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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166588
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】能動制御形磁気浮上系システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/064 20160101AFI20241122BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20241122BHJP
【FI】
H02P25/064
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082777
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】小川 隆一
(72)【発明者】
【氏名】石橋 達朗
【テーマコード(参考)】
5H540
5H770
【Fターム(参考)】
5H540AA03
5H540BA03
5H540FC02
5H770DA01
5H770DA22
5H770DA30
5H770DA41
5H770EA01
5H770EA15
5H770GA13
5H770HA02Y
5H770HA03Y
5H770JA17Z
(57)【要約】
【課題】MPCで制御を行う能動制御形磁気浮上系システムを提供する。
【解決手段】浮上体1に対して対向する位置に設けられた第1、第2電磁石2A、2Bと、第1電磁石巻線電流iA_out,第2電磁石巻線電流iB_outを制御する第1、第2回路3A、3Bと、第1、第2回路3A、3Bの電源となる直流電源4と、MPCと、を備える。MPCは、第1回路3Aと第1電磁石2Aの巻線と第2回路3Bと第2電磁石2Bの巻線のモデルを考慮して次周期以降の出力電圧における第1回路電流評価値、第1回路電圧評価値、第2回路電流評価値、第2回路電圧評価値、第1回路と第2回路の電流差分評価値の評価を行う。そして、最も評価結果の優れる出力電圧に対応する第1回路3Aのゲート信号と第2回路3Bのゲート信号を出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮上体に対して対向する位置に設けられた第1、第2電磁石と、
第1電磁石巻線電流,第2電磁石巻線電流を制御する第1、第2回路と、
前記第1、第2回路の電源となる直流電源と、
前記第1回路と前記第1電磁石の巻線と前記第2回路と前記第2電磁石の巻線のモデルを考慮して次周期以降の出力電圧における第1回路電流評価値、第1回路電圧評価値、第2回路電流評価値、第2回路電圧評価値、前記第1回路と前記第2回路の電流差分評価値の評価を行い、最も評価結果の優れる出力電圧に対応する前記第1回路のゲート信号と前記第2回路のゲート信号を出力するMPCと、
を備えたことを特徴とする能動制御形磁気浮上系システム。
【請求項2】
前記第1回路は第1Hブリッジ回路、前記第2回路は第2Hブリッジ回路とし、
前記第1Hブリッジ回路の出力電圧、前記第2Hブリッジ回路の出力電圧が正の直流電源電圧を出力する場合はステート1とし、0を出力する場合はステート2とし、負の直流電源電圧を出力する場合はステート3とし、
前記第1Hブリッジ回路の前記ゲート信号、前記第2Hブリッジ回路の前記ゲート信号のパターンは、ステート1の場合は1つであり、ステート2の場合は2つであり、ステート3の場合は1つであり、
ステート1からステート3、ステート3からステート1の遷移を禁止とし、ステート1あるいはステート3からステート2に遷移する場合およびステート2からステート1あるいはステート3に遷移する場合は前記第1Hブリッジ回路の前記ゲート信号、前記第2Hブリッジ回路の前記ゲート信号のパターンを切り替え、ステート2にいる間は前記ゲート信号のパターンを切り替えず、ステート2で使用する前記第1Hブリッジ回路の前記ゲート信号、前記第2Hブリッジ回路の前記ゲート信号のパターンは前回のステート2のパターンと異なるパターンを使用することを特徴とする請求項1記載の能動制御形磁気浮上系システム。
【請求項3】
前記第1回路は第1Hブリッジ回路、前記第2回路は第2Hブリッジ回路とし、
前記第1Hブリッジ回路の出力電圧、前記第2Hブリッジ回路の出力電圧が正の直流電源電圧を出力する場合はステート3とし、0を出力する場合はステート2とし、負の直流電源電圧を出力する場合はステート1とし、
前記第1Hブリッジ回路の前記ゲート信号、前記第2Hブリッジ回路の前記ゲート信号のパターンは、ステート1の場合は1つであり、ステート2の場合は2つであり、ステート3の場合は1つであり、
ステート1からステート3、ステート3からステート1の遷移を禁止とし、ステート1あるいはステート3からステート2に遷移する場合およびステート2からステート1あるいはステート3に遷移する場合は前記第1Hブリッジ回路の前記ゲート信号、前記第2Hブリッジ回路の前記ゲート信号のパターンを切り替え、ステート2にいる間は前記ゲート信号のパターンを切り替えず、ステート2で使用する前記第1Hブリッジ回路の前記ゲート信号、前記第2Hブリッジ回路の前記ゲート信号のパターンは前回のステート2のパターンと異なるパターンを使用することを特徴とする請求項1記載の能動制御形磁気浮上系システム。
【請求項4】
前記MPCは、
式(21)、式(22)により、前記第1回路電流評価値、前記第2回路電流評価値を算出し、
式(23)により、前記第1回路電圧評価値、前記第2回路電圧評価値を算出し、
式(24)、式(25)により、前記電流差分評価値を算出することを特徴とする請求項2記載の能動制御形磁気浮上系システム。
【数21】

【数22】

【数23】

【数24】

【数25】

Ji_j:任意の時刻jの第1回路電流評価値、第2回路電流評価値
G_Ji:電流評価ゲイン
i_j:任意の時刻jの出力電流
i_ref:指令電流
G_Jiabs:偏差罰則ゲイン
i_abs_ref:電流偏差許容値
Jv_j:任意の時刻jの第1回路電圧評価値、第2回路電圧評価値
v_j:任意の時刻jの出力電圧のステート
v_j+1:時刻j+1の出力電圧のステート
G_Jv:電圧評価ゲイン
G_JNG:禁止遷移罰則ゲイン
JiF_j:電流差分評価値
G_JiF:電流差分評価ゲイン
iA-B_j(=iF_j):任意の時刻jの出力電流差分
iA-B_ref(=iF_ref):指令電流差分
G_JiFabs:差分偏差罰則ゲイン
iF_abs_ref:電流差分偏差許容値
【請求項5】
前記MPCは、
式(28)、式(29)により、前記第1回路電流評価値、前記第2回路電流評価値を算出し、
式(23)により、前記第1回路電圧評価値、前記第2回路電圧評価値を算出し、
式(30)、式(31)により、前記電流差分評価値を算出することを特徴とする請求項2記載の能動制御形磁気浮上系システム。
【数28】

【数29】

【数23】

【数30】

【数31】

Ji_j:任意の時刻jの第1回路電流評価値、第2回路電流評価値
G_Ji:電流評価ゲイン
i_j:任意の時刻jの出力電流
i_ref:指令電流
G_Jiabs:偏差罰則ゲイン
i_abs_ref:電流偏差許容値
Jv_j:任意の時刻jの第1回路電圧評価値、第2回路電圧評価値
v_j:任意の時刻jの出力電圧のステート
v_j+1:時刻j+1の出力電圧のステート
G_Jv:電圧評価ゲイン
G_JNG:禁止遷移罰則ゲイン
JiF_j:電流差分評価値
G_JiF:電流差分評価ゲイン
iA-B_j(=iF_j):任意の時刻jの出力電流差分
iA-B_ref(=iF_ref):指令電流差分
G_JiFabs:差分偏差罰則ゲイン
iF_abs_ref:電流差分偏差許容値
【請求項6】
前記MPCは、
今回決定出力開始時刻の第1電磁石巻線電流、前記今回決定出力開始時刻の第2電磁石巻線電流を推定する電流変化推定部と、
前記今回決定出力開始時刻の第1電磁石巻線電流、前記今回決定出力開始時刻の第2電磁石巻線電流、式(7)の第1回路指令電流、式(8)の第2回路指令電流に基づいて、前記今回決定出力開始時刻から予測演算考慮周期までの評価結果の最も優れた前記第1Hブリッジ回路と前記第2Hブリッジ回路の出力電圧に関するデータを出力するMPC評価演算部と、
前記第1Hブリッジ回路の出力電圧、前記第2Hブリッジ回路の出力電圧に基づいて、前記第1Hブリッジ回路の前記ゲート信号および前記第2Hブリッジ回路の前記ゲート信号を出力するゲート決定部と、
を備えたことを特徴とする請求項2記載の能動制御形磁気浮上系システム。
【数7】

【数8】

iA_ref:第1回路指令電流
iB_ref:第2回路指令電流
ibias:指令バイアス電流
iFref:指令吸引力制御電流
【請求項7】
前記MPC評価演算部は、
1周期の出力電圧のパターンごとの電流変化を予測・評価し、1周期の予測・評価を行うたびに評価結果の良い順にソートして評価結果の良い評価結果選定数個のデータを選定し、前記評価結果選定数個のデータそれぞれの次の1周期の出力電圧のパターンごとの電流変化を予測・評価し、この1周期分の出力電圧のパターンごとの電流変化の予測・評価とその評価結果のソート・選定を繰り返して予測演算考慮周期まで予測・評価を行い、予測演算考慮周期の最も評価結果の優れた前記第1Hブリッジ回路と前記第2Hブリッジ回路の出力電圧に関するデータを出力することを特徴とする請求項6記載の能動制御形磁気浮上系システム。
【請求項8】
前記MPC評価演算部は、
評価結果をソート・選定する際、入力信号を一度にソーティングネットワークでソート・選定することを特徴とする請求項7記載の能動制御形磁気浮上系システム。
【請求項9】
前記MPC評価演算部は、
評価結果をソート・選定する際、ソーティングネットワークを多段化し、入力信号を複数のグループに分けて複数のソーティングネットワークでソート・選定し、選定された信号を次段のソーティングネットワークでソート・選定することを特徴とする請求項7記載の能動制御形磁気浮上系システム。
【請求項10】
前記電流変化推定部は、
1周期先の電流を推定する電流推定演算部を用いて、式(14)、式(15)により、時刻j+1の出力電流の推定の演算を行い、この演算を時刻j+1が前記今回決定出力開始時刻となるまで繰り返し、前記今回決定出力開始時刻の出力電流を得ることを特徴とする請求項6記載の能動制御形磁気浮上系システム。
【数14】

【数15】

i_j+1:時刻j+1の出力電流
i_j:任意の時刻jの出力電流
Tc:出力電圧切替周期
L_load:巻線インダクタンス
Tdead:デッドタイム
VH_j:任意の時刻jの出力電圧のステートに対応したHブリッジ回路の出力電圧
VH_d:デッドタイム中出力電圧
R_load:巻線抵抗
VH_in:正の直流電源電圧
-VH_in:負の直流電源電圧
v_j:任意の時刻jの出力電圧のステート
【請求項11】
前記第1電磁石巻線電流の極性が正、かつ、ステートの値が前回値よりも1つ減少する遷移の場合、デッドタイム中は遷移前のステートとし、
前記第1電磁石巻線電流の極性が正、かつ、ステートの値が前回値よりも1つ増加する遷移の場合、デッドタイム中は遷移後のステートとし、
前記第1電磁石巻線電流の極性が負、かつ、ステートの値が前回値よりも1つ増加する遷移の場合、デッドタイム中は遷移前のステートとし、
前記第1電磁石巻線電流の極性が負、かつ、ステートの値が前回値よりも1つ減少する遷移の場合、デッドタイム中は遷移後のステートとして前記第1Hブリッジ回路の前記デッドタイム中出力電圧を決定し、
前記第2電磁石巻線電流の極性が正、かつ、ステートの値が前回値よりも1つ減少する遷移の場合、デッドタイム中は遷移前のステートとし、
前記第2電磁石巻線電流の極性が正、かつ、ステートの値が前回値よりも1つ増加する遷移の場合、デッドタイム中は遷移後のステートとし、
前記第2電磁石巻線電流の極性が負、かつ、ステートの値が前回値よりも1つ増加する遷移の場合、デッドタイム中は遷移前のステートとし、
前記第2電磁石巻線電流の極性が負、かつ、ステートの値が前回値よりも1つ減少する遷移の場合、デッドタイム中は遷移後のステートとして前記第2Hブリッジ回路の前記デッドタイム中出力電圧を決定することを特徴とする請求項10記載の能動制御形磁気浮上系システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気浮上および磁気軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
能動制御形磁気浮上系システムでは、電磁石巻線に電流を流し、浮上体に対して磁気吸引力を発生させ、浮上体を所望の変位に制御する。
【0003】
磁気浮上系のコンバータとしては、特に大容量向けにおいてHブリッジ回路が広く用いられている。Hブリッジ回路は一般的な降圧チョッパと異なり巻線端子間に負電圧を与えることができるため、電流応答性の面で優れている。
【0004】
電磁石巻線の電流制御はコンバータによって行うが、その制御方式についてはPI制御(比例-積分制御)と三角波比較PWM(パルス幅変調)を組み合わせた方式が一般的である。これに対して、MPC(モデル予測制御)と呼ばれる方式も存在する。
【0005】
MPCでは、未来の時刻の出力電圧がもたらす電流変化を多数のスイッチングパターンに関してあらかじめ予測し、最適な電流軌道となるスイッチングパターンを実際に出力する。MPCにはステップ変動への追従性が良い、運転状態に応じてスイッチング周波数を最適化できる、といった利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-74751号公報
【特許文献2】特開2018-74745号公報
【特許文献3】特開2021-170882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コンバータにおけるMPCに関しては、以下の先行技術が開示されている。
【0008】
特許文献1、特許文献2では、直流電圧を生成する同期整流形チョッパにおいて、次回1周期分のデューティ比を定めるMPCが開示されている。
【0009】
特許文献3では、モータ駆動用三相インバータにおいて、次回複数周期分の出力電圧ベクトルを定めるMPCが開示されている。
【0010】
以上の先行技術では、構成として三相インバータおよび同期整流形チョッパを対象としていることがわかる。
【0011】
MPCではモデルの未来の状態を予測するため仮定するモデルが重要となるが、Hブリッジ回路に適したMPCのモデル態様およびその実現構成は明らかにされていない。例えば、Hブリッジ回路においては、直接的にゲート信号を定めるよりも出力電圧をステート化して別処理でゲート信号を決定する方が演算面で有利であるが、その構成は明らかにされていない。
【0012】
また、これまでのモータ駆動用インバータのMPCでは主に電流、回転速度が評価関数に導入されてきた。同期整流形チョッパのMPCでは主に電流、コンデンサ電圧が評価関数に導入されてきた。一方で、磁気浮上系では対向する2つの電磁石の吸引力の差が浮上体の制動として重要となる。すなわち、2台のコンバータの電流差分の評価が重要であるが、この点は先行技術では検討されていない。
【0013】
以上示したようなことから、MPCで制御を行う能動制御形磁気浮上系システムを提供することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、浮上体に対して対向する位置に設けられた第1、第2電磁石と、第1電磁石巻線電流,第2電磁石巻線電流を制御する第1、第2回路と、前記第1、第2回路の電源となる直流電源と、前記第1回路と前記第1電磁石の巻線と前記第2回路と前記第2電磁石の巻線のモデルを考慮して次周期以降の出力電圧における第1回路電流評価値、第1回路電圧評価値、第2回路電流評価値、第2回路電圧評価値、前記第1回路と前記第2回路の電流差分評価値の評価を行い、最も評価結果の優れる出力電圧に対応する前記第1回路のゲート信号と前記第2回路のゲート信号を出力するMPCと、を備えたことを特徴とする。
【0015】
また、その一態様として、前記第1回路は第1Hブリッジ回路、前記第2回路は第2Hブリッジ回路とし、前記第1Hブリッジ回路の出力電圧、前記第2Hブリッジ回路の出力電圧が正の直流電源電圧を出力する場合はステート1とし、0を出力する場合はステート2とし、負の直流電源電圧を出力する場合はステート3とし、前記第1Hブリッジ回路の前記ゲート信号、前記第2Hブリッジ回路の前記ゲート信号のパターンは、ステート1の場合は1つであり、ステート2の場合は2つであり、ステート3の場合は1つであり、ステート1からステート3、ステート3からステート1の遷移を禁止とし、ステート1あるいはステート3からステート2に遷移する場合およびステート2からステート1あるいはステート3に遷移する場合は前記第1Hブリッジ回路の前記ゲート信号、前記第2Hブリッジ回路の前記ゲート信号のパターンを切り替え、ステート2にいる間は前記ゲート信号のパターンを切り替えず、ステート2で使用する前記第1Hブリッジ回路の前記ゲート信号、前記第2Hブリッジ回路の前記ゲート信号のパターンは前回のステート2のパターンと異なるパターンを使用することを特徴とする。
【0016】
また、他の態様として、前記第1回路は第1Hブリッジ回路、前記第2回路は第2Hブリッジ回路とし、前記第1Hブリッジ回路の出力電圧、前記第2Hブリッジ回路の出力電圧が正の直流電源電圧を出力する場合はステート3とし、0を出力する場合はステート2とし、負の直流電源電圧を出力する場合はステート1とし、前記第1Hブリッジ回路の前記ゲート信号、前記第2Hブリッジ回路の前記ゲート信号のパターンは、ステート1の場合は1つであり、ステート2の場合は2つであり、ステート3の場合は1つであり、ステート1からステート3、ステート3からステート1の遷移を禁止とし、ステート1あるいはステート3からステート2に遷移する場合およびステート2からステート1あるいはステート3に遷移する場合は前記第1Hブリッジ回路の前記ゲート信号、前記第2Hブリッジ回路の前記ゲート信号のパターンを切り替え、ステート2にいる間は前記ゲート信号のパターンを切り替えず、ステート2で使用する前記第1Hブリッジ回路の前記ゲート信号、前記第2Hブリッジ回路の前記ゲート信号のパターンは前回のステート2のパターンと異なるパターンを使用することを特徴とする。
【0017】
また、その一態様として、前記MPCは、式(21)、式(22)により、前記第1回路電流評価値、前記第2回路電流評価値を算出し、式(23)により、前記第1回路電圧評価値、前記第2回路電圧評価値を算出し、式(24)、式(25)により、前記電流差分評価値を算出することを特徴とする。
【0018】
【数21】
【0019】
【数22】
【0020】
【数23】
【0021】
【数24】
【0022】
【数25】
【0023】
Ji_j:任意の時刻jの第1回路電流評価値、第2回路電流評価値
G_Ji:電流評価ゲイン
i_j:任意の時刻jの出力電流
i_ref:指令電流
G_Jiabs:偏差罰則ゲイン
i_abs_ref:電流偏差許容値
Jv_j:任意の時刻jの第1回路電圧評価値、第2回路電圧評価値
v_j:任意の時刻jの出力電圧のステート
v_j+1:時刻j+1の出力電圧のステート
G_Jv:電圧評価ゲイン
G_JNG:禁止遷移罰則ゲイン
JiF_j:電流差分評価値
G_JiF:電流差分評価ゲイン
iA-B_j(=iF_j):任意の時刻jの出力電流差分
iA-B_ref(=iF_ref):指令電流差分
G_JiFabs:差分偏差罰則ゲイン
iF_abs_ref:電流差分偏差許容値。
【0024】
また、他の態様として、前記MPCは、式(28)、式(29)により、前記第1回路電流評価値、前記第2回路電流評価値を算出し、式(23)により、前記第1回路電圧評価値、前記第2回路電圧評価値を算出し、式(30)、式(31)により、前記電流差分評価値を算出することを特徴とする。
【0025】
【数28】
【0026】
【数29】
【0027】
【数23】
【0028】
【数30】
【0029】
【数31】
【0030】
Ji_j:任意の時刻jの第1回路電流評価値、第2回路電流評価値
G_Ji:電流評価ゲイン
i_j:任意の時刻jの出力電流
i_ref:指令電流
G_Jiabs:偏差罰則ゲイン
i_abs_ref:電流偏差許容値
Jv_j:任意の時刻jの第1回路電圧評価値、第2回路電圧評価値
v_j:任意の時刻jの出力電圧のステート
v_j+1:時刻j+1の出力電圧のステート
G_Jv:電圧評価ゲイン
G_JNG:禁止遷移罰則ゲイン
JiF_j:電流差分評価値
G_JiF:電流差分評価ゲイン
iA-B_j(=iF_j):任意の時刻jの出力電流差分
iA-B_ref(=iF_ref):指令電流差分
G_JiFabs:差分偏差罰則ゲイン
iF_abs_ref:電流差分偏差許容値。
【0031】
また、一態様として、前記MPCは、今回決定出力開始時刻の第1電磁石巻線電流、前記今回決定出力開始時刻の第2電磁石巻線電流を推定する電流変化推定部と、前記今回決定出力開始時刻の第1電磁石巻線電流、前記今回決定出力開始時刻の第2電磁石巻線電流、式(7)の第1回路指令電流、式(8)の第2回路指令電流に基づいて、前記今回決定出力開始時刻から予測演算考慮周期までの評価結果の最も優れた前記第1Hブリッジ回路と前記第2Hブリッジ回路の出力電圧に関するデータを出力するMPC評価演算部と、前記第1Hブリッジ回路の出力電圧、前記第2Hブリッジ回路の出力電圧に基づいて、前記第1Hブリッジ回路の前記ゲート信号および前記第2Hブリッジ回路の前記ゲート信号を出力するゲート決定部と、を備えたことを特徴とする。
【0032】
【数7】
【0033】
【数8】
【0034】
iA_ref:第1回路指令電流
iB_ref:第2回路指令電流
ibias:指令バイアス電流
iFref:指令吸引力制御電流。
【0035】
また、その一態様として、前記MPC評価演算部は、1周期の出力電圧のパターンごとの電流変化を予測・評価し、1周期の予測・評価を行うたびに評価結果の良い順にソートして評価結果の良い評価結果選定数個のデータを選定し、前記評価結果選定数個のデータそれぞれの次の1周期の出力電圧のパターンごとの電流変化を予測・評価し、この1周期分の出力電圧のパターンごとの電流変化の予測・評価とその評価結果のソート・選定を繰り返して予測演算考慮周期まで予測・評価を行い、予測演算考慮周期の最も評価結果の優れた前記第1Hブリッジ回路と前記第2Hブリッジ回路の出力電圧に関するデータを出力することを特徴とする。
【0036】
また、その一態様として、前記MPC評価演算部は、評価結果をソート・選定する際、入力信号を一度にソーティングネットワークでソート・選定することを特徴とする。
【0037】
また、他の態様として、前記MPC評価演算部は、評価結果をソート・選定する際、ソーティングネットワークを多段化し、入力信号を複数のグループに分けて複数のソーティングネットワークでソート・選定し、選定された信号を次段のソーティングネットワークでソート・選定することを特徴とする。
【0038】
また、一態様として、前記電流変化推定部は、1周期先の電流を推定する電流推定演算部を用いて、式(14)、式(15)により、時刻j+1の出力電流の推定の演算を行い、この演算を時刻j+1が前記今回決定出力開始時刻となるまで繰り返し、前記今回決定出力開始時刻の出力電流を得ることを特徴とする。
【0039】
【数14】
【0040】
【数15】
【0041】
i_j+1:時刻j+1の出力電流
i_j:任意の時刻jの出力電流
Tc:出力電圧切替周期
L_load:巻線インダクタンス
Tdead:デッドタイム
VH_j:任意の時刻jの出力電圧のステートに対応したHブリッジ回路の出力電圧
VH_d:デッドタイム中出力電圧
R_load:巻線抵抗
VH_in:正の直流電源電圧
-VH_in:負の直流電源電圧
v_j:任意の時刻jの出力電圧のステート。
【0042】
また、その一態様として、前記第1電磁石巻線電流の極性が正、かつ、ステートの値が前回値よりも1つ減少する遷移の場合、デッドタイム中は遷移前のステートとし、前記第1電磁石巻線電流の極性が正、かつ、ステートの値が前回値よりも1つ増加する遷移の場合、デッドタイム中は遷移後のステートとし、前記第1電磁石巻線電流の極性が負、かつ、ステートの値が前回値よりも1つ増加する遷移の場合、デッドタイム中は遷移前のステートとし、前記第1電磁石巻線電流の極性が負、かつ、ステートの値が前回値よりも1つ減少する遷移の場合、デッドタイム中は遷移後のステートとして前記第1Hブリッジ回路の前記デッドタイム中出力電圧を決定し、前記第2電磁石巻線電流の極性が正、かつ、ステートの値が前回値よりも1つ減少する遷移の場合、デッドタイム中は遷移前のステートとし、前記第2電磁石巻線電流の極性が正、かつ、ステートの値が前回値よりも1つ増加する遷移の場合、デッドタイム中は遷移後のステートとし、前記第2電磁石巻線電流の極性が負、かつ、ステートの値が前回値よりも1つ増加する遷移の場合、デッドタイム中は遷移前のステートとし、前記第2電磁石巻線電流の極性が負、かつ、ステートの値が前回値よりも1つ減少する遷移の場合、デッドタイム中は遷移後のステートとして前記第2Hブリッジ回路の前記デッドタイム中出力電圧を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、MPCで制御を行う能動制御形磁気浮上系システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】能動制御形磁気浮上系システムを示す構成図。
図2】浮上体にはたらく力を示す説明図。
図3】能動制御形磁気浮上系のMPC制御構成図。
図4】Hブリッジ回路のゲート信号パターンと出力電圧を示す図。
図5】出力電圧のステート定義を示す図。
図6】実施形態1のMPCを示す構成図。
図7】MPC演算とサンプリング・出力の関係を示す図。
図8】実施形態1のMPCにおける時刻の定義を示す図。
図9】ゲート決定部を示す構成図。
図10】電流変化推定部を示す図。
図11】電流推定演算部を示す図。
図12】デッドタイム電圧推定部を示す図。
図13】デッドタイム期間中の電流経路と出力電圧を示す図。
図14】MPC評価演算部を示す図。
図15】1周期分予測評価部を示す図。
図16】各パターン評価部を示す図。
図17】実施形態1の評価演算部を示す図。
図18】実施形態1のNin入力Ns出力のソート選定部を示す図。
図19】5入力のソーティングネットワークの動作例を示す図。
図20】評価値比較部を示す図。
図21】実施形態2のソート選定部を示す図。
図22】実施形態3の評価演算部を示す図。
図23】実施形態1のシミュレーション結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本願発明における能動制御形磁気浮上系システムの実施形態1~3を図1図23に基づいて詳述する。
【0046】
[実施形態1]
図1に能動制御形磁気浮上系システムの構成を示す。本システムは、浮上体1に対して対向する位置に第1電磁石2A,第2電磁石2Bを設け、その巻線電流をそれぞれ第1回路(例えばHブリッジ回路:以下第1Hブリッジ回路と称する)3A,第2回路(例えばHブリッジ回路:以下第2Hブリッジ回路と称する)3Bで制御している。第1Hブリッジ回路3A,第2Hブリッジ回路3Bの電源として直流電源4が設置される。直流電源4については、バッテリのほか、交流電源系統に接続されたAC/DCコンバータの出力電圧など、所望の構成で生成したものを用いればよい。
【0047】
第1Hブリッジ回路3AはコンデンサCA,スイッチング素子(例えばMOSFET:金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)SA1,SA2,SA3,SA4で構成される。同様に第2Hブリッジ回路3BはコンデンサCB,スイッチング素子SB1,SB2,SB3,SB4で構成される。
【0048】
また、VH_inは直流電源電圧[V]、iA_outは第1電磁石巻線電流[A]、iB_outは第2電磁石巻線電流[A]、VH_Aは第1Hブリッジ回路出力電圧[V]、VH_Bは第2Hブリッジ回路出力電圧[V]であり、それぞれ図1の向きに定義する。
【0049】
本システムでは、浮上体1に対して第1電磁石2A,第2電磁石2Bを対向設置し、これらの吸引力によって浮上体1の変位を制御する。ただし、構成は図1に限定しない。例えば、第1、第2Hブリッジ回路3A、3Bのスイッチング素子SA1~SA4、SB1~SB4について、MOSFETではなくてもよく、例えばIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)を用いてもよい。
【0050】
図2に浮上体1にはたらく力を示す。第1電磁石2Aの吸引力をFA(第1電磁石2A方向を正とする)、第2電磁石2Bの吸引力をFB(第2電磁石2B方向を正とする)、重力その他による浮上体1への定常外乱力をFd(第2電磁石2B方向を正とする)、浮上体1にはたらく合力をFlev(第1電磁石2A方向を正とする)とおくと、その関係は式(1)で表される。
【0051】
【数1】
【0052】
ここで、平衡点まわりの線形化のもとで、第1電磁石2A,第2電磁石2Bの吸引力は式(2)、式(3)で表される。
【0053】
【数2】
【0054】
【数3】
【0055】
ΔiAは第1電磁石2Aの平衡点からの電流変化量[A]、ΔiBは第2電磁石2Bの平衡点からの電流変化量[A]、Kiは電流-吸引力ゲイン[F/A]、Kdは変位-吸引力ゲイン[F/m]、Δdは浮上体1と第1電磁石2A,第2電磁石2Bの間の平衡点からの変位[m]とする。
【0056】
なお、第1、第2電磁石2A、2Bの電磁力は電流極性によらず吸引方向であることを考慮し、本実施形態1ではiA_out≧0、iB_out≧0とする。変位Δdは第1電磁石2Aに近づく方向を正とおく。また、第1、第2電磁石2A、2Bにおける電流-吸引力ゲインKi,変位-吸引力ゲインKdは同一であると仮定し、そのずれは外乱として現れるものとする。
【0057】
式(1)に式(2)、式(3)を代入すると、式(4)となる。
【0058】
【数4】
【0059】
これはつまり、対向設置した第1、第2電磁石2A、2Bの電流差分(ΔiA-ΔiB)を適切に制御することで磁気浮上系の変位制御が可能になることを意味している。
【0060】
なお、実運用上は電磁石を線形領域で利用するためにバイアス電流を第1電磁石2A,第2電磁石2Bの両者に流した上で、吸引力制御用の電流を第1電磁石2A,第2電磁石2Bに逆極性で0.5倍ずつ加算する。
【0061】
浮上体1の変位制御については所望の態様で別途行われるものとし、本実施形態1では対向設置した2個の電磁石巻線の指令電流が確定した後の電流制御について扱う。
【0062】
本実施形態1では、応答性の向上、スイッチング素子のスイッチング周波数の最適化などのために第1、第2Hブリッジ回路3A、3Bの電流制御にMPCを使用している。
【0063】
MPCでは、未来の出力に対して制御対象の未来の状態がどのように変化するかを多数のパターンに関してあらかじめ予測し、最も良い予測結果であった出力を実際に出力する。これにより、モデルとプラントが一致していれば、MPCの出力分解能・サンプリング分解能の範囲内で最適な制御を行うことができる。
【0064】
図3に磁気浮上系のMPC制御構成を示す。第1電磁石2A,第2電磁石2Bの巻線電流を第1Hブリッジ回路3A,第2Hブリッジ回路3Bで制御するフィードバック制御構成を示している。直流電源4、第1Hブリッジ回路3A、第2Hブリッジ回路3B,第1電磁石2A,第2電磁石2Bについては図1と同様の構成である。
【0065】
MPC5には、指令バイアス電流ibias[A]および指令吸引力制御電流iFref[A]が入力される。これらの指令は上位の変位制御にて適宜、浮上体1の変位を保つように決定される。また、MPC5には、第1電磁石巻線電流iA_out[A]、第2電磁石巻線電流iB_out[A]が入力される。第1電磁石巻線電流iA_out[A]、第2電磁石巻線電流iB_out[A]はホール電流センサやシャント抵抗など所望の方法で検出される。
【0066】
MPC5では、Hブリッジ回路および電磁石巻線のモデルを考慮して次周期以降の出力電圧の評価を行う。最も評価結果の優れる出力電圧について、その出力電圧に対応するゲート信号を第1Hブリッジ回路3Aのゲート信号gA、第2Hブリッジ回路3Bのゲート信号gBとして出力する。第1Hブリッジ回路3A,第2Hブリッジ回路3Bでは、これらゲート信号gA、gBに基づいてスイッチング素子を駆動する。
【0067】
図3は、MPC5による電流制御の全体構成を示している。第1電磁石巻線電流iA_out,第2電磁石巻線電流iB_outをフィードバックしてMPC指令電流へと制御するためのゲート信号gA,gBを決定し、第1Hブリッジ回路3A,第2Hブリッジ回路3Bを駆動している。
【0068】
ここで、第1Hブリッジ回路3Aには4つのスイッチング素子SA1~SA4が存在する。この4つのスイッチング素子SA1,SA2,SA3,SA4それぞれのゲート信号をgA1,gA2,gA3,gA4とおき、ゲート信号gAを式(5)で定義する。
【0069】
【数5】
【0070】
同様に、第2Hブリッジ回路3Bにおいても、4つのスイッチング素子SB1,SB2,SB3,SB4それぞれのゲート信号をgB1,gB2,gB3,gB4として、ゲート信号gBを式(6)で定義する。
【0071】
【数6】
【0072】
ゲート信号については、0および1でON/OFF状態を定める。すなわち、(gA1,gA2,gA3,gA4)が(1,0,0,1)のとき、gA1はON、gA2はOFF、gA3はOFF、gA4はONとする。
【0073】
このもとで、Hブリッジ回路に適するMPC構成を考える。
【0074】
図4にHブリッジ回路のゲート信号パターンと出力電圧を示す。第1Hブリッジ回路3Aにおいて(gA1,gA2,gA3,gA4)の組み合わせに応じた電流経路と第1Hブリッジ回路出力電圧VH_Aの値を示している。1レグ(SA1とSA2、あるいはSA3とSA4の組み合わせ)を同時にONすると直流電圧を短絡してしまうこと、1レグを同時にOFFにするとダイオード経路となって損失が増大すること、を考慮すると実際に用いられるゲート信号の組み合わせは図4の4種類に限定される。
【0075】
ここで、ゲート信号の組み合わせ(パターン)は4種類あるのに対し、出力電圧は正の直流電源電圧VH_in,0,負の直流電源電圧-VH_inの3種類であり、(1,0,1,0)と(0,1,0,1)は同じゼロ電圧出力となっている。スイッチング素子への負荷の均等化を考慮すると、どちらか一方のみを使用することは許されず、ゼロ電圧出力は(1,0,1,0)と(0,1,0,1)のゲート信号をできるかぎり均等に使用することが求められる。
【0076】
また、(1,0,0,1)と(0,1,1,0)、(1,0,1,0)と(0,1,0,1)は全ゲート信号が反転した関係であり、これらの間で遷移を行うには全スイッチング素子を一度にON/OFF切替する必要が生じる。これは、ゲート駆動の安全性低下あるいは安全性を確保するためのゲート駆動制御複雑化の観点から望ましくない。
【0077】
以上のことを考慮して、本実施形態1では第1Hブリッジ回路出力電圧VH_A基準のステートマシン(状態遷移)の考え方にもとづいてMPCを構成する。
【0078】
図5に出力電圧のステート定義を示す。第1Hブリッジ回路3Aについて示しているが、第2Hブリッジ回路3Bについても同様であり、記号のAをBに置き換えるのみの違いであるので図は省略する。また、本ステート定義は厳密な意味でのステートマシンではなく、具体的な遷移条件はない。これは、MPCでは予測結果を評価することで出力電圧を決定しており、遷移条件を定められないためである。代わりに遷移可、遷移禁止で各出力電圧同士の関係を記述した。
【0079】
ステート1(vA=1)は、負荷端子間に正の直流電源電圧VH_inを出力するステートである。このときのゲート信号は(1,0,0,1)である。
【0080】
ステート2(vA=2)は、負荷端子間にゼロ電圧を出力するステートである。このときのゲート信号は(1,0,1,0),(0,1,0,1)である。ゲート信号はステート2にいる間には変更せず、ステート2からステート1あるいはステート3に遷移するときに次にステート2で使用するゲート信号を前回と異なるものに切り替える。
【0081】
これにより、全ゲート信号が反転した関係のうち(1,0,1,0)と(0,1,0,1)の遷移を禁止し、かつ(1,0,1,0)と(0,1,0,1)をできるかぎり均等に使用することになる。このステート2のゲート信号に関する処理は、後述のゲート決定部で詳細な構成を示す。
【0082】
ステート3(vA=3)は、負荷端子間に負の直流電源電圧-VH_inを出力するステートである。このときのゲート信号は(0,1,1,0)である。
【0083】
ステート1とステート2では相互に遷移可能、ステート2とステート3では相互に遷移可能であるが、ステート1とステート3では遷移を禁止している。これにより、全ゲート信号が反転した関係のうち(1,0,0,1)と(0,1,1,0)の遷移を禁止している。本ステートマシンにおいては、第1回路出力電圧のステートvAの前回値との差が1以下であれば遷移可能であり、2であれば遷移禁止と簡易に定義できる。
【0084】
MPC5の出力電圧について第1回路出力電圧のステートvAを用いずゲート信号を直接的に参照する場合は、ゼロ出力電圧となる2種類ゲート信号にどちらを対応させるかをMPC5の予測・評価の段階で考慮する必要があり場合分けが複雑化する。また、MPCでは同一の予測・評価構成を多数設けている。各予測・評価でのゲート信号の場合分けが複雑化すると、全体で同じ構成が多数回用いられることにより実装上の負担を生じてしまう。
【0085】
しかし、このステートマシンにおいては第1回路出力電圧のステートvAで変数化している。第1回路出力電圧のステートvAの値と出力電圧値が一意に対応し、かつゼロ出力電圧となる2種類ゲート信号にどちらを対応させるかを後段のゲート決定部に任せるため予測・評価の構成が簡易化できる。
【0086】
以上のように、Hブリッジ回路では出力電圧を基準とするステートを定義することにより、ゲート信号を直接的に参照するよりも実装上有利な構成とすることができる。
【0087】
ただし、等価な運用が可能になることを考慮して本実施形態1のステート1とステート3についてステートの定義を入れ替えてもよいものとする。ステート2については(1,0,0,1)と(0,1,1,0)の遷移禁止のために第1回路出力電圧のステートvAの前回値との差が2であれば遷移禁止とするため、他のステートと入れ替えることはできない。
【0088】
第2回路出力電圧のステートvBについても第1回路出力電圧のステートvAと同様に出力電圧基準のステートを考慮する。また、時刻を参照する記号が付加されて時刻jの第1回路出力電圧のステートvA_jなどとなった場合でも本ステート定義と同様に扱うものとする。
【0089】
図6に本実施形態1のMPC5の構成図を示す。
【0090】
乗算器6は、指令吸引力制御電流iFrefを1/2倍する。加算器7は、指令バイアス電流ibiasに乗算器6の出力を加算し、第1回路指令電流iA_refとして出力する。減算器8は、指令バイアス電流ibiasから乗算器6の出力を減算し、第2回路指令電流iB_refとして出力する。
【0091】
電流変化推定部9Aは、第1電磁石巻線電流iA_out、第1回路前回電圧配列VA_zを入力する。電流変化推定部9Bは、第2電磁石巻線電流iB_out、第2回路前回電圧配列VB_zを入力する。電流変化推定部9A、9Bは時刻kの第1電磁石巻線電流iA_k、時刻kの第2電磁石巻線電流iB_kを出力する。
【0092】
MPC評価演算部10は、第1回路指令電流iA_ref、第2回路指令電流iB_ref、時刻kの第1電磁石巻線電流iA_k、時刻kの第2電磁石巻線電流iB_k、第1回路前回電圧配列VA_z、第2回路前回電圧配列VB_zを入力する。MPC評価演算部10は時刻kから予測演算考慮周期Ncまでの評価結果の最も優れた第1Hブリッジ回路、第2Hブリッジ回路の出力電圧に関するデータである時刻k+Nc第1位データ配列Dk+Nc_1を出力する。
【0093】
スイッチングパターン情報取出部11は、時刻k+Nc第1位データ配列Dk+Nc_1を入力する。スイッチングパターン情報取出部11は、時刻k+Nc第1位データ配列Dk+Nc_1の持つ情報から第1回路評価値最小電圧配列VA_Jmin、第2回路評価値最小電圧配列VB_Jminを出力する。第1回路評価値最小電圧配列VA_Jmin,第2回路評価値最小電圧配列VB_Jminはバッファ12A、12Bで制御周期1回分の遅延させた第1回路前回電圧配列VA_z、第2回路前回電圧配列VB_zとして電流変化推定部9A、9B、MPC評価演算部10に入力される。
【0094】
今回出力選択部13は、第1回路評価値最小電圧配列VA_Jmin,第2回路評価値最小電圧配列VB_Jminを入力として、第1回路今回出力電圧vA_out,第2回路今回出力電圧vB_outを出力する。
【0095】
ゲート決定部14A、14Bはそれぞれ第1回路今回出力電圧vA_out,第2回路今回出力電圧vB_outを入力として、ゲート信号gA,ゲート信号gBを出力する。
【0096】
まず、指令バイアス電流ibiasおよび指令吸引力制御電流iFrefに基づいて、第1回路指令電流iA_ref,第2回路指令電流iB_refを計算する。この適切な計算式は指令吸引力制御電流iFrefの定義にもよるが、本実施形態1では第1電磁石巻線電流と第2電磁石巻線電流の電流差分(iA_out-iB_out)を指令したものを指令吸引力制御電流iFrefと定義する。そのため、第1回路指令電流iA_refと第2回路指令電流iB_refは式(7),式(8)で与えられる。
【0097】
【数7】
【0098】
【数8】
【0099】
この計算を行って得られた第1回路指令電流iA_refと第2回路指令電流iB_refがMPC評価演算部10に入力される。
【0100】
次に、電流変化の推定について述べる。
【0101】
図7にMPC演算とサンプリング・出力の関係を示す。電流をサンプリングし、それにもとづいてMPC演算を行い、出力を決定する時系列の関係を表している。ここでは簡単化のためMPCにおいて出力電圧を3周期分決定する構成を図示している。
【0102】
図7に示しているように、MPC演算により複数周期の出力電圧を決定する関係上、サンプリング時刻からMPC演算で決定した出力電圧を実際に出力するまでの間に、前回に決定した出力電圧が出力される。この前回決定した出力電圧によってサンプリングした値は演算中に変化してしまう。予測演算に用いる電流がずれていると予測結果もずれてしまい、制御性能の低下につながる。これを防ぐために、前回出力電圧を出力する期間、言い換えればサンプリング時点から今回決定する出力電圧を実際に出力し始めるまでの期間について、電流変化を予測することが求められる。
【0103】
図8に本実施形態1のMPC5における時刻の定義を示す。簡単化のためMPC5において出力電圧を3周期分決定する構成で図示している。
【0104】
サンプリングした時刻から前回MPCで決定した出力電圧を出力する期間を経て、今回のMPC5で決定した出力電圧を出力する。このとき、今回MPC5の主たる役割は今回決定出力による電流変化の予測・評価である。このことから、本実施形態1では今回決定出力の出力開始タイミングを時刻kと定める。この定義のもとでは、サンプリング時刻は時刻k-3、今回決定出力の3番目の出力を完了する時刻が時刻k+3となる。
【0105】
本実施形態1のMPC5の構成では、周期数を一般化して、MPC5で決定する出力電圧の周期数を(出力電圧周期数)No[周期]とおく。すると、サンプリング時刻はk-No、今回決定出力のNo番目の出力を完了する時刻が時刻k+Noとなる。
【0106】
また、そのほかの周期に関する定義として予測演算で考慮する周期数を(予測演算考慮周期)Nc[周期]とおく。予測演算考慮周期Ncは必ずしも出力電圧周期数Noと一致せずともよく、例えばNc=10,No=2として10周期先まで電流予測を行い、そのうえで始めの2周期分だけを実際に出力することもできる。ただし、予測演算考慮周期Ncが出力電圧周期数Noよりも小さいと予測結果から出力電圧周期数No分の出力電圧を決定できないため、式(9)が制約となる。
【0107】
【数9】
【0108】
以上の時刻の定義をふまえて図6を見ると、第1電磁石巻線電流iA_out,第2電磁石巻線電流iB_outはMPC評価演算部10に直接入力されるのではなく電流変化推定部9A、9Bに入力されている。
【0109】
ここでは、サンプリングした値が演算中に変化することへの対策として、今回決定出力の出力開始である時刻kまでの電流変化を推定している。この際、前回電圧の情報が必要となるため、第1回路前回電圧配列VA_z、第2回路前回電圧配列VB_zも電流変化推定部9A、9Bに入力されている。また、電流変化推定部9A、9Bの出力は、時刻kの第1電磁石巻線電流iA_k、時刻kの第2電磁石巻線電流iB_kである。
【0110】
なお、第1回路前回電圧配列VA_zなどの電圧配列は予測演算考慮周期Nc分の電圧ステート情報を持つ配列である。これは、式(10)で定義される。一般化のために前回値を示すzを省略したが、zを含んでも各要素がvA_z1,vA_z2などとzが付加されるだけで同様である。第2Hブリッジ回路3Bの電圧についてもAとBを変えるのみで同様である。
【0111】
【数10】
【0112】
MPC評価演算部10には第1回路指令電流iA_ref,第2回路指令電流iB_refと予測・評価開始タイミングの電流である時刻kの第1電磁石巻線電流iA_k,時刻kの第2電磁石巻線電流iB_kが入力される。
【0113】
これらを用いて、MPC評価演算部10では先の周期の出力電圧パターンごとの電流変化を予測し、評価関数にて評価を行う。時刻kから予測演算考慮周期Ncまでの最も評価結果の良い第1回路、第2回路の出力電圧に関するデータを時刻k+Nc第1位データ配列Dk+Nc_1として出力する。また、第1回路前回電圧配列VA_z,第2回路前回電圧配列VB_zもMPC評価演算部10に入力されるが、これはデッドタイム中の電圧を推定する際に使用する。
【0114】
図9にゲート決定部14の構成を示す。これは、図6のゲート決定部14A、14Bの内部を示したものである。本構成は入出力信号の変更のみの違いで複数個所に設けられているため、ここでは一般化のために第1回路,第2回路の区別をなくした入出力名としている。実施時の入出力信号名は図6に準じる。例えば、v_outをvA_out、gをgAに置き換えて運用する。
【0115】
比較器NEQ1は、今回出力電圧(ステート)v_outと定数2を入力し、今回出力電圧(ステート)v_outが定数2と等しくない場合は1を出力し、それ以外の場合は0を出力する。比較器NEQ2は、今回出力電圧(ステート)v_outと、今回出力電圧(ステート)v_outをバッファ15で制御周期1回分遅延させた信号を入力し、今回出力電圧(ステート)v_outがバッファ15の出力と等しくない場合は1を出力し、それ以外の場合は0を出力する。
【0116】
AND論理AND1は比較器NEQ1、NEQ2の出力を入力し、両方1の場合は1を出力し、それ以外の場合は0を出力する。
【0117】
セレクタSW1は、セレクタSW1の出力VH0_selをバッファ16で制御周期1回分遅延させた信号と、バッファ16の出力信号をNOT論理NOT1に通した信号と、を入力する。また、セレクタSW1はAND論理AND1の出力信号を選択信号in1として入力し、選択信号in1=0の場合はバッファ16の出力を出力し、選択信号in1=1の場合はNOT論理NOT1の出力信号を出力する。セレクタSW1の出力はVH0_selとなる。
【0118】
セレクタSW2はHブリッジ回路のゲート信号組み合わせ(1,0,1,0)および(0,1,0,1)を入力する。また、セレクタSW2はセレクタSW1の出力VH0_selを選択信号in2として入力し、選択信号in2=0の場合は(1,0,1,0)を出力し、選択信号in2=1の場合は(0,1,0,1)を出力する。
【0119】
セレクタSW3は、セレクタSW2の出力およびHブリッジ回路のゲート信号組み合わせ(1,0,0,1)および(0,1,1,0)を入力する。また、セレクタSW3は、今回出力電圧(ステート)v_outを選択信号in3として入力し、選択信号in3=1の場合(1,0,0,1)を出力し、選択信号in3=2の場合セレクタSW2の出力信号を出力し、選択信号in3=3の場合(0,1,1,0)を出力する。セレクタSW3の出力はデッドタイム挿入前ゲート信号g’とする。
【0120】
デッドタイム17はデッドタイム挿入前ゲート信号g’を入力して、ゲート信号gを出力する。以上がゲート決定部14の構成である。
【0121】
図10に電流変化推定部9を示す。これは、図6の電流変化推定部9A、9Bの内部を示したものである。図9と同様、ここでは一般化のために第1回路,第2回路の区別をなくした入出力名としている。
【0122】
前回電圧配列V_zは内部にもつそれぞれの周期の出力電圧(v_z1,v_z2,…,v_zNo)に分けて扱われる。ただし、前回電圧配列V_zは予測演算考慮周期Nc個の信号をもつが、Nc>Noの場合はv_zNo+1,…,v_zNcを不使用とする。
【0123】
まず、第1電流推定演算部19aは、出力電流i_outと、前回1番目出力電圧v_z1と、前回No番目出力電圧v_zNoをバッファ18で制御周期1回分遅延させた結果である前々回No番目出力電圧v_zzNoを入力する。この第1電流推定演算部19aは時刻k-No+1の出力電流i_k-No+1を出力する。
【0124】
次に、第2電流推定演算部19bは、時刻k-No+1の出力電流i_k-No+1と前回1番目出力電圧v_z1と前回2番目出力電圧v_z2が入力され、時刻k-No+2の出力電流i_k-No+2を出力する。
【0125】
次に、第3電流推定演算部19cは、時刻k-No+2の出力電流i_k-No+2と前回2番目出力電圧v_z2と前回3番目出力電圧v_z3が入力され、時刻k-No+3の出力電流i_k-No+3を出力する。
【0126】
この構成を繰り返して、最後、第No電流推定演算部19Noは、時刻k-1の出力電流i_k-1と前回No-1番目出力電圧v_zNo-1と前回No番目出力電圧v_zNoが入力され、時刻kの出力電流i_kを得る。時刻kの出力電流i_kは電流変化推定部9の出力となる。
【0127】
1周期先の電流を推定する第1~第No電流推定演算部19a~19Noを用いて、前回決定した出力電圧の各周期について出力電流の推定を行う。この演算を後述する式(14)の時刻j+1が時刻kとなるまで繰り返し、時刻kの出力電流i_kを得ている。
【0128】
一般(任意)の時刻jを考えるとき、電流推定演算部19は時刻jの出力電流i_jと時刻jの出力電圧v_jから時刻j+1の出力電流i_j+1を演算する。だが、デッドタイム中の電圧を推定する都合上、1周期前の出力電圧v_j-1も必要になる。そのため、各周期の電流推定演算部19にはその周期の電圧以外に1周期前の電圧も入力されている。1周期目については1周期前の電圧をNo周期目の出力電圧v_zNoを1回遅延させた前々回No番目出力電圧v_zzNoを用いる。
【0129】
図11に電流推定演算部19を示す。これは、図10の第1~第No電流推定演算部19a~19Noの内部を示したものである。図9と同様、ここでは一般化のために第1回路,第2回路の区別をなくし、時刻についても一般(任意)の時刻jを基準とする入出力名としている。
【0130】
デッドタイム電圧推定部20は時刻jの出力電流i_jと時刻j-1の出力電圧v_j-1と時刻jの出力電圧v_jを入力し、デッドタイム中出力電圧VH_dを出力する。
【0131】
セレクタSW4は、正の直流電源電圧VH_in,0,負の直流電源電圧-VH_inを入力する。また、セレクタSW4は選択信号in4として時刻jの出力電圧v_jを入力し、選択信号in4=1の場合は正の直流電源電圧VH_in,選択信号in4=2の場合は0,選択信号in4=3の場合は負の直流電源電圧-VH_inを出力する。
【0132】
乗算器21は、デッドタイム中出力電圧VH_dにTdead/Tcを乗算する。乗算器22は、セレクタSW4の出力に(1-Tdead)/Tcを乗算する。加算器23は、乗算器21の出力と乗算器22の出力を加算する。
【0133】
乗算器24は、時刻jの出力電流i_jに-R_loadを乗算する。加算器25は、加算器23の出力に乗算器24の出力を加算する。乗算器26は、加算器25の出力にTc/L_loadを乗算する。乗算器26の出力は1周期の電流変化量Delta_iとなる。加算器27は、時刻jの出力電流i_jと1周期の電流変化量Delta_iを加算して、時刻j+1の出力電流i_j+1として出力する。
【0134】
この構成により1周期先の電流を推定する。電磁石巻線に接続したHブリッジ回路の1周期先の電流を求める数式は式(11)、式(12)となる。ただし、L_loadは巻線インダクタンス[H]、R_loadは巻線抵抗[Ω]、Tcは出力電圧切替周期[s]、VH_outはHブリッジ回路が出力電圧切替周期Tc間に負荷端子間に与える平均出力電圧[V]である。
【0135】
【数11】
【0136】
【数12】
【0137】
平均出力電圧VH_outについては、時刻jの出力電圧のステートに対応したHブリッジ回路の出力電圧をVH_j、デッドタイム中出力電圧をVH_dとすると、式(13)で定められる。ただし、Tdeadはデッドタイム[s]である。
【0138】
【数13】
【0139】
式(12)、式(13)を式(11)に代入して式(14)を得る。
【0140】
【数14】
【0141】
図11のブロック図では式(14)の計算を行っている。
【0142】
時刻jの出力電圧VH_jについては、時刻jの出力電圧v_jの定義より式(15)で定められる。図11ではセレクタSW4により式(15)に相当する動作を行っている。
【0143】
【数15】
【0144】
図12にデッドタイム電圧推定部20を示す。これは、図11のデッドタイム電圧推定部20の内部を示したものである。図9と同様、ここでは一般化のために第1回路,第2回路の区別をなくし、時刻についても一般(任意)の時刻jを基準とする入出力名としている。
【0145】
比較器GRT1は、時刻jの出力電流i_jとデッドタイム判定電流i_deadを入力し、時刻jの出力電流i_jがデッドタイム判定電流i_deadよりも大きければ1を出力し、それ以外の場合は0を出力する。
【0146】
比較器LES2は、時刻jの出力電流i_jとデッドタイム判定電流-i_deadを入力し、時刻jの出力電流i_jがデッドタイム判定電流-i_deadよりも小さければ1を出力し、それ以外の場合は0を出力する。
【0147】
減算器28は、時刻jの出力電圧(ステート)v_jから時刻j-1の出力電圧(ステート)v_j-1を減算する。
【0148】
比較器EQ1は、減算器28の出力と定数-1を入力し、減算器28の出力が定数-1と同じであれば1を出力し、それ以外の場合は0を出力する。比較器EQ2は、減算器28の出力と定数1を入力し、減算器28の出力が定数1と同じであれば1を出力し、それ以外の場合は0を出力する。
【0149】
AND論理AND2は、比較器EQ1、GRT1の出力を入力し、両方1の場合は1を出力し、それ以外の場合は0を出力する。AND論理AND3は、比較器EQ2、LES2の出力を入力し、両方1の場合は1を出力し、それ以外の場合は0を出力する。
【0150】
OR論理OR1は、AND論理AND2、AND3の出力を入力し、少なくとも何れか一方が1の場合は1を出力し、両方0の場合は0を出力する。
【0151】
セレクタSW5は、時刻jの出力電圧(ステート)v_jと時刻j-1の出力電圧(ステート)v_j-1を入力する。また、セレクタSW5は、OR論理OR1の出力信号を選択信号in5として入力し、選択信号in5=0であれば時刻jの出力電圧(ステート)v_jを出力し、選択信号in5=1であれば時刻j-1の出力電圧(ステート)v_j-1を出力する。
【0152】
セレクタSW6は、正の直流電源電圧VH_in,0,負の直流電源電圧-VH_inを入力する。また、セレクタSW6は、セレクタSW5の出力を選択信号in6として入力し、選択信号in6=1の場合は正の直流電源電圧VH_inを出力し、選択信号in6=2の場合は0を出力し、選択信号in6=3の場合は負の直流電源電圧-VH_inを出力する。セレクタSW6の出力はデッドタイム中出力電圧VH_dとしてデッドタイム電圧推定部20の出力となる。
【0153】
この構成によりデッドタイム期間中の出力電圧を推定する。
【0154】
ただし、本実施形態1において比較器EQ,NEQ,GRT,LESのブロックは図中上側の入力を第1入力Lin1、下側の入力を第2入力Lin2として扱い、以下の式(16)~式(19)で出力Loutが定められるものとする。式(16)は比較器EQ、式(17)は比較器NEQ、式(18)は比較器GRT、式(19)は比較器LESを表す。
【0155】
【数16】
【0156】
【数17】
【0157】
【数18】
【0158】
【数19】
【0159】
なお、AND論理AND2,AND3とOR論理OR1については通常の論理回路記号と同じ扱いとする。
【0160】
また、本実施形態1において論理回路出力は論理型の変数ではなく必要に応じて整数型と同じように加減算可能な変数として扱う。型が異なるような処理を行う場合は、実装上必要な型変換処理がなされているものとする。
【0161】
以下では第1Hブリッジ回路3Aのデッドタイム期間中の出力電圧を考えるが、第2Hブリッジ回路3Bについても同様のことが成り立つものとする。
【0162】
図13にデッドタイム期間中の電流経路と出力電圧を示す。(1,0,0,1)から(0,1,0,1)へとゲート信号を遷移する場合、スイッチング素子SA1とスイッチング素子SA2の短絡を防ぐためにスイッチング素子SA1とスイッチング素子SA2の両者がOFFの期間(デッドタイム)を設ける。ここでは、デッドタイム期間(0,0,0,1)の電流経路と出力電圧を示している。
【0163】
スイッチング素子SA1とスイッチング素子SA2がOFFであるが、このとき第1電磁石巻線電流iA_outの向きからスイッチング素子SA2のダイオード経路を通って電流が流れる。その結果スイッチング素子SA2とスイッチング素子SA4を通る経路で電流が流れるため、第1Hブリッジ回路出力電圧VH_Aはゼロ電圧となる。
【0164】
そのほかの遷移の組み合わせについても、同様にデッドタイム期間中の電圧を考える。表1は、各ゲート信号遷移とデッドタイム期間中の電圧を示す。
【0165】
【表1】
【0166】
第1電磁石巻線電流iA_outは本実施形態1では正であるとしたが、Hブリッジ回路の一般的な動作として第1電磁石巻線電流iA_outが負の場合も想定して記載した。
【0167】
これを本実施形態1の出力電圧基準のステートに当てはめて、表を簡略化する。
表2は、各ステート遷移とデッドタイム期間中の電圧を示す。
【0168】
【表2】
【0169】
ステート2についてはどちらのゲート信号としてもデッドタイム期間中の出力電圧が同じであるので場合分けが減少する。
【0170】
この表2にはデッドタイム期間中の出力電圧の隣にデッドタイム終了後の出力電圧も記載した。デッドタイム終了後の電圧、つまり遷移後のステートの出力電圧をデッドタイム中の出力電圧と比べることで、デッドタイムの有無が出力電圧に影響する場合と、影響しない場合がわかる。
【0171】
表2の1行目のステート1からステート2への遷移はデッドタイム期間中の出力電圧がデッドタイム終了後の出力電圧と一致しており、出力電圧はデッドタイムの影響を受けていない。このような場合はデッドタイム期間中も遷移後のステートであるものとして計算して構わない。
【0172】
表2の2行目のステート2からステート1への遷移はデッドタイム期間中の出力電圧がデッドタイム終了後の出力電圧と異なる。このときのデッドタイム期間中の出力電圧は遷移前のステートの出力電圧と同じになっている。このような場合、デッドタイム期間中は遷移前のステートであるものとして計算する。
【0173】
その他の行についても同様に考えると、以下の条件でデッドタイム期間中の出力電圧を決定できる。
・iA_out>0ならば、ステートの値が前回値より1つ減少する遷移にて、デッドタイム期間中は遷移前のステートとなる。逆に、前回値より1つ増加する遷移にてデッドタイム期間中は遷移後のステートとなる。
・iA_out<0ならば、ステートの値が前回値より1つ増加する遷移にて、デッドタイム期間中は遷移前のステートとなる。逆に、前回値より1つ減少する遷移にてデッドタイム期間中は遷移後のステートとなる。
【0174】
図12でこの性質をふまえてデッドタイム期間中の出力電圧を推定している。時刻jの出力電圧(ステート)v_jから時刻j-1の出力電圧(ステート)v_j-1を減算し、その結果を比較器EQ1,EQ2に入力している。
【0175】
比較器EQ1は-1との一致を見ており、AND論理AND2において第1電磁石巻線電流iA_outが正でデッドタイム期間中が遷移前のステートとなる場合を判別している。比較器EQ2は1との一致を見ており、AND論理AND3において第1電磁石巻線電流iA_outが負でデッドタイム期間中が遷移前のステートとなる場合を判別している。
【0176】
ここで、電流の正負は比較器GRT1および比較器LES2で評価している。i_deadはデッドタイム判定電流である。理想的にはi_dead=0で判定可能だが、デッドタイム判定電流i_deadに定格電流(連続運転可能な電流のうち最大値)の数%~0.数%の正の値を代入すれば電流ゼロ付近での極性判定ミスによる電圧誤差増大を防ぐことができる。
【0177】
AND論理AND2またはAND論理AND3が1となる場合はデッドタイム期間中が遷移前のステートとなる。OR論理OR1が1である場合はセレクタSW5にて遷移前である時刻j-1の出力電圧(ステート)v_j-1を、0であれば遷移後である時刻jの出力電圧(ステート)v_jを出力することでデッドタイム期間中の出力電圧として適切なステートが選択される。
【0178】
セレクタSW6は図11のセレクタSW4と同様に式(15)に相当する動作を行い、ステートに対応した出力電圧値を出力している。
【0179】
以上の動作でデッドタイム期間中の出力電圧を推定することができる。
【0180】
図14にMPC評価演算部10を示す。これは、図6のMPC評価演算部10の内部を示したものである。
【0181】
入力信号である第1回路指令電流iA_ref、第2回路指令電流iB_ref、時刻kの第1電磁石巻線電流iA_k、時刻kの第2電磁石巻線電流iB_k、第1回路前回電圧配列VA_z、第2回路前回電圧配列VB_z、およびゼロを代入した時刻k評価関数値J_kをまとめて時刻kデータ配列Dkとする。
【0182】
1周期分予測評価部291は、時刻kデータ配列Dkを入力し、時刻k+1パターン1データ配列D’k+1_1、時刻k+1パターン2データ配列D’k+1_2、…、時刻k+1パターン9データ配列D’k+1_9を出力する。
【0183】
9入力Ns出力のソート選定部301は、時刻k+1パターン1データ配列D’k+1_1~時刻k+1パターン9データ配列D’k+1_9を入力し、時刻k+1第1位データ配列Dk+1_1、時刻k+1第2位データ配列Dk+1_2、…、時刻k+1第Ns位データ配列Dk+1_Nsを出力する。
【0184】
1周期分予測評価部2921は、時刻k+1第1位データ配列Dk+1_1を入力し、時刻k+2前回第1位パターン1データ配列D’k+2_11、…、時刻k+2前回第1位パターン9データ配列D’k+2_19を出力する。
【0185】
また、1周期分予測評価部2922~292Nsも、時刻k+1第2位データ配列Dk+1_2~時刻k+1第Ns位データ配列Dk+1_Nsを入力し、時刻k+2前回第2位パターン1データ配列D’k+2_21~時刻k+2前回第Ns位パターン9データ配列D’k+2_Ns9を出力する。
【0186】
9Ns入力Ns出力のソート選定部302は、時刻k+2前回第1位パターン1データ配列D’k+2_11~時刻k+2前回第Ns位パターン9データ配列D’k+2_Ns9を入力し、時刻k+2第1位データ配列Dk+2_1、時刻k+2第2位データ配列Dk+2_2、…、時刻k+2第Ns位データ配列Dk+2_Nsを出力する。
【0187】
以降についても同様に演算し、最後、時刻k+Nc前回第1位パターン1データ配列D’k+Nc_11~時刻k+Nc前回第Ns位パターン9データ配列D’k+Nc_Ns9を9Ns入力Ns出力のソート選定部30Ncに入力し、時刻k+Nc第1位データ配列Dk+Nc_1のみをMPC評価演算部10の出力とする。
【0188】
MPC評価演算部10では、1周期の出力電圧のパターンごとの電流変化を予測・評価し、評価結果の良い結果を選択する。1周期の予測評価を行うたびにソートと選定を行い、評価結果の良いNs個のデータを出力する。Nsは評価結果選定数である。
【0189】
そして、そのNs個の出力ごとにまた次の1周期の予測・評価を行う。この1周期分の出力電圧のパターンごとの電流変化の予測・評価とその評価結果のソート・選定を繰り返して予測演算考慮周期Nc周期先まで予測・評価を行い、最も評価結果の優れた第1Hブリッジ回路、第2Hブリッジ回路の出力電圧に関するデータを時刻k+Nc第1位データ配列Dk+Nc_1として得る。
【0190】
時刻kデータ配列Dkについて、本実施形態1ではMPC評価演算の表記を簡略化するために予測・評価・ソートに必要な情報を時刻kデータ配列Dkとしてまとめている。時刻kデータ配列Dkは式(20)で定義される。
【0191】
【数20】
【0192】
ソート選定部30の必要性について述べる。MPCにおいては、予測演算考慮周期Nc先までの出力電圧に関するすべての組み合わせを予測評価して最も良い結果を確認するのが理想的である。しかし、後述のように出力電圧は1周期につき9パターンが存在するため9Ncで組み合わせの個数が増加してしまい、演算実装上の負荷が許容できないものとなってしまう。
【0193】
そこで1周期演算するごとに評価関数値に応じてデータ配列をソートし、評価関数のある程度良いNs個だけを選定して次の周期の評価を行っている。これにより、組み合わせ数を{1+(Nc-1)Ns}9個に減少できる。
【0194】
図15に1周期分予測評価部29を示す。これは、図14の1周期分予測評価部291、2921~292Ns、2931~293Nsの内部を示したものである。入出力名について、ここでは一般化のために時刻について一般(任意)の時刻jを基準としており、データ配列のソート順位を示す記号もaとおいている。なお、時刻kから時刻k+1を演算する場合はソート順位aに相当する部分を持たないが、これについてはソート順位aを適宜省略して考えることとする。
【0195】
時刻j第a位データ配列Dj_aは内部にもつ時刻jの第1回路電圧配列VA_j、時刻jの第2回路電圧配列VB_j、第1回路指令電流iA_ref、第2回路指令電流iB_ref、時刻jの第1回路出力電流iA_j、時刻jの第2回路出力電流iB_j、時刻jの評価関数値J_jに分けて扱われる。これらは各パターン評価部31a1~31a9に入力される。
【0196】
各パターン評価部31a1~31a9は上述した入力のほかに時刻j+1の出力電圧に関する信号を入力する。図中最も上部に位置する各パターン評価部31a1には、時刻j+1パターン1第1回路出力電圧(ステート)vA_j+1_1、時刻j+1パターン1第2回路出力電圧(ステート)vB_j+1_1が入力される。
【0197】
ここで、パターンの定義に則り、時刻j+1パターン1第1回路出力電圧(ステート)vA_j+1_1には1、時刻j+1パターン1第2回路出力電圧(ステート)vB_j+1_1には1が代入される。この各パターン評価部31a1の出力は時刻j+1前回第a位パターン1データ配列D’j+1_a1となる。
【0198】
図中上から2番目に位置する各パターン評価部31a2には、時刻j+1パターン2第1回路出力電圧(ステート)vA_j+1_2、時刻j+1パターン2第2回路出力電圧(ステート)vB_j+1_2が入力される。ここで、パターンの定義に則り、時刻j+1パターン2第1回路出力電圧(ステート)vA_j+1_2には1、時刻j+1パターン2第2回路出力電圧(ステート)vB_j+1_2には2が代入される。この各パターン評価部31a2の出力は時刻j+1前回第a位パターン2データ配列D’j+1_a2となる。
【0199】
以下同様に構成し、図中最も下部に位置する各パターン評価部31a9には、時刻j+1パターン9第1回路出力電圧(ステート)vA_j+1_9、時刻j+1パターン9第2回路出力電圧(ステート)vB_j+1_9が入力される。ここで、パターンの定義に則り、時刻j+1パターン9第1回路出力電圧(ステート)vA_j+1_9には3、時刻j+1パターン9第2回路出力電圧(ステート)vB_j+1_9には3が代入される。この各パターン評価部31a9の出力は時刻j+1前回第a位パターン9データ配列D’j+1_a9となる。
【0200】
時刻j+1前回第a位パターン1データ配列D’j+1_a1~時刻j+1前回第a位パターン9データ配列D’j+1_a9が1周期分予測評価部29の出力となる。
【0201】
ここでは、入力された時刻j第a位データ配列Dj_aから時刻j+1の各パターンのデータ配列D’j+1_a1,D’j+1_a2~D’j+1_a9を算出する。各パターン評価部31a1~31a9には入力された時刻j第a位データ配列Dj_aから得られる信号のほかに、時刻j+1の電圧として時刻j+1パターン1第1回路電圧vA_j+1_1,時刻j+1パターン1第2回路電圧vB_j+1_1などの出力電圧ステートを入力する。
【0202】
時刻j+1の電圧の値は9つの各パターン評価部31a1~31a9それぞれで異なっており、これにより、1周期先に関してあり得る9つのパターンの出力電圧およびそのときの電流を評価することができる。表3に電圧パターンと出力電圧ステートの定義を示す。
【0203】
【表3】
【0204】
表3に示すように、第1回路出力電圧vA,第2回路出力電圧vBにそれぞれ3つのステートが存在するためパターンは9種類存在する。この表3では第1回路出力電圧vA,第2回路出力電圧vBの組み合わせごとのパターン番号を定義している。1周期分予測評価部29の9つの各パターン評価部31a1~31a9における時刻j+1パターンx第1回路出力電圧(ステート)vA_j+1_x,時刻j+1パターンx第2回路出力電圧(ステート)vB_j+1_xはこの表3に基づいて入力値が定められるものとする。
【0205】
図16に各パターン評価部31を示す。これは、図15の各パターン評価部31a1~31a9の内部を示したものである。入出力名について、ここでは一般化のために時刻について一般(任意)の時刻jを基準としている。また、出力のデータ配列についてソート順位を示す記号(図15で言うとaに相当する記号)は省略している。
【0206】
電流推定演算部32aには時刻jの第1回路出力電流iA_j、時刻jの第1回路出力電圧(ステート)vA_j、時刻j+1の第1回路出力電圧(ステート)vA_j+1が入力され、時刻j+1の第1回路出力電流iA_j+1が出力される。
【0207】
電流推定演算部32bには時刻jの第2回路出力電流iB_j、時刻jの第2回路出力電圧(ステート)vB_j、時刻j+1の第2回路出力電圧(ステート)vB_j+1が入力され、時刻j+1の第2回路出力電流iB_j+1が出力される。
【0208】
このとき、時刻jの第1回路出力電圧(ステート)vA_j,時刻jの第2回路出力電圧(ステート)vB_jについては、j番目選択部33a、33bで時刻jの第1回路電圧配列VA_j、時刻jの第2回路電圧配列VB_jからj番目の情報を取り出すことによって得たものである。
【0209】
また、これらの電流推定演算部32a、32bは前述の図11に示した電流推定演算部19の構成と同一である。
【0210】
評価演算部34a1には第1回路指令電流iA_ref、および、時刻j+1の第1回路出力電流iA_j+1が入力され、時刻j+1の第1回路電流評価値JiA_j+1を出力する。また、評価演算部34a2には時刻jの第1回路出力電圧(ステート)vA_jと時刻j+1の第1回路出力電圧(ステート)vA_j+1が入力され、時刻j+1の第1回路電圧評価値JvA_j+1を出力する。
【0211】
評価演算部34b1には第2回路指令電流iB_refと時刻j+1の第2回路出力電流iB_j+1が入力され、時刻j+1の第2回路電流評価値JiB_j+1を出力する。また、評価演算部34b2には時刻jの第2回路出力電圧(ステート)vB_jと時刻j+1の第2回路出力電圧(ステート)vB_j+1が入力され、時刻j+1の第2回路電圧評価値JvB_j+1を出力する。
【0212】
減算器35aは、第1回路指令電流iA_refから第2回路指令電流iB_refを減算して指令電流差分iA-B_refを出力する。減算器35bは、時刻j+1の第1回路出力電流iA_j+1から時刻j+1の第2回路出力電流iB_j+1を減算して時刻j+1の出力電流差分iA-B_j+1を出力する。
【0213】
そして、評価演算部34fには、指令電流差分iA-B_refと、時刻j+1の出力電流差分iA-B_j+1が入力され、時刻j+1の電流差分評価値JiF_j+1が出力される。
【0214】
加算器36で、時刻j+1の第1回路電流評価値JiA_j+1,時刻j+1の第1回路電圧評価値JvA_j+1,時刻j+1の第2回路電流評価値JiB_j+1,時刻j+1の第2回路電圧評価値JvB_j+1,時刻j+1の電流差分評価値JiF_j+1および時刻jの評価関数値J_jが加算され、時刻j+1の評価関数値J_j+1となる。
【0215】
電圧パターン記録部37aは、時刻jの第1回路電圧配列VA_jと時刻j+1の第1回路出力電圧vA_j+1を入力し、時刻j+1の第1回路電圧配列VA_j+1を出力する。電圧パターン記録部37bも同様で、時刻jの第2回路電圧配列VB_jと時刻j+1の第2回路出力電圧vB_j+1を入力し、時刻j+1の第2回路電圧配列VB_j+1を出力する。
【0216】
時刻j+1の第1回路電圧配列VA_j+1,時刻j+1の第2回路電圧配列VB_j+1,第1回路指令電流iA_ref,第2回路指令電流iB_ref,時刻j+1の第1回路出力電流iA_j+1,時刻j+1の第2回路出力電流iB_j+1,時刻j+1の評価関数値J_j+1の信号はまとめられ、時刻j+1のデータ配列D’j+1として各パターン評価部31の出力となる。
【0217】
ここでは、1周期先の電流を推定して、電流および電圧の評価関数値を計算する。また、評価関数を1周期先の電圧値と推定した電流値とともに時刻j+1のデータ配列D’j+1としてまとめて出力する。
【0218】
各パターン評価部31の電流推定演算部32aは、前述の電流変化推定部9に存在する電流推定演算部19と同一の構成である。したがって、時刻jの第1回路出力電流iA_jと時刻j+1の第1回路出力電圧vA_j+1から時刻j+1の第1回路出力電流iA_j+1を推定している。このとき、デッドタイム期間中の出力電圧を推定するために時刻jの第1回路電圧配列VA_jから時刻jの第1回路出力電圧vA_jを取り出して電流推定演算部32aに入力している。電流推定演算部32bについても同様である。
【0219】
時刻j+1の第1回路出力電圧vA_j+1と時刻j+1の第2回路出力電圧vB_j+1についてはそれぞれ時刻jの第1回路電圧配列VA_jと時刻jの第2回路電圧配列VB_jとともに電圧パターン記録部37a、37bに入力され時刻jの第1回路電圧配列VA_j,時刻jの第2回路電圧配列VB_jのj+1番目に時刻j+1の第1回路出力電圧vA_j+1,時刻j+1の第2回路出力電圧vB_j+1が代入されて時刻j+1の第1回路電圧配列VA_j+1,時刻j+1の第2回路電圧配列VB_j+1が出力される。
【0220】
評価演算部において、評価演算部34a1には第1回路指令電流iA_refと時刻j+1の第1回路出力電流iA_j+1が入力され、電流値に関する評価が行われ、時刻j+1の第1回路電流評価値JiA_j+1が出力される。
【0221】
評価演算部34a2には時刻jの第1回路出力電圧vA_jと時刻j+1の第1回路出力電圧vA_j+1が入力され、出力電圧に関する評価が行われ、時刻j+1の第1回路電圧評価値JvA_j+1が出力される。
【0222】
第2Hブリッジ回路3Bについても評価演算部34b1と評価演算部34b2については同様の演算が行われ、時刻j+1の第2回路電流評価値JiB_j+1,時刻j+1の第2回路電圧評価値JvB_j+1が得られる。
【0223】
評価演算部34fについては、指令電流差分iA-B_refおよび推定した時刻j+1の出力電流差分iA-B_j+1が入力される。ここでは、磁気浮上系のMPC特有の評価として電流差分の評価を行い、時刻j+1の電流差分評価値JiF_j+1が得られる。
【0224】
これら時刻j+1の第1回路電流評価値JiA_j+1,時刻j+1の第1回路電圧評価値JvA_j+1,時刻j+1の第2回路電流評価値JiB_j+1,時刻j+1の第2回路電圧評価値JvB_j+1,時刻j+1の電流差分評価値JiF_j+1と時刻jの評価関数値J_jを加算することで、時刻j+1の評価関数値J_j+1が得られる。
【0225】
これはすなわち、時刻j+1までの電流、電圧に関する評価結果の累計値を得たことになる。ただし、ここで多数の結果を加算するが、オーバーフローなどで最大値付近の評価値が急に最小値に減少するといったことがないように処理されるものとする。
【0226】
図17に本実施形態1の評価演算部341、342、34fを示す。これは、図16の評価演算部34a1、34b1、評価演算部34a2、34b2、評価演算部34fの内部を示したものである。入出力名について、ここでは一般化のために時刻について一般(任意)の時刻jを基準としている。また、評価演算部341と評価演算部342については第1回路,第2回路の区別をなくした形で記載した。
【0227】
評価演算部341では、減算器38で、時刻jの出力電流i_jから時刻jの指令電流i_refを減算する。2入力乗算器39は、減算器38の出力の2乗を出力する。乗算器40は、2入力乗算器39の出力に電流評価ゲインG_Jiを乗算する。
【0228】
絶対値演算部41は、減算器38の出力の絶対値を出力する。比較器GRT2は絶対値演算部41の出力と電流偏差許容値i_abs_refを入力し、絶対値演算部41の出力が電流偏差許容値i_abs_refよりも大きければ1を出力し、それ以外の場合は0を出力する。
【0229】
セレクタSW7は、定数0と偏差罰則ゲインG_Jiabsを入力する。また、セレクタSW7は、比較器GRT2の出力を選択信号in7として入力し、選択信号in7=0であれば定数0を出力し、選択信号in7=1であれば偏差罰則ゲインG_Jiabsを出力する。
【0230】
加算器42は、乗算器40の出力とセレクタSW7の出力を加算し、時刻jの電流評価値Ji_jを出力する。以上が、評価演算部341である。
【0231】
評価演算部342では、減算器43で、時刻jの出力電圧(ステート)v_jから時刻j+1の出力電圧(ステート)v_j+1を減算する。絶対値演算部44は、減算器43の出力の絶対値を出力する。
【0232】
比較器GRT3は、絶対値演算部44の出力と定数1を入力し、絶対値演算部44の出力が定数1よりも大きければ1を出力し、それ以外の場合は定数0を出力する。比較器GRT4は、絶対値演算部44の出力と定数0を入力し、絶対値演算部44の出力が定数0よりも大きければ1を出力し、それ以外の場合は定数0を出力する。加算器45は、比較器GRT3の出力と比較器GRT4の出力を加算する。
【0233】
セレクタSW8は、定数0、電圧評価ゲインG_Jv、禁止遷移罰則ゲインG_JNGを入力する。また、セレクタSW8は加算器45の出力を選択信号in8として入力し、選択信号in8=0の場合は定数0を出力し、選択信号in8=1の場合は電圧評価ゲインG_Jvを出力し、選択信号in8=2の場合は禁止遷移罰則ゲインG_JNGを出力する。この出力が時刻jの電圧評価値Jv_jである。以上が、評価演算部342である。
【0234】
評価演算部34fでは、減算器46で、時刻jの出力電流差分iA-B_jから時刻jの指令電流差分iA-B_refを減算する。2入力乗算器47は、減算器46の出力の2乗を出力する。乗算器48は、2入力乗算器47の出力に電流差分評価ゲインG_JiFを乗算する。
【0235】
絶対値演算部49は、減算器46の出力の絶対値を出力する。比較器GRT5は絶対値演算部49の出力と電流差分偏差許容値iF_abs_refを入力し、絶対値演算部49の出力が電流差分偏差許容値iF_abs_refよりも大きい場合は1を出力し、それ以外の場合は0を出力する。
【0236】
セレクタSW9は、定数0と差分偏差罰則ゲインG_JiFabsを入力する。また、セレクタSW9は、比較器GRT5の出力を選択信号in9として入力し、選択信号in9=0の場合は定数0を出力し、選択信号in9=1の場合は差分偏差罰則ゲインG_JiFabsを出力する。
【0237】
加算器50は、乗算器48の出力とセレクタSW9の出力を加算し、時刻jの電流差分評価値JiF_jを出力する。
【0238】
ここでは、電流値および電圧値の評価計算を示している。評価関数は評価結果値が大きいほど、悪い評価結果であるものとして定義する。
【0239】
評価演算部341について、電流の評価は式(21),式(22)の計算によって行う。ただし、SW7outはセレクタSW7の出力値である。
【0240】
【数21】
【0241】
【数22】
【0242】
式(21)の電流評価ゲインG_Jiの項は出力電流値が指令から離れるほど2乗で増大する。これにより、推定電流値が指令に近い結果ほど評価関数値が小さくなり、電流が指令に近づいていく出力電圧が優先的に出力されるようになる。
【0243】
また、偏差罰則ゲインG_Jiabsの項は出力電流値と指令の差が電流偏差許容値i_abs_refを超えた場合に偏差罰則ゲインG_Jiabsとなり、超えない場合はゼロである。この項により、全体として電流の指令への一致度が高いものの、瞬時的に指令値から乖離してしまうような出力電流を禁止する。
【0244】
評価演算部342について、出力電圧の評価は式(23)の計算によって行う。
【0245】
【数23】
【0246】
式(23)では、出力電圧のステートが変化しない場合にゼロを、ステートが1変化した場合、つまり、正常に遷移した場合に電圧評価ゲインG_Jvを、ステートが2変化した場合、つまり、異常な遷移となった場合に禁止遷移罰則ゲインG_JNGを出力する。
【0247】
電圧評価ゲインG_Jvにより、出力電圧の変更、すなわちスイッチング素子がスイッチングするほどに悪い評価になるようにして半導体損失の増大を防止する。禁止遷移罰則ゲインG_JNGはステートの禁止遷移を防止するためのゲインである。禁止遷移時には評価関数値が最悪の評価結果となるように、後段でオーバーフローに対策した上で、禁止遷移罰則ゲインG_JNGには正の最大値を代入すればよい。
【0248】
ステートの遷移有無と異常遷移は比較器GRT3と比較器GRT4で観測している。遷移があれば比較器GRT4が1に、さらに遷移が2以上の異常な遷移であれば比較器GRT3も1になるので、2つの出力の加算値を選択信号in8に入力することで式(23)の動作を実現できる。ただし、前述のように比較器GRTの出力は整数型として加算可能であるとする。
【0249】
従来のMPCでは、以上の評価演算部341,評価演算部342の評価内容および、必要な場合はモータ駆動用であればモータ速度の指令一致度、チョッパの場合はコンデンサ電圧などを考慮すればよかった。また、評価演算部341と評価演算部342の内容は第1Hブリッジ回路3Aと第2Hブリッジ回路3Bで完全に独立した評価であり、第1Hブリッジ回路3Aと第2Hブリッジ回路3Bで別々の制御としても問題は生じなかった。
【0250】
しかし、磁気浮上系においては2台の回路(コンバータ)の電流差分が浮上体1にはたらく吸引力となるため、電流差分の評価が重要になる。評価演算部34fでは磁気浮上系に適した電流差分の評価を示す。
【0251】
評価演算部34fについて、電流差分の評価は式(24),式(25)の計算によって行う。ただし、SW9outはセレクタSW9の出力値である。ここで、iF_jはiA-B_jと同じものであり、iF_refはiA-B_refと同じものとする。
【0252】
【数24】
【0253】
【数25】
【0254】
式(24)の電流差分評価ゲインG_JiFの項は出力電流差分が指令電流差分から離れるほど2乗で増大する。これにより、出力電流差分が指令電流差分に近い結果ほど評価関数値が小さくなり、出力電流差分が指令電流差分に近づいていく出力電圧が優先的に出力されるようになる。
【0255】
また、差分偏差罰則ゲインG_JiFabsの項は出力電流差分と指令電流差分の差が電流差分偏差許容値iF_abs_refを超えた場合に差分偏差罰則ゲインG_JiFabsとなり、超えない場合はゼロである。この項により、全体として出力電流差分の指令電流差分への一致度が高いものの、瞬時的に指令電流差分から乖離してしまうような出力電流を禁止する。
【0256】
このように、第1回路と第2回路個々の出力電流だけでなく、出力電流差分についても指令電流差分への一致度を評価関数に加えることで、吸引力の脈動を低減することができる。
【0257】
なお、以上説明した図16図17による評価方法は、Hブリッジ回路を用いない磁気浮上系にも適用できるものである。
【0258】
図18に本実施形態1のソート選定部30を示す。これは、図14のソート選定部301、302、303、…、30Ncの内部を示したものである。入力数について一般化するために入力信号数Ninを用いている。
【0259】
評価値比較部C11には、Nin-1番目の時刻jの(ソート前)データ配列D’j_Nin-1と、Nin番目の時刻jの(ソート前)データ配列D’j_Ninが入力される。
【0260】
評価値比較部C11の第1出力は1つ上段の評価値比較部C12に入力され、評価値比較部C11の第2出力は評価値比較部C21に入力される。また、評価値比較部C12には、Nin-2番目の時刻jの(ソート前)データ配列D’j_Nin-2が入力される。
【0261】
この構成を評価値比較部C11,C12,C13,…と多段に連ねていき、最後、評価値比較部C1Nin-1の第1出力が時刻j第1位データ配列Dj_1となる。
【0262】
同様に2番目の出力に関しても、評価値比較部C21,C22,C23,…と多段化していき、評価値比較部C2Nin-2の第1出力が時刻j第2位データ配列Dj_2となる。
【0263】
このような構成で出力信号を決定するが、評価値比較部CNsNin-Nsの第1出力である時刻j第Ns位データ配列Dj_Nsを得ると、すべての出力信号が揃う。以降については評価値比較部を設けない。つまり、評価値比較部CNs+11,CNs+12,…,CNin1は存在しない。また、次の評価値比較部がないことから評価値比較部CNs1,CNs2,…,CNsNin-Nsの第2出力は不使用となる。
【0264】
ソートでは、繰り返し演算を必要とせずFPGA(Field Programmable Gate Array)実装に適したソーティングネットワークの考え方を用いている。本実施形態1では全入力信号を一度にソーティングネットワークでソート・選定する。
【0265】
図19に5入力ソーティングネットワークの動作例を示す。ソーティングネットワークでは、評価値比較部C11~C14,C21~C23,C31~C32,C41による信号の入れ替えを繰り返してソートを行う。評価値比較部C11~C14,C21~C23,C31~C32,C41では入力された2信号について大小比較を行い、比較結果にもとづいて信号の第1出力および第2出力への対応づけを変える。ここでは、評価値比較部C11~C14,C21~C23,C31~C32,C41に入力されたうち小さい方を第1出力(図中上側の出力)、大きい方を第2出力(図中下側の出力)としている。
【0266】
例えば、4番目の入力である1は5入力の中で1番小さい値であるため、評価値比較部に入力されるたびに第1出力として出力され、最終的に最上段の信号となっている。そのほかの信号も同様に比較された結果、入力時にはバラバラの大小関係で並んでいた5信号が出力側では上から小さい順にソートされていることがわかる。
【0267】
図18でも同様に評価値比較部C11,C12などにてデータ配列の情報から評価関数値を比較して信号を入れ替えることを繰り返し、信号をソートしている。
【0268】
ソート結果については、図中上からNs個の信号のみを出力し、それ以外は未使用とする。これにより、評価関数値が上位Ns個の結果のみを選定して後段に渡すことができる。この際、Ns+1個目以降の不使用信号はソートされている必要がないためCNs+11以降は設けていない。
【0269】
図20に評価値比較部Cを示す。これは、図18の評価値比較部C11~CNSNin-Nsの内部を示したものである。ここでは一般化のために時刻について一般(任意)の時刻jを基準としている。また、出力のデータ配列についてソート順位を示す記号(図15で言うとaに相当する記号)は省略している。
【0270】
J_j取り出し部51は、第1入力の時刻jデータ配列D’j_in1の内部の情報から第1入力の時刻j評価関数値J_j_in1を取り出す。J_j取り出し部52は、第2入力の時刻jデータ配列D’j_in2の内部の情報から第2入力の時刻j評価関数値J_j_in2を取り出す。比較器GRT6は、第1入力の時刻j評価関数値J_j_in1と第2入力の時刻j評価関数値J_j_in2を入力し、第1入力の時刻j評価関数値J_j_in1が第2入力の時刻j評価関数値J_j_in2よりも大きい場合は1を出力し、それ以外の場合は0を出力する。
【0271】
セレクタSW10は、第1入力の時刻jデータ配列D’j_in1と第2入力の時刻jデータ配列D’j_in2を入力する。また、セレクタSW10は、比較器GRT6の出力信号を選択信号in10として入力し、選択信号in10=0の場合は第1入力の時刻jデータ配列D’j_in1を出力し、選択信号in10=1の場合は第2入力の時刻jデータ配列D’j_in2を出力する。
【0272】
セレクタSW11は、第2入力の時刻jデータ配列D’j_in2と第1入力の時刻jデータ配列D’j_in1を入力する。また、セレクタSW11は、比較器GRT6の出力信号を選択信号in11として入力し、選択信号in11=0の場合は第2入力の時刻jデータ配列D’j_in2を出力し、選択信号in11=1の場合は第1入力の時刻jデータ配列D’j_in1を出力する。
【0273】
セレクタSW10の出力は第1出力の時刻jデータ配列D’j_out1となり、セレクタSW11の出力は第2出力の時刻jデータ配列D’j_out2となる。
【0274】
評価値比較部Cでは、入力データ配列から評価関数値J_jに関する情報を取り出し、その大小関係に応じて出力信号を入れ替える処理を行う。
【0275】
大小関係の評価は比較器GRT6で行い、この比較結果にもとづいてセレクタSW10,セレクタSW11の出力信号を決定する。評価関数値は小さいほど良い結果であると定義しているため、評価関数値J_jが小さいデータ配列が第1出力になるような構成としている。
【0276】
セレクタSW10は第1出力の時刻jデータ配列D’j_out1、セレクタSW11は第2出力の時刻jデータ配列D’j_out2と対応しており、入出力の関係は式(26)、式(27)で表される。
【0277】
【数26】
【0278】
【数27】
【0279】
以上が評価値比較部Cの動作である。
【0280】
以上のように、図1図20に基づいて制御を行うことで、Hブリッジ回路の制御に適し、かつ磁気浮上系の吸引力を制御するのに適したMPCを行うことができる。
【0281】
[実施形態2]
図21に本実施形態2のソート選定部30を示す。これは、図14のソート選定部301、302、303、…、30Ncの内部を示したものである。ここでは一般化のために時刻について一般(任意)の時刻jを基準としている。
【0282】
ここでの9入力3出力のソート選定部30は図18においてNin=9,Ns=3とした構成である。
【0283】
時刻j前回第1位パターン1データ配列D’j_11~時刻j前回第1位パターン9データ配列D’j_19の9信号は9入力3出力のソート選定部53aに入力される。時刻j前回第2位パターン1データ配列D’j_21~時刻j前回第2位パターン9データ配列D’j_29の9信号は9入力3出力のソート選定部53bに入力される。時刻j前回第3位パターン1データ配列D’j_31~時刻j前回第3位パターン9データ配列D’j_39の9信号は9入力3出力のソート選定部53cに入力される。
【0284】
3つの9入力3出力のソート選定部53a~53cの計9個の出力信号は9入力3出力のソート選定部53dに入力され、時刻j第1位データ配列Dj_1~時刻j第3位データ配列Dj_3を出力する。
【0285】
実施形態1では、ソート選定部30において全入力信号を一度にソーティングネットワークでソートした。しかし、必ずしも一度のソーティングネットワークでソートせずともよく、多段化してもよい。
【0286】
多入力多出力のソーティングネットワークは、モジュール単位での評価値比較部の個数増加による実装の複雑化が起こるほか、入力にあり得る組み合わせが膨大となり、デバッグが負担になってしまう。そのため、なるべく小規模な単位でのソーティングネットワークを作成し、組み合わせることで実装上の負担を軽減することができる。
【0287】
多段化を行う際には各ソーティングネットワークの出力数を評価結果選定数Ns個以上にするように注意する。出力数が評価結果選定数Ns個未満のソーティングネットワークがあると、切り捨てられた出力に第1位~第Ns位信号が存在する可能性があり、正しくソートを行えなくなる。
【0288】
本実施形態2では、ソーティングネットワークを多段化し、入力信号を複数のグループに分けて複数のソーティングネットワークでソート・選定し、選定された信号を次段のソーティングネットワークでソート・選定する。
【0289】
図21は本実施形態2のソート選定部30である。これはNs=3とした場合の多段化ソート例である。この構成においては、27入力3出力に対して9入力3出力のソート選定部53a~53dを4個組み合わせて27入力3出力ソートを達成している。このように、多入力多出力ソーティングネットワークに対して、小規模なソーティングネットワークの多段化でソートを行ってもよい。
【0290】
以上示したように、本実施形態2では実施形態1と同様の作用効果を奏する。また、本実施形態2は実装上の負担を軽減することができる。
【0291】
[実施形態3]
図22に本実施形態3の評価演算部を示す。本実施形態3では、図16の評価演算部34a1、34b1の代わりに評価演算部341’、評価演算部34fの代わりに評価演算部34f’を適用する。評価演算部34a2、34b2について実施形態1と同様であるため、図示および説明を省略する。
【0292】
入出力名について、ここでは一般化のために時刻について一般(任意)の時刻jを基準としている。また、第1回路,第2回路の区別をなくした形で記載した。
【0293】
評価演算部341’では、減算器54で時刻jの出力電流i_jから時刻jの指令電流i_refを減算する。絶対値演算部55は減算器54の出力の絶対値を演算する。乗算器56は絶対値演算部55の出力に電流評価ゲインG_Jiを乗算する。
【0294】
比較器GRT7は、絶対値演算部55の出力と電流偏差許容値i_abs_refを入力し、絶対値演算部55の出力が電流偏差許容値i_abs_refよりも大きければ1を出力し、それ以外の場合は0を出力する。
【0295】
セレクタSW12は定数0と偏差罰則ゲインG_Jiabsを入力する。また、セレクタSW12には比較器GRT7の出力が選択信号in12として入力され、選択信号in12=0の場合は定数0を出力し、選択信号in12=1の場合は偏差罰則ゲインG_Jiabsを出力する。
【0296】
加算器57は、乗算器56の出力とセレクタSW12の出力を加算し、時刻jの電流評価値Ji_jとして出力する。以上が、評価演算部341’である。
【0297】
評価演算部34f’では、減算器58で、時刻jの出力電流差分iA-B_jから時刻jの指令電流差分iA-B_refを減算する。絶対値演算部59は減算器58の出力の絶対値を演算する。乗算器60は、絶対値演算部59の出力に電流差分評価ゲインG_JiFを乗算する。
【0298】
比較器GRT8は、絶対値演算部59の出力と電流差分偏差許容値iF_abs_refを入力し、絶対値演算部59の出力が電流差分偏差許容値iF_abs_refよりも大きければ1を出力し、それ以外の場合は0を出力する。
【0299】
セレクタSW13は、定数0と差分偏差罰則ゲインG_JiFabsが入力される。また、セレクタSW13は比較器GRT8の出力を選択信号in13として入力し、選択信号in13=0の場合は定数0を出力し、選択信号in13=1の場合は差分偏差罰則ゲインG_JiFabsを出力する。
【0300】
加算器61は、乗算器60の出力にセレクタSW13の出力を加算して時刻jの電流差分評価値JiF_jとして出力する。以上が、評価演算部34f’である。
【0301】
実施形態1、実施形態2の評価演算部341、評価演算部34fでは、電流差分の2乗を評価対象としていた。
【0302】
しかし、これについては電流差分の絶対値を評価してもよい。これにより、乗算器の使用数を減少することができ、実装上有利な構成とすることができる。
【0303】
図22が本実施形態3の評価演算部である。評価演算部341’は評価演算部341の代わりに用いることができ、評価演算部34f’は評価演算部34fの代わりに用いることができる。
【0304】
評価演算部341’では、指令電流と出力電流の差分について絶対値を取った後、電流評価ゲインG_Jiと乗算している。その他の部分については評価演算部341と同様であり、電流評価値Ji_jは式(28)、式(29)で表される。ただし、SW12outはセレクタSW12の出力値である。
【0305】
【数28】
【0306】
【数29】
【0307】
評価演算部34f’では、指令電流差分と出力電流差分の偏差について絶対値を取った後、電流差分評価ゲインG_JiFと乗算している。その他の部分については評価演算部34fと同様であり、電流差分評価値JiF_jは式(30)、式(31)で表される。ここで、iF_jはiA-B_jと同じであり、iF_refはiA-B_refと同じものとする。
【0308】
【数30】
【0309】
【数31】
【0310】
以上示したように、本実施形態3によれば実施形態1、2と同様の作用効果を奏することができる。また、本実施形態3は乗算器の使用数を減少できるため、実装上優位となる。
【0311】
[効果]
図23に実施形態1のシミュレーション結果を示す。図23の左側が比較例であり、右側が実施形態1の結果である。MPCでフィードバック制御を行い、第1電磁石巻線電流iA_out,第2電磁石巻線電流iB_out、電流差分iA_out-iB_out,指令電流差分iAref-iBref,第1Hブリッジ回路3Aおよび第2Hブリッジ回路3Bのスイッチング周波数fswA,fswBの波形を記録した。スイッチング周波数fswA、fswBについては直近10ms期間のスイッチング回数に関する移動平均を取り、1s間に換算した結果である。表4にシミュレーションの定数設定を示す。
【0312】
【表4】
【0313】
本シミュレーションでは、比較例と実施形態1の技術の電流制御結果を比較している。ただし、比較例とは、先行技術においてHブリッジ回路へのMPC適用ができたという前提で、2台の回路(コンバータ)の電流について個々にMPCで制御するという状況を実施形態1の技術のゲイン調整で表現している。実施形態1の技術では、2台の回路の電流差分を評価関数に含めており、2台の回路の相互関係を考慮している。
【0314】
比較例では、評価関数にて電流差分評価ゲインG_JiF、差分偏差罰則ゲインG_JiFabsをゼロにしてHブリッジ回路に対応した先行技術相当とした。つまり、2台の回路の電流差分は考慮せず、各々の電流について指令への一致度が高くなるように制御した。その結果、第1電磁石巻線電流iA_out,第2電磁石巻線電流iB_outの脈動は抑えられたものの、特に2台の脈動が重なるタイミングにて各巻線電流の脈動よりも電流差分の脈動が大きくなっている。
【0315】
実施形態1の技術では、評価関数にて2台の回路の電流差分を考慮している。その結果、第1電磁石巻線電流iA_out,第2電磁石巻線電流iB_outの脈動そのものは比較例より大きくても、電流差分の脈動は小さく抑えられている。
【0316】
電磁石の線形領域において浮上体にはたらく吸引力の合力は巻線電流の差分に比例する。そのため、電流差分の脈動低減により浮上体における力の脈動を減らすことができる。
【0317】
両方式のスイッチング周波数を見ると、スイッチング周波数fswA,fswBのそれぞれについて実施形態1の方が小さくなっている。スイッチング周波数fswA,fswBが抑えられたことで、実施形態1の技術ではHブリッジ回路のスイッチング損失の減少が期待できる。
【0318】
よって、実施形態1の技術における電流差分の評価を含めた評価関数により、スイッチング周波数を低く抑えつつ、比較例よりも電流差分の脈動、すなわち浮上体における力の脈動を小さくできた。
【0319】
なお、本シミュレーションでは、比較例を実施形態1の技術の一部ゲインの調整によって表現した。つまり、実施形態1の技術は比較例の構成を内包している。実施形態1の技術構成においてゲインを調整することで、比較例相当、あるいは比較例と実施形態1の技術の中間の特性で制御することができる。吸引力の脈動を重く評価する場合と電磁石巻線の個々の電流脈動を重く評価する場合について、Hブリッジ回路に対応した先行技術相当である比較例は後者にしか対応できないのに対し、実施形態1の技術は両者に対応可能である。以上のように調整可能性の意味でも実施形態1の技術は有利であると言える。
【0320】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0321】
1…浮上体
2A、2B…第1、第2電磁石
3A、3B…第1、第2Hブリッジ回路(第1、第2回路)
4…直流電源
5…MPC
6…乗算器
7…加算器
8…減算器
9A、9b…電流変化推定部
10…MPC評価演算部
11…スイッチングパターン取出部
12A、12B…バッファ
13…今回出力選択部
14A、14B…ゲート決定部
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