(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166548
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】核燃料計測システムおよび核燃料計測方法
(51)【国際特許分類】
G21C 17/06 20060101AFI20241122BHJP
G01G 17/00 20060101ALI20241122BHJP
G01G 9/00 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
G21C17/06 020
G01G17/00 D
G01G9/00
G21C17/06 010
G21C17/06 090
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082719
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉田 宰
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 研一
(72)【発明者】
【氏名】宮寺 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】藤牧 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】中居 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 修治
【テーマコード(参考)】
2G075
【Fターム(参考)】
2G075CA38
2G075DA08
2G075FA05
2G075FB07
2G075GA18
2G075GA19
(57)【要約】
【課題】事前情報が少ない対象物を計測するときに、対象物に含有されている核燃料の重量および燃焼度を計測することができる核燃料計測技術を提供する。
【解決手段】核燃料計測システム1は、計測対象である対象物6から放射されるガンマ線γを計測するガンマ線検出器3または対象物6から放射される中性子Nを計測する中性子検出器4の少なくとも一方と、ミュオンμを計測し、かつ対象物6を挟んで互いに向かい合う位置に設けられた少なくとも1組のミュオン軌跡検出器2と、ガンマ線検出器3または中性子検出器4の少なくとも一方とミュオン軌跡検出器2とで取得したそれぞれの計測値を集積するデータ集積部20と、計測値から対象物6に含まれている核燃料の核燃料重量を導出する核燃料重量判定部21と、計測値から核燃料の燃焼度を導出する燃焼度判定部22とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象である対象物から放射されるガンマ線を計測するガンマ線検出器または前記対象物から放射される中性子を計測する中性子検出器の少なくとも一方と、
ミュオンを計測し、かつ前記対象物を挟んで互いに向かい合う位置に設けられた少なくとも1組のミュオン軌跡検出器と、
前記ガンマ線検出器または前記中性子検出器の少なくとも一方と前記ミュオン軌跡検出器とで取得したそれぞれの計測値を集積するデータ集積部と、
前記計測値から前記対象物に含まれている核燃料の核燃料重量を導出する核燃料重量判定部と、
前記計測値から前記核燃料の燃焼度を導出する燃焼度判定部と、
を備える、
核燃料計測システム。
【請求項2】
前記核燃料重量判定部は、
前記ミュオン軌跡検出器の前記計測値から前記ミュオンが前記対象物を通過するときの軌跡の変化を計測し、
前記軌跡の変化の大きさからミュオン散乱を導出し、
前記ミュオン散乱と前記核燃料重量の関係性から前記対象物に含まれている前記核燃料の前記核燃料重量を導出する、
請求項1に記載の核燃料計測システム。
【請求項3】
前記対象物が複数のセグメントに区分けられており、
前記核燃料重量判定部は、
前記ミュオン軌跡検出器の前記計測値から前記ミュオンが前記対象物のそれぞれの前記セグメントを通過するときの軌跡の変化を計測し、
前記軌跡の変化の大きさからミュオン散乱を導出し、
前記ミュオン散乱と前記核燃料重量の関係性から前記対象物のそれぞれの前記セグメントに含まれている前記核燃料の前記核燃料重量を導出する、
請求項1に記載の核燃料計測システム。
【請求項4】
前記燃焼度判定部は、
前記ガンマ線検出器の前記計測値から前記対象物に含まれる評価対象となる核種の核種量を導出し、
前記ミュオン軌跡検出器の前記計測値から導出された前記核燃料重量と前記ガンマ線検出器の前記計測値から導出された前記核種量とから、前記対象物の単位重量当たりの前記核種量を導出し、
前記単位重量当たりの前記核種量と前記燃焼度との関係性から前記対象物の前記燃焼度を導出する、
請求項1または請求項2に記載の核燃料計測システム。
【請求項5】
前記燃焼度判定部は、
前記中性子検出器の前記計測値から前記対象物に含まれる評価対象となる核種の核種量を導出し、
前記ミュオン軌跡検出器の前記計測値から導出された前記核燃料重量と前記中性子検出器の前記計測値から導出された前記核種量とから、前記対象物の単位重量当たりの前記核種量を導出し、
前記単位重量当たりの前記核種量と前記燃焼度との関係性から前記対象物の前記燃焼度を導出する、
請求項1または請求項2に記載の核燃料計測システム。
【請求項6】
前記燃焼度判定部は、
複数の計測方法からそれぞれ導出された前記燃焼度の値が、予め定められた許容範囲に含まれているか否かを判定し、
前記許容範囲に含まれている値のみを用いて前記燃焼度を導出する、
請求項1または請求項2に記載の核燃料計測システム。
【請求項7】
前記対象物が複数のセグメントに区分けられており、
それぞれの前記セグメントに対応する複数の前記ガンマ線検出器または複数の前記中性子検出器の少なくとも一方を用いて、
または、
前記ガンマ線検出器または前記中性子検出器の少なくとも一方を移動させながら、
それぞれの前記セグメントから放射される前記ガンマ線または前記中性子の少なくとも一方の前記計測値を取得するものであり、
前記燃焼度判定部は、取得したそれぞれの前記計測値からそれぞれの前記セグメントの前記燃焼度を導出する、
請求項1または請求項2に記載の核燃料計測システム。
【請求項8】
前記ミュオン軌跡検出器の前記計測値から前記対象物に前記核燃料が含まれている判定結果が得られたときに、前記ガンマ線検出器の前記計測値がガンマ線用閾値以上であり、かつ前記中性子検出器の前記計測値が中性子用閾値以下である場合に、前記対象物に中性子吸収材が含まれていると判定し、
前記ガンマ線検出器の前記計測値から導出された前記燃焼度と前記中性子検出器の前記計測値から導出された前記燃焼度の比率から、前記対象物の前記中性子吸収材の含有量を推定する、
含有量推定部を備える、
請求項1または請求項2に記載の核燃料計測システム。
【請求項9】
前記ミュオン軌跡検出器の前記計測値から前記対象物に前記核燃料が含まれている判定結果が得られたときに、前記中性子検出器の前記計測値が中性子用閾値以上であり、かつ前記ガンマ線検出器の前記計測値がガンマ線用閾値以下である場合に、前記対象物に遮蔽材が含まれていると判定し、
前記ガンマ線検出器の前記計測値から導出された前記燃焼度と前記中性子検出器の前記計測値から導出された前記燃焼度の比率から、前記対象物の前記遮蔽材の含有量を推定する、
含有量推定部を備える、
請求項1または請求項2に記載の核燃料計測システム。
【請求項10】
前記対象物が複数のセグメントに区分けられており、
カメラを用いて取得した前記対象物の外観情報、X線撮影装置を用いて取得した前記対象物の2次元情報、断層撮影装置を用いて取得した前記対象物の3次元情報の少なくとも1つを取得し、
この取得した前記対象物の形状を示す情報に基づいて、評価のために最適な前記セグメントを判定する、
セグメント判定部を備える、
請求項1または請求項2に記載の核燃料計測システム。
【請求項11】
前記計測値から核分裂性核種割合を導出する核分裂性核種割合判定部を備える、
請求項1または請求項2に記載の核燃料計測システム。
【請求項12】
前記核分裂性核種割合判定部は、前記核燃料重量判定部で導出された前記核燃料重量と、前記燃焼度判定部で導出された前記燃焼度と、予め評価された前記燃焼度に対する核分裂性核種の核種量の関係性とから、前記対象物に含まれる前記核分裂性核種の前記核種量を評価する、
請求項11に記載の核燃料計測システム。
【請求項13】
前記対象物が複数のセグメントに区分けられており、
前記核分裂性核種割合判定部は、それぞれの前記セグメントに対応して導出した前記核燃料重量および前記燃焼度から、それぞれの前記セグメントの前記核分裂性核種割合を導出する、
請求項11に記載の核燃料計測システム。
【請求項14】
前記ミュオン軌跡検出器の前記計測値から前記核燃料重量を計算するプロセスと、
前記ガンマ線検出器の前記計測値から前記燃焼度を計算するプロセスと、
前記中性子検出器の前記計測値から前記燃焼度を計算するプロセスと、
前記核燃料重量と前記燃焼度とから前記核分裂性核種割合を計算するプロセスと、
前記ミュオン軌跡検出器の前記計測値から求められた前記核燃料重量と前記ガンマ線検出器の前記計測値から求められた前記燃焼度と前記中性子検出器の前記計測値から求められた前記燃焼度との関係性から、前記対象物に含まれている中性子吸収材および遮蔽材の量を計算するプロセスと、
を含む計算プロセスを実行するものであり、
前記核燃料重量と前記中性子吸収材および前記遮蔽材の量との割合から、前記ミュオン軌跡検出器の前記計測値と前記ガンマ線検出器の前記計測値と前記中性子検出器の前記計測値との価値に重みづけを行い、
少なくとも1度の前記計算プロセスを実行した後に、前記計算プロセスの解析結果を初期条件として再び前記計算プロセスを実行し、
前記ミュオン軌跡検出器の前記計測値と前記ガンマ線検出器の前記計測値と前記中性子検出器の前記計測値との価値の比率を最適な値に収束させ、
前記核燃料重量と前記燃焼度と前記核分裂性核種割合と前記中性子吸収材および前記遮蔽材の量とのそれぞれの値を最適な値に収束させるものである、
請求項11に記載の核燃料計測システム。
【請求項15】
計測対象である対象物から放射されるガンマ線を計測するガンマ線検出器または前記対象物から放射される中性子を計測する中性子検出器の少なくとも一方と、
ミュオンを計測し、かつ前記対象物を挟んで互いに向かい合う位置に設けられた少なくとも1組のミュオン軌跡検出器と、
を用いて行う方法であり、
データ集積部が、前記ガンマ線検出器または前記中性子検出器の少なくとも一方と前記ミュオン軌跡検出器とで取得したそれぞれの計測値を集積し、
核燃料重量判定部が、前記計測値から前記対象物に含まれている核燃料の核燃料重量を導出し、
燃焼度判定部が、前記計測値から前記核燃料の燃焼度を導出する、
核燃料計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、核燃料計測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ウランなどの核燃料は、核セキュリティの観点から国際的な取り扱いが厳しく管理されている。特に、原子炉で使用された使用済み燃料は、大量の核分裂性成分を含むため高い放射能を持ち、崩壊熱による発熱が生じるため、臨界の防止、遮蔽、冷却などの対策を講じたうえで厳重な管理が必要となる。したがって、燃料の量と初期組成に加えて、使用履歴と燃焼度などの情報を正確に管理する必要がある。
【0003】
通常の使用済み核燃料は、燃料プールで一定期間保管することで短半減期の核種を減衰させた後に、再処理施設または長期貯蔵施設へ輸送される。燃料中に含有される核種の内、遮蔽管理に係る放射性核種組成、臨界管理に係るウラン235などの核分裂性核種の残留量は、主に燃焼度によって変化するため、使用済み燃料の安全性を確保するためには、燃焼度の評価が重要となる。
【0004】
使用済み燃料の燃焼度評価方法は、燃料に蓄積されている核分裂生成物からの放射線を計測することによって行われる。特に、セシウム(Cs-137)から放射されるガンマ線、キュリウム(Cm-244)から放射される中性子を計測する。ガンマ線の計測には、ゲルマニウム半導体検出器などのガンマ線スペクトル検出器が用いられ、中性子の計測には、核分裂電離箱のようなガンマ線に対する分離性が有る検出器が用いられる。
【0005】
既存の燃焼度計測装置は、原子炉で発生した使用済み燃料を再処理施設で受け入れる際などに用いられる。最も保守的な臨界管理としては、燃料が燃焼していないと仮定する「新燃料仮定」が用いられる。この新燃料仮定では、貯蔵時の燃料間隔を大きくすること、高価な中性子吸収材を使用することなどが要求され、コストが高くなる傾向にある。
【0006】
使用済み燃料が燃焼し、反応度が低下していることを考慮し、使用済燃料輸送・貯蔵施設を合理化することを「燃焼度クレジット」と呼ぶ。この燃焼度クレジットを用いた設計においては、前述の燃焼度計測装置に代表されるような燃焼度の把握技術が重要となる。
【0007】
一般的に、原子炉で発生した使用済み燃料は、その形状・重量の他に、初期組成と運転履歴が管理されており、計測の前段階で燃料に関連する多くの情報を保有しているため、新燃料仮定のような過度に保守的な管理を行う必要はない。
【0008】
一方、核セキュリティの観点から、初期組成と運転記録のない燃料を検査することも必要となる。また、原子力発電所の事故に伴って発生する燃料デブリは、炉心中の複数の燃料が混合しているため、運転記録からそのデブリに含まれる燃料の燃焼度を計算することはできない。また、核燃料と他の物質が混合している場合には、含有する核燃料の量および核分裂性核種の量を推定することは困難である。このような条件では、使用済み燃料の管理における新燃料仮定と同様に、最も保守的な条件を仮定して対象を管理する必要があるため、管理コストが大幅に増大する。したがって、事前情報が不足している核燃料物質に対しても、計測により燃焼度を把握する方法が求められている。
【0009】
事前情報が不足している核燃料または燃料デブリ中の核物質重量を計測する方法としては複数の方法が提案されている。例えば、透過力の強い宇宙線ミュオンの散乱角分布を計測することで、組成不明の物質中に含まれる核燃料の重量を計測する方法が提案されている。また、宇宙線ミュオンに加えて、ガンマ線と中性子線を計測することで、物質中に含まれる核燃料の重量の推定精度を向上させる方法が提案されている。また、宇宙線ミュオンとX線の計測を組み合わせることにより、物質組成の判定と物質形状の判定を同時に行う方法が提案されている。しかしながら、これらの提案は、物質中の核燃料の総量を計測することを目的としており、燃焼度と核分裂性核種の含有割合の分析を行うことはできなかった。核燃料の臨界管理においては、ウランなどの核物質の量だけでなく、濃縮度に代表される核分裂性核種の割合が重要な情報となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平2-222884号公報
【特許文献2】特開2017-161465号公報
【特許文献3】特開2021-189050号公報
【特許文献4】特開2022-187538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般的な燃焼度計測装置は、形状・重量が既知であることに加えて原子炉での運転履歴が管理された使用済み燃料を計測することを目的として開発されたものであり、事前情報を持たない燃料に対応することができない。また、これまでに提案されてきた核燃料重量を推定する方法は、ウランなどの核物質のみを検知することを目的としており、燃焼度または核分裂性核種の割合を計測することを目的としていない。
【0012】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、事前情報が少ない対象物を計測するときに、対象物に含有されている核燃料の重量および燃焼度を計測することができる核燃料計測技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態に係る核燃料計測システムは、計測対象である対象物から放射されるガンマ線を計測するガンマ線検出器または前記対象物から放射される中性子を計測する中性子検出器の少なくとも一方と、ミュオンを計測し、かつ前記対象物を挟んで互いに向かい合う位置に設けられた少なくとも1組のミュオン軌跡検出器と、前記ガンマ線検出器または前記中性子検出器の少なくとも一方と前記ミュオン軌跡検出器とで取得したそれぞれの計測値を集積するデータ集積部と、前記計測値から前記対象物に含まれている核燃料の核燃料重量を導出する核燃料重量判定部と、前記計測値から前記核燃料の燃焼度を導出する燃焼度判定部と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態により、事前情報が少ない対象物を計測するときに、対象物に含有されている核燃料の重量および燃焼度を計測することができる核燃料計測技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態の核燃料計測システムを示す構成図。
【
図2】第1実施形態の核燃料計測システムを示すブロック図。
【
図3】第1実施形態の核燃料計測方法を示すフローチャート。
【
図4】核燃料重量とミュオン散乱の関係を示すグラフ。
【
図5】燃焼度に対するCs-137放射能を示すグラフ。
【
図6】燃焼度に対するCm-244放射能を示すグラフ。
【
図7】燃焼度に対するU-235含有割合を示すグラフ。
【
図8】第2実施形態の核燃料計測システムを示す構成図。
【
図9】第2実施形態の核燃料計測システムを示す構成図。
【
図10】変形例の核燃料計測システムを示す構成図。
【
図11】第3実施形態の核燃料計測システムを示すブロック図。
【
図12】第4実施形態の核燃料計測システムを示す構成図。
【
図13】第4実施形態の核燃料計測システムを示すブロック図。
【
図14】第5実施形態の計測値のフィードバック方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、核燃料計測システムおよび核燃料計測方法の実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態について
図1から
図7を用いて説明する。
【0017】
図1の符号1は、第1実施形態の核燃料計測システムである。この核燃料計測システム1は、ミュオン軌跡検出器2とガンマ線検出器3と中性子検出器4と計測用コンピュータ5とを備える。ミュオン軌跡検出器2とガンマ線検出器3と中性子検出器4とは、計測用コンピュータ5に接続されている。
【0018】
核燃料計測システム1は、計測対象である対象物6に含有されている核燃料の重量および燃焼度を計測する。さらに、核燃料計測システム1は、核分裂生成物の含有割合を導出することもできる。
【0019】
対象物6は、含有されている物質に関する事前情報が少ないものである。例えば、対象物6は、原子力発電所などで発生する核燃料を含む廃棄物(核燃料デブリ)などである。なお、対象物6は、使用済みの核燃料でもよい。
【0020】
対象物6は、遮蔽容器7に収容されている。この遮蔽容器7の内部には、ガンマ線検出器3と中性子検出器4とが設けられている。また、遮蔽容器7の内部には、対象物6から放射されるガンマ線γの一部のみをガンマ線検出器3に送るためのコリメータ部8が形成されている。コリメータ部8は、例えば、対象物6とガンマ線検出器3の間に設けられたスリットまたは孔などの開口部である。
【0021】
遮蔽容器7は、対象物6から放射される放射線を遮蔽し、かつガンマ線検出器3および中性子検出器4などの計測機器に対し、外部から入射する放射線を遮蔽するものである。例えば、遮蔽容器7は、キャスクなどの核燃料の輸送または貯蔵に使われる専用の容器である。
【0022】
対象物6を挟んで互いに向かい合う位置に設けられた少なくとも1組のミュオン軌跡検出器2は、荷電粒子であるミュオンμを計測する。これらミュオン軌跡検出器2は、遮蔽容器7の外部、かつ遮蔽容器7の上部と下部の位置に、それぞれ設けられている。
【0023】
ミュオンμは、主に宇宙線として存在する。ミュオンμは、宇宙から地球に入射する1次宇宙線が地球の大気と反応することにより生じる2次宇宙線の一種である。ミュオンμは、正または負の電荷を持ち、平均3~4GeVの高いエネルギーを持つため、高い透過力を有する。また、ミュオンμは、加速器を用いて人工的に発生させることもできる。本実施形態では、宇宙線のミュオンμが用いられる形態が例示されるが、人工的に発生させたミュオンμが用いられてもよい。
【0024】
ガンマ線検出器3は、対象物6から放射されるガンマ線γを計測する。
図1の例では、1つの対象物6から放射されるガンマ線γを計測するために2つのガンマ線検出器3が設けられている。なお、ガンマ線検出器3の個数は、1つでもよいし、3つ以上でもよい。
【0025】
中性子検出器4は、対象物6から放射される中性子Nを計測する。
図1の例では、1つの対象物6から放射される中性子Nを計測するために2つの中性子検出器4が設けられている。なお、中性子検出器4の個数は、1つでもよいし、3つ以上でもよい。
【0026】
なお、第1実施形態では、核燃料計測システム1が、ガンマ線検出器3と中性子検出器4との双方を備える形態を例示しているが、核燃料計測システム1が、ガンマ線検出器3または中性子検出器4のいずれか一方を備える形態でもよい。
【0027】
図2に示すように、計測用コンピュータ5は、処理回路10と入力部11と出力部12と記憶部13と通信部14とを備える。処理回路10は、データ集積部20と核燃料重量判定部21と燃焼度判定部22と核分裂性核種割合判定部23とを備える。これらは、メモリまたはHDD(Hard Disk Drive)に記憶されたプログラムがCPU(Central Processing Unit)によって実行されることで実現される。本実施形態の核燃料計測方法は、各種プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0028】
処理回路10は、例えば、CPU、GPU(Graphics Processing Unit)、専用または汎用のプロセッサを備える回路である。このプロセッサは、記憶部13に記憶した各種のプログラムを実行することにより各種の機能を実現する。また、処理回路10は、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードウェアで構成されてもよい。これらのハードウェアによっても各種の機能を実現することができる。また、処理回路10は、プロセッサとプログラムによるソフトウェア処理と、ハードウェア処理とを組み合わせて、各種の機能を実現することもできる。
【0029】
入力部11には、計測用コンピュータ5を使用するユーザの操作に応じて所定の情報が入力される。この入力部11には、マウス、キーボード、タッチパネルなどの入力装置が含まれる。つまり、これら入力装置の操作に応じて所定の情報が計測用コンピュータ5に入力される。
【0030】
出力部12は、所定の情報の出力を行う。計測用コンピュータ5には、解析結果の出力を行うディスプレイなどの画像の表示を行う装置が含まれる。つまり、出力部12は、ディスプレイに表示される画像の制御を行う。
【0031】
記憶部13は、核燃料計測方法を実行するときに必要な各種情報を記憶する。例えば、記憶部13は、処理回路10が実行する所定のプログラムを記憶する。この記憶部13は、ミュオン軌跡検出器2とガンマ線検出器3と中性子検出器4とで取得したそれぞれの計測値を記憶する。
【0032】
通信部14は、所定の通信回線を介して他のコンピュータおよび所定の機器と通信を行う。なお、所定の機器は、ミュオン軌跡検出器2とガンマ線検出器3と中性子検出器4とを含む。
【0033】
データ集積部20は、ミュオン軌跡検出器2とガンマ線検出器3と中性子検出器4とで取得したそれぞれの計測値を集積する。集積された計算値は、記憶部13に記憶される。
【0034】
核燃料重量判定部21は、データ集積部20により集積した計測値から対象物6に含まれている核燃料の核燃料重量を導出する。
【0035】
また、核燃料重量判定部21は、ミュオン軌跡検出器2の計測値からミュオンμが対象物6を通過するときの軌跡の変化を計測し、軌跡の変化の大きさからミュオン散乱を導出する。そして、核燃料重量判定部21は、ミュオン散乱と核燃料重量の関係性から対象物6に含まれている核燃料の核燃料重量を導出する。
【0036】
燃焼度判定部22は、データ集積部20により集積した計測値から核燃料の燃焼度を導出する。
【0037】
また、燃焼度判定部22は、ガンマ線検出器3の計測値から対象物6に含まれるセシウムなどの評価対象となる核種の核種量を導出する。さらに、燃焼度判定部22は、ミュオン軌跡検出器2の計測値から導出された核燃料重量とガンマ線検出器3の計測値から導出された核種量とから、対象物6の単位重量当たりの核種量を導出する。そして、燃焼度判定部22は、単位重量当たりの核種量と燃焼度との関係性から対象物6の燃焼度を導出する。
【0038】
また、燃焼度判定部22は、中性子検出器4の計測値から対象物6に含まれるキュリウムなどの評価対象となる核種の核種量を導出する。さらに、燃焼度判定部22は、ミュオン軌跡検出器2の計測値から導出された核燃料重量と中性子検出器4の計測値から導出された核種量とから、対象物6の単位重量当たりの核種量を導出する。そして、燃焼度判定部22は、単位重量当たりの核種量と燃焼度との関係性から対象物6の燃焼度を導出する。
【0039】
また、燃焼度判定部22は、複数の計測方法からそれぞれ導出された燃焼度の値が、予め定められた許容範囲に含まれているか否かを判定し、許容範囲に含まれている値のみを用いて燃焼度を導出する。このようにすれば、異なる計測方法によってそれぞれ導出された燃焼度から1つの燃焼度を導出することができる。例えば、信頼性が低い値を導出した計測方法により導出された値を排除して燃焼度を導出することができ、燃焼度の判定精度を向上させることができる。
【0040】
なお、許容範囲は、複数の計測方法からそれぞれ導出された燃焼度の平均値から設定されてもよい。また、許容範囲は、それぞれの計測方法から導出された燃焼度の値にガンマ線γおよび中性子Nの計測値に関連する核種に対して一定の流出量を考慮した荷重を掛けた値の平均値から設定されてもよい。また、一方の計測方法から導出された燃焼度の値の信頼性が低い場合に、他方の燃焼度の値のみを採用するようにしてもよい。
【0041】
核分裂性核種割合判定部23は、それぞれの計測値から核分裂性核種割合を導出する。このようにすれば、燃焼度とともに核分裂性核種割合を計測することができる。
【0042】
また、核分裂性核種割合判定部23は、核燃料重量判定部21で導出された核燃料重量と、燃焼度判定部22で導出された燃焼度と、予め評価された燃焼度に対する核分裂性核種の核種量の関係性とから、対象物6に含まれる核分裂性核種の核種量を評価する。
【0043】
図3のフローチャートに示すように、核燃料計測システム1による計測方法は、主に、ミュオン散乱の計測、ガンマ線γのスペクトルの計測、中性子Nの計測の3通りの計測と、それぞれの計測結果を解析する手順から構成される。
【0044】
まず、ミュオン散乱の計測について説明する。このミュオン散乱の計測では、上空から地上に入射する宇宙線であるミュオンμの軌跡が計測される。
【0045】
ミュオン軌跡検出器2としては、電離ガスを用いたドリフトチューブ検出器(図示略)を積層させた装置、マルチチャンネルのシンチレーション検出器(図示略)を積層させたものが用いられる。
【0046】
ミュオンμは、高い透過力を持ち、計測対象に入射したミュオンμの多くが物質内を通過する。ここで、ミュオンμは、物質の組成および形状に応じて多重クーロン散乱を生じる。
【0047】
ミュオン散乱の散乱角θ0は、以下の数式1に示される。ここで、物質の原子番号に固有の放射長X0に依存して散乱角θ0が変化する。
【0048】
【0049】
なお、pは、ミュオンμの運動量である。βcは、ミュオンμの速度である。zは、ミュオンμの電荷である。xは、ミュオンμが物質中を通過する距離である。放射長X0は、物質に応じて異なるため、解析された散乱角θ0から、その散乱が起きた座標に存在する物質を推定することができる。
【0050】
ミュオン散乱は、原子番号の高い重元素に大きく散乱される性質を持つため、核燃料物質を多く含む物質におけるミュオン散乱の大きさを決める因子としては、物質中に含有する核燃料の重量が支配的となる。
【0051】
図4のグラフに核燃料重量(ウラン重量)とミュオン散乱(平均ミュオン散乱角)の関係の一例が示されている。核燃料重量の増加とともにミュオン散乱の値が増加するため、核燃料計測システム1によるミュオン散乱の計測により、対象物6に含まれる核物質の重量を計測することができる。
【0052】
しかしながら、ミュオン散乱は同一元素の同位体の違いによる散乱の違いに感度を持たないため、例えば、U-238とU-235の違いを識別することはできない。したがって、ミュオン散乱による計測結果は、核分裂性の有無に関わらず、ウランおよびプルトニウムなどの重元素の合計量である。核燃料の臨界管理においては、燃料中に含まれるウラン235またはプルトニウム239などの核分裂性核種の割合が重要となるため、この値だけでは、燃料の臨界管理のために必要となる情報を得ることができない。
【0053】
つぎに、ガンマ線γの計測について説明する。ガンマ線検出器3は、対象物6から放射されるガンマ線γを計測する。ガンマ線検出器3は、入射するガンマ線γのエネルギーを弁別するため、エネルギースペクトル分解が可能な検出器を用いることが推奨される。エネルギー弁別性が良い検出器の例としては、ゲルマニウム半導体検出器が挙げられる。
【0054】
ガンマ線検出器3は、周辺環境からのガンマ線γを除去するために遮蔽容器7で覆われている。また、計測するガンマ線γの入射方向および位置を調整するためにコリメータ部8が用いられ、ガンマ線検出器3に入射するガンマ線γが制限されている。
【0055】
燃焼度の判定においては、主にCs-137に由来する662keVのガンマ線γが計測される。Cs-137は、半減期約30年でベータ崩壊しBa-137mを生成し、これが662keVのガンマ線γを放射して安定なBa-137となる。
【0056】
図5のグラフに燃焼度に対するCs-137の単位重量当たりの放射能の値が示されている。この
図5では、冷却期間が10年、15年、20年のそれぞれのグラフが示されている。
【0057】
Cs-137の量は、燃焼に伴いほぼ線形に増加する。また、Cs-137の量は、照射終了からの冷却期間により減衰する。したがって、Cs-137由来のガンマ線量を計測することにより、燃焼度を推定することができる。また、照射終了からの冷却期間が既知の場合に、その推定精度を向上させることができる。
【0058】
以上の計測方法による燃焼度導出方法は、燃焼の重量が同一と仮定した条件でのガンマ線量が、燃焼度にともなって上昇する関係を利用しているため、対象物6の重量が未知であった場合には燃焼度の推定が困難である。
【0059】
つぎに、中性子Nの計測について説明する。中性子検出器4は、対象物6から放射される中性子Nを計測する。計測環境においてはガンマ線量も多いため、使用する検出器には、中性子Nとガンマ線γの弁別性が求められる。ガンマ線γとの識別性能が良い検出器としては、例えば、フィッションチェンバー(核分裂電離箱)が挙げられる。
【0060】
図6のグラフに燃焼度に対するCm-244の放射能の一例が示されている。この
図6では、冷却期間が10年、15年、20年のそれぞれのグラフが示されている。
【0061】
Cm-244は、半減期18.1年でアルファ崩壊を起こすことに加えて、自発核分裂により中性子Nを放射する。このCm-244の生成量は、燃焼度に応じて約2乗で増加する。したがって、計測される中性子量から燃焼度を求めることができる。
【0062】
ガンマ線γによる燃焼度の導出と同様に、燃焼度と中性子数の関係は、燃料の重量が一定であることを仮定した結果であるため、重量が未知の場合は、本計測方法のみで燃焼度を確定させることができない。
【0063】
そこで、本実施形態では、ミュオン散乱の計測、ガンマ線γのスペクトルの計測、中性子Nの計測結果から、対象物6の燃焼度が決定される。
【0064】
図3のフローチャートに示すように、まず、ステップS1でミュオン散乱が計測され、つぎのステップS2でミュオン散乱の計測結果から核物質の重量が導出される。
【0065】
つぎのステップS3でガンマ線γのスペクトルが計測され、つぎのステップS5でガンマ線γの計測値と核物質重量から、単位重量当たりのガンマ線量が導出される。そして、この単位重量当たりのガンマ線量から燃焼度の暫定値が導出される。
【0066】
また、ステップS3と同時に、ステップS4で中性子Nが計測され、つぎのステップS6で中性子Nの計測値と核物質重量から、単位重量当たりの中性子量が導出される。この単位重量当たりの中性子量から燃焼度の暫定値が導出される。
【0067】
つぎのステップS7において、それぞれの燃焼度を総合した評価が行われる。例えば、ガンマ線γと中性子Nの計測結果により、それぞれ独立した燃焼度の暫定値が得られている。これらを総合した評価を行う場合、簡易的な方法としては、2つの平均を取る方法が考えられる。一方、燃料デブリは、その保管状態により運転中に生成された核種が流出することにより、本来の値より含有量が低くなっており、燃焼度が過小評価されることが考えられる。このような条件において、2つの方法の評価結果から、燃焼度の高い方を採用することが考えられる。このようにして、燃焼度が導出される(ステップS8)。
【0068】
つぎのステップS9において、核分裂性核種割合の評価が行われる。この評価において、ステップS8で導出された燃焼度とステップS2で導出された核燃料重量が用いられる。そして、核分裂性核種割合が導出される(ステップS10)。
【0069】
ここで、燃焼度を導出した結果から、核分裂生成物の割合を導出する方法を説明する。
図7のグラフに燃焼度に対するU-235の含有割合が示されている。
【0070】
例えば、濃縮度3.5wt%のUO2(二酸化ウラン)燃料の燃焼に伴うU-235量の変化が計算されている。燃焼に伴い、核分裂性核種であるU-235量は、徐々に低下する。したがって、燃焼度が決定された場合に、燃料中に含まれるU-235などの核種の核分裂性核種割合を解析することができる。実運用においては、燃料の初期組成を仮定し、導出された燃焼度まで燃焼計算を行うことで、U-235以外の核分裂性核種の含有量も推定することができる。燃焼計算には、例えば、ORIGEN2などの燃焼計算コードが使用される。
【0071】
以上のように、核燃料計測システム1を用いて、それぞれの手順を実行することにより、核燃料の重量、燃焼度および核分裂性物質の含有量を分析することができる。
【0072】
なお、本実施形態に係るそれぞれの計測は、同時に実行してもよいし、それぞれの計測ごとに個別に実行してもよい。しかしながら、それぞれの計測は、統計的な事象であるため、計測時間を充分に確保して、計数を増加させた方が、より統計精度を向上させることができる。したがって、それぞれの計測は、同時に時間をかけて実行した方が効率的である。また、核燃料計測システム1自体も全計測を同時に実行可能な構造とすることによって、小型化が可能である。ミュオンμは、透過率が高いため、計測対象の周辺にガンマ線γおよび中性子Nの検出がある場合も計測が可能であるため、
図1に示すような構成で同時に計測することができる。
【0073】
(第2実施形態)
つぎに、第2実施形態について
図8から
図9を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0074】
図8から
図9示すように、第2実施形態では、対象物6Aが複数のセグメント9に区分けられている。
図8から
図9例では、1つの対象物6Aが長手方向に4つのセグメント9に区分けられている。そして、セグメント9毎に計測が行われる。
【0075】
遮蔽容器7Aの内部には、対象物6Aが長手方向に沿って並び、それぞれのセグメント9に対応する複数のガンマ線検出器3が設けられている。また、遮蔽容器7Aの内部には、それぞれのガンマ線検出器3に対応するコリメータ部8も設けられている。このようにすれば、対象物6Aのそれぞれのセグメント9から放射されるガンマ線γの計測値を取得することができる。
【0076】
なお、この第2実施形態の核燃料計測システム1では、中性子検出器4(
図1)の構成を省略しているが、ガンマ線検出器3の代替として、または追加的に、中性子検出器4が設けられてもよい。
【0077】
ミュオン軌跡検出器2は、対象物6Aに対して入射したミュオンμと、対象物6Aの内部で散乱したミュオンμを計測する。この2つの軌跡の交点または最近接点から、計測したミュオンイベントの散乱位置を導出することができる。例えば、対象物6Aが1段目から4段目までのセグメント9に区分けられている場合、ミュオンμの軌跡の交点または最近接点から、2段目のセグメント9で散乱したものか(
図8)、3段目のセグメント9で散乱したものか(
図9)を判定することができる。
【0078】
核燃料重量判定部21(
図2)は、ミュオン軌跡検出器2の計測値からミュオンμが対象物6Aのそれぞれのセグメント9を通過するときの軌跡の変化を計測し、軌跡の変化の大きさからミュオン散乱を導出する。そして、核燃料重量判定部21は、ミュオン散乱と核燃料重量の関係性から対象物6Aのそれぞれのセグメント9に含まれている核燃料の核燃料重量を導出する。このようにすれば、対象物6Aをセグメント9ごとに管理することができる。
【0079】
燃焼度判定部22(
図2)は、複数のガンマ線検出器3で取得したそれぞれの計測値からそれぞれのセグメント9の燃焼度を導出する。このようにすれば、対象物6Aのセグメント9ごとに燃焼度を導出することができる。
【0080】
核分裂性核種割合判定部23(
図2)は、それぞれのセグメント9に対応して導出した核燃料重量および燃焼度から、それぞれのセグメント9の核分裂性核種割合を導出する。このようにすれば、複数のセグメント9に区分けられた対象物6Aを総合的に評価することができる。
【0081】
第2実施形態では、核燃料重量の評価、燃焼度の評価および核分裂性核種の含有量をセグメント9ごとに評価することができる。
【0082】
なお、セグメント9の数、セグメント9の区分け間隔は、必要とする精度と計測時間に応じて、ユーザが設定する必要がある。一般的に、セグメント9の数を増やすほど、より空間的な分布を詳細に取得することができるが、セグメント9の1つ当たりの計測イベント数が低下するため、計測時間が長くなる傾向がある。
【0083】
つぎに、第2実施形態の変形例について
図10を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。この変形例において適用される構成が、他の実施形態に適用されてもよいし、他の実施形態の構成と適宜組み合わされてもよい。
【0084】
変形例の核燃料計測システム1は、ガンマ線検出器3を対象物6Aの長手方向に沿って移動させる検出器移動装置30を備える。この検出器移動装置30は、計測用コンピュータ5に接続されている。遮蔽容器7Aの内部には、対象物6Aの長手方向に沿って延びるレール31が設けられており、検出器移動装置30は、レール31に沿ってガンマ線検出器3を移動させる。
【0085】
そして、核燃料計測システム1は、検出器移動装置30によって、単一のガンマ線検出器3を移動させながら、対象物6Aのそれぞれのセグメント9から放射されるガンマ線γの計測値を取得する。このようにすれば、遮蔽容器7Aの内部に設けられるガンマ線検出器3の数を減らすことができる。
【0086】
(第3実施形態)
つぎに、第3実施形態について
図11を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0087】
この第3実施形態では、核燃料以外の計測が行われる。例えば、核燃料計測システム1の処理回路10は、前述の第1実施形態の構成(
図2)に加えて、含有量推定部24を備える。これは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
【0088】
含有量推定部24は、ミュオン軌跡検出器2の計測値から対象物6(
図1)に核燃料が含まれているか否かを判定する。さらに、含有量推定部24は、核燃料が含まれている判定結果が得られたときに、ガンマ線検出器3の計測値がガンマ線用閾値以上であり、かつ中性子検出器4の計測値が中性子用閾値以下である場合に、対象物6に中性子吸収材が含まれていると判定する。なお、ガンマ線用閾値と中性子用閾値は、ユーザが予め設定する値である。そして、含有量推定部24は、ガンマ線検出器3の計測値から導出された燃焼度と中性子検出器4の計測値から導出された燃焼度の比率から、対象物6の中性子吸収材の含有量を推定する。このようにすれば、対象物6に中性子吸収材が混じっていることを検出し、かつ中性子吸収材の量の評価をすることができる。
【0089】
また、含有量推定部24は、ミュオン軌跡検出器2の計測値から対象物6に核燃料が含まれているか否かを判定する。さらに、含有量推定部24は、核燃料が含まれている判定結果が得られたときに、中性子検出器4の計測値が中性子用閾値以上であり、かつガンマ線検出器3の計測値がガンマ線用閾値以下である場合に、対象物6に遮蔽材が含まれていると判定する。そして、含有量推定部24は、ガンマ線検出器3の計測値から導出された燃焼度と中性子検出器4の計測値から導出された燃焼度の比率から、対象物6の遮蔽材の含有量を推定する。このようにすれば、対象物6に遮蔽材が混じっていることを検出し、かつ遮蔽材の量の評価をすることができる。
【0090】
例えば、燃料デブリなどの組成が未知の燃料の内部には、核燃料以外の構造物、または、中性子吸収材が含まれる可能性がある。計測を阻害する要因として重要な物質は、ガンマ線計測を阻害する遮蔽材と、中性子計測を阻害する中性子吸収材である。
【0091】
燃料デブリに含まれる可能性のある遮蔽材として主要な物質は、鉛である。また、中性子吸収材は、例えば、元々燃料に含まれていたガドリニア、臨界管理のために投入されたホウ素が想定される。
【0092】
ミュオン計測では、鉛またはガドリニアなどの阻害物質により、ミュオン散乱が増加する傾向がある。しかしながら、ミュオン計測は、ガンマ線計測および中性子計測と比較すると、相対的に影響が少ない。
【0093】
第3実施形態では、それぞれの計測結果を組み合わせることで、遮蔽材および中性子吸収材の量を評価することができる。
【0094】
例えば、対象物6に中性子吸収材が含まれる場合について説明する。対象物6に中性子吸収材が含まれる場合には、中性子計測値が大きく低下する。その結果、中性子計測から求められる燃焼度も大幅に低下する。一方、ガンマ線計測により求められる燃焼度と、ミュオン計測により求められる燃焼重量は大きく変化しない。したがって、それぞれの計測方法のうち、中性子Nの計測値のみが低い場合は、中性子吸収材が含まれている可能性がある。
【0095】
ここで、ミュオン計測から求められた燃料重量と、ガンマ線計測から求められた燃焼度を真値とした場合において、中性子計測から求められた燃焼度は、本来の値より低くなっている。そのため、ガンマ線計測から導出された燃焼度と中性子計測から導出された燃焼度の比を取ることにより、中性子吸収材による計測値の低下率を導出することができる。
【0096】
なお、中性子吸収材の含有量が中性子計測に与える影響については、事前にモンテカルロシミュレーションで評価することが可能である。
【0097】
つぎに、対象物6に遮蔽材が含まれる場合について説明する。対象物6に遮蔽材が含まれる場合は、ガンマ線γの計数値が大きく低下する。その結果、ガンマ線計測から求められる燃焼度も大幅に低下する。一方、遮蔽体がある条件でも中性子Nの計測値への影響は少なく、ミュオン散乱への影響は、散乱がわずかに大きくなる程度である。したがって、それぞれの計測方法のうち、ガンマ線γの計測値のみが低い場合は、遮蔽材が含まれている可能性がある。
【0098】
ここで、ミュオン計測から求められた燃料重量と、中性子計測から求められた燃焼度を真値とした場合において、ガンマ線計測から求められた燃焼度は、本来の値より低くなっている。そのため、中性子計測から求められた燃焼度と、ガンマ線計測から求められた燃焼度との比を取ることにより、遮蔽材の効果による減少率を計算することができる。
【0099】
なお、遮蔽材の量がガンマ線計数率の低下に与える影響については、事前にモンテカルロシミュレーションで評価することで、ガンマ線計数率の低下量から遮蔽材の量を計算する関数を作成することができる。
【0100】
以上の計算方法は、対象物6全体に対して行うことが可能である。また、燃料デブリなどの燃料中の組成が均一でない対象物6Aの場合には、対象物6Aをセグメント9(
図8)に区分けして計測する方法が用いられる。この方法が組み合わされることにより、燃料重量と核分裂性核種の含有量に加えて、中性子吸収材と遮蔽材の空間分布を求めることができる。
【0101】
(第4実施形態)
つぎに、第4実施形態について
図12から
図13を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0102】
この第4実施形態では、対象物6A(
図12)の形状を示す形状情報による補正が行われる。例えば、前述の第1から第3実施形態は、対象物6Aが遮蔽容器7Aに収納され、対象物6Aの外観が不明な状態で評価することが前提となっていた。したがって、対象物6A全体を一度に評価する場合においても、セグメント9ごとに評価する場合においても、評価する領域内は均一の形状と組成であることを仮定した評価結果となる。
【0103】
しかしながら、対象物6Aを複数のセグメント9に区分けして評価する際に、それぞれのセグメント9の領域の形状が異なっていることが、計測結果に影響を与える場合がある。例えば、ガンマ線γについては、形状により自己遮蔽効果が異なる。また、ミュオンμの計測については、対象物6Aの所定の領域内に入射するミュオンμのうち、直進するミュオンμに対し、散乱するミュオンμの割合が形状によって異なる場合がある。
【0104】
このような課題を解決するため、第4実施形態の核燃料計測システム1は、ミュオンμ、ガンマ線γ、中性子Nの計測に加えて、対象物6Aの形状を示す形状情報を取得する。そして、この形状情報による補正が行われる。形状情報は、対象物6Aの外観情報、X線Rを利用したラジオグラフィによる2次元情報、CTスキャンによる3次元情報などである。
【0105】
例えば、対象物6Aが遮蔽容器7Aに収納されている場合は、X線ラジオグラフィによる2次元画像の取得が想定される。または、X線CTスキャンによる3次元画像の取得が想定される。対象物6Aが露出している場合は、単純な写真撮影による外観画像の取得の他、複数点からの光学的スキャンによる3次元的な形状の取得が想定される。
【0106】
図12の構成図に示すように、第4実施形態の核燃料計測システム1は、前述の第2実施形態の構成(
図8)に加えて、X線発生装置40とX線撮影装置41とを備える。X線発生装置40とX線撮影装置41は、計測用コンピュータ5に接続されている。なお、X線発生装置40とX線撮影装置41とは、遮蔽容器7Aと対象物6Aの長手方向に沿って相対的に移動可能となっており、対象物6Aの全体の形状を撮影することができる。
【0107】
X線発生装置40は、遮蔽容器7Aと対象物6Aに照射するX線Rを発生させる装置である。また、X線撮影装置41は、遮蔽容器7Aと対象物6Aを透過したX線Rで、対象物6AのX線画像を撮影する装置である。X線発生装置40とX線撮影装置41が、対象物6Aを挟んで互いに向かい合う位置に設けられる。
【0108】
第4実施形態では、X線撮影装置41を用いて取得した対象物6Aの2次元情報であるX線画像が対象物6Aの形状情報となっている。なお、対象物6Aの形状情報は、カメラ(図示略)を用いて取得した対象物6Aの外観情報である写真でもよいし、断層撮影装置(図示略)を用いて取得した対象物6Aの3次元情報であるCT画像でもよい。
【0109】
さらに、
図13のブロック図に示すように、第4実施形態の核燃料計測システム1の処理回路10は、前述の第1実施形態の構成(
図2)に加えて、形状情報取得部25とセグメント判定部26とを備える。これらは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
【0110】
形状情報取得部25は、X線撮影装置41で撮影した対象物6AのX線画像(形状情報)を取得する。
【0111】
セグメント判定部26は、形状情報取得部25で取得した対象物6Aの形状を示す形状情報に基づいて、評価のために最適なセグメント9を判定する。このようにすれば、対象物6Aの形状を示す形状情報により、計測値から導出される燃焼度の補正を行うことができる。また、形状情報は、主に、ガンマ線γの計測時の自己遮蔽効果による補正に利用することができる。
【0112】
また、対象物6Aの形状情報は、対象物6Aをそれぞれのセグメント9に区分けする際にユーザが参考とするための情報として使うこともできる。例えば、形状が均一な部分については、1つのセグメント9として評価し、形状が変わる部分については、複数のセグメント9に区分けして評価する利用方法が考えられる。
【0113】
(第5実施形態)
つぎに、第5実施形態について
図14を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0114】
この第5実施形態では、それぞれの計測方法の最適化が行われる。例えば、前述の第1から第4の実施形態までの計測方法により、対象物6(
図1)に対して、核燃料の重量、燃焼度および核分裂性核種の割合を評価することができる。また、核燃料の情報に加えて、中性子吸収材または遮蔽材の含有率も評価することができる。さらに、それぞれのパラメータは、対象物6Aがそれぞれのセグメント9(
図8)に区分けられることによって、空間的な分布として評価することができる。
【0115】
しかしながら、実際の計測条件においては、それぞれの計測値に対する、燃料の重量、核分裂性核種の割合、中性子吸収材の含有量、遮蔽材の含有量、対象物6Aの形状は、相互に依存しあうパラメータである。そのため、一度の計測結果から全ての因子を一意に決めることは容易ではない。
【0116】
このような課題を解決するため、第5実施形態の核燃料計測システム1は、計測値の解析結果のフィードバックによる最適化計算を行う。このフィードバック計算においては、計算プロセスが複数回繰り返され、最適な計算結果が求められる。
【0117】
図14に示すように、まず、評価開始前にユーザにより初期条件(S11)が設定される。初期条件において、事前に燃料の情報または推定値が存在する場合は、その値が使用される。事前情報が存在しない場合は、代表的な条件を設定する。例えば、対象となる物質の組成は、核燃料が100%で、中性子吸収材と遮蔽材が含まれないものとして設定される。また、核燃料情報として、燃焼度がゼロ(新燃料)であり、核分裂性核種割合が代表的な値(例えば、濃縮度3.5wt%)であるとして設定される。また、ミュオンμ、ガンマ線γ、中性子Nの計測値の価値がそれぞれ等価と設定される。
【0118】
核燃料重量評価プロセスでは、ミュオン計測値(S12)が取得される。このミュオン計測値(S12)、および、ミュオン散乱と核燃料重量の関係(S13)が用いられる。この核燃料重量の関係式は、ウラン重量に対するミュオン散乱角の値をシミュレーションで導出するものである。
【0119】
ミュオン計測値(S12)、および、ミュオン散乱と核燃料重量の関係式(S13)から核燃料重量(S14)が導出される。つまり、ミュオン軌跡検出器2(
図1)の計測値から核燃料重量を計算するプロセスが実行される。
【0120】
それぞれ計測方法は、対象となる物質の重量によって、有効な範囲が異なる。例えば、ガンマ線γは、対象となる物質の重量が大きい場合、自己遮蔽効果により精度が低下する。ミュオンμは、前述の数式1に示したように、対象の重量の平方根に比例するため、重量が大きくなるにつれて変化率が低下する。したがって、評価された核燃料重量(S14)に応じて、それぞれの計測値の価値が変動する。例えば、対象となる物質の重量が10kg以上の場合、ガンマ線計測の価値を低下させる。また、対象となる物質の重量が100kg以上の場合、ミュオン計測の価値を低下させる。これらの閾値は、対象となる物質の種類および目的に応じて変更してもよい。
【0121】
燃焼度評価プロセスでは、ガンマ線計測値(S16)と燃焼度に対する単位重量当たりのガンマ線量の関係式(S15)から、ガンマ線γの燃焼度(S19)が導出される。つまり、ガンマ線検出器3(
図1)の計測値から燃焼度を計算するプロセスが実行される。ここで、ガンマ線量の関係式(S15)およびガンマ線γの燃焼度(S19)は、核燃料重量(S14)に依存して変化する。
【0122】
また、中性子計測値(S17)と燃焼度に対する単位重量当たりの中性子量の関係式(S18)から、中性子Nの燃焼度(S21)が導出される。つまり、中性子検出器4(
図1)の計測値から燃焼度を計算するプロセスが実行される。
【0123】
つぎに、ガンマ線γの燃焼度(S19)と中性子Nの燃焼度(S21)から、平均燃焼度(S20)が導出される。
【0124】
第1ステップでは、ガンマ線計測と中性子計測の価値が等価と仮定されているため、両方の平均値が平均燃焼度(S20)とされる。
【0125】
核分裂性核種割合の評価プロセスでは、核燃料重量(S14)と平均燃焼度(S20)の値を利用し、燃焼度に対する核分裂性核種の関係式(S23)から、核分裂性核種割合(S26)の評価が行われる。つまり、核燃料重量と燃焼度とから核分裂性核種割合を計算するプロセスが実行される。
【0126】
遮蔽重量評価プロセスでは、遮蔽材の重量とガンマ線対中性子の関係式(S22)から遮蔽材の重量(S25)の計算が行われる。ここで、遮蔽材の重量が一定以上あった場合にガンマ線計測の価値を低下させる。
【0127】
中性子吸収材重量評価プロセスでは、中性子吸収材の重量とガンマ線対中性子の関係式(S24)から、中性子吸収材の重量(S27)の計算が行われる。ここで、中性子吸収材の重量が一定以上あった場合に中性子計測の価値を低下させる。
【0128】
つまり、ミュオン計測値から求めた核燃料重量と、ガンマ線計測値から求めた燃焼度と、中性子計測値から求めた燃焼度との関係性から、対象物6に含まれている中性子吸収材および遮蔽材の量を計算するプロセスが実行される。
【0129】
以上のプロセスの結果、解析結果(S28)として、計測の対象となる物質の組成割合(核燃料割合、遮蔽割合、中性子吸収材割合)、核燃料の燃焼情報(燃焼度、核分裂性核種割合)が算出される。
【0130】
第2ステップでは、まず、以上の第1ステップでの評価から導出された解析結果(S28)の値で初期条件(S11)が上書きされる。
【0131】
第2ステップでの評価では、初期条件の値を更新した条件で、再度、第1ステップと同様な計算プロセスが実行される。
【0132】
第1ステップとの違いを説明する。核燃料重量評価プロセスでは、ミュオン散乱と核燃料重量の関係式(S13)が用いられる。ここで、関係式(S13)は、組成が核燃料のみの条件と、不純物が混合している条件とで異なる。したがって、第2ステップ以後は、核燃料単体で評価した第1ステップとは異なり、不純物を含む核燃料を評価条件として、改めてミュオン散乱と核燃料重量の関係式(S13)を作成し、核燃料重量(S14)の値を計算する。
【0133】
燃焼度評価プロセスでは、更新された核燃料重量(S14)の値を基にしてガンマ線γの燃焼度(S19)および中性子Nの燃焼度(S21)の評価が行われる。この平均燃焼度(S20)の評価を行う場合において、ガンマ線計測の価値または中性子計測の価値が低下している場合は、それぞれの価値の比率に応じた荷重を持たせた上で平均値を求める。
【0134】
遮蔽材の重量の評価および中性子吸収材の重量の評価においては、初期値として核燃料重量(S14)を更新した条件で、改めて遮蔽材の重量(S25)と中性子吸収材の重量(S27)の計算が行われる。
【0135】
核分裂性核種割合評価プロセスでは、核燃料重量(S14)を更新した条件で核分裂性核種割合(S26)の評価が行われる。この第2ステップの結果、解析結果(S28)が更新される。
【0136】
以上のステップを繰り返すことにより、解析結果が更新されていく。これらのステップは、規定の回数繰り返してもよく、更新による解析結果の差分が一定以下に収束するまで繰り返してもよい。
【0137】
なお、この繰り返し計算による最適化については、機械学習を利用した同等の最適化計算が行われてもよい。
【0138】
第5実施形態において、核燃料計測システム1は、核燃料重量と中性子吸収材および遮蔽材の量との割合から、ミュオン軌跡検出器2の計測値とガンマ線検出器3の計測値と中性子検出器4の計測値との価値に重みづけを行う。また、核燃料計測システム1は、少なくとも1度の計算プロセスを実行した後に、計算プロセスの解析結果を初期条件として再び計算プロセスを実行する。また、核燃料計測システム1は、ミュオン軌跡検出器2の計測値とガンマ線検出器3の計測値と中性子検出器4の計測値との価値の比率を最適な値に収束させる。そして、核燃料計測システム1は、核燃料重量と燃焼度と核分裂性核種割合と中性子吸収材および遮蔽材の量とのそれぞれの値を最適な値に収束させる。このようにすれば、計算プロセスを繰り返して、解析結果をフィードバックすることにより、最適な値が求められるようになる。
【0139】
以上、本発明が第1実施形態から第5実施形態に基づいて説明されているが、いずれかの実施形態において適用された構成が他の実施形態に適用されてもよいし、各実施形態において適用された構成が組み合わされてもよい。
【0140】
なお、前述のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わってもよい。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されてもよい。
【0141】
前述の計測用コンピュータ5は、制御デバイスと記憶デバイスと出力デバイスと入力デバイスと通信インターフェースとを備える。ここで、制御デバイスは、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、専用のチップなどの高集積化させたプロセッサを含む。記憶デバイスは、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)などを含む。出力デバイスは、ディスプレイパネル、ヘッドマウントディスプレイ、プロジェクタ、プリンタなどを含む。入力デバイスは、マウス、キーボード、タッチパネルなどを含む。この計測用コンピュータ5は、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0142】
なお、前述の計測用コンピュータ5で実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。追加的または代替的に、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルとして、コンピュータで読み取り可能な非一時的な記憶媒体に記憶されて提供される。この記憶媒体は、CD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などを含む。
【0143】
また、この計測用コンピュータ5で実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータに格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。また、この計測用コンピュータ5は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用回線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0144】
なお、前述の例では、計測用コンピュータ5が各種の判定(評価、推定などの各種の処理を含む)を行う態様を例示しているが、その他の態様でもよい。例えば、前述の各種の判定のうち、一部の判定をユーザが行い、その判定結果の入力を計測用コンピュータ5が受け付けて自身の判定に用いてもよい。
【0145】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、ミュオン軌跡検出器2を備えることにより、事前情報が少ない対象物6を計測するときに、対象物6に含有されている核燃料の重量および燃焼度を計測することができる。そして、適切な管理コストで対象物6の保管を行うことができる。
【0146】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0147】
1…核燃料計測システム、2…ミュオン軌跡検出器、3…ガンマ線検出器、4…中性子検出器、5…計測用コンピュータ、6,6A…対象物、7…遮蔽容器、8…コリメータ部、9…セグメント、10…処理回路、11…入力部、12…出力部、13…記憶部、14…通信部、20…データ集積部、21…核燃料重量判定部、22…燃焼度判定部、23…核分裂性核種割合判定部、24…含有量推定部、25…形状情報取得部、26…セグメント判定部、30…検出器移動装置、31…レール、40…X線発生装置、41…X線撮影装置、N…中性子、R…X線、γ…ガンマ線、μ…ミュオン。