(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016651
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】多重殻構造体
(51)【国際特許分類】
F16L 59/065 20060101AFI20240131BHJP
F17C 3/08 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
F16L59/065
F17C3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118937
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 由史
(72)【発明者】
【氏名】児玉 直哉
(72)【発明者】
【氏名】吉本 大介
(72)【発明者】
【氏名】安井 亮太
(72)【発明者】
【氏名】疋田 達也
(72)【発明者】
【氏名】河本 孝
(72)【発明者】
【氏名】藤原 悠輝
【テーマコード(参考)】
3E172
3H036
【Fターム(参考)】
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB01
3E172AB04
3E172AB15
3E172BA04
3E172BA06
3E172BB12
3E172BB17
3E172BC07
3E172BD01
3E172BD05
3E172CA10
3E172DA04
3E172DA90
3E172EA02
3E172KA03
3E172KA11
3H036AA09
3H036AB18
3H036AB24
3H036AB33
3H036AC01
3H036AD09
3H036AE13
(57)【要約】
【課題】第1殻と、第1殻を囲む第2殻と、第1殻と第2殻との間に配置された積層断熱材とを備える多重殻構造体において、第2殻に配置された排気口から第1殻と第2殻との間の空間を強制排気する際に排気の流れが積層断熱材によって阻害されにくい構造を提供する。
【解決手段】多重殻構造体は、第1殻と、第1殻を囲む積層断熱材と、積層断熱材を囲んでおり、排気口を有する第2殻と、第1殻と第2殻の間の中間室において排気口に配置された排気口カバーとを、備える。排気口カバーは、当該排気口カバーの周囲の積層断熱材の表面と対向する主面を有する蓋体と、蓋体と排気口との間を接続しており、中間室と排気口とを連通し且つ開口軸方向が蓋体の主面と実質的に平行である連通口を有する胴体とを、有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1殻と、
前記第1殻を囲む積層断熱材と、
前記積層断熱材を囲んでおり、排気口を有する第2殻と、
前記第1殻と前記第2殻の間の中間室において前記排気口に配置された排気口カバーとを、備え、
前記排気口カバーは、当該排気口カバーの周囲の前記積層断熱材の表面と対向する主面を有する蓋体と、前記蓋体と前記排気口との間を接続しており、前記中間室と前記排気口とを連通し且つ開口軸方向が前記蓋体の前記主面と実質的に平行である連通口を有する胴体とを、有する、
多重殻構造体。
【請求項2】
複数の前記連通口が前記胴体において分散して配置されている、
請求項1に記載の多重殻構造体。
【請求項3】
複数の前記連通口の開口面積の和が、前記排気口の開口面積と実質的に同一である、
請求項2に記載の多重殻構造体。
【請求項4】
前記第1殻と前記積層断熱材の間に配置され、前記第1殻を囲う熱シールドを、更に備える、
請求項1又は2に記載の多重殻構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、真空断熱層を有する多重殻構造体に関する。
【0002】
従来、極低温の液化ガスを収容するための容器として多重殻タンクが用いられている。多重殻タンクには、液化ガスを収容する内槽とこの内槽を包囲する外槽とを有し、内外槽間を真空に近い状態まで減圧された真空断熱層としたものがある。このような多重殻タンクとしては、地上に設置された液化ガス貯蔵タンク、船舶に搭載された荷役タンクや燃料タンク、タンクコンテナが具備する液化ガス輸送タンクなどが例示される。特許文献1では、液化ガス輸送タンクとしての多重殻タンクが開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の多重殻タンク(輸送容器)は、液化ガスを収容する内槽(内側容器)と、内槽を包囲する熱シールドと、熱シールドへ供給する冷媒を収容する冷媒タンクと、内槽、熱シールド及び冷媒タンクを包囲する外槽(外側容器)とを備える。内槽の外面は、多重の箔状の要素から成る積層断熱材(Multilayer Insulation:MLI)で被覆されている。そして、内槽と外槽の間の中間室は真空に近い状態まで減圧された真空断熱層となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、多重殻タンクの内外槽間を真空とするために、外槽に配置された排気口に真空ポンプを接続し、真空ポンプを稼働して内外槽間を強制排気する。ところが、特許文献1のように内槽の外面が積層断熱材で被覆されたものにおいては、排気口に生じる吸引力によって内槽から剥がれたり浮き上がったりした積層断熱材が排気の流れを阻害して、内外槽間を目的の真空度まで排気するために想定より多くの時間を要することがあった。
【0006】
本開示は以上の事情に鑑みてなされたものであり、第1殻と、第1殻を囲む第2殻と、第1殻と第2殻との間に配置された積層断熱材とを備える多重殻構造体において、第2殻に配置された排気口から第1殻と第2殻との間の空間を強制排気する際に排気の流れが積層断熱材によって阻害されにくい構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る多重殻構造体は、
第1殻と、
前記第1殻を囲む積層断熱材と、
前記積層断熱材を囲んでおり、排気口を有する第2殻と、
前記第1殻と前記第2殻の間の中間室において前記排気口に配置された排気口カバーとを、備え、
前記排気口カバーは、当該排気口カバーの周囲の前記積層断熱材の表面と対向する主面を有する蓋体と、前記蓋体と前記排気口との間を接続しており、前記中間室と前記排気口とを連通し且つ開口軸方向が前記蓋体の前記主面と実質的に平行である連通口を有する胴体とを、有するものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、第1殻と、第1殻を囲む第2殻と、第1殻と第2殻との間に配置された積層断熱材とを備える多重殻構造体において、第2殻に配置された排気口から第1殻と第2殻との間の空間を強制排気する際に排気の流れが積層断熱材によって阻害されにくい構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の第1実施形態に係る多重殻タンクを具備するタンクコンテナ1の概略構成を示す図である。
【
図3】
図3は、排気口カバーの構造を示す外殻の排気口周辺の断面図である。
【
図4】
図4は、排気口カバーにおける排気の流れを示す外殻の排気口周辺の断面図である。
【
図5】
図5は、本開示の第2実施形態に係る真空多重管の概略構成を示す断面図である。
【
図6】
図6は、排気口カバーの構造を示す外殻の排気口周辺の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示に係る多重殻構造体は、第1殻と、第1殻を囲む第2殻とを備え、第1殻と第2殻の間に積層断熱材が配置され且つ真空に近い状態まで減圧された真空断熱層を有する。以下では、このような多重殻構造体を多重殻タンクに適用した第1実施形態と、真空多重管15に適用した第2実施形態を説明する。
【0011】
〔第1実施形態〕
第1実施形態に係る多重殻構造体は、多重殻タンク11である。
図1は、本開示の第1実施形態に係る多重殻構造体を具備するタンクコンテナ1の概略構成を示す図であり、本図では外殻22内が透過して示されている。
図1に示すタンクコンテナ1は、液化ガスを船舶及び車両によって輸送する際に用いられる。液化ガスは、例えば、液化ヘリウム、液化水素、及び、液化天然ガスなどの極低温で液体である。以下では、タンクコンテナ1の構成について説明する。
【0012】
<タンクコンテナ1の概略構成>
タンクコンテナ1は、多重殻構造体である多重殻タンク11と、多重殻タンク11を支持する枠体12とを備える。多重殻タンク11には略水平な中心軸Cが規定されており、この中心軸Cの延伸方向を「軸方向X」と称する。多重殻タンク11は、中心軸Cを軸心とする円筒状を呈し、多重殻タンク11の長手方向は軸方向Xと略平行である。枠体12は、多重殻タンク11の軸方向Xの両端部に配置された支持部を有する。枠体12によって、多重殻タンク11の長手方向の両端部が支持されることによって、多重殻タンク11は枠体12に相対移動不能に保持される。
【0013】
タンクコンテナ1が具備する多重殻タンク11は、輸送中の液化ガスの気化を抑制するために、貯蔵される液化ガスを極低温に保つ断熱構造を有する。多重殻タンク11は、内殻21と、外殻22と、熱シールド24と、冷媒タンク46とを備える。
【0014】
内殻21は、例えばSUS等の金属から成り、中心軸Cを軸心とする円筒状の胴部と、当該胴部の両端を閉塞する鏡板部とを有する。内殻21の中には、液化ガスが密閉した状態で収容される。外殻22は、内殻21の全周囲を覆っている。外殻22は、例えばSS材やSUS等の金属から成り、中心軸Cを軸心とする円筒状の胴部と、当該胴部の両端を閉塞する鏡板部とを有する。外殻22は、その中に内殻21を収めるべく内殻21より大きく、内殻21の外壁と外殻22の内壁は離間している。
【0015】
内殻21は、支持軸30を介して外殻22に支持されている。支持軸30は、中心軸Cと重複して配置された、軸方向Xに延びる軸状部材である。支持軸30は、内殻21及び外殻22の双方と結合されている。
【0016】
内殻21の軸方向Xの両端部は、複数の懸架ロッド33を介して外殻22に支持されている。各懸架ロッド33の基端部は内殻21の長手方向の端部と結合されており、各懸架ロッド33の先端部は外殻22と結合されている。複数の懸架ロッド33は中心軸Cを中心として放射状に延びるように配置されている。このように、支持軸30及び複数の懸架ロッド33によって、内殻21は、外殻22の内部において、外殻22の内壁から離れた状態で、換言すれば、外殻22の内部に浮いた状態で外殻22に支持されている。
【0017】
図2は、多重殻タンク11の縦断面図である。
図1及び
図2に示すように、内殻21と外殻22との間には、空洞状の中間室25が形成されている。中間室25は、対流熱伝達を抑制するために真空近くまで減圧された状態(以下、「真空状態」と称する)となっている。また、中間室25には、内殻21を被覆する積層断熱材26が配置されている。積層断熱材26は、MLI(Multilayer Insulation)と称され、薄いシートの複数の層で構成される断熱材である。積層断熱材26の構成は特に限定されないが、内殻21に収容される液化ガスの温度に対応した断熱性能を備えたものであることが望ましい。積層断熱材26は、例えば、放射率が低いアルミ蒸着フィルムと、フィルム相互の接触を防止する熱伝導率が低いポリエステル不織布を多数積層したものであり、輻射伝熱を抑制する。
【0018】
中間室25には、熱シールド24が配置されている。熱シールド24は、外殻22からの輻射熱の一部を吸収し、内殻21への入熱を遮断する。熱シールド24は、積層断熱材26で被覆された内殻21を覆うシールド板23と、シールド板23の表面に配置されて冷媒44が流れる冷却管41とを有する。シールド板23は、例えばアルミニウム等の金属製のパネル材から成り、中心軸Cを軸心とする円筒状を呈する。シールド板23の長手方向は中心軸Cの延伸方向と略平行である。
【0019】
冷却管41は、シールド板23の表面に沿って配置されている。冷却管41には冷媒タンク46から供給された冷媒44が流れ、冷媒44がシールド板23と熱交換することにより、シールド板23の表面温度が極低温に保持される。冷媒タンク46は内殻21の軸方向Xの端部と外殻22との間に配置されており、支持軸30が冷媒タンク46を軸方向Xに貫いている。冷媒タンク46の中には冷媒44が貯留されている。冷媒44は、例えば、液体窒素などの低温の液体である。冷媒44の種類は、内殻21に収容される液化ガスの種類に応じて選択されてよい。
【0020】
中間室25には、熱シールド24を被覆する積層断熱材27が配置されている。積層断熱材27は、内殻21を被覆する積層断熱材26と同種のものであってもよいし、異なる種類のものであってもよい。積層断熱材27の構成は特に限定されないが、内殻21に収容される液化ガスの温度に対応した断熱性能を備えたものであることが望ましい。このように熱シールド24を被覆している積層断熱材27を備える多重殻タンク11では、内殻21を被覆している積層断熱材26が省略されてもよい。
【0021】
<中間室25の排気構造>
ここで、中間室25の排気構造について説明する。
図2に示すように、外殻22には排気口63が設けられている。
図2では1か所の排気口63が示されているが、排気口63は外殻22の複数個所に設けられていてもよい。特に限定されるわけではないが、
図2に示す例では、外殻22を壁厚方向に貫く排気管64が外殻22に配置されており、この排気管64によって排気口63が形成されている。排気口63の流路断面と垂直な方向を排気口63の「開口軸方向Y1」とする。本実施形態では、排気口63の開口軸方向Y1は排気管64の管軸の延伸方向と実質的に平行である。排気管64の一方の端部は中間室25に配置され、排気管64の他方の端部は外殻22の外部に配置されてバルブ66で開閉可能に閉塞されている。中間室25を真空引きする際には、排気管64にバルブ66及び配管を介して真空ポンプ65が接続され、中間室25と真空ポンプ65とが連通される。
【0022】
中間室25において排気口63には排気口カバー7が配置されている。より詳細には、排気管64の端部に排気口カバー7が取り付けられている。
図3は、排気口カバー7の構造を示す外殻22の排気口63周辺の断面図である。
図3に示すように、排気口63を覆うように、排気口63に排気口カバー7が配置されている。排気口カバー7は、胴体71と、蓋体72とを有する。本実施形態では、排気口カバー7と排気管64は別体であり排気管64に排気口カバー7が取り付けられているが、排気管64の先端に排気口カバー7が一体的に設けられていてもよいし、排気管64の先端に排気口カバー7の胴体71が一体的に形成されており、そこに蓋体72が取り付けられていてもよい。
【0023】
排気口カバー7の蓋体72の主面72aは、排気口63の周囲の積層断熱材27の表面と対向している。なお、排気口63の周囲の積層断熱材27とは、積層断熱材27のうち排気口63を開口軸方向Y1へ延長した領域に存在する部分を少なくとも含む。排気口カバー7の周囲の積層断熱材27の表面は平面ではなく曲面である場合もあり、また、蓋体72の主面72aも平面に限定されない。従って、蓋体72の主面72aと積層断熱材27の表面とは対向しているがこれらの面が平行であることに限定されない。
【0024】
胴体71は、蓋体72と排気口63との間を接続している。本実施形態に係る排気口カバー7の胴体71は、排気口63の開口軸方向Y1と実質的に平行に延びる筒状を呈する。但し、胴体71の態様は本実施形態に限定されない。
【0025】
排気口カバー7の胴体71には、複数の連通口73が開口している。複数の連通口73は、望ましくは、胴体71において周方向に分散して配置されている。各連通口73は、中間室25と排気口63とを連通している。また、連通口73の流路断面と垂直な方向を連通口73の「開口軸方向Y2」としてときに、各連通口73の開口軸方向Y2は蓋体72の主面72aと実質的に平行である。ここで「実質的に平行」とは、平行であることと、厳密には平行でないが後述する整流機能を発揮できる程度に概ね平行であることが含まれる。本実施形態では、各連通口73の開口軸方向Y2は、排気口63の開口軸方向Y1と実質的に直交する。
【0026】
排気口カバー7によって排気口63を通過する気体の流量が減少しないように、複数の連通口73の流路断面積の合計は、排気口63の流路断面積と実質的に同じであることが望ましい。
【0027】
図4は、排気口カバー7における排気の流れを示す外殻22の排気口63周辺の断面図であり、本図では排気の流れが矢印で示されている。
図4に示すように、排気管64に真空ポンプ65が接続されて真空ポンプ65が稼働すると、排気口63に強制的な排気の流れが生じる。中間室25の気体は、排気口カバー7の連通口73を通じて排気管64内へ進入する。排気口カバー7の整流作用によって、中間室25から排気口カバー7を通じて排気管64へ進入する気体の流れは、連通口73の開口軸方向Y2と実質的に平行となる。排気管64へ進入した気体の流れは、排気管64によって排気口63の開口軸方向Y1と実質的に平行に整流される。
【0028】
排気口63の開口軸方向Y1の先には気体の排気口カバー7の蓋体72が存在して気体の通過が遮断されていることから、中間室25の気体は排気口63の開口軸方向Y1と実質的に平行に排気口63へ進入することはできない。よって、中間室25において、排気口カバー7の周囲では、連通口73の開口軸方向Y2と実質的に平行な排気の流れが生じる。連通口73の開口軸方向Y2は、排気口カバー7の周囲における積層断熱材27の表面の面内方向と実質的に平行である。つまり、排気口カバー7の周囲では、積層断熱材27を面外方向へ引っ張る気体の流れは殆ど生じない。よって、排気口カバー7の周囲における積層断熱材27が排気の流れによって剥がれたり浮き上がったりして定位置から移動することが抑制され、定位置から移動した積層断熱材27によって排気口63が塞がれることを防止できる。このように、排気の流れが積層断熱材27によって阻害されないので、中間室25を目標の真空度まで速やかに排気できる。
【0029】
本実施形態において、多重殻タンク11はタンクコンテナ1に具備される輸送用タンクであるが、多重殻タンク11の構造は地上に設置された貯蔵用タンクや、船舶等の浮体構造物に搭載された燃料タンク及び貯蔵用タンクに適用されてもよい。また、多重殻タンク11は二重殻タンクに限定されず、三重以上の多重殻を備えていてもよい。この場合の多重殻タンクは、殻の数に関わらず、内外に隣接する第1殻及び第2殻と、第1殻と第2殻の間に配置された積層断熱材とを備え、第2殻が第1殻と第2殻の間の空間を減圧するための排気口を有し、この排気口に排気口カバー7が配置されていればよい。
【0030】
〔第2実施形態〕
次に、本開示の第2実施形態を説明する。
図5は、本開示の第2実施形態に係る真空多重管15の概略構成を示す断面図である。
図5に示すように、第2実施形態に係る多重殻構造体は、真空多重管15である。真空多重管15は、例えば、極低温で液体や気体を通すための配管として利用される。
【0031】
真空多重管15は、内殻121と、内殻121を囲む外殻122とを備える。内殻121及び外殻122は何れも管であって、内殻121と外殻122とにより二重管が構成されている。内殻121には、極低温の液体や気体が通される。内殻121と外殻122との間には、空洞状の中間室125が形成されている。中間室125には、内殻121を被覆する積層断熱材126が配置されている。更に、中間室25は、対流熱伝達を抑制するために真空状態となっており、中間室125は真空断熱層として機能する。
【0032】
ここで、中間室125の排気構造について説明する。外殻122には排気口163が設けられている。
図5では1か所の排気口163が示されているが、排気口163は外殻122の複数個所に設けられていてもよい。特に限定されるわけではないが、
図5に示す例では、外殻122を壁厚方向に貫く排気管164が外殻122に配置されており、この排気管164によって排気口163が形成されている。排気管164の一方の端部は中間室125に配置され、排気管164の他方の端部は外殻122の外部に配置されてバルブ166で開閉可能に閉塞されている。中間室125を真空引きする際には、排気管164にバルブ166及び配管を介して真空ポンプ65が接続され、中間室125と真空ポンプ65とが連通される。
【0033】
中間室125において排気口163には排気口カバー7が配置されている。より詳細には、排気管164の端部に排気口カバー7が取り付けられている。
図6は、排気口カバー7の構造を示す外殻122の排気口163周辺の断面図である。
図6に示すように、排気口カバー7の構造は、第1実施形態に係る排気口カバー7の構造と実質的に同一であるので、前述の第1実施形態と同一又は類似の部材に同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0034】
排気口カバー7は、蓋体72の主面72aが積層断熱材126の表面と対向するように、排気口163に配置される。このような排気口カバー7は、胴体71の延伸方向が排気口163の開口軸方向Y1と実質的に平行となるように配置されている。
【0035】
上記構成の真空多重管15において、排気管164に真空ポンプ65が接続されて真空ポンプ65が稼働すると、排気口163に強制的な排気の流れが生じる。中間室125の気体は、排気口カバー7の連通口73を通じて排気管164内へ進入する。排気口カバー7の整流作用によって、中間室125から排気口カバー7を通じて排気管164へ進入する気体の流れは、連通口73の開口軸方向Y2と実質的に平行である。排気管164へ進入した気体の流れは、排気管164によって排気口63の開口軸方向Y1と実質的に平行に整流される。
【0036】
排気口163の開口軸方向Y1の先には排気口カバー7の蓋体72が存在することから、中間室125の気体は排気口163の開口軸方向Y1と実質的に平行に排気口カバー7内へ進入することはできない。よって、中間室125において、排気口カバー7の周囲では、排気口163の開口軸方向Y1と実質的に平行な排気の流れは殆ど生じず、連通口73の開口軸方向Y2と実質的に平行な排気の流れが生じる。連通口73の開口軸方向Y2は、排気口カバー7の周囲における積層断熱材126の表面の面内方向と実質的に平行である。つまり、排気口カバー7の周囲では、積層断熱材126を面外方向へ引っ張る気体の流れは殆ど生じない。よって、排気口カバー7の周囲における積層断熱材126が排気の流れによって剥がれたり浮き上がったりして定位置から移動することが抑制され、定位置から移動した積層断熱材126によって排気口163が塞がれることを防止できる。このように、排気の流れが積層断熱材126によって阻害されないので、中間室125を目標の真空度まで速やかに排気できる。
【0037】
〔総括〕
本開示の第1の項目に係る多重殻構造体11;15は、
第1殻21;121と、
第1殻21;121を囲む積層断熱材27;126と、
積層断熱材27;126を囲んでおり、排気口63;163を有する第2殻22;122と、
第1殻21;121と第2殻22;122の間の中間室25;125において排気口63;163に配置された排気口カバー7とを、備え、
排気口カバー7は、排気口カバー7の周囲の積層断熱材27;126の表面と対向する主面72aを有する蓋体72と、蓋体72と排気口63;163との間を接続しており、中間室25;125と排気口63;163とを連通し且つ開口軸方向Y2が蓋体72の主面72aと実質的に平行である連通口73を有する胴体71とを、有するものである。
上記において、多重殻構造体11;15は、第1実施形態においては多重殻タンク11が、第2実施形態においては真空多重管15が夫々対応する。第1殻21;121は、第1実施形態においては内殻21が、第2実施形態においては内殻121が夫々対応する。また、第2殻22;122は、第1実施形態においては外殻22が、第2実施形態においては外殻122が夫々対応する。
【0038】
上記構成の多重殻構造体11;15では、中間室25;125を強制排気するために排気口63;163に吸引力が発生した際に、中間室25;125の気体は、排気口カバー7の連通口73を通じて排気口63;163へ至る。排気口カバー7の整流作用によって、中間室25から排気口カバー7を通じて排気口63;163へ至る気体の流れは、連通口73の開口軸方向Y2と実質的に平行となる。よって、中間室25;125において、排気口カバー7の周囲では、連通口73の開口軸方向Y2と実質的に平行な排気の流れが生じる。連通口73の開口軸方向Y2は、排気口カバー7の周囲における積層断熱材27;126の表面の面内方向と実質的に平行である。つまり、排気口カバー7の周囲では、積層断熱材27;126を面外方向へ引っ張る気体の流れは殆ど生じない。よって、排気口カバー7の周囲における積層断熱材27;126が排気の流れによって剥がれたり浮き上がったりして定位置から移動することが抑制され、定位置から移動した積層断熱材27;126によって排気口63;163が塞がれることを防止できる。このように、排気の流れが積層断熱材27;126によって阻害されないので、中間室25;125を目標の真空度まで速やかに排気できる。
【0039】
本開示の第2の項目に係る多重殻構造体11;15は、第1の項目に係る多重殻構造体11;15において、複数の連通口73が胴体71において分散して配置されているものである。
【0040】
これにより、中間室25;125の気体は排気口カバー7の周囲の複数個所から分散して排気口63;163へ進入できる。
【0041】
本開示の第3の項目に係る多重殻構造体11;15は、第2の項目に係る多重殻構造体11;15において、複数の連通口73の開口面積の和が、排気口63;163の開口面積と実質的に同一であるものである。
【0042】
これにより、排気口カバー7による排気口63;163を通過する気体の流量の減少度合いを小さくできる。
【0043】
本開示の第4の項目に係る多重殻構造体11は、第1~3のいずれかの項目に係る多重殻構造体11において、第1殻21と積層断熱材27の間に配置され、第1殻21を囲う熱シールド24を、更に備えるものである。
【0044】
このように、多重殻タンク11は、第1殻21を輻射熱からシールドする熱シールド24を備えるので、多重殻タンク11はタンクコンテナ1に具備される輸送容器として好適である。
【0045】
以上の本開示の議論は、例示及び説明の目的で提示されたものであり、本開示を本明細書に開示される形態に限定することを意図するものではない。例えば、前述の詳細な説明では、本開示の様々な特徴は、本開示を合理化する目的で2つの実施形態に纏められているが、複数の特徴のうち幾つかが組み合わされてもよい。また、本開示に含まれる複数の特徴は、上記で論じたもの以外の代替の実施形態、構成、又は態様に組み合わされてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 :タンクコンテナ
7 :排気口カバー
11 :多重殻タンク(多重殻構造体の一例)
15 :真空多重管(多重殻構造体の一例)
21,121:内殻(第1殻の一例)
22,122:外殻(第2殻の一例)
24 :熱シールド
25,125:中間室
26,27,126:積層断熱材
63,163:排気口
64,164:排気管
71 :胴体
72 :蓋体
72a :主面
73 :連通口
Y2 :開口軸方向