素子111から受電装置50Bまでの距離の違いをカメラ140の魚眼レンズ141とマーカ50Aを結ぶ直線上で示す。図6及び図7では、魚眼レンズ141の図形を省略し、魚眼レンズ141の位置を引き出し線で示す。
【0069】
図6及び図7には、時刻tのときに角度θb(t)の方向にあるマーカ50A及び受電装置50Bと、時刻t+Tのときに角度θb(t+T)の方向にあるマーカ50A及び受電装置50Bとを示す。時間Tは、給電装置100の制御周期Tを表す。
【0070】
図6に示すように、魚眼レンズ141とマーカ50Aを結ぶ直線に対して、#6のアンテナ素子111から垂線を伸ばすと、魚眼レンズ141とマーカ50Aを結ぶ直線と垂線との交点から魚眼レンズ141までの距離Lは、時刻tではL(t)であり、時刻t+TではL(t+T)である。
【0071】
同様に、図7に示すように、魚眼レンズ141とマーカ50Aを結ぶ直線に対して、#1のアンテナ素子111から垂線を伸ばすと、魚眼レンズ141とマーカ50Aを結ぶ直線と垂線との交点から魚眼レンズ141までの距離Lは、時刻tではL(t)であり、時刻t+TではL(t+T)である。
【0072】
X方向の端に位置する#1のアンテナ素子111についての距離L(t)、L(t+T)は、X方向の中央に位置する#6のアンテナ素子111についての距離L(t)、L(t+T)よりも長く、距離L(t)と距離L(t+T)との差は、距離L(t)と距離L(t+T)との差よりも大きい。
【0073】
このため、図4を用いて求め方を説明した位相データについては、#1のアンテナ素子111について時刻tで用いる位相データと、時刻t+Tで用いる位相データとの位相差の方が、#6のアンテナ素子111について時刻tで用いる位相データと、時刻t+Tで用いる位相データとの位相差よりも大きい。このような位相差は、時刻t+Tになったときに、位相データが変化する量を表し、位相データのシフト量(調節量)の変化量である。
【0074】
すなわち、X方向における端側に位置する#1、#2、#11、#12等についての位相データの時刻t+Tにおけるシフト量の変化量の方が、中央側に位置する#5、#6、#7、#8についての位相データの時刻t+Tにおけるシフト量の変化量よりも大きい。
【0075】
時刻t+Tにおいて位相データのシフト量が変化する変化量が大きい方が、送電信号の位相を切り替えたときに、位相が不連続になりやすい。図8は、位相の不連続点を説明する図である。図8において、横軸は時間tを表し、縦軸は送電信号の送電電力の振幅を表す。
【0076】
図8には、制御周期Tが切り替わる時刻tにおいて、位相データの位相が約180度切り替わる場合の送電信号の波形を示す。時刻tは、図6及び図7における時刻t+Tに相当し、連続する2つの制御周期Tが切り替わる時刻である。実際には、時刻tにおいて位相データのシフト量が180度切り替わることはないが、ここでは最も極端な場合について説明する。
【0077】
このように時刻tにおいて位相データを大きく調節すると、位相制御における不連続点が生じる。このような不連続点は、送電信号の送電電力に高調波等を発生させ、安定的な送電を行うことが困難になる。また、不連続点は、送電信号のスプリアスを広げ、受電装置50Bの周囲に存在し得る他の装置に対して干渉を及ぼすことになる。
【0078】
そこで、実施形態の給電装置100は、安定的な送電を可能にするために、送電信号のパワーランピングを行う。パワーランピングとは、送電信号の送電電力に傾斜を付けて徐々に送電電力を低下又は増大させることである。また、送電信号の位相を調節する際に、パワーランピングで送電信号の送電電力を低下させた状態で位相シフトを行う。高調波等のスプリアスの発生を抑制して、安定的な送電を実現するためである。また、受電装置50Bの周囲に存在し得る他の装置に対して干渉を及ぼさないためである。
【0079】
<送電信号生成部130とパワーランピング>
図9は、給電装置100のパワーランピングに関する部分を示す図である。図9には、#1~#Nのアンテナ素子111及びフェーズシフタ(PD)120、送電信号生成部130、カメラ140、仰角取得部152、及び、#1~#Nの位相制御部155A及びメモリ部156Aを示す。位相制御部155Aは、図2に示す制御部155のうちの位相制御を行う部分を抽出して示したものである。メモリ部156Aは、図2に示すメモリ156のうちの位相データを格納する部分を抽出して示したものであり、図9では位相制御部155Aの内部に示す。
【0080】
<送電信号生成部130>
送電信号生成部130は、パワーランピング部130A、搬送波出力部130B、変調器130C、及びBPF(Band Pass Filter)130Dを有する。
【0081】
パワーランピング部130Aは、送電信号の振幅を表す包絡線信号を変調器130Cに出力するとともに、包絡線信号のパワーランピングを行う。パワーランピング部130Aは、パワーランピング係数を表す係数データを有する。また、パワーランピング部130Aは、カメラ140の制御タイミングを表す制御タイミング信号と、フェーズシフタ120に送電信号の位相を調整させる位相調整タイミング信号とを出力する。パワーランピング部130Aの詳細については、図10を用いて後述する。
【0082】
搬送波出力部130Bは、送電信号の元になる搬送波を変調器130Cに出力する。搬送波の周波数は、送電信号の周波数と等しい。搬送波は、マイクロ波である。
【0083】
変調器130Cは、パワーランピング部130Aから出力される包絡線信号と、搬送波出力部130Bから出力される搬送波とを乗算することで送電信号を生成する。変調器130Cは、乗算によってアップコンバートされた送電信号をBPF130Dに出力する。
【0084】
BPF130Dは、変調器130Cから入力される送電信号からノイズ成分等を除去する通過帯域を有し、送電信号からノイズ成分等を除去して#1~#Nのフェーズシフタ120に出力する。
【0085】
<位相制御部155A及びメモリ部156A>
#1~#Nの位相制御部155Aは、#1~#Nのフェーズシフタ120における位相制御を行う。#1~#Nのメモリ部156Aは、複数セット分の位相データψ(θb)~ψ(θb)の各々のうちのアンテナ素子111の座標(#1~#N)に応じたシフト量(θs#1~θs#Nのうちの1つ)を格納している。
【0086】
例えば、座標#1のアンテナ素子111のメモリ部156Aには、位相データψ(θb)~ψ(θb)の各々のうちのアンテナ素子111の座標#1に応じたシフト量θs#1が格納されている。また、座標#Nのアンテナ素子111のメモリ部156Aには、位相データψ(θb)~ψ(θb)の各々のうちのアンテナ素子111の座標#Nに応じたシフト量θs#Nが格納されている。
【0087】
#1~#Nの位相制御部155Aは、それぞれ、角度θbと、対向距離rFDと、サブアレイ110Aの座標(#1~#12のうちの1つ)とに応じて、メモリ部156Aからシフト量(θs#1~θs#12のうちの1つ)を読み出して、出力する。例えば、対向距離rFDが3mである場合には、座標#1のアンテナ素子111の位相制御部155Aは、角度θbに応じた3m用のシフト量θs#1を読み出して出力し、座標#Nのアンテナ素子111の位相制御部155Aは、角度θbに応じた3m用のシフト量θs#Nを読み出して出力する。
【0088】
なお、ここでは、#1~#Nのメモリ部156Aにシフト量(θs#1~θs#12のうちの1つ)を格納する形態について説明する。しかしながら、位相制御部155Aは、アンテナ素子111の座標(#1~#N)に応じてシフト量(θs#1~θs#12のうちの1つ)を計算して求めてもよい。この場合には、メモリ部156Aは不要になる。
【0089】
<パワーランピング部130A>
図10は、パワーランピング部130Aの構成の一例を示す図である。パワーランピング部130Aは、パワーランピングタイミング信号生成部131、位相調整タイミング信号生成部132、制御タイミング信号生成部133、係数メモリ134、及びセレクタ135を有する。パワーランピングタイミング信号生成部131は、第1タイミング信号生成部の一例である。位相調整タイミング信号生成部132は、第2タイミング信号生成部の一例である。制御タイミング信号生成部133は、第3タイミング信号生成部の一例である。係数メモリ134は、格納部の一例である。セレクタ135は、出力部の一例である。パワーランピング部130Aは、一例としてFPGA(Field-Programmable Gate Array)で実現可能である。
【0090】
パワーランピングタイミング信号生成部131は、包絡線信号のパワーランピングを行うタイミングと、パワーランピングの実行又は不実行を表すパワーランピングタイミング信号を生成し、位相調整タイミング信号生成部132、係数メモリ134、及びセレクタ135に出力する。H(High)レベルのパワーランピングタイミング信号は、パワーランピングを実行することを表し、L(Low)レベルのパワーランピング信号は、パワーランピングの不実行を表す。パワーランピングタイミング信号がLレベルからHレベルに切り替わるタイミングは、パワーランピングを開始するタイミングを表し、パワーランピングタイミング信号がHレベルからLレベルに切り替わるタイミングは、パワーランピングを終了して不実行状態になるタイミングを表す。
【0091】
位相調整タイミング信号生成部132は、パワーランピングタイミング信号生成部131によって生成されるパワーランピングタイミング信号に基づいて、フェーズシフタ120に送電信号の位相を調整させる位相調整タイミング信号を生成し、#1~#Nのフェーズシフタ120に出力する。位相調整タイミング信号は、パワーランピングタイミング信号を所定時間だけ遅延させた信号である。この詳細については後述する。
【0092】
制御タイミング信号生成部133は、カメラ140の制御タイミングを表す制御タイミング信号を生成し、パワーランピングタイミング信号生成部131及びカメラ140に出力する。制御タイミング信号は、カメラ140の制御タイミングを表す信号であるとともに、パワーランピングタイミング信号及び位相調整タイミング信号の元になる信号である。この詳細については、図11を用いて後述する。
【0093】
係数メモリ134は、パワーランピング係数を表す係数データを格納し、パワーランピングタイミング信号に応じて係数データをセレクタ135の2つの入力端子のうちの一方(図10における左側から2本の矢印が入る2つの端子うちの下側の端子)に出力する。係数データは、所定の単位時間毎に値が変化するように配列された複数の係数を有する。例えば、数十メガヘルツ程度以上の時間毎に値が変化するように配列された複数の係数を有する。
【0094】
セレクタ135は、係数メモリ134に接続される入力端子(図10における左側から2本の矢印が入る2つの端子うちの下側の端子)と、パワーランピング係数が1である固定データが入力される入力端子(図10における左側から2本の矢印が入る2つの端子うちの上側の端子)とを有する。また、セレクタ135は、パワーランピングタイミング信号生成部131に接続されてパワーランピングタイミング信号が選択信号として入力される端子(図10における下側の端子)と、包絡線信号を出力する出力端子(図10における右側の端子)とを有する。
【0095】
セレクタ135は、パワーランピングタイミング信号がLレベルのときには、2つの入力端子に入力される2つのパワーランピング係数のうちの固定値である1を選択して出力する。また、セレクタ135は、パワーランピング信号がLレベルからHレベルに切り替わると、パワーランピングを開始し、パワーランピング信号がHレベルである間は、係数メモリ134から入力されるパワーランピング係数を時間経過に応じて出力する。
【0096】
<3つのタイミング信号>
図11は、制御タイミング信号、パワーランピングタイミング信号、及び、位相調整タイミング信号の波形の一例を示す図である。
【0097】
制御タイミング信号は、一例として、HレベルとLレベルを等間隔で繰り返すパルス状の信号である。制御タイミング信号がHレベルに立ち上がるタイミングで、カメラ140は画像を取得する。
【0098】
パワーランピングタイミング信号は、制御タイミング信号を時間t1だけ遅延させて、Hレベルの期間ΔTuと、Hレベルの期間ΔTd+ΔTuと、Hレベルの期間ΔTdとを順番に繰り返すパルス状の信号である。期間ΔTuは、パワーランピング係数を増大させるランプアップ用の期間であり、期間ΔTdは、パワーランピング係数を減少させるランプダウン用の期間である。ΔTuとΔTdは等しい。また、時間t1は、制御タイミング信号生成部133が制御タイミング信号を出力してからカメラ140に伝達されるまでの回路遅延調整幅である。パワーランピングが行われるタイミングと、カメラ140が画像を取得するタイミングとを合わせるために、時間t1で調整している。期間ΔTu及びΔTdについては、図12を用いて後述する。
【0099】
位相調整タイミング信号は、制御タイミング信号を時間t1+t2だけ遅延させた信号である。フェーズシフタ120は、位相調整タイミング信号がHレベルに立ち上がるタイミングで、位相を調整する。時間t2は、パワーランピングタイミング信号生成部131がパワーランピングタイミング信号を出力してから送電信号がフェーズシフタ120に到達するまでの回路遅延を調整する回路遅延調整幅であり、特にBPF130Dで生じる遅延を調整するための時間である。パワーランピングを行う際に、送電信号と、位相調整タイミング信号とがフェーズシフタ120に到達するタイミングを合わせるために、時間t2で調整している。
【0100】
図11に示すパワーランピングタイミング信号によってパワーランピングが行われてフェーズシフタ120に供給される送電信号の振幅がゼロになるのは、図11に示すパワーランピングタイミング信号の期間ΔTuの開始のタイミングよりも時間t2が経過した時点であるため、位相調整タイミング信号がHレベルに立ち上がるタイミングと等しい。位相調整タイミング信号がHレベルに立ち上がるタイミングは、フェーズシフタ120が位相を調整するタイミングである。このようにパワーランピングタイミング信号に対して位相調整タイミング信号を時間t2だけ遅延させることにより、パワーランピングによって送電信号の振幅がゼロになるタイミングでフェーズシフタ120が位相を調整することになる。
【0101】
<パワーランピング係数>
図12は、係数データが表すパワーランピング係数を時系列的に配列して示す図である。横軸は時間軸であり、512個のサンプルポイントの数で示す。隣り合うサンプルポイント同士の間隔は、係数データが変化する所定の単位時間である。縦軸は、パワーランピング係数を表す。図12に示す512個のデータは、セレクタ135が出力する包絡線信号を表す。包絡線信号の信号レベルは、パワーランピング係数である。
【0102】
図12において、0番から31番までのパワーランピング係数は、図11に示すパワーランピングタイミング信号がHレベルになる期間ΔTuに、0から1に向かって連続的に増大するランプアップの期間のパワーランピング係数である。セレクタ135は、期間ΔTuでは、ランプアップする包絡線信号を出力する。
【0103】
32番から223番までのパワーランピング係数は、図11に示すパワーランピングタイミング信号がLレベルになる期間に、1に固定されるパワーランピング係数である。セレクタ135は、パワーランピングタイミング信号がLレベルのときは、固定値である1を出力するため、包絡線信号の振幅(パワーランピング係数)は1に固定される。
【0104】
224番から255番までのパワーランピング係数は、図11に示すパワーランピングタイミング信号がHレベルになる期間ΔTdに、1から0に向かって連続的に減少するランプダウンの期間のパワーランピング係数である。セレクタ135は、期間ΔTdでは、ランプダウンする包絡線信号を出力する。
【0105】
256番から287番までのパワーランピング係数は、図11に示すパワーランピングタイミング信号がHレベルになる期間ΔTuに、0から1に向かって連続的に増大するランプアップの期間のパワーランピング係数である。セレクタ135は、期間ΔTuでは、ランプアップする包絡線信号を出力する。
【0106】
288番から479番までのパワーランピング係数は、図11に示すパワーランピングタイミング信号がLレベルになる期間に、1に固定されるパワーランピング係数である。セレクタ135は、パワーランピングタイミング信号がLレベルのときは、固定値である1を出力するため、包絡線信号の振幅(パワーランピング係数)は1に固定される。
【0107】
480番から512番までのパワーランピング係数は、図11に示すパワーランピングタイミング信号がHレベルになる期間ΔTdに、1から0に向かって連続的に減少するランプダウンの期間のパワーランピング係数である。セレクタ135は、期間ΔTdでは、ランプダウンする包絡線信号を出力する。
【0108】
以上のように、ランプアップの期間ΔTuの開始の時点において、パワーランピング係数が0になるため、送電信号の振幅もゼロ(0)になる。
【0109】
セレクタ135は、図12に示す波形の包絡線信号を出力し、パワーランピングを行わないときは、固定値である1を出力するため、係数メモリ134に格納される係数データは、0番から31番、224番から255番、256番から287番、及び、480番から512番のパワーランピング係数と、サンプルポイントのタイミングとを関連付けて格納したデータであればよい。なお、係数データは、0番から31番、及び、224番から255番のパワーランピング係数と、サンプルポイントのタイミングとを関連付けて格納したデータであってもよい。
【0110】
なお、例えば、係数データには、レイズドコサイン時間応答を使用することができる。ここで、α(0<α<1)をロールオフ係数とすると、係数データは、次式(11)で表される。
【0111】
【数11】
【0112】
係数データは、パワーランピング係数を表すデータである。パワーランピング係数は、期間ΔTdにわたって連続的に値が低下するランプダウン期間と、期間ΔTuにわたって連続的に値が増大するランプアップ期間とにおいて、送電信号の送電電力を変化させる係数である。
【0113】
パワーランピング係数は、0以上、1以下の範囲で、時間経過とともに連続的に値が変化する係数である。連続的に値が変化するとは、すべてのパワーランピング係数が連続的な曲線上に位置することをいう。
【0114】
<給電装置100の動作>
図13は、給電装置100の動作の一例を説明する図である。図13には、制御タイミング信号、変調器130Cから出力される送電信号、及び、フェーズシフタ120に入力される送電信号を示す。変調器130Cから出力される送電信号は、制御タイミング信号がHレベルに立ち上がるタイミングで、パワーランピングによって振幅がゼロになっている。また、フェーズシフタ120に入力される送電信号は、変調器130Cから出力される送電信号に対して、時間t1+t2だけ遅延されている。フェーズシフタ120には、図11に示すように、制御タイミング信号に対して時間t1+t2だけ遅延した位相調整タイミング信号が入力されるため、図13に示す送電信号(フェーズシフタ120の入力)とタイミングが合っている。このため、フェーズシフタ120に供給される送電信号の強度がパワーランピングによってゼロになるタイミングで、フェーズシフタ120で位相を調整でき、フェーズシフタ120で送電信号の位相をシフトする際に、不連続点が生じることを抑制できる。この結果、送電信号のスプリアスが広がることを抑制でき、受電装置50Bの周囲に存在し得る他の装置に対する干渉を低減できる。
【0115】
<効果>
給電装置100は、X軸及びY軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子111を有するアレイアンテナ110と、複数のアンテナ素子111に供給される送電信号の位相をX軸方向において調節するフェーズシフタ120と、魚眼レンズ141を通じて画像を取得するカメラ140と、カメラ140によって取得される画像に含まれるマーカ50Aのカメラ140に対する位置P1を、X軸及びY軸を含む第1平面上の極座標における位置P2に変換する位置導出部151と、位置P2に基づいて、位置P1をX軸とZ軸とを含むXZ平面に投影した投影位置のXZ平面内でのZ軸に対する仰角を取得する仰角取得部152と、アレイアンテナ110が放射するビームの方向が、XZ平面内で仰角になるようにフェーズシフタ120を制御する制御部155と、搬送波を出力する搬送波出力部130Bと、送電信号の振幅を表す包絡線信号を出力するとともに、包絡線信号のパワーランピングを行うパワーランピング部130Aと、搬送波と包絡線信号を乗算して送電信号を出力する変調器130Cとを含み、パワーランピング部130Aは、包絡線信号のパワーランピングを行うタイミングに応じて、フェーズシフタ120に送電信号の位相を調整させる。このため、送電信号の位相を調節する場合に、不連続点の発生を抑制し、高調波等のスプリアスの発生を抑制して、安定的な送電を実現できる。
【0116】
したがって、受電位相を揃えるために複数のアンテナ素子111から送電する送電信号の位相を調節する場合に、安定的に送電可能な給電装置100、及び、給電方法を提供することができる。また、変調器130Cは、搬送波出力部130Bから出力される搬送波と、パワーランピング部130Aから出力される包絡線信号とを乗算して送電信号を出力するので、回路規模の小型化と、送電信号のパワーランピングとの両立を実現した給電装置100を提供することができる。また、受電装置50Bの周囲に存在し得る他の装置に対して干渉を抑制することができる。
【0117】
また、複数セット分の位相データが複数の対向距離rFDの分だけメモリ156に格納されており、距離推定部154が対向距離rFDを推定するので、対向距離rFDに応じた複数セット分の位相データを用いてN個のサブアレイ110Aにそれぞれ接続されるN個のフェーズシフタ120におけるシフト量を設定することができる。このため、受電装置50BまでのZ軸方向の距離に応じた複数セット分の位相データを用いることで、受電装置50BまでのZ軸方向の距離に応じて近距離でも受電器が効率的に受電できるように送電可能な給電装置100を提供することができる。なお、例えば、対向距離rFDに応じた複数セット分の位相データが存在しない場合には、推定した対向距離rFDに最も近い対向距離rFDに応じた位相データを使用すればよい。
【0118】
また、位置ずれ検出部153がY軸方向におけるカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれを検出し、位置ずれが生じている場合は、距離推定部154がメモリ156からY軸方向における位置ずれに対してピクセルインデックス数が変化する度合を表すデータを読み出し、Y軸方向の位置ずれの度合に応じて補正したピクセルインデックス数を用いて対向距離rFDを推定する。このため、Y軸方向におけるカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じている場合には、制御部155は、補正されたピクセルインデックス数を用いて推定した対向距離rFDに応じた複数セット分の位相データを用いることで、Y軸方向におけるカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じていても受電装置50BまでのZ軸方向の距離に応じて近距離でも受電器が効率的に受電できるように送電可能な給電装置100を提供することができる。
【0119】
また、パワーランピング部130Aは、カメラ140の制御タイミングに応じて包絡線信号のパワーランピングを行うので、例えば、給電装置100が車両に搭載されて移動する場合のように給電装置100の移動速度が速い場合に、画像の取得のタイミングに合わせて、送電信号の位相の調整と、パワーランピングとを実行することができる。
【0120】
また、パワーランピング部130Aは、包絡線信号のパワーランピングを行うタイミングと、包絡線信号のパワーランピングの実行又は不実行とを表すパワーランピングタイミング信号を生成するパワーランピングタイミング信号生成部131と、パワーランピングタイミング信号生成部131によって生成されるパワーランピングタイミング信号に基づいて、フェーズシフタ120に送電信号の位相を調整させる位相調整タイミング信号を生成する位相調整タイミング信号生成部132とを有し、フェーズシフタ120は、位相調整タイミング信号に応じて送電信号の位相を調整する。このため、位相調整タイミング信号生成部132によって生成される位相調整タイミング信号に基づく送電信号の位相の調整と、パワーランピングタイミング信号生成部131によって生成されるパワーランピングタイミング信号に基づくパワーランピングの送電信号の強度を低下させた状態(電力ゼロ点)とのタイミングを合わせることができ、不連続点の発生を抑制し、高調波等のスプリアスの発生を抑制して、安定的な送電を実現できる。
【0121】
また、パワーランピング部130Aは、カメラ140の制御タイミングを表す制御タイミング信号を生成する制御タイミング信号生成部133をさらに有し、パワーランピングタイミング信号生成部131は、制御タイミング信号生成部133によって生成される制御タイミング信号に応じてパワーランピングタイミング信号を生成する。このため、例えば、給電装置100が車両に搭載されて移動する場合のように給電装置100の移動速度が速い場合に、制御タイミング信号生成部133によって生成される制御タイミング信号に基づく画像の取得のタイミングに、位相調整タイミング信号生成部132によって生成される位相調整タイミング信号に基づく送電信号の位相の調整と、パワーランピングタイミング信号生成部131によって生成されるパワーランピングタイミング信号に基づくパワーランピングの送電信号の強度を低下させた状態(電力ゼロ点)とのタイミングを合わせることができ、不連続点の発生を抑制し、高調波等のスプリアスの発生を抑制して、安定的な送電を実現できる。
【0122】
また、パワーランピング部130Aは、パワーランピング係数を表す係数データを格納する係数メモリ134と、係数メモリ134に格納されている係数データをパワーランピングタイミング信号に応じて出力する出力部とを有するので、係数メモリ134に格納された係数データが表すパワーランピング係数に基づいて、安定的に包絡線信号を出力でき、不連続点の発生を抑制し、高調波等のスプリアスの発生を抑制して、安定的な送電を実現できる。
【0123】
また、出力部は、セレクタ135であり、係数データは、パワーランピング係数が1未満の値を表すデータであり、セレクタ135は、パワーランピング係数が1である固定データ、又は、係数データをパワーランピングタイミング信号に応じて出力する。このため、パワーランピングを行わないときのパワーランピング係数を係数メモリ134に格納する必要がなく、係数データの容量を減らして、給電装置100全体の小規模化を実現できる。
【0124】
係数データは、パワーランピングで送電電力が調節される送電信号の送電電力を時系列的に表すパワーランピングデータであるので、安定的に包絡線信号を出力でき、不連続点の発生を抑制し、高調波等のスプリアスの発生を抑制して、安定的な送電を実現できる。
【0125】
また、パワーランピングデータは、レイズドコサイン時間応答であるので、安定的かつ確実に包絡線信号を出力でき、不連続点の発生を抑制し、高調波等のスプリアスの発生を抑制して、安定的な送電を実現できる。
【0126】
パワーランピング部130Aは、送電信号の送電電力が連続的に変化するように、パワーランピングを行うので、送電電力が連続的に変化する送電信号を用いて、不連続点の発生を抑制し、高調波等のスプリアスの発生を抑制して、安定的な送電を実現できる。
【0127】
また、仰角取得部152は、位置P2をX軸に写像した写像位置の座標を魚眼レンズの焦点距離fで除算した値を、仰角θaとして求めるので、仰角θaを少ない計算量で容易に求めることができ、給電装置100全体の小規模化を実現できる。
【0128】
また、写像位置の座標は、極座標における動径rに偏角φの余弦を乗算した値で表されるので、写像位置の座標を少ない計算量で容易に求めることができ、給電装置100全体の小規模化を実現できる。
【0129】
また、複数のアンテナ素子111は、Y軸方向に沿って伸びる複数のサブアレイ110A110Aにグループ分けされており、フェーズシフタ120は、複数のサブアレイ110Aにそれぞれ接続され、送電信号の位相をサブアレイ110A毎に調節する複数の位相シフタであるので、フェーズシフタ120の数を減らすことができる。このため、給電装置100を安価に実現することができる。
【0130】
なお、以上では、カメラ140で画像を取得して、マーカ50Aのカメラ140に対する位置P1を位置P2に変換し、位置P2に基づいて仰角θaを取得し、アレイアンテナ110が放射するビームの方向が、XZ平面内で仰角θaになるようにフェーズシフタ120を制御する形態について説明した。しかしながら、給電装置100は、このような形態に限定されるものではない。給電装置100は、X軸及びY軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子111を有するアレイアンテナ110と、複数のアンテナ素子111に供給される送電信号の位相をX軸方向において調節するフェーズシフタ120と、送電信号用の搬送波を出力する搬送波出力部130Bと、送電信号の振幅を表す包絡線信号を出力するとともに、包絡線信号のパワーランピングを行うパワーランピング部130Aと、搬送波と包絡線信号を乗算して送電信号を出力する変調器130Cとを含み、パワーランピング部130Aは、包絡線信号のパワーランピングを行うタイミングに応じて、フェーズシフタ120に送電信号の位相を調整させる構成であってもよい。
【0131】
このため、アレイアンテナ110が放射するビームの方向がXZ平面内で仰角θaになるようにフェーズシフタ120を制御することを行わない構成においても、送電信号の位相を調節する場合に、不連続点の発生を抑制し、高調波等のスプリアスの発生を抑制して、安定的な送電を実現できる。
【0132】
<変形例>
図14は、実施形態の変形例の給電装置100Mのパワーランピングに関する部分を示す図である。給電装置100Mは、実施形態の給電装置100の制御タイミング信号を省略した構成を有する。その他の構成は給電装置100と同様であるため、同一の構成要素には同一符号を付し、重複説明を省略する。以下、給電装置100Mについて、給電装置100との相違点を中心に説明する。
【0133】
図14は、給電装置100についての図9に相当する図であり、#1~#Nのアンテナ素子111及びフェーズシフタ(PD)120、送電信号生成部130、カメラ140、仰角取得部152、及び、#1~#Nの位相制御部155A及びメモリ部156Aを示す。
【0134】
<送電信号生成部130>
送電信号生成部130は、パワーランピング部130A、搬送波出力部130B、変調器130C、及びBPF(Band Pass Filter)130Dを有する。給電装置100Mのパワーランピング部130Aは、カメラ140の制御タイミングを表す制御タイミング信号(図9参照)を出力しないこと以外は、給電装置100のパワーランピング部130A(図9参照)と同様である。
【0135】
<パワーランピング部130A>
図15は、実施形態の変形例の給電装置100Mのパワーランピング部130Aの構成の一例を示す図である。パワーランピング部130Aは、パワーランピングタイミング信号生成部131、位相調整タイミング信号生成部132、係数メモリ134、及びセレクタ135を有する。給電装置100Mのパワーランピング部130Aは、給電装置100のパワーランピング部130A(図10参照)から制御タイミング信号生成部133を取り除き、パワーランピングタイミング信号生成部131が、包絡線信号のパワーランピングを行うタイミングと、パワーランピングの実行又は不実行とを表すパワーランピングタイミング信号を生成するようにしたものである。
【0136】
<2つのタイミング信号>
図16は、パワーランピングタイミング信号、及び、位相調整タイミング信号の波形の一例を示す図である。
【0137】
パワーランピングタイミング信号は、Hレベルの期間ΔTuと、Hレベルの期間ΔTd+ΔTuと、Hレベルの期間ΔTdとを順番に繰り返すパルス状の信号である。期間ΔTuは、パワーランピング係数を増大させるランプアップ用の期間であり、期間ΔTdは、パワーランピング係数を減少させるランプダウン用の期間である。ΔTuとΔTdは等しい。
【0138】
位相調整タイミング信号は、パワーランピングタイミング信号を時間t2だけ遅延させた信号である。フェーズシフタ120は、位相調整タイミング信号がHレベルに立ち上がるタイミングで、位相を調整する。時間t2は、パワーランピングタイミング信号生成部131がパワーランピングタイミング信号を出力してから送電信号がフェーズシフタ120に到達するまでの回路遅延を調整する回路遅延調整幅であり、特にBPF130Dで生じる遅延を調整するための時間である。パワーランピングを行う際に、送電信号と、位相調整タイミング信号とがフェーズシフタ120に到達するタイミングを合わせるために、時間t2で調整している。
【0139】
図16に示すパワーランピングタイミング信号によってパワーランピングが行われてフェーズシフタ120に供給される送電信号の振幅がゼロになるのは、図16に示すパワーランピングタイミング信号の期間ΔTuの開始のタイミングよりも時間t2が経過した時点であるため、位相調整タイミング信号がHレベルに立ち上がるタイミングと等しい。位相調整タイミング信号がHレベルに立ち上がるタイミングは、フェーズシフタ120が位相を調整するタイミングである。このようにパワーランピングタイミング信号に対して位相調整タイミング信号を時間t2だけ遅延させることにより、パワーランピングによって送電信号の振幅がゼロになるタイミングでフェーズシフタ120が位相を調整することになる。
【0140】
<給電装置100Mの動作>
図17は、給電装置100Mの動作の一例を説明する図である。図17には、変調器130Cから出力される送電信号、及び、フェーズシフタ120に入力される送電信号を示す。フェーズシフタ120に入力される送電信号の振幅は、変調器130Cから出力される送電信号の振幅がパワーランピングによってゼロになるタイミングに対して、時間t2だけ遅延されて、ゼロになっている。フェーズシフタ120には、図16に示すように、パワーランピングタイミング信号に対して時間t2だけ遅延した位相調整タイミング信号が入力されるため、図17に示す送電信号(フェーズシフタ120の入力)とタイミングが合っている。このため、フェーズシフタ120に供給される送電信号の強度がパワーランピングによってゼロになるタイミングで、フェーズシフタ120で位相を調整でき、フェーズシフタ120で送電信号の位相をシフトする際に、不連続点が生じることを抑制できる。この結果、送電信号のスプリアスが広がることを抑制でき、受電装置50Bの周囲に存在し得る他の装置に対する干渉を低減できる。
【0141】
したがって、受電位相を揃えるために複数のアンテナ素子111から送電する送電信号の位相を調節する場合に、安定的に送電可能な給電装置100M、及び、給電方法を提供することができる。また、変調器130Cは、搬送波出力部130Bから出力される搬送波と、パワーランピング部130Aから出力される包絡線信号とを乗算して送電信号を出力するので、回路規模の小型化と、送電信号のパワーランピングとの両立を実現した給電装置100を提供することができる。また、受電装置50Bの周囲に存在し得る他の装置に対して干渉を抑制することができる。
【0142】
また、実施形態の変形例の給電装置100Mでは、カメラ140が画像を取得するタイミングと、パワーランピングが行われるタイミングとを合わせないため、パワーランピング部130Aの演算量を低減し、より一層の小規模化を実現できる。なお、カメラ140が画像を取得するタイミングと、パワーランピングが行われるタイミングとを合わせないため、実施形態の変形例の給電装置100Mは、実施形態の給電装置100よりも低速で移動するような用途により適している。
【0143】
以上、本発明の例示的な実施形態の給電装置、及び、給電方法について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0144】
50A マーカ
50B 受電装置
100 給電装置
110 アレイアンテナ
110A サブアレイ
111 アンテナ素子
120 フェーズシフタ(位相調節部の一例)
130 送電信号生成部
130A パワーランピング部
130B 搬送波出力部
130C 変調器
130D BPF
131 パワーランピングタイミング信号生成部(第1タイミング信号生成部の一例)
132 位相調整タイミング信号生成部(第2タイミング信号生成部の一例)
133 制御タイミング信号生成部(第3タイミング信号生成部の一例)
134 係数メモリ(格納部の一例)
135 セレクタ(出力部の一例)
140 カメラ(画像取得部の一例)
141 魚眼レンズ
150 制御装置
151 位置導出部
152 仰角取得部
153 位置ずれ検出部
154 距離推定部
155 制御部
156 メモリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17