(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166757
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】落雷発生予測システム
(51)【国際特許分類】
G01W 1/10 20060101AFI20241122BHJP
G01W 1/16 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
G01W1/10 P
G01W1/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083078
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】山中 暁
(57)【要約】
【課題】移動中の複数の車両から得た情報に基づいて落雷の発生を高精度に予測する。
【解決手段】この落雷発生予測システム10は、車両1に落下した雨滴3と接触可能な導電性の雨滴接触面16を有し、雨滴接触面16に接触した雨滴3の電荷に関する情報を取得可能な雨滴電荷取得部11と、車両1の位置情報を取得可能な位置情報取得部12と、複数の車両1で取得された雨滴の電荷に関する情報と位置情報とに基づいて落雷の発生を予測する落雷発生予測部13とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に落下した雨滴と接触可能な導電性の雨滴接触面を有し、前記雨滴接触面に接触した雨滴の電荷に関する情報を取得可能な雨滴電荷取得部と、
前記車両の位置情報を取得可能な位置情報取得部と、
複数の前記車両で取得された前記雨滴の電荷に関する情報と前記位置情報とに基づいて落雷の発生を予測する落雷発生予測部とを備えた落雷発生予測システム。
【請求項2】
前記雨滴接触面を有する部材は、前記車両のワイパーに取付けられている請求項1に記載の落雷発生予測システム。
【請求項3】
前記車両が位置する空間の電界強度に関する情報を取得可能な電界強度取得部をさらに備え、
前記落雷発生予測部は、前記電界強度取得部で取得された前記電界強度に関する情報の前記落雷発生予測への利用の妥当性を判断する請求項1又は2に記載の落雷発生予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷発生予測システムに関し、特に移動中の車両で取得した情報に基づいて落雷の発生を精度よく予測可能とするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体製造工場など、安定的な稼働が求められる施設においては、安定的な電力供給が必要とされている。その一方で、上記施設においては、落雷などの自然現象などによって、電力線等の電力設備が損傷して、停電や瞬低(瞬時電圧低下)などの電力トラブルが不可避的に発生している現状がある。
【0003】
ここで、落雷の発生を予測して当該施設に警告を発するためのシステムが特許文献1に記載されている。詳述すると、この特許文献に記載のシステムでは、タワー等の建造物の建設作業現場あるいは建設作業現場の周辺の地点に落雷検出装置を設置すると共に、建造物の建設作業現場または建設作業現場の近隣の地点に静電界検出装置を設置する。そして、落雷検出装置により落雷の発生を検出すると共に、静電界検出装置により雲・大地間の静電界の電界強度を検出し、両検出装置から出力された検出信号のレベルに基づいて、警告出力装置により警告情報のランクを決定して、そのランク付けされた警告情報を警告出力装置から出力する。また、この際、静電界検出装置の検出レベルを優先的に採用して、警告情報を出力する。
【0004】
ところで、製造工場においては、設置された各種機器が高度に電気制御され、また電気によりネットワーク化されているため、施設への落雷による機器の破損などの直接的な被害だけでなく停電や瞬低等による間接的な被害に対する対策(雷害対策)が重要となる。特に、半導体工場などは上述の影響を受けやすいため、従来にも増して精度の高い落雷発生予測が求められる。例えば特許文献1に記載のシステムにおいて落雷発生の予測精度を高めるためには、静電界検知装置の数を増やして広範囲に設置することが考えられるが、数を増やすほど設備コストの高騰につながるため、例えば落雷予測を有料サービスとして相手(工場など)に提供することを考えると、現実的でない。
【0005】
そこで、本出願人は、電界効果トランジスタと、電界効果トランジスタのゲート電極に接続されるアンテナと、電界効果トランジスタのソース電極とドレイン電極との間に所定の電圧を付与するためのバイアス電源とを具備した電界検知システムであって、アンテナを、車両のボデー金属部とした電界検知システムを提案している(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-250211号公報
【特許文献2】特開2022-147564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように電界効果トランジスタのゲート電極に接続されるアンテナを車両のボデー金属部とすることによって、非常に大きな面積で電界強度を検出できる。そのため、電界の状態を感度よく検出することができ、これにより高精度に落雷の発生を予測することが可能となる。もちろん、車両のボデー金属部をアンテナとして車両が位置する空間の電界強度に関するデータを取得する場合、複数の車両から取得した電界強度データを用いることによっても、高精度に落雷の発生を予測することが可能となる。
【0008】
その一方で、上述のように車両のボデー金属部をアンテナとして車両が位置する空間の電界強度を検出しようとした場合、周辺の建物等が車両まわりの電界強度に及ぼす影響を検討する必要がある。すなわち、電界強度は車両の上方に位置する物体や、車両に隣接する建物、樹木などの巨大な物体によって影響を受ける。そのため、車両の近くに大きな建物や遮蔽物が存在する場合、車両まわりの電界の状態が変化して、本来の値とは異なる値の電界強度を検出するおそれがある。これでは落雷の発生を精度よく予測することは難しい。
【0009】
以上の事情に鑑み、本明細書では、移動中の複数の車両から得た電界に関する情報に基づいて落雷の発生を高精度に予測可能とすることを、解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題の解決は、本発明に係る落雷発生予測システムによって達成される。すなわち、この予測システムは、車両に落下した雨滴と接触する導電性の雨滴接触面を有し、雨滴接触面に接触した雨滴の電荷に関する情報を取得可能な雨滴電荷取得部と、車両の位置情報を取得可能な位置情報取得部と、複数の車両で取得された雨滴の電荷に関する情報と位置情報とに基づいて落雷の発生を予測する落雷発生予測部とを備える点をもって特徴付けられる。
【0011】
落雷の発生原因となる雷雲内では、雷雲でない通常の雲に比べて電荷が大きく偏ることが知られている。この場合、雷雲で生成された雨滴の電荷も通常の雲で生成された雨滴の電荷に比べて電荷が大きく偏る傾向にあると考えられる。本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、車両に落下した雨滴の電荷に関する情報を取得し、取得した雨滴の電荷に関する情報とその際の車両の位置情報とに基づいて落雷の発生を予測するようにした。雨滴の電荷の大きさに基づいて落雷の発生を予測するのであれば、車両の周辺環境から受ける影響を最小限に抑えて、車両の上空に位置する空間の電界に関する情報を正確に得ることができるので、落雷の発生を精度よく予測することが可能となる。
【0012】
また、本発明に係る落雷発生予測システムにおいて、雨滴接触面を有する部材は、車両のワイパーに取付けられてもよい。
【0013】
例えば車両のボデー表面に雨滴接触面を設けた場合、現時点で雨滴接触面に落下した雨滴と、少し前の時点で雨滴接触面に落下した雨滴とが、雨滴接触面上に混在する可能性が高い。導電性の雨滴接触面から取得される雨滴の電荷は、取得時において雨滴接触面に接触している全ての雨滴の電荷の総和として取得される。そのため、落下時刻の異なる雨滴が混在していると、取得時における正確な雨滴の電荷を取得することが難しい。これに対して、本構成では、雨滴接触面を有する部材を車両のワイパーに取付けるようにした。ワイパーはその一端を基点とした旋回運動を行う。また、上述した旋回運動を往復して行う。そのため、ワイパーの可動時、ワイパーに取付けられた雨滴接触面に接触した雨滴は、上述した旋回運動による遠心力を受け、ワイパーの旋回方向が切り替わるタイミングで慣性によりワイパー(の雨滴接触面)から振り払われる。電荷に関する情報の取得は極めて短時間で実施できることから、ワイパーの旋回運動の間に雨滴接触面に接触した雨滴の電荷に関する情報を取得することにより、雨滴の電荷に関する情報を取得した後に、当該電荷に関する情報を取得した雨滴を雨滴接触面から排除することができる。よって、再びワイパーを旋回させた際に新たに雨滴接触面に接触した雨滴の電荷に関する情報を取得することで、最も直近に落下した雨滴のみの電荷に関する情報を取得することができる。これにより、雨滴の電荷に関する情報の取得精度をさらに高めて、落雷発生の予測精度をさらに向上させることが可能となる。
【0014】
また、雨滴接触面を有する部材がワイパーに取付けられる場合、本発明に係る落雷発生予測システムにおいて、雨滴接触面は、開口部を有する容器の内面を構成してもよい。また、この場合、容器は、ワイパーの可動方向に開口部を向けた姿勢でワイパーに取付けられもよい。この場合、雨滴接触面を有する部材が開口部を有する容器に相当する。
【0015】
このように、雨滴接触面で内面を構成した開口部を有する容器をワイパーに取付けることによって、容器のサイズ(内部容積)に応じた一定量の雨滴を収集することができる。この際、収集した雨滴の体積は容器のサイズから正確に分かるので、取得した電荷の値と雨滴の体積(容器のサイズ)とに基づいて、雨滴一個当たりもしくは単位体積当たりの電荷に関する情報をより高精度に取得することが可能となる。また、この際、容器の開口部をワイパーの可動方向に向けた姿勢でワイパーに取付けることで、ワイパーの旋回運動に伴い自動的にかつ効率よく雨滴が収集できる。もちろん、この場合も、ワイパーの旋回方向が切り替わるタイミングで容器内の雨滴が効果的に振り払われるので、ワイパーが旋回運動を行うたびに、最新の雨滴を取得することができる。これにより最新の雨滴の電荷に関する情報、ひいては最新の雲(雷雲)の電荷に関する情報を取得できるので、落雷の発生予測精度をさらに高めることが可能となる。
【0016】
また、本発明に係る落雷発生予測システムは、車両が位置する空間の電界強度に関する情報を取得可能な電界強度取得部をさらに備え、落雷発生予測部は、電界強度取得部で取得された電界強度に関する情報の落雷発生予測への利用の妥当性を判断してもよい。
【0017】
このように車両が位置する空間の電界強度に関する情報を取得し、かつ取得した電界強度に関する情報の落雷発生予測への利用の妥当性を判断することによって、例えば車両の周囲に遮蔽物等があり取得した電界強度に影響を及ぼす場合には、当該電界強度に関する情報の落雷発生予測への利用は妥当ではないと判断し、当該電界強度に関する情報を落雷発生予測に用いないことができる(この場合、電界強度を除く他の情報、雨滴電荷に関する情報、車両の位置情報など電界強度に関する情報を除いた他の情報に基づき落雷の発生予測を行う)。これにより、取得した電界強度に関する情報を落雷発生予測に利用するのが妥当と判定した場合のみ利用することができるので、既述の雨滴電荷と併せて落雷発生予測に用いることで、電界強度に関する情報の利用が落雷発生の予測精度に悪影響を及ぼす事態を回避しつつ、落雷発生の予測精度をさらに高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明に係る落雷発生予測システムによれば、移動中の複数の車両から得た情報に基づいて落雷の発生を高精度に予測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る落雷発生予測システムの概念図である。
【
図2】
図1に示す雨滴電荷データ取得部の構成を説明するための車両の要部正面図である。
【
図4】
図1に示す落雷発生予測システムを用いた予測方法の一例に係るフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る落雷発生予測システムの内容を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本実施形態に係る落雷発生予測システム10の概念図を示している。この予測システム10は、雨滴電荷取得部11と、位置情報取得部12と、データ処理装置13とを具備する。また、本実施形態では、落雷発生予測システム10は、電界強度取得部14と、データ通信部15とをさらに具備する。この場合、データ処理装置13が本発明に係る落雷発生予測部に相当する。以下、各構成要素の詳細を順に説明する。
【0022】
雨滴電荷取得部11は、雨滴電荷の取得対象となる全ての車両1に設けられる。ここで、雨滴電荷取得部11は、例えば
図2に示すように、雨滴接触面16と、雨滴電荷算出部17とを有する。本実施形態では、雨滴接触面16を有する容器18が車両1のワイパー2に取付けられている。これにより車両1に落下した雨滴3のうちフロントガラス4に落下し付着した状態の雨滴3の電荷を、ワイパー2の旋回運動に伴い取得可能としている。なお、本実施形態では、3個の容器18をワイパー2に取付けた場合を図示しているが、もちろんこれには限られない。容器18の形状、サイズ等に応じて容器18の個数を増減してもよい。
【0023】
ここで、雨滴接触面16は、導電性を示す材料、例えばアルミニウムで形成される。本実施形態では、開口部18aを有する容器18(
図3を参照)の内面が雨滴接触面16で構成されている。この場合、雨滴接触面16は、容器18の内面に貼り付けたアルミ箔で形成されている。この雨滴接触面16と雨滴電荷算出部17とを電気的に接続しておくことで、雨滴接触面16に雨滴3が接触した際に生じる電気信号を雨滴電荷算出部17で検出可能としている。
【0024】
図3は、
図2に示す容器18の拡大斜視図を示している。
図3に示すように、この容器18は、フロントガラス4に付着した状態の雨滴3を収集するためのもので、例えば筒状をなしている。この場合、容器18の開口部18aが、ワイパー2の可動方向(
図2でいえばワイパー2の下方への旋回方向)を指向するように、容器18がワイパー2に取付けられている。本実施形態では、容器18の開口部18aの内周面がテーパ形状をなしている。これにより、ワイパー2の可動時にフロントガラス4に付着した雨滴3を容器18の内部に案内して効果的に雨滴3を収集可能としている。なお、容器18本体の材質は原則として任意であるが、雨滴接触面16により雨滴3の電荷を精度よく取得可能とする観点から、樹脂など絶縁性を示す材料で形成されることが望ましい。
【0025】
ここで、容器18の内部容積のサイズは特に制限されないが、ワイパー2の一回の旋回運動で容器18を満たすようなサイズとすることが望ましい。具体的には、10
1mlサイズ以下とすることが望ましく、10
0mlサイズ以下とすることがより望ましく、10
-1mlサイズ以下とすることがさらに望ましい。また雨滴接触面16が全面で雨滴3と確実に接触するようにかつ雨滴3との接触面積を極力大きく取るために、容器18の内面の少なくとも下側半分の領域を雨滴接触面16で構成することが望ましい。もちろん、容器18が雨滴3で確実に満たされる場合には、
図3に示すように容器18の内面全域を雨滴接触面16で構成してもよい。
【0026】
雨滴電荷算出部17は、雨滴接触面16に電荷を帯びた雨滴3が接触した際に生じた電気信号を検出し、検出した電気信号に基づいて雨滴3の単位体積当たりの電荷を算出可能に構成される。一般に、雨滴3の電荷は非常に小さいことから、雨滴電荷算出部17は、検出した電気信号を増幅し、増幅した電気信号に基づいて雨滴3の電荷を算出するように構成してもよい。
【0027】
また、各車両1にはデータ通信部15が設けられている。この場合、雨滴電荷取得部11は、取得した雨滴3の電荷に関する情報を雨滴電荷データとしてデータ通信部15に送信する。データ通信部15の詳細は後述する。
【0028】
位置情報取得部12は各車両1に設けられるもので、例えばGPS等の衛星測位システム用の衛星(測位衛星)との通信を可能とする衛星測位システムの受信部で構成される。この場合、位置情報取得部12は、例えばカーナビゲーションシステムで構成される。位置情報取得部12は、測位衛星との通信により車両1の位置データを取得(算出)し、取得した車両1の位置データをデータ通信部15に送信する。もちろん、位置情報取得部12を、カーナビゲーションシステムとは別の専用の機器として車両1に設けてもよい。
【0029】
電界強度取得部14は、電界強度の取得対象となる全ての車両1に設けられる。ここで、電界強度取得部14は、車両1が位置する空間の電界強度を取得可能な限りにおいて任意の構成を採用することができる。本実施形態では、図示は省略するが、電界強度取得部14として、電界効果トランジスタ(FET)と、電界効果トランジスタのゲート電極に接続されるアンテナと、電界効果トランジスタのソース電極とドレイン電極との間に所定の電圧を付与可能なバイアス電源と、ソース電極とドレイン電極との間を流れる電流の大きさを計測するための計測装置、及び電界強度算出部とを具備し、アンテナが、車両1のボデー金属部で構成される電界強度検出装置が用いられる。
【0030】
データ通信部15は、少なくとも雨滴電荷取得部11で取得した雨滴3の電荷に関する情報と、位置情報取得部12で取得した車両1の位置情報と、電界強度取得部14で検出した電界強度に関する情報、及び各情報の取得時刻に関する情報とを何れもデータ化してデータ処理装置13に送信可能に構成される。また、データ通信部15は、上記以外のデータを送信可能に構成してもよい。例えば、データ通信部15は、車両1の位置データを取得したエリアの気象に関するデータを送信してもよく、例えば温度、湿度、降雨量(降雪量)、降雨エリア、風速、風量、気圧など、およそ一般に気象情報と認識される事象に関する情報を送信可能に構成される。また、これら気象データは、各種計測機器により直接的に計測したデータであってもよく、あるいは例えばワイパー2の動作回数など当該自然現象に関連する動作に関するデータから間接的に算出して得たデータであってもよい。
【0031】
また、電界強度を落雷発生予測に利用することの妥当性を判定する場合、データ通信部15は、当該妥当性の判断材料となり得るデータであって車両1で取得可能なデータ、例えば車載カメラで撮像して得た車両1の周囲及び上方の画像に関するデータを送信してもよい。
【0032】
なお、データ通信部15としては、既存のデータ通信可能な装置を幅広く適用することができ、例えば本実施形態に係るデータの通信を専用に行うためのデータ通信機器をデータ通信部15として車両1に据え付け固定してもよい。あるいは、タブレットやスマートフォンなどの汎用データ通信端末に専用のアプリをインストールしたものを車両1内に設置し、これをデータ通信部15として使用してもよい。
【0033】
データ処理装置13は、本実施形態では、
図1に示すようにデータ蓄積部19と、データ処理部20とを有する。このうちデータ蓄積部19は、複数の車両1から送信される雨滴電荷に関するデータ(雨滴電荷データ)、車両1の位置に関するデータ(位置データ)、電界強度に関するデータ(電界強度データ)、及び気象データを蓄積する。これらのデータは、例えば各車両1から所定時刻おきに送信される。あるいは、雨滴電荷データについては、雨滴接触面16に雨滴3が接触して電気信号を検出したタイミングで送信される。また、車両1以外から送信されるデータがある場合、当該データをデータ蓄積部19に蓄積する。
図1に示す例では、気象情報提供機関21から提供される気象データを受信し、データ蓄積部19に蓄積する。この気象データには、例えば実際に発生した落雷に関連するデータ(地域、時刻、強さなど)が含まれる。
【0034】
また、データ蓄積部19は、電界強度データを落雷発生予測に利用することの妥当性を判定する場合、当該妥当性の判断材料となり得るデータであって予めデータ蓄積部19に蓄積可能なデータ、例えばトンネル、高架、屋内駐車場、高圧送電線など電界強度取得部14で取得した電界強度に強く影響を及ぼすと考えられる建造物が位置するエリアがマッピングされた地図データをさらに蓄積してもよい。
【0035】
データ処理部20は、データ通信部15により送信され、データ蓄積部19に蓄積された各種データに基づいて、落雷の発生予測処理を実行する。
【0036】
ここで、落雷の発生予測処理(具体的には落雷の発生予測を行うためのプログラムの実行)は、例えばAI(人工知能)を用いて行うことが可能である。具体的には、まずデータ蓄積部19に蓄積された各種データを教師データとして用いて、データ処理部20により、落雷の発生地域、時刻、及び強さに関する情報を出力とする学習モデルを生成する(学習モデル生成ステップ)。この際、使用する教師データとしては、各車両1の位置データと電界強度データ、及び実際に発生した落雷に関するデータ(以後、単に落雷データと称する。)が用いられる。言い換えると、過去の落雷データに対応する位置データと電界強度データ、すなわち、データ蓄積部19に蓄積された各種データから、実際に落雷が発生した地域及び時刻における電界強度データを、対応する位置データを利用して抽出する。そして、抽出した電界強度データとその他の気象データを入力とし、落雷データを出力とする学習モデルを生成する。このうち落雷データについては、例えば
図1に示すように、気象情報提供機関21から提供される気象データのうち過去に発生した落雷に関するデータを用いることができる。
【0037】
このようにして落雷発生に関する学習モデルを生成した後、この学習モデルを用いて落雷の発生を予測する(落雷発生予測ステップ)。具体的には、学習モデル生成ステップで生成した学習モデルに、各車両1の雨滴電荷データ、位置データ、電界強度データ、その他の気象データを入力して、落雷の発生地域、時刻、及び強さの少なくとも一つを落雷発生の予測結果として出力するプログラムをデータ処理部20により実行する。これにより、落雷の発生予測結果に関する情報を取得する。
【0038】
また、データ処理部20は、上述した落雷の発生を予測するに際し、予測に用いる電界強度データを落雷の発生予測に利用することの妥当性を事前に判断し、妥当と判断した場合にのみ取得した電界強度データを利用して落雷発生予測を行う。
【0039】
次に、上記構成の落雷発生予測システム10を用いた落雷発生予測方法の一例を説明する。
【0040】
図4は、落雷発生予測システム10を用いた落雷発生予測方法の手順を説明するためのフローチャートを示している。このフローチャートに示すように、本実施形態に係る落雷発生予測方法は、複数の車両1から雨滴電荷データ、位置データ、電界強度データ、及び気象データを取得する第一データ取得ステップS1と、車両1以外から気象データを取得する第二データ取得ステップS2と、取得した電界強度データを落雷発生予測に利用することの妥当性を判断する利用妥当性判断ステップS3と、取得した各種データに基づいて落雷の発生予測を行う落雷発生予測ステップS4とを具備する。
【0041】
(S1)第一データ取得ステップ
このステップS1では、データ取得の対象となる複数の車両1から、各車両1の雨滴電荷データ、位置データ、電界強度データ、及び、気温、雨量、風速などの気象データ(以後、便宜的に第一気象データと称する。)を取得する。具体的には、上述した雨滴電荷取得部11により車両1に落下した雨滴3の電荷に関するデータを取得し、取得した雨滴電荷データをデータ通信部15によりデータ処理装置13に送信する。同様に、位置情報取得部12により取得した車両1の位置データをデータ通信部15によりデータ処理装置13に送信する。また、電界強度取得部14により取得した車両1が位置する空間の電界強度データをデータ通信部15によりデータ処理装置13に送信すると共に、図示しない各種センサ等により検出した気象情報を第一気象データとしてデータ通信部15によりデータ処理装置13に送信する。これら各種データを受信したデータ処理装置13は、受信した各種データをデータ蓄積部19に蓄積する。
【0042】
(S2)第二データ取得ステップ
このステップS2では、気象情報提供機関21から、所定エリア内で過去に発生した落雷に関するデータ(落雷データ)を含む気象データ(以後、便宜的に第二気象データと称する。)を取得する。データ処理装置13は、取得した落雷データ等の気象データ(第二気象データ)をデータ蓄積部19に蓄積する。これにより、所定エリア内の所定時刻における落雷データと、同エリア及び同時刻における電界強度データと各種気象データが、相互に関連付けられた状態でデータ蓄積部19に蓄積される。
【0043】
(S3)利用妥当性判断ステップ
このステップS3では、ステップS1で取得した各種データのうち、電界強度データに対して利用の妥当性を判断する。具体的には、データ処理部20は、データ蓄積部19に蓄積された上記利用の妥当性を判断するための材料となり得るデータ(画像データ、地図データなど)に基づいて、データ処理装置13に送信された電界強度データを落雷発生予測ステップS4に利用することの妥当性を判断する。
【0044】
そして、利用することが妥当であると判断した場合、データ処理部20は、雨滴電荷データ、位置データ、気象データ、さらに電界強度データに基づいて、所定エリア内における落雷の発生予測処理を行う。
【0045】
(S4)落雷発生予測ステップ
このステップS4では、ステップS1~S3で取得した各種データに基づいて、データ処理部20により、所定エリア内における落雷の発生予測処理を行う。具体的には、データ処理部20により、各種データを入力とし、落雷の発生予測結果を出力とするプログラムを実行する。ここで、実行可能なプログラムは任意であり、本実施形態では上述した学習モデルを用いた落雷発生予測プログラムを実行する。
【0046】
ここで、ステップS3にて、取得した電界強度データの落雷発生予測ステップS4への利用が妥当であると判断された場合、所定時刻に取得した雨滴電荷データ、位置データ、電界強度データ、及び気象データを学習モデルに入力して、所定時刻以降に発生する落雷の発生地域、時刻、及び強さの少なくとも一つを落雷の発生予測結果として出力するプログラムをデータ処理部20により実行する。これにより、所定時刻以降における落雷の発生予測結果に関する情報を取得する。
【0047】
あるいは、ステップS3にて、取得した電界強度データの落雷発生予測ステップS4への利用が妥当でないと判断された場合、当該電界強度データを用いることなく、所定時刻に取得した雨滴電荷データ、位置データ、及び気象データを学習モデルに入力して、所定時刻以降に発生する落雷の発生地域、時刻、及び強さの少なくとも一つを落雷の発生予測結果として出力するプログラムをデータ処理部20により実行する。よって、この場合も、所定時刻以降における落雷の発生予測結果に関する情報を取得する。
【0048】
以上のようにして取得した落雷の発生予測結果に関する情報は、必要とされる場合(例えば対象とされる施設の近傍に落雷が発生する確率がある、との結果が得られた場合)に、必要な施設22(例えば半導体工場などの各種生産施設)に対して適時に提供され、活用(可否判断を含む落雷に対する事前対策の実施など)され得る。
【0049】
以上述べたように、本実施形態に係る落雷発生予測システム10では、車両1に落下した雨滴3の電荷に関する情報を取得し、取得した雨滴3の電荷に関する情報とその際の車両1の位置情報とに基づいて落雷の発生を予測可能とした。雨滴3の電荷の大きさに基づいて落雷の発生を予測するのであれば、車両1の周辺環境から受ける影響を最小限に抑えて、車両1の上空に位置する空間の電界に関する情報を正確に得ることができるので、落雷の発生を精度よく予測することが可能となる。
【0050】
また、本実施形態では、雨滴接触面16を有する部材(ここでは容器18)を車両1のワイパー2に取付けるようにした。このようにすることで、雨天時にワイパー2を旋回させることにより、ワイパー2に設けられた雨滴接触面16とフロントガラス4上の雨滴3とが接触するので(
図2を参照)、旋回中に接触した雨滴3の電荷に関する情報を取得することができる。また、ワイパー2の旋回方向が切り替わるタイミング(
図2でいえばワイパー2が二点鎖線で示す位置に到達したタイミング)で、慣性によりワイパー2の雨滴接触面16から雨滴3が振り払われる。これにより、雨滴3の電荷に関する情報を取得した後に、当該電荷に関する情報を取得した雨滴3を雨滴接触面16から排除することができるので、再びワイパー2を旋回させた際に新たに雨滴接触面16に接触した雨滴3の電荷に関する情報を取得することで、最も直近に落下した雨滴3のみの電荷に関する情報を取得することができる。これにより、雨滴3の電荷に関する情報の取得精度をさらに高めて、落雷発生の予測精度をさらに向上させることが可能となる。
【0051】
また、本実施形態では、雨滴接触面16で内面を構成した開口部18aを有する容器18をワイパー2に取付けることによって、容器18のサイズ(内部容積)に応じた一定量の雨滴3を収集することができる。この際、収集した雨滴3の体積は容器18のサイズから正確に分かるので、取得した電荷の値と雨滴3の体積(容器18のサイズ)とに基づいて、雨滴3一個当たりもしくは単位体積当たりの電荷に関する情報をより高精度に取得することが可能となる。また、本実施形態では、容器18の開口部18aをワイパー2の旋回方向に向けた姿勢でワイパー2に取付けるようにしたので、ワイパー2の旋回運動に伴い自動的にかつ効率よく雨滴3が収集できる。これにより最新の雨滴3の電荷に関する情報、ひいては最新の雲(雷雲)の電荷に関する情報を取得できるので、落雷の発生予測精度をさらに高めることが可能となる。
【0052】
また、本実施形態では、車両1が位置する空間の電界強度を取得可能な電界強度取得部14をさらに備え、データ処理部20が、電界強度取得部14で取得された電界強度に関する情報の落雷発生予測への利用の妥当性を判断するようにしたので、例えば車両1の周囲に遮蔽物等があり取得した電界強度に関する情報に影響を及ぼす場合には、当該電界強度に関する情報の落雷発生予測への利用は妥当ではないと判断し、当該電界強度に関する情報を落雷発生予測に用いることなく、残りの情報(雨滴の電荷に関する情報、車両の位置情報、気象に関する情報)に基づき落雷の発生予測を行うことができる。これにより、取得した電界強度に関する情報を落雷発生予測に利用するのが妥当と判定した場合のみ当該電界強度に関する情報を利用することができるので、電界強度に関する情報の利用が落雷発生の予測精度に悪影響を及ぼす事態を回避しつつ、落雷発生の予測精度をさらに高めることが可能となる。
【0053】
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明に係る落雷発生予測システムは、その趣旨を逸脱しない範囲において、上記以外の構成を採ることも可能である。
【0054】
例えば上記実施形態では、雨滴接触面16を有する部材として、開口部18aを有する筒状の容器18をワイパー2に取付けた場合を例示したが、もちろん雨滴接触面16はこれ以外の形態をなす部材の一部としてワイパー2に取付けてもよい。この際、雨滴が収集される空間を区画する面を雨滴接触面16で構成するのがよい。
【0055】
あるいは、雨滴接触面16を、ワイパー2のうちフロントガラス4と接触する部分(面)に取り付けて、ワイパー2の可動に伴い雨滴3と雨滴接触面16との接触を図ってもよい。
【0056】
もちろん、雨滴との接触により雨滴の電荷に関する情報を適正に取得可能な限りにおいて、雨滴接触面16の配設箇所は任意であり、車両1の外表面をなす部分のうちワイパー2以外の部位に雨滴接触面16(を有する部材)を設けてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 車両
2 ワイパー
3 雨滴
4 フロントガラス
10 落雷発生予測システム
11 雨滴電荷取得部
12 位置情報取得部
13 データ処理装置
14 電界強度取得部
15 データ通信部
16 雨滴接触面
17 雨滴電荷算出部
18 容器
18a 開口部
19 データ蓄積部
20 データ処理部
21 気象情報提供機関
22 施設