(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166648
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】硬化膜形成用の黒色顔料分散体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09C 3/10 20060101AFI20241122BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
C09C3/10
C09D17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082870
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000180058
【氏名又は名称】山陽色素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 遥大
【テーマコード(参考)】
4J037
【Fターム(参考)】
4J037AA30
4J037CC16
4J037CC17
4J037DD24
4J037EE08
4J037EE28
4J037EE43
4J037FF15
4J037FF23
(57)【要約】
【課題】分散性に優れ、現像後に形成される硬化膜の表面粗さが小さい、硬化膜形成用途に適した黒色顔料分散体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の硬化膜形成用の黒色顔料分散体は、(1) 酸性基を有する樹脂によって被覆されたラクタムブラックと;(2) 分散剤と;(3) 溶剤と:を含有する。樹脂は、アクリル酸樹脂、メタクリル酸樹脂及びマレイン酸樹脂からなる群より選択される1種以上であり、かつ、酸価が30mgKOH/g以上100mgKOH/g以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基を有する樹脂によって被覆されたラクタムブラックと、
分散剤と、
溶剤とを含有する黒色顔料分散体であって、
前記樹脂は、アクリル酸樹脂、メタクリル酸樹脂及びマレイン酸樹脂からなる群より選択される1種以上であり、かつ、酸価が30mgKOH/g以上100mgKOH/g以下である、
硬化膜形成用の黒色顔料分散体。
【請求項2】
黒色顔料分散体中における前記酸性基を有する樹脂によって被覆されたラクタムブラックの含有量が、黒色顔料分散体の質量に対して5質量%以上25質量%以下である、請求項1に記載の硬化膜形成用の黒色顔料分散体。
【請求項3】
ラクタムブラックを湿式粉砕する工程Aと、
前記工程Aによって微細化されたラクタムブラックと、分散剤と、溶剤とを混合する工程Bとを有する黒色顔料分散体の製造方法であって、
前記工程Aにおいて、アクリル酸樹脂、メタクリル酸樹脂及びマレイン酸樹脂からなる群より選択される1種以上であり、かつ、酸価が30mgKOH/g以上100mgKOH/g以下である樹脂を添加してラクタムブラックを微細化する、
硬化膜形成用の黒色顔料分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂で被覆されたラクタムブラックを含有する、分散性に優れ、硬化膜形成に適した黒色顔料分散体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、タブレットPC及びテレビなど、薄型ディスプレイを有する表示装置において、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイを用いた製品が多く開発されている。一般に、有機ELディスプレイは、発光素子の光取り出し側に、銀/マグネシウム合金などの透光性を有する第一電極を有し、発光素子の光取り出しでない側に、錫インジウム酸化物(ITO)等の第二電極と、銀/銅合金などの金属反射層とを有し、レッド/ブルー/グリーンの各発光素子の画素間を分割するため、第一電極と第二電極との層間に、絶縁層の機能を有する、パターン状の画素分割層を有する。第一電極及び第二電極は、スパッタによって成膜されることが一般的であり、第一電極の断線を防ぐため、画素分割層には低テーパーのパターン形状が要求される。
【0003】
有機ELディスプレイは、陰極から注入された電子と、陽極から注入された正孔との再結合によるエネルギーを用いて発光する自発光型の表示装置である。そのため、太陽光などの外光が入射すると、その外光反射によって視認性及びコントラストが低下することから、外光反射を低減する技術が要求される。外光反射を低減する技術としては、例えば、感光性組成物を用いて、遮光性を有する画素分割層を形成する方法が挙げられる。遮光性を付与するための着色材としては、絶縁性に優れ、着色力が高い有機黒色顔料が挙げられ、その具体例として、ベンゾジフラノン系顔料である、ビス-オキソジヒドロインドリレン-ベンゾジフラノンが特許文献1に開示されている。その他の有機黒色顔料としては、ペリレン系黒色顔料(特許文献2)、アゾ系黒色顔料(特許文献3)が知られている。
【0004】
しかし、特許文献1~3に開示された有機黒色顔料を感光性組成物中に含有させてフォトリソグラフィにより有機ELディスプレイの画素分割層を形成した場合、基板上に現像残渣が発生する課題があった。このような現像残渣は、現像工程の歩留まり低下、現像残渣に起因したダークスポットと呼ばれる画素内における非発光部位の発生による視認性の低下を引き起こす。
【0005】
特許文献4は、(a)ベンゾジフラノン系黒色顔料、ペリレン系黒色顔料、アゾ系黒色顔料及びそれらの異性体からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機黒色顔料を含む核と、(b)シリカ、金属酸化物及び/又は金属水酸化物を含む被覆層とを有する黒色顔料を開示している。ベンゾジフラノン系黒色顔料は、カーボンブラックやチタンブラックなどの無機黒色顔料又は青や赤など非黒色系の多くの有機顔料と比べて、耐アルカリ性が非常に低いため、現像工程においてパターニングする際、バインダー成分を介して浸透したアルカリ現像液との接触により、ベンゾジフラノン系黒色顔料の結晶構造が破壊されて溶解又は半溶解し、分解成分が生じて基板上に固着し、画素分割層の開口部に残渣が生じるという問題があった。特許文献4では、ラクタムブラックの粒子表面をシリカ、金属酸化物、金属水酸化物で被覆し、ベンゾジフラノン系黒色顔料の耐アルカリ性を向上させている。特許文献4の黒色顔料によれば、現像残渣の発生を抑えて画素分割層をパターン形成することができ、有機ELディスプレイの発光特性の向上が可能とされている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2009/010521号
【特許文献2】国際公開第2005/078023号
【特許文献3】米国特許出願公開第2002-121228号明細書
【特許文献4】国際公開第2018/038083号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ラクタムブラックは、赤外線及び紫外線の透過性が高く、絶縁性が高く、誘電率が低い等の利点を有する黒色顔料であるが、顔料分散体とした場合には、分散性が悪いことが欠点とされていた。すなわち、ラクタムブラックを含有する顔料分散体を調製する際、分散体がゲル化したり、保存中に分散体の粘度が変化したりするという問題があった。
【0008】
また、樹脂で被覆されたラクタムブラックを含有する顔料分散体を使用して黒色硬化膜を作製した場合、現像後の表面粗さが大きく、表示装置の表示ムラの原因となり得ることもあった。その点、特許文献4では、黒色顔料の耐アルカリ性評価として、水酸化トリメチルアンモニウム水溶液に溶解するかどうかを確認しているが、現像後の硬化膜の表面粗さは確認されていない。
【0009】
本発明は、分散性に優れ、現像後に形成される硬化膜の表面粗さが小さい、硬化膜形成用途に適した黒色顔料分散体及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、酸性基を有し、特定酸価を有する樹脂で被覆したラクタムブラックを用いることにより、分散性に優れ、表面粗さが小さい硬化膜を作製し得る黒色顔料分散体を調製できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
具体的に、本発明は、
酸性基を有する樹脂によって被覆されたラクタムブラックと、
分散剤と、
溶剤とを含有する黒色顔料分散体であって、
前記樹脂は、アクリル酸樹脂、メタクリル酸樹脂及びマレイン酸樹脂からなる群より選択される1種以上であり、かつ、酸価が30mgKOH/g以上100mgKOH/g以下である、
硬化膜形成用の黒色顔料分散体に関する。
【0012】
酸性基を有し、酸価が特定範囲であるアクリル酸樹脂、メタクリル酸樹脂又はマレイン酸樹脂で被覆されたラクタムブラックは、酸価が特定範囲外である樹脂で被覆されたラクタムブラックと比較して、分散性に優れ、現像後に表面粗さが小さい硬化膜を作製し得る黒色顔料分散体を得ることが可能である。
【0013】
黒色顔料分散体中における前記酸性基を有する樹脂によって被覆されたラクタムブラックの含有量は、黒色顔料分散体の質量に対して5質量%以上25質量%以下であることが好ましい。5質量%未満では顔料濃度が低いため着色が不十分になる可能性があり、25質量%超では粘度が高くなり、ハンドリング性が落ちるという問題を生じやすい。
【0014】
黒色顔料分散体の調製時の粘度は、20mPa・s以下であることが好ましい。
【0015】
本発明はまた、
ラクタムブラックを湿式粉砕する工程Aと、
前記工程Aによって微細化されたラクタムブラックと、分散剤と、溶剤とを混合する工程Bとを有する黒色顔料分散体の製造方法であって、
前記工程Aにおいて、アクリル酸樹脂、メタクリル酸樹脂及びマレイン酸樹脂からなる群より選択される1種以上であり、かつ、酸価が30mgKOH/g以上100mgKOH/g以下である樹脂を添加してラクタムブラックを微細化する、
硬化膜形成用の黒色顔料分散体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、現像後に従来よりも表面粗さが小さい硬化膜を作製し得る。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(ラクタムブラック)
ラクタムブラックとしては、例えば、DIC株式会社製のIrgaphor(登録商標)Black S0100CF 等を使用し得る。ラクタムブラックは、1種類を使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
ラクタムブラックは、平均粒子径を調整する観点、カラムスペーサ、ブラックマトリクス又はブラックバンクの用途では塗膜の表面平滑性の観点等から、予めミリング処理を行ってもよい。ミリング処理は、黒色顔料の種類等に応じて定法に従って行うことができる。このようなミリング処理としては、例えば、ソルベントソルトミリング法等が挙げられる。
【0019】
黒色顔料分散体中における酸性基を有する樹脂によって被覆されたラクタムブラックの平均粒子径は、100nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましい。
【0020】
(樹脂)
本発明で使用される樹脂は、酸性基を化学構造中に有し、酸価が30mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であるアクリル酸樹脂、メタクリル酸樹脂又はマレイン酸樹脂である。このような樹脂としては、市販品を使用することが可能である。なお、これら樹脂の分子量は、重量平均分子量で1,000以上50,000以下であることが好ましい。分子量をこの範囲に調整することにより、樹脂によって被覆処理されたラクタムブラックにおける、優れたアルカリ溶解性、乾燥時の凝集防止効果、分散性が達成される。
【0021】
ここで、酸価とは、樹脂固形分1gあたりの酸価を表し、JIS K 0070 (1992)に準じ、電位差滴定法によって求めることができる(単位:mgKOH/g)。
【0022】
(工程A/樹脂によるラクタムブラックの被覆方法)
樹脂によって被覆処理されたラクタムブラック(以下、樹脂被覆ラクタムブラックと称する場合がある)は、ラクタムブラックを湿式粉砕する工程Aで微細化する際に、樹脂を存在させることで調製し得る。工程Aは湿式粉砕であれば特に限定はないが、例えば、ソルベントソルトミリングが挙げられる。
【0023】
工程Aとしてソルベントソルトミリングを行う場合、例えば、ラクタムブラック、水溶性無機塩、水溶性溶剤及び樹脂(アクリル酸樹脂、メタクリル酸樹脂又はマレイン酸樹脂)を混合し、得られた混合物を、混練機等を用いて機械的に混練することにより、水溶性無機塩によるラクタムブラックの摩砕と、樹脂によるラクタムブラックの被覆を同時に行う。このようなソルベントソルトミリング法には、公知の条件を採用することができる。
【0024】
ソルベントソルトミリングを行った後、混合物を水洗し、水溶性無機塩及び水溶性溶剤を除去し、樹脂被覆ラクタムブラックが得られる。混合物の水洗は、水溶性無機塩及び水溶性溶剤が完全に除去されるまで行われるのが好ましい。水洗後、樹脂被覆ラクタムブラック中の水分を除去するために、乾燥処理を行うことが好ましい。
【0025】
水溶性無機塩としては、水に溶解するものであれば特に限定はなく、公知の塩化ナトリウム、塩化バリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム(芒硝)、無水硫酸ナトリウム(無水芒硝)等を用いることができる。
【0026】
水溶性溶剤としては、水に溶解(混和)し、かつ、用いる水溶性無機塩を実質的に溶解しないものであれば特に限定はなく、公知の水溶性溶剤を用いることができる。ただし、混練時に温度が上昇し、溶剤が蒸発し易い状態になるため、安全性の点から、沸点120℃以上の高沸点溶剤を用いることが好ましい。例えば、2-メトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、2-(イソペンチルオキシ)エタノール、2-(ヘキシルオキシ)エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、液状のポリエチレングリコール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、液状のポリプロピレングリコール等を用いることが好ましい。
【0027】
ソルベントソルトミリング時にラクタムブラックの樹脂被覆も行う場合、樹脂の添加の仕方は特に限定はなく、混練開始時に全量添加してもよいし、混練開始後に複数回に分けて添加してもよい。また、本発明では、ラクタムブラックの微細化を促進するために、工程Aにおいて顔料誘導体を添加してもよい。
【0028】
顔料誘導体が有する好ましい骨格としては、キナクリドン系顔料、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、キノフタロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンゾイミダゾロン顔料等骨格が挙げられる。また、ナフタレン系、アントラキノン系、トリアジン系、キノリン系等の淡黄色の芳香族多環化合物も顔料誘導体の好ましい骨格に含まれる。
【0029】
添加できる顔料誘導体の例としては、特開平11-49974号公報、特開平11-189732号公報、特開平10-245501号公報、特開2006-265528号公報、特開平8-295810号公報、特開平11-199796号公報、特開2005-234478号公報、特開2003-240938号公報、特開2001-356210号公報、特開2001-220520号公報、特開2007-186681号公報等に記載されている顔料誘導体が挙げられる。
【0030】
本発明においてソルベントソルトミリング時に顔料誘導体を添加する場合、ラクタムブラック100質量部に対して、顔料誘導体は0.1~20質量部の割合で添加されることが好ましく、0.5~10質量部の割合で添加されることがより好ましい。
【0031】
本発明においてソルベントソルトミリング時に顔料誘導体を添加する場合、混練前にラクタムブラックに顔料誘導体を添加してもよく、混練の途中から顔料誘導体を添加してもよい。顔料誘導体は、一度に全量を添加してもよく、複数回に分けて添加してもよい。
【0032】
ラクタムブラックへの樹脂の被覆量は、分散安定性の観点から、ラクタムブラックの質量に対して5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、10質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
(分散剤)
本発明で使用される分散剤は、特に限定されないが、例えば、ウレタン系樹脂分散剤、アクリル系樹脂分散剤、ポリエステル系樹脂分散剤及び側鎖にアミド結合を含む樹脂分散剤が使用できる。
【0034】
ウレタン系樹脂分散剤としては、特開2011-057823に開示されている塩基型ウレタン系樹脂分散剤が挙げられる。ウレタン系樹脂分散剤は、分散性の観点から、アミン価が2mgKOH/g以上60mgKOH/g以下であることが好ましく、5mgKOH/g以上40mgKOH/g以下であることがより好ましい。
【0035】
ウレタン系樹脂分散剤としては、市販品を使用することが可能である。好適なウレタン系樹脂分散剤の市販品としては、
ビックケミー・ジャパン株式会社製の
DISPERBYK(登録商標)-161(アミン価37mgKOH/g、酸価0mgKOH/g)、
DISPERBYK(登録商標)-162(アミン価34mgKOH/g、酸価0mgKOH/g)、
DISPERBYK(登録商標)-167(アミン価25mgKOH/g、酸価0mgKOH/g)、
DISPERBYK(登録商標)-182(アミン価30mgKOH/g、酸価0mgKOH/g)、
DISPERBYK(登録商標)-2150(アミン価110mgKOH/g、酸価0mgKOH/g)、
DISPERBYK(登録商標)-2163(アミン価22mgKOH/g、酸価0mgKOH/g)、
DISPERBYK(登録商標)-2164(アミン価23mgKOH/g、酸価0mgKOH/g)、
BYK-9077(アミン価46mgKOH/g、酸価0mgKOH/g)、
日本ルーブリゾール株式会社製の
ソルスパース24000(アミン価42mgKOH/g、酸価25mgKOH/g)等が挙げられる。
【0036】
ここで、アミン価とは、分散剤固形分1gあたりのアミン価を表し、0.1Nの塩酸水溶液を用い、電位差滴定法によって求めた後、水酸化カリウムの当量に換算した値(単位:mgKOH/g)をいう。また、酸価とは、分散剤固形分1gあたりの酸価を表し、樹脂の酸価と同様の処方により求めることができる。
【0037】
アクリル系樹脂分散剤としては、例えば、特開2022-065931及び特開2023-004245に開示されている分散剤が使用できる。アクリル系樹脂分散剤は、分散性の観点から、アミン価が50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であることが好ましく、120mgKOH/g以上180mgKOH/g以下であることがより好ましい。
【0038】
アクリル系樹脂分散剤は、市販品を使用することが可能である。好適なアクリル系樹脂分散剤の市販品としては、ビックケミー・ジャパン株式会社製のDISPERBYK(登録商標)-2001(アミン価63mgKOH/g、酸価41mgKOH/g)等が挙げられる。
【0039】
ポリエステル系樹脂分散剤としては、特開2015-068914に開示されているアミン含有ポリエステル系分散剤が使用できる。
【0040】
ポリエステル系樹脂分散剤は、市販品を使用できる。好適なポリエステル系樹脂分散剤の市販品としては、
味の素ファインテクノ株式会社製の
アジスパーPB-711(アミン価112.5mgKOH/g、酸価0mgKOH/g)、
アジスパーPB-821(アミン価9.5mgKOH/g、酸価18mgKOH/g)
等が使用できる。
【0041】
側鎖にアミド結合を有する樹脂分散剤としては、特開2019-002005に開示されている分散剤が使用できる。
【0042】
分散剤の含有量は、分散安定性、OD値及び色純度等の光学特性の観点から、樹脂被覆ラクタムブラックの質量(顔料誘導体も含む場合は、樹脂被覆ラクタムブラックと顔料誘導体の合計質量)に対して5質量%以上80質量%以下であることが好ましく、20質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。
【0043】
(溶剤)
溶剤としては、例えば、芳香族系、ケトン系、エステル系、グリコールエーテル系、アルコール系、脂肪族系等の各種の有機溶剤を使用し得る。有機溶剤は、1種のみでもよく、2種以上組み合わせてもよい。
【0044】
芳香族系の有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類が挙げられる。
【0045】
ケトン系の有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、アセチルアセトン、イソホロン、アセトフェノン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0046】
エステル系の有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸メチル、酢酸-3-メトキシブチル、エチルグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルプロピオネート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、モノクロロ酢酸メチル、モノクロロ酢酸エチル、モノクロロ酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、ブチルカルビトールアセテート、乳酸ブチル、エチル-3-エトキシプロピオネート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸プロピル、1,3-ブチレングリコールジアセテート等が挙げられる。
【0047】
グリコールエーテル系の有機溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、1-メチル-1-メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等の水溶性のグリコールエーテル類;
エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコール-2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコール-n-ヘキシルエーテル、ジエチレングリコール-2-エチルヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等の非水溶性のグリコールエーテル類等が挙げられる。
【0048】
アルコール系の有機溶剤としては、例えば、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール等の炭素数1~4のアルキルアルコール類;
エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ペンタメチレングリコール、トリメチレングリコール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、トリプロピレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、グリセリン、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0049】
脂肪族系の有機溶剤としては、例えば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素等が挙げられる。
【0050】
溶剤の含有量は、取り扱い容易の観点から、顔料等を含む固形分濃度が6~40質量%となるように調整されることが好ましい。
【0051】
本発明の黒色顔料分散体は、必要に応じて前述した成分以外に、他の添加剤を含有してもよい。他の添加剤としては、酸化防止剤、凝集防止剤、表面調整剤(レベリング剤)等が挙げられる。
【0052】
(工程B/微細化されたラクタムブラックと分散剤と溶剤とを混合する工程)
本発明の黒色顔料分散体は、樹脂被覆ラクタムブラックと、分散剤と、溶剤とを混合する工程Bによって得ることができる。工程Bは前述した各成分を分散する工程であり、例えば、ビーズミル、サンドミル、ディスパー、ペイントシェイカー等の公知の分散機を用いることができる。各成分の混合の仕方には、特に限定はなく、各成分を同時に分散機に投入してもよく、1種類ずつ分散機に投入してもよい。
【0053】
<黒色顔料組成物の製造例>
以下の原料及び製造方法によって、黒色顔料分散体を製造した。
【0054】
(ラクタムブラックの調製例1/樹脂被覆された微細化ラクタムブラック)
ラクタムブラックとして、Irgaphor(登録商標)Black S0100CF(DIC株式会社製)を使用した。このラクタムブラック100質量部、水溶性無機塩として中性無水芒硝(三田尻化学工業株式会社製、平均粒子径20μm)700質量部、水溶性溶剤としてエチレングリコール155質量部を双腕型混練機(日本スピンドル製造株式会社製、5LニーダーΣ型)に投入し、50℃で7時間混練した。続いて、アクリル樹脂A(酸価92.3mgKOH/g)を固形分換算で15質量部となるように投入し、50℃で1時間混練した。得られた混練物を60℃の温水12Lに撹拌分散し、さらに塩酸でpH2.4に調整した後、約1時間撹拌してスラリー状とした。その後、濾過、水洗して芒硝及び溶剤を取り除き、60℃の恒温槽で乾燥して調製例1の微細化ラクタムブラックを得た。
【0055】
(ラクタムブラックの調製例2/樹脂被覆された微細化ラクタムブラック)
アクリル樹脂Aの代わりにアクリル樹脂C(酸価33.0mgKOH/g)を使用すること以外、すべて調製例1と同様に操作して、調製例2の微細化ラクタムブラックを得た。
【0056】
(ラクタムブラックの調製例3/樹脂被覆された微細化ラクタムブラック)
アクリル樹脂Aの代わりにアクリル樹脂D(酸価10.0mgKOH/g)を使用すること以外、すべて調製例1と同様に操作して、調製例3の微細化ラクタムブラックを得た。
【0057】
(ラクタムブラックの調製例4/樹脂被覆されていない微細化ラクタムブラック)
アクリル樹脂Aを使用せず、アクリル樹脂Aの投入後の混練も行わなかったこと以外、すべて調製例1と同様に操作して、調製例4の微細化ラクタムブラックを得た。
【0058】
調製例1~4の条件を表1に示す。表1中に記載の数字は、質量部を表す。
【0059】
【0060】
[実施例1]
ポリエチレン容器に、調製例1の微細化ラクタムブラック115質量部、分散剤としてDISPERBYK(登録商標)-167(ビックケミー・ジャパン株式会社製)を固形分換算で35質量部、溶剤としてPMA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)350質量部、及びジルコニアビーズ(φ0.5mm)2000質量部を投入した。ペイントシェイカー(浅田鉄工株式会社製)を用いて60分間分散処理を行い、続いてPMA 214質量部を添加して固形分濃度を21質量%に調整して、実施例1の黒色顔料分散体を得た。
【0061】
[実施例2]
調製例1の微細化ラクタムブラックの代わりに調製例2の微細化ラクタムブラックを115質量部使用すること以外、すべて実施例1と同様に操作して実施例2の黒色顔料分散体を得た。
【0062】
[比較例1]
調製例1の微細化ラクタムブラックの代わりに調製例3の微細化ラクタムブラックを115質量部使用すること以外、すべて実施例1と同様に操作して比較例1の黒色顔料分散体を得た。
【0063】
[比較例2]
調製例1の微細化ラクタムブラックの代わりに調製例4の微細化ラクタムブラックを100質量部使用し、分散樹脂としてアクリル樹脂Aを固形分換算で15質量部となるようにポリエチレン容器に投入して分散処理を行うこと以外、すべて実施例1と同様に操作して比較例2の黒色顔料分散体を得た。
【0064】
[比較例3]
分散樹脂としてアクリル樹脂Aの代わりにアクリル樹脂B(酸価94.9mgKOH/g)を使用すること以外、すべて比較例2と同様に操作して比較例3の黒色顔料分散体を得た。
【0065】
[比較例4]
分散樹脂としてアクリル樹脂Aの代わりにアクリル樹脂Cを使用すること以外、すべて比較例2と同様に操作して比較例4の黒色顔料分散体を得た。
【0066】
[比較例5]
調製例4の微細化ラクタムブラックの代わりに、Irgaphor(登録商標)Black S0100CFを微細化せずそのまま使用すること以外、すべて比較例3と同様に操作して比較例5の黒色顔料分散体を得た。
【0067】
<粘度測定>
実施例1~2、比較例1~5の黒色顔料分散体の調製直後の粘度を、E型粘度計(東機産業株式会社製、TV-25)を用いて測定した。
【0068】
実施例1~2、比較例1~5の黒色顔料分散体の組成及び粘度を表2に示す。各黒色顔料分散体は、ラクタムブラック100質量部に対し、(1) アクリル樹脂を15質量部含有し;(2) 分散剤であるDISPERBYK-167を35質量部含有する。そして、各黒色顔料分散体の最終組成は、ラクタムブラック/アクリル樹脂/分散剤/溶剤=1/0.15/0.35/5.64の質量比である。
【0069】
【0070】
<光学濃度(OD値)測定用の硬化膜形成用組成物の調製>
実施例1~2、比較例1~5の黒色顔料分散体100質量部、アクリル樹脂B(塗膜形成用の樹脂)を固形分換算で7質量部、PMA 4.5質量部を混合し、硬化膜形成用組成物を調製した。
【0071】
<OD値測定用硬化膜の作製条件>
調製されたOD値測定用の硬化膜形成用組成物を用いて、ガラス板にスピンコートし、プリベイクとして90℃で2.5分間、ポストベイクとして230℃で30分間加熱し、硬化膜を形成させた。スピンコートの回転速度は、所望の膜厚により調整した。
【0072】
<硬化膜のOD値測定>
形成した硬化膜を用い、OD測定装置(エックスライト社製、X-Rite 361T)によりOD値を測定した。1μmを中心に膜厚を変えた3枚の硬化膜のOD値を測定し、傾きと切片から膜厚が1μmの時の値をOD値として算出した。
【0073】
<現像試験用の硬化膜形成用組成物の調製>
前述したOD測定用の硬化膜形成用組成物62.1重量部、感光液(樹脂/光重合性モノマー/光重合開始剤/密着促進剤/架橋剤/溶剤=4.3/7.4/5.4/0.2/2.7/80の質量比で配合した液体)30.7質量部、PMA 7.2質量部(固形分濃度19.8質量%)を混合し、現像試験用の硬化膜形成用組成物を調製した。
【0074】
<現像性評価>
調製された現像試験用の硬化膜形成用組成物をガラス板に480rpmで6秒間スピンコートし、室温で5分間乾燥した後、80℃のホットプレート上で2.5分間乾燥させた。その後、露光量20mJ/cm2、マスクギャップ50μmで露光した。0.04% KOH水溶液を用いて現像し、現像に要する時間を計測した。
【0075】
続いて、20秒間リンスし、得られた現像パターンを光学顕微鏡で観察し、現像性を評価した。具体的には、露光工程において、光が照射されなかった領域(未露光部)の残渣の有無を光学顕微鏡で観察し、現像性を評価した。評価指標は以下の通りである。
-評価指標-
○:未露光部に、残渣がまったく確認されなかった。
×:未露光部に、残渣が確認された。
【0076】
さらに、現像パターンの表面粗さ(Ra)を、レーザーマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、VK-X100)を用いて、倍率100倍で測定した。
【0077】
表3は、現像試験用の硬化膜形成用組成物のOD値、現像に要した時間、残渣の評価指標及び表面粗さ(Ra)の測定結果を示す。OD値は、どの硬化膜も同程度であり、実用性に問題はなかった。表3に示されるように、硬化膜No.1及びNo.2は、残渣がなく、表面粗さ(Ra)が0.01と小さな値であった。硬化膜No.7は、残渣が認められなかったが、表面粗さ(Ra)が0.04と大きな値であった。これは、硬化膜No.7の方が、現像パターンの表面の平滑性が低いことを意味する。また、硬化膜No.3は、現像不可であり、硬化膜No.4~No.6は、表面粗さ(Ra)は硬化膜No.1及びNo.2と同じ0.01と小さな値であったが、残渣が存在するため、硬化膜としての実用性が低いと判断された。このように、実施例1及び2の黒色顔料分散体を使用して調製された硬化膜No.1及びNo.2は、現像後に残渣が存在せず、パターンの表面粗さ(Ra)が小さいことが確認された。
【0078】
【0079】
実施例1及び2で使用されたアクリル樹脂(アクリル樹脂A及びC)は酸価が33.0~92.3mgKOH/gであり、比較例1で使用されたアクリル樹脂は酸価が10.0mgKOH/gであった。そのため、アクリル樹脂としては、酸性基を有し、酸価が30mgKOH/g以上100mgKOH/g以下のアクリル樹脂を使用することが好ましいと判断された。
【0080】
アクリル樹脂A及びCによってラクタムブラックを被覆処理せず、分散樹脂として使用した比較例2及び4の黒色顔料分散体から調製された硬化膜形成用組成物No.4及びNo.6は、現像後に残渣が存在したことから、本発明においては、酸性基を有し、酸価が30mgKOH/g以上100mgKOH/g以下のアクリル樹脂を、分散樹脂とするのではなく、ラクタムブラックを被覆処理する樹脂として使用する必要があることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の硬化膜形成用の黒色顔料分散体及びその製造方法は、ディスプレイ、固体撮像素子、赤外線センサー等の技術分野において有用である。