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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166349
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/739 20060101AFI20241121BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20241121BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
H01L29/78 655F
H01L29/78 657D
H01L29/78 655G
H01L29/78 655E
H01L29/78 653A
H01L29/78 655B
H01L29/06 301G
H01L29/06 301V
H01L29/06 301R
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024160761
(22)【出願日】2024-09-18
(62)【分割の表示】P 2023092671の分割
【原出願日】2018-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2017050462
(32)【優先日】2017-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 由晴
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英紀
(72)【発明者】
【氏名】内藤 達也
(57)【要約】
【課題】トレンチ部の端部近傍においては、キャリアをより引き抜き易くすることが望ましい。
【解決手段】互いに隣接するトレンチ部の長手部分の間の領域であって、第1メサ領域および第2メサ領域を含んだ複数のメサ領域と、前記メサ領域の前記第1方向の端部において、半導体基板の表面から前記トレンチ部よりも深い位置まで設けられた第1導電型のウェル領域と、前記絶縁膜に設けられた第1開口、第2開口、第3開口および第4開口と、を含み、前記第1開口は、前記第1メサ領域において前記ウェル領域と前記金属電極とを電気的に接続し、前記第2開口および前記第3開口は、前記第1メサ領域においてベース領域と金属電極とを電気的に接続し、前記第4開口は、前記第1方向において前記第2開口の位置から前記第2開口に最も近接する前記第3開口の位置を越えて連続的に設けられ、前記第2メサ領域と前記金属電極とを接続している半導体装置を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、前記半導体基板の上に設けられた絶縁膜と、前記絶縁膜の上に設けられた金属電極と、を備える半導体装置において、
前記半導体基板は、
第1導電型のベース領域と、
前記半導体基板の表面から前記ベース領域よりも深い位置まで設けられ、第1方向に長手部分を有するトレンチ部と、
互いに隣接する前記長手部分の間の領域であって、第1メサ領域および第2メサ領域を含んだ複数のメサ領域と、
前記メサ領域の前記第1方向の端部において、前記半導体基板の表面から前記トレンチ部よりも深い位置まで設けられた第1導電型のウェル領域と、
前記絶縁膜に設けられた第1開口、第2開口、第3開口および第4開口と、
を含み、
前記第1開口は、前記第1メサ領域において前記ウェル領域と前記金属電極とを電気的に接続し、
前記第2開口および前記第3開口は、前記第1メサ領域において前記ベース領域と前記金属電極とを電気的に接続し、
前記第4開口は、前記第1方向において前記第2開口の位置から前記第2開口に最も近接する前記第3開口の位置を越えて連続的に設けられ、前記第2メサ領域と前記金属電極とを接続している
半導体装置。
【請求項2】
前記第1開口と前記第2開口との距離は、前記第2開口と前記第2開口に最も近接する前記第3開口との距離よりも短い
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記半導体基板は、前記第2メサ領域に設けられ前記第4開口を通じて金属電極と接触する第2導電型のエミッタ領域を含む
請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第1開口、前記第2開口および前記第3開口は、前記第1方向に一直線状に並んでいる
請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第1開口、前記第2開口、前記第3開口および前記第4開口には、バリアメタルおよびタングステンの積層から成るプラグが設けられている
請求項1から4のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記半導体基板は、前記第1開口、前記第2開口または前記第3開口の直下に、前記ベース領域よりもドーピング濃度が高い第2導電型のコンタクト領域を含む
請求項1から5のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記コンタクト領域は、前記第4開口の直下にも設けられている
請求項6に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記第1開口は、前記第1方向において前記第2メサ領域で最も外側に位置する前記エミッタ領域よりも外側に設けられている
請求項3に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記第1メサ領域の前記ベース領域は、フローティング半導体領域である
請求項1から8のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記トレンチ部は、第2方向に短手部分を有し、
前記第1メサ領域は、前記長手部分及び前記短手部分で囲まれている
請求項1から9のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記第1メサ領域と前記第2メサ領域のメサ幅が異なっている
請求項1から10のいずれか1項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関する。
【0002】
従来、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)を有する半導体装置において、フローティング領域上に設けられた層間絶縁膜に開口を設け、当該開口を通じてフローティング領域と層間絶縁膜上に設けられたエミッタ電極とを接続していた(例えば、特許文献1および2参照)。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特開2005-175425号公報
[特許文献2] 特開2007-324539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
半導体基板の上面視において、フローティング領域は、例えば、ゲートトレンチ部によってその周囲を囲まれることによりゲートトレンチ部の長手方向に長辺を有する矩形領域である。ゲートトレンチ部の長手方向の端部に位置する短手部分にはN+型のエミッタ領域またはP+型のコンタクト領域も設けないので、IGBTのスイッチングに伴い生じたキャリアが溜まりやすい。トレンチ部の端部近傍においては、キャリアをより引き抜き易くすることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、半導体基板と、前記半導体基板の上に設けられた絶縁膜と、前記絶縁膜の上に設けられた金属電極と、を備える半導体装置を提供する。上記半導体装置において、前記半導体基板は、第1導電型のベース領域と、前記半導体基板の表面から前記ベース領域よりも深い位置まで設けられ、第1方向に長手部分を有するトレンチ部と、互いに隣接する前記長手部分の間の領域であって、第1メサ領域および第2メサ領域を含んだ複数のメサ領域を含んでよい。上記いずれかの半導体装置において、前記半導体基板は、前記メサ領域の前記第1方向の端部において、前記半導体基板の表面から前記トレンチ部よりも深い位置まで設けられた第1導電型のウェル領域と、前記絶縁膜に設けられた第1開口、第2開口、第3開口および第4開口とを含んでよい。上記いずれかの半導体装置において、前記第1開口は、前記第1メサ領域において前記ウェル領域と前記金属電極とを電気的に接続していてよい。上記いずれかの半導体装置において、前記第2開口および前記第3開口は、前記第1メサ領域において前記ベース領域と前記金属電極とを電気的に接続していてよい。上記いずれかの半導体装置において、前記第4開口は、前記第1方向において前記第2開口の位置から前記第2開口に最も近接する前記第3開口の位置を越えて連続的に設けられ、前記第2メサ領域と前記金属電極とを接続していてよい。
【0005】
上記いずれかの半導体装置において、前記第1開口と前記第2開口との距離は、前記第2開口と前記第2開口に最も近接する前記第3開口との距離よりも短くてよい。
【0006】
上記いずれかの半導体装置において、前記半導体基板は、前記第2メサ領域に設けられ前記第4開口を通じて金属電極と接触する第2導電型のエミッタ領域を含んでよい。
【0007】
上記いずれかの半導体装置において、前記第1開口、前記第2開口および前記第3開口は、前記第1方向に一直線状に並んでいてよい。
【0008】
上記いずれかの半導体装置において、前記第1開口、前記第2開口、前記第3開口および前記第4開口には、バリアメタルおよびタングステンの積層から成るプラグが設けられてよい。
【0009】
上記いずれかの半導体装置において、前記半導体基板は、前記第1開口、前記第2開口または前記第3開口の直下に、前記ベース領域よりもドーピング濃度が高い第2導電型のコンタクト領域を含んでよい。上記いずれかの半導体装置において、前記コンタクト領域は、前記第4開口の直下にも設けられていてよい。
【0010】
上記いずれかの半導体装置において、前記第1開口は、前記第1方向において前記第2メサ領域で最も外側に位置する前記エミッタ領域よりも外側に設けられていてよい。
【0011】
上記いずれかの半導体装置において、前記第1メサ領域の前記ベース領域は、フローティング半導体領域であってよい。
【0012】
上記いずれかの半導体装置において、前記トレンチ部は、第2方向に短手部分を有してよい。上記いずれかの半導体装置において、前記第1メサ領域は、前記長手部分及び前記短手部分で囲まれていてよい。
【0013】
上記いずれかの半導体装置において、前記第1メサ領域と前記第2メサ領域のメサ幅が異なっていてよい。
【0014】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】第1実施形態における半導体装置100の上面図である。
図1B】第1実施形態における半導体装置100の変形例の上面図である。
図2図1Aおよび図1Bの領域Aの拡大図である。
図3図2のB‐B断面を示す図である。
図4図2のC‐C断面を示す図である。
図5図2のD‐D断面を示す図である。
図6図5のE‐Eにおけるn型ネットドーピング濃度分布を示す図である。
図7】ホール濃度の時間変化のシミュレーション結果である。
図8】低電流ターン・オフ時におけるVGE、VCEおよびIのシミュレーション結果である。
図9】高電流ターン・オフ時におけるVGE、VCEおよびIのシミュレーション結果である。
図10】各距離LにおけるIとVCEのサージ電圧との関係を示すシミュレーション結果である。
図11】各距離LにおけるIとEoffとの関係を示すシミュレーション結果である。
図12】第2実施形態におけるトレンチ部40の外側端部近傍を示す上面図である。
図13】第3実施形態におけるトレンチ部40の外側端部近傍を示す上面図である。
図14】第4実施形態におけるトレンチ部40の外側端部近傍を示す上面図である。
図15図1Aおよび図1Bの領域Bの変形例である。
図16】半導体装置100を搭載した溶接機の回路200の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0017】
本明細書においては半導体基板10の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面を上面、他方の面を下面と称する。「上」、「下」の方向は重力方向に限定されない。また、各実施形態においては、第1導電型をP型とし、第2導電型をN型とした例を示すが、他の実施形態においては第1導電型をN型、第2導電型をP型としてもよい。なお、P+型はP型よりもドーピング濃度が高く、P型はP-型よりもドーピング濃度が高いことを意味する。同様に、N+型はN型よりもドーピング濃度が高く、N型はN-型よりもドーピング濃度が高いことを意味する。
【0018】
また、本明細書において、X軸およびY軸は互いに直交する。X軸およびY軸は、半導体基板10の表(おもて)面に平行である。X軸およびY軸と直交する軸をZ軸とする。本明細書において、Z軸方向は半導体基板10の深さ方向と平行である。
【0019】
図1Aは、第1実施形態における半導体装置100の上面図である。図1Bは、第1実施形態における半導体装置100の変形例の上面図である。図1Aは、半導体基板10を上面視した場合の図でもある。半導体装置100は、半導体チップと読み替えてもよい。本例の半導体装置100は、半導体基板10を有する。本例の半導体装置100は、活性部80と、パッド部95とエッジ終端構造90とを有する。
【0020】
活性部80は、半導体基板10の厚み方向に電流が流れる領域を指してよい。本例の活性部80は、IGBT等のトランジスタを含むトランジスタ領域を有する。本例においてトランジスタ領域とは、半導体基板10の裏面に対して垂直な方向において、裏面側に位置するコレクタ領域を半導体基板10の表(おもて)面側に対して投影した領域であって、エミッタ領域(後述のエミッタ領域12)およびコンタクト領域(後述のコンタクト領域16)を含み、所定の単位構成が規則的に配置された領域である。
【0021】
活性部80は、FWD(Free Wheeling Diode)等のダイオードを含むダイオード領域を有してもよい。本例において、ダイオード領域とは、半導体基板10の裏面に対して垂直な方向において裏面側に位置するカソード領域を半導体基板10の表面側に対して投影した領域、または、カソード領域に一致する裏面の領域である。
【0022】
本例の半導体装置100は、IGBT半導体チップである。ただし、半導体装置100は、IGBTとFWDとが1つの半導体基板10に設けられたRC‐IGBT(Reverse Conducting‐IGBT)半導体チップであってもよい。
【0023】
本例のエッジ終端構造90は活性部80の周囲を囲む。エッジ終端構造90は、半導体基板10の表面近傍の電界集中を緩和する機能を有してよい。エッジ終端構造90は、例えばガードリング、フィールドプレート、リサーフおよびこれらを組み合わせた構造を有する。
【0024】
パッド部95は、活性部80とエッジ終端構造90との間に設けられてよい。本例のパッド部95は、活性部80の一部を切欠いた領域に設けられる。本例のパッド部95は、矩形形状を有し、三辺が活性部80に接し、残りの一辺がエッジ終端構造90に接する。パッド部95は、例えば、ゲート端子が電気的に接続するゲートパッドを有する。ゲート端子は、活性部80のIGBTにゲート電位を供給してよい。パッド部95は、温度センス用の電極パッドおよびセンスIGBT用の電極パッド等の一以上の電極パッドをさらに有してもよい。また、図1Bに示す様に、パッド部95は二辺が活性部80に接し残りの二辺がエッジ終端構造90に接するように活性部80のコーナー部に配置してもよい。
【0025】
図2は、図1Aおよび図1Bの領域Aの拡大図である。本例の半導体装置100は、エミッタ電極52およびゲート金属層55を有する。エミッタ電極52およびゲート金属層55は、金属を含む材料で形成されてよい。例えば、各電極の少なくとも一部の領域はアルミニウムまたはアルミニウム‐シリコン合金等で形成される。
【0026】
半導体基板10の表面とゲート金属層55およびエミッタ電極52との間に、層間絶縁膜を有する。ただし、理解を容易にすることを目的として、図2においては層間絶縁膜を省略する。なお、層間絶縁膜には、層間絶縁膜を貫通して複数の開口が設けられる。複数の開口は、第1開口31、第2開口32、第3開口33、第4開口35および開口54を含む。なお、本明細書において、層間絶縁膜における開口は、コンタクトホールと読み替えてもよい。
【0027】
本例の領域Aは、エッジ終端構造90に隣接する3つのトレンチ部40を含む領域である。本例においては、説明の便宜上、内側に近い方から順に、第1のトレンチ部40‐1、第2のトレンチ部40‐2および第3のトレンチ部40‐3と称する。各トレンチ部40は、後述するトレンチ絶縁膜、トレンチ導電部およびトレンチを有する。本例の各トレンチ部40はゲートトレンチ部であるので、トレンチ絶縁膜はゲート絶縁膜と、トレンチ導電部はゲート導電部とそれぞれ読み替えてもよい。トレンチ部40の幅は、例えば1μmである。
【0028】
本例のトレンチ部40は、長手部分46および短手部分47を有する。本例のトレンチ部40は、2つの長手部分46と2つの短手部分47とにより四辺が規定される、略矩形形状を有する。ただし、矩形形状の角部は、曲線により滑らかに長手部分46と短手部分47とを接続してよい。
【0029】
本例において、長手部分46は内側の長手部分46‐1と外側の長手部分46‐2とを有し、短手部分47は内側の短手部分47と外側の短手部分47とを有する。なお、本例においては、Y軸方向において、エッジ終端構造90により近い位置を外側と称し、活性部80の中心により近い位置を内側と称する。Y軸方向は、長手部分46と平行な方向でもある。なお、本例の半導体装置100は、Y軸方向において領域Aと反対の端部においても、領域Aと同じ構造を有してよい。
【0030】
本例の半導体基板10は、メサ領域60に、第2導電型のエミッタ領域12、第1導電型のベース領域14および第1導電型のコンタクト領域16を有する。本例においてメサ領域60とは、互いに隣接するトレンチ部40の長手部分46‐1とトレンチ部40の長手部分46‐2との間に設けられ、トレンチ部40の底部よりも上に位置する半導体基板10の領域である。なお、トレンチ部40の長手部分46‐1は第1トレンチ部の例であり、トレンチ部40の長手部分46‐2は第2トレンチ部の例である。
【0031】
短手部分47は、ゲートランナー51の下に位置してよい。短手部分47のトレンチ導電部は、ゲートランナー51に電気的に接続してよい。開口54は、トレンチ部40よりもY軸方向の外側に位置するゲートランナー51上に設けられる。ゲートランナー51は開口54を通じてゲート金属層55に電気的に接続してよく、トレンチ導電部にはゲートランナー51を通じてゲート電位が供給されてよい。
【0032】
本例において、エミッタ領域12はN+型の半導体領域であり、ベース領域14はP-型の半導体領域であり、コンタクト領域16はP+型の半導体領域である。ベース領域14に選択的にN型不純物をイオン注入することによりエミッタ領域12を形成してよく、ベース領域14に選択的にP型不純物をイオン注入することによりコンタクト領域16を形成してよい。
【0033】
本例において、メサ領域60のY軸方向の両端には、P+型のウェル領域17が設けられる。2つのウェル領域17の間のメサ領域60において、ベース領域14およびコンタクト領域16とエミッタ領域12とは、Y軸方向に交互に半導体基板10の表面に露出してよい。ただし、ウェル領域17に接する位置には、ベース領域14が設けられてよい。
【0034】
メサ領域60において、ベース領域14とコンタクト領域16とはX軸方向において交互に半導体基板10の表面に露出してよい。本例のメサ領域60においては、X軸方向における長手部分46‐1に接するベース領域14と長手部分46‐2に接するベース領域14との間に、コンタクト領域16が位置する。
【0035】
ただし、メサ領域60のうちウェル領域17に接する領域では、1つのコンタクト領域16がベース領域を2つの領域に分断しない。当該領域では、コンタクト領域16の一辺はエミッタ領域12に接し、エミッタ領域12よりも外側または内側に突出するコンタクト領域16の残りの三辺をベース領域14が囲む。
【0036】
本例の第4開口35は、メサ領域60上に設けられる。第4開口35の範囲を点線で示す。第4開口35は、メサ領域60のコンタクト領域16に対応する位置に設けられてよい。本例の第4開口35は、メサ領域60における最も外側のコンタクト領域16から最も内側のコンタクト領域16まで、Y軸方向と平行に連続的に設けられる。つまり、本例の第4開口35は、Y軸方向において2つのコンタクト領域16に挟まれたエミッタ領域12上にも設けられる。
【0037】
また、第4開口35は、コンタクト領域16のX軸方向の幅に対応する幅を有してよい。本例の第4開口35は、コンタクト領域16のX軸方向の幅と同じかまたはこれよりも狭い幅を有する。ただし、図面の見易さを考慮して、図2においては、第4開口35の外形をコンタクト領域16の外周に示す。
【0038】
フローティング半導体領域30は、半導体基板10の表面から所定深さまで設けられてよい。本例のフローティング半導体領域30は、半導体装置100を上面視した場合に、少なくとも一部が半導体基板10の表面に露出し、周囲をトレンチ部40に囲まれた領域である。フローティング半導体領域30は、X軸方向よりもY軸方向に長い略矩形形状を有してよい。なお、フローティング半導体領域30は、半導体装置100の断面視において、トレンチ部40の底部よりも上に位置する半導体基板10の領域であってよい。
【0039】
本例のフローティング半導体領域30は、-Y軸方向の端部に外側端部38を有し、Y軸方向の端部に内側端部を有する。なお、内側端部は図面の都合上図2では省略している。本例において、フローティング半導体領域30の外側端部38はトレンチ部40の短手部分47に接し、フローティング半導体領域30の内側端部は別の短手部分47に接する。フローティング半導体領域30における、外側端部38を含む端部領域および内側端部を含む端部領域は、各々P+型のウェル領域17であってよい。これに対して、フローティング半導体領域30において、端部領域以外の領域は、ベース領域14と同じP-型の半導体領域であってよい。また、フローティング半導体領域30の深さはベース領域14の深さより深くてもよい。
【0040】
フローティング半導体領域30は、エミッタ電極52から必ずしも電気的に絶縁されなくてよい。つまり、フローティング半導体領域30は、完全に電気的に浮遊(フローティング)であることを意味しなくてよい。本例のフローティング半導体領域30は、第1開口31、第2開口32および第3開口33を通じてエミッタ電極52と電気的に接続する。
【0041】
第1開口31、第2開口32および第3開口33は、Y軸方向に一直線状に並んでよい。本例において、1つの第1開口31と、1つの第2開口32と、複数の第3開口33とは、フローティング半導体領域30上に設けられる。第1開口31は、Y軸方向においてフローティング半導体領域30の外側端部38に最も近接してよい。本例において、第1開口31、第2開口32および第3開口33は、Y軸方向においてこの順に外側端部38に近い。第1開口31は、フローティング半導体領域30におけるウェル領域17上に位置してよく、ウェル領域17よりも内側の領域(即ち、P-型の領域)上に位置してもよい。本例の第1開口31は、ウェル領域17上に位置する。
【0042】
第2開口32は、Y軸方向においてフローティング半導体領域30外側端部38に2番目に近接してよい。第1開口31と第2開口32との距離は、複数の開口のうち第1開口31以外のいずれか二つの隣り合う開口間の距離よりも短くてよい。これにより、フローティング半導体領域30上にY軸方向において等間隔に開口を設ける場合に比べて、キャリア(例えば、ホール)の引き抜きを向上させることができる。したがって、トレンチ部40の短手部分47におけるキャリア密度を低減することができる。
【0043】
なお、本例において開口間の距離とは、2つの開口の各々の中心間の距離を意味する。ただし、他の例において、開口間の距離は、2つの開口の隣接する辺間の最短距離を意味してもよい。本例において、第1開口31と第2開口32との距離Lは、第1開口31の中心位置と第2開口32の中心位置との距離である。また、第2開口32と第3開口33との距離Lは、第2開口32の中心位置と第3開口33の中心位置との距離である。
【0044】
距離Lは、30μm以上60μm以下であってよい。本例の距離Lは、50μmである。また、距離Lは、50μm以上100μm以下であってよく、70μm以上80μm以下であってもよい。本例の距離Lは、65μmである。本例においては、隣接する2つの第3開口33間の距離も距離Lである。それゆえ、本例において、距離Lは、複数の開口のうち第1開口31以外の二つの隣り合う全ての開口間の距離よりも短い。ただし、距離Lは、距離Lよりも小さいものとする。距離Lは、距離Lの80%以下であってよく、50%以下であってもよい。
【0045】
第1開口31は、メサ領域60において最も外側に位置するN+型のエミッタ領域12に比べて、短手部分47に近い位置に設けられてよい。第1開口31におけるY軸方向の内側の端部は、Y軸方向において最も外側に位置するコンタクト領域16におけるY軸方向の外側の端部よりも外側に位置してよい。本例において、第1開口31におけるY軸方向の内側の端部と、Y軸方向において最も外側に位置するコンタクト領域16におけるY軸方向の外側の端部との距離Lは、6μmである。
【0046】
第1開口31の中心位置と、フローティング半導体領域30の外側端部38との距離をLtとする。距離Ltは、1μm以上10μm以下としてよく、2μm以上5μm以下としてもよい。第1開口31を外側端部38に近づけることにより、外側の短手部分47近傍に蓄積されたキャリアの引き抜きを向上させることができる。
【0047】
第1開口31、第2開口32および第3開口33は、各々矩形形状であってよい。本例において、第1開口31、第2開口32および第3開口33の各々は、正方形形状であり、正方形の各辺の長さは2μmである。ただし、開口の形状および開口の辺の長さは、本例の形状および長さのみに限定されるものではない。
【0048】
なお、キャリアの引き抜きを向上させるのであれば、フローティング半導体領域30上に設けられる複数の開口について、開口の数を増加させることと、開口間の間隔をより狭くすることとの、少なくともどちらか一方の手段が考えられる。しかし、この場合、本例に比べてキャリアがフローティング半導体領域30から過度に引き抜かれた状態となるので、飽和電圧:VCE(sat)が高くなる。また、本例に比べて、開口の数を減少させる場合と、開口間の間隔をより広げる場合の、少なくとも一方の場合には、本例に比べてキャリアがフローティング半導体領域30からそれほど引き抜かれず残存した状態となるので、ターン・オン時のVCEのサージ電圧が高くなる問題がある。
【0049】
そこで、フローティング半導体領域30上の開口を所定の等間隔で配置することによりキャリアの引き抜きを一定水準に抑えつつ、かつ、キャリアが溜まりやすいトレンチ部40のY軸方向の端部近傍においては、当該端部以外の領域に比べてキャリアをより引き抜き易くすることが望まれる。本例においては、これを実現するべく、フローティング半導体領域30上の開口の改善された配置を提供する。なお、フローティング半導体領域30上に位置する開口の数は、トレンチ部40の長手部分46のY軸方向の長さと、上述した開口間の間隔とから適宜算出されてよい。
【0050】
図3は、図2のB‐B断面を示す図である。B‐B断面は、エミッタ領域12および第3開口33を通る、XZ平面に平行な断面である。図3において、半導体基板10の表(おもて)面11および裏面19を明示する。
【0051】
半導体装置100は、コレクタ電極24、層間絶縁膜28およびエミッタ電極52を含む。コレクタ電極24は、金属等の導電材料で形成されてよい。エミッタ電極52の少なくとも一部は、層間絶縁膜28上に設けられる。本例のエミッタ電極52は、層間絶縁膜28上および層間絶縁膜28における各開口中に設けられる。ただし、他の例においては、層間絶縁膜28における各開口には、バリアメタルおよびタングステンの積層から成るプラグが設けられてもよい。当該他の例において、エミッタ電極52は、層間絶縁膜28およびプラグ上に設けられる。
【0052】
半導体基板10は、裏面19から表面11に向かう方向(+Z軸方向)において、コレクタ領域22、フィールドストップ(FS)層20、ドリフト領域18、ベース領域14を含む。コレクタ領域22は、第1導電型の半導体領域である。本例のコレクタ領域22は、P+型の半導体領域である。コレクタ領域22の下面は、半導体基板10の裏面19に露出してよい。本例においては、コレクタ領域22の下面が、半導体基板10の裏面19に対応する。コレクタ領域22のP型ドーピング濃度を低減することで、IGBT動作時のドリフト領域18のキャリア密度を低減できる。コレクタ領域22の上面にはFS層20が設けられる。
【0053】
FS層20は、第2導電型の半導体層である。FS層20は、コレクタ領域22上に位置してよい。FS層20は、Z軸方向において離散して設けられた1つまたは複数のN型ドーピング濃度のピークを有してよい。一例において、半導体基板10の裏面19からプロトンをイオン注入するときに、深さ方向における飛程を調節するべくイオン注入の加速エネルギーを調節してよい。これにより、1つまたは複数のN型ドーピング濃度のピークを形成してよい。本例のFS層20は、N+型の半導体領層である。
【0054】
ドリフト領域18は、第2導電型の半導体領域である。ドリフト領域18は、FS層20上に位置してよい。ドリフト領域18のN型ドーピング濃度は、FS層20のN型ドーピング濃度よりも低い。本例のドリフト領域18は、N-型の半導体領域である。
【0055】
ベース領域14は、第1導電型の半導体領域である。ベース領域14は、ドリフト領域18上に位置してよい。本例のベース領域14は、P-型の半導体領域である。
【0056】
トレンチ部40は、半導体基板10の表面11から予め定められた深さまで設けられる。本例のトレンチ部40は、ベース領域14を貫通してドリフト領域18に達する。トレンチ部40の底部は、ドリフト領域18に接触する。各トレンチ部40は、トレンチ44、トレンチ絶縁膜42およびトレンチ導電部43を有する。各トレンチ部40においては、トレンチ44の内壁に接してトレンチ絶縁膜42が形成され、トレンチ絶縁膜42の内壁に接してトレンチ導電部43が形成されてよい。
【0057】
第1のトレンチ部40‐1と第2のトレンチ部40‐2との間に位置するメサ領域60のベース領域14上には、エミッタ領域12が位置する。エミッタ領域12は、X軸方向において第1のトレンチ部40‐1および第2のトレンチ部40‐2に接する。エミッタ領域12は、層間絶縁膜28の第4開口35を通じてエミッタ電極52に電気的に接続する。第2のトレンチ部40‐2と第3のトレンチ部40‐3との間のエミッタ領域12も同様に、第2のトレンチ部40‐2および第3のトレンチ部40‐3に接し、第4開口35を通じてエミッタ電極52に電気的に接続する。
【0058】
X軸方向において、メサ領域60を挟んで隣接する2つのトレンチ部40間の距離は、フローティング半導体領域30を挟んで隣接する2つのトレンチ部40間の距離の約半分であってよい。本例において、第1のトレンチ部40‐1のX軸方向の中心位置と、第2のトレンチ部40‐2のX軸方向の中心位置との間隔Lは、1.5μm以上5.0μm以下(例えば3.0μm)である。これに対して、第2のトレンチ部40‐2のX軸方向の中心位置と、第3のトレンチ部40‐3のX軸方向の中心位置との間隔Lは、例えば3.0μmである。本例において、第2のトレンチ部40‐2の長手部分46におけるX軸方向の中心位置の間隔Lは、2μm以上10μm以下(例えば6.0μm)である。なお、トレンチ部40のX軸方向の幅は、1μmである。ただし、これらの値は一例であり、半導体装置100の設計に応じて適宜変更してよいのは勿論である。
【0059】
本例において、フローティング半導体領域30は、ベース領域14およびコンタクト領域37を有する。コンタクト領域37は、第1導電型の半導体領域である。本例のコンタクト領域37はP+型の半導体領域である。コンタクト領域37は、ベース領域14中に設けられ、その少なくとも一部が、表面11に露出してよい。
【0060】
フローティング半導体領域30におけるコンタクト領域37は、複数の開口が設けられる位置に対応して設けられてよい。図3においては、第3開口33の直下にコンタクト領域37が位置する。ただし、コンタクト領域37は、第1開口31、第2開口32および第3開口33の直下に各々設けられてよい。これにより、コンタクト領域37を設けない場合と比較して、フローティング半導体領域30からエミッタ電極52へのキャリアの引き抜きを向上させることができる。
【0061】
図4は、図2のC‐C断面を示す図である。C‐C断面は、メサ領域60のベース領域14およびコンタクト領域16を通るがエミッタ領域12および第3開口33を通らない、XZ平面に平行な断面である。図4に示す様に、本例のフローティング半導体領域30は、層間絶縁膜28において開口が設けられない位置には、コンタクト領域37を有しない。フローティング半導体領域30は、第1開口31または第2開口32が設けられない位置においても、コンタクト領域37を有しない。
【0062】
図5は、図2のD‐D断面を示す図である。D‐D断面は、第1開口31、フローティング半導体領域30、第2のトレンチ部40‐2の外側の短手部分47を通る、YZ平面に平行な断面である。本例において、トレンチ部40のY軸方向の幅DTYは1μmであり、第1開口31のY軸方向の幅Dは2μmである。ただし、トレンチ部40の幅DTYおよび第1開口31の幅Dは、本例の長さのみに限定されるものではない。
【0063】
ゲートランナー51と表面11との間には、酸化膜26が設けられる。酸化膜26は、例えばシリコンの熱酸化膜である。酸化膜26により、ゲートランナー51と表面11とは電気的に分離されてよい。ただし、酸化膜26は、トレンチ部40の上部に開口を有する。当該開口を通じて、ゲートランナー51とトレンチ導電部43とは電気的に接続してよい。
【0064】
本例のウェル領域17は、表面11からトレンチ部40よりも深い位置にまで設けられる。ウェル領域17の底部は、トレンチ部40の底部よりも下に位置する。本例のウェル領域17は、表面11からの深さDが8μmである。ウェル領域17に位置するトレンチ部40(即ち、短手部分47)の近傍においては、チャネルが形成されなくてよい。つまり、ウェル領域17により底部を覆われたトレンチ部40(即ち、短手部分47)の近傍においてはコレクタ電流(Ic)が流れないとみなしてよい。
【0065】
ウェル領域17は、トレンチ部40の外側から内側に延伸して第1開口31の直下の位置まで設けられてよい。本例において、フローティング半導体領域30のコンタクト領域37の内側の端部は、ウェル領域17の内側の端部よりもY軸方向において外側に設けられる。つまり、コンタクト領域37の直下には、ウェル領域17が存在する。
【0066】
仮に、ウェル領域17の直上にコンタクト領域37が存在しない場合、トレンチ部40の直下のキャリアはウェル領域17において溜まったままとなる可能性がある。つまり、トレンチ部40の直下のキャリアがウェル領域17に蓄積され続ける可能性がある。これに対して本例では、コンタクト領域37の直下にウェル領域17を設けるので、コンタクト領域37直下のキャリアに加えて、トレンチ部40の直下のキャリアもコンタクト領域37を通じてエミッタ電極52へ引き抜くことができる。このように、トレンチ部40の短手部分47近傍におけるキャリア密度を低減することができる。また、本例においては、トレンチ部40の短手部分47近傍におけるキャリア密度が低減されたことに伴い、エッジ終端構造90の下のドリフト領域18でキャリア密度が低減される。
【0067】
図6は、図5のE‐Eにおけるn型ドーピング濃度分布を示す図である。E‐Eは、Z軸方向と平行な方向において、コレクタ領域22、FS層20およびドリフト領域18を通る。縦軸はネットドーピング濃度であり、横軸は裏面19から表面11に向かう深さ位置である。なお、図6においては、裏面19を深さ位置ゼロと指して表示している。
【0068】
FS層20は、深さ方向において1つ以上のドーピング濃度のピークを有してよい。本例のFS層20は、1つのドーピング濃度のピークを有する。ただし、他の例において、FS層20は、2つ以上のドーピング濃度のピークを有してもよい。
【0069】
1つ以上のドーピング濃度のピークのうち表面11に最も近いピークは、裏面19から5μm以上離れていてよい。なお、表面11に最も近いピークは、6μm以上離れてよく、8μm以上離れてもよい。本例においては、1つのドーピング濃度のピークが、5μm以上離れている。FS層20が2つ以上のドーピング濃度のピークを有する他の例においては、表面11に最も近いピークが、5μm以上離れていてよい。
【0070】
本例においては、最も表面11に近いピークの位置が5μm未満の場合と比べて、FS層20のうち最も表面11に近いピークと裏面19との間に、キャリア(本例ではホール)は留まり易くなる。それゆえ、ターン・オフ時に半導体装置100に流れるテール電流(i)の傾きが緩やかになる。これにより、di/dtおよびVCEのサージ電圧が小さくなる。
【0071】
なお、ターン・オフ時におけるdi/dtおよびVCEのサージ電圧を小さくすることは、フローティング半導体領域30上における開口の配置とも関連する。上述の様に、距離Lを100μm以下とすることにより、フローティング半導体領域30におけるターン・オン時のキャリア密度は低減されている。これにより、本例のようにキャリア密度が低減されていない場合と比較して、ターン・オフ時に空乏層は拡がりやすくなるので、空乏層がFS層20に到達するまでの時間が短くなる。
【0072】
また、空乏層はN+型であるFS層20まで到達すると、それ以上は拡がるのが困難となる。それゆえ、空乏層は、裏面19と最も表面11に近いピークとの間の領域には届かない。裏面19と最も表面11に近いピークとの間に留まるキャリアは、空乏層により引き抜かれることはなく、ホールと電子の再結合によってのみ引き抜かれるので、引き抜きに時間を要する。これにより、di/dtおよびVCEのサージ電圧が小さくなる。
【0073】
図7は、ホール濃度の時間変化のシミュレーション結果である。特に、図7はエミッタ領域12を通るZ軸方向に平行な直線において、エミッタ領域12とコレクタ領域22との間におけるホール濃度を示す。縦軸は1.0×1014(/cm)を基準として規格化されたホール濃度であり、横軸は深さ[μm]である。なお、-80[μm]は裏面19に対応し、0[μm]は表面11に対応する。本例においては、-74[μm]の位置(即ち、裏面19から6.0[μm])に、表面11に最も近いドーピング濃度のピークを設けた。複数の線は、ターン・オフ時(実線)から時間が経過した状態を示す。図7に示すように、ドリフト領域18においては、ホール濃度が半分程度に減少する。これに対して、FS層20においては、ドリフト領域18に比べて、ホール濃度の減少の度合いが著しく小さい。
【0074】
図8は、低電流ターン・オフ時におけるVGE、VCEおよびIのシミュレーション結果である。横軸は、時間を示す。横軸のメモリ幅は、200nsである。縦軸は、ゲート・エミッタ間電圧VGE、コレクタ・エミッタ間電圧VCE、コレクタ電流Iである。低電流ターン・オフとは、コレクタ電流Iが比較的小さい場合のターン・オフを意味する。本例において、コレクタ電流Iは10[A]である。
【0075】
本例においては、上述のフローティング半導体領域30上における開口の配置によるキャリア密度の低減とコレクタ領域22のP型ドーピング濃度を低減することで、di/dtを高めることができた。Iは、後述する高電流ターン・オフに比べて速やかにゼロに落ち着いた。ただし、di/dtを高めた結果、VCEのサージ電圧が上昇する。しかしながら、VCEおよびIの積であらわされるターン・オフ損失Eoffを低減できるので、低電流ターン・オン/低電流ターン・オフを繰り返す半導体装置100においては、Eoffを低減できる点が特に有利である。
【0076】
図9は、高電流ターン・オフ時におけるVGE、VCEおよびIのシミュレーション結果である。横軸は時間を示すが、横軸のメモリ幅は100nsである。縦軸は、図8と同じスケールである。高電流ターン・オフとは、コレクタ電流Iが比較的大きい場合のターン・オフを意味する。本例において、コレクタ電流Iは30[A]程度である。
【0077】
高電流のコレクタ電流Iは低電流よりも大きな値であるので、di/dtおよびVCEのサージ電圧が大きくなることが懸念される。ただし、本例においては、丸破線を付した領域におけるdi/dt、および、VCEのサージ電圧を抑制することができた。高電流ターン・オフにおいては、サージ電圧を低減できる点が特に有利である。
【0078】
図10は、各距離LにおけるIとVCEのサージ電圧との関係を示すシミュレーション結果である。横軸はコレクタ電流I[A]であり、縦軸はVCEのサージ電圧[V]である。コレクタ電流Iが増加するに伴いサージ電圧は増加する傾向にある。ただし、コレクタ電流Iが同じであれば、距離Lが小さいほどサージ電圧を低減することができた。なお、コレクタ電流Iが大きいほど、サージ電圧低減の効果は大きい。
【0079】
図11は、各距離LにおけるIとEoffとの関係を示すシミュレーション結果である。Iが15A以下においては、15Aより大きいIに比べて、よりEoffを低減することができる。つまり、低電流ターン・オフにおいては、Eoffを低減することができる。なお、上述のように本例の距離Lは50μm以上100μm以下である。
【0080】
図12は、第2実施形態におけるトレンチ部40の端部近傍を示す上面図である。なお、上面図とは、半導体基板10を上面視した(半導体基板10の表面11を見た)場合の図と読み替えてもよい。図12においては第1のトレンチ部40‐1の拡大図を示すが、他のトレンチ部40も同じ構成としてもよい。
【0081】
本例において、第1開口31の開口面積は、フローティング半導体領域30上における第1開口31以外の各開口の開口面積よりも大きい。フローティング半導体領域30上の開口のうち第1開口31の開口面積を最大とすることにより、トレンチ部40の短手部分47近傍のキャリア密度を、第1実施形態に比べてさらに低減することができる。なお、開口面積とは、半導体基板10の表面11における層間絶縁膜28の開口の面積であってよく、層間絶縁膜28の上面における開口の面積であってもよい。本例の開口面積は、表面11における層間絶縁膜28の開口の面積である。
【0082】
第1開口31のY軸方向における外側端部71および内側端部72は、第1のトレンチ部40‐1の長手部分46と直交するX軸方向に平行に延伸してよい。また、第1開口31の外側端部71および内側端部72は、第1のトレンチ部40‐1の短手部分47に対応して短手部分47と平行であってよい。本例の第1開口31は、X軸方向に平行な長辺とY軸方向に平行な短辺とを有する矩形形状である。これにより、ゲートランナー51の下に第1開口31が配置されることを避けつつ、第1実施形態に比べて第1開口31の開口面積を拡大することができる。
【0083】
複数の開口のうち第1開口31以外の開口は第1のトレンチ部40‐1の長手部分46‐1と平行なY軸方向に長辺を有してよい。本例の第2開口32および第3開口33は、Y軸方向に平行な長辺とX軸方向に平行な短辺とを有する矩形形状である。これにより、第2開口32および第3開口33の開口面積も、第1実施形態に比べて拡大することができる。なお、他の例においては、第1開口31のみを本実施形態の形状とし、第2開口32および第3開口33は第1実施形態と同じ形状としてもよい。
【0084】
図13は、第3実施形態におけるトレンチ部40の端部近傍を示す上面図である。本例においても、第1開口31の開口面積は、フローティング半導体領域30上における第1開口31以外の各開口の開口面積よりも大きい。図13においては第1のトレンチ部40‐1の拡大図を示すが、他のトレンチ部40も同じ構成としてもよい。本例のトレンチ部40の短手部分47は、曲線形状(より具体的には、半円弧形状)を有する。また、本例の第1開口31のY軸方向における外側端部71は、第1のトレンチ部40‐1の短手部分47に対応して短手部分47と平行である。つまり、第1開口31の外側端部71は、短手部分47の円弧形状と相似な半円である。なお、本例の第1開口31は、半円の外側端部71および直線の内側端部72からなる半円板形状を有する。本例においても、ゲートランナー51の下に第1開口31が配置されることを避けつつ、第1実施形態に比べて第1開口31の開口面積を拡大することができる。なお、本例の第2開口32および第3開口33は第2実施形態と同じ形状を有するが、他の例においては、第1開口31のみを本実施形態の形状とし、第2開口32および第3開口33は第1実施形態と同じ形状としてもよい。
【0085】
図14は、第4実施形態におけるトレンチ部40の端部近傍を示す上面図である。本例においても、第1開口31の開口面積は、フローティング半導体領域30上における第1開口31以外の各開口の開口面積よりも大きい。図14においては第1のトレンチ部40‐1の拡大図を示すが、他のトレンチ部40も同じ構成としてもよい。本例においては、第1開口31の外側端部71および内側端部72が、第1のトレンチ部40‐1の短手部分47に対応して短手部分47と平行である。つまり、本例の第1開口31は、半円状の帯形状である。また、本例の第1開口31のY軸方向における外側端部71は、第1のトレンチ部40‐1の短手部分47に対応して短手部分47と平行である。このようにして、第1実施形態に比べて第1開口31の開口面積を拡大してもよい。なお、本例の第2開口32および第3開口33は第2実施形態と同じ形状を有するが、他の例においては、第1開口31のみを本実施形態の形状とし、第2開口32および第3開口33は第1実施形態と同じ形状としてもよい。
【0086】
図15は、図1Aおよび図1Bの領域Bの変形例である。領域Bは、活性部80の角部の領域である。本例においては、第4のトレンチ部40‐4、第5のトレンチ部40‐5および第6のトレンチ部40‐6の順にX軸方向の内側に配置されている。第4のトレンチ部40‐4は、上述の第1のトレンチ部40‐1から第3のトレンチ部40‐3と同じ形状を有する。活性部80の角部においては、トレンチ部40の長手部分46の長さが異なっていてよい。本例においては、第6のトレンチ部40‐6の長手部分46が最も短く、第5のトレンチ部40‐5の長手部分46がその次に短く、第4のトレンチ部40‐4の長手部分46が最も長い。第4のトレンチ部40‐4は、第1のトレンチ部40‐1と同じ長さの長手部分46を有してよい。
【0087】
活性部80の角部において、第1開口31の位置は、トレンチ部40の位置に応じて異なっていてよい。活性部80の角部において、第1開口31は、X軸方向において外側に位置するほどY軸方向において内側に位置してよい。本例においては、第6のトレンチ部40‐6により囲まれるフローティング半導体領域30‐6上の第1開口31がY軸方向において最も内側に位置する。また、第4のトレンチ部40‐4により囲まれるフローティング半導体領域30‐4上の第1開口31がY軸方向において最も外側に位置する。第5のトレンチ部40‐5により囲まれるフローティング半導体領域30‐5上の第1開口31は、Y軸方向において、フローティング半導体領域30‐4上の第1開口31とフローティング半導体領域30‐6上の第1開口31との間に位置してよい。
【0088】
本例の構成により、トレンチ部の形状に応じて、第1開口31を可能な限りY軸方向の外側に配置することができる。これにより、トレンチ部40の短手部分47近傍におけるキャリア密度を低減することができる。なお、本例と上述の第1から第4実施形態とを組み合わせてもよい。
【0089】
本例の各フローティング半導体領域30上において、第2開口32のY軸方向の位置は同じである。ただし、本例においては、活性部80の角部では第1開口31のY軸方向の位置は異なるので、第1開口31と第2開口32との距離は各第1開口31のY軸方向の位置に応じて異なる。本例では、フローティング半導体領域30‐4上の第1開口31がY軸方向において最も外側に位置するので、フローティング半導体領域30‐4上において規定される距離Lが、フローティング半導体領域30‐5および30‐6上において規定される距離Lよりも長い。同様の理由により、フローティング半導体領域30‐5上において規定される距離Lが、フローティング半導体領域30‐6上において規定される距離Lよりも長い。また、フローティング半導体領域30‐6上において規定される距離Lが最も短い。
【0090】
図16は、半導体装置100を搭載した溶接機の回路200の一部を示す図である。本例の溶接機は、整流器120、インバーター130、変圧器135、整流器140およびローパスフィルター(LPF)150を含む。溶接機の外部に位置する交流電源110は、整流器120に交流電流を入力してよい。整流器120は、入力された交流電流を半波整流して、整流後の電流をインバーター130に入力してよい。
【0091】
インバーター130は、複数の半導体装置100と電界キャパシタ132を有する。本例のインバーター130は、いわゆるフルブリッジ(Full‐Bridge)のインバーターである。インバーター130は、上述の実施形態における半導体装置100(IGBT半導体チップおよびまたはRC‐IGBT半導体チップ)を用いて構成されてよい。なお、電界キャパシタ132は、充電時間に応じて整流器120からの入力波形を適切に変形してよい。
【0092】
インバーター130は、20kHz以上100kHz以下(例えば40kHz)の周波数で各半導体装置100のゲートをオン/オフすることにより、整流器120からの入力電流を交流電流に変換してよい。そして、インバーター130により交流に変換された電圧は、変圧器135を介して昇圧されてよい。昇圧後の電流は、整流器140およびLPF150を経て直流電流として後段の回路に用いられてよい。
【0093】
本例のインバーター130においては、ゲートのオン/オフの比率が20kHz以上100kHz以下と非常に高い。このように高周波で動作する場合には、インバーター130において、ターン・オフ損失Eoffを低減できることのメリットが大きい。本例のインバーター130においては、上述の半導体装置100を、低電流ターン・オン/低電流ターン・オフさせる。これにより、インバーター130において、半導体装置100のEoff低減のメリットを享受することができる。なお、上述の実施形態における半導体装置100を、高周波動作する無停電電源装置UPS(Uninterruptible Power Supply)に用いられるインバーターに用いてもよい。
【0094】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0095】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順序で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0096】
10・・半導体基板、11・・表面、12・・エミッタ領域、14・・ベース領域、16・・コンタクト領域、17・・ウェル領域、18・・ドリフト領域、19・・裏面、20・・FS層、22・・コレクタ領域、24・・コレクタ電極、26・・酸化膜、28・・層間絶縁膜、30・・フローティング半導体領域、31・・第1開口、32・・第2開口、33・・第3開口、35・・第4開口、37・・コンタクト領域、38・・外側端部、40・・トレンチ部、42・・トレンチ絶縁膜、43・・トレンチ導電部、44・・トレンチ、46・・長手部分、47・・短手部分、51・・ゲートランナー、52・・エミッタ電極、54・・開口、55・・ゲート金属層、60・・メサ領域、71・・外側端部、72・・内側端部、80・・活性部、90・・エッジ終端構造、95・・パッド部、100・・半導体装置、110・・交流電源、120・・整流器、130・・インバーター、132・・電界キャパシタ、135・・変圧器、140・・整流器、150・・LPF、200・・回路
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