(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166518
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】非塗工紙タイプの印刷用紙の製造方法及び非塗工紙タイプの印刷用紙
(51)【国際特許分類】
D21H 19/24 20060101AFI20241122BHJP
D21H 19/12 20060101ALI20241122BHJP
D21H 17/67 20060101ALI20241122BHJP
B41M 5/50 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
D21H19/24 C
D21H19/12
D21H17/67
B41M5/50 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082666
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】名越 応昇
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 巨訓
(72)【発明者】
【氏名】鳥山 香奈子
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 宏二
(72)【発明者】
【氏名】浦崎 淳
【テーマコード(参考)】
2H186
4L055
【Fターム(参考)】
2H186BA09
2H186CA15
2H186DA01
2H186DA12
2H186DA19
2H186DA20
4L055AA03
4L055AC06
4L055AF09
4L055AG07
4L055AG08
4L055AG10
4L055AG12
4L055AG40
4L055AG48
4L055AG64
4L055AG71
4L055AG87
4L055AH01
4L055AH09
4L055AH11
4L055AH13
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4L055AH18
4L055AH50
4L055BE02
4L055BE08
4L055CD01
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4L055CH02
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4L055EA10
4L055EA11
4L055FA15
4L055GA09
4L055GA15
(57)【要約】
【課題】塗工層を有しない非塗工紙で75度光沢が10%以上23%以下及びインクジェット印刷機に対する印刷適性を有する非塗工紙タイプの印刷用紙の製造方法を提供する。
【解決手段】セルロースパルプ及び炭酸カルシウムを含有する紙料を調成する工程、前記紙料を抄造する工程、前記抄造する工程で得られた抄造紙に表面サイズ剤とカチオン性樹脂及び水溶性多価陽イオン塩から成る群から選ばれる一種又は二種以上の化合物とを含むサイズプレス液を用いてサイズプレス処理する工程、並びに前記サイズプレス処理する工程後の抄造紙をスーパーカレンダー処理する工程を有し、接触時間10秒のCobb吸水度を坪量で除した値の前記カレンダー処理前後の数値差が0.050以上0.160以下かつ前記カレンダー処理後のCobb吸水度を紙の坪量で除した値が1.050以上1.210以下である、非塗工紙タイプの印刷用紙の製造方法によって達成される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースパルプと炭酸カルシウムを主成分として含有する紙料を調成する工程、前記紙料を抄造する工程、前記抄造する工程で得られた抄造紙に表面サイズ剤とカチオン性樹脂及び水溶性多価陽イオン塩から成る群から選ばれる一種又は二種以上の化合物とを含むサイズプレス液を用いてサイズプレス処理する工程、並びに前記サイズプレス処理する工程後の抄造紙をスーパーカレンダー処理する工程を有し、
前記スーパーカレンダー処理する工程に関して、ISO535:1991に準じて求められる接触時間10秒における紙のCobb吸水度(g/m2)を紙の坪量(g/m2)で除した値の前記スーパーカレンダー処理前後の数値差が0.050以上0.160以下、かつ前記スーパーカレンダー処理後のISO535:1991に準じて求められる接触時間10秒における紙のCobb吸水度(g/m2)を紙の坪量(g/m2)で除した値が1.050以上1.210以下である、非塗工紙タイプの印刷用紙の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法によって製造され、角度を75度に設定したISO2813:1994/Cor 1:1997に準じて求められる75度光沢が10%以上23%以下である非塗工タイプの印刷用紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色顔料を含む塗工層を有しない非塗工紙タイプの印刷用紙の製造方法に関し、特に、デジタル印刷機の一種であるインクジェット印刷機に好適な非塗工紙タイプの印刷用紙の製造方法に関する。また、前記製造方法によって製造される非塗工紙タイプの印刷用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
商業印刷物を製造するための印刷機には、可変情報を取り扱うことができるデジタル印刷機又はオンデマンド印刷機(以下、合わせて「デジタル印刷機」と記す)が存在する。その代表格としては、インクジェット記録方式を使用するインクジェット印刷機が公知である。インクジェット印刷機は、例えば、SCREENグラフィックソリューションズ社のTruepressJet(登録商標)、ミヤコシ社のMJPシリーズ、コダック社のProsper(登録商標)及びVERSAMARK(登録商標)及び富士フイルム社のJetPress(登録商標)などの名称で既に存在する。
【0003】
インクジェット印刷機は、印刷諸条件に依存するものの一般家庭向け及びSOHO向けインクジェットプリンター、並びに大判インクジェットプリンターに比べてカラー印刷速度が数十倍と速く、印刷速度が60m/分以上、より高速では100m/分を超える。このため、インクジェット印刷機は、一般家庭向け及びSOHO向けインクジェットプリンター及び大判インクジェットプリンターと区別される。
【0004】
商業印刷物を生産するために市場に存在する印刷機は、依然、デジタル印刷機の登場以前のオフセット印刷機が多い。すなわち、商業印刷物を生産するために市場に存在する印刷機は、インクジェット印刷機に代表されるデジタル印刷機とオフセット印刷機とが混在する。従って、印刷用紙には、両印刷機に対する印刷適性が必要である。
【0005】
非塗工紙でありながら軽量の塗工紙[LWC紙(LightWeight Coated Paper)]のような光沢を有する非塗工紙タイプの印刷用紙の製造方法が公知である(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された製造方法によって得る印刷用紙は、「スーパーカレンダー紙」と呼ばれる。昨今、欧米では、雑誌、宣伝用のチラシ及びカタログ類の商業印刷物用途にスーパーカレンダー紙をオフセット印刷機又はグラビア印刷機の印刷用紙として使用する。スーパーカレンダー紙は、従来の非塗工紙とLWC紙との中間的な品質を有する。しかしながら、特許文献1に記載のスーパーカレンダー紙は、白紙光沢が30%以上であって、光沢が幾分高めである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
白色顔料を含む塗工層を有しない非塗工紙でありながら、角度75度に設定したISO2813:1994/Cor 1:1997「Paints and varnishes-Determination of specular gloss of non-metallic paint films at 20 degrees, 60 degrees, and 85 degrees,-Technical corrigendum 1」に準じて求められる75度光沢が10%以上23%以下であり、オフセット印刷機だけでなくデジタル印刷機に対する印刷適性、特に、インクジェット印刷機に対する印刷適性を有する、及びLWC紙のような弱い光沢を有する非塗工紙タイプの印刷用紙の製造方法を提供することである。
さらに、本発明の製造方法によって、オフセット印刷機だけでなく、デジタル印刷機に対する印刷適性、特に、インクジェット印刷機に対する印刷適性を有する、LWC紙のような弱い光沢を有する非塗工紙タイプの印刷用紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、下記の本発明によって解決できる。
【0009】
[1]セルロースパルプと炭酸カルシウムを主成分として含有する紙料を調成する工程、前記紙料を抄造する工程、前記抄造する工程で得られた抄造紙に表面サイズ剤とカチオン性樹脂及び水溶性多価陽イオン塩から成る群から選ばれる一種又は二種以上の化合物とを含むサイズプレス液を用いてサイズプレス処理する工程、並びに前記サイズプレス処理する工程後の抄造紙をスーパーカレンダー処理する工程を有し、前記スーパーカレンダー処理する工程に関して、ISO535:1991「Paper and board-Determination of water absorptiveness-Cobb mthod」に準じて求められる接触時間10秒における紙のCobb吸水度(g/m2)を紙の坪量(g/m2)で除した値の前記スーパーカレンダー処理前後の数値差が0.050以上0.160以下、かつ前記スーパーカレンダー処理後のISO535:1991に準じて求められる接触時間10秒における紙のCobb吸水度(g/m2)を紙の坪量(g/m2)で除した値が1.050以上1.210以下である、非塗工紙タイプの印刷用紙の製造方法。
【0010】
[2]上記[1]に記載の製造方法によって製造され、角度を75度に設定したISO2813:1994/Cor 1:1997に準じて求められる75度光沢が10%以上23%以下である非塗工タイプの印刷用紙。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、白色顔料を含む塗工層を有しない非塗工紙でありながら、角度75度に設定したISO2813:1994/Cor 1:1997に準じて求められる75度光沢が10%以上23%以下であり、インクジェット印刷機に対する印刷適性を有する非塗工紙タイプの印刷用紙の製造方法を提供することができる。さらに、本発明により、前記製造方法によって、オフセット印刷機だけでなく、デジタル印刷機に対する印刷適性、特に、インクジェット印刷機に対する印刷適性を有する非塗工紙タイプの印刷用紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の非塗工紙タイプの印刷用紙について詳細に説明する。本明細書中で使用される場合、「インクジェット印刷」とは、インクジェット印刷機を使用して印刷することを指す。また、「非塗工紙タイプ」とは、印刷用紙の断面を電子顕微鏡によって拡大観察した際に、塗工紙で観察されるような白色顔料を含有する塗工層を視認することができない印刷用紙を指す。
【0013】
非塗工紙タイプの印刷用紙の製造方法は、セルロースパルプと炭酸カルシウムを主成分として含有する紙料を調成する工程、前記紙料を抄造する工程、前記抄造する工程で得られた抄造紙にサイズプレス液を用いてサイズプレス処理する工程、及び前記サイズプレス処理する工程後の抄造紙をスーパーカレンダー処理する工程を有する。なおかつ、非塗工紙タイプの印刷用紙の製造方法では、ISO535:1991に準じて求められる接触時間10秒における紙のCobb吸水度(g/m2)を紙の坪量(g/m2)で除した値の前記スーパーカレンダー処理前後の数値差が0.050以上0.160以下、かつ前記スーパーカレンダー処理後のISO535:1991に準じて求められる接触時間10秒における紙のCobb吸水度(g/m2)を紙の坪量で除した値が1.050以上1.210以下である。
【0014】
抄造する工程に用いる紙料は、セルロースパルプと炭酸カルシウムを主成分として含有する。本発明において主成分とは、得られる抄造紙の質量においてセルロースパルプ及び炭酸カルシウムの合計が60質量%以上占めることを指す。
【0015】
紙料を調成する工程は、セルロースパルプ及び炭酸カルシウム並びに必要に応じて各種添加剤を混合する、製紙分野で従来公知の方法である。いくつかの実施態様において、紙料を調成する工程は、水を媒体とする離解及び叩解したセルロースパルプのスラリーに、炭酸カルシウム、さらに必要に応じて製紙分野で従来公知の各種添加剤を混合する方法である。前記添加剤は、例えば、炭酸カルシウム以外の填料、填料分散剤、内添サイズ剤、定着剤、歩留まり向上剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、紙力剤及び紙力増強剤などを挙げることができる。
【0016】
セルロースパルプは、製紙分野で従来公知の木材パルプ及び非木材パルプから成る群から選ばれる一種又は二種以上である。
木材パルプは、例えば、LBKP(Leaf Bleached Kraft Pulp)及びNBKP(Needle Bleached Kraft Pulp)などの化学パルプ、GP(Groundwood Pulp)、PGW(Pressure GroundWood pulp)、RMP(Refiner Mechanical Pulp)、TMP(ThermoMechanical Pulp)、CTMP(ChemiThermoMechanical Pulp)及びCMP(ChemiMechanical Pulp)などの機械パルプ、CGP(ChemiGroundwood Pulp)などのセミケミカルパルプ、DIP(DeInked Pulp)などの古紙パルプ(Waste Paper Pulp)、並びに製紙工場で発生する損紙(Spoilage)を離解して成るパルプを挙げることができる。
非木材パルプは、製紙分野で従来公知の非木材繊維からなるパルプである。非木材繊維の原料は、例えば、コウゾ、ミツマタ及びガンピなどの木本靭皮、亜麻、大麻及びケナフなどの草本靭皮、マニラ麻、アバカ及びサイザル麻などの葉繊維、イネわら、ムギわら、サトウキビバガス、タケ及びエスパルトなどの禾本科植物、並びにワタ及びリンターなどの種毛を挙げることができる。
【0017】
炭酸カルシウムは、填料の一種に該当する。
紙料は、軽質炭酸カルシウム及び重質炭酸カルシウムから成る群から選ばれる一種又は二種以上の炭酸カルシウムを含有する。紙料は、炭酸カルシウム以外に、タルク及びカオリンなど製紙分野で従来公知の各種填料を含有することができる。
いくつかの実施態様において、紙料中の炭酸カルシウムの含有量は、紙料における炭酸カルシウムを含めた填料全体に対して60質量%以上である。この理由は、製造された印刷用紙のインクジェット印刷機に対する印刷適性が良化するからである。
【0018】
紙料を抄造する工程は、紙料を製紙分野で従来公知の抄紙方法を用いて抄造紙を製造する方法であり、酸性抄造、中性抄造又はアルカリ性抄造のいずれであってもよい。いくつかの実施態様において、紙料を抄造する工程は、抄紙機を用いて抄造する方法である。抄紙機は、製紙分野で従来公知のものである。抄紙機は、例えば、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、コンビネーション抄紙機、円網抄紙機及びヤンキー抄紙機などを挙げることができる。
【0019】
サイズプレス液を用いてサイズプレス処理する工程は、製紙分野で従来公知のサイズプレス処理する方法である。いくつかの実施態様において、サイズプレス液を用いてサイズプレス処理する工程は、サイズプレス処理装置を用いてサイズプレス処理する方法である。サイズプレス処理装置は、例えば、インクラインドサイズプレス、ホリゾンタルサイズプレス、フィルムトランスファー方式としてロッドメタリングサイズプレス、ロールメタリングサイズプレス、ブレードメタリングサイズプレスを、ロッドメタリングサイズプレスではシムサイザー、オプティサイザー、スピードサイザー、フィルムプレスを、ロールメタリングサイズプレスではゲートロールコーターを挙げることができる。その他のサイズプレス処理装置は、例えば、ビルブレードコーター、ツインブレードコーター、ベルバパコーター、タブサイズプレス、カレンダーサイズプレスなどを挙げることができる。
【0020】
サイズプレス液は、カチオン性樹脂及び水溶性多価陽イオン塩から成る群から選ばれる一種又は二種以上を含有する。
いくつかの実施態様において、サイズプレス液は、カチオン性樹脂から成る群から選ばれる一種又は二種以上を含有しかつ水溶性多価陽イオン塩を含有しない。この理由は、インクジェット印刷機に対する印刷適性においてインク乾燥性が良化するからである。
いくつかの実施態様において、サイズプレス液は、水溶性多価陽イオン塩から成る群から選ばれる一種又は二種以上を含有しかつカチオン性樹脂を含有しない。この理由は、インクジェット印刷機に対する印刷適性においてインク定着性が良化するからである。
【0021】
カチオン性樹脂は、カチオン性ポリマー又はカチオン性オリゴマーであり、インクジェット印刷の分野で従来公知のものである。いくつかの実施態様において、カチオン性樹脂は、プロトンが配位し易く、水に溶解したとき離解してカチオン性を呈する1級~3級アミン又は4級アンモニウム塩を含有するポリマー若しくはオリゴマーである。カチオン性樹脂は、例えば、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリジン、ポリアミンスルホン、ポリジアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリジアルキルアミノエチルアクリレート、ポリジアルキルアミノエチルメタクリルアミド、ポリジアルキルアミノエチルアクリルアミド、ポリエポキシアミン、ポリアミン及び変性ポリアミン、ポリアミド及び変性ポリアミド、ポリアミドアミン、ジシアンジアミド-ホルマリン縮合物、ポリビニルアミン、ポリアリルアミンなどの化合物及びこれらの塩酸塩、さらにポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド及びジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドなどとの共重合物、ポリジアリルメチルアミン塩酸塩、並びにジメチルアミンエピクロルヒドリン重縮合物及びジエチレントリアミンエピクロルヒドリン重縮合物などの脂肪族モノアミン又は脂肪族ポリアミンとエピハロヒドリン化合物との重縮合物を挙げることができる。
いくつかの実施態様において、カチオン性樹脂は、脂肪族モノアミン又は脂肪族ポリアミンとエピハロヒドリン化合物との重縮合物である。この理由は、インクジェット印刷機に対する印刷適性のみならず、印刷用紙の紙力向上にも幾分効果を有するからである。少なくとも一つの実施態様において、カチオン性樹脂は、ジメチルアミンエピクロルヒドリン重縮合物である。この理由は、材料コストで優位でありかつ商業的に入手し易いからである。
【0022】
水溶性多価陽イオン塩は、金属の多価陽イオンを含む水溶性塩である。水溶性多価イオン塩は、金属の多価陽イオンを含み、最終的に20℃の水に1質量%以上溶解することができる塩である。金属の多価陽イオンは、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ニッケル、亜鉛、銅、鉄、コバルト、スズ、マンガンなどの二価陽イオン;アルミニウム、鉄、クロムなどの三価陽イオン;又はチタン、ジルコニウムなどの四価陽イオン;並びにそれらの錯イオンである。金属の多価陽イオンと塩を形成する陰イオンとしては、無機酸及び有機酸のいずれでもよく、特に限定されない。無機酸は、例えば、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸などを挙げることができる。有機酸は、例えば、ギ酸、酢酸、乳酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、有機スルホン酸などを挙げることができる。但し、従来から内添サイズ剤の定着剤として公知である硫酸アルミニウムは水溶性多価陽イオン塩から除く。
いくつかの実施態様において、水溶性多価陽イオン塩は、金属の多価陽イオンがカルシウムである。少なくとも一つの実施態様において、水溶性多価陽イオン塩は、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、硝酸カルシウム及び酢酸カルシウムから成る群から選ばれる一種又は二種以上である。これらの理由は、インクジェット印刷機などのデジタル印刷機への印刷適性が良化するからである。
【0023】
いくつかの実施態様において、カチオン性樹脂及び水溶性多価陽イオン塩から成る群から選ばれる一種又は二種以上の化合物を含むサイズプレス液を用いてサイズプレス処理する工程において、カチオン性樹脂及び水溶性多価陽イオン塩から選ばれる化合物の総付与量は、抄造紙の片面あたり乾燥固形分量で、0.5g/m2以上2g/m2以下である。この理由は、インクジェット印刷機などのデジタル印刷機への印刷適性が良化するからである。
【0024】
サイズプレス液は、製紙分野で従来公知の表面サイズ剤を含有する。
いくつかの実施態様において、サイズプレス液は、製紙分野で従来公知の表面サイズ剤から成る群から選ばれる一種又は二種以上を含有する。表面サイズ剤は、例えば、アクリルアミド系重合体、アクリル系重合体、スチレン-アクリル酸系共重合体、スチレン-メタアクリル酸系共重合体、アクリロニトリル-ビニルホルマール-アクリル酸エステル系共重合体、スチレン-マレイン酸系共重合体、オレフィン-マレイン酸系共重合体、各種ポリビニルアルコール、各種変性ポリビニルアルコール、澱粉類、及びカルボキシエチルセルロースなどを挙げることができる。
いくつかの実施態様において、表面サイズ剤は、各種ポリビニルアルコール及び各種変性ポリビニルアルコール並びに澱粉類から成る群から選ばれる一種又は二種以上である。この理由は、インクジェット印刷機などのデジタル印刷機への印刷適性が良化するからである。
【0025】
いくつかの実施態様において、表面サイズ剤を含むサイズプレス液を用いてサイズプレス処理する工程において、製紙分野で従来公知の表面サイズ剤の総付与量は、抄造紙の片面あたり乾燥固形分量で、0.4g/m2以上1.5g/m2以下である。この理由は、インクジェット印刷機などのデジタル印刷機への印刷適性が良化するからである。
【0026】
前記サイズプレス処理する工程後の抄造紙をスーパーカレンダー処理する工程は、製紙分野で従来公知のスーパーカレンダー装置を用いてカレンダー処理する方法である。スーパーカレンダー処理は、抄造する工程の後に存在する仕上げ工程の一種であって、抄造紙に平滑及び光沢を与える方法である。スーパーカレンダー装置は、ロール段数が多段式の機械であって、一般に抄紙機と独立して設置され、多段の金属ロール間又は金属ロールと弾性ロールとの間に紙を通して加圧、加熱及び/又は摩擦などを行う。
いくつかの実施態様において、スーパーカレンダー装置は、ロール段数においてロールニップ数が6ニップ以上12ニップ以下である。この理由は、印刷用紙に係る最終的な下記するCobb吸水度に調整し易いからである。
【0027】
印刷用紙は、スーパーカレンダー処理する工程によってスーパーカレンダー処理後の接触時間10秒におけるCobb吸水度(g/m2)を紙の坪量(g/m2)で除した値が1.050以上1.210以下である。なおかつ、印刷用紙は、スーパーカレンダー処理する工程に関して、接触時間10秒におけるCobb吸水度(g/m2)を紙の坪量(g/m2)で除した値の前記スーパーカレンダー処理前後の数値差が0.050以上0.160以下である。接触時間10秒におけるCobb吸水度は、ISO535:1991に準じて求められる。これによって、印刷用紙は、デジタル印刷機への印刷適性、特に、インクジェット印刷機への印刷適性を有しながら、角度75度に設定したISO2813:1994/Cor 1:1997に準じて求められる75度光沢が10%以上23%以下を得ることができる。
ここで、接触時間10秒におけるCobb吸水度(g/m2)を紙の坪量(g/m2)で除した値の前記スーパーカレンダー処理前後の数値差は、「スーパーカレンダー処理前の値」-「スーパーカレンダー処理後の値」である。
【0028】
Cobb吸水度では、所定の面積の紙面が一定時間で水と接触した場合の吸水量(g/m2)を測定することで吸水性を表す。紙面における水の吸収は、ある程度の大きさで開口部のある空隙を紙面が有する場合、当該空隙に水が浸透して達成され、スーパーカレンダー処理によって開口部が潰されて緻密な空隙を紙面が有する場合、当該緻密な空隙による毛細管現象で水が浸透して達成される。また、水の吸収は、紙の坪量にも影響を受ける。坪量が大きい紙程に水の吸収は増す。そして、本発明者らは、Cobb吸水度の測定において、接触時間10秒であれば上記したような空隙の個別容積の影響が小さくなって、Cobb吸水度(g/m2)を紙の坪量(g/m2)で除した値が紙面の状態を間接的に表す指標となることを見出した。
スーパーカレンダー処理後の印刷用紙に関して、接触時間10秒におけるCobb吸水度(g/m2)を紙の坪量(g/m2)で除した値が上記範囲であると、非塗工紙タイプの印刷用紙は、デジタル印刷機に対する印刷適性、特に、インクジェット印刷機に対する印刷適性及びLWC紙のような弱い光沢を得ることができる。上記値が1.050未満であると、印刷画像のインク吸収性の観点で、デジタル印刷機に対する印刷適性、特に、インクジェット印刷機に対する印刷適性が悪化する。上記値が1.210超であると、印刷画像の鮮鋭性の観点で、デジタル印刷機に対する印刷適性、特に、インクジェット印刷機に対する印刷適性が悪化する。また、上記値が1.210超であると、カチオン性樹脂及び水溶性多価陽イオン塩から成る群から選ばれる一種又は二種以上の化合物とを含むサイズプレス液を用いてサイズプレス処理を施された印刷用紙は、オフセット印刷適性が悪化する場合がある。
そして、印刷用紙は、接触時間10秒のCobb吸水度を坪量で除した値のスーパーカレンダー処理前後の数値差が、0.050未満であると、印刷画像の鮮鋭性の観点で、デジタル印刷機に対する印刷適性、特に、インクジェット印刷機に対する印刷適性が悪化する。印刷用紙は、接触時間10秒のCobb吸水度を坪量で除した値のスーパーカレンダー処理前後の数値差が、0.160超であると、印刷画像のインク吸収性の観点で、デジタル印刷機に対する印刷適性、特に、インクジェット印刷機に対する印刷適性が悪化する。
【0029】
本発明にかかる非塗工紙タイプの印刷用紙は、セルロースパルプと炭酸カルシウムを主成分として含有する紙料を調成する工程、前記紙料を抄造する工程、前記抄造する工程で得られた抄造紙に表面サイズ剤とカチオン性樹脂及び水溶性多価陽イオン塩から成る群から選ばれる一種又は二種以上の化合物とを含むサイズプレス液を用いてサイズプレス処理する工程、並びに前記サイズプレス処理する工程後の抄造紙をスーパーカレンダー処理する工程を有する製造方法によって得ることができる。そして、前記製造方法において、接触時間10秒のCobb吸水度を坪量で除した値のスーパーカレンダー処理前後の数値差が0.050以上0.160以下であり、なおかつスーパーカレンダー処理後のCobb吸水度を紙の坪量で除した値が1.050以上1.210以下である。そして、前記製造方法で得た非塗工紙タイプの印刷用紙は、角度を75度に設定したISO2813:1994/Cor 1:1997に準じて求められる75度光沢が10%以上23%以下である。これは、LWC紙のような弱い光沢である。
【0030】
印刷用紙のCobb吸水度は、製紙分野で従来公知の物理量であり、当業者が製造方法の条件によって調整することができる。抄紙機及びスーパーカレンダー装置では、例えば、供給する紙料の濃度及び供給量、プレスゾーンの条件、乾燥ゾーンの条件、並びにスーパーカレンダー処理の条件を挙げることができる。各条件では、例えば、紙料の濃度増、紙料の供給量増、プレスゾーンのプレス圧増、乾燥ゾーンの熱量軽減、並びにスーパーカレンダー処理のプレス圧及び/又はプレス段数増が、印刷用紙のCobb吸水度の数値を下げる傾向になる。
【0031】
本発明と異なるいくつかの実施態様において、非塗工紙タイプの印刷用紙の製造方法は、「抄造する工程で得られた抄造紙に表面サイズ剤とカチオン性樹脂及び水溶性多価陽イオン塩から成る群から選ばれる一種又は二種以上の化合物とを含むサイズプレス液を用いてサイズプレス処理する工程」において、デジタル印刷機、特に、インクジェット印刷機に対する印刷適性が不足する場合であっても、用途に見合う実用的な印刷品質の点で問題が無ければ、前記サイズプレス処理する工程を、カチオン性樹脂及び水溶性多価陽イオン塩から成る群から選ばれる一種又は二種以上の化合物を必須に含まないサイズプレス液を使用する場合がある。すなわち、本発明と異なるいくつかの実施態様において、非塗工紙タイプの印刷用紙の製造方法は、「表面サイズ剤とカチオン性樹脂及び水溶性多価陽イオン塩から成る群から選ばれる一種又は二種以上の化合物とを含むサイズプレス液を用いてサイズプレス処理する工程」を「抄造する工程で得られた抄造紙に表面サイズ剤を含むサイズプレス液を用いてサイズプレス処理する工程」に置換し得る。
上記の本発明と異なるいくつかの実施態様において、非塗工紙タイプの印刷用紙は、セルロースパルプと炭酸カルシウムを主成分として含有する紙料を調成する工程、前記紙料を抄造する工程、前記抄造する工程で得られた抄造紙に表面サイズ剤を含むサイズプレス液を用いてサイズプレス処理する工程、並びに前記サイズプレス処理する工程後の抄造紙をスーパーカレンダー処理する工程を有する製造方法によって得ることができる。そして、前記スーパーカレンダー処理する工程に関して、ISO535:1991に準じて求められる接触時間10秒における紙のCobb吸水度(g/m2)を紙の坪量(g/m2)で除した値の前記スーパーカレンダー処理前後の数値差が0.050以上0.160以下、なおかつ前記スーパーカレンダー処理後のISO535:1991に準じて求められる接触時間10秒における紙のCobb吸水度(g/m2)を紙の坪量(g/m2)で除した値が1.050以上1.210以下である。そして、前記製造方法で得た印刷用紙は、角度を75度に設定したISO2813:1994/Cor 1:1997に準じて求められる75度光沢が10%以上23%以下である。これは、LWC紙のような弱い光沢である。
【実施例0032】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、実施例において示す質量部は、特に明示がない限り、乾燥固形分量あるいは実質成分量の値を示す。また、サイズプレスの付与量は乾燥固形分量の値である。
【0033】
(紙料を調成する工程)
セルロースパルプと炭酸カルシウムを主成分として含有する紙料を調成する工程は、以下とした。
濾水度400mlcsfのLBKP1000質量部から成るセルロースパルプのスラリーに、填料として炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム、奥多摩工業社、タマパール(登録商標)TP-121SA、)220質量部、アルキルケテンダイマー型内添サイズ剤1質量部、紙力増強剤(カチオン化澱粉)10質量部、定着剤(硫酸アルミニウム)9質量部、及び歩留まり向上剤(アクリル酸系樹脂)を添加して混合した。
【0034】
(紙料を抄造する工程)
紙料を抄造する工程は、以下とした。
前記のようにして得られた紙料を、長網抄紙機を用いて抄造し、坪量75.0g/m2になるようにして抄造紙を得た。
【0035】
(サイズプレス液を用いてサイズプレス処理する工程)
サイズプレス液を用いてサイズプレス処理する工程は、以下とした。
サイズプレス処理装置には、ゲートロールコーターを用いた。サイズプレス処理では、得た抄造紙の両面に対して、抄造紙の片面あたり、表面サイズ剤(ケン化度98~99モル%及び重合度300~1700ポリビニルアルコール)を0.6g/m2、及びカチオン性樹脂及び水溶性多価陽イオン塩から成る群から選ばれる一種又は二種以上の化合物として塩化カルシウム(表1中「塩カル」と記す)若しくはジメチルアミンエピクロルヒドリン重縮合物(表1中「DMAEPI」と記す)若しくは塩化マグネシウム(表1中「塩マグ」と記す)若しくは変性ポリアミン(表1中「MPA」と記す)を1g/m2になるように付与した。カチオン性樹脂及び水溶性多価陽イオン塩から成る群から選ばれる化合物がどれであるかは、表1に記載する。用紙の坪量は、比較例5を除き最終的に78.2g/m2になるようにした。比較例5の用紙は、坪量75.0g/m2となる。
【0036】
なお、比較例5では、表面サイズ剤及びカチオン性樹脂及び水溶性多価陽イオン塩から成る群から選ばれる化合物を含まない水をサイズプレス液とした。
【0037】
(スーパーカレンダー処理する工程)
前記サイズプレス処理する工程後の抄造紙をスーパーカレンダー処理する工程は、以下とした。
サイズプレス処理装置でサイズプレス処理後の抄造紙に対して、オフラインの金属ロールと弾性ロールとを組み合わせたスーパーカレンダー装置にて、ニップ段数12及び金属ロール温度40℃、並びに各段それぞれのニップ圧を適宜調整してスーパーカレンダー処理を施した。
スーパーカレンダー処理にあたり、前記スーパーカレンダー処理前後それぞれのISO535:1991に準じて求められる接触時間10秒における紙のCobb吸水度(g/m2)を測定した。そして、前記スーパーカレンダー処理後の紙のCobb吸水度(g/m2)を紙の坪量(g/m2)で除した値、及びCobb吸水度(g/m2)を紙の坪量(g/m2)で除した値について前記スーパーカレンダー処理前後の数値差を算出した。各数値を表1に記載する。
【0038】
なお、比較例6では、スーパーカレンダー装置をソフトニップカレンダー装置に置き換え、カレンダー処理を実施した。
【0039】
上記の各工程に沿って実施して、表1に記載のそれぞれ非塗工紙タイプの印刷用紙を得た。
【0040】
【0041】
(光沢)
非塗工紙タイプの印刷用紙の光沢を、角度を75度に設定したISO2813:1994/Cor 1:1997に準じて、村上色彩技術研究所社のデジタル光沢計GM-26D型を用いて、入反射角度を75度として測定した。
【0042】
(LWC紙との対比)
得た非塗工紙タイプの印刷用紙を、市販のLWC紙(三菱製紙社、マルガリーライト)を基準にして観察し、下記の基準で官能評価した。
A:LWC紙に類似すると感じる。
B:LWC紙に類似すると感じない。
【0043】
(オフセット印刷機に対する印刷適性)
枚葉のオフセット印刷機(三菱重工社、ダイヤ3H-4)を用い、平版オフセットプロセスインキを使用して4色印刷を印刷用塗工紙の片面に行った。印刷には、4cm×4cmの各色ベタ画像をランダムに配置した画像を用いた。印刷物の画像を目視で観察し、下記の基準で評価した。本発明において、非塗工紙タイプの印刷用塗工紙は、A又はBの評価であればオフセット印刷機に対する印刷適性を有するとする。
A:良好に実用可能な品質である。
B:上記Aより劣るものの、実用可能な品質である。
C:実用不可能な品質である。
【0044】
(インクジェット印刷機に対する印刷適性)
インクジェット印刷機として、富士フイルム社のインクジェット印刷機Jet Press 540W(印刷速度100m/分)を用いて印刷した。印刷画像は、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各単色及びブラックを除く他の3色インクでの2重色(レッド、グリーン、ブルー)の計7色のベタパターンを、2cm×2cm四方で横一列に隙間なく配置した画像とした。
評価は、ベタ印刷画像部分のインク吸収性、鮮鋭性、発色性・定着性・色鮮やかさ・均一性・印刷面の裏面における画像視認性(視認され難い方が良い)などの観点から、印刷物を目視によって官能評価した。本発明において、非塗工紙タイプの印刷用紙は、A又はBの評価であればインクジェット印刷機に対する印刷適性を有するとする。
A:良好に実用可能な品質である。
B:上記Aより劣るものの、実用可能な品質である。
C:実用不可能な品質である。
【0045】
表1に結果を示す。
【0046】
表1から、本発明に係る製造方法によって製造された非塗工紙タイプの印刷用紙は、オフセット印刷機に対する印刷適性及びデジタル印刷機の代表格であるインクジェット印刷機に対する印刷適性を有し、白色顔料を含む塗工層を有しない非塗工紙でありながら、角度75度に設定したISO2813:1994/Cor 1:1997に準じて求められる75度光沢が10%以上23%以下の印刷用紙であると分かる。一方、本発明に該当しない製造方法によって製造された非塗工紙タイプの印刷用紙は、白色顔料を含む塗工層を有しない非塗工紙でありながら、角度75度に設定したISO2813:1994/Cor 1:1997に準じて求められる75度光沢が10%以上23%以下であること、オフセット印刷に対する印刷適性及びインクジェット印刷機に対する印刷適性の少なくとも1つを満足しないと分かる。