(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166620
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】エアバッグ装置、その取付方法および車両用シート
(51)【国際特許分類】
B60R 21/2338 20110101AFI20241122BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20241122BHJP
B60N 2/427 20060101ALI20241122BHJP
B60N 2/64 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
B60R21/2338
B60R21/207
B60N2/427
B60N2/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082826
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樫尾 篤
(72)【発明者】
【氏名】吉田 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】大山 脩平
【テーマコード(参考)】
3B087
3D054
【Fターム(参考)】
3B087CD05
3B087DB02
3D054AA02
3D054AA03
3D054AA07
3D054AA23
3D054CC11
(57)【要約】
【課題】供給されるガスにより膨張・展開するエアバッグの挙動をテザーを用いて規制する。
【解決手段】エアバッグ装置19のエアバッグ21は、固定部SP1,SP2によりシートバック17の側縁部に固定されている。また、エアバッグ21は、この固定部SP1,SP2から隔たった位置に一端部41が、シートバック17の側縁部に他端部43が、それぞれ締結されるテザー40が締結されている。テザー40の一端部41と他端部43との締結位置は、エアバッグ21が膨張する際にテザー40によりエアバッグ21に作用する力の力点および作用点が、シートバック21の上下方向における最上位の固定部である第1固定部SP1より下方かつ最下位の固定部である第2固定部SP2より上方となる位置されている。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物の座席のシートバックに取り付けられるエアバッグ装置であって、
前記シートバックの側縁部に固定される少なくとも2箇所の固定部を有し、折り畳まれた状態から膨張用ガスの供給によって膨張されるエアバッグと、
前記エアバッグの前記固定部から隔たった位置に一端部が、前記シートバックの前記側縁部に他端部が、それぞれ締結されるテザーと、
を備え、
前記テザーの前記一端部と前記他端部との締結位置は、前記エアバッグが膨張する際に前記テザーにより前記エアバッグに作用する力の力点および作用点が、前記シートバックの上下方向における最上位の前記固定部である第1固定部より下方かつ最下位の前記固定部である第2固定部より上方となる位置である、エアバッグ装置。
【請求項2】
前記テザーの前記一端部と前記他端部との締結位置は、更に、前記力点と前記作用点を結ぶ線分が、前記第1固定部と前記第2固定部とを結ぶ線分に対して略直交する位置である、請求項1記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記テザーは、前記第1固定部から前記第2固定部までの距離に略等しい幅を有する単一の幅広のテザーであり、
前記幅広のテザーの前記一端部が前記エアバッグに締結される位置は、前記第1固定部よりも下方かつ前記第2固定部よりも上方であり、
前記幅広のテザーの前記他端部が前記シートバックの前記側縁部に締結される位置は、前記第1固定部よりも下方かつ前記第2固定部よりも上方である、
請求項1記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記テザーは、それぞれ一端部と他端部とを有する複数本のテザーから構成された、請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記複数本のテザーは、平行または交差して配置され、
前記エアバッグに作用する力の前記力点および前記作用点は、前記複数本のテザーのそれぞれにより作用する力が合成された力点および作用点である、
請求項4に記載のエアバッグ装置。
【請求項6】
前記複数本のテザーのそれぞれの前記一端部が前記エアバッグに締結される位置は、前記第1固定部よりも下方かつ前記第2固定部よりも上方であり、かつ
前記複数本のテザーのそれぞれの前記他端部が前記シートバックの前記側縁部に締結される位置は、前記第1固定部よりも下方かつ前記第2固定部よりも上方である、
請求項4に記載のエアバッグ装置。
【請求項7】
前記テザーの前記一端部は、前記膨張されたエアバッグにおいて、前記力点から前記作用点に至る方向に前記固定部から最も隔たった位置または当該位置を前記エアバッグの表面に沿って超えた位置に締結された、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のエアバッグ装置。
【請求項8】
乗物の座席のシートバックにエアバッグを取り付ける方法であって、
前記エアバッグを、前記シートバックの側縁部に少なくとも2箇所の固定部により固定し、
前記エアバッグの前記固定部から隔たった位置にテザーの一端部を締結し、前記テザーの他端部を、前記シートバックの前記側縁部に締結し、
前記テザーの締結の際、前記テザーの前記一端部と前記他端部との締結位置を、前記エアバッグが膨張する際に前記テザーにより前記エアバッグに作用する力の力点および作用点が、前記シートバックの上下方向における最上位の前記固定部である第1固定部より下方かつ最下位の前記固定部である第2固定部より上方となる位置とする、
エアバッグの取付方法。
【請求項9】
搭乗者が着座可能なシート本体と、
車両における衝突が検知または予知された場合にガスを発生させるインフレータと、
前記シート本体のシートバックにおける側縁部に固定される少なくとも2箇所の固定部を有し、前記インフレータからのガス供給を受けて、折り畳まれた収納状態から、膨張展開するエアバッグと、
前記エアバッグの前記固定部から隔たった位置に一端部が、前記シートバックの前記側縁部に他端部が、それぞれ締結されるテザーと、
を備え、
前記テザーの前記一端部と前記他端部との締結位置は、前記エアバッグが膨張する際に前記テザーにより前記エアバッグに作用する力の力点および作用点が、前記シートバックの上下方向における最上位の前記固定部である第1固定部より下方かつ最下位の前記固定部である第2固定部より上方となる位置である、
車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エアバッグ装置とその取付方法おび車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両などの乗物において搭乗者の安全性を確保するための各種エアバッグ装置が提案されている。例えば、下記特許文献1には、搭乗者が着座するシート近くの側壁側に衝撃が加わった場合、シートから見て側壁側とは反対側(以下、ファーサイドという)にエアバッグを展開し、搭乗者の安全を図るエアバッグ装置が開示されている。このエアバッグ装置は、側壁側からの衝撃に対する搭乗者の安全性を高めることを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうしたエアバッグ装置では、膨張する以前のエアバッグは折り畳まれてシートバックの側部に収納されており、エアバッグ装置の動作時には、エアバッグは、その一部がシートに固定されたまま、インフレータからのガスによって展開し膨張する。そこで、こうしたエアバッグ装置では、エアバッグをシートに固定する固定部とは別に、エアバッグとシートとを繋ぐ連結部材(以下、テザーと呼ぶ)を設け、エアバッグの展開・膨張時の挙動を規制することも提案されている。
【0005】
発明者等は、こうしたエアバッグ装置において、テザーの形態とエアバッグの展開時の挙動との関係を検討し、エアバッグの動きを所望の挙動に近づける方途を明らかにして、本開示のエアバッグ装置を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
(1)本開示の第1の形態は、乗物の座席のシートバックに取り付けられるエアバッグ装置としての形態である。このエアバッグ装置は、前記シートバックの側縁部に固定される少なくとも2箇所の固定部を有し、折り畳まれた状態から膨張用ガスの供給によって膨張されるエアバッグと、前記エアバッグの前記固定部から隔たった位置に一端部が、前記シートバックの前記側縁部に他端部が、それぞれ締結されるテザーと、を備える。ここで、前記テザーの前記一端部と前記他端部との締結位置は、前記エアバッグが膨張する際に前記テザーにより前記エアバッグに作用する力の力点および作用点が、前記シートバックの上下方向における最上位の前記固定部である第1固定部より下方かつ最下位の前記固定部である第2固定部より上方となる位置である。このエアバッグ装置によれば、膨張されるエアバッグに非所望の回転の軸が生じることを抑制でき、結果的にエアバッグの回転を抑制できる。
(2)本開示の第2の形態は、乗物の座席のシートバックにエアバッグを取り付ける方法に関する。この方法は、前記エアバッグを、前記シートバックの側縁部に少なくとも2箇所の固定部により固定し、前記エアバッグの前記固定部から隔たった位置にテザーの一端部を締結し、前記テザーの他端部を、前記シートバックの前記側縁部に締結し、前記テザーの締結の際、前記テザーの前記一端部と前記他端部との締結位置を、前記エアバッグが膨張する際に前記テザーにより前記エアバッグに作用する力の力点および作用点が、前記シートバックの上下方向における最上位の前記固定部である第1固定部より下方かつ最下位の前記固定部である第2固定部より上方となる位置とする。こうすれば、膨張されるエアバッグに非所望の回転の軸が生じることを抑制でき、エアバッグを容易に取り付けることができる。
(3)本開示の第3の形態は、車両用シートとしての形態である。この車両用シートは、搭乗者が着座可能なシート本体と、車両における衝突が検知または予知された場合にガスを発生させるインフレータと、前記シート本体のシートバックにおける側縁部に固定される少なくとも2箇所の固定部を有し、前記インフレータからのガス供給を受けて、折り畳まれた収納状態から、膨張展開するエアバッグと、前記エアバッグの前記固定部から隔たった位置に一端部が、前記シートバックの前記側縁部に他端部が、それぞれ締結されるテザーと、を備える。この車両用シートにおいて、前記テザーの前記一端部と前記他端部との締結位置は、前記エアバッグが膨張する際に前記テザーにより前記エアバッグに作用する力の力点および作用点が、前記シートバックの上下方向における最上位の前記固定部である第1固定部より下方かつ最下位の前記固定部である第2固定部より上方となる位置である。こうすれば、車両における衝突が検知または予知された場合に、エアバッグを折り畳まれた収納状態から、膨張展開でき、しかもその際に、非所望の回転の軸が生じることを抑制でき、結果的にエアバッグの回転を抑制できるから、搭乗者を保護する機能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態のエアバッグ措置が搭載された車両の一部を平面視で示す説明図。
【
図2】車両における左右のシートと搭乗者およびエアバッグ装置の配置を正面視により示す説明図。
【
図3】シートにおけるエアバッグ装置の収納状態を上面視によって模式的に示す説明図。
【
図4】シートに取り付けられたエアバッグ装置の構成を車両内側からの側面視を用いて示す説明図。
【
図5】エアバッグが展開する様子を車両内の正面視として模式的に示す説明図。
【
図6】同じく、エアバッグが完全に膨張した際の様子を示す説明図。
【
図7】第1実施形態におけるエアバッグの固定位置とテザーの取り付け位置の関係を示す説明図。
【
図8】実施形態におけるテザーの取り付け位置とエアバッグの動きを上面視により模式的に示す説明図。
【
図9】比較例におけるテザーの取り付け位置とエアバッグの動きを説明する説明図。
【
図10】第2実施形態におけるエアバッグの固定位置とテザーの取り付け位置の関係を示す説明図。
【
図11】第3実施形態におけるエアバッグの固定位置とテザーの取り付け位置の関係を示す説明図。
【
図12】第4実施形態におけるエアバッグの固定位置とテザーの取り付け位置の関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
(A1)全体構成:
第1実施形態のファーサイドエアバッグ装置の車両における構成を説明する。
図1および
図2に示すように、乗物の一例としての車両10において、その車幅方向をX方向、車両10の前後方向をY方向、車高方向をZ方向と呼ぶ。更に、図示のように左ハンドル車のハンドル15の側(運転車側)を+X方向、反対側(助手席側)を-X方向と呼び、車両10の前進方向を+Y方向、後退方向を-Y方向と呼び、高さ方向を+Z方向、地面に向かう方向を-Z方向、と呼ぶ。なお、これらの方向は、各図に適宜示したが、図示および以下の説明では、「+」の表記は省略する。
【0010】
車両10の側面にはドアおよびピラー等からなる側壁部11,12が設けられている。側壁部11,12間には、車両10のX方向に並ぶ複数(本例では2つ)の座席が設けられている。座席を構成するシート本体13,14は、それぞれ、シートクッション16と、シートバック17と、ヘッドレスト18とを備えている。座席には、この他、アームレストなどが付属しても差し支えない。また、ヘッドレスト18は無くても良い。シートクッション16とシートバック17とは、分離タイプでも一体型でもよい。
【0011】
シートクッション16は、搭乗者P1,P2の下半身を載せることが可能に構成されている。シートバック17は、シートクッション16の後端部から起立して搭乗者P1,P2の上半身を支えることが可能に構成されている。ヘッドレスト18は、シートバック17の上端部に設けられて搭乗者P1,P2の頭部Tを支えることが可能に構成されている。
【0012】
こうした車両10の側壁部11または側壁部12に対して側方から衝撃が加わると、その衝撃が加わった側壁部11,12から遠い側のシート本体13,14に着座している搭乗者P1,P2が、衝撃が加わった方の側壁部11,12側に倒れ込もうとする。このため、車両10には、側壁部11,12に対して側方から衝撃が加わったときに、その衝撃が加わった方の側壁部11,12から遠い側のシート本体13,14に着座している搭乗者P1,P2を拘束して保護するファーサイドエアバッグ装置19が設けられている。
【0013】
(A2)ファーサイドエアバッグの構成:
図2に示すように、ファーサイドエアバッグ装置19は、車両10におけるシート本体13,14のシートバック17内に収納されている。シート本体13とシート本体14とにおけるファーサイドエアバッグ装置19周りの構造は、車両10のX方向について対称(左右対称)であること以外は同一の構造となっている。このため、以下では、ファーサイドエアバッグ装置19の構成を、シート本体13に収納された側を例にとって説明する。
図3は、左ハンドル車における運転席側のシート本体13におけるファーサイドエアバッグ装置19の構成を上面視にて模式的に示している。ファーサイドエアバッグ装置19は、シート本体13では、シートバック17の骨格を形成するフレーム20の上部における-X方向側に固定されている。ファーサイドエアバッグ装置19は、シートバック17の表皮17aの直下に位置している。表皮17aは、後述するエアバッグの膨張により開裂可能に形成されている。
【0014】
ファーサイドエアバッグ装置19は、エアバッグ21と、インフレータ22と、後述するテザーとを備えている。エアバッグ21は、折り畳まれた状態でシート本体13のシートバック17内のフレーム20の上部に固定されている。インフレータ22は、エアバッグ21に対して、衝突の際に、膨張用ガスを供給する装置である。インフレータ22は、リテーナ23によって覆われた状態で支持されている。リテーナ23は、インフレータ22を支持した状態でフレーム20に対してエアバッグ21と一緒にボルト30およびナット31によって固定されている。
【0015】
図4に示すように、ファーサイドエアバッグ装置19は、インフレータ22によるエアバッグ21への膨張用ガスの供給を制御する制御装置24を備えている。制御装置24には、側壁部11,12等に設けられた加速度センサ等からなる衝撃センサ25が電気的に接続されている。衝撃センサ25は、車両10の側方(Yまたは-Y方向)から側壁部11,12に対して加えられた衝撃を検出する。制御装置24は、衝撃センサ25からの検出信号に基づきインフレータ22を作動させてエアバッグ21に対して膨張用ガスを供給する。制御装置24は、衝撃センサ25からの信号を受けて最速でインフレータ22を動作させるため、ディスクリートな回路構成により実現している。もとより、高速動作可能な1チップマイクロコンピュータなどを用い、予め記憶されたプログラムにより動作する構成としても差し支えない。なお、衝撃センサ25に代えて、ビデオカメラやミリ波レーダ、あるいはLidarなどからの信号を制御装置24が入力し、これにより衝突を予知して、インフレータ22を動作させる構成を採用してもよい。
【0016】
インフレータ22からエアバッグ21に膨張用ガスが供給されると、エアバッグ21は急速に膨張する。エアバッグ21の一端は、後述するように、固定部によりシートバック17に固定されている。このため、エアバッグ21は、インフレータ22付近の部分をシートバック17内に残しつつ、表皮17aを開裂して、シートバック17から前方に飛び出す。シートバック17から飛び出したエアバッグ21は、シート本体13とシート本体14との間で、Y方向に向かって展開および膨張する。
図3では、折り畳まれた状態のエアバッグ21を実線で、展開・膨張したエアバッグ21の一部を2点鎖線で示した。
【0017】
側壁部11,12にする衝突の際には、制御装置24からの信号を受けてインフレータ22が作動し、膨張用ガスをエアバッグ21に供給し、衝撃が加わった側壁部11,12から遠い側のシート本体13,14のエアバッグ21がシートバック17から飛び出す。シート本体13のファーサイドエアバッグ装置19が動作した状態を、
図5に模式的に示した。飛び出したエアバッグ21は、メイン保護部26とサブ保護部27とが連結した形状で展開し、これにより、衝撃が加わった方の側壁部11側に倒れ込もうとするシート本体13に着座している搭乗者P1の胸部から頭部Tにかけての部位を保護する。反対側の側壁部12に衝突が生じた場合には、シート本体14のファーサイドエアバッグ装置19が動作し、そのエアバッグ21が、シートバック17の側縁部からY方向に展開および膨張して、搭乗者P2を拘束し保護する。
【0018】
この結果、衝撃が加わった方の側壁部11,12から遠い側のシート本体13,14に着座している搭乗者P1,P2は、衝撃が加わった方の側壁部11,12に近い側のシート本体14,13に着座している他の搭乗者P2,P1や車両10の内装品などと接触したり干渉したりすることが抑制される。
【0019】
(A3)エアバッグの構成と固定:
次に、エアバッグ21の構成と固定とについて説明する。エアバッグ21は、
図5に模式的に示したように、袋状のメイン保護部26と、メイン保護部26よりも小さい袋状のサブ保護部27とを備える。サブ保護部27は、メイン保護部26と内部空間が連続している。エアバッグ21は、一枚の基布を二つ折りにして厚さ方向に重ね、その重ねられた部分の周縁部同士を縫製することによって袋状に形成されている。メイン保護部26とサブ保護部27とを別々に縫製してから、更に両者を結合してもよい。
【0020】
エアバッグ21は、縫製した側を、シートバック17内部のフレーム20に固定している。この固定の様子を、
図6および
図7に示した。図示するように、エアバッグ21のメイン保護部26は縫製された側に固定部28を有し、第1固定部SP1と第2固定部SP2の2箇所で、シートバック17の側縁部17Sに、具体的にはフレーム20に、固定されている。この例では、第1固定部SP1が第2固定部SP2よりもZ方向において上に位置している。なお、固定箇所は、3以上であってもよい。
【0021】
エアバッグ21は、幅広の帯状のテザー40を備えている。このテザー40の幅Ltは、第1固定部SP1から第2固定部SP2までの範囲LLと略等しく、少なくとも範囲LLの8割程度とされている。テザー40の一端部41は、エアバッグ21の第1,第2固定部SP1,SP2から隔たった位置に締結され、テザー40の他端部43は、シートバック17の側縁部17Sのフレーム20に締結されている。詳しくは、テザー40の一端部41は、膨張した状態のメイン保護部26においてシートバック17側の固定部28から最も遠い位置、または最も遠い位置から背面側に回り込んだ位置で、2箇所で締結される。メイン保護部26に締結されている箇所を、一端側締結部CP1,CP2と呼ぶ。他方、テザー40の他端部43は、シートバック17の側縁部17Sであって、エアバッグ21の第1固定部SP1よりも下方かつ第2固定部SP2よりも上方において締結される。シートバック17に締結されている箇所を、他端側締結部AP1,AP2と呼ぶ。締結は、リベットなどに拠ってもよいし縫製によってもよい。あるいは接着や溶着によってもよい。テザー40の材質は、エアバッグ21の材質、例えばナイロン66を織布し後加工を施したエアバッグ基布などと同じ材質でもよく、異なっていてもよい。例えばPET等を材質としてもよい。布状であれば、弾力がなくてもよい。
【0022】
図7に示したように、これらの一端側締結部CP1,CP2と、他端側締結部AP1,AP2とは、いずれもエアバッグ21の第1固定部SP1よりも下方かつ第2固定部SP2よりも上方に位置する。このため、エアバッグ21には、第1固定部SP1と第2固定部SP2とを繋ぐ軸の周りの回転しか生じない。
図8は、メイン保護部26に対するテザー40の締結位置関係を、上面視により模式的に示す。図では、搭乗者P1の頭部Tがエアバッグ21に押し付けられていない場合に想定される位置のメイン保護部26を破線で描いており、頭部Tがメイン保護部26を-X方向に押しやった場合に想定される位置のメイン保護部26を実線で描いている。搭乗者P1の頭部Tがメイン保護部26に押し付けられることにより、メイン保護部26は-X方向に変形を伴って移動する。
【0023】
このとき、テザー40の一端側締結部CP1,CP2から他端側締結部AP1,AP2までの距離は移動前より移動量Md1だけ大きくなるから、メイン保護部26の移動や変形に逆らう力が、テザー40によりメイン保護部26に作用する。メイン保護部26の変形や移動は、第1固定部SP1および第2固定部SP2を起点に生じるから、便宜的に、テザー40の他端側締結部AP1,AP2を力点、一端側締結部CP1,CP2を作用点とする。本実施形態では、単一の幅広のテザー40を用いているが、締結をテザー40の幅方向両端の2箇所で行なっているとみなし、
図7に示すように、他端側締結部AP1を力点とし一端側締結部CP1を作用点とする力線V1と、他端側締結部AP2を力点とし一端側締結部CP2を作用点とする力線V2とを考えることができる。ここで力線とは、メイン保護部26がシートバック17から遠ざかろうとしたときに、テザー40が、メイン保護部26をシートバック17側に引き戻そうとして力を及ぼす経路を直線的に表わしたものである。このとき、両者によってメイン保護部26に加わる力を合成したと仮定した場合の仮想力線vvの力点apと作用点cpとは、シートバック17のZ方向における最上位の固定部である第1固定部SP1より下方かつ最下位の固定部である第2固定部SP2より上方となる位置に存在することになる。
【0024】
説明の便を図って、テザー40のメイン保護部26側の一端側締結部とテザー40のシートバック17側の他端側締結部とをそれぞれ2箇所として説明した。実際には、一端側締結部や他端側締結部が幅方向に亘って縫製して固定することも可能である。こうした場合でも、多数の力点と多数の作用点を想定し、それらの力点から作用点に及ぼされる多数の力線を合成することができる。こうすれば、仮想力線vvの力点apと作用点cpとは、シートバック17のZ方向における最上位の固定部である第1固定部SP1より下方かつ最下位の固定部である第2固定部SP2より上方となる位置に存在することになる。
【0025】
(A4)ファーサイドエアバッグ装置19の作用・効果:
車両10の側壁部11,12のうち、例えば側壁部11に対して側方から衝撃が加わると、側壁部11から遠い側のシート本体13に着座している搭乗者P1が、側壁部11側に倒れ込もうとする。このとき、シート本体13のシートバック17の側縁部のうち側壁部11に近い側において、シートバック17の内部に折り畳まれて収納されているエアバッグ21が、インフレータ22からの膨張用ガスの供給を受け、シートバック17からY方向に向けて展開および膨張する。
【0026】
この結果、エアバッグ21は、メイン保護部26が搭乗者P21胸部から頭部Tにかけての部位に側方で対応する位置に展開および膨張するとともに、サブ保護部27が搭乗者P1の頭部Tの前方に展開および膨張する。これにより、側壁部11側に倒れ込もうとする搭乗者P1の頭部Tがメイン保護部26にぶつかる。このとき、搭乗者P1によってメイン保護部26が側壁部11側に押され、エアバッグ21の第1固定部SP1および第2固定部SP2とを繋ぐ軸を回転中心として、エアバッグ21に対してこれを回転させようとする力が作用する。第1実施形態のファーサイドエアバッグ装置19では、メイン保護部26は、テザー40により締結されており、仮想力線vvとして示したように、テザー40による力は、第1固定部SP1から第2固定部SP2までの間で作用するので、エアバッグ21の回転は十分に抑制される。
【0027】
この点を比較例を挙げて説明する。
図9は、比較例としてのテザー40Rの配置を示す。この比較例では、テザー40Rの他端側締結部APは、シートバック17のZ方向における最上位の固定部である第1固定部SP1より下方かつ最下位の固定部である第2固定部SP2より上方となる位置に存在するが、テザー40Rとメイン保護部26とを締結する一端側締結部CPは、第1固定部SP1より高い位置とされている。このため、力点である他端側締結部APと作用点である一端側締結部CPとを繋ぐ線分L1は、第1固定部SP1と第2固定部SP2とを繋ぐ線分L2とは直交も略直交もしていない。この結果、エアバッグ21は、線分L2に対して、角度θだけ傾いた軸線AXの周りに回転し得る。本実施形態のように、一端側締結部CP1,CP2や他端側締結部AP1,AP2が、シートバック17のZ方向における最上位の固定部である第1固定部SP1より下方かつ最下位の固定部である第2固定部SP2より上方となる範囲LLに存在すれば、線分L1の傾きは所定範囲に収まるので、軸線AXの傾きは小さく、軸線AX周りの回転は生じない。したがって、テザー40によって、エアバッグ21の動きを、搭乗者P1の保護に必要な範囲に規制できる。なお、本実施形態では、仮想力線vvを線分L1と見做せるので、仮想力線vvは線分L2と略直交していることになる。この結果、軸線AXの傾きθはほぼ零となるから、テザー40によりエアバッグ21に力がかかっても、エアバッグ21を非所望の方向に回転させることがない。
【0028】
しかも、テザー40とエアバッグ21とは、幅広のテザー40の一端部41がエアバッグ21に締結される一端側締結部CP1,CP2の位置は、第1固定部SP1よりも下方かつ第2固定部SP2よりも上方であり、幅広のテザー40の他端部がシートバック17の側縁部に締結される位置は、第1固定部SP1よりも下方かつ第2固定部SP2よりも上方とされている。このため、テザー40によりエアバッグ21を引きつける力は、エアバッグ21に対して、X方向におおよそ平行に作用するから、テザー40によりエアバッグ21がY軸周りに回転することが、一層抑制される。この結果、エアバッグ21の上端または下端が回転して、シート本体13側に引き付けられ過ぎてしまうことを抑制できる。
【0029】
更に、本実施形態では、テザー40の一端部41は、膨張した状態のメイン保護部26においてシートバック17側の固定部28から最も遠い位置、または最も遠い位置から背面側に回り込んだ位置で、一端側締結部CP1,CP2によりエアバッグ21に締結されている。このため、搭乗者P1の頭部T等が膨張したエアバッグ21側に押し付けられたとき、テザー40がエアバッグ21を引っ張る方向に作用する力を大きくできる。この結果、エアバッグ21の回転を一層抑制できる。
【0030】
図8に示したように、メイン保護部26は-X方向に変形を伴って移動するが、このとき、本実施形態のテザー40よりも短いテザーを用い、その一端部41aが、エアバッグ21に対して、シートバック17よりの箇所で締結されているとすると、図示するように、この一端部41aの移動量Md2は、一端部41が膨張した状態のメイン保護部26においてシートバック17側の固定部28から最も遠い位置、または最も遠い位置から背面側に回り込んだ位置に締結されている場合の移動量Md1と較べて小さい。したがって、この場合、エアバッグ21をシートバック17側に引き戻そうとする力は小さい。本実施形態では、
図8に示したように、テザー40の一端部41を、膨張した状態のメイン保護部26においてシートバック17側の固定部28から最も遠い位置、または最も遠い位置から更に背面側に回り込んだ位置で、2箇所で締結しているので、搭乗者P1の頭部Tがメイン保護部26に押し付けられることにより、エアバッグ21に大きな張力を作用させることができる。このため、本実施形態のファーサイドエアバッグ装置19によれば、メイン保護部26およびサブ保護部27からなるエアバッグ21の回転を一層抑制できる。
【0031】
B.第2実施形態:
次に、第2実施形態のファーサイドエアバッグ装置19Bの構成について、説明する。第2実施形態のファーサイドエアバッグ装置19Bは、車両10における取付位置や制御装置24によるインフレータ22の作動の仕組みなどは、第1実施形態と同様であり、エアバッグ21に取り付けられるテザーの構成が異なる。
【0032】
第2実施形態のファーサイドエアバッグ装置19Bは、
図10に示すように、第1実施形態の幅広の1本のテザー40に代えて、2本の細いテザー401,402を用いる。2本のテザー401,402は、テザー40と同様、それぞれの一端部411,412がエアバッグ21の第1,第2固定部SP1,SP2から隔たった位置に締結され、テザー401,402のそれぞれの他端部431,432は、シートバック17の側縁部のフレーム20に締結されている。第1実施形態と同様、メイン保護部26に締結されている箇所を、一端側締結部CP1,CP2と呼ぶ。テザー401,402の一端部411,412が締結される一端部締結部CP1,CP2は、膨張した状態のメイン保護部26においてシートバック17側の固定部28から最も遠い位置、または最も遠い位置から背面側に回り込んだ位置とされている。また、一端側締結部CP1,CP2は、Z方向においては、エアバッグ21の第1固定部SP1よりも下方かつ第2固定部SP2よりも上方に位置する。
【0033】
同様に、テザー401,402のそれぞれの他端部431,432は、シートバック17の側縁部であって、エアバッグ21の第1固定部SP1よりも下方かつ第2固定部SP2よりも上方において締結される。シートバック17に締結されている箇所を、他端側締結部AP1,AP2と呼ぶ。テザー401,402の締結は、リベットなどに拠ってもよいし、縫製、あるいは接着や溶着によってもよいことは、第1実施形態と同様である。
【0034】
第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、搭乗者P1のファーサイドに衝突が生じた際、搭乗者P1によってメイン保護部26が側壁部11側に押され、エアバッグ21に対して第1固定部SP1から上方に隔たった箇所で力が作用する。これに対して、第2実施形態のファーサイドエアバッグ装置19Bでは、メイン保護部26は、テザー401,402により締結されており、エアバッグ21の非所望の方向への回転を抑制する。これは、2本のテザー401,402のそれぞれによりエアバッグ21に作用する力の力線V1,V2から導かれる仮想的な仮想力線vvを想定すると、
図10に示したように、テザー401,402による力は、第1固定部SP1から第2固定部SP2までの範囲LLで作用するからである。しかも、仮想力線vvは第1固定部SP1と第2固定部SP2とをつなぐ線分(図示省略)に略直交している。このため、エアバッグ21の回転は十分に抑制される。
【0035】
第2実施形態のファーサイドエアバッグ装置19Bでも、テザー401,402とメイン保護部26との一端部締結部CP1,CP2は、膨張した状態のメイン保護部26においてシートバック17側の固定部28から最も遠い位置、または最も遠い位置から背面側に回り込んだ位置とされているので、第1実施形態同様、エアバッグ21の回転を一層抑制できる。
【0036】
C.第3実施形態:
次に、第3実施形態のファーサイドエアバッグ装置19Cの構成について、説明する。第3実施形態のファーサイドエアバッグ装置19Cは、車両10における取付位置や制御装置24によるインフレータ22の作動の仕組みなどは、第1,第2実施形態と同様であり、エアバッグ21に取り付けられるテザーの構成が異なる。
【0037】
第3実施形態のファーサイドエアバッグ装置19Cは、
図11に示すように、第2実施形態と同様、2本の細いテザー441,442を用いる。2本のテザー441,442は、第2実施形態のテザー401,402が平行に配置されていたのとは異なり、交差するように配置されている。テザー441の一端部451とテザー442の一端部452とは、エアバッグ21の第1,第2固定部SP1,SP2から隔たった位置に締結されているが、そのZ方向の位置は、第2実施形態とは逆になっている。また、テザー441,442のそれぞれの他端部471,472は、第2実施形態と同様に、シートバック17の側縁部に締結されている。テザー441,442のそれぞれの一端部451,452がメイン保護部26に締結されている箇所を、一端側締結部CP1,CP2と呼ぶ。テザー441,442のそれぞれの他端部471,472は、シートバック17の側縁部であって、エアバッグ21の第1固定部SP1よりも下方かつ第2固定部SP2よりも上方において締結される。シートバック17に締結されている箇所を、他端側締結部AP1,AP2と呼ぶ。
【0038】
第3実施形態においても、第1実施形態と同様に、搭乗者P1のファーサイドに衝突が生じた際、搭乗者P1によってメイン保護部26が側壁部11側に押され、エアバッグ21に対して、第1固定部SP1から上方に隔たった箇所で力が作用する。これに対して、第3実施形態のファーサイドエアバッグ装置19Cでは、メイン保護部26は、テザー441,442により締結されており、エアバッグ21の非所望の方向への回転を抑制する。これは、交差する2本のテザー441,442のそれぞれによりエアバッグ21に作用する力の力線V1,V2から導かれる仮想的な仮想力線vvを想定すると、
図11に示したように、テザー441,442による力は、第1固定部SP1から第2固定部SP2までの範囲LLで作用するからである。しかも、テザー441による力線V1とテザー442による力線V2とは交差しているものの、仮想力線vvは第1固定部SP1と第2固定部SP2とをつなぐ線分(図示省略)に略直交している。このため、エアバッグ21の回転は十分に抑制される。
【0039】
第3実施形態のファーサイドエアバッグ装置19Cでも、テザー441,442とメイン保護部26との締結部CP1,CP2は、膨張した状態のメイン保護部26においてシートバック17側の固定部28から最も遠い位置、または最も遠い位置から背面側に回り込んだ位置とされているので、第1,第2実施形態同様、エアバッグ21の回転を一層抑制できる。
【0040】
D.第4実施形態:
次に、第4実施形態のファーサイドエアバッグ装置19Dの構成について、説明する。第4実施形態のファーサイドエアバッグ装置19Dの車両10における取付位置や制御装置24によるインフレータ22の作動の仕組み、更には2本のテザーを用いる形態などは、第2、第3実施形態と同様である。第4実施形態のファーサイドエアバッグ装置19Dは、エアバッグ21に対するテザーの取り付けの形態が、第2,第3実施形態と異なる。
【0041】
第4実施形態のファーサイドエアバッグ装置19Dは、
図12に示すように、2本の細いテザー501,502を用いるが、2本のテザー501,502が平行でない点で第2実施形態と異なり、交差していない点で第3実施形態と異なる。第4実施形態の2本のテザー501,502は、それぞれの一端部511,512がエアバッグ21の第1,第2固定部SP1,SP2から隔たった位置に締結され、テザー501,502のそれぞれの他端部531,532は、シートバック17の側縁部に締結されている。他の実施形態と同様、テザー501,502がメイン保護部26に締結されている箇所を、一端側締結部CP1,CP2と呼ぶ。テザー501,502の一端部511,512が締結される一端部締結部CP1,CP2は、膨張した状態のメイン保護部26においてシートバック17側の固定部28から最も遠い位置、または最も遠い位置から背面側に回り込んだ位置とされている。また、一端側締結部CP1は、Z方向においては、エアバッグ21の第1固定部SP1よりも上方に位置し、一端側締結部CP2は第2固定部SP2より下方に位置する。
【0042】
他方、テザー501,502のそれぞれの他端部531,532は、シートバック17の側縁部であって、エアバッグ21の第1固定部SP1よりも下方かつ第2固定部SP2よりも上方において締結される。シートバック17に締結されている箇所を、他端側締結部AP1,AP2と呼ぶ。テザー501,502の締結は、リベットなどに拠ってもよいし、縫製、あるいは接着や溶着によってもよいことは、他の実施形態と同様である。
【0043】
第4実施形態においても、第1実施形態と同様に、搭乗者P1のファーサイドに衝突が生じた際、搭乗者P1によってメイン保護部26が側壁部11側に押され、エアバッグ21に対して、第1固定部SP1から上方に隔たった箇所で力が作用する。これに対して、第4実施形態のファーサイドエアバッグ装置19Dでは、メイン保護部26は、テザー501,502により締結されており、エアバッグ21の非所望の方向への回転を抑制する。これは、非平行な2本のテザー501,502のそれぞれによりエアバッグ21に作用する力の力線V1,V2から導かれる仮想的な仮想力線vvを想定すると、
図12に示したように、テザー501,502による力は、第1固定部SP1から第2固定部SP2までの範囲LLで作用するからである。しかも、テザー501による力線V1とテザー502による力線V2とは非平行であるものの、仮想力線vvは第1固定部SP1と第2固定部SP2とをつなぐ線分(図示省略)に略直交している。このため、エアバッグ21の回転は十分に抑制される。
【0044】
更に、第4実施形態のファーサイドエアバッグ装置19Dでは、テザー501,502とメイン保護部26との一端部締結部CP1,CP2は、膨張した状態のメイン保護部26においてシートバック17側の固定部28から最も遠い位置、または最も遠い位置から背面側に回り込んだ位置とされているので、他の実施形態同様、エアバッグ21の回転を一層抑制できる。
【0045】
上記各実施形態は、左ハンドルの車両10における運転席側のシート本体13に着座している搭乗者P1を保護するファーサイドエアバッグ装置19等を例として説明したが、右ハンドル車両や、助手席側のシート本体14に着座している搭乗者P2についても同様である。
【0046】
E.他の実施形態:
(1)他の実施形態の1つは、乗物の座席のシートバックに取り付けられるエアバッグ装置としての形態である。このエアバッグ装置は、シートバックの側縁部に固定される少なくとも2箇所の固定部を有し、折り畳まれた状態から膨張用ガスの供給によって膨張されるエアバッグと、エアバッグの固定部から隔たった位置に一端部が、シートバックの側縁部に他端部が、それぞれ締結されるテザーと、を備える。ここで、テザーの一端部と他端部との締結位置は、エアバッグが膨張する際にテザーによりエアバッグに作用する力の力点および作用点が、シートバックの上下方向における最上位の固定部である第1固定部より下方かつ最下位の固定部である第2固定部より上方となる位置である。
【0047】
こうしたエアバッグ装置としては、搭乗者から遠いサイド(ファーサイド)での衝突の際に搭乗者を保護するファーサイドエアバッグ装置や、ファーセンタエアバッグ装置、あるいはサイドエアバッグ装置などがあるが、エアバッグ装置の名称を問わず、座席のシートバックに取り付けられ、その挙動をテザーにより規制しようとするエアバッグとして実施可能である。エアバッグ装置が取り付けられる座席としては、セミパケットシート、フルパケットシート、コンフォートタイプなど、形式を問わない。乗物としては、三輪以上の多輪の乗用車に限らず、トラックやバス、トラクタなど、車両であれば車種を問わない。乗物は、自力走行可能なものに限らず、牽引される車両等の乗物にも適用可能である。搭乗者が着座する座席としては、運転員などの乗員が着座する運転席に限らず、助手席や後部座席なども想定される。
【0048】
(2)上記(1)の構成において、テザーの一端部と他端部との締結位置は、更に、力点と作用点を結ぶ線分が、第1固定部と第2固定部とを結ぶ線分に対して略直交する位置であるものとしてもよい。略直交とは、直交(90度)から±10度、つまり80度から100度の範囲を言う。この範囲外でも、テザーの一端部と他端部との締結位置が、上記(1)の条件を満たせばエアバッグの回転は抑制されるが、力点と作用点を結ぶ線分が、第1固定部と第2固定部とを結ぶ線分に対して略直交する位置にあれば、エアバッグの回転は更に抑制される。
【0049】
(3)上記の(1)の構成において、テザーは、第1固定部から第2固定部までの距離に略等しい幅を有する単一の幅広のテザーであり、幅広のテザーの一端部がエアバッグに締結される位置は、第1固定部よりも下方かつ第2固定部よりも上方であり、幅広のテザーの他端部がシートバックの側縁部に締結される位置は、第1固定部よりも下方かつ第2固定部よりも上方であるものとしてよい。こうすれば、テザーを1本にでき、構成を簡略化できる。略等しい幅とは、第1固定部から第2固定部までの距離に対して、±20%程度までの範囲を意味する。テザーの幅がこの範囲外であっても、テザーの一端部と他端部との締結位置が、上記(1)の条件を満たせばエアバッグの回転は抑制されるが、テザーが、第1固定部から第2固定部までの距離に略等しい幅を有する単一の幅広のテザーであれば、エアバッグの回転は更に抑制される。なお、幅広のテザーの幅は、全長を通して一定であってもよく、一定ではなく、広い箇所と狭い箇所とがあっても差し支えない。
【0050】
(4)上記の(1)の構成において、テザーは、それぞれ一端部と他端部とを有する複数本のテザーから構成されたものとしてよい。こうすれば、テザーを取り付ける位置や組み合わせ等の自由度を高くできる。エアバッグの形態に合った構成を実現しやすい。テザーの本数は、2本でも3本でも、あるいはそれ以上でも差し支えない。複数本のテザーの取付方向を第1固定部SP1から第2固定部SP2に至る方向に揃えれば、エアバッグの回転を一層規制しやすい。複数本のテザーを平行に配置する場合、複数本のテザーは、隣接させて配置してもよいし、離間して配置してもよい。あるいは一部を重ねて配置してもよい。
【0051】
(5)上記の構成において、複数本のテザーは、平行または交差して配置され、エアバッグに作用する力の力点および作用点は、複数本のテザーのそれぞれにより作用する力が合成された力点および作用点であるものとしてよい。こうすれば、エアバッグの回転を規制しやすい。複数本のテザーを交差して配置する場合、交差する箇所でテザー同士を締結してもよいし、しなくてもよい。テザーが3本以上の場合、テザーの一部を交差させ、残りは交差させないように配置してもよく、全てのテザーを交差させてもよい。3本以上の場合、1本のテザーが他の1本のテザーと交差する様にしてもよいし、他の2本以上のテザーと交差する様にしてもよい。
【0052】
(6)上記の構成において、複数本のテザーのそれぞれの一端部がエアバッグに締結される位置は、第1固定部よりも下方かつ第2固定部よりも上方であり、かつ複数本のテザーのそれぞれの他端部がシートバックの側縁部に締結される位置は、第1固定部よりも下方かつ第2固定部よりも上方であるものとしてよい。こうすれば、複数本のテザーにより、エアバッグが膨張する際にエアバッグに作用する力の力点および作用点を、シートバックの上下方向における最上位の固定部である第1固定部より下方かつ最下位の固定部である第2固定部より上方となる位置にできる。このため、膨張されるエアバッグに非所望の回転の軸が生じることを抑制でき、結果的にエアバッグの回転を抑制できる。
【0053】
(7)上記(1)から(6)の構成において、テザーの一端部は、膨張されたエアバッグにおいて、力点から作用点に至る方向に固定部から最も隔たった位置または当該位置をエアバッグの表面に沿って超えた位置に締結されたものとしてよい。こうすれば、エアバッグの動きに対して、テザーから大きな力を受けることが可能となり、エアバッグの回転を更に抑制できる。
【0054】
(8)他の実施形態のもう一つは、乗物の座席のシートバックにエアバッグを取り付ける方法である。この方法は、
図13に示すように、
[1]エアバッグを、シートバックの側縁部に少なくとも2箇所の固定部により固定する工程T1、
[2]テザーの一端部と他端部との締結位置を、エアバッグが膨張する際にテザーによりエアバッグに作用する力の力点および作用点が、シートバックの上下方向における最上位の固定部である第1固定部より下方かつ最下位の固定部である第2固定部より上方となる位置に調整する工程T2、
[3]エアバッグの固定部から隔たった位置にテザーの一端部を締結し、テザーの他端部を、シートバックの側縁部に締結する工程T3、
とを備える。ここで、工程T2は工程T3に組み込んでもよい。こうした方法は、上述した各種乗物およびその座席において実施できる。この取付方法は、車両などの乗物を製造する際に用いてもよいし、製造あるいは販売済みの乗物やその座席にエアバッグを取り付ける際に用いてもよい。
【0055】
(9)更に他の実施形態としては、車両用シートとしての形態がある。この車両用シートは、搭乗者が着座可能なシート本体と、車両における衝突が検知または予知された場合にガスを発生させるインフレータと、シート本体のシートバックにおける側縁部に固定される少なくとも2箇所の固定部を有し、インフレータからのガス供給を受けて、折り畳まれた収納状態から、膨張展開するエアバッグと、エアバッグの固定部から隔たった位置に一端部が、シートバックの側縁部に他端部が、それぞれ締結されるテザーと、を備える。この車両用シートでは、テザーの一端部と他端部との締結位置は、エアバッグが膨張する際にテザーによりエアバッグに作用する力の力点および作用点が、シートバックの上下方向における最上位の固定部である第1固定部より下方かつ最下位の固定部である第2固定部より上方となる位置とされている。こうした車両用シート(座席)は、セミパケットシート、フルパケットシート、コンフォートタイプなど、形式を問わない。車両用シートは、三輪以上の多輪の乗用車に搭載されるシートに限らず、トラックやバス、トラクタなどの車両のシートとして実現可能である。自力走行可能なものに用いられるシートの他、牽引される車両等のシートとしても実現可能である。運転員などの乗員が着座する運転席に限らず、助手席や後部座席などとして実現してもよい。
【0056】
(10)上記各実施形態において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよい。ソフトウェアによって実現されていた構成の少なくとも一部は、ディスクリートな回路構成により実現することも可能である。また、本開示の機能の一部または全部がソフトウェアで実現される場合には、そのソフトウェア(コンピュータプログラム)は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納された形で提供することができる。「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスクやCD-ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピュータ内の内部記憶装置や、ハードディスク等のコンピュータに固定されている外部記憶装置も含んでいる。すなわち、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、データパケットを一時的ではなく固定可能な任意の記録媒体を含む広い意味を有している。
【0057】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
10…車両、11…側壁部、12…側壁部、13,14…シート本体、15…ハンドル、16…シートクッション、17…シートバック、17a…表皮、18…ヘッドレスト、19,19B~19D…ファーサイドエアバッグ装置、20…フレーム、21…エアバッグ、22…インフレータ、23…リテーナ、24…制御装置、25…衝撃センサ、26…メイン保護部、27…サブ保護部、28…固定部、30…ボルト、31…ナット、40,40R,401,402,441,442,501,502…テザー、41,41a,411,412,451,452,511,512…一端部、43,431,432,471,472,531,532…他端部、AP,AP1,AP2…他端側締結部、ap…力点、AX…軸線、CP,CP1,CP2…一端側締結部、cp…作用点、P1,P2…搭乗者、SP1…第1固定部、SP2…第2固定部、T…頭部、vv…仮想力線