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特開2024-166605液体アンモニア輸送用又は貯蔵用鋼材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166605
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】液体アンモニア輸送用又は貯蔵用鋼材
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241122BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20241122BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20241122BHJP
   C21D 8/02 20060101ALN20241122BHJP
【FI】
C22C38/00 301F
C22C38/60
C21D9/46 S
C21D8/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082809
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】三浦 進一
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 和彦
【テーマコード(参考)】
4K032
4K037
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA03
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA08
4K032AA09
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA17
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA28
4K032AA29
4K032AA30
4K032AA31
4K032AA33
4K032AA34
4K032AA35
4K032AA36
4K032AA37
4K032AA39
4K032AA40
4K032BA01
4K032CA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CA05
4K032CC01
4K032CC02
4K032CC03
4K032CC04
4K032CD02
4K032CD03
4K032CD05
4K032CD06
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA03
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA09
4K037EA10
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA14
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA24
4K037EA25
4K037EA26
4K037EA27
4K037EA29
4K037EA30
4K037EA31
4K037EA32
4K037EA33
4K037EA35
4K037EA36
4K037EB02
4K037EB07
4K037EB08
4K037EB09
4K037FA01
4K037FA02
4K037FA03
4K037FA05
4K037FC02
4K037FC03
4K037FC04
4K037FD02
4K037FD03
4K037FD04
4K037FD05
4K037FD06
4K037FF01
4K037FF02
(57)【要約】
【課題】 本発明は、上記の現状に鑑み開発されたものであって、液体アンモニア環境下で使用され耐アンモニアSCC性が要求される、プラントやタンクなどといった大型構造物の構造用部材に適用して、耐アンモニアSCC性に優れるアンモニア輸送用又は貯蔵用鋼材を提供することを目的とする。
【解決手段】 質量%で、C:0.50%以下、Si:0.01~1.00%、Mn:0.10~3.00%、P:0.030%以下、S:0.0100%以下、を含有し、さらにZr、Hf、Ta、Ga、Te、Sr、Se、Pb、As、Bi、Ba、La、Sm、Pr、Nd、Ce、Sc、Ag、Pt、Auのうちから選ばれる1種または2種以上を特定の量を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有することを特徴とする液体アンモニア輸送用又は貯蔵用鋼材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.50%以下、
Si:0.01~1.00%、
Mn:0.10~3.00%、
P:0.030%以下、
S:0.0100%以下、
を含有し、さらに
Zr:0.001~0.100%、
Hf:0.001~0.100%、
Ta:0.001~0.200%、
Ga:0.001~0.300%、
Te:0.001~0.500%、
Sr:0.001~0.500%、
Se:0.001~0.500%、
Pb:0.001~0.500%、
As:0.001~0.500%、
Bi:0.001~0.500%、
Ba:0.001~0.500%、
La:0.001~0.100%、
Sm:0.001~0.100%、
Pr:0.001~0.100%、
Nd:0.001~0.100%、
Ce:0.001~0.100%、
Sc:0.001~0.100%、
Ag:0.001~0.010%、
Pt:0.001~0.010%、
Au:0.001~0.010%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有することを特徴とする液体アンモニア輸送用又は貯蔵用鋼材。
【請求項2】
前記成分組成が、さらに、質量%で、下記A群~G群のうちから選ばれた1群以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の液体アンモニア輸送用又は貯蔵用鋼材。

A群:Ti:0.100%以下、
B群:Sb:0.50%以下、
Sn:0.50%以下、
Cu:3.00%以下、
Ni:3.00%以下、
Cr:3.00%以下、
のうちから選ばれる1種または2種以上、
C群:Ca:0.0100%以下、
Y:0.100%以下、
Mg:0.0200%以下、
のうちから選ばれる1種または2種以上、
D群:Co:0.50%以下、
Mo:1.00%以下、
W:1.00%以下、
V:0.200%以下、
Nb:0.200%以下、
のうちから選ばれる1種または2種以上、
E群:Al:0.300%以下、
F群:B:0.0300%以下、
G群:N:0.0100%以下
【請求項3】
鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値が265以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の液体アンモニア輸送用又は貯蔵用鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体アンモニア環境下で使用されるパイプライン、プラントやタンクなどといった大型構造物の構造用部材に好適な液体アンモニア輸送用又は貯蔵用鋼材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アンモニアは、主に硝酸などの基礎化学品や肥料の原料用途として、広く製造、流通している化合物である。一方で、アンモニアは取扱いが難しく、特に液体アンモニアを取り扱う炭素鋼製の配管や貯槽、タンク車、ラインパイプにおいて、アンモニアによる応力腐食割れ(以下、アンモニアSCC(Stress Corrosion Cracking)ともいう)が発生することが知られている。
そのため、従来から、液体アンモニア環境下で使用される構造物については、応力腐食割れに対する感受性の低い鋼材の適用、および、アンモニアSCCを抑制する操業上の措置が講じられてきた。
例えば、アンモニアSCCの発生については、経験的に、材料の強度と相関があることが知られている。炭素鋼の使用にあたっては、その強度に上限を設けること、および、溶接部に対して応力除去焼鈍を施すことにより、アンモニアSCCの抑制が図られている。
また、液体アンモニア環境では、液体アンモニアと共存する水が応力腐食割れの発生を抑制する作用を示す。このため、液体アンモニアの品質に支障がないレベルで水を添加するという予防措置が講じられる場合もある。
ところで、近年、液体アンモニアの用途拡大を背景に、世界的にその需要が増加傾向にあり、設備の大型化、および流通・製造でのコスト低減が志向されている。これに伴い、上記のようなアンモニアSCCの抑制対策や予防措置を行うことが困難となっている。
例えば、溶接部に応力除去焼鈍を施すことは製造工程を増やすこととなるので、特に大型設備において、その適用は現実的とは言えない。また、液体アンモニアへの水の添加は、液体アンモニア中の水分濃度を適切に管理する必要があるが、設備の大型化に伴って、その濃度管理は困難となる。さらに、近年需要が高まっている高純度の液体アンモニアについては、そもそも水の添加による予防措置を講じることができない。
そのため、液体アンモニアを取り扱うプラントやタンクなどの構造用部材に適用して好適な耐アンモニアSCC性に優れた鋼材の開発が望まれている。
【0003】
液体アンモニア環境で使用される鋼材に関する技術として、例えば、特許文献1には、スラブを熱間圧延後、組織制御のためにオーステナイト化温度に加熱し空冷以下の冷却速度で冷却した後、さらに2相域温度(Ac1~Ac3)に加熱焼入れし、続いて焼戻し処理を施すことで所望の特性、すなわち抗張力及び降伏強度を確保することができ、従って耐アンモニア割れ性を達成することができることを特徴とする耐アンモニア割れ性に優れた高張力鋼の製造法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、PCM=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B(%)とするとき、PCM≦0.24%である鋼片を所定の板厚に圧延した後、焼入れ処理加熱の前に1100~1300℃の温度に加熱し、C≦0.05%である厚さ0.5mm以上の脱炭層を鋼板表面部に形成し、次いで、焼入れ焼戻し処理を施すことを特徴とする耐硫化物応力腐食割れ性及び耐アンモニア応力腐食割れ性のすぐれた調質60kgf/mm級高張力鋼板の製造方法が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、アンモニアタンク用鋼板の製造方法において、前記鋼板素材の表面から0.3mm以内のC含有量が母材C量の50%以下になるように表面脱炭する工程と、前記表面脱炭鋼板を焼入れ温度に加熱した後前記脱炭表面の冷却速度を800~500℃の温度範囲で150℃/sec以下になるように冷却する工程と、を有して成ることを特徴とする耐アンモニア割れ特性のすぐれた調質鋼板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-9571号公報
【特許文献2】特開昭61-279631号公報
【特許文献3】特開昭58-67830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3に開示される製造方法で得られる鋼材は、表面組織を制御することにより、耐アンモニアSCC性を担保するものである。そのため、実際の施工において、特許文献1~3の鋼材が加熱加工を受けた場合、表面組織が変質する可能性がある。このため、必ずしも十分な耐アンモニアSCC性が得られるとは言えない。
【0008】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたものであって、液体アンモニア環境下で使用され耐アンモニアSCC性が要求される、プラントやタンクなどといった大型構造物の構造用部材に適用して、耐アンモニアSCC性に優れる液体アンモニア輸送用又は貯蔵用鋼材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた。
【0010】
まず、本発明者らは、液体アンモニア環境下におけるアンモニアSCCの発生メカニズムを詳細に検討し、以下の知見を得た。
液体アンモニア環境では、以下の腐食反応が生じる。
アノード反応:2Fe→2Fe2++4e
カソード反応:O+2NH +4e→2OH+2NH
ただし、鋼材表面には、上記の腐食反応に伴い、不活性な酸化被膜が形成される。このため、通常であれば、上記の腐食反応の総反応量は多くない。したがって、液体アンモニア環境は、本質的には厳しい腐食環境ではない。
しかしながら、鋼材の残留応力や外部から加えられる応力により、鋼材表面に新生面が生じると、酸化被膜が存在しない新生面をアノードサイトとした選択的な鉄溶解反応が進行し、亀裂を形成する。亀裂は応力集中部となるため、亀裂先端での被膜破壊と、腐食反応とが加速度的に進行していき、最終的に鋼材を破断に至らしめる。なお、SCCにより亀裂がひとたび発生した場合、鋼材の寿命を決めるのは、鋼材のSCC亀裂伝播に対する耐性である。したがって、鋼材の耐アンモニアSCC性を確保するためには、鋼材表面に新生面が生じないよう、強固な酸化皮膜を形成し、SCCの発生を防止するとともに、SCC亀裂伝播耐性を高める必要がある。
【0011】
そこで、本発明者らは、上記の知見に基づき、アンモニア環境において優れた耐アンモニアSCC性を示す鋼材の開発に向けて鋭意研究を重ねた。
【0012】
その結果、耐アンモニアSCC性を向上させるためには、Zr、Hf、Ga、Ta、Te、Sr、Se、Pb、As、Bi、Ba、La、Sm、Pr、Nd、Ce、Sc、Ag、Pt、Auを適正量含有することが有効であることを知見し、アンモニア環境下で使用されるパイプライン、プラントやタンクなどといった大型構造物の構造用部材に好適な液体アンモニア輸送用又は貯蔵用鋼材を提供できることを見出した。
【0013】
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えた末に完成されたものである。すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
[1] 質量%で、
C:0.50%以下、
Si:0.01~1.00%、
Mn:0.10~3.00%、
P:0.030%以下、
S:0.0100%以下、
を含有し、さらに
Zr:0.001~0.100%、
Hf:0.001~0.100%、
Ta:0.001~0.200%、
Ga:0.001~0.300%、
Te:0.001~0.500%、
Sr:0.001~0.500%、
Se:0.001~0.500%、
Pb:0.001~0.500%、
As:0.001~0.500%、
Bi:0.001~0.500%、
Ba:0.001~0.500%、
La:0.001~0.100%、
Sm:0.001~0.100%、
Pr:0.001~0.100%、
Nd:0.001~0.100%、
Ce:0.001~0.100%、
Sc:0.001~0.100%、
Ag:0.001~0.010%、
Pt:0.001~0.010%、
Au:0.001~0.010%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有することを特徴とする液体アンモニア輸送用又は貯蔵用鋼材。
[2] 前記成分組成が、さらに、質量%で、下記A群~G群のうちから選ばれた1群以上を含有することを特徴とする[1]に記載の液体アンモニア輸送用又は貯蔵用鋼材。

A群:Ti:0.100%以下、
B群:Sb:0.50%以下、
Sn:0.50%以下、
Cu:3.00%以下、
Ni:3.00%以下、
Cr:3.00%以下、
のうちから選ばれる1種または2種以上、
C群:Ca:0.0100%以下、
Y:0.100%以下、
Mg:0.0200%以下、
のうちから選ばれる1種または2種以上、
D群:Co:0.50%以下、
Mo:1.00%以下、
W:1.00%以下、
V:0.200%以下、
Nb:0.200%以下、
のうちから選ばれる1種または2種以上、
E群:Al:0.300%以下、
F群:B:0.0300%以下、
G群:N:0.0100%以下
[3] 鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値が265以下であることを特徴とする[1]または[2]に記載の液体アンモニア輸送用又は貯蔵用鋼材。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、液体アンモニア環境下で使用されるパイプライン、プラントやタンクなどといった大型構造物の構造用部材に適用して好適な、耐アンモニアSCC性に優れる液体アンモニア輸送用又は貯蔵用鋼材を得ることができる。また、本発明の鋼材は、特定の成分を適正量含有することで耐アンモニアSCC性を担保するため、表面組織の変質により耐アンモニアSCC性が損なわれるおそれがなく、表面の組織制御が不要であり、熱間圧延後に、焼戻しなどの熱処理を施さなくとも製造することができる。さらに、本発明の鋼材を、例えば、液体アンモニアの貯蔵タンクに適用する場合には、溶接部に対し応力除去焼鈍を施さなくとも、従来に比べてより長期間にわたる使用が可能となるので、産業上極めて有利である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、鋼材の成分組成における単位はいずれも「質量%」であり、以下、特に断らない限り単に「%」で示す。
【0016】
C:0.50%以下
Cは、鋼の強度確保に有効な元素である。したがって、本発明においては、0.01%以上を含有することが好ましい。より好ましくは、0.02%以上である。一方、C含有量が0.50%を超えると、加工性および溶接性が大幅に劣化し、また強度上昇に伴い、耐アンモニアSCC性が低下する。このため、C含有量は0.50%以下とする。好ましくは0.40%以下、より好ましくは0.30%以下、さらに好ましくは0.20%以下である。
【0017】
Si:0.01~1.00%
Siは、溶鋼の脱酸剤として作用する元素である。このような効果を確保するためには0.01%以上の含有を必要とする。Si含有量は0.02%以上であることが好ましく、0.03%以上であることがより好ましく、0.05%以上であることがさらに好ましい。一方、Si含有量が1.00%を超えると、延性が低下し、靭性が劣化し、また介在物が増加するため、介在物が割れの起点となりSCCが発生するおそれが高まる。このため、Si含有量は、1.00%以下とし、0.80%以下が好ましく、0.70%以下がより好ましく、0.60%以下であることがさらに好ましい。
【0018】
Mn:0.10~3.00%
Mnは、強度および靭性を改善する元素である。ここで、Mn含有量が0.10%未満では、その効果が十分でないのでMn含有量は0.10%以上とし、0.20%以上であることが好ましく、0.50%以上であることがさらに好ましい。一方、Mn含有量が3.00%を超えると、溶接性が劣化し、また強度が上昇することでアンモニアSCCが発生する恐れが高まるため、Mn含有量は3.00%以下とする。好ましくは2.00%以下である。
【0019】
P:0.030%以下
Pは、靭性及び溶接性を劣化させる有害元素であるので、P含有量は0.030%以下とする。好ましくは0.025%以下である。下限は特に限定されるわけではないが、過度な脱リンはコストの増加を招くという理由からP含有量は0.001%以上とすることが好ましい。
【0020】
S:0.0100%以下
Sは、鋼の靭性および溶接性を劣化させる有害元素であるので、極力低減することが望ましい。特に、S含有量が0.0100%を超えると、母材靭性および溶接部靭性の劣化が大きくなる。そのため、S含有量は0.0100%以下とする。好ましくは0.0080%以下、さらに好ましくは0.0060%以下である。下限は特に限定されるわけではないが、過度な脱硫はコストの増加を招くという理由からS含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。
【0021】
上記成分のほか、以下の元素(Zr:0.001~0.100%、Hf:0.001~0.100%、Ta:0.001~0.200%、Ga:0.001~0.300%、Te:0.001~0.500%、Sr:0.001~0.500%、Se:0.001~0.500%、Pb:0.001~0.500%、As:0.001~0.500%、
Bi:0.001~0.500%、Ba:0.001~0.500%、La:0.001~0.100%、Sm:0.001~0.100%、Pr:0.001~0.100%、Nd:0.001~0.100%、Ce:0.001~0.100%、Sc:0.001~0.100%、Ag:0.001~0.010%、Pt:0.001~0.010%、
Au:0.001~0.010%)を1つまたは2つ以上を追加する必要がある。
なお、本発明の鋼材は、含有成分の組合せは特に限定されるものではないが、Zr:0.001~0.100%、Hf:0.001~0.100%、Ta:0.001~0.200%から1つ以上の元素、 Te:0.001~0.500%、Sr:0.001~0.500%、Se:0.001~0.500%、Pb:0.001~0.500%、As:0.001~0.500%、Bi:0.001~0.500%、Ba:0.001~0.500%から1つ以上の元素、 La:0.001~0.100%、Sm:0.001~0.100%、Pr:0.001~0.100%、Nd:0.001~0.100%、Ce:0.001~0.100%、Sc:0.001~0.100%から1つ以上の元素を同時に含有することで耐アンモニア性SCC性のさらなる向上が見込める。
【0022】
Zr:0.001~0.100%、Hf:0.001~0.100%、Ta:0.001~0.200%
Zr、HfおよびTaは、十分な耐アンモニアSCC性を得るために重要な元素である。すなわち、これらの元素はいずれも、液体アンモニア環境中において鋼材の表面に強固な酸化皮膜を形成する働きを有する。これにより、応力腐食割れの起点となる局部腐食の発生を抑制するとともに、亀裂先端での選択的なアノード溶解反応の進行を抑制し、鋼材のアンモニアSCC感受性を低減する。このような効果は、これらの元素を0.001%以上含有させることで発現するので、0.001%以上含有させる。一方、ZrおよびHfは含有量が0.100%を超えると効果が飽和しコストの増加を招くため、Zr含有量よびHf含有量はそれぞれ0.100%以下とし、0.080%以下が好ましい。Taは含有量が0.200%を超えると効果が飽和し、コストの増加を招くため、Ta含有量は0.200%以下とし、0.180%以下が好ましい。
【0023】
液体アンモニア環境中における上記の強固な酸化皮膜には、例えばZr(OH)やHf(OH)、Ta(OH)が挙げられ、これらの酸化皮膜の膜厚は5nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0024】
Ga:0.001~0.300%
Gaは、十分な耐アンモニアSCC性を得るために重要な元素である。すなわち、Gaは鋼材表面からGa3+イオンとして容易に遊離する性質を持つ。遊離したGa3+イオンはアンモニア中に存在する水酸化物イオン(OH)と速やかに反応し、Ga(OH)を形成する。亀裂が深くなると、亀裂部では、Ga(OH)が形成して、Ga(OH)が堆積する。これにより、亀裂部が保護されて、亀裂部での選択的アノード溶解反応の進行を抑制し、その結果、耐アンモニアSCC性を向上する働きを有する。このような効果は、Gaを0.001%以上含有させることで発現するので、0.001%以上含有させる。一方で、Gaが過剰に含有されると、溶接金属部の靭性が低下するとともに、コストの増加を招く。そのため、Ga含有量は0.300%以下とし、0.200%以下が好ましい。なお、Ga(OH)の膜厚は5nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0025】
Te:0.001~0.500%、Sr:0.001~0.500%、Se:0.001~0.500%、Pb:0.001~0.500%、As:0.001~0.500%、Bi:0.001~0.500%、Ba:0.001~0.500%
Te、Sr、Se、Pb、As、BiおよびBaは、十分な耐アンモニアSCC性を得るために重要な元素である。すなわち、これらの元素はいずれも、鋼材の耐食性を高める元素であり、亀裂先端での選択的なアノード溶解の結果、過剰にpHが低下した場合に、加速度的に進行する腐食反応を抑制する働きを有する。加速度的に進行する腐食反応を抑制するためには、鋼材において表面から1mmの範囲で濃化し、すなわち、これらの元素が0.01%以上の組成で存在する(濃化している)範囲が少なくとも1箇所存在することが好ましい。これらの元素が0.01%以上の組成で存在するとは、1μm×1μm以上の範囲を指す。このような効果は、これらの元素を0.001%以上含有させることで発現するので、含有させる場合には0.001%以上含有させる。しかし、いずれの元素も多量に含有させると、溶接性や靱性を劣化させるとともに、コストの増加を招く。これらの元素の含有量は0.500%以下とし、0.400%以下が好ましく、0.350%以下がより好ましい。
【0026】
La:0.001~0.100%、Sm:0.001~0.100%、Pr:0.001~0.100%、Nd:0.001~0.100%、Ce:0.001~0.100%、Sc:0.001~0.100%
La、Sm、Pr、Nd、CeおよびScは、十分な耐アンモニアSCC性を得るために重要な元素である。すなわち、硫化物形態制御により表皮下大型介在物の発生を防止し、SCC亀裂伝播耐性を高める働きを有する。硫化物形態制御により表皮下大型介在物の粒径を全て100μm以下にすることができる。このような効果は、これらの元素を0.001%以上含有させることで発現するので、0.001%以上含有させる。しかし、いずれの元素も多量に含有させると、溶接部の靱性を劣化させるとともに、コストの増加を招く。したがって、これらの元素の含有量は0.100%以下とし、0.080%以下が好ましい。これらの元素はREM(希土類元素)と称される元素の一部である。
【0027】
Ag:0.001~0.010%、Pt:0.001~0.010%、Au:0.001~0.010%
Ag、PtおよびAuは、十分な耐アンモニアSCC性を得るために重要な元素である。すなわち、これらの元素はいずれも、液体アンモニア環境中で鋼材の腐食に伴って溶出し、鋼材表面に不活性な皮膜を形成する。これにより、亀裂先端での選択的なアノード溶解反応の進行を抑制し、鋼材のアンモニアSCC感受性を低減する働きを有する。このような効果は、これらの元素を0.001%以上含有させることで発現するので、含有させる場合には0.001%以上含有させる。しかし、いずれの元素も多量に含有させると、靱性を劣化させ、コストの増加を招く。したがって、これらの元素の含有量は0.010%以下とする。
【0028】
液体アンモニア環境中で形成される上記の不活性な皮膜には、例えばAgOH、Au(OH)、Pt(OH)が挙げられ、これらの不活性な皮膜の膜厚は5nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0029】
以上、基本となる必須成分について説明したが、必要に応じて、以下の元素を適宜含有させることができる。すなわち、下記A群~G群のうちから選ばれた1群以上を適宜含有させることができる。
【0030】
A群:Ti:0.100%以下
Tiは、耐アンモニアSCC性をさらに向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。すなわち、Tiは、液体アンモニア環境中において鋼材の表面に強固な酸化皮膜を形成する働きを有する。これにより、応力腐食割れの起点となる局部腐食の発生を抑制するとともに、亀裂先端での選択的なアノード溶解反応の進行を抑制し、鋼材のアンモニアSCC感受性を低減する。このような効果を得るためには、Tiを含有する場合には、Tiを0.001%以上含有させることが好ましく、0.020%以上含有させることがより好ましい。一方、0.100%を超えると効果が飽和するため、Tiを含有する場合には、Ti含有量は0.100%以下とし、0.080%以下が好ましい。
【0031】
液体アンモニア環境中における上記の強固な酸化皮膜には、例えばTi(OH)が挙げられ、これらの酸化皮膜の膜厚は5nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0032】
B群:Sb:0.50%以下、Sn:0.50%以下、Cu:3.00%以下、Ni:3.00%以下、Cr:3.00%以下のうちから選ばれる1種または2種以上
Sb、Sn、Cu、NiおよびCrは、耐アンモニアSCC性をさらに向上させる元素であり、このうちの1種または2種以上を含有させてもよい。これらの元素はいずれも、鋼材の耐食性を高める元素であり、亀裂先端での選択的なアノード溶解の結果、過剰にpHが低下した場合に、加速度的に進行する腐食反応を抑制する働きを有する。このような効果を得るためには、これらの元素を0.01%以上含有させることが好ましく、0.02%以上含有させることがより好ましい。しかし、いずれの元素も多量に含有させると、溶接性や靱性を劣化させ、コストの増加を招く。したがって、これらの元素を含有させる場合、Sb含有量は0.50%以下とし、0.35%以下が好ましい。Snの含有量は0.50%以下とし、0.35%以下が好ましい。Cuの含有量は3.00%以下とし、2.00%以下が好ましい。Niの含有量は3.00%以下とし、2.00%以下が好ましい。Crの含有量は3.00%以下とし、2.00%以下が好ましい。
【0033】
C群:Ca:0.0100%以下、Y:0.100%以下、Mg:0.0200%以下のうちから選ばれる1種または2種以上
Ca、Y、Mgはいずれも、溶接部の靱性を確保する目的で、このうちの1種または2種以上を含有させてもよい。このような効果を得るためには、Caは0.0001%以上含有させることが好ましく、Yは0.001%以上含有させることが好ましく、Mgは0.001%以上含有させることが好ましい。しかし、いずれの元素も多量に含有させると、溶接部の靱性劣化やコストの増加を招く。したがって、これらの元素を含有させる場合、Ca含有量は0.0100%以下とし、Y含有量は0.100%以下とし、Mg含有量は0.0200%以下とする。好ましくは、Ca含有量は0.0080%以下とし、Y含有量は0.080%以下とし、Mg含有量は0.0180%以下とする。
【0034】
D群:Co:0.50%以下、Mo:1.00%以下、W:1.00%以下、V:0.200%以下、Nb:0.200%以下のうちから選ばれる1種または2種以上
Co、Mo、W、V、Nbは鋼材の焼入れ性を向上させる元素であり、所望の鋼材の強度を確保する目的でこのうちの1種または2種以上を必要に応じて含有させてもよい。
このような効果を得るためには、Coは0.01%以上含有させることが好ましく、Moは0.01%以上含有させることが好ましく、Wは0.01%以上含有させることが好ましく、Vは0.001%以上含有させることが好ましく、Nbは0.001%以上含有させることが好ましい。しかし、Co、MoおよびWは多量に含有させると、鋼材の靱性や溶接性を劣化させ、コストの増加を招く。したがって、これらの元素を含有させる場合には、Co含有量は0.50%以下とし、Mo含有量およびW含有量は1.00%以下とする。また、VおよびNbは含有量が0.200%を超えると効果が飽和する。好ましくは、Co含有量は0.40%以下とし、Mo含有量およびW含有量は0.90%以下とする。また、VおよびNbは含有量が0.200%を超えると効果が飽和する。したがって、これらの元素を含有する場合には、V含有量およびNb含有量は0.200%以下とする。V含有量およびNb含有量は0.180%以下とすることが好ましい。
【0035】
E群:Al:0.300%以下
Alは、脱酸剤として有効な元素であり、脱酸効率を向上させるために必要に応じて含有させてもよい。このような効果を得るためには、0.010%以上含有することが好ましい。しかし、Al含有量が0.300%を超えると、鋼材の靭性を低下させる。したがって、Alを含有させる場合、その含有量は0.300%以下とし、0.250%以下であることが好ましい。
【0036】
F群:B:0.0300%以下
Bは、鋼材の焼入れ性を向上させる元素であり、所望の鋼材の強度を確保する目的で必要に応じて含有させてもよい。このような効果を得るためには、Bを0.0001%以上含有させることが好ましく、0.0003%以上含有させることがより好ましい。しかし、B含有量が0.0300%を超えると、鋼材の靱性の大幅な劣化を招く。したがって、Bを含有させる場合、その含有量は0.0300%以下とし、0.0200%以下とすることが好ましい。
【0037】
G群:N:0.0100%以下
Nは、靭性を低下させる有害な元素であるので、極力低減させることが望ましい。特に、N含有量が0.0100%を超えると、鋼材の靭性の低下が大きくなる。したがって、Nを含有する場合には、N含有量は0.0100%以下とし、好ましくは0.0080%以下である。より好ましくは0.0070%以下である。一方、製鋼工程における精錬コストが過度に増加することを避けるため、N含有量は0.0005%以上とすることが好ましく、0.0010%以上とすることがより好ましい。
【0038】
上記以外の成分はFeおよび不可避的不純物であり、不可避的不純物は0.01%未満のO(酸素)もしくは0.001%未満の上記含有成分であることを指す。
【0039】
また、耐アンモニアSCC性をより一層向上させる観点から、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値を265以下とすることが有効である。
【0040】
鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値:265以下
転位や析出物に起因して生じる、鋼材の表層部の硬化相は、1)粗大なすべり面の形成を助長し、2)アノード溶解の優先部として作用するために、アンモニアSCCを助長する。これは、鋼材の表層部に存在する微小な硬化相であっても同様である。
【0041】
すなわち、鋼材の耐アンモニアSCC性をより高めるためには、局所的な硬化相による鋼材の表層部での硬度増加を抑制することが有効である。鋼材の表層部での硬度増加を抑制することで、鋼材表面をアノードサイトとした選択的な鉄溶解反応の進行を抑制、亀裂の発生・進展の抑制が可能である。
【0042】
このため、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値は、265以下とすることが好ましい。より好ましくは250以下である。さらに好ましくは230以下であり、もっとも好ましくは210以下である。なお、下限については特に限定されるものではないが、140以上とすることが好ましい。
ここで、鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1の最大値は、鋼材の圧延方向断面の鋼材表面から深さ:0.5mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向に10点測定したビッカース硬さにおける最大値である。
【0043】
上記に記載の組成成分を有し、上記に記載の硬さとした鋼材を使用することで、アンモニア中で応力がかかった際に、酸化被膜が存在しない鋼材表面をアノードサイトとした選択的な鉄溶解反応の進行により亀裂が発生・進展することを防ぐことが可能である。
【0044】
上記で述べている液体アンモニアとは、一部気体アンモニアが含まれる場合も含まれる。
【0045】
本発明の鋼材は、組織は特に限定されるものではないが、特に表層の強度が上がると耐SCC性が低下するため、鋼材表面から1mmの範囲でマルテンサイトが組織全体の50%以下とすることが好ましい。
【0046】
次に、本発明の鋼材の製造方法について、説明する。なお、本発明の製造方法は、以下に記載の方法に限定されるものではない。
【0047】
[鋼材の製造方法]
本発明の鋼材は、上記した成分組成に調整した鋼を、転炉や電気炉、真空脱ガス等、公知の精錬プロセスを用いて溶製し、連続鋳造法あるいは造塊-分塊圧延法で鋼素材(スラブ)とし、ついでこの鋼素材を必要に応じて再加熱してから熱間圧延することにより、鋼板または形鋼等とすることで製造することができる。
【0048】
ここで、上記の鋼素材(スラブ)を所望の寸法形状に熱間圧延する際には、スラブ再加熱温度を900~1350℃として再加熱することが好ましい。スラブ再加熱温度が900℃未満では変形抵抗が大きく、熱間圧延が難しくなる。一方、スラブ再加熱温度が1350℃を超えると、鋼材表面に部分溶融相が生じるため表面痕が発生したり、スケールロスや燃料原単位が増加したりする。
【0049】
なお、本発明に係る鋼材の製造方法において、鋼素材(スラブ)を再加熱して熱間圧延するプロセスに代えて、連続鋳造法あるいは造塊-分塊圧延法により製造された鋼素材(スラブ)を900℃未満の温度域に冷却することなく、そのまま再加熱せずに熱間圧延することが可能である。また、熱間圧延後に得られた熱延鋼板に、再加熱処理、酸洗、冷間圧延を施し、所定板厚の冷延鋼板としてもよい。
【0050】
熱間圧延では、仕上圧延終了温度を650℃以上とすることが好ましい。仕上圧延終了温度が650℃未満では、変形抵抗の増大により圧延荷重が増加し、圧延の実施が困難となる。なお、仕上圧延終了温度は950℃以下とすることが好ましい。圧延終了温度が950℃を超えると、未再結晶温度域における圧下率が十分には確保できず、最終的に得られる鋼板の強度と靭性が低下する。
【0051】
熱間圧延後の冷却は、空冷、加速冷却のいずれの方法でもよいが、より高い強度を得たい場合には、加速冷却を行うことが好ましい。ここで、加速冷却を行う場合には、平均冷却速度を2~100℃/s、冷却停止温度を700~400℃とするのが好ましい。すなわち、平均冷却速度が2℃/s未満、および/または冷却停止温度が700℃超では、加速冷却の効果が小さく、十分な高強度化が達成されない場合がある。一方、平均冷却速度が100℃/s超、および/または冷却停止温度が400℃未満では、鋼材の靭性が低下したり、鋼材の形状に歪が発生したりする場合がある。ここでいう平均冷却速度とは加速冷却における冷却開始温度から冷却停止温度までの平均冷却速度である。
【0052】
本発明においては、耐アンモニアSCC性の観点からは、圧延後に冷却された鋼板に対して熱処理を行う必要がない。なお、鋼板にひずみが発生した場合にその矯正を目的とした熱処理を施すことが可能であり、その場合には、200~700℃まで加熱することが好ましい。その際、加熱時の保持時間は300秒以上とすることが好ましい。
【0053】
また、本発明において、製造条件における温度はいずれも鋼板平均温度とする。鋼板平均温度は、板厚、表面温度および冷却条件等から、シミュレーション計算等により求められる。例えば、差分法を用い、板厚方向の温度分布を計算することにより、鋼板平均温度が求められる。
【0054】
上記のとおり得られた本発明の鋼材は、液体アンモニア輸送用又は貯蔵用鋼材として、液体アンモニア環境下で使用され耐アンモニアSCC性が要求される、プラントやタンクなどといった大型構造物の構造用部材に適用できる。
【実施例0055】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0056】
表1-1、表1-2、表1-3、表1-4に示す成分組成の鋼(残部はFeおよび不可避的不純物である)を、転炉で溶製して、連続鋳造により鋼スラブとした。これらの鋼スラブを再加熱後、熱間圧延を施し、熱間圧延終了後ただちに水冷した。得られた鋼板から試験片を採取し、以下の耐アンモニアSCC性評価試験を行った。
【0057】
[耐アンモニアSCC性評価試験]
上記のようにして得られた鋼材から、幅:20mm× 長さ:120mm× 厚さ:3.0mmの試験片を採取した。ついで、上記の試験片を、内半径:15mmで長さ方向にU字型に曲げたのち、カルバミン酸アンモニウム12.5gと液体アンモニア1Lとを混合した溶液中に、2.0V(vs.Pt)のアノード電圧を付加しつつ、168時間浸漬した。浸漬後、試験片の断面を切り出し、断面に存在する亀裂の最大亀裂深さ(試験片表面から亀裂先端までの距離)を測定し、以下の基準で耐アンモニアSCC性を評価した。なお、〇もしくは◎であれば、十分な耐アンモニアSCC性を有していると判定した。結果を表2-1、表2-2に示す。
◎(合格、特に優れる):最大亀裂深さが100μm未満
○(合格):最大亀裂深さが100μm以上300μm未満
×(不合格):最大亀裂深さが300μm以上または破断
発明例のうちZr、Hf、Taから1つ以上の元素、Te、Sr、Se、Pb、As、Bi、Baから1つ以上の元素、La、Sm、Pr、Nd、Ce、Scから1つ以上の元素を同時に含有した鋼No.22~24、26~28、30~32、35、38~42は耐アンモニアSCC性がさらに向上した(判定が◎)。
【0058】
[ビッカース硬さ測定試験]
鋼材の表層部におけるビッカース硬さHV0.1は、以下の手順で測定する。
鋼材を、圧延方向と平行、かつ、鋼材表面と垂直な面が対象面となるように切断する。
ついで、切断した鋼材の断面(圧延方向断面(L断面))の鋼材表面から深さ:0.5mmの位置において、JIS Z 2244(2009)に準拠して、試験力:0.1kgf(0.9807N)、ピッチ:1mmの条件で、鋼材の圧延方向にビッカース硬さを10点測定する。結果を表2-1、2-2に併記する。
【0059】
【表1-1】
【0060】
【表1-2】
【0061】
【表1-3】
【0062】
【表1-4】
【0063】
【表2-1】
【0064】
【表2-2】
【0065】
表2-1、表2-2に示したとおり、発明例ではいずれも、熱間圧延後に、焼戻しなどの熱処理を施さなくとも、優れた耐アンモニアSCC性が得られていた。これに対して、比較例ではいずれも十分な耐アンモニアSCC性が得られなかった。