(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166633
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】繊維含有率の異なる短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体、その接合体及び製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/118 20170101AFI20241122BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20241122BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20241122BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20241122BHJP
B29C 70/34 20060101ALI20241122BHJP
B29C 70/10 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
B29C64/118
C08J5/04 CER
C08J5/04 CEZ
B33Y80/00
B32B5/26
B29C70/34
B29C70/10
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082848
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】523322612
【氏名又は名称】Todo Meta Composites合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100011
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 省三
(72)【発明者】
【氏名】轟 章
【テーマコード(参考)】
4F072
4F100
4F205
4F213
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB18
4F072AD42
4F072AD44
4F072AD45
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4F072AH23
4F072AK05
4F072AL11
4F100AD11A
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4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
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4F100BA22
4F100DG03A
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4F100EC03
4F100GB61
4F100JG01A
4F100JG01B
4F205AA29
4F205AB25
4F205AD16
4F205HA14
4F205HA17
4F205HA35
4F205HA45
4F205HB01
4F205HT16
4F205HT26
4F213AB18
4F213AB25
4F213AC02
4F213WA25
4F213WA86
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL15
4F213WL67
4F213WL96
(57)【要約】
【課題】繊維含有率の異なる短繊維が複相した短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体、その接合体及び製造方法を提供する。
【解決手段】レーザ照射前の短炭素繊維強化熱可塑性樹脂構造体1の短炭素繊維SCはX方向(配向方向)に沿って離散的かつ離間して配設されている。レーザ光源31からのレーザ光Lを短炭素繊維強化熱可塑性樹脂構造体1の表面の一部1aに局所的に照射し、熱可塑性樹脂をその融点以上に加熱して移動又は蒸発させる。レーザ照射後は、短炭素繊維強化熱可塑性樹脂構造体1に凹部31が形成され、この結果、繊維含有率が異なる短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3が形成される。凹部31においては、熱可塑性樹脂が消失するので、凹部31の底部においては、局所的に短炭素繊維SCが露出されかつ重複し合って繊維含有率が大きい短炭素繊維SC’に実質的に変換される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体であって、
前記短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の表面の少なくとも一部に局部的に第1の短繊維を含有させ、
前記表面の前記少なくとも一部以外の前記短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体に前記第1の短繊維より繊維含有率が小さい第2の短繊維を含有させた短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体。
【請求項2】
前記短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の前記一部の表面は毛状状態である請求項1に記載の短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体。
【請求項3】
前記第1、第2の短繊維は導電性である請求項1に記載の短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体。
【請求項4】
前記第1、第2の短繊維は炭素繊維である請求項1に記載の短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体。
【請求項5】
前記一部は前記表面から見て2つの電極領域及び該2つの電極領域を接続する該電極領域より幅が小さい電流経路領域を有して歪みセンサとして作用する請求項3に記載の短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体。
【請求項6】
前記電流経路領域は折り返し部を有する請求項5に記載の短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体。
【請求項7】
第1、第2の短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の接合体であって、
前記各第1、第2の短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の表面の少なくとも一部に局部的に第1の短繊維を含有させ、
前記表面の前記少なくとも一部以外の前記第1、第2の短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体に前記第1の短繊維より繊維含有率が小さい第2の短繊維を含有させ、
前記第1の短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の前記表面の前記少なくとも一部と前記第2の短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の前記表面の前記少なくとも一部とは溶融接合され、
前記第1、第2の短繊維は導電性である短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の接合体。
【請求項8】
前記第1、第2の短繊維は短炭素繊維である請求項7に記載の短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体。
【請求項9】
前記第1の短繊維強化熱可塑性樹脂構造体の積層方向と、前記第2の短繊維強化熱可塑性樹脂構造体の積層方向とが異なる請求項7に記載の短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の接合体。
【請求項10】
第1の短繊維よりなる短繊維強化熱可塑性樹脂構造体を成形するための成形工程と、
前記短繊維強化熱可塑性樹脂構造体の表面の少なくとも一部の熱可塑性樹脂を局所的に溶融・移動又は蒸発させ、前記短繊維強化熱可塑性樹脂構造体の前記少なくとも一部を前記第1の短繊維より繊維含有率の大きい第2の短繊維に変換させるための樹脂溶融工程と
を具備する短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の製造方法。
【請求項11】
前記樹脂溶融工程はレーザ光、キセノンランプ光又は前記熱可塑性樹脂の溶媒を用いる請求項10に記載の短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の製造方法。
【請求項12】
前記第1、第2の短繊維は導電性である請求項10に記載の短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の製造方法。
【請求項13】
前記第1、第2の短繊維は炭素繊維である請求項12に記載の短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の製造方法。
【請求項14】
第1の短繊維よりなるフィラメントで成形するための成形工程と、
前記成形工程中に前記フィラメントの表面の少なくとも一部の熱可塑性樹脂をレーザ光で局所的に溶融・移動又は蒸発させ、前記フィラメントの前記少なくとも一部を前記第1の短繊維より繊維含有率の大きい第2の短繊維に変換させるためのレーザ溶融工程と
を具備する短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維含有率の異なる短繊維複相繊維を含む短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体、その接合体及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3Dプリンタ、射出成形、圧縮成形等によって成形される熱可塑性樹脂構造体を繊維によって強化する方法として短繊維を利用するものと、長繊維(連続繊維)を利用するものがある(参照:特許文献1)。特に、炭素繊維強化樹脂(CFRP)は比剛性、比強度の点で金属に比較して優れている(参照:非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】T.Gerngross, D. Nieberl, “Automated manufacturing of large, three-dimensional CFRP parts from dry textiles”, CEAS Aeronautical Journal, 7(2), 2016, 241-257.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、短繊維を強化材として用いると、短繊維の利点を活かした成形が可能であるが、力学的特性はそれ程大きくないという課題がある。特に、導電性を必要とする場合、短炭素繊維はカーボンナノチューブ、カーボンブラックに比較して導電性が低いか導電性がなく、短炭素繊維強化熱可塑性樹脂構造体の導電性を確保できない。他方、長繊維を強化材として用いると、力学特性は大きいが、複雑な形状の長繊維強化熱可塑性樹脂構造体を成形する場合、長繊維が折返されてその部分の強度が低下する。その対処方法としては、切断機構を設けて、長繊維強化熱可塑性樹脂構造体を所定長さで切断する。この結果、長繊維強化熱可塑性樹脂構造体の製造コストが上昇するという課題がある。また、3Dプリントでは、長繊維熱可塑性樹脂だけで成形すると、表面の凹凸が発生してしまうため、表面全体には短繊維熱可塑性樹脂を用いることから、表面の電気伝導性を確保できず、熱伝導性も確保できない課題がある。さらに、3Dプリント時に連続する短繊維の体積含有率が大きいと、ノズルに詰まりやすいこと、曲げにくいために印刷パスの曲率に制限がかかることから連続する短繊維では大きな体積含有率で印刷できないという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するために、本発明に係る短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体は、短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の表面の少なくとも一部に局部的に繊維含有率の大きい第1の短繊維を配置し、表面の少なくとも一部以外の短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体に第1の短繊維より繊維含有率が小さい第2の短繊維を配置させたものである。
【0007】
また、本発明に係る短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の接合体は、各第1、第2の短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の表面の少なくとも一部に局部的に繊維含有率の大きい第1の短繊維を配置し、表面の少なくとも一部以外の第1、第2の短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体に第1の短繊維より繊維含有率が小さい第2の短繊維を配置し、第1の短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の表面の少なくとも一部と第2の短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の表面の少なくとも一部とは溶融接合され、第1、第2の短繊維は導電性または高熱伝導性であるものである。
【0008】
さらに、本発明に係る短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の製造方法は、第1の短繊維よりなる短繊維強化熱可塑性樹脂構造体を成形するための成形工程と、短繊維強化熱可塑性樹脂構造体の表面の少なくとも一部の熱可塑性樹脂を局所的に溶融・移動又は蒸発させ、短繊維強化熱可塑性樹脂構造体の表面の少なくとも一部を第1の短繊維より繊維含有率の大きい第2の短繊維に変換させるための樹脂溶融工程とを具備するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、繊維含有率の異なる短繊維を強化材として用いるので、局所的に物性の異なる複合材の製造コストを小さくできると共に繊維含有率を局所的に高くすることで強度を大きくできる。表面の短繊維を導電性、熱伝導性とした場合、表面の導電性、熱伝導性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の製造方法の実施の形態の短炭素繊維強化熱可塑性樹脂構造体成形工程を説明するための図であって、(A)は短炭素繊維強化熱可塑性樹脂構造体を示す断面図、(B)は3Dプリンタを示す図である。
【
図2】本発明に係る短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の製造方法の実施の形態の加熱工程としてのレーザ照射工程を説明するための図であって、(A)はレーザ照射前の短炭素繊維強化熱可塑性樹脂構造体の断面図及び電子顕微鏡画像、(B)はレーザ照射時の短炭素繊維強化熱可塑性樹脂構造体の断面図、(C)はレーザ照射後の短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の断面図及び電子顕微鏡画像である。
【
図3】他のレーザ照射後の短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体を示し、(A)は電子顕微鏡画像、(B)は水滴滴下時の水滴の写真、(C)はレーザ照射前の短炭素繊維強化熱可塑性樹脂構造体の水滴滴下時の水滴の写真である。
【
図4】
図1、
図2の短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の応用例を示す図である。
【
図5】
図1、
図2の短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の接合体を説明する図であって、(A)は継手界面型樹脂溶融接合を示し、(B)は片面電流型樹脂溶融接合を示し、(C)は万力加圧継手界面型樹脂溶融接合を示す。
【
図6】
図1、
図2の短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の他の接合を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1、
図2は本発明に係る短繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の製造方法の実施の形態を説明するための図である。
【0012】
始めに、
図1を参照して短炭素繊維強化熱可塑性樹脂構造体成形工程を説明する。尚、(A)は短炭素繊維強化熱可塑性樹脂構造体の断面図で、(B)は3Dプリンタの正面図である。
【0013】
図1の(A)に示す短炭素繊維強化熱可塑性樹脂構造体1は
図1の(B)に示す3Dプリンタ2によって成形される。
【0014】
図1の(B)に示すように、ループ11に巻回された短炭素繊維強化フィラメントFが3Dプリンタ2に供給される。3Dプリンタ2はたとえばQiDi Tech社のX-Plusであり、エクストルーダ21、ヒータ付ノズル22及びプリントベッド23によって構成される。ループ11に巻回された短炭素繊維強化フィラメントFは短炭素繊維(SCFRP)を含有した熱可塑性複合材料である。この熱可塑性複合材料は、炭素繊維含有率が高い程、その強度が向上するが、短炭素繊維強化フィラメントFは硬くなり、かつ、脆くなる。この結果、ループ11に巻くことができなくなる。そのため、短炭素繊維強化フィラメントFの繊維含有率は10~25%と小さい。
【0015】
図1の(B)において、短炭素繊維強化フィラメントFはエクストルーダ21の2つのギア21a、21bによって調整されて押出され、ヒータ温度270~290℃程度のヒータ付ノズル22から射出される。短炭素繊維強化フィラメントFの熱可塑性樹脂はたとえばナイロン(登録商標)であり、また、短炭素繊維長は短く平均50~300μm程度である。
【0016】
得られた
図1の(A)に示す短炭素繊維強化熱可塑性樹脂構造体1はZ方向に複数の層で積層され、各層における短炭素繊維は
図1の(B)に示すX方向(配向方向)に沿って配向される。
【0017】
次に、
図2を参照して加熱工程としてのレーザ照射工程を説明する。尚、レーザ照射工程はフィラメントFによる成形工程中にも行われる。また、
図2の(A)はレーザ照射工程前の短炭素繊維強化熱可塑性樹脂構造体の断面図及び電子顕微鏡画像、
図2の(B)はレーザ照射を説明する図、
図2の(C)はレーザ照射工程後の短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の断面図及び電子顕微鏡画像である。
【0018】
図2の(A)に示すごとく、レーザ照射前の短炭素繊維強化熱可塑性樹脂構造体1の短炭素繊維SCはX方向(配向方向)に沿って離散的かつ離間して配設されている。従って、炭素繊維含有率は短炭素繊維強化熱可塑性樹脂構造体1の全体に亘って小さく、従って、短炭素繊維強化熱可塑性樹脂構造体1の強度はそれ程大きくない。
【0019】
図2の(B)に示すごとく、レーザ光源31からのレーザ光Lを短炭素繊維強化熱可塑性樹脂構造体1の表面の一部1aに局所的に照射する。たとえば、レーザ光Lの条件は次のごとくである。
波長455nmの半導体レーザ
レーザパワー:40%
焦点距離F:40mm
従って、レーザ光Lは短炭素繊維強化熱可塑性樹脂構造体1の表面部分1aに吸収され、この結果、熱可塑性樹脂をその融点以上に加熱して移動又は蒸発させる。この場合、レーザ光Lが強過ぎると、燃焼して消滅する熱可塑性樹脂の量が多過ぎるので、これを防止するために、レーザ光Lのデフォーカス量(焦点はずし量)DFをたとえば20mmで調整する。また、上記部分1aをX方向又はY方向に延長するためにガルバノ走査型ミラーを設けてレーザ光Lをたとえば5mm/sで走査することもできる。
【0020】
レーザ照射後は、
図2の(C)に示すごとく、短炭素繊維強化熱可塑性樹脂構造体1に凹部31が形成され、この結果、繊維含有率の異なる短炭素繊維よりなる短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3が形成される。すなわち、凹部31においては、熱可塑性樹脂が消失するので、凹部31の底部においては、局所的に短炭素繊維SCが露出されかつ重複し合って短炭素繊維SC’に実質的に変換される。この結果、凹部31の底部領域は繊維含有率が大きい短炭素繊維領域となり、その繊維含有率がたとえば45~50%と大きくなり、従って、その強度は大きくなる。これにより、短炭素繊維SCの領域及び短炭素繊維SC’の領域の両方を有する短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3が得られることになる。このようにして、低製造コスト及び高強度の両立を図った短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3を実現する。また、短炭素繊維SC’を含む場合には、高導電率をも実現できる。
【0021】
また、レーザ照射条件を変更するか又は透明度の低い熱可塑性樹脂を用いると、
図3の(A)の電子顕微鏡画像に示すごとく、熱可塑性樹脂の表面が毛状となる。この毛状表面に水滴を直下した場合には、
図3の(B)に示すごとく、水滴の接触角度が30°以下程度となり、親水性を呈示することが分かった。尚、
図3の(C)に示すごとく、レーザ光Lの照射前は水滴の接触角度が90°の疎水性を呈示していた。このようにして、短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3の表面を改質することができる。
【0022】
熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂(PA-6)たとえばナイロン(登録商標)の場合、レーザ光Lはナイロン(登録商標)を透過して短炭素繊維SCに吸収され、上述のごとく、ナイロン(登録商標)は溶融して飛散する。従って、ナイロン(登録商標)の表面を毛状にするには、ナイロン(登録商標)に染料を含有させてナイロン(登録商標)の透過率を低下させる。
【0023】
熱可塑性樹脂がポリエーテルイミド(PEI)の場合、レーザ光Lはポリエーテルイミド(PEI)表面で吸収され、樹脂のみが溶融して気化する。従って、短炭素繊維SCが半分埋め込まれた毛が生えた状態の表面が形成される。ポリエーテルイミド(PEI)で導電性表面を形成するには、赤外線レーザを用いるか、強度Aのレーザ光で樹脂を除去後に短炭素繊維により強度Bのレーザ光を当てる等の多段階レーザ処理を必要とする。
【0024】
図4は
図1、
図2の短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体を歪みセンサとして作用せしめた応用例を説明するための上面図である。
【0025】
図4の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)に示すように、長さL=120mm×幅W=18mm×厚さ1.6mmの短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3-A、3-B、3-C、3-D、3-Eにおいて、繊維含有率が大きい短炭素繊維領域の深さ65%の凹部31-A、31-B、31-C、31-D、31-Eを5mm×15mmの電極部E1、E2及び電極部E1、E2間に接続された幅1mmの電流経路部E3の形状で形成する。この場合、短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3-A、3-B、3-C、3-D、3-Eの電流経路部E3を折り返し数0、1、2、3、4とし、長さ30mm、64mm、8.2mm、116mm、134mmとした。この結果、短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3-A、3-B、3-C、3-D、3-Eの初期抵抗値は0.68kΩ、6.42kΩ、7.29kΩ、7.72kΩ、13.29kΩとなった。このように、短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3の初期抵抗値は凹部31のパターンを変更することによって調整し、歪みセンサとして作用させることができる。
【0026】
上述の短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3においては、表面樹脂がレーザ光Lによって移動又は蒸発した凹部31の底部の繊維含有率が大きいので、その電気抵抗値は小さい。従って、抵抗加熱による樹脂溶融で2つの短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3の接合が可能になる。
【0027】
図5は
図1、
図2の短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体の接合体を説明するための図である。
【0028】
図5の(A)においては、2つの短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3、3′を継手界面型樹脂溶融接合する。すなわち、短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3、3′の繊維含有率が大きい短炭素繊維領域の凹部31、31′に電極E3、E4を設けてある。そして、短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3、3′の繊維含有率が大きい短炭素繊維領域の凹部31、31′を接触させた状態で、電極E3、E4間に電流を流すことによってジュール熱で両者を溶融接合する。尚、凹部31、31′は全面的である必要はなく、部分的たとえば線状的に形成されてもよい。
【0029】
図5の(B)においては、2つの短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3、3′を片面電流型樹脂溶融接合する。すなわち、短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3、3′の一方の繊維含有率が大きい短炭素繊維領域の凹部31又は31′に電極E3、E4を設ける。そして、短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3、3′の繊維含有率が大きい短炭素繊維領域の凹部31、31′同志を接触させた状態で、電極E3、E4間に電流を流すことによってジュール熱で両者を溶融接合する。尚、この場合も、凹部31、31′は全面的である必要はなく、部分的たとえば線状的に形成されてもよい。
【0030】
図5の(C)においては、2つの短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3、3′を万力加工継手界面型樹脂溶融接合する。すなわち、
図5の(A)と同様に、短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3、3′の繊維含有率が大きい短炭素繊維領域の凹部31に電極E3、E4を設ける。短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3、3′の繊維含有率が大きい短炭素繊維領域の凹部31同志を接触させて万引4、4′で押し戻した状態で、電極E3、E4間に電流を流すことによってジュール熱で両者を溶融接合する。尚、この場合も凹部31、31′は全面的である必要はなく、部分的たとえば線状的に形成されてもよい。
【0031】
尚、
図5の(B)に示す片面電流型樹脂溶融接合においても、万力加工片面電流型樹脂溶融接合とすることもできる。
【0032】
図5の(A)、(B)、(C)の接合方法は
図6に示す全く異なる積層方向の2つの短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3、3′の接合にも適用できる。すなわち、
図6においては、短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3の積層方向はZ方向であり、他方、短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3′の積層方向はX方向であり、積層方向がほぼ直交している。この場合においても、
図5の(A)、(B)、(C)の接合方法を用いて短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体3、3′を溶融接合できる。
【0033】
尚、
図2の(B)においては、レーザ照射を短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体1の表面の一部1aに局所的に行っているが、表面の全部に行ってもよい。この場合には、繊維含有率が大きい短炭素繊維SC’の領域が短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体1の表面の全体に形成され、他方、表面以外の短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体1が繊維含有率が小さい短炭素繊維SCの領域のままとなる。
【0034】
また、
図2の(B)においては、レーザ照射によって短炭素繊維強化熱可塑性樹脂構造体1の表面の短炭素繊維SCを短炭素繊維SC’に変換しているが、レーザ光以外の他の局所的な熱線たとえばキセノンランプ光でもよい。あるいは、熱可塑性樹脂を溶融させる溶媒でもよい。たとえば、熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂たとえばナイロン(登録商標)であれば、株式会社カネコ化学製の溶解液「eソルブ21RS」(登録商標)を用いて局所溶融させることにより短繊維が表面に残る。その後、高温樹脂を滴下するか接着剤を滴下すればよい。
【0035】
さらに、上述の実施の形態においては、凹部31、31’が形成されているが、加熱工程の前に凸部を形成しておき、この凸部に対して加熱工程を実施すれば、凹部31、31’は存在しない。
【0036】
さらに、上述の実施の形態においては、導電性繊維として炭素繊維を用いたが、他の導電性繊維たとえば金属ウィスカの金属繊維、セラミック系繊維又は有機繊維になし得る。
【0037】
さらにまた、熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂たとえばナイロン(登録商標)以外に、他の樹脂たとえばポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)になし得る。
【0038】
さらにまた、本発明は上述の実施の形態の自明の範囲のいかなる変更にも適用し得る。
【符号の説明】
【0039】
1:短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体
11:ループ
F:短炭素繊維複相強化フィラメント
2:3Dプリンタ
21:エクストルーダ
21a、21b:ギア
22:ヒータ付きノズル
23:プリントヘッド
4、4′:万力
SC:短炭素繊維
SC’:繊維含有率が大きい短炭素繊維(露出短炭素繊維の重複)
3、3-A、3-B、3-C、3-D、3-E、3-F、3-G、3,3′:繊維含有率が異なる短炭素繊維複相強化熱可塑性樹脂構造体
31、31′:凹部