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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166673
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】電動ローラ
(51)【国際特許分類】
   E01C 19/28 20060101AFI20241122BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20241122BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20241122BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
E01C19/28
B60L9/18 P
B60L50/60
B60L15/20 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082915
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000182384
【氏名又は名称】酒井重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】516261667
【氏名又は名称】アールアンドスポーツディベロップメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】伏見 哲行
(72)【発明者】
【氏名】小池 房義
(72)【発明者】
【氏名】吉田 悠一郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 義則
(72)【発明者】
【氏名】久我口 学
【テーマコード(参考)】
2D052
5H125
【Fターム(参考)】
2D052AD04
2D052AD16
2D052BB01
2D052CA04
5H125AA12
5H125AB06
5H125AC12
5H125BA00
5H125BB07
5H125CA01
5H125DD01
5H125DD06
5H125DD14
5H125DD18
5H125DD19
5H125EE41
5H125EE58
5H125EE62
(57)【要約】
【課題】傾斜地において発進又は停車する際に車両を好適に制御することができ、速度制御を容易に行うことができるとともに、脱炭素社会への貢献、作業環境の改善及びメンテナンス性の向上を図ることができる電動ローラを提供する。
【解決手段】電動ローラは、一対の転圧輪と、車体フレームと、転圧輪用電動モータと、前記転圧輪用電動モータの回転数を制御する転圧輪用インバータと、電力を供給するバッテリと、前後進レバーの傾きに応じて転圧輪用インバータに駆動指示値を送信する制御部と、車両の傾きを検知する車両傾斜センサと、を有し、内燃機関を備えておらず、転圧輪の動力源をバッテリのみとし、制御部は、車両傾斜センサの検知角度及び傾斜方向に基づいて導出された補正済駆動指示値を前記駆動指示値に替えて前記転圧輪用インバータに送信する傾斜補正部を有することを特徴とする。
【選択図】図33
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後にそれぞれ設置された一対の転圧輪と、
前記転圧輪を回転可能に支持する車体フレームと、
前記転圧輪を駆動させる転圧輪用電動モータと、
前記転圧輪用電動モータの回転数を制御する転圧輪用インバータと、
前記転圧輪用電動モータ及び前記転圧輪用インバータに電力を供給するバッテリと、
前後進レバーの傾きに応じて前記転圧輪用インバータに駆動指示値を送信する制御部と、
車両の傾きを検知する車両傾斜センサと、を有し、
内燃機関を備えておらず、前記転圧輪の動力源を前記バッテリのみとし、
前記制御部は、前記車両傾斜センサの検知角度及び傾斜方向に基づいて導出された補正済駆動指示値を前記駆動指示値に替えて前記転圧輪用インバータに送信する傾斜補正部を有することを特徴とする電動ローラ。
【請求項2】
前記傾斜補正部は、発進時において、
前記車両傾斜センサが前記車両の後部が下側に傾斜し、かつ、前記前後進レバーが前進方向に傾倒したことを検知した場合、
前記補正済駆動指示値が前記駆動指示値よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項1に記載の電動ローラ。
【請求項3】
前記傾斜補正部は、発進時において、
前記車両傾斜センサが前記車両の前部が下側に傾斜し、かつ、前記前後進レバーが後進方向に傾倒したことを検知した場合、
前記補正済駆動指示値が前記駆動指示値よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項1に記載の電動ローラ。
【請求項4】
前記傾斜補正部は、発進時において、
前記車両傾斜センサが前記車両の後部が下側に傾斜し、かつ、前記前後進レバーが後進方向に傾倒したことを検知した場合、
前記補正済駆動指示値が前記駆動指示値よりも小さく設定されていることを特徴とする請求項1に記載の電動ローラ。
【請求項5】
前記傾斜補正部は、発進時において、
前記車両傾斜センサが前記車両の前部が下側に傾斜し、かつ、前記前後進レバーが前進方向に傾倒したことを検知した場合、
前記補正済駆動指示値が前記駆動指示値よりも小さく設定されていることを特徴とする請求項1に記載の電動ローラ。
【請求項6】
前記傾斜補正部は、走行中から停車する時において、
前記車両傾斜センサが前記車両の後部が下側に傾斜し、かつ、前記前後進レバーが後進位置から中立位置に戻ることを検知した場合、
停車時に前記車両が下がるのを抑制するために、所定の時間において前進方向の補正済駆動指示値を出力することを特徴とする請求項1に記載の電動ローラ。
【請求項7】
前記傾斜補正部は、走行中から停車する時において、
前記車両傾斜センサが前記車両の前部が下側に傾斜し、かつ、前記前後進レバーが前進位置から中立位置に戻ることを検知した場合、
停車時に前記車両が下がるのを抑制するために、所定の時間において後進方向の補正済駆動指示値を出力することを特徴とする請求項1に記載の電動ローラ。
【請求項8】
前記傾斜補正部は、走行中から停車する時において、
前記車両傾斜センサが前記車両の後部が下側に傾斜し、かつ、前記前後進レバーが後進位置から中立位置に戻ることを検知した場合、若しくは、
前記車両傾斜センサが前記車両の前部が下側に傾斜し、かつ、前記前後進レバーが前進位置から中立位置に戻ることを検知した場合、
停車した後に前記車両が下がるのを抑制するために、前記転圧輪用電動モータが0回転保持をするように補正済駆動指示値を出力することを特徴とする請求項1に記載の電動ローラ。
【請求項9】
制御部は、
少なくとも前記検知角度、前記傾斜方向、前記前後進レバーの傾倒角度、前記前後進レバーの傾き方向、前記車両の質量及び前記転圧輪用電動モータの性能に基づいて前記補正済駆動指示値が予め設定された補正済駆動指示値ファイルが記憶された記憶部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の電動ローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、路面の締め固めを行う転圧車両(転圧ローラ)が開示されている。従来の転圧ローラは、一対の転圧輪と、車体フレームと、エンジンと、油圧ポンプと、走行用油圧モータと、を備えている。従来の転圧ローラは、エンジンにより油圧ポンプを駆動させ、その油圧によって走行用油圧モータを回転させて走行している。また、前後進レバーの入力量に応じて油の吐出力を調整することで、車両が加速、減速又は停止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-149784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量ゼロを目指す脱炭素社会に向けた取り組みが世界的に行われている。しかし、従来の転圧ローラでは、エンジンを使用するため、化石燃料が消費され、CO等の温室効果ガスも排出される。また、エンジンを使用することで騒音や排熱が大きくなるため、例えば、トンネル等の閉所でのオペレーターへの負担が増大するとともに、施工現場の作業環境(人、構造物、樹木等)へ与える悪影響も大きくなる。さらに、従来の転圧ローラでは、作動油漏れが発生したり、作動油の交換頻度が増加したりなどメンテナンス性が悪いという問題がある。
【0005】
また、転圧ローラを電動化する研究が行われている。仮に、電動モータ(誘導モータ)及び当該電動モータに回転数を指示するインバータを用いて走行を制御する場合、傾斜地で車両の発進又は停車を行う際、平坦地と同じ駆動指示値であると車重を支えきれないため、下り方向に車両が一定時間下がるおそれがある。
また、同様に傾斜地で車両を発進させる際、平坦地と同じ指示値であると車重がある分、平坦地と比べて下り方向に車両が勢いよく発進してしまうおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、傾斜地において発進又は停車する際に車両を好適に制御することができ、速度制御を容易に行うことができるとともに、脱炭素社会への貢献、作業環境の改善及びメンテナンス性の向上を図ることができる電動ローラを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電動ローラは、前後にそれぞれ設置された一対の転圧輪と、前記転圧輪を回転可能に支持する車体フレームと、前記転圧輪を駆動させる転圧輪用電動モータと、前記転圧輪用電動モータの回転数を制御する転圧輪用インバータと、前記転圧輪用電動モータ及び前記転圧輪用インバータに電力を供給するバッテリと、前後進レバーの傾きに応じて前記転圧輪用インバータに駆動指示値を送信する制御部と、車両の傾きを検知する車両傾斜センサと、を有し、内燃機関を備えておらず、前記転圧輪の動力源を前記バッテリのみとし、前記制御部は、前記車両傾斜センサの検知角度及び傾斜方向に基づいて導出された補正済駆動指示値を前記駆動指示値に替えて前記転圧輪用インバータに送信する傾斜補正部を有することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、電動化により燃料の消費量及び温室効果ガスの排出量を実質的に無くすことができる。また、電動化により騒音を小さくすることができるとともに温室効果ガスの排出を実質的に無くすことができるため、オペレーターへの負担を軽減するとともに、作業環境の改善を図ることができる。また、作動油の交換等が不要になりメンテナンス性に優れる。また、転圧輪用インバータを備えることで速度制御を容易に行うことができる。
また、本発明によれば、傾斜補正部を備えているため、傾斜地において発進又は停車する際に車両を好適に制御することができる。
【0009】
また、前記傾斜補正部は、発進時において、前記車両傾斜センサが前記車両の後部が下側に傾斜し、かつ、前記前後進レバーが前進方向に傾倒したことを検知した場合、前記補正済駆動指示値が前記駆動指示値よりも大きく設定されていることが好ましい。
また、前記傾斜補正部は、発進時において、前記車両傾斜センサが前記車両の前部が下側に傾斜し、かつ、前記前後進レバーが後進方向に傾倒したことを検知した場合、前記補正済駆動指示値が前記駆動指示値よりも大きく設定されていることが好ましい。
【0010】
本発明によれば、発進時において車両が下がるのを防ぐことができる。
【0011】
また、前記傾斜補正部は、発進時において、前記車両傾斜センサが前記車両の後部が下側に傾斜し、かつ、前記前後進レバーが後進方向に傾倒したことを検知した場合、前記補正済駆動指示値が前記駆動指示値よりも小さく設定されていることが好ましい。
また、前記傾斜補正部は、発進時において、前記車両傾斜センサが前記車両の前部が下側に傾斜し、かつ、前記前後進レバーが前進方向に傾倒したことを検知した場合、前記補正済駆動指示値が前記駆動指示値よりも小さく設定されていることが好ましい。
【0012】
本発明によれば、平坦地と比べて車両が勢いよく発進するのを抑制することができる。
【0013】
また、前記傾斜補正部は、走行中から停車する時において、前記車両傾斜センサが前記車両の後部が下側に傾斜し、かつ、前記前後進レバーが後進位置から中立位置に戻ることを検知した場合、停車時に前記車両が下がるのを抑制するために、所定の時間において前進方向の補正済駆動指示値を出力することが好ましい。
また、前記傾斜補正部は、走行中から停車する時において、前記車両傾斜センサが前記車両の前部が下側に傾斜し、かつ、前記前後進レバーが前進位置から中立位置に戻ることを検知した場合、停車時に前記車両が下がるのを抑制するために、所定の時間において後進方向の補正済駆動指示値を出力することが好ましい。
また、前記傾斜補正部は、走行中から停車する時において、前記車両傾斜センサが前記車両の後部が下側に傾斜し、かつ、前記前後進レバーが後進位置から中立位置に戻ることを検知した場合、若しくは、前記車両傾斜センサが前記車両の前部が下側に傾斜し、かつ、前記前後進レバーが前進位置から中立位置に戻ることを検知した場合、停車した後に前記車両が下がるのを抑制するために、前記転圧輪用電動モータが0回転保持をするように補正済駆動指示値を出力することが好ましい。
【0014】
本発明によれば、停止時において平坦地と比べて車両が下がってしまうのを防ぐことができる。
【0015】
また、制御部は、少なくとも前記検知角度、前記傾斜方向、前記前後進レバーの傾倒角度、前記前後進レバーの傾き方向、前記車両の質量及び前記転圧輪用電動モータの性能に基づいて前記補正済駆動指示値が予め設定された補正済駆動指示値ファイルが記憶された記憶部を備えていることが好ましい。
【0016】
本発明によれば、傾斜地において発進又は停車する際に車両をより好適に制御することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、傾斜地において発進又は停車する際に車両を好適に制御することができ、速度制御を容易に行うことができるとともに、脱炭素社会への貢献、作業環境の改善及びメンテナンス性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第一実施形態に係る電動ローラの側面図である。
図2】第一実施形態に係る電動ローラの平面図である。
図3】第一実施形態に係る電動ローラの背面図である。
図4】第一実施形態に係る電動ローラの構成を示すブロック図である。
図5】第一実施形態に係る電動ローラの動作概略図である。
図6】第一実施形態に係る電動ローラの電源系及び制御系を示すブロック図である。
図7】第一実施形態に係る電動ローラのダッシュボードを示す背面図である。
図8】第一実施形態に係る電動ローラのダッシュボードを示す側面図である。
図9】第一実施形態に係る電動ローラにおいて、前進時のブレーキペダルを示す側面図である。
図10】第一実施形態に係る電動ローラにおいて、ブレーキペダルを踏み込んだ時を示す側面図である。
図11】第一実施形態に係る電動ローラの一部透過側面図である。
図12】第一実施形態に係る電動ローラの一部透過平面図である。
図13】第一実施形態に係る電動ローラの前輪を示す断面図である。
図14】第一実施形態に係る電動ローラの第一ギヤボックスを示す平面図である。
図15図14のXV-XV断面図である。
図16図14のXVI-XVI断面図である。
図17】第一実施形態に係る電動ローラの後輪周りを示す断面図である。
図18図17のXVIII-XVIII断面図である。
図19】第一実施形態に係る電動ローラのステアリングシステムを示す側面図である。
図20】第一実施形態に係る電動ローラのステアリングシステムを示す平面図である。
図21】始動時において、比較例の時間と回転数との関係を示すグラフである。
図22】停止時において、比較例の時間と回転数との関係を示すグラフである。
図23】比較例及び実施例の転圧輪用電動モータの駆動指示値を、時間と回転数との関係で示すグラフである。
図24】始動時において、実施例の時間と回転数との関係を示すグラフである。
図25】停止時において、実施例の時間と回転数との関係を示すグラフである。
図26】変形例の転圧輪用電動モータの駆動指示値を、時間と回転数との関係で示すグラフである。
図27】第四実施形態に係る電動ローラの前輪を示す断面図である。
図28】第四実施形態に係る電動ローラの構成を示すブロック図である。
図29】第四実施形態に係る電動ローラのダッシュボードの上面を示す平面図である。
図30】第四実施形態に係る電動ローラの制御部のブロック図である。
図31】第四実施形態に係る電動ローラの傾斜管理部のフロー図である。
図32】第五実施形態に係る電動ローラの傾斜補正部のブロック図である。
図33】第五実施形態に係る電動ローラの傾斜補正部の発進時をまとめた表である。
図34】第五実施形態に係る電動ローラの傾斜補正部の発進時のフロー図である。
図35】第五実施形態に係る電動ローラの傾斜補正部の停車時をまとめた表である。
図36】第五実施形態に係る電動ローラの傾斜補正部の停車時のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第一実施形態]
本発明の電動ローラについて、図面を参照して詳細に説明する。以下に記載する実施形態、変形例等は、あくまで例示であって、各実施形態、変形例を適宜組み合わせて使用することができる。図面に示す、上下、左右、前後は電動ローラの進行方向に従う。
【0020】
<全体概略構成>
図1~4に示すように、電動ローラ1は、前輪R1と、後輪R2と、車体フレーム2と、電動モータM(M1~M4)と、インバータJ(J1~J4)と、バッテリK(K1~K3)と、制御部3と、を主に備えている。
【0021】
前輪R1は、車体フレーム2の前部に設けられた一対の前輪用サイドプレートSP1,SP2に回転可能に支持されている。前輪R1は、路面を転圧する転圧輪であって、本実施形態では一体の鉄輪で構成されている。前輪R1は、複数のタイヤで構成されていてもよいし、複数の鉄輪で構成されていてもよい。
【0022】
後輪R2は、車体フレーム2の後部に回転可能に支持されている。後輪R2は、路面を転圧する転圧輪であって、本実施形態では4つのタイヤ(R2A,R2B,R2C,R2D)で構成されている。後輪R2は、単数又は複数の鉄輪で構成されていてもよい。
【0023】
車体フレーム2は、前輪R1及び後輪R2を回転可能に支持する車体である。車体フレーム2は、前部フレーム11と、後部フレーム12と、運転席13と、ダッシュボード14とを備えている。前部フレーム11は、前部に前輪用サイドプレートSP1,SP2が固定されている。前部フレーム11の内部には、インバータJ及びバッテリKを収容する前部スペース15が形成されている。後部フレーム12は、運転席13,ダッシュボード14を備えるとともに、内部に電動モータM、インバータJ、ギヤボックス等を収容する後部スペース16が形成されている。後部スペース16は、運転席13の足元の下方に形成された第一後部スペース16aと、運転席13の下方に形成された第二後部スペース16bと、を備えている。前部フレーム11と、後部フレーム12とは鉛直方向に平行な関節ピンを介して連結されている。本実施形態の電動ローラ1はアーティキュレート式であるが、リジッド式であってもよい。
【0024】
図4に示すように、前輪用電動モータM1は、前輪R1を駆動させる電動モータである。前輪用電動モータM1は、制御部3から前輪用インバータJ1に入力される駆動指示値に応じて駆動する。
後輪右用電動モータM2は、後輪R2を駆動させる電動モータである。後輪右用電動モータM2は、制御部3から後輪右用インバータJ2に入力される駆動指示値に応じて駆動する。
【0025】
後輪左用電動モータM3は、後輪R2を駆動させる電動モータである。後輪左用電動モータM3は、制御部3から後輪左用インバータJ3に入力される駆動指示値に応じて駆動する。
なお、前輪用電動モータM1、後輪右用電動モータM2及び後輪左用電動モータM3を総称して「転圧輪用電動モータ」と言う。
また、前輪用インバータJ1、後輪右用インバータJ2及び後輪左用インバータJ3を総称して「転圧輪用インバータ」と言う。
【0026】
図4に示すように、振動用電動モータM4は、起振軸130を駆動させる電動モータである。振動用電動モータM4は、制御部3から振動用インバータJ4に入力される駆動指示値に応じて駆動する。
【0027】
バッテリKは、図6に示すように、電動モータM及びインバータJ等の各部品に電力を供給する部品である。バッテリKは、本実施形態では、48VバッテリK1、24VバッテリK2、12VバッテリK3を備えており、前部スペース15に配置されたバッテリケースKA(図11参照)に収納されている。48VバッテリK1及び24VバッテリK2は、リチウムイオン二次電池である。12VバッテリK3は、鉛畜電池である。バッテリKは、本実施形態では電圧の異なるバッテリを三種類設けたが、何種類であってもよいし、単一の電圧で構成してもよい。バッテリ管理部71は、例えば、BMU(Battery Management Unit)を用いている。制御部3は、各部品を制御するコントローラである。制御部3は、例えば、VCU(Vehicle Control Unit)を用いている。バッテリK、バッテリ管理部71及び制御部3は、バッテリ情報を送信するためのCAN通信で連携可能になっている。
【0028】
図5に示すように、電動ローラ1は、オペレーターOPによる前後進レバー17の傾倒角度に応じ、制御部3がインバータJ(J1~J3)へ駆動指示値を出力する。各インバータJに入力された駆動指示値に応じて電動モータM(M1~M3)が回転することにより、前方又は後方に車両が走行する。従来は、ガソリン等の燃料を燃焼させて内燃機関(エンジン等)を用いて油圧ポンプを稼働させ、転圧輪を駆動させていたのに対し、本実施形態の電動ローラ1では、内燃機関を備えず、転圧輪の動力源をバッテリKのみとする点で相違する。また、従来は、車両の走行速度の加減速は、油圧制御によって調整していたのに対し、本実施形態の電動ローラ1では制御部3からインバータJへ出力される駆動指示値で制御する点で相違する。
【0029】
<走行システム>
次に、走行システムについて詳細に説明する。図1及び図2に示すように、運転席13は、オペレーターOPが座る部位であって、ダッシュボード14と対向している。ダッシュボード14は、運転席13の前方に設置された箱状体であって、後方に突出するブレーキペダルBPが設けられるとともに、上面にはディスプレイ18が配置されている。ステアリング19は、車両の進行方向を定める機器であり、ダッシュボード14の上面に設けられている。ステアリング19は、ダッシュボード14の内部に設けられたオービットロール(登録商標、以下同じ。図4,19参照)51に接続されている。
【0030】
図1に示すように、ブレーキペダルBPは、ダッシュボード14の後側の下部に設けられ、オペレーターOPの踏み込みによってブレーキが作動するように構成されている。前後進レバー17,17は、ダッシュボード14の両側に設けられ、中立位置、前進位置、後進位置に傾倒可能なレバーである。前後進レバー17は、ダッシュボード14の片側だけに設けられる構成であってもよい。
【0031】
前後進レバー17,17は、図7に示すように、シャフト21の両端部に連結されている。シャフト21は、ダッシュボード14の内部に車両の幅方向に沿って配置されている。図8に示すように、シャフト21には、シャフト21と同期して回動する板状のベースプレート22が設けられ、シャフト21に対して垂直に固定されている。
【0032】
ブレーキペダルBPは、図9に示すように、シャフト21と連動するように構成されている。ベースプレート22には、車両の幅方向に突出する第一ピン22a及び第二ピン22bが形成されている。第一ピン22a及び第二ピン22bは、シャフト21から概ね等距離で配置されている。ブレーキペダルBPは、本体プレート23と、ペダル部24と、回動支点部25と、連結支点部26と、を備えている。
【0033】
本体プレート23は、後方にペダル部24を備えた板状部材である。本体プレート23の前端は、ダッシュボード14の前壁に固定されたブラケット27を介して回動可能に固定されている。回動支点部25は、ブレーキペダルBPの回動中心になっている。連結支点部26は、本体プレート23の上部に形成されている。
【0034】
連結支点部26は、第一ブレーキペダル用ロッド28及び第二ブレーキペダル用ロッド29を介してベースプレート22に連結されている。第一ブレーキペダル用ロッド28及び第二ブレーキペダル用ロッド29は、棒状の部材である。第一ブレーキペダル用ロッド28及び第二ブレーキペダル用ロッド29の下端は、連結支点部26にピン結合により連結されている。
【0035】
第一ブレーキペダル用ロッド28の上端部には、第一ピン22aが遊嵌する長孔28aが形成されている。第二ブレーキペダル用ロッド29の上端部には、第二ピン22bが遊嵌する長孔29aが形成されている。側面視すると、第一ブレーキペダル用ロッド28及び第二ブレーキペダル用ロッド29は側面視V字状を呈する。
【0036】
初期位置(前後進レバー17が中立位置)において、ベースプレート22は概ね水平となる。また、第一ピン22a及び第二ピン22bは、長孔28a,29aにおいて高さ方向の真ん中やや上側に位置する。
【0037】
図9は、前後進レバー17を前進方向に最も傾倒させた場合のベースプレート22周りの作用図である。図9に示すように、前後進レバー17を前方に傾倒させるとそれに伴って、シャフト21及びベースプレート22がシャフト21を中心に反時計回りに回動する。この時、第一ピン22aは、第一ブレーキペダル用ロッド28の長孔28aの上端に位置する。一方、第二ピン22bは、第二ブレーキペダル用ロッド29の長孔29aの高さ方向の真ん中やや下側に位置する。前後進レバー17を前方に傾倒させても、長孔28a,29a内を第一ピン22a及び第二ピン22bがそれぞれ移動するため、ブレーキペダルBPの位置は変わらない。
【0038】
なお、具体的な図示は省略するが、前後進レバー17を後方に傾倒させて車両を後進させる場合は、ベースプレート22がシャフト21と同期して時計回りに回動する。この場合も、前進と同様に、前後進レバー17を後方に傾倒させても、長孔28a,29a内を第一ピン22a及び第二ピン22bがそれぞれ移動するため、ブレーキペダルBPの位置は変わらない。
【0039】
図10は、ブレーキペダルBPを踏み込んだ場合のベースプレート22周りの作用図である。図10に示すように、オペレーターOPがブレーキペダルBPを踏み込むと、回動支点部25を中心にブレーキペダルBPが下側に回動する。これに伴い、第一ブレーキペダル用ロッド28及び第二ブレーキペダル用ロッド29が下側に引っ張られるため、第一ピン22a及び第二ピン22bがそれぞれ長孔28a,29aの上端に位置し、ベースプレート22が所定の角度で回動するとともにベースプレート22が概ね水平になる。これらと同期して、シャフト21及び前後進レバー17も回動して中立位置に位置するため、ブレーキが作動して制動する。
【0040】
以上説明したように、オペレーターOPが、前後進レバー17を中立位置に戻すこと、若しくは、ブレーキペダルBPを踏み込むことによって、前後進レバー17が中立位置に位置し、車両を制動させることができる。ブレーキシステムの詳細については後記する。
【0041】
図4及び図7に示すように、ダッシュボード14の内部には、ポテンショメータ31が設置されている。ポテンショメータ31は、前後進レバー17の傾倒角度を検知する機器である。シャフト21には、軸方向と直交する方向に張り出す連結プレート34が設けられている。一方、ポテンショメータ31には、ポテンショメータ31に連結されるとともに、連結プレート34と同期して回動する連結プレート35が設けられている。また、連結プレート34,35同士を連結する連結ロッド33が設けられている。連結プレート34,35及び連結ロッド33で構成されたリンク機構により、前後進レバー17を傾倒させると、ポテンショメータ31で傾倒角度を検知することができる。ポテンショメータ31の検知結果は制御部3に出力される。
【0042】
また、図7に示すように、ダッシュボード14の内部において、シャフト21の近傍にリミットスイッチ(中立センサ)32が設置されている。リミットスイッチ32は、前後進レバー17の中立位置を検知する機器である。リミットスイッチ32の検知結果は、制御部3に出力される。
【0043】
また、ダッシュボード14の上面に設けられたディスプレイ18には、例えば、速度メータ、バッテリKの残量、走行距離、アワメータ、アラート情報等、制御部3が保有する各種車両情報が表示されている。ディスプレイ18には、タッチ式の操作パネルが表示されるようにしてもよい。また、ディスプレイ18には、施工現場の締め固め状況、転圧エリアの地図情報、位置情報等の転圧に関する情報が表示されるようにしてもよい。
【0044】
また、図4及び図6に示すように、ダッシュボード14の上面には、走行H/Lスイッチ36、パーキングスイッチ37、振動スイッチ39、灯火器スイッチ、報知器スイッチ等が設置されている。
【0045】
走行H/Lスイッチ36は、高速走行モード又は低速走行モードを選択できるスイッチである。前後進レバー17を最も傾倒させたとき(フルスロットル)に、例えば、高速走行モードは10km/hに設定され、低速走行モードは5km/hに設定されている。これらの速度は適宜設定することができる。
【0046】
パーキングスイッチ37は、パーキングブレーキの作動又は解除を選択できるスイッチである。振動スイッチ39は、前輪R1の振動のON又はOFFを選択できるスイッチである。振動スイッチ39と連動し、振動の強度(回転数)を制御できるスイッチを設けてもよい。灯火器スイッチは、例えば、停車する際に点滅するハザードランプのON又はOFFを選択できるスイッチである。報知器スイッチは、例えば、バックする際のバックブザーのON又はOFFを選択できるスイッチである。これらの機能スイッチ(ボタン)のON又はOFFの状態をディスプレイ18に表示させるようにしてもよい。
【0047】
インバータJは、図4に示すように、前輪用インバータJ1、後輪右用インバータJ2、後輪左用インバータJ3及び振動用インバータJ4を備えている。インバータJは、制御部3から出力される駆動指示値に基づいて周波数を制御し、各電動モータMの回転数を変化させる装置である。
【0048】
電動モータMは、図4に示すように、前輪用電動モータM1、後輪右用電動モータM2、後輪左用電動モータM3、振動用電動モータM4を備えている。電動モータMの種類は適宜選定すればよいが、本実施形態ではいずれも誘導モータを用いている。
【0049】
<前輪R1の構造(振動システム)>
前輪R1は、図13に示すように、ロール111を備えており、車両の幅方向の両端に前輪用電動モータM1及び振動用電動モータM4がそれぞれ設置されている。ロール111は、中空円筒形状を呈し、その内面に第1鏡板112及び第2鏡板113が間隔をあけて設けられている。第1鏡板112と第2鏡板113との間には、中空円筒形状の起振機ケース114が固設されている。起振機ケース114の内部には、潤滑油が充填されている。第1鏡板112には第1ホルダ115が、第2鏡板113には第2ホルダ116がそれぞれ取り付けられている。第1ホルダ115は、軸受117を介して筒状のハウジング118に支承されている。ハウジング118は、車体フレーム2の左側面から垂下され、その下端回りがロール111の内部に位置する前輪用サイドプレートSP1に対して、防振ゴム121及び支持部材122を介して取り付けられている。
【0050】
第2ホルダ116は、第2鏡板113に固定されている。車体フレーム2の右側面から垂下され、その下端回りがロール111に位置する前輪用サイドプレートSP2には、モータ取付板124を介して前輪用電動モータM1が取り付けられている。前輪用電動モータM1の出力部M1aには、減速ギヤ機構125が設置されている。出力部M1aは、防振ゴム123及び支持部材126を介して第2鏡板113に接続されている。第2ホルダ116には、右側端部を覆うカバー127が取り付けられている。
【0051】
以上により、前輪用電動モータM1が回転すると、その回転力は減速ギヤ機構125で減速されるとともに支持部材126及び第2鏡板113に伝達され、ロール111は、第1ホルダ115がハウジング118によって支承されつつ走行回転する。
【0052】
一方、振動用電動モータM4は、前輪用サイドプレートSP1に接続されたモータ取付板128を介して取り付けられている。ジョイント部材(例えば、等速ジョイント)129は、振動用電動モータM4の出力軸と起振軸130とを連結している。
【0053】
起振軸130は、起振機ケース114内において、ロール111と同軸の軸心を中心として、車幅方向に延設されている。起振軸130は、本体部131と、本体部131の両端に設けられた支軸部132,133と、偏心錘134とを備えている。本体部131は、軸状部位であって、その両端に本体部131より小径となる支軸部132,133が設けられている。支軸部132は、軸受135を介して第1ホルダ115に支承されている。また、支軸部133は、軸受136を介して第2ホルダ116に支承されている。本体部131の外周面には、偏心錘134が設けられている。
【0054】
以上により、振動用電動モータM4が回転すると、その回転力はジョイント部材129を介して起振軸130に伝達され、第1ホルダ115及び第2ホルダ116に対して起振軸130が回転する。その際、起振軸130が偏心錘134を備えているためロール111が振動する。
【0055】
オペレーターOPが、振動スイッチ39(図4参照)を操作すると、制御部3から振動用インバータJ4に振動信号が出力され、振動用インバータJ4の駆動指示値に基づいて振動用電動モータM4が作動する。なお、操作スイッチを新たに設け、例えば、高振動モード又は低振動モードを設けてもよい。振動用電動モータM4を高速で回転させると振動が大きくなり、低速で回転させると振動は小さくなる。また、オペレーターOPの操作に応じて、振動用電動モータM4の回転数を自在に制御できるようにして、振動の強弱を調整できるようにしてもよい。
【0056】
なお、本実施形態では、前輪R1にのみ起振軸130(振動システム)を設けたが、後輪R2にも設けてもよいし、後輪R2のみに設けてもよい。
【0057】
<減速機構>
図14~18に示すように、後輪右用電動モータM2及び後輪左用電動モータM3の回転力は、減速機構を介して後輪R2に伝達される。減速機構は、第一ギヤボックス200A及び第二ギヤボックス200Bで構成され、後部スペース16の第二後部スペース16bから後輪R2にかけて設けられている。図14に示すように、後輪右用電動モータM2及び後輪左用電動モータM3は、互いの出力軸が対向しつつ、当該出力軸が車幅方向と平行となるように配置されている。
【0058】
第一ギヤボックス200Aは、第一ギヤ201、第二ギヤ204、第三ギヤ205及び第四ギヤ207を備えている。第一ギヤボックス200Aは、直方体を呈する箱状体であって第二後部スペース16bの内部に配置されている。第一ギヤ201、第二ギヤ204、第三ギヤ205及び第四ギヤ207は、いずれも回転軸が車幅方向と平行に配置されている。第一ギヤボックス200Aの内部には潤滑油が充填されている。
【0059】
第一ギヤ201は、軸部201aと、軸部201aに設けられたギヤ部201bとを備えている。軸部201aは、その両端が後輪右用電動モータM2及び後輪左用電動モータM3の出力軸にそれぞれ連結されるとともに、第一ギヤボックス200Aに設けられたベアリング202,202に支承されている。
【0060】
第二ギヤ204は、軸部204aと、軸部204aに設けられた大径ギヤ204b及び小径ギヤ204cとを備えている。軸部204aは、その両端が第一ギヤボックス200Aに設けられたベアリング203,203に支承されている。大径ギヤ204bは、第一ギヤ201のギヤ部201b及び第三ギヤ205のギヤ部205bにそれぞれ噛合されている。小径ギヤ204cは、第四ギヤ207の大径ギヤ207bに噛合されている。
【0061】
第三ギヤ205は、軸部205aと、軸部205aに設けられたギヤ部205bとを備えている。軸部205aは、第一ギヤボックス200Aに設けられたベアリング206に支承されている。軸部205aの先端には、無励磁ブレーキ(ネガティブブレーキ)62が接続されている。つまり、無励磁ブレーキ62は、第一ギヤボックス200Aの外部に軸部205aを介して接続されている。
【0062】
第四ギヤ207は、軸部207aと、軸部207aに設けられた大径ギヤ207b及び小径ギヤ207cとを備えている。軸部207aは、第一ギヤボックス200Aと第二ギヤボックス200Bを連通するとともに、第二ギヤボックス200Bに設けられたベアリング209,209で支承されている。第一ギヤボックス200Aと軸部207aの外周との間には、シール部材208が介設されている。大径ギヤ207bは、第一ギヤボックス200A内に配置され、第二ギヤ204の小径ギヤ204cに噛合されている。小径ギヤ207cは、第二ギヤボックス200B内に配置されている。
【0063】
図17に示すように、第二ギヤボックス200Bは、第一ギヤボックス200Aに並設されており、第二後部スペース16bから後輪R2にかけて配置された縦長の箱状体である。第五ギヤ210は、軸部210aと、軸部210aに設けられたギヤ部210bとを備えている。軸部210aは、第二ギヤボックス200Bに設けられたベアリング211で支承されている。ギヤ部210bは、第四ギヤ207の小径ギヤ207c及び第六ギヤ213のギヤ部213bにそれぞれ噛合されている。
【0064】
第六ギヤ213は、軸部213aと、軸部213aに設けられたギヤ部213bとを備えている。軸部213aは、後輪R2のタイヤR2A~R2Dに亘って延設されるシャフトである。第二ギヤボックス200Bの下部には、車幅方向の左右に延び、ベアリング214を介して軸部213aを支承するホルダ218A,218Bがそれぞれ延設されている。軸部213aの左側の先端は、締結部217Aを介してハブ216Aに締結されている。また、ハブ216Aは、タイヤR2A,R2Bの内部に配置されるディスクホイールDWA,DWBを支持している。
【0065】
同様に、軸部213aの右側の先端は、締結部217Bを介してハブ216Bに締結されている。また、ハブ216Bは、タイヤR2C,R2Dの内部に配置されるディスクホイールDWC,DWDを支持している。
【0066】
以上のように構成された減速機構では、後輪右用電動モータM2及び後輪左用電動モータM3の回転力は、第一ギヤ201、第二ギヤ204、第四ギヤ207、第五ギヤ210及び第六ギヤ213を介して軸部(シャフト)213aに伝達されるとともに、ハブ216A,216Bを介して後輪R2に伝達される。
【0067】
<ステアリングシステム>
次にステアリングシステムについて説明する。図19に示すように、ステアリングシステムは、オービットロール51と、電動油圧ポンプ52と、フィルタ53と、アキュームレータ54と、油圧シリンダ55,55、圧力スイッチ56(図4参照)とを備えている。ステアリングシステムは、これらの部品が配管で接続されて油圧回路を構成している。
【0068】
オービットロール51は、ステアリング19に連結されており、ダッシュボード14の内部に配置されている。電動油圧ポンプ52は、24VバッテリK2と電気的に接続されており、第一後部スペース16aに配置されている。フィルタ53は、配管の一部に接続されており、作動油に含まれる塵埃や鉄分等の不純物を取り除く部材である。アキュームレータ54は、配管の一部に接続されており、作動油の流体エネルギーを蓄えたり、放出したりする装置である。フィルタ53及びアキュームレータ54は、第二後部スペース16bに配置されている。図20に示すように、油圧シリンダ55,55は、前部フレーム11と後部フレーム12とを連結するシリンダであって、車幅方向両側に一対配置されている。油圧シリンダ55,55の伸縮により車両が左右方向に旋回可能となる。
【0069】
圧力スイッチ56は、図4に示すように、油圧回路内の圧力チェック及び電動油圧ポンプ52の起動又は停止の判定を行うものである。制御部3が圧力スイッチ56から検知信号を受け、油圧回路内の圧力が所定値よりも低下すると電動油圧ポンプ52を起動させ、所定値以上であると電動油圧ポンプ52を停止させる。また、圧力スイッチ56は、油圧回路内の圧力のエラーも検知することができる。
【0070】
ステアリングシステムは、電動油圧ポンプ52と、この電動油圧ポンプ52から吐出される圧油により駆動される油圧シリンダ55,55と、電動油圧ポンプ52から油圧シリンダ55,55に供給される圧油の方向と流量を制御するステアリングバルブ(図示省略)とを備えている。ステアリング19の回転方向と回転量に応じてステアリングバルブを切り換え、油圧シリンダ55,55を駆動制御している。ステアリング19の回転方向と回転量に応じたステアリングバルブの切り換えは、オービットロール51で行っている。
【0071】
<ブレーキシステム>
本実施形態では、以下の(1)~(3)のブレーキシステムを設けている。なお、ブレーキの種類は下記に限定されるものではなく、適宜増減させてもよい。
(1)ニュートラルブレーキ
ニュートラルブレーキは、図4に示すように、オペレーターOPの操作により前後進レバー17を中立位置に位置させた時に作動するブレーキである。停止動作時において、転圧輪用電動モータの回生運動及び逆制動をかけることで車両が減速し、0回転数保持ブレーキ(励磁ブレーキ61)により電気的に停車する。励磁ブレーキ61は、通電時にブレーキが作動し、非通電時にブレーキが解除されるブレーキである。
【0072】
前後進レバー17が中立位置に位置した時、リミットスイッチ32は、検知信号を制御部3に出力する。制御部3は、前輪用インバータJ1、後輪右用インバータJ2及び後輪左用インバータJ3に、前輪用電動モータM1、後輪右用電動モータM2及び後輪左用電動モータM3がそれぞれ0回転となるよう駆動指示値を出力する。また、制御部3は、励磁ブレーキ61にブレーキ信号を出力する。また、制御部3は、各インバータJに駆動指示値(0回転保持)を出力してから所定時間経過後、作動リレーにより無励磁ブレーキ62(図4及び図14)を作動させつつ、励磁ブレーキ61のブレーキを解除する。当該所定時間については、適宜設定することができる。無励磁ブレーキ62は、制御部3に接続された作動リレーにより制御されている。
【0073】
(2)フットブレーキ(非常停止)
フットブレーキは、図4及び図8に示すように、ブレーキペダルBPを踏み込むことで作動するブレーキである。オペレーターOPが、ブレーキペダルBPを踏み込むと、制御部3にフットブレーキ信号が出力される。すると、制御部3は、各電動モータMへの電力を遮断する。また、ブレーキペダルBPが踏み込まれると、前記したように図9,10の機構により傾いていたベースプレート22が水平位置に戻る。つまり、シャフト21(前後進レバー17)が中立位置に位置するため、前記したニュートラルブレーキが作動する。
【0074】
(3)パーキングブレーキ
パーキングブレーキは、図4に示すように、パーキングスイッチ37を押下することで作動するブレーキである。オペレーターOPが、パーキングスイッチ37を押下すると、制御部3にパーキングブレーキ信号が出力される。制御部3は、無励磁ブレーキ62を作動させる。
【0075】
無励磁ブレーキ62は、図16に示すように、非通電時にブレーキが作動する機械式のディスクブレーキである。無励磁ブレーキ62は、24VバッテリK2と電気的に接続されている。無励磁ブレーキ62は、通電時には第三ギヤ205の軸部205aに同期して回転するロータ64が回転可能になっている。これにより、第三ギヤ205も回転し、走行可能となる。一方、非通電時にはロータ64が挟持されることで軸部205aの回転が阻止され、ブレーキが作動する。なお、無励磁ブレーキ62には、解除レバー63が設けられている。オペレーターOP又は作業員が、解除レバー63を操作することにより、無励磁ブレーキ62を解除することができる。
【0076】
<電装システム>
図6に示すように、本実施形態のバッテリKは、48VバッテリK1、24VバッテリK2及び12VバッテリK3を備えている。48VバッテリK1及び24VバッテリK2は、リチウムイオン電池である。バッテリ管理部(BMU:Battery Management Unit)71は、各電池セルの電圧値、電流値、温度等を測定し、バッテリ(リチウムイオン二次電池)Kを監視・制御する装置である。また、バッテリ管理部71は、測定されたデータの表示機能、各セル間の電圧を一定に保つバランス機能、過充電・過放電の検出機能も有している。バッテリ管理部71と制御部3とはCAN通信を介してバッテリ情報を通信可能になっている。
【0077】
12VバッテリK3は、鉛蓄電池である。12VバッテリK3は、電動ローラ1を始動させるスタータースイッチ38に電気的に接続されている。また、12VバッテリK3は、灯火器(例えば、ハザードランプ)40及び報知器(例えば、バックブザー、アラートブザー)41を含む電装品に電気的に接続されている。12VバッテリK3は、例えば、制御部3がシステムダウンした時にも、電動ローラ1の始動作業(再起動)や、各種電装品に電気を供給することができる。
【0078】
48VバッテリK1は、各インバータJ及び各電動モータMに電気的に接続されている。48VバッテリK1と12VバッテリK3との間には、DCDCコンバータ42が介設されている。DCDCコンバータ42は、48VバッテリK1から12VバッテリK3へ給電を行うために、降圧させる装置である。24VバッテリK2は、電動油圧ポンプ52及び無励磁ブレーキ62に電気的に接続されている。
【0079】
制御部(VCU)3は、走行中に変化する車両の状態を判断し、最適な状態を維持するために各部品を制御する装置である。制御部3は、電動モータM、インバータJ、バッテリKなどの相互に影響しあう各部品を、他の部品への影響を加味しつつ制御する。
【0080】
制御部3は、演算部(CPU:Central Processing Unit)、記憶部、通信部等を備えている。制御部3は、どこに配置されていてもよいが、本実施形態ではバッテリKのバッテリケースKA(図11参照)の前部に取り付けられている。演算部は、記憶部に格納されたプログラムを読み出して、機能部として機能させる部位である。記憶部は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read only memory)、HDD(Hard Disk Drive)等を備えている。記憶部には、各種プログラムや、ポテンショメータ31の傾倒角度に対する各インバータJの駆動指示値などが駆動指示値ファイルとして格納されている。通信部は、例えば、CAN通信であって、各部品と通信可能になっている。
【0081】
また、制御部3は、GNSS(Global Navigation Satellite System)と連動させて、走行記録、位置情報、運転状況等を取得し、活用するようにしてもよい。また、制御部3は、路面の締固め情報を取得するセンサを備えた締固め管理装置と連動させて、リアルタイムに締固め情報を取得し、活用するようにしてもよい。また、制御部3は、自律走行装置と連動させて、遠隔操作による自律走行が実行できるようにしてもよい。また、制御部3は、車両運行情報(運転時間、異常情報、電池状況など)を技術センター、リース会社等に送信し、その情報を蓄積・管理することができる。
【0082】
<作用・効果について>
オペレーターOPが、前後進レバー17を前側に倒すと前進し、後側に倒すと後進する。前後進レバー17を傾倒させると、ポテンショメータ31がその傾倒角度を制御部3に出力する。制御部3は、前輪用インバータJ1、後輪右用インバータJ2及び後輪左用インバータJ3に駆動指示値を出力し、当該駆動指示値に基づいて転圧輪用電動モータを作動させる。前後進レバー17の傾倒角度を大きくすると速く走行し、小さくするとゆっくり走行する。前後進レバー17を中立位置に戻すと、前記したニュートラルブレーキが作動し、電動ローラ1が停止する。
【0083】
オペレーターOPが、振動スイッチ39を操作すると、制御部3に振動信号が出力される。制御部3は、振動用インバータJ4に振動指示値を送信し、当該振動指示値に基づいて振動用電動モータM4を作動させる。これにより、起振軸130が回転し、前輪R1が振動する。
【0084】
以上説明した本実施形態に係る電動ローラ1によれば、電動化により燃料の消費量及び温室効果ガスの排出量を実質的に無くすことができる。また、電動化により騒音を小さくすることができるとともに温室効果ガスの排出を実質的に無くすことができるため、オペレーターOPへの負担を軽減するとともに、作業環境の改善を図ることができる。また、従来のように走行用の油圧ポンプや油圧回路を用いないため、作動油の交換等が不要になりメンテナンス性に優れる。
【0085】
また、本実施形態によれば、転圧輪用電動モータ(前輪用電動モータM1、後輪右用電動モータM2及び後輪左用電動モータM3)を複数備えている。転圧輪用電動モータは、一つでもよいが、複数備えることで転圧輪用電動モータの大型化を防ぎつつ、主力トルクを大きくすることができる。これにより、登坂での停止、発進が可能となる。
【0086】
また、本実施形態によれば、ポテンショメータ31を備えているため、前後進レバー17の傾きに応じた細かな速度制御が可能となる。また、リミットスイッチ32を備えているため、中立位置を確実に検知することができる。ポテンショメータ31のみでも中立位置の検知は可能であるが、仮に、ポテンショメータ31からの入力にエラーが発生した場合、前後進レバー17が中立位置の状態でも車両が動き出すおそれがある。しかし、本実施形態によれば、リミットスイッチ32を備えているため、中立位置を確実に検知することができる。
【0087】
また、本実施形態によれば、灯火器40及び報知器41を含む電装品を備え、転圧輪用電動モータ及び電装品にそれぞれ電気的に接続され電圧の異なる複数のバッテリKを備えている。これにより、各部品の電圧に合わせて電力を供給することができる。また、48VバッテリK1及び24VバッテリK2は、リチウムイオンバッテリ(蓄電池)であるため、充電して繰り返し使用することができる。
【0088】
また、本実施形態によれば、車体フレーム2の前部スペース15にバッテリKが設置されているため、スペースを有効に利用することで小型化を図ることができる。換言すると、従前エンジンが設置されていた部分にバッテリKを配置することができる。また、バッテリKをバッテリケースKAに収容することで、バッテリKを保護することができる。なお、バッテリKは、後部スペース16のみに設置してもよいし、前部スペース15及び後部スペース16の両方に設置してもよい。
【0089】
また、本実施形態によれば、灯火器40及び報知器41を含む電装品が、鉛蓄電池からなる12VバッテリK3に電気的に接続されている。これにより、制御部3がシステムダウンした時、灯火器40を含んだ電装品が機能するように構成されている。よって、システムダウンしても周囲にアラート等を発することができるとともに、再起動、再始動もスムーズに行うことができる。
【0090】
また、本実施形態によれば、ダッシュボード14に設けられたディスプレイ18に速度メータを表示させるとともに、制御部3が有する車両情報をディスプレイ18に表示させることができる。これにより、オペレーターOPは、速度に加え、例えば、前進しているのか、後進しているのか、振動の有無、充電量、時刻、総走行距離等の制御部3が保有する車両情報も把握することができる。
【0091】
また、転圧輪を振動させる機構は必要に応じて設ければよいが、本実施形態によれば、起振軸130を振動用インバータJ4及び振動用電動モータM4で作動させる。これにより、起振軸130の振動制御を容易に行うことができるとともに、起振軸130の電動化により燃料の消費量及び温室効果ガスの排出量を実質的に無くすことができる。また、起振軸130の電動化により騒音を小さくすることができるとともに温室効果ガスを実質的に無くすことができるため、オペレーターOPへの負担を軽減するとともに、作業環境の改善を図ることができる。また、従来のように振動用の油圧ポンプや油圧回路を用いないため、作動油の交換等が不要になりメンテナンス性に優れる。
【0092】
また、本実施形態によれば、振動用電動モータM4をばね上(防振ゴム121よりも上側(車体フレーム2側))に設置することにより、振動用電動モータM4に作用する振動を軽減することができる。また、起振軸130と振動用電動モータM4の出力軸とを連結する等速ジョイントを設けることで、作動角度が付いた状態においても振動用電動モータM4の駆動を起振軸130に伝達することができる。
【0093】
また、本実施形態によれば、ステアリングシステムに電動油圧ポンプ52を用いているため、電動化により燃料の消費量及び温室効果ガスの排出量を実質的に無くすことができる。また、電動化により騒音を小さくすることができるとともに温室効果ガスを実質的に無くすことができるため、オペレーターOPへの負担を軽減するとともに、作業環境の改善を図ることができる。また、本実施形態によれば、電動油圧ポンプ52を用いて油圧シリンダ55を駆動させるため、電動化を図る際に、ステアリング周りの機構の変更を最小限に留めることができる。
【0094】
また、本実施形態によれば、アキュームレータ54で蓄圧することができるため、電動油圧ポンプ52の連続作動による焼き付きを防ぐとともに、エネルギー消費を抑制することができる。
【0095】
また、本実施形態によれば、電動油圧ポンプ52、配管及びアキュームレータ54は、車体フレーム2の後部スペース16に設置されているため、後部スペース16を有効に利用できるとともに、前部スペース15と後部スペース16で架け渡す配管等の数を少なくすることができる。
【0096】
また、本実施形態によれば、油圧シリンダ55は、車体フレーム2に左右両側に設置されているため、旋回時における左右方向の油の吐出量の差を小さくするか無くすことができるため、旋回時の挙動を安定させることができる。なお、油圧シリンダ55の本数は、車体フレーム2に一つでもよい。これにより、構造を簡素化でき、部品点数を少なくすることができる。
【0097】
また、本実施形態によれば、制御部3は、前後進レバー17が中立位置の時、転圧輪用インバータ(前輪用インバータJ1、後輪右用インバータJ2,後輪左用インバータJ3)に0回転信号を出力するとともに、励磁ブレーキ61を作動させる。これにより、ブレーキシステムを容易に構成することができるとともに、ブレーキシステムの電動化により燃料の消費量及び温室効果ガスの排出量を実質的に無くすことができる。また、電動化により騒音を小さくすることができるとともに温室効果ガスを実質的に無くすことができるため、オペレーターOPへの負担を軽減するとともに、作業環境の改善を図ることができる。また、従来のようにブレーキシステムに油圧回路を用いないため、作動油の交換等が不要になりメンテナンス性に優れる。
【0098】
また、本実施形態によれば、制御部3は、励磁ブレーキ61を作動させた所定時間経過後に、機械的に制動させる無励磁ブレーキ62を作動させる。励磁ブレーキ61を作動させると、停止中に電力を消費し続けることになるが、本実施形態によれば、所定時間経過後に無励磁ブレーキ62に切り替わり、励磁ブレーキ61のブレーキは解除するため、電力の消費を抑えることができる。
【0099】
また、オペレーターOPがブレーキペダルBPを踏み込んだ時、又は、ダッシュボード14又は運転席13に設けられたスイッチ(パーキングスイッチ37)を操作した時、制御部3は、作動リレーにより、機械的に制動させる無励磁ブレーキ62を作動させる。これにより、緊急時に車両を停止させることができる。
【0100】
また、運転席13の周囲に無励磁ブレーキ62を解除する解除レバー63を備えることで、無励磁ブレーキ62の解除作業を容易に行うことができる。
【0101】
[第二実施形態・転圧輪用電動モータの過回転防止機構]
次に、本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態に係る電動ローラ1は、前輪用電動モータM1、後輪右用電動モータM2及び後輪左用電動モータM3(転圧輪用電動モータ)の過回転を防止する過回転防止機構を備えている点で第一実施形態と相違する。第二実施形態では、第一実施形態と相違する点を中心に説明する。なお、以下に示す駆動指示値や時間はあくまで例示であって、これらの数値は適宜設定することができる。
【0102】
<課題>
前記したように、電動ローラ1は、前後進レバー17の傾きが制御部3に入力されることにより、制御部3が加速、減速又は停止の駆動指示値を各インバータJに出力している。制御部3からの駆動指示値を受け取った各インバータJは、前後進レバー17の入力量の応じた加速又は減速を行うため、転圧輪用電動モータに回転数の駆動指示値を出力することで、車両の走行動作を制御している。
【0103】
しかし、前記した実施形態であると、加速、減速又は停止時の車両挙動が安定しないという問題がある。例えば、加速時において前後進レバー17を前進方向にフルスロットルで操作すると、インバータJに入力される駆動指示値が0回転から目標駆動指示値まで一気に上昇する。この時、転圧輪用電動モータの出力が小さいため、加速時に発生している慣性力を抑えきれない。これにより、制御しきれない慣性分、転圧輪用電動モータの回転数が、目標駆動指示値に対して過回転状態になる。
【0104】
一方、減速、停止時においては、転圧輪用電動モータの制御として回生運動及び逆制動をかけることで減速する。減速、停止時において前後進レバー17をフルスロットル状態から中立位置に戻すと、転圧輪用電動モータに出力される駆動指示値が0回転まで一気に下降する。この時発生する制動トルクが転圧輪用電動モータの出力不足により制御しきれないため、停止時に制御しきれない制動トルク分の揺れ戻し動作が発生する。
【0105】
これらの課題について、より詳細に説明する。図21は、始動時において、比較例の時間と回転数との関係を示すグラフである。図21に示すように、細線は、前後進レバー17の入力を示している。前後進レバー17は、例えば、前進又は後進方向に最も傾倒させた状態(フルスロットル状態)となっている。
【0106】
点線は、比較例の転圧輪用電動モータの駆動指示値を示している。つまり、制御部3から転圧輪用インバータへ出力する駆動指示値である。図21に示す比較例では、目標駆動指示値P1は、約2200rpmとなっている。前後進レバー17が入力された時点を「加速側指示開始点W1」とし、転圧輪用電動モータの駆動指示値が目標駆動指示値P1に到達する点(計算上で到達する点)を「加速側目標回転数到達点N1」とし、加速側指示開始点W1と加速側目標回転数到達点N1とを結ぶ線を「第一段加速Q1」とする。比較例では、例えば、約3.0秒の間に0rpmから2200rpmまで到達する設定となっている。
【0107】
太線は、比較例の転圧輪用電動モータの回転数(実際の回転数)を示している。比較例の転圧輪用電動モータの回転数は、加速側指示開始点W1直後においては、駆動指示値となる第一段加速Q1よりも下回っている。一方、加速側目標回転数到達点N1に達した後は、加速時に発生している慣性力を抑えきれないため、転圧輪用電動モータの回転数が目標駆動指示値P1よりも所定の時間で上回っている。さらに、目標駆動指示値P1を若干下回った後、転圧輪用電動モータの回転数と目標駆動指示値P1とが一致するようになっている。つまり。当該比較例では、加速側目標回転数到達点N1以降、所定時間で転圧輪用電動モータが過回転状態となるため、車両挙動が不安定になっている。
【0108】
図22は、停止時において、比較例の時間と回転数との関係を示すグラフである。図22に示すように、停止側においては、目標駆動指示値P2は0rpm(0回転)になっている。前後進レバー17がフルスロットル状態から中立位置に戻された時点を「減速側指示開始点W2」とし、転圧輪用電動モータの駆動指示値が目標駆動指示値P2に到達する点(計算上で到達する点)を「減速側目標回転数到達点N2」とし、減速側指示開始点W2と減速側目標回転数到達点N2とを結ぶ直線を「第一段減速Q2」とする。比較例では、例えば、約2.0秒の間に2200rpmから0rpmまで到達する設定となっている。
【0109】
比較例の転圧輪用電動モータの回転数は、減速側指示開始点W2直後においては、駆動指示値よりも上回っている。一方、減速側目標回転数到達点N2に達した後は、発生する制動トルクが転圧輪用電動モータの出力不足により制御しきれないため、転圧輪用電動モータの回転数が目標駆動指示値P2よりも所定の時間で下回っている。その後、転圧輪用電動モータの回転数と目標駆動指示値P2とが一致するようになっている。つまり、当該比較例では、減速側目標回転数到達点N2以降、所定の時間で転圧輪用電動モータが過回転状態となるため、車両挙動が不安定(停止時の揺れ戻し動作)になっている。
【0110】
<転圧輪用電動モータの過回転防止機構の構成・始動側>
図23は、比較例及び実施例の転圧輪用電動モータの駆動指示値を、時間と回転数との関係で示すグラフである。実線は、実施例の転圧輪用電動モータの駆動指示値を示している。点線は、比較例の転圧輪用電動モータの駆動指示値を示している。
【0111】
図23の実線で示すように、実施例の始動時において、転圧輪用電動モータの駆動指示値に加速側変速点U1を備えるとともに、第一段加速Q3と、第二段加速Q4とを備えている。第一段加速Q3の傾き(加速度)は、比較例の第一段加速Q1の傾き(加速度)よりも大きく(急角度に)なっている。一方、第二段加速Q4の傾きは、比較例の第一段加速Q1の傾きよりも小さく(緩角度に)なっている。
【0112】
図24は、始動時において、実施例の時間と回転数との関係を示すグラフである。図24では、点線が実施例の転圧輪用電動モータの駆動指示値を示している。実線が実施例の転圧輪用電動モータの回転数を示している。実施例においても、転圧輪用電動モータの駆動指示値は、目標駆動指示値P1を2200rpmとし、前後進レバー17の入力時から3.0秒で目標駆動指示値P1に達するように設定されている。
【0113】
図24に示すように、実施例の始動時においては、加速側目標回転数到達点N1に臨む際の第二段加速Q4の傾きが、比較例の第一段加速Q1の傾きよりも小さく(緩角度)になっている。より詳しくは、実施例の始動時においては、第一段加速Q3の傾きが、比較例の第一段加速Q1(図23参照)の傾きよりも大きいため、比較例よりも転圧輪用電動モータの回転数が急上昇する。その後、第二段加速Q4で比較例よりも緩やかに目標駆動指示値P1に到達する。これにより、転圧輪用電動モータが過回転することなく(若しくは過回転を小さくして)、目標駆動指示値P1に達することができる。よって、加速時の車両挙動を安定させることができる。
【0114】
<転圧輪用電動モータの過回転防止機構の構成・停止側>
図23の実線で示すように、実施例の停止側において、転圧輪用電動モータの駆動指示値に減速側変速点U2を備えるとともに、第一段減速Q5と、第二段減速Q6とを備えている。第一段減速Q5の傾き(減速度)は、比較例の第一段減速Q2の傾き(減速度)よりも大きく(急角度に)なっている。一方、第二段減速Q6の傾きは、比較例の第一段減速Q2の傾きよりも小さく(緩角度に)なっている。
【0115】
図25は、停止時において、実施例の時間と回転数との関係を示すグラフである。図25では、点線が実施例の転圧輪用電動モータの駆動指示値を示している。実線が実施例の転圧輪用電動モータの回転数を示している。実施例では、目標駆動指示値P2を0rpmとし、前後進レバー17が中立位置に戻ってから2.0秒で目標駆動指示値P2に達するように設定している。
【0116】
図25に示すように、実施例の停止時においては、減速側目標回転数到達点N2に臨む際の第二段減速Q6の傾きが、比較例の第一段減速Q2の傾きよりも小さく(緩角度)になっている。より詳しくは、実施例の停止時においては、第一段減速Q5の傾きが、比較例の第一段減速Q2(図23参照)の傾きよりも大きいため、比較例よりも転圧輪用電動モータの回転数が急降下する。その後、第二段減速Q6で緩やかに目標駆動指示値P2に到達する。これにより、転圧輪用電動モータが過回転することなく(若しくは過回転を小さくして)、目標駆動指示値P2に達することができる。よって、減速時の揺れ戻しを防ぐとともに、車両挙動を安定させることができる。
【0117】
図26は、変形例の転圧輪用電動モータの駆動指示値を、時間と回転数との関係で示すグラフである。図26に示すように、変形例では、3段階で加速又は減速している。図26の実線で示すように、変形例に係る始動側の転圧輪用電動モータの駆動指示値は、変速点U3,U4を備えるとともに、第一段加速Q11、第二段加速Q12及び第三段加速Q13を備えている。第三段加速Q13は、加速側目標回転数到達点N1に臨んでいる。第三段加速Q13の傾きは、比較例の第一段加速Q1よりも小さく(緩角度)になっている。これにより、第二実施形態と同じように、転圧輪用電動モータの過回転を防止することができる。
【0118】
図26の実線で示すように、変形例に係る停止側の転圧輪用電動モータの駆動指示値は、変速点U5,U6を備えるとともに、第一段減速Q14、第二段減速Q15及び第三段減速Q16を備えている。第三段減速Q16は、減速側目標回転数到達点N2に臨んでいる。第三段減速Q16の傾きは、比較例の第一段減速Q2よりも小さく(緩角度)になっている。これにより、第二実施形態と同じように、転圧輪用電動モータの過回転を防止することができる。変形例のように、変速点は始動側又は停止側において2点以上設けてもよい。
【0119】
前記したように、転圧輪用電動モータの過回転防止機構は、転圧輪用電動モータの駆動指示値に少なくとも一つの変速点があり、加速側目標回転数到達点N1及び減速側目標回転数到達点N2に臨む傾きを、比較例の傾きよりも小さく設定する。これにより、複数段階の変速域に分けて転圧輪用インバータに信号を出力し、転圧輪用電動モータの目標回転数に緩やかに到達させることができる。
【0120】
本実施形態の転圧輪用電動モータの過回転防止機構では、駆動指示値において、加速側目標回転数到達点N1及び減速側目標回転数到達点N2に臨む傾きを設定する際、加速側目標回転数到達点N1及び減速側目標回転数到達点N2から基準となる傾き(ここでは比較例の第一段加速Q1、第一段減速Q2の傾き)を設定し、当該傾きに対して傾きが小さくなるように(角度が緩くなるように)設定した。転圧輪用電動モータの過回転防止機構の駆動指示値については、前後進レバー17の傾倒角度に応じて予め設定された駆動指示値ファイルに基づいて設定してもよい。駆動指示値ファイルは、例えば、前後進レバー17の傾倒角度、目標駆動指示値、到達時間等に応じて変速点が予め設定されているデータファイルである。駆動指示値ファイルは、制御部3の記憶部に記憶されている。また、転圧輪用電動モータの過回転防止機構の駆動指示値については、例えば、検知された前後進レバー17の傾倒角度から制御部3が演算し、適宜算出するようにしてもよい。
【0121】
[第三実施形態・振動用電動モータの過回転防止機構]
次に、本発明の第三実施形態について説明する。第三実施形態に係る電動ローラ1は、振動システムにおける振動用電動モータのM4の過回転を防止する振動用電動モータの過回転防止機構を備えている点で第一実施形態と相違する。第三実施形態では、第一実施形態と相違する点を中心に説明する。
【0122】
<課題>
第二実施形態と同じように、振動用電動モータM4においても、起振軸130が偏心錘134を備えているため、振動の始動時及び停止時に目標駆動指示値に対して過回転状態となる場合がある。これにより、車両挙動が安定せず、オペレーターOPに違和感を与えることになる。
【0123】
<振動用電動モータの過回転防止機構の構成>
振動用電動モータの過回転防止機構は、制御部3から振動用インバータJ4に出力する駆動指示値に、変速点を設けている。変速点の設定の仕方は、第二実施形態と同じであるため詳細な説明は省略する。制御部3は、起振時に複数段階の変速域に分けて振動用インバータJ4に信号を出力し、振動用電動モータM4の目標回転数に緩やかに到達させる。これにより、振動用電動モータM4が緩やかに目標回転数に達するため、過回転に起因する不安定な振動挙動を抑制することができる。
【0124】
また、制御部3は、振動停止時に複数段階の変速域に分けて振動用インバータJ4に信号を出力し、緩やかに停止させる。これにより、起振軸130の揺れ戻し現象が抑制され、安定的に起振軸130を停止させることができる。
【0125】
[第四実施形態 前輪 ダッシュボード]
次に、本発明の第四実施形態に係る電動ローラ1Dについて説明する。本実施形態では、前輪R1Dの構造、ダッシュボード14Dの構造及び傾斜管理部301を備えている点で第一実施形態と主に相違する。本実施形態では、第一実施形態との相違部分を中心に説明する。
【0126】
図27に示すように、前輪R1Dは、ロール111Dを備えており、車両の幅方向の両端に前輪用電動モータM1及び振動用電動モータM4がそれぞれ設置されている。前輪R1Dは、前記した第一実施形態の構造に比べてロール111Dが長くなるとともに、起振軸130が短くなっている。これにより、前輪用電動モータM1及び振動用電動モータM4を含めた各部品がロール111Dの内部に収納されている。よって、転圧作業を行う際に、ロール111Dを他の構造物等にギリギリまで寄せることができるため、操作性を高めることができる。前輪R1Dの他の構造については、第一実施形態と概ね同一であるため、第一実施形態と同一の符号を付して説明を省略する。
【0127】
また、図28及び図29に示すように、電動ローラ1Dは、第一実施形態の構造に加え、散水するための散水スイッチ81と、液剤を散布するための液剤スイッチ82と、振動数を変更するための振動H/Lスイッチ83と、車両の速度を変速させるための変速スイッチ84と、ハザードスイッチ(灯火器スイッチ)85と、ブザースイッチ(報知器スイッチ)86と、前照灯スイッチ(灯火器スイッチ)87と、を備えている。
【0128】
図29に示すように、ダッシュボード14Dの上面には、ディスプレイ(例えば、液晶ディスプレイ)18の周りに散水スイッチ81、液剤スイッチ82、振動H/Lスイッチ83、変速スイッチ84、ハザードスイッチ85、ブザースイッチ86、前照灯スイッチ87、パーキングスイッチ37及び振動スイッチ39がそれぞれ設けられている。
【0129】
散水スイッチ81は、制御部3Dと電気的に接続されており、散水部(図示省略)で散水又は散水停止を行うスイッチである。散水スイッチ81をONにすると制御部3D及び散水部(図示省略)を介してロール111Dに対して散水され、OFFにすると散水が停止する。
【0130】
液剤スイッチ82は、制御部3Dと電気的に接続されており、液剤散布部(図示省略)を介して液剤の散布又は停止を行うスイッチである。液剤スイッチ82をONにすると制御部3D及び液剤散布部(図示省略)を介してロール111Dに対して液剤が散布され、OFFにすると液剤の散布が停止する。
【0131】
振動H/Lスイッチ83は、制御部3Dと電気的に接続されており、振動スイッチ39と連動して作動するとともに、高速振動モード又は低速振動モードを選択するスイッチである。高速振動モードは、振動用電動モータM4を高速で回転させて、起振力を高くするモードであり、低速振動モードは、振動用電動モータM4を低速で回転させて、起振力を低くするモードである。振動H/Lスイッチ83を高速振動モード側に入れると高速振動モード信号が振動用インバータJ4に送信される。一方、振動H/Lスイッチ83を低速振動モード側に入れると低速振動モード信号が振動用インバータJ4に送信される。
【0132】
変速スイッチ84は、制御部3Dと電気的に接続されており、車両の速度を変化させるスイッチである。第一実施形態については、走行H/Lスイッチ36において二段の速度を選択することができたが、本実施形態では三段以上の多段変速構造になっている。
【0133】
ハザードスイッチ85は、ハザードンランプのON又はOFFを行うスイッチである。ブザースイッチ86は、警報音を出力する報知器41のON又はOFFを行うスイッチである。前照灯スイッチ87は、前照灯のON又はOFFを行うスイッチである。前照灯についてはハイビーム又はロービームを選択できる。ハザードスイッチ85、ブザースイッチ86及び前照灯スイッチ87についても制御部3Dと電気的に接続されており、各動作について制御、管理可能になっている。
【0134】
なお、各スイッチについては、それぞれの動作状況をディスプレイ18に随時表示するようにしてもよい。また、前記した第一実施形態では、電動油圧ポンプ52は24VバッテリK2で給電されていたが、図28に示す本実施形態のように48VバッテリK1で給電するようにしてもよい。
【0135】
[第四実施形態 傾斜管理部]
また、図30及び図31に示すように、電動ローラ1Dの制御部3Dは、第一実施形態の構造に加え、車両の傾斜を管理する傾斜管理部301を備えている。傾斜管理部301は、車両の傾斜角度を検知して、傾斜情報を報知したり、車両を緊急停止したりする部位である。
【0136】
車両傾斜センサ302は、車両の傾きを検知する装置である。車両傾斜センサ302は、車体フレーム2の一部(例えば、平らな部位)に設置され、車両の左右及び前後の傾斜角度及び傾斜方向を検知することができる。車両傾斜センサ302は、進行方向に対して斜めの傾きを検知できるものであってもよい。車両傾斜センサ302で得られた検知結果は、リアルタイムで制御部3Dに送信される。制御部3Dは、検知角度をリアルタイムでディスプレイ18に表示するようにしてもよい。
【0137】
制御部3Dの記憶部には、勾配レベルファイルが記憶されている。勾配レベルファイルは、勾配レベルと、検知角度の大きさと、各勾配レベルに対応する機能とが関連付けて予め設定されている。例えば、本実施形態では、勾配レベルが0から3の4段階に分けられている。勾配レベル0は、傾斜起因の危険度がほぼない範囲であり検知角度0°から検知角度X1°未満で設定されている。勾配レベル1は、傾斜起因の危険度がやや高い範囲であり、検知角度X1°から検知角度X2°未満で設定されている。勾配レベル2は、傾斜起因の危険度が高い範囲であり、検知角度X2°から検知角度X3°未満で設定されている。勾配レベル3は、傾斜起因の危険度が最も高い範囲であり、検知角度X3°以上で設定されている。なお、ここでの検知角度は前後方向から見た時の車両の左右の傾斜角度であって、X1<X2<X3である。検知角度X3°は、車両の限界傾斜角度よりも小さい値で設定されている。
【0138】
また、勾配レベルファイルには、各勾配レベルに対応する機能が設定されている。図31に示すように、本実施形態では、勾配レベル0の場合は「報知無し」、勾配レベル1の場合は「ディスプレイ傾斜情報報知」を行い、勾配レベル2の場合は「音傾斜情報報知」を行い、勾配レベル3の場合は「車両緊急停止」を行うように設定されている。つまり、本実施形態の傾斜管理部301は、検知角度の大きさに応じて段階的に対応を替えている。
【0139】
「ディスプレイ傾斜情報報知」は、ディスプレイ18に検知角度に関する情報を表示し、視覚的に危険度を報知するものである。傾斜管理部301は、例えば、勾配レベル1の場合にディスプレイ18に検知角度を表示してもよいし、既に表示されている検知角度を点滅させてもよいし、他のマークを表示又は点滅させてもよい。
【0140】
「音傾斜情報報知」は、音を鳴らし聴覚的に危険度を報知するものである。傾斜管理部301では、例えば、勾配レベル2の場合において、ブザースイッチ(報知機スイッチ)86がOFFの場合であっても報知器41が鳴るように設定されている。また、この場合、「ディスプレイ傾斜情報報知」と並行して「音傾斜情報報知」を行ってもよい。「音傾斜情報報知」では、例えば、検知角度が大きくなるにつれて大きい音を出力するようにしてもよい。
【0141】
「緊急車両停止」は、検知角度が所定の閾値を超えた場合にブレーキ手段310を用いて車両を緊急停止させるものである。傾斜管理部301は、ブレーキ手段310に車両緊急停止信号を送信する。ブレーキ手段310は、第一実施形態のブレーキシステムの中から選択することもできるし、他の手段によって車両を強制的に停止させる。例えば、傾斜管理部301は、勾配レベル3の場合に前後進レバー17を中立位置に強制的に戻し、ニュートラルブレーキを作動させることができる。
【0142】
次に、傾斜管理部301の動作フローについて説明する。図31に示すように、傾斜管理部301は、車両傾斜センサ302から送信される検知角度に基づいて傾斜センサ情報確認を行う(ステップS31)。傾斜管理部301は、得られた検知角度に応じて勾配レベルを算出する(ステップS32)。傾斜管理部301は、ステップS33において勾配レベルが「0」か否かを判定する。傾斜管理部301は、勾配レベルを「0」と判定した場合(S33のYes)、ステップS31に戻る。傾斜管理部301は、ステップS33において勾配レベルが「0」でないと判定した場合(S33のNo)、ステップS34に移行する。
【0143】
次に、傾斜管理部301は、勾配レベルが「1」か否か判定する(ステップS34)。傾斜管理部301は、勾配レベルを「1」と判定した場合(S34のYes)、ディスプレイ傾斜情報報知を行う(ステップS35)。傾斜管理部301は、勾配レベルが「1」でないと判定した場合(S34のNo)、ステップS36に移行する。
【0144】
次に、傾斜管理部301は、勾配レベルが「2」か否か判定する(ステップS36)。傾斜管理部301は、勾配レベルを「2」と判定した場合(S36のYes)、音傾斜情報報知を行う(ステップS37)。傾斜管理部301は、勾配レベルが「2」でないと判定した場合(S36のNo)、勾配レベルが「3」であるとして車両緊急停止を行う(ステップS38)。
【0145】
以上説明した本実施形態によれば、電動化により燃料の消費量及び温室効果ガスの排出量を実質的に無くすことができる。また、電動化により騒音を小さくすることができるとともに温室効果ガスの排出を実質的に無くすことができるため、オペレーターへの負担を軽減するとともに、作業環境の改善を図ることができる。また、作動油の交換等が不要になりメンテナンス性に優れる。また、転圧輪用インバータを備えることで速度制御を容易に行うことができる。また、本実施形態では傾斜管理部301を備えることで、車両の横転を防ぐことができる。
【0146】
また、本実施形態に係る傾斜管理部301は、車体フレーム2に設けられたディスプレイ18に傾斜情報を報知するディスプレイ傾斜情報報知を行うことで、オペレーターOPに視覚的に傾斜情報を伝達し注意喚起することで車両の横転を防ぐことができる。
【0147】
また、本実施形態に係る傾斜管理部301は、音の出力により傾斜情報を報知する音傾斜情報報知を行うことで、オペレーターOPに聴覚的に傾斜情報を伝達し注意喚起することで車両の横転を防ぐことができる。
【0148】
また、本実施形態に係る傾斜管理部301は、ディスプレイ傾斜情報報知、音傾斜情報報知及び車両の緊急停止を、検知角度に応じて段階的に行う。これにより、段階的に注意喚起をすることで、車両の横転を防ぎつつ、操作性を向上させることができる。つまり、危険性の低い状態では警告に留めることで、車両が頻繁に止まるのを防ぎ効率よく作業を行うことができる。
【0149】
なお、本実施形態では、ディスプレイ傾斜情報報知、音傾斜情報報知及び車両の緊急停止を検知角度に基づいて段階的に行うようにしたが、ディスプレイ傾斜情報報知及び音傾斜情報報知はいずれか一方だけでもよい。
【0150】
[第五実施形態 傾斜補正部]
次に、本発明の第五実施形態に係る電動ローラ1Eについて説明する。本実施形態は、基本的な構成は第四実施形態と同じであるが、制御部が、車両の状態に合わせて複数のモードを備えている点、及び図32に示すように傾斜補正部401を備える点で第四実施形態と相違する。本実施形態では、第四実施形態と相違する点を中心に説明する。
【0151】
本実施形態に係る電動ローラ1E(制御部3E(図32参照))は、当該電動ローラ1Eの走行状態に関する制御モードとして、「スイッチオフモード」、「スタンバイモード」、「レディモード」、「ランモード」、「充電モード」の5つの基本モードに加え、「トルクアップモード」、「走行中充電モード」を備えている。
【0152】
これらの各モードは、オペレーターOPによるスタータースイッチ38の操作(回数、時間等)若しくは特定の入力操作(スタータースイッチ38の操作を含む)等によって切り替え可能になっている。スタータースイッチ38は、内燃機関を動力源とする車両すなわちエンジン車両において、イグニッションキーが挿入されて操作されるキーシリンダに相当する。制御部3Eは、例えば、これらの各モード(スイッチオフモードを除く)をディスプレイ18に表示させることができる。これにより、オペレーターOPは車両の状態(モード)を把握することができる。
【0153】
<スイッチオフモード>
制御部3Eは、スタータースイッチ38がスイッチオフ状態である場合に、スイッチオフモードとなる。スイッチオフモードは、エンジン車両において、イグニッションキーがキーシリンダから外されている状態に相当する。スイッチオフモードでは、電源が落ちた状態であるため(制御部(VCU)3Eも起動していないため)電動ローラ1Eは走行不可状態となる。スイッチオフモードにおけるエネルギー消費量(48VバッテリK1、24VバッテリK2の電力消費量)はゼロである。スイッチオフモードにおいて、前後進レバー17は、オペレーターOPの操作によって中立位置に設定されており、パーキングスイッチ37は、オペレーターOPの操作によってONに設定されている(すなわち、パーキングブレーキは作動している)。
【0154】
<スタンバイモード>
制御部3Eは、スイッチオフモードからスタータースイッチ38の入力があった場合に、スタンバイモードとなる。スタンバイモードは、走行前の待機状態となるモードである。スタンバイモードは、エンジン車両において、イグニッションキーがキーシリンダに挿入された状態で一段階回されることによって、メインスイッチが入って電装品(ディスプレイ等)に電力供給可能になった状態に相当する。スタンバイモードでは、12VバッテリK3(鉛蓄電池)から電力が供給されて制御部3Eは起動するが、制御部3DはインバータJ(転圧輪用インバータ)を起動させていないため、電動ローラ1Eは走行不可状態である。スタンバイモードにおけるエネルギー消費量(48VバッテリK1、24VバッテリK2の電力消費量)はゼロである。なお、後記するレディモードにおいて、所定の条件下(例えば、レディモード中に長時間操作が無い場合等)でスタンバイモードに自動的に切り替わる仕様にしてもよい。
【0155】
<レディモード>
制御部3Eは、スタンバイモードからオペレーターOPによるスタータースイッチ38の操作(回数、時間等)若しくは特定の入力操作等によってレディモードとなる。レディモードは、エンジン車両において、イグニッションキーがスタンバイ状態からさらに一段階回されることによって、エンジンが駆動した状態に相当する。つまり、レディモードは、制御部3Eの制御によってインバータJが起動状態となり(前後進レバー17は中立位置)、電動ローラ1Eが走行可能状態となる。レディモードにおけるエネルギー消費量(48VバッテリK1、24VバッテリK2の電力消費量)は、微量である。
【0156】
<ランモード>
制御部3Eは、レディモードであり、かつ、前後進レバー17が操作されて前進位置又は後進位置に設定されている場合に、レディモードからランモードに切り替わる。つまり、ランモードは、前後進レバー17の傾倒で切り替わり、走行状態となるモードである。前後進レバー17の傾倒により電動モータMが駆動し、電動モータMのトルクが所定値を超えるとパーキングブレーキ(無励磁ブレーキ62)が自動で解除され、電動ローラ1Eが走行開始となる。ランモードにおける、エネルギー消費量(48VバッテリK1、24VバッテリK2の電力消費量)は走行速度、走行距離等に応じて変動する。なお、オペレーターOPがパーキングブレーキを手動で解除した後に、前後進レバー17の傾倒で電動ローラ1Eが走行開始としてもよい。
【0157】
<充電モード(通常充電モード)>
制御部3Eは、スイッチオフモードの状態でオペレーターOPの特定の操作(例えば、充電端子(充電ケーブル)の接続)によってスイッチオフモードから充電モードに切り替わる。充電モードにおいて、制御部3Eは、充電用電源としての充電用バッテリから48VバッテリK1及び24VバッテリK2への充電を許容して充電を実行する。ここで、充電用バッテリは、外部電源であってもよく、電動ローラ1Eに積載可能なバッテリであってもよい。
【0158】
<トルクアップモード>
制御部3Eは、レディモードの状態で特定の入力操作が行われた場合に、レディモードからトルクアップモードに切り替わる。トルクアップモードにおいて、制御部3Eは、インバータJ(転圧輪用インバータ)のトルク出力上限値を一時的に上昇させる。
【0159】
<走行中充電モード>
制御部3Eは、レディモードの状態で特定の入力操作が行われた場合に、レディモードから走行中充電モードに切り替わる。走行中充電モードにおいて、制御部3Eは、走行中における充電用バッテリから走行中における48VバッテリK1及び24VバッテリK2への充電を許容する。ここで、充電用バッテリは、電動ローラ1Eに積載可能であり、電動ローラ1Eの走行に支障を来たさない。走行中充電モードにおいて、制御部3Eは、前後進レバー17が操作されて前進位置又は後進位置に設定されている場合に、車両を走行させることができる。また、走行中充電モードにおいて、制御部3Eは、電動モータMを駆動することによって電動ローラ1Eを走行可能状態とする。なお、制御部3Eは、走行中充電モードの状態において48VバッテリK1及び24VバッテリK2の充電率が所定の充電率(例えば、フル充電(SoC:100%))以上である場合又は所定の入力操作(充電用の端子(充電ケーブル)の接続解除)が行われた場合に、走行中充電モードを終了し、走行中充電モードからレディモード又は単なるランモードに切り替わる。ここで、制御部3Eは、BMU71によって検知及び算出された48VバッテリK1及び24VバッテリK2の各充電率を取得して判定に用いることができる。
【0160】
図32に示すように、本実施形態に係る制御部3Eは、傾斜補正部401を備えている。傾斜補正部401は、車両傾斜センサ302と、ディスプレイ18とを含んで構成されている。車両傾斜センサ302は、車両の傾斜角度及び傾斜方向を検知し、検知結果を制御部3Eに送信する装置である。車両傾斜センサ302は、車体フレーム2の一部(例えば、平らな部位)に設置され、車両の左右及び前後の傾斜角度及び傾斜方向を検知することができる。車両傾斜センサ302は、第四実施形態と同じものを用いてもよいし、別途設置してもよい。
【0161】
傾斜補正部401は、車両傾斜センサ302から得られた検知角度及び傾斜方向に応じて、インバータJに対して通常送信する駆動指示値に替えて、補正済駆動指示値を送信する部位である。補正済駆動指示値は、車両傾斜センサ302から得られた車両の傾斜角度、車両の傾斜方向、前後進レバー17の傾倒角度、前後進レバー17の傾き方向、車両の質量、電動モータMの性能、走行速度(停車時の処理の場合)等に基づいて補正係数を算出し、当該補正係数を基に補正済駆動指示値を算出する。若しくは、補正済駆動指示値は、制御部3Eの記憶部に予め格納された補正済駆動指示値ファイルに基づいて導出してもよい。補正済駆動指示値ファイルは、例えば、車両の傾斜角度、車両の傾斜方向、前後進レバー17の傾倒角度、前後進レバー17の傾き方向、車両の質量、電動モータMの性能、走行速度(停車時の処理の場合)等に基づいて予め設定されているデータファイルである。
【0162】
傾斜補正部401は、補正済駆動指示値を送信して電動モータMを制御することにより、傾斜地から発進する場合に、車両が所定時間落下したり、勢いよく発進したりしないようにすることができる。また、傾斜補正部401は、補正済駆動指示値を送信して電動モータMを制御することにより、傾斜地で停車する場合に、制動距離が長くなるのを防ぐことができる。以下に、状況に分けて傾斜補正部401について詳細に説明する。
【0163】
<傾斜地の発進時の処理>
図33は、第五実施形態に係る電動ローラの傾斜補正部の発進時をまとめた表である。図33に示すように、ここでは傾斜地に停車している電動ローラ1Eが発進する場合を例示している。図33の矢印は、電動ローラ1Eの進行方向を示している。ケース1は、停車状態から前進で登坂する場合を示している。ケース2は、停車状態から後進で降坂する場合を示している。ケース3は、停車状態から前進で降坂する場合を示している。ケース4は、停車状態から後進で登坂する場合を示している。なお、登坂とは、坂を上ることを言う。降坂とは、坂を下ることを言う。
【0164】
車両傾斜センサ302の検知結果は、車両の前後と関連付けて制御部3Eに送信される。よって、制御部3Eは、車両傾斜センサ302から送信される検知結果及び前後進レバー17の傾倒方向に基づいて、車両の状態がケース1~4のいずれに該当しているか認識することができる。制御部3Eは、当該状態(検知角度や傾斜方向等)をディスプレイ18に表示させてもよい。
【0165】
ケース1,4の「課題」に示すように、登坂・前進の場合又は登坂・後進の場合、平坦地と同じ駆動指示値であると車重(車両の質量)を支えきれないため、下り方向に車両が一定時間落下する(下がる)おそれがある。そこで、傾斜補正部401では、「発進時登坂・前進補正」又は「発進時登坂・後進補正」を行う。「発進時登坂・前進補正」、「発進時登坂・後進補正」では、前後進レバー17の傾倒角度に基づく通常の駆動指示値に替えて、通常の駆動指示値よりも大きい指示値となる補正済駆動指示値をインバータJ(転圧輪用インバータ)に送信する。これにより、車両が一定時間落下するのを防ぐことができる。換言すると、車両の傾斜角度、車両の傾斜方向、前後進レバー17の傾倒角度及び前後進レバー17の傾き方向に対して、当該車両の車重、電動モータMの性能等を考慮して車両が落下しないように補正済駆動指示値が設定されている。
【0166】
一方、ケース2,3の「課題」に示すように、降坂・後進の場合又は降坂・前進の場合、平坦地と同じ駆動指示値であると車重がある分車両が勢いよく発進し、オペレーターOPの想定よりも速度が大きくなってしまうおそれがある。そこで、傾斜補正部401では、「発進時降坂・後進補正」又は「発進時降坂・前進補正」を行う。「発進時降坂・後進補正」又は「発進時降坂・前進補正」では、前後進レバー17の傾倒角度に基づく通常の駆動指示値に替えて、通常の駆動指示値よりも小さい指示値となる補正済駆動指示値をインバータJ(転圧輪用インバータ)に送信する。これにより、車両が勢いよく発進するのを防ぐことができる。換言すると、車両の傾斜角度、車両の傾斜方向、前後進レバー17の傾倒角度、前後進レバー17の傾き方向に対して、当該車両の車重、電動モータMの性能等を考慮して車両が勢いよく発進しないように補正済駆動指示値が設定されている。
【0167】
なお、傾斜補正部401は、車両傾斜センサ302の検知結果において平坦地であると判定した場合は、通常の駆動指示値をインバータJ(転圧輪用インバータ)に送信する。つまり、平坦地と判定した場合は通常の処理を行い、傾斜地と判定した場合は傾斜地の発進時の処理を行う。平坦地であるか否かは、車両傾斜センサ302の傾斜角度がゼロである場合か若しくは、所定の傾斜角度未満である場合に設定すればよい。
【0168】
次に、本実施形態において停車状態から発進する際のフローについて説明する。図34に示すように、傾斜補正部401は、車両がレディモードか否か判定する(ステップS41)。車両がレディモードである場合(ステップS41のYes)、ステップS42に移行する。車両がレディモードでない場合(ステップS41のNo)、ステップS41に戻る。
【0169】
傾斜補正部401は、ステップS42において平坦地であるか否かを判定する(ステップS42)。車両が平坦地にいると判定した場合(ステップS42のYes)、ステップS43に移行し、車両が平坦地にいないと判定した場合(ステップS42のNo)、ステップS45に移行する。
【0170】
傾斜補正部401は、ステップS43において前後進レバー17の入力があるか否かを判定する。傾斜補正部401は、ステップS43において前後進レバー17の入力があると判定した場合(ステップS43のYes)、ステップS44に移行する。傾斜補正部401は、ステップS43において前後進レバー17の入力が無いと判定した場合(ステップS43のNo)、ステップS42に戻る。
【0171】
傾斜補正部401は、ステップS44において通常の駆動指示値(補正されていない駆動指示値)をインバータJ(転圧輪用インバータ)に送信し、処理を終了する。
【0172】
傾斜補正部401は、ステップS45において前後進レバー17の入力があるか否かを判定する。傾斜補正部401は、ステップS45において前後進レバー17の入力があると判定した場合(ステップS45のYes)、ステップS46に移行する。傾斜補正部401は、ステップS45において前後進レバー17の入力が無いと判定した場合(ステップS45のNo)、ステップS42に戻る。
【0173】
傾斜補正部401は、ステップS46において前後進レバー17の入力が前進であるか否かを判定する。前進である場合(ステップS46のYes)、ステップS47に移行する。前進でない場合(ステップS46のNo)、ステップS51に移行する。
【0174】
傾斜補正部401は、ステップS47において登坂であるか否かを判定する。登坂である場合(ステップS47のYes)、ステップS48に移行し、発進時登坂・前進補正を行う。傾斜補正部401は、前後進レバー17の傾倒角度、車両の検知角度及び車両の傾斜方向等に応じて補正係数を算出し、当該補正係数を基に補正済駆動指示値を算出するか、若しくは補正済駆動指示値ファイルに基づいて、発進時登坂・前進補正に対応する補正済駆動指示値をインバータJ(転圧輪用インバータ)に送信し(ステップS49)処理を終了する。当該処理は、図33におけるケース1に相当する。
【0175】
傾斜補正部401は、ステップS47において登坂でないと判定した場合(ステップS47のNo)、ステップS50に移行し、発進時降坂・前進補正を行う。傾斜補正部401は、前後進レバー17の傾倒角度、車両の検知角度及び車両の傾斜方向等に応じて補正係数を算出し、当該補正係数を基に補正済駆動指示値を算出するか、若しくは補正済駆動指示値ファイルに基づいて、発進時降坂・前進補正に対応する補正済駆動指示値をインバータJ(転圧輪用インバータ)に送信し(ステップS49)処理を終了する。当該処理は、図33におけるケース3に相当する。
【0176】
傾斜補正部401は、ステップS51において登坂であるか否かを判定する。登坂である場合(ステップS51のYes)、ステップS52に移行し、発進時登坂・後進補正を行う。傾斜補正部401は、前後進レバー17の傾倒角度、車両の検知角度及び車両の傾斜方向等に応じて補正係数を算出し、当該補正係数を基に補正済駆動指示値を算出するか、若しくは補正済駆動指示値ファイルに基づいて、発進時登坂・後進補正に対応する補正済駆動指示値をインバータJ(転圧輪用インバータ)に送信し(ステップS49)処理を終了する。当該処理は、図33におけるケース4に相当する。
【0177】
傾斜補正部401は、ステップS51において登坂でないと判定した場合(ステップS51のNo)、ステップS53に移行し、発進時降坂・後進補正を行う。傾斜補正部401は、前後進レバー17の傾倒角度、車両の検知角度及び車両の傾斜方向等に応じて補正係数を算出し、当該補正係数を基に補正済駆動指示値を算出するか、若しくは補正済駆動指示値ファイルに基づいて、発進時降坂・後進補正に対応する補正済駆動指示値をインバータJ(転圧輪用インバータ)に送信し(ステップS49)処理を終了する。当該処理は、図33におけるケース2に相当する。
【0178】
以上説明した本実施形態の電動ローラ1Eによれば、傾斜補正部401により、ケース1において発進時登坂・前進補正を行い、ケース4において発進時登坂・後進補正を行うことで車両が落下するのを防ぐことができる。つまり、傾斜地の検知角度等に応じて平坦地よりも傾斜地の方がインバータJ(転圧輪用インバータ)に送信する駆動指示値が大きくなっているため、車両が落下するのを防ぐことができる。
【0179】
また、本実施形態の電動ローラ1Eによれば、傾斜補正部401により、ケース2において発進時降坂・後進補正を行い、ケース3において発進時降坂・前進補正を行うことで車両が勢いよく発進するのを防ぐことができる。つまり、傾斜地の検知角度等に応じて平坦地よりも傾斜地の方がインバータJ(転圧輪用インバータ)に送信する駆動指示値が小さくなっているため、車両が勢いよく発進するのを防ぐことができる。
【0180】
<傾斜地の停車時の処理>
図35は、第五実施形態に係る電動ローラの傾斜補正部の停車時をまとめた表である。図35に示すように、ここでは走行している電動ローラ1Eが傾斜地で停車する場合を例示している。図35の矢印は、電動ローラ1Eの進行方向を示している。ケース5は、前進で登坂している状態で停車する場合を示している。ケース6は、後進で降坂している状態で停車する場合を示している。ケース7は、前進で降坂している状態で停車する場合を示している。ケース8は、後進で登坂している状態で停車する場合を示している。
【0181】
制御部3Eは、車両傾斜センサ302から送信される検知結果及び前後進レバー17の傾倒方向に基づいて、車両の状態がケース5~8のいずれに該当しているか認識することができる。制御部3Eは、当該状態(検知角度や傾斜方向等)をディスプレイ18に表示させてもよい。
【0182】
ケース5,8に示すように、登坂・前進から停車する場合、若しくは登坂・後進から停車する場合、いずれの場合も傾斜地である分、平坦地よりも制動距離が短くなる。そのため、当該ケースにおいては制動についての課題は無い。
【0183】
一方、ケース6,7の「課題」に示すように、降坂・後進の場合又は降坂・前進の場合、平坦地と同じ駆動指示値であると車重を支えきれないため、平坦地よりも制動距離が長くなるおそれがある。換言すると、停車時に発生する車両の慣性エネルギーを抑えることができず、車両が想定以上に落下する現象が発生する。
そこで、傾斜補正部401では、「停車時降坂・後進補正」又は「停車時降坂・前進補正」を行う。「停車時降坂・後進補正」、「停車時降坂・前進補正」では、前後進レバー17が傾倒した状態から中立位置となる場合の通常の駆動指示値に替えて、所定の時間登り方向の駆動指示値を送信する(当該制御を「逆方向制御」とも言う)。
【0184】
例えば、平坦地において速度が10km/hで走行している状態から停車する場合、前後進レバー17を傾倒させた状態から中立位置に位置させる。この時、制御部はインバータJ(転圧輪用インバータ)への駆動指示値を「10km/h」⇒「0km/h」とした後、所定時間経過後に無励磁ブレーキ62を作動させる。
【0185】
一方、傾斜地において速度が10km/hで走行している状態から停車する場合、前後進レバー17を傾倒させた状態から中立位置に位置させる。この時、インバータJ(転圧輪用インバータ)への駆動指示値を「10km/h」⇒「逆方向2km/h」⇒「0km/h」とした後、所定時間経過後に無励磁ブレーキ62を作動させる。
【0186】
換言すると、「停車時降坂・後進補正」の場合の補正済駆動指示値は、「後進10km/h」⇒「前進2km/h」⇒「0km/h」とした後、所定時間経過後に無励磁ブレーキ62(パーキングブレーキ)を作動させる。
また、「停車時降坂・前進補正」の場合の補正済駆動指示値は、「前進10km/h」⇒「後進2km/h」⇒「0km/h」とした後、所定時間経過後に無励磁ブレーキ62(パーキングブレーキ)を作動させる。
【0187】
つまり、双方の場合とも、逆方向(登り方向)に所定の時間駆動させることで、慣性エネルギーに抵抗し制動距離が長くなるのを防ぐことができる。逆方向制御の時間や速度、つまり、「停車時降坂・後進補正」、「停車時降坂・前進補正」における補正済駆動指示値は、走行速度、車両の傾斜角度、車両の傾斜方向、前後進レバー17の傾倒角度、前後進レバー17の傾き方向、車両の質量、電動モータMの性能等に基づいて補正係数を算出し、当該補正係数を基に補正済駆動指示値を算出する。若しくは、補正済駆動指示値は、制御部3Eの記憶部に予め格納された補正済駆動指示値ファイルに基づいて導出してもよい。補正済駆動指示値ファイルは、例えば、走行速度、車両の傾斜角度、車両の傾斜方向、前後進レバー17の傾倒角度、前後進レバー17の傾き方向、車両の質量、電動モータMの性能等に基づいて予め設定されているデータファイルである。例えば、走行状態から停車する際において、走行速度が大きい、検知角度が大きい及び/又は車重が大きいほど、逆方向制御の時間が長く又は逆方向制御の設定速度が大きくなるように設定されている。
【0188】
なお、前記したニュートラルブレーキを行った後、制御部4Eは、インバータJ(転圧輪用インバータ)から電動モータMへの制御をフリー状態とするモーターフリー制御を行ってもよい。つまり、モーターフリー制御は、パーキングブレーキ(無励磁ブレーキ62)の作動中に、インバータJと電動モータMとの間の制御を切断するものある。モーターフリー制御によれば、パーキングブレーキ作動中の電動モータMの負荷を実質的に無くすことができるため、電力消費を減らすことができる。
【0189】
また、傾斜補正部401は、車両傾斜センサ302の検知結果において平坦地であると判定した場合は、通常の駆動指示値をインバータJ(転圧輪用インバータ)に送信する。つまり、平坦地と判定した場合は通常の処理を行い、傾斜地と判定した場合は傾斜地の停車時の処理を行う。平坦地であるか否かは、車両傾斜センサ302の傾斜角度がゼロである場合か若しくは、所定の傾斜角度未満である場合に設定すればよい。
【0190】
次に、本実施形態において走行状態から停車する際のフローについて説明する。図36に示すように、傾斜補正部401は、車両がランモードか否か判定する(ステップS61)。車両がランモードである場合(ステップS61のYes)、ステップS62に移行する。車両がランモードでない場合(ステップS61のNo)、ステップS61に戻る。
【0191】
傾斜補正部401は、ステップS62において平坦地であるか否かを判定する(ステップS62)。車両が平坦地にいると判定した場合(ステップS62のYes)、ステップS63に移行する。車両が平坦地にいないと判定した場合(ステップS62のNo)、ステップS65に移行する。
【0192】
傾斜補正部401は、ステップS63において前後進レバー17が中立位置(N)に位置するか否かを判定する。傾斜補正部401は、前後進レバー17が中立位置(N)に位置すると判定した場合(ステップS63のYes)、ステップS64に移行する。傾斜補正部401は、前後進レバー17が中立位置(N)に位置しないと判定した場合(ステップS64のNo)、ステップS62に戻る。
【0193】
傾斜補正部401は、ステップS64において通常の駆動指示値をインバータJ(転圧輪用インバータ)に送信し処理を終了する。つまり、平坦地における停車であるため傾斜補正部401は、通常の停車処理を行う。
【0194】
傾斜補正部401は、ステップS65において前後進レバー17が中立位置(N)に位置するか否かを判定する。傾斜補正部401は、前後進レバー17が中立位置(N)に位置すると判定した場合(ステップS65のYes)、ステップS66に移行する。傾斜補正部401は、前後進レバー17が中立位置(N)に位置しないと判定した場合(ステップS65のNo)、ステップS62に戻る。
【0195】
傾斜補正部401は、ステップS66において車両が前進した状態から停車するものであるか否かを判定する。傾斜補正部401は、前進した状態から停車するものであると判定した場合(ステップS66のYes)、ステップS67に移行する。傾斜補正部401は、前進した状態から停車するものではないと判定した場合(ステップS66のNo)、ステップS71に移行する。
【0196】
傾斜補正部401は、ステップS67において登坂であるか否かを判定する。傾斜補正部401は、登坂であると判定した場合(ステップS67のYes)、ステップS68に移行する。傾斜補正部401は、ステップS68において通常の駆動指示値をインバータJ(転圧輪用インバータ)に送信し、処理を終了する。当該処理は、図35のケース5に相当する。
【0197】
傾斜補正部401は、ステップS67において登坂でないと判定した場合(ステップS67のNo)、ステップS69に移行する。傾斜補正部401は、ステップS69において停車時降坂・前進補正を行う。傾斜補正部401は、走行速度、車両傾斜センサ302から得られた検知角度及び傾斜方向等に基づいて補正係数を算出し、当該補正係数を基に補正済駆動指示値を算出するか、若しくは補正済駆動指示値ファイルに基づいて、停車時降坂・前進補正に対応する補正済駆動指示値をインバータJ(転圧輪用インバータ)に送信し(ステップS70)処理を終了する。当該処理は、図35におけるケース7に相当する。
【0198】
傾斜補正部401は、ステップS71において登坂であるか否かを判定する。傾斜補正部401は、登坂であると判定した場合(ステップS71のYes)、ステップS72に移行する。傾斜補正部401は、ステップS71において登坂でないと判定した場合(ステップS71のNo)、ステップS73に移行する。
【0199】
傾斜補正部401は、ステップS72において通常の駆動指示値(補正されていない駆動指示値)をインバータJ(転圧輪用インバータ)に送信し、処理を終了する。当該処理図35のケース8に相当する。
【0200】
傾斜補正部401は、ステップS73において停車時降坂・後進補正を行う。傾斜補正部401は、走行速度、車両傾斜センサ302から得られた検知角度及び傾斜方向等に基づいて補正係数を算出し、当該補正係数を基に補正済駆動指示値を算出するか、若しくは補正済駆動指示値ファイルに基づいて、停車時降坂・後進補正に対応する補正済駆動指示値をインバータJ(転圧輪用インバータ)に送信し(ステップS74)処理を終了する。当該処理は、図35におけるケース6に相当する。
【0201】
以上説明した本実施形態の電動ローラ1Eによれば、傾斜補正部401により、ケース6において停車時降坂・後進補正を行い、ケース7において停車時降坂・前進補正を行うことで制動距離が長くなるのを防ぐことができる。つまり、前後進レバー17が傾倒した状態から中立位置に位置した際に、逆方向制御を入れることで慣性エネルギーに抗して車両を短い距離で、かつ、転圧面を傷めることなく停車させることができる。
【0202】
なお、傾斜補正部401は、走行中から停車する時において、停車した後に前記車両が下がるのを抑制するために、前記転圧輪用電動モータが0回転保持をするように補正済駆動指示値を出力するようにしてもよい。
つまり、車両傾斜センサ302が車両の後部が下側に傾斜し、かつ、前後進レバー17が後進位置から中立位置に戻ることを検知した場合(ケース6)、若しくは、車両傾斜センサ302が車両の前部が下側に傾斜し、かつ、前後進レバー17が前進位置から中立位置に戻ることを検知した場合(ケース7)、停車した後に車両が下がるのを抑制するために、電動モータM(転圧輪用電動モータ)が0回転保持をするようにインバータJ(転圧輪用インバータ)に補正済駆動指示値を出力する(出力し続ける)ようにしてもよい。
【0203】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明の趣旨に反しない範囲において、適宜設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0204】
1 電動ローラ
2 車体フレーム
3 制御部(VCU)
11 前部フレーム
12 後部フレーム
17 前後進レバー
18 ディスプレイ
19 ステアリング
51 オービットロール
52 電動油圧ポンプ
53 フィルタ
54 アキュームレータ
55 油圧シリンダ
61 励磁ブレーキ
62 無励磁ブレーキ
63 解除レバー
71 バッテリ管理部(BMU)
301 傾斜管理部
302 車両傾斜センサ
401 傾斜補正部
J インバータ
K バッテリ
K1 48Vバッテリ
K2 24Vバッテリ
K3 12Vバッテリ
M 電動モータ
R1 前輪
R2 後輪
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36