(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166639
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】半導体受光素子
(51)【国際特許分類】
H01L 31/10 20060101AFI20241122BHJP
【FI】
H01L31/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082855
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隆志
【テーマコード(参考)】
5F149
【Fターム(参考)】
5F149AA04
5F149AB07
5F149BA01
5F149BA09
5F149DA35
5F149GA06
5F149XB18
5F149XB24
5F149XB37
(57)【要約】
【課題】吸収端波長に近い波長において高い量子効率を有する半導体受光素子を提供する。
【解決手段】半導体受光素子は、インジウムリン基板と、第1導電型の第1III-V族化合物半導体層と、第2導電型の第2III-V族化合物半導体層と、第1III-V族化合物半導体層と第2III-V族化合物半導体層との間に設けられた光吸収層と、を備える。第1III-V族化合物半導体層は、インジウムリン基板と光吸収層との間に設けられる。光吸収層は、タイプIIの超格子構造を有する。超格子構造は、ガリウムインジウムヒ素層およびガリウムヒ素アンチモン層を含む。ガリウムインジウムヒ素層が圧縮歪みを有する。ガリウムヒ素アンチモン層が引っ張り歪みを有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウムリン基板と、
第1導電型の第1III-V族化合物半導体層と、
第2導電型の第2III-V族化合物半導体層と、
前記第1III-V族化合物半導体層と前記第2III-V族化合物半導体層との間に設けられた光吸収層と、
を備え、
前記第1III-V族化合物半導体層は、前記インジウムリン基板と前記光吸収層との間に設けられ、
前記光吸収層は、タイプIIの超格子構造を有し、
前記超格子構造は、ガリウムインジウムヒ素層およびガリウムヒ素アンチモン層を含み、
前記ガリウムインジウムヒ素層が圧縮歪みを有し、
前記ガリウムヒ素アンチモン層が引っ張り歪みを有する、半導体受光素子。
【請求項2】
前記ガリウムインジウムヒ素層のガリウム組成xが0.17以上である、請求項1に記載の半導体受光素子。
【請求項3】
前記ガリウムヒ素アンチモン層のヒ素組成yが0.78以下である、請求項1または請求項2に記載の半導体受光素子。
【請求項4】
前記ガリウムインジウムヒ素層のガリウム組成xが0.46以下である、請求項1または請求項2に記載の半導体受光素子。
【請求項5】
前記ガリウムヒ素アンチモン層のヒ素組成yが0.52以上である、請求項1または請求項2に記載の半導体受光素子。
【請求項6】
前記ガリウムインジウムヒ素層が、n個のガリウムインジウムヒ素単分子層を含み、
前記ガリウムヒ素アンチモン層が、m個のガリウムヒ素アンチモン単分子層を含み、
nおよびmが13以上25以下の整数である、請求項1または請求項2に記載の半導体受光素子。
【請求項7】
前記ガリウムインジウムヒ素層のガリウム組成がxであり、前記ガリウムヒ素アンチモン層のヒ素組成がyであるときに、
y≦1.054x2-2.809x+1.594
を満たす、請求項1または請求項2に記載の半導体受光素子。
【請求項8】
前記ガリウムインジウムヒ素層のガリウム組成がxであり、前記ガリウムヒ素アンチモン層のヒ素組成がyであるときに、
y≧0.137x2-0.627x+0.775
を満たす、請求項1または請求項2に記載の半導体受光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体受光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、n型インジウムリン(InP)基板上に、歪み補償されたタイプIIの超格子構造を有するpinフォトダイオードを開示する。超格子構造は、ガリウムインジウムヒ素(GaInAs)層およびガリウムヒ素アンチモン(GaAsSb)層を含む。GaInAs層は引っ張り歪みを有する。GaAsSb層は圧縮歪みを有する。
【0003】
非特許文献2は、n型InP基板上に、歪み補償されたタイプIIの超格子構造を有するpinフォトダイオードを開示する。超格子構造は、GaInAs層およびGaAsSb層を含む。GaInAs層は引っ張り歪みを有する。GaAsSb層は圧縮歪みを有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Baile Chen, et al, "SWIR/MWIRInP-Based p-i-n Photodiodes with InGaAs/GaAsSb Type-II Quantum Wells" IEEEJOURNAL OF QUANTUM ELECTRONICS, VOL. 47, NO. 9, SEPTEMBER 2011
【非特許文献2】K. Sugimura, et al,"High-performance extended SWIR photodetectors using strain compensatedInGaAs/GaAsSb type-II quantum wells" Proc. SPIE 10926, Quantum Sensing andNano Electronics and Photonics XVI, 109260E (1 February 2019); doi:10.1117/12.2509148
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
GaInAs層が引っ張り歪みを有し、GaAsSb層が圧縮歪みを有する場合、吸収端波長に近い波長において量子効率が低下することがある。
【0006】
本開示は、吸収端波長に近い波長において高い量子効率を有する半導体受光素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係る半導体受光素子は、インジウムリン基板と、第1導電型の第1III-V族化合物半導体層と、第2導電型の第2III-V族化合物半導体層と、前記第1III-V族化合物半導体層と前記第2III-V族化合物半導体層との間に設けられた光吸収層と、を備え、前記第1III-V族化合物半導体層は、前記インジウムリン基板と前記光吸収層との間に設けられ、前記光吸収層は、タイプIIの超格子構造を有し、前記超格子構造は、ガリウムインジウムヒ素層およびガリウムヒ素アンチモン層を含み、前記ガリウムインジウムヒ素層が圧縮歪みを有し、前記ガリウムヒ素アンチモン層が引っ張り歪みを有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、吸収端波長に近い波長において高い量子効率を有する半導体受光素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る半導体受光素子を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の半導体受光素子に含まれる光吸収層を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、Ga
xIn
1-xAs層のガリウム組成xとGaAs
ySb
1-y層のヒ素組成yとの組み合わせの例を示すグラフである。
【
図4】
図4は、第1実験から第3実験の半導体受光素子の量子効率と波長との関係の例を示すグラフである。
【
図5】
図5は、第1実験の半導体受光素子におけるエネルギーバンド図の一例を示すグラフである。
【
図6】
図6は、第2実験の半導体受光素子におけるエネルギーバンド図の一例を示すグラフである。
【
図7】
図7は、第3実験の半導体受光素子におけるエネルギーバンド図の一例を示すグラフである。
【
図8】
図8は、第4実験の半導体受光素子の量子効率と波長との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
【0011】
(1)半導体受光素子は、インジウムリン基板と、第1導電型の第1III-V族化合物半導体層と、第2導電型の第2III-V族化合物半導体層と、前記第1III-V族化合物半導体層と前記第2III-V族化合物半導体層との間に設けられた光吸収層と、を備え、前記第1III-V族化合物半導体層は、前記インジウムリン基板と前記光吸収層との間に設けられ、前記光吸収層は、タイプIIの超格子構造を有し、前記超格子構造は、ガリウムインジウムヒ素層およびガリウムヒ素アンチモン層を含み、前記ガリウムインジウムヒ素層が圧縮歪みを有し、前記ガリウムヒ素アンチモン層が引っ張り歪みを有する。
【0012】
上記半導体受光素子によれば、吸収端波長に近い波長において高い量子効率が得られる。
【0013】
(2)上記(1)において、前記ガリウムインジウムヒ素層のガリウム組成xが0.17以上であってもよい。
【0014】
この場合、ガリウムインジウムヒ素層の歪みεの絶対値が2%以下になるので、格子欠陥を少なくできる。
【0015】
(3)上記(1)または(2)において、前記ガリウムヒ素アンチモン層のヒ素組成yが0.78以下であってもよい。
【0016】
この場合、ガリウムヒ素アンチモン層の歪みεの絶対値が2%以下になるので、格子欠陥を少なくできる。
【0017】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つにおいて、前記ガリウムインジウムヒ素層のガリウム組成xが0.46以下であってもよい。
【0018】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1つにおいて、前記ガリウムヒ素アンチモン層のヒ素組成yが0.52以上であってもよい。
【0019】
(6)上記(1)から(5)のいずれか1つにおいて、前記ガリウムインジウムヒ素層が、n個のガリウムインジウムヒ素単分子層を含んでもよく、前記ガリウムヒ素アンチモン層が、m個のガリウムヒ素アンチモン単分子層を含んでもよく、nおよびmが13以上25以下の整数であってもよい。
【0020】
(7)上記(1)から(6)のいずれか1つにおいて、前記ガリウムインジウムヒ素層のガリウム組成がxであり、前記ガリウムヒ素アンチモン層のヒ素組成がyであるときに、
y≦1.054x2-2.809x+1.594
を満たしてもよい。
【0021】
この場合、光吸収層全体における歪みを低減できる。ガリウムインジウムヒ素層が25個のガリウムインジウムヒ素単分子層を含み、ガリウムヒ素アンチモン層が13個のガリウムヒ素アンチモン単分子層を含む場合、上記式の等号が成立すると、光吸収層全体における歪みがゼロになる。
【0022】
(8)上記(1)から(7)のいずれか1つにおいて、前記ガリウムインジウムヒ素層のガリウム組成がxであり、前記ガリウムヒ素アンチモン層のヒ素組成がyであるときに、
y≧0.137x2-0.627x+0.775
を満たしてもよい。
【0023】
この場合、光吸収層全体における歪みを低減できる。ガリウムインジウムヒ素層が13個のガリウムインジウムヒ素単分子層を含み、ガリウムヒ素アンチモン層が25個のガリウムヒ素アンチモン単分子層を含む場合、上記式の等号が成立すると、光吸収層全体における歪みがゼロになる。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、添付図面を参照しながら本開示の実施形態が詳細に説明される。図面の説明において、同一または同等の要素には同一符号が用いられ、重複する説明は省略される。
【0025】
図1は、一実施形態に係る半導体受光素子を模式的に示す断面図である。
図2は、
図1の半導体受光素子に含まれる光吸収層を模式的に示す断面図である。
図1に示される半導体受光素子100は、例えばフォトダイオードである。半導体受光素子100は、インジウムリン(InP)基板10と、n型(第1導電型)の第1III-V族化合物半導体層12と、p型(第2導電型)の第2III-V族化合物半導体層14と、光吸収層16とを備える。光吸収層16は、第1III-V族化合物半導体層12と第2III-V族化合物半導体層14との間に設けられる。
【0026】
InP基板10は、半絶縁性基板であってもよいし、n型基板であってもよい。第1III-V族化合物半導体層12は、InP基板10の主面と光吸収層16との間に設けられてもよい。InP基板10の主面は(100)面であってもよい。
【0027】
第1III-V族化合物半導体層12は、n型のガリウムインジウムヒ素(Gax1In1-x1AsまたはGaInAs)層であってもよい。x1はガリウム(Ga)組成である。x1は0より大きく1より小さい。x1は0.46から0.48であってもよい。第1III-V族化合物半導体層12におけるn型ドーパント濃度は5×1017から3×1019cm-3であってもよい。第1III-V族化合物半導体層12の厚さは0.2から3μmであってもよい。
【0028】
第2III-V族化合物半導体層14は、p型のガリウムインジウムヒ素(Gax2In1-x2AsまたはGaInAs)層であってもよい。x2はガリウム(Ga)組成である。x2は0より大きく1より小さい。x2は0.46から0.48であってもよい。第2III-V族化合物半導体層14におけるp型ドーパント濃度は5×1017から3×1019cm-3であってもよい。第2III-V族化合物半導体層14の厚さは0.2から3μmであってもよい。
【0029】
光吸収層16はノンドープのIII-V族化合物半導体層であってもよい。本明細書において、「ノンドープ」は、意図的にドーパントがドープされないことを意味する。よって、「ノンドープ」のIII-V族化合物半導体層は、1×1015cm-3未満のp型ドーパント濃度を有してもよいし、1×1015cm-3未満のn型ドーパント濃度を有してもよい。光吸収層16は、タイプIIの超格子構造を有する。
【0030】
図2に示されるように、光吸収層16の超格子構造は、ガリウムインジウムヒ素(Ga
xIn
1-xAsまたはGaInAs)層L1およびガリウムヒ素アンチモン(GaAs
ySb
1-yまたはGaAsSb)層L2を含んでもよい。Ga
xIn
1-xAs層L1およびGaAs
ySb
1-y層L2のそれぞれはノンドープの層であってもよい。
【0031】
GaxIn1-xAs層L1は圧縮歪みを有する。xはガリウム(Ga)組成である。Ga組成xは0より大きく0.468より小さい。Ga組成xが0.468よりも小さい場合、GaxIn1-xAs層L1は圧縮歪みを有する。GaxIn1-xAs層L1のGa組成xは、0.17以上であってもよく、0.46以下であってもよい。Ga組成xが0.17以上である場合、GaxIn1-xAs層L1の歪みεの絶対値は2%以下になる。これにより、GaxIn1-xAs層L1の格子欠陥を少なくできる。GaxIn1-xAs層L1は、n個のGaxIn1-xAs単分子層を含んでもよい。nは13以上25以下の整数であってもよい。GaxIn1-xAs層L1の厚さは3から8nmであってもよい。
【0032】
GaAsySb1-y層L2は引っ張り歪みを有する。yはヒ素(As)組成である。As組成yは0.512よりも大きく1より小さい。As組成yが0.512よりも大きい場合、GaAsySb1-y層L2は引っ張り歪みを有する。GaAsySb1-y層L2のAs組成yは、0.52以上であってもよく、0.78以下であってもよい。As組成yが0.78以下である場合、GaAsySb1-y層L2の歪みεの絶対値は2%以下になる。これにより、GaAsySb1-y層L2の格子欠陥を少なくできる。GaAsySb1-y層L2は、m個のGaAsySb1-y単分子層を含んでもよい。mは13以上25以下の整数であってもよい。mは、nと同じであってもよいし、異なってもよい。GaAsySb1-y層L2の厚さは3から8nmであってもよい。GaAsySb1-y層L2の厚さは、GaxIn1-xAs層L1の厚さと同じであってもよいし、異なってもよい。
【0033】
GaxIn1-xAs層L1またはGaAsySb1-y層L2の歪みεは下記式(1)により算出される。
ε=(a1-a2)/a2 …(1)
式(1)中、a1は、InP基板の格子定数である。a2は、応力が加えられていない状態におけるGaxIn1-xAsまたはGaAsySb1-yの格子定数である。
【0034】
Ga組成がxであり、As組成がyであるときに、
下記式(2)および(3)のうち少なくとも1つが満たされてもよい。
y≦1.054x2-2.809x+1.594 …(2)
y≧0.137x2-0.627x+0.775 …(3)
【0035】
nが25であり、mが13である場合、上記式(2)の等号が成立すると、光吸収層16全体における歪みがゼロになる。nが13であり、mが25である場合、上記式(3)の等号が成立すると、光吸収層16全体における歪みがゼロになる。
【0036】
GaxIn1-xAs層L1およびGaAsySb1-y層L2は、第1方向D1に沿って交互に配列され得る。第1III-V族化合物半導体層12に最も近い光吸収層16の下面には、GaxIn1-xAs層L1が位置してもよい。これにより、半導体層上にGaxIn1-xAs層L1を結晶性良く形成できる。第2III-V族化合物半導体層14に最も近い光吸収層16の上面には、GaAsySb1-y層L2が位置してもよい。これにより、GaAsySb1-y層L2上に半導体層を結晶性良く形成できる。GaxIn1-xAs層L1およびGaAsySb1-y層L2のペア数(周期)は、200から400であってもよい。
【0037】
図1に示されるように、半導体受光素子100は、n型のIII-V族化合物半導体層20をさらに備えてもよい。III-V族化合物半導体層20は、InP基板10と第1III-V族化合物半導体層12との間に設けられる。III-V族化合物半導体層20は、コンタクト層であってもよい。III-V族化合物半導体層20は、第1III-V族化合物半導体層12のn型ドーパント濃度よりも高いn型ドーパント濃度を有する。III-V族化合物半導体層20は、GaInAs層であってもよい。III-V族化合物半導体層20には、電極30が接続されてもよい。
【0038】
半導体受光素子100は、p型のIII-V族化合物半導体層22をさらに備えてもよい。第2III-V族化合物半導体層14は、III-V族化合物半導体層22と光吸収層16との間に設けられる。III-V族化合物半導体層22は、コンタクト層であってもよい。III-V族化合物半導体層22は、第2III-V族化合物半導体層14のp型ドーパント濃度よりも高いp型ドーパント濃度を有する。III-V族化合物半導体層22は、GaInAs層であってもよい。III-V族化合物半導体層22には、電極40が接続されてもよい。
【0039】
InP基板10、III-V族化合物半導体層20、第1III-V族化合物半導体層12、光吸収層16、第2III-V族化合物半導体層14およびIII-V族化合物半導体層22は、第1方向D1に沿ってこの順に配列され得る。第1方向D1は、InP基板10の主面に直交してもよい。第1方向D1は光吸収層16の厚さ方向であってもよい。第1方向D1は、第1III-V族化合物半導体層12から第2III-V族化合物半導体層14に向かう方向であってもよい。第1方向D1は、結晶成長方向であってもよい。
【0040】
半導体受光素子100は、入射光Lを検出できる。入射光Lは、0.4から4μmの波長を有する可視光または赤外光であってもよい。入射光Lは、第1方向D1に進んでもよい。入射光Lは、InP基板10を通って光吸収層16に入射してもよい。半導体受光素子100は、2から4μmの吸収端波長(カットオフ波長)を有してもよいし、2.5から4μmの吸収端波長を有してもよい。半導体受光素子100は、ガス分析装置の分光システム、イメージングシステムまたは光通信システムにおいて使用され得る。
【0041】
図3は、Ga
xIn
1-xAs層L1のGa組成xとGaAs
ySb
1-y層L2のAs組成yとの組み合わせの例を示すグラフである。
図3において、点Aから点Eの(x,y)座標は以下の通りである。
A(0.335,0.772)
B(0.460,0.525)
C(0.441,0.525)
D(0.172,0.671)
E(0.172,0.772)
【0042】
GaxIn1-xAs層L1のGa組成xとGaAsySb1-y層L2のAs組成yとの組み合わせは、点Aから点Eによって囲まれた領域AR内に位置してもよい。すなわち、Ga組成xが0.17以上0.46以下であり、As組成yが0.52以上0.78以下であり、上記式(2)および(3)の両方が満たされてもよい。
【0043】
半導体受光素子100によれば、吸収端波長に近い波長において高い量子効率が得られる。高い量子効率が得られるメカニズムは以下のように考えられるが、これに限定されない。
【0044】
Ga
xIn
1-xAs層L1が圧縮歪みを有し、GaAs
ySb
1-y層L2が引っ張り歪みを有する場合、エネルギーバンド図において、Γ点からずれた波数ベクトルに対応する価電子帯の上端のエネルギーが大きくなる(
図5から
図7参照)。その結果、Γ点からずれた波数ベクトルにおいてバンドギャップエネルギーが小さくなるので、当該波数ベクトルにおいて光遷移(電子とホールの再結合)が起こり易くなる。そのような光遷移は、吸収端波長に近い波長において生じるので、当該波長において量子効率が高くなると考えられる。
【0045】
また、Ga
xIn
1-xAs層L1が圧縮歪みを有し、GaAs
ySb
1-y層L2が引っ張り歪みを有する場合、価電子帯の上端と下位のエネルギー準位との間の距離が近くなる(
図5から
図7参照)。これも、半導体受光素子100において高い量子効率が得られる理由の一つと考えられる。
【0046】
以下、半導体受光素子100の評価のために行った種々の実験について説明する。以下に説明する実験は、本発明を限定するものではない。
【0047】
(第1実験)
第1実験の半導体受光素子は、InP基板上に設けられた光吸収層を備える。光吸収層の厚さは2.5μmである。光吸収層は、タイプIIの超格子構造を有する。超格子構造は、Ga
xIn
1-xAs層およびGaAs
ySb
1-y層を含む。Ga
xIn
1-xAs層およびGaAs
ySb
1-y層は、積層方向(
図1および
図2の第1方向D1に対応)に交互に積層される。Ga
xIn
1-xAs層およびGaAs
ySb
1-y層のそれぞれの厚さは6.3nmである。Ga組成xは0.426である。よって、Ga
xIn
1-xAs層は圧縮歪みを有する。As組成yは0.551である。よって、GaAs
ySb
1-y層は引っ張り歪みを有する。Ga
xIn
1-xAs層は、21個のGa
xIn
1-xAs単分子層を含む。GaAs
ySb
1-y層は、21個のGaAs
ySb
1-y単分子層を含む。
【0048】
(第2実験)
第2実験の半導体受光素子は、以下の点を除き第1実験の半導体受光素子と同じ構成を有する。第2実験において、Ga組成xは0.468である。As組成yは0.512である。したがって、GaxIn1-xAs層およびGaAsySb1-y層のそれぞれは歪みを有していない。GaxIn1-xAs層は20個のGaxIn1-xAs単分子層を含む。GaAsySb1-y層は20個のGaAsySb1-y単分子層を含む。したがって、GaxIn1-xAs層およびGaAsySb1-y層のそれぞれの厚さは6.0nmである。
【0049】
(第3実験)
第3実験の半導体受光素子は、Ga組成xが0.510であり、As組成yが0.472であること以外は第2実験の半導体受光素子と同じ構成を有する。第3実験において、GaxIn1-xAs層は引っ張り歪みを有する。GaAsySb1-y層は圧縮歪みを有する。GaxIn1-xAs層およびGaAsySb1-y層のそれぞれの厚さは6.0nmである。
【0050】
(量子効率)
第1実験から第3実験の半導体受光素子について、シミュレーションにより、光の波長に対する量子効率を算出した。シミュレーションに用いられた温度は250ケルビン(K)である。シミュレーションの結果を
図4に示す。
【0051】
図4は、第1実験から第3実験の半導体受光素子の量子効率と波長との関係の例を示すグラフである。
図4のグラフにおいて、横軸は、光吸収層が吸収する光の波長(μm)を示す。縦軸は、半導体受光素子の量子効率を示す。スペクトルSP1は、第1実験における量子効率を示す。スペクトルSP2は、第2実験における量子効率を示す。スペクトルSP3は、第3実験における量子効率を示す。
図4に示されるように、第1実験から第3実験において、吸収端波長はいずれも約2.7μmであった。吸収端波長に近い第1波長域(例えば2.3から2.5μm)および吸収端波長から離れた第2波長域(例えば1.8から1.9μm)において、第1実験では、第2実験および第3実験に比べて高い量子効率が得られた。吸収端波長に近い第1波長域において、第1実験における量子効率は0.1より大きく、第2実験および第3実験における量子効率は0.1より小さかった。
【0052】
(エネルギーバンド図)
第1実験から第3実験の半導体受光素子について、シミュレーションにより、エネルギーバンド図を作成した。シミュレーションに用いられた温度は250ケルビン(K)である。シミュレーションの結果を
図5から
図7に示す。
【0053】
図5は、第1実験の半導体受光素子におけるエネルギーバンド図の一例を示すグラフである。
図6は、第2実験の半導体受光素子におけるエネルギーバンド図の一例を示すグラフである。
図7は、第3実験の半導体受光素子におけるエネルギーバンド図の一例を示すグラフである。
図5から
図7のグラフにおいて、横軸は、波数ベクトルkの絶対値に(2π/a1)を乗じた値を示す。a1は、InP基板の格子定数である。横軸の[-110]および[110]は、波数ベクトルkの方向を表す。Ga
xIn
1-xAs層およびGaAs
ySb
1-y層の積層方向はz方向である。各グラフ中、Ecは伝導帯の下端のエネルギーを示し、Evは価電子帯の上端のエネルギーを示す。価電子帯の上端のエネルギーは、2つのスピン軌道に起因して2つの値を有する。価電子帯の上端より低いエネルギーを有する下位のエネルギー準位も2つの値を有する。
【0054】
図5に示されるように、第1実験では、バンドギャップエネルギーEgは0.479eVであった。すなわち、バンドギャップ波長λgは2.59μmであった。
図6に示されるように、第2実験では、バンドギャップエネルギーEgは0.479eVであった。すなわち、バンドギャップ波長λgは2.59μmであった。
図7に示されるように、第3実験では、バンドギャップエネルギーEgは0.474eVであった。すなわち、バンドギャップ波長λgは2.62μmであった。
【0055】
図5から
図7に示されるように、第1実験におけるエネルギーバンド図は、第2実験および第3実験におけるエネルギーバンド図と異なっていた。第1実験において高い量子効率が得られた理由の一つはエネルギーバンド図の相違であると考えられる。
【0056】
第1実験では、第2実験および第3実験に比べて、Γ点からずれた波数ベクトルに対応する価電子帯の上端のエネルギーが大きくなっていた。すなわち、第1実験では、第2実験および第3実験に比べて、価電子帯の上端が、エネルギーが0eVである直線付近に位置していた。その結果、第1実験では、Γ点からずれた波数ベクトルにおいてバンドギャップエネルギーが小さい。よって、当該波数ベクトルにおいて光遷移(電子とホールの再結合)が起こり易くなる。そのような光遷移は、吸収端波長に近い波長において生じるので、当該波長において量子効率が高くなると考えられる。
【0057】
また、第1実験では、第2実験および第3実験に比べて、価電子帯の上端と下位のエネルギー準位との間の距離が近くなっていた。これも、第1実験において高い量子効率が得られた理由の一つと考えられる。
【0058】
(第4実験)
第4実験の半導体受光素子は、以下の点を除き第1実験の半導体受光素子と同じ構成を有する。第4実験において、Ga組成xは0.221である。よって、GaxIn1-xAs層は圧縮歪みを有する。As組成yは0.733である。よって、GaAsySb1-y層は引っ張り歪みを有する。GaxIn1-xAs層は13個のGaxIn1-xAs単分子層を含む。GaAsySb1-y層は15個のGaAsySb1-y単分子層を含む。すなわち、第4実験における超格子構造は、(Ga0.221In0.779As)13(GaAs0.733Sb0.267)15で表される構造を有する。第4実験では、バンドギャップエネルギーEgは0.472eVであった。すなわち、バンドギャップ波長λgは2.628μmであった。
【0059】
(量子効率)
第4実験の半導体受光素子について、シミュレーションにより、光の波長に対する量子効率を算出した。シミュレーションに用いられた温度は250ケルビン(K)である。シミュレーションの結果を
図8に示す。
【0060】
図8は、第4実験の半導体受光素子の量子効率と波長との関係の例を示すグラフである。
図8のグラフの縦軸および横軸は、
図4のグラフの縦軸および横軸とそれぞれ同じである。
図8に示されるように、第4実験においても、吸収端波長に近い第1波長域(例えば2.3から2.5μm)および吸収端波長から離れた第2波長域(例えば1.8から1.9μm)において、0.1より大きい高い量子効率が得られた。
【0061】
以上、本発明の例示的な実施形態について詳細に説明されたが、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0062】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0063】
10…InP基板
12…第1III-V族化合物半導体層
14…第2III-V族化合物半導体層
16…光吸収層
20…III-V族化合物半導体層
22…III-V族化合物半導体層
30…電極
40…電極
100…半導体受光素子
AR…領域
D1…第1方向
L…入射光
L1…GaxIn1-xAs層
L2…GaAsySb1-y層
SP1…スペクトル
SP2…スペクトル
SP3…スペクトル