(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166780
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】フェーズドアレイアンテナモジュール
(51)【国際特許分類】
H01Q 3/26 20060101AFI20241122BHJP
H04B 7/06 20060101ALI20241122BHJP
H04B 7/08 20060101ALI20241122BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20241122BHJP
H01Q 21/24 20060101ALN20241122BHJP
【FI】
H01Q3/26 Z
H04B7/06 950
H04B7/08 800
H01Q21/06
H01Q21/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083116
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】田邊 宏行
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 健
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021AA05
5J021AA09
5J021AA11
5J021FA06
5J021FA12
5J021FA26
5J021FA29
5J021FA31
5J021GA02
5J021HA10
5J021JA05
5J021JA08
(57)【要約】
【課題】遷移時間を短縮することができ、ストローブラッチ信号を送信するタイミングの制約を解消することもできるフェーズドアレイアンテナモジュールを提供する。
【解決手段】フェーズドアレイアンテナモジュール1は、複数のアンテナ素子21の各々で送受信される信号の強度及び位相の少なくとも一方を調整するアナログ回路部13と、アナログ回路部13を制御するデジタル制御部17と、アナログ回路部13とデジタル制御部17との間に設けられ、ストローブラッチ信号SL2が入力された場合に、デジタル制御部17から出力される制御信号C1をラッチし、アナログ回路部13に出力するストローブ機構部12と、制御信号C1が確定した状態であるか否かを判定する状態判定部18と、状態判定部18からレディ信号RDが出力された場合に、ストローブ機構部12に対してストローブラッチ信号SL2を出力するタイミング調整部19と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子の各々で送受信される信号の強度及び位相の少なくとも一方を調整するアナログ回路部と、
前記アナログ回路部を制御するデジタル制御部と、
前記アナログ回路部と前記デジタル制御部との間に設けられ、ストローブラッチ動作を指示する指示信号が入力された場合に、前記デジタル制御部から出力される制御信号をラッチし、前記アナログ回路部に出力するストローブ機構部と、
前記制御信号が確定した状態であるか否かを判定する状態判定部と、
前記指示信号が入力され、且つ前記状態判定部から出力される判定信号が、前記制御信号が確定した状態である旨を示すものである場合に、前記ストローブ機構部に対して前記指示信号を出力するタイミング調整部と、
を備えるフェーズドアレイアンテナモジュール。
【請求項2】
外部から送信されてくる制御コマンドを受信して前記デジタル制御部に出力するインターフェイス部を更に備え、
前記状態判定部は、前記インターフェイス部の状態と前記デジタル制御部の状態とに基づいて、前記制御信号が確定した状態であるか否かを判定する、
請求項1記載のフェーズドアレイアンテナモジュール。
【請求項3】
前記インターフェイス部は、前記制御コマンドを受信した場合に、ビジー状態を示す第1ビジー信号を出力し、前記制御コマンドを前記デジタル制御部に出力する処理が完了した場合に、前記第1ビジー信号を解除し、
前記デジタル制御部は、前記インターフェイス部から出力された前記第1ビジー信号が入力された場合に、ビジー状態を示す第2ビジー信号を出力し、前記制御信号が確定した状態になった場合に、前記第2ビジー信号を解除し、
前記状態判定部は、前記第1ビジー信号及び前記第2ビジー信号が共に解除された場合に、前記制御信号が確定した状態であると判定する、
請求項2記載のフェーズドアレイアンテナモジュール。
【請求項4】
前記タイミング調整部は、前記指示信号をラッチするラッチ回路を備えており、
前記状態判定部から出力される判定信号が、前記制御信号が確定した状態である旨を示すものになった場合に、前記ラッチ回路でラッチされた前記指示信号を前記ストローブ機構部に出力する、
請求項1から請求項3の何れか一項に記載のフェーズドアレイアンテナモジュール。
【請求項5】
前記タイミング調整部は、前記ラッチ回路でラッチされた前記指示信号を前記ストローブ機構部に出力した後に、前記ラッチ回路をクリアする、請求項4記載のフェーズドアレイアンテナモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェーズドアレイアンテナモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
フェーズドアレイアンテナは、複数のアンテナ素子に供給する信号(送信信号)又は複数のアンテナ素子から供給される信号(受信信号)の強度及び位相の少なくとも一方を調整することによって、ビームパターン(アンテナ指向性)を自在に変化させることができるアンテナである。このようなフェーズドアレイアンテナは、近年では、自動車分野、通信分野、その他の様々な分野で用いられている。
【0003】
以下の特許文献1には、従来のフェーズドアレイアンテナモジュールが開示されている。フェーズドアレイアンテナモジュールは、複数のアンテナ素子(フェーズドアレイアンテナ)と、複数のアンテナ素子に対応する複数の位相制御器と、複数の位相制御器に対して位相の設定値を設定するための回路とを備えている。これに加えて、複数のアンテナ素子に対応する強度制御器を有する場合もある。適切な設定値を位相制御器及び強度制御器に設定し、複数のアンテナ素子から(又は、複数のアンテナへ)供給される複数の信号の位相及び強度を調整することにより、必要なビームパターンを形成するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フェーズドアレイアンテナモジュールは、上位の制御装置から送信される制御コマンドによって、送受信の切り替え、ビームパターンの切り替え等が制御される。このようなフェーズドアレイアンテナモジュールの状態遷移に要する時間(遷移時間TR(Transit Time))は短い方が望ましい。しかしながら、上述した特許文献1に開示されたストローブ機構に類似する機構を用いる場合には、フェーズドアレイアンテナモジュールに設けられた回路のレイテンシ(遅延)が遷移時間TRに含まれており、遷移時間TRが長くなる一因となっている。
【0006】
尚、上記のレイテンシとしては、例えば、レジスタに格納されたデジタル情報のビット列を各種アナログ素子の制御端子に応じた制御情報に変換するデコード回路のレイテンシが挙げられる。また、ルックアップテーブル(LUT)として用いられるSRAM(Static Random Access Memory)からデータを読み出す際の読み出しレイテンシも挙げられる。
【0007】
また、フェーズドアレイアンテナモジュールに設けられた複数のモジュールの中から制御対象のモジュールを選択するためにセレクト信号を用いる場合には、セレクト信号の送信タイミングとストローブラッチ信号の送信タイミングとを調整して制御する必要がある。このように、従来は、上位の制御装置がフェーズドアレイアンテナモジュールに対してストローブラッチ信号を送信するタイミングに制約があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、遷移時間を短縮することができ、ストローブラッチ信号を送信するタイミングの制約を解消することもできるフェーズドアレイアンテナモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様によるフェーズドアレイアンテナモジュール(1、2)は、複数のアンテナ素子(21)の各々で送受信される信号の強度及び位相の少なくとも一方を調整するアナログ回路部(13)と、前記アナログ回路部を制御するデジタル制御部(17)と、前記アナログ回路部と前記デジタル制御部との間に設けられ、ストローブラッチ動作を指示する指示信号(SL2、SL3)が入力された場合に、前記デジタル制御部から出力される制御信号(C1)をラッチし、前記アナログ回路部に出力するストローブ機構部(12)と、前記制御信号が確定した状態であるか否かを判定する状態判定部(18)と、前記指示信号が入力され、且つ前記状態判定部から出力される判定信号(RD)が、前記制御信号が確定した状態である旨を示すものである場合に、前記ストローブ機構部に対して前記指示信号を出力するタイミング調整部(19、19A)と、を備える。
【0010】
本発明の第1の態様によるフェーズドアレイアンテナモジュールでは、デジタル制御部とアナログ回路部との間にストローブ機構部を設け、デジタル制御部から出力される制御信号が確定するタイミングで、該制御信号をストローブ機構部がラッチし、アナログ回路部に出力するようにしている。これにより、制御コマンドCMの送信開始から送信終了までの時間を、ビームパターンの切り替わりに要する遷移時間から排除することができ、ビームパターンの切り替わりに要する遷移時間を短縮することができる。
【0011】
また、本発明の第1の態様によるフェーズドアレイアンテナモジュールでは、制御信号が確定した状態であるか否かを判定し、その判定結果が、制御信号が確定した状態である旨を示すものである場合に、ストローブ機構部に対してストローブラッチ信号を出力するようにしている。これにより、ストローブラッチ信号を送信するタイミングの制約を解消することもできる。
【0012】
本発明の第2の態様によるフェーズドアレイアンテナモジュールは、本発明の第1の態様によるフェーズドアレイアンテナモジュールにおいて、外部から送信されてくる制御コマンドを受信して前記デジタル制御部に出力するインターフェイス部(16)を更に備え、前記状態判定部が、前記インターフェイス部の状態と前記デジタル制御部の状態とに基づいて、前記制御信号が確定した状態であるか否かを判定する。
【0013】
本発明の第3の態様によるフェーズドアレイアンテナモジュールは、本発明の第2の態様によるフェーズドアレイアンテナモジュールにおいて、前記インターフェイス部が、前記制御コマンドを受信した場合に、ビジー状態を示す第1ビジー信号(BY1)を出力し、前記制御コマンドを前記デジタル制御部に出力する処理が完了した場合に、前記第1ビジー信号を解除し、前記デジタル制御部が、前記インターフェイス部から出力された前記第1ビジー信号が入力された場合に、ビジー状態を示す第2ビジー信号(BY2)を出力し、前記制御信号が確定した状態になった場合に、前記第2ビジー信号を解除し、前記状態判定部が、前記第1ビジー信号及び前記第2ビジー信号が共に解除された場合に、前記制御信号が確定した状態であると判定する。
【0014】
本発明の第4の態様によるフェーズドアレイアンテナモジュールは、本発明の第1から第3の何れかの態様によるフェーズドアレイアンテナモジュールにおいて、前記タイミング調整部が、前記指示信号をラッチするラッチ回路(19b)を備えており、前記状態判定部から出力される判定信号が、前記制御信号が確定した状態である旨を示すものになった場合に、前記ラッチ回路でラッチされた前記指示信号を前記ストローブ機構部に出力する。
【0015】
本発明の第5の態様によるフェーズドアレイアンテナモジュールは、本発明の第4の態様によるフェーズドアレイアンテナモジュールにおいて、前記タイミング調整部が、前記ラッチ回路でラッチされた前記指示信号を前記ストローブ機構部に出力した後に、前記ラッチ回路をクリアする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、遷移時間を短縮することができ、ストローブラッチ信号を送信するタイミングの制約を解消することもできる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態によるフェーズドアレイアンテナモジュールの構成を示すシステム構成図である。
【
図2】本発明の第1実施形態によるフェーズドアレイアンテナモジュールに設けられるビームフォーマICの要部構成を示すブロック図である。
【
図3】ビームフォーマICのRFフロントエンドに設けられるアナログ回路部の要部構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の第1実施形態によるフェーズドアレイアンテナモジュールの主要構成を抜き出してまとめたブロック図である。
【
図5】本発明の第1実施形態によるフェーズドアレイアンテナモジュールに設けられる状態判定部の真理値表の一例を示す図である。
【
図6】
図4に示すフェーズドアレイアンテナモジュールの主要構成の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【
図7】本発明の第2実施形態によるフェーズドアレイアンテナモジュールの主要構成を抜き出してまとめたブロック図である。
【
図8】
図7に示すフェーズドアレイアンテナモジュールの主要構成の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態によるフェーズドアレイアンテナモジュールについて詳細に説明する。
【0019】
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態によるフェーズドアレイアンテナモジュールは、例えば、ミリ波帯を使用し、ビームパターンを自在に変化させることができるビームフォーミングが可能な無線通信装置に設けられる。フェーズドアレイアンテナモジュールは、例えば、公知のプリント基板等の基板の一方の面に実装された複数のIC(Integrated Circuit)と、他方の面に実装されたアンテナアレイとを有する。
【0020】
フェーズドアレイアンテナモジュールを構成する複数のIC及びアンテナアレイは、公知の材料を用いることによって、及び、公知の方法を用いることによって、形成されている。また、複数のICの間の電気接続構造、及び、ICとアンテナアレイとの間の電気接続構造は、特に限定されない。電気接続構造として、公知の接続構造が採用される。
【0021】
〈フェーズドアレイアンテナモジュール〉
図1は、本発明の第1実施形態によるフェーズドアレイアンテナモジュールの構成を示すシステム構成図である。
図1に示す通り、フェーズドアレイアンテナモジュール1は、8個のビームフォーマIC10A,10B,10C,10D,10E,10F,10G,10H(以下、ビームフォーマIC10A~10Hと称する)、アンテナアレイ20、周波数変換IC30、及びRF信号カプラ/スプリッタ40を備える。
【0022】
フェーズドアレイアンテナモジュール1は、信号線51、制御線52、及び電力線53を介して、制御装置50に接続されている。制御装置50とフェーズドアレイアンテナモジュール1との間では、信号線51を介して、IF(中間周波数)信号周波数のRF信号の送受信が行われる。制御装置50とフェーズドアレイアンテナモジュール1との間では、制御線52を介して、制御に係る通信電文の送受信が行われる。電力線53を介して、制御装置50からフェーズドアレイアンテナモジュール1に電力が供給される。
【0023】
ビームフォーマIC10A~10Hは、アンテナアレイ20のビームパターンを制御するICである。ビームフォーマIC10A~10Hの各々には、アンテナアレイ20を構成する複数のアンテナ素子21が接続されている。例えば、ビームフォーマIC10A~10Hの各々には、水平偏波用の8個のアンテナ素子21と垂直偏波用の8個のアンテナ素子21とが接続されている。つまり、アンテナアレイ20は、水平偏波用の64個のアンテナ素子21と、垂直偏波用の64個のアンテナ素子21との計128個のアンテナ素子21から構成される。尚、ビームフォーマIC10A~10Hの詳細については後述する。
【0024】
周波数変換IC30は、IF信号周波数のRF信号と、ビームフォーマIC10A~10H及びアンテナアレイ20が送受信する周波数のRF信号との周波数変換を行うICである。尚、ビームフォーマIC10A~10H及び周波数変換IC30は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)で実現される。
【0025】
RF信号カプラ/スプリッタ40は、周波数変換IC30から出力されたRF信号をビームフォーマIC10A~10Hの各々に分配する。また、RF信号カプラ/スプリッタ40は、ビームフォーマIC10A~10Hの各々が受信したRF信号を結合して周波数変換IC30に入力する。
【0026】
〈ビームフォーマIC〉
図2は、本発明の第1実施形態によるフェーズドアレイアンテナモジュールに設けられるビームフォーマICの要部構成を示すブロック図である。8個のビームフォーマIC10A~10Hは、互いに同じ構成を有する。このため、以下の説明では、ビームフォーマIC10A~10Hのうちの1つについて、即ち、ビームフォーマIC10について説明する場合がある。他の7個のビームフォーマICについては説明を省略する場合がある。
【0027】
ビームフォーマIC10は、16個のRFフロントエンド5A~5Pと、デジタル回路6とを備える。16個のRFフロントエンド5A~5Pは、互いに同じ構成を有する。このため、以下の説明では、16個のRFフロントエンド5A~5Pのうちの1つについて、即ち、RFフロントエンド5について説明する場合がある。他の15個のRFフロントエンドについては説明を省略する場合がある。
【0028】
図2に示す1つのビームフォーマIC10においては、1つのアンテナ素子21と1つのRFフロントエンド5とが一対一で対応するように、16個のRFフロントエンド5A~5Pの各々が16個のアンテナ素子21A~21Pの各々に接続されている。16個のアンテナ素子21A~21Pのうち、8個のアンテナ素子(例えば、アンテナ素子21A~21H)が水平偏波用のアンテナ素子であり、残りの8個のアンテナ素子(例えば、アンテナ素子21I~21P)が垂直偏波用のアンテナ素子である。
【0029】
16個のアンテナ素子21A~21Pは、互いに同じ構成、又は、類似した構成を有する。このため、以下の説明では、16個のアンテナ素子21A~21Pのうちの1つについて、即ち、アンテナ素子21について説明する場合がある。他の15個のアンテナ素子については説明を省略する場合がある。アンテナ素子21A~21Pは、互いに同じ構成を有してもよい。アンテナ素子21A~21Pの各々の構成について、水平偏波用のアンテナ素子の構成と、垂直偏波用のアンテナ素子の構成とが僅かに異なってもよい。
【0030】
このように、1つのビームフォーマIC10においては、16個のRFフロントエンド5A~5Pの各々が16個のアンテナ素子21A~21Pの各々に一対一で対応するように接続されている。このため、8個のビームフォーマIC10A~10Hを有するフェーズドアレイアンテナモジュール1の全体では、アンテナアレイ20を構成する128個のアンテナ素子21の各々が、8個のビームフォーマIC10A~10Hの各々における16個のRFフロントエンド5A~5Pの各々に接続されている。
【0031】
アンテナアレイ20を構成する128個のアンテナ素子21は、水平偏波の電波を送信及び受信する64個のアンテナ素子21と、垂直偏波の電波を送信及び受信する64個のアンテナ素子21とに分けられる。8個のビームフォーマIC10A~10Hは、64個のアンテナ素子21における水平偏波の電波の送信及び受信を制御し、且つ、64個のアンテナ素子21における垂直偏波の電波の送信及び受信を制御する。水平偏波の電波及び垂直偏波の電波の各々について、64個のアンテナ素子21から送信又は受信される合成電波の方向が所定の方向となるように、ビームフォーマIC10A~10Hは、64個のアンテナ素子の各々のゲイン及び位相を設定している。
【0032】
図2に示す通り、RFフロントエンド5は、デジタル回路部11、ストローブ機構部12、及びアナログ回路部13を備える。デジタル回路部11は、
図1に示す制御線52を介して、制御装置50との間で制御に係る通信電文の送受信を行う。デジタル回路部11は、制御装置50から送信されてきた通信電文に基づき、RFフロントエンド5を制御する。
【0033】
本実施形態では、フェーズドアレイアンテナモジュール1と制御装置50との間でパラレル通信により制御に係る通信電文の送受信が行われる。つまり、デジタル回路部11は、制御装置50との間でパラレル通信により制御に係る通信電文の送受信を行う。尚、フェーズドアレイアンテナモジュール1と制御装置50との間で行われる通信は、パラレル通信に限定されず、シリアル通信であってもよい。
【0034】
制御装置50からフェーズドアレイアンテナモジュール1に送信される1回の通信トランザクションには、付加情報、コマンド、及びデータが含まれる。通信トランザクションは、固定ビット長である。コマンドは、レジスタへの書き込みやレジスタからの読み出しを指示する場合にはレジスタアドレスである。或いは、コマンドは、ビームフォーマIC10やRFフロントエンド5への動作指示を意味する数値である。コマンドやデータは、固定長である。本実施形態では、コマンドが8ビット、データが8ビットである。
【0035】
デジタル回路部11は、ビームフォーミングに用いられるビームテーブルを記憶する記憶領域(図示省略)を備える。ビームテーブルは、制御すべきアンテナアレイ20のビームパターンに応じて設定された、移相量設定値とゲイン設定値との組み合わせが複数格納されたルックアップテーブルである。本実施形態では、移相量設定値とゲイン設定値との組み合わせが1024通り規定されたビームテーブル(1024項目のビームテーブル)が記憶領域に記憶される。ビームテーブルは、10ビットのアドレスを用いて記憶領域に書き込まれ、又は、記憶領域から読み出される。
【0036】
上記の記憶領域は、例えば、SRAM(Static Random Access Memory)を用いて実現される。記憶領域は、SRAMを用いて実現されるのが好ましいが、レジスタを用いて実現されてもよく、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリ、ROM(Read Only Memory)を用いて実現されてもよい。
【0037】
デジタル回路部11は、上記の記憶領域以外に、インターフェイス部16、デジタル制御部17、状態判定部18、及びタイミング調整部19を備える(
図4参照)。尚、これらの詳細については後述する。
【0038】
ストローブ機構部12は、デジタル回路部11とアナログ回路部13との間に設けられ、ストローブラッチ動作を指示するストローブラッチ信号(指示信号)が入力された場合に、デジタル回路部11から出力される制御信号をラッチする。このストローブ機構部12は、フェーズドアレイアンテナモジュール1の状態遷移に要する時間である遷移時間TR(Transit Time)から、例えばデジタル回路部11等のレイテンシを排除して、遷移時間TRを短くするために設けられる。尚、ストローブ機構部12の詳細については後述する。
【0039】
アナログ回路部13は、RFフロントエンド5に接続されているアンテナ素子21に対してRF信号を出力したり、アンテナ素子21から出力されるRF信号を受信したりする回路である。アナログ回路部13は、デジタル回路部11の制御の下で、RFフロントエンド5に接続されているアンテナ素子21で送受信されるRF信号のゲイン及び位相を調整する。
【0040】
図3は、ビームフォーマICのRFフロントエンドに設けられるアナログ回路部の要部構成を示すブロック図である。ビームフォーマIC10に設けられたRFフロントエンド5A~5Pは、互いに同じ構成を有する。このため、以下の説明では、16個のRFフロントエンド5A~5Pに設けられたアナログ回路部13のうちの1つについて、即ち、RFフロントエンド5に設けられたアナログ回路部13について説明する場合がある。他の15個のRFフロントエンドに設けられたアナログ回路部13については説明を省略する場合がある。
【0041】
図3に示す通り、アナログ回路部13は、送信回路61、移相器62、可変ゲインアンプ63、パワーアンプ64、スイッチ65、低ノイズアンプ66、可変ゲインアンプ67、移相器68、及び受信回路69を備える。
【0042】
送信回路61、移相器62、可変ゲインアンプ63、及びパワーアンプ64は、この順で電気的に接続され、送信経路R1上に設けられており、低ノイズアンプ66、可変ゲインアンプ67、移相器68、及び受信回路69は、この順で電気的に接続され、受信経路R2上に設けられている。送信経路R1は、アンテナ素子21に出力されるRF信号が通過する経路であり、受信経路R2は、アンテナ素子21から入力されるRF信号が通過する経路である。スイッチ65は、規定された時間間隔で、アンテナ素子21に対して、送信経路R1を接続するか、又は、受信経路R2を接続するかを切り替える。これにより、フェーズドアレイアンテナモジュール1は時分割多重システムとして高周波信号の送受信を行うことができる。
【0043】
送信回路61は、アンテナ素子21から電波として送信するRF信号の基となるRF信号を出力する。移相器62は、
図2に示すデジタル回路部11に設けられた不図示の記憶領域から読み出されるビームテーブルの移相量設定値に応じて送信経路R1を通過するRF信号の移相量を調整する。可変ゲインアンプ63は、上記の記憶領域から読み出されるビームテーブルのゲイン設定値に応じて送信経路R1を通過するRF信号の強度を調整する。パワーアンプ64は、送信経路R1を通過するRF信号を所定の増幅率で増幅する。送信経路R1を通過するRF信号の移相量及び強度を調整することで、フェーズドアレイアンテナモジュール1から送信される電波のビームパターンを変更することができる。
【0044】
低ノイズアンプ66は、スイッチ65から入力されるRF信号を所定の増幅率で増幅する。可変ゲインアンプ67は、上記の記憶領域から読み出されるビームテーブルのゲイン設定値に応じて受信経路R2を通過するRF信号の強度を調整する。移相器68は、上記の記憶領域から読み出されるビームテーブルの移相量設定値に応じて受信経路R2を通過するRF信号の移相量を調整する。受信回路69は、受信経路R2を通過するRF信号を受信する。受信経路R2を通過するRF信号の移相量及び強度を調整することで、フェーズドアレイアンテナモジュール1で受信される電波のビームパターンを変更することができる。
【0045】
〈フェーズドアレイアンテナモジュールの主要構成〉
図4は、本発明の第1実施形態によるフェーズドアレイアンテナモジュールの主要構成を抜き出してまとめたブロック図である。尚、
図4においては、
図1~
図3に示した構成に相当する構成については同じ符号を付してある。
【0046】
図4に示す通り、フェーズドアレイアンテナモジュール1の主要構成は、
図2に示すRFフロントエンド5に設けられたデジタル回路部11、ストローブ機構部12、及びアナログ回路部13と、アンテナ素子21とを含む。ここで、デジタル回路部11は、インターフェイス部16、デジタル制御部17、状態判定部18、及びタイミング調整部19を備える。
【0047】
インターフェイス部16は、制御装置50に対するデジタル回路部11のインターフェイスを司る構成であり、通信バスを介して制御装置50と接続され、通信バスを介して制御装置50との間で通信を行う。インターフェイス部16は、制御装置50から送信されてくる制御コマンドCMを受信してデジタル制御部17に出力する。
【0048】
インターフェイス部16は、制御装置50から送信されてきた制御コマンドCMを受信した場合に、デジタル制御部17及び状態判定部18に対して、ビジー状態を示す第1ビジー信号BY1(例えば、信号レベルが「1」である信号)を出力する。インターフェイス部16は、受信した制御コマンドCMをデジタル制御部17に出力した場合には、第1ビジー信号BY1を解除する(例えば、第1ビジー信号BY1の信号レベルを「0」にする)。具体的に、インターフェイス部16は、デジタル制御部17のレジスタ17a(詳細は後述する)に対する制御コマンドCMの書き込みが完了した1クロック後に、第1ビジー信号BY1を解除する。尚、第1ビジー信号BY1を解除するタイミングは、内部にステートマシンを構成して判断してもよく、回路遅延が固定である場合には固定値としてもよい。
【0049】
デジタル制御部17は、制御装置50から送信されてくる制御コマンドCMに応じた制御信号C1をアナログ回路部13に出力することで、アナログ回路部13を制御する。デジタル制御部17は、レジスタ17a及び制御回路17bを備える。レジスタ17aは、インターフェイス部16から出力される制御コマンドCMを一時的に記憶する。制御回路17bは、レジスタ17aに一時的に記憶された制御コマンドCMに応じた制御信号を出力する。
【0050】
例えば、制御回路17bは、制御装置50から送信されてくる制御コマンドCMに応じて、
図3に示す送信回路61及び受信回路69の状態(動作状態又は非動作状態)を切り替える制御信号C1を出力する。また、制御回路17bは、制御装置50から送信されてくる制御コマンドCMに応じて、所定の移相量設定値を
図3に示す移相器62,68に設定させ、所定のゲイン設定値を
図3に示す可変ゲインアンプ63,67に設定させる制御信号C1を出力する。
【0051】
制御回路17bは、インターフェイス部16から出力された第1ビジー信号BY1が入力された場合に、状態判定部18に対して、ビジー状態を示す第2ビジー信号BY2(例えば、信号レベルが「1」である信号)を出力する。制御回路17bは、ストローブ機構部12に出力する制御信号C1が確定した場合に、第2ビジー信号BY2を解除する(例えば、第2ビジー信号BY2の信号レベルを「0」にする)。つまり、制御回路17bは、ストローブ機構部12の入力信号が確定した場合に、第2ビジー信号BY2を解除する。尚、第2ビジー信号BY2を解除するタイミングは、内部にステートマシンを構成して判断してもよく、回路遅延が固定である場合には固定値としてもよい。
【0052】
状態判定部18は、制御信号C1が確定した状態であるか否かを判定する。状態判定部18は、制御信号C1が確定した状態であると判定した場合にはレディ信号RD(判定信号)を出力する。状態判定部18は、インターフェイス部16の状態とデジタル制御部17の状態とに基づいて、制御信号C1が確定した状態であるか否かを判定する。具体的に、状態判定部18は、インターフェイス部16から出力される第1ビジー信号BY1が解除され、且つ、制御回路17bから出力される第2ビジー信号BY2が解除された場合に、レディ信号RDを出力する。このように、状態判定部18が、インターフェイス部16の状態とデジタル制御部17の状態とに基づいて判定を行うのは、制御信号C1が確定した状態であることを確実に判定できるようにするためである。
【0053】
図5は、本発明の第1実施形態によるフェーズドアレイアンテナモジュールに設けられる状態判定部の真理値表の一例を示す図である。
図5に示す通り、状態判定部18は、インターフェイス部16から出力される第1ビジー信号BY1と、制御回路17bから出力される第2ビジー信号BY2との双方の信号レベルが「0」の場合に、信号レベルが「1」のレディ信号RDを出力する。尚、第1ビジー信号BY1及び第2ビジー信号BY2の双方の信号レベルが「0」になる場合としては、例えば、第1ビジー信号BY1及び第2ビジー信号BY2の双方が解除された場合が挙げられる。
【0054】
これに対し、状態判定部18は、インターフェイス部16から出力される第1ビジー信号BY1と、制御回路17bから出力される第2ビジー信号BY2との少なくとも一方の信号レベルが「1」である場合には、レディ信号RDの信号レベルを「0」にする。つまり、インターフェイス部16から出力される第1ビジー信号BY1と、制御回路17bから出力される第2ビジー信号BY2との少なくとも一方がビジー状態を示すものである場合には、状態判定部18は、レディ信号RDの信号レベルを「0」にする。
【0055】
タイミング調整部19は、制御装置50から出力されるストローブラッチ信号SL1を、ストローブ機構部12に入力させるタイミングを調整するためのものである。ここで、ストローブラッチ信号SL1は、ストローブ機構部12に対してストローブラッチ動作を指示する指示信号である。タイミング調整部19は、制御装置50から出力されるストローブラッチ信号SL1が入力され、且つ、状態判定部18からレディ信号RDが出力されている場合に、ストローブ機構部12に対してストローブラッチ信号SL1をストローブラッチ信号SL2として出力する。このようなタイミング調整部19は、例えば、
図4に示す通り、AND回路19aによって実現される。
【0056】
尚、ストローブラッチ信号SL1は、制御装置50とインターフェイス部16とを接続する通信バスを介して送信される制御コマンドCMの1つとして実装されてもよく、通信バスとは別の信号線を介して送信される信号として実装されても良い。本実施形態において、ストローブラッチ信号SL1が、通信バスとは別の信号線を介して送信される信号として実装されているものとする。
【0057】
〈フェーズドアレイアンテナモジュールにおける主要構成の動作〉
図6は、
図4に示すフェーズドアレイアンテナモジュールの主要構成の動作を説明するためのタイミングチャートである。尚、
図6に示すタイミングチャートは、フェーズドアレイアンテナモジュール1の受信(RX)用のビームパターン(RX-beam1)を、送信(TX)用のビームパターン(TX-beam2)に切り替える場合の動作を示すものである。
【0058】
図6において、クロックCLKは、
図4に示すフェーズドアレイアンテナモジュール1の動作クロックである。つまり、
図4に示すフェーズドアレイアンテナモジュール1の主要構成は、
図6に示すクロックCLKに同期して動作する。「I/F」は、
図4のインターフェイス部16の状態を示している。「ストローブ前段」は、フェーズドアレイアンテナモジュール1のストローブ機構部12よりも前段の状態を示しており、「ストローブ後段」は、フェーズドアレイアンテナモジュール1のストローブ機構部12よりも後段の状態を示している。「アナログ回路部」は、
図4に示すアナログ回路部13の状態を示している。
【0059】
また、
図6における「BY1」は、インターフェイス部16から出力される第1ビジー信号BY1を示しており、「BY2」は、制御回路17b出力される第2ビジー信号BY2を示している。「RD」は、状態判定部18から出力されるレディ信号RDを示している。「SL1」は、制御装置50から出力されるストローブラッチ信号SL1を示しており、「SL2」は、タイミング調整部19から出力されるストローブラッチ信号SL2を示している。
【0060】
本実施形態では、フェーズドアレイアンテナモジュール1のビームパターンを切り替えるために、制御装置50からフェーズドアレイアンテナモジュール1に対し、制御コマンドCMとして3つの命令c1,c2,c3が順に出力されてインターフェイス部16に入力される。命令c1は、
図3に示す受信回路69を非動作状態(オフ状態)にする命令であり、命令c2は、
図3に示す送信回路61を動作状態(オン状態)にする命令であり、命令c3は、受信用のビームパターンを送信用のビームパターンに切り替える命令である。命令c1,c2,c3がインターフェイス部16で受信される時刻は、それぞれ、時刻t11,t12,t13である。
【0061】
図3に示す受信回路69を非動作状態(オフ状態)にする命令c1がインターフェイス部16に入力され(時刻t11)、その後のクロックCLKの立ち上がりで、インターフェイス部16からは、ビジー状態を示す第1ビジー信号BY1が出力される。これにより、
図6に示す通り、第1ビジー信号BY1の信号レベルは「0」から「1」になる。
【0062】
インターフェイス部16から出力されたビジー状態を示す第1ビジー信号BY1は、デジタル制御部17及び状態判定部18に入力される。すると、状態判定部18から出力されるレディ信号RDの信号レベルは「1」から「0」になる。また、デジタル制御部17の制御回路17bからは、ビジー状態を示す第2ビジー信号BY2が出力される。これにより、
図6に示す通り、第2ビジー信号BY2の信号レベルは「0」から「1」になる。
【0063】
その後、
図3に示す送信回路61を動作状態(オン状態)にする命令c2がインターフェイス部16に入力され(時刻t12)、受信用のビームパターンを送信用のビームパターンに切り替える命令c3がインターフェイス部16に入力される(時刻t13)。制御コマンドMC(命令c1,c2,c3)の送信が終了し、その後のクロックCLKの立ち上がりで、制御装置50からはストローブラッチ信号SL1が出力される(時刻t14)。
【0064】
ここで、インターフェイス部16による、デジタル制御部17のレジスタ17aに対する命令c3の書き込みが完了すると、その1クロック後に第1ビジー信号BY1がインターフェイス部16によって解除される。これにより、
図6に示す通り、第1ビジー信号BY1の信号レベルは「1」から「0」になる(時刻t15)。また、レジスタ17aに書き込まれた命令c3が制御回路17bによって読み出されると、ストローブ機構部12に出力する制御信号C1が確定することから、第2ビジー信号BY2が制御回路17bによって解除される。これにより、
図6に示す通り、第2ビジー信号BY2の信号レベルは「1」から「0」になる(時刻t16)。尚、確定した制御信号C1は、上述した命令c1,c2,c3に応じたものである。
【0065】
第1ビジー信号BY1及び第2ビジー信号BY2が共に解除されたことから、状態判定部18からはレディ信号RDが出力され、
図6に示す通り、レディ信号RDの信号レベルは「0」から「1」になる(時刻t16)。これにより、タイミング調整部19からストローブ機構部12に対し、ストローブラッチ信号SL1がストローブラッチ信号SL2として出力され(時刻t16)、制御回路17bから出力される制御信号C1がストローブ機構部12にラッチされてアナログ回路部13に出力される。
【0066】
すると、フェーズドアレイアンテナモジュール1のストローブ機構部12よりも後段(アナログ回路部13を含む)においては、受信(RX)用のビームパターン(RX-beam1)が、送信(TX)用のビームパターン(TX-beam2)に直ちに切り替わる。これにより、制御コマンドCM(命令c1,c2,c3)の送信開始から送信終了までの時間を、ビームパターンの切り替わりに要する遷移時間TRから排除することができ、ビームパターンの切り替わりに要する遷移時間TRは、アナログ回路部13の応答速度のみとなる。尚、
図6では、説明を簡略化するために、アナログ回路部13の応答速度を「0」としている。
【0067】
このように、本実施形態では、デジタル回路部11とアナログ回路部13との間にストローブ機構部12を設けている。そして、制御信号C1が確定するタイミング(時刻t16)で、ストローブ機構部12が制御信号C1をラッチするようにしている。これにより、制御コマンドCM(命令c1,c2,c3)の送信開始から送信終了までの時間を、ビームパターンの切り替わりに要する遷移時間TRから排除することができ、ビームパターンの切り替わりに要する遷移時間TRを短縮することができる。
【0068】
ここで、制御装置50が制御コマンドCMを送信してから、ストローブ機構部12に出力する制御信号C1が確定するまでの時間を確定時間TLとする。尚、
図6に示す例では、確定時間TLは、クロックCLKの4.5周期分の時間である。この、確定時間TLには、インターフェイス部16でのコマンド処理に要する時間、制御回路17bでの遅延時間、及びデジタル回路部11に設けられる記憶領域(図示省略)からビームテーブル(ルックアップテーブル)を読み出す処理に要する時間が含まれる。本実施形態では、上記の確定時間TLを遷移時間TRから排除することができるため、遷移時間TRを短縮することができる。
【0069】
また、本実施形態では、状態判定部18及びタイミング調整部19を設けている。そして、制御信号C1が確定した状態であるか否かを判定し、その判定結果が、制御信号C1が確定した状態である旨を示すものである場合に、ストローブ機構部12に対してストローブラッチ信号SL2を出力するようにしている。つまり、
図6に示す通り、ストローブラッチ信号SL1が制御装置50から出力されてから、時間T10だけ経過した後に、ストローブラッチ信号SL1がストローブラッチ信号SL2としてストローブ機構部12に入力されるようタイミングが調整されている。
【0070】
これにより、制御装置50が、制御信号C1が確定するタイミング(時刻t16)よりも前に(つまり、
図6に示す確定時間TLが経過する前に)ストローブラッチ信号SL1を出力したとしても、制御信号C1は、制御信号C1が確定するタイミング(時刻t16)でストローブ機構部12にラッチされる。このため、制御装置50がストローブラッチ信号を送信するタイミングの制約を解消することもできる。
【0071】
〔第2実施形態〕
〈フェーズドアレイアンテナモジュールの主要構成〉
図7は、本発明の第2実施形態によるフェーズドアレイアンテナモジュールの主要構成を抜き出してまとめたブロック図である。
図7においては、
図4に示した構成に相当する構成については同じ符号を付してある。
図7に示す通り、本実施形態のフェーズドアレイアンテナモジュール2は、第1実施形態のフェーズドアレイアンテナモジュール1が備えるタイミング調整部19に替えてタイミング調整部19Aを設けた構成である。
【0072】
このような本実施形態のフェーズドアレイアンテナモジュール2は、制御信号C1が確定するタイミングよりも前にストローブラッチ信号SL1の出力が停止された場合であっても、正常に、ビームパターンの切り替えを行えるようにしたものである。尚、本実施形態によるフェーズドアレイアンテナモジュール2の基本構成は、
図1に示すフェーズドアレイアンテナモジュール1と同様である。また、本実施形態によるフェーズドアレイアンテナモジュール2に設けられるビームフォーマIC10の基本構成は、
図2に示すビームフォーマIC10と同様である。
【0073】
図7に示す通り、タイミング調整部19Aは、AND回路19aに加えて、ラッチ回路19b、フリップフロップ19c、及びAND回路19dを備える。ラッチ回路19bは、制御装置50から出力されるストローブラッチ信号SL1を保持(ラッチ)し、ストローブラッチ信号SL2として出力する回路である。ラッチ回路19bは、AND回路19dの出力が入力されることによってリセットされる。
【0074】
ラッチ回路19bの出力端は、AND回路19aの一方の入力端に接続されている。尚、AND回路19aの他方の入力端には、状態判定部18の出力端が接続されている。AND回路19aは、ラッチ回路19bからストローブラッチ信号SL2が出力され、且つ、状態判定部18からレディ信号RDが出力されている場合に、ストローブ機構部12に対してストローブラッチ信号SL2をストローブラッチ信号SL3として出力する。
【0075】
フリップフロップ19cは、例えば、Dフリップフロップであり、AND回路19aから出力されるストローブラッチ信号SL3を、クロックCLKの1周期分だけ遅延させるために設けられる。AND回路19dは、AND回路19aから出力されるストローブラッチ信号SL3と、フリップフロップ19cの出力との論理積を演算する回路である。具体的に、AND回路19dは、AND回路19aから出力されるストローブラッチ信号SL3とフリップフロップ19cの出力との信号レベルが共に「1」である場合に、信号レベルが「1」である信号を出力する。尚、AND回路19aから出力されるストローブラッチ信号SL3とフリップフロップ19cの出力との信号レベルの少なくとも一方が「0」である場合には、AND回路19dの出力の信号レベルは「0」である。
【0076】
〈フェーズドアレイアンテナモジュールにおける主要構成の動作〉
図8は、
図7に示すフェーズドアレイアンテナモジュールの主要構成の動作を説明するためのタイミングチャートである。尚、
図8に示すタイミングチャートは、
図6に示すタイミングチャートと同様に、フェーズドアレイアンテナモジュール1の受信(RX)用のビームパターン(RX-beam1)を、送信(TX)用のビームパターン(TX-beam2)に切り替える場合の動作を示すものである。
【0077】
図8における「SL1」は、
図6における「SL1」と同様に、制御装置50から出力されるストローブラッチ信号SL1を示している。
図8における「SL2」は、ラッチ回路19bから出力されるストローブラッチ信号SL2を示しており、「SL3」は、AND回路19aから出力されるストローブラッチ信号SL3を示している。
【0078】
本実施形態においても、フェーズドアレイアンテナモジュール1のビームパターンを切り替えるために、制御装置50からフェーズドアレイアンテナモジュール1に対し、制御コマンドCMとして3つの命令c1,c2,c3が順に出力されてインターフェイス部16に入力される。尚、これら3つの命令c1,c2,c3がインターフェイス部16に入力されるまで(時刻t13まで)の動作は、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0079】
制御コマンドMC(命令c1,c2,c3)の送信が終了し、その後のクロックCLKの立ち上げ時に、制御装置50からはストローブラッチ信号SL1が出力される(時刻t14)。本実施形態において、ストローブラッチ信号SL1は、第1実施形態と同じタイミングで出力されるが、信号レベルが「1」である期間はクロックCLKの1周期分だけである。このため、
図8に示す通り、ストローブラッチ信号SL1は、制御信号C1が確定する時刻t16の前に信号レベルが「0」になる。
【0080】
制御装置50から出力されたストローブラッチ信号SL1は、ラッチ回路19bでラッチされる。これにより、ラッチ回路19bからストローブラッチ信号SL2が出力される。ここで、ストローブラッチ信号SL2は、
図8に示す通り、ストローブラッチ信号SL1の信号レベルが「0」になり、時刻t16が経過しても信号レベルが「1」である点に注意されたい。
【0081】
インターフェイス部16による、デジタル制御部17のレジスタ17aに対する命令c3の書き込みが完了すると、第1実施形態と同様に、その1クロック後に第1ビジー信号BY1がインターフェイス部16によって解除される。これにより、
図8に示す通り、第1ビジー信号BY1の信号レベルは「1」から「0」になる(時刻t15)。また、レジスタ17aに書き込まれた命令c3が制御回路17bによって読み出されると、ストローブ機構部12に出力する制御信号C1が確定することから、第2ビジー信号BY2が制御回路17bによって解除される。これにより、
図8に示す通り、第2ビジー信号BY2の信号レベルは「1」から「0」になる(時刻t16)。尚、確定した制御信号C1は、上述した命令c1,c2,c3に応じたものである。
【0082】
第1ビジー信号BY1及び第2ビジー信号BY2が共に解除されたことから、状態判定部18からはレディ信号RDが出力され、
図8に示す通り、レディ信号RDの信号レベルは「0」から「1」になる(時刻t16)。これにより、AND回路19aからストローブ機構部12に対し、ストローブラッチ信号SL2がストローブラッチ信号SL3として出力され、制御回路17bから出力される制御信号C1がストローブ機構部12にラッチされてアナログ回路部13に出力される。
【0083】
すると、フェーズドアレイアンテナモジュール1のストローブ機構部12よりも後段(アナログ回路部13を含む)においては、受信(RX)用のビームパターン(RX-beam1)が、送信(TX)用のビームパターン(TX-beam2)に直ちに切り替わる。これにより、制御コマンドCM(命令c1,c2,c3)の送信開始から送信終了までの時間を、ビームパターンの切り替わりに要する遷移時間TRから排除することができ、ビームパターンの切り替わりに要する遷移時間TRは、アナログ回路部13の応答速度のみとなる。尚、
図8では、
図6と同様に、説明を簡略化するために、アナログ回路部13の応答速度を「0」としている。
【0084】
尚、AND回路19aから出力されるストローブラッチ信号SL3は、フリップフロップ19cにも出力される。フリップフロップ19cは、入力されたストローブラッチ信号SL3を、クロックCLKの1周期分だけ遅延させて出力する。このため、AND回路19dの出力は、時刻t17において、信号レベルが「0」から「1」になり、ラッチ回路19bがリセットされる。これより、ストローブラッチ信号SL3の信号レベルは、時刻t17において「1」から「0」に変化する。
【0085】
このように、本実施形態においても、デジタル回路部11とアナログ回路部13との間にストローブ機構部12を設けている。そして、制御信号C1が確定するタイミング(時刻t16)で、ストローブ機構部12が制御信号C1をラッチするようにしている。これにより、制御コマンドCM(命令c1,c2,c3)の送信開始から送信終了までの時間(確定時間TL)を、ビームパターンの切り替わりに要する遷移時間TRから排除することができ、ビームパターンの切り替わりに要する遷移時間TRを短縮することができる。
【0086】
また、本実施形態では、状態判定部18及びタイミング調整部19Aを設けている。そして、制御信号C1が確定した状態であるか否かを判定し、その判定結果が、制御信号C1が確定した状態である旨を示すものである場合に、ストローブ機構部12に対してストローブラッチ信号SL3を出力するようにしている。つまり、
図8に示す通り、ストローブラッチ信号SL1が制御装置50から出力されてから、時間T10だけ経過した後に、ストローブラッチ信号SL3がストローブ機構部12に入力されるようタイミングが調整されている。
【0087】
これにより、制御装置50が、制御信号C1が確定するタイミング(時刻t16)よりも前に(つまり、
図8に示す確定時間TLが経過する前に)ストローブラッチ信号SL1を出力したとしても、制御信号C1は、制御信号C1が確定するタイミング(時刻t16)でストローブ機構部12にラッチされる。このため、制御装置50がストローブラッチ信号を送信するタイミングの制約を解消することもできる。
【0088】
更に、本実施形態では、タイミング調整部19Aにラッチ回路19bとフリップフロップ19cとを設けている。そして、制御装置50から出力されるストローブラッチ信号SL1をラッチ回路19bでラッチし、制御信号C1が確定した状態になった場合に、ストローブ機構部12に対してストローブラッチ信号SL3を出力するようにしている。また、ストローブラッチ信号SL3と、フリップフロップ19cによりクロックCLKの1周期分だけ遅延させたストローブラッチ信号SL3との信号レベルが共に「1」になったときに、ラッチ回路19bをリセットしている。これにより、例えば、制御信号C1が確定するまでに時間を要し、制御信号C1が確定する時刻t16の前に、ストローブラッチ信号SL1の信号レベルが「0」になったとしても、ビームパターンの切り替えを正常に行うことができる。
【0089】
以上、本発明の実施形態によるフェーズドアレイアンテナモジュールについて説明したが、本発明は上記実施形態に制限される訳ではなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記実施形態で説明したフェーズドアレイアンテナモジュールは、時分割多重システム用のものであった。しかしながら、本発明のフェーズドアレイアンテナモジュールは、周波数分割多重システム用のものであってもよい。
【0090】
また、上述した実施形態では、1つのアンテナ素子21と1つのRFフロントエンド5とが一対一で対応するように接続されている例について説明した。しかしながら、本発明では、水平偏波用の接続端子と垂直偏波用の接続端子とを有する両偏波アンテナ素子に2つのフロントエンドが接続されていてもよい。
【符号の説明】
【0091】
1,2…フェーズドアレイアンテナモジュール、12…ストローブ機構部、13…アナログ回路部、16…インターフェイス部、17…デジタル制御部、18…状態判定部、19,19A…タイミング調整部、19b…ラッチ回路、21…アンテナ素子、BY1…第1ビジー信号、BY2…第2ビジー信号、C1…制御信号、RD…レディ信号、SL2,SL3…ストローブラッチ信号