(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166411
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ホットメルト接着剤用溶融袋、それを用いたホットメルトシート、およびホットメルト積層体
(51)【国際特許分類】
C09J 125/04 20060101AFI20241121BHJP
C09J 7/30 20180101ALI20241121BHJP
C09J 157/02 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C09J125/04
C09J7/30
C09J157/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024163473
(22)【出願日】2024-09-20
(62)【分割の表示】P 2023198222の分割
【原出願日】2023-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2023060167
(32)【優先日】2023-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一平
(72)【発明者】
【氏名】小林 弘征
(72)【発明者】
【氏名】石黒 秀之
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩史
(72)【発明者】
【氏名】田邉 慎吾
(57)【要約】
【課題】
従来よりも耐破砕性、変形容易性といった梱包時の作業性に優れ、さらに使用時に内容物との相溶性に優れるホットメルト接着剤用溶融袋、それを用いたホットメルトシート、およびホットメルト積層体の提供。
【解決手段】
本発明の課題は、スチレン系エラストマー(A)および粘着付与剤(C)を含有し、粘着付与剤(C)が、完全水素添加型石油樹脂および部分水素添加型石油樹脂のうち少なくとも一方を含有する溶融袋により解決される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系エラストマー(A)および粘着付与剤(C)を含有し、
粘着付与剤(C)が、完全水素添加型石油樹脂および部分水素添加型石油樹脂のうち少なくとも一方を含有する溶融袋。
【請求項2】
軟化点が50℃以上である、請求項1に記載の溶融袋。
【請求項3】
膜厚が25~500μmである、請求項1または2に記載の溶融袋。
【請求項4】
スチレン系エラストマー(A)の重量平均分子量が300,000以下である、請求項1または2に記載の溶融袋。
【請求項5】
ホットメルト接着剤の包装用である、請求項1または2に記載の溶融袋。
【請求項6】
ホットメルト接着剤が溶融袋で包装された塊状体であって、溶融袋が請求項1または2に記載の溶融袋である塊状体。
【請求項7】
ホットメルト接着剤の軟化点と溶融袋の軟化点の差が50℃以内である、請求項6に記載の塊状体。
【請求項8】
請求項6記載の塊状体のシート状成形物である、ホットメルトシート。
【請求項9】
厚さ25μmのホットメルトシートを傾斜角30度の傾斜板に固定し、助走10cm糊面10cmとした試料にスチールボール(1/32~32/32インチ)を転がし、糊面の中央付近に停止するボールの径の番号(ボールタック)が4以上である、請求項8記載のホットメルトシート。
【請求項10】
請求項8に記載のホットメルトシート、被着体の順に配置されたホットメルト積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットメルト接着剤を包装するために用いられる溶融袋、ホットメルトシート、およびホットメルト積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ホットメルトは溶融して対象物を貼り合わせた後、放冷・冷却すればすぐに接着機能が発現することから、養生期間を不要とする利点が見直され、包装、工業用途で適用が広がっている。そして昨今の環境への負荷低減を重視する社会変化を受け、使用時に溶剤や乾燥工程も不要な利点も再認識され、ますますの拡大が進みつつある。
【0003】
ホットメルトの適用範囲が広がると作業性向上が求められる。夏場は塊状のホットメルト同士がくっついてしまい(ブロッキング)、梱包された段ボール等から取り出す際に巨大塊状となり作業性が著しく低下する問題があった。そこで特に常温で粘着性を示すホットメルトは、剥離紙や剥離フィルムにより包装された状態で梱包、輸送、保管され、ホットメルトを使用する際にそれらを剥がし、廃棄していたが、これら剥離材の廃棄も環境負荷として問題視されるようになった。
【0004】
そこでホットメルトを硬い材料で包装し、使用時には包装したままホットメルトを溶融する、いわゆる溶融袋としての仕様が出てきた(特許文献1)。これにより剥離材の廃棄による環境負荷を回避でき、また塊状のホットメルトを溶融するたびに剥離材を剥離する作業負担もなくなり、作業効率は格段に向上した。
【0005】
近年では溶融袋の強度を上げたり(特許文献2)、形状をエンボス上にしたり(特許文献3)して、ブロッキングしない施策が取られている。しかしこれらの方法では内容物であるホットメルトの特性との乖離が大きく、溶融炉の中で溶融袋とホットメルトの相溶性が不足してしまい、塗工ヘッドに供給される混合溶融物が設計通りの比率とならない問題があった。また溶融袋の強度が高すぎるため、ホットメルト接着剤を溶融袋で包んだ塊状体を段ボール等に梱包する際に、塊状体が形状変化をすることが出来ずに、所望の充填量に満たない、密度の低い梱包体となる問題もあった。しかし、変形容易性を付与するために溶融袋の強度を極端に弱くすると梱包時に破砕してホットメルト接着剤が表面に出てしまい塊状物同士がブロッキングする問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-002581号公報
【特許文献2】国際公開2014/194087号公報
【特許文献3】特開2019-065164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって本発明は、従来よりも耐破砕性、変形容易性といった梱包時の作業性に優れ、さらに使用時に内容物との相溶性に優れるホットメルト接着剤用溶融袋、それを用いたホットメルトシート、およびホットメルト積層体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った
。
即ち、本発明の実施態様は、スチレン系エラストマー(A)および粘着付与剤(C)を含有し、粘着付与剤(C)が、完全水素添加型石油樹脂および部分水素添加型石油樹脂のうち少なくとも一方を含有する溶融袋である。
【0009】
また、本発明の実施態様は、軟化点が50℃以上である、前記溶融袋である。
【0010】
また、本発明の実施態様は、膜厚が25~500μmである、前記溶融袋である。
【0011】
また、本発明の実施態様は、スチレン系エラストマー(A)の重量平均分子量が300,000以下である、前記溶融袋である。
【0012】
また、本発明の実施態様は、ホットメルト接着剤の包装用である、前記溶融袋である。
【0013】
また、本発明の実施態様は、ホットメルト接着剤が溶融袋で包装された塊状体であって、溶融袋が前記溶融袋である塊状体である。
【0014】
また、本発明の実施態様は、ホットメルト接着剤の軟化点と溶融袋の軟化点の差が50℃以内である、前記塊状体である。
【0015】
また、本発明の実施態様は、前記塊状体のシート状成形物である、ホットメルトシートである。
【0016】
また、本発明の実施態様は、厚さ25μmのホットメルトシートを傾斜角30度の傾斜板に固定し、助走10cm糊面10cmとした試料にスチールボール(1/32~32/32インチ)を転がし、糊面の中央付近に停止するボールの径の番号(ボールタック)が4以上である、前記ホットメルトシートである。
【0017】
また、本発明の実施態様は、前記ホットメルトシート、被着体の順に配置したホットメルト積層体である。
【発明の効果】
【0018】
上記の本発明により、従来よりも耐破砕性、変形容易性といった梱包時の作業性に優れ、さらに使用時に内容物との相溶性に優れるホットメルト接着剤用溶融袋、それを用いたホットメルトシート、およびホットメルト積層体の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の塊状体を、部分的に示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のホットメルト接着剤を包装するために用いられる溶融袋、ホットメルトシート、およびホットメルト積層体について更に詳細に説明するが、これに限定されない。
ホットメルト接着剤を包装した溶融袋を塊状体とする。なお、ホットメルト接着剤とはホットメルト粘着剤を包含する。
本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値の範囲として含むものとする。本明細書においてはホットメルト接着剤を「ホットメルト」と略記する場合がある。
なお、本明細書中に出てくる各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に一種単独でも二種以上を併用してもよい。
また、「部」および「%」は、特に断りのない限り、それぞれ「質量部」および「質量%」を表す。
【0021】
≪溶融袋≫
本発明の溶融袋は、ホットメルト接着剤を包装するために用いられる。しかし、ホットメルト接着剤以外の物品に対し、技術的に貢献できるのであればこの限りではない。
溶融袋はスチレン系エラストマー(A)および粘着付与剤(C)を含む。スチレン系エラストマー(A)および粘着付与剤(C)を含む材料(樹脂組成物)を加温して溶融し、既知の手法により成膜(製造)できる。
【0022】
溶融袋の軟化点は、下限としては50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることが更に好ましく、80℃以上が特に好ましい。上限としては150℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましく、110℃以下が更に好ましく、100℃以下が特に好ましい。軟化点が上記範囲内であることで、耐破砕性および耐ブロッキング性を発現しやすい。
なお、軟化点の測定は、JIS K-2207(石油アスファルト)6.4軟化点試験方法(環球法)に準拠して行う。
【0023】
溶融袋の膜厚は、25~500μmであることが好ましく、50~500μmであることがより好ましく、50~300μmであることが更に好ましく、50~200μmが特に好ましい。膜厚が上記範囲内であることで、耐破砕性と変形容易性を両立しやすい。
【0024】
溶融袋に含まれる揮発性有機化合物(VOC)の量は、3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが更に好ましく、実質含まないことが好ましい。VOCの量が上記範囲内であることで、食品や医療業界といった衛生性を重視する用途にも適合させやすい。
【0025】
≪樹脂組成物≫
本発明において樹脂組成物は、溶融袋を形成するための材料を指し、スチレン系エラストマー(A)および粘着付与剤(C)を含有する。さらにプロセスオイル(B)を含有することが好ましい。プロセスオイル(B)を含むことで相溶性や変形容易性に優れるため好ましい。
【0026】
<スチレン系エラストマー(A)>
スチレン系エラストマー(A)は、熱可塑性エラストマーの一種である。熱可塑性エラストマーとは、常温では加硫ゴムと同様な性質を持ち、弾性のある材料をいい、高温では普通の熱可塑性樹脂と同じく、既存の成形機をそのまま使用できる高分子材料である。熱可塑性エラストマーは、分子中に弾性を持つゴム成分(ソフトセグメント:軟質相)と塑性変形を防止するための分子拘束成分(ハードセグメント:硬質相)との両方を持っているためゴムとプラスチックの中間の性質を持つ。
スチレン系エラストマーは、一般的にポリスチレンブロックとゴム中間ブロックとを有し、ポリスチレン部分が物理的架橋(ドメイン)を形成して橋掛け点となり、中間のゴムブロックは製品にゴム弾性を与える。中間のソフトセグメントにはポリブタジエン(B)、ポリイソプレン(I)およびポリオレフィンエラストマー(エチレン・プロピレン(EP)、エチレン・ブチレン(EB)、ブチレン・ブタジエン(BB)) があり、ハード
セグメントのポリスチレン(S)との配列の様式によって、直鎖型(リニアタイプ)および分岐型(ラジアルタイプ)とに分かれる。
【0027】
スチレン系エラストマーとしては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロックコポリマー(以下SBSと略記することもある)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロ
ックコポリマー(以下SEBSと略記することもある)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロックコポリマー(以下SEPSと略記することもある)、スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマー(以下SISと略記することもある)、スチレン-ブチレン・ブタジエン-スチレンブロックコポリマー(以下SBBSと略記することもある)等が挙げられる。
【0028】
スチレン系エラストマー(A)は、スチレン含有率10~50質量%であることが好ましく、スチレン含有率15~45質量%であることがより好ましく、スチレン含有率20~40質量%であることが更に好ましい。スチレン含有率がこの範囲内にあることで耐破砕性を発現する強度と、変形容易性を発現できる柔軟性のバランス取りをしやすくなる。なお、スチレン含有率とはスチレン系エラストマー100質量%中のスチレンの含有率(質量%)である。
【0029】
スチレン系エラストマー(A)の重量平均分子量(Mw)は、10,000~300,000であることが好ましく、50,000~200,000であることがより好ましく、80,000~150,000であることがさらに好ましく、100,000~150,000であることが特に好ましい。上記範囲の分子量とすることで、耐破砕性と変形容易性を両立しやすい。
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定するポリスチレン換算の値である。
【0030】
スチレン系エラストマー(A)の含有率は、樹脂組成物100質量%中、5~70質量%が好ましく、10~60質量%がより好ましく、10~50質量%が更に好ましい。上記範囲でスチレン系エラストマー(A)を含有することで、耐破砕性と変形容易性を両立しやすい。
【0031】
<プロセスオイル(B)>
プロセスオイル(B)は、ゴムや熱可塑性エラストマー等の可塑剤として一般的に使用される。いわゆる石油精製等において生産されるプロセスオイルであり、パラフィン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルに大別される。プロセスオイルは、パラフィン鎖・芳香族環・ナフテン環の混合物であり、全炭素中のパラフィン鎖炭素が50重量%以上のものをパラフィン系プロセスオイル、全炭素中の芳香族炭素が30重量%以上のものを芳香族系プロセスオイル、全炭素中のナフテン環炭素が30質量%以上のものをナフテン系プロセスオイルと分類する。
【0032】
プロセスオイル(B)の含有率は、樹脂組成物100質量%中、5~90質量%が好ましく、10~80質量%がより好ましく、15~70質量%が更に好ましく、20~60質量%が特に好ましい。上記範囲でプロセスオイル(B)を含有することで、変形容易性に優れる。
【0033】
<粘着付与剤(C)>
粘着付与剤(C)は、完全水素添加型石油樹脂および部分水素添加型石油樹脂のうち少なくとも一方を含有する。完全水素添加型石油樹脂および部分水素添加型石油樹脂のうち少なくとも一方を含有することで、耐破砕性に優れる。完全水素添加型石油樹脂および部分水素添加型石油樹脂は、分子間の親和性を高める芳香環を有さないため、ブロッキングしにくい傾向があると考えられる。
【0034】
粘着付与剤(C)は、分子量が数百から数千程度の比較的低分子の低い重合体である。常温において液状または固形の特性を示し、粘着付与剤を添加することで流動性・タックを付与し、接着力を向上させる。本発明においては、常温固体であれば特に限定されない
。常温固体であれば、耐破砕性に優れながら、ホットメルトとして使用する際には本来の機能である粘着力を底上げする役割を果たす。
完全水素添加型石油樹脂としては、例えば、荒川化学社製アルコンPシリーズ等、部分水素添加型石油樹脂としては、荒川化学社製アルコンMシリーズ等が挙げられる。
【0035】
粘着付与剤(C)は、完全水素添加型石油樹脂および部分水素添加型石油樹脂のうち少なくとも一方を含有すれば、その他粘着付与樹脂を併用することもできる。その他粘着付与樹脂は、天然樹脂系と合成樹脂系に大別される。天然樹脂系としては、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂があり、合成樹脂系としては、未水素添加型石油系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂などが挙げられる。耐破砕性の観点で合成樹脂系を用いることが好ましい。
【0036】
粘着付与剤(C)の含有率は、樹脂組成物100質量%中、0~50質量%が好ましく、0~45質量%がより好ましく、5~40質量%がさらに好ましい。
上記範囲で粘着付与剤(C)を含有することで、プロセスオイル(B)の量と調整しながら、耐破砕性と変形容易性を両立しやすい。
【0037】
本発明の課題解決ができる範囲で、溶融袋を形成する樹脂組成物に含まれる成分として、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、フィッシャートロプッシュワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等のワックス、α-メチルスチレン樹脂、その他熱可塑性エラストマーなどを用いることが出来る。
その他熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、1,2-ブタジエン系などが挙げられる。
また、必要に応じて、熱劣化、熱分解を防ぐための酸化防止剤、老化防止剤などを添加することができる。
【0038】
[樹脂組成物の製造]
樹脂組成物は、上述した材料を加温しながら、既知の方式で加温しながら、配合・混合することができる。
有機溶剤などで希釈してしまうと作業性は増すが用途展開に制限を課してしまうため、極力有機溶剤は使わないことが好ましい。
【0039】
<塊状体>
塊状体は、ホットメルト接着剤を溶融袋で包装したものである。重量としては、10g~5000gが好ましい。上記の範囲内であれば扱いやすく、かつ充填回数の作業性に優れるため好ましい。重量に応じて溶融袋の膜厚を適宜調整することができる。
溶融袋を成膜(製造)後、出来るだけ空気が入らないようにホットメルト接着剤を充填することで、塊状体を得ることができる。本工程は成膜後すぐに冷却するか、もしくは水中で行われることがエネルギー効率の観点で好ましい。
【0040】
(ホットメルト接着剤)
ホットメルト接着剤は、例えば、粘着用途を鑑みたものである場合には樹脂系としてはスチレン系エラストマーを含有することが、種々の粘着性能を発現しやすいという点で好ましい。スチレン系エラストマーとしては、上述の溶融袋製造用の樹脂組成物に用いられる材料をそのまま用いることができる。
溶融炉内での相溶性の点で樹脂組成物と同種の材料を用いることがより好ましい。具体的には、スチレン系エラストマー(A)、プロセスオイル(B)および粘着付与剤(C)を含むことが好ましい。
スチレン系エラストマー(A)、プロセスオイル(B)および粘着付与剤(C)の種類は、ホットメルトの用途に応じて適宜選択することができる。
例えば、リサイクル用途であればアルカリ水溶液による脱離性が求められるので、100mgKOH/g以上の高い酸価を有する粘着付与剤が好ましい。また環境対応製品であればバイオマス度80%以上のバイオマス度が高い粘着付与剤が好ましい。
【0041】
ホットメルト接着剤の軟化点は、40℃~110℃であることが好ましく、50℃~100℃であることがより好ましく、60℃~90℃であることが更に好ましい。軟化点が上記範囲内のホットメルト接着剤は常温で粘着性を示すことから、塊状体にする利点を享受しつつ溶融袋との相溶性に優れ、ホットメルトとして使用する際の凝集力も発現しやすい。
【0042】
ホットメルト接着剤の軟化点は、溶融袋の軟化点と比較し、その差が70℃以内であると好ましく、50℃以内であるとより好ましく、30℃以内であると更に好ましく、20℃以内であると特に好ましい。上記範囲内となることで、双方の相溶性に優れる。
【0043】
<ホットメルトシート>
ホットメルトシートは、塊状体のシート状成形物である。塊状体を溶融炉で溶融させ、任意の塗布方式によりシート状に形成させて製造することができる。
【0044】
塗布方式としては、特に制限されないが既知の方式が用いられる。オープンホイール方式、クローズガン方式、ダイレクトコート方式などがある。用途に応じて再剥離性を重視する際には、オープンホイール方式、ダイレクトコート方式が好ましい。
ホットメルトシートの膜厚としては、用途に応じて異なるが、おおむね10μm~1000μmの厚さで用いられる。
【0045】
ホットメルトシートのボールタックは、特に限定はされないが、食品包装等のラベル用途等では4以上が好ましい。4以上とすることで十分な接着力が得られるため好ましい。
【0046】
<ホットメルト積層体>
ホットメルト積層体とは、ホットメルトシート、被着体の順に配置された積層体である。その製造方法は特に制限されないが、(ア)剥離処理されたフィルムの剥離処理面にホットメルトを塗布して剥離フィルム付きホットメルトシートを作製し、ホットメルト層の表面に被着体を積層する方法、(イ)被着体にホットメルトを直接塗布し、ホットメルト層の表面に剥離処理されたフィルムの剥離処理面を積層する方法、(ウ)(ア)または(イ)で得られた積層体から剥離フィルムを剥離してホットメルト層の表面にさらに被着体を積層する方法等によって得ることができる。
【0047】
(被着体)
被着体としては、特に制限されないが、プラスチックや不織布、紙を好適に用いることができる。
プラスチックとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル系樹脂、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリサルフォン、ポリアリレート、ポリシクロオレフィン等のその他プラスチック材料などが挙げられる。
不織布としては、例えば、コットンやレーヨンなどの親水性繊維からなる不織布や、合成樹脂の繊維に親水化処理を施してなる不織布などが挙げられる。
紙としては、例えば、ユポ紙、コート紙、上質紙、段ボールなどが挙げられる。
なお、被着体は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0048】
ホットメルト積層体の用途としては、特に制限はないが、食品用ラベルをはじめ、おむつや生理用品などの衛生材、パソコンやカメラ、医療機器に用いる接合材等が挙げられる
。
【実施例0049】
次に、実施例を示して更に詳細を説明するが、本発明は、これらによって限定されるものではない。例中、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を示し、「%」は「質量%」を示し、「RH」は相対湿度を意味する。また、表中の配合量は、質量部である。尚、表中の空欄は配合していないことを表す。
【0050】
[重量平均分子量]
重量平均分子量(Mw)の測定は、島津製作所社製GPC「LC-GPCシステム」を用いた。重量平均分子量(Mw)の決定は、分子量既知のポリスチレンを標準物質とした換算で行うことができる。
装置名:島津製作所社製、LC-GPCシステム「Prominence」
カラム:東ソー社製GMHXL 4本、東ソー社製HXL-H 1本を連結した。
移動相溶媒: テトラヒドロフラン
流量: 1.0ml/分
カラム温度: 40℃
【0051】
表1~4に記載の略称について、下記に示す。
[スチレン系エラストマー(A)]
・G1642:クレイトン G1642(クレイトンポリマー社製、スチレン含有率:2
1質量%、重量平均分子量:12.4万)
・G1650:クレイトン G1650(クレイトンポリマー社製、スチレン含有率:3
0質量%、重量平均分子量:9.6万)
・A1536:クレイトン A1536(クレイトンポリマー社製、スチレン含有率:4
2質量%、重量平均分子量:13.5万)
・G1726:クレイトン G1726 (クレイトンポリマー社製、スチレン含有率:30質量%、重量平均分子量:4.6万)
【0052】
[プロセスオイル(B)]
・PW-90:ダイアナプロセスPW-90(出光興産社製、パラフィン系プロセスオイル)
【0053】
[粘着付与剤(C)]
・P-100:アルコンP-100(荒川化学社製、完全水素添加型石油樹脂、軟化点:100℃)
・M-100:アルコンM-100(荒川化学社製、部分水素添加型石油樹脂、軟化点:100℃)
・ハリタックF(ハリマ化成社製、水添ロジン系、酸価:170mgKOH/g、軟化点:80℃)
【0054】
[ワックス]
・サゾールH1(Sasol Chemical Industries社製、フィッシャートロプスワックス、軟化点:112℃)
・サゾールC80(Sasol Chemical Industries社製、フィッシャートロプスワックス、軟化点:88℃)
【0055】
[その他熱可塑性エラストマー]
・LDPE:低密度ポリウレタン(融解ピーク温度107℃、密度0.919g/cm3)
・EVA:エチレン-酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有率28質量%)
【0056】
[その他粘着付与剤]
・ペトコール120:ペトコール120(東ソー社製、未水素添加型石油樹脂、軟化点:120℃)
【0057】
(実施例1)
<樹脂組成物P-1の製造>
攪拌機を備えたステンレスビーカーに、ワックス:サゾールH1を30部、プロセスオイル(B)としてPW-90を20部投入し、加熱して溶融した。加熱は内容物が130~150℃になるように注意して行った。溶融後攪拌を行い、均一溶融液とした後、130~150℃の温度を保ちながら、かつ攪拌を続けながら、この溶融物にスチレン系エラストマー(A)としてG1642を10部加え、添加終了後、130~150℃の温度で加熱撹拌し、G1642を完全に溶融させた。その後、粘着付与剤(C):P-100を40部添加して溶融均一混合物とし、冷却して樹脂組成物P-1を作製した。
【0058】
<ホットメルト接着剤Q-1の製造>
攪拌機を備えたステンレスビーカーに、ワックス:サゾールC80を5部、プロセスオイル(B)としてPW-90を40部投入し、加熱して溶融した。加熱は内容物が130~150℃になるように注意して行った。溶融後攪拌を行い、均一溶融液とした後、130~150℃の温度を保ちながら、かつ攪拌を続けながら、この溶融物にスチレン系エラストマー(A)としてG1726を25部加え、添加終了後、130~150℃の温度で加熱撹拌し、G1726を完全に溶融させた。その後、粘着付与剤(C)としてハリタックFを30部添加して溶融均一混合物とし、冷却してホットメルト接着剤Q-1を作製した。
<溶融袋および塊状体1の製造>
次に樹脂組成物P-1を溶融袋成型機に投入し、温度100℃の条件で、膜厚200μmの溶融袋となるように設定した。ホットメルト接着剤Q-1を加温しながら溶融膜に向けて500g押し出し、それを水中で包み込むように成形して、そのまま水中で冷却した後、塊状体1を得た。
【0059】
<ホットメルトシートの製造>
得られた塊状体1を160℃に加温した溶融炉内で1時間溶融し、重剥離フィルムの剥離剤層上にシート形成後の厚さが25μmになるように塗工してホットメルトシートを形成した。次いで、このホットメルト層に、軽剥離フィルムの剥離剤層を貼り合せ、ホットメルトシートを得た。
【0060】
(実施例2~20、比較例1、2)
表1記載の組成および配合量(質量部)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でホットメルト接着剤(Q-2~6)を製造し、表2~4記載の組成および配合量(質量部)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で樹脂組成物(P-2~20、P’-1、2)を製造した。続いて、実施例1と同様の方法で溶融袋中にホットメルトを充填した実施例2~20、比較例1、2の塊状体およびホットメルトシートを得た。
なお、表1~4においてホットメルトをHM、スチレン系エラストマーをエラストマー、プロセスオイルをオイル、粘着付与剤をTF、ワックスをWAXと略記した。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
<ボールタック>
得られたホットメルトシートを幅25mm・縦250mmの大きさに準備した。ホットメルトシートから軽剥離フィルムを剥がして傾斜角30度の傾斜版に固定し、重剥離フィルムを剥がして粘着面を上にした。助走路用のPETフィルムを上部に貼り付け、助走10cm糊面10cmとした試料にスチールボール(1/32~32/32インチ)を転がし、糊面の中央付近に停止するボールの径の番号を記録した。
【0066】
<変形容易性>
ゴム硬度計A型(島津製作所製デュロメータ硬さ試験機)を用いて得られた塊状体の変形のし易さ(変形容易性)を評価した。評価基準は下記の通りである。
[評価基準]
◎:測定目盛りが20ポイント以下、優良。
〇:測定目盛りが20ポイント超~30ポイント以下、良好。
△:測定目盛りが30ポイント超~40ポイント以下、実用上問題なし。
×:測定目盛りが40ポイント超、実用上問題あり。
【0067】
<耐破砕性>
小型の段ボールに剥離フィルムを敷き、その上に溶融したホットメルト接着剤を流し込み、自然放冷させて固めることで表面が平らなブロック状ホットメルト接着剤を製造した。得られたブロック状ホットメルト接着剤上に溶融袋(10cm四方、膜厚200μm)を積層し、さらにその上に溶融袋(10cm四方、膜厚200μm)とブロック状ホットメルト接着剤をこの順に積層し、ブロック状ホットメルト接着剤/溶融袋//溶融袋/ブ
ロック状ホットメルトの積層物を作製した。この積層物上に10kgの重りを載せ、40℃で24時間保管し、空冷した後に手で溶融袋間を引き剥がし、耐破砕性の評価を行った。評価基準は下記の通りである。
[評価基準]
◎:剥離音、剥離強度無し、優良。
〇:若干の剥離音、剥離強度あり、良好。
△:ブロッキングしているが剥離しても溶融袋の破砕なし、実用上問題なし。
×:ブロッキングしており剥離すると溶融袋が破砕する、実用上問題あり。
【0068】
<相溶性>
溶融袋の全質量に対して酸化チタンを1質量%配合した白色溶融袋を作製し、これを用いて白色塊状体を作製した。得られた白色塊状体からホットメルトシートを作製する際の溶融炉内における白色溶融袋とホットメルト接着剤の相溶性について、ホットメルトシートの白色ムラにより評価した。評価基準は下記の通りである。
[評価基準]
◎:色ムラ無し、優良。
〇:色ムラが部分的に見られる、良好。
△:色ムラが全体的に見られるものの、溶融袋の溶融残りはなし、実用上問題なし。
×:色ムラが全体的に見られ、かつ溶融袋も残っている、実用上問題あり。
【0069】
表2~4の結果から実施例1~20の塊状体は、耐破砕性、変形容易性といった梱包・輸送時の作業性に優れ、さらに溶融袋は使用時に内容物との相溶性に優れるものであった。一方、比較例1、2の塊状体は、前記特性の全てを満たすことはできなかった。