特開 2024-166547 車軸軸受装置

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2024166547

(43)【公開日】2024-11-29

(54)【発明の名称】車軸軸受装置

(51)【国際特許分類】

   F16C 33/76 20060101AFI20241122BHJP

   F16C 19/38 20060101ALI20241122BHJP

   F16C 33/58 20060101ALI20241122BHJP

   F16C 33/78 20060101ALI20241122BHJP

【ＦＩ】

F16C33/76 Z

F16C19/38

F16C33/58

F16C33/78 C

【審査請求】未請求

【請求項の数】2

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2023082718

(22)【出願日】2023-05-19

(71)【出願人】

【識別番号】000005197

【氏名又は名称】株式会社不二越

(74)【代理人】

【識別番号】100120400

【弁理士】

【氏名又は名称】飛田 高介

(74)【代理人】

【識別番号】100124110

【弁理士】

【氏名又は名称】鈴木 大介

(72)【発明者】

【氏名】高野 浩二

【テーマコード（参考）】

3J216

3J701

【Ｆターム（参考）】

3J216AA03

3J216AA14

3J216AB13

3J216CA02

3J216CA04

3J216CA06

3J216CB04

3J216CB15

3J216CC03

3J216CC14

3J216CC17

3J216CC33

3J216CC48

3J216CC68

3J216CC70

3J216EA09

3J701AA16

3J701AA32

3J701AA43

3J701AA54

3J701AA62

3J701BA53

3J701BA56

3J701BA73

3J701FA04

3J701GA02

(57)【要約】

【課題】後蓋の脱落を防止しつつ、フレッチング摩耗粉の軸受内への流入防止を図ることが可能な車軸軸受装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかる車軸軸受装置１００の構成は、軸受１１０の内輪１２０と、内輪１２０の端面から円筒状に延伸した鍔部１２２と、内輪１２０に隣接して配置される後蓋１６０と、鍔部１２２に取り付けられるＯリング１８０と、を備え、後蓋１６０は、内輪１２０の鍔部１２２にインロー構造で嵌合されていて、後蓋１６０の嵌合部１６２は、鍔部１２２の軸方向端面に当接する当接面１６２ａと、Ｏリング１８０を径方向に圧縮する圧縮面１６２ｂと、Ｏリング１８０を軸方向に圧縮する傾斜面１６２ｃとを有することを特徴とする。
【選択図】図２

【特許請求の範囲】

【請求項1】

軸受の内輪と、
前記内輪の端面から円筒状に延伸した鍔部と、
前記内輪に隣接して配置される後蓋と、
前記鍔部に取り付けられるＯリングと、
を備え、
前記後蓋は、前記内輪の鍔部にインロー構造で嵌合されていて、
前記後蓋の嵌合部は、
前記鍔部の軸方向端面に当接する当接面と、
前記Ｏリングを径方向に圧縮する圧縮面と、
前記Ｏリングを軸方向に圧縮する傾斜面とを有することを特徴とする車軸軸受装置。

【請求項2】

前記Ｏリングは、甲丸形状であることを特徴とする請求項１に記載の車軸軸受装置。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、鉄道車両用の車軸に組付けられる車軸軸受装置に関する。

【背景技術】

【0002】

鉄道車両では、車軸を支持する装置として車軸軸受装置が用いられている。車軸軸受装置としては、例えば特許文献１に「軸受内輪と、該内輪の両外側の鍔部端面を挟持固定するようにされた軸受付属部品（前蓋および後蓋）とを有する」車軸軸受装置が開示されている。

【0003】

特許文献１の車軸軸受装置では、後蓋と鍔部端面との接触面が前記軸受内輪内径以上かつ前記内輪内径の１．２倍以下の径の範囲に設けられている。また特許文献１の車軸軸受装置では、接触面の外方に隣接して前記軸受鍔部端面と前記後蓋端面との間に弾性シール部材が挟持されていて、弾性シールの外方の前記鍔部と前記後蓋のアキシャル方向の隙間が微少隙間とされている

【0004】

特許文献１によれば、接触面を軸受内輪内径以上で、同内輪内径の１．２倍以下の径の範囲に設け、車輪の曲げモーメントによるフレッチング摩耗粉の摩耗状態が少量な内径側で接触面を形成するようしたことにより、フレッチング摩耗粉を従来より縮減させることが可能となったとしている。また特許文献１によれば、接触面の外方に隣接して軸受鍔部端面と後蓋端面との間にＯ－リング等の弾性シール部材を挟持し、また、弾性シールの外方の鍔部と後蓋のアキシャル方向の隙間を微少隙間とし、摩耗粉の軸受側への流出を抑えるとしている。

【0005】

特許文献２には、内輪と、軸受付属部品とを有し、後蓋と内輪の鍔部端面とが接触する接触面を有し、接触面の外径側に後蓋と鍔部端面とのインロー部を備え、接触面およびインロー部に２つのＯリングを設けた構成が記載されている。特許文献２によれば、インロー部を内輪及び後蓋の外側（外周）部で形成し、インロー部の環状溝の弾性部材により、インロー部を互いに外れにくくなるようにしたので、長さの短いインロー部でも内輪と後蓋との分離を防止する。これにより、車軸軸受装置の運搬、車軸への取り付け等で分離しにくくなり組付けが容易となるとしている。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0006】

【特許文献1】特許第３５２９６９１号公報

【特許文献2】特開２０１５－１５８２１１号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0007】

特許文献１の構成では、Ｏリングが軸方向につぶし代を持っている。このため、内輪端面と後蓋が取り扱い上分離しやすい傾向があり、後蓋が脱落した場合、オイルシールが変形する可能性がある。また特許文献１の構成であると、後蓋の重量が仕切り板やオイルシールにかかりやすく、それらの変形によってシール性能に影響を及ぼす可能性がある。このため特許文献１には更なる改善の余地があった。

【0008】

特許文献２の構成では、接触部に配置されたＯリングと、インロー部に配置されたＯリングを備えている。この構成ではインロー部にＯリングを取り付けるための溝を設けなければならないため、インロー部の長さを短縮することが難しかった。またこの構造では、横軸姿勢でインロー部のＯリングが内径側にたるんでしまうため、組立や組み直しが難しいという問題があった。

【0009】

本発明は、このような課題に鑑み、後蓋の脱落を防止しつつ、フレッチング摩耗粉の軸受内への流入防止を図ることが可能な車軸軸受装置を提供することを目的としている。

【課題を解決するための手段】

【0010】

上記課題を解決するために、本発明にかかる車軸軸受装置の代表的な構成は、軸受の内輪と、内輪の端面から円筒状に延伸した鍔部と、内輪に隣接して配置される後蓋と、鍔部に取り付けられるＯリングと、を備え、後蓋は、内輪の鍔部にインロー構造で嵌合されていて、後蓋の嵌合部は、鍔部の軸方向端面に当接する当接面と、Ｏリングを径方向に圧縮する圧縮面と、Ｏリングを軸方向に圧縮する傾斜面とを有することを特徴とする。

【0011】

上記Ｏリングは、甲丸形状であるとよい。

【発明の効果】

【0012】

本発明によれば、後蓋の脱落を防止しつつ、フレッチング摩耗粉の軸受内への流入防止を図ることが可能な車軸軸受装置を提供することができる。

【図面の簡単な説明】

【0013】

【図1】本実施形態にかかる車軸軸受装置を説明する図である。

【図2】図１の要部拡大図である。

【発明を実施するための形態】

【0014】

以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。

【0015】

図１は、本実施形態にかかる車軸軸受装置１００を説明する図である。図２は、図１の要部拡大図である。図１に例示するように本実施形態の車軸軸受装置１００は、車軸１０２を支持する軸受１１０を備える。軸受１１０は、内輪１２０、外輪１３０、およびそれらの間を転動する転動体１４０（ころ）を有する。転動体１４０は保持器１４２によって保持されている。

【0016】

軸受１１０の内輪１２０には、前蓋１５０および後蓋１６０が隣接して配置されている。軸受１１０の内輪１２０と前蓋１５０との間には油切り１５２が配置されている。軸受１１０の外輪１３０と、内輪１２０および後蓋１６０との間にはシール構造１７０が設けられている。

【0017】

図２に示すように、シール構造１７０は、シール外環１７２、シール仕切板１７４、シール１７６を含んで構成される。シール１７６は、芯金１７７と、シールリップ１７８とから構成されている。

【0018】

シール外環１７２は、外輪１３０から後蓋１６０の外周面まで延びる金属製の段付円筒状の部材である。一方、後蓋１６０はシール外環１７２の内側に向かって延伸する円筒形の庇部１６４を有している。シール外環１７２の先端部１７２ａと庇部１６４との間に微小隙間が設けられていて、ラビリンスシールを構成している。

【0019】

シール外環１７２の内側には、断面Ｌ字状の芯金１７７が配置されていて、円筒部１７７ａがシール外環１７２の内周面に固定され、円環部１７７ｂの端部にシールリップ１７８を支持している。シールリップ１７８は３枚のリップを有するトリプルリップ形状であり、２枚のリップ１７８ａ、１７８ｂは後蓋１６０の外周面１６０ａに当接し、サイドリップ１７８ｃは後蓋１６０の庇部１６４の内周面に当接する。庇部１６４がシール外環１７２とのラビリンスシールとサイドリップ１７８ｃの接触の両方の役割を有することにより、部品点数を削減できると共に、特開２００５－３２５８６６のようにスリーブを用いる場合と比較して部品の剛性を高めることができる。

【0020】

シール外環１７２と後蓋１６０との間には、シール仕切板１７４が配置されている。シール仕切板１７４は、芯金の円筒部１７７ａの内周面に重ねられる外筒部１７４ａと、外筒部１７４ａのシール１７６側の端から後蓋の外周面１６０ａに向かって屈曲する円環部１７４ｂと、後蓋の外周面１６０ａとの間に微小隙間を設けられた内筒部１７４ｃとを有する。これによりシール仕切板１７４と後蓋の外周面１６０ａとの間にラビリンスシールを構成している。このようにシール仕切板１７４をシール１７６側にくぼんだ形状としたことにより、特開２００５－３２５８６６に示された仕切り板と比較すると軸受内部空間を広げることができ、グリース封入量を増やすことができるため、グリース寿命を延伸することができる。

【0021】

図１および図２に示すように、内輪１２０は、その端面１２０ａから円筒状に延伸した鍔部１２２を有し（図２において内輪１２０の破線の右側）、鍔部１２２にはＯリング１８０が取り付けられている。上述した後蓋１６０は、内輪１２０の鍔部１２２にインロー構造で嵌合されている。以下、後蓋１６０のうち、内輪１２０の鍔部１２２に嵌合されている箇所（図２において後蓋１６０の破線の左側）を嵌合部１６２と称する。ただし、鍔部１２２と嵌合部１６２によるインロー構造は、通常のインロー構造よりも径差（隙間）が大きく、Ｏリング１８０が介在している。

【0022】

本実施形態の車軸軸受装置１００では、後蓋１６０の嵌合部１６２は、当接面１６２ａ、圧縮面１６２ｂおよび傾斜面１６２ｃを有する。当接面１６２ａは、鍔部１２２の端面１２２ａに軸方向Ａに当接する。圧縮面１６２ｂは、Ｏリング１８０を径方向Ｂに圧縮し、傾斜面１６２ｃは、Ｏリング１８０を軸方向Ａに圧縮する。

【0023】

本実施形態の車軸軸受装置１００によれば、後蓋１６０を内輪１２０に組み付けるとき、まず圧縮面１６２ｂでＯリング１８０を径方向Ｂに圧縮しながら挿入する。これにより内輪１２０に対する後蓋１６０の位置決めが成されると共に、鍔部１２２からの後蓋１６０の脱落を好適に防ぐことができる。

【0024】

さらに後蓋１６０を挿入すると、傾斜面１６２ｃがＯリング１８０を軸方向Ａに圧縮する。これにより、軸受１１０の内部と後蓋の当接面１６２ａとの間を封止することができる。したがって、後蓋の当接面１６２ａで発生したフレッチング摩耗粉が軸受１１０の内部に流入することを好適に防ぐことができる。なお、内輪の端面１２０ａと後蓋の嵌合部１６２の端面は当接しない寸法関係とし、Ｏリング１８０より転動体１４０側でフレッチング摩耗粉が発生しないようにすることが好ましい。

【0025】

Ｏリング１８０は内輪１２０の鍔部１２２に伸ばし勝手で取り付けるとよい（鍔部１２２の外径よりも径が小さなＯリングを選定する）。これにより、仮に後蓋１６０が内輪１２０から脱落することがあっても、Ｏリング１８０は鍔部１２２に残置された状態となる。特に、Ｏリング１８０としては甲丸形状のものを用いるとよい。これにより、Ｏリング１８０と鍔部１２２の外周面との接触面積を確保し、鍔部１２２にＯリング１８０が残置されやすくすることが可能となる。したがって、外れた後蓋１６０を組付け直す際の作業の手間を削減することが可能となる。

【0026】

以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。

【産業上の利用可能性】

【0027】

本発明は、鉄道車両用の車軸に組付けられる車軸軸受装置として利用することができる。

【符号の説明】

【0028】

１００…車軸軸受装置、１０２…車軸、１１０…軸受、１２０…内輪、１２０ａ…端面、１２２…鍔部、１２２ａ…端面、１３０…外輪、１４０…転動体、１４２…保持器、１５０…前蓋、１５２…油切り、１６０…後蓋、１６２…嵌合部、１６２ａ…当接面、１６２ｂ…圧縮面、１６２ｃ…傾斜面、１６４…庇部、１７０…シール構造、１７２…シール外環、１７４…シール仕切板、１７４ａ…外筒部、１７４ｂ…円環部、１７４ｃ…内筒部、１７６…シール、１７７…芯金、１７７ａ…円筒部、１７７ｂ…円環部、１７８…シールリップ、１８０…Ｏリング

【図1】

【図2】