IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 五洋建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-藻場造成方法および藻礁 図1
  • 特開-藻場造成方法および藻礁 図2
  • 特開-藻場造成方法および藻礁 図3
  • 特開-藻場造成方法および藻礁 図4
  • 特開-藻場造成方法および藻礁 図5
  • 特開-藻場造成方法および藻礁 図6
  • 特開-藻場造成方法および藻礁 図7
  • 特開-藻場造成方法および藻礁 図8
  • 特開-藻場造成方法および藻礁 図9
  • 特開-藻場造成方法および藻礁 図10
  • 特開-藻場造成方法および藻礁 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166746
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】藻場造成方法および藻礁
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/77 20170101AFI20241122BHJP
【FI】
A01K61/77
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083066
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕一
【テーマコード(参考)】
2B003
【Fターム(参考)】
2B003AA01
2B003BB01
2B003DD00
2B003DD01
2B003DD02
2B003DD03
2B003EE04
(57)【要約】
【課題】海藻の生育基盤を広くかつ効率よく形成し、効率的な藻場造成が可能な藻場造成方法および藻礁を提供する。
【解決手段】この藻場造成方法は、杭11をその杭長Lの1/3~2/3の根入れ長L1で海底地盤Gに打設により複数設置し、複数の杭の外周面を着生基盤として海藻SWを生育させて藻場を造成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭をその杭長の1/3~2/3の根入れ長で海底地盤に打設により複数設置し、前記複数の杭の外周面を着生基盤として海藻を生育させて藻場を造成する藻場造成方法。
【請求項2】
前記杭は、海藻の生育を補助する対策が施されている請求項1に記載の藻場造成方法。
【請求項3】
前記複数の杭は、金属材料、コンクリート、プラスチック材、塩化ビニル、および、木材のいずれか1つ、または、少なくともいずれか2つから構成される請求項1に記載の藻場造成方法。
【請求項4】
前記木材は、シリコン被覆されたもの、合成樹脂浸透されたもの、または、フェノール処理されたものである請求項3に記載の藻場造成方法。
【請求項5】
前記杭は上部か開口した中空部を有し、
前記中空部は鉄イオンおよび/または栄養塩が前記中空部から前記杭の外周面へ滲出可能な滲出部を有し、
前記中空部内に鉄イオンの供給源および/または栄養塩の供給源を含む供給材を投入し、
前記供給材からの鉄イオンおよび/または栄養塩が前記中空部から前記滲出部を通して前記杭の外周面へと滲出することで前記海藻の生育を補助する請求項2に記載の藻場造成方法。
【請求項6】
前記供給材の投入後に前記中空部の開口に蓋を取り付け、前記蓋が鉄イオンおよび/または栄養塩が前記中空部から前記蓋の上面へ滲出可能な滲出部を有し、
前記供給材からの鉄イオンおよび/または栄養塩が前記蓋から前記滲出部を通して前記上面へと滲出することで前記海藻の生育を補助する請求項5に記載の藻場造成方法。
【請求項7】
前記杭が木材から構成され、前記木材が鉄イオンおよび/または栄養塩を内部に含むように処理されており、
打設後の前記木材から鉄イオンおよび/または栄養塩が滲出することで前記海藻の生育を補助する請求項2に記載の藻場造成方法。
【請求項8】
前記杭の少なくとも外周面に海藻の着生に適した凹凸を設けることで前記海藻の生育を補助する請求項2に記載の藻場造成方法。
【請求項9】
前記杭の上部に横方向に突き出たロープ保持部材を設け、前記ロープ保持部材から垂らしたロープを海藻の着生基盤とし、前記ロープに海藻を生育させる請求項1に記載の藻場造成方法。
【請求項10】
前記複数の杭のうちの少なくとも一部の隣接する杭同士を連結する連結部材を設ける請求項1に記載の藻場造成方法。
【請求項11】
前記杭は、原地盤上に固化処理土から造成される造成地盤に前記固化処理土の固化前に打設される請求項1に記載の藻場造成方法。
【請求項12】
原地盤または原地盤上に固化処理土から造成された造成地盤に人工石を投入し前記人工石の固化前に前記杭が打設される請求項1に記載の藻場造成方法。
【請求項13】
前記複数の杭は、海底地盤に平面的に互いに所定間隔で離隔して配置される請求項1に記載の藻場造成方法。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれかに記載の藻場造成方法により形成された藻礁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭による藻場造成方法および藻礁に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策が求められる中で、自然界における二酸化炭素吸収を増大させるための二酸化炭素吸収源としてブルーカーボン(藻場・浅場等の海洋生態系に取り込まれた炭素)が注目されている。
【0003】
海藻を対象とした様々なブロックが海藻の着生が容易となるように開発されている(たとえば、非特許文献1参照)が、ウニや巻貝等の食害により、形成された藻場が喪失する場合があり、この対策として柱状礁が開発されている(たとえば、特許文献1参照)。また、鉄イオンの供給により海藻類の生育を促進する藻場造成製品(ビバリー(登録商標)ユニット)が開発されている(非特許文献2)。また、特許文献2は、海底地盤上に固定したアンカー杭の上端部に比重の小さい材質の複数の人工海藻を取り付けた人工藻場育成装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-50495号公報
【特許文献2】特開2011-135828号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】海洋土木株式会社HPhttps://www.kaiyodoboku.com/product.html
【非特許文献2】日本製鉄株式会社カタログhttps://www.nipponsteel.com/product/catalog_download/pdf/L005.pdf
【非特許文献3】峰寛明・藤井淳夫・渡辺浩二・安藤亘・木村智也「柱状型藻礁におけるウニ這い上がり抑制効果について」2008年度 日本水産工学会 学術講演会 講演論文集、263-264頁、2008年https://www.jstage.jst.go.jp/article/pamjsfe/2008/0/2008_263/_pdf/-char/ja
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ブルーカーボンとしての二酸化炭素の固定量を増やすためには、海藻や海草の生育基盤となる浅場や、海藻の着生基盤の整備が重要となる。しかし、特許文献1の柱状礁は、柱体を安定した状態に保つために大型の基盤が必要となる。非特許文献2の藻場造成製品は、鉄イオンが海水により希釈し、波・流れにより拡散するため、製品の投入位置から離れるほど効果は小さくなる。特許文献2は人工海藻による人工藻場であり自然の藻場を造成するものではなく、二酸化炭素の吸収源にはなり得ない。
【0007】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、海藻の生育基盤を広くかつ効率よく形成し、効率的な藻場造成が可能な藻場造成方法および藻礁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための藻場造成方法は、杭をその杭長の1/3~2/3の根入れ長で海底地盤に打設により複数設置し、前記複数の杭の外周面を着生基盤として海藻を生育させて藻場を造成するものである。
【0009】
この藻場造成方法によれば、海底地盤に打設により設置した複数の杭の外周面や上面を着生基盤として海藻を生育させ、従来のブロックや藻礁石と比較して海藻が付着する表面積を増やすことができることから、海藻の生育基盤を広く形成でき、効率的に藻場造成を行うことができる。広域な藻場造成が可能であるため、ブルーカーボン量の増大化を実現できる。また、杭の根入れ長を杭長の1/3~2/3と比較的長くすることで杭を安定して支持することができ、藻場を安定して長期間維持でき、また、大型の重量のある基盤が不要である。
【0010】
上記藻場造成方法において前記杭は、海藻の生育を補助する対策が施されていることで、海藻の生育基盤を広くかつ効率よく形成でき海藻の生育を促進でき、よりいっそう効率的に藻場造成を行うことができる。
【0011】
前記複数の杭は、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属材料、コンクリート、プラスチック材、塩化ビニル、および、木材のいずれか1つ、または、少なくともいずれか2つから構成されることが好ましい。
【0012】
また、前記木材は、シリコン被覆されたもの、合成樹脂浸透されたもの、または、フェノール処理されたものであることが好ましい。
【0013】
前記杭は上部か開口した中空部を有し、前記中空部は鉄イオンおよび/または栄養塩が前記中空部から前記杭の外周面へ滲出可能な滲出部を有し、前記中空部内に鉄イオンの供給源および/または栄養塩の供給源を含む供給材を投入し、前記供給材からの鉄イオンおよび/または栄養塩が前記中空部から前記滲出部を通して前記杭の外周面へと滲出することで前記海藻の生育を補助することが好ましい。海藻の生育を補助し促進する窒素・リン・アミノ酸等の栄養塩や鉄イオンを、孔やスリット等の滲出部を通して杭の外周面へと滲出させることで供給し、海藻の生育を補助し促進させることができる。
【0014】
なお、前記滲出部は、前記杭の周方向および/または鉛直方向に複数設けられていることが望ましい。前記滲出部が複数設けられていることにより少なくとも一部の滲出部を通して前記中空部内に潮流や水圧等により海水が浸入し満たされ、前記中空部内の供給材からの鉄イオンおよび/または栄養塩が滲出部から滲み出る。
【0015】
前記供給材の投入後に前記中空部の開口に蓋を取り付け、前記蓋が鉄イオンおよび/または栄養塩が前記中空部から前記蓋の上面へ滲出可能な滲出部を有し、前記供給材からの鉄イオンおよび/または栄養塩が前記蓋から前記滲出部を通して前記上面へと滲出することで前記海藻の生育を補助することが好ましい。
【0016】
また、前記杭が木材から構成され、前記木材が鉄イオンおよび/または栄養塩を内部に含むように処理されており、打設後の前記木材から鉄イオンおよび/または栄養塩が滲出することで前記海藻の生育を補助することが好ましい。たとえば、木材への注入や木材の浸漬による浸透により鉄イオンおよび/または栄養塩を木材に含ませることができる。
【0017】
また、前記杭の少なくとも外周面に海藻の着生に適した凹凸を設けることで前記海藻の生育を補助することが好ましい。
【0018】
また、前記杭の上部に横方向に突き出たロープ保持部材を設け、前記ロープ保持部材から垂らしたロープを海藻の着生基盤とし、前記ロープに海藻を生育させるようにしてもよい。
【0019】
また、前記複数の杭のうちの少なくとも一部の隣接する杭同士を連結する連結部材を設けることで、連結部材で連結された杭の安定性が増すとともに、連結部材を海藻の着生基盤とすることができる。
【0020】
また、前記杭は、原地盤上に固化処理土から造成された造成地盤に前記固化処理土の固化前に打設されることが好ましい。
【0021】
また、原地盤または原地盤上に固化処理土から造成された造成地盤に人工石を投入し前記人工石の固化前に前記杭が打設されることが好ましい。
【0022】
また、前記複数の杭は、海底地盤に平面的に互いに所定間隔で離隔して配置されることが好ましい。たとえば、間隔を調整することにより、各杭における日光の照射を確保し、海底地盤の単位面積あたりの海藻付着の表面積を調整することができる。
【0023】
上記目的を達成するための藻礁は、上述の藻場造成方法により形成されたものである。この藻礁によれば、海藻の生育基盤を広く形成でき、効率的に藻場造成を行うことができ、広域な藻場形成が可能であるので、藻礁を広域に形成できブルーカーボン量の増大化を実現できる。藻場を安定して長期間維持できるので、長期間安定した藻礁を実現できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、海藻の生育基盤を広くかつ効率よく形成し、効率的な藻場造成が可能な藻場造成方法および藻礁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施形態による複数の藻場造成用杭により藻場を造成することで形成した藻礁の例を概略的に示す側面図である。
図2】本実施形態による藻礁の別の例を概略的に示す側面図である。
図3】本実施形態による海藻の着生・生育を補助する対策が施された円筒型杭を概略的に示す側面図である。
図4図3の円筒型杭の上面図である。
図5】本実施形態による海藻の着生・生育を補助する対策が施された形鋼杭の上面図である。
図6】本実施形態による海藻の着生・生育を補助する対策が施された円柱型木杭を概略的に示す側面図である。
図7】本実施形態によるロープを海藻の着生基盤とする例を示す側面図(a)とロープに海藻が生育した様子を概略的に示す側面図(b)である。
図8図7(a)の枠部材の配置例を示す上面図(a)~(d)である。
図9図3の円筒型杭の外周面,図5の形鋼杭の外周面,図6の木杭の外周面等に設けて好ましい凹凸を概略的に示す要部側断面図である。
図10】本実施形態による藻場造成用杭の平面配置例を概略的に示す上面図(a)および別の平面配置例を概略的に示す上面図(b)である。
図11】本実施形態による複数の藻場造成用杭の隣接する杭同士を連結する連結部材を設けた例を示す側面図(a)および別の例を示す側面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態による複数の藻場造成用杭により藻場を造成することで形成した藻礁の例を概略的に示す側面図である。図2は本実施形態による藻礁の別の例を概略的に示す側面図である。
【0027】
図1の藻礁10は、複数の藻場造成用杭11を海底の原地盤Gに打撃工法や振動工法等の打設施工により設置し、各藻場造成用杭11の外周面と上面を着生基盤として海藻SWを着生させ生育させて藻場を造成することで形成される。各藻場造成用杭11は打設されて根入れ部12が原地盤G内に貫入するが、根入れ部12の根入れ長L1と杭11の全長Lとの比(L1/L)を1/3~2/3の範囲内とし、根入れ長L1を比較的大きくすることで、藻場造成用杭11を海中で安定して支持することができ、また、大型の重量のあるコンクリート等の基盤が不要である。また、根入れ部12の先端を尖らせて打設しやすいようにしてもよい。
【0028】
図2の藻礁10Aは、海底の原地盤G上に造成されたカルシア改質土からなる造成地盤1に複数の藻場造成用杭11Aを打設施工により設置し、各藻場造成用杭11Aの外周面と上面を着生基盤として海藻SWを着生させ生育させて藻場を造成することで形成される。また、水深の浅い領域において複数の藻場造成用杭11Bを造成地盤1上に水中硬化型の人工石2を投入した後の固化前に打設施工により設置し、各藻場造成用杭11Bの外周面と上面を着生基盤として海藻SWを着生させ生育させて藻場を造成して藻礁10Aを形成する。藻場造成用杭11Aの根入れ部12Aの根入れ長L1と杭11Aの全長Lとの比(L1/L)を1/3~2/3の範囲内とし、根入れ長L1を比較的大きくすることで、藻場造成用杭11Aを海中で安定して支持することができる。また、藻場造成用杭11Bの場合、人工石2の厚さL1’が根入れ部12Bの根入れ長と対応し、根入れ長L1’(=人工石2の厚さ)と杭11Bの全長Lとの比(L1’/L)を1/3~2/3の範囲内とし、根入れ長L1’を比較的大きくすることで、藻場造成用杭11Bを海中で安定して支持することができる。
【0029】
なお、藻場造成用杭11Aは、必要に応じて原地盤Gに根入れするようにしてもよい。また、藻場造成用杭11Bの根入れ部12Bの人工石2の厚さが十分でない場合には、造成地盤1や原地盤G(原地盤上に人工石を配置した場合)に根入れするようにしてもよい。
【0030】
また、造成地盤1のカルシア改質土は、浚渫土等の泥土に製鋼スラグを混合した固化処理土で、さらに必要に応じて、高炉スラグ微粉末、セメント、石灰、炭酸カルシウム、バイオ炭、もみ殻、海藻等のうちの少なくとも1つを添加した固化処理土であってもよく、これらの固化処理土は、所定の養生期間経過後に固化するので、造成地盤1の造成時の固化前に藻場造成用杭11Aを打設することで設置作業が容易となる。また、人工石2は、浚渫土等の泥土と製鋼スラグとセメントやフライアッシュや高炉スラグ微粉末等の結合材とを混合し材令28日強度が少なくとも500kN/mである固化処理土で、本発明者が先に特開2023-48220号公報で提案した人工石の製造方法を用いて施工でき、また、固化前に杭を打設することで設置作業が容易となる。
【0031】
図1図2の藻場造成用杭11,11A,11Bの形状は、円筒型または円柱型が好ましいが、角柱型、角筒型、H型であってもよい。円筒型の場合は直径100~1200mmが好ましく、200~600mm程度がより好ましい。藻場造成用杭11,11A,11Bの材質は、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属材料、コンクリート、プラスチック材、塩化ビニル、木材が好ましい。木材は、シリコン被覆や合成樹脂浸透やフェノール処理等の処理木材であってもよい。複数の藻場造成用杭11,11A,11Bは、上記複数の材質の少なくとも2つを組わせてもよい。
【0032】
図1図2の藻場造成用杭11,11A,11Bは、海藻の生育を補助する対策が施されており、また、柱状であり、ウニ等が這い上がりにくいため、ウニ等による生育した海藻の食害を抑制することができる。なお、ウニの這い上がり高さは50cm未満であるため(非特許文献3参照)、海中部の杭11,11A,11Bの原地盤G,造成地盤1または人工石2から突出した長さ(L-L1、L-L1’)は50cm以上とすることが好ましい。また、コンクリート等の大型基盤が不要であるため、藻場造成用杭11,11A,11Bの高さや配置、密度を任意に設定することができる。
【0033】
図1図2の藻場造成方法によれば、海底地盤Gまたは造成地盤1,2に打設した複数の藻場造成用杭11,11A,11Bの上面のみならず外周面を着生基盤として海藻SWを生育させ、従来のブロックや藻礁石と比較して海藻が付着する表面積を増やすことができるとともに各杭11,11A,11Bには海藻の生育を補助する対策が施されていることにより、海藻の生育基盤を広くかつ効率よく形成でき海藻の生育を促進でき、効率的に藻場造成を行うことができる。このため、海藻の生育基盤が広くかつ効率よく形成されて海藻の生育が促進されることで、海藻がよく生育した藻場からなる藻礁10,10Aを実現できる。広域な藻場形成が可能であり、藻礁を広域に形成することでブルーカーボン量の増大化を実現できる。また、磯焼け(海藻の群落が季節的な消長や経年変化の範囲を越えて著しく衰退または消失して貧植生状態となること)対策としても有効である。さらに、藻礁10,10Aは、水中の構造物となるため、魚礁として魚類の蝟集効果も期待することができる。
【0034】
また、藻場造成用杭11,11A,11Bの外周面には、水深に応じて適した海藻が生育することができる。たとえば、褐藻は水深3~10m、緑藻は水深3m以浅に生育する。また、対象となる海藻としては、コンブ、ワカメ、アラメ、カジメ、クロメ、アカモク、オオバモク、ホンダワラ属等がある。
【0035】
図1図2の藻場造成用杭11,11A,11Bは、海藻の着生・生育を補助する対策が施されているが、その具体例について図3図6を参照して説明する。図3は海藻の着生・生育を補助する対策が施された円筒型杭を概略的に示す側面図である。図4図3の円筒型杭の上面図である。図5は同じく形鋼杭の上面図である。図6は海藻の着生・生育を補助する対策が施された円柱型木杭を概略的に示す側面図である。
【0036】
図3図4のように、藻場造成用杭としての円筒型杭13は、中空部14と、上端に中空部14の開口を閉じるように取り付けられた蓋部15を有し、根入れ部12が原地盤G(または造成地盤1,人工石2)に打設され、根入れ部12の根入れ長が杭13の全長の1/3~2/3の範囲内である。杭13の外周面13aの円周方向および/または縦方向に複数の孔16が中空部14に達するように形成されている。蓋部15の上面15aにも複数の孔16が板厚方向に貫通して形成されている。中空部14内には、鉄イオンの供給源となる腐植酸鉄および/または窒素・リン・アミノ酸等の栄養塩の供給源となる堆肥等の緩効性肥料を含む供給材が打設前または打設後に投入されている。円筒型杭13は、たとえば鋼管や円筒状コンクリートから構成できる。
【0037】
杭13の外周面13aと蓋部15の上面15aに複数の孔16が滲出部として設けられていることにより、少なくとも一部の孔16を通して潮流や水圧等により中空部14内に海水が浸入し満たされ、中空部14内の供給材からの鉄イオンや栄養塩が海水と混合した状態で孔16から滲み出て外周面13aや上面15aに供給される。このとき、杭13の中空部14内の鉄イオンや栄養塩の濃度が杭外部よりも高くなるので孔16を通して鉄イオンや栄養塩が滲み出しやすい。中空部14から滲み出た鉄イオンや栄養塩は、海藻が着生し生育する円筒型杭13の外周面13aや蓋部15の上面15aに速やかに到達するため海藻の着生や生長を補助し促進させることができる。また、複数の孔16はスリット状としてもよい。
【0038】
図5のように、藻場造成用杭としての形鋼杭17は、矩形状断面の中空部18を有するように2つのH形鋼17A,17Bを溶接等により接合して構成でき、図3と同様に根入れ部が杭17の全長の1/3~2/3の範囲内の根入れ長となるように原地盤や造成地盤に打設される。形鋼杭17の外周面17aにおいてH形鋼17A,17Bの継ぎ目に沿うように複数のスリット19aが中空部18に達して、かつ、外周面17bに複数の孔19bが中空部18に達して形成されている。また、形鋼杭17の上端に蓋部(図示省略)が中空部18の開口を閉じるように取り付けられている。中空部18内には、鉄イオンの供給源となる腐植酸鉄および/または窒素・リン・アミノ酸等の栄養塩の供給源となる堆肥等の緩効性肥料を含む供給材が打設前または打設後に投入されている。図3図4の円筒型杭13の場合と同様に、中空部18からの供給材の鉄イオンや栄養塩がスリット19a,孔19bを通して外周面17a,17bや蓋部の上面に滲み出て、海藻が着生し生育する形鋼杭17の外周面17a,17bや蓋部の上面に速やかに到達するため海藻の着生や生長を補助し促進させることができる。また、複数の孔19bはスリット状としてもよい。
【0039】
図3図4の円筒型杭13の中空部14および図5の形鋼杭17の中空部18に設けた複数の孔16,スリット19a,孔19bを通して鉄イオンや栄養塩が滲み出て緩やかに供給されることで、数か月~数年間鉄イオンや栄養塩の効果が持続することを期待できる。鉄イオンの効果があるのは、海藻の配偶体の成熟段階とされるが、かかる成熟段階を含む期間に鉄イオンを供給できる。
【0040】
なお、図3図4の蓋部15は、中空部14の開口に、たとえば、フランジタイプによるボルトナットや嵌め込み式や差し込み式や溶接等により取り付けることができる。形鋼杭17においても同様である。
【0041】
図6のように、藻場造成用杭としての木杭21は、たとえば円柱状に構成され、鉄イオンや窒素・りん・アミノ酸等の栄養塩を内部に含むように前処理されており、根入れ部22が原地盤G(または造成地盤1,2)に杭長に対し上述と同様の根入れ長となるように打設される。前処理は、たとえば、鉄イオンや窒素・りん・アミノ酸等の栄養塩を含む液体を内部に注入する、または、鉄イオンや窒素・りん・アミノ酸等の栄養塩を含む液体に浸漬することで、行うことができる。海中において木杭21の外周面21aおよび上面21bから鉄イオンと栄養塩とが滲み出て、海藻が着生し生育し易くなって、海藻の着生や生長を補助し促進させることができる。
【0042】
また、木杭21の根入れ部22は、必要長さが確保されるとともに、原地盤Gや造成地盤1,2中の還元的雰囲気の中で長期間保存され、炭素貯留効果を発揮する。なお、木杭21の水中部は、長期的に分解されるため、炭素貯留としての効果はさほど期待できない。また、木杭は、キクイムシやフナクイムシによって食害を受け易く、切断面から侵入することが多いため、上面21bを中心に耐久処理を行うことにより、効果を持続させることができる。
【0043】
また、図3図4の円筒型杭13の外周面13aや蓋部15の上面15a、図5の形鋼杭17の外周面17a,17bや蓋部の上面、および、木杭21の外周面21aおよび上面21bには、海藻の着生・生育を補助する対策として図9のように海藻の着生に適した凹凸20を設けることが好ましい。凹凸20は多数の凹部と凸部からなり、たとえば、図9の凹凸20の深さdが2~20mm、凹部の間隔w1,凸部の間隔w2が10~100mmであることが好ましい。凹凸20の各深さd、各間隔w1、各間隔w2は、同じでなくともよく、好ましい範囲内で異なっていてもよく、また、間隔w1と間隔w2は異なっていてもよい。また、凹凸20は各杭の外周面や上面の全面または一部に設けられる。
【0044】
また、図3図4の円筒型杭13、図5の形鋼杭17および図6の木杭21によれば、鉄イオンの供給材の海底面配置と比較して、鉄イオン等が直接海藻に作用し生長促進が可能である。
【0045】
次に、杭上部に設置した枠部材からロープを垂らし海藻の着生基盤とする例について図7図8を参照して説明する。図7は、藻場造成用杭とともにロープを海藻の着生基盤とする例を示す側面図(a)とロープに海藻が生育した様子を概略的に示す側面図(b)である。図8は、図7(a)の枠部材の配置例を示す上面図(a)~(d)である。
【0046】
図7(a)のように、藻場造成用杭11の上端面にロープ保持部材24を水平方向に突き出るように設け、ロープ保持部材24の突き出し先端近傍にロープ25を海底地盤Gに向け垂らすようにして保持し設置する。ロープ保持部材24として、たとえば、図8(a)のように、2つの枠部材24a,24bを使用し、杭11の上端面で直交するように配置し固定し、枠部材24a、24bの突き出し両端近傍に複数(4本)のロープ25を垂らす。
【0047】
また、ロープ保持部材24は、図8(b)のように、1つの枠部材24aから構成してもよく、また、図8(c)のように、図8(a)の枠部材24a,24bに加えて、藻場造成用杭11を包囲し枠部材24a,24bを補強するように4つの枠部材24c~24fを設けてもよい。さらに、図8(d)のように、図8(c)と同様の枠部材24a~24fを設け、ロープ25の設置本数を増やすようにしてもよい。なお、枠部材24a~24fの上面に海藻の着生に適した凹凸を設けてもよい。また、藻場造成用杭11と枠部材24a,24bとの固定や枠部材24a~24f同士の連結は、ボルトナットや溶接等の公知の連結手段を用いて行うことができる。
【0048】
また、藻場造成用杭11として図3図4の円筒型杭13または図5の形鋼杭17を使用する場合、蓋部を省略し、枠部材24a,24bで代用するようにしてもよく、枠部材24a,24bの杭11の上端面に対応する位置に複数の孔やスリットを設けておき、中空部から鉄イオンと栄養塩とが滲み出るようにしてもよい。
【0049】
図7(a)(b)のように、ロープ25は、藻場造成用杭11から一定間隔だけ離れた位置で垂下し海藻の着生基盤となって、海藻SWが着生し、藻場造成用杭11とともに藻場造成を効率的に行うことができる。また、ロープ25が着生基盤となるので、藻場造成用杭11と隣接の藻場造成用杭との間隔を大きくでき、また、間隔が一定であれば、藻場をより密に造成できる。
【0050】
なお、ロープ25の下端に錘を付けて海中での安定性を図るようにしてもよい。また、ロープ25の材質は、ポリエチレン・ポリエステル・ポリプロピレン・ポリエステル・生分解性プラスチック・麻があるが、これらに限定されるものではない。また、図7図8の藻場造成用杭11として、図2の杭11A,11Bや図6の木杭21を使用してもよい。
【0051】
次に、藻場造成用杭の平面的な配置例について図10を参照して説明する。図10は、図1図2の藻場造成用杭の好ましい平面配置例を概略的に示す上面図(a)および別の平面配置例を示す上面図(b)である。図10(a)の平面配置例は、図1の複数の藻場造成用杭11を、横一列に間隔xで並べて第1列11とし、第1列11に対し平行に間隔yだけ離れ横方向にずれて横一列に間隔xで並べて第2列11とし、第2列11に対し平行に間隔yだけ離れて第1列11と同様に並べて第3列11としたものである。図10(b)の平面配置例は、図1の複数の藻場造成用杭11を、横一列に間隔xで並べかつ縦方向に間隔yだけ離れて格子状に配置したものである。図10(a)(b)の平面配置例によれば、各藻場造成用杭11に海藻が生育することで一定の海底面積に所定の密度で藻場を広域に造成でき、藻礁を広域に形成できる。また、間隔x,yを調整することにより、各杭11における日光の照射を確保し、海底地盤の単位面積あたりの海藻付着の表面積を調整することができる。
【0052】
次に、隣接する杭同士を連結する連結部材を設けた例について図11(a)(b)を参照して説明する。図11は、本実施形態による複数の藻場造成用杭の隣接する杭同士を連結する連結部材を設けた例を示す側面図(a)および別の例を示す側面図(b)である。図11(a)の例は、2つの隣接する藻場造成用杭26A,26B間に連結部材27Aを、別の2つの隣接する杭26C,26D間に連結部材27Bを、それぞれ杭中間部に設けたものである。また、破線で示すように、さらに隣接する杭26B,26C同士を連結部材27Cにより連結するようにしてもよい。連結部材27A,27B,27Cは、たとえば、溶接やボルトナット等の公知の連結手段により杭26A,26B,26Cに設置することができる。
【0053】
図11(b)の例は、連結部材29が板状の連結部29aと連結部29aの両側に設けられ図3図4の中空部14の内径に対応した筒状の差込部29b,29cとを有し、かかる連結部材29を、図3図4の中空部14を有する2つの隣接する藻場造成用杭28A,28B間において差込部29b,29cを各中空部14の各開口の内側に差し込むことで設けたものである。また、連結部材30が板状の連結部30aと連結部30aの両側に設けられ図3図4の中空部14の外径に対応した筒状の嵌合部30b,30cとを有し、かかる連結部材30を、図3図4の中空部14を有する2つの隣接する藻場造成用杭28C,28D間において嵌合部30b,30cを各中空部14の各開口の外側に嵌め込むことで設けるようにしてもよい。なお、図11(a)(b)の紙面垂直方向に配置された隣接の杭同士を同様の連結部材により連結するようにしてもよい。また、すべての隣接する杭同士を連結するようにしてよいが、これに限定されず、一部の隣接する杭同士を連結してもよい。
【0054】
図11(a)(b)の連結部材27A~27C、29,30を隣接する藻場造成用杭に設けることで、連結された杭の安定性が増すとともに、連結部材を海藻の着生基盤とすることができる。この場合、連結部材27A~27Cの上面や側面、連結部29a,30aの上面には図9と同様の凹凸を設けることが好ましい。なお、図11(b)では、中空部14の開口を塞ぐ図3の蓋部15を省略でき、この場合、開口に対応する連結部29a,30aには図3の蓋部15と同様に孔またはスリットを設けることが好ましい。また、図11(b)の連結部材30は、筒状でない杭にも適用でき、たとえば図6の木杭21にも適用可能である。
【0055】
なお、図11(a)(b)の連結部材27A~27C、29,30は、鋼板や鋼管から構成できるが、硬質プラスチック材等から構成してもよい。また、連結部材は、ポリエチレン・ポリエステル・ポリプロピレン・ポリエステル・麻等からなるロープから構成してもよく、ロープが杭間に設けられる。かかるロープは海藻の着生基盤にできる。また、各種の連結部材の設置は、海中で行うことができるが、予め陸上で行うようにしてもよい。
【0056】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、図10(a)(b)の複数の藻場造成用杭の平面配置例は、一例であって、本発明はこれに限定されず、縦横の杭本数や杭間隔や杭位置は適宜変更できることはもちろんである。また、本実施形態により造成される藻場は、水深が15m程度以下で、二酸化炭素の固定量の大きい褐藻を主対象とするが、これらに限定されるものではない。
【0057】
また、図6の木杭は、直径200mm×長さ4m程度のものを浅場で使用することが好ましく、図3の鋼管杭やPHC杭は直径が600m程度以下のものを水深15m程度以下の場所で使用することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、海藻の生育基盤が広くかつ効率よく形成されて海藻の生育が促進されることで、海藻がよく生育した藻場からなる藻礁を実現でき、広域な藻場形成が可能であり、藻礁を広域に形成することでブルーカーボンとしての二酸化炭素の固定量を増やすことができる。
【符号の説明】
【0059】
1 造成地盤
2 人工石
10,10A 藻礁
11,11A,11B 藻場造成用杭
12 根入れ部
13 円筒型杭
13a 外周面
14 中空部
15 蓋部
15a 上面
16 孔
17 形鋼杭
17a,17b 外周面
18 中空部
19a スリット
19b 孔
20 凹凸
21 木杭
21a 外周面
21b 上面
22 根入れ部
24 ロープ保持部材
24a~24f 枠部材
25 ロープ
27A~27C 連結部材
29,30 連結部材
G 原地盤
SW 海藻
L 杭の全長
L1,L1’ 根入れ長
d 凹凸20の深さ
w1 凹部の間隔
w2 凸部の間隔
x 杭の間隔
y 杭の間隔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11