IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社ミライズテクノロジーズの特許一覧

<>
  • 特開-水素ガスバリア被覆体 図1A
  • 特開-水素ガスバリア被覆体 図1B
  • 特開-水素ガスバリア被覆体 図2
  • 特開-水素ガスバリア被覆体 図3
  • 特開-水素ガスバリア被覆体 図4
  • 特開-水素ガスバリア被覆体 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166692
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】水素ガスバリア被覆体
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/40 20060101AFI20241122BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
C23C16/40
B32B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082980
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 康雄
(72)【発明者】
【氏名】大西 真司
【テーマコード(参考)】
4F100
4K030
【Fターム(参考)】
4F100AA19C
4F100AA25B
4F100AK46A
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA08B
4F100BA08C
4F100JA11B
4F100JD02
4F100YY00A
4K030AA11
4K030BA43
4K030BA47
4K030BB12
4K030CA07
4K030JA01
4K030JA10
(57)【要約】
【課題】剥離を抑制できると共に、水素ガスバリア機能が得られる水素ガスバリア膜が被覆された水素ガスバリア被覆体を提供する。
【解決手段】基材10と、基材10の一面10aに配置され、ZnO膜とAlO膜とが成膜された積層構造体で構成される水素ガスバリア膜20と、を有した水素ガスバリア被覆体とする。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(10)と、
前記基材の一面に配置され、ZnO膜(21)とAlO膜(22)とが成膜された積層構造体で構成される水素ガスバリア膜(20)と、
を有する水素ガスバリア被覆体。
【請求項2】
前記ZnO膜は結晶性の膜である、請求項1に記載の水素ガスバリア被覆体。
【請求項3】
前記ZnO膜と前記AlO膜とが交互に繰り返し積層された積層数が40以上とされている、請求項1に記載の水素ガスバリア被覆体。
【請求項4】
前記水素ガスバリア膜の膜厚が100nm以下とされている、請求項1に記載の水素ガスバリア被覆体。
【請求項5】
前記基材は、厚みが0.3mm以下である、請求項1に記載の水素ガスバリア被覆体。
【請求項6】
前記基材は、ポリアミドで構成されている、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の水素ガスバリア被覆体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素ガスバリア膜で被覆された物品である水素ガスバリア被覆体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、異なる種類の金属窒化膜で構成される結晶ナノ薄膜を10以上かつ1000以下で複数回積層し、全体膜厚を0.5~2μmとした水素ガスバリア膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-139009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、金属窒化膜は、材質的に応力が高く、膜厚が大きいとさらに応力が高くなる。応力が高いと、膜中にクラックが発生し易くなり、剥離し易くなる。また、結晶膜では、粒界からクラックが発生し、水素透過経路となるため、水素ガスバリア機能を低下させてしまう。
【0005】
本開示は、剥離を抑制できると共に、水素ガスバリア機能が得られる水素ガスバリア膜が被覆された水素ガスバリア被覆体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、水素ガスバリア被覆体であって、基材(10)と、基材の一面(10a)に配置され、ZnO膜(21)とAlO膜(22)とが成膜された積層構造体で構成される水素ガスバリア膜(20)と、を有している。
【0007】
このように、ZnO膜とAlO膜の積層構造体によって水素ガスバリア膜を構成することで、水素ガスバリア機能を得ることが可能となる。そして、金属窒化膜ではなく、ZnO膜とAlO膜によって水素ガスバリア膜を構成しているため、水素ガスバリア膜の応力を低くでき、膜中へのクラックの発生や、クラックに起因する剥離を抑制できる。よって、剥離を抑制できると共に、水素ガスバリア機能が得られる水素ガスバリア膜が被覆された水素ガスバリア被覆体とすることが可能となる。
【0008】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】第1実施形態にかかる水素ガスバリア被覆体の断面図である。
図1B図1A中の水素ガスバリア膜の詳細構造を示した断面図である。
図2】実施例1~5および比較例1、2の膜厚と積層数および水素透過係数との関係を示した図表である。
図3】実施例6~9および比較例3、4の膜厚と積層数および水素透過係数との関係を示した図表である。
図4】実施例1~5における積層数と水素透過係数との関係をまとめたグラフである。
図5】実施例6~9における積層数と水素透過係数との関係をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0011】
(第1実施形態)
第1実施形態にかかる水素ガスバリア被覆体について説明する。図1に示すように、基材10の一面10a上に水素ガスバリア膜20が成膜されており、基材10の一面10aが水素ガスバリア膜20によって被覆されることで水素ガスバリア被覆体が構成されている。
【0012】
基材10は、水素ガスを透過させたくない部品を構成するもの、もしくは水素ガスが含まれる空間を挟んで基材10と反対側に位置する部材への水素ガスの移動を抑制するためのものである。前者としては、例えば、水素ガスタンクにおける水素ガスが貯留されるタンク壁が挙げられる。後者としては、例えば、水素ガスバリアフィルムにおけるフィルム材が挙げられる。基材10の材質については、水素ガスバリア膜20を成膜できる材料であれば良く、例えばPA(ポリアミド)などの樹脂材料とされる。基材10の形状については任意であり、立体的な構造物でも良いし、フィルム状のものであっても良い。基材10の厚みについては任意であり、例えば1mmとすることができ、0.3mm以下とすればフィルム状のものに適用できる。
【0013】
水素ガスバリア膜20は、ZnO(酸化亜鉛)膜21とAlO(酸化アルミニウム)膜22との積層構造体によって構成されている。ZnO膜21およびAlO膜22を1層ずつ成膜した場合の層数を積層数とすると、積層数については任意であるが、後述するように積層数を40以上にすると特に水素ガスバリア機能が得られて好ましい。また、水素ガスバリア膜20の全体としての膜厚(以下、トータル膜厚という)については任意であるが、トータル膜厚を大きくし過ぎると膜全体での応力が大きくなるため、100nm以下であると好ましい。
【0014】
ZnO膜21は、水素ガスバリア機能を有する結晶性の膜である。ZnO膜21の膜厚は任意である。ただし、ZnO膜21の膜厚が大きすぎると応力が大きくなり過ぎ、膜厚が小さすぎると水素ガスバリア機能が損なわれるため、各層のZnO膜21の膜厚を1nm~40nmとしている。なお、この各層のZnO膜21の膜厚については、水素ガスバリア膜20のトータル膜厚とZnO膜21およびAlO膜22の積層数に応じて決めれば良い。例えば、応力が大きくなり過ぎないようにトータル膜厚を100nm以下にしつつ、積層数を幾つにするかによってZnO膜21の膜厚を決めれば良い。また、各層のZnO膜21の膜厚がすべて同じである必要はなく、異なる膜厚とされていても良い。
【0015】
AlO膜22は、アモルファス膜であり、各層のZnO膜21を被覆することでZnO膜21の水素ガスバリア機能を担保すると共に、自身も水素ガスバリア機能を有している。なお、アモルファスとは、結晶構造を持たない物質の状態のことであり、非晶質とも呼ばれる。ZnO膜21は、高い水素ガスバリア機能を有しているものの粒界が発生し得る結晶性の膜であるため、粒界を通じて水素ガスが透過する可能性がある。このため、ZnO膜21と交互にアモルファス膜で構成されるAlO膜22を形成し、ZnO膜21の粒界を覆って隙間を保護することで、各層のZnO膜21の水素ガスバリア機能を担保している。また、基材10の変形に追従できるようになり、基材10がフィルム状の薄いものであっても水素ガスバリア機能が得られるようにしている。
【0016】
AlO膜22の膜厚は任意である。ただし、AlO膜22の膜厚が大きすぎると応力が大きくなり過ぎ、膜厚が小さすぎるとZnO膜21の粒界を覆う機能が損なわれるため、各層のAlO膜22の膜厚を1nm~40nmとしている。なお、この各層のAlO膜22の膜厚についても、水素ガスバリア膜20のトータル膜厚とZnO膜21およびAlO膜22の積層数に応じて決めれば良い。例えば、応力が大きくなり過ぎないようにトータル膜厚を100nm以下にしつつ、積層数を幾つにするかによってAlO膜22の膜厚を決めれば良い。また、各層のAlO膜22の膜厚がすべて同じである必要はなく、異なる膜厚とされていても良い。
【0017】
基材10の一面10aからのZnO膜21とAlO膜22の積層の順番については任意であり、一面10a上にZnO膜21から形成しても、AlO膜22から形成しても良い。ただし、水素ガスバリア膜20の最表面については、粒界が存在し得るZnO膜21ではなく、それを覆うAlO膜22であると好ましい。
【0018】
このように、基材10の一面10aを水素ガスバリア膜20で被覆した水素ガスバリア被覆体とすることで、高い水素ガスバリア機能を備えることができる。そして、金属窒化膜を含有しないZnO膜21およびAlO膜22によって水素ガスバリア膜20を構成しているため、金属窒化膜で構成される場合と比較して応力を低減することができる。このため、応力が高い膜中に発生するクラックを抑制して、剥離が発生することを抑制できる。また、結晶性のZnO膜21に粒界が存在していたとしても、AlO膜22によって被覆しているため、粒界からクラックが発生し、水素ガスバリア機能が低下することを抑制できる。したがって、剥離を抑制できると共に、水素ガスバリア機能の低下を抑制できる水素ガスバリア被覆体とすることが可能となる。
【0019】
次に、上記構成を有する水素ガスバリア被覆体の実施例について、比較例と比較して説明する。
【0020】
まず、基材10として板状のPAを用意し、このPAで構成された基材10の一面10aにZnO膜21およびAlO膜22を交互に繰り返し成膜した。具体的には、ALD(原子層堆積)装置を用いて、80℃の温度下で、AlO膜22の原料となるTMA(トリメチルアルミニウム)とZnO膜21の原料となるDEZn(シエチル亜鉛)の原料気体を交互に導入・排気を繰り返し行った。そして、原子層を1層ずつ堆積してAlO膜22とZnO膜21をそれぞれ所望の厚みとなるように制御し、交互に繰り返して所望の膜数分形成した。
【0021】
図2は、基材10として厚み1mm程度とした板状のPAの一面10aに対してAlO膜22を成膜してからZnO膜21を成膜することを交互に繰り返し、最後に最表面にAlO膜22を成膜した場合の水素透過係数の測定結果を示している。AlO膜22とZnO膜21のトータルの膜厚が85nm程度となるようにしている。図3は、図2と同様の測定を基材10として厚み0.3mm程度としたフィルム状のPAを用いて行った場合を示している。図中に示した各実施例や各比較例の膜厚を示す数式は、第1項が最表面のAlO膜22の膜厚を示しており、第2項がZnO膜21とAlO膜22のそれぞれの膜厚とこれら2層を繰り返し積層した繰り返しを表している。また、図中に示した各実施例や各比較例の積層数は、積層された個々のZnO膜21やAlO膜22を1層ずつとした全体の積層数を表している。水素透過係数については、JIS規格(JIS K 7126-1)に基づく測定方法で評価している。具体的には、評価したいサンプル品の挟んだ上下両側の空間の圧力を制御できる装置を用いて、上側空間に水素ガスを導入すると共に空間圧力を制御し、下側空間を真空に近い減圧状態として、上側空間から下側空間への水素の透過量を測定する。このような条件において、水素の透過量に基材10および水素ガスバリア膜20の膜厚を掛けた値が水素透過係数となる。基材10の厚みに対して水素ガスバリア膜20の膜厚が十分に小さいことから、水素透過係数は、概ね水素の透過量に基材10の厚みを掛けた値として表されることになる。このため、基材10が薄いほど水素透過係数が小さな値になるが、水素ガスバリア膜20の水素ガスバリア機能としては、同じ膜質であれば、概ね同様である。
【0022】
図2に示すように、比較例1として、AlO膜22のみを厚み80nmで1層のみ形成した場合と、比較例2として、ZnO膜21のみを厚み80nmで1層のみ形成した場合について、水素透過係数を測定した。その結果、比較例1では1.1×10-16(mol/msPa)、比較例2では1.4×10-15(mol/msPa)であった。
【0023】
また、実施例1として、最表面のAlO膜22の膜厚を5nmとし、ZnO膜21とAlO膜22を共に40nmとして1回だけ積層した。この場合、積層数が3となり、水素透過係数が1.1×10-16(mol/msPa)であった。実施例2として、最表面のAlO膜22の膜厚を5nmとし、ZnO膜21とAlO膜22を共に10nmとして4回繰り返し積層した。この場合、積層数が9となり、水素透過係数が1.1×10-16(mol/msPa)であった。実施例3として、最表面のAlO膜22の膜厚を5nmとし、ZnO膜21とAlO膜22を共に5nmとして8回繰り返し積層した。この場合、積層数が17となり、水素透過係数が1.0×10-16(mol/msPa)であった。
【0024】
さらに、実施例4として、最表面のAlO膜22の膜厚を2nmとし、ZnO膜21とAlO膜22を共に2nmとして20回繰り返し積層した。この場合、積層数が41となり、水素透過係数が6.4×10-17(mol/msPa)であった。実施例5として、最表面のAlO膜22の膜厚を1nmとし、ZnO膜21とAlO膜22を共に1nmとして40回繰り返し積層した。この場合、積層数が81となり、水素透過係数が8.0×10-17(mol/msPa)であった。
【0025】
また、図3に示すように、比較例3として、AlO膜22のみを厚み80nmで1層のみ形成した場合と、比較例4として、ZnO膜21のみを厚み80nmで1層のみ形成した場合について、水素透過係数を測定した。その結果、比較例3では4.7×10-16(mol/msPa)、比較例4では5.4×10-16(mol/msPa)であった。
【0026】
また、実施例6として、最表面のAlO膜22の膜厚を5nmとし、ZnO膜21とAlO膜22を共に40nmとして1回だけ積層した。この場合、積層数が3となり、水素透過係数が6.6×10-17(mol/msPa)であった。実施例7として、最表面のAlO膜22の膜厚を5nmとし、ZnO膜21とAlO膜22を共に10nmとして4回繰り返し積層した。この場合、積層数が9となり、水素透過係数が7.3×10-17(mol/msPa)であった。実施例8として、最表面のAlO膜22の膜厚を5nmとし、ZnO膜21とAlO膜22を共に5nmとして8回繰り返し積層した。この場合、積層数が17となり、水素透過係数が6.8×10-17(mol/msPa)であった。実施例9として、最表面のAlO膜22の膜厚を2nmとし、ZnO膜21とAlO膜22を共に2nmとして20回繰り返し積層した。この場合、積層数が41となり、水素透過係数が4.7×10-17(mol/msPa)であった。
【0027】
比較例1と実施例1~3は、すべて、水素透過係数が1.0×10-16(mol/msPa)程度となっている。また、比較例2は、水素透過係数が1.4×10-15(mol/msPa)と比較的高い値になっている。
【0028】
水素透過係数は、水素がどれだけ透過するかを示す係数であるため、低いほど水素ガスバリア機能が高いことを意味している。比較例1と比較して、実施例1~3は同等の水素ガスバリア機能を発揮している。また、比較例2と比較すると、実施例1~3の方が高い水素ガスバリア機能を発揮している。
【0029】
また、比較例4、5については、共に、比較例1、2よりも水素透過係数が小さな値となっており、高い水素ガスバリア機能を発揮していると言える。
【0030】
一方、比較例3、4と実施例6~9を比較すると、実施例6~9の方の水素透過係数が小さい値となっており、高い水素ガスバリア機能を発揮していた。
【0031】
これらの結果を分析すると、基材10の厚みを1mmとした場合と0.3mmとした場合の積層数と水素透過係数との関係はそれぞれ図4図5のようになった。参考として、図4中に、比較例1の水素透過係数を示してある。
【0032】
図4に示すように、1mmという厚めの基材10上にAlO膜22の単層膜を形成した比較例1では、水素透過係数が1.0×10-16(mol/msPa)となるが、実施例1~5もそれと同等以下の水素透過係数となった。つまり、厚い基材10の一面10a上にAlO膜22の単層膜を厚く形成した場合には比較的高い水素ガスバリア機能が得られているが、ZnO膜21とAlO膜22の積層構造体としても、同等以上の水素ガスバリア機能が得られた。また、比較例2のようにZnO膜21の単層膜とした場合には、水素透過係数が1.4×10-15(mol/msPa)であり、実施例1~5の方が低い水素透過係数となった。
【0033】
これらより、ZnO膜21とAlO膜22の積層構造体とすることで、AlO膜22の単層膜とする場合と同等以上で、ZnO膜21の単層膜とする場合より高い水素ガスバリア機能が得られていることが分かる。ZnO膜21やAlO膜22は水素ガスバリア機能を有するが、単層膜では薄膜だと十分な機能が得られないため膜厚を厚くする必要があるが、それだと製造時間を要してしまう。反面、製造時間を短くしてZnO膜21やAlO膜22の膜厚が薄くなると十分な水素ガスバリア機能が得られない。これに対して、ZnO膜21とAlO膜22の積層構造体とすれば、1層1層を薄くしつつも、高い水素ガスバリア機能を得ることが可能になる。
【0034】
特に、積層数を41以上とした場合には、AlO膜22の単層膜とする場合よりも更に水素透過係数を低減することができ、より高い水素ガスバリア機能を得ることができていた。各層の膜厚が薄くなり、迷路効果が高くなって、水素ガスバリア機能が高くなると考えられる。ただし、積層数を81とした場合も高い水素ガスバリア機能が得られるが、各層の膜厚が薄くなり、ZnO膜21の結晶性が低下し始めるため、この実験では、積層数が41とした場合の方が水素透過係数が小さくなっていた。
【0035】
図5に示すように、0.3mmというフィルム状の基材10の一面10a上にAlO膜22やZnO膜21の単層膜を形成した比較例3、4と比較すると、実施例6~9の方がいずれも水素透過係数が小さい値になっている。特に、積層数を41とした場合には、AlO膜22やZnO膜21の単層膜とする場合よりも水素透過係数を1桁以上低減することができ、より高い水素ガスバリア機能を得ることができた。
【0036】
このように、基材10の厚みに関係無く、ZnO膜21とAlO膜22の積層構造体とすれば、AlO膜22の単層膜とする場合と同等以上の、またZnO膜21の単層膜とする場合よりも優れた水素ガスバリア機能を得ることが可能となる。
【0037】
以上説明したように、ZnO膜21とAlO膜22の積層構造体とすることで水素ガスバリア機能を得ることが可能となる。そして、金属窒化膜ではなく、ZnO膜21とAlO膜22によって水素ガスバリア膜20を構成しているため、水素ガスバリア膜20の応力を低くでき、膜中へのクラックの発生や、クラックに起因する剥離を抑制できる。特に、厚みが0.3mm以下のフィルム状のような薄い基材10に対する水素ガスバリア膜20では、基材10の伸びや変形が大きく、膜中にクラックが発生し易いが、ZnO膜21とAlO膜22の積層構造体とすれば、それを抑制できる。
【0038】
また、ZnO膜21もしくはAlO膜22の単層膜によって水素ガスバリア膜20を構成する場合には、膜厚を厚くしなければならず、製造時間を要して製造コストが高くなる。これに対して、ZnO膜21とAlO膜22の積層構造体とすれば、1層1層の膜厚を薄くできるため、製造時間を短縮化できて製造コストも低減できる。
【0039】
また、金属窒化膜ではなく、ZnO膜21とAlO膜22によって水素ガスバリア膜20を構成しているため、高い成膜温度としなくても良い。このため、基材10が高温耐性の不十分な樹脂などで構成されていても、基材10を劣化させないで済む。
【0040】
さらに、ZnO膜21とAlO膜22の積層数を多くすることで、より水素ガスバリア機能を向上させられる。実施例4、5、9では、積層数を41、81とした場合について示したが、実験結果によれば、積層数が40以上とすることで、より高い水素ガスバリア機能を得ることができる。
【0041】
(他の実施形態)
本開示は、上記した実施形態に準拠して記述されたが、当該実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0042】
例えば、上記第1実施形態で説明したZnO膜21とAlO膜22の積層構造体の積層数については一例を示したに過ぎず、他の層数としても構わない。ただし、その合にも、水素ガスバリア膜20のトータルの膜厚が100nm以下となるようにすることで、応力を抑制できるため好ましい。
【0043】
また、上記第1実施形態では、ZnO膜21とAlO膜22の繰り返し積層する際のそれぞれの膜厚を同じにしているが、ZnO膜21の膜厚とAlO膜22の膜厚を異ならせても良い。さらに、積層構造体に含まれる複数のZnO膜21の膜厚がすべて同じである必要は無いし、全て異なる膜厚であっても良い。同様に、積層構造体に含まれる複数のAlO膜22の膜厚がすべて同じである必要は無いし、全て異なる膜厚であっても良い。
【符号の説明】
【0044】
10 基材
10a 一面
20 水素ガスバリア膜
21 ZnO膜
22 AlO膜
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5