(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166684
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】軸受用樹脂製保持器の強度評価方法および軸受用樹脂製保持器の強度評価用治具セット
(51)【国際特許分類】
G01M 13/04 20190101AFI20241122BHJP
F16C 33/56 20060101ALI20241122BHJP
F16C 33/41 20060101ALI20241122BHJP
F16C 33/46 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
G01M13/04
F16C33/56
F16C33/41
F16C33/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082933
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】小室 雅央
(72)【発明者】
【氏名】川井 崇
(72)【発明者】
【氏名】柳川 洋志
【テーマコード(参考)】
2G024
3J701
【Fターム(参考)】
2G024AC07
2G024BA13
2G024CA06
2G024CA11
2G024DA03
2G024DA08
2G024FA02
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701BA34
3J701BA44
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3J701EA31
3J701FA21
3J701FA60
3J701GA11
3J701GA51
3J701XB03
3J701XB31
(57)【要約】
【課題】樹脂製保持器の最も強度の弱い部分を特定することが難しい場合に、その樹脂製保持器の強度を正確に評価することが可能な軸受用樹脂製保持器の強度評価方法を提供する。
【解決手段】第1治具1と第2治具2の間に、軸受用の樹脂製保持器の円環状の被試験体Wを配置し、第1治具1には保持器当接面14が形成され、第2治具2の外周には被試験体Wに挿入される円すい面12が形成され、第1治具1と第2治具2を軸方向に近づくように相対移動させることで、第2治具2の外周の円すい面12で被試験体Wの内周を軸方向に押圧し、その円すい面12から作用する径方向外方の分力で被試験体Wを拡径変形させることで樹脂製保持器の強度評価を行なう。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に対向して配置した第1治具(1)と第2治具(2)を使用し、
前記第1治具(1)と前記第2治具(2)の間に、軸受用の樹脂製保持器の円環状の被試験体(W)を配置し、
前記第1治具(1)には、前記被試験体(W)の前記第2治具(2)の側とは反対側の面に当接する保持器当接面(14)が形成され、
前記第2治具(2)の外周には、前記第1治具(1)の側に向かって次第に縮径する勾配をもち、前記被試験体(W)に挿入される円すい面(12)が形成され、
前記第1治具(1)と前記第2治具(2)を軸方向に近づくように相対移動させることで、前記第2治具(2)の外周の前記円すい面(12)で前記被試験体(W)の内周を軸方向に押圧し、その円すい面(12)から作用する径方向外方の分力で前記被試験体(W)を拡径変形させることで樹脂製保持器の強度評価を行なう、軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【請求項2】
前記被試験体(W)は、小径側円環部(3)と、前記小径側円環部(3)から軸方向に間隔をおいて設けられる大径側円環部(4)と、前記小径側円環部(3)と前記大径側円環部(4)の間を軸方向に延びて両者を連結する複数の柱部(5)とを有する円すいころ軸受用の樹脂製保持器の全体またはその樹脂製保持器の前記複数の柱部(5)を切断して得られる前記大径側円環部(4)の側の部分または前記小径側円環部(3)の側の部分であり、
前記第2治具(2)の外周の前記円すい面(12)に、前記複数の柱部(5)に対応する位置を軸方向に延びる複数の柱部逃がし溝(13)が設けられている、請求項1に記載の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【請求項3】
前記被試験体(W)は、小径側円環部(3)と、前記小径側円環部(3)から軸方向に間隔をおいて設けられる大径側円環部(4)と、前記小径側円環部(3)と前記大径側円環部(4)の間を軸方向に延びて両者を連結する複数の柱部(5)とを有する円すいころ軸受用の樹脂製保持器の全体であり、
前記第1治具(1)の前記保持器当接面(14)は、前記小径側円環部(3)の前記大径側円環部(4)の側とは反対側の軸方向端面に当接する軸直角平面である、請求項2に記載の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【請求項4】
前記被試験体(W)は、小径側円環部(3)と、前記小径側円環部(3)から軸方向に間隔をおいて設けられる大径側円環部(4)と、前記小径側円環部(3)と前記大径側円環部(4)の間を軸方向に延びて両者を連結する複数の柱部(5)とを有する円すいころ軸受用の樹脂製保持器の前記複数の柱部(5)を切断して得られる前記大径側円環部(4)の側の部分であり、
前記第1治具(1)には、前記柱部(5)を収容する柱部収容凹部(15)が周方向に間隔をおいて複数形成され、前記保持器当接面(14)は、周方向に隣り合う前記柱部収容凹部(15)の間に形成された軸直角平面である、請求項2に記載の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【請求項5】
前記第1治具(1)と前記第2治具(2)のうちの一方の治具の外周には、他方の治具に向かって軸方向に延びる円筒状の芯合わせ外周面(16)が設けられ、前記他方の治具には、前記芯合わせ外周面(16)に軸方向にスライド可能に嵌合する円筒状の芯合わせ内周面(17)が設けられている、請求項4に記載の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【請求項6】
前記芯合わせ外周面(16)と前記芯合わせ内周面(17)のうちの一方に軸方向に延びる周方向位置決め溝(18)が設けられ、他方に、前記周方向位置決め溝(18)に嵌合する周方向位置決め突起(19)が設けられ、前記周方向位置決め溝(18)と前記周方向位置決め突起(19)の嵌合により、前記複数の柱部逃がし溝(13)の周方向位置と前記複数の柱部収容凹部(15)の周方向位置とが対応するように前記第1治具(1)と前記第2治具(2)を周方向に位置決めする、請求項5に記載の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【請求項7】
前記被試験体(W)は、円環部(21)と、前記円環部(21)の側面に周方向に間隔をおいて形成された玉を収容する複数の球面状のポケット(22)と、周方向に隣り合う前記ポケット(22)の間に設けられた軸方向に直角な複数の平坦部(23)とを有する玉軸受用の樹脂製保持器であり、
前記第1治具(1)は、周方向に間隔をおいて前記複数の平坦部(23)に対応する位置に複数の軸方向突起(25)を有し、
前記保持器当接面(14)は、前記平坦部(23)に当接するように前記軸方向突起(25)の先端に形成された軸直角平面である、請求項1に記載の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【請求項8】
前記第1治具(1)と前記第2治具(2)のうちの一方の治具の外周には、他方の治具に向かって軸方向に延びる円筒状の芯合わせ外周面(16)が設けられ、前記他方の治具には、前記芯合わせ外周面(16)に軸方向にスライド可能に嵌合する円筒状の芯合わせ内周面(17)が設けられている、請求項7に記載の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【請求項9】
前記芯合わせ外周面(16)と前記芯合わせ内周面(17)のうちの一方に軸方向に延びる回り止め溝(26)が設けられ、他方に、前記回り止め溝(26)に嵌合して前記第1治具(1)と前記第2治具(2)を回り止めする回り止め突起(27)が設けられている、請求項8に記載の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【請求項10】
前記円すい面(12)は、Ra1.2μm以下の面粗さをもつ研削仕上げ面である、請求項1から9のいずれかに記載の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【請求項11】
前記被試験体(W)が拡径変形して破断するまで前記第1治具(1)と前記第2治具(2)を相対移動させ、前記被試験体(W)が破断する時の前記第1治具(1)と前記第2治具(2)の相対移動量に基づいて樹脂製保持器の強度評価を行なう、請求項1から9のいずれかに記載の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【請求項12】
前記被試験体(W)が拡径変形して破断するまで前記第1治具(1)と前記第2治具(2)を相対移動させ、前記被試験体(W)が破断する時の前記被試験体(W)に負荷される軸方向荷重の大きさに基づいて樹脂製保持器の強度評価を行なう、請求項1から9のいずれかに記載の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【請求項13】
軸受用の樹脂製保持器の円環状の被試験体(W)を間にして軸方向に対向して配置される第1治具(1)と第2治具(2)を有し、
前記第1治具(1)には、前記被試験体(W)の前記第2治具(2)の側とは反対側の面に当接する保持器当接面(14)が形成され、
前記第2治具(2)の外周には、前記第1治具(1)の側に向かって次第に縮径する勾配をもち、前記被試験体(W)に挿入される円すい面(12)が形成され、
前記第1治具(1)と前記第2治具(2)を軸方向に近づくように相対移動させることで、前記第2治具(2)の外周の前記円すい面(12)で前記被試験体(W)の内周を軸方向に押圧し、その円すい面(12)から作用する径方向外方の分力で前記被試験体(W)を拡径変形させることで樹脂製保持器の強度評価を行なう、軸受用樹脂製保持器の強度評価用治具セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受用樹脂製保持器の強度評価方法、およびその方法に使用する軸受用樹脂製保持器の強度評価用治具セットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用デファレンシャル装置、自動車用トランスミッション装置、バッテリー式電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)用の走行モータの減速装置などの自動車分野や、ロボット用減速機、建設機械、トラクターなどの産業機械分野で使用される転がり軸受(円すいころ軸受、深溝玉軸受など)では、転動体を保持する保持器として、樹脂製保持器を使用することが増えている。
【0003】
樹脂製保持器は、金属製保持器よりも軽量である、形状工夫により潤滑剤保持の機能をもたせることができる、高速回転時の遠心力による変形を抑えることができる、などといった利点を有する。一方、樹脂製保持器は、金属製保持器よりも強度が低いので、保持器の強度を確保するため、実際に樹脂成形した保持器の強度を正確に評価することが重要となる。
【0004】
ここで、実際に樹脂成形した保持器の強度を評価する方法として、特許文献1や特許文献2に記載の方法が知られている。
【0005】
特許文献1の強度評価方法は、同文献の
図1に示される円すいころ軸受用の樹脂製保持器を対象としている。円すいころ軸受用の樹脂製保持器は、小径側円環部と、その小径側円環部から軸方向に間隔をおいて設けられる大径側円環部と、小径側円環部と大径側円環部の間を軸方向に延びて両者を連結する複数の柱部とを有する。そして、同文献の
図8のように、複数の柱部を切断して得られる大径側円環部の側の部分を被試験体として準備し、その被試験体の内周に、半円形状の断面をもつ一対の治具を円形断面となるように組み合わせた状態で嵌め込み、その一対の治具を径方向に離反するように相対移動させることで被試験体に引張力を付与し、被試験体が破断した時の引張力の大きさに基づいて樹脂製保持器の強度評価を行なうというものである。
【0006】
特許文献2の強度評価方法は、同文献の
図3のように、円環部と、円環部の側面に周方向に間隔をおいて形成された玉を収容する複数の球面状のポケットとを有する玉軸受用の樹脂製保持器を被試験体として使用している。そして、同文献の
図4のように、被試験体の内周に、半円形状の断面をもつ一対の治具を円形断面となるように組み合わせた状態で嵌め込み、その一対の治具を径方向に離反するように相対移動させることで被試験体に引張力を付与し、被試験体が破断した時の引張力の大きさに基づいて樹脂製保持器の強度評価を行なうというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-24013号公報
【特許文献2】特開2017-57956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1、2の強度評価方法は、いずれも、円環状の被試験体の内周に、半円形状の断面をもつ一対の治具を円形断面となるように組み合わせた状態で嵌め込み、その一対の治具を径方向に離反するように相対移動させることで被試験体に引張力を付与し、被試験体が破断する時の引張力の大きさを調べるというものである。
【0009】
この強度評価方法では、被試験体に作用する引張力が、半円形状の一対の治具の合わせ目に対応する位置(円環状の被試験体の180°反対の2箇所の位置)に集中するため、樹脂製保持器の強度を適切に評価するには、前記2箇所の位置に、被試験体の最も強度の弱い部分がくるように、被試験体をセットする必要がある。ここで、一般に、被試験体の最も強度の弱い部分は、樹脂製保持器のウエルド部(樹脂成形を行なうときに、成形金型のキャビティ内で溶融樹脂が合流する部分)である。
【0010】
しかしながら、周方向に間隔をおいて複数箇所(例えば3箇所以上)のウエルド部をもつ樹脂製保持器の場合、樹脂製保持器を射出成形する際の成形金型の温度分布や圧力分布などの諸条件によって、ウエルド部同士に強度の差が生じることがある。この場合、その複数箇所のウエルド部のうち、いずれの箇所のウエルド部が最も強度の弱いウエルド部であるかを特定するのが難しい。さらに、樹脂製保持器を射出成形する際の成形金型の温度分布や圧力分布などの諸条件によって、実際のウエルド部の位置が、設計上のウエルド部の位置から周方向にずれることもある。そのため、被試験体の最も強度の弱い部分が、半円形状の一対の治具の合わせ目に対応する位置にくるように被試験体をセットするのは難しく、樹脂製保持器の強度を正確に評価することが難しいという問題があることに本願の発明者らは着目した。
【0011】
この発明が解決しようとする課題は、樹脂製保持器の最も強度の弱い部分を特定することが難しい場合に、その樹脂製保持器の強度を正確に評価することが可能な軸受用樹脂製保持器の強度評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法を提供する。
[構成1]
軸方向に対向して配置した第1治具と第2治具を使用し、
前記第1治具と前記第2治具の間に、軸受用の樹脂製保持器の円環状の被試験体を配置し、
前記第1治具には、前記被試験体の前記第2治具の側とは反対側の面に当接する保持器当接面が形成され、
前記第2治具の外周には、前記第1治具の側に向かって次第に縮径する勾配をもち、前記被試験体に挿入される円すい面が形成され、
前記第1治具と前記第2治具を軸方向に近づくように相対移動させることで、前記第2治具の外周の前記円すい面で前記被試験体の内周を軸方向に押圧し、その円すい面から作用する径方向外方の分力で前記被試験体を拡径変形させることで樹脂製保持器の強度評価を行なう、軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【0013】
この構成を採用すると、第2治具の外周の円すい面で円環状の被試験体の内周を軸方向に押圧し、その円すい面から作用する径方向外方の分力で被試験体を拡径変形させるので、円環状の被試験体の全周に周方向の引張力を均一に付与することができる。そのため、例えば、周方向に間隔をおいて複数箇所のウエルド部をもつ樹脂製保持器について、その複数箇所のウエルド部のうち、いずれの箇所のウエルド部が最も強度の弱いウエルド部であるかを特定するのが難しい場合や、樹脂製保持器を射出成形する際の成形金型の温度分布や圧力分布などの諸条件によって、実際のウエルド部の位置が、設計上のウエルド部の位置から周方向にずれた場合など、樹脂製保持器の最も強度の弱い部分を特定することが難しい場合に、その樹脂製保持器の強度を正確に評価することが可能である。
【0014】
[構成2]
前記被試験体は、小径側円環部と、前記小径側円環部から軸方向に間隔をおいて設けられる大径側円環部と、前記小径側円環部と前記大径側円環部の間を軸方向に延びて両者を連結する複数の柱部とを有する円すいころ軸受用の樹脂製保持器の全体またはその樹脂製保持器の前記複数の柱部を切断して得られる前記大径側円環部の側の部分または前記小径側円環部の側の部分であり、
前記第2治具の外周の前記円すい面に、前記複数の柱部に対応する位置を軸方向に延びる複数の柱部逃がし溝が設けられている、構成1に記載の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【0015】
この構成を採用すると、柱部逃がし溝が第2治具の外周の円すい面に設けられているので、第2治具の外周の円すい面で円環状の被試験体の内周を軸方向に押圧するときに、被試験体の柱部の径方向内側部分が円すい面に干渉しない。そのため、円環状の被試験体の内周と、第2治具の外周の円すい面とを密着させることができ、円環状の被試験体を円滑に拡径変形させることが可能となる。
【0016】
[構成3]
前記被試験体は、小径側円環部と、前記小径側円環部から軸方向に間隔をおいて設けられる大径側円環部と、前記小径側円環部と前記大径側円環部の間を軸方向に延びて両者を連結する複数の柱部とを有する円すいころ軸受用の樹脂製保持器の全体であり、
前記第1治具の前記保持器当接面は、前記小径側円環部の前記大径側円環部の側とは反対側の軸方向端面に当接する軸直角平面である、構成2に記載の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【0017】
この構成を採用すると、保持器当接面が、径方向に沿って傾斜をもたない軸直角平面なので、円すい面から作用する径方向外方の分力で被試験体を拡径変形させるときに、保持器当接面と被試験体の接触部分に被試験体の拡径変形を妨げる径方向分力が生じず、被試験体を円滑に拡径変形させることができる。
【0018】
[構成4]
前記被試験体は、小径側円環部と、前記小径側円環部から軸方向に間隔をおいて設けられる大径側円環部と、前記小径側円環部と前記大径側円環部の間を軸方向に延びて両者を連結する複数の柱部とを有する円すいころ軸受用の樹脂製保持器の前記複数の柱部を切断して得られる前記大径側円環部の側の部分であり、
前記第1治具には、前記柱部を収容する柱部収容凹部が周方向に間隔をおいて複数形成され、前記保持器当接面は、周方向に隣り合う前記柱部収容凹部の間に形成された軸直角平面である、構成2に記載の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【0019】
この構成を採用すると、被試験体の柱部を収容する柱部収容凹部が第1治具に形成されているので、保持器当接面を被試験体に当接させるときに、柱部の干渉を防止することができる。また、保持器当接面が、径方向に沿って傾斜をもたない軸直角平面なので、円すい面から作用する径方向外方の分力で被試験体を拡径変形させるときに、保持器当接面と被試験体の接触部分に被試験体の拡径変形を妨げる径方向分力が生じず、被試験体を円滑に拡径変形させることができる。
【0020】
[構成5]
前記第1治具と前記第2治具のうちの一方の治具の外周には、他方の治具に向かって軸方向に延びる円筒状の芯合わせ外周面が設けられ、前記他方の治具には、前記芯合わせ外周面に軸方向にスライド可能に嵌合する円筒状の芯合わせ内周面が設けられている、構成4に記載の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【0021】
この構成を採用すると、芯合わせ外周面と芯合わせ内周面の嵌合により、第1治具の軸心と第2治具の軸心が一致するので、第1治具に周方向に間隔をおいて形成された複数の柱部収容凹部の位置と、第2治具の外周に形成された円すい面とが、同軸に位置決めされる。そのため、円すい面から作用する径方向外方の分力で被試験体を拡径変形させるときに、被試験体の複数の柱部と、第1治具に形成された複数の柱部収容凹部との間に偏心の位置ずれが生じるのを防止することができる。
【0022】
[構成6]
前記芯合わせ外周面と前記芯合わせ内周面のうちの一方に軸方向に延びる周方向位置決め溝が設けられ、他方に、前記周方向位置決め溝に嵌合する周方向位置決め突起が設けられ、前記周方向位置決め溝と前記周方向位置決め突起の嵌合により、前記複数の柱部逃がし溝の周方向位置と前記複数の柱部収容凹部の周方向位置とが対応するように前記第1治具と前記第2治具を周方向に位置決めする、構成5に記載の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【0023】
この構成を採用すると、複数の柱部逃がし溝の周方向位置と複数の柱部収容凹部の周方向位置とが対応するように、第1治具と第2治具が周方向に位置決めされる。そのため、円すい面から作用する径方向外方の分力で被試験体を拡径変形させるときに、被試験体の複数の柱部と、第1治具に形成された複数の柱部収容凹部との間に周方向の位置ずれが生じるのを防止することができる。
【0024】
[構成7]
前記被試験体は、円環部と、前記円環部の側面に周方向に間隔をおいて形成された玉を収容する複数の球面状のポケットと、周方向に隣り合う前記ポケットの間に設けられた軸方向に直角な複数の平坦部とを有する玉軸受用の樹脂製保持器であり、
前記第1治具は、周方向に間隔をおいて前記複数の平坦部に対応する位置に複数の軸方向突起を有し、
前記保持器当接面は、前記平坦部に当接するように前記軸方向突起の先端に形成された軸直角平面である、構成1に記載の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【0025】
この構成を採用すると、保持器当接面が、被試験体の平坦部に対応する位置に設けた軸方向突起の先端に設けられているので、被試験体の平坦部の周囲に、平坦部から軸方向に突出する部分が存在する場合にも、その軸方向に突出する部分と干渉せずに、保持器当接面を被試験体に当接させることができる。また、保持器当接面が、径方向に沿って傾斜をもたない軸直角平面なので、円すい面から作用する径方向外方の分力で被試験体を拡径変形させるときに、保持器当接面と被試験体の接触部分に被試験体の拡径変形を妨げる径方向分力が生じず、被試験体を円滑に拡径変形させることができる。
【0026】
[構成8]
前記第1治具と前記第2治具のうちの一方の治具の外周には、他方の治具に向かって軸方向に延びる円筒状の芯合わせ外周面が設けられ、前記他方の治具には、前記芯合わせ外周面に軸方向にスライド可能に嵌合する円筒状の芯合わせ内周面が設けられている、構成7に記載の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【0027】
この構成を採用すると、芯合わせ外周面と芯合わせ内周面の嵌合により、第1治具の軸心と第2治具の軸心が一致する。そのため、円すい面から作用する径方向外方の分力で被試験体を拡径変形させるときに、被試験体の複数の平坦部と、第1治具に形成された複数の軸方向突起との間に偏心の位置ずれが生じるのを防止することができる。
【0028】
[構成9]
前記芯合わせ外周面と前記芯合わせ内周面のうちの一方に軸方向に延びる回り止め溝が設けられ、他方に、前記回り止め溝に嵌合して前記第1治具と前記第2治具を回り止めする回り止め突起が設けられている、構成8に記載の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【0029】
この構成を採用すると、回り止め突起と回り止め溝の嵌合により、第1治具と第2治具の相対回転が規制される。そのため、円すい面から作用する径方向外方の分力で被試験体を拡径変形させるときに、被試験体の複数の平坦部と、第1治具に形成された複数の軸方向突起との間に周方向の位置ずれが生じるのを防止することができる。
【0030】
[構成10]
前記円すい面は、Ra1.2μm以下の面粗さをもつ研削仕上げ面である、構成1から9のいずれかに記載の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【0031】
この構成を採用すると、円すい面と被試験体の内周との間の摩擦力を低く抑えることができるので、円すい面で被試験体の内周を軸方向に押圧し、その円すい面から作用する径方向外方の分力で被試験体を拡径変形させるときに、円すい面から被試験体の内周に作用する径方向外方の分力の大きさが安定したものとなる。
【0032】
[構成11]
前記被試験体が拡径変形して破断するまで前記第1治具と前記第2治具を相対移動させ、前記被試験体が破断する時の前記第1治具と前記第2治具の相対移動量に基づいて樹脂製保持器の強度評価を行なう、構成1から10のいずれかに記載の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【0033】
この構成を採用すると、第1治具と第2治具の相対移動量に基づいて樹脂製保持器の強度評価を行なうので、荷重センサが不要であり、簡便である。
【0034】
[構成12]
前記被試験体が拡径変形して破断するまで前記第1治具と前記第2治具を相対移動させ、前記被試験体が破断する時の前記被試験体に負荷される軸方向荷重の大きさに基づいて樹脂製保持器の強度評価を行なう、構成1から10のいずれかに記載の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法。
【0035】
この構成を採用すると、軸方向荷重の大きさに基づいて樹脂製保持器の強度評価を行なうので、被試験体の破断荷重を直接的に知ることが可能となる。
【0036】
また、この発明では、上記構成の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法に使用する軸受用樹脂製保持器の強度評価用治具セットとして、次の構成のものを併せて提供する。
[構成13]
軸受用の樹脂製保持器の円環状の被試験体を間にして軸方向に対向して配置される第1治具と第2治具を有し、
前記第1治具には、前記被試験体の前記第2治具の側とは反対側の面に当接する保持器当接面が形成され、
前記第2治具の外周には、前記第1治具の側に向かって次第に縮径する勾配をもち、前記被試験体に挿入される円すい面が形成され、
前記第1治具と前記第2治具を軸方向に近づくように相対移動させることで、前記第2治具の外周の前記円すい面で前記被試験体の内周を軸方向に押圧し、その円すい面から作用する径方向外方の分力で前記被試験体を拡径変形させることで樹脂製保持器の強度評価を行なう、軸受用樹脂製保持器の強度評価用治具セット。
【発明の効果】
【0037】
この発明の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法は、第2治具の外周の円すい面で円環状の被試験体の内周を軸方向に押圧し、その円すい面から作用する径方向外方の分力で被試験体を拡径変形させるので、円環状の被試験体の全周に周方向の引張力を均一に付与することができる。そのため、例えば、周方向に間隔をおいて複数箇所のウエルド部をもつ樹脂製保持器について、その複数箇所のウエルド部のうち、いずれの箇所のウエルド部が最も強度の弱いウエルド部であるかを特定するのが難しい場合や、樹脂製保持器を射出成形する際の成形金型の温度分布や圧力分布などの諸条件によって、実際のウエルド部の位置が、設計上のウエルド部の位置から周方向にずれた場合など、樹脂製保持器の最も強度の弱い部分を特定することが難しい場合に、その樹脂製保持器の強度を正確に評価することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】この発明の第1実施形態にかかる軸受用樹脂製保持器の強度評価方法に使用する被試験体と第2治具とを示す正面図
【
図2】
図1に示す被試験体を第1治具で下方に押圧する状態を示す図
【
図5】
図2に示す被試験体の大径側円環部が破断した状態を示す部分拡大図
【
図9】(a)は、円すいころ軸受用の樹脂製保持器を示す図、(b)は、(a)に示す樹脂製保持器の複数の柱部を切断して得られる大径側円環部の側の部分(この発明の第2実施形態にかかる軸受用樹脂製保持器の強度評価方法に使用する被試験体)を示す図
【
図10】
図9(b)に示す被試験体を間にして第1治具と第2治具を対向して配置した状態を示す斜視図
【
図11】
図10に示す被試験体を第2治具で下方に押圧する状態を示す図
【
図16】この発明の第3実施形態にかかる軸受用樹脂製保持器の強度評価方法に使用する被試験体と第1治具と第2治具を示す斜視図
【
図17】
図16に示す被試験体を第2治具で下方に押圧する状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1~
図8に基づいて、この発明の第1実施形態にかかる軸受用樹脂製保持器の強度評価方法を説明する。この実施形態の強度評価方法は、
図1に示される円すいころ軸受用の樹脂製保持器の全体を被試験体Wとして使用する。そして、
図2に示す第1治具1と
図1に示す第2治具2とを使用して、被試験体Wの強度評価を行なう。
【0040】
図1に示すように、被試験体Wは、小径側円環部3と、小径側円環部3から軸方向に間隔をおいて設けられる大径側円環部4と、小径側円環部3と大径側円環部4の間を軸方向に延びて両者を連結する複数の柱部5とを有する。小径側円環部3の外径は、大径側円環部4の外径よりも小さい。複数の柱部5の径方向外側面6は、小径側円環部3の側から大径側円環部4の側に向かって次第に拡径する勾配をもつ円すい面である。小径側円環部3と大径側円環部4と複数の柱部5は、図示しない複数の円すいころを収容する複数のポケット7を区画している。
【0041】
小径側円環部3と大径側円環部4と複数の柱部5は、合成樹脂の射出成形により継ぎ目のない一体に形成されている。被試験体Wを射出成形する成形金型(図示せず)は、小径側円環部3を成形する部分にゲート(成形金型のキャビティ内に溶融樹脂を流入させる樹脂の入口)を周方向に間隔をおいて複数設けたものが使用されている。そのため、小径側円環部3は、周方向に間隔をおいた複数箇所にゲート痕を有し、大径側円環部4は、周方向に間隔をおいた複数箇所にウエルド部(成形金型のキャビティ内で溶融樹脂が合流する部分)を有する。
【0042】
図3に示すように、柱部5は、小径側円環部3の外周と大径側円環部4の外周との間を接続する円すい状の径方向外側面6と、その径方向外側面6と平行な径方向内側面8と、径方向内側面8から径方向内方に突出する内径側突出部9とを有する。小径側円環部3は、柱部5の径方向内側面8と滑らかに接続する円すい状の内周をもつ円すい筒部10と、その円すい筒部10の小径側端部から径方向内方に突出する内向きフランジ部11とを有する。
【0043】
図2に示すように、第1治具1と第2治具2は、上下方向に対向して配置されている。ここで、第1治具1と第2治具2は、上下方向を軸方向とし、第1治具1が上側、第2治具2が下側となるように配置されている。被試験体Wは、第1治具1と第2治具2の間に配置される。
【0044】
図1、
図6に示すように、第2治具2は、円すい台状に形成された部材である。第2治具2は、鉄系の材料(合金工具鋼鋼材(SKD11等)、軸受鋼、低炭素鋼、中炭素鋼等)で形成されている。第2治具2の外周には、第1治具1(
図2参照)の側(図では上側)に向かって次第に縮径する勾配をもつ円すい面12が形成されている。円すい面12の硬度は、耐久性を確保するため、HRC50以上(好ましくはHRC55以上)に設定されている。また、円すい面12は、Ra1.2μm以下(好ましくはRa0.8μm以下)の面粗さをもつ研削仕上げ面とされている。
【0045】
図7に示す円すい面12の軸方向に対する傾斜角度αは、
図8に示す柱部5の径方向外側面6の軸方向に対する傾斜角度βとは異なる角度に設定されている。具体的には、
図7の円すい面12の傾斜角度α(°)は、
図8に示す柱部5の径方向外側面6の傾斜角度β(°)に対して、(β-5)≦α≦(β-0.5)の範囲か、または、(β+0.5)≦α≦(β+20)(好ましくは(β+0.5)≦α≦(β+10))の範囲となるように設定されている。
【0046】
図7に示す第2治具2の小径側の外径寸法d1は、
図8に示す大径側円環部4の内径寸法D2よりも小さく設定されている。また、
図7に示す第2治具2の小径側の外径寸法d1は、
図8に示す小径側円環部3の内向きフランジ部11の根元の内径寸法D1よりも大きく設定されている。具体的には、
図7に示す第2治具2の小径側の外径寸法d1は、
図8に示す小径側円環部3の内向きフランジ部11の根元の内径寸法D1に対して、1.01≦(d1/D1)≦1.20を満たす範囲となるように設定されている。
【0047】
図7に示す第2治具2の大径側の外径寸法d2は、
図8に示す大径側円環部4の内径寸法D2よりも大きく設定されている。具体的には、
図7に示す第2治具2の大径側の外径寸法d2は、
図8に示す大径側円環部4の内径寸法D2に対して、1.01≦(d2/D2)≦1.40を満たす範囲となるように設定されている。また、
図7に示す第2治具2の大径側の外径寸法d2は、
図8に示す小径側円環部3の内向きフランジ部11の根元の内径寸法D1よりも大きく設定されている。
【0048】
図1に示すように、第2治具2の外周の円すい面12には、被試験体Wの複数の柱部5に対応する位置を軸方向に延びる複数の柱部逃がし溝13が設けられている。
図3、
図4に示すように、柱部逃がし溝13は、大径側円環部4の内周を円すい面12に嵌合させたときに、柱部5の内径側突出部9が円すい面12に接触しないように内径側突出部9を受け入れる溝幅および溝深さを有する。
【0049】
図2に示すように、第1治具1には、被試験体Wの第2治具2の側とは反対側(図では上側)の面に当接する保持器当接面14が形成されている。保持器当接面14は、小径側円環部3の大径側円環部4の側とは反対側(図では上側)の軸方向端面に当接する軸直角平面である。
【0050】
第1治具1は、第2治具2と同様、鉄系の材料(合金工具鋼鋼材(SKD11等)、軸受鋼、低炭素鋼、中炭素鋼等)で形成されている。保持器当接面14の硬度は、耐久性を確保するため、HRC50以上(好ましくはHRC55以上)に設定されている。また、保持器当接面14は、Ra1.2μm以下(好ましくはRa0.8μm以下)の面粗さをもつ研削仕上げ面とされている。
【0051】
上記構成の第1治具1と第2治具2とからなる治具セットを使用し、
図1に示す被試験体Wの強度評価を行なう例を説明する。
【0052】
図1に示すように、円すい面12の小径側が上側、円すい面12の大径側が下側となる向きに第2治具2をセットし、被試験体Wの大径側円環部4を第2治具2の外周の円すい面12に上側から嵌合させる。このとき、
図3、
図4に示すように、被試験体Wの各柱部5の内径側突出部9が、第2治具2の外周の柱部逃がし溝13に入り込むように、被試験体Wの第2治具2に対する周方向位置を調節する。
【0053】
次に、
図2~
図4に示すように、第1治具1を下降させ、第1治具1の保持器当接面14を被試験体Wに当接させる。ここでは、第2治具2を固定し、第1治具1を下降させることで、第1治具1と第2治具2を軸方向に近づくように相対移動させているが、第1治具1を固定し、第2治具2を上昇させることで、第1治具1と第2治具2を軸方向に近づくように相対移動させるようにしてもよい。
【0054】
第1治具1の保持器当接面14が被試験体Wに当接した後、さらに第1治具1を下降させると、第2治具2の外周の円すい面12で被試験体Wの大径側円環部4の内周が軸方向に押圧され、その円すい面12から作用する径方向外方の分力で大径側円環部4が拡径変形する。そして、
図5に示すように、大径側円環部4に作用する周方向の引張力が大径側円環部4の強度を超えると、大径側円環部4が破断する。
【0055】
ここで、大径側円環部4が破断する時の第1治具1と第2治具2の相対移動量、または、大径側円環部4が破断する時の被試験体Wに負荷される軸方向荷重の大きさに基づいて、樹脂製保持器の強度を評価することができる。
【0056】
大径側円環部4が破断する時の第1治具1と第2治具2の相対移動量に基づいて強度評価を行なう方法(移動量管理)を採用する場合、例えば、第1治具1の移動量を検知可能な移動量検知手段を設けたプレス装置(例えば、ハンドプレス装置)を使用し、そのプレス装置で第1治具1を下降させ、第1治具1の保持器当接面14が小径側円環部3の上端に当接してから、大径側円環部4が拡径変形して破断するまでの第1治具1の下方への移動量を計測し、その計測により得られた移動量が、予め設定されたしきい値を超えているか否かにより、樹脂製保持器の強度評価を行なうことが可能である。このように、大径側円環部4が破断する時の第1治具1と第2治具2の相対移動量に基づいて樹脂製保持器の強度評価を行なうと、荷重センサが不要であり、簡便である。
【0057】
また、大径側円環部4が破断する時の被試験体Wに負荷される軸方向荷重の大きさに基づいて強度評価を行なう方法(荷重管理)を採用する場合、例えば、第1治具1から被試験体Wに負荷する荷重を検出可能な荷重検出手段(ロードセル等)を組み込んだ引張圧縮試験機を使用し、その引張圧縮試験機で第1治具1を下降させ、大径側円環部4が拡径変形して破断した時の荷重値を検知し、その荷重値が予め設定されたしきい値を超えているか否かにより、樹脂製保持器の強度評価を行なうことが可能である。このように、大径側円環部4が破断する時の軸方向荷重の大きさに基づいて強度評価を行なうと、大径側円環部4の破断荷重を直接的に知ることが可能である。
【0058】
この実施形態の方法で軸受用樹脂製保持器の強度評価を行なうと、
図2に示す第2治具2の外周の円すい面12で円環状の被試験体Wの大径側円環部4の内周を軸方向に押圧し、その円すい面12から作用する径方向外方の分力で大径側円環部4を拡径変形させるので、大径側円環部4の全周に周方向の引張力を均一に付与することができる。そのため、周方向に間隔をおいて複数箇所のウエルド部をもつ樹脂製保持器について、その複数箇所のウエルド部のうち、いずれの箇所のウエルド部が最も強度の弱いウエルド部であるかを特定するのが難しい場合や、樹脂製保持器を射出成形する際の成形金型の温度分布や圧力分布などの諸条件によって、実際のウエルド部の位置が、設計上のウエルド部の位置から周方向にずれた場合など、樹脂製保持器の最も強度の弱い部分を特定することが難しい場合に、その樹脂製保持器の強度を正確に評価することが可能である。
【0059】
そのため、例えば、樹脂製保持器を量産する際に、量産ロット毎に一部の樹脂製保持器を被試験体Wとして抽出し、その被試験体Wの強度を、上記の移動量管理と荷重管理のいずれかの方法で評価することで、製品の品質管理や出荷検査法としての活用が可能となる。
【0060】
また、この実施形態の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法は、
図2、
図4に示すように、第2治具2の外周の円すい面12に柱部逃がし溝13を設けているので、第1治具1を下降させ、第2治具2の外周の円すい面12で大径側円環部4の内周を軸方向に押圧するときに、柱部5の径方向内側部分(
図4に示す内径側突出部9)が円すい面12に干渉しない。そのため、大径側円環部4の内周と、第2治具2の外周の円すい面12とを密着させることができ、大径側円環部4を円滑に拡径変形させることが可能である。
【0061】
また、この実施形態の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法は、
図3、
図4に示すように、保持器当接面14が、径方向に沿って傾斜をもたない軸直角平面なので、円すい面12から作用する径方向外方の分力で被試験体Wの大径側円環部4を拡径変形させるときに、保持器当接面14と小径側円環部3の接触部分に被試験体Wの拡径変形を妨げる径方向分力が生じず、被試験体Wを円滑に拡径変形させることができる。
【0062】
また、この実施形態の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法は、
図3に示す円すい面12を、Ra1.2μm以下(好ましくはRa0.8μm以下)の面粗さをもつ研削仕上げ面としているので、円すい面12と大径側円環部4の内周との間の摩擦力を低く抑えることができる。そのため、円すい面12で大径側円環部4の内周を軸方向に押圧し、その円すい面12から作用する径方向外方の分力で大径側円環部4を拡径変形させるときに、円すい面12から大径側円環部4の内周に作用する径方向外方の分力の大きさが安定している。
【0063】
また、この実施形態の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法は、
図7に示す円すい面12の軸方向に対する傾斜角度αが、
図8に示す柱部5の径方向外側面6の軸方向に対する傾斜角度βとは異なる角度に設定されているので、
図2に示すように、円すい面12で大径側円環部4の内周を軸方向に押圧し、その円すい面12から作用する径方向外方の分力で大径側円環部4を拡径変形させるときに、円すい面12と大径側円環部4の内周とが密着するのを防止し、円すい面12と大径側円環部4の内周との間の摩擦力を低く抑えることが可能となっている。そのため、円すい面12から大径側円環部4の内周に作用する径方向外方の分力の大きさが安定している。
【0064】
また、この実施形態の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法は、
図7に示す円すい面12の軸方向に対する傾斜角度αが、
図8に示す柱部5の径方向外側面6の軸方向に対する傾斜角度βに対して+20°以下(好ましくは+10°以下)の範囲に設定されているので、大径側円環部4の拡径量に対する第1治具1と第2治具2の軸方向の相対移動量が大きく、高い分解能をもって樹脂製保持器の強度を評価することが可能である。
【0065】
なお、小径側円環部3の第1治具1との当接面が軸直角平面ではない場合(例えば角度が付いた平面や中凹形状の面や中凸形状の面の場合)、第1治具1の形状を小径側円環部3の形状に合わせることで、第1治具1を小径側円環部3に面当接させるようにしてもよい。
【0066】
図9~
図15に基づいて、この発明の第2実施形態を説明する。第1実施形態に対応する部分は同一の符号を付して説明を省略する。
【0067】
この実施形態の強度評価方法は、
図9(a)に示される円すいころ軸受用の樹脂製保持器(第1実施形態の被試験体Wと同一構成のもの)の複数の柱部5を、
図9(a)に示す一点鎖線に沿って切断して得られる大径側円環部4の側の部分(
図9(b)参照)を被試験体Wとして使用する。そして、
図10に示す第1治具1と第2治具2とを使用して、被試験体Wの強度評価を行なう。
【0068】
図10、
図11に示すように、第1治具1と第2治具2は、上下方向に対向して配置されている。ここで、第1治具1と第2治具2は、上下方向を軸方向とし、第1治具1が下側、第2治具2が上側となるように配置されている。被試験体Wは、第1治具1と第2治具2の間に配置される。
【0069】
第2治具2は、円すい台状に形成された部材である。第2治具2の外周には、第1治具1の側(図では下側)に向かって次第に縮径する勾配をもつ円すい面12が形成されている。円すい面12は、Ra1.2μm以下(好ましくはRa0.8μm以下)の面粗さをもつ研削仕上げ面とされている。
【0070】
図14に示す第2治具2の小径側の外径寸法d1は、
図15に示す大径側円環部4の内径寸法D2よりも小さく設定されている。
図14に示す第2治具2の小径側の外径寸法d1は、
図15に示す大径側円環部4の内径寸法D2に対して、0.90≦(d1/D2)≦0.999を満たす範囲となるように設定されている。
【0071】
図14に示す第2治具2の大径側の外径寸法d2は、
図15に示す大径側円環部4の内径寸法D2よりも大きく設定されている。具体的には、
図14に示す第2治具2の大径側の外径寸法d2は、
図15に示す大径側円環部4の内径寸法D2に対して、1.01≦(d2/D2)≦1.30を満たす範囲となるように設定されている。
【0072】
図10に示すように、第2治具2の外周の円すい面12には、被試験体Wの複数の柱部5に対応する位置を軸方向に延びる複数の柱部逃がし溝13が設けられている。
【0073】
図11に示すように、第1治具1には、被試験体Wの柱部5を収容する柱部収容凹部15が周方向に間隔をおいて複数形成されている。また、第1治具1の周方向に隣り合う柱部収容凹部15の間には、被試験体Wの第2治具2の側とは反対側(図では下側)の面に当接する保持器当接面14が形成されている。保持器当接面14は、大径側円環部4の小径側円環部3の側(図では下側)の軸方向端面(
図9(a)に示すポケット7を形成する面)に当接する軸直角平面である。保持器当接面14は、Ra1.2μm以下(好ましくはRa0.8μm以下)の面粗さをもつ研削仕上げ面とされている。
【0074】
第2治具2の外周には、第1治具1に向かって軸方向に延びる円筒状の芯合わせ外周面16が設けられている。第1治具1には、芯合わせ外周面16に軸方向にスライド可能に嵌合する円筒状の芯合わせ内周面17が設けられている。芯合わせ内周面17の内径寸法は、芯合わせ外周面16の外形寸法の1.001~1.05倍の大きさに設定されている。
【0075】
芯合わせ内周面17には、軸方向に延びる周方向位置決め溝18が設けられている。芯合わせ外周面16には、周方向位置決め溝18に嵌合する周方向位置決め突起19が設けられている。そして、周方向位置決め溝18と周方向位置決め突起19の嵌合により、複数の柱部逃がし溝13の周方向位置と複数の柱部収容凹部15の周方向位置とが対応するように、第1治具1と第2治具2とが周方向に位置決めされるようになっている。
【0076】
上記構成の第1治具1と第2治具2とからなる治具セットを使用し、
図9(b)に示す被試験体Wの強度評価を行なう例を説明する。
【0077】
図10に示すように、保持器当接面14が上側となる向きに第1治具1をセットする。続いて被試験体Wの大径側円環部4が保持器当接面14に当接し、かつ、被試験体Wの柱部5が第1治具1の柱部収容凹部15に収容されるように、被試験体Wを第1治具1に載置する。
【0078】
次に、
図11~
図13に示すように、第2治具2を下降させ、第2治具2の外周の円すい面12を被試験体Wの大径側円環部4に嵌合させる。ここでは、第1治具1を固定し、第2治具2を下降させることで、第1治具1と第2治具2を軸方向に近づくように相対移動させているが、第2治具2を固定し、第1治具1を上昇させることで、第1治具1と第2治具2を軸方向に近づくように相対移動させるようにしてもよい。
【0079】
第2治具2の外周の円すい面12を被試験体Wの大径側円環部4に嵌合した後、さらに第2治具2を下降させると、第2治具2の外周の円すい面12で大径側円環部4の内周が軸方向に押圧され、その円すい面12から作用する径方向外方の分力で大径側円環部4が拡径変形する。そして、大径側円環部4に作用する周方向の引張力が大径側円環部4の強度を超えると、大径側円環部4が破断する。
【0080】
このとき、第1実施形態と同様に、大径側円環部4が破断する時の第1治具1と第2治具2の相対移動量、または、大径側円環部4が破断する時の被試験体Wに負荷される軸方向荷重の大きさに基づいて、樹脂製保持器の強度を評価することができる。
【0081】
この実施形態の方法で軸受用樹脂製保持器の強度評価を行なうと、
図11に示す第2治具2の外周の円すい面12で円環状の被試験体Wの大径側円環部4の内周を軸方向に押圧し、その円すい面12から作用する径方向外方の分力で大径側円環部4を拡径変形させるので、大径側円環部4の全周に周方向の引張力を均一に付与することができる。そのため、樹脂製保持器の最も強度の弱い部分を特定することが難しい場合に、その樹脂製保持器の強度を正確に評価することが可能である。
【0082】
また、この実施形態の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法は、
図11、
図13に示すように、第2治具2の外周の円すい面12に柱部逃がし溝13を設けているので、第2治具2を下降させ、第2治具2の外周の円すい面12で大径側円環部4の内周を軸方向に押圧するときに、柱部5の径方向内側部分(
図13に示す内径側突出部9)が円すい面12に干渉しない。そのため、大径側円環部4の内周と、第2治具2の外周の円すい面12とを密着させることができ、大径側円環部4を円滑に拡径変形させることが可能である。
【0083】
また、この実施形態の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法は、
図11に示すように、被試験体Wの柱部5を収容する柱部収容凹部15が第1治具1に形成されているので、保持器当接面14を被試験体Wに当接させるときに、柱部5の干渉を防止することができる。
【0084】
また、この実施形態の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法は、
図12に示すように、保持器当接面14が、径方向に沿って傾斜をもたない軸直角平面なので、円すい面12から作用する径方向外方の分力で被試験体Wの大径側円環部4を拡径変形させるときに、保持器当接面14と大径側円環部4の接触部分に被試験体Wの拡径変形を妨げる径方向分力が生じず、被試験体Wを円滑に拡径変形させることができる。
【0085】
また、この実施形態の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法は、
図11に示すように、芯合わせ外周面16と芯合わせ内周面17の嵌合により、第1治具1の軸心と第2治具2の軸心が一致するので、第1治具1に周方向に間隔をおいて形成された複数の柱部収容凹部15の位置と、第2治具2の外周に形成された円すい面12とが、同軸に位置決めされる。そのため、円すい面12から作用する径方向外方の分力で被試験体Wを拡径変形させるときに、被試験体Wの複数の柱部5と、第1治具1に形成された複数の柱部収容凹部15との間に偏心の位置ずれが生じるのを防止することができる。
【0086】
また、この実施形態の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法は、
図11に示すように、周方向位置決め溝18と周方向位置決め突起19の嵌合により、複数の柱部逃がし溝13の周方向位置と複数の柱部収容凹部15の周方向位置とが対応するように、第1治具1と第2治具2が周方向に位置決めされる。そのため、円すい面12から作用する径方向外方の分力で被試験体Wを拡径変形させるときに、被試験体Wの複数の柱部5と、第1治具1に形成された複数の柱部収容凹部15との間に周方向の位置ずれが生じるのを防止することができる。
【0087】
また、この実施形態の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法は、
図12に示す円すい面12を、Ra1.2μm以下(好ましくはRa0.8μm以下)の面粗さをもつ研削仕上げ面としているので、円すい面12と大径側円環部4の内周との間の摩擦力を低く抑えることができる。そのため、円すい面12で大径側円環部4の内周を軸方向に押圧し、その円すい面12から作用する径方向外方の分力で大径側円環部4を拡径変形させるときに、円すい面12から大径側円環部4の内周に作用する径方向外方の分力の大きさが安定している。
【0088】
なお、大径側円環部4の第1治具1との当接面が軸直角平面ではない場合、第1治具1の形状を大径側円環部4の形状に合わせることで、第1治具1を大径側円環部4に面当接させるようにしてもよい。
【0089】
図16~
図19に基づいて、この発明の第3実施形態を説明する。第1実施形態に対応する部分は同一の符号を付して説明を省略する。
【0090】
この実施形態の強度評価方法は、
図16に示される玉軸受用の樹脂製保持器を被試験体Wとして使用する。そして、第1治具1と第2治具2とを使用して、被試験体Wの強度評価を行なう。
【0091】
被試験体Wは、円環部21と、円環部21の側面に周方向に間隔をおいて形成された玉(図示せず)を収容する複数の球面状のポケット22と、周方向に隣り合うポケット22の間に設けられた軸方向に直角な複数の平坦部23と、各平坦部23の周方向両側から軸方向に突出する各一対の爪部24とを有する。
【0092】
円環部21と複数の平坦部23と複数の爪部24は、合成樹脂の射出成形により継ぎ目のない一体に形成されている。被試験体Wを射出成形する成形金型は、ゲート(成形金型のキャビティ内に溶融樹脂を流入させる樹脂の入口)を周方向に間隔をおいて複数設けたものが使用されている。円環部21は、周方向に間隔をおいた複数箇所にウエルド部を有する。
【0093】
図16、
図17に示すように、第1治具1と第2治具2は、上下方向に対向して配置されている。ここで、第1治具1と第2治具2は、上下方向を軸方向とし、第1治具1が下側、第2治具2が上側となるように配置されている。被試験体Wは、第1治具1と第2治具2の間に配置される。
【0094】
第2治具2は、円すい台状に形成された部材である。第2治具2の外周には、第1治具1の側(図では下側)に向かって次第に縮径する勾配をもつ円すい面12が形成されている。円すい面12は、Ra1.2μm以下(好ましくはRa0.8μm以下)の面粗さをもつ研削仕上げ面とされている。
【0095】
第1治具1は、周方向に間隔をおいて複数の平坦部23に対応する位置に複数の軸方向突起25を有する。各軸方向突起25の先端には、被試験体Wの平坦部23に当接する保持器当接面14が形成されている。
図18に示すように、保持器当接面14は、平坦部23に当接する軸直角平面である。保持器当接面14は、Ra1.2μm以下(好ましくはRa0.8μm以下)の面粗さをもつ研削仕上げ面とされている。
【0096】
図17に示すように、第2治具2の外周には、第1治具1に向かって軸方向に延びる円筒状の芯合わせ外周面16が設けられている。第1治具1には、芯合わせ外周面16に軸方向にスライド可能に嵌合する円筒状の芯合わせ内周面17が設けられている。また、芯合わせ内周面17には、軸方向に延びる回り止め溝26が設けられている。芯合わせ外周面16には、回り止め溝26に嵌合して第1治具1と第2治具2を回り止めする回り止め突起27が設けられている。
【0097】
上記構成の第1治具1と第2治具2とからなる治具セットを使用し、
図16に示す被試験体Wの強度評価を行なう例を説明する。
【0098】
図17に示すように、保持器当接面14が上側となる向きに第1治具1をセットする。続いて被試験体Wの各平坦部23が、第1治具1の各軸方向突起25の先端の保持器当接面14に当接し、かつ、被試験体Wの各ポケット22の両側の一対の爪部24が、第1治具1の周方向に隣り合う軸方向突起25の間に収容されるように、被試験体Wを第1治具1に載置する。
【0099】
次に、
図17~
図19に示すように、第2治具2を下降させ、第2治具2の外周の円すい面12を被試験体Wの円環部21に嵌合させる。ここでは、第1治具1を固定し、第2治具2を下降させることで、第1治具1と第2治具2を軸方向に近づくように相対移動させているが、第2治具2を固定し、第1治具1を上昇させることで、第1治具1と第2治具2を軸方向に近づくように相対移動させるようにしてもよい。
【0100】
第2治具2の外周の円すい面12を被試験体Wの円環部21に嵌合した後、さらに第2治具2を下降させると、第2治具2の外周の円すい面12で円環部21の内周が軸方向に押圧され、その円すい面12から作用する径方向外方の分力で円環部21が拡径変形する。そして、円環部21に作用する周方向の引張力が円環部21の強度を超えると、円環部21が破断する。
【0101】
このとき、第1実施形態と同様に、円環部21が破断する時の第1治具1と第2治具2の相対移動量、または、円環部21が破断する時の被試験体Wに負荷される軸方向荷重の大きさに基づいて、樹脂製保持器の強度を評価することができる。
【0102】
この実施形態の方法で軸受用樹脂製保持器の強度評価を行なうと、
図17に示す第2治具2の外周の円すい面12で円環状の被試験体Wの円環部21の内周を軸方向に押圧し、その円すい面12から作用する径方向外方の分力で円環部21を拡径変形させるので、円環部21の全周に周方向の引張力を均一に付与することができる。そのため、樹脂製保持器の最も強度の弱い部分を特定することが難しい場合に、その樹脂製保持器の強度を正確に評価することが可能である。
【0103】
また、この実施形態の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法は、
図17に示すように、保持器当接面14が、被試験体Wの平坦部23に対応する位置に設けた軸方向突起25の先端に設けられているので、被試験体Wの平坦部23の周囲に、平坦部23から軸方向に突出する部分(この実施形態では爪部24)が存在する場合にも、その軸方向に突出する部分と干渉せずに、保持器当接面14を被試験体Wに当接させることが可能である。
【0104】
また、この実施形態の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法は、
図18に示すように、保持器当接面14が、径方向に沿って傾斜をもたない軸直角平面なので、円すい面12から作用する径方向外方の分力で被試験体Wの円環部21を拡径変形させるときに、保持器当接面14と円環部21の接触部分に被試験体Wの拡径変形を妨げる径方向分力が生じず、被試験体Wを円滑に拡径変形させることができる。
【0105】
また、この実施形態の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法は、
図17に示すように、芯合わせ外周面16と芯合わせ内周面17の嵌合により、第1治具1の軸心と第2治具2の軸心が一致する。そのため、円すい面12から作用する径方向外方の分力で被試験体Wを拡径変形させるときに、被試験体Wの複数の平坦部23と、第1治具1に形成された複数の軸方向突起25との間に偏心の位置ずれが生じるのを防止することができる。
【0106】
また、この実施形態の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法は、
図17に示すように、回り止め突起27と回り止め溝26の嵌合により、第1治具1と第2治具2の相対回転が規制される。そのため、円すい面12から作用する径方向外方の分力で被試験体Wを拡径変形させるときに、被試験体Wの複数の平坦部23と、第1治具1に形成された複数の軸方向突起25との間に周方向の位置ずれが生じるのを防止することができる。
【0107】
また、この実施形態の軸受用樹脂製保持器の強度評価方法は、
図17に示す円すい面12を、Ra1.2μm以下(好ましくはRa0.8μm以下)の面粗さをもつ研削仕上げ面としているので、円すい面12と円環部21の内周との間の摩擦力を低く抑えることができる。そのため、円すい面12で円環部21の内周を軸方向に押圧し、その円すい面12から作用する径方向外方の分力で円環部21を拡径変形させるときに、円すい面12から円環部21の内周に作用する径方向外方の分力の大きさが安定している。
【0108】
なお、円環部21の第1治具1との当接面が軸直角平面ではない場合、第1治具1の形状を円環部21の形状に合わせることで、第1治具1を円環部21に面当接させるようにしてもよい。
【0109】
上記第2実施形態の強度評価方法で安定した強度評価を行なうことが可能であることを確認するため、
図9(b)に示す被試験体Wの20個のサンプルを準備し、それらのサンプルの強度を評価する試験を行なった。
【0110】
この強度評価試験の条件は以下のとおりである。
被試験体Wの材質:ポリフェニレンサルファイド(PPS樹脂)
大径側円環部4の内径寸法D2:49.83mm
柱部5の傾斜角度β:19°30′
円すい面12の傾斜角度α:20°
第2治具2の小径側の外径寸法d1:48.00mm
第2治具2の大径側の外径寸法d2:58.92mm
第2治具2の下降速度:1mm/min
【0111】
図11に示す第2治具2を被試験体Wが拡径変形して破断するまで下降させ、被試験体Wが破断する時の第2治具2の移動量と、その時に被試験体Wに負荷される軸方向荷重の大きさとを測定した。測定結果を次表に示す。
【表1】
【0112】
上記の表に示される試験結果から、被試験体Wが破断する時の荷重値と、第2治具2の移動量との間に高い相関があることを確認することができる。また、被試験体Wが破断する時の荷重値にばらつきが少なく、被試験体Wが破断する時の第2治具2の移動量にもばらつきが少なく、安定した強度評価を行なうことができていることが分かる。
【0113】
上記各実施形態では、軸受用の樹脂製保持器として、円すいころ軸受用の樹脂製保持器、軸受用の冠形樹脂製保持器を例に挙げて説明したが、この発明は、アンギュラ玉軸受用の樹脂製保持器や、円筒ころ軸受用の樹脂製保持器や、2枚の環状体をスナップフィット爪で結合する深溝玉軸受用の樹脂製保持器にも適用することが可能である。
【0114】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0115】
1 第1治具
2 第2治具
3 小径側円環部
4 大径側円環部
5 柱部
12 円すい面
13 柱部逃がし溝
14 保持器当接面
15 柱部収容凹部
16 芯合わせ外周面
17 芯合わせ内周面
18 周方向位置決め溝
19 周方向位置決め突起
21 円環部
22 ポケット
23 平坦部
25 軸方向突起
26 回り止め溝
27 回り止め突起
W 被試験体