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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166755
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】電解反応装置および電解反応方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/23 20210101AFI20241122BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20241122BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20241122BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20241122BHJP
   C25B 13/02 20060101ALI20241122BHJP
   C25B 9/21 20210101ALI20241122BHJP
【FI】
C25B1/23
C25B9/00 Z
C25B13/04 301
C25B9/23
C25B13/02 302
C25B9/21
【審査請求】有
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083076
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 友作
(72)【発明者】
【氏名】加藤 千和
(72)【発明者】
【氏名】水野 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】坂本 淑幸
(72)【発明者】
【氏名】岡村 和政
(72)【発明者】
【氏名】植西 徹
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021AB25
4K021BA02
4K021BC01
4K021BC04
4K021BC07
4K021CA09
4K021CA10
4K021CA11
4K021DB15
4K021DB16
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC11
(57)【要約】
【課題】電解による含炭素化合物の取出効率を向上することができる電解反応装置および電解反応方法を提供する。
【解決手段】アノード12とカソード28との間に電圧を印加することによって、アルカリ金属イオン(M)と炭酸イオン(CO 2-)および炭酸水素イオン(HCO )のうちの少なくとも1つとを含む第1含炭酸液中の炭酸イオン種を酸性化して二酸化炭素(CO(g))とし、さらにその二酸化炭素(CO(g))と水(HO)とを還元して二酸化炭素還元物を生成する手段を有する電解反応装置であって、さらに、第1含炭酸液から二酸化炭素(CO(g))を取り出してアルカリ液を生成するアルカリ液生成手段と、カソードにおいて炭酸イオン種の形で吸収された二酸化炭素(CO)を再生する二酸化炭素再生手段と、を有する、電解反応装置1である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードとカソードとの間に電圧を印加することによって、アルカリ金属イオン(M)と炭酸イオン(CO 2-)および炭酸水素イオン(HCO )のうちの少なくとも1つとを含む第1含炭酸液中の炭酸イオン種を酸性化して二酸化炭素(CO(g))とし、さらにその二酸化炭素(CO(g))と水(HO)とを還元して二酸化炭素還元物を生成する手段を有する電解反応装置であって、
さらに、
前記第1含炭酸液から二酸化炭素(CO(g))を取り出してアルカリ液を生成するアルカリ液生成手段と、
前記カソードにおいて炭酸イオン種の形で吸収された二酸化炭素(CO)を再生する二酸化炭素再生手段と、
を有することを特徴とする電解反応装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電解反応装置であって、
アノード室と、
酸性化室と、
アルカリ性化室と、
二酸化炭素再生化室と、
カソード室と、
前記アノード室と前記酸性化室との間に、前記アノード室側から順に設けられた前記アノードと、第1カチオン交換膜と、
前記酸性化室と前記アルカリ性化室との間に設けられた第2カチオン交換膜と、
前記アルカリ性化室と前記二酸化炭素再生化室との間に設けられたバイポーラ膜と、
前記二酸化炭素再生化室と前記カソード室との間に、前記二酸化炭素再生化室側から順に設けられたアニオン交換膜と、前記カソードと、
第1気液分離器と、
第2気液分離器と、
を備え、
アノード反応物が前記アノード室に流入し、前記アノード室において前記アノード反応物の前記アノードによる酸化反応によって水素イオン(H)が生成し、
前記第1含炭酸液が前記酸性化室に流入し、前記アノードまたは前記バイポーラ膜によって生成した水素イオン(H)が前記酸性化室に供給され、前記酸性化室において前記第1含炭酸液中の炭酸イオン種が酸性化されて二酸化炭素(CO)が生成し、
前記酸性化室で生成した二酸化炭素(CO)を含む含二酸化炭素液が前記第2気液分離器に流入し、前記第2気液分離器において気液分離されて二酸化炭素(CO(g))が取り出され、
前記第2気液分離器で取り出された二酸化炭素(CO(g))を含む気体が前記カソード室に流入し、前記カソード室において前記二酸化炭素(CO(g))を含む気体の前記カソードによる還元反応によって二酸化炭素還元物が生成し、
前記第2気液分離器で二酸化炭素(CO)が気液分離された分離液が前記アルカリ性化室に流入し、前記第1含炭酸液に含まれる前記アルカリ金属イオン(M)が前記アルカリ性化室に供給され、前記バイポーラ膜によって生成した水酸化物イオン(OH)が前記アルカリ性化室に供給され、アルカリ(MOH)液が生成し、
前記カソード室で生成した水酸化物イオン(OH)と二酸化炭素(CO)との相互作用によって生成した炭酸イオン種が前記二酸化炭素再生化室に供給され、前記バイポーラ膜によって生成した水素イオン(H)が前記二酸化炭素再生化室に供給され、前記二酸化炭素再生化室においてその炭酸イオン種が酸性化されて二酸化炭素(CO)が再生し、
前記二酸化炭素再生化室で再生した二酸化炭素(CO)を含む第2含炭酸液が前記第1気液分離器に流入し、前記第1気液分離器において気液分離されて二酸化炭素(CO(g))が取り出され、
前記第1気液分離器で取り出された二酸化炭素(CO(g))を含む気体が前記カソード室に流入することを特徴とする電解反応装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電解反応装置であって、
前記バイポーラ膜と前記二酸化炭素再生化室との間に、前記バイポーラ膜側から順に、酸性化室と、第2カチオン交換膜と、アルカリ性化室と、アルカリ性化室と、バイポーラ膜と、を有する追加の透析領域をさらに備えることを特徴とする電解反応装置。
【請求項4】
請求項2に記載の電解反応装置であって、
前記生成したアルカリ液に二酸化炭素(CO)を補填して含炭酸液を生成する二酸化炭素補填器をさらに備えることを特徴とする電解反応装置。
【請求項5】
請求項2に記載の電解反応装置であって、
前記アノードおよび前記第1カチオン交換膜は、前記第1カチオン交換膜にアノード触媒粒子を塗工した膜-電極接合体であることを特徴とする電解反応装置。
【請求項6】
請求項2に記載の電解反応装置であって、
前記アノードと前記カソードとが対向する方向における前記酸性化室、前記アルカリ性化室、および前記二酸化炭素再生化室のそれぞれの厚みは、5mm以下であることを特徴とする電解反応装置。
【請求項7】
請求項2に記載の電解反応装置であって、
前記酸性化室、前記アルカリ性化室、および前記二酸化炭素再生化室に空隙のあるスペーサが挿入されていることを特徴とする電解反応装置。
【請求項8】
請求項2に記載の電解反応装置であって、
前記カソード室が加圧されることを特徴とする電解反応装置。
【請求項9】
請求項2に記載の電解反応装置であって、
前記カソードは、電子伝導性およびガス拡散性を有する基材にナノ構造を有する金属触媒粒子を担持したカソード触媒シートであることを特徴とする電解反応装置。
【請求項10】
請求項2に記載の電解反応装置であって、
前記第1気液分離器で二酸化炭素(CO)が気液分離された第2含炭酸液が前記二酸化炭素再生化室に循環供給され、
前記二酸化炭素再生化室に循環供給される第2含炭酸液は、作動時において二酸化炭素が飽和したアルカリ金属イオンを含む炭酸水素イオン水溶液であることを特徴とする電解反応装置。
【請求項11】
請求項3に記載の電解反応装置であって、
前記酸性化室に供給される前記第1含炭酸液に含まれる前記アルカリ金属イオン(M)の濃度をC[M]、電解のときに流れる電流をI[A]、ファラデー定数をF=96485 C/s、追加の透析領域数をNとしたときに、前記酸性化室への総送液速度vall[L/s]は、v=N・I/(F・C)として、vall≧0.8vであることを特徴とする電解反応装置。
【請求項12】
アノードとカソードとの間に電圧を印加することによって、アルカリ金属イオン(M)と炭酸イオン(CO 2-)および炭酸水素イオン(HCO )のうちの少なくとも1つとを含む第1含炭酸液中の炭酸イオン種を酸性化して二酸化炭素(CO(g))とし、さらにその二酸化炭素(CO(g))と水(HO)とを還元して二酸化炭素還元物を生成する機能を有する電解反応方法であって、
さらに、
前記第1含炭酸液から二酸化炭素(CO(g))を取り出してアルカリ液を生成し、
前記カソードにおいて炭酸イオン種の形で吸収された二酸化炭素(CO)を再生する ことを特徴とする電解反応方法。
【請求項13】
請求項12に記載の電解反応方法であって、
アノード室と、
酸性化室と、
アルカリ性化室と、
二酸化炭素再生化室と、
カソード室と、
前記アノード室と前記酸性化室との間に、前記アノード室側から順に設けられた前記アノードと、第1カチオン交換膜と、
前記酸性化室と前記アルカリ性化室との間に設けられた第2カチオン交換膜と、
前記アルカリ性化室と前記二酸化炭素再生化室との間に設けられたバイポーラ膜と、
前記二酸化炭素再生化室と前記カソード室との間に、前記二酸化炭素再生化室側から順に設けられたアニオン交換膜と、前記カソードと、
第1気液分離器と、
第2気液分離器と、
を備える電解反応装置を用い、
アノード反応物が前記アノード室に流入し、前記アノード室において前記アノード反応物の前記アノードによる酸化反応によって水素イオン(H)が生成し、
前記第1含炭酸液が前記酸性化室に流入し、前記アノードまたは前記バイポーラ膜によって生成した水素イオン(H)が前記酸性化室に供給され、前記酸性化室において前記第1含炭酸液中の炭酸イオン種が酸性化されて二酸化炭素(CO)が生成し、
前記酸性化室で生成した二酸化炭素(CO)を含む含二酸化炭素液が前記第2気液分離器に流入し、前記第2気液分離器において気液分離されて二酸化炭素(CO(g))が取り出され、
前記第2気液分離器で取り出された二酸化炭素(CO(g))を含む気体が前記カソード室に流入し、前記カソード室において前記二酸化炭素(CO(g))を含む気体の前記カソードによる還元反応によって二酸化炭素還元物が生成し、
前記第2気液分離器で二酸化炭素(CO)が気液分離された分離液が前記アルカリ性化室に流入し、前記第1含炭酸液に含まれる前記アルカリ金属イオン(M)が前記アルカリ性化室に供給され、前記バイポーラ膜によって生成した水酸化物イオン(OH)が前記アルカリ性化室に供給され、アルカリ(MOH)液が生成し、
前記カソード室で生成した水酸化物イオン(OH)と二酸化炭素(CO)との相互作用によって生成した炭酸イオン種が前記二酸化炭素再生化室に供給され、前記バイポーラ膜によって生成した水素イオン(H)が前記二酸化炭素再生化室に供給され、前記二酸化炭素再生化室においてその炭酸イオン種が酸性化されて二酸化炭素(CO)が再生し、
前記二酸化炭素再生化室で再生した二酸化炭素(CO)を含む第2含炭酸液が前記第1気液分離器に流入し、前記第1気液分離器において気液分離されて二酸化炭素(CO(g))が取り出され、
前記第1気液分離器で取り出された二酸化炭素(CO(g))を含む気体が前記カソード室に流入することを特徴とする電解反応方法。
【請求項14】
請求項13に記載の電解反応方法であって、
電解反応装置は、前記バイポーラ膜と前記二酸化炭素再生化室との間に、前記バイポーラ膜側から順に、酸性化室と、第2カチオン交換膜と、アルカリ性化室と、アルカリ性化室と、バイポーラ膜と、を有する追加の透析領域をさらに備えることを特徴とする電解反応方法。
【請求項15】
請求項13に記載の電解反応方法であって、
前記生成したアルカリ液に二酸化炭素(CO)を補填して含炭酸液を生成することを特徴とする電解反応方法。
【請求項16】
請求項13に記載の電解反応方法であって、
前記アノードおよび前記第1カチオン交換膜は、前記第1カチオン交換膜にアノード触媒粒子を塗工した膜-電極接合体であることを特徴とする電解反応方法。
【請求項17】
請求項13に記載の電解反応方法であって、
前記アノードと前記カソードとが対向する方向における前記酸性化室、前記アルカリ性化室、および前記二酸化炭素再生化室のそれぞれの厚みは、5mm以下であることを特徴とする電解反応方法。
【請求項18】
請求項13に記載の電解反応方法であって、
前記酸性化室、前記アルカリ性化室、および前記二酸化炭素再生化室に空隙のあるスペーサが挿入されていることを特徴とする電解反応方法。
【請求項19】
請求項13に記載の電解反応方法であって、
前記カソード室を加圧することを特徴とする電解反応方法。
【請求項20】
請求項13に記載の電解反応方法であって、
前記カソードは、電子伝導性およびガス拡散性を有する基材にナノ構造を有する金属触媒粒子を担持したカソード触媒シートであることを特徴とする電解反応方法。
【請求項21】
請求項13に記載の電解反応方法であって、
前記第1気液分離器で二酸化炭素(CO)が気液分離された第2含炭酸液が前記二酸化炭素再生化室に循環供給され、
前記二酸化炭素再生化室に循環供給される第2含炭酸液は、作動時において二酸化炭素が飽和したアルカリ金属イオンを含む炭酸水素イオン水溶液であることを特徴とする電解反応方法。
【請求項22】
請求項14に記載の電解反応方法であって、
前記酸性化室に供給される前記第1含炭酸液に含まれる前記アルカリ金属イオン(M)の濃度をC[M]、電解のときに流れる電流をI[A]、ファラデー定数をF=96485 C/s、追加の透析領域数をNとしたときに、前記酸性化室への総送液速度vall[L/s]は、v=N・I/(F・C)として、vall≧0.8vであることを特徴とする電解反応方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解反応装置および電解反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸イオン種(炭酸イオン(CO 2-)および炭酸水素イオン(HCO ))の直接電解(直接電気分解)による一酸化炭素(CO)を生成する技術が知られている(例えば、特許文献1~3および非特許文献1,2参照)。
【0003】
この技術における電解反応装置の構成は、例えば、カソード/カソード液/隔膜(バイポーラ膜、カチオン交換膜)/アノード液/アノードであり、電解反応装置に供給する電解液(カソード液)は、炭酸イオンおよび炭酸水素イオンのうち少なくとも1つを含む水溶液である。カソード液として、特許文献1,2では、3M KHCO水溶液を標準使用しており、特許文献3では、は2M KOH水溶液に100%COガスをバブリングすることによって生成した水溶液(すなわち、2M CO飽和KHCO水溶液)を標準使用している。電解反応装置から排出される生成物は、水素(H)と、二酸化炭素(CO)および一酸化炭素(CO)のうちの少なくとも1つである。
【0004】
反応機構は、炭酸イオンおよび炭酸水素イオンのうち少なくとも1つを含む水溶液をカソード室に流し、バイポーラ膜で隔てられたカソード-アノード間に電圧を印加することによって、(1)隔膜であるバイポーラ膜、カチオン交換膜からカソード室に対して水素イオン(H)が供給され、(2)炭酸イオン、炭酸水素イオンがカソード近傍で中性の二酸化炭素分子に化学変換され、(3)この二酸化炭素分子が一酸化炭素等の二酸化炭素還元物に電気化学変換されるというものである。
【0005】
この技術では、1気圧100%二酸化炭素(CO)と平衡状態にある2M CO飽和KHCO水溶液、または3M KHCO水溶液を供給する条件において、高い含炭素化合物/H物質量比(約10)を実現している。
【0006】
しかし、大気中の二酸化炭素と平衡状態にあるような低炭酸イオン種濃度条件(<0.5M)では、低い含炭素化合物/H物質量比(<0.16)となる。これは、カソードにおいては、所望反応の前駆体COx(炭酸イオン種)よりも競合反応の前駆体HOの方がはるかに多く存在し、活量の高い状態にあるので、競合反応が優先的に進行するものと考えられる。
【0007】
したがって、大気中の二酸化炭素と平衡状態にあるような低炭酸イオン種濃度の電解液を供給する場合における、含炭素化合物/H物質量比の向上が求められている。
【0008】
また、炭酸イオン種の電気透析による二酸化炭素(CO)を生成する技術が知られている(例えば、特許文献4~12、非特許文献3~7参照)。
【0009】
この技術における電解反応装置の構成は、例えば、非特許文献6のFigure.3に示されている。この技術における電解反応装置に供給する電解液は、炭酸イオンおよび炭酸水素イオンのうち少なくとも1つを含む水溶液や海水である。電解反応装置から排出される生成物は、水素(H)、二酸化炭素(CO)である。
【0010】
反応機構は、炭酸イオンおよび炭酸水素イオンのうち少なくとも1つを含む水溶液を酸性化室に流し、カソード-アノード間に電圧を印加することによって、(1)カソードで水素(H)が生成するとともに、(2)酸性化室で炭酸イオン種が中性二酸化炭素(CO)に変換されるというものである。
【0011】
この技術では、0.5M KHCO水溶液を用いて実質100%効率で二酸化炭素および水素の生成を実現している(電気透析追加積層数N=0換算で、含炭素化合物/H物質量比が約2)。また、0.125M KCO水溶液のごく低濃度でも約40%の効率を実現している(電気透析追加積層数N=0換算で、含炭素化合物/H物質量比が約0.4)(特許文献4参照)。
【0012】
しかし、電気透析を進行する際、生成する水素(H)と同物質量の水(HO)を消費してしまう。例えば、この装置を用いて連続操業することを考えるとき、媒質である水の消費、損失は連続操業を阻む障害となる。
【0013】
したがって、電気透析の運用の際の水素の生成比率を低減することが求められている。
【0014】
このように、炭酸イオン種の直接電解還元の場合、所望反応「CO→CO生成(CO還元物の一例)」の反応前駆体である炭酸イオン種(CO)よりも、競合反応「HO→H生成」の反応前駆体である水(HO)の方がはるかに多く存在し、活量も高い状態にある。よって、所望反応よりも競合反応の方が進行しやすい状況となるため、電解によりカソード側から取り出される気体生成物の含炭素化合物/H物質量比が小さくなる。
【0015】
また、炭酸イオン種の従来型の電気透析の場合、KCO水溶液を用いるときの全反応は「CO(低濃度)+HO→CO(高濃度)+H+1/2O」となる。すなわち、二酸化炭素(CO)を取り出すほど、同時に生成する水素(H)と同物質量の水(HO)が失われるため、また、従来型の電気透析装置で取り出したガス状二酸化炭素(CO(g))を単純にカソード室に供給したとしても、水素イオン(H)が供給される酸性雰囲気(すなわち、水素(H)発生反応に好適な雰囲気)であり、水素(H)の生成しか起こらないため、含炭素化合物の取出効率向上は見込めない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際特許出願公開第2019/204938号パンフレット
【特許文献2】国際特許出願公開第2021/207857号パンフレット
【特許文献3】国際特許出願公開第2020/223804号パンフレット
【特許文献4】特許第5848964号公報
【特許文献5】特許第5750220号公報
【特許文献6】国際特許出願公開第2007/018558号パンフレット
【特許文献7】特開2008-100211号公報
【特許文献8】国際特許出願公開第2017/205044号パンフレット
【特許文献9】国際特許出願公開第2022/235708号パンフレット
【特許文献10】特許第5952104号公報
【特許文献11】国際特許出願公開第2017/205038号パンフレット
【特許文献12】国際特許出願公開第2011/142854号パンフレット
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Tengfei Li, Eric W. Lees, Maxwell Goldman, Danielle A. Salvatore, David M. Weekes, and Curtis P. Berlinguette, “Electrolytic Conversion of Bicarbonate into CO in a Flow Cell”, Joule, 3, 1487-1497 (2019).
【非特許文献2】Yuguang C. Li, Geonhui Lee, Tiange Yuan, Ying Wang, Dae-Hyun Nam, Ziyun Wang, F. Pelayo Garcia de Arquer, Yanwei Lum, Cao-Thang Dinh, Oleksandr Voznyy, and Edward H. Sargent, “CO2 Electroreduction from Carbonate Electrolyte”, ACS Energy Lett., 4, 1427-1431 (2019).
【非特許文献3】Matthew D. Eisaman, Luis Alvarado, Daniel Larner, Peng Wang, Bhaskar Garg, and Karl A. Littau, “CO2 separation using bipolar membrane electrodialysis”, Energy Environ. Sci., 4, 1319 (2011).
【非特許文献4】Atsushi Iizuka, Kana Hashimoto, Hiroki Nagasawa, Kazukiyo Kumagai, Yukio Yanagisawa, and Akihiro Yamasaki, “Carbon dioxide recovery from carbonate solutions using bipolar membrane electrodialysis”, Separation and Purification Technology, 101, 49 (2012).
【非特許文献5】Alexander P. Muroyama, Alexandra Patru, and Lorenz Gubler, “Review-CO2 Separation and Transport via Electrochemical Methods”, J. Electrochem. Soc., 167, 133504 (2020).
【非特許文献6】Sara E. Renfrew, David E. Starr, and Peter Strasser, “Electrochemical Approaches toward CO2 Capture and Concentration”, ACS Catal., 10, 13058 (2020).
【非特許文献7】R. Sharifian, R. M. Wagterveld, I. A. Digdaya, C. Xiang, and D. A. Vermaas, “Electrochemical carbon dioxide capture to close the carbon cycle”, Energy Environ. Sci., 14, 781-814 (2021).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、電解による含炭素化合物の取出効率を向上することができる電解反応装置および電解反応方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、アノードとカソードとの間に電圧を印加することによって、アルカリ金属イオン(M)と炭酸イオン(CO 2-)および炭酸水素イオン(HCO )のうちの少なくとも1つとを含む第1含炭酸液中の炭酸イオン種を酸性化して二酸化炭素(CO(g))とし、さらにその二酸化炭素(CO(g))と水(HO)とを還元して二酸化炭素還元物を生成する手段を有する電解反応装置であって、さらに、前記第1含炭酸液から二酸化炭素(CO(g))を取り出してアルカリ液を生成するアルカリ液生成手段と、前記カソードにおいて炭酸イオン種の形で吸収された二酸化炭素(CO)を再生する二酸化炭素再生手段と、を有する、電解反応装置である。
【0020】
前記電解反応装置において、アノード室と;酸性化室と;アルカリ性化室と;二酸化炭素再生化室と;カソード室と;前記アノード室と前記酸性化室との間に、前記アノード室側から順に設けられた前記アノードと、第1カチオン交換膜と;前記酸性化室と前記アルカリ性化室との間に設けられた第2カチオン交換膜と;前記アルカリ性化室と前記二酸化炭素再生化室との間に設けられたバイポーラ膜と;前記二酸化炭素再生化室と前記カソード室との間に、前記二酸化炭素再生化室側から順に設けられたアニオン交換膜と、前記カソードと;第1気液分離器と;第2気液分離器と;を備え、
アノード反応物が前記アノード室に流入し、前記アノード室において前記アノード反応物の前記アノードによる酸化反応によって水素イオン(H)が生成し、
前記第1含炭酸液が前記酸性化室に流入し、前記アノードまたは前記バイポーラ膜によって生成した水素イオン(H)が前記酸性化室に供給され、前記酸性化室において前記第1含炭酸液中の炭酸イオン種が酸性化されて二酸化炭素(CO)が生成し、
前記酸性化室で生成した二酸化炭素(CO)を含む含二酸化炭素液が前記第2気液分離器に流入し、前記第2気液分離器において気液分離されて二酸化炭素(CO(g))が取り出され、
前記第2気液分離器で取り出された二酸化炭素(CO(g))を含む気体が前記カソード室に流入し、前記カソード室において前記二酸化炭素(CO(g))を含む気体の前記カソードによる還元反応によって二酸化炭素還元物が生成し、
前記第2気液分離器で二酸化炭素(CO)が気液分離された分離液が前記アルカリ性化室に流入し、前記第1含炭酸液に含まれる前記アルカリ金属イオン(M)が前記アルカリ性化室に供給され、前記バイポーラ膜によって生成した水酸化物イオン(OH)が前記アルカリ性化室に供給され、アルカリ(MOH)液が生成し、
前記カソード室で生成した水酸化物イオン(OH)と二酸化炭素(CO)との相互作用によって生成した炭酸イオン種が前記二酸化炭素再生化室に供給され、前記バイポーラ膜によって生成した水素イオン(H)が前記二酸化炭素再生化室に供給され、前記二酸化炭素再生化室においてその炭酸イオン種が酸性化されて二酸化炭素(CO)が再生し、
前記二酸化炭素再生化室で再生した二酸化炭素(CO)を含む第2含炭酸液が前記第1気液分離器に流入し、前記第1気液分離器において気液分離されて二酸化炭素(CO(g))が取り出され、
前記第1気液分離器で取り出された二酸化炭素(CO(g))を含む気体が前記カソード室に流入することが好ましい。
【0021】
前記電解反応装置において、前記バイポーラ膜と前記二酸化炭素再生化室との間に、前記バイポーラ膜側から順に、酸性化室と、第2カチオン交換膜と、アルカリ性化室と、アルカリ性化室と、バイポーラ膜と、を有する追加の透析領域をさらに備えることが好ましい。
【0022】
前記電解反応装置において、前記生成したアルカリ液に二酸化炭素(CO)を補填して含炭酸液を生成する二酸化炭素補填器をさらに備えることが好ましい。
【0023】
前記電解反応装置において、前記アノードおよび前記第1カチオン交換膜は、前記第1カチオン交換膜にアノード触媒粒子を塗工した膜-電極接合体であることが好ましい。
【0024】
前記電解反応装置において、前記アノードと前記カソードとが対向する方向における前記酸性化室、前記アルカリ性化室、および前記二酸化炭素再生化室のそれぞれの厚みは、5mm以下であることが好ましい。
【0025】
前記電解反応装置において、前記酸性化室、前記アルカリ性化室、および前記二酸化炭素再生化室に空隙のあるスペーサが挿入されていることが好ましい。
【0026】
前記電解反応装置において、前記カソード室が加圧されることが好ましい。
【0027】
前記電解反応装置において、前記カソードは、電子伝導性およびガス拡散性を有する基材にナノ構造を有する金属触媒粒子を担持したカソード触媒シートであることが好ましい。
【0028】
前記電解反応装置において、前記第1気液分離器で二酸化炭素(CO)が気液分離された第2含炭酸液が前記二酸化炭素再生化室に循環供給され、前記二酸化炭素再生化室に循環供給される第2含炭酸液は、作動時において二酸化炭素が飽和したアルカリ金属イオンを含む炭酸水素イオン水溶液であることが好ましい。
【0029】
前記電解反応装置において、前記酸性化室に供給される前記第1含炭酸液に含まれる前記アルカリ金属イオン(M)の濃度をC[M]、電解のときに流れる電流をI[A]、ファラデー定数をF=96485 C/s、追加の透析領域数をNとしたときに、前記酸性化室への総送液速度vall[L/s]は、v=N・I/(F・C)として、vall≧0.8vであることが好ましい。
【0030】
本発明は、アノードとカソードとの間に電圧を印加することによって、アルカリ金属イオン(M)と炭酸イオン(CO 2-)および炭酸水素イオン(HCO )のうちの少なくとも1つとを含む第1含炭酸液中の炭酸イオン種を酸性化して二酸化炭素(CO(g))とし、さらにその二酸化炭素(CO(g))と水(HO)とを還元して二酸化炭素還元物を生成する機能を有する電解反応方法であって、さらに、前記第1含炭酸液から二酸化炭素(CO(g))を取り出してアルカリ液を生成し、前記カソードにおいて炭酸イオン種の形で吸収された二酸化炭素(CO)を再生する、電解反応方法である。
【0031】
前記電解反応方法において、アノード室と;酸性化室と;アルカリ性化室と;二酸化炭素再生化室と;カソード室と;前記アノード室と前記酸性化室との間に、前記アノード室側から順に設けられた前記アノードと、第1カチオン交換膜と;前記酸性化室と前記アルカリ性化室との間に設けられた第2カチオン交換膜と;前記アルカリ性化室と前記二酸化炭素再生化室との間に設けられたバイポーラ膜と;前記二酸化炭素再生化室と前記カソード室との間に、前記二酸化炭素再生化室側から順に設けられたアニオン交換膜と、前記カソードと;第1気液分離器と;第2気液分離器と;を備える電解反応装置を用い、
アノード反応物が前記アノード室に流入し、前記アノード室において前記アノード反応物の前記アノードによる酸化反応によって水素イオン(H)が生成し、
前記第1含炭酸液が前記酸性化室に流入し、前記アノードまたは前記バイポーラ膜によって生成した水素イオン(H)が前記酸性化室に供給され、前記酸性化室において前記第1含炭酸液中の炭酸イオン種が酸性化されて二酸化炭素(CO)が生成し、
前記酸性化室で生成した二酸化炭素(CO)を含む含二酸化炭素液が前記第2気液分離器に流入し、前記第2気液分離器において気液分離されて二酸化炭素(CO(g))が取り出され、
前記第2気液分離器で取り出された二酸化炭素(CO(g))を含む気体が前記カソード室に流入し、前記カソード室において前記二酸化炭素(CO(g))を含む気体の前記カソードによる還元反応によって二酸化炭素還元物が生成し、
前記第2気液分離器で二酸化炭素(CO)が気液分離された分離液が前記アルカリ性化室に流入し、前記第1含炭酸液に含まれる前記アルカリ金属イオン(M)が前記アルカリ性化室に供給され、前記バイポーラ膜によって生成した水酸化物イオン(OH)が前記アルカリ性化室に供給され、アルカリ(MOH)液が生成し、
前記カソード室で生成した水酸化物イオン(OH)と二酸化炭素(CO)との相互作用によって生成した炭酸イオン種が前記二酸化炭素再生化室に供給され、前記バイポーラ膜によって生成した水素イオン(H)が前記二酸化炭素再生化室に供給され、前記二酸化炭素再生化室においてその炭酸イオン種が酸性化されて二酸化炭素(CO)が再生し、
前記二酸化炭素再生化室で再生した二酸化炭素(CO)を含む第2含炭酸液が前記第1気液分離器に流入し、前記第1気液分離器において気液分離されて二酸化炭素(CO(g))が取り出され、
前記第1気液分離器で取り出された二酸化炭素(CO(g))を含む気体が前記カソード室に流入することが好ましい。
【0032】
前記電解反応方法において、電解反応装置は、前記バイポーラ膜と前記二酸化炭素再生化室との間に、前記バイポーラ膜側から順に、酸性化室と、第2カチオン交換膜と、アルカリ性化室と、アルカリ性化室と、バイポーラ膜と、を有する追加の透析領域をさらに備えることが好ましい。
【0033】
前記電解反応方法において、前記生成したアルカリ液に二酸化炭素(CO)を補填して含炭酸液を生成することが好ましい。
【0034】
前記電解反応方法において、前記アノードおよび前記第1カチオン交換膜は、前記第1カチオン交換膜にアノード触媒粒子を塗工した膜-電極接合体であることが好ましい。
【0035】
前記電解反応方法において、前記アノードと前記カソードとが対向する方向における前記酸性化室、前記アルカリ性化室、および前記二酸化炭素再生化室のそれぞれの厚みは、5mm以下であることが好ましい。
【0036】
前記電解反応方法において、前記酸性化室、前記アルカリ性化室、および前記二酸化炭素再生化室に空隙のあるスペーサが挿入されていることが好ましい。
【0037】
前記電解反応方法において、前記カソード室を加圧することが好ましい。
【0038】
前記電解反応方法において、前記カソードは、電子伝導性およびガス拡散性を有する基材にナノ構造を有する金属触媒粒子を担持したカソード触媒シートであることが好ましい。
【0039】
前記電解反応方法において、前記第1気液分離器で二酸化炭素(CO)が気液分離された第2含炭酸液が前記二酸化炭素再生化室に循環供給され、前記二酸化炭素再生化室に循環供給される第2含炭酸液は、作動時において二酸化炭素が飽和したアルカリ金属イオンを含む炭酸水素イオン水溶液であることが好ましい。
【0040】
前記電解反応方法において、前記酸性化室に供給される前記第1含炭酸液に含まれる前記アルカリ金属イオン(M)の濃度をC[M]、電解のときに流れる電流をI[A]、ファラデー定数をF=96485 C/s、追加の透析領域数をNとしたときに、前記酸性化室への総送液速度vall[L/s]は、v=N・I/(F・C)として、vall≧0.8vであることが好ましい。
【発明の効果】
【0041】
本発明により、電解による含炭素化合物の取出効率を向上することができる電解反応装置および電解反応方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明の実施形態に係る電解反応装置の一例を示す概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る電解反応装置に設けてもよいスペーサの一例を示す概略図である。
図3】実施例1において、100%Arを2cc/minで供給して定電流電解を行った際に、カソード室下流側で採取したガスのガスクロマトグラム(実線)である。(a)はH領域、(b)はCO領域、(c)はCO領域を示す。比較のために、実験同日に採取した大気のガスクロマトグラム(点線)も示す。
図4】電解処理により生成する含炭素化合物およびH比率を比較したグラフである。
図5】実施例2において、100%COを2cc/minで供給して定電流電解を行った際に、カソード室下流側で採取したガスのガスクロマトグラム(実線)である。(a)はH領域、(b)はCO領域を示す。比較のために、実験同日に採取した大気のガスクロマトグラム(点線)も示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0044】
本実施形態に係る電解反応装置は、アノードとカソードとの間に電圧を印加することによって、アルカリ金属イオン(M)と炭酸イオン(CO 2-)および炭酸水素イオン(HCO )のうちの少なくとも1つとを含む第1含炭酸液中の炭酸イオン種を酸性化して二酸化炭素(CO(g))とし、さらにその二酸化炭素(CO(g))と水(HO)とを還元して二酸化炭素還元物を生成する手段を有する電解反応装置である。本実施形態に係る電解反応装置は、さらに、第1含炭酸液から二酸化炭素(CO(g))を取り出して溶存炭素濃度の低いアルカリ液を生成するアルカリ液生成手段と、カソードにおいて炭酸イオン種の形で吸収された二酸化炭素(CO)を再生する二酸化炭素再生手段と、を有する。
【0045】
本実施形態に係る電解反応装置および電解反応方法によって、電解による含炭素化合物(特に、二酸化炭素還元物)の取出効率を向上することができる。
【0046】
本実施形態に係る電解反応装置の一例を図1に示し、その構成について説明する。
【0047】
図1に示す電解反応装置1は、アノード室10と;酸性化室16と;アルカリ性化室20と;二酸化炭素再生化室24と;カソード室30と;アノード室10と酸性化室16との間に、アノード室10側から順に設けられたアノード12と、第1カチオン交換膜14と;酸性化室16とアルカリ性化室20との間に設けられた第2カチオン交換膜18と;アルカリ性化室20と二酸化炭素再生化室24との間に設けられた、カチオン交換膜22aおよびアニオン交換膜22bを含むバイポーラ膜22と;二酸化炭素再生化室24とカソード室30との間に、二酸化炭素再生化室24側から順に設けられたアニオン交換膜26と、カソード28と;第1気液分離器40と;第2気液分離器38と;を備える。
【0048】
電解反応装置1において、アノード室10の入口には、アノード反応物供給源34からのアノード反応物供給ライン52が接続されている。アノード反応物供給ライン52には、アノード反応物を供給するポンプが設置されていてもよい。アノード室10の出口には、アノード反応物排出ライン54が接続されている。アノード反応物排出ライン54はアノード反応物供給源34に接続されて、アノード反応物が循環供給されてもよい。酸性化室16の入口には、第1含炭酸液供給源36からの第1含炭酸液供給ライン68が接続されている。第1含炭酸液供給ライン68には、第1含炭酸液を供給、循環するポンプ44が設置されていてもよい。酸性化室16の出口と、第2気液分離器38の液入口とは、含二酸化炭素液供給ライン70により接続されている。第2気液分離器38の液出口と、アルカリ性化室20の入口とは、分離液供給ライン72により接続されている。第2気液分離器38の気体入口には、開閉バルブを介して気体供給ライン56が接続されてもよいし、気体供給源37の出口が気体供給ライン56により接続されてもよい。アルカリ性化室20の出口には、アルカリ液排出ライン74が接続されている。第2気液分離器38の気体出口と、第1気液分離器40の気体入口とは、気体供給ライン58により接続されている。気体供給ライン58には、第1気液分離器40および第2気液分離器38における二酸化炭素を含む気体の取出および取出した二酸化炭素を含む気体の供給を促進するポンプ46が設置されていてもよい。第1気液分離器40の気体出口と、カソード室30の入口とは、気体供給ライン64により接続されている。ここで、ガス供給の流れは気体供給源37から第2気液分離器38、第1気液分離器40、カソード室30の順ではなく、気体供給源37から第1気液分離器40、第2気液分離器38、カソード室30の順であってもよい。また、2つの気液分離器(すなわち第2気液分離器38および第1気液分離器40)を通過した後のガスの一部をカソード室30に供給し、残りを気体供給源37に戻してもよい。カソード室30の出口には、カソード反応物排出ライン66が接続されている。第1気液分離器40の液出口と、二酸化炭素再生化室24の入口とは、第2含炭酸液供給ライン60により接続されている。第2含炭酸液供給ライン60には、第2含炭酸液を供給、循環するポンプ42が設置されていてもよい。二酸化炭素再生化室24の出口と、第1気液分離器40の液入口とは、第2含炭酸液供給ライン62により接続されている。アノード12とカソード28には電源装置48が電気的接続等によって接続され、アノード12とカソード28との間に電圧を印加することができるようになっている。
【0049】
電解反応装置1の動作、および電解反応について図1を参照して説明する。
【0050】
電源装置48により、アノード12とカソード28との間に電圧が印加される。アノード反応物供給源34からアノード反応物としてアノード反応物がアノード反応物供給ライン52を通してアノード室10に流入し、アノード室10においてアノード反応物のアノード12による酸化反応によって水素イオン(H)が生成する。
【0051】
アルカリ金属イオン(M)と炭酸イオン(CO 2-)および炭酸水素イオン(HCO )のうちの少なくとも1つとを含む第1含炭酸液が第1含炭酸液供給源36から必要に応じてポンプ44が用いられて第1含炭酸液供給ライン68を通して酸性化室16に流入し、アノード12によって生成した水素イオン(H)が第1カチオン交換膜14を介して、またはバイポーラ膜22によって生成した水素イオン(H)が第2カチオン交換膜18を介して酸性化室16に供給され、酸性化室16において第1含炭酸液中の炭酸イオン種(炭酸イオン(CO 2-)および炭酸水素イオン(HCO )のうちの少なくとも1つ)が酸性化されて二酸化炭素(CO)が生成する。
【0052】
酸性化室16で生成した二酸化炭素(CO)を含む含二酸化炭素液が含二酸化炭素液供給ライン70を通して第2気液分離器38に流入し、第2気液分離器38において気液分離されて二酸化炭素(CO(g))が取り出される。
【0053】
第2気液分離器38で取り出された二酸化炭素(CO(g))を含む気体が必要に応じてポンプ46が用いられて気体供給ライン58を通して、第1気液分離器40を経由して、気体供給ライン64を通してカソード室30に流入し、カソード室30において二酸化炭素(CO(g))を含む気体のカソード28による還元反応によって二酸化炭素還元物が生成する。二酸化炭素還元物は、カソード反応物排出ライン66を通して排出される。
【0054】
第2気液分離器38で二酸化炭素(CO)が気液分離された分離液が分離液供給ライン72を通してアルカリ性化室20に流入し、第1含炭酸液に含まれるアルカリ金属イオン(M)が第2カチオン交換膜18を介してアルカリ性化室20に供給され、バイポーラ膜22によって生成した水酸化物イオン(OH)がアルカリ性化室20に供給され、アルカリ性化室20においてアルカリ(MOH)液が生成する。アルカリ(MOH)液は、アルカリ液排出ライン74を通して排出される。
【0055】
カソード室30で生成した水酸化物イオン(OH)と二酸化炭素(CO)との相互作用によって生成した炭酸イオン種がアニオン交換膜26を介して二酸化炭素再生化室24に供給され、バイポーラ膜22によって生成した水素イオン(H)が二酸化炭素再生化室24に供給され、二酸化炭素再生化室24においてその炭酸イオン種が酸性化されて二酸化炭素(CO)が再生する。
【0056】
二酸化炭素再生化室24で再生した二酸化炭素(CO)を含む第2含炭酸液が第2含炭酸液供給ライン62を通して第1気液分離器40に流入し、第1気液分離器40において気液分離されて二酸化炭素(CO(g))が取り出される。
【0057】
第1気液分離器40で取り出された二酸化炭素(CO(g))を含む気体が気体供給ライン64を通してカソード室30に流入する。第1気液分離器40で二酸化炭素(CO)が気液分離された第2含炭酸液が必要に応じてポンプ42が用いられて第2含炭酸液供給ライン60を通して二酸化炭素再生化室24に循環供給される。
【0058】
以上のようにして、電解反応装置1では、アノード12とカソード28との間に電圧を印加することによって、酸性化室16において、アルカリ金属イオン(M)と炭酸イオン(CO 2-)および炭酸水素イオン(HCO )のうちの少なくとも1つとを含む第1含炭酸液中の炭酸イオン種を酸性化して二酸化炭素(CO(g))とし、さらにカソード室30において、その二酸化炭素(CO(g))と水(HO)とを還元して二酸化炭素還元物を生成する。さらに、第2気液分離器38、アルカリ性化室20において、第1含炭酸液から二酸化炭素(CO(g))を取り出して溶存炭素濃度の低いアルカリ液を生成し、二酸化炭素再生化室24において、カソードにおいて炭酸イオン種の形で吸収された二酸化炭素(CO)を再生する。
【0059】
電解反応装置1では、アノード12、カソード28、酸性化室16、アノード室10、カソード室30、アノード反応物供給源34、第1含炭酸液供給源36、電源装置48等が、アノードとカソードとの間に電圧を印加することによって、アルカリ金属イオン(M)と炭酸イオン(CO 2-)および炭酸水素イオン(HCO )のうちの少なくとも1つとを含む第1含炭酸液中の炭酸イオン種を酸性化して二酸化炭素(CO(g))とし、さらにその二酸化炭素(CO(g))と水(HO)とを還元して二酸化炭素還元物を生成する手段として機能する。第2気液分離器38、アルカリ性化室20等が、第1含炭酸液から二酸化炭素(CO(g))を取り出してアルカリ液を生成するアルカリ液生成手段として機能する。二酸化炭素再生化室24等が、カソードにおいて炭酸イオン種の形で吸収された二酸化炭素(CO)を再生する二酸化炭素再生手段として機能する。
【0060】
電解反応装置1は、バイポーラ膜22と二酸化炭素再生化室24との間に、バイポーラ膜22側から順に、上記酸性化室16、第2カチオン交換膜18、アルカリ性化室20、およびバイポーラ膜22と同様の酸性化室と、第2カチオン交換膜と、アルカリ性化室と、バイポーラ膜と、を有する追加の透析領域32をさらに1つ以上備えてもよい。ここで、追加の透析領域32の数をN(Nは、0以上の整数)とする。N=0の場合は、追加の透析領域32を備えず、バイポーラ膜22と二酸化炭素再生化室24とが接している場合である。
【0061】
電解反応装置1が追加の透析領域32をさらに備える場合は、図1に示すように、第1含炭酸液供給源36からの第1含炭酸液供給ライン68から分岐した第1含炭酸液供給ライン78が追加の透析領域32の酸性化室の入口に接続される。追加の透析領域32の酸性化室の出口に接続された含二酸化炭素液供給ライン80が、含二酸化炭素液供給ライン70の途中に接続されている。第2気液分離器38からの分離液供給ライン72から分岐した分離液供給ライン82が、追加の透析領域32のアルカリ性化室の入口に接続される。追加の透析領域32のアルカリ性化室の出口に接続されたアルカリ液排出ライン84が、アルカリ液排出ライン74の途中に接続されている。
【0062】
電解反応装置に流れる電流が等しいとき、追加の透析領域32をさらに備えることによって、単位時間あたりに第1含炭酸液に供給できる水素イオン(H)の量を追加の透析領域32の数Nに応じて増やすことができるため、電解反応装置全体での二酸化炭素(CO)の取り出し速度(すなわち、単位時間あたりのCO取り出し量)を増加することができる。
【0063】
電解反応装置1は、アルカリ性化室20で生成したアルカリ液に二酸化炭素(CO)を補填して含炭酸液を生成する二酸化炭素補填器50をさらに備えてもよい。この場合、図1に示すように、アルカリ性化室20の出口と、二酸化炭素補填器50の入口とは、アルカリ液排出ライン74により、接続されればよい。二酸化炭素補填器50の出口と、第1含炭酸液供給源36の入口とが含炭酸液供給ライン76により接続されてもよい。そして、二酸化炭素補填器50においてアルカリ性化室20で生成したアルカリ液に二酸化炭素(CO)を補填して含炭酸液を生成し、第1含炭酸液として、第1含炭酸液供給源36に循環してもよい。
【0064】
アノード12とカソード28とが対向する方向における酸性化室16、アルカリ性化室20、および二酸化炭素再生化室24のそれぞれの厚みは、イオン伝導抵抗を低減するために、5mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましい。
【0065】
電子伝導抵抗を低減すべく後述のカソード触媒シート(カソード28)とカソード側の導電性筐体との接触性およびアノード12とアノード側の導電性筐体との接触性を向上するために、イオン伝導抵抗を低減すべくカソード触媒シート(カソード28)とアニオン交換膜26との接触性を向上するために、酸性化室16、アルカリ性化室20、二酸化炭素再生化室24の各室に空隙のあるスペーサを挿入することが好ましい。さらに、このスペーサは、炭酸イオン種の酸性化と気泡排出を促進するために、例えば図2に示すように、蛇行流路88が刻まれていたスペーサ86であることが好ましい。
【0066】
従来技術である電気透析では、カソードで水素が発生することが想定されている。このため、カソード室に隣接(対向)するイオン交換膜は水素イオン(H)を供給するカチオン交換膜(バイポーラ膜内)である(非特許文献6のFigure.3参照)。また、カソード室へは電解液が循環供給される。このカソード室に対して、電気透析により取り出されたガス状二酸化炭素(CO(g))を単純にバブリングによって供給し、電解還元を試みることは可能である。しかし、上述の高酸性雰囲気では、水素発生が支配的となり二酸化炭素の還元は実質的に起こらない。
【0067】
したがって、カソードでの水素副生を抑制し、二酸化炭素の還元を優先的に進行させるためには、二酸化炭素の還元に好適なカソード反応環境を形成することが望ましい。
【0068】
好適なカソード反応環境とは、(1)二酸化炭素が豊富な環境、(2)水素生成の起こりにくいアルカリ性雰囲気と言える。本実施形態に係る電解反応装置および電解反応方法においては、好適なカソード反応環境を形成するために、(1)カソード室30へは二酸化炭素を含む気体を供給するとともに、(2)アルカリ性雰囲気を維持すべくカソード28をアニオン交換膜26に隣接する構成をとっている。この構成をとった場合、カソード28で副生する水酸化物イオン(OH)と供給する二酸化炭素(CO)とが反応することによって炭酸イオン種が形成され、アニオン交換膜26を介して隣接室に漏出するという副次的な問題が発生しうる。この副次的な問題も解決し、効率的な二酸化炭素の利用を可能とするために、本実施形態に係る電解反応装置および電解反応方法では、アニオン交換膜26とバイポーラ膜22とで挟まれた二酸化炭素再生化室24を設けている。たとえカソード室30から二酸化炭素再生化室24へ炭酸イオン種の形で漏出したとしても、これを酸性化することによって二酸化炭素を再生、取出しするのに足るプロトン(H)がバイポーラ膜22から供給されるので二酸化炭素を再生することができる。
【0069】
この構成で、高転化率でガス状二酸化炭素(CO(g))を電解還元する場合、二酸化炭素再生化室24からの水および電解液の浸透によって上記「(1)二酸化炭素が豊富な環境」が維持しづらくなる。この問題を解決するために、カソード室30内を加圧して(例えば、2気圧程度に加圧)圧力調整することが好ましい。
【0070】
また、上記「(1)二酸化炭素が豊富な環境」の形成を促進するために、カソード28として、良好な電子伝導性、ガス拡散性を示す例えば大表面積の基材にナノ構造を有する金属触媒粒子(例えば、Au、Ag、Zn、Cu等)を担持したカソード触媒シートを用いることが好ましい。
【0071】
酸性化室16に供給する第1含炭酸液に含まれるアルカリ金属イオンMの濃度をC[M]、電解のときに流れる電流をI[A]、ファラデー定数をF=96485 C/s、追加の透析領域数をNとしたときに、酸性化室への総送液速度vall[L/s]は、v=N・I/(F・C)として、vall≧0.8vであることが好ましい。
【0072】
本実施形態に係る電解反応装置および電解反応方法によって、電解反応装置のカソード下流側から取り出される「(含炭素化合物のC物質量)/(H物質量)」比を、含炭酸液から含炭素化合物を生成する従来技術である直接電解法、電気透析法よりも向上することができる。
【0073】
また、例えば二酸化炭素還元物を一酸化炭素(CO)とする場合、H発生反応比率を0%、二酸化炭素(CO)還元一酸化炭素(CO)生成反応比率を100%に近づけることによって、水(HO)をほとんど消費、損失することなく含炭素化合物(CO、CO)を抽出、生成することができる。
【0074】
これは、直接電解法に対して本実施形態に係る電解反応装置および電解反応方法は、競合反応「HO→H生成」に対して所望反応「CO→CO生成(CO還元物の一例)」を起こしやすい反応環境(すなわち、反応物として水(HO)よりも二酸化炭素(CO)が得やすい環境)を提供することができるためと考えられる。また、電気透析法に対して本実施形態に係る電解反応装置および電解反応方法は、カソード反応を「H発生反応」だけではなく「CO還元CO生成反応」も起こすことができるためと考えられる。
【0075】
また、本実施形態に係る電解反応装置および電解反応方法によって、気体(CO)をカソードで還元する電解反応器(カソード・アノード隔膜はアニオン交換膜)において生じる「CO吸収およびアノード側へのCO漏出(アノード生成Oまたはアノード反応物との混合を伴う)」問題を排除することができる。
【0076】
これは、二酸化炭素再生室24において、バイポーラ膜22から水素イオン(H)が供給されて酸性化(再活性化)され、二酸化炭素を再生することができるためと考えられる。
【0077】
本実施形態に係る電解反応装置および電解反応方法と従来の電気透析法との比較を詳細に説明すると以下のとおりである。
【0078】
電解反応が進行するとき、アノードでは電解酸化反応が、カソードでは電解還元反応がそれぞれ進行し、ある大きさの電流(単位時間あたりにある量の電子)が流れる。酸性化またはアルカリ性化の各反応が進行する電気透析室(酸性化室、アルカリ性化室)では電流値または単位時間あたりに流れる電気量と対応する量のカチオン(H、M)、アニオン(OH、HCO 、CO 2-)がカソード、アノードの向かい合う方向(電極面の法線方向)に流れる。
【0079】
ここで、電解反応装置に供給する含炭酸液として炭酸カリウム(KCO)水溶液を想定する。炭酸カリウム(KCO)水溶液内の炭酸イオン(CO 2-)を活性化する反応は、
CO 2-+2H→HO+CO⇔xCO 2-+2xH→xHO+xCO
で表される。水溶液供給においてx[mol]の炭酸イオン(CO 2-)が供給されるとした場合、電解処理反応の進行により2x[mol]のHが供給される必要がある。上記の酸性化(活性化)反応の進行により、x[mol]の二酸化炭素(CO)が生成する。
【0080】
2x[mol]の水素イオン(H)が供給されるとき、カソードおよびアノードでは2x[mol]の電子(e)が消費または生成する。ここではカソードに注目する。従来の電気透析法の場合、水素(H)発生反応のみが進行する。すなわち、
2HO+2e→H+2OH⇔2H+2e→H⇔2xH+2xe→xH
したがって、2x[mol]の水素イオン(H)が供給されるとき、カソードではx[mol]の水素(H)が生成する。よって、従来の電気透析法の場合、「(含炭素化合物のC物質量)/(H物質量)」比は、x/x=1となる。
【0081】
本実施形態に係る電解反応装置および電解反応方法の場合、カソードでは水素(H)発生反応の他に二酸化炭素(CO)還元反応も進行することができる。2x[mol]流れる電子(e)のうち、50%(すなわちx[mol])は水素(H)発生反応、50%は二酸化炭素(CO)還元反応に使われるとした場合、水素(H)は上記の半分であるので0.5x[mol]生成する。二酸化炭素(CO)については、以下の一酸化炭素(CO)生成反応が進行する場合、二酸化炭素(CO)が0.5x[mol]減少し、一酸化炭素(CO)が0.5x[mol]増加する。
CO+2HO+2e→CO+2OH⇔CO+2H+2e→CO+HO⇔0.5xCO+xH+xe→0.5xCO+0.5xH
したがって本実施形態に係る電解反応装置および電解反応方法の場合、「(含炭素化合物のC物質量)/(H物質量)」比は、(x-0.5x+0.5x)/0.5x=1/0.5=2となる。同条件において、従来の電気透析法で物質量比が「1」のときに本実施形態に係る電解反応装置および電解反応方法では「2」となることから、本実施形態に係る電解反応装置および電解反応方法によって、より多くの含炭素化合物を取り出せるようになることがわかる。
【0082】
本実施形態に係る電解反応装置および電解反応方法では、電気透析追加積層数N=0であってもKCO(C/K=1/2)~KHCO(C/K=1)の組成の電解液を供給するとき、水素(H)発生反応比率を0%に、二酸化炭素(CO)還元反応比率を100%に近づけることによって、全反応を2CO(400ppm)→CO((1-x)bar)+CO(xbar)+1/2Oとすることができ、水(HO)の消費、損失がほとんどなしで含炭素化合物を抽出、生成することができるようになる。
【0083】
アノード12としては、例えば、酸化イリジウム(IrO)触媒、酸化ルテニウム(RuO)触媒等の酸化金属触媒等を用いることができる。
【0084】
カソード28としては、例えば、良好な電子伝導性、ガス拡散性を示す大表面積の基材にナノ構造を有する金属触媒粒子(例えば、Au、Ag、Zn、Cu等)を担持したカソード触媒シート等を用いることができる。
【0085】
第1カチオン交換膜14および第2カチオン交換膜18としては、例えば、Nafion(登録商標)(デュポン製)、Forblue(登録商標)(AGC製)をはじめとするフッ素系スルホン酸カチオン交換膜、Selemion(登録商標)(AGC製)、Neosepta(登録商標)(アストム製)、Fumasep(Fumatech製)をはじめとする炭化水素系カチオン交換膜等を用いることができる。
【0086】
アノード12およびアノード12に隣接する第1カチオン交換膜14は、イオン伝導抵抗を低減するために、高プロトン伝導性である第1カチオン交換膜14にアノード触媒粒子(例えば、酸化イリジウム(IrO)等)を塗工した膜-電極接合体(MEA)であることが好ましい。
【0087】
アニオン交換膜26としては、例えば、Versogen製PiperION、Dioxide Materials製Sustainion等を用いることができる。
【0088】
バイポーラ膜22は、カチオン交換膜22aとアニオン交換膜22bとを含む。バイポーラ膜22としては、例えば、Fumatech製Fumasep、アストム製Neosepta等を用いることができる。
【0089】
アノード室10へ供給するアノード反応物は、アノード12で酸化されることによって水素イオン(H)を供給しうる物質であればよく、特に制限はないが、例えば、室温等で加湿した大気または不活性ガス(窒素(N)、希ガス)の他に、水素(H)、分子内に水素原子を含むガス(例えば、メタン(CH)、エタン(C)、エチレン(C)、アンモニア(NH)等)、または電解質水溶液、水溶性アノード反応物(例えば、メタノール(CHOH)、エタノール(COH)、ヒドラジン(N)等)含有水である。
【0090】
アノード反応物供給源34は、例えば、アノード反応物を貯留する貯留槽である。
【0091】
酸性化室16に供給する第1含炭酸液は、例えば、アルカリ金属イオン(M)と、炭酸水素イオン(HCO )および炭酸イオン(CO 2-)のうち少なくとも1つと、を含む水溶液である。例えば、炭酸水素リチウム(LiHCO)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、炭酸水素カリウム(KHCO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸水素セシウム(CsHCO)のようなアルカリ金属炭酸水素塩やアルカリ金属炭酸塩を含む水溶液等が挙げられる。電解液中のアルカリ金属イオン濃度は、電解処理速度を向上させる点、電解処理を長時間継続的に行うことが可能となる点で、例えば、0.1M~3Mの範囲であることが好ましい。この水溶液は電極に直接接触することがないため、酸性化室16に供給する第1含炭酸液は、上記イオンの他に、地下水、工業用水、湖水、海水および排ガス接触水に含まれうる他のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、ハロゲン化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、カルボン酸イオンを含んでいてもよい。
【0092】
第1含炭酸液供給源36は、例えば、第1含炭酸液を貯留する貯留槽である。
【0093】
二酸化炭素再生化室24に循環供給する第2含炭酸液は、作動時(定常状態)において二酸化炭素(CO)が飽和したアルカリ金属イオンを含む炭酸水素イオン水溶液(例えば、1~3M CO飽和KHCO水溶液)であることが好ましい。
【0094】
気体供給源37は、例えば、第1気液分離器40および第2気液分離器38に気体を供給する送気装置である。
【0095】
第1気液分離器40および第2気液分離器38へ供給する気体は、例えば、不活性ガス(例えば、窒素(N)、希ガス)、100%二酸化炭素(CO)ガス、または、これらの混合ガス等である。
【0096】
第1気液分離器40、第2気液分離器38は、例えば、生成物を含む気体と、気体の生成物が除かれた液体(例えば電解液)とを気液分離する気液分離槽、分離膜を備えるモジュール等である。
【0097】
二酸化炭素補填器50は、例えば、アルカリ液に二酸化炭素(CO)を含むガスを供給して含炭酸液を生成する二酸化炭素補填槽である。
【0098】
カソード室30において得られる二酸化炭素還元物は、例えば、一酸化炭素(CO)、エチレン(C)、メタン(CH)、メタノール(CHOH)、エタノール(COH)、プロパノール(COH)等である。
【0099】
本明細書は、以下の実施形態を含む。
[1]アノードとカソードとの間に電圧を印加することによって、アルカリ金属イオン(M)と炭酸イオン(CO 2-)および炭酸水素イオン(HCO )のうちの少なくとも1つとを含む第1含炭酸液中の炭酸イオン種を酸性化して二酸化炭素(CO(g))とし、さらにその二酸化炭素(CO(g))と水(HO)とを還元して二酸化炭素還元物を生成する手段を有する電解反応装置であって、
さらに、
前記第1含炭酸液から二酸化炭素(CO(g))を取り出してアルカリ液を生成するアルカリ液生成手段と、
前記カソードにおいて炭酸イオン種の形で吸収された二酸化炭素(CO)を再生する二酸化炭素再生手段と、
を有する、電解反応装置。
【0100】
[2][1]に記載の電解反応装置であって、
アノード室と、
酸性化室と、
アルカリ性化室と、
二酸化炭素再生化室と、
カソード室と、
前記アノード室と前記酸性化室との間に、前記アノード室側から順に設けられた前記アノードと、第1カチオン交換膜と、
前記酸性化室と前記アルカリ性化室との間に設けられた第2カチオン交換膜と、
前記アルカリ性化室と前記二酸化炭素再生化室との間に設けられたバイポーラ膜と、
前記二酸化炭素再生化室と前記カソード室との間に、前記二酸化炭素再生化室側から順に設けられたアニオン交換膜と、前記カソードと、
第1気液分離器と、
第2気液分離器と、
を備え、
アノード反応物が前記アノード室に流入し、前記アノード室において前記アノード反応物の前記アノードによる酸化反応によって水素イオン(H)が生成し、
前記第1含炭酸液が前記酸性化室に流入し、前記アノードまたは前記バイポーラ膜によって生成した水素イオン(H)が前記酸性化室に供給され、前記酸性化室において前記第1含炭酸液中の炭酸イオン種が酸性化されて二酸化炭素(CO)が生成し、
前記酸性化室で生成した二酸化炭素(CO)を含む含二酸化炭素液が前記第2気液分離器に流入し、前記第2気液分離器において気液分離されて二酸化炭素(CO(g))が取り出され、
前記第2気液分離器で取り出された二酸化炭素(CO(g))を含む気体が前記カソード室に流入し、前記カソード室において前記二酸化炭素(CO(g))を含む気体の前記カソードによる還元反応によって二酸化炭素還元物が生成し、
前記第2気液分離器で二酸化炭素(CO)が気液分離された分離液が前記アルカリ性化室に流入し、前記第1含炭酸液に含まれる前記アルカリ金属イオン(M)が前記アルカリ性化室に供給され、前記バイポーラ膜によって生成した水酸化物イオン(OH)が前記アルカリ性化室に供給され、アルカリ(MOH)液が生成し、
前記カソード室で生成した水酸化物イオン(OH)と二酸化炭素(CO)との相互作用によって生成した炭酸イオン種が前記二酸化炭素再生化室に供給され、前記バイポーラ膜によって生成した水素イオン(H)が前記二酸化炭素再生化室に供給され、前記二酸化炭素再生化室においてその炭酸イオン種が酸性化されて二酸化炭素(CO)が再生し、
前記二酸化炭素再生化室で再生した二酸化炭素(CO)を含む第2含炭酸液が前記第1気液分離器に流入し、前記第1気液分離器において気液分離されて二酸化炭素(CO(g))が取り出され、
前記第1気液分離器で取り出された二酸化炭素(CO(g))を含む気体が前記カソード室に流入する、電解反応装置。
【0101】
[3][2]に記載の電解反応装置であって、
前記バイポーラ膜と前記二酸化炭素再生化室との間に、前記バイポーラ膜側から順に、酸性化室と、第2カチオン交換膜と、アルカリ性化室と、アルカリ性化室と、バイポーラ膜と、を有する追加の透析領域をさらに備える、電解反応装置。
【0102】
[4][2]または[3]に記載の電解反応装置であって、
前記生成したアルカリ液に二酸化炭素(CO)を補填して含炭酸液を生成する二酸化炭素補填器をさらに備える、電解反応装置。
【0103】
[5][2]~[4]のいずれか1つに記載の電解反応装置であって、
前記アノードおよび前記第1カチオン交換膜は、前記第1カチオン交換膜にアノード触媒粒子を塗工した膜-電極接合体である、電解反応装置。
【0104】
[6][2]~[5]のいずれか1つに記載の電解反応装置であって、
前記アノードと前記カソードとが対向する方向における前記酸性化室、前記アルカリ性化室、および前記二酸化炭素再生化室のそれぞれの厚みは、5mm以下である、電解反応装置。
【0105】
[7][2]~[6]のいずれか1つに記載の電解反応装置であって、
前記酸性化室、前記アルカリ性化室、および前記二酸化炭素再生化室に空隙のあるスペーサが挿入されている、電解反応装置。
【0106】
[8][2]~[7]のいずれか1つに記載の電解反応装置であって、
前記カソード室が加圧される、電解反応装置。
【0107】
[9][2]~[8]のいずれか1つに記載の電解反応装置であって、
前記カソードは、電子伝導性およびガス拡散性を有する基材にナノ構造を有する金属触媒粒子を担持したカソード触媒シートである、電解反応装置。
【0108】
[10][2]~[9]のいずれか1つに記載の電解反応装置であって、
前記第1気液分離器で二酸化炭素(CO)が気液分離された第2含炭酸液が前記二酸化炭素再生化室に循環供給され、
前記二酸化炭素再生化室に循環供給される第2含炭酸液は、作動時において二酸化炭素が飽和したアルカリ金属イオンを含む炭酸水素イオン水溶液である、電解反応装置。
【0109】
[11][3]に記載の電解反応装置であって、
前記酸性化室に供給される前記第1含炭酸液に含まれる前記アルカリ金属イオン(M)の濃度をC[M]、電解のときに流れる電流をI[A]、ファラデー定数をF=96485 C/s、追加の透析領域数をNとしたときに、前記酸性化室への総送液速度vall[L/s]は、v=N・I/(F・C)として、vall≧0.8vである、電解反応装置。
【0110】
[12]アノードとカソードとの間に電圧を印加することによって、アルカリ金属イオン(M)と炭酸イオン(CO 2-)および炭酸水素イオン(HCO )のうちの少なくとも1つとを含む第1含炭酸液中の炭酸イオン種を酸性化して二酸化炭素(CO(g))とし、さらにその二酸化炭素(CO(g))と水(HO)とを還元して二酸化炭素還元物を生成する機能を有する電解反応方法であって、
さらに、
前記第1含炭酸液から二酸化炭素(CO(g))を取り出してアルカリ液を生成し、
前記カソードにおいて炭酸イオン種の形で吸収された二酸化炭素(CO)を再生する、電解反応方法。
【0111】
[13][12]に記載の電解反応方法であって、
アノード室と、
酸性化室と、
アルカリ性化室と、
二酸化炭素再生化室と、
カソード室と、
前記アノード室と前記酸性化室との間に、前記アノード室側から順に設けられた前記アノードと、第1カチオン交換膜と、
前記酸性化室と前記アルカリ性化室との間に設けられた第2カチオン交換膜と、
前記アルカリ性化室と前記二酸化炭素再生化室との間に設けられたバイポーラ膜と、
前記二酸化炭素再生化室と前記カソード室との間に、前記二酸化炭素再生化室側から順に設けられたアニオン交換膜と、前記カソードと、
第1気液分離器と、
第2気液分離器と、
を備える電解反応装置を用い、
アノード反応物が前記アノード室に流入し、前記アノード室において前記アノード反応物の前記アノードによる酸化反応によって水素イオン(H)が生成し、
前記第1含炭酸液が前記酸性化室に流入し、前記アノードまたは前記バイポーラ膜によって生成した水素イオン(H)が前記酸性化室に供給され、前記酸性化室において前記第1含炭酸液中の炭酸イオン種が酸性化されて二酸化炭素(CO)が生成し、
前記酸性化室で生成した二酸化炭素(CO)を含む含二酸化炭素液が前記第2気液分離器に流入し、前記第2気液分離器において気液分離されて二酸化炭素(CO(g))が取り出され、
前記第2気液分離器で取り出された二酸化炭素(CO(g))を含む気体が前記カソード室に流入し、前記カソード室において前記二酸化炭素(CO(g))を含む気体の前記カソードによる還元反応によって二酸化炭素還元物が生成し、
前記第2気液分離器で二酸化炭素(CO)が気液分離された分離液が前記アルカリ性化室に流入し、前記第1含炭酸液に含まれる前記アルカリ金属イオン(M)が前記アルカリ性化室に供給され、前記バイポーラ膜によって生成した水酸化物イオン(OH)が前記アルカリ性化室に供給され、アルカリ(MOH)液が生成し、
前記カソード室で生成した水酸化物イオン(OH)と二酸化炭素(CO)との相互作用によって生成した炭酸イオン種が前記二酸化炭素再生化室に供給され、前記バイポーラ膜によって生成した水素イオン(H)が前記二酸化炭素再生化室に供給され、前記二酸化炭素再生化室においてその炭酸イオン種が酸性化されて二酸化炭素(CO)が再生し、
前記二酸化炭素再生化室で再生した二酸化炭素(CO)を含む第2含炭酸液が前記第1気液分離器に流入し、前記第1気液分離器において気液分離されて二酸化炭素(CO(g))が取り出され、
前記第1気液分離器で取り出された二酸化炭素(CO(g))を含む気体が前記カソード室に流入する、電解反応方法。
【0112】
[14][13]に記載の電解反応方法であって、
電解反応装置は、前記バイポーラ膜と前記二酸化炭素再生化室との間に、前記バイポーラ膜側から順に、酸性化室と、第2カチオン交換膜と、アルカリ性化室と、アルカリ性化室と、バイポーラ膜と、を有する追加の透析領域をさらに備える、電解反応方法。
【0113】
[15][13]または[14]に記載の電解反応方法であって、
前記生成したアルカリ液に二酸化炭素(CO)を補填して含炭酸液を生成する、電解反応方法。
【0114】
[16][13]~[15]のいずれか1つに記載の電解反応方法であって、
前記アノードおよび前記第1カチオン交換膜は、前記第1カチオン交換膜にアノード触媒粒子を塗工した膜-電極接合体である、電解反応方法。
【0115】
[17][13]~[16]のいずれか1つに記載の電解反応方法であって、
前記アノードと前記カソードとが対向する方向における前記酸性化室、前記アルカリ性化室、および前記二酸化炭素再生化室のそれぞれの厚みは、5mm以下である、電解反応方法。
【0116】
[18][13]~[17]のいずれか1つに記載の電解反応方法であって、
前記酸性化室、前記アルカリ性化室、および前記二酸化炭素再生化室に空隙のあるスペーサが挿入されている、電解反応方法。
【0117】
[19][13]~[18]のいずれか1つに記載の電解反応方法であって、
前記カソード室を加圧する、電解反応方法。
【0118】
[20][13]~[19]のいずれか1つに記載の電解反応方法であって、
前記カソードは、電子伝導性およびガス拡散性を有する基材にナノ構造を有する金属触媒粒子を担持したカソード触媒シートである、電解反応方法。
【0119】
[21][13]~[20]のいずれか1つに記載の電解反応方法であって、
前記第1気液分離器で二酸化炭素(CO)が気液分離された第2含炭酸液が前記二酸化炭素再生化室に循環供給され、
前記二酸化炭素再生化室に循環供給される第2含炭酸液は、作動時において二酸化炭素が飽和したアルカリ金属イオンを含む炭酸水素イオン水溶液である、電解反応方法。
【0120】
[22][14]に記載の電解反応方法であって、
前記酸性化室に供給される前記第1含炭酸液に含まれる前記アルカリ金属イオン(M)の濃度をC[M]、電解のときに流れる電流をI[A]、ファラデー定数をF=96485 C/s、追加の透析領域数をNとしたときに、前記酸性化室への総送液速度vall[L/s]は、v=N・I/(F・C)として、vall≧0.8vである、電解反応方法。
【実施例0121】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0122】
<実施例1>
[気体供給源からの低速Ar供給条件における電解処理(CO、CO、H生成)]
図1に示す電解反応装置1において、以下の構成要素とした。
【0123】
(システム構成)
・ポンプ46:CO取出・供給促進ポンプ
・気体供給源37:マスフローコントローラを使用して「100%Ar」を2ccmで供給
・追加の透析領域32の数:N=0
・アルカリ液の排出:二酸化炭素補填器50はなし、アルカリ液排出ライン74によるアルカリ液の排出のみ
・第1含炭酸液供給源36:送液ポンプ(ポンプ44)を使用して0.1M KHCO水溶液を1mL/minで供給
・アノード反応物供給源34:マスフローコントローラを使用して室温加湿したArを10ccmで供給
【0124】
(実験条件)
・アノード12、第1カチオン交換膜14:IrOナノ粒子を塗工したプロトン伝導膜(カチオン交換膜、デュポン製Nafion(登録商標) N115)
・第2カチオン交換膜18:デュポン製Nafion(登録商標) N115
・バイポーラ膜22:Fumatech製Fumasep FBMバイポーラ膜
・アニオン交換膜26:Versogen製PiperION-A60-HCO
・カソード28:Au担持炭素粒子とナフィオン溶液とを混ぜ合わせた触媒インクをスプレー塗工した、SGL Carbon製Sigracet39BBガス拡散層
・電極面積:6.25cm
・酸性化室16に供給する電解液(第1含炭酸液):0.1M KHCO水溶液
・二酸化炭素再生化室24に循環供給する電解液(第2含炭酸液):1M KHCO水溶液(送液ポンプ(ポンプ42)を用いて5mL/minで送液)
・第1気液分離器40:小型貯液槽
・第2気液分離器38:3M製MM-1×5.5分離膜モジュール
【0125】
定電流条件(40mA)で電解処理を施し、カソード室30の下流側から排出される気体をガスタイトシリンジで採取し、ガスクロマトグラフィ(GC)(島津製作所製、GC-2014型)を用いて同定、定量を行った。電解反応装置での処理により生成する気体としてH、CO、COが検出された(図3参照)。GCにより定量した気体濃度、電流値から算出したカソード反応H生成、CO生成に係るファラデー効率は、それぞれ3.1%、27.3%であった(和が100%とならないのは検出誤差、溶存大気由来Oの還元等の副反応によると考えられる。)。図1の電解反応装置構成、低速Ar供給条件においてCOをCOに変換できることがわかった。また、電解反応装置に導入するCO源が低C濃度含炭酸液のみの条件において、CO生成に係るファラデー効率を従来の炭酸イオン種直接電解法よりも高められることがわかった(非特許文献1の0.5M KHCO水溶液条件におけるCO生成ファラデー効率は、約14%である。)。
【0126】
電解反応装置での処理により生成する含炭素化合物およびHの比率を算出し、従来技術である炭酸イオン種直接電解CO生成、電気透析CO生成と比較した(図4参照)。ここで、図4において「実施例1」は、実施例1(0.1M KHCO水溶液、N=0)の結果である。「実施例1」の「その他」は、HおよびCO生成のファラデー効率の和(30.4%)と100%との差分、すなわち、HおよびCO生成以外の電解還元反応進行のために流れた電流(ファラデー効率69.6%分)で2電子移動反応気体生成が起こると仮定した場合の比率を示している(反応電子数が2よりも大きくなると、「その他」の比率は低下する。)。「その他」がすべてH生成であると仮定(最小CO→CO変換することを想定)しても、実施例の電解反応装置、反応機構を利用することによって「含炭素化合物(CO+CO)/H物質量」比を向上することができた(炭酸イオン種直接電解0.16、従来型電気透析(理論値)2に対して、本実施例1では、≧2.52)。このように、含炭素化合物の取出効率を向上できることがわかった。
【0127】
なお、図4では、直接電解のCO生成は、非特許文献1のFig.2の0.5M KHCO水溶液(実施例1と同等の0.1M KHCO水溶液のデータの記載がないために代用)の場合の結果を参照している。
【0128】
図4の電気透析のCO生成については、実施例1と同等の条件の結果が存在しないため、図4では実施例1(0.1M KHCO水溶液、電気透析追加積層数N=0)と同等の電気透析装置を用いたときの最大CO/H物質量比を理論値として示している。すなわち、KHCO水溶液の場合、2molのe、Hの移動によって、2molのCO(HCO +H→HO+CO)と1molのH(2H+2e→H)が生成する。ゆえに、COは2/(1+2)=66.7%、Hは1/(1+2)=33.3%となる。
【0129】
図4では実施例1について、上述の通り、HおよびCO生成のファラデー効率の和(30.4%)と100%との差分(69.6%)で2電子移動反応気体生成が起こると仮定した場合の比率を「その他」として示している。これはHおよびCO生成と同じ反応電子数であり、気体生成としては最小の反応電子数である。反応電子数が2よりも大きくなると、「その他」の相対比率は低下する。したがって、(CO+CO)生成の観点において、「その他」を2電子移動反応気体生成かつH生成と仮定することは、「その他」成分の生成ガス比率(物質量)として最大量を想定していることになる。
【0130】
<実施例2>
[気体供給源からの低速CO供給条件における電解処理(CO、H生成)]
図1に模式図を示す電解システム構成において、以下の構成要素とした。気体供給源37によって供給する気体を、実施例1の「100%Ar」から「100%CO」に変更した。
【0131】
(システム構成)
・ポンプ46:CO取出・供給促進ポンプ
・気体供給源37:マスフローコントローラを使用して「100%CO」を2ccmで供給
・追加の透析領域32の数:N=0
・アルカリ液の排出:二酸化炭素補填器50はなし、アルカリ液排出ライン74によるアルカリ液の排出のみ
・第1含炭酸液供給源36:送液ポンプ(ポンプ44)を使用して0.1M KHCO水溶液を1mL/minで供給
・アノード反応物供給源34:マスフローコントローラを使用して室温加湿したArを10ccmで供給
【0132】
(実験条件)
・アノード12、第1カチオン交換膜14:IrOナノ粒子を塗工したプロトン伝導膜(カチオン交換膜、デュポン製Nafion(登録商標) N115)
・第2カチオン交換膜18:デュポン製Nafion(登録商標) N115
・バイポーラ膜22:Fumatech製Fumasep FBMバイポーラ膜
・アニオン交換膜26:Versogen製PiperION-A60-HCO
・カソード28:Au担持炭素粒子とナフィオン溶液とを混ぜ合わせた触媒インクをスプレー塗工した、SGL Carbon製Sigracet39BBガス拡散層
・電極面積:6.25cm
・酸性化室16に供給する電解液(第1含炭酸液):0.1M KHCO水溶液
・二酸化炭素再生化室24に循環供給する電解液(第2含炭酸液):1M KHCO水溶液(送液ポンプ(ポンプ42)を用いて5mL/minで送液)
・第1気液分離器40:小型貯液槽
・第2気液分離器38:3M製MM-1×5.5分離膜モジュール
【0133】
定電流条件(40mA)で電解処理を施し、カソード室30の下流側から排出される気体をガスタイトシリンジで採取し、ガスクロマトグラフィ(GC)を用いて同定、定量を行った。電解反応装置での処理により生成する気体としてH、COが検出された(図5参照)。GCにより定量した気体濃度、電流値から算出したH生成、CO生成に係るファラデー効率は、それぞれ7.6%、84.8%であった(和が100%とならないのは検出誤差、溶存大気由来Oの還元等の副反応によると考えられる。)。図1の電解反応装置構成、低速CO供給条件において、H生成を抑制しつつCOをCOに変換できることがわかった。外部CO源からの追加CO供給、電気透析の追加積層数N≧1で過剰生成したCOの循環供給での本電解反応装置の運用はこの実施例2に相当する。これらのCO供給条件においては、さらに電解処理のときの反応媒体HOの消費、損失を低減することができると言える。
【0134】
このように、実施例の電解反応装置および電解反応方法によって、電解による含炭素化合物の取出効率を向上することができた。
【符号の説明】
【0135】
1 電解反応装置、10 アノード室、12 アノード、14 第1カチオン交換膜、16 酸性化室、18 第2カチオン交換膜、20 アルカリ性化室、22 バイポーラ膜、22a カチオン交換膜、22b,26 アニオン交換膜、24 二酸化炭素再生化室、28 カソード、30 カソード室、32 追加の透析領域、34 アノード反応物供給源、36 第1含炭酸液供給源、37 気体供給源、38 第2気液分離器、40 第1気液分離器、42,44,46 ポンプ、48 電源装置、50 二酸化炭素補填器、52 アノード反応物供給ライン、54 アノード反応物排出ライン、56,58,64 気体供給ライン、60 第2含炭酸液供給ライン、62 第2含炭酸液供給ライン、66 カソード反応物排出ライン、68,78 第1含炭酸液供給ライン、70,80 含二酸化炭素液供給ライン、72,82 分離液供給ライン、74,84 アルカリ液排出ライン、76 含炭酸液供給ライン、86 スペーサ、88 蛇行流路。
図1
図2
図3
図4
図5