(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166592
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】走行ユニット
(51)【国際特許分類】
B60G 21/073 20060101AFI20241122BHJP
B62K 25/12 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
B60G21/073
B62K25/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082781
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100138254
【弁理士】
【氏名又は名称】澤井 容子
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 雄介
【テーマコード(参考)】
3D014
3D301
【Fターム(参考)】
3D014DD03
3D014DE27
3D014DF02
3D014DF25
3D014DF33
3D301AA04
3D301AA69
3D301AA74
3D301CA05
3D301DA32
3D301DA80
3D301DA82
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で、製造コストやメンテナンス頻度を抑制でき、衝撃や異物など外部からの悪影響を緩和でき、装置のレイアウト自由度の高い走行ユニットを提供すること。
【解決手段】本体部110と、揺動軸111を中心に揺動可能に設けられた左右一対の揺動腕120と、揺動腕120に設けられた車輪125と緩衝部材121とを有した走行ユニット100であって、緩衝部材121は内部に流体を有し、左右一対の揺動腕120に対応して設けられ、それぞれ一端が本体部110に接続されるとともに他端が左右一対の揺動腕120に接続され、緩衝部材121に接続されてそれぞれの内部の流体を連通する連通管131が設けられていること。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と、前記本体部に対して揺動軸を中心に揺動可能に設けられた左右一対の揺動腕と、前記揺動腕にそれぞれ設けられた車輪と、前記揺動腕に設けられた緩衝部材とを有した走行ユニットであって、
前記緩衝部材は、内部に流体を有し、左右一対の前記揺動腕に対応して設けられ、それぞれ一端が前記本体部に接続されるとともに、他端が左右一対の前記揺動腕に接続され、
左右一対の前記緩衝部材に接続されてそれぞれの内部の流体を連通する連通管が設けられていることを特徴とする走行ユニット。
【請求項2】
前記連通管の中間部には、流体の移動量を調整可能なバルブが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の走行ユニット。
【請求項3】
前記連通管の中間部には、流体を貯留可能なタンクが前記連通管と連通するように接続されていることを特徴とする請求項1に記載の走行ユニット。
【請求項4】
前記連通管内には、オリフィスが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の走行ユニット。
【請求項5】
前記流体は、空気であることを特徴とする請求項1に記載の走行ユニット。
【請求項6】
本体部と、前輪と、後輪とを有する走行車両であって、少なくとも前記前輪および前記後輪のいずれか一方は、請求項1乃至請求項5のいずれかの走行ユニットで構成されていることを特徴とする走行車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本体部と、本体部に対して揺動軸を中心に揺動可能に設けられた左右一対の揺動腕と、揺動腕にそれぞれ設けられた車輪と、揺動腕に設けられた緩衝部材とを有した走行ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、本体部と、本体部に対して揺動軸を中心に揺動可能に設けられた左右一対の揺動腕と、揺動腕にそれぞれ設けられた車輪とを有した走行ユニットは、例えば、特許文献1等で公知である。
【0003】
この特許文献1に記載の走行ユニットが設けられた多輪式車両1は、本体部(フレーム2)と、本体部(フレーム2)に対して揺動軸(支持軸部3A)を中心に揺動可能に設けられた左右一対の揺動腕(スイングアーム4L、4R)と、揺動腕(スイングアーム4L、4R)にそれぞれ設けられた車輪(5L、5R)とを有し、揺動軸(支持軸部3A)には、略扇状体の傾動部材17L、17Rが設けられ、傾動部材17L、17Rのそれぞれの円弧面部21と、天秤状或いは滑車状の方向転換部材19とはそれぞれ紐状体20で接続されているものである。
これによって、傾動部材17L、17Rを連動させることができ、揺動軸(支持軸部3A)と揺動腕(4L、4R)を介して車輪(5L、5R)の一方が路面から力を受けて押し上げられた時、車輪(5L、5R)の他方を路面に向かって押し下げることができ、旋回や方向転換を行う際や、横傾斜の路面走行時に、車輪(5L、5R)の接地圧を均等に保ちながら、車輪(5L、5R)を車体と共に自在に傾斜させることができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献等で公知の走行ユニットは、未だ改善の余地があった。
すなわち、特許文献1等で公知の走行ユニットは、方向転換部材や傾動部材、紐状体によって左右一対の車輪を連動させる構成のため、駆動部が多く複雑であり、製造コストやグリスアップ等のメンテナンス頻度が増加する虞があった。
また、方向転換部材や傾動部材、紐状体がむき出しの構成であるため、外部からの衝撃を直接受けたり、異物を巻き込んで不具合を発生してしまう虞があった。
また、天秤状或いは滑車状の方向転換部材と左右の傾動部材を紐状体を介して接続して左右の車輪を連動させる構成のため、方向転換部材と傾動部材を所定の大きさ且つ所定の距離を有するように配置する必要があり、装置のレイアウト自由度が低下する虞があった。
【0006】
本発明は、これらの問題点を解決するものであり、簡単な構成で、製造コストやメンテナンス頻度を抑制でき、衝撃や異物など外部からの悪影響を緩和でき、装置のレイアウトの自由度の高い走行ユニットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の走行ユニットは、本体部と、前記本体部に対して揺動軸を中心に揺動可能に設けられた左右一対の揺動腕と、前記揺動腕にそれぞれ設けられた車輪と、前記揺動腕に設けられた緩衝部材とを有した走行ユニットであって、前記緩衝部材は、内部に流体を有し、左右一対の前記揺動腕に対応して設けられ、それぞれ一端が前記本体部に接続されるとともに、他端が左右一対の前記揺動腕に接続され、左右一対の前記緩衝部材に接続されてそれぞれの内部の流体を連通する連通管が設けられていることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る走行ユニットは、揺動腕に対応した緩衝部材が設けられ、緩衝部材はそれぞれ一端が本体部に接続されるとともに、他端が左右一対の揺動腕に接続され、内部に流体を有し、左右一対の緩衝部材のそれぞれの内部の流体を連通する連通管が設けられているため、車体の左右方向への傾斜や、路面状態によって一方の車輪のみが上方に揺動した際、揺動腕の揺動に伴い圧迫された緩衝部材内の流体が連通管を通じて一方の緩衝部材から他方の緩衝部材へ移動し、他方の緩衝部材が伸びることで揺動腕を他方の車輪が下方に揺動するように連動させることができる。
また、逆に他方の車輪のみが上方に揺動した際は、緩衝部材内の流体が連通管を通じて一方の車輪が下方に揺動するように連動できる。
これによって、緩衝部材内の流体の移動によって左右一対の車輪を車体の左右方向への傾斜、路面の凹凸や斜面の状態に応じて高さを変え、左右両輪を確実に接地させ走行安定性を向上することができる。
また、連通管を左右一対の緩衝部材内の流体が連通するように接続するのみなので、構造が簡単で部品点数が少なく製造コストの増加を抑えることができ、装置のレイアウトの自由度も高い。
また、駆動部が少なく注油やグリスアップ等も不要で、メンテンナンス頻度を低下できる。
【0009】
請求項2に記載の構成によれば、連通管の中間部には、流体の移動量を調整可能なバルブが設けられているため、使用者がバルブを操作することのみで簡単に連通管内の流体の流れ速度を制御して、左右一対の車輪の連動バランスを所望の値に調整することができる。
請求項3に記載の構成によれば、連通管の中間部には、流体を貯留可能なタンクが連通管と連通するように接続されているため、車両の大きさに応じて流体の容量を多く確保でき、左右一対の車輪の連動バランスをより一層安定的に保つことができる。
【0010】
請求項4に記載の構成によれば、連通管内には、オリフィスが設けられているため、オリフィスによって連通管内の流体の流れを制御することができる。
また、電磁弁などの構成を使用することがなく、単純な構成で走行ユニットを構成でき、コストアップを抑制できる。
請求項5に記載の構成によれば、緩衝部材内の流体は空気であるため、油等の液体に比べて装置全体を軽くできる。
また、空気の圧縮性を利用して連動のみならず、全体のサスペンションとして作動させることができるとともに、緩衝部材内の空気の出し入れによって簡単に圧力の基礎調整ができ、使用者が簡単に車高や左右一対の車輪の連動バランスを調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る走行ユニット100の斜視図。
【
図2】本発明の一実施形態に係る走行ユニット100の上面図。
【
図3】本発明の一実施形態に係る走行ユニット100の正面図。
【
図4】本発明の一実施形態に係る走行ユニット100の側面図。
【
図5】本発明の一実施形態に係る走行ユニット100の、第1車輪125aが上方向に揺動した際の状態を示す側面図。
【
図6】本発明の一実施形態に係る走行ユニット100の、第1車輪125aが上方向に揺動した際の状態を示す正面図。
【
図7】本発明の一実施形態に係る走行ユニット100の、第1車輪125aが上方向に揺動した際の第1車輪125a側の状態を示す側面図。
【
図8】本発明の一実施形態に係る走行ユニット100の、第1車輪125aが上方向に揺動した際の第2車輪125b側の状態を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施形態に係る走行ユニット100について、図面に基づいて説明する。
なお、走行ユニット100は、走行車両に取り付けられ、左右一対の車輪125は後輪として機能するものとするが、説明のため、走行ユニット100以外の構成は図示しない。
【0013】
本発明の一実施形態に係る走行ユニット100は、
図1乃至
図4に示すように、本体部110と、本体部110に対して揺動軸111(第1揺動軸111a、第2揺動軸111b)を中心に揺動可能に設けられた左右一対の揺動腕120(第1揺動腕120a、第2揺動腕120b)と、揺動腕120にそれぞれ設けられた車輪125(第1車輪125a、第2車輪125b)と、本体部110と揺動腕120との間に設けられた緩衝部材121(第1緩衝部材121a、第2緩衝部材121b)とを有している。
揺動腕120の一端は、本体部110の接続腕112(第1接続腕112a、第2接続腕112b)に揺動軸111を中心に揺動可能に接続されている。
揺動腕120の他端は、車輪125(第1車輪125a、第2車輪125b)を回転軸123(第1回転軸123a、第2回転軸123b)を回転中心として回転可能に接続している。
【0014】
緩衝部材121は、緩衝部材121内を進退可能なシリンダ122(第1シリンダ122a、第2シリンダ122b)を有し、本体部110とは支持軸113(113a、113b)を中心に揺動可能に接続されるとともに、揺動腕120とはシリンダ122を介してシリンダ接続軸124(第1シリンダ接続軸124a、第2シリンダ接続軸124b)を中心に揺動可能に接続されている。
緩衝部材121の内部には流体として空気が収容されており、緩衝部材121内と一端を連通して空気が通過可能な連通管131(第1連通管131a、第2連通管131b)が設けられている。
【0015】
連通管131の他端は、空気を貯留可能な調整タンク130と連通しており、調整タンク130には、調整タンク内の空気量や空気圧を調整可能なバルブ132が設けられている。
シリンダ122は、揺動腕120の揺動や緩衝部材121内の空気の圧力の変化によって進退可能に構成されている。
【0016】
次に、本発明の一実施形態に係る走行ユニット100による、第1車輪125aおよび第2車輪125bの連動方法について、
図5乃至
図8を基に説明する。
まず、平坦面FGを走行している途中で、走行ユニット100の第1車輪125aが平坦面FGから凸面TGに乗り上げると、第1揺動腕120aは第1揺動軸111aを中心に上方へ揺動する。
このとき、第1揺動腕120aの上方への揺動によって第1シリンダ122aが押され、第1緩衝部材121a側へ移動する。
【0017】
第1緩衝部材121a内の空気は第1シリンダ122aによって押圧されて第1緩衝部材121a内の圧力が上昇するが、第1緩衝部材121aと第2緩衝部材121bとは、調整タンク130および連通管131を介して連通されているため、第1緩衝部材121aから第2緩衝部材121bまでの内圧が一定になるように空気が移動する。
このとき、第2緩衝部材121b内の内圧は、第1車輪125aが段差に乗り上げる前よりも高くなるため、第2シリンダ122bを第2緩衝部材121bから出る方向へ押圧し、第2揺動腕120bを第2揺動軸111bを中心に第1車輪125aの揺動と反対方向、すなわち下方へ揺動することで、平坦面FGに接地する。
【0018】
さらに走行車両が移動して第1車輪125aが凸面TG上から平坦面FG上へ移動すると、第1車輪125aは上方へ揺動する力を失い、第1車輪125aの自重と第1緩衝部材121aの内圧によって第1シリンダ122aが第1緩衝部材121aから出る方向へ移動する。
これによって、第1車輪125aは第1揺動腕120aとともに下方へ揺動し、第2車輪125bは接地した状態を維持しながら第2揺動軸111bから見て第2揺動腕120bとともに上方へ揺動して、左右一対の車輪125の回転軸123(第1回転軸123a、第2回転軸123b)が一直線上に位置する状態で平坦面FGに接地する。
【0019】
このように、左右一対の車輪125が互いに反対方向へ連動して揺動するように構成されているため、一方の車輪125が段差等に乗り上げても、本体部110が大きく傾くことなく他方の車輪125を接地させることができ、走行安定性を向上できる。
また、第1車輪125aと第2車輪125bとの連動関係は、当然第1車輪125aが上方へ揺動した際のみ発生するものではなく、第2車輪125bのみが上方へ揺動した際は、空気圧変化によるシリンダ122の進退移動で、第1車輪125aが下方へ揺動するように構成されている。
また、走行車両がカーブを旋回する時等において、車体が傾いた場合でも、第1車輪125a、第2車輪125bの両方を接地でき、走行安定性を向上できるものである。
【0020】
なお、緩衝部材121内や調整タンク130内の空気の充填量や充填圧力、連通管131の内径や長さ、オリフィスの有無等によって空気の移動速度を変化させることで、第1車輪125aと第2車輪125bとが連動するバランスを簡単に変更できる。
特に、調整タンク130にはバルブ132が設けられているため、使用者が走行車両の重量や積載重量、走行状況に応じてバルブ132を操作して簡単に車高を調節したり、第1車輪125aと第2車輪125bとを所望の連動バランスに設定することもできる。
また、緩衝部材121は空気の圧縮性を利用してサスペンションとしても機能するため、例えば細かい凹凸が連続するような路面を走行する場合は、走行車両の振動を低減できる。
【0021】
さらに、左右一対の緩衝部材121は、調整タンク130および連通管131を介して連通しているため、構造が簡単で部品点数が少なく、コストアップを抑制でき、外部に露出した可動部が少なく異物などが混入することがなく、注油やグリスアップ等も不要であり、メンテナンス頻度を低下できる。
また、調整タンク130は、連通管131で緩衝部材121と連通しているため、必ずしも走行ユニット100の中央部分に位置させる必要がなく、配置レイアウトの自由度が高い。
また、緩衝部材121、調整タンク130、連通管131内は空気が充填されているため、走行ユニット100全体の重量を軽くできる。
【0022】
なお、本発明の一実施形態に係る走行ユニット100は、エンジン等を搭載した自動車に限らず、人力で駆動する自転車や荷物を運ぶ台車等、車輪で走行可能な種々の車に使用することができる。
【0023】
以上、本発明の一実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0024】
なお、上述した実施形態では、緩衝部材、調整タンク、連通管内は空気が充填されているものとして説明したが、緩衝部材、調整タンク、連通管内の流体はこれに限定されず、例えば、ヘリウムガスや窒素等の気体でもよく、水や油等の液体でもよい。
また、上述した実施形態では、左右一対の緩衝部材は連通管および調整タンクを介して接続されているものとして説明したが、左右一対の緩衝部材の接続方法はこれに限定されず、例えば、調整タンクがなくてもよい。
【0025】
また、上述した実施形態では、調整タンクにはバルブが設けられているものとして説明したが、調整タンクやバルブの構成はこれに限定されず、例えば、調整タンクがなくてもよく、バルブを緩衝部材や連通管に設けてもよい。
また、上述した実施形態では、走行ユニットの車輪は走行車両の後輪として機能するものとして説明したが、走行ユニットの構成はこれに限定されず、例えば、走行車両の前輪として機能するように取り付けられていてもよい。
【符号の説明】
【0026】
100 ・・・ 走行ユニット
110 ・・・ 本体部
111 ・・・ 揺動軸
112 ・・・ 接続腕
113 ・・・ 支持軸
120 ・・・ 揺動腕
121 ・・・ 緩衝部材
122 ・・・ シリンダ
123 ・・・ 回転軸
124 ・・・ シリンダ接続軸
125 ・・・ 車輪
130 ・・・ 調整タンク
131 ・・・ 連通管
132 ・・・ バルブ
FG ・・・ 平坦面
TG ・・・ 凸面