(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166758
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】加硫接着剤用組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 123/00 20060101AFI20241122BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
C09J123/00
C09J11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083079
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 直人
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040DA001
4J040HD32
4J040JA03
4J040KA23
4J040KA38
4J040MA02
4J040MA12
(57)【要約】
【課題】従来の接着性能を維持しながら、環境汚染を抑制し、かつ作業場の衛生安全面に優れる加硫接着剤用組成物を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る加硫接着剤用組成物は、ビニルシランカップリング剤、水分散体ポリオレフィン樹脂、および水を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルシランカップリング剤、水分散体ポリオレフィン樹脂、および水を含む、加硫接着剤用組成物。
【請求項2】
前記ビニルシランカップリング剤と前記水分散体ポリオレフィン樹脂とを、1:2~3:1の重量比で含有する、請求項1に記載の加硫接着剤用組成物。
【請求項3】
界面活性剤をさらに含む、請求項1に記載の加硫接着剤用組成物。
【請求項4】
前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である、請求項3に記載の加硫接着剤用組成物。
【請求項5】
水溶性溶剤をさらに含む、請求項1に記載の加硫接着剤用組成物。
【請求項6】
前記水溶性溶剤が、プロピレングリコールである、請求項5に記載の加硫接着剤用組成物。
【請求項7】
金属と非極性ゴムとの加硫接着に用いられる、請求項1~6のいずれか1項に記載の加硫接着剤用組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の加硫接着剤用組成物を含有する、加硫接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫接着剤用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属と非極性ゴムとを接着させる方法として、例えば、特許文献1には、未加硫ゴム材料と金属との間に接着剤層を介在させる方法が開示されている。前記接着剤層は、下塗り接着剤層と上塗り接着剤層とを有する2層構造になっている。また、下塗り接着剤としてはフェノール樹脂系接着剤が用いられ、上塗り接着剤としては塩素化ポリエチレンを含有する接着剤が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来技術は、接着剤層に含まれる接着剤として有機溶剤が使用されている。そのため、これらの溶剤の揮散による環境汚染、および作業者への健康被害等が懸念される。したがって、上述のような従来技術は、環境面、および作業場の衛生安全面の観点から改善の余地があった。
【0005】
本発明の一態様は、従来の接着性能を維持しながら、環境汚染を抑制し、かつ作業場の衛生安全面に優れる加硫接着剤用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る加硫接着剤用組成物は、ビニルシランカップリング剤、水分散体ポリオレフィン樹脂、および水を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、従来の接着性能を維持しながら、水系であるため、環境汚染を抑制し、かつ作業場の衛生安全面に優れる加硫接着剤用組成物を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本願実施例において剥離試験に供したサンプルの表面を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は下記の実施形態に限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組合せた実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。本明細書において、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0010】
<1.加硫接着剤用組成物>
(ビニルシランカップリング剤)
本発明の一実施形態に係る加硫接着剤用組成物は、ビニルシランカップリング剤を含む。ビニルシランカップリング剤としては特に限定されないが、例えば、ビニルトリメトキシシラン((CH3O)3SiCH=CH2)、ビニルトリエトキシシラン((C2H5O)3SiCH=CH2)等が挙げられる。
【0011】
加硫接着剤用組成物中、ビニルシランカップリング剤の配合量の下限値は、加硫接着剤用組成物の全重量を100重量%として、1重量%以上が好ましく、2重量%以上がより好ましく、3重量%以上がさらに好ましい。上限値は、加硫接着剤用組成物の全量を100重量%として、5重量%であってもよく、4重量%以下であることが好ましい。
【0012】
(水分散体ポリオレフィン樹脂)
本発明の一実施形態に係る加硫接着剤用組成物は、水分散体ポリオレフィン樹脂を含む。本願明細書において、水分散体ポリオレフィン樹脂とは、変性ポリオレフィン樹脂を水に分散させている水性分散体を指す。水分散体ポリオレフィン樹脂としては、市販品をそのまま使用できる。水分散体ポリオレフィン樹脂の市販品としては、例えば、SB-1230N(アローベース(登録商標)、ユニチカ(株)製)、SE-1200(アローベース(登録商標)、ユニチカ(株)製)、SD-1200(アローベース(登録商標)、ユニチカ(株)製)等が挙げられる。
【0013】
(水)
本発明の一実施形態に係る加硫接着剤用組成物は、水を含む。水としては、イオン交換水、蒸留水、RO水等を使用することができる。ここで、「RO水」とは、RO(=Reverse Osmosis:逆浸透)膜を通して不純物を除去された水を指す。
【0014】
加硫接着剤用組成物中、水の配合量の下限値は、加硫接着剤用組成物の全重量を100重量%として、40重量%以上が好ましく、60重量%以上がより好ましい。水の配合量の上限値は、加硫接着剤用組成物の全重量を100重量%として、95%以下であってもよい。
【0015】
(界面活性剤)
本発明の一実施形態に係る加硫接着剤用組成物は、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては公知のものを使用できるが、接着の観点から、非イオン性界面活性剤を使用することが好ましい。非イオン性界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等が挙げられる。
【0016】
(水溶性溶剤)
本発明の一実施形態に係る加硫接着剤用組成物は、水溶性溶剤をさらに含んでいてもよい。水溶性溶剤としては、プロピレングリコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。これらのうち、衛生安全面の観点からプロピレングリコールが好ましい。
【0017】
〔加硫接着剤用組成物に含まれる成分の重量比〕
加硫接着剤用組成物に含まれるビニルシランカップリング剤と水分散体ポリオレフィン樹脂との重量比は、金属と非極性ゴムとの接着性の観点から、1:2~3:1であることが好ましく、3:4~2:1であることがより好ましい。なお、加硫接着剤用組成物中に含まれる水分散体ポリオレフィン樹脂が水溶液の形態である場合、水分散体ポリオレフィン樹脂に溶媒として含まれる水の重量は、前記重量比において水分散体ポリオレフィン樹脂の重量に含まれる。
【0018】
加硫接着剤用組成物が水溶性溶剤を含む場合、水溶性溶剤の配合量は、加硫接着剤用組成物の全重量を100重量%として、0重量%超~55重量%であってもよく、約30重量%であることが好ましい。前記組成物に水を配合せず、水溶性溶剤のみを配合する場合、得られる加硫接着剤用組成物の接着性は十分ではない。水および水溶性溶剤の両方を配合する場合、水溶性溶剤の配合量が上記範囲内であれば、得られる加硫接着剤用組成物は十分な接着性を有するが、上記範囲の中でも水に対する水溶性溶剤の比率が小さい方が接着性の観点から好ましい。なお、加硫接着剤用組成物中に含まれる水分散体ポリオレフィン樹脂が水溶液の形態である場合、水分散体ポリオレフィン樹脂水溶液に溶媒として含まれる水の重量は、前記重量比において加硫接着剤用組成物に含まれる水の重量には含まれない。
【0019】
加硫接着剤用組成物に含まれるビニルシランカップリング剤と界面活性剤との重量比は、金属と非極性ゴムとの接着の観点から、4:1~4:5であることが好ましく、4:1~4:3であることがより好ましい。
【0020】
上述の通り、本発明の一実施形態に係る加硫接着剤用組成物は、水系であることから、人体や環境に対して悪影響が少ない。したがって、例えば、目標12「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」および目標13「気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る」等の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる。
【0021】
また、本発明の一実施形態に係る加硫接着剤用組成物によれば、金属と非極性ゴムとを接着させることができる。非極性ゴムは、パーオキサイド加硫によって造形される、パーオキサイド加硫系であることが好ましく、例えば、エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴム(EPDM)、スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)等が挙げられる。接着方法としては、特に限定されず、例えば、化成処理を行った金属、または亜鉛メッキ処理を施した金属上に加硫接着剤用組成物を塗布し、室温下で3~7分間乾燥させる。その後、160~200℃で5~30分間焼き付け処理を行う。次いで、焼き付け処理に供した金属上に非極性ゴムの未加硫配合物を接合させ、160~200℃で2~15分間、プレス加硫を行うことにより、金属と非極性ゴムとを加硫接着させることができる。
【0022】
さらに、金属と非極性ゴムとを接着させるために、従来技術では、接着剤を上塗りおよび下塗りによって塗布する必要がある。一方で、本発明の一実施形態に係る加硫接着剤用組成物であれば、1層塗りで金属と非極性ゴムとを接着させることができる。そのため、作業効率を向上させ、かつ電力費等のコストを削減することができる。
【0023】
<2.加硫接着剤>
本発明の一実施形態には、上記の本発明の一実施形態に係る加硫接着剤用組成物を含む加硫接着剤も包含される。前記加硫接着剤は、本発明の一実施形態に係る加硫接着剤用組成物そのものであってもよい。
【0024】
<3.まとめ>
本発明には、下記の構成が含まれている。
<1>
ビニルシランカップリング剤、水分散体ポリオレフィン樹脂、および水を含む、加硫接着剤用組成物。
<2>
前記ビニルシランカップリング剤と前記水分散体ポリオレフィン樹脂とを、1:2~3:1の重量比で含有する、<1>に記載の加硫接着剤用組成物。
<3>
界面活性剤をさらに含む、<1>または<2>に記載の加硫接着剤用組成物。
<4>
前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である、<3>に記載の加硫接着剤用組成物。
<5>
水溶性溶剤をさらに含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の加硫接着剤用組成物。
<6>
前記水溶性溶剤が、プロピレングリコールである、<5>に記載の加硫接着剤用組成物。
<7>
金属と非極性ゴムとの加硫接着に用いられる、<1>~<6>のいずれか1つに記載の加硫接着剤用組成物。
<8>
<1>~<7>のいずれか1つに記載の加硫接着剤用組成物を含有する、加硫接着剤。
【実施例0025】
以下に、本発明の一実施形態を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0026】
〔実施例および比較例で使用した材料〕
●ビニルシランカップリング剤
・ビニルトリメトキシシラン:KBM-1003(信越化学工業(株)製)
●メルカプトシランカップリング剤
・3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン:KBM-803(信越化学工業(株)製)
●水分散体ポリオレフィン樹脂
・SB-1230N(アローベース(登録商標)、ユニチカ(株)製)
●水溶性フェノール樹脂
・レゾール型フェノール樹脂(高水溶性フェノール樹脂水溶液):BRL-141B(アイカ工業(株)製)
●界面活性剤
・モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(非イオン性界面活性剤):ソルボンT-20(東邦化学工業(株)製)
●水
・イオン交換水
●水溶性溶剤
・プロピレングリコール:富士フィルム和光純薬(株)製
〔実施例1~15、比較例1~5〕
下記表1~5に示す成分をそれぞれ混合することにより加硫接着剤用組成物を得、金属板上に前記組成物を塗布した。金属板としては、化成処理を行った金属板(SPCC)、または亜鉛メッキを施した金属板(SECC)からなる中空で円板状の金属板を使用した。
【0027】
塗布した後に室温下で5分間乾燥させ、180℃で10分間焼き付け処理を行った。次いで、焼き付け処理に供した金属板上にEPDMの未加硫配合物を接合させ、180℃で4分間、プレス加硫を行い、サンプルを得た。
【0028】
〔参考例1〕
金属板上に接合させる未加硫配合物を、NBRの未加硫配合物に変更して、190℃で2分間、プレス加硫を行い、サンプルを得た。
【0029】
(接着性の評価)
得られたサンプルにニードルを用いた剥離試験を実施し、ゴム残存率を目視で確認した。具体的には、
図1に示すように、サンプル(1)の表面上(EPDMまたはNBRの未加硫配合物を加硫成形させた側)にニードルの先端を押し当てながら、6か所の引っ掻き傷(2)をつけた。その後、ニードルの先端によって引っ掻かれた箇所以外で、ゴムが残存している箇所を目視で確認し、ゴム残存率を下記の計算式に基づいて算出した。ゴム残存率が高いほど、接着性に優れると言える。接着性の評価結果を表1~5に示す。
(剥離試験後にゴムが残存している領域)/(剥離試験前にゴムが成形されている領域)×100
【0030】
【0031】
表1に示すように、シランカップリング剤としてメルカプトシランカップリング剤を使用し、樹脂として水溶性フェノール樹脂を使用してサンプルを調製した場合、接着させる対象ゴムがニトリルブタジエンゴム(NBR)であれば、金属板がSPCCおよびSECCのいずれにおいてもゴム残存率が100%であり、金属とゴムとが接着可能であることが確認された(参考例1)。一方で、対象ゴムが非極性ゴム(エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴム(EPDM))の場合は、金属板がSPCCおよびSECCのいずれにおいてもゴム残存率が0%であり、金属と非極性ゴムとは接着しないことが確認された(比較例1)。
【0032】
また、比較例2の接着性の評価結果から、シランカップリング剤としてビニルシランカップリング剤を使用し、樹脂として水溶性フェノール樹脂を使用してサンプルを調製した場合、金属と非極性ゴムとは接着しないことが確認された。
【0033】
【0034】
実施例1および2より、溶媒として水溶性溶剤を使用せず、水のみを使用した場合にも、金属と非極性ゴムとを接着できることが確認された。
【0035】
【0036】
ビニルシランカップリング剤を配合しない比較例3、および水分散体ポリオレフィン樹脂を配合しない比較例4は、接着性の評価の結果、金属板がSPCCおよびSECCのいずれにおいてもゴム残存率が0%であった。これらの結果から、金属と非極性ゴムとを接着させるためには、ビニルシランカップリング剤および水分散体ポリオレフィン樹脂の両方が必要であることが明らかになった。
【0037】
また、実施例1、4~8は、実施例3および9と比較して金属板がSPCCおよびSECCのいずれにおいてもゴム残存率が高いことが確認された。すなわち、ビニルシランカップリング剤と水分散体ポリオレフィン樹脂とを、1:2~3:1の重量比で含有すると、ゴム残存率が高くなり、接着性に優れることが明らかになった。
【0038】
【0039】
比較例5では、SPCCおよびSECCのいずれにおいてもゴム残存率が0%であることから、溶媒として水を使用せず、水溶性溶剤のみを使用した場合には金属と非極性ゴムとが接着しないことが確認された。
【0040】
【0041】
実施例11より、界面活性剤を配合しない場合にも、金属と非極性ゴムとを接着できることが確認された。また、実施例11と、実施例2および12~15との比較から、界面活性剤を配合する方が、配合しない場合と比較してゴム残存率が高くなる傾向にあることが確認された。さらに、実施例12~14と、実施例2および15との比較から、界面活性剤の配合量が多すぎると、ゴム残存率がわずかではあるが低くなる傾向にあることが確認された。