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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166595
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】ガス切断用火口
(51)【国際特許分類】
   F23D 14/54 20060101AFI20241122BHJP
   B23K 7/10 20060101ALI20241122BHJP
   F23D 14/22 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
F23D14/54 A
B23K7/10 S
F23D14/22 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082785
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000158312
【氏名又は名称】岩谷産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000105394
【氏名又は名称】コータキ精機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592189491
【氏名又は名称】株式会社千代田精機
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 佳史
(72)【発明者】
【氏名】菅野 勝広
(72)【発明者】
【氏名】山手 浩司
(72)【発明者】
【氏名】本山 知義
(72)【発明者】
【氏名】藤森 翔平
(72)【発明者】
【氏名】後出 明利
(72)【発明者】
【氏名】樋口 浩司
【テーマコード(参考)】
3K017
3K019
【Fターム(参考)】
3K017CA05
3K017CA07
3K017CB02
3K017CD01
3K017CD02
3K017CF03
3K019AA05
3K019AA07
3K019BA01
3K019BA04
3K019BB01
3K019BD01
3K019BD09
3K019CA03
(57)【要約】
【課題】水素ガスを燃料ガスとして用いる鋼材のガス切断において、効率良く切断を行うことが可能で、安全性にも優れる火口を提供すること。
【解決手段】内筒部材と、前記内筒部材を取り囲むように配置された外筒部材と、を備えるガス切断用火口である。前記内筒部材の先端面と前記外筒部材の先端面とは同一平面に位置する。前記内筒部材は、外周面が軸方向に並行に延在する部分である第1部分と、前記第1部分よりも先端側に位置し、外周面が軸方向に対して傾斜した部分である第2部分と、前記第2部分よりも先端側に位置し、外周面が軸方向に対して前記第2部分よりも大きく傾斜した部分である第3部分と、を含む。前記第3部分は、前記内筒部材の先端面と接続している。前記第2部分と前記第3部分とにわたって、前記内筒部材の外周面に形成された溝部が、前記第2流路の少なくとも一部を構成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内筒部材と、
前記内筒部材を取り囲むように配置された外筒部材と、を備え、
前記内筒部材の径方向中央部には、軸方向に延在する第1流路が形成されており、
前記外筒部材の内周面と前記内筒部材の外周面との間の領域は、第2流路となっており、
前記内筒部材の先端面と前記外筒部材の先端面とは同一平面に位置し、
前記内筒部材は、
外周面が軸方向に並行に延在する部分である第1部分と、
前記第1部分よりも先端側に位置し、外周面が軸方向に対して傾斜した部分である第2部分と、
前記第2部分よりも先端側に位置し、外周面が軸方向に対して前記第2部分よりも大きく傾斜した部分である第3部分と、を含み、
前記第3部分の外周面は、前記内筒部材の先端面と接続しており、
前記内筒部材の外周面に前記第2部分と前記第3部分とにわたって形成された溝部が、前記第2流路の少なくとも一部を構成する、
ガス切断用火口。
【請求項2】
前記溝部は、前記第1部分と、前記第2部分と、前記第3部分とにわたって形成されている、
請求項1に記載のガス切断用火口。
【請求項3】
前記外筒部材は、
内周面が前記内筒部材の前記第1部分の外周面に対向し、前記第1部分と並行に延在する第4部分を含み、
前記第1部分と前記第4部分との間隔は、前記溝部の深さよりも小さい、
請求項1または請求項2に記載のガス切断用火口。
【請求項4】
前記第1部分と前記第4部分との間隔は、0.5mm以上1.0mm以下である、
請求項3に記載のガス切断用火口。
【請求項5】
前記溝部は、前記内筒部材の周方向に等間隔に離隔して複数設けられ、
前記溝部の数は18~24である、
請求項1または請求項2に記載のガス切断用火口。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガス切断用火口に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材を切断する方法として、ガス切断が周知である。ガス切断は、燃料ガスの燃焼により形成される火炎を被切断鋼材に向けて噴射して切断箇所の予熱を行い、次いで予熱した部分に向けて切断酸素を噴射して鋼材を燃焼させ、その燃焼熱によって周囲の鋼材をさらに溶融させる工程を含む。このため、ガス切断のために用いる火口は、燃料ガスの流路と、切断用酸素ガスの流路とをそれぞれ備えるものが用いられる。
【0003】
特許文献1は、ガス切断用の火口を開示している。特許文献1のガス切断用火口は、内筒と外筒とから構成される。内筒の軸方向の中心には、中心軸に沿って切断酸素の通路である切断酸素通路が形成されている。内筒の外周形状は、小外径部とテーパ部とを含む。小外径部の先端側に、先端部に向かって先すぼまり状であるテーパ部が形成されている。また、テーパ部の基端側は小外径部よりも大きな径とされており、小外径部とテーパ部との境界には段部が形成されている。
【0004】
特許文献2は、内筒と外筒とを備えるガス切断用の火口を開示している。火口の先端において、軸方向の中心に酸素ガスを吐出する酸素吐出口が形成されている。また、酸素吐出口を取り囲むように複数の燃料ガス吐出口が配置されている。酸素吐出口と複数の燃料ガス吐出口とは、同一平面上に位置している。特許文献2のガス切断用火口は、酸素吐出口の内部壁面の表面粗さRaが1.4μm以下とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3119550号公報
【特許文献2】実用新案登録第3189711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガス切断用火口は、使用する燃料ガスの種類や用途に応じて適切な形状が異なる。本開示の目的の一つは、水素ガスを燃料ガスとして用いる鋼材のガス切断において、効率良く切断を行うことが可能で、安全性にも優れる火口を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に従ったガス切断用火口は、内筒部材と、前記内筒部材を取り囲むように配置された外筒部材と、を備える。前記内筒部材の径方向中央部には、軸方向に延在する第1流路が形成されている。前記外筒部材の内周面と前記内筒部材の外周面との間の領域は、第2流路となっている。前記内筒部材の先端面と前記外筒部材の先端面とは同一平面に位置する。前記内筒部材は、外周面が軸方向に並行に延在する部分である第1部分と、前記第1部分よりも先端側に位置し、外周面が軸方向に対して傾斜した部分である第2部分と、前記第2部分よりも先端側に位置し、外周面が軸方向に対して前記第2部分よりも大きく傾斜した部分である第3部分と、を含む。前記第3部分は、前記内筒部材の先端面と接続している。前記内筒部材の外周面に前記第2部分と前記第3部分とにわたって形成された溝部が、前記第2流路の少なくとも一部を構成する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、水素を燃料として用いる鋼材のガス切断において、効率良く切断を行うことが可能で、安全性にも優れる火口を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施の形態にかかるガス切断用火口の断面図である。
図2図2は、実施の形態にかかるガス切断用火口の平面図である。
図3図3は、図1の一部拡大図である。
図4図4は、実施の形態にかかるガス切断用火口の内筒部材の斜視図である。
図5図5は、実施の形態にかかるガス切断用火口の断面図である。
図6図6は、実施の形態にかかるガス切断用火口の断面図である。
図7図7は、実施の形態にかかるガス切断用火口の断面図である。
図8図8は、実施の形態にかかるガス切断用火口の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態の概要]
初めに、本開示にかかるガス切断用火口の実施の形態を列挙して説明する。
本開示に従ったガス切断用火口は、内筒部材と、前記内筒部材を取り囲むように配置された外筒部材と、を備える。前記内筒部材の径方向中央部には、軸方向に延在する第1流路が形成されている。前記外筒部材の内周面と前記内筒部材の外周面との間の領域は、第2流路となっている。前記内筒部材の先端面と前記外筒部材の先端面とは同一平面に位置する。前記内筒部材は、外周面が軸方向に並行に延在する部分である第1部分と、前記第1部分よりも先端側に位置し、外周面が軸方向に対して傾斜した部分である第2部分と、前記第2部分よりも先端側に位置し、外周面が軸方向に対して前記第2部分よりも大きく傾斜した部分である第3部分と、を含む。前記第3部分は、前記内筒部材の先端面と接続している。前記内筒部材の外周面に前記第2部分と前記第3部分とにわたって形成された溝部が、前記第2流路の少なくとも一部を構成する。
【0011】
CO排出量低減のニーズに対応するため、鋼材のガス切断における燃料ガスとして、水素ガスを用いる検討が行われている。水素ガスは、従来用いられている燃料ガスと比べて燃焼速度が非常に速いという特性を有する。このため、水素ガスを燃料ガスとして用いるガス切断において従来の燃焼ガス用火口を用いると、火炎が細長くなりやすく、適切な形状の火炎を得ることが困難であることが判明した。そこで、水素ガスを燃料ガスとするガス切断に適した火口が検討された。そして、内筒部材の中心に切断用酸素ガスの流路(第1流路)を備え、内筒部材と外筒部材との間が燃料ガスの流路(第2流路)となる火口において、内筒部材の先端面と外筒部材の先端面とを同一平面に配置することが見出された。理論に拘束されるものではないが、内筒部材の先端面と外筒部材の先端面とを同一平面に配置し、火口先端におけるガス滞留を少なくすることによって、水素ガスを用いる場合であっても、従来の炭化水素系燃料ガスの燃焼速度と近い速度で燃焼させることができると考えられている。さらに、内筒部材を、外周面が軸方向に並行に延在する部分である第1部分と、前記第1部分よりも先端側に位置し、前記外周面が軸方向に対して傾斜した部分である第2部分と、前記第2部分よりもさらに傾斜が大きい第3部分とを備え、第3部分と先端面とが接続するものとした。この形態によって、逆火の発生を抑制しつつ、太い火炎を形成することが可能であることが見出された。
【0012】
上記の構成を備える火口によれば、水素ガスを燃料ガスとして用いるガス切断において、適切な形状の火炎を形成することが容易であり、既存のガス切断設備を用いて、水素ガスによる鋼材の切断を行うことができる。また、上記の構成を備える火口によれば、逆火の発生が抑制され、安全性および耐久性に優れる。さらに、上記の構成を備える火口によれば、切断速度の向上を図ることが可能で、ガス使用量の削減、作業時間の短縮が可能で、効率よく切断を行うことができることが見出された。
【0013】
前記ガス切断用火口において、前記溝部は、前記第1部分と、前記第2部分と、前記第3部分とにわたって形成されていてもよい。この構成によれば、上記の効果をより確実に得ることができる。
【0014】
前記ガス切断用火口において、前記外筒部材は、内周面が前記内筒部材の前記第1部分の外周面に対向し、前記第1部分と並行に延在する第4部分を含み、前記第1部分と前記第4部分との間隔は前記溝部の深さよりも小さくてもよい。この構成によれば、燃料ガス流路に流れる燃料ガスの流速を適切に制御することが可能で、安定な火炎を形成し、火口の焼けが抑えられ、耐久性に優れた火口が得られる。
【0015】
前記ガス切断用火口において、前記第1部分と前記第4部分との間隔は、0.5mm以上1.0mm以下であってよい。この範囲であるとき、上記の効果をより確実に得ることができる。
【0016】
前記ガス切断用火口において、前記溝部は、前記内筒部材の周方向に等間隔に離隔して複数設けられ、前記溝部の数は18~24であってよい。この範囲であるとき、適切な水素火炎を形成できる。
【0017】
[実施の形態の具体例]
次に、本開示にかかるガス切断用火口の具体的な実施の形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0018】
以下の説明において「水素ガス」とは、水素および不可避不純物からなるガスを意味する。また、本明細書では、混合ガスと区別するために、混合ガスではない水素ガスを水素100%ガスと称することがある。もっとも、水素100%ガスとは数学的に厳密に100%水素からなるガスを意味するものではなく、一般に水素ガスとして市販されるガスを包含する。
【0019】
(ガス切断用火口)
図1は、本開示にかかる実施の形態である火口1の全体を示す断面図である。図2は、火口1を先端側から見た状態を示す平面図である。図3図1の一部を拡大して示す断面図である。以下の説明において、火口における燃料ガス供給側を火口の基端側、火口におけるガス吐出側を火口の先端側と称する。火口1はいわゆる三段当たり火口である。火口1は、基端60側から供給された燃料ガスGを先端70側から吐出する。吐出される燃料ガスに点火することによって火炎を形成できる。図1を参照して、火口1は、内筒部材10と、内筒部材10を取り囲むように配置される外筒部材20と、内筒部材10の基端側に締結された基端部材30と、を備える。内筒部材10と基端部材30とは、互いに締結されて一体化されている。
【0020】
図1を参照して、内筒部材10の径方向の中央部には、軸α方向に延在する円筒状の空間である第1流路81が形成されている。ガス切断を実施する際、第1流路81に切断用酸素ガスであるガスGが流通される。第1流路81の先端は、酸素を吐出する酸素吐出口81Aとなっている。
【0021】
内筒部材10の外周面10Cと、外筒部材20の内周面20Sとの間の領域は、燃料ガスGを流通させるための第2流路82となっている。燃料ガスGは、典型的には可燃性ガスとしての水素ガスG21と支燃性ガスである酸素ガスG22とが混合された混合ガスである。第2流路82の先端は、燃料ガスを吐出する燃料ガス吐出口82Aとなっている。
【0022】
図2は、火口1を先端側から見た状態を示す平面図である。なお、図2においては、火口1の先端部のみを示しており、火口1を先端側から見た場合に背後に位置する外筒部材20のフランジ部26等については図示していない。図2を参照して、火口1の径方向の中央部に、第1流路81の末端開口部である酸素吐出口81Aが位置する。酸素吐出口81Aを取り囲むように、周方向に互いに離隔して複数の燃料ガス吐出口82Aが配置される。燃料ガス吐出口82Aは、第2流路82の末端開口部である。火口1は、周方向に等間隔に24の燃料ガス吐出口82Aが備えられる。つまり、火口1の先端部において、第2流路82は、第1流路81を取り囲むように複数に分離して形成されている。
【0023】
図1図2を参照して、内筒部材10の外周を取り囲むように、外筒部材20が配置されている。内筒部材10の先端面10Aと外筒部材20の先端面20Aとは、同一平面上に位置する。言い換えると、火口1の先端70において、内筒部材10の先端面10Aは外筒部材20の先端面20Aから引き下がることなく配置されている。従来、水素ガスに適用されるガス切断用火口では、外筒部材の先端面に対して内筒部の先端面が引き下がるよう構成されていた。これに対して、本開示にかかる火口1では、内筒部材10の先端面10Aと外筒部材20の先端面20Aとを同一平面に配置することによって、燃料ガス吐出口82Aから吐出される燃料ガスが火口1の先端部に滞留することなく燃焼する。このため、燃焼速度が速い水素ガスを用いる場合でも、燃焼速度が過大にならず、切断に適した火炎を安定に形成できると考えられている。
【0024】
(内筒部材の詳細)
図1図4を参照して、火口1を構成する内筒部材10について詳しく説明する。図4は火口1における内筒部材10の斜視図であり、基端側の一部を省略している。図1を参照して、内筒部材10は基端側の外周に雄ねじ部15が形成され、基端部材30と互いに締結されている。図1図3を参照して、内筒部材10は、雄ねじ部15よりも先端に近い側に、第1部分としてのストレート部11と、第2部分としてのテーパ部12と、第3部分としての面取り部13とを備える。ストレート部11は、内筒部材10の外周面11aが、軸αに並行に延在する部分である。テーパ部12は、ストレート部11に接続し、ストレート部11よりも先端70側に位置する。テーパ部12において、内筒部材10の外周面12aは、軸αの方向に対して傾斜している。内筒部材10のテーパ部12は、先端70に近づくに従って、その外径が小さくなるよう構成された部分である。面取り部13は、テーパ部12に接続し、テーパ部12よりも先端70側に位置する。面取り部13の外周面13aは、先端面10Aに接続する。面取り部13において、内筒部材10の外周面13aは、軸αの方向に対して、テーパ部12よりも大きく傾斜している。すなわち、軸αが延びる方向に対するテーパ部12の角度θは、軸αが延びる方向に対する面取り部13の角度θよりも小さい。面取り部13は、内筒部材10の先端面10Aとテーパ部12との角部を切除(面取り)することによって形成される部分である。面取り部13は、内筒部材10の先端部の全周にわたって設けられる。
【0025】
テーパ部12の軸方向の長さは、特に制限されないが、例えば、内筒部材10の長さ全体のうち1/5~2/5程度をテーパ部12とすることができる。面取り部13の軸方向の長さも、特に制限されないが、例えば、内筒部材10の先端の0.8mm~1.5mm程度を面取りすることによって面取り部13を形成することができる。テーパ部12のテーパ角である角度θは特に制限されないが、例えば、8°~12°であってよい。面取り部13のテーパ角である角度θも特に制限されないが、例えば、40°~45°であってよい。
【0026】
内筒部材10の先端部に、溝部としてのスリット51が形成されている。スリット51は、内筒部材10の先端部の外周に、周方向に等間隔に離隔して複数設けられている。図1~4に示す火口1では24本のスリット51が形成されているが、スリットの数は火口の径や火口全体の寸法に応じて変更されうる。図3を参照して、スリット51は、ストレート部11の一部と、テーパ部12および面取り部13の全体と、にわたって形成されている。つまり、スリット51は、テーパ部12と面取り部13とにわたって形成されているだけでなく、ストレート部11の一部にかかる位置まで形成されている。従来の火口では、テーパ部および面取り部にスリットが形成されていたところ、本開示にかかる火口では、スリットの軸方向長さがより長くなり、ストレート部11の一部にかかる位置にまでスリットが形成されている。この形態によって、流路が長くなり、ガスの流れに対して整流効果があると考えられている。
【0027】
スリット51の深さtは、特に制限されないが、例えば直径15mm、全長90mmの火口(火口番号♯3)の場合、tは0.8mm~1.2mm程度であってよい。また、スリット51の幅wは、特に制限されないが、例えば直径15mm、全長90mmの火口(火口番号♯3)の場合、幅wは0.3mm~0.5mm程度であってよい。スリット51の数は、図1~4に示す火口1では24である。スリットの数は、火口の径や火口全体の寸法に応じて変更されうるが、例えば、18~24程度であってよい。スリット51は第2流路82の先端部を構成し、スリット51の末端が燃料ガス吐出口82Aとなる。
【0028】
図3を参照して、内筒部材10の径方向中央部に延在する円筒状の空間である第1流路81は、第1部分91、第2部分92、第3部分93を含む。第1部分91は、ストレート部11の内部に位置する、直筒状の空間である。第2部分92は、第1部分91の先端側に連なる部分であり、テーパ部12の内部に位置する、先端に向かって径が小さくなるテーパ状の空間である。第3部分93は、第2部分92の先端側に連なる部分であり、テーパ部12および面取り部13の内部に位置する、直筒状の空間である。
【0029】
図1図4を参照して、内筒部材10のストレート部11の外周面には、凹部16が形成されている。凹部16は、軸αを挟んで互いに対向する位置に2箇所、設けられている。凹部16は、直筒状のストレート部11の外周面の一部を矩形に切り取った形状を有する。凹部16の底面16Aは軸αと並行に延在する矩形の面である。2箇所の凹部16はいわゆる二方取り(二面取り)の部分である。
【0030】
(外筒部材の詳細)
図1~3、6を参照して外筒部材20の詳細を説明する。図1を参照して、外筒部材20の基端側に、基端部材30が嵌合される。また、外筒部材20は基端にフランジ部26を有する。フランジ部26の基端面26Bと、基端部材30の第1段部31の端面31Aとが当接することによって、外筒部材20と、内筒部材10が締結された基端部材30との軸方向の相対位置が決まる。
【0031】
図3を参照して、外筒部材20は、第4部分としてのストレート部21と、ストレート部21の先端側に連なる接続部22と、接続部22の先端側に連なるテーパ部23とを含む。ストレート部21の内周面21aは、内筒部材10におけるストレート部11の外周面11aに対向し、外周面11aと並行に延在する。外筒部材20の内周面21aと内筒部材10の外周面11aとの間の空間が、第2流路82の一部を構成する。外筒部材20の内周面21aと内筒部材10の外周面11aとの間隔tは、スリット51の深さtよりも小さい。外筒部材20の内周面21aと内筒部材10の外周面11aとの間隔tを小さく、すなわち流路を細くすることによって、燃料ガスの流速が上がり、可燃性ガスとして水素ガスを用いる場合に適した火炎が形成できるものと考えられている。間隔tの具体的な幅は、火口全体の寸法に応じて変更されうるが、例えば径15mm、全長90mmの火口(火口番号♯3)の場合、間隔tは0.5mm~1.0mm程度であってよい。
【0032】
(火口の断面)
図5は、火口1を図1中に示す線V-Vで切断した状態を示す断面図である。図5を参照して、内筒部材10の径方向中央部には第1流路81が形成されている。また、内筒部材10のストレート部11と、外筒部材20のストレート部21との間に、第2流路82が形成されている。第2流路82の軸方向に垂直な断面は、円環状である。図6は、火口1を図1中に示す線VI-VIで切断した状態を示す断面図である。図6を参照して、内筒部材10のテーパ部12の外周面12aと、外筒部材20のテーパ部23の内周面23aとが当接している。また、スリット51の開口部分が外筒部材20の内周面23aによって閉塞され、第2流路82が形成されている。第2流路82は、周方向に離隔して配置された24の流路から構成されている。
【0033】
(変形例)
本開示にかかる火口は、図1~6に示した火口1に限られず、様々な点で変更が可能である。例えば、図7に示すとおり、内筒部材のストレート部の外周面と外筒部材のストレート部の内周面との間隔は、火口1における間隔tよりも大きくすることもできる。図7に示す火口101は、外筒部材120のストレート部121の壁面の厚みが、火口1における外筒部材20のストレート部21の壁面の厚みよりも小さい。このため、間隔t101は間隔t図3)よりも大きくなっている。火口101において、間隔t101は、スリット151の深さt102と同程度である。
【0034】
また別の変形例として、例えば、図8に示す火口201は、火口101と同様の外筒部材120を備える。火口201は、内筒部材210のストレート部211に形成される凹部(内筒部材10における凹部16)を有さない。内筒部材210は、基端側に向かって径が小さくなるテーパ部229を備える。内筒部材210のその他の点は、内筒部材10と同様である。
【0035】
(水素ガスを用いるガス切断)
本開示にかかるガス切断用火口は、可燃性ガスとして水素ガスを用いるガス切断用火口として特に適している。すなわち、火口1に流通される燃料ガスG図1)は、可燃性ガスとしての水素ガスG21と支燃性ガスとしての酸素ガスG22との混合ガスであることが好ましい。可燃性ガスとして使用される水素ガスは、水素100%ガスであってもよく、水素を含む混合ガスであってもよいが、水素100%ガスであることが好ましい。水素と混合されるガスは、必要な燃焼性能を得られる限り特に制限されないが、典型的には空気よりも軽い可燃性ガスである、アセチレンガス、プロパンガス、プロピレンガス、エチレンガス、メタンガス、ブタンガス、これらの混合ガス等が挙げられる。
【0036】
(ガス切断装置)
本開示にかかるガス切断用火口は、公知のガス切断装置において使用できる。本開示にかかる火口を適用可能なガス切断装置としては、特に制限されないが、例えば、アイトレーサー、NCガス切断機、フレームプレーナー、門型CNC切断装置、型紙倣い切断機等が挙げられる。
【0037】
(実施例)
本開示にかかる火口を用いて、鋼材の切断を実施した。切断は次の条件および手順で実施した。
【0038】
(実施例1)
[使用装置および切断対象]
・火口:図1図6に示す実施形態の火口(番手♯3)
・切断機:アイトレーサー切断機(コータキ精機株式会社製、PC250PCT)
・切断対象鋼材の板厚および鋼種:板厚40mm、SS400
[切断手順および条件]
切断対象鋼材を定盤上にセットし、予熱用酸素バルブおよび可燃性ガスバルブを開とした。可燃性ガスとして、水素ガス(日本工業規格JIS K 0512-1995、工業用2級相当)を用いた。切断機のマスフロー制御部に信号を送り、火口から燃料ガスが噴出していることを確認後、着火した。
切断1回目における予熱用酸素の圧力は0.4MPa、水素の圧力は0.04MPa、切断用酸素の圧力は0.6MPaであった。適切な火炎が形成されるよう調整した後、切断用酸素のバルブを開とし、切断を実施した。予熱用酸素の流量は6.4L/min、予熱用水素の流量は16.0L/min、切断高さは6mmとした。切断速度は375mm/minとした。
【0039】
[結果]
上記の条件で10回連続して切断を実施し、問題なく切断を行うことができた。10回切断を行った後の火口の状態を目視で観察したところ、火口先端の焼けや変色は少なかった。逆火は皆無であった。
【0040】
(実施例2)
使用する火口を図7に示すものに変更した以外は実施例1と同様に、切断試験を実施した。図7を参照して、火口101は、実施例1と同じ内筒部材10を備える。外筒部材120のストレート部121の厚みは、外筒部材20のストレート部21の厚みよりも薄い。
【0041】
[結果]
実施例1と同様の条件で10回連続して切断を実施し、問題なく切断を行うことができた。10回切断を行った後の火口の状態を目視で観察したところ、火口先端に黒い変色が観察された。
【0042】
(実施例3)
使用する火口を変更した以外は実施例1と同様に、切断試験を実施した。火口として、図8に示す火口201を用いた。火口201は、火口101と同じ外筒部材120を備える。火口201は、内筒部材210のストレート部211に形成される凹部(内筒部材10における凹部16)を有さず、基端側にテーパ部229を備える。内筒部材210のその他の点は内筒部材10と同様である。
【0043】
[結果]
実施例1と同様の条件で10回連続して切断を実施し、問題なく切断を行うことができた。10回切断を行った後の火口の状態を目視で観察したところ、火口先端にやや変色が観察された。パチンと音がする逆火は確認されなかった。
【0044】
(実施例4)
[使用装置および切断対象]
・火口:図1図6に示す実施形態の火口(番手♯3)
・切断機:NCガス切断機(コータキ精機株式会社製、PC-8000CNC)
・切断対象鋼材の板厚および鋼種:板厚25mm、SS400
[切断手順および条件]
切断対象鋼材を定盤上にセットし、NC機体の操作によって予熱用酸素バルブおよび可燃性ガスバルブを開とした。可燃性ガスとして、水素ガス(日本工業規格JIS K 0512-1995、工業用2級相当)を用いた。機体のマスフロー制御部に信号を送り、火口から燃料ガスが噴出していることを確認後、着火した。切断プログラムを開始して、自動制御によって強予熱を実施した。部材が赤熱化し、火花が散り始めたことを確認して強予熱を解除した。自動制御により、切断用酸素バルブが開とされ、切断が開始された。
強予熱時(1回目)は、予熱用酸素の圧力0.4MPa、水素の圧力は0.045MPaであった。強予熱時の予熱用酸素の流量は8.0L/min、予熱用水素の流量は20.0L/minとした。切断時には、予熱用酸素の圧力は0.35MPa、水素の圧力は0.04MPa、切断用酸素の圧力は0.35MPaとした。予熱用酸素の流量は6.4L/min、予熱用水素の流量は16.0L/min、切断高さは6mmとした。
【0045】
切断速度を370mm/min、380mm/min、475mm/min、500mm/min、525mm/min、540mm/min、550mm/minとし、切断を実施した。370mm/minから540mm/minまでの各速度で、切断を行うことができた。540mm/minでの切断が安定していた。11回切断を行った後の火口の状態を目視で観察したところ、火口先端にやや変色が観察されたが、性能に影響はなかった。逆火音はいずれの場合も観察されなかった。
【0046】
実施例1~4の試験条件および結果を表1にまとめて示す。また、比較例として、既存の水素用ガス切断火口を用いてガス切断を行う場合の条件を示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示されるとおり、本開示にかかる火口を用いると、40mm厚の鋼材の切断において、従来品である火口と比較して1.14倍の切断速度で切断を実施できた。また、本開示にかかる火口を用いると、25mm厚の鋼材の切断において、従来品である火口と比較して最大で1.35倍の切断速度で切断を実施できた。切断速度の向上は、燃料ガスおよび酸素ガスの使用量削減、消費エネルギー削減につながり、作業効率も向上することが確認された。また、本開示にかかる火口を用いると、逆火が生じ難く、安全性が確保されるとともに使用可能時間の長い、耐久性に優れた火口が提供されることが確認された。
【0049】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0050】
1、101、201 火口、10、210 内筒部材、11、21、121、211 ストレート部、12、23 テーパ部、13 面取り部、15 雄ねじ部、16 凹部、20、120 外筒部材、22 接続部、26 フランジ部、30 基端部材、31 第1段部、51、151 スリット、81 第1流路、82、282 第2流路、91 第1部分、92 第2部分、93 第3部分、229 テーパ部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8