(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166589
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】発酵ビールテイストアルコール飲料
(51)【国際特許分類】
C12C 5/02 20060101AFI20241122BHJP
C12G 3/04 20190101ALI20241122BHJP
C12G 3/06 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
C12C5/02
C12G3/04
C12G3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082778
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】蝦名 史子
(72)【発明者】
【氏名】大取 靖秀
【テーマコード(参考)】
4B115
4B128
【Fターム(参考)】
4B115LG03
4B115LH11
4B115LP02
4B115MA03
4B128CP16
(57)【要約】
【課題】麦芽使用比率が50質量%未満でありながら、硫化物臭が抑制され且つ飲み応えおよびキレが向上した発酵ビールテイストアルコール飲料を提供する。
【解決手段】アルコール度数が1v/v%以上であり且つ麦芽使用比率が50質量%未満であり、さらにイソ酪酸イソブチルを2.0μg/L以上およびフェネチルアルコールを10mg/L以上含有する発酵ビールテイストアルコール飲料とすることにより、前記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール度数が1v/v%以上であり且つ麦芽使用比率が50質量%未満である発酵ビールテイストアルコール飲料であって、
イソ酪酸イソブチルを2.0μg/L以上およびフェネチルアルコールを10mg/L以上含有する、発酵ビールテイストアルコール飲料。
【請求項2】
さらに、4-ビニルグアイアコールを20μg/L以上200μg/L以下含有する、請求項1に記載の発酵ビールテイストアルコール飲料。
【請求項3】
前記イソ酪酸イソブチルの含有量が10μg/L以上400μg/L以下である、請求項1または2に記載の発酵ビールテイストアルコール飲料。
【請求項4】
前記フェネチルアルコールの含有量が30mg/L以上100mg/L以下である、請求項1または2に記載の発酵ビールテイストアルコール飲料。
【請求項5】
前記麦芽使用比率が25質量%未満である、請求項1または2に記載の発酵ビールテイストアルコール飲料。
【請求項6】
アルコール度数が1v/v%以上であり且つ麦芽使用比率が50質量%未満である発酵ビールテイストアルコール飲料の製造方法であって、
イソ酪酸イソブチルを2.0μg/L以上含有させる工程と、フェネチルアルコールを10mg/L以上含有させる工程と、を備える、発酵ビールテイストアルコール飲料の製造方法。
【請求項7】
アルコール度数が1v/v%以上であり且つ麦芽使用比率が50質量%未満である発酵ビールテイストアルコール飲料において、イソ酪酸イソブチルの含有量を2.0μg/L以上およびフェネチルアルコールの含有量を10mg/L以上とすることを特徴とする、発酵ビールテイストアルコール飲料における硫化物臭の抑制ならびに飲み応えおよびキレの向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵ビールテイストアルコール飲料、その製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールなどに代表される発酵ビールテイストアルコール飲料は、主に麦芽を原料(発酵原料)として用いてアルコール発酵工程を経て製造された、独特の苦味や焙煎香などを有するアルコール飲料である。一方で、その原料における麦芽の使用比率を低減した発酵ビールテイストアルコール飲料も製造等がされている。
【0003】
例えば特許文献1には、麦芽使用比率が60%以下であり、シトロネロール、及び2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及びその互変異性体である2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンから成る群から選択される少なくとも一種の2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物を含み、該シトロネロールの濃度が5.0μg/l以上であり、該2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度が3.0μg/l以上である、香味バランスに優れた発酵ビールテイスト飲料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、発酵ビールテイストアルコール飲料の製造において原料における麦芽の使用比率を低くすると、発酵時の窒素源不足などによって発酵不良等が生じ易くなり、これに伴って硫化水素、揮発性含硫有機化合物等の増加やこれらと他の香気成分とのバランスが崩れることなどが生じて不快な硫化物臭を感じ易くなってしまう場合がある。あわせて、麦芽使用比率を低くした(特に50質量%未満とした)発酵ビールテイストアルコール飲料は、飲み応えが不足したり、キレが悪くなったりし易い。
【0006】
そこで本発明は、麦芽使用比率が50質量%未満でありながら、硫化物臭が抑制され且つ飲み応えおよびキレが向上した発酵ビールテイストアルコール飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、香気成分であるイソ酪酸イソブチルおよびフェネチルアルコールが、麦芽使用比率が低い発酵ビールテイストアルコール飲料の硫化物臭抑制や飲み応え、キレの向上に効果を発揮することを明らかにした。そして、この知見から、アルコール度数が1v/v%以上であり且つ麦芽使用比率が50質量%未満であり、さらにイソ酪酸イソブチルを2.0μg/L以上およびフェネチルアルコールを10mg/L以上含有する発酵ビールテイストアルコール飲料とすることにより、硫化物臭が抑制され且つ飲み応えおよびキレが向上したものとなることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は次の<1>~<7>である。
<1>アルコール度数が1v/v%以上であり且つ麦芽使用比率が50質量%未満である発酵ビールテイストアルコール飲料であって、イソ酪酸イソブチルを2.0μg/L以上およびフェネチルアルコールを10mg/L以上含有する、発酵ビールテイストアルコール飲料。
<2>さらに、4-ビニルグアイアコールを20μg/L以上200μg/L以下含有する、<1>に記載の発酵ビールテイストアルコール飲料。
<3>前記イソ酪酸イソブチルの含有量が10μg/L以上400μg/L以下である、<1>または<2>に記載の発酵ビールテイストアルコール飲料。
<4>前記フェネチルアルコールの含有量が30mg/L以上100mg/L以下である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の発酵ビールテイストアルコール飲料。
<5>前記麦芽使用比率が25質量%未満である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の発酵ビールテイストアルコール飲料。
<6>アルコール度数が1v/v%以上であり且つ麦芽使用比率が50質量%未満である発酵ビールテイストアルコール飲料の製造方法であって、イソ酪酸イソブチルを2.0μg/L以上含有させる工程と、フェネチルアルコールを10mg/L以上含有させる工程と、を備える、発酵ビールテイストアルコール飲料の製造方法。
<7>アルコール度数が1v/v%以上であり且つ麦芽使用比率が50質量%未満である発酵ビールテイストアルコール飲料において、イソ酪酸イソブチルの含有量を2.0μg/L以上およびフェネチルアルコールの含有量を10mg/L以上とすることを特徴とする、発酵ビールテイストアルコール飲料における硫化物臭の抑制ならびに飲み応えおよびキレの向上方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、麦芽使用比率が50質量%未満でありながら、硫化物臭が抑制され且つ飲み応えおよびキレが向上した発酵ビールテイストアルコール飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について説明する。
本発明は、アルコール度数が1v/v%以上であり且つ麦芽使用比率が50質量%未満であり、さらにイソ酪酸イソブチルを2.0μg/L以上およびフェネチルアルコールを10mg/L以上含有する発酵ビールテイストアルコール飲料(以下においては「本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料」という場合もある)、ならびに、イソ酪酸イソブチルを2.0μg/L以上含有させる工程と、フェネチルアルコールを10mg/L以上含有させる工程と、を備える、アルコール度数が1v/v%以上であり且つ麦芽使用比率が50質量%未満である発酵ビールテイストアルコール飲料の製造方法(以下においては「本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料の製造方法」という場合もある)である。
【0011】
なお、本発明において「アルコール飲料」とは、アルコール度数が1v/v%以上である飲料を意味する。なお、この「アルコール度数(v/v%)」とは、改訂BCОJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集、2013年増補改訂)の「8.3 アルコール」に記載されている方法(8.3.6アルコライザー法)によって測定される値である(以下においても同様である)。そして、本発明において「アルコール」とは、エタノールを意味する。
【0012】
また、本発明において「ビールテイストアルコール飲料」とは、ビールらしい香味、つまりビール様の香味を有するアルコール飲料を意味する。したがって、本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料には、酒税法(令和元年法律第六十三号)により定義される発泡性酒類(発泡酒、その他醸造酒やリキュールなどに属する他の発泡性酒類等)に属するビール様の香味を有するアルコール飲料や、上記した酒税法により定義される発泡性酒類には属さないがビール様の香味を有するアルコール飲料(例えば非発泡性アルコール飲料等)などが包含される。
【0013】
さらに、本発明において「発酵ビールテイストアルコール飲料」とは、その製造において、酵母によるアルコール発酵工程(酵母が糖類などの有機物から代謝産物であるアルコールを生成する工程)を経て製造されたビールテイストアルコール飲料を意味する。つまり、本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料は、酵母によるアルコール発酵工程を経て製造された、アルコール度数が1v/v%以上であり且つビール様の香味を有する飲料である。
【0014】
以下、本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料の含有成分等について詳細に説明する。
【0015】
本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料は、麦芽使用比率が50質量%未満の発酵ビールテイストアルコール飲料である。この「麦芽使用比率」とは、「酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達-第3条その他の用語の定義(ビールの定義)3項-麦芽の重量計算」に定められた水およびホップ以外の原料に占める麦芽の割合を意味する。本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料では、この麦芽使用比率が50質量%未満でありながら、所定の構成によって、硫化物臭が抑制され且つ飲み応えおよびキレが向上したものとなっている。また、この麦芽使用比率が45質量%未満、さらには40質量%未満、さらには35質量%未満、さらには30質量%未満、さらには25質量%未満であっても同様の効果が発揮される。さらに、この麦芽使用比率が実質的に0質量%であっても、つまり実質的に麦芽不使用であっても同様の効果が発揮される。
【0016】
そして、本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料は、上記したように麦芽使用比率が50質量%未満であって、さらにイソ酪酸イソブチル(Isobutyl isobutyrate:C8H16O2、CAS No.97-85-8)を2.0μg/L以上およびフェネチルアルコール(Phenethyl alcohol:C8H10O、CAS No.60-12-8)を10mg/L以上含有する。本発明では、これら成分の相乗効果により、麦芽使用比率が50質量%未満の発酵ビールテイストアルコール飲料でありながら、硫化物臭が抑制され且つ飲み応えおよびキレが向上したものとすることができる。このイソ酪酸イソブチルは香気成分の1つであって、下記式(1)で表される化合物である。また、フェネチルアルコールも香気成分の1つであって、下記式(2)で表される化合物である。
【0017】
【0018】
【0019】
本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料においては、イソ酪酸イソブチルの含有量を2.0μg/L以上とするが、硫化物臭抑制効果および飲み応え向上効果がより発揮され易くなることなどから、この下限は3.0μg/L以上であるのがより好ましく、5.0μg/L以上であるのがさらに好ましく、8.0μg/L以上であるのがさらに好ましく、10μg/L以上であるのがさらに好ましく、15μg/L以上であるのがさらに好ましく、20μg/L以上であるのがさらに好ましく、25μg/L以上であるのがさらに好ましく、30μg/L以上であるのがさらに好ましく、35μg/L以上であるのがさらに好ましく、40μg/L以上であるのがさらに好ましく、45μg/L以上であるのがさらに好ましく、50μg/L以上であるのがさらに好ましく、55μg/L以上であるのがさらに好ましく、60μg/L以上であるのがさらに好ましく、65μg/L以上であるのがさらに好ましく、70μg/L以上であるのがさらに好ましく、75μg/L以上であるのがさらに好ましく、80μg/L以上であるのがさらに好ましく、85μg/L以上であるのがさらに好ましく、90μg/L以上であるのがさらに好ましい。上限は、キレを高度に維持し易いことなどから、500μg/L以下であるのが好ましく、450μg/L以下であるのがより好ましく、400μg/L以下であるのがさらに好ましく、350μg/L以下であるのがさらに好ましく、320μg/L以下であるのがさらに好ましく、300μg/L以下であるのがさらに好ましく、250μg/L以下であるのがさらに好ましく、200μg/L以下であるのがさらに好ましく、190μg/L以下であるのがさらに好ましく、180μg/L以下であるのがさらに好ましく、170μg/L以下であるのがさらに好ましく、160μg/L以下であるのがさらに好ましく、150μg/L以下であるのがさらに好ましく、140μg/L以下であるのがさらに好ましく、130μg/L以下であるのがさらに好ましく、120μg/L以下であるのがさらに好ましく、110μg/L以下であるのがさらに好ましく、100μg/L以下であるのがさらに好ましく、90μg/L以下であるのがさらに好ましく、80μg/L以下であるのがさらに好ましい。例えば、このイソ酪酸イソブチルの含有量は、10μg/L以上400μg/L以下であると上記効果が十分に発揮され易いためより好適である。なお、このイソ酪酸イソブチル含有量は、市販されているイソ酪酸イソブチル(例えば純品や精製品など)や、イソ酪酸イソブチル含有原料(香料、ホップなど)の使用、添加タイミングなどにより調整することができ、これらを複数併用してもよい。
【0020】
また、本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料においては、フェネチルアルコールの含有量を10mg/L以上とするが、キレ向上効果がより発揮され易くなることなどから、この下限は12mg/L以上とするのがより好ましく、15mg/L以上とするのがさらに好ましく、18mg/L以上とするのがさらに好ましく、20mg/L以上とするのがさらに好ましく、25mg/L以上とするのがさらに好ましく、30mg/L以上とするのがさらに好ましい。この上限は、キレや香り全体のバランスを高度に維持し易いことなどから、100mg/L以下であるのが好ましく、90mg/L以下であるのがより好ましく、80mg/L以下であるのがさらに好ましく、70mg/L以下であるのがさらに好ましく、60mg/L以下であるのがさらに好ましく、50mg/L以下であるのがさらに好ましく、45mg/L以下であるのがさらに好ましく、40mg/L以下であるのがさらに好ましく、35mg/L以下であるのがさらに好ましい。例えば、このフェネチルアルコール含有量は、30mg/L以上100mg/L以下であると上記効果が十分に発揮され易いためより好適である。なお、このフェネチルアルコール含有量は、市販されているフェネチルアルコール(例えば純品や精製品など)や、フェネチルアルコール含有原料(香料、植物抽出物など)の使用、添加タイミング、発酵原料の種類や量ならびに酵母の種類なども含めたアルコール発酵工程の条件等により調整することができ、これらを複数併用してもよい。
【0021】
また、本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料においては、本発明の効果がより発揮され易くなることから、このイソ酪酸イソブチル含有量とフェネチルアルコール含有量との比率を所定の範囲内に調整するとより好適である。
具体的には、本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料におけるイソ酪酸イソブチルに対するフェネチルアルコールの質量比(フェネチルアルコール(μg)/イソ酪酸イソブチル(μg))を50以上とするのがより好ましく、80以上とするのがさらに好ましく、100以上とするのがさらに好ましく、150以上とするのがさらに好ましく、180以上とするのがさらに好ましい。上限は、8000以下とするのが好ましく、6000以下とするのがより好ましく、4000以下とするのがさらに好ましく、3000以下とするのがさらに好ましく、2000以下とするのがさらに好ましく、1500以下とするのがさらに好ましく、1200以下とするのがさらに好ましい。
【0022】
さらに、本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料は、4-ビニルグアイアコール(4-Vinylguaiacol、4VG:C9H10O2、CAS No.7786-61-0)を20μg/L以上200μg/L以下含有すると好ましい。前述したイソ酪酸イソブチルおよびフェネチルアルコールとの相乗効果などにより、硫化物臭抑制効果などを高度に維持しつつ、飲み応えがより優れた発酵ビールテイストアルコール飲料とすることができるからである。また、発酵ビールテイストアルコール飲料の香り全体のバランスもより優れたものとすることができる。この4-ビニルグアイアコールは下記式(3)で表される化合物であって、これも香気成分の1つである。
【0023】
【0024】
本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料においては、この4-ビニルグアイアコールの含有量を上記したように20μg/L以上200μg/L以下とするのが好ましいが、この下限は25μg/L以上であるのがより好ましく、28μg/L以上であるのがさらに好ましく、30μg/L以上であるのがさらに好ましく、35μg/L以上であるのがさらに好ましく、40μg/L以上であるのがさらに好ましく、45μg/L以上であるのがさらに好ましい。飲み応えがさらに優れた発酵ビールテイストアルコール飲料とし易いからである。この上限は、発酵ビールテイストアルコール飲料の香り全体のバランスを高度に維持し易いことなどから、150μg/L以下であるのが好ましく、120μg/L以下であるのがより好ましく、100μg/L以下であるのがさらに好ましく、90μg/L以下であるのがさらに好ましく、80μg/L以下であるのがさらに好ましく、70μg/L以下であるのがさらに好ましく、60μg/L以下であるのがさらに好ましく、50μg/L以下であるのがさらに好ましい。例えば、この4-ビニルグアイアコールの含有量は、40μg/L以上80μg/L以下であると上記効果が十分に発揮され易いためより好適である。なお、この4-ビニルグアイアコールの含有量は、市販されている4-ビニルグアイアコール(例えば純品や精製品など)や、4-ビニルグアイアコール含有原料(香料など)の使用、添加タイミング、発酵原料の種類や量ならびに酵母の種類なども含めたアルコール発酵工程の条件等により調整することができ、これらを複数併用してもよい。
【0025】
さらに、本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料においては、この4-ビニルグアイアコールを所定量含有する場合、本発明の効果がより発揮され易くなることから、前述したイソ酪酸イソブチル含有量またはフェネチルアルコール含有量とこの4-ビニルグアイアコール含有量との比率を所定の範囲内に調整するとより好適である。
具体的には、本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料におけるイソ酪酸イソブチルに対する4-ビニルグアイアコールの質量比(4-ビニルグアイアコール(μg)/イソ酪酸イソブチル(μg))を0.5以上とするのがより好ましく、0.8以上とするのがさらに好ましく、1.0以上とするのがさらに好ましい。上限は、10以下とするのが好ましく、8.0以下とするのがより好ましく、6.0以下とするのがさらに好ましく、5.0以下とするのがさらに好ましく、4.0以下とするのがさらに好ましく、3.5以下とするのがさらに好ましく、3.0以下とするのがさらに好ましく、2.0以下とするのがさらに好ましく、1.7以下とするのがさらに好ましく、1.0以下とするのがさらに好ましい。
また、本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料における4-ビニルグアイアコールに対するフェネチルアルコールの質量比(フェネチルアルコール(μg)/4-ビニルグアイアコール(μg))を250以上とするのがより好ましく、300以上とするのがさらに好ましく、400以上とするのがさらに好ましく、500以上とするのがさらに好ましい。上限は、4000以下とするのが好ましく、3600以下とするのがより好ましく、3000以下とするのがさらに好ましく、2500以下とするのがさらに好ましく、2000以下とするのがさらに好ましく、1500以下とするのがさらに好ましく、1200以下とするのがさらに好ましく、1000以下とするのがさらに好ましい。
【0026】
ここで、本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料におけるイソ酪酸イソブチル含有量、フェネチルアルコール含有量、4-ビニルグアイアコール含有量はいずれも、サンプルを適宜希釈して、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)法により測定することができる。
【0027】
本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料は、前述したように麦芽使用比率が50質量%未満であるが、麦芽以外の発酵原料として、例えば、米、スターチ、とうもろこし、果実などを使用することができる。また、後述する液糖なども発酵原料として使用することができる。
【0028】
本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料にホップを使用する場合には、このホップの種類としては、乾燥ホップ、ホップペレット、ホップエキスなどが例示される。また、このホップは、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等であってもよい。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、限定されるものではないが、糖化液等の調製(例えば糖化後の煮沸時)において上記のようなホップを添加して使用するのがより好ましい。
【0029】
本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料の苦味価(BU)は、本発明の効果が発揮され易くなることなどから、10以上であるのが好ましく、15以上であるのがより好ましい。また、上限は、50以下であるのが好ましく、45以下であるのがより好ましく、40以下であるのがさらに好ましく、35以下であるのがさらに好ましく、30以下であるのがさらに好ましい。この苦味価(BU)は、ホップ等の使用量、種類、添加のタイミングなどによって調整することができる。
ここで、この「苦味価(BU)」とは、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集、2013年増補改訂)の「8.15 苦味価」に記載されている方法によって測定される値である。
【0030】
さらに、本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料には、本発明の効果に大きな影響を与えない範囲において、飲料に使用可能な原料、例えば酸味料、苦味料、着色料、甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、塩類、香辛料、香料等をさらに使用してもよい。酸味料としては、例えば、リン酸、乳酸、乳酸ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、アジピン酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウムなどが挙げられる。苦味料としては、例えば、カフェイン、ナリンジン、イソα酸などが挙げられる。着色料としては、例えば、カラメル色素、クチナシ色素、果汁色素、野菜色素、合成色素などが挙げられる。甘味料としては、例えば、液糖や糖アルコールが挙げられる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムK、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、リチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどが挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどが挙げられる。塩類としては、例えば、食塩(塩化ナトリウム)、酸性リン酸カリウム、酸性リン酸カルシウム、リン酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
また、本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料は、本発明の効果に大きな影響を与えない範囲であれば、上記以外の任意の成分をさらに含んでいてもよい。
【0031】
そして、本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料は、前述したようにアルコール度数が1v/v%以上であるが、このアルコール度数は、2v/v%以上であると好ましく、3v/v%以上であるとより好ましく、4v/v%以上であるとさらに好ましく、5v/v%以上であってもよい。この上限は、限定されるものではないが、15v/v%以下が好ましく、12v/v%以下がより好ましく、10v/v%以下がさらに好ましい。なお、このアルコール度数は、アルコール発酵工程(発酵条件等)や発酵後工程などにより調整することができる。また、このアルコールは、発酵により生成されたものだけでなく、原料用アルコールの添加などにより付与されたものも一部含まれていてよい。
【0032】
さらに、本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料は非発泡性としてもよいが、発泡性飲料であると本発明の効果が発揮され易くなるためより好適である。ここで、本発明において「発泡性」とは、20℃における炭酸ガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm2)以上であることを意味し、「非発泡性」とは、20℃における炭酸ガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm2)未満であることを意味する。この炭酸ガス圧は、国税庁所定分析法(訓令)「8-3ガス圧」に基づいて測定することができる。そして、発泡性飲料である場合においては、この炭酸ガス圧は0.294MPa(3.0kg/cm2)以下としてもよい。なお、この炭酸ガスは、発酵により生成されたものだけでなく、カーボネーション(炭酸ガス圧入)工程などにより付与されたものも一部含まれていてよい。そして、このカーボネーション工程は、バッチ式で行ってもよいし、配管路に炭酸ガス圧入システム(カーボネーター)が組み込まれたインライン方式で連続的に行ってもよい。また、このカーボネーション工程は、フォーミング(泡噴き)の発生等を避けるために、液温を10℃以下(より好ましくは4℃以下)として行うのが好適である。
【0033】
以上のような構成である本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料は、麦芽使用比率が50質量%未満でありながら、硫化物臭が抑制され且つ飲み応えおよびキレが向上したものとなる。
なお、本発明は、アルコール度数が1v/v%以上であり且つ麦芽使用比率が50質量%未満である発酵ビールテイストアルコール飲料において、イソ酪酸イソブチルの含有量を2.0μg/L以上およびフェネチルアルコールの含有量を10mg/L以上とする、発酵ビールテイストアルコール飲料における硫化物臭の抑制ならびに飲み応えおよびキレの向上方法を提供するものであるとも言える。そして、この方法でも同様に、前述したような成分含有量などとしてよい。
【0034】
次に、この本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料を製造可能な、本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料の製造方法について詳細に説明する。
【0035】
本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料の製造方法は、アルコール度数が1v/v%以上であり且つ麦芽使用比率が50質量%未満である発酵ビールテイストアルコール飲料の製造方法であって、イソ酪酸イソブチルを2.0μg/L以上含有させる工程と、フェネチルアルコールを10mg/L以上含有させる工程と、を備えていれば、その他の工程については特段限定されない。なお、本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料の製造方法には、当然ながらアルコール発酵工程は含まれる。さらに、前述したような、4-ビニルグアイアコールを20μg/L以上200μg/L以下含有させる工程などを備えていてもよい。そして、上記の各成分を前述したような含有量とする工程としてもよく、例えば、イソ酪酸イソブチル含有量を10μg/L以上400μg/L以下とする工程やフェネチルアルコール含有量を30mg/L以上100mg/L以下とする工程などとしてもよい。なお、上記した各工程は1工程において併せて行ってもよく、あるいは各工程の少なくとも1つを2工程以上に分けて行ってもよい。
そして、上記した各工程は、後述するように、所定の原料を添加する工程やアルコール発酵工程、発酵後工程などにより行うことができる。
【0036】
本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料の製造方法の一例としては、まず、麦芽(麦芽使用比率は50質量%未満)、他の発酵原料、酵素、各種添加剤、副原料等を適宜使用して常法により糖化液(仕込液、例えば麦汁など)を調製する糖化工程を行う。必要に応じて、この糖化液をろ過処理してもよい。次に、この糖化液を煮沸する煮沸工程を行う。必要であれば、ホップなどをこの煮沸工程において添加する。そして、この煮沸工程後の煮沸後液を静置して沈殿物を除去する静置工程を行って発酵前液を取得し、必要であれば冷却工程を行って発酵前液を冷却し、さらにこの発酵前液に酵母を添加して所定の条件(例えば0~40℃の温度範囲など)においてアルコール発酵するアルコール発酵工程を行う。添加する酵母は、上面発酵酵母または下面発酵酵母のいずれであってもよい。アルコール発酵後は、発酵後工程として、必要に応じて貯酒(熟成)、ろ過、殺菌などを行う。さらに必要であれば、この発酵後工程などにおいて、香料等の添加、アルコール度数の調整や、炭酸ガス圧の調整等を行ってもよい。また、この発酵ビールテイストアルコール飲料をアルミニウム製やスチール製などの金属製容器、ガラス製容器、ペットボトル容器、紙容器、パウチ(プラスチックパウチ)容器、樽容器などに充填して密封する容器充填工程を行ってもよい。このような容器詰飲料とすることにより、香味などの経時劣化を抑制しやすいだけでなく、流通や販売などにおける利便性がより高まる。特に、気体、水分、光線などの遮断性が高く、長期間常温において品質を維持することが可能であることから、金属製容器に充填され密封された構成とするのがより好ましい。
そして、このアルコール発酵工程や発酵後工程などにおいて、イソ酪酸イソブチル含有量およびフェネチルアルコール含有量を所定の範囲に調整し(例えばアルコール発酵条件の調整や、香料等の添加など)、必要であれば4-ビニルグアイアコール含有量なども所定の範囲に調整し、最終的に(最終製品として)、アルコール度数が1v/v%以上であり、さらにイソ酪酸イソブチルを2.0μg/L以上およびフェネチルアルコールを10mg/L以上含有する発酵ビールテイストアルコール飲料とする。
【0037】
以上のような構成である本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料の製造方法により製造された本発明に係る発酵ビールテイストアルコール飲料は、前述したように、麦芽使用比率が50質量%未満でありながら、硫化物臭が抑制され且つ飲み応えおよびキレが向上したものとなる。
【0038】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【実施例0039】
<発酵ビールテイストアルコール飲料の調製および官能評価>
フェネチルアルコールを18mg/Lおよび4-ビニルグアイアコールを28μg/L含有する市販発泡酒(アルコール度数5.5v/v%、炭酸ガス圧2.4kg/cm2、苦味価(BU)18である麦芽使用比率25質量%未満の発酵ビールテイストアルコール飲料)に、イソ酪酸イソブチルを下記表1上段に記載の含有量となるように添加し(サンプル1は無添加)、さらに一部はフェネチルアルコールおよび/または4-ビニルグアイアコールを下記表1上段に記載の含有量となるように添加して、10種類の発酵ビールテイストアルコール飲料サンプル(サンプル1~10)を調製した。
【0040】
そして、この各サンプルにおける硫化物臭、飲み応え、キレ、ならびに発酵ビールテイストアルコール飲料としての総合評価について、訓練された官能的識別能力を備えた4名のパネリストにより、以下に示す評価基準を用いて各サンプルを官能評価した。
【0041】
[硫化物臭の評価基準]
サンプル1における硫化物臭(硫化水素、揮発性含硫有機化合物等を起因とする硫化物特有の臭い)の評価を2とし、このサンプル1との対比として、それぞれ、1(強い)から5(弱い)の5段階により比較官能評価を行った。つまり、この項目は点数が高いほど硫化物臭が弱いことを示す。
【0042】
[飲み応えの評価基準]
サンプル1における飲み応えを2とし、このサンプル1との対比として、それぞれ、1(弱い)から5(強い)の5段階により比較官能評価を行った。つまり、この項目は点数が高いほど飲み応えがある(向上している)ことを示す。
【0043】
[キレの評価基準]
サンプル1におけるキレを2とし、このサンプル1との対比として、それぞれ、1(悪い)から5(良い)の5段階により比較官能評価を行った。つまり、この項目は点数が高いほどキレがある(向上している)ことを示す。
【0044】
[総合評価の評価基準]
発酵ビールテイストアルコール飲料としての総合評価(香り全体のバランス)について、サンプル1を2とし、このサンプル1との対比として、それぞれ、1(香りの違和感が強い)から5(香りの違和感が少ない)の5段階により比較官能評価を行った。つまり、この項目は点数が高いほど香りの違和感が少なく総合評価が高い(香り全体のバランスが良い)ことを示す。
【0045】
この官能評価結果(4名のパネリストの評価平均値)を下記表1下段に示した。
この結果から、アルコール度数が5.5v/v%および麦芽使用比率が25質量%未満であり且つフェネチルアルコールを18mg/Lおよび4-ビニルグアイアコールを28μg/L含有する発酵ビールテイストアルコール飲料において、イソ酪酸イソブチルの含有量を3.0μg/L以上とすることにより、硫化物臭が抑制され且つ飲み応えおよびキレが向上した発酵ビールテイストアルコール飲料となることが示された(サンプル2~5)。
さらに、この発酵ビールテイストアルコール飲料において、イソ酪酸イソブチルを所定量含有させるとともにフェネチルアルコールの含有量を所定量とすることにより、硫化物臭の抑制効果がより高まり且つ飲み応えまたはキレが高く維持あるいはより向上することが示され(サンプル6~8)、さらに4-ビニルグアイアコールの含有量も所定量とすることにより、この硫化物臭の抑制効果を保ちつつ飲み応えがより向上することも示された(サンプル9~10)。
【0046】