(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166729
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂材の溶着方法及び溶着装置
(51)【国際特許分類】
B29C 65/14 20060101AFI20241122BHJP
【FI】
B29C65/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083033
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】803000045
【氏名又は名称】株式会社キャンパスクリエイト
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】瀧尾 由佳子
(72)【発明者】
【氏名】三徳 正孝
【テーマコード(参考)】
4F211
【Fターム(参考)】
4F211AK02
4F211AK04
4F211AR06
4F211TA01
4F211TC03
4F211TD11
4F211TH06
4F211TH09
4F211TH10
4F211TN27
4F211TQ09
(57)【要約】
【課題】二つの熱可塑性樹脂材の、深さ方向での溶着位置を制御する。
【解決手段】共に赤外線吸収性を有する第1の熱可塑性樹脂材1と第2の熱可塑性樹脂材2とを接触配置する工程と、第1の熱可塑性樹脂材1の表面側に、固体の放熱体でありかつ赤外光を透過させるヒートシンク3を接触配置する工程と、ヒートシンク3の表面側から赤外光を照射して、第1の熱可塑性樹脂材1と第2の熱可塑性樹脂材2との接触部を赤外光で加熱する工程と、ヒートシンク3の表面側における赤外光の照射位置に流体を吹きつけることにより、赤外光の照射方向における、第1の熱可塑性樹脂材1内の深さ方向での温度分布を制御しつつ、第1の熱可塑性樹脂材1と第2の熱可塑性樹脂材2とを、接触部において溶着するとともに、第1の熱可塑性樹脂材1の表面側から接触部に至る赤外光の経路上における第1の熱可塑性樹脂材1の変性を防ぐ工程とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共に赤外線吸収性を有する第1の熱可塑性樹脂材と第2の熱可塑性樹脂材とを接触配置する工程と、
前記第1の熱可塑性樹脂材の表面側に、固体の放熱体であり、かつ赤外光を透過させるヒートシンクを接触配置する工程と、
前記ヒートシンクの表面側から前記赤外光を照射して、前記第1の熱可塑性樹脂材と前記第2の熱可塑性樹脂材との接触部を前記赤外光で加熱する工程と、
前記ヒートシンクの表面側における、前記赤外光の照射位置に、流体を吹きつけることにより、前記赤外光の照射方向における、前記第1の熱可塑性樹脂材内の深さ方向での温度分布を制御しつつ、前記第1の熱可塑性樹脂材と前記第2の熱可塑性樹脂材とを、前記接触部において溶着するとともに、前記第1の熱可塑性樹脂材の表面側から前記接触部に至る前記赤外光の経路上における前記第1の熱可塑性樹脂材の変性を防ぐ工程と
を有する熱可塑性樹脂材の溶着方法。
【請求項2】
前記流体の熱伝達能力を高めることにより、前記赤外光の照射により前記第1又は第2の熱可塑性樹脂が溶融する位置をより深い方向に移動させる工程をさらに含む
請求項1に記載の熱可塑性樹脂材の溶着方法。
【請求項3】
前記流体の吹きつけ流量を増加させる、又は、前記流体の温度を低下させることにより前記流体の熱伝達能力を高めるようになっている
請求項2に記載の熱可塑性樹脂材の溶着方法。
【請求項4】
前記第1の熱可塑性樹脂材はフッ素樹脂である熱可塑性樹脂
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂材の溶着方法。
【請求項5】
前記赤外光はレーザ光である
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂材の溶着方法。
【請求項6】
共に赤外線吸収性を有する第1の熱可塑性樹脂材と第2の熱可塑性樹脂材とが接触配置された状態で、前記第1の熱可塑性樹脂材の表面側に接触配置される、固体の放熱体であり、かつ赤外光を透過させるヒートシンクと、
前記ヒートシンクの表面側から前記赤外光を照射して、前記第1の熱可塑性樹脂材と前記第2の熱可塑性樹脂材との接触部を前記赤外光で加熱する赤外光照射手段と、
前記ヒートシンクの表面側における、前記赤外光の照射位置に、流体を吹きつけることにより、前記赤外光の照射方向における、前記第1の熱可塑性樹脂材内の深さ方向での温度分布を制御しつつ、前記第1の熱可塑性樹脂材と前記第2の熱可塑性樹脂材とを、前記接触部において溶着するとともに、前記第1の熱可塑性樹脂材の表面側から前記接触部に至る前記赤外光の経路上における前記第1の熱可塑性樹脂材の変性を防ぐ流体吹きつけ手段と
を有する熱可塑性樹脂材の溶着装置。
【請求項7】
前記流体吹きつけ手段は、前記流体の熱伝達能力を高めることにより、前記赤外光の照射により前記第1又は第2の熱可塑性樹脂が溶融する位置をより深い方向に移動させる制御手段を含む
請求項6に記載の熱可塑性樹脂材の溶着装置。
【請求項8】
前記ヒートシンクに対する前記赤外光の照射位置は、前記ヒートシンクの表面方向に変化させられるようになっており、
前記流体の熱伝達能力を、前記赤外光の照射位置に応じて変化させることにより、前記第1の熱可塑性樹脂内の深さ方向での前記温度分布の、異なる照射位置間での均一性を向上させるようになっている
請求項1に記載の熱可塑性樹脂材の溶着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂材の溶着方法及び溶着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1では、熱可塑性樹脂材どうしをレーザ光を用いて溶着する技術が記載されている。この技術によれば、レーザ光を透過するヒートシンクを、一方の熱可塑性樹脂材の表面側に配置することにより、熱可塑性樹脂材の表面側の変性(損傷)を防ぎつつ、熱可塑性樹脂材どうしを溶着することができる。
【0003】
しかしながら、表面側の熱可塑性樹脂材の厚さが大きくなると、表面側の熱可塑性樹脂材が変性しやすくなる。これを避けるためにレーザ光強度を下げると、二つの熱可塑性樹脂材の接触部における温度が溶着領域に達せず、溶着ができないという問題を生じる。特に、赤外線吸収特性が高いPTFEやPFAにおいてはこの問題が顕著になる。
【0004】
下記特許文献2は、空気をレーザ照射位置の周辺に吹き付けることで溶融領域の拡大を防ぐことを提案している。しかしながらこの技術は、樹脂の厚さ方向において溶着位置を制御するための技術ではない。
【0005】
下記特許文献3は、冷却ガスを、溶着位置における樹脂表面に吹き付けることによって、レーザ光による樹脂の損傷を防ぐことを提案している。しかしながらこの技術も、樹脂の厚さ方向において溶着位置を制御するための技術ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4279674号公報
【特許文献2】特開2016-83853号公報
【特許文献3】特開2012-24986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、樹脂の厚さ方向において溶着位置を制御する方法について種々研究を重ねた結果、レーザ照射位置におけるヒートシンクに流体を吹き付けることによりこれを達成できるという知見を得た。
【0008】
本発明は、前記した知見に鑑みてなされたものである。本発明の主な目的は、熱可塑性樹脂材の深さ方向での溶着位置を制御することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の項目に記載の発明として表現することができる。
【0010】
(項目1)
共に赤外線吸収性を有する第1の熱可塑性樹脂材と第2の熱可塑性樹脂材とを接触配置する工程と、
前記第1の熱可塑性樹脂材の表面側に、固体の放熱体であり、かつ赤外光を透過させるヒートシンクを接触配置する工程と、
前記ヒートシンクの表面側から前記赤外光を照射して、前記第1の熱可塑性樹脂材と前記第2の熱可塑性樹脂材との接触部を前記赤外光で加熱する工程と、
前記ヒートシンクの表面側における、前記赤外光の照射位置に、流体を吹きつけることにより、前記赤外光の照射方向における、前記第1の熱可塑性樹脂材内の深さ方向での温度分布を制御しつつ、前記第1の熱可塑性樹脂材と前記第2の熱可塑性樹脂材とを、前記接触部において溶着するとともに、前記第1の熱可塑性樹脂材の表面側から前記接触部に至る前記赤外光の経路上における前記第1の熱可塑性樹脂材の変性を防ぐ工程と
を有する熱可塑性樹脂材の溶着方法。
【0011】
(項目2)
前記流体の熱伝達能力を高めることにより、前記赤外光の照射により前記第1又は第2の熱可塑性樹脂が溶融する位置をより深い方向に移動させる工程をさらに含む
項目1に記載の熱可塑性樹脂材の溶着方法。
【0012】
(項目3)
前記流体の吹きつけ流量を増加させる、又は、前記流体の温度を低下させることにより前記流体の熱伝達能力を高めるようになっている
項目2に記載の熱可塑性樹脂材の溶着方法。
【0013】
(項目4)
前記第1の熱可塑性樹脂材はフッ素樹脂である熱可塑性樹脂
項目1又は2に記載の熱可塑性樹脂材の溶着方法。
【0014】
(項目5)
前記赤外光はレーザ光である
項目1又は2に記載の熱可塑性樹脂材の溶着方法。
【0015】
(項目6)
共に赤外線吸収性を有する第1の熱可塑性樹脂材と第2の熱可塑性樹脂材とが接触配置された状態で、前記第1の熱可塑性樹脂材の表面側に接触配置される、固体の放熱体であり、かつ赤外光を透過させるヒートシンクと、
前記ヒートシンクの表面側から前記赤外光を照射して、前記第1の熱可塑性樹脂材と前記第2の熱可塑性樹脂材との接触部を前記赤外光で加熱する赤外光照射手段と、
前記ヒートシンクの表面側における、前記赤外光の照射位置に、流体を吹きつけることにより、前記赤外光の照射方向における、前記第1の熱可塑性樹脂材内の深さ方向での温度分布を制御しつつ、前記第1の熱可塑性樹脂材と前記第2の熱可塑性樹脂材とを、前記接触部において溶着するとともに、前記第1の熱可塑性樹脂材の表面側から前記接触部に至る前記赤外光の経路上における前記第1の熱可塑性樹脂材の変性を防ぐ流体吹きつけ手段と
を有する熱可塑性樹脂材の溶着装置。
【0016】
(項目7)
前記流体吹きつけ手段は、前記流体の熱伝達能力を高めることにより、前記赤外光の照射により前記第1又は第2の熱可塑性樹脂が溶融する位置をより深い方向に移動させる制御手段を含む
項目6に記載の熱可塑性樹脂材の溶着装置。
【0017】
(項目8)
前記ヒートシンクに対する前記赤外光の照射位置は、前記ヒートシンクの表面方向に変化させられるようになっており、
前記流体の熱伝達能力を、前記赤外光の照射位置に応じて変化させることにより、前記第1の熱可塑性樹脂内の深さ方向での前記温度分布の、異なる照射位置間での均一性を向上させるようになっている
項目1に記載の熱可塑性樹脂材の溶着方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の技術によれば、熱可塑性樹脂材の深さ方向での溶着位置を制御することができる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂材の溶着方法を説明するための概略的な説明図である。
【
図2】熱可塑性樹脂材内部での温度分布の変動を示す説明図であり、
図2(a)は
図1における要部の概略的な断面図、
図2(b)は温度分布を示すグラフである。
図2(b)における縦軸は深さ方向での距離(任意単位)、横軸は温度(任意単位)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂材の溶着装置(以下「溶着装置」又は「装置」と称することがある)を、添付の図面を参照しながら説明する。なお、添付の図面はいずれも概略的な説明図であって、寸法比や縮尺は正確ではない。
【0021】
(本実施形態の溶着装置の構成)
本実施形態の溶着装置は、共に赤外線吸収性を有する第1の熱可塑性樹脂材1と第2の熱可塑性樹脂材2とを溶着するためのものである。本実施形態では、第1の熱可塑性樹脂材1と第2の熱可塑性樹脂材2とがいずれもシート上であることを前提とするが、これらの形状に制約はない。第1の熱可塑性樹脂材1としては、フッ素樹脂である熱可塑性樹脂が用いられる。ただし熱可塑性樹脂としては、赤外線吸収性があれば特に制約されない。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、エチレン-環状オレフィン共重合体などのポリオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合体およびそのけん化物、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレンポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン12、MXDナイロンなどのポリアミド、ポリメチルメタアクリレート、ポリアクリル酸などのアクリル系ポリマー、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンやポリフロロエチレンなどの含ハロゲンポリマー、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどの合成ゴムおよびその水素添加物、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体などの熱可塑性エラストマーとその水素添加物、液晶ポリマー、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトンなどを例示できる。特に本実施形態では、赤外線吸収特性が高いPTFEやPFAを熱可塑性樹脂として使用することができる。
【0022】
本実施形態の溶着装置は、ヒートシンク3と赤外光照射手段4と流体吹きつけ手段5とを主要な構成として備えている。また、第1の熱可塑性樹脂材1と第2の熱可塑性樹脂材2とは接触した状態で配置されているものとする。さらに、この装置は、支持体6と基台7とを追加的な構成として有している。
【0023】
(ヒートシンク)
ヒートシンク3は、第1の熱可塑性樹脂材1の表面側に接触配置されている。ヒートシンク3は、固体の放熱体であり、かつ赤外光を透過させる材質により構成されている。ヒートシンク3の材質としては、例えばシリコン、ZnSe、ZnS、あるいはダイヤモンドであるが、これらには制約されず、他の材質であってもよい。
【0024】
(赤外光照射手段)
赤外光照射手段4は、ヒートシンク3の表面(
図1において上面)側から赤外光を照射して、第1の熱可塑性樹脂材1と第2の熱可塑性樹脂材2との接触部を赤外光で加熱するものである。本実施形態の赤外光照射手段4としてはレーザ照射装置が用いられており、赤外光としてはレーザ光が用いられている。レーザ光としては、例えば炭酸ガスレーザ、一酸化炭素レーザが好適であるが、他の種類のレーザ光であってもよい。
【0025】
(流体吹きつけ手段)
流体吹きつけ手段5は、ヒートシンク3の表面側における、赤外光の照射位置に、流体を吹きつけるものである。
【0026】
この流体吹きつけ手段5は、赤外光の照射方向における、第1の熱可塑性樹脂材1内の深さ方向での温度分布を制御しつつ、第1の熱可塑性樹脂材1と第2の熱可塑性樹脂材2とを、それらの接触部において溶着するものである。また、この流体吹きつけ手段5は、第1の熱可塑性樹脂材1の表面側から接触部に至る赤外光の経路上における第1の熱可塑性樹脂材の変性を防ぐようになっている。
【0027】
流体吹きつけ手段5は、流体の熱伝達能力を高めることにより、赤外光の照射により第1の熱可塑性樹脂材1又は第2の熱可塑性樹脂材2が溶融する位置を、より深い方向に移動させる制御手段51を含んでいる。制御手段51は具体的には、例えば流体吹きつけ手段5の吹き出し口の位置を制御する制御モータ(図示せず)やコントローラ(図示せず)を含むことができる。
【0028】
本実施形態において流体とは、気体又は液体である。気体とは例えば空気である。液体は、ミストのような粒子状液体であることが好ましい。粒子状液体の場合、気化熱による冷却効果を期待することができる。
【0029】
(支持体及び基台)
支持体6は、第2の熱可塑性樹脂材2を支持するようになっている。また、支持体6は、基台7の上に載置されている。
【0030】
(本実施形態の溶着装置の動作)
つぎに、前記した溶着装置を用いて熱可塑性樹脂材の溶着を行う方法を、さらに
図2を参照しながら説明する。
【0031】
第1の熱可塑性樹脂材1と第2の熱可塑性樹脂材2とを、接触した状態で配置する(
図1参照)。ついで、第1の熱可塑性樹脂材1の表面側にヒートシンク3を、接触した状態で配置する。
【0032】
ついで、ヒートシンク3の表面側から、赤外光照射手段4により赤外光を照射する。すると赤外光は、ヒートシンク3を透過して第1の熱可塑性樹脂材1に到達し、その内部を通過して、第1の熱可塑性樹脂材1と第2の熱可塑性樹脂材2との接触部を加熱する。この動作は、特許文献1と基本的に同様である。
【0033】
ここで本実施形態では、ヒートシンク3の表面側における、赤外光の照射位置に、赤外光の照射と並行して、流体吹きつけ手段5により流体を吹きつける。これにより、赤外光の照射方向における、第1の熱可塑性樹脂材1内の深さ方向での温度分布を制御しつつ、第1の熱可塑性樹脂材1と第2の熱可塑性樹脂材2とを、接触部において溶着することができる。さらに本実施形態では、第1の熱可塑性樹脂材1の表面側から接触部に至る赤外光の経路上における第1の熱可塑性樹脂材1の変性を防ぐことができる。
【0034】
この動作を、
図2をさらに参照しながら説明する。
図2(a)には、
図1における要部を拡大して示す。ただし説明の便宜上、寸法比は適宜に変更している。またこの図では、第1の熱可塑性樹脂材1が第2の熱可塑性樹脂材2よりも厚いものとなっている。さらに
図2(a)では、流体吹きつけ手段5から吹き付けられた流体に符号52を付している。
【0035】
図2(b)には、赤外光照射手段から赤外光(図示例ではレーザ光)をヒートシンク3に向けて照射したときの、第1及び第2の熱可塑性樹脂材1・2内での温度分布を示す。流体吹きつけ手段5からの流体吹きつけを停止しつつレーザ光を照射したときの温度分布を
図2(b)において破線で示す。ヒートシンク3の作用により、第1の熱可塑性樹脂材1の表面よりもやや深いところに温度ピークが存在する。ただし、第1の熱可塑性樹脂材1と第2の熱可塑性樹脂材2の接合部分よりも浅い位置に温度ピークが存在している。本発明者らの知見によれば、この状態でレーザ照射を続ける、あるいはレーザ出力を上げると、この温度ピークは、同じ位置において高くなり、変性温度に達してしまう。すると、第1の熱可塑性樹脂材1の炭化や白化という変性を生じてしまうという問題を生じる。つまり、ヒートシンク3だけでは、樹脂材の深さ方向における温度ピークの位置を制御することが難しい。
【0036】
レーザ光の照射条件を変更せずに、流体吹きつけ手段5から流体をヒートシンク3に向けて吹き付けたときの温度分布を
図2(b)において実線で示す。この場合、温度ピークの位置を、樹脂材の深さ方向(
図2(b)において下方向)に遷移させることができる。すると、第1の熱可塑性樹脂材1と第2の熱可塑性樹脂材2との接合部近傍に温度ピークを位置させることにより、変性温度に達することを避けつつ、接合部を溶融温度以上に加熱して、これら二つの樹脂材を接合することができる。つまりこれにより、第1の熱可塑性樹脂材1の炭化や白化という変性を避けつつ、二つの樹脂材を確実に接合することが可能になるという利点がある。
【0037】
従来、熱吸収性の高いPTFEやPFAを溶着する場合、樹脂の厚さを厚くすることが難しいという問題があった。これに対して本実施形態によれば、樹脂内の温度ピークの位置を流体により制御することによって、このような樹脂であっても溶着が容易となるという利点がある。
【0038】
ここで、本発明者らの知見によれば、流体の熱伝達能力を高めることにより、前記した温度ピークの位置をさらに深い位置に遷移させることができる。したがって本実施形態によれば、赤外光の照射により第1又は第2の熱可塑性樹脂材1・2が溶融する位置をより深い方向に移動させることができる。これにより、溶着対象の樹脂が厚くなった場合でも、変性を避けつつ溶着することが可能になる。
【0039】
ここで、流体の熱伝達能力を高める方法としては、例えば、流体の吹きつけ流量を増加させる、又は、流体の温度を低下させることであるが、他の方法を用いることは可能である。
【0040】
なお、前記実施形態の記載は単なる一例に過ぎず、本発明に必須の構成を示したものではない。各部の構成は、本発明の趣旨を達成できるものであれば、上記に限らない。
【0041】
例えば、赤外光照射手段4としては、ヒートシンク3に対する赤外光の照射位置をヒートシンク3の表面方向に変化させることができる構成であってもよい。そしてさらに、流体の熱伝達能力を、赤外光の照射位置に応じて変化させる構成としてもよい。これにより、第1の熱可塑性樹脂材1内の深さ方向における温度分布の、異なる照射位置間での均一性を向上させることができる。ヒートシンク3に対する赤外光の照射位置をヒートシンク3の表面方向に変化させる手段としては、支持体6側を移動させる構成を用いることもできる。
【0042】
また、前記した実施形態では、赤外光照射手段4としてレーザ照射装置を用い、赤外光としてレーザ光を用いたが、レーザ光以外の赤外光を用いることは可能であり、それに応じた適宜な赤外光照射手段を用いることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 第1の熱可塑性樹脂材
2 第2の熱可塑性樹脂材
3 ヒートシンク
4 赤外光照射手段
5 流体吹きつけ手段
51 制御手段
52 流体
6 支持体
7 基台