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  • 特開-アンギュラ玉軸受 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001664
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】アンギュラ玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/16 20060101AFI20231227BHJP
   F16C 33/32 20060101ALI20231227BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
F16C19/16
F16C33/32
F16C33/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100468
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】谷村 浩樹
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA09
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA69
3J701FA31
3J701FA41
3J701FA53
3J701FA60
3J701GA41
3J701GA51
3J701XB03
3J701XB13
3J701XB14
3J701XB18
3J701XB26
3J701XB39
(57)【要約】
【課題】コンパクト化を図ると共に、高いモーメント剛性と長寿命を実現することができるアンギュラ玉軸受を提供する。
【解決手段】アンギュラ玉軸受1は、内外輪2,3と、軌道面2a,3aと、内輪2の外径に形成する内輪肩部2dと、外輪3の内径に形成する外輪肩部3dと、複数の玉4とを備える。内輪2の肩部2dの軸方向端面である背面2cから外輪3の肩部3dの軸方向端面である背面3cまでの軸方向寸法である組立幅Wと、玉4の直径Dとの比W/Dが1.3以上1.9以下である。軌道面2aの溝底から肩部2dの外径面までの溝深さH1と玉4の直径Dとの比H1/Dが0.3以上0.5以下で且つ、軌道面3aの溝底から肩部3dの外径面までの溝深さH2と玉4の直径Dとの比H2/Dが0.3以上0.5以下である。各溝底肉厚Aと、玉4のピッチ円直径Bとの比A/Bの百分率が1.3%以上2.9%以下で、且つ、玉4の充填率が82%以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内方部材および外方部材と、前記内方部材の外周面および前記外方部材の内周面に形成される軌道面と、前記内方部材の外径および前記外方部材の内径に形成される肩部と、これら内方部材と外方部材間に接触角を持って介在する複数の玉とを備えたアンギュラ玉軸受であって、
前記内方部材の肩部の軸方向端面から前記外方部材の肩部の軸方向端面までの軸方向寸法である組立幅Wと、前記玉の直径Dとの比W/Dが1.3以上1.9以下であり、
前記内方部材の軌道面の溝底から前記内方部材の肩部の外径面までの溝深さH1と前記玉の直径Dとの比H1/Dが0.3以上0.5以下で且つ、前記外方部材の軌道面の溝底から前記外方部材の肩部の内径面までの溝深さH2と前記玉の直径Dとの比H2/Dが0.3以上0.5以下であり、
前記内方部材および外方部材の各溝底肉厚Aと、前記玉のピッチ円直径Bとの比A/Bの百分率が1.3%以上2.9%以下で、且つ、前記玉の充填率が82%以上であるアンギュラ玉軸受。
【請求項2】
請求項1に記載のアンギュラ玉軸受において、前記内方部材および外方部材の各軌道面の溝曲率Rと前記玉の直径Dとの比R/Dが1.01以上1.07以下であるアンギュラ玉軸受。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のアンギュラ玉軸受において、前記内方部材の内径dと、前記玉のピッチ円直径Bとの比d/Bが0.84以上0.93以下であるアンギュラ玉軸受。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受において、前記外方部材の外径D1と、前記玉のピッチ円直径Bとの比D1/Bが1.07以上1.16以下であるアンギュラ玉軸受。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受において、前記接触角が30°以上45°以下であるアンギュラ玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンパクトでありながらモーメント剛性を求められる産業機械に使用可能なアンギュラ玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に産業機械には、コンパクト化、軽量化のニーズがあり、使用される軸受もコンパクトである必要がある。一方で、コンパクトでありながら軸受の剛性も必要とされる。各種装置等において使用される軸受として、アンギュラ玉軸受がある。アンギュラ玉軸受は目的に応じ、正面組合わせ、背面組合わせ、並列組合わせ等、2列以上の多列組合わせで使用される。特許文献1では、大きな荷重を負荷でき、長寿命の要求に対応するためアンギュラ玉軸受が背面組合わせで使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6654123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
各種装置の用途によっては、JIS規格で定められている標準的な軸受寸法より軌道輪の幅、断面寸法を薄くした比較的コンパクトな特殊寸法のアンギュラ玉軸受でありながら、高いモーメント剛性と定格荷重の増加による長寿命化を求められる。
【0005】
本発明の目的は、コンパクト化を図ると共に、高いモーメント剛性と長寿命を実現することができるアンギュラ玉軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアンギュラ玉軸受は、内方部材および外方部材と、前記内方部材の外周面および前記外方部材の内周面に形成する軌道面と、前記内方部材の外径および前記外方部材の内径に形成する肩部と、これら内方部材と外方部材間に接触角を持って介在する複数の玉とを備えたアンギュラ玉軸受であって、
前記内方部材の肩部の軸方向端面から前記外方部材の肩部の軸方向端面までの軸方向寸法である組立幅Wと、前記玉の直径Dとの比W/Dが1.3以上1.9以下であり、
前記内方部材の軌道面の溝底から前記内方部材の肩部の外径面までの溝深さH1と前記玉の直径Dとの比H1/Dが0.3以上0.5以下で且つ、前記外方部材の軌道面の溝底から前記外方部材の肩部の内径面までの溝深さH2と前記玉の直径Dとの比H2/Dが0.3以上0.5以下であり、
前記内方部材および外方部材の各溝底肉厚Aと、前記玉のピッチ円直径Bとの比A/Bの百分率が1.3%以上2.9%以下で、且つ、前記玉の充填率が82%以上である。
内方部材において、軸方向両側の外周面の高さが異なるとき、径方向外方に位置する側を肩部とし、その外周面から溝底までの深さをとる。
外方部材において、軸方向両側の内周面の高さが異なるとき、径方向内方に位置する側を肩部とし、その内周面から溝底までの深さをとる。
前記各溝底肉厚Aとは、内方部材および外方部材における、各軌道面の溝底位置の径方向厚みをいう。前記玉の充填率Cは次の計算式により表される。充填率C=(玉直径×個数)/(π×ピッチ円直径)
【0007】
組立幅Wと玉の直径Dとの比W/Dの上限を1.9としたため、標準のアンギュラ玉軸受よりも軽量化および軸方向のコンパクト化を図り、このアンギュラ玉軸受を使用する装置等のコンパクト化を図ることができる。W/Dの下限を1.3としたため、アンギュラ玉軸受としてのモーメント剛性を確保することができる。
【0008】
H1/DおよびH2/Dをそれぞれ0.3以上0.5以下とした。この場合、標準のアンギュラ玉軸受より溝深さが深いため、大きなモーメント荷重を負荷したときに肩乗り上げの発生を防止し得る。これにより、内方部材および外方部材の各軌道面の剥離等を防止し、アンギュラ玉軸受の長寿命化を図れる。このようにコンパクト化を図ると共に、高いモーメント剛性と長寿命を実現することができる。
【0009】
玉直径に対する各溝深さH1/DおよびH2/Dが0.3未満では、大きなモーメント荷重を負荷したときに肩乗り上げするおそれがある。H1/DおよびH2/Dが0.5を超えると、内方部材および外方部材の径方向肉厚が薄くなり過ぎ、所定荷重以上の大きなモーメント荷重を負荷できず、このアンギュラ玉軸受の使用用途の汎用性に劣る。
【0010】
各溝底肉厚Aとピッチ円直径Bとの比A/Bを百分率で1.3%以上2.9%以下とすることで、軸受剛性を確保しつつ玉直径を大きく設定し得る。A/Bが1.3%未満では軸受剛性を確保することが困難となる場合がある。A/Bが2.9%を超えると径方向のコンパクト化を図ることが困難となる。玉の充填率を82%以上とすることで玉数を多く確保し、定格荷重を増加する事でアンギュラ玉軸受の長寿命化を図れる。
【0011】
前記内方部材および外方部材の各軌道面の溝曲率Rと前記玉の直径Dとの比R/Dが1.01以上1.07以下であってもよい。R/Dを1.01以上1.07以下とすることで、軸受剛性をより確実に確保し得る。R/Dが1.01未満では転がり抵抗が不所望に大きくなる。R/Dが1.07を超えると、大きなモーメント荷重を負荷したときに肩乗り上げするおそれがあり使用条件が制限される。
【0012】
前記内方部材の内径dと、前記玉のピッチ円直径Bとの比d/Bが0.84以上0.93以下であってもよい。この場合、内方部材の径方向の肉厚を薄肉化し、アンギュラ玉軸受を使用する装置等のコンパクト化、省スペース化を図れる。d/Bが0.84未満では、内方部材を薄肉化する効果が低い。d/Bが0.93を超えると、内方部材の剛性を確保することが困難となる場合がある。
【0013】
前記外方部材の外径D1と、前記玉のピッチ円直径Bとの比D1/Bが1.07以上1.16以下であってもよい。この場合、外方部材の径方向の肉厚を薄肉化し、アンギュラ玉軸受を使用する装置等のコンパクト化、省スペース化を図れる。D1/Bが1.07未満では、外方部材の剛性を確保することが困難となる場合がある。D1/Bが1.16を超えると、外方部材を薄肉化する効果が低い。
【0014】
接触角が30°以上45°以下であってもよい。アンギュラ玉軸受の動定格荷重の範囲内でモーメント荷重を負荷したときに、アンギュラ玉軸受の接触角αがモーメント剛性と肩乗り上げに与える影響について比較を行った。比較によると、接触角αが30°以上45°以下の範囲とすることで、高いモーメント剛性が得られ肩乗り上げしないことから、アンギュラ玉軸受を長寿命化できる。接触角αが30°未満では、所望のモーメント剛性が得られない場合がある。接触角αが45°を超えると、肩乗り上げするおそれがある。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアンギュラ玉軸受は、組立幅Wと玉の直径Dとの比W/Dが1.3以上1.9以下であり、玉直径に対する各溝深さの比がそれぞれ0.3以上0.5以下であり、内方部材および外方部材の各溝底肉厚Aと、前記玉のピッチ円直径Bとの比A/Bの百分率が1.3%以上2.9%以下で、且つ、前記玉の充填率が82%以上であるため、コンパクト化を図ると共に、高いモーメント剛性と長寿命を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施形態に係るアンギュラ玉軸受の縦断面図である。
図2】同アンギュラ玉軸受を背面組合わせした例を示す縦断面図である。
図3】アンギュラ玉軸受にモーメント荷重が負荷される例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の実施形態]
本発明の実施形態に係るアンギュラ玉軸受を図1および図2と共に説明する。この明細書において、アンギュラ玉軸受を単に「軸受」という場合がある。
図1に示すように、アンギュラ玉軸受1は、内方部材である内輪2と、外方部材である外輪3と、内輪2の外周面および外輪3の内周面に形成する軌道面2a,3aと、内輪2の外径に形成する内輪肩部2dと、外輪3の内径に形成する外輪肩部3dと、内外輪2,3の軌道面2a,3a間に介在する複数の玉4と、これら玉4を保持する保持器5とを備える。内外輪2,3は、例えば、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼またはマルテンサイト系のステンレス鋼等からなる。玉4は、例えば、鋼球またはセラミックス等からなる。
【0018】
保持器5は、円周方向複数箇所に設けられたポケットPtに複数の玉4を保持する。この例の保持器5は、例えば、冷間圧延鋼等から成る鉄板製であり、略円錐環状の主要部5aに、玉4を保持するポケットPtが円周等配に形成されている。内外輪2,3、玉4および保持器5は、前述の材料に限定されるものではない。
【0019】
外輪3の正面3bに、カウンタボアを介して軌道面3aが繋がる。外輪3の背面側の内周面である外輪肩部3dは、外輪3のカウンタボアよりも径方向内側に位置する。内輪2の正面2bに、カウンタボアを介して軌道面2aが繋がる。内輪2の軌道面2aと、内輪2の背面2cとの間に、内輪2の背面側の外周面である内輪肩部2dが形成されている。内輪肩部2dは、内輪2のカウンタボアよりも径方向外側に位置する。内外輪2,3の正面2b,3bとは、アキシアル荷重を支持しない側の側面を表し、内外輪2,3の背面2c,3cとは、アキシアル荷重を支持する側の側面を表す。
【0020】
<溝深さ、組立幅等について>
内輪2の軌道面2aの溝底から肩部2dの外径面までの溝深さH1と、玉4の直径Dとの比H1/Dは、0.3以上0.5以下で且つ、外輪3の軌道面3aの溝底から肩部3dの外径面までの溝深さH2と、玉4の直径Dとの比H2/Dが0.3以上0.5以下に設定されている。内輪2の肩部2dの軸方向端面である背面2cから外輪3の肩部3dの軸方向端面である背面3cまでの軸方向寸法である組立幅Wと、玉の直径Dとの比W/Dが1.3以上1.9以下である。
【0021】
<溝底肉厚、充填率>
内外輪2,3の各溝底肉厚Aと、玉4のピッチ円直径Bとの比A/Bの百分率は1.3%以上2.9%以下で、且つ、玉4の充填率は82%以上91%以下である。玉4の充填率Cは次の計算式により表される。充填率C=(玉直径×個数)/(π×ピッチ円直径)
【0022】
<内外径PCD比>
使用されるアンギュラ玉軸受の軸受サイズのうち内輪内径は、例えば、内径φ80mm~φ500mmであるが、この内径寸法に限定されるものではない。内輪2の内径dと、玉4のピッチ円直径Bとの比d/Bは0.84以上0.93以下で、外輪3の外径D1と、玉4のピッチ円直径Bとの比D1/Bは1.07以上1.16以下に設定されている。
【0023】
<背面組合わせ等>
産業機械用ではモーメント荷重がかかることが多い。モーメント荷重をアンギュラ玉軸受で負荷する使用条件下においては、図2に示すように、アンギュラ玉軸受1を背面組合わせに配置することで軸受の作用点間距離を大きくできるため、アンギュラ玉軸受1を小型化つまりコンパクト化しても許容ラジアル荷重および許容モーメント荷重を大きくできる。さらに、アンギュラ玉軸受1を背面組合わせとすることで、両方向のアキシアル荷重を受けることができ、加えて、予圧が付加されることで、軸受部分の剛性を高めることができる。同図2の例では、軸方向に隣り合うアンギュラ玉軸受1,1間に、内輪間座6、外輪間座7が介在されているが、これら間座6,7を省略してアンギュラ玉軸受1,1を背面組合わせすることも可能である。
【0024】
<接触角等>
大きなモーメント荷重に耐えるため、アンギュラ玉軸受1の接触角αを30°以上45°以下とし、且つ、前述のように図1に示す内外輪2,3の溝深さH1,H2が玉直径比の30~50%に設定される。この場合、標準のアンギュラ玉軸受より溝深さが深いため、大きなモーメント荷重を負荷した際に肩乗り上げの発生を防止でき、軌道面2a,3aの剥離等を防止できる。すなわち軸受の長寿命化を図れる。モーメント荷重とは、回転軸を傾ける(曲げる)、回転軸に角度を与える荷重を意味する。
図1のように、内外輪2,3の各軌道面2a,3aの溝曲率Rは、接触角αおよび使用条件より玉直径比101~107%に設定される。換言すれば、各軌道面2a,3aの溝曲率Rと玉4の直径Dとの比R/Dが1.01以上1.07以下である。
【0025】
<接触角とモーメント剛性、肩乗り上げとの関係>
表1に、アンギュラ玉軸受の動定格荷重の範囲内でモーメント荷重を負荷した際に、接触角がモーメント剛性と肩乗り上げに与える影響について比較を行った。アンギュラ玉軸受が外部荷重を受けモーメント荷重が負荷されると、出力軸は負荷モーメントに比例して傾く。モーメント剛性とは、アンギュラ玉軸受の剛性を表し、単位角度を傾けるのに必要な負荷モーメント値で表す。図3は、出力軸取付面Saから軸方向一方C1側に所定距離l離れた位置において、出力軸心C2に沿う位置にラジアル方向の荷重Wを与えると共に、出力軸心C2から径方向下方に所定距離l離れた位置にアキシアル方向の荷重Wを与えることで、組合わせアンギュラ玉軸受1,1にモーメント荷重が負荷される状態を表した一例である。軸受サイズとしては、コンパクト化が要求される装置等に使用されるアンギュラ玉軸受であり、内輪内径がφ80mm以上φ500mm以下、内輪内径がPCD比で84%以上93%、外輪外径がPCD比で107%以上116%以下である。また、H1/DおよびH2/Dが共に0.3以上0.5以下、W/Dが1.3以上1.9以下、接触角αを15°~55°の範囲で9種類(比較例1~3、8、9および各実施例4~7)のアンギュラ玉軸受について評価した。
【0026】
各実施例4~7は、A/Bの百分率が1.3%以上2.9%以下で、且つ、玉の充填率Cが82%以上の要件も満たす。各比較例および各実施例では、図2のように、アンギュラ玉軸受1を背面組合わせに配置すると共に、軸方向に隣り合うアンギュラ玉軸受1,1間に、定められた幅寸法の内輪間座6、外輪間座7を介在させた。
【0027】
【表1】
【0028】
表1は接触角αを15°~55°の範囲における、モーメント剛性と肩乗り上げの項目について評価した。表1において、◎は実施可能且つ効果が高いことを表し、〇は◎よりも性能は劣るが実施可能であることを表す。△は〇よりも性能は劣るが実施可能であることを表し、×は効果が低いことを表す。
【0029】
定められた産業機械に使用される軸受サイズで前述の内外輪間座を備えた背面組合わせのアンギュラ玉軸受に、外部荷重を与えた時に求められるモーメント剛性を十分満たし、好適に実施可能である場合、◎と判定される。◎よりもやや劣るが、求められるモーメント剛性を満たし、実施可能である場合、〇と判定される。〇よりも劣るが、実施可能である場合、△と判定される。求められるモーメント剛性を満たしていない場合、×と判定される。表1より、接触角αが30°未満では、モーメント剛性の低下が確認される。以上説明したモーメント剛性の判定基準は、後述する表2についても同様である。
【0030】
前記アンギュラ玉軸受に外部荷重を与えた場合に、玉と軌道面との接触面圧を踏まえた玉の肩乗り上げに対する効果が高く、好適に実施可能である場合◎と判定される。◎よりも肩乗り上げの効果として性能はやや劣るが実施可能である〇と判定される。○よりも肩乗り上げの効果として性能は劣るが実施可能である△と判定される。肩乗り上げの効果が低い場合、×であると判定される。表1より、接触角αが45°を超えると、肩乗り上げ特性の低下が確認される。以上説明した肩乗り上げの判定基準は、表2についても同様である。
表1の結果から、接触角αは30°以上45°以下の範囲とすることで、高いモーメント剛性が得られ、肩乗り上げしないことから、長寿命化できることが分かる。
【0031】
<総合評価>
表2に、モーメント剛性、肩乗り上げ、コンパクト化、軽量化の観点からアンギュラ玉軸受を評価した結果、およびその結果を含め、軸受寿命を評価し、軸受としての機能を満足するか総合的に評価をした。前述と同様の軸受サイズのアンギュラ玉軸受を7種類(比較例1,2、実施例1~5)について評価した。さらにアンギュラ玉軸受1を背面組合わせに配置すると共に、軸方向に隣り合うアンギュラ玉軸受1,1間に、定められた幅寸法の内輪間座6、外輪間座7を介在させた。組合わせアンギュラ玉軸受にモーメント荷重が負荷される条件は、前述の図3と共に示した条件と同様である。
【表2】
【0032】
表2において、◎は実施可能且つ効果が高く、最も好適であることを表し、〇は◎よりもやや性能は劣るが実施可能であることを表す。△は〇よりも性能は劣るが実施可能であることを表し、×は効果が低いことを表す。モーメント剛性、肩乗り上げ、コンパクト化、軽量化、軸受寿命、各項目における評価を総合的に考慮し、全ての項目が◎あるいは〇以上である実施例1~5を実施可能とする。前記背面組合わせのアンギュラ玉軸受に外部荷重を与えた場合に、演算される定格荷重等に基づいて軸受寿命が演算される。
【0033】
表1の結果から、実施例4~7のように、接触角αが30°以上45°以下、H1/DおよびH2/Dが共に0.3以上0.5以下の要件を満たすことで、肩乗り上げを防止できることが分かり、さらに表2の結果を考慮すると、実施例1~5のように、A/Bが百分率で1.3%以上2.9%以下、W/Dが1.3以上1.9以下、玉の充填率Cが82%以上の要件を満たすことで、コンパクト化を達成し、高いモーメント剛性と定格荷重の増加、軸受の長寿命化を達成すると共に、軸受としての機能を満足することが分かる。
【0034】
<作用効果>
組立幅Wと玉4の直径Dとの比W/Dは、表2における、軽量化およびコンパクト化、モーメント剛性に主に寄与する。説明したアンギュラ玉軸受1によると、組立幅Wと玉4の直径Dとの比W/Dの上限を1.9としたため、標準のアンギュラ玉軸受よりも軽量化および軸方向のコンパクト化を図り、このアンギュラ玉軸受1を使用する装置等のコンパクト化を図ることができる。W/Dの下限を1.3としたため、アンギュラ玉軸受としてのモーメント剛性を確保することができる。
【0035】
内輪2の溝深さH1および外輪3の溝深さH2と玉4の直径Dとの比H1/DおよびH2/Dは、表2における、肩乗り上げに主に寄与し、ひいては軸受寿命に寄与する。H1/DおよびH2/Dをそれぞれ0.3以上0.5以下とした。この場合、標準のアンギュラ玉軸受より溝深さが深いため、大きなモーメント荷重を負荷したときに肩乗り上げの発生を防止し得る。これにより、内外輪2,3の各軌道面2a,3aの剥離等を防止し、アンギュラ玉軸受1の長寿命化を図れる。このように肩乗り上げの発生防止と長寿命を実現することができる。
玉直径に対する各溝深さH1/DおよびH2/Dが0.3未満では、大きなモーメント荷重を負荷したときに肩乗り上げするおそれがある。H1/DおよびH2/Dが0.5を超えると、内外輪2,3の溝を加工することが困難となるため、生産性が劣る。
【0036】
各溝底肉厚Aとピッチ円直径Bとの比A/Bは、表2における、コンパクト化に主に寄与する。また、軸受剛性にも寄与する。各溝底肉厚Aとピッチ円直径Bとの比A/Bを百分率で1.3%以上2.9%以下とすることで、軸受剛性を確保しつつ玉直径を大きく設定し得る。A/Bが1.3%未満では軸受剛性を確保することが困難となる場合がある。A/Bが2.9%を超えると径方向のコンパクト化を図ることが困難となる。
充填率Cは、定格荷重に主に寄与し、ひいては表2における軸受寿命に寄与する。玉4の充填率Cを82%以上91%以下とすることで玉数を多く確保し、定格荷重を増加する事でアンギュラ玉軸受1の長寿命化を図れる。玉4の充填率Cが91%を超えると、保持器5のポケット間の円周方向幅が薄くなり強度上問題がある。
【0037】
R/Dを1.01以上1.07以下とすることで、軸受剛性をより確実に確保し、肩乗り上げを防止し得る。R/Dが1.01未満では転がり抵抗が不所望に大きくなる。R/Dが1.07を超えると、大きなモーメント荷重を負荷したときに肩乗り上げするおそれがあり使用条件が制限される。d/Bが0.84以上0.93以下である場合、内輪2の径方向の肉厚を薄肉化し、アンギュラ玉軸受1を使用する装置等のコンパクト化、省スペース化を図れる。d/Bが0.84未満では、内輪2を薄肉化する効果が低い。d/Bが0.93を超えると、内輪2の剛性を確保することが困難となる場合がある。
【0038】
D1/Bが1.07以上1.16以下である場合、外輪3の径方向の肉厚を薄肉化し、アンギュラ玉軸受1を使用する装置等のコンパクト化、省スペース化を図れる。D1/Bが1.07未満では、外輪3の剛性を確保することが困難となる場合がある。D1/Bが1.16を超えると、外輪3を薄肉化する効果が低い。
【0039】
アンギュラ玉軸受1を正面組合わせ、並列組合わせ等で使用することも可能である。アンギュラ玉軸受1を3列以上の多列組合わせで使用することも可能である。
保持器5は、例えば、樹脂等から成る櫛型保持器であってもよく、樹脂等から成る円筒形状で各ポケットが径方向に沿う丸孔状に形成されているものであってもよい。
【0040】
内方部材は、例えば、内輪と軸が一体のもの、および内輪内周面等にギヤが形成されたものを含む。外方部材は、外輪とハウジングが一体のもの、および外輪外周面等にギヤ、フランジ等が形成されたものを含む。前記一体とは、軌道輪と対象物とが複数の要素を結合したものではなく単一の材料から例えば鍛造、機械加工等により単独の物の一部または全体として成形されたことを意味する。
【0041】
以上、本発明の実施形態を説明したが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0042】
1…アンギュラ玉軸受
2…内輪(内方部材)
3…外輪(外方部材)
4…玉
図1
図2
図3