IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-玉軸受 図1
  • 特開-玉軸受 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016667
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】玉軸受
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240131BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20240131BHJP
   F16C 33/62 20060101ALI20240131BHJP
   C22C 38/44 20060101ALI20240131BHJP
   C21D 1/06 20060101ALN20240131BHJP
   C21D 9/40 20060101ALN20240131BHJP
【FI】
C22C38/00 301N
F16C19/06
F16C33/62
C22C38/44
C21D1/06 A
C21D9/40 A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118960
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川井 崇
(72)【発明者】
【氏名】大木 力
【テーマコード(参考)】
3J701
4K042
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA10
3J701BA70
3J701DA02
3J701DA03
3J701EA03
3J701EA10
3J701FA44
3J701XE12
3J701XE13
3J701XE16
3J701XE19
3J701XE30
4K042AA22
4K042BA05
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA10
4K042DA01
4K042DA02
4K042DA06
4K042DC02
4K042DC04
4K042DE03
(57)【要約】
【課題】軸受部品の加工性を改善可能な玉軸受を提供する。
【解決手段】玉軸受は、内輪と、外輪と、玉とを備える。内輪、外輪及び玉のうちの少なくとも1つの軸受部品は、接触面を有する。軸受部品は、浸窒、焼入れ及び焼戻しが行われた鋼製である。鋼は、0.90質量パーセント以上1.20質量パーセント以下の炭素と、0.35質量パーセント以上0.80質量パーセント以下のシリコンと、0.80質量パーセント以上1.20質量パーセント以下のマンガンと、0.30質量パーセント未満のニッケルと、0.80質量パーセント以上1.30質量パーセント以下のクロムと、0.10質量パーセント未満のモリブデンと、残部をなす鉄及び不可避不純物とを含有している。鋼中のシリコン濃度を鋼中のマンガン濃度で除した値は、0.51未満になっている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、
外輪と、
玉とを備え、
前記内輪、前記外輪及び前記玉のうちの少なくとも1つの軸受部品は、接触面を有し、
前記軸受部品は、浸窒、焼入れ及び焼戻しが行われた鋼製であり、
前記鋼は、0.90質量パーセント以上1.20質量パーセント以下の炭素と、0.35質量パーセント以上0.80質量パーセント以下のシリコンと、0.80質量パーセント以上1.20質量パーセント以下のマンガンと、0.30質量パーセント未満のニッケルと、0.80質量パーセント以上1.30質量パーセント以下のクロムと、0.10質量パーセント未満のモリブデンと、残部をなす鉄及び不可避不純物とを含有しており、
前記鋼中のシリコン濃度を前記鋼中のマンガン濃度で除した値は、0.51未満になっており、
前記鋼には、前記接触面から離れるにつれて窒素濃度が小さくなるように窒素が導入されており、
前記接触面と深さ方向における前記接触面からの距離が10μmとなる第1位置と間での前記鋼中の平均窒素濃度は、0.16質量パーセント以下になっており、
前記深さ方向において前記第1位置よりも前記軌道面から離れている第2位置は、前記鋼中の窒素濃度が0.01質量パーセント以下になっており、かつ前記深さ方向における前記第1位置との距離が最小となる位置であり、
前記第1位置と前記第2位置との間での窒素濃度勾配は、0.12質量パーセント/mm以上1.1質量パーセント/mm以下である、玉軸受。
【請求項2】
前記軸受部品の肉厚は、30mm以下である、請求項1に記載の玉軸受。
【請求項3】
前記軸受部品において、前記鋼中の残留オーステナイト量は、23体積パーセント以上40体積パーセント以下である、請求項1又は請求項2に記載の玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特開2001-3139号(特許文献1)には、転がり軸受(円錐ころ軸受)が記載されている。特許文献1に記載の転がり軸受は、内輪と、外輪と、複数の転動体(円錐ころ)とを有している。内輪は、接触面として、転動体に接触する内輪軌道面を有している。外輪は、接触面として、転動体に接触する外輪軌道面を有している。転動体は、接触面として、内輪軌道面及び外輪軌道面に接触する外周面を有している。特許文献1に記載の転がり軸受では、内輪、外輪及び転動体の接触面に浸窒が行われている。特許文献1に記載の転がり軸受では、内輪、外輪及び転動体の接触面近傍の表層部における鋼中の残留オーステナイト量が20体積パーセント以上40体積パーセント以下となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-3139号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の転がり軸受の軸受部品(内輪、外輪及び転動体)は、浸窒処理、焼入れ及び焼戻しが行われた鋼製の加工対象部材に対して研削・研磨等の機械加工が行われることにより、形成される。しかしながら、特許文献1に記載の転がり軸受では、内輪、外輪及び転動体の接触面近傍の表層部における鋼中の窒素濃度及び窒素濃度の勾配に着眼されていない。その結果、特許文献1に記載の転がり軸受では、軸受部品に対する加工性に関して、改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みて行われたものである。より具体的には、本発明は、軸受部品の加工性を改善可能な玉軸受を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る玉軸受は、内輪と、外輪と、玉とを備えている。内輪、外輪及び玉のうちの少なくとも1つの軸受部品は、接触面を有する。軸受部品は、浸窒、焼入れ及び焼戻しが行われた鋼製である。鋼は、0.90質量パーセント以上1.20質量パーセント以下の炭素と、0.35質量パーセント以上0.80質量パーセント以下のシリコンと、0.80質量パーセント以上1.20質量パーセント以下のマンガンと、0.30質量パーセント未満のニッケルと、0.80質量パーセント以上1.30質量パーセント以下のクロムと、0.10質量パーセント未満のモリブデンと、残部をなす鉄及び不可避不純物とを含有している。鋼中のシリコン濃度を鋼中のマンガン濃度で除した値は、0.51未満になっている。鋼には、接触面から離れるにつれて窒素濃度が小さくなるように、窒素が導入されている。接触面と深さ方向における接触面からの距離が10μmとなる第1位置との間での鋼中の平均窒素濃度は、0.16質量パーセント以下になっている。深さ方向において第1位置よりも軌道面から離れている第2位置は、鋼中の窒素濃度が0.01質量パーセント以下になっており、かつ深さ方向における第1位置との距離が最小となる位置である。第1位置と第2位置との間での窒素濃度勾配は、0.12質量パーセント/mm以上1.1質量パーセント/mm以下である。
【0007】
上記の玉軸受では、軸受部品の肉厚が、30mm以下であってもよい。上記の玉軸受では、鋼中の残留オーステナイト量が、23体積パーセント以上40体積パーセント以下であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る玉軸受によると、軸受部品の加工性を改善可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】玉軸受100の断面図である。
図2】玉軸受100の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態の詳細を、図面を参照しながら説明する。以下の図面では、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さないものとする。実施形態に係る玉軸受を、玉軸受100とする。
【0011】
(玉軸受100の構成)
以下に、玉軸受100の構成を説明する。
【0012】
図1は、玉軸受100の断面図である。図1に示されるように、玉軸受100は、深溝玉軸受である。但し、玉軸受100は、深溝玉軸受に限られるものではなく、他の玉軸受であってもよい。玉軸受100は、例えば、自動車駆動ユニット(デファレンシャル、トランスミッション、EV(Electric Vehicle)用減速機、HEV(Hybrid Electric Vehicle)用減速機等)、産業機械用装置(ロボット用減速機、建設機械、トラクター等)に使用される玉軸受である。
【0013】
玉軸受100は、内輪10と、外輪20と、複数の玉30と、保持器40とを有している。内輪10の中心軸を、中心軸Aとする。中心軸Aの方向を、軸方向とする。中心軸Aを通り、かつ中心軸Aに直交する方向を、径方向とする。軸方向に沿って見た際に中心軸Aを中心とする円周に沿う方向を、周方向とする。
【0014】
内輪10は、リング状の部材である。内輪10は、第1幅面10aと、第2幅面10bと、内径面10cと、外径面10dとを有している。第1幅面10a及び第2幅面10bは、軸方向における内輪10の端面である。第1幅面10aは軸方向における一方側(図1中では、左側)を向いており、第2幅面10bは軸方向における他方側(図1中では、右側)を向いている。すなわち、第2幅面10bは、第1幅面10aの軸方向における反対面である。
【0015】
内径面10cは、周方向に延在している。内径面10cは、中心軸A側を向いている。すなわち、内径面10cは、径方向における内側を向いている。内径面10cの軸方向における一方端及び軸方向における他方端は、それぞれ、第1幅面10a及び第2幅面10bに連なっている。図示されていないが、内輪10は、内径面10cにおいて軸に嵌め合わされる。
【0016】
外径面10dは、周方向に延在している。外径面10dは、中心軸Aとは反対側を向いている。すなわち、外径面10dは、径方向における外側を向いており、径方向における内径面10cの反対面である。外径面10dの軸方向における一方端及び軸方向における他方端は、それぞれ、第1幅面10a及び第2幅面10bに連なっている。
【0017】
外径面10dは、軌道面10daを有している。軌道面10daは、玉30に接触する外径面10dの部分である。すなわち、軌道面10daは、内輪10の接触面である。外径面10dは、軌道面10daにおいて、内径面10c側に窪んでいる。軌道面10daは、周方向に直交する断面視において、例えば部分円弧状である。軌道面10daは、外径面10dの軸方向における中央部にある。
【0018】
外輪20は、リング状の部材である。外輪20は、第1幅面20aと、第2幅面20bと、内径面20cと、外径面20dとを有している。第1幅面20a及び第2幅面20bは、軸方向における外輪20の端面である。第1幅面20aは、軸方向における一方側を向いている。第2幅面20bは、軸方向における他方側を向いている。すなわち、第2幅面20bは、第1幅面20aの軸方向における反対面である。
【0019】
内径面20cは、周方向に延在している。内径面20cは、中心軸A側を向いている。すなわち、内径面20cは、径方向における内側を向いている。内径面20cの軸方向における一方端及び軸方向における他方端は、それぞれ、第1幅面20a及び第2幅面20bに連なっている。外輪20は、内径面20cが外径面10dと径方向において間隔を空けて対向するように配置されている。
【0020】
外径面20dは、周方向に延在している。外径面20dは、中心軸Aとは反対側を向いている。すなわち、外径面20dは、径方向における外側を向いており、径方向における内径面20cの反対面である。外径面20dの軸方向における一方端及び軸方向における他方端は、それぞれ、第1幅面20a及び第2幅面20bに連なっている。図示されていないが、外輪20は、外径面20dにおいてハウジングに嵌め合わされる。
【0021】
内径面20cは、軌道面20caを有している。軌道面20caは、玉30に接触する内径面20cの部分である。すなわち、軌道面20caは、外輪20の接触面である。内径面20cは、軌道面20caにおいて、外径面20d側に窪んでいる。軌道面20caは、周方向に直交する断面視において、例えば部分円弧状である。軌道面20caは、内径面20cの軸方向における中央部にある。軌道面20caは、径方向において、軌道面10daと間隔を空けて対向している。
【0022】
玉30は、球状である。玉30は、外径面10dと内径面20cとの間に配置されている。より具体的には、玉30は、軌道面10daと軌道面20caとの間に配置されている。複数の玉30は、周方向に並べられている。玉30は、表面30aを有している。表面30aは、軌道面10da及び軌道面20caに接触している。すなわち、表面30aは、玉30の接触面である。
【0023】
保持器40は、外径面10dと内径面20cとの間に配置されている。保持器40は、隣り合う2つの玉30の間の周方向における間隔が一定範囲内となるように、複数の玉30を保持している。
【0024】
内輪10の肉厚、外輪20の肉厚及び玉30の肉厚は、15mm以上であってもよい。内輪10の肉厚、外輪20の肉厚及び玉30の肉厚は、20mm以上であってもよい。内輪10の肉厚、外輪20の肉厚及び玉30の肉厚は、例えば、30mm以下である。内輪10の肉厚は、内輪10の外径と内径との差を2で除した値である。外輪20の肉厚は、外輪20の外径と内径との差を2で除した値である。玉30の肉厚は、玉30の直径である。玉軸受100では、ピッチ円径が、例えば15mm以上である。ピッチ円径は、径方向における中心軸Aと玉30の中心との間の距離の2倍である。
【0025】
内輪10、外輪20及び玉30は、浸窒、焼入れ及び焼戻しが行われた鋼製である。鋼は、表1に示されている組成を有している。より具体的には、鋼は、0.90質量パーセント以上1.20質量パーセント以下の炭素と、0.35質量パーセント以上0.80質量パーセント以下のシリコンと、0.80質量パーセント以上1.20質量パーセント以下のマンガンと、0.30質量パーセント未満のニッケルと、0.80質量パーセント以上1.30質量パーセント以下のクロムと、0.10質量パーセント未満のモリブデンとを含有している。鋼の残部は、鉄及び不可避不純物である。なお、鋼は、ニッケル及びモリブデンを含有していなくてもよい。
【0026】
【表1】
【0027】
鋼中では、シリコン濃度をマンガン濃度で除した値が0.51未満になっている。鋼中のシリコン濃度が低くなると、鉄の酸化物の形成が抑制され、耐水素脆性が改善される。鋼中のマンガン濃度が高くなると、焼入れ性が改善される。また、鋼中のマンガン濃度が高くなると、マンガンが硫黄と結合して硫化マンガンとなることにより硫黄が固定されるため、硫黄の粒界偏析が抑制され、鋼の強度低下が抑制される。さらに、鋼中のマンガン濃度が高くなると、鋼の延性-脆性繊維温度が低下して鋼の靭性が改善される。このような観点から、シリコン濃度をマンガン濃度で除した値が0.51未満とされている。
【0028】
内輪10、外輪20及び玉30には浸窒が行われているため、内輪10、外輪20及び玉30を構成している鋼には、接触面から離れるにつれて窒素濃度が低くなるように窒素が導入されている。
【0029】
内輪10、外輪20及び玉30の接触面からの深さ方向における距離が10μmとなる位置を、第1位置とする。接触面から第1位置までの間における鋼中の平均窒素濃度は、0.16質量パーセント以下である。深さ方向とは、接触面に直交している方向である。鋼中の窒素濃度が0.01質量パーセント以下となり、かつ深さ方向における第1位置との距離が最小となる位置を、第2位置とする。第2位置は、深さ方向において、第1位置よりも接触面から離れている。
【0030】
第1位置と第2位置との間における窒素濃度勾配は、0.12質量パーセント/mm以上1.1質量パーセント/mm以下である。第1位置と第2位置との間における窒素濃度勾配は、第1位置における鋼中の窒素濃度から第2位置における鋼中の窒素濃度を減じた値を深さ方向における第1位置と第2位置との間の距離で除することにより算出される。なお、鋼中の窒素濃度は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて測定される。
【0031】
内輪10、外輪20及び玉30を構成している鋼中の残留オーステナイト量は、23体積パーセント以上40体積パーセント以下であることが好ましい。鋼中の残留オーステナイト量は、X線回折法により測定される。すなわち、鋼中の残留オーステナイト量は、X線プロファイルにおけるオーステナイトのピーク強度を鋼中のオーステナイト以外のピーク強度の和で除することにより求められる。
【0032】
軸受空間(外径面10dと内径面20cとの間の空間)には、潤滑油が供給されていてもよい。潤滑油中の異物量は、0.35g/L以下であることが好ましい。
【0033】
<変形例>
上記においては、内輪10、外輪20及び玉30が表1に示されている組成の鋼製である場合を説明したが、内輪10、外輪20及び玉30のうちの少なくとも1つの軸受部品が表1に示されており、かつシリコン濃度をマンガン濃度で除した値が0.51未満の組成の鋼で形成されていればよく、内輪10、外輪20及び玉30のうちの他の軸受部品が表1に示されている組成以外の鋼で形成されていてもよい。
【0034】
表1に示されている組成以外の鋼で形成されている軸受部品では、接触面と第1位置との間における平均窒素濃度が0.16質量パーセント以下になっていなくてもよく、第1位置と第2位置との間における窒素濃度勾配が0.12質量パーセント/mm以上1.1質量パーセント/mm以下になっていなくてもよい。表1に示されている組成以外の鋼で形成されている軸受部品では、鋼中の残留オーステナイト量が23体積パーセント以上40体積パーセント以下になっていなくてもよい。
【0035】
(玉軸受100の製造方法)
以下に、玉軸受100の製造方法を説明する。
【0036】
図2は、玉軸受100の製造方法を示す工程図である。図2に示されるように、玉軸受100の製造方法は、準備工程S1と、浸窒工程S2と、焼入れ工程S3と、焼戻し工程S4と、後処理工程S5と、組み立て工程S6とを有している。
【0037】
準備工程S1では、加工対象部材が準備される。内輪10及び外輪20のための加工対象部材は、リング状の部材である。玉30のための加工対象部材は、球状の部材である。加工対象部材は、表1に示され、かつシリコン濃度をマンガン濃度で除した値が0.51未満である組成の鋼で形成されている。
【0038】
浸窒工程S2は、準備工程S1の後に行われる。浸窒工程S2では、加工対象部材の表面に対する浸窒が行われる。浸窒工程S2では、窒素源(例えば、アンモニアガス)を含む雰囲気下で加工対象部材をA変態点以上の温度に保持することにより行われる。これにより、加工対象部材の表面から窒素が導入されるとともに、導入された窒素が加工対象部材の内部に拡散する。窒素濃度勾配にコントロールするためには、雰囲気ガスを循環させる装置を炉内に設置することにより、雰囲気ガス中のアンモニアガスの割合をコントロールするとともにアンモニアガスを炉内に満遍なく均一に充満させることが好ましい。
【0039】
焼入れ工程S3は、浸窒工程S2の後に行われる。焼入れ工程S3は、加熱保持工程と冷却工程とを有している。加熱保持工程は、加工対象部材をA変態点以上の温度に保持することにより行われる。冷却工程は、加熱保持工程の後に行われる。冷却工程は、加工対象部材をM変態点以下の温度に冷却することにより行われる。焼戻し工程S4は、焼入れ工程S3の後に行われる。焼戻し工程S4は、加工対象部材をA変態点未満の温度で保持した後に放冷することにより行われる。
【0040】
後処理工程S5は、焼戻し工程S4の後に行われる。後処理工程S5では、加工対象部材に対する研削及び研磨が行われる。これにより、加工対象部材が内輪10、外輪20及び玉30となる。組み立て工程S6は、後処理工程S5の後に行われる。組み立て工程S6では、内輪10、外輪20及び玉30が、保持器40とともに組み立てられる。以上により、図1に示される構造の玉軸受100が形成される。
【0041】
(玉軸受100の効果)
以下に、玉軸受100の効果を説明する。
【0042】
接触面近傍における窒素濃度を増加させて鋼中の残留オーステナイト量を増加させることにより異物噛み込みに起因した圧痕起点型の剥離を抑制しようとする場合、粘りが強い残留オーステナイト量の増加及び析出物の増加により、研削加工を行う際の抵抗が大きくなってしまう。その結果、後処理工程S5における加工コストが増加してしまう。
【0043】
玉軸受100の内輪10、外輪20及び玉30では、接触面から第1位置までの間における平均窒素濃度が0.16質量パーセント以下になっているため、加工対象部材の表面における窒素濃度も低くなっており、加工対象部材の表面における残留オーステナイト量及び析出物の量も少なくなる。そのため、玉軸受100によると、内輪10、外輪20及び玉30を形成する際の加工性を改善することができる。
【0044】
また、玉軸受100の内輪10、外輪20及び玉30では、第1位置から第2位置までの間における窒素濃度勾配が小さいため、窒素が導入されている領域の深さが確保されている。そのため、玉軸受100では、接触面から第1位置までの間における平均窒素濃度が低くなっているものの、例えば潤滑油中の異物量が0.35g/L以下となる潤滑環境下で、接触面における耐久性(例えば、異物噛み込みによる圧痕起点型の剥離に対する耐久性)を確保することができる。
【0045】
なお、玉軸受100の内輪10、外輪20及び玉30では、接触面から第1位置までの間における平均窒素濃度が0.16質量パーセント以下になっており、浸窒工程S2に要する時間を短縮することができるため、熱処理に要するコストを低減可能である。
【0046】
例えばEV用の減速機では、平行3軸の構造になっていることが多いため、軸方向における玉軸受100の寸法に制限がある一方で径方向における玉軸受100の寸法(内輪10、外輪20及び玉30の肉厚)を大きくして玉軸受100の負荷容量を高めることが求められる。玉軸受100では、内輪10、外輪20及び玉30が表1に示されており、かつシリコン濃度をマンガン濃度で除した値が0.51未満となる組成の鋼で形成されているため、鋼の焼入れ性が高く、内輪10、外輪20及び玉30の肉厚が大きくても不完全焼入れを起こさないようにすることができる。
【0047】
玉30は、表1に示される組成以外の鋼、例えばJIS規格に定められている高炭素クロム軸受鋼であるSUJ2製であってもよい。玉30に対しては、上記のような焼入れ・焼戻しではなく、窒素源を含まない雰囲気中での普通焼入れ・焼戻しが行われてもよい。玉30の肉厚は通常サイズであってもよく、内輪10及び外輪20の肉厚のみを大きくしてもよい。玉30は、セラミックス材料製であってもよい。
【0048】
以上のように本発明の実施形態について説明を行ったが、上記の実施形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は、上記の実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むことが意図される。
【符号の説明】
【0049】
A 中心軸、100 玉軸受、10 内輪、10a 第1幅面、10b 第2幅面、10c 内径面、10d 外径面、10da 軌道面、20 外輪、20a 第1幅面、20b 第2幅面、20c 内径面、20ca 軌道面、20d 外径面、30 玉、30a 表面、40 保持器、S1 準備工程、S2 浸窒工程、S3 焼入れ工程、S4 焼戻し工程、S5 後処理工程、S6 組み立て工程。
図1
図2