(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166577
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】センサーネットワークシステム、及び障害物検出方法
(51)【国際特許分類】
H04B 17/309 20150101AFI20241122BHJP
H04W 4/38 20180101ALI20241122BHJP
G01S 5/04 20060101ALI20241122BHJP
H04B 7/08 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
H04B17/309
H04W4/38
G01S5/04
H04B7/08 802
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082762
(22)【出願日】2023-05-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、総務省、電波資源拡大のための研究開発委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 祐一
【テーマコード(参考)】
5J062
5K067
【Fターム(参考)】
5J062CC14
5J062EE01
5K067BB27
5K067HH22
(57)【要約】
【課題】障害物により電波の伝搬が行われていない領域を容易に把握でき、次世代通信技術の開発に有用なより効率的な無線環境の把握を可能にするセンサーネットワークシステム、及び信号源位置推定方法を提供する。
【解決手段】センサーネットワークシステム1は、信号源位置推定部52により位置が推定された信号源110について、信号源110から各々のセンサー装置10へのパス情報Ptをグループに分けて各々のセンサー装置10に紐づけるクラスタリング処理を行うクラスタリング処理部53と、隣り合うセンサー装置10間のパス情報Ptの比較結果に基づいて隣り合うセンサー装置10間の領域に障害物8が存在すること検出する障害物検出部54と、検出された障害物8の存在を、障害物8の存在が検出された領域に関連付けて報知する(表示部37に表示する)表示制御部55と、を具備する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のエリア(5)を網羅するように分散配置され、それぞれの配置位置で到来する信号の信号到来方向を推定する複数のセンサー装置(10)と、
全ての前記センサー装置の前記信号到来方向の推定結果を解析して信号源(110)の位置を推定する信号源位置推定手段(52)と、
前記信号源位置推定手段により前記位置が推定された前記信号源について、前記信号源から各々の前記センサー装置へのパス情報(Pt)をグループに分けて各々の前記センサー装置に紐づけるクラスタリング処理を行うクラスタリング処理手段(53)と、
全ての前記センサー装置のうちの隣り合う前記センサー装置間の前記パス情報を比較し、前記パス情報の比較結果に基づいて前記隣り合う前記センサー装置間の領域に電波伝搬の障害となる障害物(8)が存在すること検出する障害物検出手段(54)と、
前記障害物検出手段により検出された前記障害物の存在を、前記障害物の存在が検出された前記領域に関連付けて報知する障害物報知手段(55)と、
を具備することを特徴とするセンサーネットワークシステム。
【請求項2】
前記信号源位置推定手段は、
全ての前記センサー装置について、前記センサー装置で推定された前記信号到来方向に沿った直線をそれぞれ算出し、前記直線が交差する交点の座標を前記信号源の位置の候補として選出し、
前記信号源の位置の候補として選出された前記交点のうちの、予め設定した閾値を超える数の前記直線が交差する前記交点を前記信号源の位置として推定することを特徴とする請求項1に記載のセンサーネットワークシステム。
【請求項3】
前記障害物を判定する障害物判定条件を設定する設定手段(41)をさらに有し、
前記障害物検出手段は、
前記隣り合う前記センサー装置間の前記パス情報が前記障害物判定条件を満足する場合に前記障害物が存在すると判定することを特徴とする請求項1に記載のセンサーネットワークシステム。
【請求項4】
前記設定手段は、
前記障害物判定条件として、前記隣り合う前記センサー装置間で前記パス情報が完全一致しないことを条件とする第1の障害物判定条件、または、前記隣り合う前記センサー装置間で前記パス情報に共通部分が一切ないことを条件とする第2の障害物判定条件を設定することを特徴とする請求項1に記載のセンサーネットワークシステム。
【請求項5】
前記クラスタリング処理手段により各々の前記センサー装置に対して紐づけられた前記パス情報を管理するパス情報管理テーブル(53a)をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のセンサーネットワークシステム。
【請求項6】
前記障害物報知手段は、前記所定のエリアにおける前記センサー装置の配置態様を模した2次元平面上の前記センサー装置に対応するセンサーオブジェクト(So)を辺(61)で結んだ障害物監視画像(60)を表示する表示制御手段(55)により構成され、
前記辺の表示態様に応じて前記障害物の存在を報知することを特徴とする請求項1に記載のセンサーネットワークシステム。
【請求項7】
請求項1に記載のセンサーネットワークシステムを用い、所定のエリア(5)に分散配置された複数の前記センサー装置のうちの隣り合う前記センサー装置間の領域に存在する電波伝搬を阻害する障害物(8)を検出する障害物検出方法であって、
全ての前記センサー装置の前記信号到来方向の推定結果を解析して信号源(110)の位置を推定する信号源位置推定ステップ(S7)と、
前記信号源位置推定ステップで前記位置が推定された前記信号源について、前記信号源から各々の前記センサー装置へのパス情報(Pt)をグループに分けて各々の前記センサー装置に紐づけるクラスタリング処理を行うクラスタリング処理ステップ(S8)と、
全ての前記センサー装置のうちの隣り合う前記センサー装置間の前記パス情報を比較し、前記パス情報の比較結果に基づいて前記隣り合う前記センサー装置間の領域に前記障害物が存在すること検出する障害物検出ステップ(S9)と、
前記障害物検出ステップで検出された前記障害物の存在を、前記障害物の存在が検出された前記領域に関連付けて報知する障害物報知ステップ(S10)と、
を含むことを特徴とする障害物検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のセンサー装置での信号到来方向の推定結果から信号源の位置を推定し、その信号源位置推定結果を基に電波伝搬の障害となる障害物を検出するセンサーネットワークシステム、及び障害物検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代通信規格5Gの実用化が始まっており、5Gの多岐に渡るニーズに応えるため、自治体や地域の企業などの様々な主体が柔軟に構築、利用可能なローカル5Gの検討が進められている。
【0003】
この中で、さらなるモバイルトラヒックの急増に対応するため、高効率な周波数利用技術である帯域内全二重通信(InBand Full-Duplex:以下、IBFDという)の適用が検討されている。
【0004】
IBFDは、既存の複信方式に対して理想的には周波数利用効率を2倍にすることができるが、新たに多くの干渉が発生する課題があり、様々な干渉量を取得し、その結果からIBFDの適用可否を判定する制御技術が必要となる。その実現のためには、時空間における例えば5G無線端末或いは他の種々規格の端末の無線状況を把握し、複数の端末から空間に発射される電波の干渉状況を高速、高精度に測定する干渉モニタリング技術が必要である。
【0005】
特に、時空間に発射される電波(信号)の到来方向を推定し、その到来方向推定結果に基づいて電波干渉の要因となる信号源の位置を推定すること、推定した信号源の位置に基づいて信号伝搬を行う領域(言い換えると、信号伝搬が行われていない領域)を把握することは、IBFDの適否判断に向けた効率の良い電波利用を推進するうえでの重要な情報となり得るものである。
【0006】
到来方向推定を行う従来のシステムとしては、例えば、直交する3つの偏波信号をそれぞれ受信する複数のアンテナの同位置での受信信号に基づいて電磁波の到来方向を推定するもの(例えば、特許文献1等)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された従来の電波到来方向推定システムでは、例えば、3つのアンテナを、順次、同一の測定位置まで移動させて、各受信信号を、順次、取得した段階で電界強度を求め、さらにその電界強度に基づき、例えば、ビームフォーミング(Beamforming)法、MUSIC(Multiple Signal Classification)法等の探査方法を適用して電波(信号)の到来方向を推定している。
【0009】
従来の電波到来方向推定システムは、あくまでも所望の位置での信号の到来方向を推定する技術に留まり、そこから進んで、信号の到来方向推定結果に基づいて信号源の位置を推定すること、さらには信号源の位置推定結果を利用して信号伝搬が行われていない領域を把握することを可能にするモニタリング技術を開示するものではなかった。
【0010】
一方近年では、IBFD実現への期待もあって、次代の無線局、無線通信システム、無線通信技術の開発促進のためのモニタリング技術として、複数の電波状況モニタリング装置(以下、センサー装置)を監視エリア内に複数配置し、各センサー装置にて受信信号からそこに混在している信号を分離して当該信号の到来方向を推定するとともに、各センサー装置による信号の到来方向推定結果を解析することでその信号源の位置を踏まえた電波状況を監視できるセンサーネットワークシステムが提案されている。
【0011】
しかしながら、従来のセンサーネットワークシステムでは、信号源の位置を推定し、その信号源の位置における電波状況の監視は行えるものの、推定した信号源の位置に基づいて障害物が存在する箇所を発見することはできず、障害物の影響で信号の伝搬が行われていない領域を把握することもできなかった。
【0012】
このため、この種の従来のセンサーネットワークシステムは、各センサー装置による信号到来方向推定結果に基づく電波状況モニタリング結果(信号源の位置推定結果)から、次世代通信技術の開発に有用な情報である、障害物により電波の伝搬が行われていない領域を見据えたより効率の良い無線環境の把握が行えないという問題点があった。
【0013】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、障害物により電波の伝搬が行われていない領域を容易に把握でき、次世代通信技術の開発に有用なより効率的な無線環境の把握を可能にするセンサーネットワークシステム、及び信号源位置推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係るセンサーネットワークシステムは、所定のエリア(5)を網羅するように分散配置され、それぞれの配置位置で到来する信号の信号到来方向を推定する複数のセンサー装置(10)と、全ての前記センサー装置の前記信号到来方向の推定結果を解析して信号源(110)の位置を推定する信号源位置推定手段(52)と、前記信号源位置推定手段により前記位置が推定された前記信号源について、前記信号源から各々の前記センサー装置へのパス情報(Pt)をグループに分けて各々の前記センサー装置に紐づけるクラスタリング処理を行うクラスタリング処理手段(53)と、全ての前記センサー装置のうちの隣り合う前記センサー装置間の前記パス情報を比較し、前記パス情報の比較結果に基づいて前記隣り合う前記センサー装置間の領域に電波伝搬の障害となる障害物(8)が存在すること検出する障害物検出手段(54)と、前記障害物検出手段により検出された前記障害物の存在を、前記障害物の存在が検出された前記領域に関連付けて報知する障害物報知手段(55)と、を具備することを特徴とする。
【0015】
この構成により、本発明の請求項1に係るセンサーネットワークシステムは、センサーネットワークを構成する複数のセンサー装置で受信した信号の到来方向を解析することで複数の信号源の位置を同時に推定することができる。そのうえで、各信号源の位置推定情報を用いたクラスタリング処理により障害物を発見することができ、さらには、障害物の報知により、障害物により電波の伝搬が行われていない領域を容易に把握することができる。これにより、現在可能な伝搬経路を限定することができ、無効となる送受信を前もって回避することで、次世代通信技術の実現に向けてより効率のよい電波利用の実現が可能となる。
【0016】
また、本発明の請求項2に係るセンサーネットワークシステムにおいて、前記信号源位置推定手段は、全ての前記センサー装置について、前記センサー装置で推定された前記信号到来方向に沿った直線をそれぞれ算出し、前記直線が交差する交点の座標を前記信号源の位置の候補として選出し、前記信号源の位置の候補として選出された前記交点のうちの、予め設定した閾値を超える数の前記直線が交差する前記交点を前記信号源の位置として推定する構成であってもよい。
【0017】
この構成により、本発明の請求項2に係るセンサーネットワークシステムは、複数のセンサー装置で受信した信号の到来方向の解析処理において、それぞれの信号の到来方向に沿った直線とそれらの直線の交点を算出する処理を経て、複数の信号源の位置を同時にしかも容易に推定することが可能となる。
【0018】
また、本発明の請求項3に係るセンサーネットワークシステムは、前記障害物を判定する障害物判定条件を設定する設定手段(41)をさらに有し、前記障害物検出手段は、前記隣り合う前記センサー装置間の前記パス情報が前記障害物判定条件を満足する場合に前記障害物が存在すると判定する構成としてもよい。
【0019】
この構成により、本発明の請求項3に係るセンサーネットワークシステムは、隣り合うセンサー装置間の同一の信号源からのパス情報が不一致となる要件を障害物判定条件として設定することで、その障害物判定条件を満足する場合に、両センサー装置間の領域に障害物が存在することを容易に検出することができる。
【0020】
また、本発明の請求項4に係るセンサーネットワークシステムにおいて、前記設定手段は、前記障害物判定条件として、前記隣り合う前記センサー装置間で前記パス情報が完全一致しないことを条件とする第1の障害物判定条件、または、前記隣り合う前記センサー装置間で前記パス情報に共通部分が一切ないことを条件とする第2の障害物判定条件を設定する構成としてもよい。
【0021】
この構成により、本発明の請求項4に係るセンサーネットワークシステムは、第1の障害物判定条件を用い、隣り合うセンサー装置間でパス情報が完全一致しないことを条件に障害物が存在すると判定することで、障害物としての判定を比較的容易に容認する、緩い障害物検出機能を実現することができる。また、第2の障害物判定条件を用い、隣り合うセンサー装置間でパス情報に共通部分が一切ないことを条件に障害物が存在すると判定することで、第1の障害物判定条件を用いる場合に比べて、障害物としての判定を容易に容認しない、より保守的な障害物検出機能を実現することができる。
【0022】
また、本発明の請求項5に係るセンサーネットワークシステムは、前記クラスタリング処理手段により各々の前記センサー装置に対して紐づけられた前記パス情報を管理するパス情報管理テーブル(53a)をさらに有する構成であってもよい。
【0023】
この構成により、本発明の請求項5に係るセンサーネットワークシステムは、クラスタリング処理の結果、各センサー装置に対して紐づけられるパス情報の管理を容易に実現でき、その後の障害物検出処理も円滑に進めることができる。
【0024】
また、本発明の請求項6に係るセンサーネットワークシステムにおいて、前記障害物報知手段は、前記所定のエリアにおける前記センサー装置の配置態様を模した2次元平面上の前記センサー装置に対応するセンサーオブジェクト(So)を辺(61)で結んだ障害物監視画像(60)を表示する表示制御手段(55)により構成され、前記辺の表示態様に応じて前記障害物の存在を報知する構成であってもよい。
【0025】
この構成により、本発明の請求項6に係るセンサーネットワークシステムは、障害物の存在が検出されたときの隣り合うセンサー装置間を結ぶ辺の表示態様を、障害物が存在していないときとは異なる表示態様に変更する等により、障害物が存在する領域を明確かつ容易に判別することができる。
【0026】
上記課題を解決するために、本発明の請求項7に係る障害物検出方法は、請求項1に記載のセンサーネットワークシステムを用い、所定のエリア(5)に分散配置された複数の前記センサー装置のうちの隣り合う前記センサー装置間の領域に存在する電波伝搬を阻害する障害物(8)を検出する障害物検出方法であって、全ての前記センサー装置の前記信号到来方向の推定結果を解析して信号源(110)の位置を推定する信号源位置推定ステップ(S7)と、前記信号源位置推定ステップで前記位置が推定された前記信号源について、前記信号源から各々の前記センサー装置へのパス情報(Pt)をグループに分けて各々の前記センサー装置に紐づけるクラスタリング処理を行うクラスタリング処理ステップ(S8)と、全ての前記センサー装置のうちの隣り合う前記センサー装置間の前記パス情報を比較し、前記パス情報の比較結果に基づいて前記隣り合う前記センサー装置間の領域に前記障害物が存在すること検出する障害物検出ステップ(S9)と、前記障害物検出ステップで検出された前記障害物の存在を、前記障害物の存在が検出された前記領域に関連付けて報知する障害物報知ステップ(S10)と、を含むことを特徴とする。
【0027】
この構成により、本発明の請求項7に係る障害物検出方法は、請求項1に記載の構成を有するセンサーネットワークシステムに適用することにより、複数のセンサー装置で受信した信号の到来方向を解析することで複数の信号源の位置を同時に推定することができる。そのうえで、各信号源の位置推定情報を用いたクラスタリング処理により障害物を発見することができ、さらには、障害物の報知により、障害物により電波の伝搬が行われていない領域を容易に把握することができる。これにより、現在可能な伝搬経路を限定することができ、無効となる送受信を前もって回避することで、次世代通信技術の実現に向けてより効率のよい電波利用の実現が可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、障害物により電波の伝搬が行われていない領域を容易に把握でき、次世代通信技術の開発に有用なより効率的な無線環境の把握を可能にするセンサーネットワークシステム、及び信号源位置推定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明に係るセンサーネットワークシステムの概略構成図であり、(a)はセンサー装置の配置並びに制御部との間の接続態様を示す図、(b)はセンサー装置の配置態様を模した障害物監視画像の一例を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るセンサーネットワークシステムにおけるセンサー装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るセンサーネットワークシステム全体の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るセンサーネットワークシステムにおける障害物監視処理動作を示すフローチャートである。
【
図5】
図4のステップS7における信号源位置推定処理の詳細動作を示すフローチャートである。
【
図6】
図4のステップS9における障害物検出処理の詳細動作を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の一実施形態に係るセンサーネットワークシステムでの信号源位置推定処理における信号到来方向に沿った直線の交点の分布を示す図である。
【
図8】
図7に示す分布を有する直線の交点のヒストグラムの一例を示す図である。
【
図9】
図8に示すヒストグラムに基づき推定された信号源についてのクラスタリング処理により得られるパス情報を管理するパス情報管理テーブルの一例を示す表図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係るセンサーネットワークシステムにおける障害物監視処理に際して障害物判定条件Aが設定されている場合の
図6のステップS33とステップS34とステップS37での具体的処理形態を示す模式図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係るセンサーネットワークシステムにおける障害物監視処理に際して障害物判定条件Bが設定されている場合の
図6のステップS33とステップS34とステップS37での具体的処理形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係るセンサーネットワークシステム、及び障害物検出方法について図面を参照して説明する。
【0031】
(概要)
本発明に係るセンサーネットワークシステム1は、例えば、
図1(a)に示すように、予め想定した所定のエリア(監視エリア5)内に分散配置した複数(n個)のセンサー装置10(この例では、センサー装置10-1、10-2、10-3、10-4、10-5、10-6、10-7)と、n個のセンサー装置10に対して、例えば、無線により接続される制御部30と、を有して構成される。
【0032】
本発明に係るセンサーネットワークシステム1において、センサー装置10-1、10-2、10-3、10-4、10-5、10-6、10-7の数は、
図1(a)に示す数(7つ)に限るものではなく、これより多い数、或いは少ない数であってもよい。以下の説明においては、センサー装置10-1、10-2、10-3、10-4、10-5、10-6、10-7、...をまとめてセンサー装置10と称することがある。
【0033】
図1(a)に示す配置態様を有する各センサー装置10は、監視エリア5内のそれぞれの配置場所において周辺の無線環境から到来する到来信号、例えば、信号源110-1、110-2、110-3、110-4から送出される混在した無線信号を複数のアンテナ素子で受信する。ここで各センサー装置10は、各アンテナ素子の受信信号を信号処理することにより、各信号源110-1、110-2、110-3、110-4(以下、これらをまとめて信号源110と称することもある。)から送出される信号(到来信号)を分離し、該分離された到来信号を解析してその到来信号の到来方向を信号源110ごとに推定する機能を有している。
【0034】
上述した到来信号の到来方向を推定する処理について、各センサー装置10は、MUSIC法、またはビームフォーミング法等の解析方法を用いて角度スペクトラムをそれぞれ生成したうえで、これら角度スペクトラムから信号源110ごとに1つ(単一)の到来方向推定結果を導き出す処理を実行するようになっている。各センサー装置10による信号到来方向の推定結果は、例えば、無線通信により制御部30に送られる。
【0035】
制御部30は、各センサー装置10から無線により受信した信号到来方向の推定結果を記憶部(
図3の「データベース35」参照)に格納したうえで、それらの信号到来方向の推定結果の情報(信号到来方向推定結果データ)を対象とするデータ処理を実施する。
【0036】
データ処理機能の1つとして、制御部30は、各センサー装置10により得られた信号到来方向推定結果データに基づいて信号源110の位置(座標)を推定する信号源位置推定機能(
図3の信号源位置推定部52参照)を有する。信号源位置推定機能は、各センサー装置10で推定された信号到来方向に沿った直線の交点(
図7参照)を求め、その交点の座標を信号源110の位置として認識する機能である。
【0037】
また、2つ目のデータ処理機能として、制御部30は、信号源位置推定機能による各信号源110の存在位置の推定結果を基に、電波の伝搬の障害となる障害物8(
図1(b)参照)を検出する障害物検出機能(
図3の障害物検出部54参照)を有する。
【0038】
障害物検出機能は、各信号源110の存在位置の推定結果に基づき、センサー装置10ごとに各信号源110からの信号受信経路(Path:パス)を示すパス情報Ptを各信号源110についてグループ分けして紐づけたうえで(
図7参照)、隣り合う(隣接する)センサー装置10間のパス情報Ptの関係(
図10、
図11参照)が予め設定した障害物判定条件を満足するか否かに応じて障害物8が存在するか否かを判定する機能である。
【0039】
さらに、制御部30は、障害物検出機能によって障害物8が検出された場合、その障害物8の存在を報知する障害物報知機能を有している。本発明のセンサーネットワークシステム1において、障害物報知機能は、例えば、
図1(b)に示すような障害物監視画像60を用いてセンサーネットワーク63での障害物8の存在を表示する表示制御機能(
図3の表示制御部55参照)によって実現される。表示制御機能は、内部処理(ソフトウェア)によって障害物監視画像60を表示するようになっている。
【0040】
図1(b)に示すように、障害物監視画像60は、監視エリア5における各センサー装置10の配置態様を模した2次元平面画像で構成され、センサー装置10(この例では、センサー装置10-1、10-2、10-3、10-4、10-5、10-6、10-7)のうち、隣接するセンサー装置10がそれぞれの辺61で結ばれている。なお、
図1(b)において、それぞれのセンサー装置10は、センサー装置10-1、10-2、10-3、10-4、10-5、10-6、10-7という呼称してはいるが、障害物監視画像60において、これら各センサー装置10は、当該各センサー装置10を模したセンサーオブジェクトSo(図形)によって表示(表現)されるものとする。
【0041】
図1(b)に示す障害物監視画像60の例では、隣接する3つ、または4つのセンサー装置10が辺61で結ばれて三角形、または四角形の複数の網の目62を形成し、これら複数の網の目62の集合体によって1つの大きな網(センサーネットワーク)63が構成されている。ここで、センサーネットワーク63の構成要素である網の目62の形状は、センサーネットワーク63全体を網羅できるものであれば、上述した三角形、または四角形に限らず、他の形状を用いてもよい。
【0042】
本発明に係るセンサーネットワークシステム1では、上述した障害物監視画像60において、隣接するセンサー装置10間に辺61を規定することにより、その辺61を跨ぐ領域を障害物8の存在位置として表示することを可能にしている。
【0043】
要するに、本発明に係るセンサーネットワークシステム1では、隣接するセンサー装置10間を結ぶ辺61の領域に障害物8が存在するか否かを監視し、障害物8が検出された場合には、その障害物8が存在する領域に対応する辺61を、障害物8が存在しない領域に対応する辺61とは異なる態様で表示させるようになっている。
【0044】
より具体的な表示態様としては、例えば、隣接するセンサー装置10間を結ぶ辺61を、障害物8が存在しないときには通常時の色及び形態(例えば、黒の実線)で表示する一方で、障害物8の存在が検出された場合には、通常時とは異なる色(例えば、赤、青等)、及び形態(例えば、点線、若しくは点滅等)で表示させる等の対応が可能である。
【0045】
このように、本発明に係るセンサーネットワークシステム1は、各センサー装置10から取得した信号到来方向の推定結果に基づいて信号源110の位置を推定する信号源位置推定機能と、位置を推定した信号源110から各センサー装置10に対するパス情報Ptを用いて障害物8の存在位置を検出する障害物検出機能と、検出した障害物8の存在を報知する障害物報知機能と、を有している。
【0046】
信号源位置推定機能、障害物検出機能、及び障害物報知機能を有する本発明に係るセンサーネットワークシステム1では、障害物監視画像60の表示態様によって監視エリア5内(或いは、監視エリア5外)での電波の伝搬がない場所を容易に特定することができる。監視エリア5内の電波の伝搬がない場所が特定できれば、現在可能な伝搬経路を限定することができ、無効となる送受信を前もって回避することで、次世代通信規格の5Gの核となる帯域内全二重通信(Full-Duplex)の実現に向けて、より効率のよい電波利用の実現が可能となる。
【0047】
本発明に係るセンサーネットワークシステム1は、例えばローカル5G環境での使用が可能なものであり、到来方向推定対象の信号の周波数帯としては、例えば、4.6GHz~4.8GHz及び28.2GHz~29.1GHz等の帯域が想定される。本発明に係るセンサーネットワークシステム1は、ローカル5G環境での使用に限定されるものではなく、例えば、WiFiなどの他の無線システムでの使用にも適用できるものである。
【0048】
次に、本発明の一実施形態に係るセンサーネットワークシステム1の構成について
図2、
図3を参照して説明する。本発明の一実施形態に係るセンサーネットワークシステム1において、センサー装置10は、例えば、
図2に示すような機能構成を有している。また、このセンサーネットワークシステム1は、システム全体としては、例えば、
図3に示すような機能ブロックにより構成されている。
【0049】
図2に示すように、本実施形態に係るセンサーネットワークシステム1において、センサー装置10は、アンテナ装置11、周波数変換部12、AD変換部13、信号分離部14、到来方向推定処理部15、信号解析部16、外部インターフェース(I/F)部17を具備して構成される。
【0050】
アンテナ装置11は、監視エリア5(
図1(a)参照)を構成する所定の空間内の各所で、複数の信号源110から送出される混在した無線信号を受信するものである。アンテナ装置11の具体的な構成としては、例えば、特許文献1に記載されているような直交する3偏波をそれぞれ受信可能な3つのアンテナを複数のアンテナ素子として回転体にて回転させる構成、或いは、複数のアンテナ素子で構成するアレーアンテナなどがある。
【0051】
なお、アンテナ装置11は、上述した構成に限られるものではない。上述した周波数帯の到来信号の到来方向を推定しその結果を後段回路に渡すことができるものであれば、アンテナの種別、数、配列、駆動方式等について種々の方式が適用可能である。
【0052】
周波数変換部12は、アンテナ装置11により受信された受信信号(無線信号)を入力し、該受信信号を中間周波数帯の信号(IF信号)に変換する処理を行う。
【0053】
AD変換部13は、周波数変換部12で周波数変換された受信信号を、アナログ信号からデジタル信号に変換して信号分離部14に出力する。AD変換部13は、上述したアンテナ装置11、周波数変換部12とともに受信部20aを構成している。
【0054】
信号分離部14は、AD変換部13から入力するデジタル信号、すなわち、監視エリア5の所定の空間内の各地点での混在した無線信号を、複数の信号源110のいずれかから送出された信号に分離する信号分離処理を行う。
【0055】
到来方向推定処理部15は、信号分離部14で分離された信号(当該地点への各信号源110からの到来信号)を入力し、該到来信号毎にその到来方向を推定する信号処理を行う。この信号処理において、到来方向を推定するアルゴリズムとしては、例えば、ビームフォーマ法、MUSIC法、ESPRIT法などが適用される。
【0056】
信号解析部16は、信号分離部14で分離された信号(当該地点への到来信号)を入力し、該到来信号を対象に電波干渉モニタリングに必要とされる項目について解析する信号処理を実施する。解析対象とされる項目(解析項目)としては、例えば、電界強度、掃引スペクトラム、コンスタレーション等が挙げられる。
【0057】
外部I/F部17は、到来方向推定処理部15による信号到来方向の推定結果、及び信号解析部16による各項目の信号解析結果を、順次、制御部30に伝送するためのインターフェース機能部であり、例えば、無線I/F部で構成される。外部I/F部17は、無線I/F部に限らず、例えば、各センサー装置10と制御部30を含む有線ネットワークとの間の有線によるインターフェース機能を有するものであってもよい。外部I/F部17は、信号分離部14、到来方向推定処理部15、信号解析部16とともに到来方向解析部20bを構成している。
【0058】
ここで制御部30に伝送するそれぞれの信号源110の到来方向推定結果には、例えば、各地点(センサー装置10の配置位置)の位置情報(
図9参照)等が付加されている。
【0059】
次に、制御部30の構成について説明する。制御部30は、例えば、PC(パーソナル・コンピュータ)等のコンピュータ装置によって構成される。このコンピュータ装置は、例えば、
図3に示すように、CPU(Central Processing Unit)31と、ROM(Read Only Memory)32と、RAM(Random Access Memory)33と、外部I/F部34と、データベース35と、図示しないハードディスク装置等の不揮発性の記憶媒体と、各種入出力ポートとを有する。
【0060】
CPU31は、センサーネットワークシステム1における信号源110の位置推定、障害物8の存在位置検出並びに検出結果の報知処理に係る統括的な制御を行うようになっている。ROM32は、CPU31を立ち上げるためのOS(Operating System)やその他のプログラム及び制御用のパラメータ等を記憶するようになっている。RAM33は、CPU31が動作に用いるOSやアプリケーションの実行コードやデータ等を記憶するようになっている。
【0061】
外部I/F部34は、所定の信号が入力される入力インターフェース機能と所定の信号を出力する出力インターフェース機能を有している。外部I/F部34は、例えば、無線I/F部により構成され、上述した各センサー装置10の外部I/F部17との間で無線より通信可能に接続されている。各センサー装置10と制御部30が有線ネットワークで接続される場合には、制御部30の外部I/F部34とセンサー装置10の外部I/F部17ともに有線I/F部で構成することもできる。
【0062】
データベース35は、それぞれのセンサー装置10から外部I/F部34を介して受信した信号到来方向推定結果データ等の各種のデータを格納する部分である。
【0063】
コンピュータ装置の入出力ポートには、入力部36及び表示部37が接続されている。
【0064】
入力部36は、コマンドなど各種情報を入力するための機能部であり、キーボード、マウス等の入力装置により構成されている。本実施形態において、入力部36は、信号源110の位置推定処理や障害物8の存在位置の検出処理、上記位置推定結果や存在位置検出結果の表示処理の開始、或いは終了のコマンドの入力を行う機能等を備えていてもよい。
【0065】
表示部37は、センサーネットワークシステム1の運用に係る各種の情報(コマンド等)の入力画面や測定結果など、各種情報を表示するための部分である。表示部37は、上記入力画面等の表示中の画面から種々の情報を入力可能なタッチパネル等で構成されていてもよい。
【0066】
上述したコンピュータ装置は、CPU31がRAM33を作業領域としてROM32に格納されたプログラムを実行することにより制御部30として機能する。制御部30は、
図3に示すように、装置制御部40、データ制御部50を有している。装置制御部40、及びデータ制御部50も、CPU31がRAM33の作業領域でROM32に格納された所定のプログラムを実行することにより実現されるものである。
【0067】
装置制御部40は、予め設定した監視条件に基づく信号源位置推定処理に係る装置全体の制御を行うとともに、各センサー装置10の遠隔制御を行うものである。これを実現すべく、装置制御部40は、監視条件設定部41、通信制御部42、アンテナ制御部43を有している。
【0068】
監視条件設定部41は、ユーザ操作に基づいて監視エリア5を対象とする障害物監視推定処理に係る障害物監視条件(各種の設定項目)の設定を行う機能部である。上記設定項目としては、例えば、センサー装置10により到来方向を推定する信号の周波数範囲(到来方向推定対象周波数帯)、信号源位置推定部52による信号源110の位置推定処理(
図5のステップS23参照)で用いる閾値nとしての交点の数、障害物検出部54による障害物判定処理(
図6のステップS32参照)で用いる障害物判定条件A、またはB等が挙げられる。
【0069】
監視条件設定部41は、例えば、5Gの運用を考慮し、到来方向推定対象周波数帯として、3.7GHz帯、4.7GHz帯、28GHz帯のいずれかを設定する構成であってもよい。監視条件設定部41は、本発明の設定手段を構成する。
【0070】
通信制御部42は、制御部30と各センサー装置10との間の通信制御を行う機能部である。通信制御部42は、例えば、センサー装置10に信号到来方向推定処理の開始指示を送出し、センサー装置10での受信動作を開始させる。
【0071】
また、通信制御部42は、受信動作を開始したセンサー装置10により、アンテナ装置11で受信された混在した無線信号から分離した信号ごとの到来方向の推定が実施されると、その到来方向の推定結果をセンサー装置10から受信する通信制御を行う。到来方向推定結果の受信が終了すると、通信制御部42は、例えば、センサー装置10に信号到来方向推定動作の終了指示を送出し、受信動作を停止させる。この他、通信制御部は、必要に応じて、センサー装置10の各部(受信部20a、到来方向解析部20b等)を制御するための制御データを送受信する制御を実行する。
【0072】
アンテナ制御部43は、通信制御部42での通信制御により、センサー装置10のアンテナ装置11におけるアンテナ方向などの機械的な制御を行う。
【0073】
データ制御部50は、データ管理部51、信号源位置推定部52、クラスタリング処理部53、障害物検出部54、表示制御部55を有している。
【0074】
データ管理部51は、各センサー装置10から送られてくる到来方向推定結果等を、例えば、前述した位置情報(各センサー装置10の配置位置)が付加された状態で到来方向推定結果データとしてまとめてデータベース35に格納する処理、格納した到来方向推定結果データ等をデータベース35から読み出して信号源位置推定部52等に渡す処理を実行する。
【0075】
到来方向推定結果データは、n個のセンサー装置10にそれぞれ対応して、例えば、配置位置、到来信号源数、信号の到来方向、到来信号情報等の情報を格納した構成を有している。到来方向推定結果データにおいて、到来信号源数は、各センサー装置10の配置位置ごとに異なっている。また、同じ信号でも、配置場所が違えば、到来方向が異なっている。信号の到来方向は、例えば、監視エリア5を模した2次元平面(
図1(b)参照)上での例えばx軸を0°(度)としたときの0°から360°の範囲内の角度を示す情報である。到来信号情報としては、受信レベル等の種々の情報が格納される。
【0076】
信号源位置推定部52は、データ管理部51から取得した到来方向推定結果データに基づいて各センサー装置10が受信した信号の送出元である信号源110の位置を推定する機能部である。信号源位置推定部52は、本発明の信号源位置推定手段を構成している。
【0077】
具体的に、信号源位置推定部52は、到来方向推定結果データに基づき、それぞれのセンサー装置10により推定された到来方向に沿った直線を算出し(
図7参照)、それらの直線の交点を信号源110の位置の候補として選出したうえで、当該候補のうちの予め設定した閾値nを超える数の直線が交わる交点の座標を検出結果としての信号源110(
図7の例においては、信号源110-1と、信号源110-2)の位置と推定する信号源位置推定処理を実行する。
【0078】
クラスタリング処理部53は、信号源位置推定部52によって位置が推定された信号源110について、その信号源110を送出元とする各センサー装置10での信号受信経路を示すパス情報Ptをグループ分けし、各グループのパス情報Ptをそれぞれのセンサー装置10に対応付け(紐づけ)するクラスタリング(Clustering)の処理を行う機能部である。
【0079】
このクラスタリング処理によれば、例えば、n個の信号源110が推定された場合には、それぞれのセンサー装置10に対して、各信号源110についてグループ化されたnグループのパス情報Pt(
図7の例においては、信号源110-1についてグループ化されたパス情報Pt11と、信号源110-2についてグループ化されたパス情報Pt12)のうちの少なくとも1つが紐づけられることになる。クラスタリング処理部53は、本発明のクラスタリング処理手段を構成している。
【0080】
障害物検出部54は、クラスタリング処理部53により信号源110についてクラスタリングされたパス情報Ptを用いて障害物8の位置を検出する機能部である。具体的に、障害物検出部54は、隣接するセンサー装置10間においてそれぞれのセンサー装置10に対応付けられたパス情報Pt同士を比較し、当該パス情報Ptの間に予め設定した障害物判別条件を満足する関係が成立する場合に各センサー装置10の間の領域に障害物8が存在するものと判定するようになっている。障害物判別条件としては、例えば、後述する障害物判別条件A、またはBを設定することができる。障害物検出部54は、本発明の障害物検出手段を構成している。
【0081】
表示制御部55は、表示部37に対して各種情報を表示する表示制御を実施する機能部である。本実施形態において、表示制御部55は、障害物検出部54による障害物8の検出結果に基づき、監視エリア5における各センサー装置10の配置態様を模した障害物監視画像60(
図1(b)参照)を用いて障害物8の存在を表示する制御を行う。表示制御部55は、本発明の障害物報知手段を構成している。
【0082】
具体的に、表示制御部55は、障害物検出部54によって、隣接するセンサー装置10間の領域に障害物8が存在するとの判定結果が得られた場合、障害物監視画像60(
図1(b)参照)における当該隣接するセンサー装置10を結ぶ辺61の表示態様によって障害物8の存在を表示するようになっている。
【0083】
障害物8の存在を表示する際の辺61の表示態様として、表示制御部55は、例えば、障害物8が検出されていないときと検出されたときとで異なる色(例えば、障害物8が検出されていないときには黒色、検出されたときには赤や黄色等)で辺61を表示する、障害物8が検出されていないときには辺61を実線で表示し、障害物8が検出されたときには点線での表示、或いは、実線または点線での点滅表示に切り替える等の形態をとり得る。いずれの表示形態においても、辺61に対応する領域に障害物8が存在することを利用者に効果的に報知することができる。
【0084】
次に、本実施形態に係るセンサーネットワークシステム1の障害物監視処理動作について
図4、
図5、及び
図6に示すフローチャートを参照して説明する。
図4は障害物検出処理動作の全体の流れを示し、
図5は
図4のステップS7における信号源110の位置推定処理動作の詳細を示している。また、
図6は
図4のステップS9における障害物検出処理動作の詳細を示している。
【0085】
本実施形態に係るセンサーネットワークシステム1では、
図4に示す障害物監視処理の開始に際して障害物監視条件を設定する設定処理を行う(ステップS1)。この設定処理は、例えば、装置制御部40の監視条件設定部41により行うことができる。ここで、監視条件設定部41は、表示部37に設定画面を表示し、その設定画面に表示される各設定項目の設定欄に対する入力部36からの設定値の入力を受け付け、その入力値を設定項目ごとに設定する処理を行う。
【0086】
障害物監視条件の設定項目としては、例えば、センサー装置10による到来方向推定対象の周波数帯、ステップS7における信号源110の位置推定処理(詳しくは、
図5のステップS23)で用いる閾値n(交点の数)、
図4のステップ9における障害物判定処理で用いる障害物判定条件(詳しくは、
図6のステップS32)等が挙げられる。
【0087】
このうちの障害物判定条件について、本実施形態に係るセンサーネットワークシステム1では、障害物判定条件A、または障害物判定条件Bを設定するようになっている。障害物判定条件Aは、例えば、「隣り合う各センサー装置10間でパス情報Ptが完全一致していない」という条件を規定したものである(
図10参照))。また、障害物判定条件Bは、例えば、「隣り合う各センサー装置10間でパス情報Ptに共通部分が一切ない」という条件を規定したものである(
図11参照)。障害物判定条件A、障害物判定条件Bは、それぞれ、本発明における第1の障害物判定条件、第2の障害物判定条件に相当する。
【0088】
ステップS1での障害監視条件の設定が完了すると、制御部30では、ユーザによる、例えば、入力部36での障害物監視開始操作を受け付ける(ステップS2)。障害物監視操作は、例えば、上述した設定画面に表示されている「開始」ボタンを押下することにより行うことができる。
【0089】
ステップS2において障害物監視開始操作が受け付けられると、制御部30では、装置制御部40の通信制御部42により各センサー装置10に対して信号到来方向推定動作の開始指示を送出する(ステップS3)。
【0090】
各センサー装置10は、制御部30から信号到来方向推定動作の開始指示を受信すると、それぞれの配置位置で受信されている信号の到来方向を推定する処理を実施する(ステップS4)。ステップS4における各センサー装置10での信号到来方向推定処理は、制御部30の装置制御部40による遠隔制御により実施される。この遠隔制御により、各センサー装置10では、それぞれの配置地点で受信される信号、すなわち、当該配置地点の周辺に存在している信号源110から到来する信号の到来方向を信号源110ごとに推定する処理を実行する。
【0091】
ステップS4での信号到来方向推定処理について、より詳しくは、制御部30がアンテナ制御部43によって各センサー装置10の受信部20aにおけるアンテナ装置11を遠隔制御し、監視条件設定部41により予め設定した周波数帯の無線信号を当該各センサー装置10の配置地点における到来信号としてアンテナ装置11で受信させる。
【0092】
次いで、各センサー装置10の受信部20aにおいては、アンテナ装置11により受信された当該配置地点への到来信号(受信信号)を周波数変換部12により周波数変換し、さらに該周波数変換後の無線信号をAD変換部13でアナログ信号からデジタル信号に変換して到来方向解析部20bの信号分離部14に入力する。
【0093】
信号分離部14は、入力する無線信号から当該配置地点でその周囲から到来する複数の信号源成分(各信号源110からそれぞれ送出される信号)をそれぞれ分離する信号分離処理を実施し、該分離した信号源成分を到来方向推定処理部15、及び信号解析部16へ入力する。
【0094】
到来方向推定処理部15は、信号分離部14で分離された各信号源成分を取り込み、当該信号成分ごとに当該信号の到来方向を推定する処理を実施する。ここで到来方向推定処理部15は、例えば、MUSIC法による解析処理を実施し、入力信号のMUSIC角度スペクトラムを生成するとともに、そのMUSIC角度スペクトラムに基づいて到来方向推定結果を導出する。到来方向推定処理部15における到来方向推定処理については、MUSIC法に限らず、ビームフォーミング法等の他の解析方向を適用して到来方向推定結果を導出するようにしてもよい。
【0095】
信号解析部16は、到来方向推定処理部15での信号到来方向推定処理に合わせて、信号分離部14からの入力信号に関する種々の項目の解析処理を実施する。到来方向推定処理部15での到来信号の到来方向推定結果、及び信号解析部16による入力信号の解析結果は、外部I/F部17を介して制御部30へと送出される。
【0096】
一方、制御部30では、ステップS3で信号到来方向推定処理の開始を指示した後、それぞれのセンサー装置10から送られてくる当該各センサー装置10での信号の到来方向推定結果を外部I/F部34を介して受信する(ステップS5)。
【0097】
次いで、制御部30では、データ管理部51が、ステップS5で各センサー装置10から受信した到来方向推定結果を当該各センサー装置10に対応付けて到来方向推定結果データとしてデータベース35に格納する処理を行う(ステップS6)。到来方向推定結果データにおける各センサー装置10に対応付けて格納される到来方向は、その到来方向に沿った直線(
図7参照)上に信号源110が存在することを指し示す指標となり得るものである。
【0098】
引き続き、制御部30において、信号源位置推定部52は、データベース35に格納した到来方向推定結果データに基づいて信号源110の位置を推定する処理を実施する(ステップS7)。
【0099】
ステップS7における信号源110の位置推定処理は、詳しくは、
図5に示すフローチャートにしたがって実施する。
図5に示すように、信号源110の位置推定処理が開始されると、信号源位置推定部52は、到来方向推定結果データに基づき、各センサー装置10によりそれぞれ推定された信号の到来方向に沿った各々の直線を算出するとともにそれらの交点を求め、各々の直線の交点を信号源110の位置(座標)の候補として抽出する(ステップS21)。
【0100】
次に、信号源位置推定部52は、ステップS21で抽出した交点のヒストグラムを作成する(ステップS22)。
【0101】
さらに、信号源位置推定部52は、ステップS22で生成した交点のヒストグラムに基づいて、
図4のステップS1で設定した閾値nを用い、当該閾値nを超える数の直線が交わる交点の座標を信号源110の位置(座標)として推定する(ステップS23)。
【0102】
上記ステップS21~S23の処理について、
図7及び
図8を参照してより詳しく説明する。
図7は、ステップS21で信号源110の位置の候補を抽出する際の直線及びその交点の算出処理イメージを示す図である。
図7において、センサー装置10-1、10-2、10-3、10-4の配置は、必ずしも、
図1に示す配置と一致しておらず、あくまでもイメージで表現したものである。
【0103】
上記ステップS21における信号源110の位置候補抽出処理に際し、信号源位置推定部52は、到来方向推定結果データを検索してそれぞれのセンサー装置10が推定した信号の到来方向を取得し、その到来方向に沿った直線を求める。
【0104】
図7に示す例を参照して説明すると、センサー装置10-1、10-2、10-3、10-4のうち、センサー装置10-1では、例えば、2つの到来方向が推定されており、信号源位置推定部52は、そのうちの一方の到来方向に沿って直線l11を算出するとともに、他方の到来方向に沿って直線l12を算出する。同様に、センサー装置10-2、10-3、10-4についても、例えば、それぞれ2つの到来方向が推定されており、信号源位置推定部52は、このうちの一方の到来方向に沿ってそれぞれの直線l21、直線l31、直線l41をそれぞれ算出するとともに、他方の到来方向に沿って直線l22、直線l32、直線l42をそれぞれ算出する。
【0105】
図7に示す直線算出結果から、8本の直線l11、l12、l21、l22、l31、l32、l41、l42の交点を求めると、直線l11、l21、l31、l41の交点P11と、直線l12、l22、l32、l42の交点P12と、直線l12、l21の交点P21と、直線l12、l31の交点P22と、直線l12、l41の交点P23と、直線l22、l31の交点P24と、直線l22、l41の交点P24と、直線l32、l41の交点P26の8つの交点が算出される。
【0106】
ここで、交点P11と交点P12はそれぞれ4本の直線l11、l21、l31、l41と、直線l12、l22、l32、l42が交わり、他の6つの交点P21、P22、P23、P24、P14325、P26はそれぞれ2本の直線(l12、l21)、直線(l12、l31)、直線(l12、l41)、直線(l22、l31)、直線(l22、l41)、直線(l32、l41)が交わっている。
【0107】
このように、
図7の例では、上述した8つの交点P11、P12、P21~P26が算出される。そのうちの2つの交点P11、P12はそれぞれ4本の直線が交わり、他の6つの交点P21~P26は、それぞれ2本ずつの直線が交わっている。ここで、より多い数の直線が交わる交点P11、P12が真の信号源110の位置としての可能性が高く、それより少ない2本の直線が交わる各交点は電波の反射位置である等、真の信号源110の位置としての可能性は低いことが理解できる。
【0108】
このことから、
図7に示す例において、2つの交点P11、P12を真の信号源110として推定するためには、8つの交点P11、P12、P21~P26のうちから4本の直線が交わる交点を求めればよいことが分かる。
【0109】
これを実現すべく、本実施形態に係るセンサーネットワークシステム1において、信号源位置推定部52は、ステップS22において、
図7に示す交点算出結果を基に、交点の座標とその交点で交わっている直線の数に関するヒストグラムを作成し、ステップS23において、そのヒストグラムの中から、直線が4本以上交わっている交点の座標を信号源110の位置(座標)を求める処理を実行するようになっている。
【0110】
図7に示す如くの交点算出結果を基にした交点の座標とその交点で交わる直線の数に関するヒストグラムの一例を
図8に示している。
図8において、横軸は監視エリア5(
図1(b)参照)を想定した二次元平面(X-Y平面)における
図7に示す処理によって抽出された交点Pの座標(x,y)であり、縦軸が各交点で交わる直線の数を示している。
【0111】
図8に示すヒストグラムが得られた場合、信号源位置推定部52では、予め設定した閾値n(交点で交わる直線の数:
図4のステップS1で設定されている)を用い、各座標に対応するその座標で交わる直線の数が上記閾値nを超えるか否かをチェックすることにより、閾値nを超える数の直線が交わる座標の位置を信号源110の位置として推定することが可能である。
【0112】
これにより、
図5のステップS21で
図8に示すヒストグラムを生成した後、信号源位置推定部52は、ステップS22において、当該ヒストグラムを対象に、閾値nを超える数の直線が交わる交点があるか否かをチェックし、閾値nを超える数の直線が交わる交点がある場合にはその交点の座標を信号源110の位置と推定する。
【0113】
ここで
図8に示すヒストグラムを例に挙げると、閾値nを例えば「3」に設定しておくことで、閾値n(=3)を超える数(すなわち、「4」以上)の直線が交わる2つの交点の座標をそれぞれの信号源110の位置として推定することができる。さらにこの推定処理を
図7に示す交点算出結果の例に当てはめた場合、閾値n(=3)を超える「4」以上の直線が交わる2つの交点P11、P21の座標を2つの信号源110-1、110-2の位置と推定することが可能となる。
【0114】
図7、
図8を参照して述べたように、
図4のステップS7(詳細には、
図5のステップS21~S23)における信号源位置推定処理において、信号源位置推定部52は、各センサー装置10の信号の到来方向推定結果から各到来方向に対応する直線の交点を求めたうえで、その交点のうち、予め閾値nとして設定されている本数を超える直線が交わる交点(座標)を信号源110の位置として推定するするようになっている。
【0115】
ここで
図4に戻って、ステップS7以降の処理について説明する。ステップS7(詳しくは、
図5のステップS21~S23)において、監視エリア5内(監視エリア5外でも可)における信号源110の位置を推定した後、クラスタリング処理部53は、その推定した信号源110についての当該信号源110と各センサー装置10との間のパス情報Ptのクラスタリング(グループ分け)処理を実施する(ステップS8)。
【0116】
ステップS8における信号源110についてのパス情報Ptのクラスタリング処理について
図7を援用して説明する。
図7に示す直線及びその交点の算出結果によれば、上述したように、例えば、閾値n(=3)を超える4本の直線が交わる交点P11、P12の2点を、例えば、信号源110-1、110-2の位置として推定可能である。
【0117】
図7に示す交点、及び信号源110-1、110-2の位置推定結果において、センサー装置10-1、10-2、10-3、10-4が信号源110-1、110-2からの信号を受信するときのパス情報Ptは、それぞれ、信号源110-1からのパス情報Pt11と信号源110-2からのパス情報Pt12の2つのグループにグループ分けすることができる。本発明では、信号源110-1、110-2について、各センサー装置10-1、10-2、10-3、10-4に対するパス情報Ptを、信号源110-1からのパス情報Pt11と信号源110-2からのパス情報Pt11とにグループ分けする処理をクラスタリング処理と称している。
【0118】
図4のステップS8でのクラスタリング処理において、クラスタリング処理部53は、ステップS7で推定された信号源110-1と信号源110-2のうち、信号源110-1については、交点P11で交わる4本の直線に対応するセンサー装置10-1、10-2、10-3、10-4の受信経路を実線で示すパス情報Pt11としてグループ化し、信号源110-2については、交点P12で交わる4本の直線に対応する上記受信経路を点線で示すパス情報Pt12としてグループ化する。さらに、クラスタリング処理部53は、信号源110-1についてグループ化したパス情報Pt11と、信号源110-2についてグループ化したパス情報Pt12を、センサー装置10-1、10-2、10-3、10-4にそれぞれ対応付ける(紐づける)処理を行う。
【0119】
ステップS8におけるクラスタリング処理により生成されるパス情報Pt(Pt11、Pt12)は、例えば、
図9に示すパス情報管理テーブル53aを用いてデータ管理部51が管理する構成であってもよい。
【0120】
図9に示すように、パス情報管理テーブル53aは、各センサー装置10にそれぞれ対応して、各センサー装置10の配置位置(位置座標)と、信号源110-1からのパス情報Pt(パス1)、及び信号源110-2からのパス情報Pt(パス2)を格納したデータ構造を有する。
【0121】
パス1としては、
図7に示したパス情報Pt11が格納され、同じくパス2としてはパス情報Pt12が格納されている。パス1、パス2としてのパス情報Pt11、Pt12は、監視エリア5を模した二次元平面(
図1(b)参照)上における、例えば、x軸を0°としたときの各センサー装置10と信号源110-1、または信号源110-2をそれぞれ結ぶ直線の角度(例えば、0°から360°の範囲)を示す情報(角度情報)である。
【0122】
ステップS8でのクラスタリング処理によってパス情報管理テーブル53aを生成した後、続いて、障害物検出部54は、パス情報管理テーブル53aに格納されるパス情報Ptに基づいて障害物8を検出する処理を行う(ステップS9)。
【0123】
さらに、制御部30は、上記ステップS9での障害物検出処理によって検出された障害物8の存在を報知する処理を実施する(ステップS10)。障害物8の存在を報知する処理(障害物報知処理)は、上述したように、例えば、表示制御部55により表示部37に対して障害物監視画像60(
図1(b)参照)を表示することにより行う。
【0124】
ステップS10における障害物報知処理の実行中、例えば、入力部36での障害物監視処理の終了操作を受け付けることにより、制御部30は、
図4に示す一連の障害物監視処理動作を終了する。
【0125】
図4のステップS9における障害物8の検出処理、及びステップS10における障害物報知処理は、詳しくは、
図6に示すフローチャートにしたがって実施される。
図6において、ステップS31~S36は
図4のステップS9における障害物検出処理に相当し、ステップS37は
図4のステップS10における障害物報知処理に相当する。
【0126】
図6に示すように、障害物8の検出処理が開始されると、障害物検出部54は、パス情報管理テーブル53a(
図9参照)から一組目の隣接するセンサー装置10にそれぞれ対応付けられているパス情報Ptを読み出し、これら一組目の隣接するセンサー装置10間のパス情報Ptを比較する(ステップS31)。
【0127】
次いで、障害物検出部54は、上記ステップS31での比較結果について、一組目の隣接するセンサー装置10間のパス情報Ptが
図4のステップS1で設定した障害物判定条件A、または障害物判定条件Bを満足するか否かを判定する(ステップS32)。ステップS32において、一組目の隣接するセンサー装置10間のパス情報Ptが
図4のステップS1で設定されている障害物判定条件A、または障害物判定条件Bを満足しないと判定された場合(ステップS32でNO)、障害物検出部54は、障害監視画像60での隣接するセンサー装置10間を結ぶ辺61(
図1(b)参照)を維持(隣接するセンサー装置10間に障害物8が存在しないことを示す)したうえで(ステップS33)、ステップS35へ移行する。
【0128】
これに対し、ステップS32において、一組目の隣接するセンサー装置10間のパス情報Ptが
図4のステップS1で設定されている障害物判定条件A、または障害物判定条件Bを満足すると判定された場合(ステップS32でYES)、障害物検出部54は、隣接するセンサー装置10間を結ぶ辺61を切断(隣接するセンサー装置10間に障害物8が存在することを示す)し(ステップS33)、その後、ステップS35へ移行する。
【0129】
ステップS35に移行すると、障害物検出部54は、全ての組の隣接するセンサー装置10間のパス情報Ptの比較が終了したかどうかをチェックする。
【0130】
ここで、全ての組の隣接するセンサー装置10間のパス情報Ptの比較が終了していないと判定された場合(ステップS35でNO)、障害物検出部54は、次の組のセンサー装置10間のパス情報Ptの比較を行う(ステップS36)。
【0131】
その後、障害物検出部54は、ステップS32以降の処理を続行する。この間、ステップS35において全ての組の隣接するセンサー装置10間のパス情報Ptの比較が終了したと判定された場合(ステップS35でYES)、表示制御部55は、上記ステップS34の処理で切断された辺61を、障害物8が存在することを表す形態で強調して表示する処理を実行する(ステップS37)。
【0132】
具体的に、表示制御部55は、障害物監視画像60(
図1(b)参照)中、網の目62の構成要素たる辺61のうち、上記ステップS34の処理で切断された辺61について、切断されていない辺61(障害物8の存在が検出されていない辺61)とは異なる態様で表示するように制御する。
【0133】
一例を挙げると、表示制御部55は、障害物8の存在が検出されていない辺61を実線、黒色で表すものとしたとき、障害物8の存在が検出された辺61については黒以外の色で表示する。また、辺61を実線、黒色で表示している状態で障害物8の存在が検出された場合、辺61を黒以外の色や点線で表示する、或いは点滅表示するようにしてもよい。ここで、障害物8の存在報知が可能であるならば、辺61を上述した態様以外の種々の態様で表示するようにしてもよい。障害物8の存在を報知せしめる辺61の強調表示の制御は、障害物監視処理の終了操作を受け付けることにより終了する。
【0134】
図6に示す障害物報知制御(
図4のステップS10に相当)におけるステップS32、S33、S34の処理の具体例について、
図10、
図11を参照してより詳しく説明する。
【0135】
図10は、「隣り合う各センサー装置10間でパス情報Ptが完全一致していない」とする障害物判定条件Aが設定されている場合の障害物8の存在判定処理と検出された障害物8の存在を報知する表示制御の例を示す模式図である。
図11は、「隣り合う各センサー装置10間でパス情報Ptに共通部分が一切ない」とする障害物判定条件Bが設定されている場合の障害物8の存在判定処理と検出された障害物8の存在を報知する表示制御の例を示す模式図である。
【0136】
まず、障害物判定条件Aが設定されている場合の障害物8の存在判定処理について
図10を参照して説明する。
図10において、隣接するセンサー装置10として、センサー装置10-1とセンサー装置10-2の組、センサー装置10-1とセンサー装置10-3の組、センサー装置10-2とセンサー装置10-3の組が例示されている。
【0137】
この中で、センサー装置10-1に対しては、実線で示すパス情報Pt11と点線で示すパス情報Pt12の両者が紐づけられている。実線で示すパス情報Pt11は、例えば、
図7におけるP11の位置に存在する信号源110-1からのパス情報Ptに相当し、点線で示すパス情報Pt21は、同じく
図7のP12の位置に存在する信号源110-2からのパス情報Ptに相当する。
【0138】
図10に示すパス情報Ptの取得下において、センサー装置10-1とセンサー装置10-2間のパス情報Ptを比較すると、パス情報Pt11は両者共通であるがパス情報Pt12はセンサー装置10-1のみしか存在しない。すなわち、センサー装置10-1とセンサー装置10-2間のパス情報Ptは完全一致しておらず、障害物判定条件Aを満足している。
【0139】
よって、この場合には、センサー装置10-1とセンサー装置10-2間の辺61は切断される(
図6のステップS34参照)ことになる。
図10においては、辺61が切断されたこと、すなわち、障害物8が存在することを点線で表し、かつ、その辺61上に障害物8が存在することを示す障害物存在指示情報65としての×印を付加している。
【0140】
次に、センサー装置10-2とセンサー装置10-3間のパス情報Ptを比較すると、センサー装置10-2にはパス情報Pt11のみが紐づけられているのに対し、センサー装置10-2にはパス情報Pt11とパス情報Pt21の両方が紐づけられている。すなわち、センサー装置10-2とセンサー装置10-3間のパス情報Ptは完全一致しておらず、障害物判定条件Aを満足している。
【0141】
よって、この場合には、センサー装置10-2とセンサー装置10-3間の辺61は切断される(
図6のステップS34参照)ことになる。この場合も、辺61が切断されたこと、すなわち、障害物8が存在することを点線で表し、かつ、その辺61上に障害物8が存在することを示す障害物存在指示情報65として×印を付加している。
【0142】
次に、センサー装置10-1とセンサー装置10-3間のパス情報Ptを比較すると、両者ともに、パス情報Pt11とパス情報Pt12の両方が紐づけられている。すなわち、センサー装置10-1とセンサー装置10-3間のパス情報Ptは完全一致しており、障害物判定条件Aを満足していない。よって、この場合には、センサー装置10-1とセンサー装置10-3間の辺は切断されず(
図6のステップS33参照)ことになる。
図10においては、障害物8が存在しないことを実線で表している。
【0143】
このように、障害物判定条件Aを用いた障害物8の存在判定処理によれば、隣接するセンサー装置10間でパス情報Ptが完全一致しないことを条件に障害物8が存在すると判定することによって、障害物8としての判定を比較的容易に容認する、緩い障害物検出機能を実現することができる。
【0144】
続いて、障害物判定条件Bが設定されている場合の障害物8の存在判定処理について
図11を参照して説明する。
図11においても、センサー装置10-1、10-2、10-3に紐づけられたパス情報Pt以外の形態は
図10と同様である。
【0145】
図11に示すパス情報Ptの取得下において、センサー装置10-1とセンサー装置10-2間のパス情報Ptを比較すると、パス情報Pt11は両者共通であるがパス情報Pt12はセンサー装置10-1のみにしか存在してしない。すなわち、センサー装置10-1とセンサー装置10-2間のパス情報Ptには共通した部分としてパス情報Pt11が存在し、障害物判定条件Bを満足していない。よって、この場合には、センサー装置10-1とセンサー装置10-2間の辺61は切断されず(
図6のステップS33参照)、実線によって表示されている。
【0146】
次に、センサー装置10-2とセンサー装置10-3間のパス情報Ptを比較すると、センサー装置10-2にはパス情報Pt11のみが紐づけられている一方、センサー装置10-3にはパス情報Pt12のみが紐づけられている。すなわち、センサー装置10-2とセンサー装置10-3間のパス情報Ptは一致する部分が存在せず、障害物判定条件Bを満足している。
【0147】
よって、この場合には、センサー装置10-2とセンサー装置10-3間の辺61は切断される(
図6のステップS34参照)ことになる。
図11においては、辺61が切断されたこと、すなわち、障害物8が存在することを点線で表し、かつ、その辺61上に障害物8が存在することを示す障害物存在指示情報65として×印を付加している。
【0148】
次に、センサー装置10-1とセンサー装置10-3間のパス情報Ptを比較すると、パス情報Pt12は両者共通であるがパス情報Pt11はセンサー装置10-1のみにしか存在していない。すなわち、センサー装置10-1とセンサー装置10-2間のパス情報Ptには共通した部分としてパス情報Pt12が存在し、よって、障害物判定条件Bを満足していない。この場合には、センサー装置10-1とセンサー装置10-2間の辺61は切断されず(
図6のステップS33参照)、実線で表示されている。
【0149】
このように、障害物判定条件Bを用いた障害物8の存在判定処理によれば、隣り合うセンサー装置10間でパス情報Ptに共通部分が一切ないことを条件に障害物8が存在すると判定することで、障害物判定条件Aを用いる場合に比べて、障害物8としての判定を容易に容認しない、より保守的な障害物検出機能を実現することができる。
【0150】
図10、
図11に示す態様での障害物判定条件A、Bを用いた障害物8の判定と障害物存在指示情報65を付加する処理は、他の全ての隣接するセンサー装置10間についても行われる。その結果、本実施形態に係るセンサーネットワークシステム1では、センサー装置10間を結ぶ網の目62の集まりよって一つのセンサーネットワーク63を表す障害物監視画像60上で、網の目62の各辺61上に障害物存在指示情報65(×印等)を表示することにより、当該辺61の近辺に障害物8が存在することをユーザに対して明示することが可能となる。
【0151】
上述したように、本実施形態に係るセンサーネットワークシステム1は、監視エリア5を網羅するように分散配置され、それぞれの配置位置で到来する信号の信号到来方向を推定する複数のセンサー装置10と、全てのセンサー装置10の信号到来方向の推定結果を解析して信号源110の位置を推定する信号源位置推定部52と、信号源位置推定部52により位置が推定された信号源110について、信号源110から各々のセンサー装置10へのパス情報Ptをグループに分けて各々のセンサー装置10に紐づけるクラスタリング処理を行うクラスタリング処理部53と、全てのセンサー装置10のうちの隣り合うセンサー装置10間のパス情報Ptを比較し、パス情報Ptの比較結果に基づいて隣り合うセンサー装置10間の領域に電波伝搬の障害となる障害物8が存在すること検出する障害物検出部54と、障害物検出部54により検出された障害物8の存在を、障害物8の存在が検出された領域に関連付けて報知する障害物報知手段と、を具備する構成である。
【0152】
この構成により、本実施形態に係るセンサーネットワークシステム1は、センサーネットワークを構成する複数のセンサー装置10で受信した信号の到来方向を解析することで複数の信号源110の位置を同時に推定することができる。そのうえで、各信号源110の位置推定情報を用いたクラスタリング処理により障害物8を発見することができ、さらには、障害物8の報知により、障害物8により電波の伝搬が行われていない領域を容易に把握することができる。これにより、現在可能な伝搬経路を限定することができ、無効となる送受信を前もって回避することで、次世代通信技術の実現に向けてより効率のよい電波利用の実現が可能となる。
【0153】
また、本実施形態に係るセンサーネットワークシステム1において、信号源位置推定部52は、全てのセンサー装置10について、センサー装置10で推定された信号到来方向に沿った直線をそれぞれ算出し、直線が交差する交点の座標を信号源110の位置の候補として選出し、信号源110の位置の候補として選出された交点のうちの、予め設定した閾値nを超える数の直線が交差する交点を信号源110の位置として推定する構成を有する。
【0154】
この構成により、本実施形態に係るセンサーネットワークシステム1は、複数のセンサー装置10で受信した信号の到来方向の解析処理において、それぞれの信号の到来方向に沿った直線とそれらの直線の交点を算出する処理を経て、複数の信号源110の位置を同時にしかも容易に推定することが可能となる。
【0155】
また、本実施形態に係るセンサーネットワークシステム1は、障害物8を判定する障害物判定条件を設定する監視条件設定部41をさらに有し、障害物検出部54は、隣り合うセンサー装置10間のパス情報Ptが障害物判定条件を満足する場合に障害物8が存在すると判定する構成である。
【0156】
この構成により、本実施形態に係るセンサーネットワークシステム1は、隣り合うセンサー装置10間の同一の信号源110からのパス情報Ptが不一致となる要件を障害物判定条件として設定することで、その障害物判定条件を満足する場合に、両センサー装置10間の領域に障害物が存在することを容易に検出することができる。
【0157】
また、本実施形態に係るセンサーネットワークシステム1において、監視条件設定部41は、障害物判定条件として、隣り合うセンサー装置10間でパス情報Ptが完全一致しないことを条件とする障害物判定条件A、または、隣り合うセンサー装置10間でパス情報Ptに共通部分が一切ないことを条件とする障害物判定条件Bを設定する構成を有している。
【0158】
この構成により、本実施形態に係るセンサーネットワークシステム1は、障害物判定条件Aを用い、隣り合うセンサー装置10間でパス情報Ptが完全一致しないことを条件に障害物8が存在すると判定することで、障害物8としての判定を比較的容易に容認する、緩い障害物検出機能を実現することができる。また、障害物判定条件Bを用い、隣り合うセンサー装置10間でパス情報Ptに共通部分が一切ないことを条件に障害物8が存在すると判定することで、障害物判定条件Aを用いる場合に比べて、障害物8としての判定を容易に容認しない、より保守的な障害物検出機能を実現することができる。
【0159】
また、本実施形態に係るセンサーネットワークシステム1は、クラスタリング処理部53により各々のセンサー装置10に対して紐づけられたパス情報Ptを管理するパス情報管理テーブル53aをさらに有している。
【0160】
この構成により、本実施形態に係るセンサーネットワークシステム1は、クラスタリング処理の結果、各センサー装置10に対して紐づけられるパス情報Ptの管理を容易に実現でき、その後の障害物検出処理も円滑に進めることができる。
【0161】
また、本実施形態に係るセンサーネットワークシステム1において、障害物報知手段は、監視エリア5におけるセンサー装置10の配置態様を模した2次元平面上のセンサー装置10に対応するセンサーオブジェクトSoを辺61で結んだ障害物監視画像60を表示する表示制御部55により構成され、辺61の表示態様に応じて障害物8の存在を報知する構成を有している。
【0162】
この構成により、本実施形態に係るセンサーネットワークシステム1は、障害物8の存在が検出されたときの隣り合うセンサー装置10間を結ぶ辺61の表示態様を、障害物8が存在していないときとは異なる表示態様に変更する等により、障害物8が存在する領域を明確かつ容易に判別することができる。
【0163】
また、本実施形態に係る障害物検出方法は、上述した構成を有するセンサーネットワークシステム1を用い、監視エリア5に分散配置された複数のセンサー装置10のうちの隣り合うセンサー装置10間の領域に存在する電波伝搬を阻害する障害物8を検出する障害物検出方法であって、全てのセンサー装置10の信号到来方向の推定結果を解析して信号源110の位置を推定する信号源位置推定ステップ(S7)と、信号源位置推定ステップで位置が推定された信号源110について、信号源110から各々のセンサー装置へのパス情報Ptをグループに分けて各々のセンサー装置10に紐づけるクラスタリング処理ステップ(S8)と、全てのセンサー装置10のうちの隣り合うセンサー装置10間のパス情報Ptを比較し、パス情報Ptの比較結果に基づいて隣り合うセンサー装置10間の領域に障害物8が存在すること検出する障害物検出ステップ(S9)と、障害物検出ステップで検出された障害物8の存在を、障害物8の存在が検出された領域に関連付けて報知する障害物報知ステップ(S10)と、を含むことを特徴とする。
【0164】
この構成により、本実施形態に係る障害物検出方法は、上記構成を有するセンサーネットワークシステム1に適用することにより、複数のセンサー装置10で受信した信号の到来方向を解析することで複数の信号源110の位置を同時に推定することができる。そのうえで、各信号源110の位置推定情報を用いたクラスタリング処理により障害物8を発見することができ、さらには、障害物8の報知により、障害物8により電波の伝搬が行われていない領域を容易に把握することができる。これにより、現在可能な伝搬経路を限定することができ、無効となる送受信を前もって回避することで、次世代通信技術の実現に向けてより効率のよい電波利用の実現が可能となる。
【0165】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであり、本発明を限定するために記載されたものではない。上述した実施形態に開示された各要素については本発明の技術的範囲内での種々の変形、あるいは応用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0166】
以上のように、本発明は、障害物により電波の伝搬が行われていない領域を容易に把握でき、次世代通信技術の開発に有用なより効率的な無線環境の把握を可能であるという効果を奏し、複数のセンサー装置を分散配置したセンサーネットワークシステム、及び障害物検出方法全般に有用である。
【符号の説明】
【0167】
1 センサーネットワークシステム
5 監視エリア(所定のエリア)
8 障害物
10、10-1、10-2、10-3、10-4、10-5、10-6、10-7 電波状況モニタリング装置(センサー装置)
11 アンテナ装置
12 周波数変換部
13 AD変換部
14 信号分離部
15 到来方向推定処理部
16 信号解析部
17、34 外部インターフェース(I/F)部
30 制御部
35 データベース
36 入力部
37 表示部
40 装置制御部
41 監視条件設定部(設定手段)
42 通信制御部
43 アンテナ制御部
50 データ制御部
51 データ管理部
52 信号源位置推定部(信号源位置推定手段)
53 クラスタリング処理部(クラスタリング処理手段)
53a パス情報管理テーブル
54 障害物検出部(障害物検出手段)
55 表示制御部(障害物報知手段)
60 障害物監視画像
61 辺
62 網の目
63 センサーネットワーク
110、110-1、110-2、110-3、110-4 信号源
So センサーオブジェクト
Pt パス情報