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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166760
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】パネル成形方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 39/02 20060101AFI20241122BHJP
   B21D 19/04 20060101ALN20241122BHJP
【FI】
B21D39/02 F
B21D19/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083083
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 虎男
(57)【要約】
【課題】アウタパネルのフランジを折り返してインナパネルと一体化するときに生じるアウタパネルの撓み変形を抑制できるパネル成形方法を提供する。
【解決手段】パネル成形方法は、アウタパネル10のフランジ12が本体部11に対して起立状態で且つ厚み方向に凹凸形状をなすようにフランジ12を成形する第1ステップS101と、アウタパネル10をフランジ12が上向きに延びるように配置した状態で本体部11の上面にインナパネル20を重ねる第2ステップS102と、アウタパネル10のフランジ12をヘミングローラ40でインナパネル20側に曲げ成形してインナパネル20と一体化する第3ステップS103と、を有し、第3ステップS103では、ヘミングローラ40がアウタパネル10のフランジ12の凹凸を平坦状に変形させて押し潰しながらフランジ端縁に沿って転動するようにヘミングローラ40を動かす。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウタパネルのフランジが本体部に対して起立状態で且つ厚み方向に凹凸形状をなすように上記フランジを成形するフランジ立て工程と、
上記フランジ立て工程で得られた上記アウタパネルを上記フランジが上向きに延びるように配置した状態で上記本体部の上面にインナパネルを重ねるパネル重ね工程と、
上記パネル重ね工程の後で上記アウタパネルの上記フランジをヘミングローラで上記インナパネル側に曲げ成形して上記インナパネルと一体化するヘミング成形工程と、
を有し、
上記ヘミング成形工程では、上記ヘミングローラが上記アウタパネルの上記フランジの凹凸を平坦状に変形させて押し潰しながらフランジ端縁に沿って転動するように上記ヘミングローラを動かす、パネル成形方法。
【請求項2】
上記フランジ立て工程では、凹凸形状の刃面を有する曲げ刃を使用し、上記フランジを上記曲げ刃で初期展開位置から起立位置まで押し曲げて上記起立状態とするとともに、上記フランジの押し曲げ時に上記刃面の凹凸形状にしたがって上記フランジを凹凸形状とする、請求項1に記載のパネル成形方法。
【請求項3】
上記フランジ立て工程では、上記ヘミング成形工程において上記ヘミングローラが転動する転動方向に対して、上記アウタパネルの上記フランジにおける凹凸の境界線が上記転動方向を横切って延びるように上記フランジを成形する、請求項1または2に記載のパネル成形方法。
【請求項4】
上記アウタパネル及び上記インナパネルはそれぞれ、車両ドアのドアアウタパネル及びドアインナパネルであり、上記ドアアウタパネルは、上記ドアインナパネルを重ねる面を凹面とする湾曲形状をなしている、請求項1~3のいずれか一項に記載のパネル成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パネル成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、自動車の車両ドアのアウタパネルのフランジを折り返してインナパネルと一体化するための従来のローラヘミング加工方法が開示されている。このローラヘミング加工方法は、概して、インナパネルが重ねられたアウタパネルのフランジを先ず起立状態に曲げるフランジ立て工程と、フランジ立て工程で起立状態となったフランジをヘミングローラによってインナパネル側に曲げ成形するヘミング成形工程と、を有する。ヘミング成形工程では、ティーチングプレイバック式のロボットに保持されたヘミングローラが使用する工法が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-91330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記ヘミング成形工程では、ヘミングローラをアウタパネルのフランジに押し付けてフランジ幅方向に転動させながらインナパネルに近づくように動かす。このとき、アウタパネルのフランジは、ヘミングローラによってインナパネル側に押し潰されて変形するが、このときに生じる変形応力に伴ってアウタパネルの本体部が撓み変形する。そして、アウタパネルの本体部の撓み変形量が大きくなると、アウタパネルの外観品質が低下するという問題が生じ得る。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、アウタパネルのフランジを折り返してインナパネルと一体化するときに生じるアウタパネルの撓み変形を抑制できるパネル成形方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
アウタパネルのフランジが本体部に対して起立状態で且つ厚み方向に凹凸形状をなすように上記フランジを成形するフランジ立て工程と、
上記フランジ立て工程で得られた上記アウタパネルを上記フランジが上向きに延びるように配置した状態で上記本体部の上面にインナパネルを重ねるパネル重ね工程と、
上記パネル重ね工程の後で上記アウタパネルの上記フランジをヘミングローラで上記インナパネル側に曲げ成形して上記インナパネルと一体化するヘミング成形工程と、
を有し、
上記ヘミング成形工程では、上記ヘミングローラが上記アウタパネルの上記フランジの凹凸を平坦状に変形させて押し潰しながらフランジ端縁に沿って転動するように上記ヘミングローラを動かす、パネル成形方法、
にある。
【発明の効果】
【0007】
上述の態様のパネル成形方法では、先ず、フランジ立て工程において、アウタパネルのフランジが本体部に対して起立状態で且つ厚み方向に凹凸形状をなすようにフランジを成形する。次に、パネル重ね工程において、フランジ立て工程で得られたアウタパネルをフランジが上向きに延びるように配置した状態で本体部の上面にインナパネルを重ねる。
アウタパネルにインナパネルを重ねる。最後に、ヘミング成形工程において、アウタパネルのフランジをヘミングローラでインナパネル側に曲げ成形してインナパネルと一体化する。このヘミング成形工程では、ヘミングローラがアウタパネルのフランジの凹凸を平坦状に押し潰しながらフランジ端縁に沿って転動するようにヘミングローラを動かす。
【0008】
本態様のパネル成形方法では、フランジ立て工程でアウタパネルのフランジを予め凹凸形状に成形している。フランジの凹凸部分は、ヘミング成形工程でヘミングローラから成形荷重を受けた場合、その凹凸が解消されて直線的に延びるような変形が許容される。つまり、ヘミングローラからの成形荷重に対しては、フランジの凹凸部分が先ずは変形代となり、凹凸が解消されるまではフランジの伸び成形が生じるのを防ぐことができる。そして、凹凸が解消された後にフランジの実質的な押し潰しに移行する。これに対して、従来の凹凸の無い平坦なフランジの場合、ヘミングローラからの成形荷重によって最初からフランジの伸び成形が生じることが想定される。
【0009】
このため、凹凸形状をなすフランジが最終的な本曲げ位置まで押し潰されるときに生じる変形応力は、従来の凹凸の無い平坦なフランジが本曲げ位置まで押し潰されるときに生じる変形応力よりも小さくなる。したがって、アウタパネルのフランジがヘミング成形工程の前段階である起立状態で予め凹凸形状をなすようにすれば、その後のヘミング成形時に生じる変形応力を低く抑えることができ、このときの変形応力に伴ってアウタパネルの本体部が大きく撓み変形するのを抑制できる。その結果、アウタパネルの外観品質が低下するのを防ぐことができる。
【0010】
以上のごとく、上述の態様によれば、アウタパネルのフランジを折り返してインナパネルと一体化するときに生じるアウタパネルの撓み変形を抑制できるパネル成形方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1のパネル成形方法で成形された成形体の斜視図。
図2】実施形態1のパネル成形方法のフローチャート。
図3図2の第1ステップの実施時の様子を示す側面図。
図4図3を矢印A方向から見た図。
図5図2の第1ステップの実施後におけるアウタパネル及びインナパネルの側面図。
図6図5を矢印B方向から見た図。
図7図5のアウタパネルを上下反転させた状態にて示す斜視図。
図8図2の第2ステップの実施時におけるアウタパネル及びインナパネルの斜視図。
図9図2の第3ステップの実施直前におけるアウタパネル及びインナパネルの斜視図。
図10図2の第3ステップの実施時におけるアウタパネル及びインナパネルの斜視図。
図11図2の第3ステップの実施時におけるアウタパネル及びインナパネルの斜視図。
図12図2の第3ステップの実施時のアウタパネル及びインナパネルをアウタパネルのフランジが予備曲げ位置にあるときの状態にて示す側面図。
図13図2の第3ステップの実施時のアウタパネル及びインナパネルをアウタパネルのフランジが本曲げ位置にあるときの状態にて示す側面図。
図14】車両ドアを構成するドアアウタパネル及びドアインナパネルの成形前の斜視図。
図15】アウタパネルのフランジのフランジ端縁における凹凸形状の第1変更例を示す図。
図16】アウタパネルのフランジのフランジ端縁における凹凸形状の第2変更例を示す図。
図17】アウタパネルのフランジのフランジ端縁における凹凸形状の第3変更例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述の態様の好ましい実施形態について以下に説明する。
【0013】
上述の態様のパネル成形方法において、上記フランジ立て工程では、凹凸形状の刃面を有する曲げ刃を使用し、上記フランジを上記曲げ刃で初期展開位置から起立位置まで押し曲げて上記起立状態とするとともに、上記フランジの押し曲げ時に上記刃面の凹凸形状にしたがって上記フランジを凹凸形状とするのが好ましい。
【0014】
このパネル成形方法によれば、凹凸形状の刃面を有する曲げ刃を使用してアウタパネルのフランジを起立状態とする第1処理とこのフランジを凹凸形状とする第2処理を並行して行うことができる。これにより、第1処理と第2処理を別々に実施する場合に比べて、フランジ立て工程に要する時間を短縮することが可能になる。
【0015】
上述の態様のパネル成形方法において、上記フランジ立て工程では、上記ヘミング成形工程において上記ヘミングローラが転動する転動方向に対して、上記アウタパネルの上記フランジにおける凹凸の境界線が上記転動方向を横切って延びるように上記フランジを成形するのが好ましい。
【0016】
このパネル成形方法によれば、アウタパネルのフランジにおける凹凸の境界線がヘミングローラの転動方向を切るように延びているため、ヘミングローラがフランジの凹凸部分をヘミング成形するときに、この凹凸部分を変形代として有効に使用できる。これにより、ヘミング成形時に生じる変形応力をより低く抑えることが可能になる。
【0017】
上述の態様のパネル成形方法において、上記アウタパネル及び上記インナパネルはそれぞれ、車両ドアのドアアウタパネル及びドアインナパネルであり、上記ドアアウタパネルは、上記ドアインナパネルを重ねる面を凹面とする湾曲形状をなしているのが好ましい。
【0018】
このパネル成形方法によれば、湾曲形状のドアアウタパネルのフランジを起立状態とする成形は、フランジがフランジ幅方向に縮む縮み成形となる。一方で、このドアアウタパネルにおいて起立状態のフランジに対するヘミング成形は、フランジがフランジ幅方向に伸びる伸び成形となる。したがって、湾曲形状のドアアウタパネルのフランジがヘミング成形の前段階である起立状態で凹凸形状をなすようにすれば、その後のヘミング成形時にフランジの伸び成形が生じるのを防ぐ効果が特に際立つ。
【0019】
以下、上述の態様のパネル成形方法の具体的な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
なお、本明細書及び図面では、特に断わらない限り、パネル幅方向をX軸方向とし、パネル上下方向をY軸方向とし、パネル奥行方向をZ軸方向としている。
【0021】
(実施形態1)
1.成形体Wの構造
図1に示されるように、成形体Wは、アウタパネル10とインナパネル20が一体化されたものである。この成形体Wは、例えば、自動車の車体を構成する各種パーツとして使用される。アウタパネル10の本体部11にインナパネル20の端部21を重ねた状態で展開状態のフランジ12を折り返すことによって成形体Wが形成される。アウタパネル10及びインナパネル20はいずれも、鋼板によって構成されている。
【0022】
2.パネル成形方法
実施形態1のパネル成形方法は、図1に示される成形体Wを形成するための方法である。このパネル成形方法では、図2の第1ステップS101から第3ステップS103までの工程が順次実行される。なお、必要に応じて、別のステップが追加されても良いし、或いは、各ステップが複数の工程に分割されても良い。
【0023】
2-1.フランジ立て工程
図2の第1ステップS101は、アウタパネル10のフランジ12が本体部11に対して起立状態で且つ厚み方向に凹凸形状をなすようにフランジ12を成形するフランジ立て工程である。この第1ステップS101では、図3図6に示されるように、凹凸形状の刃面31を有する曲げ刃30を使用する。曲げ刃30は、その刃面31がX軸方向に交互に設けられた凸刃部31a及び凹刃部31bによって凹凸形状とされている(図6を参照)。第1ステップS101は、被加工材の塑性変形を利用した塑性加工(プレス加工)の1つの形態である。
【0024】
図3及び図4に示されるように、第1ステップS101では、先ず、アウタパネル10の本体部11を下刃32とパッド33とで挟み込む。そして、曲げ刃30を初期展開位置P1にあるフランジ12の表面(Y軸方向の下面)に押し当てた状態で、このフランジ12を曲げ方向D1(図5を参照)に押し曲げるように曲げ刃30を下向きに動かす。このとき、フランジ12は、屈曲予定部12bを中心に初期展開位置P1から起立位置P2まで曲げ方向D1(図3を参照)に回動する。
【0025】
図5に示されるように、アウタパネル10のフランジ12は、曲げ刃30による押し曲げによって起立位置P2で起立状態になるとともに、曲げ刃30の刃面31の凹凸形状にしたがって厚み方向に凹凸形状をなすように塑性変形する。すなわち、刃面31の凸刃部31aによってフランジ12に凸部14が形成され、且つ、刃面31の凹刃部31bによってフランジ12に凹部13が形成される。
【0026】
図6に示されるように、本形態では、フランジ12の凹凸形状について、フランジ12のうち曲げ方向D1の後方側に突出した部位を凹部13といい、曲げ方向D1の前方側に突出した部位を凸部14という。本形態の第1ステップS101によれば、X軸方向に凹部13と凸部14が交互に連続して設けられるようにフランジ12が成形される。
【0027】
図7に示されるように、起立状態のフランジ12の凹部13及び凸部14はいずれも、屈曲予定部12b側からフランジ端縁12a側に向かうにつれて凹み深さが徐々に大きくなるように構成されている。図6に示されるように、本形態では、起立状態のフランジ12のフランジ端縁12aにおける凹み深さは、凹部13及び凸部14で概ね同じである。このようにすれば、ヘミング成形時にフランジ12をX軸方向に均等に変形させることができる。
【0028】
また、図7に示されるように、本形態では、起立状態のフランジ12をZ軸方向から見たとき、そのフランジ12の凹部13と凸部14の仮想の境界線Lは、概ねジグザグ状に形成される。これは、フランジ12の構造上、フランジ端縁12a側の部位に比べて屈曲予定部12b側の部位の変形が規制されるからである。このとき、境界線Lは、後述の第3ステップS103においてヘミングローラ40が転動する転動方向D2(図9を参照)を横切るように延びている。
【0029】
第1ステップS101によれば、凹凸形状の刃面31を有する曲げ刃30を使用してアウタパネル10のフランジ12を起立状態とする第1処理とこのフランジ12を凹凸形状とする第2処理を並行して行うことができる。これにより、これら2つの処理を別々に実施する場合に比べて、第1ステップS101に要する時間を短縮することが可能になる。
【0030】
2-2.パネル重ね工程
図2の第2ステップS102は、アウタパネル10にインナパネル20を重ねるパネル重ね工程である。この第2ステップS102では、先ず、図5のアウタパネル10をフランジ12が上向きに延びるように上下反転させた配置状態とする(図7を参照)。その後、図8に示されるように、この第2ステップS102では、アウタパネル10の本体部11の上面にインナパネル20の折り曲げ端部21を重ねるようにセットする。このとき、インナパネル20の折り曲げ端部21は、その端縁21aがアウタパネル10のフランジ12の屈曲予定部12bに近接するように配置される。
【0031】
2-3.ヘミング成形工程
図2の第3ステップS103は、第2ステップS102の後で、第1ステップS101のフランジ立て工程で成形したアウタパネル10のフランジ12をヘミングローラ40でインナパネル20側に曲げ成形してインナパネル20と一体化するヘミング成形工程である。特に図示しないものの、ヘミングローラ40は、ティーチングプレイバック式のロボットに保持されており、このロボットの制御によって、ヘミングローラ40の位置及び姿勢が制御されるようになっている。
【0032】
第3ステップS103では、図9図12に示されるように、ヘミングローラ40がアウタパネル10のフランジ12の凹凸を平坦状に変形させて押し潰しながらフランジ端縁12aに沿って転動するようにヘミングローラ40を動かす。ここでいう「転動」とは、ヘミングローラ40がフランジ12の表面を転がることによって仮想軸線41を中心に回転する動作をいう。このとき、ヘミングローラ40を、転動方向D2(図9図11を参照)に動かすとともに、曲げ方向D3(図12を参照)に動かす。第3ステップS103は、第1ステップS101と同様に、被加工材の塑性変形を利用した塑性加工(プレス加工)の1つの形態である。
【0033】
第3ステップS103によれば、図10及び図11に示されるように、アウタパネル10のフランジ12の凹凸がヘミングローラ40によって順次平坦状に押し潰されて変形していく。このとき、フランジ12の湾曲状の凹部13及び凸部14のそれぞれの線長は、これら凹部13及び凸部14がヘミングローラ40で押し潰されて直線状に変形するときの変形代となる。凹部13や凸部14の線長が長いほど(凹む深さが大きいほど)変形代を増やすことができる。
【0034】
また、第3ステップS103によれば、図12に示されるように、アウタパネル10のフランジ12をX軸方向から見たとき、フランジ12は、屈曲予定部12bを中心に起立位置P2から予備曲げ位置P3まで曲げ方向D3に座屈する。また、図13に示されるように、フランジ12は、更に、予備曲げ位置P3から本曲げ位置P4まで曲げ方向D3に座屈する。その結果、アウタパネル10の本体部11とフランジ12との間にインナパネル20の端部21が挟み込まれて一体化される(図1及び図13を参照)。
【0035】
3.作用効果
上述の実施形態1によれば、以下のような作用効果が得られる。
【0036】
実施形態1のパネル成形方法では、第1ステップS101(フランジ立て工程)でアウタパネル10のフランジ12を予め凹凸形状に成形している。フランジ12の凹凸部分は、第3ステップ(ヘミング成形工程)でヘミングローラ40から成形荷重を受けた場合、その凹凸が解消されて直線的に延びるような変形が許容される。つまり、ヘミングローラ40からの成形荷重に対しては、フランジ12の凹凸部分が先ずは変形代となり、凹凸が解消されるまではフランジ12の伸び成形が生じるのを防ぐことができる。そして、凹凸が解消された後にフランジ12の実質的な押し潰しに移行する。これに対して、従来の凹凸の無い平坦なフランジ12の場合には、ヘミングローラ40からの成形荷重によって最初からフランジ12の伸び成形が生じることが想定される。
【0037】
このため、凹凸形状をなすフランジ12が最終的な本曲げ位置まで押し潰されるときに生じる変形応力は、従来の凹凸の無い平坦なフランジ12が本曲げ位置まで押し潰されるときに生じる変形応力よりも小さくなる。したがって、アウタパネル10のフランジ12が第3ステップS103(ヘミング成形工程)の前段階である起立状態で予め凹凸形状をなすようにすれば、その後のヘミング成形時に生じる変形応力を低く抑えることができ、このときの変形応力に伴ってアウタパネル10の本体部11が大きく撓み変形するのを抑制できる。その結果、アウタパネル10の外観品質が低下するのを防ぐことができる。
【0038】
とりわけ、アウタパネル10のフランジ12における凹凸の境界線Lがヘミングローラ40の転動方向D2を切るように延びている場合には、ヘミングローラ40がフランジ12の凹凸部分をヘミング成形するときに、この凹凸部分を変形代として有効に使用できる。これにより、ヘミング成形時に生じる変形応力をより低く抑えることが可能になる。
【0039】
したがって、実施形態1のパネル成形方法によれば、アウタパネル10のフランジ12を折り返してインナパネル20と一体化するときに生じるアウタパネル10の撓み変形を抑制することができる。
【0040】
なお、実施形態1のパネル成形方法を、例えば、車両ドアの成形に使用することができる。図14に示されるように、アウタパネル10及びインナパネル20がそれぞれ、車両ドアのドアアウタパネル及びドアインナパネルとなる。そして、アウタパネル10(ドアアウタパネル)は、インナパネル20(ドアインナパネル)を重ねる面を凹面とする湾曲形状をなしている。
【0041】
上記構成の車両ドアを成形する場合、湾曲形状のアウタパネル10のフランジ12を起立状態とする成形は、フランジ12がフランジ幅方向(X軸方向)に縮む縮み成形となる。一方で、このアウタパネル10において起立状態のフランジ12に対するヘミング成形は、フランジ12がフランジ幅方向(X軸方向)に伸びる伸び成形となる。したがって、湾曲形状のアウタパネル10のフランジ12がヘミング成形の前段階である起立状態で凹凸形状をなすようにすれば、その後のヘミング成形時にフランジ12の伸び成形が生じるのを防ぐ効果が特に際立つ。
【0042】
本発明は、上述の典型的な形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変更が考えられる。例えば、上述の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0043】
上述の形態では、起立状態におけるフランジ12のフランジ端縁12aが図6に示されるような凹凸形状である場合について例示したが、この凹凸形状は、図6のものに限定されるものではなく、必要に応じて適宜の凹凸形状を採用しても良い。例えば、図15に示されるようにフランジ12の複数の凹部13が平坦部15を間に挟んでX軸方向に断続的に且つ等間隔で配置される凹凸形状(第1変更例)をなす構造や、図16に示されるようにフランジ12の複数の凸部14が平坦部15を間に挟んでX軸方向に断続的に且つ等間隔で配置される凹凸形状(第2変更例)をなす構造や、図17に示されるように複数の凹部13及び凸部14がX軸方向に交互且つ平坦部15を間に挟んで断続的に配置される凹凸形状(第3変更例)をなす構造などを採用することができる。
【0044】
上述の形態では、アウタパネル10のフランジ12を起立状態とする処理とこのフランジ12を凹凸形状とする処理を曲げ刃30で並行して行う場合について例示したが、これに代えて、アウタパネル10のフランジ12を凹凸形状とする処理を実施した後、このフランジ12を起立状態とする処理を実施するようにしても良い。要するに、第3ステップS103であるヘミング成形工程の前段階で、フランジ12が厚み方向に凹凸形状をなすように成形されていれば足りる。
【符号の説明】
【0045】
10…アウタパネル、 11…本体部、 12…フランジ、 12a…フランジ端縁、 30…曲げ刃、 31…刃面、 40…ヘミングローラ、 D2…転動方向、 L…境界線、 P1…初期展開位置、 P2…起立位置、 S101~S103…パネル成形方法、 S101…第1ステップ(フランジ立て工程)、 S102…第2ステップ(パネル重ね工程)、 S103…第3ステップ(ヘミング成形工程)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17