(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166737
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】生分解性プラスチック、及び生分解性プラスチックの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20241122BHJP
C08L 101/16 20060101ALI20241122BHJP
C12N 1/14 20060101ALN20241122BHJP
C08J 11/18 20060101ALN20241122BHJP
【FI】
C08L101/00 ZBP
C08L101/16
C12N1/14 A
C08J11/18 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083050
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154184
【弁理士】
【氏名又は名称】生富 成一
(74)【代理人】
【識別番号】100105795
【弁理士】
【氏名又は名称】名塚 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(72)【発明者】
【氏名】一色 淳憲
(72)【発明者】
【氏名】柴田 幸樹
(72)【発明者】
【氏名】間嶋 健矢
【テーマコード(参考)】
4B065
4F401
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4B065AA58X
4B065AA60X
4B065AA65X
4B065AC14
4B065BD40
4B065CA54
4F401AA30
4F401CA77
4J002AA001
4J002CF031
4J002FD206
4J002GE00
4J200AA02
4J200AA04
4J200BA15
4J200EA11
(57)【要約】
【課題】 海洋環境中において生分解性プラスチックを好適に分解させることが可能な生分解性プラスチックを提供する。
【解決手段】 生分解性プラスチックを分解することができる真菌の菌糸体を含有する生分解性プラスチック。真菌の菌糸体が、粉末化した形態であることが好ましく、生分解性プラスチックが、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、及びそれらの誘導体、並びにそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの合成ポリマーであることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性プラスチックを分解することができる真菌の菌糸体を含有することを特徴とする生分解性プラスチック。
【請求項2】
前記真菌の菌糸体が、粉末化した形態であることを特徴とする請求項1記載の生分解性プラスチック。
【請求項3】
前記生分解性プラスチックが、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、及びそれらの誘導体、並びにそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの合成ポリマーであることを特徴とする請求項1又は2記載の生分解性プラスチック。
【請求項4】
前記合成ポリマーが、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリブチレンスクシネート(PBS)、ポリブチレンスクシネートアジペート(PBSA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリエチレンテレフタレートスクシネート(PETS)、デンプンポリエステル、及びポリブチレンスクシネートテレフタレート(PBST)からなる群から選択されることを特徴とする請求項3記載の生分解性プラスチック。
【請求項5】
前記真菌が、糸状菌であることを特徴とする請求項1又は2記載の生分解性プラスチック。
【請求項6】
前記糸状菌が、不完全菌類、又は子のう菌類であることを特徴とする請求項5記載の生分解性プラスチック。
【請求項7】
前記糸状菌が、アスペルギルス属、フザリウム属、又はグロメレラ属に属する菌であることを特徴とする請求項5記載の生分解性プラスチック。
【請求項8】
前記真菌の菌糸体の粉末が、0.001%~10質量%で含有されていることを特徴とする請求項2記載の生分解性プラスチック。
【請求項9】
生分解性プラスチックに前記生分解性プラスチックを分解可能な真菌の菌糸体を添加して含有させることを特徴とする生分解性プラスチックの製造方法。
【請求項10】
前記真菌の菌糸体を粉末化して、前記生分解性プラスチックに添加することを特徴とする請求項9記載の生分解性プラスチックの製造方法。
【請求項11】
液体培地に前記真菌の糸状菌を植菌する工程、
前記糸状菌を静置又は攪拌した状態で所定時間培養し、前記糸状菌の菌糸体マットを作成する工程、
前記菌糸体マットを採取する工程、
前記菌糸体マットを所定時間乾燥する工程、及び
乾燥させた前記菌糸体マットを粉末化する工程を有する
ことを特徴とする請求項10記載の生分解性プラスチックの製造方法。
【請求項12】
前記液体培地に、グルコース、トレハロース、及び/又はスクロースを添加することにより、前記真菌の菌糸体の耐性を向上させることを特徴とする請求項11記載の生分解性プラスチックの製造方法。
【請求項13】
前記耐性が、保存性、又は耐熱性であることを特徴とする請求項12記載の生分解性プラスチックの製造方法。
【請求項14】
前記糸状菌を、不完全菌類、又は子のう菌類から選択することを特徴とする請求項11記載の生分解性プラスチックの製造方法。
【請求項15】
前記糸状菌を、アスペルギルス属、フザリウム属、又はグロメレラ属から選択することを特徴とする請求項11記載の生分解性プラスチックの製造方法。
【請求項16】
前記菌糸体の粉末を、有機溶剤に溶解させた生分解性プラスチックに分散し溶液キャスト法によって成形を行うことを特徴とする請求項10記載の生分解性プラスチックの製造方法。
【請求項17】
前記菌糸体の粉末を、熱融解させた生分解性プラスチックに分散し溶融混練法によって成形を行うことを特徴とする請求項10記載の生分解性プラスチックの製造方法。
【請求項18】
前記成形において、前記菌糸体の粉末をフィルム状、薄膜状、又は塊状に成形することを特徴とする請求項16又は17記載の生分解性プラスチックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックの分解技術に関し、特に微生物を用いたプラスチックの分解技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックによる海洋汚染が問題となっている。すなわち、環境中に流出したプラスチックのほとんどが、河川などに流れ込んで最終的に海に行き着くため、プラスチックは海の生態系に甚大な悪影響を与えている。また、プラスチックの海洋への影響は産業にも被害を与えて、大きな経済的損失をもたらしている。プラスチックは、海でマイクロプラスチックの粒子となるが、一般的なプラスチックは細かくなっても自然分解することはなく、数百年間以上も残り続けると考えられている。
【0003】
このような状況において、従来のプラスチックに代えて、自然分解が可能な生分解性プラスチックの使用が広がってきている。
しかし、生分解性プラスチックを使用しても、海洋環境は流動的であり微生物の種類や量は経時的に変化するため、その自然分解には時間がかかり、生分解性プラスチックの種類によっては長期間海に残留することになる。このため、それのみによって海洋汚染の問題を解決することは難しい状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3-179036号公報
【特許文献2】特開2002-356623号公報
【特許文献3】特許第6310843号公報
【特許文献4】特許第6985154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者らは、生分解性プラスチックに生体材料を内包させることによって、海洋環境中の生分解性プラスチックを効率的に分解させる手法について鋭意研究し、生分解性プラスチックに、生分解性プラスチックを分解することができる真菌の菌糸体を含有させることによって、海洋環境中において生分解性プラスチックを好適に分解させることに成功して本発明を完成させた。
【0006】
また、このような生分解性プラスチックにおける真菌の菌糸体による分解効果を長期間に亘って残存させることが望ましい。
また、生分解性プラスチックに真菌の菌糸体を容易に混合可能にするために、耐熱性に優れた真菌の菌糸体が得られるようにすることが好ましい。
そこで、本発明者らは、さらに鋭意研究して、これらを実現可能にする生分解性プラスチックの製造方法を開発することにも成功した。
【0007】
ここで、特許文献1~4には、生体材料を内包する生分解性プラスチックが開示されている。
しかしながら、これらの文献には、生分解性プラスチックに、生分解性プラスチックを分解することができる真菌の菌糸体を含有させることによって、海洋環境中において生分解性プラスチックを好適に分解させることについては、記載も示唆もされていない。
また、これらの文献には、生分解性プラスチックにおける真菌の菌糸体による分解効果を長期間に亘って残存させることや、耐熱性に優れた真菌の菌糸体を得る手法についても、記載も示唆もされていない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、海洋環境中において生分解性プラスチックを好適に分解させることが可能な生分解性プラスチック、及び生分解性プラスチックの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の生分解性プラスチックは、生分解性プラスチックを分解することができる真菌の菌糸体を含有する構成としてある。
また、本発明の生分解性プラスチックを、前記真菌の菌糸体が、粉末化した形態である構成とすることが好ましい。
【0010】
また、本発明の生分解性プラスチックを、前記生分解性プラスチックが、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、及びそれらの誘導体、並びにそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの合成ポリマーである構成とすることが好ましい。
【0011】
また、本発明の生分解性プラスチックを、前記合成ポリマーが、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリブチレンスクシネート(PBS)、ポリブチレンスクシネートアジペート(PBSA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリエチレンテレフタレートスクシネート(PETS)、デンプンポリエステル、及びポリブチレンスクシネートテレフタレート(PBST)からなる群から選択される構成とすることが好ましい。
【0012】
また、本発明の生分解性プラスチックを、前記真菌が、糸状菌である構成とすることが好ましい。
また、本発明の生分解性プラスチックを、前記糸状菌が、不完全菌類、又は子のう菌類である構成とすることが好ましく、前記糸状菌が、アスペルギルス属、フザリウム属、又はグロメレラ属に属する菌である構成とすることも好ましい。
【0013】
また、本発明の生分解性プラスチックを、前記真菌の菌糸体の粉末が、0.001%~10質量%で含有されている構成とすることが好ましい。
さらに、本実施形態の生分解性プラスチックを、上記の生分解性プラスチックにおける構成を様々に組み合わせた構成とすることも好ましい。
【0014】
本実施形態の生分解性プラスチックの製造方法は、生分解性プラスチックに前記生分解性プラスチックを分解可能な真菌の菌糸体を添加して含有させる方法としてある。
また、本実施形態の生分解性プラスチックの製造方法を、前記真菌の菌糸体を粉末化して、前記生分解性プラスチックに添加する方法とすることが好ましい。
【0015】
また、本実施形態の生分解性プラスチックの製造方法を、液体培地に前記真菌の糸状菌を植菌する工程、前記糸状菌を静置又は攪拌した状態で所定時間培養し、前記糸状菌の菌糸体マットを作成する工程、前記菌糸体マットを採取する工程、前記菌糸体マットを所定時間乾燥する工程、及び乾燥させた前記菌糸体マットを粉末化する工程を有する方法とすることが好ましい。
【0016】
また、本実施形態の生分解性プラスチックの製造方法を、前記液体培地に、グルコース、トレハロース、及び/又はスクロースを添加することにより、前記真菌の菌糸体の耐性を向上させる方法とすることが好ましく、前記耐性が、保存性、又は耐熱性であることが好ましい。
【0017】
また、本実施形態の生分解性プラスチックの製造方法を、前記糸状菌を、不完全菌類、又は子のう菌類から選択する方法とすることが好ましく、前記糸状菌を、アスペルギルス属、フザリウム属、又はグロメレラ属から選択する方法とすることも好ましい。
【0018】
また、本実施形態の生分解性プラスチックの製造方法を、前記菌糸体の粉末を、有機溶剤に溶解させた生分解性プラスチックに分散し溶液キャスト法によって成形を行う方法とすることが好ましい。
また、本実施形態の生分解性プラスチックの製造方法を、前記菌糸体の粉末を、熱融解させた生分解性プラスチックに分散し溶融混練法によって成形を行う方法とすることも好ましい。
さらに、本実施形態の生分解性プラスチックの製造方法を、前記成形において、前記菌糸体の粉末をフィルム状、薄膜状、又は塊状に成形する方法とすることも好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、海洋環境中において生分解性プラスチックを好適に分解させることが可能な生分解性プラスチック、及び生分解性プラスチックの製造方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係る生分解性プラスチックの人工海水中における分解試験(PCL)の結果を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る生分解性プラスチックの人工海水中における分解試験(PBAT)の結果を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る生分解性プラスチックの人工海水中における分解試験(PBSA)の結果を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る生分解性プラスチックの内包微生物の生体活性が分解に及ぼす影響を確認する試験の結果を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る生分解性プラスチックの天然海水中における分解試験(PCL)の結果を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る生分解性プラスチックの天然海水中における分解試験(PBAT)の結果を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る生分解性プラスチックの天然海水中における分解試験(PBSA)の結果を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る生分解性プラスチックに含有される真菌の菌糸体の保存性を確認する試験の結果を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る生分解性プラスチックに含有される真菌の菌糸体の耐熱性を確認する試験の結果を示す図である。
【
図10】本発明の実施形態に係る溶融混練法によって製造された生分解性プラスチックの人工海水寒天培地上における分解試験の結果を示す図である。
【
図11】本発明の実施形態に係る溶融混練法によって製造された生分解性プラスチックの天然海水寒天培地上における分解試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の生分解性プラスチック、及び生分解性プラスチックの製造方法の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態及び後述する実施例の具体的な内容に限定されるものではない。
【0022】
本実施形態の生分解性プラスチックは、生分解性プラスチックを分解することができる真菌の菌糸体を含有することを特徴とする。
本実施形態において、生分解性プラスチックは、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、及びそれらの誘導体、並びにそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの合成ポリマーであることが好ましい。
【0023】
また、この合成ポリマーは、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリブチレンスクシネート(PBS)、ポリブチレンスクシネートアジペート(PBSA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリエチレンテレフタレートスクシネート(PETS)、デンプンポリエステル、及びポリブチレンスクシネートテレフタレート(PBST)からなる群から選択されることが好ましい。
【0024】
また、本実施形態の生分解性プラスチックにおいて、真菌の菌糸体は、糸状菌であることが好ましく、糸状菌が、不完全菌類、又は子のう菌類であることが好ましい。
また、この糸状菌として、アスペルギルス属、フザリウム属、グロメレラ属、ぺニシリウム属、又はパシロマイセス属に属する菌を用いることが好ましい。
【0025】
また、本実施形態の生分解性プラスチックにおいて、真菌の菌糸体は、粉末化した形態で含有されていることが好ましい。
さらに、本実施形態の生分解性プラスチックにおいて、真菌の菌糸体の粉末は、0.001%~10質量%で含有されていることが好ましく、0.001%~5質量%で含有されていることも好ましい。
【0026】
本実施形態の生分解性プラスチックの製造方法は、生分解性プラスチックに生分解性プラスチックを分解可能な真菌の菌糸体を添加して含有させることを特徴とする。
また、本実施形態の生分解性プラスチックの製造方法は、真菌の菌糸体を粉末化して、生分解性プラスチックに添加することが好ましい。
【0027】
さらに、本実施形態の生分解性プラスチックの製造方法は、以下の工程を有することが好ましい。
(1)液体培地に真菌の糸状菌を植菌する工程
(2)糸状菌を静置又は攪拌した状態で所定時間培養し、糸状菌の菌糸体マットを作成する工程
(3)菌糸体マットを採取する工程
(4)菌糸体マットを所定時間乾燥する工程
(5)乾燥させた菌糸体マットを粉末化する工程
【0028】
具体的には、実施例において後述するように、例えば、前培養によって得られたコロニーを、スパチュラなどを用いて5mm角程度に切り取り、その切片をCzapek液体培地などに植菌して、25℃の暗所で静置培養することによって、液体培地表面に糸状菌からなる菌糸体マットを作成することができる。
また、静置培養の期間後、液体培地表面に形成された菌糸体マットを採取することができる。そして、菌糸体マットを室温などで一定期間乾燥させた後、スクリューキャップチューブに乾燥菌糸体マットとジルコニアボールとを共に封入し、ミニビード・ビーターなどを用いて振盪することによって、乾燥菌糸体マットを粉末化することができる。
【0029】
本実施形態の生分解性プラスチックの製造方法は、液体培地に、グルコース、トレハロース、及び/又はスクロースを添加することにより、真菌の菌糸体の耐性を向上させることが好ましい。また、この耐性としては、保存性、又は耐熱性とすることが好ましい。
【0030】
また、本実施形態の生分解性プラスチックの製造方法は、糸状菌を、不完全菌類、又は子のう菌類から選択することが好ましく、また、糸状菌を、アスペルギルス属、フザリウム属、グロメレラ属、ぺニシリウム属、又はパシロマイセス属から選択することが好ましい。
【0031】
また、本実施形態の生分解性プラスチックの製造方法は、菌糸体の粉末を、有機溶剤に溶解させた生分解性プラスチックに分散し溶液キャスト法によって成形を行うことが好ましい。
また、本実施形態の生分解性プラスチックの製造方法は、菌糸体の粉末を、熱融解させた生分解性プラスチックに分散し溶融混練法によって成形を行うことも好ましい。
さらに、これらの成形において、菌糸体の粉末をフィルム状、薄膜状、又は塊状に成形することが好ましい。
【0032】
具体的には、実施例において後述するように、溶液キャスト法においては、例えば、所定量の樹脂ペレットをガラスバイアル瓶などに加え、ペレットを攪拌しながら生分解性樹脂を溶解可能な溶液(例:クロロホルム)を添加し、完全に溶解するまで攪拌する。そして、樹脂が完全に溶解した攪拌中のクロロホルム液に所定量の菌糸体粉末を投入して攪拌後、直ちにガラスシャーレなどに流し込み、クロロホルムが消失するまでドラフト環境内で風乾することによって、菌糸体粉末を含有したフィルムを作成することができる。
また、溶液キャスト法により本実施形態の生分解性プラスチックを量産する場合には、例えば樹脂を溶剤に溶解した溶液に菌糸体粉末を添加し、得られた溶液を支持体に塗布、噴霧、又は含浸する方法などにより得ることが可能である。
【0033】
また、溶融混練法においては、例えば、所定量の樹脂ペレットをミクロチューブに加え、所定温度に設定したブロックヒーターに設置し、ペレットの形が無くなりアメ状になるまで一定時間加熱する。そして、アメ状になった樹脂に所定量の菌糸体粉末を添加し、スパチュラなどを用いて混練して、菌糸体粉末を含有した樹脂片を作成することができる。
また、溶融混練法により本実施形態の生分解性プラスチックを量産する場合には、例えばスクリュウなどを用いた連続式の押出機に樹脂ペレットとともに菌糸体粉末を投入し、押し出された樹脂をカットして、あるいは金型に注入して成形することにより得ることが可能である。
【0034】
このような本実施形態の生分解性プラスチック、及び生分解性プラスチックの製造方法によれば、海洋環境中において生分解性プラスチックを好適に分解させることが可能となる。
【実施例0035】
以下、本発明の実施形態に係る生分解性プラスチック、及び生分解性プラスチックの製造方法の効果を確認するために行った試験について説明する。
【0036】
[試験1]
本実施形態により製造した生分解性プラスチックの人工海水中における分解促進効果について、試験を行った。
【0037】
まず、生分解性プラスチックに含有させる真菌の菌糸体を、以下のように準備した。
1.前培養
冷凍保存(マイナス80℃)したストック菌株をPDA培地(Potato Dextrose Agar)に植菌し、25℃の暗所でそれぞれ1~2週間程度培養した。
ストック菌株としては、次の3種類を使用した。
・菌株A:アスペルギルス属(Aspergillus flavus NBRC6343)
・菌株B:フザリウム属(Fusarium oxysporum NBRC9971)
・菌株C:グロメレラ属(Glomerella cingulata NBRC107004)
【0038】
2.液体培地への植菌、菌糸体マットの作成
形成されたコロニーを、スパチュラを用いて5mm角程度に切り取り、その切片を3%(w/v)グルコースを含むCzapek液体培地(0.3%NaNO3,0.1%K2HPO4,0.05%MgSO4・7H2O,0.05%KCl,0.001%FeSO4・7H2O)に植菌して、25℃の暗所で静置培養した。これにより、液体培地表面に糸状菌からなる菌糸体マットを作成した。
【0039】
各菌株の静置培養の期間は、それぞれ次のとおりである。なお、これらの期間の長短に特別な意味はない。以下の試験における各菌株の静置培養の期間及び乾燥期間ついても同様である。
・菌株A:192日間
・菌株B:101日間
・菌株C:101日間
【0040】
3.菌糸体マットの回収
静置培養の期間後、液体培地表面に形成された菌糸体マットを回収した。
【0041】
4.菌糸体マットの乾燥
菌糸体マットを室温で一定期間乾燥させた。
各菌株の乾燥期間は、それぞれ次のとおりである。
・菌株A:126日間
・菌株B:31日間
・菌株C:31日間
【0042】
5.菌糸体マットの粉末化
2mlのスクリューキャップチューブに、乾燥菌糸体マットとジルコニアボール2個(直径3.0mm程度)とを共に封入し、ミニビード・ビーターBSP-3110BXを用いて、2500rpm・120秒の条件で振盪し、乾燥菌糸体マットを粉末化して、粉末化した形態の真菌の菌糸体(菌糸体粉末)を得た。
【0043】
次に、生分解性プラスチックを、溶液キャスト法により、以下のように作成した。
6.クロロホルムによる樹脂の溶解
所定量の樹脂ペレットをガラスバイアル瓶(大きさ:容量19ml)に加え、ペレットを攪拌しながら2mlのクロロホルムを添加し、完全に溶解するまで2~3時間程度攪拌した。
樹脂ペレットとしては、次のものを使用した。
・PCL(ポリカプロラクトン):PLACCEL H8C Lot.H8C-AJ-D01(株式会社ダイセル)
【0044】
7.生分解性プラスチックの完成
樹脂が完全に溶解した攪拌中のクロロホルム液に所定量の菌糸体粉末を投入し、40秒程度攪拌後、直ちにガラスシャーレ(直径50mm×高さ30mm)に流し込み、クロロホルムが消失するまでドラフト環境内で2時間程度風乾し、菌糸体粉末を含有したフィルムを作成して、本実施形態の生分解性プラスチックを得た。
【0045】
生分解性プラスチックにおける菌糸体粉末と樹脂の混合割合は、次のとおりである。
・菌株A:PCL208.1mg+菌株A10.0mg(菌糸体の内包濃度4.6%)
・菌株B:PCL202.0mg+菌株B9.2mg(同4.4%)
・菌株C:PCL194.1mg+菌株C9.7mg(同4.8%)
【0046】
次に、生分解性プラスチックの分解を以下のように確認した。
8.人工海水の調製
36g/Lの割合で調製した以下の組成の海産微細藻類培養用ダイゴ人工海水SPに、0.3%(w/v)となるようにNaNO
3を添加した。そして、フラスコ1本あたり25mlの人工海水を分注し、オートクレーブを行った。なお、NaNO
3を添加は、人工海水に窒素源を投入することにより、菌糸体の生育を促進させるために行った。
【表1】
【0047】
9.生分解性プラスチックの人工海水環境下への暴露
エタノール消毒したハサミを用いて、10~20mm角程度に生分解性プラスチックのフィルムを切断し、生分解性プラスチックの量が同程度になるように、上記のフラスコ1本あたりに2~4個のフィルムの切片を投入した。このように、切断面の菌糸体粉末を水に晒すことによって、菌糸体の生育を促した。本試験におけるブランクは、菌糸体粉末を含有していないフィルムの切片を投入した人工海水である。試験2~4,10についても同様である。
このようにして、生分解性プラスチックを25℃で130rpmの振とう条件で、88日間人工海水環境下に暴露した。
【0048】
10.生分解性プラスチックの重量減少率の算出
上記の人工海水環境下への暴露後、目視でフィルムもしくはフィルムの一部と確認されるものについてのみ回収して重量測定を実施し、以下の式により重量減少率を算出した。
重量減少率(%)=(投入前のフィルム重量-回収時のフィルム重量)/投入前のフィルム重量×100
【0049】
11.生育切片率の算出
また、上記の人工海水環境下への暴露において使用した本実施形態の生分解性プラスチックにおける真菌菌糸体の生体活性を確認するために、以下のように生育切片率を計算した。
【0050】
菌糸体粉末を含むフィルムを作製当日に適当なサイズ(5×5mm角内程度)に切断し、直ちにPDA培地に置床し、25℃の暗所に静置して、1~2週間後にフィルムに含有された菌糸体の生育が認められた切片の百分率を算出した。
このとき、全9切片でフィルムに含有された菌糸体の生育の確認を行った。また、菌糸体を含有していないブランクのフィルムを同様に全6切片PDA培地に置床して、菌糸体の生育がないことを確認した。
【0051】
図1は、以上によって得られた菌株ごとの生分解性プラスチックの重量減少率、及びそれぞれの生分解性プラスチックにおける菌糸体の内包濃度と生育切片率を示している。
図1に示されるように、菌株A、菌株B、菌株Cによる生分解性プラスチックの重量減少率は、それぞれ20.1%、90.7%、100.0%であった。
【0052】
また、菌株A、菌株B、菌株Cの生分解性プラスチックにおける内包濃度は、それぞれ4.6%、4.4%、4.8%であり、生育切片率は、それぞれ100.0%(9/9)、66.7%(6/9)、100.0%(9/9)であった。
以上のとおり、本実施形態の生分解性プラスチック、及び生分解性プラスチックの製造方法によれば、人工海水環境中で生分解性プラスチックの分解を促進できることが分かった。
【0053】
[試験2]
本実施形態により製造した生分解性プラスチックの人工海水中における分解促進効果について、使用するプラスチックを変更して試験を行った。
【0054】
生分解性プラスチックに含有させる真菌の菌糸体は、試験1で準備したものと同じものを使用した。
また、本実施形態の生分解性プラスチックを、以下の点を除いて試験1と同様に作成した。
樹脂ペレットとして、次のものを使用した。
・PBAT(ポリブチレンアジペートテレフタレート):ECOFLEX F BLEND C1200 Lot.67510 624UO(BASF社)
【0055】
生分解性プラスチックにおける菌糸体粉末と樹脂の混合割合は、次のとおりである。
・菌株A:PBAT199.7mg+菌株A10.0mg(菌糸体の内包濃度4.8%)
・菌株B:PBAT195.1mg+菌株B10.1mg(同4.9%)
・菌株C:PBAT198.6mg+菌株C10.0mg(同4.8%)
【0056】
次に、生分解性プラスチックの分解を以下のように確認した。
試験1と同様に人工海水をフラスコに分注し、オートクレーブを行った。
エタノール消毒したハサミを用いて、10~20mm角程度に生分解性プラスチックのフィルムを切断し、生分解性プラスチックの量が同程度になるように、上記のフラスコ1本あたりに2~4個のフィルムの切片を投入した。
【0057】
そして、生分解性プラスチックを25℃で130rpmの振とう条件で、88日間人工海水環境下に暴露した。
また、試験1と同様に、生分解性プラスチックの重量減少率の算出と生育切片率の算出を行った。
【0058】
図2は、以上によって得られた菌株ごとの生分解性プラスチックの重量減少率、及びそれぞれの生分解性プラスチックにおける菌糸体の内包濃度と生育切片率を示している。
図2に示されるように、菌株A、菌株B、菌株Cによる生分解性プラスチックの重量減少率は、それぞれ0.0%、4.6%、1.8%であった。
【0059】
また、菌株A、菌株B、菌株Cの生分解性プラスチックにおける内包濃度は、それぞれ4.8%、4.9%、4.8%であり、生育切片率は、それぞれ100.0%(9/9)、66.7%(6/9)、100.0%(9/9)であった。
以上のとおり、本実施形態の生分解性プラスチック、及び生分解性プラスチックの製造方法によれば、使用するプラスチックを変更した場合において、菌株B及び菌株Cでは人工海水環境中で生分解性プラスチックの分解を促進できることが確認された。
【0060】
[試験3]
本実施形態により製造した生分解性プラスチックの人工海水中における分解促進効果について、使用するプラスチックを変更して試験を行った。
【0061】
生分解性プラスチックに含有させる真菌の菌糸体は、試験1で準備したものと同じものを使用した。
また、本実施形態の生分解性プラスチックを、以下の点を除いて試験1と同様に作成した。
樹脂ペレットとして、次のものを使用した。
・PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート):BioPBSTM FD92(三菱ケミカル株式会社)
【0062】
生分解性プラスチックにおける菌糸体粉末と樹脂の混合割合は、次のとおりである。
・菌株A:PBSA206.2mg+菌株A9.8mg(菌糸体の内包濃度4.5%)
・菌株B:PBSA206.8mg+菌株B9.3mg(同4.3%)
・菌株C:PBSA202.0mg+菌株C10.0mg(同4.7%)
【0063】
次に、生分解性プラスチックの分解を以下のように確認した。
試験1と同様に人工海水をフラスコに分注し、オートクレーブを行った。
エタノール消毒したハサミを用いて、10~20mm角程度に生分解性プラスチックのフィルムを切断し、生分解性プラスチックの量が同程度になるように、上記のフラスコ1本あたりに2~4個のフィルムの切片を投入した。
【0064】
そして、生分解性プラスチックを25℃で130rpmの振とう条件で、88日間人工海水環境下に暴露した。
また、試験1と同様に、生分解性プラスチックの重量減少率の算出と生育切片率の算出を行った。
【0065】
図3は、以上によって得られた菌株ごとの生分解性プラスチックの重量減少率、及びそれぞれの生分解性プラスチックにおける菌糸体の内包濃度と生育切片率を示している。
図3に示されるように、菌株A、菌株B、菌株Cによる生分解性プラスチックの重量減少率は、それぞれ8.3%、52.2%、100.0%であった。
【0066】
また、菌株A、菌株B、菌株Cの生分解性プラスチックにおける内包濃度は、それぞれ4.5%、4.3%、4.7%であり、生育切片率は、それぞれ100.0%(9/9)、77.8%(7/9)、100.0%(9/9)であった。
以上のとおり、本実施形態の生分解性プラスチック、及び生分解性プラスチックの製造方法によれば、使用するプラスチックを変更した場合において、人工海水環境中で生分解性プラスチックの分解を促進できることが分かった。
【0067】
[試験4]
本実施形態により製造した生分解性プラスチックにおける内包微生物の生体活性(菌糸体の生育切片率)が、分解促進効果に及ぼす影響について確認する試験を行った。
具体的は、菌糸体の生育切片率が高い場合(実験1)と、生育切片率が極めて低い場合(実験2)における分解促進効果の比較を行った。
【0068】
具体的には、実験2の生分解性プラスチックを、以下の点を除いて試験1と同様に準備した。菌株は、試験1のものと同一である。また、実験1の結果は、試験1の菌株Cのものと同一である。
実験2の生分解性プラスチックにおける菌糸体粉末と樹脂の混合割合は、次のとおりである。
・菌株C:PCL211.1mg+菌株C9.7mg(同4.4%)
【0069】
次に、実験2の生分解性プラスチックの分解を以下のように確認した。
試験1と同様に人工海水をフラスコに分注し、オートクレーブを行った。
エタノール消毒したハサミを用いて、10~20mm角程度にフィルムを切断し、生分解性プラスチックの量が同程度になるように、上記のフラスコに2~4個のフィルムの切片を投入した。
【0070】
そして、生分解性プラスチックを25℃で130rpmの振とう条件で、96日間人工海水環境下に暴露した。
また、試験1と同様にして、生分解性プラスチックの重量減少率の算出と生育切片率の算出を行った。ただし、実験2では、全22切片でフィルムに含有された菌糸体の生育の確認を行った。このうち、1切片のみで菌糸体の生育が確認された。
【0071】
その結果、
図4に示されるように、実験1の菌株Cによる生分解性プラスチックの重量減少率は、100.0%であった。また、菌株Cの生分解性プラスチックにおける内包濃度は4.8%であり、生育切片率は100.0%(9/9)であった。
一方、実験2の菌株Cによる生分解性プラスチックの重量減少率は、0.0%であった。また、菌株Cの生分解性プラスチックにおける内包濃度は4.4%であり、生育切片率は4.5%(1/22)であった。
この結果から、生分解性プラスチックにおける内包微生物の生体活性(菌糸体の生育切片率)がより大きい方が、生分解性プラスチックの分解促進効果が大きくなることが確認された。
【0072】
[試験5]
本実施形態により製造した生分解性プラスチックの天然海水中における分解促進効果について、試験を行った。
【0073】
生分解性プラスチックに含有させる真菌の菌糸体を、以下のように準備した。
まず、前培養と液体培地への植菌を試験1と同様に行った。ただし、菌株CについてのみPDA液体培地(2%(w/v)グルコースを含む)への植菌を行った。各菌株の静置培養の期間は、それぞれ次のとおりである。
・菌株A:152日間
・菌株B:152日間
・菌株C:101日間
【0074】
静置培養の期間後、液体培地表面に形成された菌糸体マットを回収し、菌糸体マットを以下の条件で一定期間乾燥させた。各菌株の乾燥期間は、それぞれ次のとおりである。
・菌株A:4℃で92日間
・菌株B:4℃で92日間
・菌株C:室温で17日間、4℃で38日間、合計55日間
【0075】
そして、試験1と同様にして、乾燥菌糸体マットを粉末化して、粉末化した形態の真菌の菌糸体(菌糸体粉末)を得た。
【0076】
次に、生分解性プラスチックを、以下のように作成した。
樹脂ペレットとしては、次のものを使用した。
・PCL(ポリカプロラクトン):PLACCEL H8C Lot.H8C-AJ-D01(株式会社ダイセル)
【0077】
試験1と同様にして、クロロホルムにより樹脂(PCL)を溶解し、樹脂が完全に溶解した攪拌中のクロロホルム液に所定量の菌糸体粉末を投入して、40秒程度攪拌後、直ちにガラスシャーレ(直径50mm×高さ30mm)に流し込み、クロロホルムが消失するまでドラフト環境内で2時間程度風乾し、菌糸体粉末を含有したフィルムを作成した。
【0078】
生分解性プラスチックにおける菌糸体粉末と樹脂の混合割合は、次のとおりである。
・菌株A:PCL200.4mg+菌株A11.3mg(菌糸体の内包濃度5.3%)
・菌株B:PCL206.2mg+菌株B10.5mg(同4.8%)
・菌株C:PCL211.1mg+菌株C9.7mg(同4.4%)
【0079】
次に、生分解性プラスチックの分解を以下のように確認した。
天然海水として、2022年6月16日AMに江の島水族館前の海岸波打ち際で採水した海水を使用した。採水海水のpHは8.1、含有微生物数は1.3×104cfu/mlであった。なお、微生物数は、人工海水で調製した標準寒天培地(株式会社ニッスイ)を用いて測定した。
【0080】
この天然海水をフラスコ1本あたり40ml分注し、試験に供試した。天然海水に対して、オートクレーブは行っていない。
エタノール消毒したハサミを用いて、10~20mm角程度に生分解性プラスチックのフィルムを切断し、生分解性プラスチックの量が同程度になるように、上記のフラスコ1本あたりに2~4個のフィルムの切片を投入した。本試験におけるブランクは、菌糸体粉末を含有していないフィルムの切片を投入した天然海水である。試験6,7,11についても同様である。
【0081】
そして、生分解性プラスチックを25℃で130rpmの振とう条件で、96日間天然海水環境下に暴露した。
また、試験1と同様に、生分解性プラスチックの重量減少率の算出と生育切片率の算出を行った。ただし、本試験では、様々な切片数にもとづきフィルムに含有された菌糸体の生育の確認を行い、生育切片率の算出を行った。
【0082】
図5は、以上によって得られた菌株ごとの生分解性プラスチックの重量減少率、及びそれぞれの生分解性プラスチックにおける菌糸体の内包濃度と生育切片率を示している。
図5に示されるように、菌株A、菌株B、菌株C、ブランクによる生分解性プラスチックの重量減少率は、それぞれ26.6%、19.3%、3.9%、12.5%であった。
ブランクによる生分解性プラスチックの重量減少率は、天然海水中の含有微生物によるものと推定される。試験6,7においても同様である。
【0083】
また、菌株A、菌株B、菌株Cの生分解性プラスチックにおける内包濃度は、それぞれ5.3%、4.8%、4.4%であり、生育切片率は、それぞれ100.0%(10/10)、0.0%(0/22)、4.5%(1/22)であった。
なお、菌株Cによる生分解性プラスチックの重量減少率が低い理由は、天然海水中の含有微生物により拮抗作用を受けている可能性があると推定される。また、菌株Bの生育切片率は0.0%ではあったが、天然海水環境に投入した切片には生体活性を維持したものが含まれていた可能性があり、そのために生分解性プラスチックの重量減少率が、ブランクに比較して大きくなったと推定される。
以上のとおり、本実施形態の生分解性プラスチック、及び生分解性プラスチックの製造方法によれば、少なくとも菌株Aでは天然海水環境中で生分解性プラスチックの分解を促進できることが確認された。
【0084】
[試験6]
本実施形態により製造した生分解性プラスチックの天然海水中における分解促進効果について、使用するプラスチックを変更して試験を行った。
【0085】
生分解性プラスチックに含有させる真菌の菌糸体は、試験5で準備したものと同じものを使用した。
また、生分解性プラスチックを、以下のように作成した。
樹脂ペレットとして、次のものを使用した。
・PBAT(ポリブチレンアジペートテレフタレート):ECOFLEX F BLEND C1200 Lot.67510 624UO(BASF社)
【0086】
試験1と同様にして、クロロホルムにより樹脂(PBAT)を溶解し、樹脂が完全に溶解した攪拌中のクロロホルム液に所定量の菌糸体粉末を投入して、40秒程度攪拌後、直ちにガラスシャーレ(直径50mm×高さ30mm)に流し込み、クロロホルムが消失するまでドラフト環境内で2時間程度風乾し、菌糸体粉末を含有したフィルムを作成した。
【0087】
生分解性プラスチックにおける菌糸体粉末と樹脂の混合割合は、次のとおりである。
・菌株A:PBAT205.8mg+菌株A11.6mg(菌糸体の内包濃度5.3%)
・菌株B:PBAT198.4mg+菌株B10.1mg(同4.8%)
・菌株C:PBAT205.9mg+菌株C8.9mg(同4.1%)
【0088】
次に、生分解性プラスチックの分解を以下のように確認した。
天然海水として、試験5で準備したものと同じものを使用した。この天然海水をフラスコ1本あたり40ml分注し、試験に供試した。天然海水に対して、オートクレーブは行っていない。
エタノール消毒したハサミを用いて、10~20mm角程度に生分解性プラスチックのフィルムを切断し、生分解性プラスチックの量が同程度になるように、上記のフラスコ1本あたりに2~4個のフィルムの切片を投入した。
【0089】
そして、生分解性プラスチックを25℃で130rpmの振とう条件で、96日間天然海水環境下に暴露した。
また、試験1と同様に、生分解性プラスチックの重量減少率の算出と生育切片率の算出を行った。ただし、本試験では、様々な切片数にもとづきフィルムに含有された菌糸体の生育の確認を行い、生育切片率の算出を行った。
【0090】
図6は、以上によって得られた菌株ごとの生分解性プラスチックの重量減少率、及びそれぞれの生分解性プラスチックにおける菌糸体の内包濃度と生育切片率を示している。
図6に示されるように、菌株A、菌株B、菌株C、ブランクによる生分解性プラスチックの重量減少率は、それぞれ17.1%、19.8%、6.1%、11.8%であった。
【0091】
また、菌株A、菌株B、菌株Cの生分解性プラスチックにおける内包濃度は、それぞれ5.3%、4.8%、4.1%であり、生育切片率は、それぞれ100.0%(10/10)、20.0%(2/10)、0.0%(0/22)であった。
以上のとおり、本実施形態の生分解性プラスチック、及び生分解性プラスチックの製造方法によれば、使用するプラスチックを変更した場合において、菌株A及び菌株Bでは天然海水環境中で生分解性プラスチックの分解を促進できることが確認された。
【0092】
[試験7]
本実施形態により製造した生分解性プラスチックの天然海水中における分解促進効果について、使用するプラスチックを変更して試験を行った。
【0093】
生分解性プラスチックに含有させる真菌の菌糸体は、試験5で準備したものと同じものを使用した。
また、生分解性プラスチックを、以下のように作成した。
樹脂ペレットとして、次のものを使用した。
・PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート):BioPBSTM FD92(三菱ケミカル株式会社)
【0094】
試験1と同様にして、クロロホルムにより樹脂(PBSA)を溶解し、樹脂が完全に溶解した攪拌中のクロロホルム液に所定量の菌糸体粉末を投入して、40秒程度攪拌後、直ちにガラスシャーレ(直径50mm×高さ30mm)に流し込み、クロロホルムが消失するまでドラフト環境内で2時間程度風乾し、菌糸体粉末を含有したフィルムを作成した。
【0095】
生分解性プラスチックにおける菌糸体粉末と樹脂の混合割合は、次のとおりである。
・菌株A:PBSA200.4mg+菌株A11.0mg(菌糸体の内包濃度5.2%)
・菌株B:PBSA207.0mg+菌株B10.0mg(同4.6%)
・菌株C:PBSA205.1mg+菌株C9.2mg(同4.3%)
【0096】
次に、生分解性プラスチックの分解を以下のように確認した。
天然海水として、試験5で準備したものと同じものを使用した。この天然海水をフラスコ1本あたり40ml分注し、試験に供試した。天然海水に対して、オートクレーブは行っていない。
エタノール消毒したハサミを用いて、10~20mm角程度に生分解性プラスチックのフィルムを切断し、生分解性プラスチックの量が同程度になるように、上記のフラスコ1本あたりに2~4個のフィルムの切片を投入した。
【0097】
そして、生分解性プラスチックを25℃で130rpmの振とう条件で、96日間天然海水環境下に暴露した。
また、試験1と同様に、生分解性プラスチックの重量減少率の算出と生育切片率の算出を行った。ただし、本試験では、様々な切片数にもとづきフィルムに含有された菌糸体の生育の確認を行い、生育切片率の算出を行った。
【0098】
図7は、以上によって得られた菌株ごとの生分解性プラスチックの重量減少率、及びそれぞれの生分解性プラスチックにおける菌糸体の内包濃度と生育切片率を示している。
図7に示されるように、菌株A、菌株B、菌株C、ブランクによる生分解性プラスチックの重量減少率は、それぞれ72.9%、23.8%、8.0%、6.9%であった。
【0099】
また、菌株A、菌株B、菌株Cの生分解性プラスチックにおける内包濃度は、それぞれ5.2%、4.6%、4.3%であり、生育切片率は、それぞれ100.0%(10/10)、44.4%(4/9)、15.0%(3/20)であった。
以上のとおり、本実施形態の生分解性プラスチック、及び生分解性プラスチックの製造方法によれば、使用するプラスチックを変更した場合において、天然海水環境中で生分解性プラスチックの分解を促進できることが分かった。
【0100】
[試験8]
本実施形態の生分解性プラスチックに含有される真菌の菌糸体の耐性を向上可能な炭素源を見いだすために行った試験について説明する。
本実施形態の生分解性プラスチックが海洋環境中において好適に分解するためには、生分解性プラスチックにおける真菌の菌糸体が、長期間に亘って生体活性を維持することが望ましい。そこで、真菌菌糸体の保存性の向上に有効な、液体培養時に利用する炭素源を特定するために本試験を行った。
【0101】
真菌の菌糸体は、試験1と同様に、冷凍保存(マイナス80℃)したストック菌株をPDA培地(Potato Dextrose Agar)に植菌し、25℃の暗所でそれぞれ1~2週間程度培養した。
ストック菌株としては、次の2種類を使用し、菌株Bに関する実験を実験3、菌株Cに関する実験を実験4とした。
・菌株B:フザリウム属(Fusarium oxysporum NBRC9971)
・菌株C:グロメレラ属(Glomerella cingulata NBRC107004)
なお、菌株A(アスペルギルス属(Aspergillus flavus NBRC6343))を用いてこれらの菌株と同じ実験を行い、下記の全保管期間において菌糸体の菌糸伸長が認められたが、菌株Aは耐乾性に特に優れているため、記載を省略する。
【0102】
次に、形成された各コロニーを、スパチュラを用いて5mm角程度に切り取り、その切片を3%(w/v)グルコース、又は3%(w/v)トレハロースを含むCzapek液体培地(0.3%NaNO3,0.1%K2HPO4,0.05%MgSO4・7H2O,0.05%KCl,0.001%FeSO4・7H2O)に植菌して、それぞれ暗所で保管した。
【0103】
実験3では、17日目までは菌糸体の状態で室温で保管し、以後は4℃で保管した。また、91日目に菌糸体を粉末化し、この粉末化した状態で4℃で156日目まで保管した。そして、45日目、91日目、及び156日目に、菌糸体の生存確認を行った。
また、実験4では、203日目までは菌糸体の状態で室温で保管し、204日目からは菌糸体の状態で4℃で保管し、206日目に菌糸体を粉末化して、この粉末化した状態で4℃で384日目まで保管を継続した。そして、203日目、322日目、及び384日目に、菌糸体の生存確認を行った。
菌糸体の生存確認は、乾燥菌糸体の破片又は粉末をPDA培地に植菌し、生育の有無の確認を目視により行った。その結果を
図8に示す。
【0104】
図8に示されるように、実験3では、3%(w/v)グルコースを含むCzapek液体培地に植菌して保存することによって91日目まで菌糸体の菌糸伸長が認められ、3%(w/v)トレハロースを含むCzapek液体培地に植菌して保存することによって45日目まで菌糸体の菌糸伸長が認められた。
また、実験4では、3%(w/v)グルコースを含むCzapek液体培地に植菌して保存することによって322日目まで菌糸体の菌糸伸長が認められ、3%(w/v)トレハロースを含むCzapek液体培地に植菌して保存することによって203日目まで菌糸体の菌糸伸長が認められた。
【0105】
このように、本実施形態の生分解性プラスチックの製造方法において、菌糸体を培養する液体培地に、グルコース、及び/又は、トレハロースを添加することにより、真菌の菌糸体の保存性を向上できることが分かった。
【0106】
[試験9]
本実施形態の生分解性プラスチックに含有される真菌の菌糸体の耐性を向上可能な炭素源を見いだすために行った試験について説明する。
本実施形態の生分解性プラスチックを製造する方法において、熱融解した樹脂に菌糸体粉末を混練した場合に、菌糸体の生体活性は維持できることが望ましい。そこで、真菌の菌糸体の耐熱性の向上に有効な炭素源を特定するために本試験を行った。
【0107】
まず、生分解性プラスチックに含有させる真菌の菌糸体を以下のように準備した。
1.前培養
冷凍保存(マイナス80℃)したストック菌株をPDA培地(Potato Dextrose Agar)に植菌し、25℃の暗所でそれぞれ1~2週間程度培養した。
ストック菌株としては、次の2種類を使用した。
・菌株A:アスペルギルス属(Aspergillus flavus NBRC6343)
・菌株C:グロメレラ属(Glomerella cingulata NBRC107004)
【0108】
2.液体培地への植菌、菌糸体マットの作成
形成されたコロニーを、スパチュラを用いて5mm角程度に切り取り、その切片を3%(w/v)グルコース、3%(w/v)トレハロース、又は3%(w/v)スクロースを含むCzapek液体培地(0.3%NaNO3,0.1%K2HPO4,0.05%MgSO4・7H2O,0.05%KCl,0.001%FeSO4・7H2O)に植菌して、25℃の暗所で静置培養した。これにより、液体培地表面に糸状菌からなる菌糸体マットを作成した。
各菌株の静置培養の期間は、それぞれ次のとおりである。
・菌株A:36日間と192日間培養したものを混合して使用した。
・菌株C:101日間
【0109】
3.菌糸体マットの回収
静置培養の期間後、液体培地表面に形成された菌糸体マットを回収した。
【0110】
4.菌糸体マットの乾燥
菌糸体マットを一定期間乾燥させた。各菌株の乾燥期間は、次のとおりである。
・菌株A:室温で321日間(36日間培養したもの)
室温で164日間(192日間培養したもの)
・菌株C:室温で17日間、4℃で84日間、合計101日間
【0111】
5.菌糸体マットの粉末化
2mlのスクリューキャップチューブに、乾燥菌糸体マットとジルコニアボール2個(直径3.0mm程度)とを共に封入し、ミニビード・ビーターBSP-3110BXを用いて、2500rpm・120秒の条件で振盪し、乾燥菌糸体マットを粉末化して、粉末化した形態の真菌の菌糸体(菌糸体粉末)を得た。
【0112】
次に、生分解性プラスチックを、溶融混練法により、以下のように作成した。
6.樹脂の熱融解
所定量の樹脂ペレットをミクロチューブ(大きさ:容量2ml)に加え、所定温度に設定したブロックヒーターに設置し、ペレットの形が無くなりアメ状になるまで一定時間加熱した。
樹脂ペレットとしては、次のものを使用した。
・PCL(ポリカプロラクトン):PLACCEL H8C Lot.H8C-AJ-D01(株式会社ダイセル)
【0113】
所定温度としては、菌株Aについて70℃、90℃、110℃、130℃、菌株Cについて70℃、85℃、100℃とし、それぞれの温度の樹脂に対して、以下のように各菌糸体粉末を添加した。
【0114】
7.生分解性プラスチックの完成
アメ状になった樹脂に所定量の菌糸体粉末を添加し、スパチュラを用いて3分間手動で混練して、菌糸体粉末を含有した樹脂片を作成して、本実施形態の生分解性プラスチックを得た。
【0115】
生分解性プラスチックにおける菌糸体粉末と樹脂の混合割合は、次のとおりである。
・菌株A
炭素源グルコース:PCL300.0mg+菌株A9.8mg(菌糸体の内包濃度3.2%)
炭素源トレハロース:PCL314.9mg+菌株A10.1mg(同3.1%)
炭素源スクロース:PCL322.5mg+菌株A10.3mg(同3.1%)
・菌株C
炭素源グルコース:PCL326.5mg+菌株A11.1mg(同3.3%)
炭素源トレハロース:PCL316.9mg+菌株A9.4mg(同2.9%)
炭素源スクロース:PCL322.0mg+菌株A9.5mg(同2.9%)
【0116】
8.生育切片率の算出
エタノール消毒したハサミを用いて、菌糸体粉末を含む樹脂片を作製当日に適当なサイズ(5×5mm角内程度)に切断し、直ちにPDA培地に置床し、25℃の暗所に静置して、1~2週間後にフィルムに含有された菌糸体の生育が認められた切片の百分率を算出した。その結果を
図9に示す。
【0117】
図9に示すように、菌株Aについては、炭素源としてグルコースを用いた場合、70℃と90℃で100%、110℃で80%、130℃で30%の生育が確認された。また、炭素源としてトレハロースを用いた場合、70℃で70%、90℃で50%、110℃で28.6%の生育が確認された。さらに、炭素源としてスクロースを用いた場合、70℃と90℃で100%、110℃で40%の生育が確認された。
【0118】
菌株Cについては、炭素源としてグルコースを用いた場合、70℃で77.8%、85℃で9.1%の生育が確認された。また、炭素源としてトレハロースを用いた場合、70℃で40%の生育が確認された。さらに、炭素源としてスクロースを用いた場合、70℃で100%の生育が確認された。
【0119】
このように、本実施形態の生分解性プラスチックの製造方法において、菌糸体を培養する液体培地に、グルコース、トレハロース、及び/又は、レハロースを添加することにより、真菌の菌糸体の耐熱性を向上できることが分かった。特に、グルコース、及び/又は、スクロースを添加することにより、真菌の菌糸体の耐熱性をより好適に向上できることが分かった。
【0120】
[試験10]
本実施形態において、熱融解した樹脂に菌糸体粉末を混練して製造した生分解性プラスチックの人工海水寒天培地上における分解促進効果について、試験を行った。
まず、生分解性プラスチックに含有させる真菌の菌糸体を以下のように準備した。
1.前培養
冷凍保存(マイナス80℃)したストック菌株をPDA培地(Potato Dextrose Agar)に植菌し、25℃の暗所でそれぞれ1~2週間程度培養した。
ストック菌株としては、次の2種類を使用した。
・菌株A:アスペルギルス属(Aspergillus flavus NBRC6343)
・菌株C:グロメレラ属(Glomerella cingulata NBRC107004)
【0121】
2.液体培地への植菌、菌糸体マットの作成
形成されたコロニーを、スパチュラを用いて5mm角程度に切り取り、その切片を3%(w/v)グルコースを含むCzapek液体培地(0.3%NaNO3,0.1%K2HPO4,0.05%MgSO4・7H2O,0.05%KCl,0.001%FeSO4・7H2O)に植菌して、25℃の暗所で静置培養した。
各菌株の静置培養の期間は、それぞれ次のとおりである。
・菌株A:36日間と192日間培養したものを混合して使用した。
・菌株C:101日間
【0122】
3.菌糸体マットの回収
静置培養の期間後、液体培地表面に形成された菌糸体マットを回収した。
【0123】
4.菌糸体マットの乾燥
菌糸体マットを一定期間乾燥させた。各菌株の乾燥期間は、次のとおりである。
・菌株A:室温で322日間(36日間培養したもの)
室温で166日間(192日間培養したもの)
・菌株C:室温17日間、4℃で36日間、合計53日間
【0124】
5.菌糸体マットの粉末化
2mlのスクリューキャップチューブに、乾燥菌糸体マットとジルコニアボール2個(直径3.0mm程度)とを共に封入し、ミニビード・ビーターBSP-3110BXを用いて、2500rpm・120秒の条件で振盪し、乾燥菌糸体マットを粉末化して、粉末化した形態の真菌の菌糸体(菌糸体粉末)を得た。
【0125】
次に、生分解性プラスチックを、以下のように作成した。
6.樹脂の熱融解
所定量の樹脂ペレットをミクロチューブ(大きさ:容量2ml)に加え、100℃に設定したブロックヒーターに設置し、ペレットの形が無くなりアメ状になるまで一定時間加熱した。その後、温度を70℃にまで下げた溶融樹脂を以降の試験に供試した。
樹脂ペレットとしては、次のものを使用した。
・PCL(ポリカプロラクトン):PLACCEL H8C Lot.H8C-AJ-D01(株式会社ダイセル)
【0126】
7.生分解性プラスチックの完成
アメ状になった樹脂に所定量の菌糸体粉末を添加し、スパチュラを用いて3分間手動で混練して、菌糸体粉末を含有した樹脂片を作成して、本実施形態の生分解性プラスチックを得た。
【0127】
生分解性プラスチックにおける菌糸体粉末と樹脂の混合割合は、次のとおりである。
・菌株A:PCL300.0mg+菌株A9.8mg(菌糸体の内包濃度3.2%)
・菌株C:PCL326.5mg+菌株C11.1mg(同3.3%)
【0128】
次に、生分解性プラスチックの分解を以下のように確認した。
8.人工海水寒天培地の調製
36g/Lの割合で調製した試験1と同じ組成の海産微細藻類培養用ダイゴ人工海水SPに、0.3%(w/v)となるようにNaNO3、および0.1%(w/v)となるようにK2HPO4を添加した。そして、1.5%(w/v)寒天を添加し、オートクレーブを行った。その後プラスチックのディスポシャーレに適当量を分注し室温下で冷却固化させた。
【0129】
9.生分解性プラスチックの人工海水寒天培地環境下への暴露
エタノール消毒したハサミを用いて、適当なサイズ(5mm角程度)に生分解性プラスチックの樹脂片を切断し、前記寒天培地上に置床した。
そして、生分解性プラスチックを25℃の条件で、173日間人工海水寒天培地環境下に暴露した。
【0130】
10.生分解性プラスチックの重量減少率の算出
上記の人工海水寒天培地環境下への暴露後、目視で樹脂片と確認されるものについてのみ回収して重量測定を実施し、以下の式により重量減少率を算出した。
重量減少率(%)=(寒天培地置床前の樹脂片重量-回収時の樹脂片重量)/寒天培地置床前の樹脂片重量×100
【0131】
11.生育切片率の算出
エタノール消毒したハサミを用いて、菌糸体粉末を含む樹脂片を作製当日に適当なサイズ(5×5mm角内程度)に切断し、直ちに人工海水寒天培地等に置床し、25℃の暗所に静置して、1~2週間後に樹脂片に含有された菌糸体の生育が認められた切片の百分率を算出した。本試験では、全16切片でフィルムに含有された菌糸体の生育の確認を行った。その結果を
図10に示す。
【0132】
図10は、以上によって得られた菌株ごとの生分解性プラスチックの重量減少率、及びそれぞれの生分解性プラスチックにおける菌糸体の内包濃度と生育切片率を示している。
図10に示されるように、菌株A、菌株Cによる生分解性プラスチックの重量減少率は、それぞれ32.1%、54.1%であった。
【0133】
また、菌株A、菌株Cの生分解性プラスチックにおける内包濃度は、それぞれ3.2%、3.3%であり、生育切片率は、それぞれ100.0%(16/16)、81.3%(13/16)であった。
以上のとおり、本実施形態の生分解性プラスチック、及び生分解性プラスチックの製造方法によれば、人工海水環境中において、熱融解した樹脂に菌糸体粉末を混練して製造した生分解性プラスチックの分解を促進できることが分かった。
【0134】
[試験11]
本実施形態において、熱融解した樹脂に菌糸体粉末を混練して製造した生分解性プラスチックの天然海水寒天培地上における分解促進効果について、試験を行った。
まず、生分解性プラスチックに含有させる真菌の菌糸体を以下のように準備した。
1.前培養
冷凍保存(マイナス80℃)したストック菌株をPDA培地(Potato Dextrose Agar)に植菌し、25℃の暗所でそれぞれ1~2週間程度培養した。
ストック菌株としては、次の3種類を使用した。
・菌株A:アスペルギルス属(Aspergillus flavus NBRC6343)
・菌株B:フザリウム属(Fusarium oxysporum NBRC9971)
・菌株C:グロメレラ属(Glomerella cingulata NBRC107004)
【0135】
2.液体培地への植菌、菌糸体マットの作成
形成されたコロニーを、スパチュラを用いて5mm角程度に切り取り、その切片を3%(w/v)グルコースを含むCzapek液体培地(0.3%NaNO3,0.1%K2HPO4,0.05%MgSO4・7H2O,0.05%KCl,0.001%FeSO4・7H2O)に植菌して、25℃の暗所で静置培養した。これにより、液体培地表面に糸状菌からなる菌糸体マットを作成した。
各菌株の静置培養の期間は、それぞれ次のとおりである。
・菌株A:36日間と192日間培養したものを混合して使用した。
・菌株B:101日間
・菌株C:101日間
【0136】
3.菌糸体マットの回収
静置培養の期間後、液体培地表面に形成された菌糸体マットを回収した。
【0137】
4.菌糸体マットの乾燥
菌糸体マットを一定期間乾燥させた。各菌株の乾燥期間は、次のとおりである。
・菌株A:室温で322日間(36日間培養したもの)
室温で166日間(192日間培養したもの)
・菌株B:室温17日間、4℃で36日間、合計53日間
・菌株C:室温17日間、4℃で36日間、合計53日間
【0138】
5.菌糸体マットの粉末化
2mlのスクリューキャップチューブに、乾燥菌糸体マットとジルコニアボール2個(直径3.0mm程度)とを共に封入し、ミニビード・ビーターBSP-3110BXを用いて、2500rpm・120秒の条件で振盪し、乾燥菌糸体マットを粉末化して、粉末化した形態の真菌の菌糸体(菌糸体粉末)を得た。
【0139】
次に、生分解性プラスチックを、以下のように作成した。
6.樹脂の熱融解
所定量の樹脂ペレットをミクロチューブ(大きさ:容量2ml)に加え、100℃に設定したブロックヒーターに設置し、ペレットの形が無くなりアメ状になるまで一定時間加熱した。その後、温度を70℃にまで下げた溶融樹脂を以降の試験に供試した。
樹脂ペレットとしては、次のものを使用した。
・PCL(ポリカプロラクトン):PLACCEL H8C Lot.H8C-AJ-D01(株式会社ダイセル)
【0140】
7.生分解性プラスチックの完成
アメ状になった樹脂に所定量の菌糸体粉末を添加し、スパチュラを用いて3分間手動で混練して、菌糸体粉末を含有したフィルムを作成して、本実施形態の生分解性プラスチックを得た。
【0141】
生分解性プラスチックにおける菌糸体粉末と樹脂の混合割合は、次のとおりである。
・菌株A:PCL300.0mg+菌株A9.8mg(菌糸体の内包濃度3.2%)
・菌株B:PCL315.5mg+菌株B10.1mg(同3.1%)
・菌株C:PCL326.5mg+菌株C11.1mg(同3.3%)
【0142】
次に、生分解性プラスチックの分解を以下のように確認した。
8.天然海水の採水
天然海水として、2022年6月29日AMに江の島水族館前の海岸波打ち際で採水した海水を使用した。採水海水のpHは8.1であった。含有微生物数の測定は行っていない。そして、1.5%(w/v)寒天を添加し、オートクレーブを行った。その後プラスチックのディスポシャーレに適当量を分注し室温下で冷却固化させた。
【0143】
9.生分解性プラスチックの天然海水寒天培地環境下への暴露
エタノール消毒したハサミを用いて、適当なサイズ(5mm角程度)に生分解性プラスチックの樹脂片を切断し、前記寒天培地上に置床した。
そして、生分解性プラスチックを25℃の条件で、173日間天然海水寒天培地環境下に暴露した。
また、試験10と同様に、生分解性プラスチックの重量減少率の算出と生育切片率の算出を行った。その結果を
図11に示す。
【0144】
図11は、以上によって得られた菌株ごとの生分解性プラスチックの重量減少率、及びそれぞれの生分解性プラスチックにおける菌糸体の内包濃度と生育切片率を示している。
図11に示されるように、菌株A、菌株B、菌株Cによる生分解性プラスチックの重量減少率は、それぞれ19.6%、37.1%、16.6%であった。
【0145】
また、菌株A、菌株B、菌株Cの生分解性プラスチックにおける内包濃度は、それぞれ3.2%、3.1%、3.3%であり、生育切片率は、それぞれ100.0%(16/16)、18.8%(3/16)、81.3%(13/16)であった。
以上のとおり、本実施形態の生分解性プラスチック、及び生分解性プラスチックの製造方法によれば、天然海水環境中において、熱融解した樹脂に菌糸体粉末を混練して製造した生分解性プラスチックの分解を促進できることが分かった。
【0146】
本発明は、以上の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。例えば、糖類は、上記の種類に限定されず、生分解性プラスチックの耐性を向上可能なものであれば、その他の種類のもの用いることが可能である。