(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166418
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/58 20060101AFI20241121BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20241121BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20241121BHJP
A61K 31/555 20060101ALI20241121BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20241121BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
A61K8/58
A61K8/49
A61Q11/00
A61K31/555
A61P1/02
A61P31/04
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024163795
(22)【出願日】2024-09-20
(62)【分割の表示】P 2023070271の分割
【原出願日】2019-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有田 卓矢
(72)【発明者】
【氏名】森川 拓磨
(57)【要約】
【課題】fimA遺伝子型がII型又はIV型のP.g菌が産出するジンジパインを効率よく抑制すること。
【解決手段】ヒノキチオール及び/又は銅クロロフィリン金属塩の使用。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅クロロフィリン金属塩を含有する、
fimA遺伝子型がII型又はIV型のPorphyromonas gingivalis(P.g菌)を口腔内に保有する人のための、
抗歯周病口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、fimA遺伝子型がII型のPorphyromonas gingivalis(P.g菌)に有効な口腔用組成物等に関する。なお、本明細書に記載される全ての文献の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
Porphyromonas gingivalis(P.g菌)は、強力な歯周病原性を有する歯周病菌である。P.g菌の産生する代表的な病原性因子として、ジンジパインが知られている。ジンジパインはプロテアーゼの1種で、ペプチド切断部位特異性の異なるLys-ジンジパイン(Kgp)とArg-ジンジパイン(Rgp)とが存在する。これらは相互に作用しながら歯肉上皮細胞間の結合の破壊性や上皮細胞そのものに対する傷害及び/又は増殖阻害、ひいては上皮バリアの破壊及び修復阻害を引き起こす。また、ジンジパインは、貪食細胞による貪食及び細胞内で消化を抑制する効果、並びに、補体系の破壊や上皮細胞内への侵入を助ける効果等も有するとされており、これによってP.g菌の免疫系からの回避にも関与している。さらに、最近では、ジンジパインによる免疫系の抑制効果が、口腔内細菌叢のDysbiosisにつながることが報告されており、これらジンジパインの作用は、歯周病の進行と難治化につながっている。
【0003】
また、近年、P.g菌の繊毛構成サブユニットであるフィンブリリン(fimbrillin)をコードする遺伝子fimAが注目されている。fimAは、核酸配列構造の違いにより6つの異なる遺伝子型 (fimA型) が存在し、歯周病の重篤度とP.gingivalisのII型又はIV型fimA菌(特にII型fimA菌)との強い関連性が認められることが示唆されている(非特許文献1、2)。また、これらの6つの異なる遺伝子型(fimA型)については、例えば各遺伝子型に特異的なPCRプライマーを用いる等して、容易に型を確認することができる(非特許文献2)。さらに、当該fimA型の毒性(Virulence)の強さとジンジパインのジェノタイ
プとには相関性があることも指摘されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「Porphyromonas gingivalis繊毛と歯周病原性の関連」 日歯周誌 45(4):357-363,2003
【非特許文献2】「遺伝子検査方法を用いた歯周病関連菌種の分布」 日本臨床微生物学雑誌 Vol. 28 No. 4 2018
【非特許文献3】Journal of Oral Microbiology 2015, 7: 29124
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、fimA遺伝子型がII型又はIV型のP.g菌が産出するジンジパインを効率よく抑制することができれば、特に効率よく歯周病を予防及び/又は治療(特に歯周病進行抑制)できると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ヒノキチオール及び/又は銅クロロフィリン金属塩を用いることにより、fimA遺伝子型がII型又はIV型のP.g菌が産出するジンジパインを特に効率よく抑
制できることを見出した。
【0008】
本開示は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
ヒノキチオール及び/又は銅クロロフィリン金属塩を含有する、
fimA遺伝子型がII型又はIV型のPorphyromonas gingivalis(P.g菌)を口腔内に保有する人のための、
抗歯周病口腔用組成物。
項2.
ヒノキチオール及び/又は銅クロロフィリン金属塩を含有する、
fimA遺伝子型がII型又はIV型のPorphyromonas gingivalis(P.g菌)を口腔内に保有する人のための、
当該P.g菌産出プロテアーゼ阻害用口腔用組成物。
項3.
ヒノキチオール及び銅クロロフィリン金属塩を含有する、項1又は2に記載の口腔用組成物。
項4.
fimA遺伝子型がII型のP.g菌を口腔内に保有する人のための、項1~3のいずれかに記載の口腔用組成物。
項5.
口腔内に保有するP.g菌のうち、fimA遺伝子型でII型のP.g菌が最も多い人のための、項1~4のいずれかに記載の口腔用組成物。
【発明の効果】
【0009】
fimA遺伝子型がII型又はIV型のP.g菌が産出するジンジパインを効率よく抑制できる、口腔用組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1a】各種殺菌・抗炎症成分により、P.g菌(IV型fimA菌株)のジンジパイン活性抑制が可能か検討した結果を示す。
【
図1b】各種殺菌・抗炎症成分により、P.g菌(IV型fimA菌株)のジンジパイン活性抑制が可能か検討した結果を示す。
【
図2a】銅クロロフィリンナトリウムにより、P.g菌の各株(II型fimA菌株又はIV型fimA菌株)が産出するジンジパイン活性の抑制が可能か検討した結果を示す。
【
図2b】ヒノキチオールにより、P.g菌の各株(II型fimA菌株又はIV型fimA菌株)が産出するジンジパイン活性の抑制が可能か検討した結果を示す。
【
図3a】銅クロロフィリンナトリウム及びヒノキチオールを組み合わせて用いた際の、P.g菌(II型fimA菌株)のジンジパイン活性抑制効果を検討した結果を示す。
【
図3b】銅クロロフィリンナトリウム及びイソプロピルメチルフェノールを組み合わせて用いた際の、P.g菌(II型fimA菌株)のジンジパイン活性抑制効果を検討した結果を示す。
【
図3c】銅クロロフィリンナトリウム及び塩酸クロロヘキシジンを組み合わせて用いた際の、P.g菌(II型fimA菌株)のジンジパイン活性抑制効果を検討した結果を示す。
【
図3d】銅クロロフィリンナトリウム及び塩化セチルピリジニウムを組み合わせて用いた際の、P.g菌(II型fimA菌株)のジンジパイン活性抑制効果を検討した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。本開示は、口
腔用組成物及びその用途等を好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本開示は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0012】
本開示に包含される口腔用組成物は、ヒノキチオール及び/又は銅クロロフィリン金属塩を含有する。銅クロロフィリン金属塩としては、銅クロロフィリンアルカリ金属塩が好ましく、中でも銅クロロフィリンナトリウムまたは銅クロロフィリンカリウムが好ましい。なお、当該口腔用組成物を、本開示の口腔用組成物ということがある。
【0013】
本開示の口腔用組成物は、fimA遺伝子型がII型又はIV型のPorphyromonas gingivalis(P.g菌)を口腔内に保有する人のための、抗歯周病口腔用組成物として好ましく用いることができる。より詳細には、例えば、当該人のための、歯周病の予防及び/又は治療用、あるいは歯周病進行抑制用として好ましく用いることができる。
【0014】
また、上記の通り、本開示の口腔用組成物は、fimA遺伝子型がII型又はIV型のP.g菌が産出するジンジパインを効率よく抑制できることから、当該P.g菌産出プロテアーゼ阻害用口腔用組成物ということもできる。
【0015】
また、P.g菌のfimA遺伝子型は、I型、Ib型、II型、III型、IV型、V型の合計6種類があるところ、複数のfimA遺伝子型のP.g菌を保有する人も存在する。また、これらの中で、特にII型が最も病原性が強いと考えられている。よって、本開示の口腔用組成物は、特に、口腔内に保有するP.g菌のうち、fimA遺伝子型でII型のP.g菌が最も多い人のために好ましく用いることができる。
【0016】
当該口腔用組成物の中でも、例えば、ヒノキチオール及び銅クロロフィリン金属塩を含む口腔用組成物が、特に好ましい。ヒノキチオール及び銅クロロフィリン金属塩の組みあわせが特に優れた、fimA遺伝子型がII型又はIV型のP.g菌が産出するジンジパイン抑制効果を奏するからである。
【0017】
口腔用組成物に含まれるヒノキチオール量は、例えば0.003質量%以上が好ましい。上限は特に制限はされないが、例えば0.2質量%が例示できる。量範囲は、例えば0.003~0.2質量%程度が好ましい。当該範囲の上限又は下限は、例えば0.004、0.005、0.006、0.007、0.008、0.009、0.01、0.015、0.02、0.025、0.03、0.035、0.04、0.045、0.05、0.055、0.06、0.065、0.07、0.075、0.08、0.085、0.09、0.095、0.1、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、又は0.19質量%であってもよい。例えば、0.004~0.15質量%又は0.005~0.1質量%程度であってもよい。
【0018】
口腔用組成物に含まれる銅クロロフィリン金属塩量は、例えば0.003質量%以上が好ましい。上限は特に制限はされないが、例えば0.2質量%が例示できる。量範囲は、例えば0.003~0.2質量%程度が好ましい。当該範囲の上限又は下限は、例えば0.004、0.005、0.006、0.007、0.008、0.009、0.01、0.015、0.02、0.025、0.03、0.035、0.04、0.045、0.05、0.055、0.06、0.065、0.07、0.075、0.08、0.085、0.09、0.095、0.1、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、又は0.19質量%であってもよい。例えば、0.004~0.15質量%又は0.005~0.1質量%程度であってもよい。
【0019】
当該口腔用組成物は、固形組成物、液体組成物でありえる。当該口腔用組成物は、例えば医薬品、医薬部外品として用いることができる。また、形態は、特に限定するものでは
ないが、常法に従って例えば軟膏剤、ペースト剤、パスタ剤、ジェル剤、液剤、スプレー剤、洗口液剤、液体歯磨剤、練歯磨剤、ガム剤等の形態(剤形)にすることができる。なかでも、洗口液剤、液体歯磨剤、練歯磨剤、軟膏剤、ペースト剤、液剤、ジェル剤であることが好ましい。
【0020】
当該口腔用組成物は、上記効果を損なわない範囲で、口腔用組成物に配合し得る任意成分を単独で又は2種以上さらに含有してもよい。
【0021】
例えば、界面活性剤として、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤または両性界面活性剤を配合することができる。具体的には、例えば、ノニオン界面活性剤としてはショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステル等の糖脂肪酸エステル;脂肪酸アルカノールアミド類;ソルビタン脂肪酸エステル;脂肪酸モノグリセライド;ポリオキシエチレン付加係数が8~10、アルキル基の炭素数が13~15であるポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレン付加係数が10~18、アルキル基の炭素数が9であるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;セバシン酸ジエチル;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン等が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩;ラウリルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩;ココイルサルコシンナトリウム、ラウロイルメチルアラニンナトリウム等のアシルアミノ酸塩;ココイルメチルタウリンナトリウム等が挙げられる。両性イオン界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の酢酸ベタイン型活性剤;N-ココイル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム等のイミダゾリン型活性剤;N-ラウリルジアミノエチルグリシン等のアミノ酸型活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。その配合量は、通常、組成物全量に対して0.1~5質量%である。
【0022】
また、香味剤として、例えば、メントール、カルボン酸、アネトール、オイゲノール、サリチル酸メチル、リモネン、オシメン、n-デシルアルコール、シトロネール、α-テルピネオール、メチルアセタート、シトロネニルアセタート、メチルオイゲノール、シネオール、リナロール、エチルリナロール、チモール、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、珪皮油、シソ油、冬緑油、丁子油、ユーカリ油、ピメント油、d-カンフル、d-ボルネオール、ウイキョウ油、ケイヒ油、シンナムアルデヒド、ハッカ油、バニリン等の香料を用いることができる。これらは、単独または2種以上を組み合わせて組成物全量に対して例えば0.001~1.5質量%配合することができる。
【0023】
また、甘味剤として、例えば、サッカリンナトリウム、アセスルファームカリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン、タウマチン、アスパラチルフェニルアラニルメチルエステル、p-メトキシシンナミックアルデヒド等を用いることができる。これらは、組成物全量に対して例えば0.01~1質量%配合することができる。
【0024】
さらに、湿潤剤として、ソルビット、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3―ブチレングリコール、ポリプロピレングリコール、キシリット、マルチット、ラクチット、ポリオキシエチレングリコール等を単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0025】
防腐剤として、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン
等のパラベン類、安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等を配合することができる。
【0026】
着色剤として、青色1号、黄色4号、赤色202号、緑3号等の法定色素、群青、強化群青、紺青等の鉱物系色素、酸化チタン等を配合してもよい。
【0027】
pH調整剤として、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、ピロリン酸、乳酸、酒石酸、グリセロリン酸、酢酸、硝酸、またはこれらの化学的に可能な塩や水酸化ナトリウム等を配合してもよい。これらは、組成物のpHが4~8、好ましくは5~7の範囲となるよう、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。pH調整剤の配合量は例えば0.01~2重量%であってよい。
【0028】
なお、効果を損なわない範囲において、当該口腔用組成物には、さらに、薬効成分として、酢酸dl-α-トコフェロール、コハク酸トコフェロール、またはニコチン酸トコフェロール等のビタミンE類、塩化セチルピリジニウム等のカチオン性殺菌剤、ラウロイルサルコシンナトリウム等のアニオン性殺菌剤、ドデシルジアミノエチルグリシン等の両性殺菌剤、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール等の非イオン性殺菌剤、デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、溶菌酵素(リテックエンザイム)等の酵素、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム等のアルカリ金属モノフルオロフォスフェート、フッ化ナトリウム、フッ化第一錫等のフッ化物、トラネキサム酸やイプシロンアミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシルアラントイン、ジヒドロコレステロール、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸、グリセロフォスフェート、クロロフィル、塩化ナトリウム、カロペプタイド、アラントイン、カルバゾクロム、ヒノキチオール、硝酸カリウム、パラチニット等を、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0029】
また、基剤として、アルコール類、シリコン、アパタイト、白色ワセリン、パラフィン、流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン、プラスチベース等を添加することも可能である。
【0030】
また、当該口腔用組成物は、公知の方法または公知の方法から容易に想到する方法により調製することができる。例えば、ヒノキチオール及び/又は銅クロロフィリン金属塩並びに必要に応じてその他の成分を適宜混合することによって調製することができる。
【0031】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0032】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0033】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。なお、以下各種検討成分の量については濃度(ppm)で示すことがあるが、用いた液の1mlあたりの質量は1gより若干大きいものの、およそ1000ppm=0.1質量%と換算できる。
【0034】
ジンジパイン活性抑制成分の探索
各種殺菌・抗炎症成分が奏するジンジパイン活性抑制効果を検討した。検討する成分としては、銅クロロフィリンナトリウム、ヒノキチオール、イソプロピルメチルフェノール(IPMP)、塩化セチルピリジニウム(CPC)、塩酸クロロヘキシジン(CHX)、グリチルリチン酸ジカリウム(GK2)、βグリチルレチン酸、トラネキサム酸、アラントイン、アミノカプロン酸、ビタミンB6(VB6)、及びビタミンEアセテート(VEA;酢酸dl-α-トコフェロールともいう)を用いた。また、検討するP.g菌としては、IV型fimA菌株であるW83を用いた。
【0035】
P.g菌(P.gingivalis W83)をGAM培地にて培養し、吸光度(O.D(600))=1.0に調整した。当該菌液を10000rpmで遠心分離し、上清を回収した。回収した上清中にジンジパインが含まれる。10%DMSOにより各種検討成分を各濃度に調整した溶液200μLを、前記上清20μLと混合し、3分間放置した。3分後、PBSで100倍希釈したジンジパインの基質(Z-Phe-Arg-MCA;株式会社ペプチド研究所)と混合し、遮光して37℃1時間静置した。Z-Phe-Arg-MCAはBenzyloxycarbonyl-L-phenylalanyl-L-arginine 4-methylcoumaryl-7-amide (Hydrochloride Form)であり、Arg-ジンジパイン(Rgp)活性により切断され
て蛍光を発する試薬である。1時間後、蛍光プレートリーダー(Gemini XPS)にて蛍光強度(励起光:380nm、放出光:440nm)を測定した。検討成分濃度が0μg/mLでの蛍光強度を100%になるように換算し、各濃度の検討成分を処理した際のジンジパイン活性を算出した。なお、各濃度について検討はn=2で行い、算出する値は平均値とした。算出された値が小さいほど、ジンジパイン活性が抑制されたことを示す。結果を
図1a及び
図1bに示す。
【0036】
検討に供した各種成分のうち、ヒノキチオール及び銅クロロフィリンナトリウムのみがジンジパイン活性抑制効果を奏することが分かった。
【0037】
ヒノキチオール及び銅クロロフィリンナトリウムのジンジパイン活性抑制効果検討
P.g菌の株として、W83に加え、II型fimA菌株であるOMZ314、及びIV型fimA菌株であるW50を用い、さらにジンジパインの基質としてZ-Phe-Arg-MCAのみならずZ-His-Glu-Lys-MCA(株式会社ペプチド研究所)をも用いて、上記と同様にして、ヒノキチオール及び銅クロロフィリンナトリウムのジンジパイン活性抑制効果を検討した。なお、Z-His-Glu-Lys-MCAはBenzyloxycarbonyl-L-Histidyl-L-Glutamyl-L-Lysine 4-methylcoumaryl-7-amide (Hydrochloride Form)であり、Lys-ジンジパイン(Kgp)活性により切断されて蛍光を発する試薬である。
【0038】
銅クロロフィリンナトリウムを用いた結果を
図2aに、ヒノキチオールを用いた結果を
図2bに、それぞれ示す。なおこれらの図において、横軸は銅クロロフィリンナトリウム又はヒノキチオールの濃度(ppm)を示す。
【0039】
殺菌成分の組み合わせによるジンジパイン活性抑制効果検討
各種殺菌成分を組み合わせて用いた場合の、P.g菌(II型fimA菌株であるOMZ314)が産出するジンジパインの活性抑制効果を検討した。具体的には、銅クロロフィリンナトリウムと、ヒノキチオール、イソプロピルメチルフェノール(IPMP)、塩酸クロロヘキシジン(CHX)、又は塩化セチルピリジニウム(CPC)とを組み合わせて用いた場合の当該効果を、上記と同様にして検討した。銅クロロフィリンナトリウムとヒノキチオールとを組み合わせた場合の結果を
図3aに、銅クロロフィリンナトリウムとIPMPとを組み合わせた場合の結果を
図3bに、銅クロロフィリンナトリウムと塩酸CHXとを組み合わせた場合の結果を
図3cに、銅クロロフィリンナトリウムとCPCとを組み
合わせた場合の結果を
図3dに、それぞれ示す。なお、これらの図において、縦軸はジンジパイン(Rgp)活性(%)を示す。また、各殺菌成分の濃度は質量%で示す。また、「銅クロ」は銅クロロフィリンナトリウムのことを示す。
【0040】
ヒノキチオール以外の検討殺菌成分は、銅クロロフィリンナトリウムと組み合わせて用いても、銅クロロフィリンナトリウムを単独で用いた場合と同等のジンジパイン活性抑制効果しか示さないか、むしろ銅クロロフィリンナトリウムを単独で用いた場合よりもジンジパイン活性抑制効果が低下した。一方で、銅クロロフィリンナトリウムとヒノキチオールとを組み合わせて用いた場合には、特に優れたジンジパイン活性抑制効果が得られた。