(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016668
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】玉軸受
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240131BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240131BHJP
F16C 33/62 20060101ALI20240131BHJP
C22C 38/44 20060101ALI20240131BHJP
C21D 9/40 20060101ALN20240131BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
F16C19/06
F16C33/62
C22C38/44
C21D9/40 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118961
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川井 崇
(72)【発明者】
【氏名】大木 力
【テーマコード(参考)】
3J701
4K042
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA62
3J701BA09
3J701BA10
3J701BA69
3J701BA70
3J701DA02
3J701DA03
3J701EA03
3J701EA10
3J701FA44
3J701XB33
3J701XE13
3J701XE16
3J701XE19
3J701XE30
4K042AA22
4K042BA13
4K042BA14
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA10
4K042DA01
4K042DA02
4K042DC02
4K042DE03
4K042DE06
(57)【要約】
【課題】軸受部品の熱処理に要するコストを低減しつつ、使用に伴う軸受部品の寸法変化を抑制可能な玉軸受を提供する。
【解決手段】玉軸受は、内輪と、外輪と、玉とを備える。内輪、外輪及び玉のうちの少なくとも1つの軸受部品は接触面を有する。軸受部品は、焼入れ及び焼戻しの行われた鋼製である。鋼は、0.90質量パーセント以上1.20質量パーセント以下の炭素と、0.35質量パーセント以上0.80質量パーセント以下のシリコンと、0.80質量パーセント以上1.20質量パーセント以下のマンガンと、0.30質量パーセント未満のニッケルと、0.80質量パーセント以上1.30質量パーセント以下のクロムと、0.10質量パーセント未満のモリブデンと、残部をなす鉄及び不可避不純物とを含有している。鋼中のシリコン濃度を鋼中のマンガン濃度で除した値は、0.51未満になっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、
外輪と、
玉とを備え、
前記内輪、前記外輪及び前記玉のうちの少なくとも1つの軸受部品は、接触面を有し、
前記軸受部品は、焼入れ及び焼戻しの行われた鋼製であり、
前記鋼は、0.90質量パーセント以上1.20質量パーセント以下の炭素と、0.35質量パーセント以上0.80質量パーセント以下のシリコンと、0.80質量パーセント以上1.20質量パーセント以下のマンガンと、0.30質量パーセント未満のニッケルと、0.80質量パーセント以上1.30質量パーセント以下のクロムと、0.10質量パーセント未満のモリブデンと、残部をなす鉄及び不可避不純物とを含有しており、
前記鋼中のシリコン濃度を前記鋼中のマンガン濃度で除した値は、0.51未満になっており、
前記鋼中の残留オーステナイト量は、13体積パーセント以上35体積パーセント未満である、玉軸受。
【請求項2】
前記接触面と前記接触面からの深さ方向における距離が10μmとなる位置との間における前記鋼中の平均窒素濃度は、0.01質量パーセント未満である、請求項1に記載の玉軸受。
【請求項3】
前記軸受部品の肉厚は、30mm以下である、請求項1又は請求項2に記載の玉軸受。
【請求項4】
前記軸受部品は、前記内輪又は前記外輪であり、
前記鋼の硬さは、59HRC以上65HRC以上である、請求項3に記載の玉軸受。
【請求項5】
前記軸受部品は、前記玉であり、
前記鋼の硬さは、60HRC以上68HRC以下である、請求項3に記載の玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特開2001-3139号(特許文献1)には、転がり軸受(円錐ころ軸受)が記載されている。特許文献1に記載の転がり軸受は、内輪と、外輪と、複数の転動体(円錐ころ)とを有している。内輪は、接触面として、転動体に接触する内輪軌道面を有している。外輪は、接触面として、転動体に接触する外輪軌道面を有している。転動体は、接触面として、内輪軌道面及び外輪軌道面に接触する外周面を有している。特許文献1に記載の転がり軸受では、内輪、外輪及び転動体の接触面に浸窒が行われている。特許文献1に記載の転がり軸受では、内輪、外輪及び転動体の接触面近傍の表層部における鋼中の残留オーステナイト量が20体積パーセント以上40体積パーセント以下となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の転がり軸受では、内輪、外輪及び転動体が浸窒、焼入れ及び焼戻しの行われた鋼製であり、熱処理に要するコストが高くなる。また、特許文献1に記載の転がり軸受では、内輪、外輪及び転動体の接触面近傍の表層部における鋼中の残留オーステナイト量が20体積パーセント以上40体積パーセント以下となっているため、高温環境下で使用された場合に、残留オーステナイトの分解に伴う寸法変化が大きくなることが懸念される。
【0005】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。より具体的には、本発明は、軸受部品の熱処理に要するコストを低減しつつ、使用に伴う軸受部品の寸法変化を抑制可能な玉軸受を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の玉軸受は、内輪と、外輪と、玉とを備える。内輪、外輪及び玉のうちの少なくとも1つの軸受部品は、接触面を有する。軸受部品は、焼入れ及び焼戻しの行われた鋼製である。鋼は、0.90質量パーセント以上1.20質量パーセント以下の炭素と、0.35質量パーセント以上0.80質量パーセント以下のシリコンと、0.80質量パーセント以上1.20質量パーセント以下のマンガンと、0.30質量パーセント未満のニッケルと、0.80質量パーセント以上1.30質量パーセント以下のクロムと、0.10質量パーセント未満のモリブデンと、残部をなす鉄及び不可避不純物とを含有している。鋼中のシリコン濃度を鋼中のマンガン濃度で除した値は、0.51未満になっている。鋼中の残留オーステナイト量は、13体積パーセント以上35体積パーセント未満である。
【0007】
上記の玉軸受では、接触面と接触面からの深さ方向における距離が10μmとなる位置との間における鋼中の平均窒素濃度が、0.01質量パーセント未満であってもよい。
【0008】
上記の玉軸受では、軸受部品の肉厚が、30mm以下であってもよい。上記の玉軸受では、軸受部品は、内輪又は外輪であってもよい。鋼の硬さは、59HRC以上65HRC以上であってもよい。上記の玉軸受では、軸受部品が、玉であってもよい。鋼の硬さは、60HRC以上68HRC以下であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
上記の玉軸受によると、軸受部品の熱処理に要するコストを低減しつつ、使用に伴う軸受部品の寸法変化を抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】玉軸受100の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態の詳細を、図面を参照しながら説明する。以下の図面では、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さないものとする。実施形態に係る玉軸受を、玉軸受100とする。
【0012】
(玉軸受100の構成)
以下に、玉軸受100の構成を説明する。
【0013】
図1は、玉軸受100の断面図である。
図1に示されるように、玉軸受100は、深溝玉軸受である。但し、玉軸受100は、深溝玉軸受に限られるものではなく、他の玉軸受であってもよい。玉軸受100は、例えば、自動車駆動ユニット(デファレンシャル、トランスミッション、EV(Electric Vehicle)用減速機、HEV(Hybrid Electric Vehicle)用減速機等)、産業機械用装置(ロボット用減速機、建設機械、トラクター等)に使用される玉軸受である。
【0014】
玉軸受100は、内輪10と、外輪20と、複数の玉30と、保持器40とを有している。内輪10の中心軸を、中心軸Aとする。中心軸Aの方向を、軸方向とする。中心軸Aを通り、かつ中心軸Aに直交する方向を、径方向とする。軸方向に沿って見た際に中心軸Aを中心とする円周に沿う方向を、周方向とする。
【0015】
内輪10は、リング状の部材である。内輪10は、第1幅面10aと、第2幅面10bと、内径面10cと、外径面10dとを有している。第1幅面10a及び第2幅面10bは、軸方向における内輪10の端面である。第1幅面10aは軸方向における一方側(
図1中では、左側)を向いており、第2幅面10bは軸方向における他方側(
図1中では、右側)を向いている。すなわち、第2幅面10bは、第1幅面10aの軸方向における反対面である。
【0016】
内径面10cは、周方向に延在している。内径面10cは、中心軸A側を向いている。すなわち、内径面10cは、径方向における内側を向いている。内径面10cの軸方向における一方端及び軸方向における他方端は、それぞれ、第1幅面10a及び第2幅面10bに連なっている。図示されていないが、内輪10は、内径面10cにおいて軸に嵌め合わされる。
【0017】
外径面10dは、周方向に延在している。外径面10dは、中心軸Aとは反対側を向いている。すなわち、外径面10dは、径方向における外側を向いており、径方向における内径面10cの反対面である。外径面10dの軸方向における一方端及び軸方向における他方端は、それぞれ、第1幅面10a及び第2幅面10bに連なっている。
【0018】
外径面10dは、軌道面10daを有している。軌道面10daは、玉30に接触する外径面10dの部分である。すなわち、軌道面10daは、内輪10の接触面である。外径面10dは、軌道面10daにおいて、内径面10c側に窪んでいる。軌道面10daは、周方向に直交する断面視において、例えば部分円弧状である。軌道面10daは、外径面10dの軸方向における中央部にある。
【0019】
外輪20は、リング状の部材である。外輪20は、第1幅面20aと、第2幅面20bと、内径面20cと、外径面20dとを有している。第1幅面20a及び第2幅面20bは、軸方向における外輪20の端面である。第1幅面20aは、軸方向における一方側を向いている。第2幅面20bは、軸方向における他方側を向いている。すなわち、第2幅面20bは、第1幅面20aの軸方向における反対面である。
【0020】
内径面20cは、周方向に延在している。内径面20cは、中心軸A側を向いている。すなわち、内径面20cは、径方向における内側を向いている。内径面20cの軸方向における一方端及び軸方向における他方端は、それぞれ、第1幅面20a及び第2幅面20bに連なっている。外輪20は、内径面20cが外径面10dと径方向において間隔を空けて対向するように配置されている。
【0021】
外径面20dは、周方向に延在している。外径面20dは、中心軸Aとは反対側を向いている。すなわち、外径面20dは、径方向における外側を向いており、径方向における内径面20cの反対面である。外径面20dの軸方向における一方端及び軸方向における他方端は、それぞれ、第1幅面20a及び第2幅面20bに連なっている。図示されていないが、外輪20は、外径面20dにおいてハウジングに嵌め合わされる。
【0022】
内径面20cは、軌道面20caを有している。軌道面20caは、玉30に接触する内径面20cの部分である。すなわち、軌道面20caは、外輪20の接触面である。内径面20cは、軌道面20caにおいて、外径面20d側に窪んでいる。軌道面20caは、周方向に直交する断面視において、例えば部分円弧状である。軌道面20caは、内径面20cの軸方向における中央部にある。軌道面20caは、径方向において、軌道面10daと間隔を空けて対向している。
【0023】
玉30は、球状である。玉30は、外径面10dと内径面20cとの間に配置されている。より具体的には、玉30は、軌道面10daと軌道面20caとの間に配置されている。複数の玉30は、周方向に並べられている。玉30は、表面30aを有している。表面30aは、軌道面10da及び軌道面20caに接触している。すなわち、表面30aは、玉30の接触面である。
【0024】
保持器40は、外径面10dと内径面20cとの間に配置されている。保持器40は、隣り合う2つの玉30の間の周方向における間隔が一定範囲内となるように、複数の玉30を保持している。
【0025】
内輪10の肉厚、外輪20の肉厚及び玉30の肉厚は、15mm以上であってもよい。内輪10の肉厚、外輪20の肉厚及び玉30の肉厚は、20mm以上であってもよい。内輪10の肉厚、外輪20の肉厚及び玉30の肉厚は、例えば、30mm以下である。内輪10の肉厚は、内輪10の外径と内径との差を2で除した値である。外輪20の肉厚は、外輪20の外径と内径との差を2で除した値である。玉30の肉厚は、玉30の直径である。玉軸受100では、ピッチ円径が、例えば15mm以上である。ピッチ円径は、径方向における中心軸Aと玉30の中心との間の距離の2倍である。
【0026】
内輪10、外輪20及び玉30は、焼入れ及び焼戻しが行われた鋼製である。鋼は、表1に示されている組成を有している。より具体的には、鋼は、0.90質量パーセント以上1.20質量パーセント以下の炭素と、0.35質量パーセント以上0.80質量パーセント以下のシリコンと、0.80質量パーセント以上1.20質量パーセント以下のマンガンと、0.30質量パーセント未満のニッケルと、0.80質量パーセント以上1.30質量パーセント以下のクロムと、0.10質量パーセント未満のモリブデンとを含有している。鋼の残部は、鉄及び不可避不純物である。なお、鋼は、ニッケル及びモリブデンを含有していなくてもよい。
【0027】
【0028】
鋼中では、シリコン濃度をマンガン濃度で除した値が0.51未満になっている。鋼中のシリコン濃度が低くなると、鉄の酸化物の形成が抑制され、耐水素脆性が改善される。鋼中のマンガン濃度が高くなると、焼入れ性が改善される。また、鋼中のマンガン濃度が高くなると、マンガンが硫黄と結合して硫化マンガンとなることにより硫黄が固定されるため、硫黄の粒界偏析が抑制され、鋼の強度低下が抑制される。さらに、鋼中のマンガン濃度が高くなると、鋼の延性-脆性繊維温度が低下して鋼の靭性が改善される。このような観点から、シリコン濃度をマンガン濃度で除した値が0.51未満とされている。
【0029】
内輪10、外輪20及び玉30には浸窒が行われていないため、内輪10、外輪20及び玉30を構成している鋼には、接触面から窒素が導入されていない。より具体的には、内輪10、外輪20及び玉30を構成している鋼中では、接触面と接触面からの深さ方向における距離が10μmとなる位置との間における平均窒素濃度が0.01質量パーセント未満になっている。
【0030】
内輪10、外輪20及び玉30を構成している鋼中の残留オーステナイト量は、13体積パーセント以上35体積パーセント未満である。内輪10、外輪20及び玉30を構成している鋼中の残留オーステナイト量は、好ましくは13体積パーセント以上20体積パーセント未満である。鋼中の残留オーステナイト量は、X線回折法により測定される。すなわち、鋼中の残留オーステナイト量は、X線プロファイルにおけるオーステナイトのピーク強度を鋼中のオーステナイト以外のピーク強度の和で除することにより求められる。
【0031】
軸受空間(外径面10dと内径面20cとの間の空間)には、潤滑油が供給されていてもよい。潤滑油中の異物量は、0.35g/L以下であることが好ましい。
【0032】
内輪10及び外輪20を構成している鋼の硬さは、接触面において、59HRC以上65HRC以下である。内輪10及び外輪20を構成している鋼の硬さは、接触面以外の箇所においても、59HRC以上65HRC以下の範囲内にある。すなわち、内輪10及び外輪20を構成している鋼には、不完全焼入れが生じていない。玉30を構成している鋼の硬さは、接触面において、60HRC以上68HRC以下である。玉30を構成している鋼の硬さは、接触面以外の箇所においても、60HRC以上68HRC以下である。すなわち、玉30を構成している鋼には、不完全焼入れが生じていない。
【0033】
内輪10、外輪20及び玉30を構成している鋼の硬さは、JIS規格(JIS Z 2245:2016)に規定されているロックウェル硬さ試験法にしたがって測定されるものとする。但し、玉30を構成している鋼の硬さは、平面硬さに換算される。
【0034】
(玉軸受100の製造方法)
以下に、玉軸受100の製造方法を説明する。
【0035】
図2は、玉軸受100の製造方法を示す工程図である。
図2に示されるように、玉軸受100の製造方法は、準備工程S1と、焼入れ工程S2と、焼戻し工程S3と、後処理工程S4と、組み立て工程S5とを有している。
【0036】
準備工程S1では、加工対象部材が準備される。内輪10及び外輪20のための加工対象部材は、リング状の部材である。玉30のための加工対象部材は、球状の部材である。加工対象部材は、表1に示され、かつシリコン濃度をマンガン濃度で除した値が0.51未満である組成の鋼で形成されている。
【0037】
焼入れ工程S2は、準備工程S1の後に行われる。焼入れ工程S2は、加熱保持工程と冷却工程とを有している。加熱保持工程は、加工対象部材をA1変態点以上の温度に保持することにより行われる。冷却工程は加熱保持工程の後に行われる。冷却工程は、加工対象部材をMS変態点以下の温度に冷却することにより行われる。加工対象部材を構成している鋼中の残留オーステナイト量は、冷却工程における冷却速度により調整される。
【0038】
加工対象部材は、表1に示され、かつシリコン濃度をマンガン濃度で除した値が0.51未満である組成の鋼で構成されているため、加工対象部材の肉厚が大きくても、焼入れ工程S2において不完全焼入れを起こすことなく加工対象部材の焼入れができる。焼戻し工程S3は、焼入れ工程S2の後に行われる。焼戻し工程S3は、加工対象部材をA1変態点未満の温度で保持した後に放冷することにより行われる。
【0039】
後処理工程S4は、焼戻し工程S3の後に行われる。後処理工程S4では、加工対象部材に対する研削及び研磨が行われる。これにより、加工対象部材が内輪10、外輪20及び玉30となる。組み立て工程S5は、後処理工程S4の後に行われる。組み立て工程S5では、内輪10、外輪20及び玉30が、保持器40とともに組み立てられる。以上により、
図1に示される構造の玉軸受100が形成される。
【0040】
(玉軸受100の効果)
以下に、玉軸受100の効果を説明する。
【0041】
玉軸受100では、内輪10、外輪20及び玉30を構成している鋼に対して、浸窒が行われていない。そのため、玉軸受100では、内輪10、外輪20及び玉30を製造するために特殊な熱処理が行われないことになり、内輪10、外輪20及び玉30を製造するための熱処理のコストを低減することができる。
【0042】
玉軸受100では、内輪10、外輪20及び玉30を構成している鋼中の残留オーステナイト量が13体積パーセント以上35体積パーセント未満であるため、玉軸受100の使用に伴う残留オーステナイトの分解に起因する寸法変化が抑制されている。
【0043】
なお、内輪10、外輪20及び玉30を構成している鋼中の残留オーステナイト量を接触面において大きくすることは、圧痕起点型の剥離に対する耐久性を高める上で有効である。内輪10、外輪20及び玉30を構成している鋼中の残留オーステナイト量は13体積パーセント以上35体積パーセント未満であるが、例えば潤滑油中の異物量が0.35g/L以下となる潤滑環境下では、接触面における耐久性(例えば、異物噛み込みによる圧痕起点型の剥離に対する耐久性)を確保することができる。
【0044】
例えばEV用の減速機では、平行3軸の構造になっていることが多いため、軸方向における玉軸受100の寸法に制限がある一方で径方向における玉軸受100の寸法(内輪10、外輪20及び玉30の肉厚)を大きくして玉軸受100の負荷容量を高めることが求められる。玉軸受100では、内輪10、外輪20及び玉30が表1に示されており、かつシリコン濃度をマンガン濃度で除した値が0.51未満となる組成の鋼で形成されているため、鋼の焼入れ性が高く、内輪10、外輪20及び玉30の肉厚が大きくても不完全焼入れを起こさないようにすることができる。
【0045】
玉30は、表1に示される組成以外の鋼、例えばJIS規格に定められている高炭素クロム軸受鋼であるSUJ2製であってもよい。玉30に対しては、上記のような焼入れ・焼戻しではなく、窒素源を含まない雰囲気中での普通焼入れ・焼戻しが行われてもよい。玉30の肉厚は通常サイズであってもよく、内輪10及び外輪20の肉厚のみを大きくしてもよい。玉30は、セラミックス材料製であってもよい。
【0046】
以上のように本発明の実施形態について説明を行ったが、上記の実施形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は、上記の実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むことが意図される。
【符号の説明】
【0047】
A 中心軸、10 内輪、10a 第1幅面、10b 第2幅面、10c 内径面、10d 外径面、10da 軌道面、20 外輪、20a 第1幅面、20b 第2幅面、20c 内径面、20ca 軌道面、20d 外径面、30 玉、30a 表面、40 保持器、100 玉軸受、S1 準備工程、S2 焼入れ工程、S3 焼戻し工程、S4 後処理工程、S5 組み立て工程。