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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166681
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 29/10 20060101AFI20241122BHJP
   H01Q 3/08 20060101ALI20241122BHJP
   H01Q 21/24 20060101ALI20241122BHJP
   H01Q 19/06 20060101ALI20241122BHJP
   H01Q 19/10 20060101ALI20241122BHJP
   H04B 17/15 20150101ALI20241122BHJP
   H04B 17/29 20150101ALI20241122BHJP
【FI】
G01R29/10 E
H01Q3/08
H01Q21/24
H01Q19/06
H01Q19/10
H04B17/15
H04B17/29
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082929
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 友彦
【テーマコード(参考)】
5J020
5J021
【Fターム(参考)】
5J020AA02
5J020AA03
5J020BA06
5J020BA10
5J020BA19
5J020BB01
5J020DA06
5J021AB07
5J021BA01
5J021BA03
5J021DA07
5J021JA05
5J021JA10
(57)【要約】
【課題】フィールド試験とほぼ同等の複数の基地局とDUTとの通信環境の構築が可能な試験装置を提供する。
【解決手段】被試験アンテナを有するDUT100の通信性能を測定する試験装置であって、周囲の電波環境に影響されない内部空間を有する電波暗箱と、内部空間に収容され、DUTの通信性能を測定するための無線信号を被試験アンテナとの間で送信または受信する試験用アンテナと、アジマス方向に回転移動可能でありかつDUTに対して等距離にて試験用アンテナをエレベーション方向に回転移動可能にそれぞれ支持するメインステージ70およびサブステージ80を備えるアンテナ移動機構60とを具備する。アンテナ移動機構は、メインステージ70およびサブステージ80が整列するようこれら2つのステージの少なくとも一方をアジマス方向に回転移動させて試験用アンテナを2つのステージ間で移動させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験アンテナ(110)を有する被試験対象(100)の通信性能を測定する試験装置(1)であって、
周囲の電波環境に影響されない内部空間(51)を有する電波暗箱(50)と、
前記内部空間に収容され、前記被試験対象の通信性能を測定するための無線信号を前記被試験アンテナとの間で送信または受信する試験用アンテナ(6)と、
アジマス方向に回転移動可能でありかつ前記被試験対象に対して等距離にて前記試験用アンテナをエレベーション方向に回転移動可能にそれぞれ支持する2つのステージ(70,80)を備え、前記2つのステージが整列するよう前記2つのステージの少なくとも一方を前記アジマス方向に回転移動させて前記試験用アンテナを前記2つのステージ間で移動させるアンテナ移動機構(60)と、
を備えることを特徴とする試験装置。
【請求項2】
前記アンテナ移動機構は、
台座(61)の平坦な第1面(61a)上に設けられた円形の第1レール(62)と、
前記第1レール上を前記アジマス方向に回転移動できるとともに、第1支持具(74)における前記第1面に垂直でかつ平坦な第2面(74a)上に設けられた円弧状の第2レール(75)を有する第1ステージ(70)と、
前記第1レール上を前記アジマス方向に回転移動できるとともに、第2支持具(84)における前記第1面に垂直でかつ平坦な第3面(84a)上に設けられた円弧状の第3レール(85)を有する第2ステージ(80)と、
前記第2レールおよび前記第3レール上を前記エレベーション方向に回転移動できるとともに、前記試験用アンテナが取り付けられたアンテナユニット(90)と、を備え、
前記アンテナユニットが前記第2レールと前記第3レールとの間で相互に移動できるように、前記第2面と前記第3面が平行になるよう前記第1ステージと前記第2ステージが配置されたとき、前記第2レールの一端部(75a)と前記第3レールの一端部(85a)が近接して配置される、請求項1に記載の試験装置。
【請求項3】
前記第1ステージは、前記第1支持具(74)の前記第2面上に前記第2レールに沿って前記第2レールから間隔を開けて配置された円弧状の第1ラック(76)を備え、
前記第2ステージは、前記第2支持具(84)の前記第3面上に前記第3レールに沿って前記第3レールから間隔を開けて配置された円弧状の第2ラック(86)を備え、
前記アンテナユニットは、前記第1ラックに係合する第1ピニオン(96)と、前記第2ラックに係合する第2ピニオン(97)と、前記第1ピニオンおよび前記第2ピニオンを駆動するモータ(98)と、前記第2レールに摺動可能に取り付け得る第1可動台(91a)と、前記第3レールに摺動可能に取り付け得る第2可動台(91b)とを備える、請求項2に記載の試験装置。
【請求項4】
前記第2面と前記第3面が平行になるよう前記第1ステージと前記第2ステージが配置されたとき、側面視で前記第1ラックの最端部の歯と前記第2ラックの最端部の歯との間隔が、前記第1ラックの歯のピッチおよび前記第2ラックの歯のピッチに等しい、請求項2に記載の試験装置。
【請求項5】
前記内部空間におけるクワイエットゾーン内に配置された前記被試験対象の姿勢を変化させる姿勢可変機構(56)と、
前記姿勢可変機構により姿勢が設定された前記被試験対象に対して、前記アンテナ移動機構により前記試験用アンテナを移動させて前記被試験対象の送信特性、受信特性、または送受信特性の測定を行う測定装置(2)と、をさらに備える、請求項1に記載の試験装置。
【請求項6】
前記アンテナユニットは、前記試験用アンテナとしての水平偏波アンテナ(6H)および垂直偏波アンテナ(6V)と、前記水平偏波アンテナに接続された水平偏波信号用コンバータ(94a)と、前記垂直偏波アンテナに接続された垂直偏波信号用コンバータ(94b)とをさらに備える、請求項1に記載の試験装置。
【請求項7】
前記試験用アンテナとして、
前記被試験アンテナとの間で前記無線信号を直接送信または受信する直接型の試験用アンテナ、
誘電体レンズ(8)を通して前記被試験アンテナとの間で前記無線信号を送信または受信する誘電体レンズ利用型の試験用アンテナ、
平面鏡(9)を介して前記被試験アンテナとの間で前記無線信号を送信または受信するミラー反射型の試験用アンテナ、および
放物面鏡(7)を介して前記被試験アンテナとの間で前記無線信号を送信または受信するリフレクタ反射型の試験用アンテナ、
のうちいずれかが用いられる、請求項1に記載の試験装置。
【請求項8】
前記アンテナ移動機構により移動中の前記試験用アンテナを使用して前記被試験対象の送信特性、受信特性、または送受信特性を測定する、請求項1に記載の試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波暗箱を用いたOTA(Over The Air)試験環境下で被試験対象の送信特性、受信特性または送受信特性を測定する試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マルチメディアの進展に伴い、セルラ、無線LAN等の無線通信用のアンテナが実装された無線端末(スマートフォン等)が盛んに生産されるようになっている。今後は、特に、ミリ波帯の広帯域な信号を使用するIEEE802.11adや5Gセルラ等に対応した無線信号を送受信する無線端末が求められる。
【0003】
無線端末の設計開発会社またはその製造工場においては、無線端末が備えている無線通信アンテナに対して、通信規格ごとに定められた送信電波の出力レベルや受信感度を測定し、これらのRF(Radio Frequency)特性が所定の基準を満たすか否かを判定する性能試験が行われる。また、性能試験では、RRM(Radio Resource Management)特性の測定も行われる。RRM特性の測定は、基地局と無線端末間の無線リソース制御、例えば隣接基地局間のハンドオーバ等が正しく動作するか否かを確認するために行われる。
【0004】
4G、あるいは4Gアドバンスから5Gへの世代移行に伴い、上述した性能試験の試験方法も変わりつつある。例えば、5G NR(New Radio)システム用の無線端末を被試験対象(Device Under Test:DUT)とする性能試験においては、4Gや4Gアドバンス等の試験で主流であったDUTのアンテナ端子と試験装置とを有線接続する方法は、高周波回路にアンテナ端子を付けることによる特性劣化や、アレーアンテナの素子数が多くアンテナ端子を全素子に付けることがスペース面・コスト面を考慮して現実的でないことなどの理由で使用できない。このため、DUTを試験用アンテナとともに周囲の電波環境に影響されない電波暗箱の中に収容し、試験用アンテナからDUTに対する試験信号の送信と、試験信号を受信したDUTからの被測定信号の試験用アンテナでの受信とを無線通信により行う、いわゆるOTA試験が行われるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
OTA試験では、電波暗箱内に配置された試験用アンテナにより、例えば球形のクワイエットゾーン(quiet zone)が形成され、DUTはクワイエットゾーン内に配置される。ここで、クワイエットゾーンとは、OTA試験環境を構成する電波暗箱において、DUTが試験用アンテナからほぼ均一な振幅と位相の電波で照射される空間領域の範囲を表す概念である。このようなクワイエットゾーンにDUTを配置することにより、周りからの散乱波の影響を抑えた状態でOTA試験を行うことが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-085784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の試験装置として、中央に配置されたDUTを円状に囲んで多数の試験用アンテナが配置され、各試験用アンテナとDUTとが電波の送受信を行うようになっているものがある。DUTは、中央のDUT固定台に配置され、アジマス方向の回転のみ可能になっている。この種の従来の試験装置は、多数の試験用アンテナを設けなければならず、装置コストが高く、また、DFF(Direct Far Field)試験を行うことができなかった。
【0008】
また、別の従来の試験装置として、固定された半円状の円弧軌道上を2つの試験用アンテナが移動するようになっているものがある。この種の従来の試験装置は、試験用アンテナの移動が円弧軌道に限定されるので、DUTに対して任意の角度に試験用アンテナを配置することができなかった。
【0009】
DUTは、1つの基地局との通信において所望のRF性能を発揮するだけでなく、複数の基地局との通信を通じて所望のRRM性能を発揮することが求められる。フィールド試験では、1または複数の基地局とDUTとの通信によりDUTのRF性能やRRM性能を測定する。しかし、実際の使用態様に従ってDUT自体を移動させつつ試験する場合には、DUTと複数の基地局との相対的な位置関係が多様でかつ動的に変化しており、従来の試験装置ではフィールド試験に匹敵する試験を行うことができなかった。
【0010】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、DUTを静止または移動させて行うフィールド試験とほぼ同等の、複数の基地局とDUTとの通信環境の構築が可能な試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る試験装置は、被試験アンテナ(110)を有する被試験対象(100)の通信性能を測定する試験装置(1)であって、周囲の電波環境に影響されない内部空間(51)を有する電波暗箱(50)と、前記内部空間に収容され、前記被試験対象の通信性能を測定するための無線信号を前記被試験アンテナとの間で送信または受信する試験用アンテナ(6)と、アジマス方向に回転移動可能でありかつ前記被試験対象に対して等距離にて前記試験用アンテナをエレベーション方向に回転移動可能にそれぞれ支持する2つのステージ(70,80)を備え、前記2つのステージが整列するよう前記2つのステージの少なくとも一方を前記アジマス方向に回転移動させて前記試験用アンテナを前記2つのステージ間で移動させるアンテナ移動機構(60)と、を備えることを特徴とする。
【0012】
上述のように、本発明に係る試験装置は、アンテナ移動機構が、2つのステージを備え、これら2つのステージは、各々、アジマス方向に回転移動可能であり、かつDUTに対して等距離にて試験用アンテナをエレベーション方向に回転移動可能に支持するようになっている。また、アンテナ移動機構は、2つのステージが整列するよう2つのステージの少なくとも一方をアジマス方向に回転移動させて試験用アンテナを2つのステージ間で移動させるようになっている。この構成により、本発明に係る試験装置は、DUTを静止または移動させて行うフィールド試験とほぼ同等の、複数の基地局とDUTとの通信環境の構築が可能となる。特に、アンテナユニットを一方のステージから他方のステージへ自動で移動させることができるので、1つのステージに複数の試験用アンテナを集めて試験することができる。これにより、例えば、アジマス方向が同一でエレベーション方向が別角度に自動配置した複数の試験用アンテナとDUTの同時送受信試験を効率的に実施することができる。
【0013】
また、本発明に係る試験装置において、前記アンテナ移動機構は、台座(61)の平坦な第1面(61a)上に設けられた円形の第1レール(62)と、前記第1レール上を前記アジマス方向に回転移動できるとともに、第1支持具(74)における前記第1面に垂直でかつ平坦な第2面(74a)上に設けられた円弧状の第2レール(75)を有する第1ステージ(70)と、前記第1レール上を前記アジマス方向に回転移動できるとともに、第2支持具(84)における前記第1面に垂直でかつ平坦な第3面(84a)上に設けられた円弧状の第3レール(85)を有する第2ステージ(80)と、前記第2レールおよび前記第3レール上を前記エレベーション方向に回転移動できるとともに、前記試験用アンテナが取り付けられたアンテナユニット(90)と、を備え、前記アンテナユニットが前記第2レールと前記第3レールとの間で相互に移動できるように、前記第2面と前記第3面が平行になるよう前記第1ステージと前記第2ステージが配置されたとき、前記第2レールの一端部(75a)と前記第3レールの一端部(85a)が近接して配置されることを特徴とする。
【0014】
この構成により、本発明に係る試験装置は、アンテナユニットを一方のステージから他方のステージへ確実に移動させることができる。これにより、例えば、アジマス方向が同一でエレベーション方向が別角度に自動配置した複数の試験用アンテナとDUTの同時送受信試験を効率的に実施することができる。
【0015】
また、本発明に係る試験装置において、前記第1ステージは、前記第1支持具(74)の前記第2面上に前記第2レールに沿って前記第2レールから間隔を開けて配置された円弧状の第1ラック(76)を備え、前記第2ステージは、前記第2支持具(84)の前記第3面上に前記第3レールに沿って前記第3レールから間隔を開けて配置された円弧状の第2ラック(86)を備え、前記アンテナユニットは、前記第1ラックに係合する第1ピニオン(96)と、前記第2ラックに係合する第2ピニオン(97)と、前記第1ピニオンおよび前記第2ピニオンを駆動するモータ(98)と、前記第2レールに摺動可能に取り付け得る第1可動台(91a)と、前記第3レールに摺動可能に取り付け得る第2可動台(91b)とを備える構成であってもよい。
【0016】
この構成により、本発明に係る試験装置は、モータ駆動によりアンテナユニットを一方のステージから他方ステージへ自動で確実に移動させることができる。これにより、1つのステージに複数の試験用アンテナを集めて自動で試験することができる。
【0017】
また、本発明に係る試験装置において、前記第2面と前記第3面が平行になるよう前記第1ステージと前記第2ステージが配置されたとき、側面視で前記第1ラックの最端部の歯と前記第2ラックの最端部の歯との間隔が、前記第1ラックの歯のピッチおよび前記第2ラックの歯のピッチに等しい構成であってもよい。
【0018】
この構成により、本発明に係る試験装置は、アンテナユニットが第1ステージと第2ステージの間を移動する際に、第1ピニオンと第1ラックの係合状態と、第2ピニオンと第2ラックの係合状態との間での移行が円滑に行われる。これにより、試験用アンテナを一方のステージから他方のステージへ確実に移動させることができる。
【0019】
また、本発明に係る試験装置において、前記内部空間におけるクワイエットゾーン内に配置された前記被試験対象の姿勢を変化させる姿勢可変機構(56)と、前記姿勢可変機構により姿勢が設定された前記被試験対象に対して、前記アンテナ移動機構により前記試験用アンテナを移動させて前記被試験対象の送信特性、受信特性、または送受信特性の測定を行う測定装置(2)と、をさらに備える構成であってもよい。
【0020】
この構成により、本発明に係る試験装置は、同球面上に任意に移動しながら測定可能な複数の試験用アンテナを使用可能な環境なため、フィールド試験の環境再現が可能となり、物理的に移動しながらのRRMのHO(Hand Over)試験、フェージングによる電波強度の変異量の測定などが可能となる。あわせて、複数の試験用アンテナと同時通信可能な環境のため、試験時間の短縮が可能となる。
【0021】
また、本発明に係る試験装置において、前記アンテナユニットは、前記試験用アンテナとしての水平偏波アンテナ(6H)および垂直偏波アンテナ(6V)と、前記水平偏波アンテナに接続された水平偏波信号用コンバータ(94a)と、前記垂直偏波アンテナに接続された垂直偏波信号用コンバータ(94b)とをさらに備える構成であってもよい。
【0022】
この構成により、本発明に係る試験装置は、試験用アンテナの近くで送信または受信信号の周波数変換をすることができるので、より精密な測定を行うことができる。
【0023】
また、本発明に係る試験装置において、前記試験用アンテナとして、前記被試験アンテナとの間で前記無線信号を直接送信または受信する直接型の試験用アンテナ、誘電体レンズ(8)を通して前記被試験アンテナとの間で前記無線信号を送信または受信する誘電体レンズ利用型の試験用アンテナ、平面鏡(9)を介して前記被試験アンテナとの間で前記無線信号を送信または受信するミラー反射型の試験用アンテナ、および放物面鏡(7)を介して前記被試験アンテナとの間で前記無線信号を送信または受信するリフレクタ反射型の試験用アンテナ、のうちいずれかが用いられる構成であってもよい。
【0024】
この構成により、本発明の試験装置は、DFF方式(ミラー反射型)やIFF方式(リフレクタ反射型)など状況に適した方式を選択して使用することができる。これにより、電波暗箱の限られた内部空間においても遠方界の条件下で試験を行うことができる。
【0025】
また、本発明に係る試験装置は、前記アンテナ移動機構により移動中の前記試験用アンテナを使用して前記被試験対象の送信特性、受信特性、または送受信特性を測定する構成であってもよい。
【0026】
この構成により、本発明に係る試験装置は、試験用アンテナを移動させながら試験を行うことができるので、フィールド試験とほぼ同等の、複数の基地局とDUTとの通信環境を構築することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、DUTを静止または移動させて行うフィールド試験とほぼ同等の、複数の基地局とDUTとの通信環境の構築が可能となる。特に、アンテナユニットを一方のステージから他方のステージへ自動で移動させることができるので、1つのステージに複数の試験用アンテナを集めて試験することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態に係る試験装置におけるアンテナ移動機構の概略構成を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る試験装置の機能構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係る試験装置の統合制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図4】本発明の実施形態に係る試験装置のNRシステムシミュレータの機能構成を示すブロック図である。
図5】アンテナと無線端末間の電波伝搬における近傍界および遠方界を説明するための模式図である。
図6】アンテナ移動機構におけるメインステージの側面図である。
図7】アンテナ移動機構におけるサブステージの側面図である。
図8】アンテナ移動機構におけるメインステージのアジマス方向への回転移動の様子を示す平面図である。
図9】アンテナ移動機構におけるアンテナユニットの構造を示す正面図である。
図10】アンテナ移動機構におけるアンテナユニットの構造を示す側面図である。
図11】アンテナ移動機構におけるメインステージおよびサブステージのアジマス方向への回転移動の様子を示す平面図である。
図12】試験用アンテナの使用形態を示す図である。
図13】試験用アンテナの使用形態を示す図である。
図14】ミラー反射型の試験用アンテナの構成を示す図である。
図15】リフレクタ反射型の試験用アンテナの構成を示す図である。
図16】2つのステージが直線状に整列した状態を示す平面図である。
図17】2つのステージが直線状に整列した状態を示す側面図である。
図18】2つのステージが直線状に整列した状態において、一方のステージから他方のステージにアンテナユニットが移動した状態を示す側面図である。
図19】連結ピニオンの構成を示す図である。
図20】(a)は、一方のステージにアンテナユニットがあり、二つのステージが直線状に整列する前の段階を示し、(b)は、二つのステージが直線状に整列し、アンテナユニットが一方のステージから他方のステージへ移動している段階を示し、(c)は、アンテナユニットが他方のステージに移動した後の段階を示す図である。
図21】メインステージとサブステージが直線状に整列したとき、メインステージのラックとサブステージのラックが整列した状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態に係る試験装置について、図面を参照して説明する。なお、各図面上の各構成要素の寸法比は、実際の寸法比と必ずしも一致していない。
【0030】
本実施形態に係る試験装置1は、アンテナ110を有するDUT100の送信特性や受信特性や送受信特性などの通信性能を測定するものであり、例えば、DUT100のRF特性やRRM特性を測定するようになっている。このために、試験装置1は、電波暗箱(OTAチャンバー)50と、複数の試験用アンテナ6a、6b、6c(以下、試験用アンテナ6と総称することもある)と、アンテナ移動機構60と、姿勢可変機構56と、統合制御装置10と、NRシステムシミュレータ20と、信号処理部40と、信号切替部41とを備えている(図2図4参照)。なお、本実施形態の統合制御装置10とNRシステムシミュレータ20と信号処理部40と信号切替部41は、本発明の測定装置2に対応する。
【0031】
図1は、試験装置1のアンテナ移動機構60の概略構成を示し、図2は、試験装置1の機能ブロックを示す。図1および図2に示すように、電波暗箱50は、周囲の電波環境に影響されない内部空間51を有している。試験用アンテナ6は、電波暗箱50の内部空間51に設置され、DUT100の送信特性、受信特性または送受信特性を測定するための無線信号をアンテナ110との間で送信または受信するようになっている。アンテナ移動機構60は、試験用アンテナ6をアジマス方向およびエレベーション方向に回転移動させるようになっている。姿勢可変機構56は、電波暗箱50の内部空間51におけるクワイエットゾーン内に配置されたDUT100の姿勢を変化させるようになっている。統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20、信号処理部40、および信号切替部41は、姿勢可変機構56により姿勢を変化させたDUT100に対して、アンテナ移動機構60により1または複数の試験用アンテナ6を移動させて、DUT100の送信特性、受信特性または送受信特性の測定を行うようになっている。以下、各構成要素について説明する。
【0032】
<アンテナ移動機構>
アンテナ移動機構60は、試験用アンテナ6をDUT100に対して等距離にてアジマス方向およびエレベーション方向に回転移動させるようになっている。このため、アンテナ移動機構60は、図1に示すように、台座61と、メインステージ70と、サブステージ80Aと、サブステージ80Bとを備えている。以下では、サブステージ80A、80Bを単にサブステージ80ということもある。
【0033】
台座61は、水平で平坦な第1面61aを有し、第1面61a上には、円形のレール62が配置され、レール62の内側には所定の間隔をあけて同心円形のラック63が配置されている。
【0034】
台座61の中心位置または中央には、姿勢可変機構56のターンテーブル56bと、ターンテーブル56bを支持する鉛直方向に延びた支柱56cが設けられている。第1面61aにおける支柱56cの下端部の中心位置が、円形のレール62と円形のラック63の両方の中心に一致している。DUT100は、ターンテーブル56b上のDUT載置部56dに設置されている。ターンテーブル56bは、支柱56cにより所定の高さに支持され、駆動部56aにより回転するようになっている(図6参照)。
【0035】
図6は、アンテナ移動機構60のメインステージ70の側面図である。メインステージ70は、後で説明するように、エレベーション方向(φ方向)の回転可能な範囲がサブステージ80より広い点で、サブステージ80と相違している。図1および図6に示すように、メインステージ70は、レール62上をアジマス方向に回転移動できるとともに、第1面61aに垂直でかつ平坦な、支持具74の第2面74a上に設けられた円弧状のレール75を有している。
【0036】
具体的には、メインステージ70は、台座61に取り付けられた円形のレール62上を移動可能なフレーム71と、フレーム71に取り付けられた、所定幅で円弧状に延びた板形状の支持具74とを備えている。支持具74の一方の第2面74aには、円弧状のレール75が取り付けられ、また、支持具74の第2面74aには、レール75に沿ってレール75の外側に所定の間隔をあけて同心円弧状のラック76が取り付けられている。レール75およびラック76の円弧中心は、ターンテーブル56b上に配置されたDUT100の位置となっている。アンテナユニット90は、試験用アンテナ6が取り付けられ、レール75およびラック76に沿ってエレベーション方向に回転移動できるようになっている。メインステージ70におけるアンテナユニット90のエレベーション方向(φ方向)の可動範囲は、例えば±90度である。
【0037】
フレーム71の下端部のフレーム脚部72には、レール62に沿って移動可能な可動台が取り付けられている。また、フレーム71の別のフレーム脚部73には、ラック63に係合するピニオンと、ピニオンを回転駆動するモータとが設けられている。この構成により、フレーム71をレール62およびラック63に沿ってアジマス方向に回転移動させることができる。図8は、メインステージ70のアジマス方向(θ方向)への回転移動の様子を示す平面図である。メインステージ70のアジマス方向の可動範囲は、例えば±180度である。
【0038】
図7は、アンテナ移動機構60のサブステージ80の側面図である。図1および図7に示すように、サブステージ80は、レール62上をアジマス方向に回転移動できるとともに、第1面61aに垂直でかつ平坦な、支持具84の第3面84a上に設けられた円弧状のレール85を有している。具体的には、サブステージ80は、台座61に取り付けられた円形のレール62上を移動可能なフレーム81と、フレーム81に取り付けられた、所定幅で円弧状に延びた板形状の支持具84とを備えている。支持具84の一方の第3面84aには、円弧状のレール85が取り付けられ、また、支持具84の第3面84aには、レール85に沿ってレール85の外側に所定の間隔をあけて同心円弧状のラック86が取り付けられている。レール85およびラック86の円弧中心は、ターンテーブル56b上に配置されたDUT100の位置となっている。アンテナユニット90が、レール85およびラック86に沿って円弧上を移動できるようになっている。サブステージ80におけるアンテナユニット90のエレベーション方向(φ方向)の可動範囲は、例えば±80度である。
【0039】
メインステージ70と同様に、サブステージ80においても、フレーム81の下端部のフレーム脚部82には、レール62に沿って移動可能な可動台が取り付けられている。また、フレーム81の別のフレーム脚部83には、ラック63に係合するピニオンと、ピニオンを回転駆動するモータとが設けられている。この構成により、フレーム81をレール62およびラック63に沿ってアジマス方向に回転移動させることができる。サブステージ80のアジマス方向の可動範囲は、例えば、5度~165度である。
【0040】
図11は、メインステージ70およびサブステージ80A、80Bのアジマス方向への回転移動の様子を示す平面図である。図11において、メインステージ70のレール75の端部75aまたはラック76の端部76aが描く軌跡は、平面視でDUT100が配置される位置を中心Oとする第1の円C1であり、サブステージ80(80A、80B)のレール85の端部85aまたはラック86の端部86aが描く軌跡は、平面視でDUT100が配置される位置を中心Oとする第2の円C2であり、第1の円C1の半径は第2の円C2の半径より小さくなっている。これにより、メインステージ70とサブステージ80は、アジマス方向に回転移動しても、相互に干渉しないようになっている。また、アジマス方向の回転時に、メインステージ70とサブステージ80Aとサブステージ80Bとは、隣接ステージ同士が一定の距離を保つように制御されるので、相互に干渉しないようになっている。
【0041】
図6図7図8において、例えば、θ方向の可動範囲:±180度、φ方向の可動範囲:±60度、θ最小角度差:15度、クワイエットゾーンQZ=30cm、測定距離:70cm、対応Dサイズ<3cm@70GHzに設定することができる。
【0042】
図9は、アンテナ移動機構60のアンテナユニット90の構造を示す正面図であり、図10は側面図である。メインステージ70のレール75には、アンテナユニット90が移動可能に取り付けられている。アンテナユニット90は、レール75に取り付けられて移動可能な可動台91と、可動台91に取り付けられたベース板92と、ベース板92に取り付けられた試験用アンテナ6と、試験用アンテナ6に接続されたコンバータ94a、94bと、ベース板92に取り付けられたモータ98と、モータ98により駆動されるピニオン95とを備えている。試験用アンテナ6は、水平偏波アンテナ6Hと垂直偏波アンテナ6Vとを備える。コンバータ94aは、水平偏波アンテナ6Hに接続された水平偏波信号用コンバータであり、コンバータ94bは、垂直偏波アンテナ6Vに接続された垂直偏波信号用コンバータである。コンバータ94a,94bに接続されたケーブルは、ケーブルベア(登録商標)77,87によりガイドされる(図1参照)。モータ98により回転駆動されるピニオン95がラック76に係合することにより、可動台91がレール75に沿って移動することができる。サブステージ80に取り付けられるアンテナユニット90A、90Bもアンテナユニット90と同様の構造を有する。
【0043】
本実施形態の試験装置1は、モータ駆動によるメインステージ70のアジマス方向の回転移動に加えて、モータ98を駆動制御することにより、可動台91のエレベーション方向の回転移動を制御することができ、それにより、DUT100を中心に所定半径の球面上での試験用アンテナ6の位置および速度を制御することができる。試験用アンテナ6を自動で制御できるので、従来のアンテナ固定方式と比べ最適位置に試験用アンテナ6を移動し、例えばDUT100の最大のEIRP(Equivalent Isotropically Radiated Power)値の測定を効率的に行うことができる。
【0044】
本実施形態では、アンテナ移動機構60においてメインステージ70の他に2つのサブステージ80A、80Bが設けられているが、使用するサブステージの個数は0を含めて任意である。各ステージには、1または複数のアンテナユニット90を設けることができる。
【0045】
<ステージ間アンテナ移動>
次に、メインステージ70とサブステージ80間(以下、単にステージ間ともいう)での試験用アンテナ6の移動について説明する。
【0046】
図16は、メインステージ70とサブステージ80とが平面視で直線状に整列した状態を示す平面図であり、図17は、そのときの側面図である。図18は、メインステージ70とサブステージ80とが平面視で直線状に整列した状態において、アンテナユニット90Aがサブステージ80からメインステージ70に移動した状態を示す側面図である。ここで、メインステージ70とサブステージ80とが「平面視で直線状に整列した」とは、アンテナ移動機構60の平面図(図16)において、メインステージ70のレール75およびラック76と、サブステージ80のレール85およびラック86とが、所定の距離Lだけ間隔をあけて平行に位置している状態をいう。メインステージ70とサブステージ80とが「平面視で直線状に整列した」状態は、メインステージ70の支持具74の第2面74aとサブステージ80の支持具84の第3面84aが平行になった状態に等しい。
【0047】
アンテナ移動機構60は、メインステージ70とサブステージ80が整列するようメインステージ70とサブステージ80の少なくとも一方をアジマス方向に回転移動させて試験用アンテナ6を2つのステージ間で移動させるようになっている。具体的には、図16図17図18に示すように、アンテナユニット90がメインステージ70のレール75とサブステージ80のレール85との間で相互に移動できるように、第2面74aと第3面84aが平行になるようメインステージ70とサブステージ80が配置されたとき、レール75の端部75aとレール85の端部85aが近接して配置されるようになっている。
【0048】
図19は、ステージ間アンテナ移動に用いられる連結ピニオン99の構成を示す図である。連結ピニオン99は、メインステージ70のラック76に係合する第1ピニオン96と、サブステージ80のラック86に係合する第2ピニオン97とを備え、第1ピニオン96と第2ピニオン97は、同形であり、同軸上に間隔Lをあけて平行に配置されている。連結ピニオン99は、アンテナユニット90に取り付けられ、モータ98により回転駆動される(図20参照)。
【0049】
図20(a)は、メインステージ70とサブステージ80とが平面視で直線状に整列する前の段階、すなわちステージ間アンテナ移動の前の段階を示す側面図である。この段階では、メインステージ70にアンテナユニット90が存在している。図20(a)に示すように、ステージ間アンテナ移動に用いられるアンテナユニット90は、メインステージ70のレール75に摺動可能に取り付け可能な第1可動台91aと、サブステージ80のレール85に摺動可能に取り付け可能な第2可動台91bとを備えている。具体的には、コンバータ94を挟んで第1可動台91aに対応するベース板92上の位置に、第2可動台91bが設けられている。図20(a)に示す段階では、アンテナユニット90の第1可動台91aが、メインステージ70のレール75に移動自在に装着され、アンテナユニット90の第1ピニオン96が、メインステージ70のラック76に係合している。
【0050】
図20(b)は、メインステージ70とサブステージ80が直線状に整列した状態において、メインステージ70からサブステージ80へアンテナユニット90を受け渡す段階を示す側面図である。この段階では、アンテナユニット90の第1可動台91aが、メインステージ70のレール75に移動自在に装着され、アンテナユニット90の第1ピニオン96が、メインステージ70のラック76に係合しているとともに、第2可動台91bが、サブステージ80のレール85に移動自在に装着され、アンテナユニット90の第2ピニオン97が、サブステージ80のラック86に係合している。
【0051】
図20(c)は、アンテナユニット90がサブステージ80に移動した後の段階を示す側面図である。この段階では、サブステージ80にアンテナユニット90が移り、メインステージ70はサブステージ80から離れている。
【0052】
図21は、メインステージ70とサブステージ80が直線状に整列したとき、メインステージ70のラック76とサブステージ80のラック86が整列した状態を示す側面図である。図21に示すように、メインステージ70とサブステージ80を平面視で直線状に整列させたとき、すなわち、メインステージ70の支持具74の第2面74aとサブステージ80の支持具84の第3面84aが平行になるようメインステージ70とサブステージ80を配置したとき(図16参照)、メインステージ70のラック76の歯78のうち最端部の歯とサブステージ80のラック86の歯88のうち最端部の歯との間隔Dが、ラック76の歯78のピッチおよびラック86の歯88のピッチに等しくなっている。この構成により、メインステージ70とサブステージ80との間でアンテナユニット90を確実に移動させることができる。
【0053】
(電波暗箱)
電波暗箱50は、無線端末の送信特性、受信特性または送受信特性の測定に用いられ、例えば5G用の無線端末の性能試験に際してのOTA試験環境を実現するものである。図2に示すように、電波暗箱50は、例えば、直方体形状、角柱形状、円柱形状などの内部空間51を有する金属製の筐体本体部52により構成されている。電波暗箱50は、内部空間51に、DUT100および試験用アンテナ6を、外部からの電波の侵入および外部への電波の放射を防ぐ状態にて収容するようになっている。
【0054】
また、電波暗箱50の内面全域、つまり、筐体本体部52の底面52a、側面52bおよび上面52cの全面には、電波吸収体55が貼り付けられ、内部空間51の無響特性を確保すると共に、外部への電波の放射規制機能が強化されている。このように、電波暗箱50は、周囲の電波環境に影響されない内部空間51を形成している。
【0055】
(DUT)
被試験対象とされるDUT100は、例えばスマートフォンなどの無線端末である。DUT100の通信規格としては、セルラ(LTE、LTE-A、W-CDMA(登録商標)、GSM(登録商標)、CDMA2000、1xEV-DO、TD-SCDMA等)、無線LAN(IEEE802.11b/g/a/n/ac/ad等)、Bluetooth(登録商標)、GNSS(GPS、Galileo、GLONASS、BeiDou等)、FM、およびデジタル放送(DVB-H、ISDB-T等)が挙げられる。また、DUT100は、5Gセルラ等に対応したミリ波帯の無線信号を送受信する無線端末であってもよい。
【0056】
本実施形態において、DUT100は例えば5G NRの無線端末である。5G NRの無線端末については、ミリ波帯の他、LTE等で使用する他の周波数帯も含む既定の周波数帯を通信可能周波数範囲とすることが5G NR規格によって規定されている。よって、DUT100のアンテナ110は、DUT100の送信特性、受信特性または送受信特性の被測定対象である既定の周波数帯(5G NRバンド)の無線信号を送信または受信するものである。アンテナ110は、例えばMassive-MIMOアンテナ等のアレーアンテナであり、本発明における被試験アンテナに相当する。
【0057】
本実施形態において、DUT100は、電波暗箱50内での送受信に関する測定中、試験用アンテナ6および必要に応じて平面鏡9または放物面鏡7を介して試験信号および被測定信号を送受信できるようになっている。
【0058】
(姿勢可変機構)
次に、電波暗箱50の内部空間51に必要に応じて設けられる姿勢可変機構56について説明する。図1および図2に示すように、電波暗箱50の筐体本体部52の内部空間51側の底面52aには、クワイエットゾーン内に配置されたDUT100の姿勢を変化させる姿勢可変機構56が設けられている。姿勢可変機構56は、例えば、2軸の各軸周りに回転する回転機構を備える2軸ポジショナである。姿勢可変機構56は、試験用アンテナ6を固定した状態で、DUT100を2軸周りの回転自由度をもって回転させるようなOTA試験系(Combined-axes system)を構成する。姿勢可変機構56は、1軸ポジショナであってもよい。具体的には、姿勢可変機構56は、駆動部56aと、ターンテーブル56bと、支柱56cと、被試験対象載置部としてのDUT載置部56dとを有する(図6参照)。
【0059】
駆動部56aは、回転駆動力を発生させるステッピングモータなどの駆動用モータからなり、例えば、底面52aに設置される。ターンテーブル56bは、駆動部56aの回転駆動力により、互いに直交する2軸のうちの一方の軸の周りに所定角度回転するようになっている。DUT載置部56dは、駆動部56aの回転駆動力により2軸のうち他方の軸の周りに所定角度回転するようになっている。DUT100は、DUT載置部56dに載置される。1軸ポジショナの場合、ターンテーブル56bのみを回転させるようにしてもよい。
【0060】
なお、上記の一方の軸は、例えば、底面52aに対して鉛直方向に延びる軸である。また、上記の他方の軸は、例えば、水平方向に延びる軸である。このように構成された姿勢可変機構56は、DUT載置部56dに保持されているDUT100を、例えば、DUT100の中心を回転中心として、3次元のあらゆる方向にアンテナ110が向く状態に姿勢を変化させることができる。
【0061】
(リンクアンテナ)
電波暗箱50において、筐体本体部52の所要位置には、DUT100との間でリンク(呼)を確立または維持するための2種類のリンクアンテナが取り付けられている。一方のリンクアンテナは、LTE用のリンクアンテナであり、ノンスタンドアローンモード(Non-Standalone mode)で使用される。もう一方のリンクアンテナは、5G用のリンクアンテナであり、5Gの呼を維持するために使用される。なお、上記のリンクアンテナを使用する代わりに、試験用アンテナ6をリンクアンテナとして兼用することも可能であるため、以下においては、試験用アンテナ6がリンクアンテナの機能を兼ねるものとして説明する。
【0062】
(近傍界と遠方界)
次に、近傍界と遠方界について説明する。図5(a)に示すように、電波がアンテナATからDUT100Aへ直接伝わる場合をDFF(Direct Far Field)方式といい、図5(b)に示すように、電波がアンテナATから回転放物面を有するリフレクタ7Aを反射してDUT100Aへ伝わる場合をIFF(Indirect Far Field)方式という。
【0063】
アンテナATを放射源とする電波は、同位相の点を結んだ面(波面)が放射源を中心にして球状に拡がりながら伝搬する性質がある。放射源から近い距離では、波面は湾曲した球面(球面波)であるが、放射源から遠くなると波面は平面(平面波)に近くなる。一般に、波面を球面と考える必要のある領域が近傍界(NEAR FIELD)と呼ばれ、波面を平面とみなしてよい領域が遠方界(FAR FIELD)と呼ばれている。DUT100Aは、正確な測定を行ううえで、球面波を受信するよりも、平面波を受信する方が好ましい。
【0064】
平面波を受信するためには、DUT100Aが遠方界に設置される必要がある。DUT100A内でのアンテナ110の位置およびアンテナサイズが分かっていないとき、遠方界は、アンテナから2D/λ以遠の領域となる。ここで、Dは、DUT100Aの最大直線サイズ、λは電波の波長である。
【0065】
図5(b)に示すように、アンテナATの電波をリフレクタ7Aの回転放物面で反射させ、DUT100Aの位置にその反射波を到達させる方式であるCATR(Compact Antenna Test Range)方式では、アンテナATとDUT100A間の距離を短縮でき、リフレクタ7Aの反射鏡面での反射後直ぐの距離から平面波の領域が拡がるため、伝搬ロスを低減することもできる。平面波の度合は、同位相の波の位相差で表すことができる。平面波の度合として許容し得る位相差は、例えば、λ/16である。位相差は、例えば、ベクトル・ネットワーク・アナライザ(VNA)で評価することができる。
【0066】
(試験用アンテナ)
次に、試験用アンテナ6について説明する。
図12および図13は、試験用アンテナ6の使用形態を示す図である。
【0067】
<直接型の試験用アンテナ>
図12(a)は、DUT100が備えるアンテナ110との間で、平面鏡9や放物面鏡7を介さず、DUT100の送信特性、受信特性、または送受信特性を測定するための無線信号の電波を直接送信または受信する使用形態であり、直接型の試験用アンテナと称する。例えば、送信時には、試験用アンテナ6から放射された球面波(直接波)が、DUT100に直接送られる。
【0068】
<誘電体レンズ利用型の試験用アンテナ>
図12(b)は、誘電体レンズ8を通してDUT100のアンテナ110との間で、DUT100の送信特性、受信特性、または送受信特性を測定するための無線信号の電波を送信または受信する使用形態であり、誘電体レンズ利用型の試験用アンテナと称する。例えば、送信時には、試験用アンテナ6から放射された球面波(直接波)が、誘電体レンズ8により平面波(透過波)にされてDUT100に送られる。
【0069】
<ミラー反射型の試験用アンテナ>
図13(a)は、平面鏡9を介してDUT100のアンテナ110との間で、DUT100の送信特性、受信特性、または送受信特性を測定するための無線信号の電波を送信または受信する使用形態であり、ミラー反射型の試験用アンテナと称する。例えば、送信時には、試験用アンテナ6から放射された球面波が、平面鏡(ミラー)9により反射され、その反射波(球面波)がDUT100に送られる。
【0070】
図14は、ミラー反射型の試験用アンテナの構成を示す図である。図14に示すように、ミラー保持具201の一端に試験用アンテナ6が取り付けられ、他端に平面鏡9が取り付けられている。ミラー保持具201は、可動台91に固定されており、可動台91は、レール75に沿って移動できるようになっている。試験用アンテナ6から放射された球面波は、平面鏡9により反射され、その反射波(球面波)がDUT100に向けて送られるようになっている。
【0071】
ミラー反射型の試験用アンテナ6に用いる平面鏡9は、例えばアルミニウム製であり、平坦な鏡面を有している。ミラー反射型の試験用アンテナ6から放射された電波ビームは、対応する平面鏡9において鏡面反射するようになっている。平面鏡9は、ミラー面の周囲の縁部をロールエッジ形状にするとよい。ロールエッジ形状とは、断面形状が丸く湾曲した形状である。縁部のエッジが立っていると、電波が反射しクワイエットゾーンに電波のリップルが生じる場合がある。平面鏡9の縁部をロールエッジ形状にすることにより、クワイエットゾーンにおける電波のリップルの発生を抑制することができる。
【0072】
電波暗箱50の限られた内部空間51であっても、ミラー反射型の試験用アンテナ6を用いて遠方界測定を行うことができる。平面鏡9の大きさおよび平面鏡9と試験用アンテナ6との距離は、遠方界測定を実現するのに必要なアンテナ間距離を確保できるように設定することができる。複数のミラー反射型の試験用アンテナ6,6を用いる場合は、平面鏡9の大きさを変更することで、遠方界測定に必要なDUT100との距離を確保しつつも、同一距離に設置することで電波の損失を同一にすることができる。また、必要に応じて、アンテナ間距離を異ならせることもできる。
【0073】
<リフレクタ反射型の試験用アンテナ>
図13(b)は、放物面鏡7を介してDUT100のアンテナ110との間で、DUT100の送信特性、受信特性、または送受信特性を測定するための無線信号の電波を送信または受信する使用形態であり、リフレクタ反射型の試験用アンテナと称する。例えば、送信時には、試験用アンテナ6から放射された球面波が、放物面鏡(リフレクタ)7により反射され、その反射波(平面波)がDUT100に送られる。
【0074】
図15は、リフレクタ反射型の試験用アンテナの構成を示す図である。図15に示すように、リフレクタ保持具200の一端に試験用アンテナ6が取り付けられ、他端に放物面鏡(リフレクタ)7が取り付けられている。リフレクタ保持具200は、可動台91に固定されており、可動台91は、レール75に沿って移動できるようになっている。試験用アンテナ6から放射された球面波は、放物面鏡7により反射され、その反射波(平面波)がDUT100に向けて送られるようになっている。
【0075】
リフレクタ反射型の試験用アンテナ6は、放物面鏡7と共に用いられ、一次放射器として機能する。試験用アンテナ6としては、例えば、ホーンアンテナ等の指向性を持ったミリ波用のアンテナを用いることができる。放物面鏡7は、曲面状に湾曲した例えばアルミニウム製の反射面を有し、測定用の無線信号の電波を反射するものであり、例えば、真円型のパラボラの回転放物面の一部を切り出したオフセットパラボラ型の構造を有するものでもよく、あるいはパラボラ型の構造であってもよい。
【0076】
放物面鏡7は、その回転放物面から定まる焦点位置に配置されている一次放射器としての試験用アンテナ6から放射された試験信号の電波を回転放物面で受け、ターンテーブル56bに保持されているDUT100に向けて反射させる(送信時)。また、放物面鏡7は、上記試験信号を受信したDUT100がアンテナ110から放射する被測定信号の電波を回転放物面で受け、試験用アンテナ6に向けて反射させる(受信時)。放物面鏡7は、これら送信と受信が同時に可能な位置および姿勢で配設されている。すなわち、放物面鏡7は、試験用アンテナ6とDUT100のアンテナ110との間で送受信される無線信号の電波を、回転放物面で反射するようになっている。
【0077】
この構成により、試験用アンテナ6から放射された電波(例えば、DUT100に対する試験信号)を回転放物面で該回転放物面の軸方向と平行な方向に反射させるとともに、回転放物面の軸方向と平行な方向に回転放物面に対して入射する電波(例えば、DUT100から送信された被測定信号)を該回転放物面で反射させ、試験用アンテナ6へと導くことができる。別言すれば、放物面鏡7は、試験用アンテナ6から放射された球面波の電波を平面波の電波に変換してDUT100に送ると共に、DUT100から放射され放物面鏡7に入射する平面波の電波を試験用アンテナ6に集束させるものである。
【0078】
試験用アンテナ6から放射され放物面鏡7で反射した電波ビームは、DUT100に向けて伝搬され、所要半径のクワイエットゾーンを形成するようになっている。リフレクタ反射型の試験用アンテナ6は、いわゆる間接遠方界(IFF)を形成するようになっている。間接遠方界とは、球面波を平面波に変換するようなリフレクタを用いる反射型のアンテナにより形成される遠方界をいう。
【0079】
本実施形態の試験用アンテナ6は、直接型の試験用アンテナ、誘電体レンズ利用型の試験用アンテナ、ミラー反射型の試験用アンテナ、またはリフレクタ反射型の試験用アンテナを用いることができ、試験用アンテナ6を複数用いる場合、これらの任意の組み合わせを用いることができる。図2は、直接型の試験用アンテナ6bと、リフレクタ反射型の試験用アンテナ6aと、ミラー反射型の試験用アンテナ6cとが混在している場合を示している。混在させることで、試験用アンテナ6の設置位置を柔軟に調整することができる。図2に示すように、試験用アンテナ6は、水平偏波アンテナと垂直偏波アンテナとを備えている。具体的には、試験用アンテナ6aは、水平偏波アンテナ6aHと垂直偏波アンテナ6aHとを備え、試験用アンテナ6bは、水平偏波アンテナ6bHと垂直偏波アンテナ6bHとを備え、試験用アンテナ6cは、水平偏波アンテナ6cHと垂直偏波アンテナ6cHとを備えている。
【0080】
次に、本実施形態に係る試験装置1の統合制御装置10およびNRシステムシミュレータ20について、図2図4を参照して説明する。
【0081】
(統合制御装置)
統合制御装置10は、以下に説明するように、NRシステムシミュレータ20やアンテナ移動機構60や姿勢可変機構56を統括的に制御するものである。このために、統合制御装置10は、例えばイーサネット(登録商標)等のネットワーク19を介して、NRシステムシミュレータ20やアンテナ移動機構60や姿勢可変機構56と相互に通信可能に接続されている。
【0082】
図3は、統合制御装置10の機能構成を示すブロック図である。図3に示すように、統合制御装置10は、制御部11、操作部12、および表示部13を有している。制御部11は、例えば、コンピュータ装置によって構成される。このコンピュータ装置は、例えば、図3に示すように、CPU(Central Processing Unit)11aと、ROM(Read Only Memory)11bと、RAM(Random Access Memory)11cと、外部インタフェース(I/F)部11dと、図示しないSSD(Solid State Drive)やハードディスク装置等の不揮発性の記憶媒体と、各種入出力ポートとを有する。
【0083】
CPU11aは、NRシステムシミュレータ20等を対象とする統括的な制御を行うようになっている。ROM11bは、CPU11aを立ち上げるためのOS(Operating System)やその他のプログラムおよび制御用のパラメータ等を記憶するようになっている。RAM11cは、CPU11aが動作に用いるOSやアプリケーションの実行コードやデータ等を記憶するようになっている。外部I/F部11dは、所定の信号が入力される入力インタフェース機能と所定の信号を出力する出力インタフェース機能を有している。
【0084】
外部I/F部11dは、ネットワーク19を介して、NRシステムシミュレータ20に対して通信可能に接続されている。また、外部I/F部11dは、電波暗箱50における姿勢可変機構56やアンテナ移動機構60ともネットワーク19を介して接続されている。入出力ポートには、操作部12および表示部13が接続されている。操作部12は、コマンドなど各種情報を入力するための機能部であり、表示部13は、上記各種情報の入力画面や測定結果等の各種情報を表示する機能部である。
【0085】
上述したコンピュータ装置は、CPU11aがRAM11cを作業領域としてROM11bに格納されたプログラムを実行することにより制御部11として機能する。制御部11は、図3に示すように、呼接続制御部14、信号送受信制御部15、DUT姿勢制御部17、およびアンテナ移動制御部18を有している。呼接続制御部14、信号送受信制御部15、DUT姿勢制御部17、およびアンテナ移動制御部18も、CPU11aがRAM11cの作業領域でROM11bに格納された所定のプログラムを実行することにより実現されるものである。
【0086】
呼接続制御部14は、試験用アンテナ6を駆動してDUT100との間で制御信号(無線信号)を送受信させることにより、NRシステムシミュレータ20とDUT100との間に呼(無線信号を送受信可能な状態)を確立する制御を行う。
【0087】
信号送受信制御部15は、操作部12におけるユーザ操作を監視し、ユーザによりDUT100の送信特性、受信特性または送受信特性の測定に係る所定の測定開始操作が行われたことを契機に、呼接続制御部14での呼接続制御を経て、NRシステムシミュレータ20に対して信号送信指令を送信する。更に、信号送受信制御部15は、NRシステムシミュレータ20に対して、試験用アンテナ6を介して試験信号を送信させる制御を行うとともに、NRシステムシミュレータ20に信号受信指令を送信し、試験用アンテナ6を介して被測定信号を受信させる制御を行う。
【0088】
また、信号送受信制御部15は、複数の試験用アンテナを用いて行うRRM特性等の送受信特性の試験では、到来角度の設定、使用する試験用アンテナの選択を行うようになっている。なお、到来角度の設定や、使用する試験用アンテナの選択は、制御部11またはNRシステムシミュレータ20の制御部22が行うようにしてもよい。
【0089】
DUT姿勢制御部17は、姿勢可変機構56に保持されているDUT100の測定時の姿勢を制御するものである。この制御を実現するために、例えば、RAM11cまたはROM11bには、あらかじめ、DUT姿勢制御テーブル17aが記憶されている。DUT姿勢制御テーブル17aは、例えば、駆動部56aとしてステッピングモータを採用している場合には、該ステッピングモータの回転駆動を決定する駆動パルス数(運転パルス数)を制御データとして格納している。
【0090】
DUT姿勢制御部17は、DUT姿勢制御テーブル17aをRAM11cの作業領域に展開し、該DUT姿勢制御テーブル17aに基づき、上述したように、アンテナ110が3次元のあらゆる方向に順次向くようにDUT100が姿勢変化するよう姿勢可変機構56を駆動制御する。
【0091】
<アンテナ移動制御部>
アンテナ移動制御部18は、ネットワーク19を介してアンテナ移動機構60を制御して試験用アンテナ6の移動、すなわち試験用アンテナ6の位置および速度を制御するものである。この制御を実現するために、例えば、RAM11cまたはROM11bには、あらかじめ、アンテナ移動制御テーブル18bが記憶されている。アンテナ移動制御テーブル18bは、例えば、駆動部としてステッピングモータを採用している場合には、該ステッピングモータの回転駆動を決定する駆動パルス数(運転パルス数)を制御データとして格納している。
【0092】
アンテナ移動制御部18は、アンテナ移動制御テーブル18bをRAM11cの作業領域に展開し、該アンテナ移動制御テーブル18bに基づき、試験用アンテナ6がDUT100を中心とする所定半径の仮想球面上の任意の位置に配置されるよう、あるいはこの仮想球面上の任意の軌道上を任意の速度で移動するように、アンテナ移動機構60を駆動制御する。
【0093】
アンテナ移動制御部18は、メインステージ70およびサブステージ80のアジマス方向の位置、アンテナユニット90のエレベーション方向の位置をそれぞれセンサーで検知して、検知した位置情報を基に、試験用アンテナ6のアジマス方向およびエレベーション方向の回転移動を制御するようにしてもよい。
【0094】
<ステージ間アンテナ移動制御部>
アンテナ移動制御部18は、ステージ間アンテナ移動制御部18aを備える。ステージ間アンテナ移動制御部18aは、アンテナ移動機構60を制御してメインステージ70とサブステージ80間での試験用アンテナ6の移動を制御するものである。ステージ間アンテナ移動制御部18aは、まず、アンテナ移動機構60を制御して図16に示すように平面視でメインステージ70とサブステージ80とを一直線状に整列させる。次いで、ステージ間アンテナ移動制御部18aは、アンテナ移動機構60を制御してアンテナユニット90をメインステージ70からサブステージ80へ、あるいはサブステージ80からメインステージ70へ移動させるようにする。
【0095】
この制御を実現するために、例えば、RAM11cまたはROM11bには、あらかじめ、ステージ間アンテナ移動制御テーブル18cが記憶されている。ステージ間アンテナ移動制御テーブル18cは、例えば、アジマス方向の回転移動の駆動部としてステッピングモータを採用している場合には、該ステッピングモータの回転駆動を決定する駆動パルス数(運転パルス数)を制御データとして格納している。
【0096】
ステージ間アンテナ移動制御部18aは、ステージ間アンテナ移動制御テーブル18cをRAM11cの作業領域に展開し、該ステージ間アンテナ移動制御テーブル18cに基づき、試験用アンテナ6を備えたアンテナユニット90がステージ間で移動するように、アンテナ移動機構60を駆動制御する。
【0097】
ステージ間アンテナ移動制御部18aは、メインステージ70およびサブステージ80のアジマス方向の位置、アンテナユニット90のエレベーション方向の位置をそれぞれセンサーで検知して、検知した位置情報を基に、ステージ間でのアンテナユニット90の移動を制御するようにしてもよい。
【0098】
(NRシステムシミュレータ)
図4に示すように、本実施形態に係る試験装置1のNRシステムシミュレータ20は、信号測定部21、制御部22、操作部23、および表示部24を有している。信号測定部21は、信号発生部21a、デジタル/アナログ変換器(DAC)21b、変調部21c、RF部21dの送信部21eにより構成される信号発生機能部と、RF部21dの受信部21f、アナログ/デジタル変換器(ADC)21g、解析処理部21hにより構成される信号解析機能部とを有している。なお、信号測定部21は、使用する複数個の試験用アンテナに対応できるように、複数セット設けるようにしてもよい。
【0099】
信号測定部21の信号発生機能部において、信号発生部21aは、基準波形を有する波形データ、具体的には、例えば、I成分ベースバンド信号と、その直交成分信号であるQ成分ベースバンド信号を生成する。DAC21bは、信号発生部21aから出力された基準波形を有する波形データ(I成分ベースバンド信号およびQ成分ベースバンド信号)をデジタル信号からアナログ信号に変換して変調部21cに出力する。変調部21cは、I成分ベースバンド信号と、Q成分ベースバンド信号とのそれぞれに対してローカル信号をミキシングし、更に両者を合成してデジタル変調信号を出力する変調処理を行う。RF部21dは、変調部21cから出力されたデジタル変調信号から各通信規格の周波数に対応した試験信号を生成し、生成した試験信号を送信部21eにより信号処理部40に出力する。
【0100】
信号処理部40は、試験用アンテナとの間で送受信する信号の周波数変換等の信号処理を行う。信号処理部40から出力される試験信号は、信号切替部41を介して試験用アンテナに送られ、該試験用アンテナからDUT100に向けて出力される。
【0101】
また、信号測定部21の信号解析機能部において、RF部21dは、上記試験信号をアンテナ110により受信したDUT100から送信された被測定信号を、信号切替部41および信号処理部40を経由して受信部21fで受信したうえで、該被測定信号をローカル信号とミキシングすることで中間周波数帯の信号(IF信号)に変換する。ADC21gは、RF部21dの受信部21fでIF信号に変換された被測定信号を、アナログ信号からデジタル信号に変換して解析処理部21hに出力する。
【0102】
解析処理部21hは、ADC21gが出力するデジタル信号である被測定信号を、デジタル処理によって、I成分ベースバンド信号とQ成分ベースバンド信号とにそれぞれ対応する波形データを生成したうえで、該波形データに基づいてI成分ベースバンド信号およびQ成分ベースバンド信号を解析する処理を行う。解析処理部21hは、DUT100に対する送信特性(RF特性)の測定において、例えば、等価等方放射電力(EIRP)、全放射電力(Total Radiated Power:TRP)、スプリアス放射、変調精度(EVM)、送信パワー、コンスタレーション、スペクトラムなどを測定可能である。また、解析処理部21hは、DUT100に対する受信特性(RF特性)の測定において、例えば、受信感度、ビット誤り率(BER)、パケット誤り率(PER)などを測定可能である。ここで、EIRPは、DUT100のアンテナ110の主ビーム方向の無線信号強度である。また、TRPは、DUT100のアンテナ110から空間に放射される電力の合計値である。
【0103】
解析処理部21hは、DUT100のRRM特性について、例えば、選択された一の試験用アンテナから選択された他の試験用アンテナへのハンドオーバ動作が正常に行われるか否か等を解析することもできるようになっている。
【0104】
制御部22は、上述した統合制御装置10の制御部11と同様、例えば、CPU、RAM、ROM、各種入出力インタフェースを含むコンピュータ装置によって構成される。CPUは、信号発生機能部、信号解析機能部、操作部23および表示部24の各機能を実現するための所定の情報処理や制御を行う。
【0105】
操作部23、表示部24は、上記コンピュータ装置の入出力インタフェースに接続されている。操作部23は、コマンドなど各種情報を入力するための機能部であり、表示部24は、上記各種情報の入力画面や測定結果など、各種情報を表示する機能部である。
【0106】
本実施形態では、統合制御装置10とNRシステムシミュレータ20とを別装置としているが、1つの装置として構成してもよい。この場合には、統合制御装置10の制御部11とNRシステムシミュレータ20の制御部22とを統合して1つのコンピュータ装置により実現してもよい。
【0107】
(信号処理部)
次に、信号処理部40について説明する。
【0108】
信号処理部40は、NRシステムシミュレータ20と試験用アンテナ6の間に設けられ、使用する一の試験用アンテナとの間で送受信する信号の周波数変換等の信号処理を行う第1信号処理部40aと、使用する他の試験用アンテナとの間で送受信する信号の周波数変換等の信号処理を行う第2信号処理部40bと、を備えている。
【0109】
第1信号処理部40aおよび第2信号処理部40bは、各々、アップコンバータ、ダウンコンバータ、増幅器、周波数フィルタ等を備え、使用する試験用アンテナに送信する試験信号に対して、周波数変換(アップコンバート)、増幅、周波数選択等の信号処理を施して信号切替部41に出力する。また、第1および第2信号処理部40a、40bは、各々、使用する試験用アンテナから信号切替部41を介して入力される被測定信号に対して、周波数変換(ダウンコンバート)、増幅、周波数選択等の信号処理を施して信号測定部21に出力するようになっている。
【0110】
信号切替部41は、必要に応じて、信号処理部40と試験用アンテナの間に設けられ、制御部22の制御下で第1信号処理部40aと、使用する試験用アンテナとが接続され、且つ/または、第2信号処理部40bと、使用する試験用アンテナとが接続されるように、信号経路を切り替えるようになっている。信号切替部41は、信号処理部40に含まれるようにしてもよい。使用する試験用アンテナ6の個数が少なく信号経路を切り替える必要がない場合は、信号切替部41は省略できる。
【0111】
(コンバータ)
本実施形態では、試験用アンテナ6に近接してコンバータ94が設けられる。具体的には、アンテナユニット90において、水平偏波信号用コンバータ94aが、試験用アンテナ6を構成する水平偏波アンテナ6Hに接続され、垂直偏波信号用コンバータ94bが、垂直偏波アンテナ6Vに接続されている。アンテナユニット90にコンバータ94が設けられる場合、必要に応じて信号処理部40の一部または全部を省いてもよい。
【0112】
本実施形態では、上述したように統合制御装置10とNRシステムシミュレータ20により自動制御環境を実現しているので、試験用アンテナ6からの送信信号の強さを自動で調整することができる。
【0113】
(作用・効果)
以上述べたように、本実施形態に係る試験装置1のアンテナ移動機構60は、台座61の平坦な第1面61a上に設けられた円形のレール62と、レール62上をアジマス方向に回転移動できるとともに、第1面61aに垂直でかつ平坦な、支持具74の第2面74a上に設けられた円弧状のレール75を有するメインステージ70と、レール62上をアジマス方向に回転移動できるとともに、第1面61aに垂直でかつ平坦な、支持具84の第3面84a上に設けられた円弧状のレール85を有するサブステージ80と、レール75およびレール85上をエレベーション方向に回転移動できるとともに、試験用アンテナ6が取り付けられたアンテナユニット90と、を備えている。そして、アンテナユニット90がレール75とレール85との間で相互に移動できるように、第2面74aと第3面84aが平行になるようメインステージ70とサブステージ80が配置されたとき、レール75の端部75aとレール85の端部85aが近接して配置され、かつラック76の端部76aとラック86の端部86aが近接して配置されるようになっている。
【0114】
この構成により、本実施形態に係る試験装置1は、DUT100を静止または移動させて行うフィールド試験とほぼ同等の、複数の基地局とDUT100との通信環境の構築が可能となる。特に、アンテナユニット90を一方のステージから他方のステージへ自動で移動させることができるので、1つのステージに複数の試験用アンテナ6を集めて試験することができる。これにより、アジマス方向が同一でエレベーション方向が別角度に自動配置した複数の試験用アンテナ6,6とDUT100の同時送受信試験を効率的に実施することができる。
【0115】
また、本実施形態に係る試験装置1において、メインステージ70は、支持具74の第2面74a上にレール75に沿ってレール75から間隔を開けて配置された円弧状のラック76を備え、サブステージ80は、支持具84の第3面84a上にレール85に沿ってレール85から間隔を開けて配置された円弧状のラック86を備え、アンテナユニット90は、ラック76に係合する第1ピニオン96と、ラック86に係合する第2ピニオン97と、第1ピニオン96および第2ピニオン97を駆動するモータ98と、レール75に摺動可能に取り付け得る第1可動台91aと、レール85に摺動可能に取り付け得る第2可動台91bとを備えている。この構成により、モータ駆動により一方のステージから他方のステージへアンテナユニット90を自動で移動させることができるので、1つのステージに複数の試験用アンテナ6,6を集めて試験することができる。
【0116】
また、本実施形態に係る試験装置1において、第2面74aと第3面84aが平行になるようメインステージ70とサブステージ80が配置されたとき、側面視でラック76の歯78のうち最端部の歯とラック86の歯88のうち最端部の歯との間隔Dが、ラック76の歯78のピッチおよびラック86の歯88のピッチに等しくなっている。この構成により、アンテナユニット90がメインステージ70とサブステージ80の間を移動する際に、第1ピニオン96とラック76の係合状態と、第2ピニオン97とラック86の係合状態との間での移行が円滑に行われる。これにより、試験用アンテナ6を一方のステージから他方のステージへ確実に移動させることができる。
【0117】
また、本実施形態に係る試験装置1は、内部空間51におけるクワイエットゾーン内に配置されたDUT100の姿勢を変化させる姿勢可変機構56と、姿勢可変機構56により姿勢が設定されたDUT100に対して、アンテナ移動機構60により試験用アンテナ6を移動させてDUT100の送信特性、受信特性、または送受信特性の測定を行う測定装置2と、を備えている。この構成により、同球面上に任意に移動しながら測定可能な複数の試験用アンテナ6を使用可能な環境なため、フィールド試験の環境再現が可能となり、物理的に移動しながらのRRMのHO試験、フェージングによる電波強度の変異量の測定などが可能となる。あわせて、複数の試験用アンテナ6と同時通信可能な環境のため、試験時間の短縮が可能となる。
【0118】
また、本実施形態に係る試験装置1は、アンテナ移動機構60により移動中の試験用アンテナ6を使用してDUT100の送信特性、受信特性、または送受信特性を測定することができる。この構成により、試験用アンテナ6を移動させながら試験を行うことができるので、フィールド試験とほぼ同等の、複数の基地局とDUTとの通信環境を構築することができる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
以上述べたように、本発明は、DUTを静止または移動させて行うフィールド試験とほぼ同等の、複数の基地局とDUTとの通信環境の構築ができ、特にアンテナユニットを一方のステージから他方のステージへ移動させて1つのステージに複数のアンテナユニットを集めて試験することができるという効果を有し、無線端末等の試験装置の全般に有用である。
【符号の説明】
【0120】
1 試験装置
2 測定装置
6、6a、6b、6c 試験用アンテナ
6H 水平偏波アンテナ
6V 垂直偏波アンテナ
7 放物面鏡(リフレクタ)
8 誘電体レンズ
9 平面鏡(ミラー)
10 統合制御装置
11、22 制御部
12、23 操作部
13、24 表示部
14 呼接続制御部
15 信号送受信制御部
17 DUT姿勢制御部
17a DUT姿勢制御テーブル
18 アンテナ移動制御部
18a ステージ間アンテナ移動制御部
18c ステージ間アンテナ移動制御テーブル
19 ネットワーク
20 NRシステムシミュレータ
21 信号測定部
40 信号処理部
40a 第1信号処理部
40b 第2信号処理部
41 信号切替部
50 電波暗箱
51 内部空間
52 筐体本体部
55 電波吸収体
56 姿勢可変機構
56a 駆動部
56b ターンテーブル
56c 支柱
56d DUT載置部
60 アンテナ移動機構
61 台座
61a 第1面
62 レール(第1レール)
63 ラック
70 メインステージ
71、81 フレーム
72、73、82、83 フレーム脚部
74 支持具(第1支持具)
74a 第2面
75 レール(第2レール)
76 ラック(第1ラック)
77、87 ケーブルベア(登録商標)
78、88 歯
80、80A、80B サブステージ
84 支持具(第2支持具)
84a 第3面
85 レール(第3レール)
86 ラック(第2ラック)
90 アンテナユニット
91 可動台
91a 第1可動台
91b 第2可動台
92 ベース板
94 コンバータ
94a 水平偏波信号用コンバータ
94b 垂直偏波信号用コンバータ
95 ピニオン
96 第1ピニオン
97 第2ピニオン
98 モータ
99 連結ピニオン
100 DUT(被試験対象)
110 アンテナ(被試験アンテナ)
200 リフレクタ保持具
201 ミラー保持具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21