IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カゴメ株式会社の特許一覧

特開2024-166337リコピンの異性化方法、シス異性体リコピン含有組成物及びその製造方法
<>
  • 特開-リコピンの異性化方法、シス異性体リコピン含有組成物及びその製造方法 図1
  • 特開-リコピンの異性化方法、シス異性体リコピン含有組成物及びその製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166337
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】リコピンの異性化方法、シス異性体リコピン含有組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 5/22 20060101AFI20241121BHJP
   C07C 11/21 20060101ALI20241121BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20241121BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241121BHJP
【FI】
C07C5/22
C07C11/21
A23L19/00 A
A23L19/00 Z
C07B61/00 300
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024160431
(22)【出願日】2024-09-17
(62)【分割の表示】P 2019152588の分割
【原出願日】2019-08-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼刊行物名:第32回カロテノイド研究談話会講演要旨集 頒布日:平成30年9月14日 ▲2▼集会名、開催場所 第32回カロテノイド研究談話会 熊本大学・黒髪南キャンパス・工学部百周年記念館 開催日:平成30年9月15日 ▲3▼刊行物名:2018年度日本食品科学工学会中部支部大会講演要旨集 頒布日:平成30年12月15日 ▲4▼集会名、開催場所 2018年度日本食品科学工学会中部支部大会 名城大学 天白キャンパス 共通講義棟北 開催日:平成30年12月15日 ▲5▼刊行物名:ifia JAPAN2019カロテノイドフォーラム発表要旨 頒布日:令和元年5月23日 ▲6▼集会名、開催場所 ifia JAPAN2019カロテノイドフォーラム 東京ビッグサイト 青海展示棟ホールA・Bセミナー会場101 開催日:令和元年5月23日 ▲7▼刊行物名:Scientific Reports,volume 9,Article number:7979(2019) 頒布日:令和元年5月28日 ▲8▼刊行物名:日本食品工学会第20回(2019年度)年次大会講演要旨集 頒布日:令和元年7月25日 ▲9▼集会名、開催場所 日本食品工学会第20回(2019年度)年次大会 かがわ国際会議場サンポートホール高松 会議室 開催日:令和元年8月7日
(71)【出願人】
【識別番号】000104113
【氏名又は名称】カゴメ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本田 真己
(72)【発明者】
【氏名】市橋 浩平
(72)【発明者】
【氏名】竹村 諒太
(57)【要約】
【課題】本発明が解決しようとする課題は、トランス体リコピンからシス異性体リコピンへの異性化の効率化である。
【解決手段】本願発明者が鋭意検討して見出したのは、環状ポリスルフィド又はヨウ素をリコピンの異性化触媒として用いることである。すなわち、リコピン、油脂及び異性化触媒を混合し、加熱をすることにより、リコピンを効率的にトランス体からシス異性体に異性化する方法、並びに、シス異性体リコピン含有組成物及びその製造方法を提供することである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シス異性体リコピン含有組成物の製造方法であって、それを構成するのは、少なくとも、次の工程である:
混合:ここで混合されるのは、少なくとも、リコピン、油脂及び異性化触媒であり、
加熱:ここで加熱されるのは、リコピン、油脂及び異性化触媒であり、その時期は、混合と同時又は混合後であり、
前記リコピンの由来は、トマト加工品であり、
当該トマト加工品は、トマトジュース、トマトピューレ、トマトペースト、トマトパルプ、及びトマトパウダーのうち、何れか一つ以上であり、
前記リコピン含有組成物におけるリコピンの濃度は、0.13mM以上であり、
前記異性化触媒は、環状ポリスルフィドであり、
前記環状ポリスルフィドは、レンチオニンである。
【請求項2】
請求項1の製造方法であって、
混合される異性化触媒あたりのリコピンの濃度(総リコピン(mM)/異性化触媒(mM))は、13以下である。
【請求項3】
シス異性体リコピン含有組成物であって、それが含有するのは、次のとおりである:
シス異性体リコピン: ここで、総リコピンあたりのシス異性体リコピン(シス異性体リコピン(mM)/総リコピン(mM))は、0.39以上であり、
前記リコピン含有組成物におけるリコピンの濃度は、0.13mM以上であり、
異性化触媒: ここで、異性化触媒は、環状ポリスルフィドであり、
及び、
油脂であり、
前記環状ポリスルフィドは、レンチオニンである。
【請求項4】
請求項3のシス異性体リコピン含有組成物であって、
総リコピンあたりの5-シスリコピン(5-シスリコピン(mM)/総リコピン(mM))は、0.071以上である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明が関係するのは、リコピンの異性化方法、シス異性体リコピン含有組成物及びその製造方法である。
【背景技術】
【0002】
リコピンは、トマトに含まれている赤い色素であり、天然に存在するカロテノイド化合物の一種である。リコピンは、強い抗酸化作用を有しており、飲食品、化粧品、医薬品、動物用飼料などへの添加物として広く使用されている。リコピンには11個の共役π結合があるため、様々なシス体が存在しており、シス異性体リコピン(11個の共役π結合のうち、1個でもシス型を含む異性体)は、トランス体リコピンよりも腸管吸収性が良いことが知られている(非特許文献1)。中でも、5-シスリコピンはトランス体リコピンやその他のシス異性体リコピンに比べて、安定性が高く、抗酸化能も高いことが知られている(非特許文献2、3)。しかしながら、市販のリコピン組成物において、シス異性体リコピンの含有率は低く、多くはトランス体リコピンであり、腸管吸収性を向上させるためには、シス異性体リコピンが多く含まれる組成物が求められる。
【0003】
リコピンをトランス体からシス体へ異性化する方法として、特許文献1が開示するのは、リコピンを有機溶媒中でヨウ素を触媒として光異性化する方法である。特許文献2及び3が開示するのは、リコピンを有機溶媒中で固体触媒とともに加熱する方法である。特許文献4が開示するのは、リコピンを有機溶媒に溶解させて特定波長の光を照射する方法である。特許文献5が開示するのは、リコピンを胡麻油中に溶解・分散させて加熱する方法である。特許文献6が開示するのは、リコピンを超臨界抽出し加熱する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007-522166号公報
【特許文献2】特表2010-500302号公報
【特許文献3】特表2010-502572号公報
【特許文献4】特表2015-051929号公報
【特許文献5】特開2017-001959号公報
【特許文献6】特開2017-019756号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ファイラ(Failla)、他2名、Journal of Nutrition、2008年、第138巻、第482~486ページ。
【非特許文献2】ケイス(Chasse)、他10名、Journal of Molecular Structure (Theochem)、2001年、第571巻、第27~37ページ。
【非特許文献3】ミュラー(Muller)、他5名、Journal of Agricultural and Food Chemistry、2011年、第59巻、第4504~4511ページ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、トランス体リコピンからシス異性体リコピンへの異性化の効率化である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上を踏まえて、本願発明者が鋭意検討して見出したのは、環状ポリスルフィド又はヨウ素を異性化触媒として用いて、リコピン及び油脂と混合して異性化反応を行うことである。すなわち、リコピン、油脂及び異性化触媒を混合し、加熱をすることにより、リコピンを効率的にトランス体からシス異性体に異性化する方法、並びに、シス異性体リコピン含有組成物及びその製造方法である。この観点から、本発明を定義すると、以下のとおりである。
【0008】
本発明に係るシス異性体リコピン含有組成物の製造方法を構成するのは、少なくとも、混合工程及び加熱工程である。混合工程において、少なくとも、リコピン、油脂及び異性化触媒が混合される。加熱工程において、リコピン、油脂及び異性化触媒が加熱される。加熱工程の時期は、混合と同時又は混合後である。異性化触媒は、環状ポリスルフィド又はヨウ素である。ここで、混合される異性化触媒あたりのリコピンの濃度(総リコピン(mM)/異性化触媒(mM))は、13以下であることが好ましい。加熱温度は40℃以上であればよく、80℃以上であることが好ましい。環状ポリスルフィドは、レンチオニンであることが好ましく、その由来は、食経験の豊富な食材であり、例えば、Lentinus属のキノコである。Lentinus属のキノコの中でも、椎茸であることが好ましく、乾燥されたものがより好ましい。ヨウ素の由来は、食経験の豊富な食材であり、例えば、海藻類又は魚介類であることが好ましい。
【0009】
本発明に係るリコピンの異性化方法を構成するのは、少なくとも、混合工程及び加熱工程である。混合工程において、少なくとも、リコピン、油脂及び異性化触媒が混合される。加熱工程において、リコピン、油脂及び異性化触媒が加熱される。加熱工程の時期は、混合と同時又は混合後である。異性化触媒は、環状ポリスルフィド又はヨウ素である。ここで、混合される異性化触媒あたりのリコピンの濃度(総リコピン(mM)/異性化触媒(mM))は、13以下であることが好ましい。
【0010】
本発明に係るシス異性体リコピン含有組成物が含有するのは、シス異性体リコピン、油脂及び異性化触媒である。総リコピンあたりのシス異性体リコピン(シス異性体リコピン(mM)/総リコピン(mM))は、0.39以上であり、異性化触媒は、環状ポリスルフィド又はヨウ素である。さらに、総リコピンあたりの5-シスリコピン(5-シスリコピン(mM)/総リコピン(mM))は、0.071以上である。環状ポリスルフィドは、レンチオニンであることが好ましく、その由来は、食経験の豊富な食材であり、例えば、Lentinus属のキノコである。Lentinus属のキノコの中でも、椎茸であることが好ましく、乾燥されたものがより好ましい。ヨウ素の由来は、食経験の豊富な食材であり、例えば、海藻類、または魚介類であることが好ましい。
【0011】
本発明に係る飲食品が含有するのは、前述のシス異性体リコピン含有組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明が可能にするのは、リコピンのシス異性化反応を効率的に行うことにより、シス異性体リコピン含有組成物を製造することである。また、食経験が豊富な椎茸に含まれる環状ポリスルフィド又は海藻類、又は魚介類に含まれるヨウ素を触媒として用いることにより、腸管吸収性が良く、食用として好適なシス異性体リコピン含有組成物を簡単に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】シス異性体リコピン含有組成物の製造方法の流れ図
図2】HPLC分析によって得られたシス異性化リコピン組成物のクロマトグラムの一例
【発明を実施するための形態】
【0014】
<シス異性体リコピン含有組成物>
本実施の形態に係るシス異性体リコピン含有組成物(以下、「本組成物」という。)が少なくとも含有するのは、シス異性体リコピン、油脂及び異性化触媒である。当該シス異性体リコピン、油脂及び異性化触媒の詳細は、後述する。その他の原料及び材料(以下、「原材料」という。)は食用に適するものであればよく、特に限定されない。当該原材料が排除しないのは、調味料、食品添加物、その他の食品材料である。これらの原材料の形態は、不問であり、固体でも、液体でもよい。
【0015】
<リコピン>
本実施の形態に係るリコピンは、化学合成されたものであってもよいが、植物、動物、微生物等由来の天然物に由来するものであることが好ましい。なかでも、青果物由来のリコピンや微生物によって合成されたリコピンが好ましく、リコピン含有量の多い青果物由来のものがより好ましい。リコピン含有量の多い青果物を例示すると、トマト、スイカ、メロン、グレープフルーツ、カキ、パパイヤ、レッドグアバネーブル、ローズヒップ、ニンジン、ガック等が挙げられるが、特にトマト加工品、オレオレジンが好ましい。また、液体状であってもよく、濃縮物や乾燥物等の半固形・固形状でもよい。
【0016】
トマト加工品を例示すると、トマトジュース、トマトピューレ、トマトペースト、トマトパルプ、及びトマトパウダー等である。トマトパルプとは、トマトジュース、トマトピューレ、トマトペーストを遠心分離して得られる沈殿物である。トマトパウダーとは、トマトペーストやトマトパルプ、トマトの皮等の乾燥粉末である。
【0017】
オレオレジンは、青果物又はその搾汁液を充分に濃縮した濃縮液から有機溶媒や超臨界二酸化炭素により抽出した後、溶媒を除去することにより得られる脂質画分である。オレオレジンを溶媒に混合したものであってもよく、オレオレジンの油分を除去したものであってもよい。オレオレジンは市販されており、例示すると、Lyc-O-Mato15%(LycoRed社製)である。
【0018】
<シス異性体リコピン>
シス異性体リコピンに含有されているリコピンのシス異性体としては、5-シスリコピン、9-シスリコピン及び13-シスリコピン等のモノシス異性体、9,13’-シスリコピン、5,9’-シスリコピン等のジシス異性体がある。
【0019】
5-シスリコピンは、他のシス異性体リコピンと比較して、熱エネルギー学上、非常に安定性が高い構造である。また、5-シスリコピンは、トランス体リコピンや9-シスリコピン、13-シスリコピンと比較して、抗酸化活性が高いこと、人体への吸収性が高いことが知られている。5-シスリコピン含有率が高いことは、製品に用いた際に長期間にわたって有効量を担保しながら、その吸収性の高さや抗酸化活性の高さを訴求することが可能である。
【0020】
<シス異性体リコピン濃度>
シス異性体リコピン濃度は、総リコピン濃度と、シス異性体リコピン含有率を乗じることにより算出できる。シス異性体リコピン含有率とは、組成物中の総リコピンに対するシス異性体リコピンの割合(%)である。シス異性体リコピン含有率は、逆相カラムや順相カラムを用いたHPLC(高速液体クロマトグラフィー)法で測定することができ、クロマトグラム中における各リコピンのピークのピーク面積に基づいて算出される。より詳細には、シス異性体リコピン含有率(%)は、下記式により算出できる。
【0021】
[シス異性体リコピン含有率(%)]=([シス異性体リコピンのピーク面積の合算値]/[総リコピンのピーク面積の合算値])×100
ここで、総リコピンとは、トランス体リコピンとシス異性体リコピンを合わせたものを指す。また、シス異性体リコピンは、全てのシス異性体リコピンを合わせたものを指す。
【0022】
シス異性体リコピンは、HPLC分析によって得られるピークの吸収スペクトルとピークのリテンションタイムによって特定される。図2が示すのは、後述する実施例2の区分16におけるシス異性体リコピン含有組成物をHPLC分析して得られたクロマトグラムである。β‐カロテンのピーク以降に検出されるピークであって5‐シスリコピンまでのピークの中で、トランス体リコピン以外が、シス異性体リコピンと確認できる。リコピンの吸収波長は、リコピンを溶解する有機溶媒によって多少の変化が認められる。
【0023】
<5-シスリコピン濃度>
5-シスリコピンの濃度は、リコピン濃度と5-シスリコピン含有率を乗じることにより算出できる。5‐シスリコピン含有率とは、組成物中の総リコピンに対する5‐シスリコピンの割合(%)である。5‐シスリコピンの含有率は、逆相カラムや順相カラムを用いたHPLC(高速液体クロマトグラフィー)法により測定することができ、クロマトグラム中における各リコピンのピークのピーク面積に基づいて算出される。より詳細には、5‐シス‐リコピンの含有率(%)は、下記式により算出できる。
【0024】
[5‐シスリコピン含有率(%)]=([5‐シスリコピンのピーク面積]/[総リコピンのピーク面積の合算値])×100
<油脂>
油脂とはグリセリンと脂肪酸のエステルのことである。油脂の種類は不問であるが、動物由来又は植物由来であることが好ましい。動物由来の油脂を例示すると、鯨油、鮫油、牛脂、豚脂、バター等である。植物由来の油脂を例示すると、オリーブオイル、大豆油、菜種油、胡麻油等が挙げられるが、これに限定されない。
【0025】
<異性化触媒>
異性化触媒の配合目的は、加熱によりリコピンのシス異性化を促進することである。ここで、異性化触媒は、環状ポリスルフィド又はヨウ素である。
【0026】
<環状ポリスルフィド>
環状ポリスルフィドは、環状化合物と多硫化物(ポリスルフィド)の両方の性質を満たすものである。環状化合物とは、構成する原子が環状に結合した化合物のことである。多硫化物(ポリスルフィド)とは、少なくとも1個以上のスルフィド結合を有している化合物である。環状ポリスルフィドを例示すると、レンチオニン、テトラチアン、テトラチオラン、トリチオラン、ペンタチアン、ヘキサチエパン、テトラチエパン等があり、天然物であっても化学合成されたものであってもよい。その中でもレンチオニンを用いることが好ましい。これらの環状ポリスルフィドを多く含有する天然物を例示すると、Lentinus属のキノコであって、より具体的には、椎茸である。レンチオニン、テトラチアン、及びテトラチオランは、椎茸特有の香り成分として知られている。
【0027】
<レンチオニン>
レンチオニンは、環状ポリスルフィドの一種で椎茸の香り成分として知られており、ペンタチエパン(1,2,3,5,6-ペンタチエパン)ともいわれる。レンチオニンは椎茸から抽出してもよいが、市販されている標品を用いることもできる。例示すると、1,2,3,5,6-ペンタチエパン(Fluorochem社製)である。
【0028】
椎茸又はその加工物を異性化触媒として使用することもできる。その際の椎茸の形態は、特に限定されないが、乾燥されるとレンチオニンの含有量が増加する傾向にあることから、乾燥されたものが好ましい。なお、乾燥後に水戻しした椎茸も好適に用いることができる。使用する椎茸は市販のものを用いることができる。
【0029】
椎茸に含まれるレンチオニンの定量は、有機溶媒抽出後にGC-MSを用いて行うことができる。
【0030】
<ヨウ素>
ヨウ素(I)は、甲状腺ホルモンの構成成分として、重要な役割を担う元素である。本ホルモンは新陳代謝を促したり、子供においては成長ホルモンと共に成長を促進したりする働きをするため、体に必須のミネラルである。ヨウ素を多く含有する食品は、海藻類や魚介類であり、海藻類を例示すると昆布、ヒジキ、クロメ等である。魚介類を例示すると、鯖、鱈、鮑等である。海藻に含まれるヨウ素の定量方法は、不問であり、公知の方法を用いることができる。例示すると、灰化させてガスクロマトグラフィーで検出する方法である。
【0031】
海藻、魚介又はその加工物を異性化触媒として用いることもできる。その際の海藻魚介又はその加工物の形態は、不問であり、例示すると、乾燥状態又は水戻しした状態等である。使用する海藻又は魚介は市販のものを用いることができる。
【0032】
<本組成物の製造方法の概要>
図1が示すのは、本組成物の製造方法(以下、「本製法」という。)の流れである。本製法を構成するのは、主に、混合(S10)、加熱(S20)である。
【0033】
<混合(S10)>
混合工程では、少なくとも、リコピン、油脂及び異性化触媒が混合される。混合する目的は、基質であるリコピンと触媒である環状ポリスルフィド又はヨウ素とを均一に混ぜ合わせることである。また、油脂を混合することにより、リコピンの異性化が促進される。混合される異性化触媒あたりの総リコピンの濃度(総リコピン(mM)/異性化触媒(mM))は、13以下であればよく、好ましくは、1.3以下であり、より好ましくは、0.13以下である。
【0034】
<加熱(S20)>
加熱工程では、少なくとも、リコピン、油脂及び異性化触媒を含む混合物(以下、「本混合物」という。)が加熱される。加熱する目的は、熱異性化反応を行うことにより、本混合物に含まれるトランス体リコピンをシス異性体リコピンに異性化することである。加熱方法は、不問であり、例示すると、直火、蒸気、ウォーターバス、オイルバス等である。本混合物に加熱温度は、熱異性化反応が進みやすいという観点から、40℃以上であればよく、80℃以上であることが好ましい。一方で、加熱温度が高いほどリコピンの分解も起こりやすくなるため、150℃以下であることが好ましい。加熱時間は、80℃以下においては30分以上であればよく、45分以上であることがより好ましい。80℃より高温の場合は、温度が高いほど反応性が高まるので、適宜反応時間を短縮することができる。例えば、120℃であれば、5分以下であってもよい。
【0035】
<本組成物のシス異性体リコピン濃度値>
本組成物のシス異性体リコピン濃度は、加熱処理に供された本混合物中の総リコピン濃度に依存し、総リコピン含有量が高い場合は、シス異性体リコピン濃度が高い本組成物を得ることができる。本組成物における、総リコピン(mM)あたりのシス異性体リコピン濃度(mM)は、0.39以上であることが好ましい。また、本組成物における、総リコピン(mM)あたりの5-シスリコピン(mM)は、0.071以上であることが好ましく、0.10以上であることがより好ましい。
【0036】
<本組成物の用途>
得られた本組成物は、原料としたリコピンと同様に、様々な用途に用いることができる。特に、本発明に係る製造方法において得られた本組成物は、飲食品、化粧品、医薬品、動物用飼料等の原料や添加物として好適に使用できる。当該飲食品としては、特に限定されるものではないが、調味料、飲料、サプリメント(栄養補助食品)等が好ましく、特にトマト含有調味料に好適である。
【実施例0037】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
<実施例1>
総リコピンの濃度が12mg/100gとなるように希釈したトマト加工品(カゴメ トマトペーストHBドラム米国、カゴメ社製)と蒸留水、オリーブオイル(日清オイリオグループ社製)を60:35:5の重量比となるよう混合し、さらに、レンチオニン又はヨウ素の各触媒の最終濃度が0.01、0.1、1、10mMになるよう混合した。対照は、異性化触媒を加えないものとした。それをミキサーで1分間均一に混合した後、80℃のウォーターバス中で1時間加熱した。その後、HPLCによりリコピンの各異性体を定量した。結果は表1に示す。
【0039】
<総リコピン中のシス異性体リコピンの割合測定>
本混合物を1g秤量し、30mlのアセトン(シグマ アルドリッチ社製、分析用)を加え、10分間超音波処理を行った。超音波処理後の溶液をろ紙(アドバンテック社製、No.2)を用いて吸引ろ過し、エバポレーターで乾固させた後、10mlのヘキサン(関東化学社製、HPLC用)に溶解させ、0.2μmのPTFEフィルター(アドバンテック社製)に通し、HPLCに供するサンプルを得た。得られたサンプルは、以下の条件でHPLCに供し、前述の計算方法により、シス異性体の割合を算出した。
【0040】
<HPLC条件>
装置:Prominence LC-20AD、CTO-20AC、SIL-20A、SPD-M20A(島津社製)、カラム:Nucleosil 300-5〔固定相:全多孔性シリカゲル、内径:4.6mm×250mm、ジーエルサイエンス社製、3本連結にて使用〕、
カラム温度:35℃、
移動相:ヘキサン(0.075% DIPEA含有)、
移動相の流速:1.0mL/min、
検出器:フォトダイオードアレイ検出器、
検出波長:460nm。
【0041】
【表1】
【0042】
<実施例2>
Bx10.0に希釈したトマト加工品(トマトペーストHBドラム米国、カゴメ社製)100.0g、エクストラバージンオリーブオイル(味の素社製)5.0g、並びに、乾しいたけ(スライス)(兼貞物産社製)の水戻ししたもの、又は、真昆布(南かやべ漁協協同組合製)を粉砕してパウダー化したものを、異性化触媒として表2に記載の量を加え、その後総量が140.0gになるよう、蒸留水を加えた。対照は、異性化触媒の代わりに蒸留水を、総量が140.0gになるように加えた。椎茸の水戻し方法は、乾燥椎茸の重量に対して、8倍量の蒸留水を加え、5℃の冷蔵庫に16時間保管した。その後、ミキサーで1分間均一に混合した。混合後のサンプルは、ポリプロピレン製50 ml遠沈管に35.0g量り取り、ウォーターバスを用いて表2に記載の条件で加熱した。加熱後のサンプルは直ちに冷水で室温以下まで冷却し、HPLCによりリコピンの各異性体を定量した。各区分の条件および結果は表2に示す。なお、椎茸に含まれるレンチオニンの定量方法、海藻に含まれるヨウ素の定量方法、総リコピンの濃度の定量方法、及び、シス異性体リコピン比率を測定する際のHPLCの条件は、下記に示す。
【0043】
<レンチオニンの定量方法>
椎茸に含まれるレンチオニンの定量方法は、GC―MSを用いて行った。前処理としては、椎茸を蓋付きの容器に2.0gサンプリングし、そこに20mlのイソオクタン(2,2,4-トリメチルペンタン)を加えた。その後、1分間よく振盪し、イソオクタン層(上澄み)をフィルターろ過0.45μmフィルター(13HP045AN,東洋濾紙(株))でろ過したものを、分析に供した。
【0044】
<GC-MS条件>
装置:6890N、7975C(Agilent Technologies Company製)
分析条件カラム:DB-5MS(30m×0.250mm×0.25μm)
注入口温度:200℃
カラム温度:70℃(2分間保持)-10℃/分昇温-250℃(10分)
イオン源温度:230℃
注入量:2μl
注入方式:スプリットレス
ガス:ヘリウム
ガス流量:1.5ml/min
イオン化法:EI
設定質量数:m/z 188、142
<ヨウ素の定量方法>
異性化触媒に含まれるヨウ素の定量は、一般財団法人日本食品分析センターに依頼してガスクロマトグラフィー(灰化法)により分析した。具体的な分析方法は、粉砕した昆布2.0gをニッケルるつぼに入れ、4mol/L水酸化カリウム溶液4ml、25%硝酸カリウム溶液2ml、エタノール5mlを添加して予備灰化し、その後500℃の電気炉内で約3時間灰化を行った。放冷後、水を加えて100℃のホットプレート上で30分間加温、N0.5Bのろ紙でろ過し、それを100ml全量フラスコで定容し、適宜希釈したものを共栓付試験管に分取した。その後、硫酸と蒸留水を等量で混合したものを1ml、メチルエチルケトン1ml、200ppm亜硝酸ナトリウム溶液1mlを添加して60分間放置し、ヘキサン10mlを添加して振とうし、ヘキサン層を以下の条件でガスクロマトグラフィー(GC)に供した。
【0045】
<GC条件>
装置:6890N(Agilent Technologies Company製)
検出器:ECD
カラム:DB-WAX[J&W scientific]、φ250μm×30m、膜厚0.25μm
温度:試料注入口 200℃、検出器 250℃
カラム 45℃(2分間保持)→10℃/分昇温→150℃(5分間保持)
注入方法:スプリットレス
ガス流量:ヘリウム(キャリヤーガス)1.2ml/分
窒素(追加ガス)30.0ml/分
注入量:1μl
<総リコピン濃度の測定>
組成物1.3gを秤量し、アセトン(関東化学社製、HPLC用)にて50mlに定容し、10分間の超音波処理を行った。超音波処理後の溶液を0.45μmのPTFEフィルター(アドバンテック社製)に通し、HPLCに供するサンプルを得た。得られたサンプルは、以下の条件でHPLC分析に供した。
【0046】
装置:島津高速液体クロマトグラフLC‐2030C Plus(株式会社島津製作所社製)
カラム:L‐column〔固定相:ODS、内径:4.6mm×150mm、一般財団法人化学物質評価研究機構製〕
カラム温度:40℃
サンプル注入量:10μL
移動相:アセトニトリル/メタノール/テトラヒドロフラン(55:40:5(v/v))混液(α‐トコフェロール50ppm含有)
流速:1.5mL/min
検出波長:453nm
総リコピン濃度は、別途市販のリコピン試薬から作成した検量線をもとにHPLC分析によって得られたクロマトグラフ中のピーク面積と抽出に供したサンプルの重量及び定容量から算出した。
【0047】
<シス異性体リコピン比率の測定>
組成物約1.3gを秤量し、アセトン(関東化学社製、HPLC用)にて50mlに定容し、10分間の超音波処理を行った。超音波処理後の溶液を、ろ紙(桐山製作所社製、5Bろ紙)を用いて吸引ろ過し、エバポレーター(東京理化機器社製、NVC‐2000)で乾固させた後、20mlのヘキサン(関東化学社製、HPLC用)に溶解させ、0.45μmのPTFEフィルター(ADVANTEC社製)に通し、HPLCに供するサンプルを得た。得られたサンプルは、以下の条件でHPLC分析に供した。
【0048】
<HPLC条件>
装置:日立高速液体クロマトグラフChromaster 5110,5210,5310,5430((株)日立ハイテクサイエンス社製)、
カラム:Nucleosil 300-5〔固定相:全多孔性シリカゲル、内径:4.6mm×250mm、ジーエルサイエンス(株)製、3本連結にて使用〕、
カラム温度:30℃、
移動相:ヘキサン(0.10% DIPEA含有)、
移動相の流速:1.0mL/min、
検出器:フォトダイオードアレイ検出器、
検出波長:460nm。
【0049】
【表2】
【0050】
<評価結果>
実施例1において、区分1~区分7のいずれも、シス異性体リコピン濃度(mM)/総リコピン濃度(mM)の値が対照よりも高かった。また、異性化触媒の濃度が高くなるほど、より異性化が促進されていた。また、区分1~7のいずれも、5-シスリコピン濃度(mM)/総リコピン濃度(mM)の値は、対照よりも高かった。また、異性化触媒の濃度が高くなるほど、より5-シスリコピンの濃度も高くなる傾向がみられた。
【0051】
実施例2において、区分8~区分16のいずれも、シス異性体リコピン濃度(mM)/総リコピン濃度(mM)の値が対照よりも高かった。また、区分8~区分10では本混合物の総リコピン濃度(mM)/レンチオニン濃度(mM)の値が実施例1の区分1~4よりかなり高くても本組成物におけるシス異性体リコピン濃度(mM)/総リコピン濃度(mM)の値が対照よりも高くなった。これは、椎茸に含まれるレンチオニンがわずかであったが、他の環状ポリスルフィドが異性化触媒として機能したからであると推察される。区分11では、総リコピン濃度(mM)/ヨウ素濃度(mM)が実施例1の区分5~7よりも高いため、シス異性体リコピン濃度(mM)/総リコピン濃度(mM)及び5-シスリコピン濃度(mM)/総リコピン濃度(mM)の値が低い結果となった。区分12では、反応時間が15分と短いため、30分反応を行った区分14と比べてシス異性体リコピン濃度(mM)/総リコピン濃度(mM)及び5-シスリコピン濃度(mM)/総リコピン濃度(mM)の値が低かった。区分13では、反応温度が30℃と低いため、区分15、16と比べてシス異性体リコピン濃度(mM)/総リコピン濃度(mM)及び5-シスリコピン濃度(mM)/総リコピン濃度(mM)の値が低かった。
【0052】
以上のことから、環状ポリスルフィド及びヨウ素は、リコピンの異性化触媒として機能し、シス異性体リコピン含有組成物を製造するのに有用である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明が有用な分野は、医薬品、化粧品、栄養補助食品、機能性表示食品、及び一般食品である。
図1
図2