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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016666
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】円錐ころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/36 20060101AFI20240131BHJP
   F16C 33/62 20060101ALI20240131BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20240131BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240131BHJP
   C22C 38/44 20060101ALI20240131BHJP
   C23C 8/26 20060101ALI20240131BHJP
   C21D 9/40 20060101ALN20240131BHJP
【FI】
F16C19/36
F16C33/62
F16C33/58
C22C38/00 301Z
C22C38/44
C23C8/26
C21D9/40 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118959
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川井 崇
(72)【発明者】
【氏名】大木 力
(72)【発明者】
【氏名】三輪 則暁
【テーマコード(参考)】
3J701
4K028
4K042
【Fターム(参考)】
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA57
3J701BA69
3J701BA70
3J701DA02
3J701DA03
3J701DA11
3J701EA03
3J701FA15
3J701FA44
3J701GA11
3J701GA32
3J701GA51
3J701XB03
3J701XB12
3J701XE03
3J701XE30
4K028AA02
4K028AB01
4K028AC08
4K042AA22
4K042AA23
4K042BA03
4K042BA04
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA10
4K042DA01
4K042DA02
4K042DA06
4K042DC02
4K042DC04
4K042DE02
4K042DE06
(57)【要約】
【課題】内輪が焼入れ性の高い鋼で形成されている場合であってもヌスミ部からの亀裂の進展を抑制可能な円錐ころ軸受を提供する。
【解決手段】円錐ころ軸受は、内輪と、外輪と、円錐ころとを備える。内輪は、焼入れ及び焼戻しの行われた鋼製である。内輪は、軸方向における端面である第1幅面及び第2幅面と、周方向に延在している内径面と、周方向に延在し、かつ径方向における内径面の反対面である外径面とを有する。外径面は、軌道面と、軌道面よりも第1幅面側にあり、かつ径方向における外側に突出している第1鍔部と、軌道面よりも第2幅面側にあり、かつ径方向における外側に突出している第2鍔部と、軌道面及び第1鍔部に連なっている第1ヌスミ部と、軌道面及び第2鍔部に連なっている第2ヌスミ部とを有する。軌道面は、径方向における内径面と軌道面との間の距離が第1幅面側から第2幅面側に近づくにつれて大きくなるように傾斜している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、外輪と、円錐ころとを備え、
前記内輪は、焼入れ及び焼戻しの行われた鋼製であり、
前記内輪は、軸方向における端面である第1幅面及び第2幅面と、周方向に延在している内径面と、前記周方向に延在し、かつ径方向における前記内径面の反対面である外径面とを有し、
前記外径面は、軌道面と、前記軌道面よりも前記第1幅面側にあり、かつ前記径方向における外側に突出している第1鍔部と、前記軌道面よりも前記第2幅面側にあり、かつ前記径方向における外側に突出している第2鍔部と、前記軌道面及び前記第1鍔部に連なっている第1ヌスミ部と、前記軌道面及び前記第2鍔部に連なっている第2ヌスミ部とを有し、
前記軌道面は、前記径方向における前記内径面と前記軌道面との間の距離が前記第1幅面側から前記第2幅面側に近づくにつれて大きくなるように傾斜しており、
前記円錐ころは、前記第1鍔部と対向している第1端面と、前記第2鍔部と対向し、かつ前記第1端面の反対面である第2端面と、前記第1端面及び前記第2端面に連なっており、かつ前記軌道面に接触する外周面とを有し、
前記第1ヌスミ部の深さを前記第1ヌスミ部の曲率半径により除した値は、0.10以上1.00以下であり、
前記第1ヌスミ部の幅を前記外周面の前記第2端面側の端における外径により除した値は、0.01以上0.70以下であり、
前記第2ヌスミ部の曲率半径を前記外周面の前記第2端面側の端における外径により除した値は、0.02以上1.20以下であり、
前記第2ヌスミ部の深さを前記外周面の前記第2端面側の端における外径により除した値は、0.001以上0.080以下であり、
前記鋼は、0.90質量パーセント以上1.20質量パーセント以下の炭素と、0.35質量パーセント以上0.80質量パーセント以下のシリコンと、0.80質量パーセント以上1.20質量パーセント以下のマンガンと、0.30質量パーセント未満のニッケルと、0.80質量パーセント以上1.30質量パーセント以下のクロムと、0.10質量パーセント未満のモリブデンと、残部をなす鉄及び不可避不純物とを含有しており、
前記鋼中のシリコン濃度を前記鋼中のマンガン濃度で除した値は、0.51未満になっている、円錐ころ軸受。
【請求項2】
前記鋼には、前記軌道面から離れるにつれて窒素濃度が小さくなるように窒素が導入されており、
前記軌道面と深さ方向における前記軌道面からの距離が10μmとなる第1位置との間での前記鋼中の平均窒素濃度は、0.16質量パーセント以下になっており、
前記深さ方向において前記第1位置よりも前記軌道面から離れている第2位置は、前記鋼中の窒素濃度が0.01質量パーセント以下になっており、かつ前記深さ方向における前記第1位置との距離が最小となる位置であり、
前記第1位置と前記第2位置との間での窒素濃度勾配は、0.12質量パーセント/mm以上1.1質量パーセント/mm以下である、請求項1に記載の円錐ころ軸受。
【請求項3】
前記内輪の肉厚は、2.5mm以上17mm以下であり、
前記外周面の前記第2端面側の端における外径は、3mm以上15mm以下であり、
前記内輪の硬さは、59HRC以上65HRC以下である、請求項1又は請求項2に記載の円錐ころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円錐ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2001-3139号公報(特許文献1)には、円錐ころ軸受が記載されている。特許文献1に記載の円錐ころ軸受は、内輪と、外輪と、複数の円錐ころとを有している。内輪の中心軸に沿う方向を、軸方向とする。内輪の中心軸に直交し、かつ当該中心軸を通る方向を、径方向とする。軸方向に沿って見た際に内輪10の中心軸に沿う方向を、周方向とする。
【0003】
内輪は、第1幅面及び第2幅面と、内径面と、外径面とを有している。第1幅面及び第2幅面は、軸方向における内輪の端面である。内径面は、周方向に延在している。外径面は、周方向に延在しており、かつ径方向における内径面の反対面である。
【0004】
外径面は、軌道面と、第1鍔部と、第2鍔部と、第1ヌスミ部と、第2ヌスミ部とを有している。軌道面は、第1幅面側から第2幅面側に近づくにつれて内径面との距離が大きくなるように傾斜している。第1鍔部は、軌道面よりも第1幅面側にあり、かつ径方向における外側に突出している。第2鍔部は、軌道面よりも第2幅面側にあり、かつ径方向における外側に突出している。第1ヌスミ部は、軌道面及び第1鍔部に連なっている。第2ヌスミ部は、軌道面及び第2鍔部に連なっている。
【0005】
円錐ころは、第1端面及び第2端面と、外周面とを有している。第1端面は、第1鍔部に対向している。第2端面は、第1端面の反対面であり、かつ第2鍔部に対向している。外周面は、第1端面及び第2端面に連なっており、かつ軌道面に接触する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-3139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の円錐ころ軸受は、内輪が焼入れ性の高い鋼で形成されている場合、内輪の内部まで硬さが大きくなるため、第1ヌスミ部及び第2ヌスミ部から亀裂が進展しやすくなる。
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。より具体的には、本発明は、内輪が焼入れ性の高い鋼で形成されている場合であってもヌスミ部からの亀裂の進展を抑制可能な円錐ころ軸受を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の円錐ころ軸受は、内輪と、外輪と、円錐ころとを備える。内輪は、焼入れ及び焼戻しの行われた鋼製である。内輪は、軸方向における端面である第1幅面及び第2幅面と、周方向に延在している内径面と、周方向に延在し、かつ径方向における内径面の反対面である外径面とを有する。外径面は、軌道面と、軌道面よりも第1幅面側にあり、かつ径方向における外側に突出している第1鍔部と、軌道面よりも第2幅面側にあり、かつ径方向における外側に突出している第2鍔部と、軌道面及び第1鍔部に連なっている第1ヌスミ部と、軌道面及び第2鍔部に連なっている第2ヌスミ部とを有する。軌道面は、径方向における内径面と軌道面との間の距離が第1幅面側から第2幅面側に近づくにつれて大きくなるように傾斜している。円錐ころは、第1鍔部と対向している第1端面と、第2鍔部と対向し、かつ第1端面の反対面である第2端面と、第1端面及び第2端面に連なっており、かつ軌道面に接触する外周面とを有する。第1ヌスミ部の深さを第1ヌスミ部の曲率半径により除した値は、0.10以上1.00以下である。第1ヌスミ部の幅を外周面の第2端面側の端における外径により除した値は、0.01以上0.70以下である。第2ヌスミ部の曲率半径を外周面の第2端面側の端における外径により除した値は、0.02以上1.20以下である。第2ヌスミ部の深さを外周面の第2端面側の端における外径により除した値は、0.001以上0.080以下である。鋼は、0.90質量パーセント以上1.20質量パーセント以下の炭素と、0.35質量パーセント以上0.80質量パーセント以下のシリコンと、0.80質量パーセント以上1.20質量パーセント以下のマンガンと、0.30質量パーセント未満のニッケルと、0.80質量パーセント以上1.30質量パーセント以下のクロムと、0.10質量パーセント未満のモリブデンと、残部をなす鉄及び不可避不純物とを含有している。鋼中のシリコン濃度を鋼中のマンガン濃度で除した値は、0.51未満になっている。
【0010】
上記の円錐ころ軸受では、鋼に、軌道面から離れるにつれて窒素濃度が小さくなるように窒素が導入されていてもよい。軌道面と深さ方向における軌道面からの距離が10μmとなる第1位置との間での鋼中の平均窒素濃度は、0.16質量パーセント以下になっていてもよい。深さ方向において第1位置よりも軌道面から離れている第2位置は、鋼中の窒素濃度が0.01質量パーセント以下になっており、かつ深さ方向における第1位置との距離が最小となる位置であってもよい。第1位置と第2位置との間での窒素濃度勾配は0.12質量パーセント/mm以上1.1質量パーセント/mm以下であってもよい。
【0011】
上記の円錐ころ軸受では、内輪の肉厚が2.5mm以上17mm以下であってもよい。外周面の第2端面側の端における外径は、3mm以上15mm以下であってもよい。内輪の硬さは、59HRC以上65HRC以下であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の円錐ころ軸受によると、内輪が焼入れ性の高い鋼で形成されている場合であってもヌスミ部からの亀裂の進展を抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】円錐ころ軸受100の断面図である。
図2】第1鍔部10db近傍における円錐ころ軸受100の拡大断面図である。
図3】第2鍔部10dc近傍における円錐ころ軸受100の拡大断面図である。
図4】円錐ころ軸受100の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態の詳細を、図面を参照しながら説明する。以下の図面では、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さないものとする。実施形態に係る円錐ころ軸受を、円錐ころ軸受100とする。
【0015】
(円錐ころ軸受100の構成)
以下に、円錐ころ軸受100の構成を説明する。
【0016】
円錐ころ軸受100は、例えば、自動車駆動ユニット(デファレンシャル、トランスミッション、EV(Electric Vehicle)用減速機、HEV(Hybrid Electric Vehicle)用減速機等)、産業機械用装置(ロボット用減速機、建設機械、トラクター等)に使用される円錐ころ軸受である。但し、円錐ころ軸受100の用途は、これらに限られるものではない。
【0017】
図1は、円錐ころ軸受100の断面図である。図2は、第1鍔部10db近傍における円錐ころ軸受100の拡大断面図である。図3は、第2鍔部10dc近傍における円錐ころ軸受100の拡大断面図である。図1から図3には、中心軸Aを通る円錐ころ軸受100の断面が示されている。図1から図3に示されるように、円錐ころ軸受100は、内輪10と、外輪20と、複数の円錐ころ30と、保持器40とを有している。
【0018】
内輪10の中心軸を、中心軸Aとする。中心軸Aの方向を、軸方向とする。中心軸Aを通り、かつ中心軸Aに直交する方向を、径方向とする。軸方向に沿って見た際に中心軸Aを中心とする円周に沿う方向を、周方向とする。
【0019】
内輪10は、リング状である。内輪10は、第1幅面10aと、第2幅面10bと、内径面10cと、外径面10dとを有している。第1幅面10a及び第2幅面10bは、軸方向における内輪10の端面である。第1幅面10aは軸方向における一方側(図1中では、左側)を向いており、第2幅面10bは軸方向における他方側(図1中では、右側)を向いている。すなわち、第2幅面10bは、第1幅面10aの軸方向における反対面である。
【0020】
内径面10cは、周方向に延在している。内径面10cは、中心軸A側を向いている。すなわち、内径面10cは、径方向における内側を向いている。内径面10cの軸方向における一方端及び軸方向における他方端は、それぞれ、第1幅面10a及び第2幅面10bに連なっている。図示されていないが、内輪10は、内径面10cにおいて軸に嵌め合わされる。
【0021】
外径面10dは、周方向に延在している。外径面10dは、中心軸Aとは反対側を向いている。すなわち、外径面10dは、径方向における外側を向いており、径方向における内径面10cの反対面である。外径面10dの軸方向における一方端及び軸方向における他方端は、それぞれ、第1幅面10a及び第2幅面10bに連なっている。外径面10dは、軌道面10daと、第1鍔部10dbと、第2鍔部10dcと、第1ヌスミ部10ddと、第2ヌスミ部10deとを有している。
【0022】
軌道面10daは、円錐ころ30に接触する外径面10dの部分である。軌道面10daは、第1幅面10a側から第2幅面10b側に近づくにつれて、内径面10cとの間の距離が大きくなるように傾斜している。
【0023】
第1鍔部10dbは、軌道面10daよりも第1幅面10a側にある。すなわち、第1鍔部10dbは、内輪10の小鍔である。第1鍔部10dbは、径方向における外側に突出している。第2鍔部10dcは、軌道面10daよりも第2幅面10b側にある。すなわち、第2鍔部10dcは、内輪10の大鍔である。第2鍔部10dcは、径方向における外側に突出している。第1ヌスミ部10ddは、軌道面10da及び第1鍔部10dbに連なっている。第1ヌスミ部10ddは、内径面10c側に窪んでいる。第2ヌスミ部10deは、軌道面10da及び第2鍔部10dcに連なっている。第2ヌスミ部10deは、内径面10c側に窪んでいる。
【0024】
外輪20は、リング状である。外輪20は、第1幅面20aと、第2幅面20bと、内径面20cと、外径面20dとを有している。第1幅面20a及び第2幅面20bは、軸方向における外輪20の端面である。第1幅面20aは、軸方向における一方側を向いている。第2幅面20bは、軸方向における他方側を向いている。すなわち、第2幅面20bは、第1幅面20aの軸方向における反対面である。
【0025】
内径面20cは、周方向に延在している。内径面20cは、中心軸A側を向いている。すなわち、内径面20cは、径方向における内側を向いている。内径面20cの軸方向における一方端及び軸方向における他方端は、それぞれ、第1幅面20a及び第2幅面20bに連なっている。
【0026】
内径面20cは、軌道面20caを有している。軌道面20caは、円錐ころ30に接触する内径面20cの部分である。軌道面20caは、第1幅面20a側から第2幅面20b側に近づくにつれて、外径面20dとの間の距離が小さくなるように傾斜している。外輪20は、軌道面20caが軌道面10daと間隔を空けて対向するように、内輪10の径方向における外側に配置されている。
【0027】
外径面20dは、周方向に延在している。外径面20dは、中心軸Aとは反対側を向いている。すなわち、外径面20dは、径方向における外側を向いており、径方向における内径面20cの反対面である。外径面20dの軸方向における一方端及び軸方向における他方端は、それぞれ、第1幅面20a及び第2幅面20bに連なっている。図示されていないが、外輪20は、外径面20dにおいてハウジングに嵌め合わされる。
【0028】
円錐ころ30は、軌道面10daと軌道面20caとの間に配置されている。複数の円錐ころ30は、周方向に並んでいる。円錐ころ30は、第1端面30aと、第2端面30bと、外周面30cとを有している。円錐ころ30は、円錐台状である。
【0029】
第1端面30aは、第1鍔部10dbに対向している。第2端面30bは、第2鍔部10dcに対向している。第2端面30bは、円錐ころ30の中心軸の方向における第1端面30aの反対面である。第2端面30bに対向する第2鍔部10dcの面を、鍔面10dfとする。外周面30cは、第1端面30a及び第2端面30bに連なっている。円錐ころ30は、外周面30cにおいて、軌道面10da及び軌道面20caに接触する。第2端面30b側の端における外周面30cの外径は、第1端面30a側の端における外周面30cの外径よりも大きい。このことを別の観点から言えば、第1端面30a及び第2端面30bは、それぞれ、円錐ころ30の小径端面及び大径端面である。
【0030】
保持器40は、内輪10と外輪20との間に配置されている。保持器40は、複数の円錐ころ30を保持している。これにより、隣り合う2つの円錐ころ30の間の周方向における間隔が一定範囲内となる。
【0031】
第1ヌスミ部10ddの深さを、深さD1とする。深さD1は、軌道面10daに直交する方向における第1ヌスミ部10ddの底と軌道面10daとの間の距離である。第1ヌスミ部10ddの幅を、幅W1とする。幅W1は、軌道面10daと平行な方向における第1ヌスミ部10ddの幅である。第1ヌスミ部10ddの曲率半径を、曲率半径R1とする。曲率半径R1は、第1ヌスミ部10ddの底部において測定される。
【0032】
第2ヌスミ部10deの深さを、深さD2とする。深さD2は、鍔面10dfに直交する方向における第2ヌスミ部10deの底と鍔面10dfとの間の距離である。第2ヌスミ部10deの曲率半径を、曲率半径R2とする。曲率半径R2は、第2ヌスミ部10deの底部において測定される。内輪10の肉厚を、肉厚Tとする。肉厚Tは、軌道面10daの延長線及び鍔面10dfの延長線の交点と内径面10cとの間の径方向における距離である。第2端面30b側の端における外周面30cの外径を、外径Dとする。
【0033】
深さD1を曲率半径R1により除した値は0.10以上1.00以下であり、幅W1を外径Dにより除した値は0.01以上0.70以下である。曲率半径R2を外径Dにより除した値は0.02以上1.20以下であり、深さD2を外径Dにより除した値は0.001以上0.080以下である。肉厚Tは、2.5mm以上17mm以下であることが好ましい。外径Dは、3mm以上15mm以下であることが好ましい。
【0034】
内輪10は、浸窒、焼入れ及び焼戻しが行われた鋼製である。鋼は、表1に示されている組成を有している。より具体的には、鋼は、0.90質量パーセント以上1.20質量パーセント以下の炭素と、0.35質量パーセント以上0.80質量パーセント以下のシリコンと、0.80質量パーセント以上1.20質量パーセント以下のマンガンと、0.30質量パーセント未満のニッケルと、0.80質量パーセント以上1.30質量パーセント以下のクロムと、0.10質量パーセント未満のモリブデンとを含有している。鋼の残部は、鉄及び不可避不純物である。なお、鋼は、ニッケル及びモリブデンを含有していなくてもよい。
【0035】
【表1】
【0036】
鋼中では、シリコン濃度をマンガン濃度で除した値が0.51未満になっている。鋼中のシリコン濃度が低くなると、鉄の酸化物の形成が抑制され、耐水素脆性が改善される。鋼中のマンガン濃度が高くなると、焼入れ性が改善される。また、鋼中のマンガン濃度が高くなると、マンガンが硫黄と結合して硫化マンガンとなることにより硫黄が固定されるため、硫黄の粒界偏析が抑制され、鋼の強度低下が抑制される。さらに、鋼中のマンガン濃度が高くなると、鋼の延性-脆性繊維温度が低下して鋼の靭性が改善される。このような観点から、シリコン濃度をマンガン濃度で除した値が0.51未満とされている。
【0037】
内輪10には浸窒が行われているため、内輪10を構成している鋼には、軌道面10daから離れるにつれて窒素濃度が低くなるように窒素が導入されている。
【0038】
軌道面10daからの深さ方向における距離が10μmとなる位置を第1位置とする。軌道面10daから第1位置までの間における鋼中の平均窒素濃度は、0.16質量パーセント以下であることが好ましい。深さ方向とは、軌道面10daに直交している方向である。鋼中の窒素濃度が0.01質量パーセント以下となり、かつ深さ方向における第1位置との距離が最小となる位置を、第2位置とする。第2位置は、深さ方向において、第1位置よりも軌道面10daから離れている。
【0039】
第1位置と第2位置との間における窒素濃度勾配は、0.12質量パーセント/mm以上1.1質量パーセント/mm以下であることが好ましい。第1位置と第2位置との間における窒素濃度勾配は、第1位置における鋼中の窒素濃度から第2位置における鋼中の窒素濃度を減じた値を深さ方向における第1位置と第2位置との間の距離で除することにより算出される。鋼中の窒素濃度は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて測定される。
【0040】
内輪10を構成している鋼中の残留オーステナイト量は、23体積パーセント以上40体積パーセント以下であることが好ましい。鋼中の残留オーステナイト量は、X線回折法により測定される。すなわち、鋼中の残留オーステナイト量は、X線プロファイルにおけるオーステナイトのピーク強度を鋼中のオーステナイト以外のピーク強度の和で除することにより求められる。
【0041】
内輪10を構成している鋼の硬さは、内輪10のいずれの位置においても、59HRC以上65HRC以下であることが好ましい。すなわち、内輪10を構成している鋼は、完全に焼入れされている(不完全焼入れが生じている箇所が存在しない)ことが好ましい。
【0042】
外輪20及び円錐ころ30は、焼入れ及び焼戻しの行われた鋼製である。外輪20及び円錐ころ30を構成している鋼の組成は、内輪10を構成している鋼の組成と同一であってもよく、内輪10を構成している鋼の組成と異なっていてもよい。外輪20及び円錐ころ30を構成している鋼に対しては、内輪10を構成している鋼と同様の浸窒が行われていてもよく、浸窒が行われていなくてもよい。
【0043】
軸受空間(外径面10dと内径面20cとの間の空間)には、潤滑油が供給されていてもよい。潤滑油中の異物量は、0.35g/L以下であることが好ましい。
【0044】
(円錐ころ軸受100の製造方法)
以下に、円錐ころ軸受100の製造方法を説明する。
【0045】
図4は、円錐ころ軸受100の製造方法を示す工程図である。図4に示されているように、円錐ころ軸受100の製造方法は、準備工程S1と、浸窒工程S2と、焼入れ工程S3と、焼戻し工程S4と、後処理工程S5と、組み立て工程S6とを有している。
【0046】
準備工程S1では、加工対象部材が準備される。内輪10及び外輪20のための加工対象部材は、リング状の部材である。円錐ころ30のための加工対象部材は、円錐台状の部材である。加工対象部材は、表1に示され、かつシリコン濃度をマンガン濃度で除した値が0.51未満である組成の鋼で形成されている。
【0047】
浸窒工程S2は、準備工程S1の後に行われる。浸窒工程S2では、加工対象部材の表面に対する浸窒が行われる。浸窒工程S2では、窒素源(例えば、アンモニアガス)を含む雰囲気下で加工対象部材をA変態点以上の温度に保持することにより行われる。これにより、加工対象部材の表面から窒素が導入されるとともに、導入された窒素が加工対象部材の内部に拡散する。
【0048】
焼入れ工程S3は、浸窒工程S2の後に行われる。焼入れ工程S3は、加熱保持工程と冷却工程とを有している。加熱保持工程は、加工対象部材をA変態点以上の温度に保持することにより行われる。冷却工程は、加熱保持工程の後に行われる。冷却工程は、加工対象部材をM変態点以下の温度に冷却することにより行われる。焼戻し工程S4は、焼入れ工程S3の後に行われる。焼戻し工程S4は、加工対象部材をA1変態点未満の温度で保持した後に放冷することにより行われる。
【0049】
後処理工程S5は、焼戻し工程S4の後に行われる。後処理工程S5では、加工対象部材に対する研削及び研磨が行われる。これにより、加工対象部材が内輪10、外輪20及び円錐ころ30となる。組み立て工程S6は、後処理工程S5の後に行われる。組み立て工程S6では、内輪10、外輪20及び円錐ころ30が、保持器40とともに組み立てられる。以上により、図1から図3に示される構造の円錐ころ軸受100が形成される。
【0050】
(円錐ころ軸受100の効果)
以下に、円錐ころ軸受100の効果を説明する。
【0051】
円錐ころ軸受100では、内輪10が表1に示されており、かつシリコン濃度をマンガン濃度で除した値が0.51未満となる組成の鋼で形成されているため、鋼の焼入れ性が高く、肉厚Tが大きくても不完全焼入れを起こさないようにすることができる。このことを別の観点から言えば、円錐ころ軸受100では、内輪10の内部においても内輪10を構成している鋼の硬さが大きい。内輪10の内部においても内輪10を構成している鋼の硬さが大きい場合、応力集中しやすい第1ヌスミ部10dd及び第2ヌスミ部10deにおいて亀裂が進展しやすくなることがある。
【0052】
深さD1が大きくなるほど、第1ヌスミ部10ddにおける内輪10の肉厚が小さくなる。曲率半径R1が小さくなるほど、第1ヌスミ部10ddにおいて応力集中が生じやすくなる。円錐ころ軸受100では、深さD1を曲率半径R1により除した値が0.10以上1.00以下であるため、第1ヌスミ部10ddにおける内輪10の肉厚が確保されているとともに、第1ヌスミ部10ddにおいて応力集中が抑制されている。
【0053】
幅W1が大きくなるほど、肉厚が小さくなっている内輪10の部分の幅が大きくなる。外径Dが大きいほど、円錐ころ軸受100の負荷容量が大きくなり、第1ヌスミ部10ddに加わる力が大きくなる。円錐ころ軸受100では、幅W1を外径Dにより除した値が0.01以上0.70以下であるため、第1ヌスミ部10ddに加わる力と比較して、肉厚が小さくなっている内輪10の部分の幅が小さい。
【0054】
曲率半径R2が大きくなるほど、第2ヌスミ部10deにおいて応力集中が生じやすくなる。外径Dが大きくなるほど、第2鍔部10dcに加わる力が大きくなる。円錐ころ軸受100では、曲率半径R2を外径Dにより除した値が0.02以上1.20以下であるため、第2鍔部10dcに加わる力による応力集中の影響が第2ヌスミ部10deにおいて緩和されている。
【0055】
深さD2が大きくなるほど、第2ヌスミ部10deにおける内輪10の肉厚が小さくなる。円錐ころ軸受100では、深さD2を外径Dにより除した値が0.001以上0.080以下であるため、第2鍔部10dcに加わる力に応じて第1ヌスミ部10ddにおける内輪10の肉厚が確保されている。
【0056】
以上のように、円錐ころ軸受100では、深さD1、深さD2、曲率半径R1、曲率半径R2及び外径Dに関して上記のような関係性が満たされているため、内輪10の内部において内輪10を構成している鋼の硬さが大きくなっていても、第1ヌスミ部10dd及び第2ヌスミ部10deにおける亀裂の進展が抑制されている。
【0057】
第1ヌスミ部10dd及び第2ヌスミ部10deは、例えば、砥石を用いた研削加工により形成される。0.10≦深さD1÷曲率半径R1≦1.00との関係、0.02≦曲率半径R2÷外径Dとの関係及び0.001≦深さD2÷外径D≦0.080との関係が満たされていない場合、砥石を用いて第1ヌスミ部10dd及び第2ヌスミ部10deを形成することが困難となる。そのため、これらの関係が満たされることにより、内輪10の加工性を確保することができる。
【0058】
軌道面10da近傍における窒素濃度を増加させて鋼中の残留オーステナイト量を増加させることにより異物噛み込みに起因した圧痕起点型の剥離を抑制しようとする場合、粘りが強い残留オーステナイト量の増加及び析出物の増加により、研削加工を行う際の抵抗が大きくなり、後処理工程S5における加工コストが増加してしまう。
【0059】
円錐ころ軸受100では、軌道面10daから第1位置までの間における平均窒素濃度が0.16質量パーセント以下になっているため、加工対象部材の表面における窒素濃度も低くなっており、加工対象部材の表面における残留オーステナイト量及び析出物の量も少なくなる。そのため、円錐ころ軸受100によると、内輪10を形成する際の加工性を改善することができる。
【0060】
また、内輪10では、第1位置から第2位置までの間における窒素濃度勾配が小さいため、窒素が導入されている領域の深さが確保されている。そのため、円錐ころ軸受100では、軌道面10daから第1位置までの間における平均窒素濃度が低くなっているものの、例えば潤滑油中の異物量が0.35g/L以下となる潤滑環境下で、軌道面10daにおける耐久性(例えば、異物噛み込みによる圧痕起点型に対する耐久性)を確保することができる。
【0061】
なお、円錐ころ軸受100では、軌道面10daから第1位置までの間における平均窒素濃度が0.16質量パーセント以下になっており、浸窒工程S2に要する時間を短縮することができるため、熱処理に要するコストを低減可能である。
【0062】
以上のように本発明の実施形態について説明を行ったが、上記の実施形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は、上記の実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むことが意図される。
【符号の説明】
【0063】
100 円錐ころ軸受、10 内輪、A 中心軸、10a 第1幅面、10b 第2幅面、10c 内径面、10d 外径面、10da 軌道面、10db 第1鍔部、10dc 第2鍔部、10dd 第1ヌスミ部、10de 第2ヌスミ部、10df 鍔面、20 外輪、20a 第1幅面、20b 第2幅面、20c 内径面、20ca 軌道面、20d 外径面、30 円錐ころ、30a 第1端面、30b 第2端面、30c 外周面、40 保持器、D 外径、D1,D2 深さ、R1,R2 曲率半径、S1 準備工程、S2 浸窒工程、S3 焼入れ工程、S4 焼戻し工程、S5 後処理工程、S6 組み立て工程、T 肉厚、W1 幅。
図1
図2
図3
図4