(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166552
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】高炉冷却装置
(51)【国際特許分類】
C21B 7/10 20060101AFI20241122BHJP
F27D 1/12 20060101ALI20241122BHJP
F27B 1/24 20060101ALI20241122BHJP
F27D 9/00 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
C21B7/10 301
C21B7/10 304
F27D1/12 A
F27B1/24
F27D9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082724
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶原 夕聖
(72)【発明者】
【氏名】古舘 昭二
(72)【発明者】
【氏名】古谷 俊治
(72)【発明者】
【氏名】国重 直樹
【テーマコード(参考)】
4K015
4K045
4K051
4K063
【Fターム(参考)】
4K015CA04
4K015CA09
4K045AA02
4K045BA02
4K045DA09
4K045MA02
4K051AA01
4K051AB03
4K051HA01
4K051HA08
4K063AA02
4K063BA02
4K063CA04
4K063EA02
(57)【要約】
【課題】高さ別に複数段のステーブ群を設置しつつ設備の簡素化が図れる高炉冷却装置を提供する。
【解決手段】高炉冷却装置1は、高炉2の内側に張られた複数のステーブ4と、ステーブ4に冷却水を循環させる循環装置30を有し、ステーブ4は、所定の高さ範囲に設置された上段ステーブ10と、上段ステーブ10よりも低い範囲に設置された下段ステーブ20と、を有し、上段ステーブ10および下段ステーブ20は、冷却水路11,21、給水口12,22、排水口13,23を有し、循環装置30は、上段ステーブ10より高い位置に設置されたヘッドタンク31と、ヘッドタンク31から下段ステーブ20の給水口22に至る下降配管32と、下段ステーブ20の排水口23から上段ステーブ10の給水口12に至る中間配管33と、上段ステーブ10の排水口13からヘッドタンク31に至る回収配管34と、中間配管33の途中に設置されたポンプ35と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉の内側に張られた複数のステーブと、前記ステーブに冷却水を循環させる循環装置を有する高炉冷却装置であって、
前記ステーブは、所定の高さ範囲に設置された上段ステーブと、前記上段ステーブよりも低い範囲に設置された下段ステーブと、を有し、
前記上段ステーブおよび前記下段ステーブは、それぞれ給水口、排水口、および前記給水口から前記排水口に至る冷却水路を有し、
前記循環装置は、
前記上段ステーブより高い位置に設置されたヘッドタンクと、
前記ヘッドタンクから前記下段ステーブの前記給水口に至る下降配管と、
前記下段ステーブの前記排水口から前記上段ステーブの前記給水口に至る中間配管と、
前記上段ステーブの前記排水口から前記ヘッドタンクに至る回収配管と、
前記中間配管の途中に設置されたポンプと、を有する高炉冷却装置。
【請求項2】
前記中間配管は、両端が前記下段ステーブの前記排水口および前記上段ステーブの前記給水口に接続されるとともに、前記ポンプが設置された中間部が下方に引き回され、前記中間部の前記下段ステーブとの間の立下り開始点における前記ヘッドタンクのヘッド圧が、前記下降配管の圧力損失、前記下段ステーブの前記冷却水路の圧力損失、および前記中間配管の前記下段ステーブから前記立下り開始点までの圧力損失の合計より大きい、請求項1に記載した高炉冷却装置。
【請求項3】
前記ポンプの入口側に熱交換器を備える、請求項1または請求項2に記載した高炉冷却装置。
【請求項4】
前記下段ステーブおよび前記上段ステーブは、それぞれ銅ステーブである、請求項1または請求項2に記載した高炉冷却装置。
【請求項5】
前記回収配管の前記上段ステーブの前記排水口に接続される端部および前記中間配管の前記下段ステーブの前記排水口に接続される端部の少なくともいずれかにフロートスイッチを有する、請求項1または請求項2に記載した高炉冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高炉冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉は、外殻である鉄皮の内側に耐火物層が張られるとともに、耐火物層の内側にステーブが設置される。
ステーブは、銅または鋳鉄などで形成されたパネル状の部材とされ、鉄皮の内側に沿って配列される。ステーブには、内部に冷却水路が形成され、各ステーブの冷却通路にはそれぞれ鉄皮の外側から冷却水が循環され、所期の冷却能力を確保している。
【0003】
ステーブの冷却水路は、ステーブの下部に給水管を有し、上部に排水管を有する。これらの給水管および排水管は、それぞれ鉄皮の外側へ引き出され、上下に隣接するものどうしが連結管で連結される。複数段のステーブのうち最下段に設置されたステーブの給水管、および最上段に設置されたステーブの排水管には、冷却水の循環装置が接続される。
循環装置は、貯水用のタンク、放熱用の熱交換器、および圧送用のポンプを有し、タンク内の冷却水を、熱交換器で冷却したのち、ポンプで最下段のステーブに圧送する。供給された冷却水は、各段のステーブを通過しながら吸熱し、最上段のステーブからタンクへ戻される。これらのステーブおよび循環装置により、高炉冷却装置が構成される。
【0004】
既存の高炉冷却装置においては、炉内への漏水防止を目的として、冷却水路における冷却水の圧力を炉内圧力よりも低くすることが行われていた。ただし、冷却水の圧力を低くすると、ステーブへの冷却水の供給が十分でなくなり、冷却能力が低下し、ステーブないし鉄皮の破損に至る可能性がある。
一方、十分な圧力で冷却水を供給する場合、ステーブの一部、特に下段のステーブにおいて、冷却水路の圧力が炉内圧力より高くなり、炉内への漏水の可能性がある。
とくに、近年、操業条件の変化による高熱負荷に対応するため、シャフト部に銅ステーブが採用されている。銅ステーブを採用して奪熱量が増加した際には、冷却水路での蒸気発生を抑制するため、冷却水の流速が高く設定され、これに伴ってステーブ内の冷却水路における圧力損失が増加し、シャフト下部で冷却水路の圧力が炉内圧力より高くなる状況が生じている。
【0005】
このような状況に対し、本願出願人により、高炉の内側に張られた複数のステーブと、各ステーブに冷却水を循環させる循環装置を有し、各ステーブは高さ別に複数段(例えば上下2段)のステーブ群に区分され、循環装置としてステーブ群に対応した複数系統が設置されている高炉冷却装置が開発されている(特許文献1参照)。
特許文献1の高炉冷却装置では、複数段のステーブ群は、それぞれ所定の高さ範囲の複数のステーブで構成され、各々には対応する循環装置から冷却水が循環される。各系統の循環装置は、それぞれ対応するステーブ群に属するステーブに対して十分な圧力で送水できればよく、各ステーブ群において冷却水の圧力を抑制しつつ十分な冷却能力が得られる。その結果、高炉冷却装置全体として、冷却水の圧力を抑制しつつ十分な冷却能力を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した特許文献1の高炉冷却装置では、ステーブ内の冷却水圧を炉内圧より下げるために、例えばシャフト部を高さ別に複数段に分割し、分割されたステーブ群のそれぞれにポンプおよびタンク等の循環装置を設けることで、冷却水の圧力を抑制しつつ十分な冷却能力を得ている。
ところが、複数のステーブ群ごとに多数のポンプおよびタンクを増設することは設備の複雑化およびコスト増という問題があるとともに、高炉の周辺には機器や配管類が多数設置されており、追加で複数のポンプおよびタンクを増設することは難しいという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、高さ別に複数段のステーブ群を設置しつつ設備の簡素化が図れる高炉冷却装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の高炉冷却装置は、高炉の内側に張られた複数のステーブと、前記ステーブに冷却水を循環させる循環装置を有する高炉冷却装置であって、前記ステーブは、所定の高さ範囲に設置された上段ステーブと、前記上段ステーブよりも低い範囲に設置された下段ステーブと、を有し、前記上段ステーブおよび前記下段ステーブは、それぞれ給水口、排水口、および前記給水口から前記排水口に至る冷却水路を有し、前記循環装置は、前記上段ステーブより高い位置に設置されたヘッドタンクと、前記ヘッドタンクから前記下段ステーブの前記給水口に至る下降配管と、前記下段ステーブの前記排水口から前記上段ステーブの前記給水口に至る中間配管と、前記上段ステーブの前記排水口から前記ヘッドタンクに至る回収配管と、前記中間配管の途中に設置されたポンプと、を有する。
【0010】
このような本発明では、循環装置により高さが異なる上段ステーブおよび下段ステーブの冷却水路が直列に接続され、冷却水はヘッドタンクから下降配管を経て下段ステーブへ送られ、下段ステーブから中間配管を経て上段ステーブに送られ、上段ステーブから回収配管を経てヘッドタンクに戻される。
循環装置において、上段ステーブの冷却水路における圧力損失は、中間配管に設置されたポンプによって負担される。下段ステーブの冷却水路における圧力損失は、ヘッドタンクから下段ステーブまでのヘッド圧、つまり上段ステーブの設置高さ範囲に相当するヘッド圧によって負担される。従って、1系統分のポンプだけで、上段ステーブおよび下段ステーブへの冷却水の循環を確保できる。
循環装置において、ポンプは中間配管に設置され、下降配管からの高いヘッド圧がかかる下段ステーブにポンプによる昇圧が及ぶことはなく、下段ステーブおよび上段ステーブのいずれにおいても冷却水の圧力が炉内圧を超えるような状況は回避できる。
従って、本発明では、高さが異なる上段ステーブおよび下段ステーブに区分しつつ、ポンプは1系統分だけでよく、設備の簡素化ができる。また、上段ステーブおよび下段ステーブの冷却水路が直列に接続されることから、上段ステーブおよび下段ステーブに区分する前の既存の配管をそのまま利用できる。
なお、本発明において、上段ステーブおよび下段ステーブは、それぞれ高さ方向に一段分のステーブであってもよく、高さ方向に複数段のステーブを含むステーブ群であってもよい。上段ステーブあるいは下段ステーブを複数段のステーブとする際には、各ステーブの内部の冷却水路を順次直列に接続すればよい。
【0011】
本発明の高炉冷却装置において、前記中間配管は、両端が前記下段ステーブの前記排水口および前記上段ステーブの前記給水口に接続されるとともに、前記ポンプが設置された中間部が下方に引き回され、前記中間部の前記下段ステーブとの間の立下り開始点における前記ヘッドタンクのヘッド圧が、前記下降配管の圧力損失、前記下段ステーブの前記冷却水路の圧力損失、および前記中間配管の前記下段ステーブから前記立下り開始点までの圧力損失の合計より大きいことが好ましい。
このような本発明では、ヘッドタンクのヘッド圧によって、下降配管、下段ステーブの冷却水路および中間配管における圧力損失に抗して冷却水を各々に通すことができ、他のポンプを用いずに下段ステーブを通過した冷却水を中間配管のポンプまで送ることができる。ポンプまで送られた冷却水は、ポンプにより中間配管から上段ステーブへと送ることができる。
【0012】
本発明の高炉冷却装置において、前記ポンプの入口側に熱交換器を備えることが好ましい。
このような本発明では、熱交換器がポンプの入口側にある既存の一般的構成に準じた配置とすることができ、既存の高炉冷却装置を利用して本発明を実施することが容易であるほか、新たに本発明の高炉冷却装置を設計する場合でも既存の設計を利用できる。
【0013】
本発明の高炉冷却装置において、前記下段ステーブおよび前記上段ステーブは、それぞれ銅ステーブであることが好ましい。
このような本発明では、銅ステーブを利用して奪熱量を増加させるべく流速を高めた場合でも、冷却水の圧力が炉内圧を超えるような状況を回避できる。
【0014】
本発明の高炉冷却装置において、前記回収配管の前記上段ステーブの前記排水口に接続される端部および前記中間配管の前記下段ステーブの前記排水口に接続される端部の少なくともいずれかにフロートスイッチを有することが好ましい。
このような本発明では、冷却水圧を炉内圧よりも低くできるため、下段ステーブあるいは上段ステーブの冷却水路が破損した際には、炉内ガスが各々の冷却水路に侵入する。冷却水路から排出される冷却水に混入した炉内ガスはフロートスイッチにより検知でき、ステーブの破損を簡単な構成で適切に検知できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高さ別に複数段のステーブ群を設置しつつ設備の簡素化が図れる高炉冷却装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態の高炉冷却装置を示す模式図。
【
図2】前記実施形態の各部における冷却水圧を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1には、本発明の一実施形態の高炉冷却装置1が示されている。
高炉2は鉄皮3を有し、鉄皮3の内側には複数のステーブ4が張られている。ステーブ4は、それぞれ銅製の板材の内部に冷却水路が形成された銅ステーブである。ステーブ4の一部の炉内側には、さらに耐火レンガなどの耐火材5が張られている。
複数のステーブ4のうち、所定の高さ範囲に設置された複数のステーブ4Uにより上段ステーブ10が構成され、上段ステーブ10よりも低い範囲に設置された複数のステーブ4Lにより下段ステーブ20が構成されている。
【0018】
上段ステーブ10において、複数のステーブ4Uは隣接するものどうしの冷却水路41が連結管42で連結されている。これにより、上段ステーブ10の最下段のステーブ4Uの給水口12から最上段のステーブ4Uの排水口13に至る一連の冷却水路11が形成されている。
下段ステーブ20において、複数のステーブ4Lは隣接するものどうしの冷却水路41が連結管42で連結されている。これにより、下段ステーブ20の最下段のステーブ4Lの給水口22から最上段のステーブ4Lの排水口23に至る一連の冷却水路11が形成されている。
【0019】
高炉冷却装置1は、前述した上段ステーブ10および下段ステーブ20を含むとともに、各々に冷却水を循環させる循環装置30を備えている。
循環装置30は、上段ステーブ10より高い位置に設置されたヘッドタンク31と、ヘッドタンク31から下段ステーブ20の給水口22に至る下降配管32と、下段ステーブ20の排水口23から上段ステーブ10の給水口12に至る中間配管33と、上段ステーブ10の排水口13からヘッドタンク31に至る回収配管34と、を備えている。
さらに、循環装置30は、中間配管33の途中に設置されたポンプ35と、ポンプ35の入口側に設置された熱交換器36と、を備えている。
【0020】
中間配管33は、両端が下段ステーブ20の排水口23および上段ステーブ10の給水口12に接続されるとともに、ポンプ35および熱交換器36が設置された中間部331が下方へ引き回され、高炉2の炉底高さに配置されている。
中間配管33は、一方の端部が下段ステーブ20の排水口23から略水平に引き出されるとともに、立下り開始点332で下向きに切り替えられて中間部331に至るものとされている。
【0021】
中間配管33には、下段ステーブ20の排水口23に接続される端部にフロートスイッチ37が設置されている。
回収配管34には、上段ステーブ10の排水口13に接続される端部にフロートスイッチ38が設置されている。
【0022】
高炉冷却装置1においては、上段ステーブ10、下段ステーブ20、および循環装置30の構築にあたって、中間部331の下段ステーブ20との間の立下り開始点332におけるヘッドタンク31のヘッド圧Htが、下降配管32の圧力損失PL1、下段ステーブ20の冷却水路21の圧力損失PL2、および中間配管33の下段ステーブ20から立下り開始点332までの圧力損失PL3の合計より大きく設定されている。
すなわち、下降配管32のヘッドタンク31から給水口22までの圧力損失PL1、下段ステーブ20の冷却水路21の給水口22から排水口23までの圧力損失PL2、中間配管33の排水口23から立下り開始点332までの圧力損失PL3としたとき、立下り開始点332におけるヘッドタンク31のヘッド圧HtはHt>PL1+PL2+PL3とされている。
下降配管32、冷却水路21、および中間配管33において、圧力損失PL1~PL3は各々の管路内径および管路長により調整できる。また、ヘッド圧Htは、ヘッドタンク31の高さおよび立下り開始点332の位置により調整できる。
【0023】
図2に、循環装置30を循環する冷却水の圧力変化を示す。
図2の下段は、高炉冷却装置1の冷却水の循環経路を展開表示したものであり、右側半分は炉頂を右側にした高炉2を示し、左側半分は炉頂を左側にした高炉2を示す。各側の高炉2において、右側では下段ステーブ20の冷却水路21が循環経路に組み込まれ、左側では上段ステーブ10の冷却水路11が循環経路に組み込まれている。
【0024】
冷却水は、
図2下段右端のヘッドタンク31から下降配管32を下降(図中左向き)し、冷却水路21を上昇(図中右向き)し、中間配管33の冷却水路21側に入って略水平に流れ、立下り開始点332から中間部331を下降(図中左向き)し、熱交換器36を経てポンプ35に導入される。
ポンプ35に導入された冷却水は、ポンプ35で昇圧され、中間配管33から冷却水路11を経て回収配管34を上昇(図中左向き)し、
図2下段左端のヘッドタンク31に戻される。
【0025】
図2の上段は、循環装置30を循環する冷却水の圧力変化を示すグラフである。
図2上段のグラフの横軸は
図2下段に示す高炉2の高さであり、右側の高炉2の炉頂から炉底へと下がり、左側の高炉2の炉底から炉頂へと上がる。
冷却水の循環経路において、冷却水が停止していれば、各部での圧力はヘッドタンク31の水位を基準として高さに応じたヘッド圧を示す。
図2上段では、両端でヘッド圧が0であり、中央のポンプ35の位置ではヘッド圧Hb(
図1参照)となり、その途中の各部では高さに応じて変化する直線LHとなる。立下り開始点332ではヘッド圧Htとなる(
図1参照)。
【0026】
循環装置30で冷却水の循環があると、各部には流抵抗による圧力損失が生じる。
図2右端のヘッドタンク31から下降配管32を下降する冷却水は、ヘッドタンク31では圧力0であり、下降に伴って圧力が上昇する。下降配管32では圧力損失PL1が生じるため、下降配管32における圧力変化を示す直線L1は、ヘッド圧を示す直線LHよりも低く推移し、冷却水路21に導入される段階での圧力P1となる。
冷却水路21に導入された冷却水は、上昇に伴って圧力が低下するとともに、冷却水路21の圧力損失PL2による圧力低下も生じ、冷却水路21における圧力変化は直線L2となり、冷却水路21を出る段階での圧力P2となる。
【0027】
冷却水路21を出た冷却水は、中間配管33の冷却水路21側に入って立下り開始点332まで略水平に流れる。この部分では、高さによる圧力変化はないが、中間配管33の排水口23から立下り開始点332までの圧力損失PL3による圧力低下が生じる。このため、中間配管33の排水口23から立下り開始点332までの部分での圧力変化は直線L3となり、立下り開始点332での圧力P3となる。
冷却水は、立下り開始点332から中間部331を下降し、下降に伴って圧力が上昇し、立下り開始点332から熱交換器36を経てポンプ35に至る部分での圧力変化は直線L4となり、ポンプ35に導入される段階での圧力P4となる。
【0028】
ここで、下段ステーブ20への冷却水の循環では、下降配管32から冷却水路21を経て中間配管33の立下り開始点332までの圧力損失PL1,PL2,PL3の和よりも、立下り開始点332におけるヘッドタンク31によるヘッド圧Htを大きくすること(Ht>PL1+PL2+PL3)で、立下り開始点332における圧力P3を正圧に保つことができる。これにより、
図2上段右側の一連の直線L1~L4は全範囲で0以上となり、ポンプによる昇圧なしに冷却水を循環させることができる。
また、ヘッド圧を利用してポンプによる昇圧なしに冷却水を循環させるので、一連の直線L1~L4は全範囲でヘッド圧(直線LH)を超えることがない。このため、ヘッドタンク31によるヘッド圧が炉内圧力(
図2の直線LF参照)を超えない設定であれば、下段ステーブ20の冷却水路21の冷却水圧は、常に炉内圧力より低くなる。
なお、例えば
図2の折れ線L5のように、立下り開始点332における圧力P3が負圧になる場合、つまりヘッド圧Htと圧力損失PL1,PL2,PL3に関してHt>PL1+PL2+PL3とならない場合、下降配管32、冷却水路21、および中間配管33の管路内径および管路長により各々の圧力損失PL1,PL2,PL3を調整し、あるいは、ヘッドタンク31の高さおよび立下り開始点332の位置によりヘッド圧Htを調整できる。
【0029】
図2左側において、ポンプ35に導入された冷却水は、ポンプ35で昇圧されて圧力P5とされたのち、中間配管33を上昇することで圧力が低下する。中間配管33の上昇部分での冷却水の圧力変化は直線L5となり、冷却水路11に導入される段階での圧力P6となる。
冷却水路11に導入された冷却水は、上昇に伴って圧力が低下し、冷却水路11における冷却水の圧力変化は直線L6となる。
冷却水路11から排出された冷却水は、回収配管34を上昇し、
図2下段左端のヘッドタンク31に戻される。回収配管34における冷却水の圧力変化は直線L7となる。
【0030】
ここで、ポンプ35より下流の中間配管33における冷却水の圧力(直線L5)、冷却水路11における冷却水の圧力(直線L6)、および回収配管34における冷却水の圧力(直線L7)は、ポンプ35で昇圧されているため、いずれもヘッド圧(直線LH)を超えている。しかし、冷却水路11は上段ステーブ10として下段ステーブ20よりも高く配置されているため、ヘッド圧(直線LH)に近い値となっており、ポンプ35の昇圧を調整することで、炉内圧力(直線LF)を超えないように設定できる。
【0031】
以上説明した本実施形態によれば下記の効果が得られる。
本実施形態では、循環装置30により、高さが異なる上段ステーブ10および下段ステーブ20の冷却水路11,21が直列に接続され、冷却水はヘッドタンク31から下降配管32を経て下段ステーブ20へ送られ、下段ステーブ20から中間配管33を経て上段ステーブ10に送られ、上段ステーブ10から回収配管34を経てヘッドタンク31に戻される。
循環装置30において、上段ステーブ10の冷却水路11における圧力損失は、中間配管33に設置されたポンプ35によって負担される。下段ステーブ20の冷却水路21における圧力損失は、ヘッドタンク31から下段ステーブ20までのヘッド圧、つまり上段ステーブ10の設置高さ範囲に相当するヘッド圧によって負担される。従って、1系統分のポンプ35だけで、上段ステーブ10および下段ステーブ20への冷却水の循環を確保できる。
循環装置30において、ポンプ35は中間配管33に設置され、下降配管32からの高いヘッド圧がかかる下段ステーブ20にポンプ35による昇圧が及ぶことはなく、下段ステーブ20および上段ステーブ10のいずれにおいても冷却水の圧力が炉内圧を超えるような状況は回避できる。
従って、本実施形態では、高さが異なる上段ステーブ10および下段ステーブ20に区分しつつ、ポンプ35は1系統分だけでよく、設備の簡素化ができる。また、上段ステーブ10および下段ステーブ20の冷却水路11,21が直列に接続されることから、上段ステーブ10および下段ステーブ20に区分する前の既存の配管をそのまま利用できる。
【0032】
本実施形態において、中間配管33は、両端が下段ステーブ20の排水口23および上段ステーブ10の給水口22に接続されるとともに、ポンプ35が設置された中間部331が下方に引き回され、中間部331の下段ステーブ20との間の立下り開始点332におけるヘッドタンク31のヘッド圧Htが、下降配管32の圧力損失PL1、下段ステーブ20の冷却水路21の圧力損失PL2、および中間配管33の下段ステーブ20から立下り開始点332までの圧力損失PL3の合計より大きい設定としたので、ヘッドタンク31のヘッド圧Htによって、下降配管32、下段ステーブ20の冷却水路21および中間配管33における圧力損失に抗して冷却水を各々に通すことができ、他のポンプを用いずに下段ステーブ20を通過した冷却水を中間配管33の途中のポンプ35まで送ることができる。ポンプ35まで送られた冷却水は、ポンプ35により中間配管33から上段ステーブ10へと送ることができる。
【0033】
本実施形態では、ポンプ35の入口側に熱交換器36を備えることで、熱交換器36がポンプ35の入口側にある既存の一般的構成に準じた配置とすることができ、既存の高炉冷却装置を利用して本発明を実施することが容易であるほか、新たに本発明の高炉冷却装置を設計する場合でも既存の設計を利用できる。
本実施形態では、下段ステーブ20および上段ステーブ10は、それぞれ銅ステーブであるとしたため、銅ステーブを利用して奪熱量を増加させるべく流速を高めた場合でも、冷却水の圧力が炉内圧を超えるような状況を回避できる。
【0034】
本実施形態では、回収配管34の上段ステーブ10の排水口13に接続される端部および中間配管33の下段ステーブ20の排水口23に接続される端部にそれぞれフロートスイッチ37,38を設けたので、冷却水路11,21から排出される冷却水に混入した炉内ガスはフロートスイッチ37,38により検知でき、上段ステーブ10および下段ステーブ20の破損を簡単な構成で適切に検知できる。
とくに、本実施形態では、循環装置30における冷却水の循環経路のいずれの部分でも冷却水圧を炉内圧よりも低くできるため、下段ステーブ20あるいは上段ステーブ10の冷却水路11,21が破損した際に炉内ガスが各々の冷却水路11,21に侵入するので、これをフロートスイッチ37,38により確実に検知できる。
【0035】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形などは本発明に含まれる。
前記実施形態では、上段ステーブ10および下段ステーブ20は、それぞれ高さ方向に複数段のステーブ4U,4Lであるとしたが、ステーブ4U,4Lの段数はそれぞれ任意であり、上段ステーブ10および下段ステーブ20は一段分のステーブであってもよい。
【0036】
前記実施形態では、ポンプ35の入口側に熱交換器36を設置したが、その位置は循環装置30における冷却水の循環経路のいずれの部位であってもよい。
前記実施形態では、下段ステーブ20および上段ステーブ10のステーブ4U,4Lは、それぞれ銅ステーブであるとしたが、その一部あるいは全部が銅ステーブ以外、例えば鋳鉄ステーブであってもよい。
前記実施形態では、上段ステーブ10の排水口13および下段ステーブ20の排水口23にフロートスイッチ37,38を設けたが、これらはいずれか一方だけでもよく、あるいは両方を省略してもよい。ただし、下段ステーブ20および上段ステーブ10の破損を検知するために、何らかの他の検出手段を用いることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は高炉冷却装置に利用できる。
【符号の説明】
【0038】
1…高炉冷却装置、2…高炉、3…鉄皮、4,4L,4U…ステーブ、5…耐火材、10…上段ステーブ、11…冷却水路、12…給水口、13…排水口、20…下段ステーブ、21…冷却水路、22…給水口、23…排水口、30…循環装置、31…ヘッドタンク、32…下降配管、33…中間配管、34…回収配管、35…ポンプ、36…熱交換器、37…フロートスイッチ、38…フロートスイッチ、41…冷却水路、42…連結管、331…中間部、332…立下り開始点、Ht…ヘッド圧、PL1,PL2,PL3…圧力損失。