(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166258
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】水防構造及び水防方法
(51)【国際特許分類】
E02B 3/10 20060101AFI20241121BHJP
E02B 7/20 20060101ALI20241121BHJP
E04H 9/14 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
E02B3/10
E02B7/20 103
E04H9/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】32
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024153308
(22)【出願日】2024-09-05
(62)【分割の表示】P 2024533921の分割
【原出願日】2024-03-18
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2023/013016
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺村 篤
(72)【発明者】
【氏名】川原 英昭
(72)【発明者】
【氏名】坂中 宏行
(72)【発明者】
【氏名】大和 辰徳
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 豊
(57)【要約】
【課題】橋の架かった道路部分や建物又は敷地への出入り口周辺を含めて氾濫を効果的に防ぐことができるようにする。
【解決手段】堤防(10)に沿って設けた取付部(3)と、取付部の一方側に基端部(2a)が固定され、平板状の折畳み状態から内部にエアーを送り込むことで膨らむ膨張状態に形状変更可能で、膨張状態で堤防の上面よりも上昇した水位の水の流出を防ぐ膨張部材(2)とを含み、膨張部材は、堤防に沿って長い膨張可能な部材よりなり、基端部と、基端部に連続し、膨張状態においてエアーが充填されて湾曲面を有するように膨らむ膨張部材本体(2b)とを備え、折畳み状態において表面が平坦な平板状となり、少なくとも堤防と交差する道路(R)の橋部(B)を含む部分において、取付部は、道路の表面よりも出っ張らず、取付部の上を車両が走行可能に構成する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
堤防に沿って設けた取付部と、
前記取付部の一方側に基端部が固定され、平板状の折畳み状態から内部にエアーを送り込むことで膨らむ膨張状態に形状変更可能で、前記膨張状態で前記堤防の上面よりも上昇した水位の水の流出を防ぐ膨張部材とを含み、
前記膨張部材は、
前記堤防に沿って長い膨張可能な部材よりなり、
前記基端部と、
前記基端部に連続し、前記膨張状態においてエアーが充填されて湾曲面を有するように膨らむ膨張部材本体とを備え、
前記折畳み状態において表面が平坦な平板状となり、
少なくとも堤防と交差して橋部に至る道路を含む部分において、前記取付部は、前記道路の上面に形成された膨張部材設置用凹部に収容されて前記道路の表面よりも出っ張らず、前記膨張部材設置用凹部に収容された前記取付部及び前記膨張部材の上を車両及び人が通行可能に構成されている
ことを特徴とする水防構造。
【請求項2】
車両や人が出入りする出入り口に至る通路を有する建物又は敷地に沿って設けた取付部と、
前記取付部の一方側に基端部が固定され、平板状の折畳み状態から内部にエアーを送り込むことで膨らむ膨張状態に形状変更可能で、前記膨張状態で上昇した水位の水の流出を防ぐ膨張部材とを含み、
前記膨張部材は、
前記建物又は敷地に沿って長い膨張可能な部材よりなり、
前記基端部と、
前記基端部に連続し、前記膨張状態においてエアーが充填されて湾曲面を有するように膨らむ膨張部材本体とを備え、
前記折畳み状態において表面が平坦な平板状となり、
少なくとも前記出入り口に至る通路を含む部分において、前記取付部は、前記通路の上面に形成された膨張部材設置用凹部に収容されて前記通路の表面よりも出っ張らず、前記膨張部材設置用凹部に収容された前記取付部及び前記膨張部材の上を車両及び人が通行可能に構成されている
ことを特徴とする水防構造。
【請求項3】
少なくとも堤防と交差して橋部に至る道路を含む部分又は少なくとも出入り口に至る通路を含む部分において、少なくとも折畳み状態の前記膨張部材がカバー部材で覆われており、前記折畳み状態において前記膨張部材を覆う前記カバー部材が前記道路又は前記通路の表面よりも出っ張らず、前記カバー部材の上を車両及び人が通行可能に構成されている
ことを特徴とする請求項1又は2に水防構造。
【請求項4】
前記膨張部材設置用凹部は、前記取付部の周辺は深く、前記膨張部材の周辺は浅く形成されている
ことを特徴とする請求項1又は2に水防構造。
【請求項5】
前記取付部が前記膨張部材設置用凹部の内部で立体形状の取付部カバーで隙間を埋めるように覆われ、前記取付部カバー及び前記膨張部材の上を車両や人が通行可能に構成されている
ことを特徴とする請求項4に記載の水防構造。
【請求項6】
複数の前記膨張部材が長手方向端部で連結される連結部を有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水防構造。
【請求項7】
前記連結部は、複数の金属板よりなり、前記複数の金属板により、複数の前記膨張部材の長手方向端部が挟み込まれており、前記連結部が連結部カバーで覆われて凹凸が軽減されると共に、連結部から水が漏れ出すのを防いでいる
ことを特徴とする請求項6に記載の水防構造。
【請求項8】
前記連結部の内部に長手方向に延びる連通用パイプが設けられ、長手方向に隣接する膨張部材間が連通している
ことを特徴とする請求項6に記載の水防構造。
【請求項9】
前記連結部において、前記膨張部材の長手方向端部がシールされた状態で連結されている
ことを特徴とする請求項6に記載の水防構造。
【請求項10】
前記連結部は、帯状部材で構成され、前記帯状部材が隣接する膨張部材の長手方向端部を跨ぐように覆った状態で接着されることにより、膨張部材が連結されている
ことを特徴とする請求項6に記載の水防構造。
【請求項11】
前記建物又は敷地の角部においても複数の前記膨張部材が連結されている
ことを特徴とする請求項2に記載の水防構造。
【請求項12】
前記膨張部材における、前記折畳み状態において上面となる部分には、滑り止め構造が設けられている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水防構造。
【請求項13】
前記滑り止め構造は、凹凸面となっている
ことを特徴とする請求項12に記載の水防構造。
【請求項14】
前記凹凸面は、排水溝となっている
ことを特徴とする請求項13に記載の水防構造。
【請求項15】
前記排水溝は、前記膨張部材の全幅を横切っている
ことを特徴とする請求項14に記載の水防構造。
【請求項16】
前記排水溝は、前記膨張部材の縦横方向に交差している
ことを特徴とする請求項14に記載の水防構造。
【請求項17】
前記排水溝は布目構造となっている
ことを特徴とする請求項14に記載の水防構造。
【請求項18】
前記カバー部材は、水が通過可能な孔部を備えている
ことを特徴とする請求項3に記載の水防構造。
【請求項19】
前記カバー部材は、グレーチング部材よりなる
ことを特徴とする請求項18に記載の水防構造。
【請求項20】
前記カバー部材は、水側に支点を持ち、
前記膨張部材の膨張時に膨張した前記膨張部材に押され、水と反対側に向かって上方へ立ち上がるように構成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の水防構造。
【請求項21】
前記カバー部材は、前記膨張部材の幅方向で二分割されており、
二分割された前記カバー部材がそれぞれ水側とその反対側とに支点を有し、
平常時は二分割された前記カバー部材は平坦であり、
前記膨張部材が膨張した際に観音開きするように構成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の水防構造。
【請求項22】
前記カバー部材は、前記膨張部材の表面に接触し、前記カバー部材に加わる荷重が前記膨張部材で支持されるように構成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の水防構造。
【請求項23】
前記カバー部材は、取り外し可能に構成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の水防構造。
【請求項24】
前記カバー部材は、前記折畳み状態の膨張部材を覆って前記取付部は覆わず、
前記カバー部材及び前記取付部の上を車両や人が通行可能に構成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の水防構造。
【請求項25】
前記膨張部材は、織布で補強されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水防構造。
【請求項26】
前記膨張部材における気室よりも上側のシート部材の剛性が、前記気室よりも下側のシート部材の剛性よりも大きい
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水防構造。
【請求項27】
前記膨張部材における気室よりも上側のシート部材の厚みが、前記気室よりも下側のシート部材の厚みよりも大きい
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水防構造。
【請求項28】
前記膨張部材は、エチレンプロピレンゴムのシートを含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水防構造。
【請求項29】
前記膨張部材の内面に長手方向に延びる溝部、突起部又は中空部が設けられており、前記溝部、前記突起部又は前記中空部により排気時に前記膨張部材のエアーが、前記膨張部材の外部と連通可能な孔部に誘導されるように構成されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水防構造。
【請求項30】
堤防と交差して橋部に至る道路を含む部分において、前記道路の表面よりも所定深さだけ深い膨張部材設置用凹部を凹陥し、前記膨張部材設置用凹部の水側に前記堤防に沿って取付部を取り付け、前記取付部に、表面が平坦な平板状の折畳み状態の膨張可能な部材よりなる膨張部材の基端部を固定する膨張部材設置工程と、
前記膨張部材設置用凹部の周縁に前記道路の表面よりも板状のカバー部材の厚さと同程度深いカバー部材用段部を凹陥し、前記カバー部材用段部に前記カバー部材を開閉可能に固定して前記カバー部材が前記道路の表面よりも出っ張らないようにして少なくとも前記膨張部材を覆うカバー部材設置工程と、
水位が上昇したときに、前記膨張部材の膨張部材本体の内部にエアーを送り込み、前記取付部に基端部が固定された状態で膨らませ、前記堤防の上面よりも上昇した水位の水の流出を防ぐ氾濫防止工程とを含む
ことを特徴とする水防方法。
【請求項31】
車両や人が出入りする出入り口に至る通路を有する建物又は敷地において、前記通路の表面よりも所定深さだけ深い膨張部材設置用凹部を凹陥し、前記膨張部材設置用凹部の水側に前記建物又は敷地に沿って取付部を取り付け、前記取付部に、表面が平坦な平板状の折畳み状態の膨張可能な部材よりなる膨張部材の基端部を固定する膨張部材設置工程と、
前記膨張部材設置用凹部の周縁に前記通路の表面よりも板状のカバー部材の厚さと同程度深いカバー部材用段部を凹陥し、前記カバー部材用段部に前記カバー部材を開閉可能に固定して前記カバー部材が前記通路の表面よりも出っ張らないようにして少なくとも前記膨張部材を覆うカバー部材設置工程と、
水位が上昇したときに、前記膨張部材の膨張部材本体の内部にエアーを送り込み、前記取付部に基端部が固定された状態で膨らませ、前記通路の表面よりも上昇した水位の水の流出を防ぐ氾濫防止工程とを含む
ことを特徴とする水防方法。
【請求項32】
前記膨張部材設置工程において、前記取付部の周辺は深く、前記膨張部材の周辺は浅くなるように前記膨張部材設置用凹部を凹陥し、
前記カバー部材設置工程において、少なくとも前記カバー部材の少なくとも水と反対側の自重が前記膨張部材によって支持されるようにカバー部材を設置する
ことを特徴とする請求項30又は31に記載の水防方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張可能な部材よりなる膨張部材を備えた水防構造及びそれを用いた水防方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、河川、湖の氾濫や海水の陸上浸入に備えて構築された堤防の長手方向に沿い、この堤防の頂面に対をなし堤防の長手方向に沿い所定の間隔を存し列状に埋設された多対の碇着手段と、堤防の長手方向に沿い堤防の頂面に載置され流体の供給により膨張起立し排出により倒伏する可撓性の長袋体と、列状に配設された碇着手段に係留し得る複数の可撓性連結材とを備えた、可撓性長袋体を用いた水防構造は知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献2のように、河川、湖の堤防や住宅地等の防水区域の地面に開閉蓋を有する防水フェンスの収納ボックスを設置し、この収納ボックス内に流体の注入、排出により上下方向に膨張、収縮自在なゴム袋体からなる防水フェンスが収納してあり、この防水フェンスに流体を供給することにより、開閉蓋を開いて防水フェンスを起立伸長させる構成を特徴とする膨張式防水フェンス装置は知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭64-21111号公報
【特許文献2】特許3656769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の防水フェンスは、一般的に河川沿いに設置することを前提としており、河川の橋の架かった道路部分を含めて氾濫を防止することができないので、都市部の小規模河川など、多くの橋が架かっている河川での氾濫防止には使えないという問題がある。同様に、河川の氾濫や急な降雨による下水道の内水氾濫危険時などに対し、建物や敷地などの特に出入り口を含み車両や人が通行する領域の防水には使用できない。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、橋の架かった道路部分や建物又は敷地への出入り口周辺を含めて氾濫を効果的に防ぐことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明では、橋や出入り口に通じる道路又は通路に対して膨張部材とその取付部とを大きな段差なく設けるようにした。
【0008】
具体的には、第1の発明の水防構造は、
堤防に沿って設けた取付部と、
前記取付部の一方側に基端部が固定され、平板状の折畳み状態から内部にエアーを送り込むことで膨らむ膨張状態に形状変更可能で、前記膨張状態で前記堤防の上面よりも上昇した水位の水の流出を防ぐ膨張部材とを含み、
前記膨張部材は、
前記堤防に沿って長い膨張可能な部材よりなり、
前記基端部と、
前記基端部に連続し、前記膨張状態においてエアーが充填されて湾曲面を有するように膨らむ膨張部材本体とを備え、
前記折畳み状態において表面が平坦な平板状となり、
少なくとも堤防と交差して橋部に至る道路を含む部分において、前記取付部は、前記道路の上面に形成された膨張部材設置用凹部に収容されて前記道路の表面よりも出っ張らず、前記膨張部材設置用凹部に収容された前記取付部及び前記膨張部材の上を車両及び人が通行可能に構成されている。
【0009】
上記の構成によると、膨張部材設置用凹部に収容された取付部が道路の表面よりも出っ張らないので、橋の手前に設けた場合ででも、車両の走行に差し支えない。膨張部材は、取付部に基端部のみが固定されるので、取付が容易である。また、エアーによって膨張部材が膨張するので、液体に比べて膨張させやすく、平板状の折畳み状態に戻せばよいので、元に戻しやすい。なお、「堤防」とは、一般に、河川、湖の氾濫や海水の侵入を防ぐため、河岸、湖岸、海岸に沿って設けた土石やコンクリート製の構築物を言うが、市街地を流れる小型河川のように、盛土がないような岸の壁部も含む意味である。また、「平坦な板状」とは、完全にフラットな板状だけではなく、滑り止め、排水等のために表面に凹凸が形成された板状を含むという意味である。また、「表面よりも出っ張らず」とは、完全にフラットな状態に限定されず、車や人の通行に支障のあるような出っ張りがないことを意味するものである。
【0010】
第2の発明の水防構造は、
車両や人が出入りする出入り口に至る通路を有する建物又は敷地に沿って設けた取付部と、
前記取付部の一方側に基端部が固定され、平板状の折畳み状態から内部にエアーを送り込むことで膨らむ膨張状態に形状変更可能で、前記膨張状態で上昇した水位の水の流出を防ぐ膨張部材とを含み、
前記膨張部材は、
前記建物又は敷地に沿って長い膨張可能な部材よりなり、
前記基端部と、
前記基端部に連続し、前記膨張状態においてエアーが充填されて湾曲面を有するように膨らむ膨張部材本体とを備え、
前記折畳み状態において表面が平坦な平板状となり、
少なくとも前記出入り口に至る通路を含む部分において、前記取付部は、前記通路の上面に形成された膨張部材設置用凹部に収容されて前記通路の表面よりも出っ張らず、前記膨張部材設置用凹部に収容された前記取付部及び前記膨張部材の上を車両及び人が通行可能に構成されている。
【0011】
上記の構成によると、河川の氾濫や急な降雨による下水道の内水氾濫危険時などに膨張部材を膨張させることで、建物及び敷地が防水される。通常時は、出入り口に至る通路部分において膨張部材が取り付けられた取付部が通路の表面よりも出っ張らないので、取付部及び膨張部材の上を車両及び人が通行可能である。膨張部材は、取付部に基端部のみが固定されるので、取付が容易である。また、エアーによって膨張部材が膨張するので、液体に比べて膨張させやすく、平板状の折畳み状態に戻せばよいので、元に戻しやすい。
【0012】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、
少なくとも堤防と交差して橋部に至る道路を含む部分又は少なくとも出入り口に至る通路を含む部分において、少なくとも折畳み状態の前記膨張部材がカバー部材で覆われており、前記折畳み状態において前記膨張部材を覆う前記カバー部材が前記道路又は前記通路の表面よりも出っ張らず、前記カバー部材の上を車両及び人が通行可能に構成されている。
【0013】
上記の構成によると、膨張部材がカバー部材で覆われているので、膨張部材の上を直接車両等が通行する場合に比べ、膨張部材が傷みにくく、耐久性が向上する。また、カバー部材が道路や通路の表面から出っ張らないので、車両等の走行に支障を来さない。
【0014】
第4の発明では、第1又は第2の発明において、
前記膨張部材設置用凹部は、前記取付部の周辺は深く、前記膨張部材の周辺は浅く形成されている。
【0015】
上記の構成によると、膨張部材に加わる荷重を膨張部材設置用凹部の底面で支持するように構成できると共に、取付部は出っ張らないように構成できる。
【0016】
第5の発明では、第4の発明において、
前記取付部が前記膨張部材設置用凹部の内部で立体形状の取付部カバーで隙間を埋めるように覆われ、前記取付部カバー及び前記膨張部材の上を車両や人が通行可能に構成されている。
【0017】
上記の構成によると、取付部が、膨張部材設置用凹部の内部で立体形状の取付部カバーで隙間を埋めるように覆われるので、確実に保護されると共に、凹凸が軽減されて車両等の走行時に邪魔になりにくくなる。
【0018】
第6の発明では、第1又は第2の発明において、
複数の前記膨張部材が長手方向端部で連結される連結部を有する。
【0019】
上記の構成によると、連結部によって所定長さの膨張部材を互いに連結できるので、堤防や建物又は敷地に沿って長い距離でも膨張部材の設置が可能となる。
【0020】
第7の発明では、第6の発明において、
前記連結部は、複数の金属板よりなり、前記複数の金属板により、複数の前記膨張部材の長手方向端部が挟み込まれており、前記連結部が連結部カバーで覆われて凹凸が軽減されると共に、連結部から水が漏れ出すのを防いでいる。
【0021】
上記の構成によると、連結部を剛性の高い金属板にすることで、堅固に膨張部材が連結されると共に、その周りを連結部カバーで覆うことで凹凸が軽減されるだけでなく、膨張時に水が連結部から漏れ出すのを防ぐことができる。
【0022】
第8の発明では、第6の発明において、
前記連結部の内部に長手方向に延びる連通用パイプが設けられ、長手方向に隣接する膨張部材間が連通している。
【0023】
上記の構成によると、長手方向に隣接する膨張部材同士が連通することで、複数の膨張部材を、1つのブロアで同時に膨張させたり、膨張後に1つの真空ポンプで排気させたりすることができる。
【0024】
第9の発明では、第6の発明において、
前記連結部において、前記膨張部材の長手方向端部がシールされた状態で連結されている。
【0025】
上記の構成によると、長手方向に隣接する膨張部材を、断面積を変えない状態で密閉状に連結することも可能となる。
【0026】
第10の発明では、第6の発明において、
前記連結部は、帯状部材で構成され、前記帯状部材が隣接する膨張部材の長手方向端部を跨ぐように覆った状態で接着されることにより、膨張部材が連結されている。
【0027】
上記の構成によると、帯状部材で長手方向に隣接する膨張部材同士を連結することで、連結部において膨張部材の膨張時の断面をほぼ均一に保ったまま連結させることができるため、連結部において水が流れ込まない。
【0028】
第11の発明では、第2の発明において、
前記建物又は敷地の角部においても複数の前記膨張部材が連結されている。
【0029】
上記の構成によると、膨張部材を膨張させることで、建物や敷地の角部においても水が流れ込まない。
【0030】
第12の発明では、第1又は第2の発明において、
前記膨張部材における、前記折畳み状態において上面となる部分には、滑り止め構造が設けられている。
【0031】
上記の構成によると、人や車両等が膨張部材を通行するときに滑らず安全に通行できる。
【0032】
第13の発明では、第12の発明において、
前記滑り止め構造は、凹凸面となっている。
【0033】
上記の構成によると、簡易な構成で滑り止め効果が得られる。
【0034】
第14の発明では、第13の発明において、
前記凹凸面は、排水溝となっている。
【0035】
上記の構成によると、膨張部材の表面に水が溜まらず、走行が容易となる。
【0036】
第15の発明では、第14の発明において、
前記排水溝は、前記膨張部材の全幅を横切っている。
【0037】
上記の構成によると、膨張部材表面の水が膨張部材の外側に排出されやすい。
【0038】
第16の発明では、第14の発明において、
前記排水溝は、前記膨張部材の縦横方向に交差している。
【0039】
上記の構成によると、膨張部材表面の水がより効果的に膨張部材の外へ排水される。
【0040】
第17の発明では、第14の発明において、
前記排水溝は布目構造となっている。
【0041】
上記の構成によると、より高い滑り止め効果が得られる。
【0042】
第18の発明では、第3の発明において、
前記カバー部材は、水が通過可能な孔部を備えている。
【0043】
上記の構成によると、折畳み時にカバー部材表面に水が溜まらないと共に、膨張時には水圧を逃がしやすく、膨張部材に加わる負荷を軽減できる。
【0044】
第19の発明では、第18の発明において、
前記カバー部材は、グレーチング部材よりなる。
【0045】
上記の構成によると、入手性がよく剛性の高いカバー部材が得られる。
【0046】
第20の発明では、第3の発明において、
前記カバー部材は、水側に支点を持ち、
前記膨張部材の膨張時に膨張した前記膨張部材に押され、水と反対側に向かって上方へ立ち上がるように構成されている。
【0047】
上記の構成によると、カバー部材が膨張部材の膨張を阻害せず、カバー部材を開く動作も必要ない。
【0048】
第21の発明では、第3の発明において、
前記カバー部材は、前記膨張部材の幅方向で二分割されており、
二分割された前記カバー部材がそれぞれ水側とその反対側とに支点を有し、
平常時は二分割された前記カバー部材は平坦であり、
前記膨張部材が膨張した際に観音開きするように構成されている。
【0049】
上記の構成によると、カバー部材1枚当たりの質量が抑えられて取り扱いやすく、また膨張部材によって自動的に押し上げられて観音開きする。さらに、膨張時のカバー部材の自由端側の高さが高くなりすぎないため、仮に橋側に人が残されていても、カバー部材の上を人が跨ぐことができる。
【0050】
第22の発明では、第3の発明において、
前記カバー部材は、前記膨張部材の表面に接触し、前記カバー部材に加わる荷重が前記膨張部材で支持されるように構成されている。
【0051】
上記の構成によると、カバー部材単体で車両の自重等を支持する必要がなくなってカバー部材を軽量化でき、重いカバー部材に加わる水圧を支持しなければならない場合に比べて膨張時の膨張部材の高さを確保しやすい。
【0052】
第23の発明では、第3の発明において、
前記カバー部材は、取り外し可能に構成されている。
【0053】
上記の構成によると、膨張前にカバー部材を取り外すことで、浸水時に水圧を受けるカバー部材に膨張部材が押されることがない。
【0054】
第24の発明では、第3の発明において、
前記カバー部材は、前記折畳み状態の膨張部材を覆って前記取付部は覆わず、
前記カバー部材及び前記取付部の上を車両や人が通行可能に構成されている。
【0055】
上記の構成によると、カバー部材のサイズを小さくすることができ、また、取付部を凹凸の少ない剛性の高いものとすれば車両が容易に通行できる。
【0056】
第25の発明では、第1又は第2の発明において、
前記膨張部材は、織布で補強されている。
【0057】
上記の構成によると、織布で補強されていることで、高圧の空気導入時に形状が維持できて大きな水圧に耐えることができる。
【0058】
第26の発明では、第1又は第2の発明において、
前記膨張部材における気室よりも上側のシート部材の剛性が、前記気室よりも下側のシート部材の剛性よりも大きい。
【0059】
上記の構成によると、上側の剛性が大きいことで、通常時に膨張部材が浮き上がって凹凸の発生が防止される。
【0060】
第27の発明では、第1又は第2の発明において、
前記膨張部材における気室よりも上側のシート部材の厚みが、前記気室よりも下側のシート部材の厚みよりも大きい。
【0061】
上記の構成によると、膨張時に水側となる上側の厚みが厚いため、木材や石が当たっても膨張部材が破れにくい。
【0062】
第28の発明では、第1又は第2の発明において、
前記膨張部材は、エチレンプロピレンゴムのシートを含む。
【0063】
上記の構成によると、耐候性、耐熱性が高いので、長期間直射日光を浴びても劣化しない。
【0064】
第29の発明では、
前記膨張部材の内面に長手方向に延びる溝部、突起部又は中空部が設けられており、前記溝部、前記突起部又は前記中空部により排気時に前記膨張部材のエアーが、前記膨張部材の外部と連通可能な孔部に誘導されるように構成されている。
【0065】
上記の構成によると、膨張状態から平板状態に戻るときに膨張部材内部のエアーが溝部、突起部又は中空部を通って膨張部材外部へ排出されやすくなる。
【0066】
第30の発明の水防方法は、
堤防と交差して橋部に至る道路を含む部分において、前記道路の表面よりも所定深さだけ深い膨張部材設置用凹部を凹陥し、前記膨張部材設置用凹部の水側に前記堤防に沿って取付部を取り付け、前記取付部に、表面が平坦な平板状の折畳み状態の膨張可能な部材よりなる膨張部材の基端部を固定する膨張部材設置工程と、
前記膨張部材設置用凹部の周縁に前記道路の表面よりも板状のカバー部材の厚さと同程度深いカバー部材用段部を凹陥し、前記カバー部材用段部に前記カバー部材を開閉可能に固定して前記カバー部材が前記道路の表面よりも出っ張らないようにして少なくとも前記膨張部材を覆うカバー部材設置工程と、
水位が上昇したときに、前記膨張部材の膨張部材本体の内部にエアーを送り込み、前記取付部に基端部が固定された状態で膨らませ、前記堤防の上面よりも上昇した水位の水の流出を防ぐ氾濫防止工程とを含む。
【0067】
上記の構成によると、少なくとも平板状の折畳み状態の膨張部材の基端部を固定すればよいので、膨張部材の取付が容易である。また、膨張部材にエアーを送り込んで膨張させればよいので、液体を送り込む場合に比べて時間が短く、膨張状態から平板状の折畳み状態に戻しやすい。さらに、少なくとも膨張部材の基端部を固定すればよいので、膨張部材の高さを確保しやすく、水の流出を効果的に防止できる。また、膨張部材がカバー部材に覆われているので、膨張部材の上を直接車両等が通行する場合に比べ、膨張部材が傷みにくく、耐久性が向上する。さらに、カバー部材が道路や通路の表面から出っ張らないので、車両等の走行に支障を来さない。なお、取付部がカバー部材に覆われていない場合には、取付部を凹凸が少ない形状にする等により車両や人が通行できるようにすればよい。カバー部材は、膨張部材を膨張させる前に取り外してもよいし、膨張する膨張部材で押し上げるようにしてもよい。
【0068】
第31の発明の水防方法は、
車両や人が出入りする出入り口に至る通路を有する建物又は敷地において、前記通路の表面よりも所定深さだけ深い膨張部材設置用凹部を凹陥し、前記膨張部材設置用凹部の水側に前記建物又は敷地に沿って取付部を取り付け、前記取付部に、表面が平坦な平板状の折畳み状態の膨張可能な部材よりなる膨張部材の基端部を固定する膨張部材設置工程と、
前記膨張部材設置用凹部の周縁に前記通路の表面よりも板状のカバー部材の厚さと同程度深いカバー部材用段部を凹陥し、前記カバー部材用段部に前記カバー部材を開閉可能に固定して前記カバー部材が前記通路の表面よりも出っ張らないようにして少なくとも前記膨張部材を覆うカバー部材設置工程と、
水位が上昇したときに、前記膨張部材の膨張部材本体の内部にエアーを送り込み、前記取付部に基端部が固定された状態で膨らませ、前記通路の表面よりも上昇した水位の水の流出を防ぐ氾濫防止工程とを含む。
【0069】
上記の構成によると、河川の氾濫や急な降雨による下水道の内水氾濫危険時などに膨張部材を膨張させることで、建物及び敷地が防水される。通常時は、出入り口に至る通路部分において膨張部材が取り付けられた取付部が通路の表面よりも出っ張らないので、取付部及び膨張部材の上を車両及び人が通行可能である。また、膨張部材がカバー部材に覆われているので、膨張部材の上を直接車両等が通行する場合に比べ、膨張部材が傷みにくく、耐久性が向上する。さらに、カバー部材が道路や通路の表面から出っ張らないので、車両等の走行に支障を来さない。なお、取付部がカバー部材に覆われていない場合には、取付部を凹凸が少ない形状にする等により車両や人が通行できるようにすればよい。カバー部材は、膨張部材を膨張させる前に取り外してもよいし、膨張する膨張部材で押し上げるようにしてもよい。
【0070】
第32の発明では、第30又は第31の発明において、
前記膨張部材設置工程において、前記取付部の周辺は深く、前記膨張部材の周辺は浅くなるように前記膨張部材設置用凹部を凹陥し、
前記カバー部材設置工程において、少なくとも前記カバー部材の少なくとも水と反対側の自重が前記膨張部材によって支持されるようにカバー部材を設置する。
【0071】
上記の構成によると、簡単な構成によってカバー部材の自重を膨張部材によって支持させることができ、また、カバー部材単体で車両の自重等を支持する必要がなくなってカバー部材を軽量化でき、重いカバー部材に加わる水圧を支持しなければならない場合に比べて膨張時の膨張部材の高さを確保しやすい。
【発明の効果】
【0072】
以上説明したように、本発明によれば、取付部及び膨張部材が堤防や敷地の表面よりも出っ張らないので、その上の車や人の通行が容易となり、橋の架かった道路部分や敷地又は建物の出入り口に至る通路周辺を含めて氾濫を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【
図1】本発明の実施形態1に係る水防構造の折畳み状態を示す平面図である。
【
図2A】
図1のIIA-IIA線拡大断面図である。
【
図4A】
図1のIVA-IVA線拡大断面図である。
【
図4B】取り外せるカバー部材の場合の
図4A相当拡大断面図である。
【
図5B】取り外せるカバー部材の場合の
図5A相当拡大断面図である。
【
図6】水防構造のブロアシステムの概略を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態2に係る水防構造の折畳み状態を示す平面図である。
【
図8A】
図7のVIIIA-VIIIA線拡大断面図である。
【
図8B】取付部の形状が異なる変形例に係る
図8A相当拡大断面図である。
【
図12】連結部を覆う連結部カバー及びその周辺を示す平面図である。
【
図15】本発明の実施形態3に係る水防構造の折畳み状態を示す斜視図である。
【
図16A】折畳み状態の膨張部材及びその周辺を拡大して示す斜視図である。
【
図16B】折畳み状態の膨張部材及びその周辺を拡大して示す断面図である。
【
図18】本発明の実施形態3に係る水防構造の膨張状態を示す斜視図である。
【
図19A】
図18のXIXA部における膨張状態の膨張部材及びその周辺を拡大して示す斜視図である。
【
図19B】
図18のXIXA部における膨張状態の膨張部材及びその周辺を拡大して示す断面図である。
【
図20A】膨張部材設置用凹部がない場合の折畳み状態の膨張部材及びその周辺を拡大して示す斜視図である。
【
図20B】膨張部材設置用凹部がない場合の折畳み状態の膨張部材及びその周辺を拡大して示す断面図である。
【
図20C】膨張部材設置用凹部がない別の場合の折畳み状態の膨張部材及びその周辺を拡大して示す断面図である。
【
図20D】膨張部材設置用凹部がないさらに別の場合の折畳み状態の膨張部材及びその周辺を拡大して示す断面図である。
【
図21A】膨張部材設置用凹部がない場合の膨張状態の膨張部材及びその周辺を拡大して示す斜視図である。
【
図21B】膨張部材設置用凹部がない場合の膨張状態の膨張部材及びその周辺を拡大して示す断面図である。
【
図22】コーナー部における、連結部を覆う連結部カバー及びその周辺を示す平面図である。
【
図23】
図22のXXIII-XXIII線拡大断面図である。
【
図24】本発明の実施形態4に係る水防構造の膨張状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0074】
以下、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。
【0075】
(実施形態1)
-水防構造-
図1~
図6は本発明の実施形態1の水防構造1を示し、この水防構造1は、河川の堤防10に、この堤防10に沿って延びるように設けた取付部3を備えている。取付部3は、河川に合わせ、直線状に設けてもよいし、折れ曲がって設けたり、湾曲して設けたりしてもよい。
【0076】
なお、「堤防」とは、一般に、河川、湖の氾濫や海水の侵入を防ぐため、河岸、湖岸、海岸に沿って設けた土石やコンクリート製の構築物を言うが、市街地を流れる小型河川のように、盛土がないような岸の壁部も含む意味である。
【0077】
本実施形態では、少なくとも堤防10に、その上面10aによりも所定深さだけ深い膨張部材設置用凹部12が凹陥されている。そして、
図2A及び
図3に示すように、この膨張部材設置用凹部12の周縁に堤防10の上面10aから、板状のカバー部材5の厚さと同程度の深さのカバー部材用段部13を凹陥する。カバー部材用段部13は、河川側と、道路R側とで平行になるように形成されている。結果として、膨張部材設置用凹部12の深さは、カバー部材5の厚さと、取付部3の厚さとを合わせた深さよりも若干深いもので、本実施形態では、その底面12aは、ほぼ水平となっている。底面12aの形状は、後述するように、これに限定されない。
【0078】
図2A及び
図3に拡大して示すように、取付部3には、膨張部材2の基端部2aが膨張部材設置用凹部12の底面12aとの間に挟み込まれるようにして固定されている。この膨張部材2は、
図1Aに示す平板状の折畳み状態から内部にエアーを送り込むことで膨らむ膨張状態(
図3参照)に形状変更可能で、膨張状態で堤防10の上面10aよりも上昇した水位の水Wの流出を防ぐことができるようになっている。取付部3の形状は、これに限定されないが、この取付部3を堤防10の上面10aに凹陥した膨張部材設置用凹部12における河川側にアンカーボルト4によって固定される。取付部3及びアンカーボルト4は錆びにくいステンレス鋼などが望ましい。図示しないが、取付部3は、受け部材と、押さえ部材とを有し、これらに相補形状の凹凸が設けられているもので挟持させてもよい。
【0079】
本実施形態では、少なくとも堤防10と交差する道路Rの橋部Bに至る部分において、取付部3は、道路Rの表面よりも出っ張らず、取付部3の上を車両が走行可能に構成されている。
【0080】
膨張部材2は、堤防10に沿って長いゴム部材よりなる。
図2Bに例示するように、このゴム部材は、多層部材よりなり、基端部2aと、湾曲面を有するように膨らむ膨張部材本体2bとを備える。例えば、2層の帆布層31を内面カバーゴム32と外面カバーゴム33とで覆っている。上下の部材は、内面カバーゴム32が接する面において、膨張時に離れやすいように気室となる部分の表面に離型剤が設けられていてもよい。
【0081】
基端部2aの長さは長くてもよく、取付部3と膨張部材本体2bとの間に板状の膨らまない部分があってもよい。詳しくは図示しないが、例えば、所定位置の基端部2aには、送風機からのエアーを取り入れる取り入れ口2cが設けられている(
図6にのみ図示)。この構成は特に限定されないが、この取り入れ口2cは、例えば筒状部材で、膨張部材本体2b(膨張部芯体)の内部と密閉状に連通していればよい。
【0082】
ここで、
図2Bに示すように、膨張部材2における気室よりも上側のシート部材(外面カバーゴム33、2層の帆布層31及び内面カバーゴム32)の厚みt1が、気室よりも下側のシート部材(外面カバーゴム33、2層の帆布層31及び内面カバーゴム32)の厚みt2よりも大きくなるように構成してもよい(t1>t2)。そのように構成すれば、膨張時に水側となる上側の厚みt1が厚いため、木材や石が当たっても膨張部材2が破れにくい。
【0083】
また、膨張部材2における気室よりも上側のシート部材(外面カバーゴム33、2層の帆布層31及び内面カバーゴム32)の剛性が、気室よりも下側のシート部材(外面カバーゴム33、2層の帆布層31及び内面カバーゴム32)の剛性よりも大きくなるように構成してもよい。本実施形態では、上側の外面カバーゴム33の肉厚が厚くなることで上側のシート部材の剛性が高くなっているが、材質を変えて剛性を挙げてもよい。上側の剛性が大きいことで、自重で押さえ込んで通常時に膨張部材が浮き上がって凹凸の発生が防止される。
【0084】
膨張部材2は、エチレンプロピレンゴムのシートを含んでいてもよい。そうすれば、耐候性、耐熱性が高いので、長期間直射日光を浴びても劣化しない。
【0085】
また膨張部材2は、織布で補強されていてもよい。織布で補強されていることで、高圧の空気導入時に形状が維持できて大きな水圧に耐えることができる。
【0086】
図2A及び
図4Aに示すように、膨張部材2は、折畳み状態において、表面が略平坦な板状で膨張部材設置用凹部12に収納されている。本実施形態では、堤防10と交差する道路Rの橋部Bを含む長手方向の連続する領域において、取付部3及び折畳み状態の膨張部材2の全体が平坦なカバー部材5で覆われている。折畳み状態において膨張部材2を覆うカバー部材5が道路Rの表面よりも出っ張らず、カバー部材5の上を車両及び人が通行可能に構成されている。カバー部材5は、平坦なものが望ましいが、多少の凹凸があってもよい。後述する実施形態2のようにカバー部材5は、堤防10と交差する道路Rの橋部Bを含む部分にのみ設けられていてもよい。
【0087】
図1に示すように、カバー部材5は、水が通過可能な孔部を備えている必要がある。折畳み時にカバー部材5の表面に水が溜まらないと共に、膨張時には河川側から流れ込む水の水圧を逃がしやすいようにするためである。
【0088】
本実施形態では、カバー部材5は、格子状のグレーチング部材よりなる。グレーチング部材であれば、孔部の割合が多くて水が通過しやすい上、入手性がよく剛性の高いカバー部材5が得られる。
【0089】
図3に示すように、カバー部材5は、取付部3よりも水側に支点(ヒンジ部5a)を持ち、膨張部材2の膨張時に膨張した膨張部材2に押され、陸側に向かって上方へ立ち上がるように構成されている。ヒンジ部5aは、図示しないボルトなどにより、カバー部材用段部13に堅固に固定されている。
【0090】
本実施形態では、カバー部材5が膨張部材2の膨張を阻害せず、また、グレーチング構造なので、滑りにくい。
【0091】
また、
図4Aに示すように、膨張部材2の内部には、複数の貫通孔を有する中空部としてのパイプ材7が貫通していてもよい。こうすると、パイプ材7を介して膨張部材2内のエアーの排出が容易となる。
【0092】
この中空部は、パイプ材7でなくてもよく、図示しないが、膨張部材2の長手方向に延びる溝部でもよい。要は、溝部、突起部又は中空部により排気時に膨張部材2のエアーが、膨張部材2の外部と連通可能な孔部(図示せず)に誘導されるように構成されていてもよい。突起部は、例えば、紐状部材を格子状に表面に配置させて凹凸を形成するようにしてもよい。これにより、使用後に膨張状態から平板状態に戻すときに、膨張部材2内部のエアーが溝部、突起部又は中空部を通って膨張部材外部へ排出されやすくなる。
【0093】
図12に示すように、堤防10に沿って延びる複数の膨張部材2を連結する連結部115が設けられている。膨張部材2を製造したり運搬したりする上で、最大長さには限度があるため、複数の膨張部材2を長手方向に並べて連結する必要がある。
【0094】
このように、連結部115によって所定長さの膨張部材2を互いに連結できるので、堤防10に沿って長い距離でも膨張部材2の設置が可能となる。連結部115は、連通用パイプ2dなどの空気の通り道は確保するようにその形状が定められている。
【0095】
図12から
図14に示すように、例えば、連結部115は、一対の金属製の板状部材よりなり、閉じた状態の膨張部材2の長手方向端部を挟み込んだ状態で、ボルト等で締め付けることにより、膨張した膨張部材2からエアーが漏れ出さないようになっている。このように連結部115を剛性の高い金属板にすることで、堅固に膨張部材2が連結される。
【0096】
そして、
図14に示すように、連結部115部分が凹むので、その凹んだ部分から水が浸入しないように、帯状の連結部カバー116で覆われている。
【0097】
そして、
図3及び
図5に示すように、膨張部材2は、膨張状態において、取付部3に基端部2aが固定された状態で膨張して河川の水Wの流出を防止可能に構成されている。
【0098】
本実施形態の水防構造1は、
図6に示すブロアシステム20を有する。このブロアシステム20は、例えば、堤防10の上面10aに設けられ、電動モータにより駆動されるブロア21と、ブロア21からのエアーの供給又は排気を切り換える切換弁22及び切換レバー23と、圧力計24と、電動給気弁25と、これらを制御する制御盤26とを備えている。緊急時には、ブロア21からの供給用ホース27が、膨張部材2の基端部2aの所定場所に設けられた空気取り入れ口2cに接続される。
【0099】
制御盤26が、圧力計24の値を監視して一定の圧力を保つように自動でブロア21を調整するようにしてもよい。
【0100】
図示しないが、真空ポンプをさらに設け、氾濫の危険が解除されたときに、膨張部材2の気質内のエアーを強制的に除去するようにしてもよい。大気開放ではなく、真空ポンプで負圧にすることで、気質上下のシートが密着して、フラットな膨張部材2に戻すことができる。このとき、上述した中空部及び溝部により効率的に排気が行われる。
【0101】
制御盤26は、公的な災害危険情報が発令されたのを受信できる受信機28を備えていてもよい。そうすれば、災害危険情報が発令されたときに、自動でブロア21のスイッチを入れ、膨張部材2を膨らませて防水壁をつくることができる。
【0102】
制御盤26が、河川等の水位をセンサー及び/又はカメラ29でモニタリングして、任意の水位に達した時点でブロア21のスイッチが自動で入り、膨張部材2を膨らませて防水壁をつくるようにしてもよい。
【0103】
膨張部材2の上面を撮影するカメラ29を設けておき、膨張部材2の上に人がいないのを確認した上で、制御盤26が、ブロア21のスイッチを入れ、膨張部材2を膨らませて防水壁をつくるようにしてもよい。
【0104】
制御盤26が、ブロア21のスイッチを入れる前に、膨張部材2の近くに設けたブザーやスピーカ30に警報などを発生させるようにしてもよい。
【0105】
-水防方法-
次に、本実施形態に係る水防方法について説明する。
【0106】
まず、膨張部材設置工程において、
図1、
図2A及び
図4Aに示すように、河川の堤防10のフェンス11よりも道路R側に、その上面10aよりも所定深さだけ深い膨張部材設置用凹部12を凹陥する。この膨張部材設置用凹部12の水側に堤防10に沿って取付部3を取り付け、取付部3によって膨張部材2の基端部2aを固定する。具体的には、
図2A及び
図4Aに示すように、既存又は新規のコンクリート構造物等よりなる堤防10に川辺から所定間隔を開けて膨張部材設置用凹部12を凹陥し、この膨張部材設置用凹部12に折畳み状態の膨張部材2を載置し、その基端部2aの上から取付部3を載置し、アンカーボルト4を締め付ける。なお、図示しないが、膨張部材設置用凹部12の適切な位置に水が溜まらないように、排水孔等を設けるのが望ましい。
【0107】
次いで、カバー部材設置工程において、膨張部材設置用凹部12の周縁に堤防10の上面よりも板状のカバー部材5の厚さと同程度深いカバー部材用段部13を凹陥する。なお、カバー部材用段部13は、上記膨張部材設置用凹部12と共に設けるとよい。そして、カバー部材用段部13の河川側にカバー部材5のヒンジ部5aを固定し、カバー部材5が堤防10の上面10aよりも出っ張らないようにして膨張部材2を覆う。カバー部材5のヒンジ部5aと反対側は、道路R側のカバー部材用段部13に載る。この状態で、カバー部材5は、車両等の自重を支えられる剛性を有している。
【0108】
こうすれば、
図4Aに示す平常時、カバー部材5の上を車両等が通って橋部Bを往来するので、膨張部材2の上を直接車両等が通行する場合に比べ、膨張部材2が傷みにくく、耐久性が向上する。また、カバー部材5が道路Rの表面から出っ張らないので、車両等の走行に支障を来さない。
【0109】
次いで、氾濫防止工程において、河川の水位が上昇したときに、
図6に示すように、膨張部材2の内部に取り入れ口2cからエアーを送り込む。具体的には、ブロア21からの供給用ホース27を膨張部材2の空気取り入れ口2cに接続した後、制御盤26を操作してブロア21を起動してエアー(空気)を膨張部材本体2bに送り込む。
【0110】
すると、
図3に示すように、膨張部材2の膨張部材本体2bは、取付部3に基端部2aが固定された状態で膨らみ、カバー部材5を押し上げる。カバー部材5は、多数の孔を有するグレーチング部材よりなるので、カバー部材5が重すぎることはなく、また、カバー部材5に河川から流れ込む水によって水圧がかかりすぎることはない。
【0111】
さらに水位が上昇すると、膨張状態にある膨張部材本体2bが、堤防10上面10aよりも上昇した水位の水Wの流出を防ぐ。この状態では、基端部2aがしっかりと固定された状態で膨張部材2が拡がるので、膨張部材2を支えるためだけのフェンスは必要ではなく、強度を高くできるため、高さも確保しやすい。
【0112】
このように、本実施形態の膨張部材2は、膨張部材2にエアーを送り込んで膨張させればよいので、液体を送り込む場合に比べて時間が短く、再び折り畳む場合でも、膨張部材2の内部にパイプ材7などの中空部や溝部が設けられているので、膨張状態から平板状態に戻しやすい。
【0113】
また、取付部3がカバー部材5の下に隠れ、道路Rの表面よりも出っ張らないように設置されるので、橋の手前に設けた場合ででも、車両の走行に差し支えない。
【0114】
したがって、本実施形態に係る水防構造1によると、橋部Bの架かった道路部分を含めて氾濫を効果的に防ぐことができる。
【0115】
-変形例-
図4B及び
図5Bは、カバー部材5がヒンジ部5aで開閉可能に取り付けられているのではなく、取り外し可能な場合を示す。
【0116】
本変形例では、浸水時に、膨張部材2を膨張させる前にカバー部材5を持ち上げて取り外す必要があるが、取り外すことにより、浸水時に水圧を受けるカバー部材に膨張部材が押されることがないという利点がある。また、カバー部材をグレーチングなどの水を通す形状にする必要はなくなり、孔のない単純な板状のものでも構成できる。
【0117】
例えば、カバー部材を防水壁として利用するという考えもあるが、そうすると、大きな水圧が防水壁にかかるために、重く分厚い防水壁となり、膨張部材に空気を入れても堰高が低くなってしまう。堰高を上げるためには、非常に高い空気圧にする必要があり、膨張部材に過大な力がかかって破損しやすい。破損を防止するためには、高強度で分厚い膨張部材にしなければならず非常に重くコストが高くなるという欠点がある。
【0118】
しかも、河川沿いに長距離にわたって防水壁を設けるには、長距離にわたるカバー部材が必要となり現実的でない。複数のカバー部材で防水壁とするには、カバー部材間のシールが困難で防水壁の間から水が漏れて防水しきれないという欠点もある。
【0119】
本変形例では、カバー部材5を取り外せるようにして膨張部材2単体で防水壁を形成するようにしているので、上述した欠点は発生しない。なお、いずれの実施形態においても、カバー部材は、ヒンジ部で開閉可能に支持するのではなく、取り外せるように構成してもよい。
【0120】
(実施形態2)
図7~
図11は本発明の実施形態2の水防構造101を示し、特にカバー部材105,106の構成が異なる点で上記実施形態1と異なる。なお、以下の実施形態では、
図1~
図6と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0121】
本実施形態の膨張部材設置用凹部112は、
図8A、
図8C、
図9~
図11に示すように、水側(河川側)から反対側に向かって徐々に深さが浅くなるように凹陥されている。
【0122】
本実施形態では、カバー部材105,106は、橋部Bに通じる道路R部分にのみ設けられ、それ以外はカバー部材105,106が設けられていない。それ以外の部分は、特に車が頻繁に通行しないような場合、カバー部材105,106は必ずしも必要ではない。
【0123】
図10及び
図11に示すように、カバー部材105,106が設けられる部分の膨張部材設置用凹部112の河川側には、カバー部材用段部113が凹陥されている。浅くなっている河川と反対側にもカバー部材用段部113が凹陥されているが、膨張部材設置用凹部112がカバー部材用段部113を兼ねてもよい。そして、カバー部材105,106は、膨張部材2の幅方向で二分割されている。二分割されたカバー部材105,106がそれぞれ水側と陸側とに支点(ヒンジ部105a,106a)を有し、カバー部材用段部113でヒンジ部105a,106aが固定されている。
【0124】
図10に示すように、平常時は二分割されたカバー部材105,106は平坦であり、
図11に示すように、膨張部材2が膨張した際に観音開きするように構成されている。
【0125】
図10に示すように、膨張部材設置用凹部112の断面が河川から離れるに向かって徐々に浅くなるように形成されており、カバー部材105,106の下面側は、膨張部材2の表面に接触し、カバー部材105,106に加わる荷重が膨張部材2で支持されるように構成されている。
【0126】
そして本実施形態では、
図8Aに示すように、カバー部材105,106のない部分では、取付部3が立体形状の取付部カバーとしてのゴムシートカバー114で隙間を埋めるように密閉されている。こうすれば、取付部3が、立体形状のゴムシートカバー114で隙間なく覆われるので、確実に保護されると共に、車両等の走行時に邪魔になりにくくなる。取付部カバーは、ゴム製でなくても樹脂製等でもよい。
【0127】
なお、
図8Cに示すように橋部Bに通じる道路上においても、
図8Aに示すようにカバー部材を設けず、車両や人が通行できるようにしてもよい。
【0128】
-水防方法-
次に、本実施形態に係る水防方法について説明する。
【0129】
まず、
図9に示すように、膨張部材設置工程において、水側から反対側に向かって徐々に深さが浅くなるように膨張部材設置用凹部112を凹陥する。上述したように、少なくとも膨張部材設置用凹部112は、取付部3の周辺は深く、膨張部材2の周辺は浅く形成すればよい。
【0130】
また、
図11に示すように、カバー部材設置工程において、膨張部材設置用凹部112における河川側及び陸側に閉口にカバー部材用段部113を凹陥する。カバー部材105の水と反対側及びカバー部材106の河川側の自重が膨張部材2によって下から支持されるようにカバー部材105,106を設置する。
【0131】
河川側のカバー部材105のヒンジ部105aは、河川側のカバー部材用段部113に固定し、道路R側のカバー部材106のヒンジ部106aは、道路R側のカバー部材用段部113に固定する。
【0132】
カバー部材105,106で覆われていない領域では、そのままであると取付部3の凹凸が露出してしまうが、
図8Aに示すように、この凹凸に合わせたゴムシートカバー114で取付部3を覆う。これにより、見映えがよくなると共に、取付部3周辺に水が溜まらず劣化しにくい。なお、車が通行することが多くない場合、後述する
図20A~
図21Bに示すように、膨張部材設置用凹部112が形成されず、膨張部材2及び取付部3が堤防10の上面10aよりも多少出っ張っていてもよい。
【0133】
そして、特に、このカバー部材105,106で覆われていない領域の膨張部材2における、折畳み状態において上面となる部分には、滑り止め構造が設けられているのが望ましい。これにより、人や二輪車等が滑らず安全に通行できる。
【0134】
滑り止め構造は、例えば、
図2B及び
図2Cに拡大して示したように、例えば、矩形状の凸部34とそれらを囲む凹部35を含む凹凸面で構成される。これにより、簡易な構成で滑り止め効果が得られる。
【0135】
凹凸面における凹部35は、排水溝となっているのが望ましい。そうすれば、膨張部材2の表面に水が溜まらず、より滑り防止効果が高まって走行が容易となる。
【0136】
排水溝となる凹部35は、膨張部材2の全幅を横切っているのが望ましい。そうすれば、膨張部材2表面の水が膨張部材2の外側に排出されやすい。
【0137】
排水溝となる凹部35は、膨張部材2の縦横方向に交差していてもよい。そうすれば、膨張部材2表面の水がより効果的に膨張部材2の外へ排水される。
【0138】
図示しないが、排水溝は布目構造となっていてもよい。そうすれば、より高い滑り止め効果が得られる。
【0139】
そして、上記実施形態1と同様に、氾濫防止工程において、河川の水位が上昇したときに、
図6に示すように、膨張部材2の内部に取り入れ口2cからエアーを送り込む。その後の作動は、道路R部分に設けたカバー部材105,106のみが観音開きする以外は上記実施形態1と同様なので、詳細な説明は省略する。なお、
図9に示すように、ゴムシートカバー114の河川と反対側は、膨張部材2と共に変形するので、膨張部材2の膨張を阻害しない。
【0140】
このように本実施形態では、簡単な構成によって、カバー部材105,106の自重を膨張部材2によって支持させることができ、また、カバー部材105,106単体で車両の自重等を支持する必要がなくなってカバー部材105,106を軽量化でき、重いカバー部材105,106に加わる水圧を支持しなければならない場合に比べて膨張時の膨張部材2の高さを確保しやすい。
【0141】
本実施形態では、2分割されたカバー部材105,106の1枚当たりの質量が抑えられ、また、膨張時のカバー部材105,106の自由端側の高さが高くなりすぎない。このため、仮に橋部B側に人が残されていても、カバー部材105,106の上を人が跨ぐことができる。
【0142】
以上説明したように、本実施形態によれば、取付部3及び膨張部材2が堤防10の上面10aよりも出っ張らないので、その上の走行が容易となり、橋の架かった道路R部分を含めて氾濫を防ぐことができる。
【0143】
したがって、本実施形態によると、橋部Bのある自動車が通過するような領域ではカバー部材105,106で膨張部材2が覆われて車両が通行でき、橋部B以外の領域では、車両が通行しないので、カバー部材105,106を省略でき、その代わりにゴムシートカバー114で取付部3を覆ったので、取付部3が邪魔にならない。
【0144】
-変形例-
膨張部材設置用凹部112は、
図8Aに示した傾斜状の断面には限定されず、
図8Bに示すように、膨張部材設置用凹部112’が、取付部103’の周辺は深く、膨張部材2の周辺は浅く形成されていればよい。
【0145】
この場合、例えば、取付部103’の形状自体が、膨張部材設置用凹部112’の凹凸を軽減するような形状となっていてもよい。
【0146】
本変形例のような場合でも、堤防10の表面10aに対して取付部103’や膨張部材2が出っ張らないので、堤防を通行する人、自転車等の通行の邪魔にならない。
【0147】
当然ながら、
図8Dに示すように、橋部Bに通じる道路R状でも本変形例のように構成してもよい。
【0148】
(実施形態3)
図12~
図14は本発明の実施形態3を示し、特に膨張部材2の連結部115について詳細に説明するが、この連結部115は上記実施形態1及び2のいずれにも適用できる。
【0149】
すなわち、金具等よりなる連結部115によって長手方向に連接する膨張部材2をそれぞれ閉じた状態で挟み込むように接続する。すると、その部分は
図14に示すように、凹んだ形状となり、水が浸入しやすくなる。
【0150】
このため、本実施形態では、連結部115をゴム製などの帯状の連結部カバー116で覆っている。連結部カバー116は、取付部3と同様の連結部カバー用取付部117で基端側が膨張部材設置用凹部112に取り付けられている。このように構成することで、
図13に示すように、押し寄せてくる水が、連結部115及びその周辺から流れ込むのが防止される。
【0151】
(実施形態4)
図15~
図21Bは、本発明の実施形態4の防水構造201を示し、特に保護対象が建物P及びその敷地Aである点で上記実施形態1及び2と異なる。
【0152】
図15に示すように、建物P又は敷地Aには、車両や人が出入りする出入り口Dがあり、そこに通じる通路Gは、車や人が通行する。
図16A~
図17Bに示すように、本実施形態では、出入り口Dに通じる通路Gではない部分において、取付部3が、敷地A(通路G)の上面に形成された膨張部材設置用凹部212に収容されて敷地Aの表面よりも出っ張らず、膨張部材設置用凹部212に収容された取付部3及び膨張部材202の上を車両や人が通行することもできるようになっている。
【0153】
図17A及び
図17Bに示すように、本実施形態では少なくとも出入り口Dに通じる通路G部分において、取付部3及び折畳み状態の膨張部材202の全体がカバー部材5で覆われており、折畳み状態において膨張部材2を覆うカバー部材5が敷地A(通路G)の表面よりも出っ張らず、カバー部材5の上を車両及び人が通行可能に構成されている。カバー部材5は、平坦なものが望ましいが、特に車や人の通行量が少ない場合などは、多少の凹凸があってもよい。
【0154】
本実施形態では、通路G以外の部分は、カバー部材5で膨張部材202が覆われていないが、人や車が通行するなどにより必要な部分はカバー部材で覆われるように構成してもよい。
【0155】
図16A及び
図16Bに示すように、カバー部材5で覆われていない全周の大部分は、膨張部材202及び取付部3が露出するが、膨張部材設置用凹部212に膨張前の膨張部材202が収容されているのが望ましい。このとき、
図16Bに示すように、取付部3が膨張部材202の表面よりも多少出っ張っていてもよい。
【0156】
さらに、通路G以外の部分では、車が通行することが多くない場合、
図20A~
図21Bに示すように、膨張部材設置用凹部212が形成されず、膨張部材202及び取付部3が敷地Aの上面よりも出っ張っていてもよい。
【0157】
当然ながら、人や自転車の通行が主で重量の重い車が通行することはあまりないような場合では、通路G部分においても、
図20A~
図21Bに示すような、膨張部材設置用凹部212が形成されない構成も許容され得る。
【0158】
この場合、例えば、
図20Cに示すように、例えば、取付部材203’で膨張部材202の端部が滑らかになるように覆うことができる。同様に反対側端部も、膨張部材202の膨張時にヒンジ部205’を中心に開くことができるようにした先端固定部材208’で覆ってもよい。
【0159】
また、
図20Dに示すように、例えば、取付部材設置用凹部212’’を凹陥させ、その底面に膨張部材202’’の基端部を挟み込んだ状態で、取付部材203’’によって車両等が通行可能なように表面が滑らかになるようにして覆ってもよい。この場合も反対側端部を、膨張部材202の膨張時にヒンジ部205’を中心に開くことができるようにした先端固定部材208’で覆ってもよい。
【0160】
なお、図示しないが、建物Pや敷地Aの外周は、ブロック塀などで覆われていることが多いが、その場合には、ブロック塀などで覆われていない部分のみを膨張部材202で覆うようにすればよい。また、広い敷地Aを防水壁で覆いたい場合、敷地Aの高さに違いがあることがある。この場合、浸水が想定される低い敷地Aのみを膨張部材202で覆うようにすればよい。
【0161】
そして、建物P及びその敷地Aを保護するため、
図22及び
図23に示すように、膨張部材202がある程度の角度(本実施形態では90°)を有するように曲がった状態で連結されている。
【0162】
図22に示すように、敷地Aの角部を覆う膨張部材2の連結部115は、例えば、90°に一対の交わる膨張部材202を連結し、その少なくとも上側が連結部カバー116で覆われている。
図23にも示すように、連結部カバー116の基端側は、連結部カバー用取付部117によって敷地Aの表面に固定されている。このため、上記実施形態3と同様に膨張部材202の膨張時に連結部カバー116も起き上がって流れ込んでこようとする水をせき止めることができるようになっている。
【0163】
このように本実施形態では、平常時は、少なくとも車両や人が通る通路Gにおいて膨張部材202を取り付ける取付部3が敷地Aの表面よりも出っ張らないので、取付部3及び膨張部材202の上を車両及び人が通行可能である。
【0164】
本実施形態においても、車や人が頻繁に通る通路G部分では、膨張部材202がカバー部材5で覆われているので、膨張部材202の上を直接車両等が通行する場合に比べ、膨張部材202が傷みにくく、耐久性が向上する。また、カバー部材5が敷地Aの表面から出っ張らないので、車両等の走行に支障を来さない。
【0165】
そして、河川の氾濫や急な降雨による下水道の内水氾濫危険時などに、
図18~
図19Bに示すように、膨張部材202を膨張させることで、建物P及び敷地Aが防水される。
【0166】
本実施形態では、
図22及び
図23に示すように、敷地Aの角部において膨張部材202が適切に連結されているので、膨張部材202を膨張させることで、建物Pや敷地Aの角部においても水が流れ込まない。
【0167】
このように本実施形態においても、取付部3及び膨張部材202が敷地Aの表面よりも出っ張らないので、その上の車や人の通行が容易となり、出入り口に至る通路Gを含めて氾濫を効果的に防ぐことができる。
【0168】
(実施形態5)
図24及び
図25は、本発明の実施形態5の防水構造301を示し、特に膨張時の、膨張部材302の断面積が保たれたまま、言い換えれば閉じられずに帯状部材316で互いに連結されている点で上記各実施形態と異なる。
【0169】
連結部は、帯状部材316で構成され、帯状部材が隣接する膨張部材302の長手方向端部を跨ぐように覆った状態で接着されることにより、膨張部材302が連結されている。
【0170】
本実施形態では、上記各実施形態のように連結部115において膨張部材302が閉じられることがないので、
図25に示すように、帯状部材316による連結部分において、膨張部材302の断面の変化が抑えられている。なお、
図26に示すように、いずれの実施形態においても、膨張部材302の合わせ面に空気が入らずに板状部分が突出していてもよい。
【0171】
このように本実施形態では、帯状部材316で長手方向に隣接する膨張部材302同士を連結することで、連結部分において膨張部材302の膨張時の断面をほぼ均一に保ったまま連結させることができるため、連結部分において水が流れ込みにくい。
【0172】
本実施形態においても、取付部3及び膨張部材302を膨張部材設置用凹部312に収容することで、周囲よりも出っ張らず、車や人の通行が容易となっている。また、上述したように、取付部3は、カバー部材5,105,106やゴムシートカバー114で覆ってもよい。
【0173】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0174】
上記各実施形態では、カバー部材が膨張部材だけでなく、取付部も覆うようにしているが、取付部は覆わず、膨張部材のみを覆うようにしてもよい。そうすれば、カバー部材のサイズを小さくすることができる。この場合は、取付部を凹凸の少ない剛性の高いものとすれば、カバー部材及び前記取付部の上を車両や人が通行可能となる。
【0175】
上記各実施形態では、
図2A等に示す取付部3を設けた。詳細は図示しないが、アンカーボルトに挿通した受け部材と押さえ部材との間に、棒状のロッドが巻き付けられた膨張部材の基端部が挟み込まれた取付部を設けてもよい。そうすると、棒状のロッドは、ゴム部材よりも変形しにくいため、引張荷重が加わったときに基端部がより抜けにくくなる。
【0176】
上記実施形態1では、河川氾濫を対象としているが、湖や海に面する堤防(岸壁を含む)に水防構造1,101を設置すれば、小規模な津波や、台風による高波、高潮等からの防護にも適用できることはもちろんである。
【0177】
上記実施形態では、膨張部材2,202,302は、ゴム部材としたが、折り畳めてある程度剛性があれば、塩ビシート、ターポリン等の膨張可能な部材でもよい。
【0178】
膨張部材2,202,302は、収納時、膨張時共に見映えをよくするために表面に絵柄が設けられていてもよい。
【0179】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0180】
1 水防構造
2 膨張部材
2a 基端部
2b 膨張部材本体
2c 空気取り入れ口
2d 連通用パイプ
3 取付部
4 アンカーボルト
5 カバー部材
5a ヒンジ部
7 パイプ材
10 堤防
10a 上面
11 フェンス
12 膨張部材設置用凹部
12a 底面
13 カバー部材用段部
20 ブロアシステム
21 ブロア
22 切換弁
23 切換レバー
24 圧力計
25 電動給気弁
26 制御盤
27 供給用ホース
31 帆布層
32 内面カバーゴム
33 外面カバーゴム
101 水防構造
103’ 取付部
105,106 カバー部材
105a,106a ヒンジ部
112,112’ 膨張部材設置用凹部
113 カバー部材用段部
114 ゴムシートカバー(取付部カバー)
115 連結部
116 連結部カバー
117 連結部カバー用取付部
201 防水構造
202,202’’ 膨張部材
203’,203’’ 取付部材
205’ ヒンジ部
208’ 先端固定部材
212,212’’ 膨張部材設置用凹部
301 防水構造
302 膨張部材
312 膨張部材設置用凹部
316 帯状部材
A 敷地
B 橋部
D 出入り口
G 通路
R 道路
W 水