(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166611
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】画像処理装置、印刷システム、画像処理方法およびコンピュータープログラム
(51)【国際特許分類】
H04N 1/60 20060101AFI20241122BHJP
H04N 1/62 20060101ALI20241122BHJP
H04N 1/407 20060101ALI20241122BHJP
H04N 1/46 20060101ALI20241122BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20241122BHJP
B41J 2/525 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
H04N1/60
H04N1/62
H04N1/407
H04N1/46
G06T1/00 510
B41J2/525
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082816
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐子
(72)【発明者】
【氏名】大野 拓也
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 崇廣
(72)【発明者】
【氏名】山下 充裕
【テーマコード(参考)】
5B057
5C077
【Fターム(参考)】
5B057AA11
5B057CA01
5B057CA08
5B057CA12
5B057CA16
5B057CB01
5B057CB08
5B057CB12
5B057CB16
5B057CE17
5B057CE18
5B057CH07
5B057CH18
5B057DA08
5B057DA16
5B057DA17
5B057DC25
5C077LL16
5C077PP33
5C077PP36
5C077PP37
5C077PP43
5C077PQ08
5C077PQ23
5C077SS05
5C077SS07
5C077TT02
(57)【要約】
【課題】色補正処理による影響を確認できる技術を提供する。
【解決手段】画像処理装置は、入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する色変換部と、出力値の色補正処理に関する設定を受け付ける補正処理設定部と、入力画像において色補正処理によって色が変化する処理影響領域を決定して表示装置に表示する表示処理部と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像処理装置であって、
入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に色変換する色変換部と、
前記出力値の色補正処理に関する設定を受け付ける補正処理設定部と、
入力画像において前記色補正処理によって色が変化する処理影響領域を決定して表示装置に表示する表示処理部と、
を備える画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記補正処理設定部は、印刷装置で使用される複数の色成分のうち、1つ以上の色成分を対象色成分として選択することを受け付けることが可能に構成されており、
前記色補正処理は、
前記対象色成分が1つであり、前記入力値が前記対象色成分以外の色成分を含まない純色を表す場合に、前記対象色成分以外の色成分を0とするように前記出力値を補正する純色保持処理と、
前記入力値が前記対象色成分を含まない色を表す場合に、前記対象色成分を減少させるように前記出力値を補正する対象色成分減少処理と、
前記入力値が、前記純色保持処理又は前記対象色成分減少処理の対象である第1種入力値の周囲に設定された波及補正範囲内にある第2種入力値である場合に、前記波及補正範囲内における前記第2種入力値の位置に応じて前記第2種入力値に対応する第2種出力値を補正する波及補正処理と、
のうちの少なくとも1つを含む、画像処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の画像処理装置であって、
前記表示処理部は、前記純色保持処理又は前記対象色成分減少処理によって色が変化する領域と、前記波及補正処理によって色が変化する領域との区別を視認可能に表示する、画像処理装置。
【請求項4】
請求項2に記載の画像処理装置であって、
前記表示処理部は、前記対象色成分が複数選択された場合に、前記純色保持処理又は前記対象色成分減少処理によって色が変化する領域を、前記複数の対象色成分毎に視認可能に表示する、画像処理装置。
【請求項5】
請求項1に記載の画像処理装置であって、更に、
前記処理影響領域の表示方法についての設定を受け付ける表示方法設定部を備える、画像処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載の画像処理装置であって、
前記表示方法設定部は、前記処理影響領域と前記処理影響領域以外の領域との区別を視認可能に表示する方法についての設定を受け付け可能に構成されている、画像処理装置。
【請求項7】
請求項5に記載の画像処理装置であって、
前記表示方法設定部は、前記処理影響領域において前記色補正処理による色の変化量を視認可能に表示する方法についての設定を受け付け可能に構成されている、画像処理装置。
【請求項8】
請求項5に記載の画像処理装置であって、
前記表示方法設定部は、前記入力画像と、前記入力画像に前記色変換を適用し前記色補正処理を適用しない無補正画像と、を含む複数の画像のうちの1つ以上を表示用画像として選択して、前記処理影響領域とともに表示することを受け付け可能に構成されている、画像処理装置。
【請求項9】
請求項8に記載の画像処理装置であって、
前記表示処理部は、前記表示用画像の上に前記処理影響領域を重畳させて表示する、画像処理装置。
【請求項10】
請求項8に記載の画像処理装置であって、
前記表示処理部は、前記表示用画像が前記入力画像と前記無補正画像のいずれかである場合には、前記色補正処理を実行することなく前記表示用画像と前記処理影響領域とを表示する、画像処理装置。
【請求項11】
画像処理装置と印刷装置とを備える印刷システムであって、
前記画像処理装置は、
入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する色変換部と、
前記出力値の色補正処理に関する設定を受け付ける補正処理設定部と、
入力画像において前記色補正処理によって色が変化する処理影響領域を決定して表示装置に表示する表示処理部と、
前記出力値に対して前記色補正処理を適用する補正部と、
前記補正部で補正された補正出力値を用いて前記印刷装置に供給する印刷データを生成する印刷データ生成部と、
を含む、印刷システム。
【請求項12】
画像処理方法であって、
(a)入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する色変換部を準備する工程と、
(b)前記出力値の色補正処理に関する設定を受け付ける工程と、
(c)入力画像において前記色補正処理によって色が変化する処理影響領域を決定して表示装置に表示する工程と、
を備える画像処理方法。
【請求項13】
コンピュータープログラムであって、
(a)入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する色変換部を準備する処理と、
(b)前記出力値の色補正処理に関する設定を受け付ける処理と、
(c)入力画像において前記色補正処理によって色が変化する処理影響領域を決定して表示装置に表示する処理と、
をコンピューターに実行させる、コンピュータープログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、画像処理装置、印刷システム、画像処理方法およびコンピュータープログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
典型的な印刷装置では、C(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー),K(ブラック)の4種類の色材を用いて印刷が実行される。印刷を行う際には、パソコンなどの印刷データ生成装置において入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する色変換が実行される。色変換では、入力値に存在しない色成分が、出力値に現れる場合がある。例えば、シアン色材のみで形成されるパッチを印刷しようとしたときに、入力値がCMYK(90,0,0,0)のようにC成分のみであっても、出力値がCMYK(89,1,2,0)のようにM成分やY成分を含む場合がある。ここで、「CMYK(90,0,0,0)」は、C=90%, M=0, Y=0, K=0の色を意味する。このように入力値に存在しない色成分が出力値に現れると、色の濁りや粒状感が知覚される可能性がある。このような濁りや粒状感を回避するために、入力値で表される入力色がC, M, Y, Kいずれかの単色であれば、出力値で表される出力色も単色にする「純色保持」又は「墨保持」という技術が従来から知られている。
【0003】
特許文献1には、純色化処理を行う画像処理装置が開示されている。この画像処理装置は、1次色又は2次色である入力色が色変換によって多色化された場合に、純色化処理を行うことによって出力色を1次色又は2次色に修正する。また、入力色と出力色の色差が小さくなるように出力色が補正される。この従来技術における1次色の処理は「純色保持」に相当する。また、色補正処理としては、純色保持以外の種々の処理も利用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術では、色補正処理による影響をユーザーが確認することが難しいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の形態によれば、画像処理装置が提供される。この画像処理装置は、入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に色変換する色変換部と、前記出力値の色補正処理に関する設定を受け付ける補正処理設定部と、入力画像において前記色補正処理によって色が変化する処理影響領域を決定して表示装置に表示する表示処理部と、を備える。
【0007】
本開示の第2の形態によれば、画像処理装置と印刷装置とを備える印刷システムが提供される。前記画像処理装置は、入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する色変換部と、前記出力値の色補正処理に関する設定を受け付ける補正処理設定部と、入力画像において前記色補正処理によって色が変化する処理影響領域を決定して表示装置に表示する表示処理部と、前記出力値に対して前記色補正処理を適用する補正部と、前記補正部で補正された補正出力値を用いて前記印刷装置に供給する印刷データを生成する印刷データ生成部と、を含む。
【0008】
本開示の第3の形態によれば、画像処理方法が提供される。この画像処理方法は(a)入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する色変換部を準備する工程と、(b)前記出力値の色補正処理に関する設定を受け付ける工程と、(c)入力画像において前記色補正処理によって色が変化する処理影響領域を決定して表示装置に表示する工程と、を備える。
【0009】
本開示の第4の形態によれば、コンピュータープログラムが提供される。このコンピュータープログラムは、(a)入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する色変換部を準備する処理と、(b)前記出力値の色補正処理に関する設定を受け付ける処理と、(c)入力画像において前記色補正処理によって色が変化する処理影響領域を決定して表示装置に表示する処理と、をコンピューターに実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】画像処理装置の構成の更に他の例を示す説明図。
【
図5】色補正の確認処理の全体手順を示すフローチャート。
【
図6】入力画像の選択を行うための設定ウィンドウを示す説明図。
【
図7】色補正処理に関する設定を行うための設定ウィンドウを示す説明図。
【
図8】処理影響領域の表示方法に関する設定を行うための設定ウィンドウを示す説明図。
【
図9】ステップS50の処理手順を示すフローチャート。
【
図10】色補正処理の確認用画面の例を示す説明図。
【
図11】ステップS80の処理手順を示すフローチャート。
【
図12】色変換ルックアップテーブルの例を示す説明図。
【
図14】純色保持と非入力色除去を比較して示す説明図。
【
図18】非入力色除去と波及補正の処理例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
A.実施形態の構成と処理手順:
<装置の構成>
図1は、実施形態の印刷システム500の構成を示す説明図である。印刷システム500は、画像処理装置100と、入力装置200と、表示装置300と、印刷装置400とを備えている。
【0012】
画像処理装置100は、プロセッサー101と、メモリー102と、入出力インターフェース103と、内部バス104とを備えている。プロセッサー101、メモリー102、および、入出力インターフェース103は、内部バス104を介して、双方向に通信可能に接続されている。メモリー102は、メインメモリーやビデオメモリーを含む揮発性メモリーと、ハードディスクやSSD(Solid State Drive)などの不揮発性メモリーとを含んでいる。入力装置200、表示装置300、および、印刷装置400は、有線通信あるいは無線通信により画像処理装置100の入出力インターフェース103に接続されている。入力装置200は、例えば、キーボードやマウスであり、表示装置300は、例えば、液晶ディスプレイである。入力装置200および表示装置300は、タッチパネルとして一体化されていてもよい。印刷装置400は、例えば、インクジェットプリンターであり、複数種類のインクを用いて印刷媒体PMに画像を印刷する。印刷装置400は、布製の印刷媒体PMに画像を印刷するデジタル捺染機として構成することが可能である。
【0013】
図2は、画像処理装置100の構成の一例を示す説明図である。画像処理装置100は、色変換部110と、補正部120と、補正処理設定部130と、印刷データ生成部140と、表示処理部150と、表示方法設定部160とを備えている。これらの各部の機能は、メモリー102に予め記憶されているコンピュータープログラムPGをプロセッサー101が実行することによりソフトウェア的に実現される。但し、各部の機能の一部をハードウェア回路で実現してもよい。
【0014】
色変換部110は、色変換ルックアップテーブル112を用いて、入力色空間の入力値を、出力色空間の出力値に変換する色変換処理を実行する。色変換ルックアップテーブル112は、入力プロファイルIPFと第1の出力プロファイルOPF1とを結合することによって作成される。入力プロファイルIPFは、入力画像データIMで使用されている入力色空間から機器非依存色空間への色変換に用いられるICCプロファイルである。入力色空間は、例えば、RGB色空間やCMYK色空間である。機器非依存色空間は、例えば、CIE-L
*a
*b
*色空間や、CIE-XYZ色空間である。第1の出力プロファイルOPF1は、機器非依存色空間から印刷装置400用の出力色空間への色変換に用いられるICCプロファイルである。印刷装置400用の出力色空間としては、CMYK色空間やCMYKRG色空間などの種々の色空間を使用することができる。「CMYKRG色空間」は、C(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー),K(ブラック),R(レッド),G(グリーン)の6つの色成分で構成される色空間である。印刷装置400用の出力色空間の色は、「デバイスカラー」とも呼ばれている。
図2の例では、入力色空間と印刷装置400用の出力色空間はいずれもCMYK色空間である。
【0015】
色変換部110は、更に、第2の出力プロファイルOPF2を用いた色変換を行うことも可能である。第2の出力プロファイルOPF2は、機器非依存色空間から表示装置300の表示用色空間への色変換に用いられるICCプロファイルである。表示用色空間としては、sRGB色空間やAdobe RGB色空間を使用することができる。
【0016】
補正部120は、純色保持や対象色成分減少処理などの各種の色補正処理を実行する。各種の色補正処理の内容は、処理手順の説明の後に詳述する。補正処理設定部130は、色補正処理の対象となる対象色成分などの色補正処理に関する各種の設定を受け付ける。対象色成分としては、例えば、デバイスカラーの複数の色成分CMYKのうち、1つ以上の色成分が選択される。表示処理部150は、入力画像において色補正処理によって色が変化する処理影響領域を決定して表示装置300に表示する処理を実行する。表示方法設定部160は、処理影響領域の表示方法についての設定を受け付ける。
【0017】
印刷データ生成部140は、補正部120で補正された補正出力値を用いて、印刷装置400に供給する印刷データを生成する。印刷データ生成部140は、分版部142と、ハーフトーン処理部144とを含んでいる。分版部142は、色変換部110で変換された入力画像データIMの各画素の出力値を、印刷装置400の複数の色材の濃度値に変換する。
図2の例では、印刷装置400はCMYKの他にLc(ライトシアン)とLm(ライトマゼンタ)の色材を用いており、分版部142は、各画素の出力値CMYKを6つの色材CMYKLcLmの濃度値に変換する。ハーフトーン処理部144は、分版後の各画素の濃度値を用いてハーフトーン処理を行うことによって印刷データを生成する。印刷装置400は、印刷データ生成部140から送信された印刷データに従って印刷を実行する。
【0018】
図3は、画像処理装置100の構成の他の例を示す説明図である。この例では、補正部120は、色変換部110で変換された出力値CMYKを補正して、補正出力値を印刷データ生成部140に送信する。この場合にも、色補正処理の対象となる対象色成分として、デバイスカラーの複数の色成分CMYKのうちの1つ以上の色成分を選択することができる。
【0019】
図4は、画像処理装置100の構成の更に他の例を示す説明図である。この例では、補正部120は、分版部142で変換された色材CMYKLcLmの濃度値を補正して、補正後の濃度値をハーフトーン処理部144に送信する。この場合は、色材CMYKLcLmの濃度値が「色変換後の出力値」に相当する。また、色補正処理の対象となる対象色成分として、6つの色材CMYKLcLmのうちの1つ以上の色材を選択することができる。
【0020】
対象色成分がLc成分である場合に、Lc成分そのものは入力色空間CMYKに存在しない。この場合に、入力値CMYKにおける対象色成分Lcの値を決定する方法としては、以下の2つの方法のいずれかを使用することができる。
(1)第1の方法
入力値CMYKのC成分の値が0か又は閾値以上である場合には、入力値CMYKに対象色成分Lcが含まれていないものと見なし、入力値CMYKのC成分の値が閾値未満の正値である場合には、入力値CMYKに対象色成分Lcが含まれているものと見なす方法。閾値としては、例えば15~25%の値を使用することができる。
(2)第2の方法
入力値CMYKの実際の値に拘わらずに、入力値CMYKにおける対象色成分Lcの値が0であると見なす方法。
補正処理設定部130は、これらの方法のいずれを使用するかの選択をユーザーから受け付けるように構成されていてもよい。
【0021】
図2~
図4の例から理解できるように、色補正処理の対象色成分として選択可能な「印刷装置で使用される複数の色成分」としては、デバイスカラーの複数の色成分を用いても良く、或いは、印刷装置の複数の色材に相当する複数の色成分を使用してもよい。但し、以下では、主として
図2で説明した構成を用いて、デバイスカラーの色成分を対象色成分として選択する場合について説明する。
【0022】
<用語の定義>
・入力色:色変換の入力値で表される色。
・出力色:色変換の出力値で表される色。
・純色保持:入力値が1つの対象色成分のみを含む場合に、色変換後の出力値を対象色成分のみに補正する色補正処理。
・C保持:Cyanの純色保持。
・対象色成分減少処理:入力値に存在しない対象色成分の値を減少させるように出力値を補正する色補正処理。
・非入力色除去:対象色成分減少処理の一種であり、入力値に存在しない対象色成分の値をゼロにするように出力値を補正する色補正処理。
・C除去:Cyanの非入力色除去。
・色除去平面:1つの対象色成分が0である入力値で規定される平面。
・非入力色抑制:対象色成分減少処理の一種であり、入力値に存在しない対象色成分の値を減少させてゼロでない補正値に変更するように出力値を補正する色補正処理。
・波及補正:純色保持または対象色成分減少処理の対象となった第1の格子点の近傍にある第2の格子点に対して、第1の格子点になされた補正を波及させる色補正処理。
・波及補正範囲:波及補正の対象となる範囲。
・対象色成分:純色保持又は対象色成分減少処理の対象として選択された色成分。
・非対象色成分:対象色成分以外の色成分。
・第1種入力値:純色保持又は対象色成分減少処理の対象となる入力値。
・第2種入力値:波及補正範囲内にある入力値。
・処理影響領域:入力画像において色補正処理によって色が変化する領域。
・1次色: 減法混色ではCMY成分のうちの1つの色成分で構成された色。加法混色ではRGB成分のうちの1つの色成分で構成された色。
・2次色:2つの色成分で構成された色。
・3次色:3つの色成分で構成された色。
・Pure K:Kのみで表現された黒であり、CMYK(0,0,0,k)で表される。
・Composite K:CMY成分のみで表現される黒であり、CMYK(c, m, y, 0) ,c=m=yで表される。
・Rich K:CMYK成分をすべて使って表現される黒であり、CMYK(c, m, y, k)で表される。
【0023】
本開示では、個々の色成分の範囲を0~100%とする。白と黒は、例えば以下のように表される。
・CMYK(0,0,0,0):白。
・CMYK(100,100,100,100):黒。
・RGB(0,0,0):黒。
・RGB(100,100,100):白。
【0024】
図5は、実施形態における色補正の確認処理の全体手順を示すフローチャートである。ステップS10では、色変換部110が、入力プロファイルIPFと第1の出力プロファイルOPF1を結合して色変換ルックアップテーブル112を作成する。このステップは、色変換部110を準備する工程に相当する。ステップS20では、補正処理設定部130が、入力画像を取得する。
【0025】
図6は、入力画像の選択を行うための設定ウィンドウW1を示す説明図である。ユーザーは、設定ウィンドウW1を用いて、任意の入力画像IMを選択することができる。
図6の下方には、選択された入力画像IMの例が示されている。この例のように、選択された入力画像IMが、設定ウィンドウW1とともに表示装置300に表示されることが好ましい。
【0026】
図5のステップS30では、補正処理設定部130が、色補正処理に関する設定を受け付ける。
【0027】
図7は、補正処理設定部130が色補正処理に関する設定を行うための設定ウィンドウW2を示す説明図である。ユーザーは、この設定ウィンドウW2を用いて下記のような設定を行うことが可能である。
<純色保持の設定T1、及び、波及補正範囲の設定T3-1>
純色保持の設定T1では、複数の色成分のうちの1つ以上を純色保持の対象色成分として選択することが可能である。例えばC成分とM成分の2つの色成分を純色保持の対象色成分として選択した場合には、C成分に関する純色保持と、M成分に関する純色保持とが実行される。純色保持を行う場合には、純色保持の補正を波及させる波及補正範囲の大きさを設定することも可能である。この例では、波及補正範囲の大きさを変更可能なスライダーが表示されている。また、波及補正を行うか否かを設定するためのチェックボックスを用いて、波及補正を行わないことを指定することも可能である。
【0028】
<非入力色除去の設定T2、及び、波及補正範囲の設定T3-2>
非入力色除去の設定T2では、複数の色成分のうちの1つ以上を非入力色除去の対象色成分として選択することが可能である。例えばC成分とM成分の2つの色成分を非入力色除去の対象色成分として選択した場合には、C成分に関する非入力色除去と、M成分に関する非入力色除去とが実行される。非入力色除去を行う場合にも、非入力色除去の補正を波及させる波及補正範囲の大きさを設定することが可能である。また、波及補正を行うか否かを設定するためのチェックボックスを用いて、波及補正を行わないことを指定することも可能である。
図7の例では、Y成分に関する非入力色除去を行うこと、及び、その波及補正範囲のサイズを「大」とすることが設定されている。なお、設定ウィンドウW2は、非入力色抑制などの他の色補正処理に関する設定を行えるように構成されていてもよい。
【0029】
図5のステップS40では、表示方法設定部160が、処理影響領域の表示方法に関する設定を受け付ける。
【0030】
図8は、表示方法設定部160が処理影響領域の表示方法に関する設定を行うための設定ウィンドウW3を示す説明図である。ユーザーは、この設定ウィンドウW3を用いて下記のような設定を行うことが可能である。
<処理領域の表示設定T4-1>
処理領域の表示設定T4-1では、例えば以下の選択肢のうちの1つ以上を選択することが可能である。
・「直接処理される領域」:純色保持又は対象色成分減少処理の対象となる画素で構成される領域を処理領域として視認可能に表示する。
・「波及補正を受ける領域」:波及補正の対象となる画素で構成される領域を処理領域として視認可能に表示する。
・「処理されない領域」:直接処理される領域、及び、波及補正を受ける領域のいずれにも含まれない画素で構成される領域を視認可能に表示する。例えば、「処理されない領域」をマスクで表示すれば、処理によって変化する領域をまとめて確認することができる。
【0031】
<変化領域の表示設定T4-2>
変化領域の表示設定T4-2では、色補正処理による変化が生じる領域を変化領域として表示することを設定できる。例えば、以下の選択肢のいずれかを選択することができる。
・「色彩値の変化」:色補正処理前後で色差が生じる画素で構成される領域を変化領域として表示する。この場合に、ヒートマップなどを用いて画素毎の色差を視認可能に表示するようにしてもよい。或いは、色差の閾値を設定し、その閾値以上の色差が発生した画素で構成される領域をマスクや囲み線で表示するようにしてもよい。
・「色成分の変化」:色補正処理前後で色成分CMYKの変化が生じる画素で構成される領域を変化領域として表示する。この場合にも、ヒートマップなどを用いて画素毎の色成分の変化量を視認可能に表示するようにしてもよい。或いは、色成分の変化量の閾値を設定し、その閾値以上の変化量が生じた画素で構成される領域をマスクや囲み線で表示するようにしてもよい。色成分の変化量としては、複数の色成分CMYKの変化量の合計値を用いてもよく、或いは、1つの色成分を選択してその変化量を用いてもよい。
【0032】
処理領域の表示設定T4-1と変化領域の表示設定T4-2は、そのうちの少なくとも一方が選択される。
図8の例では、処理領域の表示設定T4-1が選択されており、また、「直接処理される領域」と「波及補正を受ける領域」が表示対象として選択されている。
【0033】
表示設定T4-1で設定される領域と、表示設定T4-2で設定される領域を併せて「対象領域」とも呼ぶ。これらの対象領域のうち、「処理されない領域」以外の領域は「処理影響領域」に相当する。
【0034】
<表示方法の設定T5>
表示方法の設定T5では、処理領域の表示設定T4-1又は変化領域の表示設定T4-2で選択された対象領域を、どのような形態で表示するかを設定することができる。例えば、表示設定T4-1,T4-2で選択した項目毎に、以下の選択肢のいずれかを選択して設定することができる。
・「マスク」:対象領域を一様なマスクで覆う。
・「囲み線」:対象領域の外周を視認可能な曲線で囲む。囲み線の色をユーザーが選択できるようにしても良い。また、囲み線を点滅表示しても良い。更に、カーソルを近づけると色や点滅有無などの表示態様が変化するように囲み線を構成しても良い。
・「ヒートマップ」:対象領域内の色補正処理による色の変化量をヒートマップとして表示する。ヒートマップの階調は、2以上の任意の数に設定可能である。
表示方法の設定T5では、更に、マスク領域を反転させるか否かを選択することができる。反転表示が選択されると、マスクで覆われていた対象領域からマスクが解除され、マスクされていなかった領域がマスクで覆われる。こうすれば、対象領域の色をより明確に認識できる。
【0035】
<画像の表示設定T6>
画像の表示設定T6では、処理領域の表示設定T4-1又は変化領域の表示設定T4-2で選択された対象領域を、どのような表示用画像と共に表示するかを設定することができる。例えば、以下の選択肢のいずれかを表示用画像として選択することができる。
・「なし」:対象領域のみを表示し、入力画像等を表示しない。対象領域が小さい場合には、表示用画像のどこに対象領域があるのかが分かり難い場合がある。その場合に、「なし」を選択することによって、対象領域の位置を確認することができる。
・「入力画像」:入力画像を表示装置300の表示用色空間に変換した画像を表示用画像として使用し、対象領域を表示用画像と共に表示する。対象領域は、表示用画像の上に重ねて表示されることが好ましい。なお、入力画像から表示用画像への変換は、入力プロファイルIPFを用いた色変換と、第2の出力プロファイルOPF2を用いた色変換をこの順に適用することによって実行できる。
・「補正処理なし」:色補正処理前の色変換ルックアップテーブル112を用いて入力画像を印刷装置400用の出力色空間に変換した画像を、表示装置300の表示用色空間に変換して表示用画像として使用し、対象領域を表示用画像と共に表示する。この表示用画像を「無補正画像」とも呼ぶ。対象領域は、表示用画像の上に重ねて表示されることが好ましい。印刷装置400用の出力色空間で表現された画像の表示用色空間への変換は、第1の出力プロファイルOPF1を用いた逆変換と、第2の出力プロファイルOPF2を用いた色変換をこの順に適用することによって実行できる。
・「補正処理あり」:色補正処理後の色変換ルックアップテーブル112を用いて入力画像を印刷装置400用の出力色空間に変換した画像を、表示装置300の表示用色空間に変換して表示用画像として使用し、対象領域を表示用画像と共に表示する。対象領域は、表示用画像の上に重ねて表示されることが好ましい。
【0036】
ユーザーは、上述した各種の設定T1~T6をそれぞれ画面上で設定することによって、色補正処理による影響を表示装置300にどのように表示するかを決定することが可能である。
【0037】
図5のステップS50では、表示処理部150が、色補正処理によって色が変化する処理影響領域を決定する。変化領域の表示設定T4-2における設定が有効である場合には、色彩値の変化又は色成分の変化が画素毎に算出され、その算出結果に応じて処理影響領域が決定される。一方、処理領域の表示設定T4-1における設定が有効である場合には、以下の手順で処理影響領域が決定される。
【0038】
図9は、ステップS50の処理手順を示すフローチャートである。ここでは、色補正処理として対象色成分減少処理と波及補正を行う場合を想定する。ステップS51では、表示処理部150が、入力画像IMの画素を1つ選択する。ステップS52では、表示処理部150が、選択された画素の入力値における対象色成分が0か否かを判定する。対象色成分が0であれば、ステップS54において、その画素が「直接処理される領域」に属するものと判定されて、後述するステップS57に進む。一方、対象色成分が0で無ければ、ステップS52からステップS53に進み、表示処理部150が、入力値が波及補正範囲内か否かを判定する。入力値が波及補正範囲内であれば、ステップS55において、その画素が「波及補正を受ける領域」に属するものと判定されて、後述するステップS57に進む。一方、入力値が波及補正範囲内に無ければ、ステップS55からステップS56に進み、その画素が「処理されない領域」に属するものと判定されて、後述するステップS57に進む。ステップS57では、入力画像IMのすべての画素についてステップS51~S56の処理が終了したか否かが判断され、終了していなければステップS51に戻る。これらのステップS51~S57を実行することによって、入力画像IMのすべての画素について、「直接処理される領域」と「波及補正を受ける領域」と「処理されない領域」の3つの領域のいずれに属するかを決定することが可能である。また、これらのステップS51~S57では、色補正処理を実行することなく、3つの領域を決定することができる。なお、対象色成分減少処理の代わりに純色保持を行う場合にも、ほぼ同様の手順で領域を決定することが可能である。
【0039】
図5のステップS60では、表示処理部150が、処理影響領域を表示装置300に表示する。
【0040】
図10は、ステップS60で表示される色補正処理の確認用画面の例を示す説明図である。この例では、上述した設定ウィンドウW1~W3の下に入力画像IMが表示されており、入力画像IMに重畳して処理影響領域R1,R2が表示されている。第1の処理影響領域R1は、Y成分の非入力色除去で「直接処理される領域」である。第2の処理影響領域R2は、Y成分の非入力色除去に関連して「波及補正される領域」である。これらの処理影響領域R1,R2は、互いに区別できるように視認可能に表示されている。具体的には、処理影響領域R1,R2は、互いに異なる一様な色でマスクされている。なお、対象色成分が複数選択されている場合には、第1の処理影響領域R1は、複数の対象色成分を区別可能に表示されることが好ましく、例えば、互いに異なる色で表示されることが好ましい。表示用画像として複数の画像が選択されている場合には、複数の表示用画像が並べて表示され、それぞれの上に処理影響領域R1,R2が重畳して表示される。
【0041】
図10の例では、入力画像IMが表示用画像として使用されているので、色補正処理を実行することなく表示用画像と処理影響領域R1,R2とを表示することが可能である。この場合には、色補正処理を実行する前にその影響を確認できる。また、色補正処理を実行しないので、表示処理を素早く行うことができる。これは、画像の表示設定T6において「補正処理なし」を選択した場合、即ち、無補正画像を選択した場合も同様である。特に、表示設定T4-1,T4-2のうち、処理領域の表示設定T4-1のみが有効である場合には、色補正処理を実行する前に、表示用画像と処理影響領域R1,R2を表示することが可能である。
【0042】
図5のステップS70では、表示装置300に表示された内容でOKか否かがユーザーによって判断される。OKでなければ、ステップS30に戻り、ステップS30以降の処理が再度実行される。この場合には、上述した設定T1~T6の少なくとも一部が変更され、その変更に応じて表示内容が変更されてステップS60で再表示される。一方、内容がOKであれば、ステップS70からステップS80に進み、補正部120が、色変換ルックアップテーブル12の補正を実行する。この補正は、色補正処理に関する設定T1~T3に従って実行される。
【0043】
図11は、ステップS80の処理手順を示すフローチャートである。ステップS81では、補正部120が、色変換ルックアップテーブル112の格子点を1つ選択する。この処理は、入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する処理に相当する。ステップS82では、補正部120が、選択された格子点の入力値が、純色保持又は対象色成分減少処理の対象となっているか否かを判定する。処理対象となっていない場合には、後述するステップS84に進む。一方、処理対象となっている場合には、ステップS83に進み、補正部120が、出力値に対して純色保持又は対象色成分減少処理を適用する。
【0044】
ステップS84では、補正部120が、選択された格子点の入力値が、波及補正範囲内にあるか否かを判定する。入力値が波及補正範囲内に無い場合には、後述するステップS86に進む。一方、入力値が波及補正範囲内にある場合には、ステップS85に進み、補正部120が、出力値に対して波及補正を適用する。
【0045】
ステップS86では、補正部120が、色変換ルックアップテーブル112のすべての格子点についてステップS81~S85の処理が完了したか否かを判定する。処理を行っていない格子点が存在する場合には、ステップS81に戻り、ステップS81~S85の処理が再度実行される。すべての格子点について処理が完了した場合には、ステップS80の処理が終了し、
図5のステップS90に進む。
【0046】
ステップS90では、色変換部110が、補正後の色変換ルックアップテーブル112を使用して、入力画像データIMの色変換を実行する。ステップS100では、印刷データ生成部140が、色変換された画像データを用いて印刷データを作成し、印刷データを印刷装置400に転送して印刷を実行する。
【0047】
上述した
図5の処理手順では、色変換ルックアップテーブル112の格子点について色補正を実行していたが、この代わりに、
図3及び
図4に示したように、色変換部110の出力又は分版部142の出力に対して色補正を実行するようにしてもよい。但し、色変換ルックアップテーブル112の格子点について色補正を実行すれば、補正後の色変換ルックアップテーブル112を用いて、多数の入力画像データに対して適切な色変換を実行できる。また、色変換ルックアップテーブル112の格子点について色補正を実行すれば、入力画像データの画素毎に色補正を行う必要がないので、処理速度が速いという利点がある。
【0048】
以上のように、本実施形態では、ユーザーが各種の設定T1~T6を行うことによって、色補正処理によって色が変化する処理影響領域を決定して表示装置300に表示すことができる。ユーザーは、これらの処理影響領域を観察することによって、色補正処理による影響を確認できる。
【0049】
B.色補正処理の内容:
B-1.純色保持、非入力色除去、及び、非入力色抑制:
図12は、色変換ルックアップテーブル112の例を示す説明図である。ここでは、入力色空間と出力色空間がいずれもCMYKであるものと仮定する。
図12では、K=0の場合を想定しており、入力値の3つの色成分CMYで構成される3次元色立体が描かれている。この色立体は、原点がWhite(紙白)であり、互いに直交するC軸とM軸とY軸の3つの座標軸で規定されている。色立体には、複数の格子点が設定されている。但し、
図12では、図示の便宜上、主な格子線と格子点のみが描かれている。色立体の複数の格子点のそれぞれは、入力色を表している。色変換ルックアップテーブル112は、各格子点の座標値に相当する入力値に対して、出力値が登録されたテーブルである。この例では、4つの格子点P1~P4について、入力値CMYK(0,0,0,0),CMYK(0,80,80,0),CMYK(0,50,100,0),CMYK(70,0,0,0)と、それらに対する出力値CMYK(0,0,0,0) ,CMYK(2,78,77,0),CMYK(2,45,100,0),CMYK(68,2,2,0)が示されている。色変換の入力値と出力値は、CIE-L
*a
*b
*色空間やCIE-XYZ色空間などの機器非依存色空間では同じ色を表しているが、入力値に存在しない色成分が出力値に現れる場合がある。この場合には、出力値で再現される画像に色の濁りや粒状感が発生する可能性がある。
【0050】
図13は、色変換による粒状感の発生と非入力色除去の例を示す説明図である。この例では、
図12の格子点P2の入力値CMYK(0, 80, 80, 0)で表現される第1のカラーパッチCP1と、色変換後の出力値CMYK(2, 78, 77, 0)で再現される第2のカラーパッチCP2とが描かれている。第1のカラーパッチCP1はMagenta とYellowのほぼ一様な2次色で構成されている。一方、第2のカラーパッチCP2では、出力値にC成分が2%含まれているので、Cyanインクのドットがまばらに形成されている。第2のカラーパッチCP2では、入力値に存在しない色成分の色材が混じっているので、色の濁りや粒状感が知覚される可能性がある。
【0051】
特に、印刷媒体PMが布である場合に、色の濁りが大きな問題となる。例えば、布製の印刷媒体PMを用いて、POP(Point of Purchase advertising)や、ポスター、アパレル等の印刷物を作成する場合には、印刷画像が均一で滑らかなことが求められるので、一様な色を有する画像領域において色の濁りが発生することが問題となる。そこで、布製の印刷媒体PMを用いる場合には、色の濁りの発生を抑制することが特に望まれる。
【0052】
本開示による色補正の一種である非入力色除去は、入力値で表される色に含まれていない対象色成分を出力値から除去する処理である。C成分が対象色成分として選択されている場合に、出力値CMYK(2, 78, 77, 0)に非入力色除去を適用すると、入力値CMYK(0, 80, 80, 0)に含まれていないC成分が出力値から除去されて、補正出力値CMYK(0, 78, 77, 0)が得られる。補正出力値CMYK(0, 78, 77, 0)で再現されるカラーパッチCP3は、Magenta とYellowのほぼ一様な2次色で再現されているので、色の濁りや粒状感が発生していない。非入力色除去は、1次色や、3次色以上の多次色にも適用することができる。
【0053】
図14は、純色保持と非入力色除去を比較して示す説明図である。ここでは、純色保持の例としてC保持が描かれている。C保持の対象となる入力色は、
図14の左上図の太線で示されるC軸上の格子点の色である。C保持は、入力値CMYK(c, 0, 0,0)の格子点における出力値をCMYK(c’, 0, 0,0) にする補正である。
【0054】
図14には更に、非入力色除去として、C除去とM除去とY除去の対象領域が描かれている。これらの非入力色除去は、色立体の面上に存在する格子点群が対象となる。C除去の場合には、入力値のC成分が0である格子点群が対象であり、ハッチングが付されたMY面が、非入力色除去の対象となる。このMY面を「色除去平面CRPc」と呼ぶ。色除去平面CRPcは、C成分が0である入力値で規定される平面である。前述した
図13の例では、出力値CMYK(2, 78, 77, 0)にC除去を適用すると、入力値CMYK(0, 80, 80, 0)に含まれていないC成分が出力値から除去されて、補正出力値CMYK(0, 78, 77, 0)が得られる。M除去とY除去も同様である。即ち、M除去ではCY面が非入力色除去の対象領域である色除去平面CRPmとなり、Y除去ではCM面が非入力色除去の対象領域である色除去平面CRPyとなる。なお、CMYK色空間は4次元色空間なので、例えば入力値のC成分が0である色除去平面CRPcは、4次元空間の超平面を構成する。このような超平面は図示が困難なので、
図14では3次元空間の面で表現されている。
【0055】
本開示では、非入力色除去の対象とする対象色成分を、ユーザーが任意に選択することが可能である。例えば、M除去とY除去を併用すると、C軸上の格子点の出力値からM成分と Y成分が除去され、C成分のみが残ることになる。
【0056】
非入力色除去の対象とする対象色成分をユーザーが任意に選択することによって、問題となる色の濁りや粒状感を低減することが可能である。例えば、前述した
図13で説明したような色の濁りの低減を目的としたとき、濁りの原因がCyanであれば、C除去を行うことによって、十分な効果を得ることができる。この場合には、CMYKのすべてを対象色成分として選択する必要はなく、C成分のみを対象色成分として選択すればよい。
【0057】
また、非入力色除去の対象色成分をK(ブラック)とするK除去を適用することも可能である。例えば、色変換によって入力値CMYK(20, 20, 20, 0) が出力値CMYK(18, 18, 18, 2)に変換される場合に、K除去を適用することによって、補正出力値CMYK(18, 18, 18, 0)を得ることができる。この例では、入力値CMYK(20, 20, 20, 0)はComposite Kであるが、出力値CMYK(18, 18, 18, 2)はKの混じったRich Kとなっている。これにK除去を適用すると、補正出力値CMYK(18, 18, 18, 0)はComposite Kとなる。この結果、Kインクを使わないことで、粒状感のない均一なベタのグレーを表現することができる。この例は3次色に対して非入力色除去を適用した場合の例である。但し、入力値CMYK(80,80,80,0)が出力値CMYK(30,30,30,60)に変換されるような場合には、K除去を適用すると、補正出力値がCMYK (30,30,30,0)となってしまい、濃度が全く異なるグレーになってしまうという不具合が発生する。そこで、このような場合には、K成分を対象色成分として選択しないことが好ましい。
【0058】
本開示の非入力色除去は、印刷装置400で使用される色材がCMYK以外である場合にも適用可能である。例えば、印刷装置400が、C(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー),K(ブラック),R(レッド),G(グリーン)の6つの色材を用いて印刷を実行する場合を想定する。この場合には、6つの色成分CMYKRGのうちの任意の1つ以上の色成分を非入力色除去の対象色成分として選択することができる。具体的には、入力値CMYKRG(10, 10, 10, 10, 0, 0) が色変換によって出力値CMYKRG(10, 10, 10, 10, 2, 2)に変換される場合に、R成分とG成分を含む2つ以上の色成分を対象色成分として選択すると、出力値をCMYKRG(10, 10, 10, 10, 0, 0)に補正することが可能である。
【0059】
一般に、Nを3以上の整数としたとき、補正処理設定部130は、印刷装置400で使用されるN個の色材に対応するN個の色成分のうち、任意の1個以上N個以下の色成分を対象色成分として選択することを受け付けるように構成されることが好ましい。特に、3つ以上の色成分を対象色成分として任意に選択できることが好ましい。こうすれば、1個からN個までの所望の数の対象色成分について色補正処理を実行できる。
【0060】
非入力色除去の代わりに非入力色抑制を実行することも可能である。「非入力色抑制」とは、入力値で表される色に存在しない対象色成分について、出力値における値を減少させて、ゼロで無い補正値に変更するように出力値を補正する処理である。
【0061】
非入力色抑制後の対象色成分の補正値は、例えば次式で算出される。
Dc = min( k1 × Do, Dmax) …(q1)
ここで、Dcは対象色成分の補正値、Doは補正前の対象色成分の値、min ( )は 小さい方の値を選択し出力する関数、k1は1未満の正の係数、Dmaxは上限値である。上限値Dmaxは、色の濁りや粒状感が知覚されない値として予め設定される。k1 × Doの結果に対しては、小数点以下に切り上げ、切り捨て、四捨五入などの丸め演算を適用してもよい。丸め演算として切り上げを適用すれば、対象色成分の補正値Dcを0でない正の値とすることができる。
【0062】
例えば、対象色成分がCMYで、色変換の入力値がCMYK(0, 80, 80, 0)、出力値がCMYK(2, 78, 77, 0)である場合を想定する。この場合に、非入力色除去を適用すると、補正出力値がCMYK(0, 78, 77, 0)となる。一方、k1=0.5, Dmax=3[%]の非入力色抑制を適用すると、補正出力値がCMYK(1, 78, 77, 0)となり、C成分が0でない値に減少する。
【0063】
色の濁りや粒状感が知覚されない上限値Dmaxは、第1の出力プロファイルOPF1に格納されるようにしてもよい。或いは、上限値Dmaxが、印刷装置400に紐づいて取得されるようにしてもよく、ユーザーが設定してもよい。印刷装置400のメーカーやユーザーは、実際に印刷を実行して、問題ないと評価された上限値Dmaxを設定することが可能である。
【0064】
なお、対象色成分がCMYで出力色空間がRGBである場合には、非入力色抑制は、対象色成分であるCMYに対応するRGB値を増加させる処理となる。
【0065】
非入力色抑制を適用すると、入力色に対象色成分が含まれていない場合に、出力色の対象色成分を減少させるので、色の濁りや粒状感が少ない印刷物を得ることができる。非入力色除去を適用すると、入力色と出力色の色差が大きくなる場合がある。一方、非入力色抑制を適用すれば、非入力色除去に比べて、入力色と出力色の色差を小さくできる。
【0066】
B-2.波及補正:
図15は、非入力色除去に関連する波及補正範囲SCRcを示す説明図である。
図15では、簡単のため、入力色空間がCMYK色空間であり、C除去とこれに関連する波及補正が実行されるものと仮定している。また、K軸は図示を省略しており、CMY軸で規定される色立体を描いている。
【0067】
波及補正範囲SCRcは、入力色空間において色除去平面CRPcに接した範囲である。色除去平面CRPcは、C成分が0である平面である。C除去に関連する波及補正は、波及補正範囲SCRc内に存在する入力値を色変換した出力値に対して実行される。波及補正範囲SCRcには、2つの入力点P11,P12が例示されている。入力点P11は、座標(c,m,y,k)が(0,80,80,0)であり、色除去平面CRPc上に存在する。入力点P12は、座標(c,m,y,k)が(10,80,80,0)であり、波及補正範囲SCRc内に存在する。
図15の下方には、入力色空間を3つの視線方向VD1,VD2,VD3からそれぞれ観察した場合の波及補正範囲SCRcと入力点P11,P12が描かれている。
【0068】
図16は、波及補正範囲SCRcの最大座標値C_maxを示す説明図である。波及補正範囲SCRcは、色除去平面CRPcからの距離が最大座標値C_maxとなる位置まで広がるように設定される。最大座標値C_maxは、例えば、次式で与えられる。
C_max = min{(m+y+k), C_lim} …(q2)
ここで、C_maxは色除去平面CRPcの任意のグリッド位置P(0,m,y,k)の直上に存在する波及補正範囲SCRcのC座標値の最大値、C_limは予め設定された限界値である。限界値C_limは、
図7の設定ウィンドウW2における波及範囲設定T3に応じて決定され、例えば20%~50%の範囲の値に設定される。本実施形態ではC_lim=50%とする。
【0069】
このように、波及補正範囲SCRcは、入力値における対象色成分C以外の色成分の合計値(m+y+k)に応じて設定されることが好ましい。より具体的には、波及補正範囲SCRcは、色除去平面CRPcからの距離が、入力値における対象色成分C以外の色成分の合計値(m+y+k)と、予め設定された限界値C_limと、のうちのより小さな値に等しい位置まで広がるように設定されることが好ましい。
【0070】
波及補正範囲SCRcは、色除去平面CRPcを底面とし、底面からの高さがC_limである直方体の一部を、c=m+y+kで表される斜面SPcで切断した形状を有している。直方体の一部を斜面SPcで切断する第1の理由は、色立体の原点付近はCMY成分の値が小さく波及補正の効果も小さいので、処理速度を優先して、原点付近における波及補正をスキップするためである。第2の理由は、複数の波及補正範囲が重なると波及補正の内容が複雑になるので、波及補正範囲が重なる領域を減らすためである。但し、波及補正範囲SCRcは、このような形状に限らず、他の任意の形状に設定してもよい。例えば、色除去平面CRPcと対向する面を斜面SPcのみで構成するようにしてもよく、或いは、斜面SPcを省略して波及補正範囲SCRcを直方体形状としてもよい。但し、
図16のような形状を有する波及補正範囲SCRcを使用すれば、他の対象色成分に対する波及補正範囲との重複を小さくすることができ、非入力色除去によって発生する色のジャンプを適切に緩和することができる。
【0071】
波及補正は、色除去平面CRPc上に存在する入力値に対応する出力値に対しては適用されず、また、色除去平面CRPcからの距離が最大座標値C_maxとなる位置の入力値に対応する出力値に対しても適用されない。例えば、入力点P11は色除去平面CRPc上に位置するので、入力点P11に対応する出力値に対しては波及補正が適用されず、非入力除去が適用される。一方、入力点P12は、色除去平面CRPc上ではなく、波及補正範囲SCRc内に位置するので、入力点P12に対応する出力値に対しては波及補正が適用される。
【0072】
上述した
図15及び
図16では、入力色空間と出力色空間がいずれもCMYK色空間であるものとしたが、波及補正は、CMYKRG色空間やRGB色空間等の他の色空間を用いる場合にも適用可能である。
【0073】
nを3以上の整数としたとき、入力色空間と出力色空間がn個の色成分X1~Xnでそれぞれ構成される場合には、対象色成分Xjに関する波及補正範囲は、対象色成分Xjが0である色除去平面からの距離が、次式で与えられる最大座標値Xj_maxに等しい位置まで広がる範囲として規定することができる。
Xj_max = min{(ΣXi - Xj), Xj_lim} …(q3)
ここで、Xj_maxは対象色成分Xjが0である色除去平面上における任意の位置の直上に存在する波及補正範囲のXj座標値の最大値、ΣXiは入力値の全ての色成分X1~Xnの和、Xjは入力値の対象色成分、Xj_limは予め設定された限界値である。限界値Xj_limは、
図7の設定ウィンドウW2における波及範囲設定T3に応じて決定され、例えば20%~50%の範囲の値に設定される。この(q3)式は、上述した(q2)式を一般化した式である。
【0074】
上記(q3)式で示されるように、波及補正範囲は、入力値における対象色成分Xj以外の色成分の合計値(ΣXi - Xj)に応じて設定されることが好ましい。より具体的には、波及補正範囲は、色除去平面からの距離が、入力値における対象色成分Xj以外の色成分の合計値(ΣXi - Xj)と、予め設定された限界値Xj_limと、のうちのより小さな値に等しい位置まで広がるように設定されることが好ましい。
【0075】
対象色成分Xjに関する波及補正は、例えば、次式に従って実行することができる。
Xj_out * = Xj_out × F1(t) …(q4)
t = Xj_in / Xj_max …(q5)
ここで、Xj_outは波及補正前の出力値における対象色成分の値、Xj_out *は波及補正後の対象色成分の値、Xj_inは入力値における対象色成分の値、F1(t)はtをパラメーターとする補正係数である。
【0076】
図17は、波及補正の補正係数F1(t)の一例を示す説明図である。補正係数F1(t)は、入力値における対象色成分の値Xj_inが大きいほど増大する1未満の係数である。
図15及び
図16の例では、波及補正範囲SCRcの内部に存在する任意の入力値に対して、入力値が色除去平面CRPcに近いほど補正係数F1(t)が小さくなる。なお、F1(0)=0, F1(1)=1である。但し、t=0の点は色除去平面CRPc上にあるので波及補正の対象外である。また、t=1の点は色除去平面CRPcからの距離が最大座標値C_max(=Xj_max)となる位置に相当するので波及補正の対象外である。このような補正係数F1(t)を用いた波及補正を適用すれば、色補正後の補正出力値で表される色に大きなジャンプが現れることを防止できる。
【0077】
図17の例では、補正係数F1(t)が上に凸の曲線の特性を示しているが、下に凸の曲線の特性を示すものとしてもよく、また、直線の特性を示すものとしてもよい。但し、補正係数F1(t)を、上に凸の曲線の特性を示すものとすれば、色のジャンプがより視認し難くなる点で好ましい。
【0078】
上記 (q4)式の代わりに次式に従って波及補正を実行することも可能である。
Xj_out * = Xj_out + ΔXj×(1- F1(t)) …(q6)
ここで、ΔXjは非入力色除去又は非入力色抑制による対象色成分の変化量であり、負の値である。
【0079】
上記(q4)式は、入力値における対象色成分の値が大きいほど増大する1未満の係数F1(t)を、出力値における対象色成分の値Xj_outに乗算することによって、対象色成分の補正値を求める処理である。一方、上記(q6)式は、入力値における対象色成分の値が大きいほど減少する1未満の係数(1- F1(t))を、非入力色除去又は非入力色抑制による対象色成分の変化量ΔXjに乗算し、その乗算結果を出力値における対象色成分の値Xj_outに加算することによって、対象色成分の補正値を求める処理である。これらの2つの処理は、(q4)式と(q6)式における補正係数F1(t)を必要に応じて調整することによって同じ結果を与えるものとなるので、互いに等価な処理である。
【0080】
図18は、非入力色除去と波及補正の処理例を示す説明図である。「補正出力値」は、非入力色除去と波及補正が適用された出力値である。「補正出力値」において丸で囲まれた数字は、非入力色除去によって変化した色成分の値であり、太枠で囲まれた数字は波及補正によって変化した色成分の値である。入力点P11は、入力値のC成分が0なので、C成分に非入力色除去が適用されている。入力点P12は、波及補正範囲SCRc内に存在するので、C成分に波及補正が適用されている。
【0081】
図18の例では、入力点P11の入力値は「純色保持処理又は対象色成分減少処理の対象である第1種入力値」に相当する。また、入力点P12の入力値は「波及補正範囲内にある第2種入力値」に相当する。
【0082】
上述した
図15~
図18では、入力色空間と出力色空間がいずれもCMYK色空間であるものとしたが、非入力色除去と波及補正は、CMYKRG色空間やRGB色空間等の他の色空間を用いる場合にも適用可能である。入力色空間がRGBで出力色空間がCMYKである場合には、入力値におけるCMY成分の値は、入力値RGBを以下の変換式で変換したCMY値に等しいものと見なすことができる。
Ci = (1 - Ri) …(q7)
Mi = (1 - Gi) …(q8)
Yi = (1 - Bi) …(q9)
ここで、Ri, Gi, Biは入力値の色成分、Ci, Mi, Yiは入力値のRGB成分に対応するCMY成分である。Ri, Gi, BiとCi, Mi, Yiは、それぞれ0~1の範囲の値であり、値「1」は100%に相当する。
【0083】
入力値RGBにおけるK成分の値は、以下のいずれかの方法で決定できる。
(1)方法M1a:
次式に従って入力値RGBにおけるK成分の値Kiを決定する。
Ki = min(Ci, Mi, Yi) …(q10)
(2)方法M1b:
入力値RGBの実際の値に拘わらずにK成分が0であると見なす。
【0084】
補正処理設定部130は、これらの方法M1a,M1bの一方を選択することをユーザーから受け付けるように構成されていてもよい。
【0085】
入力値Ri, Gi, Biで表される入力色が、1次色、2次色、3次色のいずれに該当するかについても、上記Ci, Mi, Yi成分で判断される。即ち、任意の入力値Ri, Gi, Biを(q7)~(q9)式で変換したCi, Mi, Yi成分のうち、1つの色成分のみが0でなく、他の2つの色成分が0である場合には、その入力値で表される入力色は「1次色」である。Ci, Mi, Yi成分のうち、2つの色成分のみが0でなく、他の1つの色成分が0である場合には、入力色は「2次色」である。Ci, Mi, Yi成分がいずれも0でない場合には、入力色は「3次色」である。このように、入力色空間がRGBである場合にも、1次色から3次色までの種々の入力色について、非入力色除去を実施できる。
【0086】
入力色空間がCMYKで出力色空間がRGBである場合に、出力値に対応するCMY成分の値は、出力値RGBを以下の変換式で変換したCMY値に等しいものと見なすことができる。
Co = (1 - Ro) …(q11)
Mo = (1 - Go) …(q12)
Yo = (1 - Bo) …(q13)
ここで、Ro, Go, Boは出力値の色成分、Co, Mo, Yoは出力値のRGB成分に対応するCMY成分である。Ro, Go, BoとCo, Mo, Yoは、それぞれ0~1の範囲の値であり、値「1」は100%に相当する。
【0087】
出力値RGBにおけるK成分の値は、以下のいずれかの方法で決定できる。
(1)方法M2a:
次式に従って出力値RGBにおけるK成分の値Koを決定する。
Ko = min(Co, Mo, Yo) …(q14)
(2)方法M2b:
出力値RGBの実際の値に拘わらずにK成分が0であると見なす。
【0088】
補正処理設定部130は、これらの方法M2a,M2bの一方を選択することをユーザーから受け付けるように構成されていてもよい。
【0089】
入力値CMYKにおけるであり、かつ、(q11)~(q13)式で得られる値Co, Mo, Yoが0とならないCMY成分に対応する出力値RGBの色成分は、非入力色除去によって100%に補正される。この補正は、実質的に、対象色成分として選択されたCMY成分の値をゼロに補正することに相当する。この例から理解できるように、出力値RGBのR成分を増加する補正が、対象色成分であるC成分を減少させる補正に相当する。同様に、出力値RGBのG成分を増加する補正が対象色成分であるM成分を減少させる補正に相当し、出力値RGBのB成分を増加する補正が対象色成分であるY成分を減少させる補正に相当する。
【0090】
上述した
図15~
図18では、入力色空間において波及補正範囲を設定したが、この代わりに、CIE-L*a*b*色空間などの機器非依存色空間において波及補正範囲を設定してもよい。この場合にも、波及補正範囲は、純色保持又は対象色成分減少処理の対象となった入力値の周囲に設定される。また、波及補正範囲内にある入力値に対応する出力値は、波及補正範囲内における入力値の位置に応じて補正される。
【0091】
純色保持の補正結果を波及させる波及補正としては、例えば、本出願により開示された特開2017-158132号公報に記載されたものを適用することができる。この波及補正は、波及補正範囲内にある入力値に対応する出力値に対して、純色保持の対象色成分は増加させ、他の色成分は減少させるように補正結果を波及させる処理である。
【0092】
純色保持の補正結果を波及させる波及補正と、対象色成分減少処理の補正結果を波及させる波及補正は、以下の点で共通する。
(1)入力値が、純色保持処理又は対象色成分減少処理の対象である第1種入力値の周囲に設定された波及補正範囲内に存在する第2種入力値である場合に適用される処理である。
(2)第1種入力値に対応する第1種出力値に関する純色保持処理又は対象色成分減少処理の補正結果を、第2種入力値に対応する第2種出力値に波及させる処理である。
(3)波及補正による第2種出力値の変化量が、第2種入力値が第1種入力値から遠いほど減少するように第2種出力値を補正する処理である。
【0093】
本実施形態では、色補正処理として、純色保持と対象色成分減少処理と波及補正とを説明したが、本開示は他の種類の色補正処理を利用する場合にも適用可能である。但し、純色保持と対象色成分減少処理の一方と、波及補正とを色補正処理として利用する場合に本開示による確認処理を適用すれば、それぞれの処理影響領域を区別して確認することができる点で好ましい。
【0094】
・他の形態:
本開示は、上述した実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実現することができる。例えば、本開示は、以下の形態によっても実現可能である。以下に記載した各形態中の技術的特徴に対応する上記実施形態中の技術的特徴は、本開示の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、本開示の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0095】
(1)本開示の第1の形態によれば、画像処理装置が提供される。この画像処理装置は、入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に色変換する色変換部と、前記出力値の色補正処理に関する設定を受け付ける補正処理設定部と、入力画像において前記色補正処理によって色が変化する処理影響領域を決定して表示装置に表示する表示処理部と、を備える。
この画像処理装置によれば、処理影響領域を観察することによって色補正処理による影響を確認できる。
【0096】
(2)上記画像処理装置において、前記補正処理設定部は、印刷装置で使用される複数の色成分のうち、1つ以上の色成分を対象色成分として選択することを受け付けることが可能に構成されているものとしてもよい。前記色補正処理は、前記対象色成分が1つであり、前記入力値が前記対象色成分以外の色成分を含まない純色を表す場合に、前記対象色成分以外の色成分を0とするように前記出力値を補正する純色保持処理と、前記入力値が前記対象色成分を含まない色を表す場合に、前記対象色成分を減少させるように前記出力値を補正する対象色成分減少処理と、前記入力値が、前記純色保持処理又は前記対象色成分減少処理の対象である第1種入力値の周囲に設定された波及補正範囲内にある第2種入力値である場合に、前記波及補正範囲内における前記第2種入力値の位置に応じて前記第2種入力値に対応する第2種出力値を補正する波及補正処理と、のうちの少なくとも1つを含むものとしてもよい。
この画像処理装置によれば、各種の色補正処理で色が変化する領域を確認できる。
【0097】
(3)上記画像処理装置において、前記表示処理部は、前記純色保持処理又は前記対象色成分減少処理によって色が変化する領域と、前記波及補正処理によって色が変化する領域との区別を視認可能に表示するものとしてもよい。
この画像処理装置によれば、どのような補正処理が適用されているかを容易に確認できる。
【0098】
(4)上記画像処理装置において、前記表示処理部は、前記対象色成分が複数選択された場合に、前記純色保持処理又は前記対象色成分減少処理によって色が変化する領域を、前記複数の対象色成分を区別可能に表示するものとしてもよい。
この画像処理装置によれば、対象色成分毎に処理が適用されている領域を確認できる。
【0099】
(5)上記画像処理装置は、更に、前記処理影響領域の表示方法についての設定を受け付ける表示方法設定部を備えるものとしてもよい。
この画像処理装置によれば、処理影響領域の表示方法をユーザーが設定できる。
【0100】
(6)上記画像処理装置において、前記表示方法設定部は、前記処理影響領域と前記処理影響領域以外の領域との区別を視認可能に表示する方法についての設定を受け付け可能に構成されているものとしてもよい。
この画像処理装置によれば、処理影響領域を容易に確認できる。
【0101】
(7)上記画像処理装置において、前記表示方法設定部は、前記処理影響領域において前記色補正処理による色の変化量を視認可能に表示する方法についての設定を受け付け可能に構成されているものとしてもよい。
この画像処理装置によれば、色補正処理による色の変化量を確認できる。
【0102】
(8)上記画像処理装置において、前記表示方法設定部は、前記入力画像と、前記入力画像に前記色変換を適用し前記色補正処理を適用しない無補正画像と、を含む複数の画像のうちの1つ以上を表示用画像として選択して、前記処理影響領域とともに表示することを受け付け可能に構成されているものとしてもよい。
この画像処理装置によれば、表示用画像と処理影響領域を観察しながら色補正処理の影響を確認できる。
【0103】
(9)上記画像処理装置において、前記表示処理部は、前記表示用画像の上に前記処理影響領域を重畳させて表示するものとしてもよい。
この画像処理装置によれば、表示用画像に重畳された処理影響領域を観察しながら色補正処理の影響を確認できる。
【0104】
(10)上記画像処理装置において、前記表示処理部は、前記表示用画像が前記入力画像と前記無補正画像のいずれかである場合には、前記色補正処理を実行することなく前記表示用画像と前記処理影響領域とを表示するものとしてもよい。
この画像処理装置によれば、色補正処理を実行する前にその影響を確認できる。
【0105】
(11)本開示の第2の形態によれば、画像処理装置と印刷装置とを備える印刷システムが提供される。前記画像処理装置は、入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する色変換部と、前記出力値の色補正処理に関する設定を受け付ける補正処理設定部と、入力画像において前記色補正処理によって色が変化する処理影響領域を決定して表示装置に表示する表示処理部と、前記出力値に対して前記色補正処理を適用する補正部と、前記補正部で補正された補正出力値を用いて前記印刷装置に供給する印刷データを生成する印刷データ生成部と、を含む。
【0106】
(12)本開示の第3の形態によれば、画像処理方法が提供される。この画像処理方法は(a)入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する色変換部を準備する工程と、(b)前記出力値の色補正処理に関する設定を受け付ける工程と、(c)入力画像において前記色補正処理によって色が変化する処理影響領域を決定して表示装置に表示する工程と、を備える。
【0107】
(13)本開示の第4の形態によれば、コンピュータープログラムが提供される。このコンピュータープログラムは、(a)入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する色変換部を準備する処理と、(b)前記出力値の色補正処理に関する設定を受け付ける処理と、(c)入力画像において前記色補正処理によって色が変化する処理影響領域を決定して表示装置に表示する処理と、をコンピューターに実行させる。
【0108】
本開示は、画像処理装置、印刷システム、および、コンピュータープログラム以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、画像処理方法や、コンピュータープログラムを記録した一時的でない記録媒体(non-transitory storage medium)等の形態で実現することができる。
【符号の説明】
【0109】
100…画像処理装置、101…プロセッサー、102…メモリー、103…入出力インターフェース、104…内部バス、110…色変換部、112…色変換ルックアップテーブル、120…補正部、130…補正処理設定部、140…印刷データ生成部、142…分版部、144…ハーフトーン処理部、150…表示処理部、160…表示方法設定部、200…入力装置、300…表示装置、400…印刷装置、500…印刷システム