(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166429
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】容器の蓋体
(51)【国際特許分類】
B65D 1/40 20060101AFI20241121BHJP
B65D 51/00 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B65D1/40 200
B65D51/00 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024164652
(22)【出願日】2024-09-21
(62)【分割の表示】P 2022141740の分割
【原出願日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2022125239
(32)【優先日】2022-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】517030734
【氏名又は名称】有限会社米田精密金型製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099841
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 恒彦
(72)【発明者】
【氏名】米田 隆治
(57)【要約】
【課題】容器の気密性を保ちながら容器内の保存物を繰り返し取り出せるようにする。
【解決手段】容器10の開口12を気密に閉鎖するための蓋体20は、穿刺部32が一体的に形成された、ポリエチレン樹脂等の軟質樹脂による本体30と、穿刺部32の外表面に積層された、エラストマー材料による膜部40とを備え、穿刺部32がシリンジの中空針60を穿刺可能な薄膜状に形成されており、本体30と膜部40とが射出成形により一体化した2色成形品である。容器10内から保存物50を取り出すときは、膜部40を通じて穿刺部32へ中空針60を穿刺し、容器10内に挿し込む。この中空針60を通じて必要量の保存物50を容器10外に取り出した後、蓋体20から中空針60を抜きとる。中空針60を抜きとった後の蓋体20は、膜部40および穿刺部32に形成された中空針60による細孔が膜部40において閉鎖状態に復元し、容器10の気密性を維持する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器の開口を気密に閉鎖可能であり、かつ、前記容器内の保存物を取出すための細管を穿刺可能な蓋体であって、
前記細管の穿刺部が一体的に形成された、軟質樹脂による本体と、
前記穿刺部の外表面に積層された、エラストマー材料による膜部と、
を備え、
前記穿刺部が前記細管を穿刺可能な薄膜状に形成されており、
前記本体と前記膜部とが射出成形により一体化した2色成形品である、
容器の蓋体。
【請求項2】
前記膜部の表面に潤滑剤層が配置されている、請求項1に記載の容器の蓋体。
【請求項3】
前記穿刺部の内表面に潤滑剤層が配置されている、請求項2に記載の容器の蓋体。
【請求項4】
前記軟質樹脂がポリエチレン樹脂またはフッ素系樹脂である、請求項1に記載の容器の蓋体。
【請求項5】
前記エラストマー材料が天然ゴム、合成ゴム、樹脂系エラストマーまたは熱可塑性エラストマーである、請求項1に記載の容器の蓋体。
【請求項6】
開口を有する容器と、
前記開口を気密に閉鎖するための、請求項1から5のいずれかに記載の蓋体と、
を備えた蓋付容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器の蓋体、特に、容器の開口を気密に閉鎖可能であり、かつ、容器内の保存物を取出すための細管を穿刺可能な蓋体に関する。
【背景技術】
【0002】
少量の溶液、例えば、医薬や試薬などの薬液を収容して保存するための容器として、特許文献1に記載のような、ガラス製や樹脂製の容器の開口をゴム栓で密栓したバイアルが知られている。バイアルから薬液を取り出すときは、例えば、シリンジに装着した中空針をゴム栓に刺し込んで貫通させ、必要量の溶液をシリンジ内に吸引してから中空針をゴム栓から抜きとる。このように、バイアルに収容された薬液は、容器の開口を解放せずにシリンジ内に移動させることができることから、外気と接触することで汚染されたり変質したりするのを防いで所要の目的のために安全に使用することができる。
【0003】
特許文献1に記載のバイアルは、高度の安全性が求められる医療用の薬液の保存、収容を目的としたものであることから、薬液の取り出し後に処分されるのが一般的である。一方、化学分析において使用する各種の試薬や分析試料などの溶液についても、取り出し時の汚染や変質を防ぐ目的でバイアルに保存するのが好ましいことがある。この場合、バイアルは、使い切りにせず、ある程度の量の溶液を収容して必要なときに必要な分量を取り出せるようにするのが便利であり、また、経済的である。
【0004】
しかし、バイアルのゴム栓は、シリンジの中空針を差し込むことで微細な貫通穴が形成されてしまう。よって、バイアル内で引続き保存される溶液は、この貫通穴を通じ、外気と接触して汚染されたり揮散したりする可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、容器の気密性を保ちながら容器内の保存物を繰り返し取り出せるようにしようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、容器の開口を気密に閉鎖可能であり、かつ、容器内の保存物を取出すための細管を穿刺可能な蓋体に関する。この容器の蓋体は、細管の穿刺部が一体的に形成された、軟質樹脂による本体と、穿刺部の外表面に積層された、エラストマー材料による膜部とを備えており、穿刺部が細管を穿刺可能な薄膜状に形成されている。
【0008】
本発明の蓋体により開口が閉鎖された容器内から保存物を取り出すときは、膜部を通じて穿刺部へ細管を穿刺し、細管の先端部を容器内に挿し込む。そして、この細管を通じて必要量の保存物を容器外に取り出した後、蓋体から細管を抜きとる。これにより、容器内の保存物は、外気との接触を抑えて採取される。細管を抜きとった後の蓋体は、膜部および穿刺部に形成された細孔が膜部において閉鎖状態に復元し、容器の気密性を維持する。
【0009】
本発明の蓋体の一形態では、膜部の表面に潤滑剤層が配置されている。この形態の場合、穿刺部の内表面にも潤滑剤層が配置されていてもよい。
【0010】
本発明に係る容器の蓋体は、本体を形成する軟質樹脂が、例えば、ポリエチレン樹脂またはフッ素系樹脂である。
【0011】
また、本発明に係る容器の蓋体は、膜部を形成するエラストマー材料が、例えば、天然ゴム、合成ゴム、樹脂系エラストマーまたは熱可塑性エラストマーである。
【0012】
本発明に係る容器の蓋体は、例えば、本体が射出成形による単色成形品である。また、本発明に係る容器の蓋体は、例えば、本体と膜部とが射出成形により一体化した2色成形品である。後者の場合、本発明に係る容器の蓋体は、例えば、膜部と穿刺部との厚さ方向に貫通する、細管を挿し込むための切り込みを有する。
【0013】
他の観点に係る本発明は蓋付容器に関するものであり、この蓋付容器は、開口を有する容器と、開口を気密に閉鎖するための本発明に係る蓋体とを備えている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る容器の蓋体は、容器の気密性を保ちながら容器内の保存物を繰り返し取り出すことができる。
【0015】
本発明の蓋付容器は、容器の気密性を保ちながら、蓋体を通じて容器内の保存物を繰り返し取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の一形態に係る蓋付容器の正面一部縦断面分解図。
【
図5】前記蓋付容器の蓋体の変形例の正面縦断面図。
【
図6】前記蓋付容器の蓋体の他の変形例の正面縦断面図。
【
図8】前記蓋付容器の他の変形例の
図3に相当する図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図を参照し、本発明の実施の一形態に係る蓋付容器を説明する。蓋付容器1は、医薬、試薬若しくは分析試料などの薬液、インクまたは溶剤などの液体、或いは、粉体、特に、湿気を嫌う粉体を収容して保存するためのものであり、
図1に示すように、容器10と蓋体20とを備えている。
【0018】
容器10は、ガラスや樹脂などの耐溶剤性、耐薬品性を有する材料を用いて形成されたものであり、底部を有しかつ頸部11の径が縮小した円筒状に形成されている(
図2)。頸部11は、開口12を有しており、外周面に螺子溝(図示省略)が形成されている。
【0019】
蓋体20は、本体30と、膜部40とを備えている。
本体30は、容器10に保存する物質に対する耐性(通常は耐溶剤性や耐薬品性)を有する軟質材料を用いて形成されたものである。本体30を形成する軟質材料としては、例えば、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)や直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)等のポリエチレン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニル樹脂、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体樹脂、エチレン・四フッ化エチレン共重合体樹脂およびエチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体樹脂等のフッ素系樹脂、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂並びにエラストマー材料を挙げることができる。エラストマー材料としては、例えば、シリコーンゴム、硫化ゴム、フッ素ゴム並びにポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系およびポリアミド系などの熱可塑性エラストマーを挙げることができる。
【0020】
本体30は、上面が閉鎖しかつ底面が開口した円筒状の部材であり、側壁31の内周面に螺子溝(図示省略)が形成されている。この螺子溝は、容器10の頸部11の外周面に形成された螺子溝に対応するものである。本体30の上面中央部には、円状の穿刺部32が他の部位と一体的に形成されている。穿刺部32は、本体30の他の部位よりも後記する細管を穿刺可能な薄膜状に形成されており、その周縁には本体30の内側下方に環状に突出する補強壁33が形成されている。また、本体30内には、垂れ壁34が配置されている。垂れ壁34は、側壁31から容器10の頸部11の厚さと略同じの隙間35を設けて本体30の上面から内側下方に向けて延びており、穿刺部32と同心の環状に形成されている。
【0021】
本体30は、例えば、射出成形により穿刺部32を含む全体が一体的に成形された単色成形品である。
【0022】
膜部40は、穿刺部32の外表面上に積層されており、エラストマー材料により形成されている。エラストマー材料は、応力が取り除かれたときに弾性力により復元可能なものであれば各種のものを用いることができ、例えば、天然ゴム、ポリブタジエン系ゴム、ニトリル系ゴムおよびクロロプレン系ゴムなどの合成ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムおよびフッ素ゴムなどの樹脂系エラストマー並びにポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系およびポリアミド系などの熱可塑性エラストマーを挙げることができるが、容器10に保存する物質に対する耐性(通常は耐溶剤性や耐薬品性)を有するものを選択するのが好ましい。
【0023】
膜部40は、穿刺部32上にエラストマー材料を塗布またはインサート成形することで形成されてもよいし、膜状のエラストマー材料を穿刺部32上に接着することで形成されてもよい。また、膜部40は、射出成形の2色成形により本体30と同時に形成されたものであってもよい。蓋体20がこのような2色成形品である場合、膜部40のエラストマー材料としてフッ素ゴムまたは熱可塑性エラストマーを用いるのが特に好ましい。
【0024】
膜部40は、例えば、異なるエラストマー材料を用いることで、二層またはそれ以上の多層に形成されていてもよい。
【0025】
液体などの保存物50が収容された容器10は、
図4に示すように、蓋体20の側壁31の内周面の螺子溝を頸部11の外周面の螺子溝に対して螺子止めすると、頸部11が蓋体20の側壁31と垂れ壁34との間に挟み込まれた状態で開口12を閉鎖する。これにより、容器10の開口12は蓋体20により気密に閉鎖される。
【0026】
蓋付容器1に収容、保存された保存物50を取り出すときは、
図4に示すように、細管、例えば、シリンジの中空針60を膜部40からその下層の穿刺部32に向けて刺し込んで貫通させ、容器10内に挿入する。そして、シリンジを操作することで中空針60を通じて保存物50をシリンジ内に吸い上げる。これにより、容器10の保存物50は、外気との接触が抑えられた状態でシリンジ内に移動し、必要量が取り出される。保存物50を取り出したシリンジの中空針60を穿刺部32および膜部40から抜き取ると、中空針60により穿刺部32および膜部40に形成された細孔は、膜部40において膜部40の復元性により封鎖される。すなわち、蓋体20は、中空針60の抜き取り後においても膜部40により容器10を気密に閉鎖し続けることから、容器10内の保存物50は、一部が取り出された後も外気との接触による変性や容器10外への揮発が抑えられ、また、蓋付容器1が転倒したときにも保存物50の漏出が抑えられ、安定に保存される。したがって、蓋付容器1は、容器10の保存物50を安定に保存しながら、必要量を繰り返し取り出すことができる。
【0027】
蓋付容器1は、シリンジの中空針60を通じて容器10内へ保存物50を注入することもできる。例えば、分析用の試料など、一時的に保管が必要なものをシリンジを用いて採取する。そして、清浄な空の蓋付容器1の膜部40からその下層の穿刺部32に向けてシリンジの中空針60を刺し込んで貫通させ、シリンジに採取した試料などを容器10内に注入した後、中空針60を抜き取る。この場合も中空針60により穿刺部32および膜部40に細孔が形成されるが、膜部40に形成された細孔は膜部40の復元性により気密に封鎖される。よって、試料などは、蓋付容器1内において、外気との接触が絶たれた状態で安定に保存され得る。
【0028】
蓋付容器1から保存物50を取り出すとき、或いは、蓋付容器1内に保存物50を注入するときは、シリンジに代えて樹脂製やガラス製等のピペットやスポイトなどの吸引具を用いることもできる。この場合、吸引具の吸い口部分である細管部分を膜部40からその下層の穿刺部32に向けて刺し込んで貫通させ、必要量の保存物50を吸引具内に吸い取るか、吸引具内に採取した試料などの保存物50を押し出して容器10内に注入する。
【0029】
蓋付容器1の蓋体20は、
図5に示すように、膜部40の表面に潤滑剤層70が配置されていてもよい。潤滑剤層70は、細管を刺し込んだときの摩擦接触により細管の表面に潤滑剤の一部を転写し、それによって膜部40から穿刺部32にかけて細管を貫通させることで形成される細孔と細管の表面との摩擦を軽減する。潤滑剤層70を配置すると、細管、特に、製造時のバリが表面に生じやすい樹脂製のピペットやスポイトなどの吸引具の吸い口部分を膜部40から穿刺部32にかけて円滑に穿刺して貫通させることができ、保存物50を汚染する原因となるコアリングの発生を抑えることができる。
【0030】
潤滑剤層70は、通常、膜部40の表面に潤滑剤を塗布することで配置される。潤滑剤としては、例えば、パラフィン系、シリコーン油を含むシリコーン系、ジメチルポリシロキサン等のポリシロキサン系またはポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂を含むフッ素系等の潤滑油またはグリースを用いることができるが、保存物50に対する耐性および安定性を有するものを選択するのが好ましい。潤滑剤としては、シリコーン系またはフッ素系のものが特に好ましい。
【0031】
膜部40の表面に潤滑剤層70が配置されている場合、
図6に示すように、穿刺部32の内表面にも潤滑剤層71を配置することができる。潤滑剤層71は、穿刺部32の内表面に潤滑剤層70において用いられるものと同様の潤滑油を塗布することで配置することができる。潤滑剤層71は、細管を抜き取るときの摩擦接触により細管の表面に潤滑剤の一部を転写することができるため、転写された潤滑剤により細孔と細管の表面との摩擦を軽減して細管の抜き取りをより円滑化することができる。
【0032】
蓋付容器1の蓋体20は、
図7に示すように、膜部40と穿刺部32との厚さ方向に貫通する直線状の切り込み45が設けられていてもよい。この場合、中空針60等の細管は切り込み45を通じて容易に容器10内に挿入することができ、細管の挿入時に保存物50を汚染する原因となるコアリングが生じにくい。また、切り込み45は、細管を抜き取ったときに膜部40において応力が除荷されることで膜部40の復元力により密着し、開口12の気密性を維持し得る。特に、蓋体20が既述の二色成形品であるとき、或いは、膜部40がインサート成形品であるとき、膜部40に残留する成形時の応力が切り込み45の閉鎖方向に加わり、開口12の気密性を高めることができる。
【0033】
切り込み45は、
図8に示すように、円状の膜部40および穿刺部32の略中心位置から均等間隔で三方向の放射状に延びる線状に設けられていてもよい。また、この切り込み45は、四方向またはそれ以上の放射状に形成することもできる。
【0034】
潤滑剤層70、71は、切り込み45を設けた場合においても膜部40の表面に、或いは、膜部40の表面および穿刺部32の内表面の両方に配置することができる。この場合、細管の刺し込み操作および抜き取り操作がより円滑になる。
【0035】
上述の実施の形態では蓋体20が側壁31の内周面に螺子溝を有しており、それによって蓋体20を容器10の頸部11に対して螺子止めすることで固定しているが、容器10に対する蓋体20の固定手段として他の手段を用いることもできる。例えば、容器10側の頸部11の外周面に突起を環状に設けるとともに、蓋体20の側壁31の内周面に頸部11の突起を乗り越え可能な突起を環状に設ける。この形態では、頸部11を蓋体20内に圧入したときに蓋体20が撓んでその内周面の突起が頸部11側の突起を乗り越え、蓋体20が頸部11に対して固定される。
【符号の説明】
【0036】
1 蓋付容器
10 容器
12 開口
20 蓋体
30 本体
32 穿刺部
40 膜部
45 切り込み
50 保存物
60 中空針
70、71 潤滑剤層