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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166774
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】昇圧装置および昇圧システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20241122BHJP
【FI】
H02M3/155 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083110
(22)【出願日】2023-05-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1) 発行日(公開日) 令和4年8月23日 刊行物 2022年 電子情報通信学会 ソサイエティ大会 講演論文集 PDF閲覧 *参加者専用アドレスより公開(参加者のみ閲覧可) (公開アドレスURL:https://www.ieice-taikai.jp/2022society/jpn/pdfdownload.html) <資 料> 2022年 電子情報通信学会 ソサイエティ大会 開催日程 <資 料> 講演論文集 掲載研究論文 (2) 開催日 令和4年9月8日 集会名 電子情報通信学会 ソサイエティ大会 (会期:令和4年9月6日~9日) オンライン開催 <資 料> 2022年 電子情報通信学会 ソサイエティ大会 プログラム <資 料> オンライン研究発表資料
(71)【出願人】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】矢嶋 赳彬
(72)【発明者】
【氏名】イン コウ
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AS04
5H730BB14
5H730DD04
5H730EE13
5H730FF09
(57)【要約】
【課題】熱電素子から効率的に必要な電力を得ることができる昇圧装置および昇圧システムを提供する。
【解決手段】昇圧装置は、熱電素子の正電極が接続される正極端子と、負電極が接続される負極端子と、第1端子と第2端子とを備え、正極端子に第1端子が接続される誘導素子と、第1制御端子と、第1入力端子と、第1出力端子とを備え、誘導素子の第2端子に第1入力端子が、負極端子に第1出力端子が接続される第1スイッチ素子と、第2制御端子と、第2入力端子と、第2出力端子とを備え、誘導素子の第2端子に第2入力端子が接続される第2スイッチ素子と、熱電素子が出力する直流電力を昇圧する制御部と、を備え、熱電素子の内部抵抗、誘導素子の直流抵抗、第1スイッチ素子のオン抵抗、配線抵抗、入力電圧、出力電力が所定の条件式を満たす。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度差を直流電力に変換する熱電材料と、前記熱電材料から前記直流電力を取り出す正電極および負電極とからなる熱電素子の前記正電極が接続される正極端子と、
前記負電極が接続される負極端子と、
第1端子と第2端子とを備え、前記正極端子に前記第1端子が接続される誘導素子と、
第1制御端子と、第1入力端子と、第1出力端子とを備え、前記誘導素子の前記第2端子に前記第1入力端子が、前記負極端子に前記第1出力端子が接続される第1スイッチ素子と、
第2制御端子と、第2入力端子と、第2出力端子とを備え、前記誘導素子の前記第2端子に前記第2入力端子が接続される第2スイッチ素子と、
前記第1スイッチ素子の前記第1制御端子に第1制御信号を、前記第2スイッチ素子の前記第2制御端子に第2制御信号を、それぞれ所定のデューティ比にして出力し、前記第1スイッチ素子および前記第2スイッチ素子を交互にオン/オフ制御することにより、前記熱電素子が出力する直流電力を昇圧する制御部と、
を備え、
前記熱電素子の内部抵抗をRIN、前記誘導素子の直流抵抗をRL、第1スイッチ素子のオン抵抗をRON、前記正極端子から前記誘導素子と前記第1スイッチ素子とを経由して前記負極端子に至る配線抵抗をRCAB、前記正極端子および前記負極端子間の開放時の熱電素子の出力電圧をVOC、出力端子の両端間に接続される負荷に対して出力される昇圧後の電力を出力電力POUTとした場合に、式(A)
【数1】
を満たす昇圧装置。
【請求項2】
前記熱電素子は、前記熱電材料と前記正電極および前記負電極との組を、前記直流電力による電流経路上に一組のみ備える単層熱電素子である
請求項1に記載の昇圧装置。
【請求項3】
前記第1制御信号が前記第1スイッチ素子をオン状態に維持する時間である第1時間と、前記第2制御信号が前記第2スイッチ素子をオン状態に維持する時間である第2時間とについて、前記第1時間は、前記第2時間の100倍以上の時間である
請求項1に記載の昇圧装置。
【請求項4】
前記誘導素子のインダクタンスが0.1ミリヘンリー以上であり、
前記制御部は、
前記第1制御信号が前記第1スイッチ素子をオン状態に維持するオン時間と、前記第1スイッチ素子をオフ状態に維持するオフ時間とを1周期とする第1スイッチング周波数と、
前記第2制御信号が前記第2スイッチ素子をオン状態に維持するオン時間と、前記第2スイッチ素子をオフ状態に維持するオフ時間とを1周期とする第2スイッチング周波数と、
をいずれも100ヘルツから5キロヘルツまでにして、前記第1スイッチ素子および前記第2スイッチ素子をオン/オフ制御する
請求項1に記載の昇圧装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記第1制御信号が前記第1スイッチ素子をオン状態に維持する時間と、前記第2制御信号が前記第2スイッチ素子をオン状態に維持する時間とが重ならないようにして、前記第1スイッチ素子および前記第2スイッチ素子をオン/オフ制御する
請求項1に記載の昇圧装置。
【請求項6】
前記第1スイッチ素子のゲート容量をC1、前記第2スイッチ素子のゲート容量をC2、前記第1制御端子および前記第2制御端子に印加されるゲート電圧をVCONT、前記誘導素子を流れるコイル電流の波形の周期をτ、前記熱電素子の内部抵抗RINと前記誘導素子の直流抵抗をRLと第1スイッチ素子のオン抵抗をRONと前記正極端子から前記誘導素子と前記第1スイッチ素子とを経由して前記負極端子に至る配線抵抗をRCABとの合成抵抗をRS、前記正極端子および前記負極端子間の開放時の熱電素子の出力電圧をVOCとして、式(B)
【数2】
を満たす、請求項1に記載の昇圧装置。
【請求項7】
前記熱電素子の内部抵抗RIN、前記誘導素子の直流抵抗RL、第1スイッチ素子のオン抵抗RON、前記正極端子から前記誘導素子と前記第1スイッチ素子とを経由して前記負極端子に至る配線抵抗RCABがそれぞれ10ミリオーム未満である
請求項1に記載の昇圧装置。
【請求項8】
前記正極端子と、前記負極端子と、前記誘導素子と、前記第1スイッチ素子と、前記第2スイッチ素子とを備える昇圧回路が縦続接続されている
請求項1に記載の昇圧装置。
【請求項9】
温度差を直流電力に変換する熱電材料と、前記熱電材料に接続されて前記熱電材料から前記直流電力を取り出す正電極および負電極とからなる熱電素子と、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の昇圧装置と、
を備える昇圧システム。
【請求項10】
前記昇圧装置の出力側に接続される負荷抵抗Rが、前記第1スイッチ素子をオン状態に維持している時間をT1とし、前記第1スイッチ素子をオフ状態に維持している時間をT2とした場合に、式(C)
【数3】
を満たす請求項9に記載の昇圧システム。
【請求項11】
前記昇圧装置の出力側に負荷抵抗が接続された場合の出力端子の電圧が、出力端子を開放したときの電圧の半分である
請求項9に記載の昇圧システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇圧装置および昇圧システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、入力される直流電力の電圧を昇圧して出力する、いわゆるDC-DCコンバータに関する技術が開示されている(例えば、非特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】A ±0.5-mV-Minimum-Input DC-DC Converter With Stepwise Adiabatic Gate-Drive and Efficient Timing Control for Thermoelectric Energy Harvesting, Eric J. Carlson, Joshua R. Smith, IEEE TRANSACTIONS ON CIRCUITS AND SYSTEMS-I: REGULAR PAPERS, Volume: 70 Issue: 2.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、IoT(Internet of Things)デバイスが発展している。このようなIoTデバイスにおいては動作電源を確保するために、環境中の熱流から発電する熱電発電が期待されている。しかし、現状の熱電素子は、一つの熱電素子当たりの発電電圧が1mV以下と極めて低い。一方、IoTデバイスが備えるセンサ機能や通信機能などを提供する一般的な電子回路が動作する電圧(例えば、1V程度)を確保する必要がある。上述のような熱電素子から発生する低い電圧から効率よく必要な電圧の電力を得る点で課題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、熱電素子から効率よく必要な電圧の電力を得ることができる昇圧装置および昇圧システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、温度差を直流電力に変換する熱電材料と、前記熱電材料から前記直流電力を取り出す正電極および負電極とからなる熱電素子の前記正電極が接続される正極端子と、前記負電極が接続される負極端子と、第1端子と第2端子とを備え、前記正極端子に前記第1端子が接続される誘導素子と、第1制御端子と、第1入力端子と、第1出力端子とを備え、前記誘導素子の前記第2端子に前記第1入力端子が、前記負極端子に前記第1出力端子が接続される第1スイッチ素子と、第2制御端子と、第2入力端子と、第2出力端子とを備え、前記誘導素子の前記第2端子に前記第2入力端子が接続される第2スイッチ素子と、前記第1スイッチ素子の前記第1制御端子に第1制御信号を、前記第2スイッチ素子の前記第2制御端子に第2制御信号を、それぞれ所定のデューティ比にして出力し、前記第1スイッチ素子および前記第2スイッチ素子を交互にオン/オフ制御することにより、前記熱電素子が出力する直流電力を昇圧する制御部と、を備え、前記熱電素子の内部抵抗をRIN、前記誘導素子の直流抵抗をRL、第1スイッチ素子のオン抵抗をRON、前記正極端子から前記誘導素子と前記第1スイッチ素子とを経由して前記負極端子に至る配線抵抗をRCAB、前記正極端子および前記負極端子間の開放時の熱電素子の出力電圧をVOC、出力端子の両端間に接続される負荷に対して出力される昇圧後の電力を出力電力POUTとした場合に、後述の条件式を満たす昇圧装置である。
【0007】
本発明の一実施形態は、上述の昇圧装置において、前記熱電素子は、前記熱電材料と前記正電極および前記負電極との組を、前記直流電力による電流経路上に一組のみ備える単層熱電素子である。
【0008】
本発明の一実施形態は、上述の昇圧装置において、前記第1制御信号が前記第1スイッチ素子をオン状態に維持する時間である第1時間と、前記第2制御信号が前記第2スイッチ素子をオン状態に維持する時間である第2時間とについて、前記第1時間は、前記第2時間の100倍以上の時間である。
【0009】
本発明の一実施形態は、上述の昇圧装置において、前記誘導素子のインダクタンスが0.1ミリヘンリー以上であり、前記制御部は、前記第1制御信号が前記第1スイッチ素子をオン状態に維持するオン時間と、前記第1スイッチ素子をオフ状態に維持するオフ時間とを1周期とする第1スイッチング周波数と、前記第2制御信号が前記第2スイッチ素子をオン状態に維持するオン時間と、前記第2スイッチ素子をオフ状態に維持するオフ時間とを1周期とする第2スイッチング周波数と、をいずれも100ヘルツから5キロヘルツまでにして、前記第1スイッチ素子および前記第2スイッチ素子をオン/オフ制御する。
【0010】
本発明の一実施形態は、上述の昇圧装置において、前記制御部は、前記第1制御信号が前記第1スイッチ素子をオン状態に維持する時間と、前記第2制御信号が前記第2スイッチ素子をオン状態に維持する時間とが重ならないようにして、前記第1スイッチ素子および前記第2スイッチ素子をオン/オフ制御する。
【0011】
本発明の一実施形態は、上述の昇圧装置において、前記第1スイッチ素子のゲート容量をC1、前記第2スイッチ素子のゲート容量をC2、前記第1制御端子および前記第2制御端子に印加されるゲート電圧をVCONT、前記誘導素子を流れるコイル電流の波形の周期をτ、前記熱電素子の内部抵抗RINと前記誘導素子の直流抵抗をRLと第1スイッチ素子のオン抵抗をRONと前記正極端子から前記誘導素子と前記第1スイッチ素子とを経由して前記負極端子に至る配線抵抗をRCABとの合成抵抗をRS、前記正極端子および前記負極端子間の開放時の熱電素子の出力電圧をVOCとして、後述の条件式を満たす。
【0012】
本発明の一実施形態は、上述の昇圧装置において、前記熱電素子の内部抵抗RIN、前記誘導素子の直流抵抗RL、第1スイッチ素子のオン抵抗RON、前記正極端子から前記誘導素子と前記第1スイッチ素子とを経由して前記負極端子に至る配線抵抗RCABがそれぞれ10ミリオーム未満である。
【0013】
本発明の一実施形態は、上述の昇圧装置において、前記正極端子と、前記負極端子と、前記誘導素子と、前記第1スイッチ素子と、前記第2スイッチ素子とを備える昇圧回路が縦続接続されている。
【0014】
本発明の一実施形態は、温度差を直流電力に変換する熱電材料と、前記熱電材料に接続されて前記熱電材料から前記直流電力を取り出す正電極および負電極とからなる熱電素子と、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の昇圧装置と、を備える昇圧システムである。
【0015】
本発明の一実施形態は、上述の昇圧システムにおいて、前記昇圧装置の出力側に接続される負荷抵抗Rが、前記第1スイッチ素子をオン状態に維持している時間をT1とし、前記第1スイッチ素子をオフ状態に維持している時間をT2とした場合に、後述の条件式を満たす。
【0016】
本発明の一実施形態は、上述の昇圧システムにおいて、前記昇圧装置の出力側に負荷抵抗が接続された場合の出力端子の電圧が、出力端子を開放したときの電圧の半分である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、熱電素子から効率よく必要な電圧の電力を得ることができる昇圧装置および昇圧システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の単層熱電素子の構成の一例を示す図である。
図2】本実施形態の昇圧装置の構成の一例を示す図である。
図3】本実施形態の昇圧回路の等価抵抗を示す図である。
図4】本実施形態の制御装置が出力する制御信号の波形の一例を示す図である。
図5】合成抵抗値と出力電圧との関係の一例を示す図である。
図6】本実施形態の昇圧回路の誘導素子のインダクタンスごとの、スイッチング周波数と制御電力および出力電力との関係の一例を示す図である。
図7】本実施形態の昇圧回路の動作特性の一例を示す図である。
図8】本実施形態の昇圧回路の動作特性の他の一例を示す図である。
図9】バイレグ構造の多段熱電素子の一例を示す図である。
図10】ユニレグ構造の多段熱電素子の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施形態の昇圧システムについて図を参照して説明する。昇圧システムは、昇圧回路10と、単層熱電素子20と、制御装置30とを備え、単層熱電素子20が発電した電力を必要な電圧に昇圧して、負荷40に供給する。まず、単層熱電素子20について説明する。
【0020】
図1は、本実施形態の単層熱電素子20の構成の一例を示す図である。単層熱電素子20は、正電極21と、負電極22と、熱電材料23とを備える。
熱電材料23は、温度差を直流電力に変換する。正電極21及び負電極22は、熱電材料23に接続されて熱電材料23から直流電力を取り出す。
本実施形態の一例では、熱電材料23は、ビスマス(Bi)とテルル(Te)との化合物(テルル化ビスマス、ビスマス・テルライドともいう。)を含む。正電極21及び負電極22は、例えば銅合金(あるいは純銅)である。
熱電材料23は、負電極22側の温度(例えば、温度T0。基準温度ともいう。)と、正電極21側の温度(例えば、温度T0+ΔT)との温度差(すなわち、ΔT)が与えられた場合に、例えばゼーベック効果によって、正電極21及び負電極22に電位差を発生させる。
以下の説明において、同図に示す正電極21と負電極22との間の方向、つまり温度差の方向のことを、熱流方向ともいう。
【0021】
本実施形態の一例では、温度差ΔT:5[K]である。
また、本実施形態の熱電材料23について、断面積:10×0.1[cm]、熱流方向の寸法:5[cm]、ゼーベック係数:-240[μV/K]、熱伝導率:2W/(m・K)、電気伝導率:500[S/cm]である。
本実施形態の正電極21および負電極22について、熱伝導率:400W/(m・K)、電気伝導率:6.4E5[S/cm](E5は、10の5乗)である。
上述の一例の場合、単層熱電素子20の開放電圧は、1.2[mV]である。
なお、これらの数値は一例であって、これに限られない。
【0022】
ここで、単層熱電素子20とは、直流電流経路上に、正電極21と、負電極22と、熱電材料23とを備える熱電素子を一組のみ備えるものをいう。
すなわち、単層熱電素子20は、温度差を直流電力に変換する熱電材料23と、熱電材料23に接続されて熱電材料23から直流電力を取り出す正電極21および負電極22とからなる熱電素子を、直流電力による電流経路上に一組のみ備える。
なお、本実施形態において、単層熱電素子20を直列接続して発電電圧を高めてもよい。一方で、直列接続した単層熱電素子20を採用する場合、単層熱電素子20を積層するための組み立てコストなどにより比較的高価になり、IoTデバイスに搭載するためには、コストの問題を解決しなければならない場合がある。したがって、IoTデバイスに搭載される電源としては、熱電素子を直列接続せずに、単一の(単層の)熱電素子(つまり、単層熱電素子20)を使用できることが好ましい。
【0023】
本実施形態の単層熱電素子20との対比のために、従来技術による、単層構造でない熱電素子の例を図9および図10に示す。
図9は、バイレグ構造の多段熱電素子の一例を示す図である。バイレグ構造の多段熱電素子820は、p型熱電材料とn型熱電材料との複数の熱電材料823を交互に接続し、末端のp型熱電材料に正電極821が、末端のn型熱電材料に負電極822がそれぞれ接続された構成である。
【0024】
図10は、ユニレグ構造の多段熱電素子の一例を示す図である。ユニレグ構造の多段熱電素子920は、複数に分割されたn型熱電材料を順に接続し、両端のn型熱電材料に正電極921または負電極922が接続された構成である。
【0025】
これらバイレグ構造の多段熱電素子820およびユニレグ構造の多段熱電素子920は、いずれも、直流電流経路上に複数の熱電材料が直列に多段接続された構造を有する。熱電材料が直列に多段接続されることにより、例えば単位電池に対する積層電池のように、起電力を向上させることができる。従来の技術によると、例えば数百もの熱電材料を直列に多段接続することにより、数V(ボルト)程度の起電力を得る熱電素子が提案されている。
しかしながら、熱電素子を多段接続するためには、微細加工や組み立てのコストが発生する。
本実施形態の昇圧装置1は、微細加工や組み立てのコストが、上述した多段熱電素子に比べて非常に低い単層熱電素子20を利用することにより、安価かつ構成が簡素化された電源装置を提供することを目的としている。
【0026】
なお、本実施形態の昇圧装置1は、単層熱電素子20を利用するとして説明するが、これに限られない。安価かつ構成が簡素化された電源装置の必要が小さい場合には、本実施形態の昇圧装置1は、直流電流経路上に複数の熱電材料が直列にいくつか或いは多段接続された熱電素子を用いてもよい。この場合、「単層熱電素子20」との記載の一部を「熱電素子」と適宜読み替える。
【0027】
本実施形態の昇圧装置1の具体的な構成について、図2を参照して説明する。
【0028】
図2は、本実施形態の昇圧装置1の構成の一例を示す図である。昇圧装置1は、昇圧回路10と、制御装置30とを備える。
【0029】
昇圧回路10は、単層熱電素子20に接続される端子として、正極電源端子T11と、負極電源端子T12とを備える。
正極電源端子T11(正極端子)は、単層熱電素子20の正電極21が接続される。
負極電源端子T12(負極端子)は、単層熱電素子20の負電極22が接続される。
【0030】
昇圧回路10は、その内部素子として、誘導素子11と、第1スイッチ素子12と、第2スイッチ素子13と、容量素子14とを備える。
【0031】
誘導素子11は、例えばコイルであって、誘導性の電気特性(誘導性リアクタンス)を有している。誘導素子11は、第1端子111と第2端子112とを備え、正極電源端子T11に第1端子111が接続される。本実施形態の誘導素子11は、直流抵抗値が10[mΩ]未満である。すなわち、本実施形態の誘導素子11は、直流抵抗値が10[mΩ]未満の素子が選定されている。
【0032】
第1スイッチ素子12および第2スイッチ素子13は、いずれも、例えば電界効果トランジスタ(FET)である。
第1スイッチ素子12は、第1制御端子121(例えば、ゲート端子)と、第1入力端子122(例えば、ドレイン端子)と、第1出力端子123(例えば、ソース端子)とを備える。第1スイッチ素子12は、誘導素子11の第2端子112に第1入力端子122が、負極電源端子T12(負極端子)に第1出力端子123が接続される。
【0033】
第2スイッチ素子13は、第2制御端子131(例えば、ゲート端子)と、第2入力端子132(例えば、ドレイン端子)と、第2出力端子133(例えば、ソース端子)とを備える。第2スイッチ素子13は、誘導素子11の第2端子112に第2入力端子132が接続される。
【0034】
容量素子14は、例えばコンデンサであって、容量性の電気特性(容量性リアクタンス)を有している。容量素子14は、一端(第1容量端子141)が第2スイッチ素子13の第2出力端子133に接続され、他端(第2容量端子142)が負極電源端子T12(負極端子)に接続される。
【0035】
昇圧回路10は、負荷40に接続される端子として、正極負荷端子T13と負極負荷端子T14とを備える。正極負荷端子T13は、容量素子14の一端(第1容量端子141)に接続される。負極負荷端子T14は、容量素子14の他端(第2容量端子142)に接続される。
【0036】
昇圧回路10は、制御装置30に接続される端子として、第1制御入力端子T15と、第2制御入力端子T16とを備える。第1制御入力端子T15は、第1スイッチ素子12の第1制御端子121(例えば、ゲート端子)に接続される。第2制御入力端子T16は、第2スイッチ素子13の第2制御端子131(例えば、ゲート端子)に接続される。
【0037】
上述した回路構成により、昇圧回路10は、いわゆる昇圧型DC-DCコンバータ(昇圧チョッパ)として機能する。
【0038】
制御装置30は、制御部31を備えている。この制御部31は、いわゆる演算増幅器(OPアンプ)や抵抗素子、コンデンサなどのアナログ素子で構成されており、第1スイッチ素子12や第2スイッチ素子13の動作タイミングを制御する。また、制御部31は、演算増幅器(OPアンプ)を使用せずに、複数のトランジスタを組み合わせたディスクリート回路として構成されていてもよい。すなわち、制御部31は、スイッチングのタイミング制御を行うアナログ回路である。このように構成された制御装置30は、きわめて小さな電力で動作することができる。
なお、制御装置30は、電力収支が満たせば組み込み型マイクロコンピュータとして構成されていてもよい。この場合、例えば、制御部31と、記憶部32とを備えている。記憶部32は、半導体メモリ等を備えており、制御部31の動作を規定するプログラムやデータが予め記憶されている。制御装置30は、昇圧回路10の容量素子14に蓄えられている電力で動作する。なお、同図において、昇圧回路10から制御装置30に対する電力供給経路の図示は省略している。
制御部31は、例えば、組み込み型マイクロコンピュータを備えており、記憶部32に記憶されているプログラムに基づいて動作することにより、各種の機能を提供する。
以下の説明において、制御部31と記載した場合、上述したアナログ回路であってもよいし、組み込み型マイクロコンピュータであってもよい。
【0039】
制御部31は、第1スイッチ素子12の第1制御端子121に第1制御信号S1を、第2スイッチ素子13の第2制御端子131に第2制御信号S2を、それぞれ出力する。
【0040】
第1制御信号S1は、第1スイッチ素子12の第1制御端子121(例えば、ゲート端子)を駆動することにより、第1スイッチ素子12をオン状態またはオフ状態に制御する。
第1スイッチ素子12のオン状態とは、第1スイッチ素子12の第1入力端子122(例えば、ドレイン端子)と第1出力端子123(例えば、ソース端子)との間の抵抗値が十分に低くされ、第1入力端子122(例えば、ドレイン端子)と第1出力端子123(例えば、ソース端子)との間が導通状態になることをいう。
本実施形態の第1スイッチ素子12は、オン状態である場合の直流抵抗値(オン抵抗)が、10[mΩ]未満である。すなわち、本実施形態の第1スイッチ素子12は、オン抵抗が10[mΩ]未満の素子が選定されている。
第1スイッチ素子12のオフ状態とは、第1入力端子122(例えば、ドレイン端子)と第1出力端子123(例えば、ソース端子)との間の抵抗値が十分に高くされ、第1入力端子122(例えば、ドレイン端子)と第1出力端子123(例えば、ソース端子)との間が非導通状態になることをいう。
【0041】
第2制御信号S2は、第2スイッチ素子13の第2制御端子131(例えば、ゲート端子)を駆動することにより、第2スイッチ素子13をオン状態またはオフ状態に制御する。
第2スイッチ素子13のオン状態とは、第2スイッチ素子13の第2入力端子132(例えば、ドレイン端子)と第2出力端子133(例えば、ソース端子)との間の抵抗値が十分に低くされ、第2入力端子132(例えば、ドレイン端子)と第2出力端子133(例えば、ソース端子)との間が導通状態になることをいう。
第2スイッチ素子13のオフ状態とは、第2入力端子132(例えば、ドレイン端子)と第2出力端子133(例えば、ソース端子)との間の抵抗値が十分に高くされ、第2入力端子132(例えば、ドレイン端子)と第2出力端子133(例えば、ソース端子)との間が非導通状態になることをいう。
【0042】
なお、本実施形態の第2スイッチ素子13は、オン状態である場合の直流抵抗値(オン抵抗)が、10[mΩ]未満であることが望ましい。すなわち、本実施形態の第2スイッチ素子13は、オン抵抗が10[mΩ]未満の素子が選定されることが望ましい。
【0043】
なお、上述した説明では、誘導素子11の直流抵抗値、第1スイッチ素子12のオン抵抗、それぞれ10[mΩ]未満であることが好ましいとして説明した。
さらに、単層熱電素子20の内部抵抗である抵抗RIN(内部抵抗RIN)、誘導素子11の直流抵抗値である抵抗RL(直流抵抗RL)、第1スイッチ素子12のオン抵抗である抵抗RON(オン抵抗RON)、および、これら単層熱電素子20と誘導素子11と第1スイッチ素子12とをつなぐ回路の配線抵抗である抵抗RCAB(配線抵抗RCAB)が、それぞれ10[mΩ]未満であれば、より好ましい。
【0044】
具体的には、電圧VOCを単層熱電素子20の開放電圧、抵抗RINを単層熱電素子20の内部抵抗、抵抗RLを誘導素子11の直流抵抗、抵抗RONを第1スイッチ素子12のオン抵抗、抵抗RCABを配線抵抗とした場合、正極負荷端子T13および負極負荷端子T14から見込んだ負荷40の入力インピーダンス(つまり、負荷抵抗)を最適化した場合の最大の出力電力POUTは、式(1)で表される。熱電素子(例えば、単層熱電素子20。以下の説明において同じ。)と昇圧回路10の間のインピーダンスマッチングを考えると、熱電素子から取り出せる電力の最大値はVOC^2 / 4RINである(式中の^(ハット)は、べき乗を表す。VOCは電圧VOC、RINは内部抵抗RINを意味する。以下の説明において同じ。)。しかし、熱電素子と昇圧回路10とを組み合わせたものから取り出せる電力の最大値POUTは、VOC^2 / 4RINでは与えられず、RINの部分を、電源回路内部の寄生抵抗も含めたRIN + RL + RON + RCABに置き換えなければならない(式中のRLは直流抵抗RL、RONはオン抵抗RON、RCABは配線抵抗RCABを意味する。以下の説明において同じ。)。つまり熱電素子のRINと昇圧回路10の寄生抵抗成分(RL + RON + RCAB)を個別に考えていては正しい設計値は得られず、両者をまとめた(RIN + RL + RON + RCAB)という形で協調設計しなければならない。この点が本実施形態における重要な点である。熱電素子の開放電圧VOCが1[mV]よりも十分大きい場合は、RINが比較的大きくなるためRL + RON + RCABを無視することができ、従ってこれまでRL + RON + RCABはPOUTに直接影響してこなかった(式中のPOUTは出力電力POUTを意味する。以下の説明において同じ。)。しかし、熱電素子の開放電圧VOCが1mV程度しか得られない場合は、RINが極めて小さくなることからRL + RON + RCABがPOUTに強く影響してしまう。その結果、1[mV]からの昇圧回路においてはRL + RON + RCABを十分考慮して小さく設計する必要があり、その値は、必要なPOUTと発電素子のVOCが与えられたとき、式(1)で与えられる。
【0045】
【数1】
【0046】
ここで、出力電力POUTを数十[μW]とする場合、単層熱電素子20からの入力電圧VOCが1[mV]である場合、単層熱電素子20の内部抵抗である抵抗RIN、誘導素子11の直流抵抗値である抵抗RL、第1スイッチ素子12のオン抵抗である抵抗RON、および、これら単層熱電素子20と誘導素子11と第1スイッチ素子12とをつなぐ回路の配線抵抗である抵抗RCABが、それぞれ10[mΩ]未満であることが好ましい。なお、抵抗RIN、抵抗RL、抵抗RONおよび抵抗RCABを合成した抵抗を合成抵抗Rsともいう。
【0047】
図3は、本実施形態の昇圧回路の等価抵抗を示す図である。昇圧回路10は、単層熱電素子20から正極電源端子T11、誘導素子11、第1スイッチ素子12、負極電源端子T12を通り、単層熱電素子20に戻る回路を構成する。同図には、この回路の各部の等価抵抗を示す。
具体的には、抵抗24は、単層熱電素子20の等価抵抗(抵抗RIN)である。なお、抵抗RINの抵抗値は極めて小さいため、以下の説明においては記載を省略する場合がある。
抵抗114は、誘導素子11の等価抵抗である。
抵抗125は、第1スイッチ素子12のオン抵抗の等価抵抗である。なお、同図においては、第1スイッチ素子12は、オン抵抗を考慮しない等価スイッチ素子124と、オン抵抗の等価抵抗である抵抗125とに分けて示している。
抵抗151は、単層熱電素子20から誘導素子11に至る配線の等価抵抗である。抵抗152は、誘導素子11から第1スイッチ素子12に至る配線の等価抵抗である。抵抗153は、第1スイッチ素子12から単層熱電素子20に至る配線の等価抵抗である。
【0048】
なお、抵抗151は、単層熱電素子20から誘導素子11に至る配線の等価抵抗であるとしたが、これに限られない。例えば、単層熱電素子20から正極電源端子T11に至る配線の抵抗値が十分小さければ、抵抗151は、正極電源端子T11から誘導素子11に至る配線の等価抵抗であるとしてもよい。
同様に、抵抗153は、第1スイッチ素子12から単層熱電素子20に至る配線の等価抵抗であるとしたが、これに限られない。例えば、負極電源端子T12から単層熱電素子20に至る配線の抵抗値が十分小さければ、抵抗153は、第1スイッチ素子12から負極電源端子T12に至る配線の等価抵抗であるとしてもよい。
【0049】
制御部31は、第1制御信号S1および第2制御信号S2を、それぞれ所定のデューティ比にして出力し、第1スイッチ素子12および第2スイッチ素子13を交互にオン/オフ制御することにより、単層熱電素子20が出力する直流電力を昇圧する。
【0050】
図4は、本実施形態の制御装置30が出力する制御信号の波形の一例を示す図である。同図(A)は、制御装置30が出力する第1制御信号S1の波形の一例を示す。同図において横軸は時刻t、縦軸は第1制御端子121への印加電圧V1を示す。印加電圧V1について、電圧V1Lが第1スイッチ素子12をオフ状態にする電圧を、電圧V1Hが第1スイッチ素子12をオン状態にする電圧を示す。
第1制御信号S1は、所定のデューティ比によって、第1スイッチ素子12のオン/オフを制御する信号である。同図に示す第1オン時間T1on(第1時間T1)は、第1スイッチ素子12をオン状態に維持している時間である。第1オフ時間T1off(第2時間T2)は、第1スイッチ素子12をオフ状態に維持している時間である。第1オン時間T1onと第1オフ時間T1offとを合計した時間、すなわち、第1時間T1と第2時間T2とを合計した時間を、スイッチング周期τともいう。
【0051】
同図(B)は、制御装置30が出力する第2制御信号S2の波形の一例を示す。同図において横軸は時刻t、縦軸は第2制御端子131への印加電圧V2を示す。印加電圧V2について、電圧V2Lが第2スイッチ素子13をオフ状態にする電圧を、電圧V2Hが第2スイッチ素子13をオン状態にする電圧を示す。
第2制御信号S2は、所定のデューティ比によって、第2スイッチ素子13のオン/オフを制御する信号である。同図に示す第2オン時間T2onは、第2スイッチ素子13をオン状態に維持している時間であり、上述した第2時間T2に一致する。第2オフ時間T2offは、第2スイッチ素子13をオフ状態に維持している時間であり、上述した第1時間T1に一致する。第2オン時間T2onと第2オフ時間T2offとを合計した時間は、上述したスイッチング周期τに一致する。
【0052】
同図(C)は、第1制御信号S1および第2制御信号S2によって制御された結果、誘導素子11に流れるコイル電流ILの波形の一例を示す。同図において横軸は時刻t、縦軸はコイル電流ILの電流値を示す。電流値ILHは、コイル電流ILの最大値の一例を示す。電流値ILLは、コイル電流ILの最小値の一例を示す。
【0053】
なお、仮に、第1スイッチ素子12と、第2スイッチ素子13とが同時にオン状態にされた場合、容量素子14から、第2スイッチ素子13および第1スイッチ素子12を介して、負極負荷端子T14側に漏れ電流が発生する場合がある。この場合、容量素子14に十分な電荷を蓄積できず、出力電圧が低下する原因となり得る。
【0054】
本実施形態の制御部31は、第1スイッチ素子12と、第2スイッチ素子13とを同時にオン状態にしないように制御するように、回路の各アナログ素子のパラメータが設定されている(或いは、記憶部32に記憶されているプログラムが設定されている)。すなわち、制御部31は、第1制御信号S1が第1スイッチ素子12をオン状態に維持する時間と、第2制御信号S2が第2スイッチ素子13をオン状態に維持する時間とが重ならないようにして、第1スイッチ素子12および第2スイッチ素子13をオン/オフ制御する。
【0055】
このように構成された昇圧装置1によれば、容量素子14から、第2スイッチ素子13および第1スイッチ素子12を介して、負極負荷端子T14側に漏れ電流が発生することを抑止することができる。
【0056】
ここで、正極電源端子T11と負極電源端子T12との間の電圧(つまり、単層熱電素子20の出力電圧)を入力電圧VOCとし、正極負荷端子T13と負極負荷端子T14との間の電圧(つまり、負荷40に出力される電圧)を出力電圧Voutとする。この場合、入力電圧VOC、出力電圧Voutと、第1オン時間T1on(第1時間T1とも記載する。)、第2オン時間T2on(第2時間T2とも記載する。)とは、抵抗成分を無視した近似として、式(2)に示す関係を有する。
【0057】
【数2】
【0058】
本実施形態の制御部31は、第1オン時間T1on(第1時間T1)と、第2オン時間T2on(第2時間T2)との比を100倍以上にして、第1制御信号S1および第2制御信号S2を出力する。
すなわち、第1制御信号S1が第1スイッチ素子12をオン状態に維持する時間である第1オン時間T1on(第1時間T1)と、第2制御信号S2が第2スイッチ素子13をオン状態に維持する時間である第2オン時間T2on(第2時間T2)とについて、第1オン時間T1on(第1時間T1)は、第2オン時間T2on(第2時間T2)の100倍以上の時間である。
【0059】
このように構成された昇圧装置1によれば、入力電圧VOC(つまり、単層熱電素子20の出力電圧)が1.0~1.5[mV]程度であったとしても、上述した第1オン時間T1on(第1時間T1)と第2オン時間T2on(第2時間T2)との比を、数百倍(例えば、700倍)から1000倍程度(例えば、1000倍)にすれば、出力電圧Voutを1.0[V]程度にまで昇圧することができる。したがって、昇圧装置1によれば、構成が簡素な単層熱電素子20を使用しても、一般的な電子回路(例えば、センサ回路や通信回路)が動作する1.0[V]程度の電力を供給することができる。
【0060】
なお、図4(C)に示すコイル電流ILの波形の周期をスイッチング周期τとする。単層熱電素子20の内部抵抗である抵抗RIN、誘導素子11の直流抵抗値である抵抗RL、第1スイッチ素子12のオン抵抗である抵抗RON、および、これら単層熱電素子20と誘導素子11と第1スイッチ素子12とをつなぐ回路の配線抵抗である抵抗RCABの合成値を合成抵抗Rsとする。誘導素子11のインダクタンスをインダクタンスLとする。
この場合、抵抗によるジュール損失を無視できる条件を、周期τ、合成抵抗Rs、およびインダクタンスLによって示すと、式(3)となる。合成抵抗RsとインダクタンスLとの直列接続回路の時定数は(L/Rs)であり、換言すると、式(3)は、この時定数(すなわち、式(3)の左辺)よりもスイッチング周期τ(すなわち、式(3)の右辺)が十分に短ければ、合成抵抗Rsにけるジュール損失が無視できることを意味している。
【0061】
【数3】
【0062】
第1スイッチ素子12のゲート容量を容量C1とし、第2スイッチ素子13のゲート容量を容量C2とし、制御電圧を制御電圧VCONTとすると、昇圧回路10での制御に必要な制御電力PCONTは、式(4)で表せる。ここで、制御電圧VCONTとは、第1スイッチ素子12の第1制御端子121、および第2スイッチ素子13の第2制御端子131に印加される、いわゆるゲート駆動電圧である。また、制御電力PCONTとは、第1スイッチ素子12および第2スイッチ素子13のスイッチング動作に必要な制御側の消費電力である。なお、式(4)は、容量C1および容量C2の充電1回あたりに必要なエネルギー(充電エネルギー)は、充電電流によるジュール損失分を加味すると[(C1+C2)VCONT](つまり、式(4)右辺分子)であり、この充電エネルギーをスイッチング周期τ(すなわち、式(4)の右辺分母)で割れば、制御電力PCONTが導出されることを意味している。
【0063】
【数4】
【0064】
単層熱電素子20から昇圧回路10に供給される電力に基づいて、昇圧回路10から出力される電力(すなわち、昇圧後の電力)を出力電力POUTとして、昇圧回路10における損失がほぼゼロであるとすると、上述した式(1)が成り立つ。
なお、D=T1/(T2+T2)と置き、スイッチング周期τの1周期中のインダクタンスLの電流の増加分と減少分とが等しいとし、インダクタンスLの平均電流を電流ILとすれば、式(5A)が成り立つ。また、昇圧回路10から負荷40に出力される出力電流と、負荷40(RLOAD)が消費する電流が等しいという条件(定常条件)から、式(5B)が成り立つ。
これら式(5A)および式(5B)を連立することにより、昇圧比gが式(5C)によって表され、負荷40(RLOAD)で消費される電力(すなわち、出力電力POUT)が式(5D)によって表される。
式(5D)で表される出力電力POUTが最大値をとる条件は、負荷40(RLOAD)を変数として、式(5D)の右辺の分母が最小値をとる条件となり、出力電力POUTが取り得る最大値を求めることによって、上述した式(1)が導出される。
【0065】
【数5】
【0066】
ここで、出力電力POUTに対して、制御電力PCONTを無視できる条件は、式(6)に示すとおりである。
【0067】
【数6】
【0068】
上述した式(6)に式(1)及び式(4)を代入することにより、式(7)が導出される。
【0069】
【数7】
【0070】
現実に入手可能な誘導素子11および容量素子14の代表的なパラメータとして、インダクタンスLが0.1[mH]であり、キャパシタンスCが1[μF]であるとする。この場合、式(7)は、スイッチング周期τを、10の(-4)乗[s]よりも十分に大きくすべきであることを示している。すなわち、この結果は、周期τの逆数であるスイッチング周波数を、最大でも5[kHz]以下(例えば、100[Hz]から5[kHz]まで)とすれば、昇圧回路10が現実的に成立することを示している。
【0071】
ここで、第1制御信号S1が第1スイッチ素子12をオン状態に維持するオン時間と、第1スイッチ素子12をオフ状態に維持するオフ時間とを1周期とするスイッチング周期(すなわち、スイッチング周期τ)の逆数を第1スイッチング周波数とする。
第2制御信号S2が第2スイッチ素子13をオン状態に維持するオン時間と、第2スイッチ素子13をオフ状態に維持するオフ時間とを1周期とするスイッチング周期(すなわち、スイッチング周期τ)の逆数を第2スイッチング周波数とする。
誘導素子11のインダクタンスLが0.1[mH]以上であるとする。
【0072】
この場合、制御部31は、第1スイッチング周波数と、第2スイッチング周波数とをいずれも500ヘルツから5キロヘルツまでにして、第1スイッチ素子12および第2スイッチ素子13をオン/オフ制御する。
【0073】
このように構成された昇圧装置1によれば、現実的に入手可能な誘導素子11、第1スイッチ素子12、第2スイッチ素子13、および容量素子14を組み合わせることにより、入力電圧VOCが1[mV]程度(例えば、1.0~1.5[mV]程度)であったとしても、一般的な電子回路(例えば、センサ回路や通信回路)が動作する1.0[V]程度の電力を供給することができる。
すなわち、昇圧装置1は、現実的に入手可能な素子を組み合わせることにより、実現できる。
【0074】
図5は、合成抵抗Rsと出力電圧Voutとの関係の一例を示す図である。上述したように、合成抵抗Rsとは、単層熱電素子20の内部抵抗である抵抗RIN、誘導素子11の直流抵抗値である抵抗RL、第1スイッチ素子12のオン抵抗である抵抗RON、および、これら単層熱電素子20と誘導素子11と第1スイッチ素子12とをつなぐ回路の配線抵抗である抵抗RCABの合成値である。
同図は、昇圧装置1の各パラメータが上述したように誘導素子11のインダクタンスLが0.1[mH]、容量素子14のキャパシタンスCが1[μF]、スイッチング周波数が0.5~5[kHz]であることを前提として、合成抵抗Rsが仮に1000[mΩ]である場合(同図のV1)、仮に100[mΩ]である場合(同図のV2)、および本実施形態の合成抵抗Rsの一例である10[mΩ]である場合(同図のV3)についての出力電圧Voutを、それぞれ示している。
同図に示すように、実施形態の合成抵抗Rsの一例である10[mΩ]である場合(同図のV3)には、合成抵抗Rsがより大きい場合に比べて、十分に高い出力電圧Voutが得られる。
【0075】
上述した実施形態の具体例について、より詳しく説明する。
以下の説明において、制御電圧VCONTは、1.5[V]である。誘導素子11の抵抗RLは、4[mΩ]である。配線抵抗である抵抗151は7[mΩ]、抵抗152は7[mΩ]、抵抗153は6[mΩ]であり、それらの合計である抵抗RCABは、20[mΩ]である。容量素子14のキャパシタンスCは、10[μF]である。また、正極電源端子T11と、負極電源端子T12との間に接続される入力キャパシタ(不図示)のキャパシタンスCは、1[mF]である。
第1スイッチ素子12のオン時間(第1オン時間T1on)は、1000[μs]、オフ時間(第1オフ時間T1off)は、1[μs]である。第2スイッチ素子13のオン時間(第2オン時間T2on)は、0.8[μs]、オフ時間(第2オフ時間T2off)は、1000.2[μs]である。なお、第1スイッチ素子12のターンオフから第2スイッチ素子13のターンオンまでの時間および第2スイッチ素子13のターンオフから第1スイッチ素子12のターンオンまでの時間(いわゆるデッドタイム)は、いずれも0.1[μs]である。
【0076】
図6は、本実施形態の昇圧回路の誘導素子のインダクタンスごとの、スイッチング周波数と制御電力および出力電力との関係の一例を示す図である。ここで、スイッチング周波数fが上昇すると、出力電力POUTが非線形に上昇し、制御電力PCONTが線形に上昇する。このとき、出力電力POUTが制御電力PCONTを上回る(つまり、昇圧回路10が電源装置として成立する)スイッチング周波数fの範囲が存在する。また、出力電力POUTのスイッチング周波数f特性は、誘導素子11のインダクタンスLの大きさに依存する。
上述した回路定数の場合、同図に示すように、出力電力POUTが制御電力PCONTを十分に上回るためには、誘導素子11のインダクタンスLを十分に大きな値(例えば、1[mH])とすることが好ましい。また、誘導素子11のインダクタンスLが1[mH]である場合、スイッチング周波数fを所定範囲(例えば、500[Hz]から5[kHz])とすることが好ましい。
【0077】
さらに、電流のリップルが十分小さくなければならない(式(8)に示す)。式(8)における抵抗ROUTは、正極負荷端子T13および負極負荷端子T14から見込んだ負荷40の入力インピーダンス(つまり、負荷抵抗)である。
【0078】
【数8】
【0079】
すなわち、本実施例において、昇圧回路10は、スイッチング周波数をf、単層熱電素子20の内部抵抗を抵抗RIN、誘導素子11のインダクタンスをインダクタンスL、誘導素子11の直流抵抗を抵抗RL、第1スイッチ素子12のオン抵抗(抵抗125)を抵抗RON、配線抵抗(抵抗151、抵抗152および抵抗153の合計)を抵抗RCAB、正極負荷端子T13および負極負荷端子T14の負荷抵抗を抵抗ROUTとして、式(9)を満たす。
【0080】
【数9】
【0081】
また、本実施例において、昇圧回路10は、第1スイッチ素子12のゲート容量を容量C1とし、第2スイッチ素子13のゲート容量を容量C2とし、第1制御端子121および第2制御端子131に印加される制御電圧(ゲート電圧)を制御電圧VCONTとし、誘導素子を流れるコイル電流の波形の周期をスイッチング周期τとし、熱電素子(例えば、単層熱電素子20)の内部抵抗である抵抗RINと、誘導素子11の直流抵抗値である抵抗RLと、第1スイッチ素子12のオン抵抗である抵抗RONと、これら単層熱電素子20と誘導素子11と第1スイッチ素子12とをつなぐ回路の配線抵抗である抵抗RCABとの合成値を合成抵抗Rsとし、正極電源端子T11および負極電源端子T12間の入力電圧(つまり、熱電素子の出力電圧)を電圧VOCとして、上述した式(7)を満たす。
【0082】
さらに、本実施形態の昇圧回路10は、単層熱電素子20が発電する電圧(つまり、昇圧回路10の入力電圧である電圧VOC(言い換えると正極電源端子T11および負極電源端子T12間の入力電圧を電圧VOC)と、所要の出力電力POUTとについて、式(10)を満たす。
【0083】
【数10】
【0084】
またこの時、出力側に接続される負荷抵抗Rは、以下の式(11)を満たすか、または出力側に負荷抵抗Rが接続された場合の出力端子の電圧が、出力端子を開放したときの電圧の半分である。
【0085】
【数11】
【0086】
図7は、本実施形態の昇圧回路の動作特性の一例を示す図である。
図7(A)は、第1スイッチ素子12のオン抵抗(抵抗125)の変化による、出力電圧Voutの時間変化波形の一例を示す。同図において、縦軸は出力電圧Vout、横軸は時間を示す。同図は、第1スイッチ素子12のオン抵抗(抵抗125)が十分に低い(例えば、10[mΩ]未満である。一例として1[mΩ]である。)と、十分に高い出力電圧Vout(例えば、0.9[V]以上)を得ることができることを示す。図7(B)は、出力電圧Voutと出力電力POUTとの関係の一例を示す。同図において、縦軸は出力電力POUT、横軸は出力電圧Voutを示す。図7(C)は、第1スイッチ素子12のオン抵抗(抵抗125)と、出力電力POUTとの関係の一例を示す。同図においても、第1スイッチ素子12のオン抵抗(抵抗125)が十分に低い(例えば、10[mΩ]未満である。一例として1[mΩ]である。)と、十分に高い出力電力POUT(例えば、60[μW]以上)を得ることができることを示す。
なお、図7(C)のグラフのうち「Calculation」とは、前述の計算式を用いた算出結果、つまり、計算式に数値を代入して計算した値をプロットしたものであり、「Simulation」とは、市販の、回路モデルを用いたシミュレーションソフトウエアによる結果、つまり、回路図を作成して市販のsimulatorを回し、得られた電圧・電流・電力などの値をプロットしたものである。また、図7(A)(B)のグラフはいずれも、抵抗RL=1[mΩ]、抵抗RCAB=内部抵抗RIN=0、スイッチング周波数f=1[kHz]とした場合の「Simulation」の結果を示す。以下の図8(B)において同様である。
すなわち、本実施形態において前述した式から導き出された結果が、ほぼ正しいことが判る。
【0087】
図8は、本実施形態の昇圧回路の動作特性の他の一例を示す図である。図8(A)は、誘導素子11の抵抗RL(抵抗114)および配線抵抗(抵抗151、抵抗152および抵抗153の合計)である抵抗RCABとの合計値(抵抗RL+抵抗RCAB)の変化による、出力電圧Voutの時間変化波形の一例を示す。同図は、抵抗RL+抵抗RCABが十分に低い(例えば、10[mΩ]未満である)と、十分に高い出力電圧Vout(例えば、0.9[V]以上)を得ることができることを示す。図8(B)は、抵抗RL+抵抗RCABと、出力電力POUTとの関係の一例を示す。同図においても、抵抗RL+抵抗RCABが十分に低い(例えば、10[mΩ]未満である)と、十分に高い出力電力POUT(例えば、60[μW]以上)を得ることができることを示す。
【0088】
なお、本実施形態の昇圧装置1は、上述した昇圧回路10の後段に第2の昇圧回路(構成は、昇圧回路10と同様である)を縦続接続(カスケード接続)した構成であってもよい。すなわち、昇圧装置1は、上述した昇圧回路10といずれも同様の構成である前段の昇圧回路10-1と、次段の昇圧回路10-2とを備え、前段の昇圧回路10-1の正極負荷端子T13に、次段の昇圧回路10-2の正極電源端子T11が接続され、前段の昇圧回路10-1の負極負荷端子T14に、次段の昇圧回路10-2の負極電源端子T12が接続される構成であってもよい。この場合、次段の昇圧回路10-2の正極負荷端子T13および負極負荷端子T14の間に負荷40が接続される。
【0089】
以上、本発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
例えば、熱電材料としてビスマス・テルライドから作られる材料としたが、これ以外の材料であっても、抵抗値などのパラメータが適合するものであればよい。
また、単層熱電素子として前述の熱電材料23の形状に限らず、他の形状、例えば、断面積や熱流方向の寸法が、前述した熱電材料23とは異なったものでもよい。形状に応じて昇圧回路を構成する各素子の素子パラメータ、即ち抵抗値やインダクタの値が適したものに変更されたものでもよい。
また、単層熱電素子を直列にいくつか或いは多段接続したものを用いる場合にも、同様に各素子パラメータをそれに適したものに変更してもよい。
【0090】
なお、制御装置30は上述したように内部にコンピュータを有していてもよい。この場合、制御装置30の各処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0091】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。
さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0092】
1…昇圧装置、10…昇圧回路、11…誘導素子、12…第1スイッチ素子、13…第2スイッチ素子、14…容量素子、20…単層熱電素子、30…制御装置、40…負荷
図1
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