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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166778
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】シール装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/447 20060101AFI20241122BHJP
   F16J 15/16 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
F16J15/447
F16J15/16 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083114
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】古庄 達郎
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 昂平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 亜積
(72)【発明者】
【氏名】西本 慎
【テーマコード(参考)】
3J042
3J043
【Fターム(参考)】
3J042AA04
3J042BA01
3J042BA08
3J042CA02
3J042CA10
3J042DA01
3J043AA16
3J043BA02
3J043BA06
3J043CA08
3J043DA03
3J043DA05
(57)【要約】
【課題】回転軸線に対してシール軸線が傾くことによる、シール性の悪化を抑える。
【解決手段】シール装置は、シール軸線を中心として環状のシールリングと、前記シールリングを保持するシール保持環と、を備える。前記シール保持環は、径方向内側に凹む環状の保持溝を有する。前記リールリングは、前記保持溝を画定する面のうちで、低圧側溝側面に軸線方向で接触可能な接触面を有する。前記シールリングは、前記シール軸線に対する周方向に4以上に分割されている。スラスト荷重中心半径は、前記接触面の径方向外側の端と前記シールリング中で最も前記径方向内側の位置との間の中間位置であるスラスト荷重中心と前記シール軸線と間の前記径方向の距離である。内側端半径は、前記接触面のうちで最も前記径方向内側の端と前記シール軸線との間の前記径方向の距離である。スラスト荷重中心半径に対する内側端半径の割合は1.20以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シール軸線を中心として環状のシールリングと、
前記シール軸線を中心として環状を成し、前記シールリングの外周側から前記シールリングを保持するシール保持環と、
を備え、
前記シール保持環は、前記シール軸線に対する径方向における径方向内側と径方向外側とのうち、前記径方向外側に向かって凹む環状の保持溝を有し、
前記シールリングは、前記シール軸線を中心として環状で、前記シール保持環の前記保持溝に一部が挿入されているシール胴と、前記シール軸線を中心として環状で、前記シール胴の内周側に配置されて前記シール胴に固定されている複数のシール片と、を有し、
前記シール胴は、前記シール軸線が延びる軸線方向における軸線高圧側と軸線低圧側とのうち、前記軸線高圧側を向く高圧側面と、前記軸線低圧側を向く低圧側面と、を有し、
前記保持溝は、前記径方向内側を向く保持溝底面と、前記シール胴の高圧側面と前記軸線方向で対向している高圧側保持溝側面と、前記シール胴の低圧側面と前記軸線方向で対向している低圧側保持溝側面とで、画定され、
前記シール胴の前記低圧側面のうちの少なくとも一部が、前記シール保持環の前記低圧側保持溝側面と前記軸線方向で接触可能な前記シールリングの接触面を成し、
前記シールリングは、前記シール軸線に対する周方向に4以上に分割されており、
スラスト荷重中心半径に対する内側端半径の割合が1.20以下であり、
前記スラスト荷重中心半径は、前記シールリングが前記シール保持環と接触している部分のうちで最も前記径方向外側の位置と前記シールリング中で最も前記径方向内側の位置との間の前記径方向における中間位置であるスラスト荷重中心と前記シール軸線と間の前記径方向の距離であり、
前記内側端半径は、前記接触面のうちで最も前記径方向内側の端の位置と前記シール軸線との間の前記径方向の距離である、
シール装置。
【請求項2】
請求項1に記載のシール装置において、
前記シールリングは、前記周方向に6分割されており、
前記スラスト荷重中心半径に対する前記内側端半径の割合が1.10以下である、
シール装置。
【請求項3】
請求項1に記載のシール装置において、
前記シールリングは、前記周方向に8分割されており、
前記スラスト荷重中心半径に対する前記内側端半径の割合が1.06以下である、
シール装置。
【請求項4】
請求項1に記載のシール装置において、
前記スラスト荷重中心半径に対する前記内側端半径の割合が1.0以下である、
シール装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のシール装置において、
前記シール胴は、内周側を向いて、前記複数のシール片が前記径方向内側に突出している胴内周面と、前記胴内周面の前記軸線低圧側から前記径方向内側に突出する突出部を有し、
前記突出部で前記軸線低圧側を向く面の少なくとも一部が前記接触面の一部を成す、
シール装置。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載のシール装置において、
前記シール保持環は、前記シール軸線を中心として環状を成し、前記径方向外側に向かって凹む環状の溝を有する保持環本体と、前記溝に一部が入り込むスペーサと、を有し、
前記スペーサと前記溝とで、前記保持溝を形成し、
前記スペーサは、前記溝を画定する面のうちで、前記軸線高圧側を向く低圧側溝側面の少なくとも一部に接触すると共に、前記シール胴の前記低圧側面の少なくとも一部に接触し、
前記接触面のうちで最も前記径方向内側の前記端は、前記シール胴の前記低圧側面が前記スペーサに接触している面のうちで最も前記径方向内側の端である、
シール装置。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか一項に記載のシール装置において、
前記シール胴は、胴本体と、前記保持溝内に挿入されている被保持部と、を有し、
前記胴本体は、前記径方向内側を向き、前記複数のシール片が前記径方向内側に突出している胴内周面と、前記径方向外側を向く本体外周面と、を有し、
前記被保持部は、前記胴本体の前記本体外周面から前記径方向外側に突出している被保持脚部と、前記被保持脚部の前記径方向外側の端に設けられ、前記被保持脚部から前記軸線高圧側に突出しているフック部と、を有し、
前記保持溝は、脚挿入溝部と、フック挿入溝部と、を有し、
前記脚挿入溝部は、前記被保持脚部が挿入可能で、前記脚挿入溝部の前記軸線方向の幅が、前記被保持脚部の前記軸線方向の幅より広く且つ前記フック部の前記軸線方向の幅より狭く、
前記フック挿入溝部は、前記脚挿入溝部の前記径方向外側に位置して、前記脚挿入溝部と連通して、前記フック部が挿入可能で、前記フック挿入溝部の前記軸線方向の幅が、前記フック部の前記軸線方向の幅より広い、
シール装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸の周りに取り付けられるシール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軸の周りに取り付けられるシール装置としては、例えば、以下の特許文献1に記載のシール装置がある。
【0003】
このシール装置は、軸の外周面と対向するシールリングと、このシールリングを保持するシール保持環(シールリング受け)と、を有する。シールリングは、軸の回転軸線上のシール軸線中心として環状である。このシールリングは、環状の胴と、この胴の内周面からシール軸線に対する径方向内側に突出した複数の環状のシールフィンと、を有する。
【0004】
特許文献1に記載の技術では、シールリングの軸線に対する径方向の移動を案内するガイドピンを設けることで、シールリングの軸線に対する径方向の片寄りを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-097350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載のシール装置では、シールリングを基準にして高圧側からシールリングがスラスト荷重を受けて、軸の回転軸線に対してシールリングのシール軸線を傾けようとするモーメントが発生する場合がある。この場合、このモーメントにより、回転軸線に対してシール軸線が傾くと、シール性の悪化やシールフィン等のシール片の損傷等を招くことがある。
【0007】
そこで、本開示は、シール性の悪化やシール片の損傷を抑制することができるシール装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための発明に係る一態様としてのシール装置は、
シール軸線を中心として環状のシールリングと、前記シール軸線を中心として環状を成し、前記シールリングの外周側から前記シールリングを保持するシール保持環と、を備える。前記シール保持環は、前記シール軸線に対する径方向における径方向内側と径方向外側とのうち、前記径方向外側に向かって凹む環状の保持溝を有する。前記シールリングは、前記シール軸線を中心として環状で、前記シール保持環の前記保持溝に一部が挿入されているシール胴と、前記シール軸線を中心として環状で、前記シール胴の内周側に配置されて前記シール胴に固定されている複数のシール片と、を有する。前記シール胴は、前記シール軸線が延びる軸線方向における軸線高圧側と軸線低圧側とのうち、前記軸線高圧側を向く高圧側面と、前記軸線低圧側を向く低圧側面と、を有する。前記保持溝は、前記径方向内側を向く保持溝底面と、前記シール胴の高圧側面と前記軸線方向で対向している高圧側保持溝側面と、前記シール胴の低圧側面と前記軸線方向で対向している低圧側保持溝側面とで、画定されている。前記シール胴の前記低圧側面のうちの少なくとも一部が、前記シール保持環の前記低圧側保持溝側面と前記軸線方向で接触可能な前記シールリングの接触面を成す。前記シールリングは、前記シール軸線に対する周方向に4以上に分割されている。スラスト荷重中心半径に対する内側端半径の割合が1.20以下である。前記スラスト荷重中心半径は、前記シールリングが前記シール保持環と接触している部分のうちで最も前記径方向外側の位置と前記シールリング中で最も前記径方向内側の位置との間の前記径方向における中間位置であるスラスト荷重中心と前記シール軸線と間の前記径方向の距離である。前記内側端半径は、前記接触面のうちで最も前記径方向内側の端の位置と前記シール軸線との間の前記径方向の距離である。
【0009】
シールリングには、シールリングを基準にして軸線高圧側に存在する高圧流体からスラスト荷重を受ける。シールリングには、このスラスト荷重により、軸の回転軸線に対してシール軸線を傾けようとするモーメントが作用する場合がある。シールリングが、周方向に4分割以上されていると、このようなモーメントが作用した場合、軸の回転軸線に対してシール軸線が傾き、シール性の悪化やシールフィン等のシール片の損傷等を招くことがある。本態様では、シールリングに作用するモーメントの発生を抑えることができ、軸の回転軸線に対してシールリングのシール軸線が傾くことを抑制できる。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様によれば、軸の回転軸線に対してシールリングのシール軸線が傾くことによる、シール性の悪化やシール片の損傷を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示に係る第一実施形態におけるシール装置の断面図である。
図2図1におけるII―II線断面図である。
図3】比較例におけるシール装置の断面図である。
図4】シールリングの分割数と上限割合との関係を示すグラフである。
図5】本開示に係る第二実施形態におけるシール装置の断面図である。
図6】本開示に係る第三実施形態におけるシール装置の断面図である。
図7】本開示に係る第四実施形態におけるシール装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示に係るシール装置の各種実施形態、及びその変形例について、図面を参照して説明する。
【0013】
「第一実施形態」
シール装置の第一実施形態について、図1図3を参照して説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態におけるシール装置Sは、回転軸線Arを中心として回転可能な軸1の周りに設けられるシール装置である。このシール装置Sは、シール軸線Asを中心として環状のシールリング10と、シール軸線Asを中心として環状で、シールリング10を保持するシール保持環20と、を備える。このシール保持環20は、シールリング10の一部が挿入される保持溝25を有する。
【0015】
ここで、シール軸線Asが延びている方向を軸線方向Da、このシール軸線Asに対する径方向を単に径方向Dr、このシール軸線Asに対する周方向を単に周方向Dcとする。また、軸線方向Daの両側のうち、一方側を軸線高圧側Dah、他方側を軸線低圧側Dalとする。さらに、径方向Drでシール軸線Asに近づく側を径方向内側Dri、径方向Drでシール軸線Asから遠ざかる側を径方向外側Droとする。本実施形態において、軸1の周りにシール装置Sを配置した状態では、基本的に、シール装置Sのシール軸線Asが前述の回転軸線Ar上に位置する。
【0016】
シール装置Sは、シール装置Sに対して軸線高圧側Dahに存在する高圧流体(例えば、蒸気)が、軸1の外周面に沿って、シール装置Sの軸線低圧側Dalに流出するのを抑制する役目を担う。
【0017】
シールリング10は、シール胴11と、複数のシール片19と、を有する。シール胴11は、シール軸線Asを中心として環状である。複数のシール片19は、シール軸線Asを中心として環状で、軸線方向Daに並んでいる。複数のシール片19は、シール胴11の内周側に配置されてシール胴11に固定されている。複数のシール片19の径方向内側Driの端は、軸1の外周面と僅かな間隔をあけて対向している。
【0018】
シール胴11は、胴本体12と、保持溝25内に挿入されている被保持部13と、を有する。胴本体12は、径方向内側Driを向く胴内周面12iと、径方向外側Droを向く本体外周面12oと、軸線高圧側Dahを向く本体高圧側面12hと、軸線低圧側Dalを向く本体低圧側面12lと、を有する。
【0019】
被保持部13は、本体外周面12oから径方向外側Droに突出している被保持脚部14と、被保持脚部14の径方向外側Droの端に設けられ、被保持脚部14から軸線高圧側Dahに突出しているフック部15と、を有する。被保持脚部14は、軸線高圧側Dahを向く脚高圧側面14hと、軸線低圧側Dalを向く脚低圧側面14lと、を有する。フック部15は、径方向外側Droを向くフック外周面15oと、径方向内側Driを向くフック内周面15iと、軸線高圧側Dahを向くフック高圧側面15hと、軸線低圧側Dalを向くフック低圧側面15lと、を有する。本体低圧側面12l、脚低圧側面14l、及びフック低圧側面15lは、互いに面一である。これら本体低圧側面12l、脚低圧側面14l、及びフック低圧側面15lは、シール胴11の低圧側面11lを成す。フック外周面15oは、フック低圧側面15lの径方向外側Droの端から軸線高圧側DAhに向かって広がっている。フック内周面15iは、脚高圧側面14hの径方向外側の端から軸線高圧側Dahに向かって広がっている。脚高圧側面14hは、本体高圧側面12hよりも軸線低圧側Dalに位置する。フック高圧側面15hは、本体高圧側面12hよりも軸線低圧側Dalで、且つ脚高圧側面14hよりも軸線高圧側Dahに位置する。このフック高圧側面15hは、フック外周面15oの軸線高圧側Dahの端とフック内周面15iの軸線高圧側Dahの端とを接続する。これら本体高圧側面12h、脚高圧側面14h、及びフック高圧側面15hは、シール胴11の高圧側面11hを成す。
【0020】
シール保持環20は、保持環胴22と、高圧側壁部23と、低圧側壁部24と、を有する。保持環胴22は、シール軸線Asを中心として筒状である。高圧側壁部23は、高圧側第一壁部23aと、高圧側第二壁部23bと、を有する。高圧側第一壁部23aは、保持環胴22の軸線高圧側Dahに設けられ、この保持環胴22の軸線高圧側Dahの部分から径方向内側Driに突出している。高圧側第二壁部23bは、高圧側第一壁部23aの径方向内側Driに設けられ、高圧側第一壁部23aの径方向内側Driの部分から軸線低圧側Dalに突出している。低圧側壁部24は、保持環胴22の軸線低圧側Dalに設けられ、この保持環胴22の軸線低圧側Dalの部分から径方向内側Driに突出している。保持溝25は、保持環胴22の径方向内側Driで、軸線方向Daにおける高圧側壁部23と低圧側壁部24との間に形成されている。
【0021】
保持溝25は、径方向外側Droに凹み、シール軸線Asを中心とした環状の溝である。この保持溝25は、フック挿入溝部27と、脚挿入溝部28と、を有する。
【0022】
フック挿入溝部27は、シールリング10のフック部15が挿入される部分である。このフック挿入溝部27の軸線方向Daの幅は、フック部15の軸線方向Daの幅より広い。このフック挿入溝部27は、保持溝底面25bと、径方向移動規制面27rと、高圧側保持溝第一側面27hと、低圧側保持溝第一側面27lと、で画定される。保持溝底面25bは、保持環胴22の径方向内側Driを向く面で形成される。この保持溝底面25bは、フック外周面15oと径方向Drで対向する。径方向移動規制面27rは、高圧側第二壁部23bの径方向外側Droを向く面で形成される。この径方向移動規制面27rは、保持溝底面25bと径方向Drで対向する。さらに、この径方向移動規制面27rは、フック内周面15iと径方向Drで対向する。高圧側保持溝第一側面27hは、高圧側第一壁部23aの軸線低圧側Dalを向く面で形成される。この高圧側保持溝第一側面27hは、フック高圧側面15hと軸線方向Daで対向する。シール保持環20の高圧側第二壁部23bは、径方向移動規制面27rと背合わせの関係にあり、径方向内側Driを向く高圧側内周面29rを有する。この高圧側内周面29rは、シール胴11の本体外周面12oと径方向Drで対向する。低圧側保持溝第一側面27lは、低圧側壁部24の軸線高圧側Dahを向く面で形成される。この低圧側保持溝第一側面27lは、高圧側保持溝第一側面27hと軸線方向Daで対向する。さらに、この低圧側保持溝第一側面27lは、フック高圧側面15hと軸線方向Daで対向する。
【0023】
脚挿入溝部28は、シールリング10の被保持脚部14が挿入される部分である。この脚挿入溝部28の軸線方向Daの幅は、被保持脚部14の軸線方向Daの幅より広く且つフック部15の軸線方向Daの幅より狭い。また、この脚挿入溝部28は、フック挿入溝部27の径方向内側Driに位置して、このフック挿入溝部27と連通している。この脚挿入溝部28は、高圧側保持溝第二側面28hと、低圧側保持溝第二側面28lと、で画定される。高圧側保持溝第二側面28hは、高圧側第二壁部23bの軸線低圧側Dalを向く面で形成される。この高圧側保持溝第二側面28hは、脚高圧側面14hと軸線方向Daで対向する。高圧側保持溝第二側面28h及び高圧側保持溝第一側面27hは、保持溝25の高圧側保持溝側面25hを成す。低圧側保持溝第二側面28lは、低圧側壁部24の軸線高圧側Dahを向く面で形成される。この低圧側保持溝第二側面28lは、高圧側保持溝第二側面28hと軸線方向Daで対向する。さらに、この低圧側保持溝第二側面28lは、脚低圧側面14lと軸線方向Daで対向する。なお、この低圧側保持溝第二側面28lは、低圧側保持溝第一側面27lと面一である。これら低圧側保持溝第二側面28l及び低圧側保持溝第一側面27lは、保持溝25の低圧側保持溝側面25lを成す。
【0024】
軸線方向Daで対向する高圧側保持溝第一側面27hとフック高圧側面15hとの間には、隙間Gaが存在する。また、径方向Drで対向する高圧側内周面29rと本体外周面12oとの間には、隙間Grが存在する。このように、シールリング10とシール保持環20との間に隙間Ga,Grが存在するため、シール保持環20に対してシールリング10が傾くことが可能である。
【0025】
シールリング10の低圧側面11lのうち、径方向外側Droの部分は、保持溝25の低圧側保持溝側面25lと接触可能な接触面11Cを成す。
【0026】
ここで、シールリング10がシール保持環20と接触している部分のうちで最も径方向外側Droの位置P1oとシールリング10中で最も径方向内側Driの位置P1iとの間の径方向Drにおける中間位置をスラスト荷重中心P1cとする。なお、シールリング10中で最も径方向内側Driの位置P1iは、シール片19の径方向内側Driの端である。また、シールリング10がシール保持環20と接触している部分のうちで最も径方向外側Droの位置Pioは、本実施形態では接触面11Cの径方向外側Droの端である。シールリング10には、シール装置Sの軸線高圧側Dahに存在する高圧流体から、軸線低圧側Dalを向くスラスト荷重Fを受ける。前述のスラスト荷重中心P1cは、シールリング10でスラスト荷重Fを受ける領域の径方向Drにおける中心である。
【0027】
また、スラスト荷重中心P1cとシール軸線Asと間の径方向Drの距離をスラスト荷重中心半径R1とする。また、接触面11Cのうちで最も径方向内側Driの端の位置P2とシール軸線Asとの間の径方向Drの距離を内側端半径R2とする。
【0028】
本実施形態では、スラスト荷重中心半径R1に対する内側端半径R2の割合(R2/R1)が1.0以下である。すなわち、R2/R1≦1である。
【0029】
図2に示すように、本実施形態におけるシールリング10及びシール保持環20は、いずれも、周方向Dcに複数に分割されている。具体的に、シールリング10は、周方向Dcに4分割され、シール保持環20は、例えば、周方向Dcに二分割されている。
【0030】
次に、本実施形態におけるシール装置Sの効果を説明するために、図3を参照して、比較例について説明する。
【0031】
比較例におけるシール装置Sxも、本実施形態におけるシール装置Sと同様、シールリング10と、シールリング10を保持するシール保持環20xと、を備える。比較例におけるシールリング10は、本実施形態におけるシールリング10と完全同一である。比較例におけるシール保持環20xは、本実施形態におけるシール保持環20と基本的に同一である。よって、比較例におけるシール保持環20xも、本実施形態におけるシール保持環20と同様、保持環胴22と、高圧側壁部23と、低圧側壁部24xと、を有する。比較例における保持溝25xも、保持環胴22の径方向内側Driで、軸線方向Daにおける高圧側壁部23と低圧側壁部24xとの間に形成されている。この比較例においても、シールリング10の低圧側面11lのうちで、保持溝25xの低圧側保持溝側面25lと接触可能な部分が接触面11Cxを成す。また、この比較例においても、シールリング10とシール保持環20xとの間に隙間Ga,Grが存在するため、シール保持環20xに対してシールリング10が傾くことが可能である。
【0032】
比較例における低圧側壁部24xも、本実施形態における低圧側壁部24と同様、保持環胴22の軸線低圧側Dalに設けられ、この保持環胴22の軸線低圧側Dalの部分から径方向内側Driに突出している。但し、比較例における低圧側壁部24xの径方向内側Driへの突出量が、本実施形態における低圧側壁部24の径方向内側Driへの突出量より小さい。このため、比較例における接触面11Cxの径方向内側Driの端の位置P2は、本実施形態における接触面11Cの径方向内側Driの端の位置P2よりも、径方向外側Droに位置している。この結果、比較例におけるスラスト荷重中心半径R1に対する内側端半径R2の割合(R2/R1)が、本実施形態におけるスラスト荷重中心半径R1に対する内側端半径R2の割合(R2/R1)よりも大きい。具体的に、比較例における割合(R2/R1)は、例えば、約1.25である。
【0033】
比較例におけるシールリング10も、本実施形態におけるシールリング10と同様、周方向Dcに4分割されている。
【0034】
以上で説明した比較例では、シールリング10が、軸線高圧側Dahに存在する高圧流体からスラスト荷重Fを受けると、接触面11Cxにおける径方向内側Driの端の位置P2を中心として、回転軸線Arに対してシール軸線Asの軸線高圧側Dahの部分が径方向外側Droに相対変位させるモーメントMが作用する。具体的に、図3に示す例では、シール軸線Asより上側の部分に、接触面11Cxにおける径方向内側Driの端の位置P2を中心として、反時計回りのモーメントMが作用し、シール軸線Asより下側の部分に、接触面11Cxにおける径方向内側Driの端の位置P2を中心として、反時計回りのモーメントMが作用する。
【0035】
シールリング10が周方向Dcに分割されていない場合、シール軸線Asより上側の部分に作用する反時計回りのモーメントMが、シール軸線Asより下側の部分に作用する反時計回りのモーメントMに打ち消されるため、回転軸線Arに対してシール軸線Asは傾かない。
【0036】
しかしながら、周方向Dcにおけるシールリング10の分割数が多くなると、周方向Dcにおける所定位置でのシール軸線Asを含む断面でのモーメントMが、周方向Dcにおける他の位置でのシール軸線Asを含む断面でのモーメントMに打ち消される量が少なくなる。このため、周方向Dcにおけるシールリング10の分割数が多くなると、回転軸線Arに対してシール軸線Asが傾き、シール性の悪化やシール片19の損傷等を招くことがある。
【0037】
比較例のように、割合(R2/R1)が約1.25で、且つシールリング10が周方向Dcに4分割されている場合には、高圧流体から受けるスラスト荷重Fにより、回転軸線Arに対してシール軸線Asが傾く。
【0038】
本実施形態では、比較例と同様、シールリング10が周方向Dcに4分割されているものの、割合(R2/R1)が約1.0以下であるため、高圧流体からシールリング10がスラスト荷重Fを受けても、4分割されたシールリング10の個々の部分に、回転軸線Arに対してシール軸線Asを傾けるようなモーメントMが作用しない。このため、本実施形態では、高圧流体からスラスト荷重Fを受けても、回転軸線Arに対してシールリング10のシール軸線Asが実質的に傾かず、シール性の悪化やシール片19の損傷を抑制することができる。
【0039】
「第二実施形態」
シール装置の第二実施形態について、図4及び図5を参照して説明する。
【0040】
図4は、シールリングの分割数と、高圧流体からシールリングがスラスト荷重Fを受けても回転軸線Arに対してシール軸線Asが実質的に傾かない上限割合(R2/R1)との関係を示すグラフである。
【0041】
前述したように、周方向Dcにおけるシールリングの分割数が多くなると、周方向Dcにおける所定位置でのシール軸線Asを含む断面でのモーメントMが、周方向Dcにおける他の位置でのシール軸線Asを含む断面でのモーメントMに打ち消される量が少なくなる。このため、図4のグラフに示すように、上限割合U(R2/R1)は、分割数が多くなるに連れて小さくなる。但し、上限割合U(R2/R1)は、1.0より小さくなることはない。
【0042】
具体的に、シールリングの分割数が4の場合、上限割合U(R2/R1)は1.2である。このため、シールリングの分割数が4の場合、割合(R2/R1)を1.2以下にすることで、高圧流体からシールリングがスラスト荷重Fを受けても回転軸線Arに対してシール軸線Asが実質的に傾かない。前述した比較例におけるシールリング10は、分割数が4で且つ割合(R2/R1)が1.25であるため、シールリング10が高圧流体からスラスト荷重Fを受けると回転軸線Arに対してシール軸線Asが傾いてしまう。
【0043】
シールリングの分割数が6の場合、上限割合U(R2/R1)は1.1である。このため、シールリングの分割数が6の場合、割合(R2/R1)を1.1以下にすることで、高圧流体からシールリングがスラスト荷重Fを受けても回転軸線Arに対してシール軸線Asが実質的に傾かない。
【0044】
シールリングの分割数が8の場合、上限割合U(R2/R1)は1.06である。このため、シールリングの分割数が8の場合、割合(R2/R1)を1.06以下にすることで、高圧流体からシールリングがスラスト荷重Fを受けても回転軸線Arに対してシール軸線Asが実質的に傾かない。
【0045】
本実施形態におけるシール装置は、以上の見地に基づくシール装置である。図5に示すように、本実施形態におけるシール装置Saも、第一実施形態におけるシール装置Sと同様、シールリング10と、シールリング10を保持するシール保持環20aと、を備える。本実施形態におけるシールリング10は、第一実施形態におけるシールリング10と同様、分割数が4である。本実施形態におけるシール保持環20aも、本実施形態におけるシール保持環20と同様、保持環胴22と、高圧側壁部23と、低圧側壁部24aと、を有する。但し、本実施形態における低圧側壁部24bにおける保持環胴22からの径方向内側Driへの突出量が、前述の比較例における低圧側壁部24xにおける保持環胴22からの径方向内側Driへの突出量より大きいものの、第一実施形態における低圧側壁部24における保持環胴22からの径方向内側Driへの突出量より小さい。この関係で、本実施形態におけるシール装置Saの割合(R2/R1)は、第一実施形態における割合(R2/R1)より大きく、1.05である。
【0046】
本実施形態におけるシール装置Saの割合(R2/R1)は、第一実施形態におけるシール装置Sの割合(R2/R1)より大きい1.05であるものの、分割数が4の場合の上限割合U(R2/R1=1.2)以下である。このため、本実施形態でも、高圧流体からスラスト荷重Fを受けても、回転軸線Arに対してシールリング10のシール軸線Asが実質的に傾かず、シール性の悪化やシール片19の損傷を抑制することができる。
【0047】
なお、本実施形態におけるシール装置Saは、シールリング10の分割数が4の場合であるが、シールリング10の分割数が6の場合には、割合(R2/R1)を上限割合U(R2/R1=1.1)以下にすればよく、シールリング10の分割数が8の場合には、割合(R2/R1)を上限割合U(R2/R1=1.06)以下にすればよい。
【0048】
「第三実施形態」
シール装置の第三実施形態について、図6を参照して説明する。
【0049】
図6に示すように、本実施形態におけるシール装置Sbも、第一実施形態におけるシール装置Sと同様、シールリング10bと、シールリング10bを保持するシール保持環20bと、を備える。
【0050】
本実施形態におけるシールリング10bも、第一実施形態におけるシールリング10と同様、シール胴11bと、複数のシール片19と、を有する。シール胴11bは、シール軸線Asを中心として環状である。複数のシール片19は、シール軸線Asを中心として環状で、軸線方向Daに並んでいる。複数のシール片19は、シール胴11bの内周側に配置されてシール胴11bに固定されている。本実施形態のシール胴11bは、前述したように、複数のシール片19が径方向内側Driに突出している胴内周面12iを有する。このシール胴11bは、さらに、胴内周面12iの軸線低圧側Dalの部分から径方向内側Driに突出する突出部16を有する。この突出部16で、軸線低圧側Dalを向く面は、シール胴11bの低圧側面11lの一部である。また、本実施形態におけるシールリング10bも、第一実施形態におけるシールリング10と同様、周方向Dcに4分割されている。
【0051】
本実施形態におけるシール保持環20bも、第一実施形態におけるシール保持環20と同様、保持環胴22と、高圧側壁部23と、低圧側壁部24bと、を有する。本実施形態における保持溝25も、保持環胴22の径方向内側Driで、軸線方向Daにおける高圧側壁部23と低圧側壁部24bとの間に形成されている。本実施形態における低圧側壁部24bの保持環胴22からの径方向内側Driへの突出量は、第一実施形態における低圧側壁部24の保持環胴22からの径方向内側Driへの突出量より大きい。このため、本実施形態における低圧側保持溝側面25lの径方向内側Driの端は、第一実施形態における低圧側保持溝側面25lの径方向内側Driの端よりも径方向内側Driに位置している。この低圧側保持溝側面25lは、シール胴11bの低圧側面11lに接触している。よって、本実施形態でも、シール胴11bの低圧側面11lの少なくとも一部が、シールリング10bの接触面11Cbを成す。
【0052】
本実施形態における接触面11Cbの径方向内側Driの端の位置P2は、シール胴11bの胴内周面12iよりも径方向内側Driで、第一実施形態における接触面11Cの径方向内側Driの端の位置P2よりも、径方向内側Driに位置している。このため、この接触面11Cbのうちで最も径方向内側Driの端とシール軸線Asとの間の径方向Drの距離である内側端半径R2は、第一実施形態における内側端半径R2よりも小さくなる。
【0053】
以上のように、本実施形態における内側端半径R2が第一実施形態における内側端半径R2よりも小さくなることで、本実施形態における割合(R2/R1)が第一実施形態における割合(R2/R1)よりも小さくなる。よって、本実施形態における割合(R2/R1)も、第一実施形態における割合(R2/R1)と同様、1.0以下になる。このため、本実施形態でも、高圧流体からスラスト荷重Fを受けても、回転軸線Arに対してシールリング10bのシール軸線Asが実質的に傾かず、シール性の悪化やシール片19の損傷を抑制することができる。
【0054】
前述したように、シールリングの分割数が多くなるに連れて、上限割合U(R2/R1)が次第に小さくなる。このため、シールリングの分割数が6以上の場合、本実施形態のように、シールリング10bのシール胴11bに突出部16を設けて、内側端半径R2を小さくすることは有効である。
【0055】
「第四実施形態」
シール装置の第四実施形態について、図7を参照して説明する。
【0056】
図7に示すように、本実施形態におけるシール装置Scも、第一実施形態におけるシール装置Sと同様、シールリング10と、シールリング10を保持するシール保持環20cと、を備える。
【0057】
本実施形態におけるシールリング10は、第一実施形態におけるシールリング10と同一である。
【0058】
本実施形態におけるシール保持環20cは、保持環本体21と、スペーサ30と、を有する。保持環本体21は、第一実施形態におけるシール保持環20と同様、保持環胴22と、高圧側壁部23と、低圧側壁部24cと、を有する。保持環胴22の径方向内側Driで、軸線方向Daにおける高圧側壁部23と低圧側壁部24cとの間には、径方向外側Droに凹み、シール軸線Asを中心として環状の溝26が形成されている。この溝26は、径方向内側Driを向く保持溝底面25bと、シール胴11の高圧側面11hと軸線方向Daで対向している高圧側保持溝側面25hと、シール胴11の低圧側面11lと軸線方向Daで対向している低圧側溝側面26lとで、画定される。保持溝底面25bは、保持環胴22の径方向内側Driを向く面で形成される。高圧側保持溝側面25hは、高圧側壁部23の軸線低圧側Dalを向く面で形成される。低圧側溝側面26lは、低圧側壁部24cの軸線高圧側Dahを向く面で形成される。
【0059】
スペーサ30は、シール軸線Asを中心としてリング円板状のリング円板部31と、シール軸線Asを中心として筒状の筒部32と、を有する。筒部32は、リング円板部31の径方向外側Droの部分から軸線高圧側Dahに向かって延びている。筒部32の内周面は、シール胴11のフック外周面15oと対向又は接触する。リング円板部31は、軸線高圧側Dahを向く円板第一側面31aと、軸線低圧側Dalを向く円板第二側面31bと、を有する。このリング円板部31は、シール胴11の低圧側面11lと溝26の低圧側溝側面26lとの間に位置する。リング円板部31の円板第一側面31aは、シール胴11の低圧側面11lと接触する。リング円板部31の円板第二側面31bは、溝26の低圧側溝側面26lに接触する。リング円板部31の径方向内側Driの端は、保持環本体21における低圧側壁部24cの径方向内側Driの端より径方向内側Driに突出している。
【0060】
本実施形態における保持溝25cは、保持環本体21の溝26と、スペーサ30とで形成される。この保持溝25cは、溝26の保持溝底面25bと、溝26の高圧側保持溝側面25hと、溝26の低圧側溝側面26lの一部と、スペーサ30の円板第一側面31aと、を有する面で画定される。この保持溝25cの低圧側保持溝側面25lcは、溝26の低圧側溝側面26lの一部と、スペーサ30の円板第一側面31aと、を有する。
【0061】
シールリング10の表面中で、シール保持環20cに軸線方向Daで接触可能な接触面11Ccは、シール胴11の低圧側面11lのうちで、保持溝25cの低圧側保持溝側面25lcの一部であるスペーサ30の円板第一側面31aと接触可能な部分である。本実施形態において、接触面11Ccのうちで最も径方向内側Driの端の位置P2は、スペーサ30の円板第一側面31aの径方向内側Driの端である。よって、本実施形態における内側端半径R2は、スペーサ30の円板第一側面31aの径方向内側Driの端とシール軸線Asとの間の径方向Drの距離である。また、本実施形態において、スラスト荷重中心半径R1に対する内側端半径R2の割合(R2/R1)は、第一実施形態と同様、1.0以下である。このため、本実施形態でも、高圧流体からスラスト荷重Fを受けても、回転軸線Arに対してシールリング10のシール軸線Asが実質的に傾かず、シール性の悪化やシール片19の損傷を抑制することができる。
【0062】
本実施形態における接触面11Ccの径方向内側Driの端の位置P2は、保持環本体21における低圧側壁部24cの径方向内側Driの端よりも、径方向内側Driに位置している。このため、何らかの理由により、低圧側壁部24cの径方向内側Driの端が、第一実施形態又は第二実施形態における低圧側壁部24,24aの径方向内側Driの端より径方向外側Droに位置し、割合(R2/R1)を上限割合U(R2/R1)以下にできない場合には、本実施形態のように、スペーサ30を設けることが有効である。
【0063】
「変形例」
以上の実施形態におけるシール装置S,Sa,Sb,Scは、複数のシール片19として、複数のフィンを有するフィンシール装置又はラビリンスシール装置である。しかしながら、シール装置は、複数のシール片として、複数のワイヤを有するブラシシール装置や、複数のシール片として、複数の薄板を有するリーフシール装置等であってもよい。
【0064】
また、本開示は、以上で説明した各実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲において、種々の追加、変更、置き換え、部分的削除等が可能である。
【0065】
「付記」
以上の実施形態及び変形例におけるシール装置S,Sa,Sb,Scは、例えば、以下のように把握される。
(1)第一態様におけるシール装置は、
シール軸線Asを中心として環状のシールリング10,10bと、前記シール軸線Asを中心として環状を成し、前記シールリング10,10bの外周側から前記シールリング10,10bを保持するシール保持環20,20a,20b,20cと、を備える。前記シール保持環20,20a,20b,20cは、前記シール軸線Asに対する径方向Drにおける径方向内側Driと径方向外側Droとのうち、前記径方向外側Droに向かって凹む環状の保持溝25,25cを有する。前記シールリング10,10bは、前記シール軸線Asを中心として環状で、前記シール保持環20,20a,20b,20cの前記保持溝25,25cに一部が挿入されているシール胴11,11bと、前記シール軸線Asを中心として環状で、前記シール胴11,11bの内周側に配置されて前記シール胴11,11bに固定されている複数のシール片19と、を有する。前記シール胴11,11bは、前記シール軸線Asが延びる軸線方向Daにおける軸線高圧側Dahと軸線低圧側Dalとのうち、前記軸線高圧側Dahを向く高圧側面11hと、前記軸線低圧側Dalを向く低圧側面11lと、を有する。前記保持溝25,25cは、前記径方向内側Driを向く保持溝底面25bと、前記シール胴11,11bの高圧側面11hと前記軸線方向Daで対向している高圧側保持溝側面25hと、前記シール胴11,11bの低圧側面11lと前記軸線方向Daで対向している低圧側保持溝側面25l,25lcとで、画定されている。前記シール胴11,11bの前記低圧側面11lのうちの少なくとも一部が、前記シール保持環20,20a,20b,20cの前記低圧側保持溝側面25l,25lcと前記軸線方向Daで接触可能な前記シールリング10,10bの接触面11C,11Cb,11Ccを成す。前記シールリング10,10bは、前記シール軸線Asに対する周方向Dcに4以上に分割されている。スラスト荷重中心半径R1に対する内側端半径R2の割合(R2/R1)が1.20以下である。前記スラスト荷重中心半径R1は、前記シールリング10,10bが前記シール保持環20,20a,20b,20cと接触している部分のうちで最も前記径方向外側Droの位置P1oと前記シールリング10,10b中で最も前記径方向内側Driの位置P1iとの間の前記径方向Drにおける中間位置であるスラスト荷重中心P1cと前記シール軸線Asと間の前記径方向Drの距離である。前記内側端半径R2は、前記接触面11C,11Cb,11Ccのうちで最も前記径方向内側Driの端の位置P2と前記シール軸線Asとの間の前記径方向Drの距離である。
【0066】
シールリング10,10bには、シールリング10,10bを基準にして軸線高圧側Dahに存在する高圧流体からスラスト荷重Fを受ける。シールリング10,10bには、このスラスト荷重Fにより、軸1の回転軸線Arに対してシール軸線Asを傾けようとするモーメントMが作用する場合がある。シールリング10,10bが、周方向Dcに4分割以上されていると、このようなモーメントMが作用した場合、軸1の回転軸線Arに対してシール軸線Asが傾き、シール性の悪化やシールフィン等のシール片19の損傷等を招くことがある。本態様では、シールリング10,10bに作用するモーメントMの発生を抑えることができ、軸1の回転軸線Arに対してシールリング10,10bのシール軸線Asが傾くことを抑制できる。
【0067】
(2)第二態様におけるシール装置は、
前記第一態様におけるシール装置において、前記シールリング10は、前記周方向Dcに6分割されている。前記スラスト荷重中心半径R1に対する前記内側端半径R2の割合(R2/R1)が1.10以下である。
【0068】
本態様では、シールリング10が周方向Dcに6分割されている場合でも、シールリング10に作用するモーメントMの発生を抑えることができ、軸1の回転軸線Arに対してシール軸線Asが傾くことを抑制できる。
【0069】
(3)第三態様におけるシール装置は、
前記第一態様におけるシール装置において、前記シールリング10は、前記周方向Dcに8分割されている。前記スラスト荷重中心半径R1に対する前記内側端半径R2の割合(R2/R1)が1.06以下である。
【0070】
本態様では、シールリング10が周方向Dcに8分割されている場合でも、シールリング10に作用するモーメントMの発生を抑えることができ、軸1の回転軸線Arに対してシール軸線Asが傾くことを抑制できる。
【0071】
(4)第四態様におけるシール装置は、
前記第一態様におけるシール装置において、前記スラスト荷重中心半径R1に対する前記内側端半径R2の割合(R2/R1)が1.0以下である。
【0072】
本態様では、シールリング10の分割数に関わらず、シールリング10に作用するモーメントMの発生を抑えることができ、軸1の回転軸線Arに対してシール軸線Asが傾くことを抑制できる。
【0073】
(5)第五態様におけるシール装置は、
前記第一態様から前記第四態様のうちのいずれか一態様におけるシール装置において、前記シール胴11bは、内周側を向いて、前記複数のシール片19が前記径方向内側Driに突出している胴内周面12iと、前記胴内周面12iの前記軸線低圧側Dalから前記径方向内側Driに突出する突出部16を有する。前記突出部16で前記軸線低圧側Dalを向く面の少なくとも一部が前記接触面11Cbの一部を成す。
【0074】
本態様では、シール胴11bに突出部16を設けることで、接触面11Cbのうちで最も径方向内側Driの端を容易にシール軸線Asに近づけることができる。このため、本態様では、内側端半径R2を容易に小さくすることができ、スラスト荷重中心半径R1に対する内側端半径R2の割合(R2/R1)も容易に小さくすることができる。
【0075】
(6)第六態様におけるシール装置は、
前記第一態様から前記第四態様のうちのいずれか一態様におけるシール装置において、前記シール保持環20cは、前記シール軸線Asを中心として環状を成し、前記径方向外側Droに向かって凹む環状の溝26を有する保持環本体21と、前記溝26に一部が入り込むスペーサ30と、を有する。前記スペーサ30と前記溝26とで、前記保持溝25cを形成する。前記スペーサ30は、前記溝26を画定する面のうちで、前記軸線高圧側Dahを向く低圧側溝側面26lの少なくとも一部に接触すると共に、前記シール胴11の前記低圧側面11lの少なくとも一部に接触する。前記接触面11Ccのうちで最も前記径方向内側Driの前記端は、前記シール胴11の前記低圧側面11lが前記スペーサ30に接触している面のうちで最も前記径方向内側Driの端である。
【0076】
本態様では、スペーサ30を設けることで、接触面11Ccのうちで最も径方向内側Driの端を容易にシール軸線Asに近づけることができる。このため、本態様では、内側端半径R2を容易に小さくすることができ、スラスト荷重中心半径R1に対する内側端半径R2の割合(R2/R1)も容易に小さくすることができる。
【0077】
(7)第七態様におけるシール装置は、
前記第一態様から前記第六態様のうちのいずれか一態様におけるシール装置において、前記シール胴11,11bは、胴本体12と、前記保持溝25,25c内に挿入されている被保持部13と、を有する。前記胴本体12は、前記径方向内側Driを向き、前記複数のシール片19が前記径方向内側Driに突出している胴内周面12iと、前記径方向外側Droを向く本体外周面12oと、を有する。前記被保持部13は、前記胴本体12の前記本体外周面12oから前記径方向外側Droに突出している被保持脚部14と、前記被保持脚部14の前記径方向外側Droの端に設けられ、前記被保持脚部14から前記軸線高圧側Dahに突出しているフック部15と、を有する。前記保持溝25,25cは、脚挿入溝部28と、フック挿入溝部27と、を有する。前記脚挿入溝部28は、前記被保持脚部14が挿入可能で、前記脚挿入溝部28の前記軸線方向Daの幅が、前記被保持脚部14の前記軸線方向Daの幅より広く且つ前記フック部15の前記軸線方向Daの幅より狭い。前記フック挿入溝部27は、前記脚挿入溝部28の前記径方向外側Droに位置して、前記脚挿入溝部28と連通して、前記フック部15が挿入可能で、前記フック挿入溝部27の前記軸線方向Daの幅が、前記フック部15の前記軸線方向Daの幅より広い。
【符号の説明】
【0078】
1:軸
S,Sa,Sb,Sc,Sx:シール装置
10,10b:シールリング
11,11b:シール胴
11h:高圧側面
11l:低圧側面
11C,11Cb,11Cc,11Cx:接触面
12:胴本体
12i:胴内周面
12o:本体外周面
12h:本体高圧側面
12l:本体低圧側面
13:被保持部
14:被保持脚部
14h:脚高圧側面
14l:脚低圧側面
15:フック部
15i:フック内周面
15o:フック外周面
15h:フック高圧側面
15l:フック低圧側面
16:突出部
19:シール片
20,20a,20b,20c,20x:シール保持環
21:保持環本体
22:保持環胴
23:高圧側壁部
23a:高圧側第一壁部
23b:高圧側第二壁部
24,24a,24b,24c,24x:低圧側壁部
25,25c,25x:保持溝
26:溝
25h:高圧側保持溝側面
25l:低圧側保持溝側面
25b:保持溝底面
26l:低圧側溝側面
27:フック挿入溝部
27h:高圧側保持溝第一側面
27l:低圧側保持溝第一側面
27r:径方向移動規制面
28:脚挿入溝部
28h:高圧側保持溝第二側面
28l:低圧側保持溝第二側面
29r:高圧側内周面
30:スペーサ
31:リング円板部
31a:円板第一側面
31b:円板第二側面
32:筒部
Ga,Gr:隙間
F:スラスト荷重
M:モーメント
P1i:シールリングの径方向内側の端の位置
P1o:接触面における径方向外側の端の位置
P1c:スラスト荷重中心
P2:接触面における径方向内側の端の位置
R1:スラスト荷重中心半径
R2:内側端半径
Ar:回転軸線
As:シール軸線
Da:軸線方向
Dah:軸線高圧側
Dal:軸線低圧側
Dc:周方向
Dr:径方向
Dri:径方向内側
Dro:径方向外側
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7