(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166549
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】モアレ顕像化マスクパターン媒体と、その散乱構造判定のための方法および装置
(51)【国際特許分類】
B41M 3/14 20060101AFI20241122BHJP
B42D 25/342 20140101ALI20241122BHJP
B42D 25/435 20140101ALI20241122BHJP
【FI】
B41M3/14
B42D25/342
B42D25/435
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082720
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】星 祥太朗
(72)【発明者】
【氏名】井ノ口 雅美
【テーマコード(参考)】
2C005
2H113
【Fターム(参考)】
2C005HA02
2H113AA05
2H113AA06
2H113BA00
2H113BB07
2H113BB08
2H113BB22
2H113CA34
2H113CA39
2H113CA44
2H113DA47
2H113DA53
2H113DA56
2H113DA57
2H113DA58
2H113EA19
2H113FA43
(57)【要約】
【課題】 使用環境に依らない高い耐久性を有し、かつ高い視認性でモアレを顕像化することができる、モアレ顕像化マスクパターン媒体を提供すること。
【解決手段】 本発明のモアレ顕像化マスクパターン媒体は、モアレを顕像化させるために、帯状に形成された散乱構造領域および非散乱構造領域が、交互に配置されたマスクパターン領域を有する基材と、マスクパターン領域を被覆する樹脂層とからなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モアレを顕像化させるために、帯状に形成された散乱構造領域および非散乱構造領域が、交互に配置されたマスクパターン領域を有する基材と、
前記マスクパターン領域を被覆する樹脂層とからなる、
モアレ顕像化マスクパターン媒体。
【請求項2】
前記基材および前記樹脂層のうち、少なくとも一方は透明である、
請求項1に記載のモアレ顕像化マスクパターン媒体。
【請求項3】
前記基材に対する前記樹脂層の相対屈折率は、0.85以上1.15以下ある、
請求項1に記載のモアレ顕像化マスクパターン媒体。
【請求項4】
前記散乱構造領域は、微小な凹凸形状をそれぞれ少なくとも1つ含む凹領域を、少なくとも1つ含む、
請求項1に記載のモアレ顕像化マスクパターン媒体。
【請求項5】
前記マスクパターン領域には、前記散乱構造領域が一定の間隔で配置され、前記非散乱構造領域が一定の間隔で配置される、
請求項1に記載のモアレ顕像化マスクパターン媒体。
【請求項6】
前記散乱構造領域が配置される間隔と、前記非散乱構造領域が配置される間隔とは等しい、
請求項4に記載のモアレ顕像化マスクパターン媒体。
【請求項7】
前記散乱構造領域が配置される間隔と、前記非散乱構造領域が配置される間隔とは異なる、
請求項4に記載のモアレ顕像化マスクパターン媒体。
【請求項8】
前記散乱構造領域および前記非散乱構造乱領域は、前記基材の任意の一辺に対して0度乃至180度の角度傾いて配置される、
請求項1に記載のモアレ顕像化マスクパターン媒体。
【請求項9】
前記樹脂層は、硬化性樹脂を含む、
請求項1に記載のモアレ顕像化マスクパターン媒体。
【請求項10】
前記樹脂層は、アクリル系樹脂を含む、
請求項1に記載のモアレ顕像化マスクパターン媒体。
【請求項11】
前記樹脂層は、エポキシ系樹脂を含む、
請求項1に記載のモアレ顕像化マスクパターン媒体。
【請求項12】
鋭角の隅を有していない、
請求項1に記載のモアレ顕像化マスクパターン媒体。
【請求項13】
請求項1に記載のモアレ顕像化マスクパターン媒体において、前記散乱構造領域が、モアレ顕像化のために十分な散乱構造を有しているか否かを判定する散乱構造判定方法であって、
少なくとも1つの前記散乱構造領域および前記非散乱構造領域を含む、前記マスクパターン領域の、深さ方向の断面の画像を撮像する第1のステップと、
前記画像から、前記散乱構造の輪郭線を決定する第2のステップと、
前記輪郭線の一端から、他端に向かって、前記輪郭線に沿って走査したときに、走査方向が深さ方向下向きから深さ方向上向きへ変化する変化点である谷底候補と、前記走査方向が前記深さ方向上向きから前記深さ方向下向きへ変化する変化点である山頂候補とを抽出することを、抽出された山頂候補の、前記非散乱構造領域の表面高さからの深さが、直前に抽出された山頂候補の、前記非散乱構造領域の表面高さからの深さよりも深くなるまで実施して、そこで一旦走査を停止する第3のステップと、
前記抽出された谷底候補のうち、前記深さが最も深い谷底候補を谷底として決定する第4のステップと、
前記抽出された山頂候補のうち、前記谷底に対して走査方向側に隣接する山頂候補を山頂として決定する第5のステップと、
前記谷底と前記山頂との深さの差が、所定値以上の場合、前記散乱構造領域は、モアレ顕像化のために十分な散乱構造を有していると判定する第6のステップと、
前記谷底と前記山頂との深さの差が、前記所定値未満の場合、前記走査が一旦停止されたところから走査を再開して、前記第3のステップから前記第6のステップまでを繰り返し、前記走査を前記輪郭線の前記他端まで行っても、前記谷底と前記山頂との深さの差が、前記所定値以上になることが無い場合、前記散乱構造領域は、モアレ顕像化のために十分な散乱構造を有していないと判定する第7のステップと
を含む、散乱構造判定方法。
【請求項14】
請求項13に記載の散乱構造判定方法を実施する散乱構造判定装置であって、
前記第1のステップのために、少なくとも1つの前記散乱構造領域および前記非散乱構造領域を含む、前記マスクパターン領域の、深さ方向の断面の画像を撮像する撮像部と、
前記第2のステップを実行する輪郭線決定部と、
前記第3のステップを実行する抽出処理部と、
前記第4のステップを実行する谷底決定部と、
前記第5のステップを実行する山頂決定部と、
前記第6のステップを実行する判定部とを備え、
前記谷底と前記山頂との深さの差が、前記所定値未満の場合、前記抽出処理部が、前記走査が一旦停止されたところから走査を再開して、前記第3のステップを実行し、前記谷底決定部が前記第4のステップを実行し、前記山頂決定部が前記第5のステップを実行し、前記判定部が前記第6のステップを実行することを繰り返し、前記抽出処理部によって、前記走査が前記輪郭線の前記他端まで行われても、前記谷底と前記山頂との深さの差が、前記所定値以上になることが無い場合、前記判定部は、前記散乱構造領域が、モアレ顕像化のために十分な散乱構造を有していないと判定する、
散乱構造判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モアレを顕像化させるためのマスクパターン媒体と、その散乱構造判定のための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
「モアレ(またはモワレ)」とは、周期的な模様や構造を複数重ね合わせたときに、視覚的に発生する干渉縞である。また、物理学的にいうと、モアレとは二つの空間周波数のうなり現象といえる。
【0003】
モアレは様々な形態で発現し、一般的に望ましくないものとして取り除く場合が多いが、逆に発現したモアレを有用なものとして利用する場合もある。
【0004】
例えば、銀行券やパスポート、運転免許証のような身分証明書等の各種証明書、有価証券等のセキュリティ性を有する印刷物やカード類には、偽造/複製の防止用に真偽判別要素が求められ、その一手段として、予め設計されたモアレを活用する事例も多く存在する。
【0005】
その一例として、特許文献1および特許文献2は、偽造/複製の防止用に潜像を有する画像形成体を開示している。この潜像画像形成体によれば、単体で、偽造防止効果に加えて、視認性および装飾性も向上させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-183079号公報
【特許文献2】特開2022-129424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1や特許文献2に開示される媒体は、耐久性について配慮されているものの、蒲鉾状要素群がむき出しになっている構成を有する。つまり、使用環境によっては、擦り傷や欠け、指紋脂や泥等の汚れ付着により、顕像化したモアレの視認が妨げられることも想定される。
【0008】
本発明は、係る事情を鑑みてなされたものであり、使用環境に依らない高い耐久性を有し、かつ高い視認性でモアレを顕像化できる、モアレ顕像化マスクパターン媒体を提供することを目的とする。
【0009】
また、モアレ顕像化マスクパターン媒体において、モアレの顕在化に寄与する散乱構造の存在を判定するための方法および装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、モアレを顕像化させるために、帯状に形成された散乱構造領域および非散乱構造領域が、交互に配置されたマスクパターン領域を有する基材と、マスクパターン領域を被覆する樹脂層とからなる、モアレ顕像化マスクパターン媒体である。
【0011】
本発明の第2の態様は、基材および樹脂層のうち、少なくとも一方は透明である、第1の態様のモアレ顕像化マスクパターン媒体である。
【0012】
本発明の第3の態様は、基材に対する樹脂層の相対屈折率は、0.85以上1.15以下ある、第1の態様のモアレ顕像化マスクパターン媒体である。
【0013】
本発明の第4の態様は、散乱構造領域は、微小な凹凸形状をそれぞれ少なくとも1つ含む凹領域を、少なくとも1つ含む、第1の態様のモアレ顕像化マスクパターン媒体である。
【0014】
本発明の第5の態様は、マスクパターン領域には、散乱構造領域が一定の間隔で配置され、非散乱構造領域が一定の間隔で配置される、第1の態様のモアレ顕像化マスクパターン媒体である。
【0015】
本発明の第6の態様は、散乱構造領域が配置される間隔と、非散乱構造領域が配置される間隔とは等しい、第4の態様のモアレ顕像化マスクパターン媒体である。
【0016】
本発明の第7の態様は、散乱構造領域が配置される間隔と、非散乱構造領域が配置される間隔とは異なる、第4の態様のモアレ顕像化マスクパターン媒体である。
【0017】
本発明の第8の態様は、散乱構造領域および非散乱構造乱領域は、基材の任意の一辺に対して0度乃至180度の角度傾いて配置される、第1の態様のモアレ顕像化マスクパターン媒体である。
【0018】
本発明の第9の態様は、樹脂層は、硬化性樹脂を含む、第1の態様のモアレ顕像化マスクパターン媒体である。
【0019】
本発明の第10の態様は、樹脂層は、アクリル系樹脂を含む、第1の態様のモアレ顕像化マスクパターン媒体である。
【0020】
本発明の第11の態様は、樹脂層は、エポキシ系樹脂を含む、第1の態様のモアレ顕像化マスクパターン媒体である。
【0021】
本発明の第12の態様は、鋭角の隅を有していない、第1の態様のモアレ顕像化マスクパターン媒体である。
【0022】
本発明の第13の態様は、第1の態様のモアレ顕像化マスクパターン媒体において、散乱構造領域が、モアレ顕像化のために十分な散乱構造を有しているか否かを判定する散乱構造判定方法であって、少なくとも1つの散乱構造領域および非散乱構造領域を含む、マスクパターン領域の、深さ方向の断面の画像を撮像する第1のステップと、画像から、散乱構造の輪郭線を決定する第2のステップと、輪郭線の一端から、他端に向かって、輪郭線に沿って走査したときに、走査方向が深さ方向下向きから深さ方向上向きへ変化する変化点である谷底候補と、走査方向が深さ方向上向きから深さ方向下向きへ変化する変化点である山頂候補とを抽出することを、抽出された山頂候補の、非散乱構造領域の表面高さからの深さが、直前に抽出された山頂候補の、非散乱構造領域の表面高さからの深さよりも深くなるまで実施して、そこで一旦走査を停止する第3のステップと、抽出された谷底候補のうち、深さが最も深い谷底候補を谷底として決定する第4のステップと、抽出された山頂候補のうち、谷底に対して走査方向側に隣接する山頂候補を山頂として決定する第5のステップと、谷底と山頂との深さの差が、所定値以上の場合、散乱構造領域は、モアレ顕像化のために十分な散乱構造を有していると判定する第6のステップと、谷底と山頂との深さの差が、所定値未満の場合、走査が一旦停止されたところから走査を再開して、第3のステップから第6のステップまでを繰り返し、走査を輪郭線の他端まで行っても、谷底と山頂との深さの差が、所定値以上になることが無い場合、散乱構造領域は、モアレ顕像化のために十分な散乱構造を有していないと判定する第7のステップとを含む、散乱構造判定方法である。
【0023】
本発明の第14の態様は、第13の態様の散乱構造判定方法を実施する散乱構造判定装置であって、第1のステップのために、少なくとも1つの散乱構造領域および非散乱構造領域を含む、マスクパターン領域の、深さ方向の断面の画像を撮像する撮像部と、第2のステップを実行する輪郭線決定部と、第3のステップを実行する抽出処理部と、第4のステップを実行する谷底決定部と、第5のステップを実行する山頂決定部と、第6のステップを実行する判定部とを備え、谷底と山頂との深さの差が、所定値未満の場合、抽出処理部が、走査が一旦停止されたところから走査を再開して、第3のステップを実行し、谷底決定部が第4のステップを実行し、山頂決定部が第5のステップを実行し、判定部が第6のステップを実行することを繰り返し、抽出処理部によって、走査が輪郭線の他端まで行われても、谷底と山頂との深さの差が、所定値以上になることが無い場合、判定部は、散乱構造領域が、モアレ顕像化のために十分な散乱構造を有していないと判定する、散乱構造判定装置である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、使用環境に依らない高い耐久性を有し、かつ高い視認性でモアレを顕像化することができる、モアレ顕像化マスクパターン媒体を提供することができる。
【0025】
また、モアレ顕像化マスクパターン媒体において、モアレの顕在化に寄与する散乱構造の存在を判定する方法および装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るモアレ顕像化マスクパターン媒体の一例を示す模式的な(a)平面図、(b)A-A線に沿った断面図、(c)マスクパターン領域の部分拡大平面図、および(d)マスクパターン媒体の四隅のうちの一隅を示す拡大図である。
【
図2A】
図2Aは、(a)マスクパターン媒体の平面図と、(b)マスクパターン領域の例示的な部分拡大平面図である。
【
図2B】
図2Bは、(a)マスクパターン媒体の平面図と、(b)マスクパターン領域の別の例示的な部分拡大平面図と、(c)マスクパターン領域におけるさらに別の例示的な部分拡大平面図である。
【
図2C】
図2Cは、(a)マスクパターン媒体の平面図と、(b)マスクパターン領域のさらにまた例示的な部分拡大平面図である。
【
図3A】
図3Aは、(a)マスクパターン領域における部分拡大平面図と、(b)散乱構造領域における例示的な部分拡大平面図である。
【
図3B】
図3Bは、(a)マスクパターン領域における部分拡大平面図と、(b)散乱構造領域における別の例示的な部分拡大平面図である。
【
図3C】
図3Cは、(a)マスクパターン領域における部分拡大平面図と、(b)散乱構造領域におけるさらに別の例示的な部分拡大平面図である。
【
図5】
図5は、マスクパターン領域の一部の拡大断面図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る散乱構造判定方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、本実施形態に係る散乱構造判定方法が適用された散乱構造判定装置の電子構成例を示すブロック図である。
【
図9A】
図9Aは、(a)実施例にて使用されるマスクパターン媒体の平面図および部分拡大平面図と、(b)被マスクパターン媒体の平面図および部分拡大平面図である。
【
図9B】
図9Bは、基準マスクパターン媒体の回転に伴い顕在化されるモアレを示す図である。
【
図10】
図10は、比較例2で作製したUV硬化グロスインク塗布前のマスクパターン媒体と、比較例3で作製したUV硬化グロスインク塗布後のマスクパターン媒体との比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下に記載する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で当業者の知識に基づいて設計の変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も、本発明に含まれうるものである。
【0028】
(モアレ顕像化マスクパターン媒体)
図1は、本実施形態に係るモアレ顕像化マスクパターン媒体の一例を示す模式的な(a)平面図、(b)A-A線に沿った断面図、(c)マスクパターン領域の拡大平面図、および(d)マスクパターン媒体の四隅のうちの一隅を示す拡大図である。
【0029】
モアレ顕像化マスクパターン媒体1(以下、「マスクパターン媒体1」と称する)は、
図1(a)に例示するように、例えば、運転免許証のようなセキュリティ性を有する証明書に代表される片手で持てる程度の大きさを有するカード状とすることが好適である。この場合、取り回しの利便性を考慮して、マスクパターン媒体1の四隅のうちの一隅を拡大表示する
図1(d)に示すように、鋭角な部分を持たないように、四隅を円弧上に加工することが好ましい。
【0030】
なお、マスクパターン媒体1の平面形状は、任意であってよく、カードのような長方形状に限定されず、正方形状や、他の多角形状、円形状、楕円形状とすることもできる。
【0031】
図1(b)は、
図1(a)におけるA-A線に沿った断面図である。
【0032】
図1(b)に例示するように、マスクパターン媒体1は、基材32と、基材32の一面(図中上側の面、以下「上面」と称する)30を被覆している樹脂層31とからなる。基材32および樹脂層31のうち、少なくとも一方は透明である。
【0033】
本実施形態において、透明とは、任意の物体を覗き込んだ時、物体の内部乃至反対側が透けて見える状態を称する。主にヘイズ値(曇価)[%]が低いほど透明性は高くなる。例えば、一般にアクリル樹脂(PMMA)は0.1~0.5%程度、ポリカーボネート(PC)は0.3~2%程度、ポリエチレンテレフタラート(PET)は1.5~4%程度、ポリスチレン(PS)は0.5~1.5%程度であるので、いずれも透明性を有するといえる。また、透明性について、ヘイズ値が、一般に透明といえる5%を超えない限りは有色であっても良いが、望ましくは無色である。
【0034】
(基材)
基材32の材質としては、透明性を有するPMMA、PC、PET、PSなどの樹脂とすることができる。なお、透明性を有する樹脂として、一般に、ポリ塩化ビニル(PVC)も広く用いられているが、PVCは、レーザを照射されると、人体に有毒かつ強い腐食性を有する塩化水素ガスを発生する。マスクパターン媒体1の形成には、後述するように、レーザが使用される。したがって、PVCは、基材32の候補から除外する。
【0035】
基材32の厚みは、マスクパターン媒体1の使用状況に応じて自由に選択できる。例えば、基材32の厚みを50μm~5mm、とりわけ50μm~1mm程度とすることで、マスクパターン媒体1の取り回しを、より容易とすることができる。また、基材32の厚みを50μm~1mm程度とすることによって、後述するUVレーザマーカによる散乱構造領域21の形成時の安定性を高めることもできる。
【0036】
(樹脂層)
次に、樹脂層31について説明する。
【0037】
図1(b)では、樹脂層31は、基材32の上面30の全体を被覆しているように示されている。しかしながら、樹脂層31は、少なくともマスクパターン領域101全体を被覆していればよく、必ずしも基材32の上面30全体を被覆していなくてもよい。
【0038】
樹脂層31は、硬化性樹脂とできる。硬化性樹脂は、光硬化性樹脂(一般に紫外線(UV)硬化性樹脂)、熱硬化性樹脂などが挙げられる。硬化性樹脂はいずれも一度固められれば剛性、形状安定性、耐熱性、耐溶剤性等のメリットが得られるが、UV硬化性樹脂の方が、硬化の際管理する必要のある事項(例えば硬化時間や温度等)が少なくて済むことから、好ましい。したがって、本実施形態では、樹脂層31の材料として、UV硬化性樹脂を用いる。
【0039】
UV硬化性樹脂は、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂の2つに大別される。
【0040】
アクリル系樹脂は、透明性や加工性、耐久性(耐衝撃性、耐候性、剛性等)に優れている。主なアクリル系樹脂としては、PMMA、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリロニトリル等が挙げられる。これらアクリル系樹脂の絶対屈折率(真空に対する屈折率)は、一般的に約1.49である。
【0041】
エポキシ系樹脂は、耐熱性、絶縁性、耐摩耗性、耐水性および耐湿性、強接着力等を兼ね備えた高性能かつ多機能の樹脂である。主なエポキシ系樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型樹脂、可撓性型エポキシ樹脂、高分子型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらエポキシ系樹脂の絶対屈折率は、一般的に約1.55~約1.61である。
【0042】
エポキシ系樹脂は一般的に、日光による照射や経時変化による黄ばみが起こり得ることから、硬化性樹脂には、エポキシ系樹脂よりも、アクリル系樹脂の方が好ましい。
【0043】
樹脂層31の厚みは、60μm以上とする。例えばナノインデンターのような樹脂の表面硬さを評価するための測定機器を用いる際、一般に圧痕深さは最大で約50μm程度となるものが多いが、厚みが60μm以上あれば、これら測定機器による測定も可能となる。
【0044】
(マスクパターン領域)
次に基材32に設けられるマスクパターン領域101について説明する。
【0045】
基材32は、上面30の一部あるいは全面に、
図1(a)および
図1(b)に例示するように、マスクパターン領域101を有している。
【0046】
マスクパターン領域101とは、モアレを顕像化させるために用いるパターンのうち、モアレを視認する際に手前側にマスクする形で配置するパターンが存在する領域である。
【0047】
図1(c)は、
図1(a)において部分2で示される、マスクパターン領域101の一部を拡大して示す平面図である。
【0048】
マスクパターン領域101では、
図1(c)に例示するように、y方向に向かって帯状に延びるように形成された散乱構造領域21および非散乱構造領域22が、y方向に直交するx方向に交互に配置されている。
【0049】
なお、本実施形態において、帯状とは、必ずしも直線的な帯状に限定されるものではなく、曲線的な帯状や、波状の帯状など、様々な形態をとり得るものとする。
【0050】
このように、帯状とは、様々な形態をとり得るが、以下の説明では、
図1(c)に例示するように、直線的な帯状である例を用いて、散乱構造領域21および非散乱構造領域22を説明する。
【0051】
散乱構造領域21は、モアレを顕像化させるためのマスクパターンにおける隠蔽領域、つまりモアレを視認する際の奥側に配置する被マスクパターンを部分的に隠蔽するための領域に相当する。
【0052】
一方、非散乱構造領域22は、モアレを顕像化させるマスクパターンにおけるスリット領域、つまり被マスクパターンを部分的に見せるための領域に相当する。
【0053】
隣接した1組の隠蔽領域およびスリット領域の合計幅、すなわち、隣接した1組の散乱構造領域21および非散乱構造領域22の合計幅を、ピッチPと呼ぶ。本実施形態では、ピッチPの長さは、セキュリティ利用の観点から約80μm~約270μmとする。ただし、モアレの用途に応じて、ピッチPの長さは上記範囲に限定されるものではない。
【0054】
次に、マスクパターン領域101における散乱構造領域21および非散乱構造領域22の配置例について、
図2A乃至
図2Cを用いて説明する。
【0055】
図2A乃至
図2Cは、(a)マスクパターン媒体の平面図と、(b)マスクパターン領域の部分拡大平面図の例とを示している。
図2Bの場合、さらに(c)マスクパターン領域における別の部分拡大平面図の例も示している。
【0056】
図2A乃至
図2Cのいずれの場合も、マスクパターン領域101には、多数の散乱構造領域21および非散乱構造領域22がx方向に交互に配置されるが、複数の散乱構造領域21のすべてが同一の幅Lを有し、複数の非散乱構造領域22のすべてが同一の幅Sを有するものとする。
【0057】
散乱構造領域21は、後述するように、UVレーザマーカで印字されることによって形成される。したがって、散乱構造領域21の幅Lとしては、UVレーザマーカで印字できる最小幅から、印字したい幅に合わせて重ねて印字していく場合も加味して、少なくとも10μm以上とする。
【0058】
図2A乃至
図2Cのいずれの場合も、マスクパターン領域101には、散乱構造領域21が一定の間隔で配置され、非散乱構造領域22も一定の間隔で配置される。
【0059】
図2A(b)は、マスクパターン領域101に配置される散乱構造領域21の幅Lと、非散乱構造領域22の幅Sとが等しい(L=S)場合を示す平面図である。このような配置例の場合、隠蔽領域すなわち散乱構造領域21の幅Lと、スリット領域すなわち非散乱構造領域22の幅Lとの比であるL/S(Line per Space)=1となる。
【0060】
図2A(b)に例示するようなパターンの配置は、モアレ像を顕像化させる際のマスクパターンとして一般的に用いられており、顕像化するモアレ像のコントラストおよび明るさを、良好なバランスで視認できる。L/S=1を実現する散乱構造領域21の幅L、および非散乱構造領域22の幅Sの好適な値としては、L/S=42μm/42μm、84μm/84μm、127μm/127μm等が挙げられる。これら数値は、被マスクパターンの印刷による作成のためにも好適である。
【0061】
図2B(b)および
図2B(c)は、マスクパターン領域101に配置される散乱構造領域21の幅Lと、非散乱構造領域22の幅Sとが異なる(すなわち、L/S≠1である)場合を示す平面図であり、特に、
図2B(b)は、9≧L/S>1である場合を、
図2B(c)は、1>L/S≧3/7である場合を示している。
【0062】
図2B(b)のように、一般的に、隠蔽領域、すなわち散乱構造領域21の幅Lが、スリット領域、すなわち非散乱構造領域22の幅Sよりも広い(L>S)場合、顕像化するモアレのコントラストをより高める効果が期待できるが、隠蔽領域が広い分、顕像化するモアレの明るさが暗くなる傾向がある。そのため、L/Sを、7/3以下に設定することが好ましい。
【0063】
なお、マスクパターン媒体1は、散乱構造領域21で隠蔽領域を実現しているので、ある程度の光を透過させることにより、明るさを担保できるというメリットがある。これにより、L/Sを、約9で設定しても実用できるという極めて優れた利点を有する。
【0064】
L/S=9を実現する散乱構造領域21の幅L、および非散乱構造領域22の幅Sの好適な値としては、L/S=75.6μm/8.4μm、151.2μm/16.8μm、228.6μm/25.4μmが挙げられる。
【0065】
図2B(c)のように、
図2B(b)とは逆に、隠蔽領域の幅Lが、スリット領域の幅Sよりも狭い(L<S)場合、顕像化するモアレを明るく表示する効果が期待できるが、隠蔽領域が狭い分、顕像化するモアレのコントラストが低くなる傾向がある。そのため、L/Sを、3/7以上に設定することが好ましい。
【0066】
マスクパターン媒体1は、コントラストからの観点からは、一般的なマスクパターンと効果に大差はないので、L/Sを、3/7以上に設定してよい。
【0067】
L/S=3/7を実現する散乱構造領域21の幅L、および非散乱構造領域22の幅Sの好適な値としては、L/S=25.2μm/58.8μm、50.4μm/117.6μm、76.2μm/177.8μmが挙げられる。
【0068】
図2C(b)は、マスクパターン領域101における散乱構造領域21および非散乱構造領域22が、y方向に対して傾いて配置された状態を示す平面図である。
【0069】
図2C(b)は、散乱構造領域21および非散乱構造領域22のy方向に対する傾斜角αが約30度の場合を例示しているが、傾斜角αは、y方向に対して0度乃至180度とすることができる。
【0070】
一般的に、
図2C(b)に例示するように、散乱構造領域21および非散乱構造領域22が、マスクパターン媒体1のy方向に平行な辺から傾いて配置されているモアレ顕像化マスクパターン媒体1を、x方向に動かした場合に得られるモアレ像の変化は、
図2A(b)および
図2B(b),(c)に例示するように、散乱構造領域21および非散乱構造領域22が、y方向に平行に配置されたマスクパターン媒体1を、x方向に動かした場合よりも、多少緩やかになる。
【0071】
また、
図2C(b)に例示するように、散乱構造領域21および非散乱構造領域22をy方向に対して傾けて配置したマスクパターン媒体1は、垂直方向(y方向)、水平方向(x方向)のいずれに動かされても、顕像化されたモアレが変化するため、モアレの表現のバリエーションを増やすことができる。
【0072】
次に、散乱構造領域21の形成方法について説明する。
【0073】
散乱構造領域21は、例えばレーザによる印字、予め作製された判子による印字、エンボス加工等の手段等による形成が可能であるが、以下では特にレーザによる印字について説明する。
【0074】
レーザによる印字は、一般的にレーザマーカと呼ばれる装置を用いて行われる。
【0075】
レーザマーカは、例えばCO2レーザ、ファイバレーザ、YAGレーザ、YVO4レーザ、UVレーザ等の様々な波長帯によるレーザを用いて印字を行う装置である。レーザマーカは、一般的にミクロな視点で微小なドット(平面視で楕円形に近い形状)を繰り返し打ち込み、マクロな視点で入力した描画形状に見えるように印字される。
【0076】
ドットは、使用するレーザマーカのレーザの種類や印字時のパワー設定等に依存して径が変化する。特に、レーザの波長が短くなるほど、打ち込まれるドット径は小さくなる。例えば、UVレーザマーカでは、最小印字精度として1ドットあたり約15μmの幅で印字することができる。
【0077】
散乱構造領域21の幅が、1ドットのサイズよりも大きい場合、ドットを複数連続して打ち込み、最終的に所望する形態の帯状に見えるように印字を制御する。また、印字したい幅とドットのサイズが割り切れない関係であった場合は、ドット同士に重なる領域を設けて印字する等の工夫をして行う。このような例を、
図3A乃至
図3Cを用いて説明する。
【0078】
図3A、
図3B、および
図3Cともに、(a)マスクパターン領域における部分拡大平面図と、(b)散乱構造領域における部分拡大平面図とを示す。
【0079】
図3A(b)は、散乱構造領域21の長手方向である図中y方向に対して垂直な方向62であるx方向にレーザを走査して印字されたドット61によって形成された散乱構造領域21の例を示す。逆に、
図3B(b)は、散乱構造領域21の長手方向63であるy方向にレーザを走査して印字されたドット61によって形成された散乱構造領域21の例を示す。一方、
図3C(b)は、レーザの走査を少しずつずらしながら、擬似的にランダム位置に印字されたドット61によって形成された散乱構造領域21の例を示す。
【0080】
マスクパターン媒体1は、
図3A(b)および
図3B(b)のいずれの方法で散乱構造領域21を形成されても、得られるモアレの品質上の違いはほとんどない。
【0081】
したがって、ユーザは、
図3A(b)および
図3B(b)に示す方法のうち、都合の良い方法を選択してドット61を印字し、散乱構造領域21を形成することができる。
【0082】
ただし、いずれの方法であっても、形成される散乱構造領域21は、JIS規格に含まれる表面粗さを表す指標の1つであるRa値が、樹脂層31で被覆される前の基材32上において、少なくとも0.8μm以上であるものとする。
【0083】
このように散乱構造領域21が形成されることによって、基材32の上面30にマスクパターン領域101が形成される。また、前述したように、マスクパターン領域101は、樹脂層31によって被覆されるので、基材32と樹脂層31との相対屈折率(物質間の屈折率)が小さければ、その境界部にあるマスクパターン領域101は、視認性が低下する。これは、マスクパターン領域101自体の視認性を抑制すれば、顕像化するモアレの視認性が向上することを意味する。したがって、基材32と樹脂層31との相対屈折率を小さく、つまり1に近くなるように保つ必要がある。
【0084】
媒質Aに対する媒質Bの相対屈折率nABは、媒質Aの絶対屈折率をnA、媒質Bの絶対屈折率をnBとしたとき、nAB=nB/nAによって求められる。本実施形態では、基材32に対する樹脂層31の相対屈折率を1に近くなるように、具体的には、0.85以上、1.15以下とする。
【0085】
なお、基材32は、単層で形成されることが望ましいが、絶対屈折率が近い透明樹脂同士であれば、複数の樹脂を積層することによって構成することもできる。例えば、PC、PET、PSは、絶対屈折率がそれぞれ約1.58、約1.6、約1.59であり、絶対屈折率が近いので、これらを積層することによって形成された基材32を使用することもできる。
【0086】
次に、マスクパターン領域101の断面構造について説明する。
【0087】
【0088】
図5は、
図4において部分4で示される、マスクパターン領域101の一部の拡大断面図である。
【0089】
図4に示すように、非散乱構造領域22の表面は上面30そのものであり、平坦となっているのに対し、散乱構造領域21は、
図3A、
図3B、および
図3Cを用いて説明したように、レーザ印字されたドット61によって形成されているので、窪んでいる。
【0090】
散乱構造領域21の窪みの断面構造を拡大表示する
図5に示すように、散乱構造領域21の窪みは、微小な多数の凹凸形状群を含む、多数の大きな凹凸形状により形成される。各凹凸形状の高さ(すなわち、上面30からの深さ)は、散乱構造領域21が、モアレ顕像化のために十分な散乱構造を有しているか否かを決定付ける重要な因子である。しかしながら、各凹凸形状の高さ(すなわち、上面30からの深さ)の値は、不規則であり、一定値を有するとは限らない。
【0091】
そこで、本実施形態では、以下に説明する散乱構造判定方法、およびを散乱構造判定方法が適用された散乱構造判定装置によって、散乱構造領域21が、モアレ顕像化のために十分な散乱構造を有しているか否かを判定する。
【0092】
図6は、本実施形態に係る散乱構造判定方法の動作の流れを示すフローチャートである。
【0093】
図7は、本実施形態に係る散乱構造判定方法が適用された散乱構造判定装置の電子構成例を示すブロック図である。
【0094】
図7に例示するように、散乱構造判定装置100は、バス111によって互いに接続されたCPU112、記録媒体読取部114、撮像部115、表示部116、各種プログラムが格納されたメモリ120、および記憶装置130を備えている。
【0095】
このような散乱構造判定装置100は、限定される訳ではないが、PCや、タブレット端末で実現することができる。あるいは、必ずしも同一のハードウェアで構成される必要もなく、例えばクラウドのように、機能を分散された複数のハードウェアによって実現することもできる。
【0096】
CPU112は、コンピュータであって、メモリ120に記憶されているプログラムに従い散乱構造判定装置100内の各部の動作を制御する。
【0097】
記憶装置130は、SSD(Solid State Drive)やHDD(Hard Disk Drive)等からなる。
【0098】
なお、図示は省略しているが、散乱構造判定装置100は、例えばマウスやキーボード等の入力デバイスを備えている。ユーザが、このような入力デバイスを操作することによって、必要な操作入力を、散乱構造判定装置100にすることができる。
【0099】
表示部116は、例えばディスプレイとすることができ、表示部116から、散乱構造判定装置100によってなされている処理の状況が表示される。
【0100】
撮像部115は、例えばカメラであって、
図4に例示するような、少なくとも1つの散乱構造領域21および非散乱構造領域22を含む、マスクパターン領域101の深さ方向(z方向)の断面の画像を撮像する(ステップS1)。撮像部115は、撮像により得られた画像データaを、メモリ120へ出力する。
【0101】
メモリ120は、散乱構造判定装置100を実現するための各種プログラムを記憶しており、これらプログラムによって、輪郭線決定部121、抽出処理部122、谷底決定部123、山頂決定部124、および判定部125を実現する。
【0102】
輪郭線決定部121、抽出処理部122、谷底決定部123、山頂決定部124、および判定部125のプログラムは、メモリ120に予め記憶されていてもよいし、あるいはメモリカード等の外部記録媒体113から記録媒体読取部114を介してメモリ120に読み込まれて記憶されたものであってもよい。輪郭線決定部121、抽出処理部122、谷底決定部123、山頂決定部124、および判定部125のプログラムは、書き換えできない。
【0103】
メモリ120には、このような書き換え不可能なプログラムが記憶されたエリアの他に、書き換え可能なデータを記憶するエリアとして、書込可能データエリア129が確保されている。
【0104】
輪郭線決定部121は、画像データaから、散乱構造断面の輪郭線43(
図5)を決定する(ステップS2)。
【0105】
図8(a)は、
図5と同じ断面図であり、
図8(b)および
図8(c)は、
図8(a)における部分5の拡大断面図である。なお、
図8(b)と
図8(c)は、同じ部分5の拡大断面図を示しているが、別の説明で使用される。
【0106】
本実施形態では便宜上、散乱構造断面における大きな凹凸形状のうち凹形状を谷(谷の底を谷底)、凸形状を山(山の頂点を山頂)と称する。
【0107】
抽出処理部122は、
図8(a)および
図8(b)に例示するように、輪郭線43の一端である開始点T1から、他端T2に向かって(x方向に)、輪郭線43に沿って走査したときに、走査方向が深さ方向(z方向)下向きから深さ方向(z方向)上向きへ変化する変化点である谷底候補52と、走査方向が深さ方向(z方向)上向きから深さ方向(z方向)下向きへ変化する変化点である山頂候補53とを抽出する(ステップS3)ことを、抽出された山頂候補53の、非散乱構造領域22の表面高さ(すなわち、上面30の高さ)である基材面41からの深さが、直前に抽出された山頂候補53の、非散乱構造領域22の表面高さ(すなわち、上面30の高さ)である基材面41からの深さよりも深くなる(ステップS4)まで実施して、そこで一旦走査を停止する(ステップS5)。
【0108】
ステップS5の後、谷底決定部123は、抽出処理部122によって抽出された谷底候補52のうち、深さが最も深い谷底候補52を谷底52Aとして決定する(ステップS6)。
【0109】
ステップS6の後、山頂決定部124は、抽出処理部122によって抽出された山頂候補53のうち、谷底52Aに対して走査方向側(x方向側)に隣接する山頂候補53を山頂53Aとして決定する(ステップS7)。
【0110】
ステップS7の後、判定部125は、谷底52Aと山頂53Aとの深さの差が、
図8(c)に示すように、2.5μm値以上の場合(ステップ8:Yes)、散乱構造領域21が、モアレ顕像化のために十分な散乱構造を有していると判定する(ステップS9)。また、ここで、山頂53Aから走査方向の逆方向側(-x方向側)に延ばした基材面41と平行な線Hと、輪郭線43とによって囲まれる領域を谷42と称する。
【0111】
一方、谷底52Aと山頂53Aとの深さの差が、2.5μm未満の場合(ステップ8:No)、抽出処理部122は、走査が一旦停止されたところから走査を再開して(ステップS10)、ステップS3からステップS8までの処理を繰り返す。そして、谷底52Aと山頂53Aとの深さの差が、2.5μm以上になることが無いまま、走査が輪郭線43の他端T2まで行われた場合、(ステップS11:No)、すなわち、最後まで谷42が発見されない場合、判定部125は、散乱構造領域21が、モアレ顕像化のために十分な散乱構造を有していないと判定する(ステップS12)。
【0112】
2.5μm未満の深さである凹凸形状のみで散乱構造領域21が形成されたマスクパターン媒体1では、顕像化するモアレが望ましい状態で視認できる程の隠蔽効果を機能させることは困難である。これにより、本実施形態では、十分な散乱構造の判定基準として、散乱構造領域21に、谷底52Aと山頂53Aとの深さの差が2.5μm以上である凹凸形状が少なくとも1つ存在することとしている。
【0113】
このように、散乱構造判定装置100は、バス111、CPU112、記録媒体読取部114、撮像部115、表示部116、メモリ120、および記憶装置130等のハードウェアと、メモリ120に記憶されている各プログラムであるソフトウェアとが協働して動作する。
【0114】
以上のような構成の散乱構造判定装置100によって、散乱構造領域21が、モアレ顕像化のために十分な散乱構造を有しているか否かを判定することができる。
【実施例0115】
次に、マスクパターン媒体の実施例について説明する。
【0116】
図9Aは、(a)実施例にて使用されるマスクパターン媒体の平面図および部分拡大平面図と、(b)被マスクパターン媒体の平面図および部分拡大平面図である。
【0117】
図9A(a)に示されるマスクパターン媒体800は、縦×横=65mm×95mmのカード形状をしており、
図9A(b)に示される被マスクパターン媒体803も同じサイズである。
【0118】
マスクパターン媒体800の中央に、縦×横=40mm×40mmの正方形状のマスクパターン領域801を配置した。それに対応して、被マスクパターン媒体803の中央にも同様に、縦×横=40mm×40mmの正方形状の被マスクパターン領域804を配置した。
【0119】
マスクパターン領域801に、マスクパターン媒体800の短辺方向(y方向)に平行になるように、直線的な帯状に形成された散乱構造領域21(隠蔽領域)および非散乱構造領域22(スリット領域)を、x方向に交互に配置した。
【0120】
一方、
図9A(b)に示される被マスクパターン媒体803には、厚さが1mmのポリカーボネート(PC)を基材として、カードプリンタにより黒色で被マスクパターン領域804の着色層を転写した。基材は、透明性を有する材質、不透明な材質のいずれでも良いが、白地が望ましい。
【0121】
被マスクパターン媒体803の被マスクパターン領域804には、マスクパターン領域801と重ね合わされた状態で回転され、マスクパターン領域801が傾いて行くに伴い、顕像化したモアレが変動するように、湾曲帯状に形成された散乱構造領域21(隠蔽領域)および非散乱構造領域22(スリット領域)が、x方向に交互に配置されている。
【0122】
このように作製された被マスクパターン媒体803は、下記比較例1~4において共通して使用される。
【0123】
図9Bは、マスクパターン媒体800の下に、被マスクパターン媒体803を重ね合わせた状態で、媒体の垂直方向中心部を軸として、徐々に左回転(白矢印方向)あるいは右回転(黒矢印方向)することで顕在化されるモアレを示す図である。
【0124】
マスクパターン媒体800を左回転(白矢印方向)すると、モアレは、807→808→809→810→807→・・・のように周期的に変動し、右回転(黒矢印方向)すると、モアレは逆に、810→809→808→807→810→・・・のように周期的に変動する。
【0125】
<比較例1>
比較例1では、上記のように作製されたマスクパターン媒体(以下、「基準マスクパターン媒体」と称する)800の効果を確認するために、カードプリンタを用いて、比較用のマスクパターン媒体を作製した。これを、比較例1のマスクパターン媒体と称する。
【0126】
比較例1のマスクパターン媒体は、厚さ1mmの透明性を有するPETを基材とし、カードプリンタにより、転写リボンから、L/S=127μm/127μm、つまり254μmのピッチとなるように、黒色で直線的な帯状のマスクパターン着色層を転写することによって作製した。
【0127】
比較例1のマスクパターン媒体を、前述した被マスクパターン媒体803と重ね合わせ、顕像化したモアレをD65光源下で確認したところ、正面からの視認において、同心円状のパターンを、明瞭な黒色で視認できた。つまり、コントラストが非常に高いモアレを視認できることを確認できた。ただし、モアレが顕像化している領域全体は暗く感じられた。
【0128】
次に、比較例1のマスクパターン媒体を傾けていったところ、正面の状態から左右に45度程度傾けたところからさらに大きく傾けたときに、モアレが顕像化している領域全体が徐々に暗くなっていき、併せてモアレが視認しづらくなっていった。これは、比較例1のマスクパターン媒体を傾けることで、スリット領域が徐々に隠蔽領域に隠れてしまうためだと考えられる。
【0129】
このように、比較例1のマスクパターン媒体を、基準マスクパターン媒体800と比較すると、得られるモアレのコントラストは高くなるが全体的に暗くなるため、モアレを視認する環境によっては、確認が非常に困難になる場合があった。また、比較例1のマスクパターン媒体は、インクを塗布しただけであり、マスクパターン領域801は、樹脂層31で被覆されておらず、むき出しになっているので、擦り傷等によりパターンが簡単に削られてしまい、削られた部分によるモアレの視認性が低下した。
【0130】
<比較例2>
比較例2では、基準マスクパターン媒体800の効果を確認するために、UVレーザマーカを用いて、別の比較用のマスクパターン媒体を作製した。これを、比較例2のマスクパターン媒体と称する。
【0131】
比較例2のマスクパターン媒体は、比較例1のマスクパターン媒体と同様に、厚さ1mmのPETを基材とし、UVレーザマーカを用いて、L/S=127μm/127μm、つまり254μmのピッチとなるように、散乱構造領域21を隠蔽領域として印字した。
【0132】
UVレーザマーカの印字条件としては、印字速度を850mm/s、レーザ平均パワーを2.33mW、印字ドット幅を約22μmとし、127μm幅の直線を印字するために、約4μm重複する形で計6個分のドットを、
図3Aまたは
図3Bに示す印字方法にて印字した。この時の散乱構造領域21の表面粗さを光学顕微鏡により測定した結果、Ra=約1.3μm、Sa=約1.005μmであった。
【0133】
このように作製された比較例2のマスクパターン媒体のマスクパターン領域を観察したところ、奥が透視可能ではあるが、全体的にすりガラスのように曇っているように見えた。この要因としては、散乱構造自体の影響だけでなく、UVレーザマーカにより印字した際、散乱構造領域21と非散乱構造領域22との境界部に、印字時のパワー起因のクラッキングというひげ状の細かいひび割れ現象が生じていたことが影響していると考えられる。
【0134】
次に、比較例2のマスクパターン媒体を、前述した被マスクパターン媒体803と重ね合わせ、顕像化したモアレをD65光源下で観察したところ、正面からの視認において、比較例1のマスクパターン媒体におけるモアレと比べて、同心円状の黒線のコントラストは多少低く感じられたものの、全体的に明るくなっており、明瞭にモアレを視認することができた。ただし、モアレの視認性にも、曇りの影響が出ているようであった。
【0135】
また、比較例2のマスクパターン媒体を傾けていった際、比較例1のマスクパターン媒体の場合と比べて、傾ける角度に関わらず、モアレを変わらず視認し続けることができた。すなわち、基準マスクパターン媒体800と同様に、顕像化するモアレから変わることなく、明瞭な状態で視認できた。ただし、比較例2のマスクパターン媒体も、マスクパターン領域801は、樹脂層31で被覆されておらず、むき出しになっているので、擦り傷等によりパターンが簡単に削られてしまい、削られた部分によるモアレの視認性が低下した。
【0136】
<比較例3>
比較例3では、比較例2と同様の条件にて散乱構造領域21を形成したマスクパターン領域の表面に、さらにUVプリンタを用いて、アクリル系樹脂を含むグロスインクを塗布して硬化させることによって樹脂層31を設けたマスクパターン媒体を作製した。これを、比較例3のマスクパターン媒体と称する。
【0137】
図10は、比較例2で作製したUV硬化グロスインク塗布前のマスクパターン媒体と、比較例3で作製したUV硬化グロスインク塗布後のマスクパターン媒体との比較を示す図である。
【0138】
図10の右側1段目の写真は、比較例3のマスクパターン媒体を撮像したものであり、
図10の左側1段目の写真は、比較例2のマスクパターン媒体を撮像したものである。比較例2のマスクパターン媒体では、すりガラス状の曇りが観察されているが、比較例3のマスクパターン媒体のマスクパターン領域では、すりガラス状の曇りは抑制されており、奥まで明瞭に透視できることを確認できた。この要因としては、比較例3のマスクパターン媒体では、基材32であるPETの屈折率と、塗布したアクリル系樹脂からなる樹脂層31との屈折率との差がほぼなく、散乱構造領域21の視認性が薄まったからであると考えられる。
【0139】
図10の右側2段目の画像は、比較例3のマスクパターン媒体の散乱構造万線の拡大画像であり、
図10の左側2段目の画像は、比較例2のマスクパターン媒体の散乱構造万線の拡大画像である。これら画像はどちらもレーザ顕微鏡によって得られたものである。比較例2のマスクパターン媒体では散乱構造領域と非散乱構造領域との境界部にクラッキングが生じていることが認められたが、比較例3のマスクパターン媒体ではそのようなクラッキングはほぼ視認されなくなっている。これもまた、比較例2のマスクパターン媒体で観察されたすりガラス状の曇りが、比較例3のマスクパターン媒体では抑制された要因として考えられる。
【0140】
次に、比較例2および比較例3のマスクパターン媒体と、被マスクパターン媒体803とを重ね合わせ、顕像化したモアレをD65光源下で観察した。
図10の右側3段目の左側の写真は、比較例3のマスクパターン媒体と、被マスクパターン媒体803とを重ね合わせたときに、正面から観察されたモアレを撮像したものである。一方、
図10の左側3段目の左側の写真は、比較例2のマスクパターン媒体と、被マスクパターン媒体803とを重ね合わせたときに、正面から観察されたモアレを撮像したものである。比較例3のマスクパターン媒体で得られたモアレを正面から視認した場合、比較例2と同様に、同心円状の黒線のコントラストが比較例1に比べて多少低く感じられたものの、比較例2と比べて曇りが抑制された分だけ全体的に明るくなっており、より明瞭にモアレを視認できることを確認できた。
【0141】
さらに、比較例2および比較例3のマスクパターン媒体と、被マスクパターン媒体803とを重ね合わせたまま、マスクパターン媒体を傾けてみた。
図10の右側3段目の右側の写真は、比較例3のマスクパターン媒体と、被マスクパターン媒体803とを重ね合わせたまま、比較例3のマスクパターン媒体を傾けてみたときに観察されたモアレを撮像したものである。一方、
図10の左側3段目の右側の写真は、比較例2のマスクパターン媒体と、被マスクパターン媒体803とを重ね合わせたまま、比較例2のマスクパターン媒体を同様に傾けてみたときに観察されたモアレを撮像したものである。マスクパターン媒体を傾けてモアレを視認した場合、比較例3のマスクパターン媒体の方が、比較例2のマスクパターン媒体よりも、より明瞭なモアレを、より長く視認できることを確認できた。
【0142】
さらに、樹脂層31で被覆されていない比較例2のマスクパターン媒体と、樹脂層31で被覆されている比較例3のマスクパターン媒体との透明具合を、数値的に比較するための指標として、ヘイズ(またはヘーズ、曇価)を測定した。ヘイズは、任意物体、特に透明性を有する物体の曇り具合を表しており、一般に0%~100%の範囲で示される。この値が大きいほど白濁しており、小さいほど透明であるといえる。
【0143】
測定の結果、比較例2のマスクパターン媒体は、ヘイズ:52.83%であり、比較例3のマスクパターン媒体は、ヘイズ:42.85%であった。
図10の右側1段目の写真を、
図10の左側1段目の写真と比較して分かるように、比較例3のマスクパターン媒体は、比較例2のマスクパターン媒体よりも透明性が高いが、この高い透明性は、ヘイズが小さいことに起因することも数値的に確認できた。
【0144】
<比較例4>
比較例4では、厚さ0.1mmのOHPフィルム(材質:PET)へマスクパターン領域を形成することによってマスクパターン媒体を作製した。パスクパターン領域には、比較例2および比較例3と同様の条件で散乱構造領域21を形成し、その後、UVプリンタを用いて、アクリル系樹脂を含むグロスインクを塗布して硬化させることによって樹脂層31を設けたマスクパターン媒体を作製した。これを、比較例4のマスクパターン媒体と称する。
【0145】
比較例4のマスクパターン媒体について、樹脂層31の被覆前後で表面を観察した結果、比較例3のマスクパターン媒体と同様に、曇りが抑制されていることが確認できた。また、比較例4のマスクパターン媒体と、被マスクパターン媒体803とを重ね合わせ、顕像化したモアレをD65光源下で観察したところ、正面からの視認において、比較例2および比較例3と同様、同心円状の黒線のコントラストが、比較例1に比べて多少低く感じられたものの、樹脂層31の被覆前と比べると全体的に明るくなっており、明瞭にモアレを視認できた。
【0146】
以上説明したように、比較例3および比較例4の場合、マスクパターン媒体は、散乱構造領域21を形成する基材32の厚みに関わらず、高い視認性でモアレを顕像化することができ、使用環境に適した基材を選択できるとの知見が得られた。
【0147】
また、比較例3および比較例4のマスクパターン媒体は、表面に例えば0.5mm厚のグロスインク層のコーティングによって樹脂層31を形成したため、樹脂層31の被覆前と比べて、高い耐久性を備えるようになり、擦り傷や汚れにも耐えることができるようになった。
【0148】
以上、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明したが、本発明はかかる構成に限定されない。特許請求の範囲の発明された技術的思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の技術的範囲に属するものと了解される。