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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166658
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】ダンパ装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/133 20060101AFI20241122BHJP
   F16H 25/16 20060101ALI20241122BHJP
   F16F 1/32 20060101ALN20241122BHJP
【FI】
F16F15/133 Z
F16H25/16 B
F16F1/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082890
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲田 弘樹
【テーマコード(参考)】
3J059
3J062
【Fターム(参考)】
3J059AE04
3J059BA23
3J059BB01
3J059BC01
3J059BD01
3J059GA07
3J059GA27
3J062AB31
3J062AC07
3J062BA12
3J062CC16
3J062CG82
3J062CG83
(57)【要約】      (修正有)
【課題】急激なトルク変動が発生した場合に、スムーズに衝撃を緩和でき、形状を簡略化して生産性を向上させることができるとともに、変動エネルギーを吸収および放出する際にテーパローラは転がり運動となり、接触部が摩耗することを抑制して、ダンパ装置の耐久性を向上でき、コンパクトで高トルクを伝達できるダンパ装置を提供すること。
【解決手段】ダンパ装置4において、入力側カム部材6は、テーパローラ8が転動する転動面が形成されたカム溝6Aを有し、出力側カム部材7は、入力側カム部材6に対向するように出力側カム部材7に形成され、テーパローラ8が転動する転動面が形成されたカム溝7Aを有する。カム溝6Aとカム溝7Aは、入力側カム部材6と出力側カム部材7の外径側が開放しており、入力側カム部材6に、テーパローラ8をカム溝6A、もしくはカム溝7Aに抜け止めする抜け止め用リング10が設けられている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸上に配置された入力側回転部材と出力側回転部材との間に介在され、前記入力側回転部材と前記出力側回転部材との間で伝達されるトルク変動を吸収するダンパ装置であって、
前記入力側回転部材に連結され、前記入力側回転部材から回転トルクが伝達される入力側カム部材と、
前記入力側カム部材と同軸上で前記入力側カム部材に対向して配置され、前記入力側カム部材と相対回転自在となるように前記出力側回転部材に連結される出力側カム部材と、
前記入力側カム部材と前記出力側カム部材の間に配置され、前記入力側カム部材と前記出力側カム部材との間で動力を伝達するテーパローラと、
前記入力側カム部材と前記出力側カム部材が接近する方向に付勢する付勢部材とを備え、
前記入力側カム部材は、前記テーパローラが転動する転動面が形成された入力側凹部を有し、
前記出力側カム部材は、前記入力側カム部材に対向するように前記出力側カム部材に形成され、前記テーパローラが転動する転動面が形成された出力側凹部を有し、
前記入力側凹部と前記出力側凹部は、前記入力側カム部材と前記出力側カム部材の外径側が開放されており、
前記入力側カム部材および前記出力側カム部材の少なくとも一方に、前記テーパローラを前記入力側凹部、もしくは前記出力側凹部に抜け止めする抜け止め部材が取付けられていることを特徴とするダンパ装置。
【請求項2】
前記抜け止め部材は、環状部材から構成されていることを特徴とする請求項1に記載のダンパ装置。
【請求項3】
前記テーパローラに当接部が設けられており、
前記当接部は、前記テーパローラの外側の端部から前記入力側カム部材および前記出力側カム部材の径方向外方に向けて突出し、突出方向の先端が前記抜け止め部に当接していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のダンパ装置。
【請求項4】
前記当接部は、前記テーパローラに着脱自在に設けられており、前記テーパローラからの突出量を調整可能であることを特徴とする請求項3に記載のダンパ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、入力側回転部材と出力側回転部材との間で伝達されるトルク変動を吸収するダンパ装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このダンパ装置は、内燃機関のクランクシャフト、電動モータからの駆動力が入力される入力軸部材と、入力軸部材から離れる方向に移動不可能に支持されている出力軸部材と、それぞれ回転軸方向にて互いに対向する対向部分を有するように入力軸部材と出力軸部材との間に放射状に配置されたカム機構を有する。
【0004】
カム機構は、クランクシャフトのフランジ部、電動モータ軸に固定された入力側カムと、出力軸部材に回転不可能かつ回転軸方向に移動可能に支持された出力側カムと、入力側カムの対向部分上に半径方向に延びる軸で回転可能に支持されたダンパベアリングと、出力側カムの対向部分をダンパベアリングの外周部に当接させるように出力側カムを回転軸方向に付勢する付勢部材とを有し、入力側カムの対向部分が、ダンパベアリングの一部を受け入れ可能とするように入力側カムの対向面に対して凹む受入部を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第7153226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来のダンパ装置にあっては、入力軸部材と出力軸部材との間でトルク変動が発生したときに、ダンパベアリングを支持する軸に曲げ荷重が加わってダンパベアリングのスムーズな回転を妨げるおそれがある。
【0007】
このようにダンパベアリングがスムーズに回転できないと、ダンパベアリングと受入部との接触部やダンパベアリングと軸との接触部が摩耗してしまうので、ダンパ装置の耐久性を向上する上で未だ改善の余地がある。
【0008】
本発明は、上記のような事情に着目してなされたものであり、急激なトルク変動が発生した場合に、テーパローラと付勢部材と入力側凹部および出力側凹部とでスムーズに変動エネルギーを吸収および放出して衝撃を緩和することができ、入力側凹部および出力側凹部の形状を簡略化して生産性を向上させることができるとともに、変動エネルギーを吸収および放出する際にテーパローラは転がり運動となり、接触部が摩耗することを抑制して、ダンパ装置の耐久性を向上でき、コンパクトで高トルクを伝達できるダンパ装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、同軸上に配置された入力側回転部材と出力側回転部材との間に介在され、前記入力側回転部材と前記出力側回転部材との間で伝達されるトルク変動を吸収するダンパ装置であって、前記入力側回転部材に連結され、前記入力側回転部材から回転トルクが伝達される入力側カム部材と、前記入力側カム部材と同軸上で前記入力側カム部材に対向して配置され、前記入力側カム部材と相対回転自在となるように前記出力側回転部材に連結される出力側カム部材と、前記入力側カム部材と前記出力側カム部材の間に配置され、前記入力側カム部材と前記出力側カム部材との間で動力を伝達するテーパローラと、前記入力側カム部材と前記出力側カム部材が接近する方向に付勢する付勢部材とを備え、前記入力側カム部材は、前記テーパローラが転動する転動面が形成された入力側凹部を有し、前記出力側カム部材は、前記入力側カム部材に対向するように前記出力側カム部材に形成され、前記テーパローラが転動する転動面が形成された出力側凹部を有し、前記入力側凹部と前記出力側凹部は、前記入力側カム部材と前記出力側カム部材の外径側が開放されており、前記入力側カム部材および前記出力側カム部材の少なくとも一方に、前記テーパローラを前記入力側凹部、もしくは前記出力側凹部に抜け止めする抜け止め部材が取付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
このように上記の本発明によれば、急激なトルク変動が発生した場合に、テーパローラと付勢部材と入力側凹部および出力側凹部とでスムーズに変動エネルギーを吸収および放出して衝撃を緩和することができ、入力側凹部および出力側凹部の形状を簡略化して生産性を向上させることができるとともに、変動エネルギーを吸収および放出する際にテーパローラは転がり運動となり、接触部が摩耗することを抑制して、ダンパ装置の耐久性を向上でき、コンパクトで高トルクを伝達できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施例に係るダンパ装置を備えた動力伝達装置の斜視図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係るダンパ装置を備えた動力伝達装置の縦断面図である。
図3図3は、本発明の一実施例に係るダンパ装置を備えた動力伝達装置の分解図である。
図4図4は、本発明の一実施例に係るダンパ装置をテーパローラの軸線方向から見た図であり、伝達されるトルクに急激な変動が発生していないときの入力側カム部材と出力側カム部材の状態を示す図である。
図5図5は、本発明の一実施例に係るダンパ装置をテーパローラの軸線方向から見た図であり、急激なトルク変動が発生したときの入力側カム部材と出力側カム部材の状態を示す図である。
図6図6は、本発明の一実施例に係るダンパ装置を示す図であり、テーパローラからシムとアダプタを取り外した状態を示すテーパローラの軸線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施の形態に係るダンパ装置は、同軸上に配置された入力側回転部材と出力側回転部材との間に介在され、入力側回転部材と出力側回転部材との間で伝達されるトルク変動を吸収するダンパ装置であって、入力側回転部材に連結され、入力側回転部材から回転トルクが伝達される入力側カム部材と、入力側カム部材と同軸上で入力側カム部材に対向して配置され、入力側カム部材と相対回転自在となるように出力側回転部材に連結される出力側カム部材と、入力側カム部材と出力側カム部材の間に配置され、入力側カム部材と出力側カム部材との間で動力を伝達するテーパローラと、入力側カム部材と出力側カム部材が接近する方向に付勢する付勢部材とを備え、入力側カム部材は、テーパローラが転動する転動面が形成された入力側凹部を有し、出力側カム部材は、入力側カム部材に対向するように出力側カム部材に形成され、テーパローラが転動する転動面が形成された出力側凹部を有し、入力側凹部と出力側凹部は、入力側カム部材と出力側カム部材の外径側が開放されて、入力側カム部材および出力側カム部材の少なくとも一方に、テーパローラを入力側凹部、もしくは出力側凹部に抜け止めする抜け止め部材が取付けられている。
【0013】
もしくは、入力側カム部材および出力側カム部材のどちらか一方において凹部が解放されていない形状で、凹部外周部は対向するカム部材に干渉しないカム部材一体の抜け止め構造を有している。
【0014】
これにより、本発明の一実施の形態に係るダンパ装置は、急激なトルク変動が発生した場合に、テーパローラと付勢部材と入力側凹部および出力側凹部とでスムーズに変動エネルギーを吸収および放出して衝撃を緩和することができ、入力側凹部および出力側凹部の形状を簡略化して生産性を向上させることができるとともに、変動エネルギーを吸収および放出する際にテーパローラは転がり運動となり、接触部が摩耗することを抑制して、ダンパ装置の耐久性を向上でき、コンパクトで高トルクを伝達できる。
【実施例0015】
以下、本発明の一実施例に係るダンパ装置について、図面を用いて説明する。
図1から図6は、本発明の一実施例に係るダンパ装置を示す図である。図1から図6において、上下前後左右方向は、ダンパ装置の入力軸を水平方向に設置した場合を基準とし、入力軸の軸方向を前後方向、入力軸の軸方向と水平面内で直交する方向を左右方向、鉛直方向を上下方向とする。
【0016】
まず、構成を説明する。
図1から図3において、動力伝達装置1は、入力軸2、出力ギヤ3およびダンパ装置4を備えている。図示はしないが動力伝達装置1は動力伝達ケースの内部に配置され、潤滑油が降りかかる油浴中、もしくは駆動軸内部からの潤滑油供給で使用される。
【0017】
入力軸2は、前後方向に延びており、例えば、エンジンやモータ等の駆動源に接続されている。入力軸2には駆動源から動力が伝達される。なお、エンジンやモータ等の駆動源への接続用の形状は図示していないが、適宜一般的な接続方法を採用することができる。
【0018】
入力軸2の後端部は、軸受5Aを介して図示しない動力伝達ケースに回転自在に支持されており、入力軸2の前端部は、軸受5Bを介して動力伝達ケースに回転自在に支持されている。
【0019】
図2図3に示すように、入力軸2は、後端部に取付けられて軸受5Aから前端部に取付けられた軸受5Bに向かって直径が段階的に小さくなるように、後端部の第1の入力軸部2Aから第2の入力軸部2B、第3の入力軸部2Cおよび第4の入力軸部2Dと順次細く形成された各軸部を有する。
【0020】
軸受5Aは、動力伝達装置1における出力ギヤ3側の端部に取付けられ、入力軸2の中で最も大径の第1の入力軸部2Aに取付けられており、軸受5Bは、入力軸2の中で最も小径の第4の入力軸部2Dに取付けられている。
【0021】
なお、軸受5Aは最も大径の第1の入力軸部2Aに取付けられているが、図2に示す軸受5Bの取付けと同様に、第1の入力軸部2Aに段部を形成して軸受5Aを位置決めして第1の入力軸部2Aに取付けするとよい。
【0022】
図2に示すように、軸受5Aと軸受5Bの間に配置されるダンパ装置4は、第1の入力軸部2Aから第4の入力軸部2Dに向けて、出力ギヤ3、出力側カム部材7、入力側カム部材6、皿ばね9が順に配置されて、それぞれの中心に入力軸2が挿入されている。
【0023】
また、ダンパ装置4は、出力側カム部材7と入力側カム部材6の間で入力軸2を取り囲むようにテーパローラ8が配置されている。
【0024】
出力ギヤ3は、第2の入力軸部2Bの外周部に入力軸2と同軸に配置されており、入力軸2と相対回転自在となっている。出力ギヤ3は、駆動源から入力軸2に伝達された動力を、例えば、図示しない駆動輪側に伝達する。
【0025】
なお、本実施例の動力伝達装置1は、車両に搭載される例を示しているが、駆動源の動力を伝達する動力伝達装置であれば、車両に限定されるものではない。
【0026】
ダンパ装置4は、入力軸2と出力ギヤ3との間に介在されており、入力軸2と出力ギヤ3との間でトルク変動を吸収する。
【0027】
詳細には、ダンパ装置4は、入力側カム部材6と出力側カム部材7の相対変位にてトルク変動を吸収し、入力側カム部材6と出力側カム部材7の相対変位にて皿ばね9に変動エネルギーを蓄えおよび放出して衝撃を緩和する。本実施例の入力軸2は、入力側回転部材を構成し、出力ギヤ3は、出力側回転部材を構成する。
【0028】
図3に示すように、ダンパ装置4は、入力側カム部材6と、出力側カム部材7と、3つのテーパローラ8と、皿ばね9と、抜け止め用リング10と、アダプタ11と、シム12とを有する。
【0029】
入力軸2の第2の入力軸部2Bの第3の入力軸部2C側の部分には6つの嵌合溝2a(図示3つ)が形成されており、嵌合溝2aは、入力軸2の周方向に等間隔で離隔して入力軸2の軸方向に沿って延びている。嵌合溝2aは、軸垂直の断面が半円形状の溝であって嵌合溝2aにはそれぞれ円筒形状の回り止めピン13(図示4つ)が嵌合されている。
【0030】
入力側カム部材6は、円盤状の部材であって内周部に中心孔が開口している。入力側カム部材6の中心孔には入力軸2が貫通配置されている。中心孔の周縁部には嵌合溝2aに合致する位置に6つの嵌合溝6bが形成されている。
【0031】
つまり、嵌合溝6bは、中心孔の周方向に等間隔で離隔して中心孔の貫通方向に沿って出力側カム部材7側の端面から皿ばね9側の端面まで貫通するように延びている。嵌合溝6bは、軸垂直の断面が半円形状の溝となっており、嵌合溝6bには円筒形状の回り止めピン13が嵌合されている。
【0032】
つまり、嵌合溝2aと嵌合溝6bが合致した位置では、嵌合溝2aと嵌合溝6bは、軸に垂直な断面で円形の孔を構成し、それぞれがこの円形の孔の一部をなし、その円形の孔の内部には、回り止めピン13が配置されている。図2で嵌合溝6bの位置と回り止めピン13の位置関係を示す。
【0033】
入力側カム部材6は、回り止めピン13を介して入力軸2に相対回転不能に連結されており、入力側カム部材6は、軸周りの回転方向で入力軸2と一体的に回転する。これにより、入力側カム部材6には入力軸2から回転トルクが伝達される。
【0034】
また、入力側カム部材6は回り止めピン13を介して入力軸2の軸方向に沿って移動可能に連結されており、入力側カム部材6は入力軸2に対して軸方向に移動する。
【0035】
出力側カム部材7は、入力側カム部材6と同一径の円盤状の部材であって内周部に中心孔が開口しているとともに、周縁部に締結用の貫通孔が形成されている。出力側カム部材7の中心孔には入力軸2が貫通配置されている。
【0036】
出力側カム部材7は、出力ギヤ3に重ねられて入力軸2の軸方向から締め付けられる3つのボルト14によって出力ギヤ3に連結されており、出力側カム部材7は出力ギヤ3と一体で回転する。
【0037】
3つのボルト14は、その頭部が入力側カム部材6に対向するように配置されており、出力側カム部材7に形成された穴の内部に埋没するように配置されている。
【0038】
入力側カム部材6と出力側カム部材7は、入力軸2および出力ギヤ3と同軸上に設けられている。入力側カム部材6と出力側カム部材7は第2の入力軸部2Bの位置に配置されており、入力軸2の軸方向で対向している。
【0039】
図2図3に示すように、入力側カム部材6と出力側カム部材7の対向面6a、7aには、それぞれ3つのカム溝6A、7Aが形成されており、テーパローラ8は、カム溝6A、7Aに収容されている。つまり、テーパローラ8は、入力側カム部材6と出力側カム部材7の間に配置されている。
【0040】
テーパローラ8は、入力側カム部材6と出力側カム部材7の外径側から内径側に向かうに従って縮径された円錐台から構成されている。
【0041】
つまり、テーパローラ8は、入力側カム部材6と出力側カム部材7の外径側が大径で内径側が小径に形成されており、大径側が入力側カム部材6と出力側カム部材7の外径側に位置し、小径側が入力側カム部材6と出力側カム部材7の内径側に位置するように、軸方向が入力側カム部材6と出力側カム部材7の径方向と同方向に配置されている。
【0042】
詳細には、テーパローラ8の軸は入力軸2の軸線に垂直に配置されており、テーパローラ8の円錐形状の頂点が入力軸2の軸線上に位置するように、テーパローラ8の位置や形状が設定されている。これによって、テーパローラ8は入力側カム部材6と出力側カム部材7の間で滑りなく転動することができる。
【0043】
図4に示すように、カム溝6Aは、テーパローラ8が転動する転動面6sを有し、カム溝6Aは、中央部から入力側カム部材6の周方向の両側に向かって浅くなっている。また、カム溝6Aは、入力側カム部材6の外径側が開放されており、外径側から内径側に行くに従って浅くなるように出力側カム部材7側に傾斜している。
【0044】
詳細には、カム溝6Aの転動面6sは、外径側中央の最深部から周囲に行くほど浅くなるように形成されているが、入力軸2の軸線と直交するように軸が配置されたテーパローラ8との接触線を延長するとテーパローラ8の軸線と入力軸2の軸線との交点を通過するように設定されている。これによって、テーパローラ8は転動面6sにて滑りなく転動することができる。
【0045】
具体的には、カム溝6Aは、対向面6aから入力軸2の軸方向の深さが中央部が最も深く、この中央部から入力側カム部材6の周方向の両側に向かって浅く形成された転動面6sを有する。
【0046】
また、カム溝6Aは、対向面6aから入力軸2の軸方向の深さが外径側、すなわち、開放端が最も深く、内径側が最も浅く形成された滑らかな転動面6sを有する。
【0047】
カム溝7Aは、テーパローラ8が転動する転動面7sを有し、カム溝7Aは、中央部から出力側カム部材7の周方向の両側に向かって浅くなっている。また、カム溝7Aは、出力側カム部材7の外径側が開放しており、外径側から内径側に行くに従って浅くなるように入力側カム部材6側に傾斜している。
【0048】
具体的には、カム溝7Aは、対向面7aから入力軸2の軸方向の深さが中央部が最も深く、延在方向の中央部から出力側カム部材7の周方向の両側に向かって浅く形成された転動面7sを有する。
【0049】
また、カム溝7Aは、対向面7aから入力軸2の軸方向の深さが外径側、すなわち、開放端が最も深く、内径側が最も浅く形成された滑らかな転動面7sを有する。転動面7s、カム溝7Aは、転動面6s、カム溝6Aと同様に形成されている。
【0050】
つまり、カム溝6A、7Aは、転動面6s、7sがテーパローラ8の外径形状に沿った形状に形成されており、テーパローラ8が転動面6s、7sに接触しながら転動する。
【0051】
図2に示すように、ダンパ装置4は皿ばね9を備えている。皿ばね9は椀状の金属バネであって、その中央の孔に入力軸2が挿通され入力軸2の軸方向に弾性を有する。皿ばね9は、第2の入力軸部2Bに取付けられており、外径側が入力側カム部材6に当接し、内径側がワッシャ15に当接している。
【0052】
ワッシャ15は第3の入力軸部2Cに配置されており、ワッシャ15は段部2bにナット16にて固定されている。第3の入力軸部2Cの外周部にはねじ溝が形成されており、ナット16は第3の入力軸部2Cに螺合されている。
【0053】
径寸法の異なる第2の入力軸部2Bと第3の入力軸部2Cの間には段部2bが形成されており、ワッシャ15は、ナット16によって段部2bに押し付けられて固定されている。
【0054】
これにより、皿ばね9は、入力側カム部材6とワッシャ15との間で入力軸2の軸方向に弾性変形自在に配置され、入力側カム部材6を出力側カム部材7側に付勢している。
【0055】
つまり、皿ばね9は、入力側カム部材6と出力側カム部材7が接近する方向に入力側カム部材6を付勢している。
【0056】
また、この皿ばね9の付勢力は、第1の入力軸部2Aと第2の入力軸部2Bの間に形成された段部2cにて受け止められる。
【0057】
皿ばね9の付勢力によって入力側カム部材6および出力側カム部材7を介して出力ギヤ3に作用し、出力ギヤ3が第1の入力軸部2Aと第2の入力軸部2Bの間に形成された段部2cに当接することにより、出力ギヤ3、出力側カム部材7および入力側カム部材6が入力軸2の軸方向に位置決めされている。
【0058】
抜け止め用リング10は、円筒状の環状部材から構成されており、その内径に入力側カム部材6が配置され、入力側カム部材6の外周縁に嵌合している。そして、入力側カム部材6の径方向に締め込まれるボルト17によって入力側カム部材6の外周部に固定されている。抜け止め用リング10は、カム溝6A、7Aを径方向の外方から覆っている。
【0059】
テーパローラ8は、位置調整用のアダプタ11を有する。アダプタ11は、円錐台形状のテーパローラ8の下底面の中心に軸方向に沿って形成された円筒穴10Aに挿入配置されており、テーパローラ8よりも小径で、短い軸長に形成された円筒状の部品となっている。
【0060】
アダプタ11は、テーパローラ8の下底面から外方に突出した状態でテーパローラ8から突出している。アダプタ11の突出方向の先端は細く形成されており、テーパローラ8がダンパ装置4に組み立てられた状態で、入力側カム部材6および出力側カム部材7の外径縁位置とほぼ同じ径方向位置にアダプタ11の先端は位置している。
【0061】
つまり、アダプタ11は、テーパローラ8の外側の端部から入力側カム部材6および出力側カム部材7の径方向外方に向けて突出しており、アダプタ11の突出方向の先端は抜け止め用リング10の内面に当接している。
【0062】
これにより、アダプタ11とテーパローラ8がカム溝6A、7Aから抜け出すことが防止されている。つまり、抜け止め用リング10は、テーパローラ8がカム溝6A、7Aから抜け出すことを阻止して外径方向に開放されたカム溝6A、7A内にテーパローラ8を留める。これに加えて、抜け止め用リング10は、アダプタ11に当接することによってテーパローラ8の位置決めを行う。
【0063】
抜け止め用リング10は、環状部材から構成されており、入力側カム部材6の全周にわたって配置され、入力側カム部材6と出力側カム部材7の間の空間をカム溝6Aとカム溝7Aの部分を含み外方から覆っている。
【0064】
これにより、入力側カム部材6および出力側カム部材7の回転による遠心力によってテーパローラ8がカム溝6A、7Aの径方向外方に移動しようとした場合に、アダプタ11が抜け止め用リング10に支えられて、テーパローラ8がカム溝6A、7Aから抜け出ることを確実に防止できる。
【0065】
本実施例の抜け止め用リング10は、抜け止め用部材を構成する。カム溝6Aは、入力側凹部を構成し、カム溝7Aは、出力側凹部を構成する。なお、抜け止め用リング10は、出力側カム部材7に取付けられてもよく、さらには、分割されて入力側カム部材6と出力側カム部材7の両方に取付けられてもよい。又、入力側カム部材もしくは出力側カム部材と一体構造にすることもできる。
【0066】
図2図6に示すように、テーパローラ8には円筒穴10Aが形成されており、円筒穴10Aはダンパ装置4における外径側が開放されている。シム12は、円筒穴10Aの内部に装着されており、アダプタ11と円筒穴10Aの間に配置されている。
【0067】
シム12は、その数や厚さを調整することによりアダプタ11のテーパローラ8からの突出状態を調整し、入力側カム部材の軸に対する姿勢を最適にすることができる。
【0068】
つまり、アダプタ11は、先端が抜け止め用リング10に当接し、テーパローラ8の円筒穴10Aに着脱自在に設けられているので、円筒穴10Aに装着されるシム12の数や厚さを調整することにより、テーパローラ8の位置を調整可能となっている。
【0069】
次に、本実施例のダンパ装置4の作用を説明する。
駆動源から入力軸2に動力が伝達されると、駆動源の動力は、入力軸2から回り止めピン13を介して入力側カム部材6に伝達された後、テーパローラ8、出力側カム部材7を介して出力ギヤ3に伝達される。
【0070】
また、車両の減速時には、駆動輪の動力が出力ギヤ3から出力側カム部材7、テーパローラ8、入力側カム部材6、回り止めピン13を介して入力軸2に伝達される。
【0071】
駆動源から入力軸2に伝達される動力のトルク変動が生じない場合、または、駆動輪から出力ギヤ3に伝達される動力のトルク変動が生じない場合には、図4に示すように、入力側カム部材6と出力側カム部材7とが相対回転しない。
【0072】
つまり、テーパローラ8とカム溝6A、7A(転動面6s、7s)の接触角度で分解された皿ばね9の付勢力と伝達するトルクの大きさとのバランスで決まる入力側カム部材6と出力側カム部材7との相対位置で維持されて回転して駆動力を伝達する。
【0073】
このため、比較的小さいトルクを伝達する状態では、テーパローラ8は、カム溝6Aとカム溝7Aの最も深い転動面6s、7sに位置した状態を維持しながら、入力側カム部材6と出力側カム部材7との間でテーパローラ8を介して動力が伝達される。
【0074】
つまり、皿ばね9のセット荷重(予荷重)よりもトルク変動が小さい場合には入力側カム部材6と出力側カム部材7は相対回転しない。また、大きなトルクを伝達する場合であってもトルク変動が小さい場合には入力側カム部材6と出力側カム部材7は相対的にずれた位置にてトルクを伝達することになるが、急激な相対回転はしない。
【0075】
一方、例えば、駆動源から入力軸2に伝達される動力に急激なトルク変化が生じた場合には、図4の状態から図5に示すような状態に、入力側カム部材6が出力側カム部材7に対して相対回転する。
【0076】
つまり、皿ばね9のセット荷重でトルクの伝達ができないほどにトルクが大きくなると、入力側カム部材6が出力側カム部材7に対して相対回転する。この相対回転は、急激なトルク変化の時に大きなトルクが作用することになるので生じやすい。
【0077】
急激なトルクの変化が作用するとき、テーパローラ8がカム溝6A、7Aの深い転動面6s、7sから浅い転動面6s、7sに転動し、入力側カム部材6が出力側カム部材7から離れるように入力軸2の軸方向に移動する。
【0078】
入力側カム部材6が出力側カム部材7から離れるように移動すると、皿ばね9が弾性変形して圧縮され入力側カム部材6の移動を許容する。このとき、皿ばね9は弾性変形して急激なトルク変動を吸収する。
【0079】
このため、急激なトルク変動による車両へのショックや振動の発生を抑えることができ、乗員の不快感を抑制して車両の商品性を向上させることができる。また、伝達するトルクが減少した後、弾性変形してトルクを吸収している皿ばね9は、入力側カム部材6を出力側カム部材7側に押し戻してトルクを発生させることにより、蓄積されているトルクを開放する。
【0080】
このように、テーパローラ8とカム溝6A、7Aによる動きの変換と皿ばね9の弾性変形によるエネルギーの吸収と放出にてトルクの急激な変動を滑らかにすることができる。
【0081】
また、駆動輪から出力ギヤ3に入力されるトルクに急激なトルク変動が生じた場合も同様であって、出力側カム部材7が入力側カム部材6に対して相対回転し、テーパローラ8がカム溝6A、7Aの深い転動面6s、7sから浅い転動面6s、7sに転動することで皿ばね9の弾性変形によってエネルギーの吸収を行う。
【0082】
そして、伝達するトルクが減少したときにテーパローラ8がカム溝6A、7Aの浅い転動面6s、7sから深い転動面6s、7sに転動することで皿ばね9に弾性変形として蓄積されたエネルギーを駆動力として放出するので、トルクの急激な変動を滑らかにすることができる。
【0083】
なお、吸収や伝達するトルクの特性を変更する場合や、出力側カム部材7に対する入力側カム部材6の相対回転量(移動量)に対して入力側カム部材6から出力側カム部材7に伝達されるトルクを変更する場合には、皿ばね9のばね荷重を高くすることや、カム溝6A、7Aの形状を変更すればよい。
【0084】
次に、本実施例のダンパ装置4の効果を説明する。
本実施例のダンパ装置4は、入力軸2に連結され、入力軸2から回転トルクが伝達される入力側カム部材6と、入力側カム部材6と同軸上で入力側カム部材6に対向して配置され、入力側カム部材6と相対回転自在となるように出力ギヤ3に連結される出力側カム部材7とを有する。
【0085】
また、ダンパ装置4は、入力側カム部材6と出力側カム部材7の間に配置され、入力側カム部材6と出力側カム部材7との間で動力を伝達するテーパローラ8と、入力側カム部材6と出力側カム部材7が接近する方向に付勢する皿ばね9とを備えている。
【0086】
入力側カム部材6は、入力側カム部材6の周方向に扇状に延在し、テーパローラ8が転動する転動面6sが形成されたカム溝6Aを有し、出力側カム部材7は、入力側カム部材6の転動面6sに対向するように出力側カム部材7に形成され、出力側カム部材7の周方向に扇状に延在してテーパローラ8が転動する転動面7sが形成されたカム溝7Aを有する。
【0087】
カム溝6Aとカム溝7Aは、入力側カム部材6と出力側カム部材7の外径側が開放しており、入力側カム部材6に、テーパローラ8をカム溝6Aおよびカム溝7Aに抜け止めする抜け止め用リング10が取付けられている。
【0088】
これにより、テーパローラ8が入力側カム部材6のカム溝6Aと出力側カム部材7のカム溝7Aの転動面6s、7sを転動することにより、入力側カム部材6、出力側カム部材7、テーパローラ8および皿ばね9によってトルク変動を吸収できるので、急激なトルク変動が発生した場合に、テーパローラ8とカム溝6A、7Aが摩耗することを抑制できる。このため、ダンパ装置4の耐久性を向上できる。
【0089】
また、テーパローラ8とカム溝6A、7Aとにすべりが発生しないので、入力側カム部材6と出力側カム部材7との間で動力伝達効率を向上できる。
【0090】
また、カム溝6A、7Aは、入力側カム部材6と出力側カム部材7の外径側が開放しているので、カム溝6A、7Aを容易に加工することができ、ダンパ装置4の生産性と精度を向上できる。
【0091】
また、抜け止め用リング10によってテーパローラ8をカム溝6Aおよびカム溝7Aに抜け止めしているので、入力側カム部材6と出力側カム部材7の外径側でカム溝6A、7Aが開放される場合であっても、テーパローラ8を介して入力側カム部材6と出力側カム部材7との間で動力伝達を確実に行うことができ、ダンパ装置4の信頼性が低下することを防止できる。
【0092】
また、抜け止め用リング10によって入力側カム部材6と出力側カム部材7の回転による遠心力に対応できるので、高速回転する動力伝達装置1にダンパ装置4を適用できる。
【0093】
また、本実施例のダンパ装置4によれば、抜け止め用リング10が環状部材から構成されている。
【0094】
これにより、簡単な構成で、テーパローラ8の抜け止めを行うことができる。また、抜け止め用リング10を入力側カム部材6と出力側カム部材7の周方向の全体にわたって配置できるので、抜け止め用リング10をテーパローラ8に対して均等に配置できてバランスを容易に確保することができる。このため、高速回転する動力伝達装置1にダンパ装置4に好適に適用できる。
【0095】
また、本実施例のダンパ装置4によれば、テーパローラ8にアダプタ11が設けられており、アダプタ11は、テーパローラ8の外側の端部から入力側カム部材6および出力側カム部材7の径方向外方に向けて突出し、その先端が抜け止め用リング10に当接している。
【0096】
これにより、テーパローラ8が直接的に抜け止め用リング10に接触することを防止でき、抜け止め用リング10とテーパローラ8とが摩耗することを抑制できる。
【0097】
これに加えて、細く形成したアダプタ11の先端部を抜け止め用リング10に当接させることにより、アダプタ11と抜け止め用リング10の接触面積をテーパローラ8と抜け止め用リング10の接触面積よりも小さくできる。
【0098】
このため、テーパローラ8の動き(回転と径方向への移動)を円滑に行うことができ、テーパローラ8の動作を安定できる。
【0099】
また、本実施例のダンパ装置4によれば、アダプタ11は、テーパローラ8に着脱自在に設けられており、テーパローラ8からの突出量を調整可能である。
【0100】
これにより、シム12の数や厚さを調整してテーパローラ8からのアダプタ11の突出量を調整してテーパローラ8の位置調整を行うことにより、入力側カム部材6と出力側カム部材7の動作を安定させることができ、ダンパ装置4の耐久性をより効果的に向上できる。
【0101】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0102】
2...入力軸(入力側回転部材)、3...出力ギヤ(出力側回転部材)、4...ダンパ装置、6...入力側カム部材、6A...カム溝(入力側凹部)、6s...転動面、7...出力側カム部材、7A...カム溝(出力側凹部)、7s...転動面、8...テーパローラ、9...皿ばね(付勢部材)、10...抜け止め用リング(抜け止め部材)、11...アダプタ(当接部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6